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特許7239948サイレント変異を有する組換えRSV、ワクチン、およびそれに関連する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-07
(45)【発行日】2023-03-15
(54)【発明の名称】サイレント変異を有する組換えRSV、ワクチン、およびそれに関連する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/45 20060101AFI20230308BHJP
   A61K 39/12 20060101ALI20230308BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20230308BHJP
   C12N 7/04 20060101ALN20230308BHJP
【FI】
C12N15/45 ZNA
A61K39/12
A61P31/14
C12N7/04
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021153882
(22)【出願日】2021-09-22
(62)【分割の表示】P 2019063498の分割
【原出願日】2014-03-14
(65)【公開番号】P2022023054
(43)【公開日】2022-02-07
【審査請求日】2021-10-22
(31)【優先権主張番号】61/781,228
(32)【優先日】2013-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/890,500
(32)【優先日】2013-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504391260
【氏名又は名称】エモリー ユニバーシティー
(73)【特許権者】
【識別番号】513325225
【氏名又は名称】チルドレン’ズ ヘルスケア オブ アトランタ,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Children’s Healthcare of Atlanta,Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ムーア,マーティン,エル.
(72)【発明者】
【氏名】メング,ジア
(72)【発明者】
【氏名】ホタード,アン
(72)【発明者】
【氏名】リタウェル,エリザベス
(72)【発明者】
【氏名】ストバート,クリストファー
【審査官】中村 俊之
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-507302(JP,A)
【文献】特表2010-523086(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00- 15/90
C12N 7/04
A61K 39/12
A61P 31/14
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
RSVのG遺伝子をコードする単離組換え核酸であって、前記核酸が、配列番号18、配列番号19もしくは配列番号20、または、それに対して95%以上の配列同一性を有する配列を含むことを特徴とする単離組換え核酸。
【請求項2】
請求項1に記載の単離組換え核酸において、前記核酸が、配列番号18、または、それに対して95%以上の配列同一性を有する配列を含むことを特徴とする単離組換え核酸。
【請求項3】
請求項1に記載の単離組換え核酸において、前記核酸が、配列番号18を含むことを特徴とする単離組換え核酸。
【請求項4】
請求項1に記載の単離組換え核酸において、前記核酸が、配列番号19、または、それに対して95%以上の配列同一性を有する配列を含むことを特徴とする単離組換え核酸。
【請求項5】
請求項1に記載の単離組換え核酸において、前記核酸が、配列番号19を含むことを特徴とする単離組換え核酸。
【請求項6】
請求項1に記載の単離組換え核酸において、前記核酸が、配列番号20、または、それに対して95%以上の配列同一性を有する配列を含むことを特徴とする単離組換え核酸。
【請求項7】
請求項1に記載の単離組換え核酸において、前記核酸が、配列番号20を含むことを特徴とする単離組換え核酸。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の核酸を含む、組換えベクター。
【請求項9】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の核酸を含む、弱毒化組換えRSV。
【請求項10】
請求項8に記載の組換えベクターまたは請求項9に記載の弱毒化組換えRSVを含む、発現系。
【請求項11】
請求項9に記載の弱毒化組換えRSVを含む、ワクチン。
【請求項12】
請求項11に記載のワクチンにおいて、当該ワクチンが、RSV感染のリスクがある対象のワクチン接種のためのものであり、前記対象が、6ヶ月未満の月齢であるか、1歳未満であるか、未熟児で産まれたか、高齢であるか、先天性の心臓もしくは肺疾患を有するか、化学療法を行っているか、移植を行ったか、または、喘息、鬱血性心不全、慢性閉塞性肺疾患、白血病、もしくはHIV/AIDSと診断されていることを特徴とするワクチン。
【請求項13】
請求項11に記載のワクチンと、モタビズマブ、パリビズマブ、または、RSVのFタンパク質のA抗原部位のエピトープに対する他のヒト化モノクローナル抗体との組み合わせを含む医薬。
【請求項14】
RSV感染のリスクがある対象のワクチン接種のための医薬の製造における請求項11に記載のワクチンの使用であって、前記対象が、6ヶ月未満の月齢であるか、1歳未満であるか、未熟児で産まれたか、高齢であるか、先天性の心臓もしくは肺疾患を有するか、化学療法を行っているか、移植を行ったか、または、喘息、鬱血性心不全、慢性閉塞性肺疾患、白血病、もしくはHIV/AIDSと診断されていることを特徴とする使用。
【請求項15】
請求項14に記載の使用において、前記医薬が、モタビズマブ、パリビズマブ、または、RSVのFタンパク質のA抗原部位のエピトープに対する他のヒト化モノクローナル抗体と組み合わせられることを特徴とする使用。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
関連出願への相互参照
本願は、2013年3月14日に出願された米国仮出願第61/781,228号、および2013年10月14日に出願された米国仮出願第61/890,500号の優先権を主張するものであり、その全体が参照により本明細書に組み込まれたものとする。
【0002】
呼吸器合胞体ウイルス(RSV)は下気道感染症を引き起こす。特に免疫無防備状態の患者、未熟児、および小児においては深刻な疾患を引き起こす危険がある。RSVは小児のウイルスによる死の主な原因である。RSVの治療は、感染の予防と呼吸の改善に重点が置かれる。パリビズマブは予防的に投与することができるヒト化モノクローナル抗体である。パリビズマブはRSV感染後には効果的ではなく、治療をやめるとすぐに保護が終了する。現在のところ、RSVに対して利用可能なワクチンは無い。弱毒化RSVワクチンの候補は小児における免疫原性が不十分であり、また、安定性が不十分なために望ましくない野生型配列へと遺伝的復帰が起こることから、実用化に至っていない。Teng,Infectious Disorders-Drug Targets,2012,12(2):129-3を参照のこと。従って、適当な免疫原性があり、十分に安定で、かつ小児に安全に使用できる弱毒化RSVワクチンを探す必要がある。
【0003】
遺伝暗号の冗長性のため、個々のアミノ酸は、同義コドンと呼ばれることがある複数のコドンの配列によりコードされる。異なる種においては同義コドンの使用頻度が異なり、これをコドンバイアスと呼ぶことがある。遺伝子工学において、頻度の低い同義コドンを遺伝子のコード配列に用いた場合、タンパク質のアミノ酸配列の変化が無くとも、タンパク質翻訳速度が減少することが示されている。Muellerほかは、コドンバイアスの変化によるウイルスの弱毒化について報告した。Science,2008,320:1784を参照のこと。また、WO/2008121992、WO/2006042156、Burnsほか,J Virology,2006,80(7):3259、および、Muellerほか,J Virology,2006,80(19):9687を参照のこと。
【0004】
Luongoほかは、弱毒生呼吸器合胞体ウイルスワクチン候補の遺伝的および表現型的安定性をリバースジェネティクスによって高めた。J.Virol.2012,86(19):10792を参照のこと。
【0005】
Dochowほかは、パラミクソウイルスポリメラーゼタンパク質の個々の構造ドメインを報告した。J Biol Chem,2012,287:6878-91.
【0006】
米国特許第8,580,270号により、RSV Fポリペプチド配列が報告された。米国特許第7,951,384号により、それをVLP RSVワクチンとして企図とすることが報告された。
【0007】
本明細書に引用される参考文献は従来技術の承認ではない。
【発明の概要】
【0008】
ある態様において、本開示は呼吸器合胞体ウイルス(RSV)のポリヌクレオチド配列に関する。ある態様において、本開示は、本明細書に開示される所望の核酸配列および変異を含む、単離または組換え核酸およびポリペプチドに関する。ある態様において、本明細書に開示される核酸およびポリペプチドを含む単離または組換えRSV(弱毒化組換えRSV等)も提供され、ワクチンとしての使用に適したこのような核酸、ポリペプチド、およびRSVゲノムを含む免疫原性組成物も提供される。これらの核酸および変異を、コピーされた核酸(cDNA等)の形態で含む、弱毒化または死RSVワクチンも企図される。
【0009】
ある態様において、本開示は単離核酸、コドン脱最適化組換え呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、それより作製されたワクチン、およびそれに関連するワクチン接種法に関する。ある態様において、本前記組換えRSVは、A2株、line 19株、もしくはLong株、またはそのバリアントの、NS1、NS2、N、P、M、SH、G、F、M2、およびL遺伝子を含む。ある態様において、前記のコドン脱最適化は、非構造遺伝子NS1およびNS2におけるものであり、さらに任意にG遺伝子におけるものであり、さらに任意にL遺伝子におけるものである。さらなる態様においては、SH遺伝子を欠失させる。さらなる態様においては、F遺伝子を変異させる。例えば、RSV株line 19 Fタンパク質の残基557に相当する部位をIからVに変異させる。
【0010】
ある態様において、本開示は、野生型ヒトRSVまたはバリアントの脱最適化されたNS1および/またはNS2遺伝子、および任意にG遺伝子、および任意にL遺伝子をコードする単離核酸であって、Glyを生成するコドンがGGTであり、Aspを生成するコドンがGATであり、Gluを生成するコドンがGAAであり、Hisを生成するコドンがCATであり、Ileを生成するコドンがATAであり、Lysを生成するコドンがAAAであり、Leuを生成するコドンがCTAであり、Asnを生成するコドンがAATであり、Glnを生成するコドンがCAAであり、Valを生成するコドンがGTAであり、もしくはTyrを生成するコドンがTATであるように、またはその組み合わせとなるように、ヌクレオチドが置換された単離組換え核酸に関する。ある態様において、前記の単離核酸中の遺伝子はさらに、前記の各コドンのうちの少なくとも2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、または全てを組み合わせたものを含む。ある態様において、前記の単離核酸中の遺伝子は少なくとも20個、30個、40個、もしくは50個の、またはそれより多い、前記コドンを含む。
【0011】
ある態様において、本開示は、本明細書に開示される単離核酸に関するものであり、該単離核酸においてはAlaを生成するコドンがGCGであり、Cysを生成するコドンがTGTであり、Pheを生成するコドンがTTTであり、Proを生成するコドンがCCGであり、Argを生成するコドンがCGTであり、Serを生成するコドンがTCGであり、もしくはThrを生成するコドンがACGであるように、またはその組み合わせとなるように、ヌクレオチドが置換されている。ある態様において、前記核酸を含む遺伝子は、前記の各コドンのうちの少なくとも2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、または全てを組み合わせたものを含む。ある態様において、前記の単離核酸中の遺伝子はさらに少なくとも20個、30個、40個、もしくは50個の、またはそれより多い、前記コドンを含む。
【0012】
ある態様において、本開示は、配列番号5:
MGXNXLSXIKXRLQNLXNDEVALLKITCYXDKLIXLTNALAKAXIHTIKLNGIVFX10HVITSSX1112CPX13NX14IVVKSNFTTMPX15LX16NGGYIX17EX1819ELTHCSQX20NGX212223DNCEIKFSX2425LX26DSX27MTX28YX2930QX31SX32LLGX33DLX3435
(ここで、X-X35は任意のアミノ酸を表すか、あるいは、
は、SまたはCであり;Xは、SまたはTでありであり;Xは、MまたはVであり;Xは、VまたはIであり;Xは、FまたはLであり;Xは、DまたはNであり;Xは、TまたはAであり;Xは、H、L、またはQであり;Xは、VまたはTであり;X10は、VまたはIであり;X11は、DまたはEであり;X12は、I、A、またはVであり;X13は、NまたはDであり;X14は、NまたはSであり;X15は、V、I、またはAであり;X16はQまたはRであり;X17はWまたは任意のアミノ酸であり;X18はMまたはLであり;X19はMまたはIであり;X20はPまたはLであり;X21はLまたはVであり;X22は、L、M、またはIであり;X23は、DまたはVであり;X24は、KまたはRであり;X25は、KまたはRであり;X26は、Sまたは任意のアミノ酸であり;X27は、TまたはVであり;X28は、NまたはDであり;X29は、MまたはIであり;X30は、NまたはSであり;X31は、LまたはIであり;X32は、EまたはDであり;X33は、FまたはLであり;X34は、NまたはHであり;X35は、PもしくはSであるか、または欠失する)
を有するNS1をコードする、本明細書に開示される核酸に関する。
【0013】
ある態様において、本開示は、NCBIアクセッション番号NP_044589.1、NP_056856.1、P04544.1、AEQ63513.1、AFM55237.1、AFV32554.1、Q86306.1、AFV32528.1、AFM55248.1、AFM95358.1、AFV32568.1、ACY68428.1、CBW45413.1、ACO83290.1、AFM55347.1、CBW45433.1、AEQ63459.1、AFM55204.1、AFV32572.1、AFV32558.1、CBW45429.1、CBW45445.1、AFV32596.1、CBW45481.1、CBW47561.1、P24568.1、AAR14259.1、CBW45451.1、CBW45447.1、CBW45471.1、BAE96914.1、CBW45463.1、CBW45473.1、またはCBW45467.1に提供されるRSVのNS1、または1、2、もしくは3個のアミノ酸の挿入、欠失、置換、または保存的置換を含むバリアント、をコードする、本明細書に開示の核酸に関する。
【0014】
ある態様において、本開示は、配列番号6もしくは配列番号7、またはそれに60%、70%、80%、90%、95%、もしくはより高い配列同一性を有する配列を含む単離核酸に関する。
【0015】
ある態様において、本開示は、配列番号8:
MXTXTXQXLXITDMRPX10SX11121314IX15SLTX1617IITHX18FIYLINX19ECIVX20KLDEX21QATX2223FLVNYEMX24LLHX25VGSX2627YKKX28TEYNTKYGTFPMPIFIX29HX30GFX31ECIGX32KPTKHTPIIX33KYDLNP
(ここで、X-X33は任意のアミノ酸を表すか、あるいは、
はDまたはSであり;XはT、A、またはKであり;XはH、S、またはNであり;XはNまたはPであり;XはD、G、またはEであり;XはTまたはNであり;XはP、M、Q、S、またはAであり;XはRまたはGであり;XはMまたはIであり;X10はLまたはMであり;X11はL、M、またはIであり;X12はI、D、またはEであり;X13はTまたはSであり;X14はIまたはVであり;X15はIまたはTであり;X16はRまたはKであり;R17はDまたはEであり;R18はRまたはKであり;R19はHまたはNであり;X20はRまたはKであり;X21はRまたはKであり;X22はFまたはLであり;X23はTまたはAであり;X24はKまたはNであり;X25はKまたはRであり;X26はTまたはAであり;X27はKまたはIであり;X28はTまたはSであり;X29はNまたは任意のアミノ酸であり;X30はDまたはGであり;X31はLまたはIであり;X32はIまたはVであり;X33はYまたはHである)
を有するNS2をコードする本明細書に開示される核酸に関する。
【0016】
ある態様において、本開示は、NCBIアクセッション番号NP_044590.1、NP_056857.1、CBW45420.1、AFM95337.1、CBW45416.1、CBW45430.1、AFV32529.1、Q86305.1、AEQ63383.1、CBW45424.1、AFM55546.1、CBW45444.1、P04543.2、AFM55326.1、AFM55425.1、AFM55381.1、AFM55458.1、AFM55216.1、AAB59851.1、AEQ63372.1、AFM55337.1、CBW45426.1、AFV32515.1、AFV32519.1、AAR14260.1、CBW47562.1、AFV32643.1、P24569.1、AFV32657.1、AFI25256.1、CBW45480.1、AFV32605.1、AEQ63580.1、AFV32627.1、AFV32665.1、CBW45482.1、CBW45478.1、CBW45462.1、AEQ63635.1、CBW45448.1、CBW45464.1、CBW45484.1、またはCBW45474.1に提供されるRSVのNS2、または1、2、もしくは3個のアミノ酸の挿入、欠失、置換、または保存的置換を含むバリアント、を有する、NS1をコードする本明細書に開示の核酸に関する。
【0017】
ある態様において、本開示は、配列番号9もしくは配列番号10、またはそれに60%、70%、80%、90%、95%、もしくはより高い配列同一性を有する配列を含む単離核酸に関する。
【0018】
ある態様において、本開示は、本明細書に開示される核酸を含む組換えベクターに関する。
【0019】
ある態様において、本開示は、本明細書に開示される核酸を含む弱毒化組換えRSVに関する。
【0020】
ある態様において、本開示は、本明細書に開示されるベクターまたは本明細書に開示される弱毒化組換えRSVを含む発現系に関する。
【0021】
ある態様において、本開示は、本明細書に開示される弱毒化組換えRSVを含むワクチンに関する。
【0022】
ある態様において、本開示は、有効量の本明細書に開示されるワクチンをRSV感染のリスクがある対象者に投与することを含む、ワクチン接種法に関する。
【0023】
ある態様において、前記対象者は、2ヶ月もしくは6ヶ月未満の月齢であるか、1歳未満であるか、未熟児で産まれたか、先天性の心臓または肺疾患を有するか、化学療法もしくは移植を行ったか、または、喘息、鬱血性心不全、慢性閉塞性肺疾患、白血病、もしくはHIV/AIDSと診断された対象者である。
【0024】
ある態様において、ワクチンはモタビズマブ、パリビズマブ、またはRSVのFタンパク質の抗原部位IIのエピトープに対する他のヒト化モノクローナル抗体との組み合わせで投与される。
【0025】
ある態様において、本開示は、細菌人工染色体(BAC)と、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)を含む核酸配列と、を含む本明細書に開示されるベクターに関するものであり、前記BACは宿主細胞内で感染性ウイルス粒子の生成に不可欠な遺伝子を全て含むものである。前記核酸配列は、ウイルスゲノムまたはアンチゲノムが調節因子と機能的に組み合わさったものであってよい。典型的には、前記細菌人工染色体は、F因子のoriS、repE、parA、およびparB遺伝子からなる群より選択される1個または複数の遺伝子を、抗生物質耐性を提供する遺伝子等の選択マーカーと機能的に組み合わせたものを含む。
【0026】
前記核酸配列は、本明細書に提供されるように任意に変異させたウイルス、例えば任意に変異させたRSV株、のゲノムまたはアンチゲノム配列であってよい。ある態様において、前記発現ベクターは、MluI、ClaI、BstBl、およびSacI制限酵素切断部位、ならびに任意にAvrII制限酵素切断部位を、野生型ウイルス配列の領域の外部、ウイルス遺伝子をコードする配列の外部、またはウイルスゲノムもしくはアンチゲノムの外部に含むプラスミドである。ある態様において、前記核酸配列はさらに、選択マーカーまたはレポーター遺伝子、例えば蛍光タンパク質をコードする遺伝子を、機能的な組み合わせとなるように含む。
【0027】
ある態様において、本開示は、本明細書に開示される1種または複数種のベクターを含む単離バクテリアに関するものであり、他の態様において、本開示は、本明細書に開示される1種または複数種のベクターを含む単離細胞に関するものである。ある態様において、前記ベクターは、RSVアンチゲノムと、RSVのNタンパク質をコードするベクター、RSVのPタンパク質をコードするベクター、RSVのLタンパク質をコードするベクター、およびRSVのM2-1タンパク質をコードするベクターからなる群より選択される1種または複数種のベクターと、を含む。典型的には、前記ベクターはプロモーター等の調節因子を含み、前記単離真核細胞は該調節因子を活性化させる核酸またはポリヌクレオチドを発現する―例えば、前記プロモーターの下流の転写を活性化するポリペプチドをコードする。ある態様において、前記プロモーターはT7であり、プロモーターの下流の転写を活性化する前記ポリペプチドはT7 RNAポリメラーゼである。
【0028】
ある態様において、本開示は、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)粒子を生成するための方法に関するものであり、該方法は、BAC遺伝子およびRSVアンチゲノムを有するベクターを単離真核細胞に挿入すること、ならびに、RSVのNタンパク質をコードするベクター、RSVのPタンパク質をコードするベクター、RSVのLタンパク質をコードするベクター、およびRSVのM2-1タンパク質をコードするベクターから選択される1種または複数種のベクターを、RSVビリオンが形成される条件下で前記細胞に挿入することを含む。細胞へのベクターの挿入は、物理的な注入、エレクトロポレーション、または該細胞と該ベクターとを、該ベクターが該細胞に侵入するような条件下で混合することにより行うことができる。
【0029】
ある態様において、本開示は、他の株との比較におけるline 19 F557変異ウイルスの安定性に関するものであり、line 19 Fを発現するRSVをより熱安定性にする557位におけるvalに関するものである。557位のvalは他の株においても安定性をもたらすようであり、従って、557位は熱安定性において重要である。ある態様において、本開示は、F株との任意の関連における、RSVウイルスの熱安定性を改善する、line 19 Fまたは他のRSV株における557位の他の変異(アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン等の任意のアミノ酸)を企図する。
【0030】
ある態様において、本開示は、アラニン、バリン、またはロイシンを557位に有する、例えば、配列番号17の557位にアラニンまたはロイシンを有する、RSV Fポリペプチドを企図とする。
【0031】
ある態様において、本開示は、RSV Fポリペプチドの特定の望ましい配列、例えば配列番号17等の557位にバリンを有するline 19配列、およびそれをコードする組換え核酸に関する。ある態様において、本開示は、これらのポリペプチドをコードする核酸を含んだ組換えベクター、および該ベクターを含んだ細胞を企図する。
【0032】
ある態様において、本開示は、免疫学的に有効な量の、本明細書に開示する組換え呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、RSVポリペプチド、RSV粒子、RSVウイルス様粒子、および/または核酸を含む、免疫原性組成物に関する。ある態様において、本開示は、個体の免疫系を刺激してRSVに対する防御免疫反応を引き起こすための方法に関する。ある態様においては、生理学的に許容される担体中の、免疫学的に有効な量の、本明細書に開示するRSV、ポリペプチド、および/または核酸を、個体に投与する。
【0033】
ある態様において、本開示は、本明細書に開示される用途のための、本明細書に開示される核酸を含む、医薬およびワクチン製品に関する。
【0034】
ある態様において、本開示は、本明細書に開示される用途のための医薬の製造のための、本明細書に開示される核酸またはベクターの使用に関連する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1図1は、ヒト遺伝子および特定のRSV株における、最も使用頻度が低いコドンの表である。
図2図2は、BEAS-2B(上段)およびVero細胞株(下段)におけるkRSV-dNS1hの増殖データを示す。0.01のMOIで感染させた際のHEp-2(A)、Vero(B)、およびBEAS-2B(C)、ならびに0.2(D)または2.0(E)のMOIで感染させた際の分化したNHBE/ALI細胞における、kRSV-A2(白丸)およびkRSV-dNSh(黒丸)の37℃での増殖曲線。
図3図3は、本明細書に開示される特定の態様を使用したウイルス負荷実験に関するデータを示す。0.2のMOIで感染したNHBE細胞における、組換えウイルスによって生成したmKate2蛍光の経時的観察像。P<0.05。
図4図4は、組換え工学(recombineering)によるBAC-RSVへのgalKオペロンの挿入後のゲルを示す。MluI消化物。レーン1:ラダーマーカー。mini-prep BAC DNA(レーン2~7)。レーン8:親BAC-RSV「C2」クローン。レーン9:galKを含むプラスミド。galKオペロンは、相同組み換えによるgalKの導入のマーカーとして働くMluI制限サイトを有する。
図5図5は、組換え工学によるBAC-RSVからのgalKオペロン欠失後のゲルを示す。galKを含むプラスミドのMluI消化物(レーン2)、BAC mini-prep DNA(レーン3~7)、および親BAC-RSVクローンC2(レーン8)。
図6A図6Aは、BAC-RSVを作製するための工程の概略図である。RSVの断片を有する3種のプラスミドを生成する(実施例参照);A)pKBS3をBstBlおよびMlulサイトで切断して直鎖状にし、オリゴヌクレオチドアダプターに連結して、pKBS5を提供する;B)SaclおよびClalを有するpSynRSV#2を切断し、pKBS5に連結して、pKBS5-2を提供する;C)AvrllおよびMlulを有するpSynRSV#3を切断し、pKBS5_2に連結して、pKBS5_2_3を提供する;D)BstBlおよびSaclを有するpSynRSV#1を切断し、pKBS5_2_3に連結して、pKBS5_1_2_3を提供する。E)組換え工学を用いて2つのClalサイトに挟まれたヌクレオチドを欠失させ、pSynRSV-line 19Fを生成する。
図6B図6Bは、BAC-RSVを作製するための工程の概略図である。RSVの断片を有する3種のプラスミドを生成する(実施例参照);A)pKBS3をBstBlおよびMlulサイトで切断して直鎖状にし、オリゴヌクレオチドアダプターに連結して、pKBS5を提供する;B)SaclおよびClalを有するpSynRSV#2を切断し、pKBS5に連結して、pKBS5-2を提供する;C)AvrllおよびMlulを有するpSynRSV#3を切断し、pKBS5_2に連結して、pKBS5_2_3を提供する;D)BstBlおよびSaclを有するpSynRSV#1を切断し、pKBS5_2_3に連結して、pKBS5_1_2_3を提供する。E)組換え工学を用いて2つのClalサイトに挟まれたヌクレオチドを欠失させ、pSynRSV-line 19Fを生成する。
図6C図6Cは、BAC-RSVを作製するための工程の概略図である。RSVの断片を有する3種のプラスミドを生成する(実施例参照);A)pKBS3をBstBlおよびMlulサイトで切断して直鎖状にし、オリゴヌクレオチドアダプターに連結して、pKBS5を提供する;B)SaclおよびClalを有するpSynRSV#2を切断し、pKBS5に連結して、pKBS5-2を提供する;C)AvrllおよびMlulを有するpSynRSV#3を切断し、pKBS5_2に連結して、pKBS5_2_3を提供する;D)BstBlおよびSaclを有するpSynRSV#1を切断し、pKBS5_2_3に連結して、pKBS5_1_2_3を提供する。E)組換え工学を用いて2つのClalサイトに挟まれたヌクレオチドを欠失させ、pSynRSV-line 19Fを生成する。
図6D図6Dは、BAC-RSVを作製するための工程の概略図である。RSVの断片を有する3種のプラスミドを生成する(実施例参照);A)pKBS3をBstBlおよびMlulサイトで切断して直鎖状にし、オリゴヌクレオチドアダプターに連結して、pKBS5を提供する;B)SaclおよびClalを有するpSynRSV#2を切断し、pKBS5に連結して、pKBS5-2を提供する;C)AvrllおよびMlulを有するpSynRSV#3を切断し、pKBS5_2に連結して、pKBS5_2_3を提供する;D)BstBlおよびSaclを有するpSynRSV#1を切断し、pKBS5_2_3に連結して、pKBS5_1_2_3を提供する。E)組換え工学を用いて2つのClalサイトに挟まれたヌクレオチドを欠失させ、pSynRSV-line 19Fを生成する。
図6E図6Eは、BAC-RSVを作製するための工程の概略図である。RSVの断片を有する3種のプラスミドを生成する(実施例参照);A)pKBS3をBstBlおよびMlulサイトで切断して直鎖状にし、オリゴヌクレオチドアダプターに連結して、pKBS5を提供する;B)SaclおよびClalを有するpSynRSV#2を切断し、pKBS5に連結して、pKBS5-2を提供する;C)AvrllおよびMlulを有するpSynRSV#3を切断し、pKBS5_2に連結して、pKBS5_2_3を提供する;D)BstBlおよびSaclを有するpSynRSV#1を切断し、pKBS5_2_3に連結して、pKBS5_1_2_3を提供する。E)組換え工学を用いて2つのClalサイトに挟まれたヌクレオチドを欠失させ、pSynRSV-line 19Fを生成する。
図7A図7Aは、F遺伝子にI557からVへの変異を有するRSV株の免疫原性を示すデータである。マウスに、記載の量のA2-K-line 19F、A2-line19F-I557 V、またはA2-K-A2GFを感染させ、29日後にRSV株12-35による攻撃を行った。肺のウイルス量を攻撃後4日目に測定した。点線は検出限界を示す。
図7B図7Bは、F遺伝子にI557からVへの変異を有するRSV株の免疫原性を示すデータである。マウスに、記載の量のA2-K-line 19F、A2-line19F-I557 V、またはA2-K-A2GFを感染させ、29日後にRSV株12-35による攻撃を行った。肺のウイルス量を攻撃後4日目に測定した。点線は検出限界を示す。
図8図8は、A2-line 19 F遺伝子にI557からVへの変異を有するRSV株(配列番号17)の優れた熱安定性を表すデータを示す。ウイルスを記載の温度でインキュベートし、ウイルス価を6日間毎日測定した。4℃における結果はウイルス間で統計的に有意である(P<0.01)。37℃における結果は表現型が同一であることを示す。
図9図9は、株19、I557 V変異(配列番号17)(クエリー(Query))および典型的なRSV株19(対象(Sbjct))のRSV配列の比較を示す。
図10図10は、株19、I557 V変異(配列番号17)(クエリー)および米国特許7,951,384号(対象)からの配列61のRSV配列の比較を示す。
図11図11は、株19、I557 V変異(配列番号17)(クエリー)および米国特許8,580,270号(対象)からの配列12のRSV配列の比較を示す。
図12図12は、本明細書に開示される態様の弱毒化、有効性、および免疫原性に関するデータを示す。(A)6~8週齢のBALB/cマウス(各群n=5)に、1.6×105FFUのkRSV-A2(白丸)またはkRSV-dNSh(黒丸)を鼻腔内感染させ、肺のウイルス量を感染後1、2、4、6、および8日目に測定した。データは同様な結果の実験を2回反復したうちの一方のものである。P<.05。(B)BALB/cマウスに各種投与量(10FFU、10FFU、および10FFU)のkRSV-A2(白丸)またはkRSV-dNSh(黒丸)を鼻腔内ワクチン接種し、または模擬感染を行い、ワクチン接種後100日目にマウスに対して1.6×10PFUのRSV 12-35株による攻撃を行った。肺のウイルスのピーク量を攻撃後4日目に測定した。各記号は1個体のマウスを表す。破線(AおよびB)はプラークアッセイの検出限界を表す。検出限界未満の力価については、該検出限界の半分の値を割り当てた。(C)BALB/cマウス(各群n=5)に模擬感染を行い、または105FFUのkRSV-A2もしくはkRSV-dNShのいずれかを感染させ、感染後に記載の日数が経過した時点で血清nAb力価を測定した。P<0.05。
図13図13は、本明細書に開示される特定の態様におけるワクチン有効性のデータを示す。6~8週齢のBALB/cマウス(各群n=5)に模擬感染を行い、または記載の各種投与量のkRSV-A2(白丸)もしくはkRSV-dNSh(黒丸)をワクチン接種した。28日後、マウスに対して(A)2×10PFUのRSV A2-line 19株、または(B)5X10PFUのRSV 12-35による攻撃を行った。肺のウイルス量を攻撃後4日目に測定した。各記号は1個体のマウスを表す。破線はプラークアッセイの検出限界を表す。検出限界未満の力価については、該検出限界の半分の値を割り当てた。
図14図14は、各種細胞株における、RSV感染時のNS1およびNS2タンパク質の発現に関するデータを示す。HEp-2(A)、BEAS-2B(B)、およびVero(C)細胞に模擬感染を行い、またはkRSV-A2、kRSV-dNSh、もしくはkRSV-dNSvのいずれかをMOI5で感染させた。感染後20時間の時点で、NS1およびNS2タンパク質濃度をウェスタンブロット法およびデンシトメトリーで分析した。代表的なブロットを左側に示す。2~3回の独立した実験によるデンシトメトリーを右側にしめす。RSVのNタンパク質濃度に対する標準化の後、各ウイルスが発現したNS1およびNS2タンパク質濃度をkRSV-A2感染時のものに対して標準化し、百分率±SEMで示した。白いバーはkRSV-A2を表し、灰色のバーはkRSV-dNSvを表し、黒いバーはkRSV-dNShを表す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本開示をより詳細に記載する前に、本開示は記載される特定の態様に限定されるわけではなく、当然改変され得るものであることが理解されるべきである。また、本開示の範囲は添付の請求の範囲によってのみ限定されるため、本明細書で使用される用語は単に特定の態様を記載する目的のためのものであり、限定的な意図を持つものではないと理解されるべきである。
【0037】
他に断りがない限り、本明細書で用いられる全ての技術的または科学的用語は、本開示が属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同様な意味を有する。本明細書に記載されたものと類似または同等の任意の方法および材料を本開示の実施または試験に使用することもできるが、好ましい方法および材料を以下に記載する。
【0038】
本明細書に引用される全ての文献および特許は、参照により、各文献または特許が具体的かつ個別に参照により組み入れられた旨が明記された場合と同様に本明細書に組み入れられたものとし、また、参照により、前記文献の引用と関連した方法および/または材料を開示および記載するために本明細書に取り込まれたものとする。全ての文献の引用は出願日より前のその開示に対してであり、本開示が先の開示に基づいたこのような文献に先行する資格を有しないことの承認の意味で解釈されるべきではない。さらに、提供される公開の日付は実際の公開日とは異なる場合があり、実際の公開日は個別に確認する必要があるであろう。
【0039】
当業者が本開示を読んだ際に明らかであるように、本明細書に記載および説明される個々の態様は、それぞれ、本開示の範囲または主旨から逸脱することなく、任意の他のいくつかの態様の特徴と容易に分離または結合することのできる、個別の構成要素および特徴を有する。記載される全ての方法は、記載された順番通りに行うことができ、または、論理的に可能な任意の他の順番で行うことができる。
【0040】
他に指定の無い限り、本開示の態様は、当該分野の技術の範囲内の、免疫学、医学、有機化学、生化学、分子生物学、薬理学、生理学等の技術を用いるであろう。このような技術は文献に詳しく説明されている。
【0041】
本願明細書および添付の請求の範囲において使用される単数形「a」「an」および「the」は、そうでないことが文脈によって明確に規定されない限り、複数の対象を包含する。本願明細書およびそれに続く請求の範囲においては、反対の意図が明白でない限り次の意味を有すると定義される複数の用語に言及する。
【0042】
各種態様を記載する前に、他に指定の無い限り使用されるべき次の定義が提供される。
【0043】
「タンパク質」および「ポリペプチド」という語は、ペプチド結合によって連結されたアミノ酸を含む化合物のことを指し、互換的に使用される。
【0044】
「部分」という語は、それがタンパク質と関連して使用される場合(例えば「任意のタンパク質の一部分」のように使用される場合)、タンパク質の断片のことを指す。該断片のサイズは、4アミノ酸残基から、全長アミノ酸配列より1アミノ酸を除いたものまでの範囲でありうる。
【0045】
「キメラ」という語は、それがポリペプチドと関連して使用される場合、異なる遺伝子から得られた2個以上のコード配列の発現産物のことを指し、該コード配列はクローニングされて互いに一緒になったものであり、翻訳後に単一のポリペプチド配列として働くものである。キメラポリペプチドは「ハイブリッド」ポリペプチドとも表される。コード配列には、同一または異なった種の生物から得られたものも含まれる。
【0046】
「ホモログ」または「相同」の語は、それがポリペプチドと関連して使用される場合、2つのポリペプチド間の高度な配列同一性のことか、三次元構造の高度な類似性のことか、あるいは活性部位および作用機序の高度な類似性のことを指す。好ましい一態様において、ホモログは参照配列に対して60%超の配列同一性、より好ましくは75%超の配列同一性、さらに好ましくは90%超の配列同一性を有する。
【0047】
ポリペプチドへの適用において、「実質的な同一性」という語は、2つのペプチド配列を最適に、例えばギャップウェイトを既定値としてGAPまたはBESTFITプログラムを使用することにより、アラインメントした際に、少なくとも80%の配列同一性、好ましくは少なくとも90%の配列同一性、より好ましくは少なくとも95%またはそれ以上の配列同一性(例えば99%の配列同一性)を互いに有することを意味する。好ましくは、同一でない残基位置は保存的アミノ酸置換によって相違するものである。
【0048】
「バリアント」および「変異体」という語は、それがポリペプチドと関連して使用される場合、他のアミノ酸配列、通常は関連のあるポリペプチド、に対して1個または複数のアミノ酸が異なるアミノ酸配列のことを指す。前記バリアントは、置換後のアミノ酸が類似した構造または化学的特性を有する「保存的」変化を有していてよい。保存的アミノ酸置換の一種として、類似した側鎖を有する残基の可換性が挙げられる。例えば、脂肪族側鎖を有するアミノ酸のグループはグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、およびイソロイシンであり;脂肪族-ヒドロキシル側鎖を有するアミノ酸のグループはセリン及びスレオニンであり;アミド含有側鎖を有するアミノ酸のグループはアスパラギンおよびグルタミンであり;芳香族側鎖を有するアミノ酸のグループはフェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファンであり;塩基性側鎖を有するアミノ酸のグループはリジン、アルギニン、およびヒスチジンであり;硫黄含有側鎖を有するアミノ酸のグループはシステインおよびメチオニンである。好ましい保存的アミノ酸置換の群は:バリン-ロイシン-イソロイシン、フェニルアラニン-チロシン、リジン-アルギニン、アラニン-バリン、およびアスパラギン-グルタミンである。より低頻度で、バリアントは「非保存的」変化(例えば、グリシンのトリプトファンへの置換)を有していてもよい。同様の低頻度の変異としては、アミノ酸の欠失もしくは挿入(すなわち付加)、または両者、が挙げられる。どのアミノ酸残基を、どれだけの数だけ、生物学的活性を破壊することなく置換、挿入、または欠失することができるのか決定するための指針を、当業者に周知のコンピュータープログラム、例えばDNAStarソフトウェアを使用して見いだすことができる。バリアントは機能的分析において試験することができる。好ましいバリアントは10%未満、好ましくは5%未満、より好ましくは2%未満の変化(置換、欠失等)を有する。
【0049】
「遺伝子」という語は、RNAまたはポリペプチドもしくはその前駆体(プロインシュリン等)の製造に必要なコード配列を含む核酸(DNAまたはRNA等)配列のことを指す。機能的なポリペプチドは、全長コード配列、または、ポリペプチドの所望の活性もしくは機能特性(酵素活性、リガンド結合、シグナル伝達等)が維持される限りはコード配列の任意の部分、によってコードされ得る。「部分」という語は、それが遺伝子との関連において使用される場合、その遺伝子の断片のことを指す。該断片のサイズは、数ヌクレオチドから、全長遺伝子配列より1ヌクレオチド除いたものまでの範囲でありうる。従って、「遺伝子の少なくとも一部分を含むヌクレオチド」は、その遺伝子の断片または全長遺伝子を含みうる。
【0050】
「遺伝子」という語は、構造遺伝子のコード領域も包含し、該遺伝子が全長mRNAの長さに相当するように、5’および3’末端の両者おいて各末端約1kbの距離にわたって該コード配列に隣接して位置する配列も含む。コード領域の5’に位置し、mRNA上に存在する配列は5’非翻訳配列と呼ばれる。コード領域の3’側、すなわち下流側に位置し、mRNA上に存在する配列は3’非翻訳配列と呼ばれる。「遺伝子」という語は、cDNAの形態およびゲノムの形態の遺伝子の両者を包含する。ゲノムの形態の、またはクローンの遺伝子は、「イントロン」または「介在領域」または「介在配列」と呼ばれる非コード配列で分断されたコード領域を含む。イントロンは核RNA(mRNA)に転写される遺伝子の断片である;イントロンはエンハンサー等の調節エレメントを含みうる。イントロンは核または一次転写産物から除去、すなわち「スプライスアウト」される;イントロンは従って、メッセンジャーRNA(mRNA)転写産物には存在していない。mRNAは、翻訳の際に新生ポリペプチド内のアミノ酸の配列すなわち順番を規定する機能を有する。
【0051】
イントロンを含むことに加え、ゲノムの形態の遺伝子は、RNA転写産物上に存在する配列の5’および3’両末端に位置する配列を含んでいてもよい。これらの配列は「隣接」配列または領域と呼ばれる(これら隣接配列はmRNA転写産物上に存在する非翻訳配列の5’または3’に位置する)。5’隣接領域は遺伝子の転写に影響を与えるプロモーターおよびエンハンサー等の調節配列を含んでいてもよい。3’隣接領域は転写の終結、転写後切断、およびポリアデニル化を指示する配列を含んでいても良い。
【0052】
「異種遺伝子」という語は、それ自身の本来の環境に置かれていない(例えば人為的に改変された)因子をコードする遺伝子のことを指す。異種遺伝子の例として、ある種から別の種へ導入された遺伝子が挙げられる。異種遺伝子の他の例として、生物本来の遺伝子が何らかの方法(突然変異、複数コピーの付加、非天然のプロモーターまたはエンハンサー配列への連結、等)で改変されたものが挙げられる。異種遺伝子配列は典型的には、該異種遺伝子にコードされるタンパク質の遺伝子とも、または染色体内の植物遺伝子配列とも天然の関連が見られない、あるいは天然に見出されない染色体の部分と関連のある、プロモーター等の調節エレメントを含んだヌクレオチド配列に連結される点において内在性の植物遺伝子とは区別される(例えば通常は発現していない遺伝子座において発現している遺伝子)。
【0053】
「ポリヌクレオチド」という語は、2個以上、好ましくは3個よりも多い、通常は10個よりも多いデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドを含む分子のことを指す。正確なサイズは多数の要素によって決まり、そしてそれらの要素はオリゴヌクレオチドの最終的な機能または用途によって決まる。ポリヌクレオチドはどのような様式で生成されてもよく、例えば化学合成、DNA複製、逆転写、またはその組み合わせ等で生成されてもよい。「オリゴヌクレオチド」という語は、一般的に、通常30ヌクレオチド長未満の短い1本鎖ポリヌクレオチドを表すが、「ポリヌクレオチド」の語と互換的に使用されてもよい。
【0054】
「核酸」という語は、上記のように、ヌクレオチドのポリマーまたはポリヌクレオチドのことを指す。この用語は単一分子、または複数の分子の集合を意味するために使用される。核酸は1本鎖でも2本鎖でもよく、下記のようにコード領域および各種調節エレメントを含んでいてもよい。
【0055】
「遺伝子をコードするヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチド」、「遺伝子をコードするヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチド」、または、特定のポリヌクレオチドを「コードする核酸配列」という語は、遺伝子のコード領域を含んだ核酸配列、すなわち遺伝子産物をコードする核酸配列のことを指す。前記コード領域はcDNA、ゲノムDNA、またはRNAの形態で存在していてよい。DNAの形態で存在する場合、前記オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、または核酸は1本鎖(すなわちセンス鎖)または2本鎖であってよい。必要な場合、エンハンサー・プロモーター、スプライス部位、ポリアデニル化シグナル等の適した調節エレメントを前記遺伝子のコード領域のごく近傍に配置し、転写の適切な開始および/または一次RNA転写産物の正確なプロセッシングを可能にしてもよい。あるいは、本開示の発現ベクターにおいて利用されるコード領域は、内在性のエンハンサー・プロモーター、スプライス部位、介在配列、ポリアデニル化シグナル等を含んでいてもよく、または、内在性および外来性の調節エレメントの組み合わせを含んでいてもよい。
【0056】
「組換え体」という語は、それが核酸分子との関連で記述される場合、分子生物学的手法で互いに連結した核酸の断片からなる核酸分子のことを指す。「組換え体」という語は、それがタンパク質またはポリペプチドとの関連で記述される場合、組換え核酸分子を用いて発現されるタンパク質分子のことを指す。
【0057】
「相補的」および「相補性」という語は、塩基対合則によって関連づけられるポリヌクレオチド(すなわちヌクレオチドの配列)のことを指す。例えば、「A-G-T」という配列は、「T-C-A」という配列に対して相補的である。相補性は「部分的」であってもよく、この場合、塩基対合則に従って一部の核酸の塩基だけがマッチする。あるいは、核酸同士の間に「完全な」または「全」相補性があってもよい。核酸の鎖の間の相補性の度合いは、核酸の鎖同士の間のハイブリダイゼーションの効率および強さに対して大きな影響を与える。これは増幅反応、および核酸間の結合に依存する検出法において、特に重要である。
【0058】
「相同性」という語は、それが核酸との関連で使用される場合、相補性の度合いのことを指す。部分的名相同性または完全な相同性(すなわち同一性)があってもよい。「配列同一性」とは、2個以上の核酸またはタンパク質の間の関連性の尺度のことを指し、全比較長に対する百分率として算出される。同一性の計算においては、同一であって、かつ、それぞれのより長い配列内で同じ相対位置にあるヌクレオチドまたはアミノ酸残基を計算に含める。同一性の計算は「GAP」(Genetics Computer Group,Madison,Wis.)および「ALIGN」(DNAStar,Madison,Wis.)等のコンピュータープログラム内に含まれるアルゴリズムによって行う。部分的に相補的な配列は、完全に相補的な配列が標的核酸にハイブリダイズするのを少なくとも部分的に阻害する(または該ハイブリダイゼーションと競合する)ものであり、「実質的に相同」という機能的な用語を用いて表す。この完全に相補的な配列の標的核酸へのハイブリダイゼーションの阻害は、低いストリンジェンシーの条件下でハイブリダイゼーションアッセイ(サザンまたはノーザンブロット法、溶液ハイブリダイゼーション法等)を利用することにより調べてもよい。実質的に相同な配列またはプローブは、標的と完全に相同な配列の結合(すなわちハイブリダイゼーション)に対して、低いストリンジェンシーの条件下で競合し、それを阻害する。これは、低いストリンジェンシーの条件が非特異的結合を可能にするということではない;低いストリンジェンシーの条件においては、2つの配列の互いの結合が特異的な(すなわち選択的な)相互作用である必要がある。非特異的結合が無いことは、部分的な度合いの相補性さえ無い(例えば約30%未満の同一性の)第二の標的を使用することにより、試験してもよい;非特異的結合が無い場合、プローブは第二の非相補的標的にはハイブリダイズしないはずである。
【0059】
次の用語は2つ以上のポリヌクレオチド間の配列の関係を記述するために使用される:「参照配列」、「配列同一性」、「配列同一性の割合」、および「実質的同一性」。「参照配列」は、配列比較のための基準として用いられる、定義された配列である。参照配列はより長い配列のサブセットであってよく、例えば、配列表に示す全長cDNA配列の一断片であってもよく、あるいは全長遺伝子配列を含んでいてもよい。一般に、参照配列は少なくとも20ヌクレオチドの長さであり、少なくとも25ヌクレオチドの長さであることが多く、しばしば少なくとも50ヌクレオチドの長さでる。2つのポリヌクレオチドはそれぞれ(1)その2つのポリヌクレオチド間で類似した配列(すなわち、全長ポリヌクレオチド配列の一部)を含んでいてよく、また、(2)さらにその2つのポリヌクレオチド間で相違する配列を含んでいてよい。2つの(またはそれ以上の)ポリヌクレオチド間の配列比較は、典型的には、「比較ウィンドウ」上で2つのポリヌクレオチドの配列を比較し、配列類似性の部分領域を同定および比較することによって行われる。本明細書で用いられる「比較ウィンドウ」という語は、少なくとも20個の連続したヌクレオチド部位の概念的なセグメントのことを指し、ここで、あるポリヌクレオチド配列を、少なくとも20個の連続したヌクレオチドの参照配列と比較してもよく、また、前記比較ウィンドウ内の前記ポリヌクレオチド配列の部分は、この2つの配列の最適なアラインメントのために、前記の(付加または欠失を含まない)参照配列と比較して20%以下の付加または欠失(すなわちギャップ)を含んでいてもよい。比較ウィンドウにおける配列の最適なアラインメントは、SmithおよびWatermanのローカル相同性アルゴリズム(SmithおよびWaterman,Adv.Appl.Math.2:482(1981))、NeedlemanおよびWunschの相同性アラインメントアルゴリズム(NeedlemanおよびWunsch,J.Mol.Biol.48:443(1970))、PearsonおよびLipmanの類似性探索法(PearsonおよびLipman,Proc.Natl.Acad.Sci.(U.S.)85:2444(1988))、これらのアルゴリズムのコンピュータ処理による実行(Wisconsin Genetics Software Package Release 7.0,Genetics Computer Group,575 Science Dr.,Madison,Wis.におけるGAP、BESTFIT、FASTA、およびTFASTA)、または精査によって行ってもよく、これらの各種方法によって生成された最良の(すなわち、比較ウィンドウ上での相同性が最大の割合となる)アラインメントが選択される。「配列同一性」という語は、2つのポリヌクレオチド配列が、比較ウィンドウ上で(ヌクレオチドごとの比較において)同一であることを意味する。
【0060】
ある態様において、「配列同一性の割合」は、2つの最適にアラインメントされた配列を比較ウィンドウ上で比較し、同一の核酸塩基(例えばA、T、C、G、U、またはI)が両配列に存在する部位の数を決定し、マッチする部位の数を得て、該マッチする部位の数を比較ウィンドウにおける部位の総数(すなわちウィンドウサイズ)で割り、その結果に100を掛けることによって算出される。
【0061】
ある態様において、配列「同一性」とは、アラインメント内の2つの配列間の配列アラインメントにおいて厳密にマッチしているアミノ酸の数(百分率であらわす)のことを指し、最短の配列、または、内部ギャップを等価部位(equivalent position)としてカウントした際のオーバーハングを除いた等価部位の数、のうち、より大きなほうで同一な部位の数を割った値を用いて算出される。例えば、ポリペプチドGGGGGGとGGGGTは、5部位のうち4部位、すなわち80%の配列同一性を有する。例えば、ポリペプチドGGGPPPおよびGGGAPPPは7部位のうち6部位、すなわち85%の配列同一性を有する。ある態様において、本明細書に示される配列同一性の記述は、いずれも配列類似性に置き換えることができる。「類似性」百分率は、アラインメントにおける2つの配列間の類似性を定量するために用いられる。この方法は、特定のアミノ酸同士は同一でなくてもマッチするという点を除けば、同一性の決定と同じである。アミノ酸同士が類似の特性を有するグループ内のものである場合、それらはマッチするものとして分類される。該グループは次の通りである:芳香族-F Y W;疎水性-A V I L;正電荷-R K H;負電荷-D E;極性-S T N Q。
【0062】
本明細書で用いる「実質的な同一性」という語は、ポリヌクレオチド配列の特徴を表すものであり、ここで該ポリヌクレオチドは、参照配列に対して少なくとも85パーセントの配列同一性、好ましくは少なくとも90~95パーセントの配列同一性、より一般的には少なくとも99パーセントの配列同一性を、少なくとも20ヌクレオチド部位の比較ウィンドウ上で、しばしば少なくとも25~50ヌクレオチド部位の比較ウィンドウ上で、有する配列を含み、前記の配列同一性の割合は、前記参照配列を、前記比較ウィンドウ上で該参照配列の合計20パーセント以下の欠失または付加を含んでいてもよい前記ポリヌクレオチド配列と比較することによって算出される。前記参照配列は、より長い配列のサブセットであってもよく、例えば、本開示に記載される組成物の全長配列の一セグメントであってもよい。
【0063】
cDNAまたはゲノムクローン等の2本鎖核酸配列との関連で使用される場合、「実質的に相同」という語は、上記の低いストリンジェンシーから高いストリンジェンシーの範囲の条件下で、該2本鎖核酸配列の一方または両方の鎖にハイブリダイズし得る任意のプローブのことを指す。
【0064】
1本鎖核酸配列との関連で使用される場合、「実質的に相同」という語は、上記の低いストリンジェンシーから高いストリンジェンシーの範囲の条件下で、1本鎖核酸にハイブリダイズし得る(すなわちそれに相補的な)任意のプローブのことを指す。
【0065】
「機能的に組み合わせた」「機能的な順番で」および「機能的に連結された」という語は、任意の遺伝子の転写および/または所望のタンパク質分子の合成を指示し得る核酸分子が生成されるように、核酸配列を連結することを指す。この用語はまた、機能的タンパク質が生成するようにアミノ酸配列を連結することも指す。
【0066】
「調節エレメント」という語は、核酸配列の発現の一部の局面を制御する遺伝子エレメントのことを指す。例えば、プロモーターは、機能的に連結されたコード領域の転写の開始を促す調節エレメントである。他の調節エレメントとしては、スプライシングシグナル、ポリアデニル化シグナル、終結シグナル等が挙げられる。
【0067】
真核生物における転写調節シグナルは「プロモーター」および「エンハンサー」エレメントを含む。プロモーターおよびエンハンサーは転写に関与する細胞タンパク質と特異的に相互作用するDNA配列の短いアレイからなる(Maniatisほか,Science 236:1237,1987)。プロモーターおよびエンハンサーエレメントは、酵母、昆虫、哺乳類、および植物細胞等の各種の真核生物の遺伝子から単離されている。プロモーターおよびエンハンサーエレメントはウイルスからも単離されており、原核生物内でも見つかっている。特定のプロモーターおよびエンハンサーの選択は、対象となるタンパク質を発現するのに使用する細胞型に依存する。一部の真核生物のプロモーターおよびエンハンサーは広範な宿主範囲を有するが、他のものは限られたサブセットの細胞型において機能する(総説として、Vossほか,Trends Biochem.Sci.,11:287,1986;およびManiatisほか,supra 1987を参照のこと)。
【0068】
本明細書で使用される「プロモーターエレメント」「プロモーター」または「プロモーター配列」という語は、DNAポリマーのタンパク質コード領域の5’末端に位置する(すなわち前にある)DNA配列のことを指す。天然に知られているほとんどのプロモーターは、転写領域の前に位置する。プロモーターはスイッチとして機能し、遺伝子の発現を活性化する。遺伝子が活性化される場合、転写される、または転写に関与している、と言われる。転写は、遺伝子からのmRNAの合成を伴う。プロモーターは従って、転写調節エレメントとして働き、また、遺伝子のmRNAへの転写の開始のための部位を提供する。
【0069】
プロモーターは組織特異的または細胞特異的であってよい。「組織特異的」という語は、それがプロモーターに対して適用される場合、対象ヌクレオチド配列を特定の種類の組織(例えば種子)で選択的に発現させ、異なる種類の組織(例えば葉)における同一の対象ヌクレオチド配列よりも相対的に多く発現させることが可能なプロモーターのことを指す。プロモーターの組織特異性の評価は、例えば、レポーター遺伝子をプロモーター配列に機能的に連結してレポーター構築物を生成し;該レポーター構築物を植物のゲノム中に導入し、それによって得られるトランスジェニック植物の全ての組織中に前記レポーター構築物が組み込まれるようにし;該トランスジェニック植物の各種組織中における前記レポーター遺伝子の発現を検出する(すなわち、mRNA、タンパク質、または該レポーター遺伝子にコードされるタンパク質の活性を検出する);ことによって行ってよい。1個または複数の組織における前記レポーター遺伝子の発現量が、他の組織における該レポーター遺伝子の発現量よりも多いことが検出された場合、前記プロモーターは、前記のより発現量の多い組織に対して特異的であることが示される。「細胞型特異的」という語は、それがプロモーターに対して適用される場合、対象ヌクレオチド配列を特定の型の細胞で選択的に発現させ、同一組織内の異なる型の細胞における同一の対象ヌクレオチド配列よりも相対的に多く発現させることが可能なプロモーターのことを指す。また、「細胞型特異的」という語は、それがプロモーターに対して適用される場合、単一組織内の一領域における対象ヌクレオチド配列の選択的発現を促進し得るプロモーターのことも意味する。プロモーターの細胞型特異性は当該分野で周知の方法、例えば免疫組織化学的染色を用いて評価してよい。簡単に述べると、組織切片をパラフィンに包埋し、パラフィン切片を、発現が前記プロモーターによって調節されている対象ヌクレオチド配列にコードされたポリペプチド産物に対して特異的な一次抗体と反応させる。一次抗体に対して特異的な標識化(例えばペルオキシダーゼ結合)二次抗体を前記組織切片に結合させ、特異的結合を(例えばアビジン/ビオチンを用いて)顕微鏡観察により検出する。
【0070】
プロモーターは構成的なものであってもよく、制御可能なものであってもよい。「構成的」の語は、それがプロモーターとの関連で記述される場合、該プロモーターが、刺激(ヒートショック、化学物質、光等)が存在しなくとも、機能的に連結された核酸配列の転写を指示し得ることを意味する。典型的には、構成的プロモーターは、実質的にあらゆる細胞およびあらゆる組織において、導入遺伝子の発現を指示することができる。
【0071】
一方、「制御可能」または「誘導性」プロモーターは、機能的に連結された核酸配列の転写量を刺激(ヒートショック、化学物質、光等)の存在下で指示することが可能なものであり、該転写量は、刺激が無い場合の前記の機能的に連結された核酸配列の転写量とは異なる。
【0072】
前記エンハンサーおよび/またはプロモーターは、「内在性」または「外来」または「異種」のものであってよい。「内在性」エンハンサーまたはプロモーターは、ゲノム中の任意の遺伝子と天然に連結したものである。「外来」または「異種」のエンハンサーまたはプロモーターは、連結されたエンハンサーまたはプロモーターによって遺伝子の転写が指示されるように遺伝子操作(すなわち分子生物学的手法)によって該遺伝子に並置されたものである。例えば、第1の遺伝子と機能的に組み合わさった内在性プロモーターを単離・移動し、第2の遺伝子と機能的に組み合わせて配置して、第2の遺伝子と機能的に組み合わさった「異種プロモーター」とすることができる。様々なこのような組み合わせが企図される(例えば、第1及び第2の遺伝子は同一の種または異なる種に由来し得る)。
【0073】
真核細胞における組換えDNA配列の効果的な発現には、典型的には、効果的な終結および生成した転写産物のポリアデニル化を指示するシグナルの発現が必要である。転写終結シグナルは一般的にポリアデニル化シグナルの下流に見出され、数百ヌクレオチドの長さである。本明細書で用いられる「poly(A)部位」または「poly(A)配列」という語は、終結および新生RNA転写産物のポリアデニル化の両者を指示するDNA配列のことを表す。組換え転写産物は効果的にポリアデニル化されることが望ましい。これは、poly(A)尾部を欠く転写産物は不安定であり、急速に分解するためである。発現ベクターに利用されるpoly(A)シグナルは「異種」または「内在性」であってよい。内在性poly(A)シグナルは、天然にはゲノム中の任意の遺伝子のコード領域の3’末端に見出される。異種poly(A)シグナルは、ある遺伝子から単離され、別の遺伝子の3’に配置されたものである。一般的に使用される異種poly(A)シグナルは、SV40 poly(A)シグナルである。SV40 poly(A)シグナルは、237bpのBamHI/BclI制限断片上に含まれ、終結およびポリアデニル化の両者を指示する。
【0074】
「ベクター」という語は、DNAセグメントをある細胞から別の細胞へ移動させる核酸分子のことを指す。「媒体(vehicle)」という語が「ベクター」と互換的に使用される場合がある。
【0075】
「発現ベクター」または「発現カセット」という語は、所望のコード配列、および機能的に連結された該コード配列を特定の宿主生物において発現させるのに使用される適当な核酸配列、を含む組換え核酸のことを指す。原核生物における発現のために使用される核酸配列は、典型的にはプロモーター、オペレーター(任意)、およびリボソーム結合部位、ならびに、しばしば他の配列を含む。真核細胞は、プロモーター、エンハンサー、ならびに、終結およびポリアデニル化シグナルを利用することが知られている。
【0076】
「宿主細胞」という語は、異種遺伝子を複製、転写、および/または翻訳することができる任意の細胞のことを指す。このように、「宿主細胞」とは、任意の真核または原核細胞(例えばE.coli等の細菌細胞、酵母細胞、哺乳類細胞、鳥類細胞、両生類細胞、植物細胞、魚類細胞、または昆虫細胞)のことを指し、in vitroで存在するかin vivoで存在するかは問わない。例えば、宿主細胞はトランスジェニック動物内に存在していてよい。
【0077】
「選択マーカー」という語は、該選択マーカーを発現する細胞に抗生物質または薬剤耐性を付与する活性、または検出可能な特徴(例えば発光または蛍光)の発現を付与する活性、を有する酵素をコードする遺伝子のことを指す。選択マーカーは「正」または「負」のものであってよい。正の選択マーカーの例として、G418およびカナマイシンに対する耐性を与えるネオマイシンホスホトランスフェラーゼ(NPTII)遺伝子、および抗生物質であるハイグロマイシンに対する耐性を与える細菌ハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子(hyg)が挙げられる。負の選択マーカーは、細胞を適当な選択培地で増殖させた際に、その発現が細胞に対して毒性を示す酵素活性をコードする。例えば、HSV-tk遺伝子は負の選択マーカーとして一般的に使用される。ガンシクロビルまたはアシクロビルの存在下で増殖した細胞内でHSV-tk遺伝子が発現すると、細胞毒性が生ずる。従って、ガンシクロビルまたはアシクロビルを含んだ選択培地内で細胞を増殖させることは、機能的HSV TK酵素を発現しうる細胞に対する逆の選択となる。
【0078】
「レポーター遺伝子」という語は、測定され得るタンパク質をコードする遺伝子のことを指す。レポーター遺伝子の例としては、修飾katushka、mkate、およびmkate2(例えば、Merzlyakほか,Nat.Methods,2007,4,555-557、およびShcherboほか,Biochem.J.,2008,418,567-574を参照のこと)、ルシフェラーゼ(例えば、deWetほか,Mol.Cell.Biol.7:725(1987)ならびに米国特許第6,074,859号、5,976,796号、5,674,713号、および5,618,682号を参照のこと;これらはすべて参照により本明細書に取り込まれたものとする)、緑色蛍光タンパク質(例えば、GenBankアクセッション番号U43284;複数のGFPバリアントがClonTech Laboratories,Palo Alto,Calif.より市販されている)、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、ベータガラクトシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、ならびに西洋ワサビペルオキシダーゼが挙げられるが、これらに限定されない。
【0079】
「野生型」という語は、それが遺伝子との関連で記述される場合、天然の供給源から単離された遺伝子の特徴を有する遺伝子のことを指す。「野生型」という語は、遺伝子産物との関連で記述される場合、天然の供給源から単離された遺伝子産物の特徴を有する遺伝子産物のことを指す。本明細書で使用される「天然の」という語は、それがある対象に適用される場合、その対象が自然界に見出され得るということを指す。例えば、ある生物(ウイルスも含む)に存在する、あるポリペプチドまたはポリヌクレオチド配列を、自然界の供給源から単離することができ、その配列が人為的に改変されていない場合、その配列は天然のものである。野生型遺伝子は、集団内に最も高頻度で観察されるものであるため、「正常」または「野生型」の形態の遺伝子と任意に呼ばれる。一方、「改変」または「変異」の語は、それらが遺伝子または遺伝子産物との関連で記述される場合、それぞれ、野生型遺伝子または遺伝子産物との比較において配列および/または機能的特性における改変(すなわち改変された特徴)を示す遺伝子または遺伝子産物のことを指す。なお、天然の変異体も単離され得る;これらの変異体は、それらが野生型遺伝子または遺伝子産物との比較において改変された特徴を有するという事実によって識別される。
【0080】
「アンチセンス」または「アンチゲノム」という語は、ヌクレオチド残基の配列が、センス鎖のヌクレオチド残基の配列に対して逆の5’-3’方向であるヌクレオチド配列のことを指す。DNA2本鎖の「センス鎖」とは、天然の状態で「センス」mRNAへと細胞により転写されるDNA2本鎖内の鎖のことを指す。従って、「アンチセンス」配列は、DNA2本鎖内の非コード鎖と同一の配列を有する配列である。
【0081】
「単離された」という語は、ウイルス、核酸、またはタンパク質等の生物学的材料であって、天然の環境下で通常はそれに付随または相互作用する成分を実質的に含まないもののことを指す。単離された材料は、天然環境下、例えば細胞内、で該材料とともに見出されることのない材料を任意に含む。例えば、前記材料がその本来の環境、例えば細胞内、にある場合、該材料はその環境下で見出される材料にとって本来のものではない該細胞内のある場所(例えばゲノムまたは遺伝因子)に位置するものである。例えば天然の核酸(コード配列、プロモ-ター、エンハンサー等)は、もしそれが非天然の手段によって、その核酸にとって本来のものでないゲノム(プラスミドもしくはウイルスベクター等のベクター、あるいは単位複製配列)中のある遺伝子座に導入された場合、単離されたものとなる。このような核酸も「異種」核酸と呼ぶ。例えば単離されたウイルスは、野生型ウイルスの本来の環境(例えば感染した個体の鼻咽頭)以外の環境(細胞培養系、または細胞培養物から精製された環境等)内にある。
【0082】
RSVの「免疫学的に有効な量」とは、その後RSVに曝露された際に個体(例えばヒト)自身の免疫反応を増幅するのに充分な量である。誘導される免疫の水準は、例えば、プラーク中和、補体結合、酵素結合イムノソルベント、またはマイクロ中和アッセイ等により、分泌型および/または血清型中和抗体の量を測定することでモニターすることができる。
【0083】
RSVに対する「防御免疫反応」とは、個体がその後野生型RSVに曝露され、および/または感染した場合に、深刻な下気道疾患(例えば肺炎および/または細気管支炎)から防御するための、個体(ヒト等)が示す免疫反応のことを指す。
【0084】
非構造遺伝子内のコドン使用頻度サイレント変異を有する組換え呼吸器合胞体ウイルス(RSV)
弱毒生RSVワクチン候補には2つの大きな障害がある。すなわち、小児における免疫原性が不十分なこと、そして、安定性が不十分なために野生型配列へと遺伝的復帰が起こり、ワクチン接種を受けた個体から復帰突然変異体が脱落することである。ウイルス非構造(NS)タンパク質であるNS1およびNS2は独特であり、I型インターフェロンおよびT細胞応答を阻害する。ワクチンのためにNS1/NS2を変異させると、免疫原性が増幅される。しかし、これまでに開発されたNS1およびNS1/NS2欠失/ヌル変異組換えRSV株は過弱毒化(over-attenuated)されており、NS2ヌル変異はin vivoにおいて弱毒化が不十分である。
【0085】
本明細書に開示される変異体は、過弱毒化と不安定性の制限を克服する。部分的なNS1およびNS2の機能を有する変異体が、小児用ワクチン用に、弱毒化と免疫原性の間のギャップを埋めるため、生成された。遺伝子合成およびRSV BACレスキュー系を利用し、NS1/NS2変異体を、NS1およびNS2遺伝子全体にわたってコドン使用頻度を変えることにより生成した。コドン脱最適化を行うと、複数のメカニズム(例えばtRNA濃度およびmRNA構造)によって翻訳効率が低下する。本明細書に開示する変異体の一つ(「dNSh」)は、NS1の84/420ヌクレオチドが変異し、NS2の82/375ヌクレオチドが変異しており、アミノ酸配列を変えることなくヒトのコドン選択(codon preference)を減少させる。このウイルスは、wt NS1濃度の約25%、wt NS2濃度の約25%、およびwt核タンパク質濃度の約100%を産生し、GMP条件下で弱毒化生RSVを生成するのに一般的に使用される細胞株であるVero細胞においてwtウイルスのように複製する(図2)。NS発現の減少に加え、このアプローチは遺伝的安定性の問題も解決する可能性が高い。復帰対象となる変異が多すぎるからである。
【0086】
ある態様において、本開示は、RSV NS1、NS2、N、P、M、G、F、M2-1、M2-2、およびL遺伝子をコードし、NSlおよびNS2遺伝子のコドン脱最適化を含む、ワクチン、組換えRSVゲノム、または単離組換え核酸に関するものであり、該コドン脱最適化は、Glyを生成する少なくとも1個のコドンがGGTであり、Aspを生成する1個のコドンがGATであり、Gluを生成する少なくとも1個のコドンがGAAであり、Hisを生成する少なくとも1個のコドンがCATであり、Ileを生成する少なくとも1個のコドンがATAであり、Lysを生成する少なくとも1個のコドンがAAAであり、Leuを生成する少なくとも1個のコドンがCTAであり、Asnを生成する少なくとも1個のコドンがAATであり、Glnを生成する少なくとも1個のコドンがCAAであり、Valを生成する少なくとも1個のコドンがGTAであり、またはTyrを生成する少なくとも1個のコドンがTATであるように設定され、Asp、Glu、His、Ile、Lys、Leu、Asn、Gln、Val、およびTyrアミノ酸の25%超においてコドン脱最適化されている。ある態様においては、野生型配列、例えばRSV A2 line 19との比較において、前記アミノ酸の75%超がコドン脱最適化されている。
【0087】
ある態様において、前記NS1遺伝子は、(配列番号6)、あるいはそれに対して70、80、90、95、97、98、もしくは99%超、またはそれ以上の配列同一性を有するそのバリアントを含む。
【0088】
ある態様において、前記NS2遺伝子は、(配列番号9)、あるいはそれに対して70、80、90、95、97、98、もしくは99%超、またはそれ以上の配列同一性を有するそのバリアントを含む。
【0089】
ある態様においては、RSV小型疎水性(small hydrophobic;SH)糖タンパク質遺伝子が欠失する。
【0090】
ある態様において、前記核酸はさらにG遺伝子の脱最適化を有しており、該脱最適化はGlyを生成する少なくとも1個のコドンがGGTであり、Aspを生成する1個のコドンがGATであり、Gluを生成する少なくとも1個のコドンがGAAであり、Hisを生成する少なくとも1個のコドンがCATであり、Ileを生成する少なくとも1個のコドンがATAであり、Lysを生成する少なくとも1個のコドンがAAAであり、Leuを生成する少なくとも1個のコドンがCTAであり、Asnを生成する少なくとも1個のコドンがAATであり、Glnを生成する少なくとも1個のコドンがCAAであり、Valを生成する少なくとも1個のコドンがGTAであり、またはTyrを生成する少なくとも1個のコドンがTATであるように設定され、Asp、Glu、His、Ile、Lys、Leu、Asn、Gln、Val、およびTyrアミノ酸の25%超においてコドン脱最適化されている。
【0091】
ある態様において、G遺伝子は配列番号18 ATGTCGAAAAACAAAGACCAACGTACCGCGAAGACGTTAGAACGTACCTGGGATACTCTAAATCATTTACTATTCATATCGTCGTGCCTATATAAGCTAAATCTTAAATCGGTAGCACAAATAACACTATCCATACTGGCGATAATAATCTCGACTTCGCTTATAATAGCAGCGATCATATTTATAGCCTCGGCGAACCATAAAGTCACGCCAACGACTGCGATCATACAAGATGCGACATCGCAGATAAAGAATACAACGCCAACGTACCTAACCCAAAATCCTCAACTTGGTATCTCGCCCTCGAATCCGTCTGAAATAACATCGCAAATCACGACCATACTAGCGTCAACGACACCGGGAGTAAAGTCGACCCTACAATCCACGACAGTAAAGACGAAAAACACGACAACGACTCAAACGCAACCCTCGAAGCCGACCACGAAACAACGCCAAAATAAACCACCGAGCAAACCGAATAATGATTTTCACTTTGAAGTATTCAATTTTGTACCCTGTAGCATATGTAGCAATAATCCAACGTGCTGGGCGATCTGTAAAAGAATACCGAACAAAAAACCGGGAAAAAAAACCACGACCAAACCCACGAAAAAACCAACGCTCAAAACAACGAAAAAAGATCCCAAACCGCAAACCACGAAATCAAAAGAAGTACCCACGACCAAACCCACGGAAGAGCCGACCATAAACACGACCAAAACGAACATAATAACTACGCTACTCACGTCCAATACCACGGGAAATCCGGAACTCACGAGTCAAATGGAAACGTTTCACTCGACTTCGTCCGAAGGTAATCCATCGCCTTCGCAAGTCTCGACAACGTCCGAATACCCGTCACAACCGTCATCGCCACCGAACACGCCACGTCAGTAG、あるいはそれに対して70、80、90、95、97、98、もしくは99%超、またはそれ以上の配列同一性を有するそのバリアントを含む。
【0092】
ある態様において、G遺伝子は配列番号19 ATGTCGAAAAATAAAGACCAACGTACGGCGAAGACGCTAGAACGTACCTGGGATACGCTAAATCATTTACTATTTATATCGTCGTGCCTATATAAACTAAATCTTAAATCGGTAGCGCAAATAACACTATCGATACTGGCGATAATAATATCGACTTCGCTAATAATAGCAGCGATAATATTTATAGCCTCGGCGAATCATAAAGTCACGCCGACGACTGCGATAATACAAGATGCGACATCGCAAATAAAGAATACGACGCCAACGTATCTAACCCAAAATCCGCAACTTGGTATATCGCCCTCGAATCCGTCGGAAATAACATCGCAAATAACGACCATACTAGCGTCGACGACACCGGGTGTAAAGTCGACGCTACAATCCACGACGGTAAAGACGAAAAATACGACAACGACGCAAACGCAACCGTCGAAACCGACCACGAAACAACGTCAAAATAAACCACCGTCGAAACCGAATAATGATTTTCACTTTGAAGTATTTAATTTTGTACCCTGTTCGATATGTAGCAATAATCCGACGTGCTGGGCGATATGTAAAAGAATACCGAATAAAAAACCGGGAAAAAAAACGACGACCAAACCGACGAAAAAACCAACGCTAAAAACAACGAAAAAAGATCCGAAACCGCAAACCACGAAATCGAAAGAAGTACCCACGACGAAACCCACGGAAGAACCGACCATAAATACGACCAAAACGAATATAATAACTACGCTACTAACGTCCAATACGACGGGAAATCCGGAACTAACGAGTCAAATGGAAACGTTTCATTCGACTTCGTCGGAAGGTAATCCATCGCCGTCGCAAGTCTCGACGACTTCCGAATATCCGTCACAACCGTCGTCGCCACCGAATACGCCACGTCAATAG、あるいはそれに対して70、80、90、95、97、98、もしくは99%超、またはそれ以上の配列同一性を有するそのバリアントを含む。
【0093】
ある態様において、G遺伝子は配列番号20 ATGTCGAAAAATAAAGATCAACGTACGGCGAAAACGCTAGAACGTACGTGGGATACGCTAAATCATCTACTATTTATATCGTCGTGTCTATATAAACTAAATCTAAAATCGGTAGCGCAAATAACGCTATCGATACTAGCGATAATAATATCGACTTCGCTAATAATAGCGGCGATAATATTTATAGCGTCGGCGAATCATAAAGTAACGCCGACGACGGCGATAATACAAGATGCGACTTCGCAAATAAAAAATACGACGCCGACGTATCTAACGCAAAATCCGCAACTAGGTATATCGCCGTCGAATCCGTCGGAAATAACGTCGCAAATAACGACGATACTAGCGTCGACGACGCCGGGTGTAAAATCGACGCTACAATCGACGACGGTAAAAACGAAAAATACGACGACGACGCAAACGCAACCGTCGAAACCGACGACGAAACAACGTCAAAATAAACCGCCGTCGAAACCGAATAATGATTTTCATTTTGAAGTATTTAATTTTGTACCGTGTTCGATATGTTCGAATAATCCGACGTGTTGGGCGATATGTAAACGTATACCGAATAAAAAACCGGGTAAAAAAACGACGACGAAACCGACGAAAAAACCGACGCTAAAAACGACGAAAAAAGATCCGAAACCGCAAACGACGAAATCGAAAGAAGTACCGACGACGAAACCGACGGAAGAACCGACGATAAATACGACGAAAACGAATATAATAACGACGCTACTAACGTCGAATACGACGGGTAATCCGGAACTAACGTCGCAAATGGAAACGTTTCATTCGACtTCGTCGGAAGGTAATCCGTCGCCGTCGCAAGTATCGACGACtTCGGAATATCCGTCGCAACCGTCGTCGCCGCCGAATACGCCGCGTCAATAG、あるいはそれに対して70、80、90、95、97、98、もしくは99%超、またはそれ以上の配列同一性を有するそのバリアントを含む。
【0094】
ある態様において、F遺伝子は557位のバリンおよび66位のリジンをコードする。ある態様において、F遺伝子は557位にバリンをコードし、F遺伝子は次のアミノ酸配列のうち1個または複数をコードする配列を有し、F遺伝子は次のアミノ酸配列のうちの2個、3個、4個、5個、または全てを有する:TTNIMITTIIIVIIVILLSLIAVGLLLYCK(配列番号11)、ARSTPVPILKANAITTILAAVTFCFA(配列番号12)、AVTFCFASSQNITEEFYQST(配列番号13)、QSTCSAVSKGYLSALRTGWYTSVITIELSNIKK(配列番号14)、IKK NKCNGTDAKVKLMKQELDKYKNAV(配列番号15)、およびFPQAEKCKVQSNRVFC DTMYSLTLPSEVNLCNV(配列番号16)。
【0095】
ある態様において、F遺伝子は次のアミノ酸配列のうちの2個、3個、4個、5個、または全てを有する:(配列番号11)、(配列番号12)、(配列番号13)、(配列番号14)、(配列番号15)、および(配列番号16)。
【0096】
ある態様において、F遺伝子は557位のバリンをコードし、また、F遺伝子は次のアミノ酸配列のうち1個または複数をコードする:8位のアスパラギン、20位のフェニルアラニン、35位のセリン、66位のリジン、79位のメチオニン、124位のリジン、191位のアルギニン、213位のアルギニン、354位のグルタミン酸、357位のリジン、371位のチロシン、384位のバリン、115位のアスパラギン、および523位のスレオニン。
【0097】
ある態様において、F遺伝子は、557位のバリン、66位のリジン、および79位のメチオニンをコードする。
【0098】
ある態様において、F遺伝子は、557位のバリン、66位のリジン、および191位のアルギニンをコードする。
【0099】
ある態様において、F遺伝子は、557位のバリン、66位のリジン、191位のアルギニン、および357位のリジンをコードする。
【0100】
ある態様において、F遺伝子は、557位のバリン、66位のリジン、79位のメチオニン、および115位のアスパラギンをコードする。
【0101】
ある態様において、F遺伝子は、配列番号17 MELPILKANAITTILAAVTFCFASSQNITEEFYQSTCSAVSKGYLSALRTGWYTSVITIELSNIKKNKCNGTDAKVKLMKQELDKYKNAVTELQLLMQSTPAANNRARRELPRFMNYTLNNTKKTNVTLSKKRKRRFLGFLLGVGSAIASGIAVSKVLHLEGEVNKIKSALLSTNKAVVSLSNGVSVLTSRVLDLKNYIDKQLLPIVNKQSCRISNIETVIEFQQKNNRLLEITREFSVNAGVTTPVSTYMLTNSELLSLINDMPITNDQKKLMSNNVQIVRQQSYSIMSIIKEEVLAYVVQLPLYGVIDTPCWKLHTSPLCTTNTKEGSNICLTRTDRGWYCDNAGSVSFFPQAEKCKVQSNRVFCDTMYSLTLPSEVNLCNVDIFNPKYDCKIMTSKTDVSSSVITSLGAIVSCYGKTKCTASNKNRGIIKTFSNGCDYVSNKGVDTVSVGNTLYYVNKQEGKSLYVKGEPIINFYDPLVFPSDEFDASISQVNEKINQSLAFIRKSDELLHNVNAGKSTTNIMITTIIIVIIVILLSLIAVGLLLYCKARSTPVTLSKDQLSGINNIAFSN、あるいはF遺伝子が557位のバリンをコードする限りにおいて、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10アミノ酸置換を含んだバリアントを、コードする。ある態様において、前記アミノ酸置換は保存的置換である。
【0102】
ある態様において、本開示は、(配列番号17)をコードするF遺伝子を含む単離組換え核酸、または、F遺伝子が557位のバリンおよび66位のリジンをコードする限りにおいて、1もしくは2アミノ酸置換を含むバリアント、に関する。
【0103】
ある態様において、F遺伝子は557位のバリンをコードし、また、F遺伝子は次のアミノ酸配列のうち1個または複数をコードする:8位のアスパラギン、20位のフェニルアラニン、35位のセリン、66位のリジン、79位のメチオニン、124位のリジン、191位のアルギニン、213位のアルギニン、354位のグルタミン酸、357位のリジン、371位のチロシン、384位のバリン、115位のアスパラギン、および523位のスレオニン。
【0104】
ある態様において、F遺伝子は557位のバリンおよび66位のリジンをコードする。
【0105】
ある態様において、F遺伝子は557位のバリン、66位のリジン、および79位のメチオニンをコードする。
【0106】
ある態様において、F遺伝子は557位のバリン、66位のリジン、191位のアルギニン、および357位のリジンをコードする。
【0107】
ある態様において、F遺伝子は557位のバリン、66位のリジン、79のメチオニン、および115位のアスパラギンをコードする。
【0108】
ある態様において、本開示は、本明細書に開示される核酸を含んだ組換えベクターに関する。ある態様において、本開示は、本明細書に開示される組換えベクター、組換えRSV、または弱毒化組換えRSVを含んだ細胞に関する。
【0109】
ある態様において、本開示は(配列番号17)をコードするF遺伝子、または、F遺伝子が557位のバリンをコードする限りにおいて1個のアミノ酸置換を有するバリアント、に関する。
【0110】
ある態様において、本開示は、MELPILKANAITTILAAVTFCFASSQNITEEFYQSTCSAVSKGYLSALRTGWYTSVITIELSNIKENKCNGTDAKVKLMKQELDKYKNAVTELQLLMQSTPAANNRARRELPRFMNYTLNNTKKTNVTLSKKRKRRFLGFLLGVGSAIASGIAVSKVLHLEGEVNKIKSALLSTNKAVVSLSNGVSVLTSRVLDLKNYIDKQLLPIVNKQSCRISNIETVIEFQQKNNRLLEITREFSVNAGVTTPVSTYMLTNSELLSLINDMPITNDQKKLMSNNVQIVRQQSYSIMSIIKEEVLAYVVQLPLYGVIDTPCWKLHTSPLCTTNTKEGSNICLTRTDRGWYCDNAGSVSFFPQAEKCKVQSNRVFCDTMYSLTLPSEVNLCNVDIFNPKYDCKIMTSKTDVSSSVITSLGAIVSCYGKTKCTASNKNRGIIKTFSNGCDYVSNKGVDTVSVGNTLYYVNKQEGKSLYVKGEPIINFYDPLVFPSDEFDASISQVNEKINQSLAFIRKSDELLHNVNAGKSTTNIMITTIIIVIIVILLSLIAVGLLLYCKARSTPVTLSKDQLSGINNIAFSN(配列番号21)をコードするF遺伝子に関する。ある態様において、前記F遺伝子は557位のバリン、66位のグルタミン酸、および191位のアルギニンをコードする。
【0111】
ある態様において、本開示は、本明細書に開示されるRSV Fタンパク質配列を含んだ組換えポリペプチドに関する。ある態様において、本開示は、本明細書に開示されるRSV Fタンパク質を含んだ、組換え法により作製されたウイルス粒子またはウイルス様粒子に関する。
【0112】
ある態様において、本開示は、配列番号1のRSVゲノムOE1、あるいはそれに対して70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、もしくは99%超、またはさらに高い配列同一性を有するバリアント、を含む単離組換え核酸に関する。
【0113】
ある態様において、本開示は、配列番号2のRSVゲノムOE2、あるいはそれに対して70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、もしくは99%超、またはさらに高い配列同一性を有するバリアント、を含む単離組換え核酸に関する。
【0114】
ある態様において、本開示は、配列番号3のRSVゲノムOE3、あるいはそれに対して70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、もしくは99%超、またはさらに高い配列同一性を有するバリアント、を含む単離組換え核酸に関する。
【0115】
ある態様において、本開示は、配列番号4のRSVゲノムOE4、あるいはそれに対して70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、もしくは99%またはそれ以上の配列同一性を有するバリアント、を含む単離組換え核酸に関する。
【0116】
ある態様において、本開示は、NS1遺伝子およびNS2遺伝子のうちいずれかまたは両方が欠失したRSVゲノムOE1、OE2、OE3、またはOE4を含む、単離組換え核酸を企図する。
【0117】
細菌人工染色体におけるRSVの培養
大腸菌におけるRSVの培養は、細菌人工染色体(BAC)を利用して達成してもよい。開示されるBACは、F遺伝子がRSV line 19株のアンチゲノム配列であることを除けば、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)A2株の全長アンチゲノム配列を含む。これをヘルパープラスミドと共に、感染性ウイルスの回収のためにリバースジェネティクス系において使用することができる。プラスミド上のアンチゲノム配列をウイルス回収に先だって変異させ、所望の変異を持ったウイルスを生成することができる。
【0118】
いくつかの理由から、前記プラスミドは、一般的なRSVアンチゲノムプラスミドに対して改良を加えたものとなっている。各RSV遺伝子には制限エンドヌクレアーゼ切断部位が隣接しており、どの遺伝子も容易に操作可能である。ウイルスの突然変異誘発のための土台として、このプラスミドを、ワクチン用途のための弱毒化ウイルスの設計に使用してよい。単量体katushka 2、すなわちmKate2タンパク質をコードする追加の遺伝子が、第一のRSV遺伝子の前のアンチゲノム中に含まれていてよい。mKate2タンパク質は近赤外蛍光タンパク質であり、他のRSV遺伝子と一致して発現され、ウイルス複製の視覚的な証拠となる。RSVアンチゲノムに隣接し、リバースジェネティクスを介して感染性ウイルスを産生する役割を担う、リボザイム配列も改変された。
【0119】
開示されるベクターは、組換え工学による効率的な突然変異誘発を可能にする。この突然変異誘発法は連結クローニング(ligation cloning)をほとんど必要としない一方、バクテリオファージ由来の特定の遺伝子を有する細菌内に存在する組換え機構に依存している。RSV cDNAは、クローニングに用いられる主な細菌、例えば大腸菌(E.coli)内の中~高コピー数のクローニングベクターにおいて不安定であることが多いため、1桁のコピー数で存在するという前記細菌人工染色体の性質によって前記不安定性が減少する。その不安定性の減少は、1コピーで存在するという前記性質によって、大腸菌がRSV cDNA内の潜在性プロモーターを認識して毒性タンパク質を産生する能力が制限されるために発生すると考えられる。
【0120】
呼吸器合胞体ウイルス(RSV)
典型的には、RSV粒子は、らせん状ヌクレオキャプシド内にウイルスゲノムを有し、該らせん状ヌクレオキャプシドは、マトリックスタンパク質、および糖タンパク質を含んだエンベロープによって囲まれている。野生型RSVのゲノムはNS1、NS2、N、P、M、SH、G、F、M2-1、M2-2、およびLタンパク質をコードする。G、F、およびSHは糖タンパク質である。F遺伝子はいくつかのウイルスワクチンに組み込まれている。RSVポリメラーゼ活性は大タンパク質(large protein)(L)およびリンタンパク質(P)からなる。前記ウイルスM2-1タンパク質は転写中に利用され、転写酵素複合体の構成要素となっているようである。前記ウイルスNタンパク質は新生RNAのキャプシド形成に用いられる。
【0121】
前記ゲノムの転写および複製は宿主細胞の細胞質内で行われる。宿主細胞による転写の結果、典型的には10種のメチル化およびポリアデニル化mRNAの合成が行われる。前記アンチゲノムは、複製中に生成するゲノムのプラスセンスRNA相補鎖であり、ひいてはゲノム合成のための鋳型として働く。ウイルスゲノムには、保存されたgene-start(GS)配列およびgene-end(GE)配列が隣接している。ゲノムの3’および5’末端には、リーダーおよびトレーラーヌクレオチドがある。野生型リーダー配列は、その3’末端にプロモーターを含む。ウイルスポリメラーゼがGEシグナルに到達すると、該ポリメラーゼはmRNAをポリアデニル化して放出し、RNA合成を次のGSシグナルで再開する。L-P複合体はプロモーターの認識、RNA合成、RNAの5’末端のキャッピングおよびメチル化、ならびに3’末端のポリアデニル化に関与すると信じられている。前記ポリメラーゼは、ジャンクション(junction)において遺伝子から分離する場合があると信じられている。これは、前記ポリメラーゼがゲノムの3’末端から転写を開始し、その結果、発現の勾配が生じて、ゲノムの3’末端側の遺伝子のほうが5’末端側の遺伝子よりも転写される頻度が高くなるためである。
【0122】
ゲノムの複製において、前記ポリメラーゼはcis作用GEおよびGSシグナルに反応せず、ゲノムのプラスセンスRNA相補鎖、すなわちアンチゲノムを生成する。該アンチゲノムの3’末端はトレイラーの相補鎖であり、プロモーターを含む。前記ポリメラーゼはこのプロモーターを用いてゲノムセンスRNAを生成する。裸のRNAとして遊離するmRNAとは異なり、アンチゲノムおよびゲノムRNAは合成の際にウイルス核タンパク質(N)とともにキャプシドに包まれる。
【0123】
ある態様において、本開示は、野生型ゲノムまたはアンチゲノム等のRSV遺伝子を含むベクターおよび核酸に関する。RSVアンチゲノムの例が米国特許第6,790,449号に提供されている(参照により本明細書に取り込まれたものとする)。RSV遺伝子およびゲノムについて言及する場合、例えばRSVの低温継代(cold-passaged;cp)および温度感受性(ts)誘導体であるcpRSV、例としてrA2cp248/404/1030ΔSH、等の特定の変異、欠失、またはバリアントの組み合わせを含むことが企図される。rA2cp248/404ΔSHは、次の独立した4つの弱毒化遺伝エレメントを含む:cpRSVの非ts弱毒化表現型を共に付与する、NおよびLタンパク質ならびにF糖タンパク質内の5個のミスセンス変異を基盤とするcp;Lタンパク質内のミスセンス変異であるts248;M2遺伝子のgene-start転写シグナルにおけるヌクレオチド置換であるts404;ならびに、SH遺伝子の完全欠失であるΔSH。rA2cp248/404/1030ΔSHは、次の5個の独立した弱毒化遺伝エレメントを含む:rA2cp248/404ΔSHに存在するもの、およびLタンパク質における別のミスセンス変異であるts1030。Karronほか,J Infect Dis.,2005,191(7):1093-1104を参照のこと(参照により本明細書に取り込まれたものとする)。ある態様内においては、RSVアンチゲノムは非必須遺伝子(例えばSH、NS1、NS2、およびM2-2遺伝子)内の欠失もしくは変異、またはその組み合わせを含んでいてよいことが企図される。
【0124】
細菌人工染色体(BAC)
ある態様において、本開示は細菌人工染色体を含むベクターおよび核酸に関する。複合ゲノム(complex genome)のマッピングおよび分析のための細菌クローニング系がShizuyaほか,Proc.Natl.Acad.Sci.,1992,89:8794-8797に開示されている。このBAC系(細菌人工染色体用)は、大腸菌と、ヒトDNAの大型断片をクローニングするのに有用であると記載された、その単コピープラスミドF因子とを基盤としたものである。F因子はoriS、repE、parA、およびparBといった自身の複製を調節する遺伝子をコードしている。oriSおよびrepE遺伝子はF因子の一方向性複製(unidirectional replication)を媒介する一方、parAおよびparBは、典型的には大腸菌ゲノムあたり1または2個の水準でコピー数を維持する。前記遺伝子および染色体は所望の機能的属性を有する突然変異、欠失、またはバリアントを含んでいてよいことが企図される。前記BACベクター(pBAC)は、典型的には、これらの遺伝子とともに、耐性マーカー、及び対象の核酸断片を制限酵素サイトへの連結によって組み込むためのプロモーターを含むクローニングセグメント、を含む。BAC系の例として、ShizuyaおよびKouros-Hehr,Keio J Med,2001,50(1):26-30に記載のものが挙げられる(参照により本明細書に取り込まれたものとする)。
【0125】
本明細書に開示されるRSV BACプラスミドから感染性RSVウイルスを再構築してもよい。BACベクターの大腸菌等の細菌へのトランスフェクションは、エレクトロポレーションによって可能である。本明細書に開示されるRSV-BACを細菌内で安定に維持し、該細菌から再単離し、N、P、L、およびM2-1タンパク質を発現する1種または複数種のベクターとともに真核細胞に挿入してもよい。これらの細胞は感染性のRSV粒子を生成する。感染性RSVは、N、P、L、およびM2-1タンパク質をコードするプラスミド、ならびにT7プロモーター調節下のアンチゲノムを、T7 RNAポリメラーゼを発現するBHK-21細胞(BSR細胞)にコトランスフェクトした結果生成する。Buchholzほか,J Virol.,2000,74(3):1187-1199を参照のこと(参照により本明細書に取り込まれたものとする)。
【0126】
ワクチン
複数ラウンドの化学的突然変異生成を利用して複数の変異をウイルスに導入することにより、いくつかの弱毒化RSV株が鼻腔内投与のための候補ワクチンとして開発されてきた。齧歯類、チンパンジー、成人、および小児における評価によって、これらの候補ワクチン株の一部が免疫原性を有し、弱毒化されている可能性があることが示されている。これらの弱毒化ウイルスのいくつかをヌクレオチド配列分析することにより、それぞれの弱毒化の度合いが、典型的には2箇所またはそれ以上のヌクレオチドおよびアミノ酸置換と関連していることが示されている。
【0127】
本開示は、サイレントな偶発的突然変異と、表現型の差異に関与する偶発的突然変異とを、感染性RSVのゲノムまたはアンチゲノムへのそれら突然変異の個別の、または各種組み合わせの、導入によって区別する能力を提供する。この過程により、弱毒化、温度感受性、低温適応、小プラークサイズ、宿主範囲の制限等の表現型に関与する突然変異が同定される。次いで、所望により、これらから選択される変異を各種組み合わせで導入し、ワクチンウイルスを適切な弱毒化水準等に補正することができる。さらに本開示は、異なる株のウイルス由来の変異を互いに組み合わせて、1つの株にする能力を提供する。
【0128】
本開示はまた、弱毒化の方法も提供する。例えば、RSVの個々の内在遺伝子を、牛の、マウスの、または他のRSV同等物と置き換えることができる。これは、NS1、NS2、N、P、M、SH、M2-1、M2-2、およびL遺伝子のうちの1個または複数における一部または全体、またはGおよびF遺伝子の一部を含んでいてよい。逆に、ウシRSVゲノムまたはアンチゲノムの背景にヒト弱毒化遺伝子を挿入することにより、ウシ弱毒化生RSVを生成する手段も提供される。ウシRSV糖タンパク質を有するヒトRSVは、ヒトワクチン製剤にとって好ましい宿主範囲制限を提供する。本開示において使用し得るウシRSV配列が、例えば、Pasteyほか,J.Gen.Viol.76:193-197(1993);Pasteyほか,Virus Res.29:195-202(1993);Zamoraほか,J.Gen.Virol.73:737-741(1992);Mallipeddiほか,J.Gen.Virol.74:2001-2004(1993);Mallipeddiほか,J.Gen.Virol.73:2441-2444(1992);およびZamoraほか,Virus Res.24:115-121(1992)に記載されている(それぞれ参照により本明細書に取り込まれたものとする)。
【0129】
本開示は、他の種類の弱毒突然変異を分析し、それらをワクチンまたは他の用途の感染性RSVに組み込む能力も提供する。例えば、マウスの肺炎ウイルス(マウスのRSVに相当)の組織培養馴化非病原性株はGタンパク質の細胞質尾部を欠く(Randhawaほか,Virology 207:240-245(1995))。そこから類推して、弱毒化を達成するためにRSVの糖タンパク質であるF、G、およびSHそれぞれにおいて細胞質および膜貫通領域を欠失または改変することができる。
【0130】
本開示の感染性RSVにおける用途のための他の突然変異の例として、RSVミニゲノムの突然変異分析中に同定されたシス作動性シグナル内の突然変異が挙げられる。例えば、リーダーおよびトレイラーならびに隣接配列の挿入および欠失分析により、ウイルスプロモーターおよび転写シグナルが同定され、RNAの複製または転写の様々な度合いの減少と関連した一連の変異が提供された。これらシス作動性シグナルの飽和突然変異誘発(これにより各部位が順番にそれ以外の各ヌクレオチドに改変される)においても、RNAの複製または転写を減少させる(または1つのケースでは増加させる)多くの突然変異が同定された。これらのいずれの突然変異も、本明細書に記載されるように全長アンチゲノムまたはゲノムに挿入することができる。他の突然変異の例としては、ゲノムの3’末端を、RNAの複製および転写における変化と関連した、アンチゲノム由来のその同等物と置き換える突然変異が挙げられる。さらに、本明細書に記載される方法により、遺伝子間領域(Collinsほか,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 83:4594-4598(1986);参照により本明細書に取り込まれたものとする)の配列を短縮または延長または変化させることができ、また、天然の遺伝子オーバーラップ(Collinsほか,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84:5134-5138(1987);参照により本明細書に取り込まれたものとする)を除去したり、または異なる遺伝子間領域に変化させることができる。
【0131】
他の態様においては、ワクチン製剤に有用なRSVを簡便に改変し、抗原亜群AおよびB株、ならびにそれらの亜群内のバリエーション、等の流行ウイルスにおける抗原変異を提供することができる。典型的には、該改変はGおよび/またはFタンパク質におけるものである。全長GもしくはF遺伝子、またはその特定の免疫原性領域をコードする断片が、RSVゲノムまたはアンチゲノムcDNAに、感染性クローンにおける対応する領域を置換することにより、またはいくつかの抗原型が示されるように1個または複数のコピーの遺伝子を加えることにより、組み込まれる。その後、改変されたRSV cDNAから生成した子孫ウイルスを用いて、新興ウイルス株に対するワクチン接種プロトコルがおこなわれる。また、RSV亜群BのGタンパク質遺伝子を含めることにより、応答が拡がり、ヒト集団に感染する比較的多様なAおよびB株のより広範囲をカバーできるであろう。
【0132】
本開示の感染性RSVクローンを操作して、その免疫原性を高め、自然感染によって提供されるものよりも高い水準の保護を生じさせることもできるし、逆に、望ましくない免疫病理学的反応と関連したエピトープを同定および除去することもできる。本開示によって製造されたワクチンの高い免疫原性は、RSVの制御の最大の障害の一つ、自然感染によって誘導された免疫の不完全性に対処するものである。追加の遺伝子を、独立した一組の転写シグナルによる調節下にあるRSVゲノムまたはアンチゲノム内に、またはその近傍に、挿入してよい。対象となる遺伝子の例としては、サイトカイン(例えばIL-2からIL-15、特にIL-3、IL-6、およびIL-7等)、ガンマ・インターフェロン、またはヘルパーT細胞エピトープに豊富なタンパク質、をコードする遺伝子が挙げられる。追加のタンパク質は別個のタンパク質として、あるいはSH等のいずれかのRSVタンパク質の第2のコピーから操作されたキメラとして、発現できる。これにより、RSVに対する免疫反応を定量的および定性的に変更および改善する能力が提供される。
【0133】
ワクチン用途において、本開示により作製されたウイルスをワクチン製剤に直接使用してもよく、あるいは所望により、当業者に周知の凍結乾燥プロトコルを用いて凍結乾燥してもよい。凍結乾燥ウイルスは典型的には約4℃で維持される。使用時、該凍結乾燥ウイルスは、さらに以下に記載されるように、安定化溶液、例えば食塩水、またはSPG、Mg、およびHEPESを含む溶液、の中でアジュバントを用いて、または用いずに、再構築される。
【0134】
このように、本開示のRSVワクチンは、本明細書に記載されるように製造された免疫遺伝学的に有効な量のRSVを活性成分として含む。改変されたウイルスは、生理学的に許容される担体および/またはアジュバントとともに宿主に導入してよい。有用な担体が当該分野において周知であり、例として水、緩衝水、0.4%食塩水、0.3%グリシン、およびヒアルロン酸等が挙げられる。得られた水溶液は、上述のように、そのまま使用するために容器に入れてもよいし、あるいは凍結乾燥し、凍結乾燥した製剤を投与前に無菌溶液と組み合わせてもよい。生理的条件に近づけるため、前記組成物は、必要に応じてpH調製緩衝剤、等張化剤、湿潤剤等の薬理学的に許容される補助物質を含んでいてよく、その例として、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、ソルビタンモノラウレート、およびトリエタノールアミンオレエート等が挙げられる。利用可能なアジュバントの例としては、フロインドアジュバント、リン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、およびミョウバンが挙げられ、これらは当該分野で周知の物質である。
【0135】
本明細書に開示されるようにRSV組成物をエアロゾル、ドロップレット、経口、局所等の経路で免疫する際、宿主の免疫系はワクチンに対して反応し、FおよびG糖タンパク質等のRSVウイルスタンパク質に対して特異的な抗体を生成する。ワクチン接種の結果、宿主は少なくとも部分的に、または完全にRSV感染に対して免疫され、あるいは中程度または重度のRSV感染の、特に下気道における発症に抵抗性となる。
【0136】
前記ワクチンが投与される宿主は、RSVまたは近縁なウイルスの感染を受けやすく、ワクチン接種に用いる株の抗原に防御免疫反応を生成することができる任意の哺乳類であり得る。従って、適した宿主の例としては、ヒト、非ヒト霊長類、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、齧歯類等が挙げられる。従って、本開示は各種のヒトおよび獣医学用途のためのワクチン生成のための方法を提供する。
【0137】
本開示のRSVを含むワクチン組成物の投与は、RSV感染を受けやすい、または感染の恐れがある宿主に対して、宿主自身の免疫応答能を高めるために行われる。このような量は「免疫原性有効量」であると定義される。この用途において、正確な量は、宿主の健康状態や体重、投与形態、および製剤の性質によって変わる。本ワクチン製剤は、深刻なまたは生死に関わるRSV感染から宿主患者を効果的に保護するのに充分な量の本開示の改変RSVを提供すべきである。
【0138】
本開示に従って製造されたRSVを、他の亜群または株のウイルスと組み合わせて、複数のRSV亜群または株に対する保護を達成することができる。あるいは本明細書に記載されるように、これらの株の防御エピトープ(protective epitope)を操作して一つのウイルスにすることができる。典型的には、前記の異なるウイルス同士は混合物であるか、または同時に投与されるが、別々に投与されてもよい。例えば、2つのRSV亜群のF糖タンパク質はアミノ酸配列において約11%の相違しか無く、この類似性が、RSVまたはF抗原で免疫され、異種株の攻撃を受けた動物に観察されるような交差防御免疫反応の基盤となる。このように、同一または異なる亜群の、異なる株に対して、1個の株を用いた免疫による防御が可能な場合がある。
【0139】
一部の例においては、本開示のRSVワクチンを、他の因子、特に他の小児ウイルス、に対する防御反応を誘導するワクチンと組み合わせることが望ましい。例えば、本開示のRSVワクチンを、Clementsほか,J.Clin.Microbiol.29:1175-1182(1991)(参照により本明細書に取り込まれたものとする)に記載のようなパラインフルエンザウイルスワクチンと同時に投与することができる。本開示の他の局面においては、前記RSVをパラインフルエンザ等の他の気道病原体の防御抗原のためのベクターとして使用することができ、これは、感染性RSVを生成するために用いられるRSVゲノムまたはアンチゲノムに、それら防御抗原をコードする配列を本明細書に記載されるように組み込むことによって行われる。
【0140】
本開示のワクチン組成物は、単回で、または複数回、投与することが出来る。新生児および小児においては、十分な水準の免疫を誘発するには、複数回の、連続の投与が必要な場合がある。投与は天然(野生型)RSV感染に対する十分な水準の防御を維持するために、必要に応じて、出生後1ヶ月の間に、または月齢約2ヶ月より前に、典型的には月齢6ヶ月より前に開始し、2ヶ月、6ヶ月、1年、または2年等の間隔で小児期を通じて行ってよい。同様に、反復性または重度のRSV感染を特に受けやすい成人、例えば医療従事者、デイケア従事者、低年齢小児の家族、高齢者(55、60、または65歳超)、心肺機能障害を有する個人等は、防御免疫反応を成立および/または維持するために複数回の免疫が必要な場合がある。誘導された免疫の水準は、分泌型および血清型中和抗体の量を測定することによりモニターすることができ、必要に応じて、用量の調整やワクチン接種の反復によって所望の水準の防御を維持することができる。さらに、異なる群のレシピエントにおいては異なるワクチンウイルスが有利な場合がある。例えば、T細胞エピトープに豊富に存在するタンパク質を追加で発現する操作されたRSV株は、小児よりも成人に対して特に有利な場合がある。
【0141】
本開示のさらに別の局面において、RSVは気道の一過的遺伝子療法(transient gene therapy)のためのベクターとして使用される。本態様により、組換えRSVゲノムまたはアンチゲノムに、対象となる遺伝子産物をコードし得る配列が組み込まれる。該対象となる遺伝子産物は、RSV発現を制御するプロモーターと同一のまたは異なるプロモーターの制御下にある。前記組換えRSVゲノムまたはアンチゲノムとN、P、L、およびM2-1タンパク質とを共発現することにより生成され、対象となる遺伝子産物をコードする配列を含む感染性RSVを患者に投与する。投与は典型的にはエアロゾル、ネブライザー、または治療対象患者の気道へのそれ以外の局所適用による。組換えRSVは、所望の遺伝子産物が治療的または予防的水準で発現するのに十分な量で投与される。本手法で投与される代表的な遺伝子産物の例として、一過性発現に特に適したもの、例えばインターロイキン2、インターロイキン4、ガンマ・インターフェロン、GM-CSF、G-CSF、エリスロポエチン、および他のサイトカイン類、グルコセレブロシド、フェニルアラニン水酸化酵素、嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子(CFTR)、ヒポキサンチン・グアニン・ホスホリボシルトランスフェラーゼ、サイトトキシン類、癌抑制遺伝子、アンチセンスRNA、またはワクチン抗原をコードするものが挙げられる。
【0142】
ある態様において、本開示は、免疫学的に有効な量の本発明の組換えRSV(弱毒化生組換えRSVまたは不活性化された非複製RSV等)、免疫学的に有効な量の本明細書に開示されるポリペプチド、および/または免疫学的に有効な量の本明細書に開示される核酸、を含む免疫原性組成物(ワクチン等)に関する。
【0143】
ある態様において、本開示は、個体の免疫系を刺激し、RSVに対する防御免疫反応を生成するための方法に関する。本方法においては、免疫学的に有効な量の本明細書に開示される組換えRSV、免疫学的に有効な量の本明細書に開示されるポリペプチド、および/または免疫学的に有効な量の本明細書に開示される核酸が、生理学的に許容される担体中において、前記個体に投与される。
【0144】
典型的には、前記担体または賦形剤は薬理学的に許容される担体又は賦形剤であり、滅菌水、塩類水溶液、緩衝塩類水溶液、デキストロース水溶液、グリセロール水溶液、エタノール、またはこれらの組み合わせが例として挙げられる。無菌状態、pH、等張性、および安定性を保証するこのような溶液類の調製は、当該分野で確立されたプロトコルに従って行われる。一般的に、担体または賦形剤は、アレルギー性または他の望ましくない効果を最小にし、皮下、筋肉内、鼻腔内、経口、局所等の特定の投与経路に適合するように選択される。得られた水溶液は、例えば、そのまま使用するために容器に入れることもできるし、あるいは凍結乾燥し、凍結乾燥した製剤を投与前に無菌溶液と組み合わせることもできる。
【0145】
ある態様においては、前記RSV(またはRSV成分)が、1または複数株のRSVに対して特異的な免疫反応を刺激するのに十分な量で投与される(例えば、免疫学的に有効な量のRSVまたはRSV成分が投与される)。好ましくは、RSVの投与により防御免疫反応が誘発される。RSVに対する防御免疫反応を生成するために適用可能な、抗ウイルス防御免疫反応を誘発するための用量および方法は、当業者に公知である。例えば、米国特許第5,922,326号;Wrightほか(1982)Infect.Immun.37:397-400;Kimほか(1973)Pediatrics 52:56-63;および、Wrightほか(1976)J.Pediatr.88:931-936を参照のこと。例えば、ウイルスを投与量あたり約10-10pfu(プラーク形成単位)の範囲で提供することができる(例として投与量あたり10-10pfu)。典型的には、前記用量は、年齢、体調、体重、性別、栄養、投与の様式および時期、ならびに他の臨床学的要素等に基づいて調整される。予防ワクチン製剤は、例えば針および注射器、または無針注射器を使用した、皮下または筋肉注射等により、全身投与することができる。好ましくは、前記ワクチン製剤は鼻腔内投与により、例えば点滴剤、エアロゾル(大型粒子エアロゾル(large particle aerosol)(約10ミクロン超)等)、またはスプレーによって、上気道内へと投与される。上記のいずれの送達経路も全身の防御免疫反応を生じさせるが、鼻腔内投与は前記ウイルスの侵入部位に粘膜免疫を誘導するというさらなる恩恵をもたらす。鼻腔内投与には、弱毒化生ウイルスワクチンが好ましい場合が多く、その例として、弱毒化された、低温適応の、および/または温度感受性の組換えRSV,例えばキメラ組換えRSVが挙げられる。Walshほか(1987)J.Infect.Dis.155:1198-1204、およびMurphyほか(1990)Vaccine 8:497-502に示唆されるように、弱毒化生ウイルスワクチンの代わりに、またはそれに加えて、例えば死ウイルスワクチン、核酸ワクチン、および/またはポリペプチドサブユニットワクチンを使用することができる。
【0146】
ある態様において、前記の弱毒化組換えRSVはワクチンに使用される通りのものであり、ウイルス成分(例えば本明細書の核酸またはポリペプチド)がワクチンまたは免疫原性成分として使用される態様において、感染の症状、または少なくとも重度感染の症状が、該弱毒化RSVで免疫された(あるいはそれに感染した)ほとんどの個体で起こらないように十分に弱毒化される。しかし、中程度または重度の下気道感染がワクチン接種された宿主または偶棲宿主において典型的に起こらないように、毒性は典型的には十分に阻害される。
【0147】
単回投与による防御免疫反応の刺激が好ましいが、所望の予防効果を達成するために、同一または異なる経路で追加の用量の投与を行うこともできる。新生児および小児においては、例えば、十分な水準の免疫を誘導するために複数回の投与が必要な場合がある。投与は、野生型RSV感染に対する十分な水準の防御を維持するために、必要に応じて小児期を通じて、間隔をおいて継続することができる。同様に、反復性または重度のRSV感染を特に受けやすい成人、例えば医療従事者、デイケア従事者、低年齢小児の家族、高齢者、心肺機能障害を有する個人等も、防御免疫反応を成立および/または維持するために複数回の免疫が必要な場合がある。誘導された免疫の水準は、例えば分泌型および血清型ウイルス中和抗体の量を測定することによりモニターすることができ、必要に応じて、用量の調整やワクチン接種の反復によって所望の水準の防御を誘導・維持することができる。
【0148】
あるいは、ウイルスによる樹状細胞のex vivoまたはin vivoターゲティングにより、免疫反応を刺激することができる。例えば、増殖樹状細胞を十分な量のウイルスに十分な期間曝露し、該樹状細胞にRSV抗原を捕捉させる。その後、ワクチン接種対象に該細胞を標準的な静脈内移植(intravenous transplantation)法により移植する。
【0149】
RSVの予防的投与のための前記製剤は、RSV抗原に対する免疫反応を増幅するための1種または複数種のアジュバントも任意に含んでいてよい。適したアジュバントとして、例えば完全フロインドアジュバント、不完全フロインドアジュバント、サポニン、水酸化アルミニウム等のミネラルゲル(mineral gel)、リゾレシチン等の界面活性物質、プルロニックポリオール(pluronic polyol)、ポリアニオン、ペプチド、オイルまたは炭化水素エマルジョン、カルメット・ゲラン桿菌(BCG)、コリネバクテリウム・パルバム、および合成アジュバントQS-21が挙げられる。
【0150】
所望により、RSVの予防的ワクチン投与は、1種または複数種の免疫賦活分子の投与と同時に行うことができる。免疫賦活分子の例として、免疫賦活、免疫強化、および炎症誘発活性を有する各種サイトカイン、リンフォカイン、およびケモカインが挙げられ、例えば、インターロイキン(IL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-12、IL-13等);成長因子(顆粒球ーマクロファージ(GM)-コロニー刺激因子(CSF)等);および、マクロファージ炎症因子(macrophage inflammatory factor)、Flt3リガンド、B7.1、B7.2等のその他の免疫賦活分子が挙げられる。前記免疫賦活分子はRSVと同じ製剤で投与することもできるし、別々に投与することもできる。前記タンパク質または前記タンパク質をコードする発現ベクターを投与し、免疫賦活効果を得ることができる。
【0151】
個体に特定の亜群の特定の株の弱毒化RSVをワクチン接種することにより、異なる株および/または亜群のRSVに対する交差防御を誘導することができるが、所望により、少なくとも2つの株、例えばそれぞれ異なる亜群を代表する株、の弱毒化RSVを前記個体にワクチン接種することによって交差防御を増幅することができる。同様に、前記弱毒化RSVワクチンを、任意に、他の感染性因子に対する防御免疫反応を誘導するワクチンと組み合わせることもできる。
【実施例
【0152】
A2ーline19F-I557VウイルスはBALB/cマウスにおいて免疫原性を有する
これを図7に示す。図中、このウイルスがRSV A2およびRSV A2-line19Fよりも高い水準のRSV中和血清抗体を誘導することが示されている。図7Bには、このウイルスが、低い投与量(input dose)においても、一次感染から29日後に攻撃された際にRSV異種株による攻撃に対する完全な防御を提供することが示されている。この低い投与量による完全な防御は、他の2つのRSV株であるA2-K-line19FおよびA2-K-A2GFでは認められず、ブレイクスルー再感染(breakthrough reinfection)を許した。これらの2つのウイルスはFタンパク質以外はA2-line19F-I557Vに類似しており、このウイルスにコードされるI557V Fタンパク質が該表現型に重要であることが示唆される。
【0153】
A2-line19F-I557Vウイルスは、免疫原性を有する(図7A)ことに加え、熱安定性である。ウイルスの熱安定性は、4℃または37℃で保温された際に複数日にわたって力価を維持する能力として測定される。この結果により、このウイルスが、試験された両温度においてA2-K-A2GFウイルスよりも熱安定性が高く、また、4℃においてA2-line19Fよりも安定であることが示された。上述のようにF遺伝子だけがこれら2つのウイルス間の違いであることから、この固有のFタンパク質が該表現型に関与していることが示唆される。
【0154】
A2-line 19 F RSV株はA2株よりも安定であり、line 19 Fタンパク質における557位のValが該ウイルスをさらに安定にしている。他の株における557位のValも安定化をもたらしているようである―557位と安定性。ある態様においては、本開示は、F株との任意の関連ける、ウイルスの熱安定性に影響する557位の他の変異(アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン等の任意のアミノ酸)を企図する
【0155】
NS1およびNS2コドンサイレント変異を有する組換えRSVの生成、および増殖減弱(growth attenuation)
ヒトにおいて一般的でないコドンを使用し、後述のdNS1hおよびdNS2hと名付けたNS1およびNS2遺伝子を有する組換えRSVを作製した。RSVにおいて一般的でないコドンを使用し、後述のdNS1vおよびdNS2vと名付けたNS1およびNS2遺伝子を有する組換えRSVを作製した。図1に、最適配列を決定するのに使用した表を提供する。組換えRSVは、NS1およびNS2遺伝子のための次のヌクレオチド配列を用いて作製した。一般的でないヒトのコドンまたは一般的でないRSVのコドンのいずれかが望ましいRSVワクチン候補を生成するかどうかは、コドンを試験する前には予測不能であったことに留意することが重要である。RSV配列に対して一般的でないコドンを使用した実験では、予想外の、望ましくない発現増加の効果が得られた。ヒト配列に対して一般的でないコドンを使用した実験では、望ましい発現減少の効果が得られた。ヒト配列にとって一般的でないNSコドンとRSV配列にとって一般的でないNSコドンとを比較する実験では、ヒト配列にとって一般的でないNSコドンがワクチン開発において優先的であることが示された。

dNS1hヌクレオチド配列(配列番号6)では、420ヌクレオチド中の84ヌクレオチド(20%)、140コドン中の68コドン(48%)が野生型A2におけるNS1と相違する。

配列番号6
ATGGGTTCGAATTCGCTATCGATGATAAAAGTACGTCTACAAAATCTATTTGATAATGATGAAGTAGCGCTACTAAAAATAACGTGTTATACGGATAAACTAATACATCTAACGAATGCGCTAGCGAAAGCGGTAATACATACGATAAAACTAAATGGTATAGTATTTGTACATGTAATAACGTCGTCGGATATATGTCCGAATAATAATATAGTAGTAAAATCGAATTTTACGACGATGCCGGTACTACAAAATGGTGGTTATATATGGGAAATGATGGAACTAACGCATTGTTCGCAACCGAATGGTCTACTAGATGATAATTGTGAAATAAAATTTTCGAAAAAACTATCGGATTCGACGATGACGAATTATATGAATCAACTATCGGAACTACTAGGTTTTGATCTAAATCCGTAA

dNS1vヌクレオチド配列(配列番号7)では、420ヌクレオチド中の145ヌクレオチド(34%)、140コドン中の122コドン(87%)が野生型A2におけるNS1と相違する。

配列番号7
ATGGGGTCGAACTCGCTCTCGATGATCAAGGTCCGCCTCCAGAATCTCTTCGACAACGACGAGGTCGCGCTCCTCAAGATCACGTGTTACACGGACAAGCTCATCCACCTCACGAACGCGCTCGCGAAGGCGGTCATCCACACGATCAAGCTCAACGGGATCGTCTTCGTCCACGTCATCACGTCGTCGGACATCTGTCCGAACAACAACATCGTCGTCAAGTCGAACTTCACGACGATGCCGGTCCTCCAGAACGGGGGGTACATCTGGGAGATGATGGAGCTCACGCACTGTTCGCAGCCGAACGGGCTCCTCGACGACAACTGTGAGATCAAGTTCTCGAAGAAGCTCTCGGACTCGACGATGACGAACTACATGAACCAGCTCTCGGAGCTCCTCGGGTTCGACCTCAACCCGTAA

dNS2hヌクレオチド配列(配列番号9)では、420ヌクレオチド中の82ヌクレオチド(21%)、140コドン中の73コドン(58%)が野生型A2におけるNS1と相違する。

配列番号9
ATGGATACGACGCATAATGATAATACGCCGCAACGTCTAATGATAACGGATATGCGTCCGCTATCGCTAGAAACGATAATAACGTCGCTAACGCGTGATATAATAACGCATAAATTTATATATCTAATAAATCATGAATGTATAGTACGTAAACTAGATGAACGTCAAGCGACGTTTACGTTTCTAGTAAATTATGAAATGAAACTACTACATAAAGTAGGTTCGACGAAATATAAAAAATATACGGAATATAATACGAAATATGGTACGTTTCCGATGCCGATATTTATAAATCATGATGGTTTTCTAGAATGTATAGGTATAAAACCGACGAAACATACGCCGATAATATATAAATATGATCTAAATCCGTAA

dNS2vヌクレオチド配列(配列番号10)では、420ヌクレオチド中の103ヌクレオチド(27%)、140コドン中の92コドン(73%)が野生型A2におけるNS1と相違する。

配列番号10
ATGGACACGACGCACAACGACAACACGCCGCAGCGCCTCATGATCACGGACATGCGCCCGCTCTCGCTCGAGACGATCATCACGTCGCTCACGCGCGACATCATCACGCACAAGTTCATCTACCTCATCAACCACGAGTGTATCGTCCGCAAGCTCGACGAGCGCCAGGCGACGTTCACGTTCCTCGTCAACTACGAGATGAAGCTCCTCCACAAGGTCGGGTCGACGAAGTACAAGAAGTACACGGAGTACAACACGAAGTACGGGACGTTCCCGATGCCGATCTTCATCAACCACGACGGGTTCCTCGAGTGTATCGGGATCAAGCCGACGAAGCACACGCCGATCATCTACAAGTACGACCTCAACCCGTAA
【0156】
60~70%コンフルエンスのBEAS-2B細胞株に、0.01のMOI(感染多重度)で上記の組換えウイルスを感染させる(すなわち100細胞あたり1個の感染性ウイルス粒子が存在する)。これは、まず感染前に細胞を計数して各ウェルの総細胞数を求め、次いで感染させる各ウイルスの量を計算することによって行われる。感染は室温で1時間行われ、その後洗浄を行う。感染した細胞は、5%COの存在下、37℃のインキュベーターに96時間まで静置される。試料を、感染後12、24、48、72、および96時間の時点で採取し、凍結する。全ての時点試料を採取した後、標準的なプロトコルに従ったVero細胞株上での力価測定により各試料中のウイルス量を決定し、力価(FFU/mL、すなわちmLあたりの蛍光フォーカス形成単位(Fluorescent Focus-forming Unit per mL))を各試料について算出する。使用するウイルスは赤色蛍光遺伝子をゲノム中に有するため、感染細胞を蛍光顕微鏡下でカウントすることにより蛍光フォーカス形成単位が提供される。各データ点は2回の独立した実験から得られた重複試料を表す。
【0157】
図2に示すように、kRSV-dNS1h(ヒト脱最適化NS1+NS2ウイルス)の増殖は、感染後72および96時間のBEAS-2B細胞株において減弱する。これはNS1およびNS2タンパク質が野生型ウイルスにおけるよりも少ないためと信じられる。
【0158】
低コピー数用に設計されたプラスミドにおけるRSVの発現
感染性組換えRSV(rRSV)を、トランスフェクトされたプラスミドから回収することができる。RSVのN、P、L、およびM2 1タンパク質ならびに全長アンチゲノムRNAを同時発現させるだけでRSVの複製が起こる。感染性RSVは、N、P、L、およびM2-1タンパク質をコードするプラスミドならびにT7プロモーターの調節下のアンチゲノムcDNAを、安定にT7RNAポリメラーゼを発現するBHK-21細胞(BSR細胞)にコトランスフェクトしたものから生成してよい。現在の研究室では、典型的にはpBR322プラスミド(中程度コピー数;大腸菌あたり15~20コピー)にクローニングされたRSVアンチゲノムcDNAを用いる。前記アンチゲノムcDNAをこのプラスミド内で維持するため、前記細菌は30℃において弱い通気下で増殖させる。にもかかわらず、プラスミド再構成およびクローン喪失は頻繁に起こる。
【0159】
ウイルスの付着糖蛋白質(attachment glycoprotein)(G)および融合(fusion)(F)遺伝子を含んだRSV cDNAの断片は、pUCを基盤とするプラスミド(大腸菌内に500~700プラスミドコピー)にはクローニングできないことが分かった。この断片を、pLG338-30.5と呼ばれる低コピー数(大腸菌当たり約5コピー)プラスミドにクローニングした。pLG338-30プラスミドは、クローン化されたレンチウイルスの糖タンパク質の安定性を増加させるために開発された。Cunninghamほか,Gene,1993,124,93-98。大腸菌におけるcDNAの不安定性は、ウイルス糖タンパク質配列内の潜在性の大腸菌転写プロモーターの存在によるものと仮定される。従って、細菌内の「プロモーターを持たない」プラスミドにおけるcDNAの不安定性は、異常タンパク質が潜在性プロモーターから発現し、プラスミドコピー数によって毒性が悪化するために生じる可能性がある。
【0160】
A2 F遺伝子を株line 19 F遺伝子に置き替えたRSV株A2ゲノムを含むアンチゲノムプラスミドを生成した。該アンチゲノムプラスミドは、Collinsほか,ProcNatlAcadSci USA,1995,92(25):11563-11567および米国特許第6,790,449号(参照により本明細書に取り込まれたものとする)に最初に開示されたアンチゲノムプラスミドに由来するものである。前記アンチゲノムを前記プラスミドベクターから切り出し、pKBS3 BAC内に連結した。
【0161】
GalK組換え工学試薬をNCIから得て、BAC-RSVリバースジェネティクスプロトコル(図4および5)の確立に成功した。http://web.ncifcrf.gov/research/brb/recombineeringInformation.aspxを参照のこと(参照により本明細書に取り込まれたものとする)。BAC組換え工学を介したRSV cDNAの突然変異により、突然変異体生成のためにRSVを操作する能力が高まった。この系のさらなる利点は、BACベクター内の全長アンチゲノムcDNAの安定性が増すことである。
【0162】
前記のBACを基盤とするRSVアンチゲノムベクターを32℃、250RPMで増殖させたところ、大腸菌においてベクターの再構成またはクローン喪失は認められなかった。従って、BAC-RSVによって、組換え工学を介した操作が可能になるだけでなく、cDNAの不安定性が排除されることでRSVリバースジェネティクスも一般的に促進される。
【0163】
BACベクターにおけるRSVアンチゲノム(pSynkRSV_line 19 Fの構築)
RSV-BAC pSynkRSV_line 19 Fは、改変katushka遺伝子(mKate2、蛍光タンパク質)、および簡便で標準的なクローニング法のための制限サイトを有する。pSynkRSVの構築のため、3つの核酸断片がDNA合成を行う企業であるGene Artにより合成された。次いで、これら3断片を細菌人工染色体(BAC)内にまとめる必要がある。該3断片を、pSynkRSV-BstBI_SacI(#1)、pSynkRSV-SacI_ClaI(#2)、およびpSynkRSV-ClaI_MluI(#3)と命名した。pSynkRSVを構築するために、pKBS3プラスミドをバックボーンとして用いる。図6A~Eを参照のこと。pSynkRSVは、細菌内においてコピー数と分配を制御するために必要となる細菌人工染色体配列を有する。
【0164】
前記の3つの合成断片を挿入するため、pKBS3に存在する2つの制限酵素切断部位、BstBIおよびMluIの間にオリゴヌクレオチドアダプターを配置する。
【0165】
前記アダプターがpKBS3のBstBIおよびMluI部位に連結するようにオーバーハングを設計した。下線の配列は制限部位を示す:右から左に向かって、それぞれSacI、ClaI、およびAvrIIである。これにより、制限部位BstBI、SacI、ClaI、AvrII、およびMluIをこの順で含むマルチクローニングサイトが生成し、pKBS5と名付けたプラスミドが生成する。図6Aを参照のこと。Gene ArtからのSacI_ClaI断片(#2)を切断し、pKBS5に連結する。図6Bを参照のこと。次に、#3断片をAvrIIおよびMluI酵素を用いて切断し、連結する(pSynkRSV-ClaI_MluI内の使われないClaI制限部位のため、ClaIを再度使用することはできない)。図6Cを参照のこと。この時点で、pKBS5プラスミドはSacIからClaIまでのGene Art配列と、いくつかの介在ヌクレオチド(10未満)と、AvrIIからMluIまでのGene Art配列とを有する。#1断片を、BstBIおよびSacIを用いて切断し、連結する。図6Dを参照のこと。このRSV BACは、約10個の望ましくないヌクレオチドを2つのClaI部位(断片#2および断片#3由来のもの)の間に有する。組換え工学を用いてこれらのヌクレオチドを削除し、pSynkRSV_line 19 Fを生成する。図6Eを参照のこと。複数の制限部位の潜在的な干渉を避けるため、前記3つの断片はこの順に連結すべきである。
【0166】
弱毒化生ワクチン(LAV)としての組換え呼吸器合胞体ウイルス(RSV)
次の4種の発現プラスミドが生成された:RSV核タンパク質(N)を発現するプラスミド、RSVリンタンパク質(P)を発現するプラスミド、RSVマトリックス2 ORF 1タンパク質(M2-1)を発現するプラスミド、およびRSV大ポリメラーゼ(L)を発現するプラスミド―pA2-Nopt、pA2-Popt、pA2-M2-1opt、およびpA2-Lopt。命名は、これらの遺伝子がRSVのA2株のものであり、また、これらのcDNAが、哺乳類細胞において発現量を増加させるために、ヒトのコドンバイアスに対して最適化されているという事実を反映している。cDNAからの組換えRSVの回収物には次の5つの成分が含まれる:全長RNA(pSynk-RSVl19Fにより提供されるもの等)、ならびにRSV N、P、M2-1、およびLタンパク質。前記の4種のヘルパープラスミドpA2-Nopt、pA2-Popt、pA2-M2-1opt、およびpA2-Loptは、RSVレスキューを促進するのに有用である。
【0167】
組換え呼吸器合胞体ウイルス株A2-linel9Fを、イソロイシンがバリンに変化するF557残基の点突然変異で生成した(ウイルス名:A2-linel9F-I557V)。イソロイシンからバリンへの同様な突然変異を557位に有するline 19 Fタンパク質をコードする、タンパク質発現プラスミドも生成された(タンパク質名:line 19F-I557V)。A2-line19F-I557Vは、4℃および37℃において、親ウイルスA2-line l9Fよりも高い熱安定性を有する。この高い安定性が、A2-line19F-I557Vにおいて、A2-line 19Fよりも中和抗体の誘導および防御が増強されていることに貢献していると思われる。
【0168】
弱毒化生RSVワクチンの開発は、目標集団を構成し、ゲノム安定性が限定的である、若齢小児におけるRSVの低い免疫原性により妨げられてきた。望ましいワクチンは、免疫原性があり、遺伝的および熱的に安定であり、かつ若齢小児において安全にワクチン接種を行えるものである。
【0169】
RSV非構造(NS)タンパク質1および2(NS1およびNS2)は宿主細胞のインターフェロン経路の阻害と関連しており、そのため、ウイルスの免疫原性を制限する可能性がある。小疎水性(small hydrophobic;SH)糖タンパク質は、膜内にカチオン性細孔を形成し、宿主のアポトーシス経路を改変し、腫瘍壊死因子-a(TNF-a)シグナル伝達を阻害する。SH、NSl、およびNS2はウイルス複製にとって必ずしも必要ではない。しかし、NSlおよびNS2を同時に欠失させると過弱毒化が起こる。現在評価中の実験的ワクチン候補において、SHタンパク質の欠失が弱毒化に対して与える明白な効果はわずかしかない。しかし、SHの欠失はin vitroでRSV複製を増強し、おそらくはGおよびF抗原遺伝子等の下流側遺伝子の発現を増強する。
【0170】
本明細書に開示されるRSVワクチン候補は、安全なウイルスワクチン候補における低い免疫原性ならびに限定的な遺伝的および熱的安定性という問題を克服するために、複数の技術を組み合わせたものである。RSV LAV OElは、安定的で免疫原性のウイルス背景において、速やかな復帰の可能性を伴うことなく、コドン脱最適化による免疫阻害タンパク質NSlおよびNS2の、および欠失によるSHタンパク質の、発現の制限を組み合わせたものである。
【0171】
ワクチン候補を、BACを基盤とするRSVのリバースジェネティクスによって生成した。非構造(NS)遺伝子NSlおよびNS2のコドン脱最適化と、557位に変異を有するA2-line 19F遺伝子と、RSV小疎水性(SH)糖タンパク質の欠失と、を組み合わせた。
OE1ウイルスゲノム(配列番号1)
RSVワクチン候補遺伝子型:
A2-mKate2-dNSh-deltaSH-A2G-line19F-I557V(標識化);および
A2-dNSh-deltaSH-A2G-line19F-I557V(非標識化)
【0172】
RSV付着糖蛋白質(G)は高度にグリコシル化されたタンパク質であり、膜結合型および分泌型という2種類のバリアントの形態で存在する。RSV Gの機能的役割を評価するための研究により、それがtoll様受容体活性化の阻害の役割を担うこと、そして、その分泌型が免疫抗原デコイ(immune antigen decoy)として作用するらしいことが示された。RSV Fに加え、Gタンパク質も免疫原性であるが、広範にグリコシル化されていること等の理由から、中和抗体を生成するためには貧弱な抗原である。RSV Gはウイルス複製に不可欠であるが、その欠失により過弱毒化が起こる。従って、Gは非必須の毒性遺伝子であると考えることができる。
【0173】
RSV A2 Gタンパク質配列を、RSV LAV OE1ウイルスゲノムの背景にM48I変異を有し、50%のコドンが脱最適化された[dGm(50%)]ものと置換した。OE2ウイルス背景は、非構造(NS)遺伝子NS1およびNS2のコドン脱最適化と、アミノ酸残基557における変異を有するA2-line 19F遺伝子と、RSV小疎水性(SH)糖タンパク質の欠失と、を含む。
OE2ウイルスゲノム(配列番号2)
RSVワクチン候補遺伝子型:
A2-mKate2-dNSh-deltaSH-dGm(50%)-line19F-I557V(標識化);および
A2-dNSh-deltaSH-dGm(50%)-line19F-I557V(非標識化)
【0174】
RSV LAV OE2は、安定的で免疫原性のウイルス背景において、速やかな復帰の可能性を伴うことなく、50%のコドンのコドン脱最適化による免疫阻害性糖タンパク質Gの発現の減少と、免疫調節性タンパク質NS1およびNS2の100%のコドン脱最適化と、SHタンパク質の欠失と、を組み合わせたものである。
【0175】
第3のワクチン候補においては、RSV A2 Gタンパク質配列を、RSV LAV OE1ウイルスゲノムの背景にM48I変異を有し、75%のコドンが脱最適化された[dGm(75%)]ものと置換した。OE3ウイルス背景は、非構造(NS)遺伝子NS1およびNS2のコドン脱最適化と、残基557における変異を有するA2-line 19F遺伝子と、RSV小疎水性(SH)糖タンパク質の欠失と、を含む。
OE3ウイルスゲノム(配列番号3)
RSVワクチン候補遺伝子型:
A2-mKate2-dNSh-deltaSH-dGm(75%)-line19F-I557V(標識化);および
A2-dNSh-deltaSH-dGm(75%)-line19F-I557V(非標識化)
【0176】
RSV LAV OE3は、安定的で免疫原性のウイルス背景において、速やかな復帰の可能性を伴うことなく、75%のコドンのコドン脱最適化による免疫阻害性糖タンパク質Gの発現の減少と、免疫調節性タンパク質NS1およびNS2の100%のコドン脱最適化と、SHタンパク質の欠失と、を組み合わせたものである。
【0177】
RSV LAV OE1ウイルスゲノムの背景にM48I変異を有し、100%のコドンが脱最適化された[dGm(100%)]RSV A2 Gタンパク質配列を生成した。OE4ウイルス背景は、非構造(NS)遺伝子NS1およびNS2のコドン脱最適化と、残基557における変異を有するA2-line 19F遺伝子と、RSV小疎水性(SH)糖タンパク質の欠失と、を含む。
OE4ウイルスゲノム(配列番号4)
RSVワクチン候補遺伝子型:
A2-mKate2-dNSh-deltaSH-dGm(100%)-line19F-I557V(標識化);および
A2-dNSh-deltaSH-dGm(100%)-line19F-I557V(非標識化)
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【配列表】
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