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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-07
(45)【発行日】2023-03-15
(54)【発明の名称】骨固定システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/86 20060101AFI20230308BHJP
【FI】
A61B17/86
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2018203426
(22)【出願日】2018-10-30
(65)【公開番号】P2020068933
(43)【公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】393024186
【氏名又は名称】株式会社ホムズ技研
(74)【代理人】
【識別番号】100100055
【弁理士】
【氏名又は名称】三枝 弘明
(72)【発明者】
【氏名】福原 逸郎
【審査官】菊地 康彦
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-197925(JP,A)
【文献】特開平06-249222(JP,A)
【文献】特表2005-509480(JP,A)
【文献】特開2001-159415(JP,A)
【文献】米国特許第04796612(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/56-17/86
F16B 39/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の骨係合部及び第1のねじ結合部を備えた第1の固定具と、第2の骨係合部及び前記第1のねじ結合部とねじ結合可能な第2のねじ結合部を備えた第2の固定具とを有し、前記第1のねじ結合部と前記第2のねじ結合部の間のねじ結合により前記第1の固定具と前記第2の固定具が連結される骨固定システムであって、
前記第1の固定具は、第1の係合結合部をさらに備え、
前記第2の固定具は、前記ねじ結合の深さが増減する際の相対的らせん運動を許容する態様で前記第1の係合結合部に対して係合結合可能な第2の係合結合部をさらに備え、
前記第1のねじ結合部と前記第2のねじ結合部の間の前記ねじ結合により前記第1の固定具と前記第2の固定具が前記ねじ結合の軸線方向の所定の保持位置において相互に保持されるとともに、前記第1の固定具と前記第2の固定具が前記保持位置にある場合に前記第1の係合結合部と前記第2の係合結合部が前記保持位置に対応する所定の係合位置において相互に係合結合したとき、前記係合位置において生ずる係止力が前記保持位置にある前記第1の固定具と前記第2の固定具の間に保持力を与えるように構成され、
前記第1の係合結合部と前記第2の係合結合部は、前記相対的らせん運動の方向に沿って配列された前記第1の固定具と前記第2の固定具の間の複数の前記保持位置にそれぞれ対応する複数の前記係合位置において、前記保持位置で前記第1の固定具と前記第2の固定具の間に保持力を生じさせる態様で相互に係合結合可能に構成されるとともに、前記相対的らせん運動に伴って複数の前記係合位置の間を係脱動作しながら相対移動し、
前記第1のねじ結合部と前記第1の係合結合部は、前記ねじ結合の軸線方向に順次に配置され、
前記第2のねじ結合部と前記第2の係合結合部は、前記第1のねじ結合部と前記第1の係合結合部の配置順と対応する順で前記軸線方向に配置され、
前記第1の係合結合部と前記第2の係合結合部は、前記係合位置において前記ねじ結合の軸線方向に係合結合可能に構成されるとともに、前記相対的らせん運動を許容するために、前記軸線方向の係合結合態様の係脱動作可能な構成を有し、
前記第1の係合結合部と前記第2の係合結合部が前記ねじ結合の軸線周りに回転可能な構造となっているか、或いは、前記第1の固定具において前記第1の係合結合部が前記軸線方向に固定されるとともに前記軸線周りに回転可能となっているか、若しくは、前記第2の固定具において前記第2の係合結合部が前記軸線方向に固定されるとともに前記軸線周りに回転可能となっている、
骨固定システム。
【請求項2】
前記第1の係合結合部と前記第2の係合結合部は、前記第1の係合結合部と前記第2の係合結合部の少なくとも一方に設けられた、弾性係合端を備えた弾性係合構造により係合結合可能に構成される、
請求項1に記載の骨固定システム。
【請求項3】
前記第1の固定具は、第1の端部と、前記第1の骨係合部が設けられた前記第1の端部とは反対側の端部とを有し、
前記第2の固定具は、第2の端部と、前記第2の骨係合部が設けられた前記第2の端部とは反対側の端部とを有し、
前記第1の固定具と前記第2の固定具は、前記第1の端部と前記第2の端部が前記ねじ結合の軸線方向に相互に対向する姿勢で相互に接続することにより連結可能に構成される、
請求項1又は2に記載の骨固定システム。
【請求項4】
前記第1のねじ結合部は雄ねじを備え、
前記第2のねじ結合部は前記雄ねじにねじ結合可能な雌ねじを備え、
前記第1の係合結合部は、前記第1のねじ結合部の前記第1の端部側に設けられ、
前記第2の係合結合部は、前記第2のねじ結合部の前記第2の端部側とは反対側に設けられ、
前記第1の係合結合部の外径は、前記第2のねじ結合部の内径よりも小さい
請求項に記載の骨固定システム。
【請求項5】
前記第1のねじ結合部は雄ねじを備え、
前記第2のねじ結合部は前記雄ねじにねじ結合可能な雌ねじを備え、
前記第1の係合結合部は、前記第1のねじ結合部の前記第1の端部側に設けられ、
前記第2の係合結合部は、前記第2のねじ結合部の前記第2の端部側とは反対側に設けられ、
前記第1の係合結合部の外径は、前記第1のねじ結合部の外径よりも小さい
請求項に記載の骨固定システム。
【請求項6】
前記第1の固定具は前記第2の固定具よりも前記軸線方向に長い、
請求項4又は5に記載の骨固定システム。
【請求項7】
前記第1の固定具と前記第2の固定具の連結操作時において、前記第1のねじ結合部と前記第2のねじ結合部の間の前記ねじ結合の深さが増大する向きに操作されていく過程で、前記ねじ結合が開始された後に、前記第1の係合結合部と前記第2の係合結合部の間の係合結合が開始されるように構成される
請求項1-6のいずれか一項に記載の骨固定システム。
【請求項8】
前記第1の係合結合部と前記第2の係合結合部のうちの一方の係合結合部は、前記係合位置に設けられた前記軸線の周りの環状部が前記軸線方向に複数配列された係合構造を備え、他方の係合結合部は、前記環状部に対して前記軸線方向に係合可能な係合端部を備える、
請求項1-7のいずれか一項に記載の骨固定システム。
【請求項9】
前記環状部は環状溝であり、前記係合端部は前記環状溝に係合可能な弾性係合端を備えた弾性係合構造である、
請求項に記載の骨固定システム。
【請求項10】
前記弾性係合構造は、リング状の弾性体により構成され、軸線周りに分割された態様の複数の前記弾性係合端を備える弾性係合体により構成される、
請求項2又は9に記載の骨固定システム。
【請求項11】
前記第1の係合結合部と前記第2の係合結合部との間の前記係合位置における係合結合の係止力に基づく前記保持位置における保持力であって、前記相対的らせん運動の方向の前記ねじ結合の深さが増大する向きへの移動に抗する前記保持力は、前記相対的らせん運動の方向の前記ねじ結合の深さが減少する向きへの移動に抗する前記保持力より小さい
請求項1-10のいずれか一項に記載の骨固定システム。
【請求項12】
前記第1の固定具と前記第2の固定具のうちの一方の固定具に回転係合した状態で接続可能に構成され、前記一方の固定具を前記ねじ結合の軸線の周りに回転操作するための工具をさらに具備し、
前記工具は、前記一方の固定具に接続された状態において、前記ねじ結合の深さに応じて前記一方の固定具の内部を通して前記軸線に沿って移動する他方の固定具の端部が当接可能な先端部を備える検出軸と、該検出軸の位置により前記他方の固定具の前記端部の位置を表示する表示部と、を有する、
請求項1-11のいずれか一項に記載の骨固定システム。
【請求項13】
前記表示部では、前記他方の固定具の前記端部と連動する前記検出軸の位置により前記係合結合の有無が確認可能である、
請求項12に記載の骨固定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は骨固定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
大腿骨などの管状骨の顆部の骨折を固定するための骨固定システムとして、骨の表面に当接するワッシャに係合するヘッド部及び雄ねじを設けたロッド部を備えたボルトと、骨の表面に当接するワッシャに係合するとともに上記雄ねじと螺合可能な雌ねじを備えたナットとを具備するものが知られている(例えば、以下の特許文献1及び2参照)。また、他の骨固定システムとして、顆部に挿入されるとともに両端に雄ねじを備えた挿入ロッドと、骨の表面に当接するワッシャに係合するとともに上記雄ねじに弾性係合可能な弾性係合部を備えた、上記挿入ロッドの両端にそれぞれ係合する一対のナットとを具備するものも提案されている(例えば、以下の特許文献3参照)。
【0003】
上記の各骨固定システムでは、顆部に生じた複雑な骨折態様であっても骨片をしっかりと固定するために、骨折した顆部を貫通して上記ワッシャにより両側から挟持することにより固定するようにしている。このような骨固定システムは、二つの固定具を相互に連結させることによって骨折部分の各骨片を保持固定するものであり、特許文献1~3に限らず、種々の構造を備えたものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-85233号公報
【文献】特表2004-527276号公報
【文献】国際公開2016/144589号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のボルトとナットを具備する骨固定システムにおいては、ロッド部の雄ねじとナットの雌ねじがねじ結合することによってボルトとナットが連結されるので、ねじの締め付けによって顆部を両側から挟持したときには軸力によりねじの緩みが防止され、骨折部は保持される。しかし、手術後に時間が経過すると、骨折部は術後過程における再転位などによって圧縮状態が損なわれるので、ねじ係合による軸力は減少し、或いは、消失する。この結果、ねじ係合は緩み易くなり、骨折部の転位を抑制できなくなるという問題がある。
【0006】
一方、上記の挿入ロッドの両端に一対のナットを弾性係合させる構造の骨固定システムにおいては、挿入ロッドの雄ねじにナットの弾性係合部が弾性係合することにより、挿入ロッドに対してナットを軸方向に押し付けるだけで容易に装着できるという利点があるものの、ねじ結合されている点は上記と同様であることから、上記と同様に、軸力の低下による緩みの発生を避けることはできない。
【0007】
そこで、本発明は上記問題を解決するものであり、その課題は、骨固定システムにおいて、軸力の低下によるねじ結合の緩みを防止し、手術後の骨折部の転位を抑制できる連結構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の骨固定システムは、第1の骨係合部及び第1のねじ結合部を備えた第1の固定具と、第2の骨係合部及び前記第1のねじ結合部とねじ結合可能な第2のねじ結合部を備えた第2の固定具とを有し、前記第1のねじ結合部と前記第2のねじ結合部の間のねじ結合により前記第1の固定具と前記第2の固定具が連結される骨固定システムである。このとき、前記第1の固定具は、第1の係合結合部をさらに備え、前記第2の固定具は、前記ねじ結合の深さが増減する際の相対的らせん運動を許容する態様で前記第1の係合結合部に対して係合結合可能な第2の係合結合部をさらに備える。そして、前記第1の係合結合部と前記第2の係合結合部は、前記相対的らせん運動の方向に沿って配列された前記第1の固定具と前記第2の固定具の間の複数の保持位置に対応する係合位置において、前記保持位置で前記第1の固定具と前記第2の固定具の間に保持力を生じさせる態様で相互に係合結合可能に構成されるとともに、前記相対的らせん運動に伴って複数の前記係合位置の間を係脱動作しながら相対移動する。
【0009】
本発明において、前記第1の係合結合部と前記第2の係合結合部は、前記第1の係合結合部と前記第2の係合結合部の少なくとも一方に設けられた弾性係合構造により係合結合可能に構成されることが好ましい。
【0010】
本発明において、前記第1の固定具は、第1の端部と、前記第1の骨係合部が設けられた前記第1の端部とは反対側の端部とを有し、前記第2の固定具は、第2の端部と、前記第2の骨係合部が設けられた前記第2の端部とは反対側の端部とを有し、前記第1の固定具と前記第2の固定具は、前記第1の端部と前記第2の端部が前記ねじ結合の軸線方向に相互に対向する姿勢で相互に挿入等して接続することにより連結可能に構成されることが好ましい。
【0011】
本発明において、前記第1のねじ結合部と前記第1の係合結合部は、前記ねじ結合の軸線方向に順次に配置され、前記第2のねじ結合部と前記第2の係合結合部は、前記第1のねじ結合部と前記第1の係合結合部の配置順と対応する順で前記軸線方向に配置されることが好ましい。
【0012】
この場合において、前記第1のねじ結合部は雄ねじを備え、前記第2のねじ結合部は前記雄ねじにねじ結合可能な雌ねじを備え、前記第1の係合結合部は、前記第1のねじ結合部の前記第1の端部側に設けられ、前記第2の係合結合部は、前記第2のねじ結合部の前記第2の端部側とは反対側に設けられるとともに、前記第1の係合結合部は、前記第2のねじ結合部よりも小径であることが望ましい。この場合においては、前記第1の固定具は前記第2の固定具よりも前記軸線方向に長いことがさらに望ましい。
【0013】
また、前記第1のねじ結合部は雄ねじを備え、前記第2のねじ結合部は前記雄ねじにねじ結合可能な雌ねじを備え、前記第1の係合結合部は、前記第1のねじ結合部の前記第1の端部側に設けられ、前記第2の係合結合部は、前記第2のねじ結合部の前記第2の端部側とは反対側に設けられるとともに、前記第1の係合結合部は、前記第1のねじ結合部より小径であることが望ましい。この場合においては、前記第1の固定具は前記第2の固定具よりも前記軸線方向に長いことがさらに望ましい。
【0014】
本発明において、前記第1の固定具と前記第2の固定具の連結操作時において、前記第1のねじ結合部と前記第2のねじ結合部の間のねじ結合が開始された後に、前記第1の係合結合部と前記第2の係合結合部の間の係合結合が開始されることが望ましい。
【0015】
本発明において、前記第1の係合結合部と前記第2の係合結合部は、前記係合位置において前記ねじ結合の軸線方向に係合結合可能に構成されることが好ましい。この場合において、前記第1の係合結合部と前記第2の係合結合部のうちの一方の係合結合部は、前記係合位置に設けられた前記軸線の周りの環状部が前記軸線方向に複数配列された係合構造を備え、他方の係合結合部は、前記環状部に対して前記軸線方向に係合可能な係合端部を備えることが望ましい。
【0016】
本発明において、前記環状部は環状溝若しくは環状突起であり、前記係合端部は弾性突起若しくは弾性凹部であることが好ましい。特に、前記環状部は環状溝であり、前記係合端部は前記環状溝に係合可能であることが望ましい。ここで、前記係合端部は弾性係合端で構成されることがさらに望ましい。この場合、前記弾性係合端は、前記軸線の周りのリング状の弾性係合体に設けられていることが好ましい。このとき、前記弾性係合端は、切り込み部などにより前記軸線周りに配列される態様で複数に分割されていることがさらに望ましい。また、前記弾性係合体は、前記軸線周りの所定箇所に切り欠き部を備える拡縮可能な、例えば、Cリング状の弾性体であってもよい。
【0017】
本発明において、前記第1の係合結合部と前記第2の係合結合部との間の前記係合位置における前記係合結合の係止力に基づく前記保持位置における保持力であって、前記相対的らせん運動の方向の前記ねじ結合の深さが増大する向きへの移動に抗する前記保持力は相対的に小さく、前記相対的らせん運動の方向の前記ねじ結合の深さが減少する向きへの移動に抗する前記保持力は相対的に大きいことが好ましい。
【0018】
本発明において、前記第1の骨係合部及び前記第2の骨係合部は、それぞれが、何らかの方法で骨に係合する構造を備えていればよく、例えば、骨の表面に係合するワッシャであっても、シャフト部よりも拡大されたヘッド部(ボルトヘッド)であってもよく、或いは、骨にねじ込むことにより係合するスクリューや釘などであってもよい。また、第1の骨係合部及び第2の骨係合部は、骨プレートであっても構わない。
【0019】
本発明において、前記第1の固定具と前記第2の固定具のうちの一方の固定具に回転係合した状態で接続可能に構成され、前記一方の固定具を前記ねじ結合の軸線の周りに回転操作するための工具をさらに具備することが好ましい。この場合には、前記工具は、前記一方の固定具に接続された状態において、前記ねじ結合の深さに応じて前記一方の固定具の内部を通して前記軸線に沿って移動する他方の固定具の端部が当接する先端部を備える検出軸と、該検出軸の位置により前記他方の固定具の前記端部の位置を表示する表示部と、を有することが望ましい。また、前記表示部では、前記他方の固定具の前記端部と連動する前記検出軸の位置により前記係合結合の有無が確認可能であることがさらに望ましい。さらに、前記表示部は、前記検出軸の基端部の位置を表示することが望ましい。
【発明の効果】
【0020】
この発明によれば、骨固定システムにおいて、第1の係合結合部と第2の係合結合部の間の係合結合の係止力から得られる保持力により、軸力が低下した状態であっても、第1のねじ結合部と第2のねじ結合部の間のねじ結合の緩みを防止できるため、骨折部の転位を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】骨固定システムの実施形態の全体構成を示す第1の固定具の側面図(a)及び端面図(b)並びに第2の固定具の側面図(c)及び端面図(d)である。
図2】同実施形態の第1の固定具を示す側面図(a)、端面図(b)及び断面図(c)である。
図3】同実施形態の第2の固定具を示す拡大縦側面図(a)並びに弾性係合体を拡大して示す断面図(b)及び端面図(c)である。
図4】同実施形態の第1の固定具と第2の固定具が異なるねじ結合の深さ位置で連結されている状態を示す図(a)~(d)である。
図5】第1の固定具に係合して操作するための工具を示す側面図(a)及び断面図(b)である。
図6】第2の固定具に係合して操作するための工具を示す側面図(a)及び断面図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、添付図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。最初に、図1乃至図3を参照して、本発明に係る骨固定システムの実施形態の全体構成について説明する。本実施形態の骨固定システム10は、図1に示すように、医療用のボルトを構成する第1の固定具11と、この第1の固定具11の第1の端部11aに対して第2の端部12aを向けて軸線方向に対向する姿勢で装着される、医療用のナットを構成する第2の固定具12とを有する。
【0023】
第1の固定具11は、図2に示すように、第1の端部11aと、この第1の端部11aの反対側の端部に設けられたヘッド部11bと、第1の端部11aとヘッド部11bの間に伸びるシャフト部11cとを有する。第1の端部11aには、第1のねじ結合部11aが設けられ、この第1のねじ結合部11aよりもさらに端縁側には、第1の係合結合部11aが形成される。ここで、第1の係合結合部11aと第1のねじ結合部11aとは、第1の端部11aから反対側の端部(ヘッド部11b)に向けて軸線方向に順番に(同軸に)配置されるように形成される。第1のねじ結合部11aは、軸線方向に所定のピッチで形成された雄ねじ11tを備える。また、第1の係合結合部11aは、軸線方向に複数の保持位置に対応する複数の環状溝を含む係合構造11gを備える。ここで、係合構造11gにおいて、図示例では、各環状溝の第1の端部11a側(図示左側)の内側面11gの軸線方向と直交する平面に対する傾斜角(図示例では40度)は大きく、各環状溝の第1の端部11aとは反対側(図示右側)の内側面11gの軸線方向と直交する平面に対する同傾斜角(図示例では5度)は小さい。
【0024】
第1の固定具11のヘッド部11bの端面には図5に示す回転操作用の工具13と係合可能な例えば六角穴状のソケット部11dが開口し、その奧部にはねじ穴11eが形成される。第1の固定具11は、図示のように、ガイドピンによって案内できるように貫通した軸孔を備えることが好ましい。また、ヘッド部11bには、ワッシャ状(板状)に構成され、骨の表面に係合可能となるように形成された第1の骨係合部11fが取り付けられる。この第1の骨係合部11fは、ヘッド部11bの外面上に角度変更可能(角度自在)に装着される。また、第1の骨係合部11fは、ヘッド部11bに対して軸線周りに回転可能に構成されることが好ましい。第1の骨係合部11fは、周囲に張り出したフランジ部11fを備えた環状の本体11fと、この本体11fの開口部の内面に形成された環状溝11fに装着された弾性リング11fとを備える。弾性リング11fは、図示例では切り欠き部を備えたCリング状に構成される。この弾性リング11fは、第1の骨係合部11fがヘッド部11bから第1の端部11aの側へ外れることを防止する外れ止め機能、或いは、ヘッド部11b上に保持する保持機能を果たす。なお、第1の骨係合部11fの本体11fは、ヘッド部11bに対して第1の端部11aとは反対側へ抜けない抜け止め機能を果たすように構成される。ここで、ヘッド部11bと第1の骨係合部11fとの間の角度変更動作を円滑化するために、ヘッド部11bの外面と、これに対面する本体11fの内面や弾性リング11fの内面はいずれも対応する凹凸の球面状に構成されることが好ましい。
【0025】
第2の固定具12は、図3に示すように、第2の端部12aと、この第2の端部12aの反対側の端部に設けられたヘッド部12bと、第2の端部12aとヘッド部12bの間に伸びるシャフト部12cとを有する。図示例では、第2の固定具12は、ボルトを構成する第1の固定具11に対応するナットを構成するので、シャフト部12cはシャフト部11cより短い。第2の固定具12は、軸線方向に貫通する軸孔12jを備える。当該軸孔12jの内面には、第2の端部12aの側の領域に第2のねじ結合部12aが設けられる。この第2のねじ結合部12aは、上記雄ねじ11tにねじ結合可能な雌ねじ12tを備える。なお、本実施形態では、第1の固定具11の第1の端部11aを第2の固定具12の第2の端部12aと軸線方向に対向させた姿勢で、第1の端部11aを第2の端部12aに挿入したとき、支障なく上記ねじ結合が可能となるように構成されている。
【0026】
また、上記軸孔12jには、上記第2のねじ結合部12aよりもヘッド部12bの側の領域に拡大孔部12kが形成される。この拡大孔部12kは、雌ねじ12tの内径よりも大きな内径を備える。拡大孔部12kの内部には、第2の係合結合部12bが形成される。この第2の係合結合部12bは、上記係合構造11gの環状溝に係合する弾性係合端12qを含む弾性係合体12pを備える。なお、図示例において、当該弾性係合体12pの弾性係合端12qは半径方向内側に突出するフック状の弾性突起で構成される。ただし、この弾性係合端12qは、第1の係合結合部11aの係合構造11gが環状突起で構成される場合には、弾性凹部で構成されていてもよい。弾性係合端12qの外周側には、弾性係合体12pを半径方向外側に変形可能とする空間が設けられる。なお、図示例では、弾性係合端12qの第2の端部12a側(図示左側)の外側面12qの軸線方向と直交する平面に対する傾斜角(図示例では40度)は大きく、第2の端部12aとは反対側(図示右側)の外側面12qの軸線方向と直交する平面に対する傾斜角(図示例では5度)は小さい。
【0027】
弾性係合体12pはリング状の弾性体により構成される。弾性体としては、金属や合成樹脂を用いることができるが、特に、医療用チタン合金などの金属であることが好ましい。弾性係合端12qは、主として、弾性係合体12pの筒状部分の弾性変形により、半径方向及び軸線方向に変形可能及び移動可能に構成される。弾性係合体12pは、一部に切り欠き部12sを備えたCリング状に構成されている。また、弾性係合端12qは、リング状の弾性係合体12pの第2の端部12aの側にある端縁から半径方向内側へ突出している。さらに、弾性係合体12pの内縁に周方向に間隔を持って複数の切り込み部12rが設けられることにより、上記弾性係合端12qは、軸線周りに分割された態様とされる。これにより、弾性係合体12pには、軸線周りに複数の弾性係合端12qが形成される。このように切り欠き部12sや切り込み部12rを設けると、弾性係合体12pがリング状に構成されているにも拘わらず、上記係合構造11gの隣接する保持位置の間を移動する際に、弾性係合体12pの塑性変形が防止されるとともに、各弾性係合端12qの軸線方向の弾性変形が容易になる。弾性係合体12pは、拡大孔部12k内に配置された環状の保持枠12uによって支持される。保持枠12uは、拡大孔部12kに形成された係止溝(環状溝)12vに係止された弾性体からなる係止リング12wによって拡大孔部12kの内面上に保持される。
【0028】
また、このヘッド部12bには、ワッシャ状(板状)に構成され、骨の表面に係合可能となるように形成された第2の骨係合部12fが取り付けられる。この第2の骨係合部12fは、ヘッド部12bの外面上に角度変更可能(角度自在)に装着される。また、第2の骨係合部12fは、ヘッド部12bに対して軸線周りに回転可能に構成されることが好ましい。第2の骨係合部12fは、周囲に張り出したフランジ部12fを備えた環状の本体12fと、この本体12fの開口部の内面に形成された環状溝12fに装着された弾性リング12fとを備える。弾性リング12fは、図示例では切り欠き部を備えたCリング状に構成される。この弾性リング12fは、第2の骨係合部12fの本体12fがヘッド部12bから第2の端部12aの側へ外れることを防止する外れ止め機能、或いは、ヘッド部12b上に保持する保持機能を果たす。なお、第2の骨係合部12fの本体12fは、ヘッド部12bに対して第2の端部12aとは反対側へ抜けない抜け止め機能を果たすように構成される。ここで、ヘッド部12bと第2の骨係合部12fとの間の角度変更動作を円滑化するために、ヘッド部12bの外面と、これに対面する本体12fの内面や弾性リング12fの内面はいずれも対応する凹凸の球面状に構成されることが好ましい。
【0029】
なお、本実施形態の場合には、雄ねじ11tと雌ねじ12tのねじ結合の深さが増減する際に、第1の固定具11と第2の固定具12は軸線周りに相対的らせん運動を行う。このとき、上記係合構造11gと弾性係合端12qの係合動作が上記の相対的らせん運動を妨げないように構成される。また、上記係合動作により各係合位置において得られる係止力により、上記相対的らせん運動の方向に沿って配列された複数の保持位置においてそれぞれ保持力が発生される。このような保持力を与えるために、上記第1の係合結合部11a2(係合構造11g)の各環状溝と第2の係合結合部12b1(弾性係合端12q)は、上記の複数の保持位置に対応する係合位置を備えるとともに、上記相対的らせん運動に伴って各係合位置の間を相対移動するために互いに係脱動作可能に構成される。ここで、上記係合構造11gと弾性係合端12qは上記ねじ結合の軸線方向に係合する構造となっているが、この構造の実際の相対的運動の軌跡は、弾性係合体12pが第2の固定具12において回転自在に取り付けられ、上記係合構造11gと弾性係合端12qが相互に回転しないように係合している場合と、弾性係合体12pが第2の固定具12に固定され、上記係合構造11gと弾性係合端12qが相互に回転自在に係合している場合とにおいて、相互に異なる。また、本実施形態のように、弾性係合体12pが第2の固定具12において回転可能に取り付けられるとともに、上記係合構造11gと弾性係合端12qが相互に回転可能に係合している場合とも異なるものと考えられる。しかし、上記構造が実際にどのような運動軌跡を採るかに拘わらず、上記構造は、第1の固定具11と第2の固定具12の間で生ずる相対的らせん運動の方向に沿って設定される上記複数の保持位置に対応する係合位置においてそれぞれ上記保持力に対応する係止力を与える。
【0030】
第1の骨係合部11f及び第2の骨係合部12fの上記の外れ止め機能は、以下の構造により達成される。すなわち、環状溝11f,12fは、弾性リング11f,12fの幅方向の全体を収容可能な深溝部11f3a,12f3aと、この深溝部11f3a,12f3aに対して、第1の端部11a及び第2の端部12aの反対側に連続して設けられた浅溝部11f3b,12f3bとを備える。ここで、深溝部11f3a,12f3aが弾性リング11f,12fを収容すると、ヘッド部11b,12bの最大外径部分が弾性リング11f,12fの内側を通過できるようになるが、浅溝部11f3b,12f3bが弾性リング11f,12fを収容しても、ヘッド部11b,12bの最大外径部分が弾性リング11f,12fの内側を通過することはできない。このため、第1の骨係合部11f,第2の骨係合部12fをヘッド部11b,12bの最大外径部分よりも第1の端部11a、第2の端部12aの側に配置した状態で、環状溝11f,12fに弾性リング11f,12fをセットしてから、第1の骨係合部11f,第2の骨係合部12fをヘッド部11b,12bに向けて第1の端部11a、第2の端部12aとは反対側(図示右側)に移動させる。すると、弾性リング11f,12fがヘッド部11b,12bに押されて深溝部11f3a,12f3aの側(図示左側)に移動し、そこで、深溝部11f3a,12f3a内に収容されるため、ヘッド部11b,12bの最大外径部分が弾性リング11f,12fの内側を通過できるので、図示の状態にすることができる。
【0031】
一方、図示の状態になると、第1の骨係合部11f,第2の骨係合部12fをヘッド部11b,12bの第1の端部11a、第2の端部12aの側(図示左側)に戻そうとしても、弾性リング11f,12fがヘッド部11b,12bに押されて浅溝部11f3b,12f3bの側(図示右側)に移動し、図示のように浅溝部11f3b,12f3b内に配置されるので、ヘッド部11b,12bの最大外径部分が弾性リング11f,12fの内側を通過することはできなくなる。このことから、第1の骨係合部11f,第2の骨係合部12fをヘッド部11b,12bの第1の端部11a、第2の端部12aの側に取り外すことはできなくなる。なお、このような第1の骨係合部11f及び第2の骨係合部12fの第1の端部11a及び第2の端部12aの側への外れ止め機能は、人手により容易には外れない程度の保持力があれば十分である。
【0032】
第1の固定具11において、上記第1のねじ結合部11aの雄ねじ11tの軸線方向の長さをL11、外径(雄ねじ11tのねじ山の外直径)をD11、上記第1の係合結合部11aの環状溝群からなる係合構造11gの軸線方向の長さをL12、外径(環状溝11dの溝形状の外側の基準面の外直径)をD12とする。また、第2の固定具12において、上記第2のねじ結合部12aの軸線方向の長さをL21、内径(雌ねじ12tのねじ山の内直径)をD21、上記第2の係合結合部12b(弾性係合端12q)の軸線方向の位置と上記第2のねじ結合部12aとの間隔をG22、上記第2の係合結合部12bの内径(弾性係合端12qの内直径)をD22とする。このとき、本実施形態では、L21+G22>L12が成立することにより、ねじ結合が生じ始めた初期状態を表す図4(a)に示すように、第1のねじ結合部11aと第2のねじ結合部12aとのねじ結合が開始された時点では、第1の係合結合部11aと第2の係合結合部12bとの係合結合が生じないように構成できる。この場合には、その後に、さらにねじ結合の深さを増大させると、図4(b)に示すように、第1の係合結合部11aと第2の係合結合部12bとの係合結合が開始される。したがって、本実施形態では、ねじ結合による連結状態が必ず存在し、この連結状態において、さらに弾性係合構造による軸線方向の係止力が与えられることになる。また、相対的らせん運動の方向に沿ったいずれかの保持位置に対応する係合位置において弾性係合による係止力が生じている状態では必ずねじ結合状態となっているため、第1の固定具11と第2の固定具12を、これらの間の相対的ならせん運動を生じさせるための回転操作によりねじ結合を介して生じた軸線方向の駆動力により、上記係止力が存在するにも拘わらず比較的容易に操作することができる。このねじ結合の深さが変化する際の操作性は、上述のように弾性係合端12qが切り欠き部12sや切り込み部12rにより周方向に分断されていることにより、さらに容易化される。
【0033】
また、本実施形態では、D21 11 が成立することにより、第1の端部11aを第2の端部12aに挿入する際に、第1の係合結合部11a(係合構造11g)が第2のねじ結合部12a(雌ねじ12t)のねじ山と抵触しなくなるため、支障なく、第1のねじ結合部11a(雄ねじ11t)と第2のねじ結合部12a1(雌ねじ12t)とをねじ結合させることが可能になる。なお、このように構成するには、ねじ結合を可能にするために 12 >D21でなければならないことから、D11>D12が成立している必要がある。
【0034】
また、上記拡大孔部12kの内径をD20とすると、雌ねじ12tの内径D21との間にD20>D21が成立するように、内径D20を大きく設定することが好ましい。これにより、D20-D22が大きくなるので、弾性係合端12q及びこれを外周側へ変形可能とする空間を確保しやすくなる。ここで、D20-D22=(D20-D21)+(D21-D22)であるから、半径方向の弾性係合構造の収容余裕は、この式の第1項と第2項の加算により求められる。したがって、D20が大きくなることによりD20-D21の上記第1項が増大して弾性係合構造の収容余裕が大きくなるという有利な効果が得られ、その結果、ナットに相当する第2の固定具12の小径化がさらに容易化される。なお、前述のD11>D12の条件が満たされる場合には、係合構造11gが雄ねじ11tより小径化された分だけ、これに係合する弾性係合端12qの内径D22が雌ねじ12tより小径化できるから、上記第2項の増加によっても、上記と同様の効果が得られる。これらの効果は、一般に、ねじ結合に要する構造よりも係合結合に要する構造の方が複雑化、大径化しやすいために、係合結合のための半径方向の収容余裕を確保することが、第2の固定具12を小径化する余地が大きいという理由に基づく。
【0035】
さらに、本実施形態では、第1の固定具11において、第1のねじ結合部11aと第1の係合結合部11aとが軸線方向に隣り合うように配置され、これに対応して、第2の固定具12において、第2のねじ結合部12aと第2の係合結合部12bとが軸線方向に隣り合うように配置される。このようにすると、軸線方向に沿った長さは増大するものの、ねじ結合が生ずる部分と(弾性)係合結合が生ずる部分とを軸線方向に別々に構成できるので、構造を簡易化できる。また、第1の端部11a側に第1の係合結合部11aを、反対側に第1のねじ結合部11aを配置し、第2の端部12a側に第2のねじ結合部12aを、反対側に第2の係合結合部12bを配置している。これにより、第1の固定具11よりもシャフト部12cが短い第2の固定具12において、より大きな外径を持つように構成できるヘッド部12bの側に第2の係合結合部12bを配置できるので、やはり第2の固定具12を小径化しやすくなる。骨固定システムにおいてインプラントの小径化は患者の負担を軽減できる点で重要である。
【0036】
本実施形態では、第1の固定具11の第1のねじ結合部11a(雄ねじ11t)を第2の固定具12の第2のねじ結合部12a(雌ねじ12t)にねじ結合させるために、連結操作時において、第1のねじ結合部11aと第2のねじ結合部12aを相対的に軸線周りにらせん運動させる必要がある。このため、第1のねじ結合部11aと第2のねじ結合部12aが相対的に軸線周りにらせん運動することが許容されるとともに、少なくとも、第1の係合結合部11a(係合構造11g)と第2の係合結合部12b(弾性係合端12q)が支障なく上記の複数の保持位置に対応する係合位置において係合結合し、それによって保持力に対応する係止力を発生しなければならない。このようにするには、第1の係合結合部11aと第2の係合結合部12bとが、上記相対的らせん運動の方向に係止力の成分を生ずる態様で相互に係合するとともに、その係合態様が相対的らせん運動を許容する構造となっている必要がある。前述のように、本実施形態では、係合構造11gと弾性係合端12qとが軸線方向に相互に係合する構造を備える。相対的らせん運動の方向に係止力の成分を生ずる態様における係合方向の例としては、本実施形態のような上記の軸線方向の他に、軸線周りの方向、相対的らせん運動に沿った方向などが挙げられる。いずれの方向に係合する場合であっても、その係合結合により生じた係止力が相対的らせん運動の方向に沿った成分を有する限り、複数の保持位置において第1の固定具11と第2の固定具12の間に保持力が与えられる。また、相対的らせん運動の方向に沿った複数の保持位置の間を第1の固定具11と第2の固定具12が相対移動する際には、上記保持位置に対応する係合位置において軸線方向に係合する係合構造11gと弾性係合端12qとが係脱動作を繰り返しながら相対移動する。
【0037】
また、本実施形態においては、複数の係合位置における係止力の発生を妨げずに、上記相対的らせん運動を許容するために、係合構造11gと弾性係合端12qとが、上記の軸線方向の係合結合態様の係脱動作可能な構成に加えて、軸線周りに互いに回転可能な構造となっているか、或いは、第2の固定具12(雌ねじ12t)と弾性係合体12pとが軸線方向には固定され、軸線周りには回転可能となっている。ただし、本実施形態とは異なるが、第1固定具11(雄ねじ11t)と係合構造11gとが軸線方向には固定され、軸線周りには回転可能となっていてもよい。なお、上述のように、第2の固定具12(第2のねじ結合部12a)と第2の係合結合部12bとが軸線方向には固定され、軸線周りには回転可能となっているか、若しくは、第1の固定具11(第1のねじ結合部11a)と第1の係合結合部11aとが軸線方向には固定され、軸線周りには回転可能となっている場合には、係合結合のための構造に関する制約や、当該構造とねじ結合のための構造との関係に関する制約を低減できるという利益がある。
【0038】
また、本実施形態では、第1の固定具11の第1のねじ結合部11a(雄ねじ11t)を第2の固定具12の第2のねじ結合部12a(雌ねじ12t)のねじ結合に対する相対的な回転操作により、第1の骨係合部11fのフランジ部11fと第2の骨係合部12fのフランジ部12fとの間隔Gpを適宜に設定することができるため、図4(b)~(d)に示すように、骨折部(例えば、長幹骨の顆部)Bfを状況に合わせて適切に両側から保持固定することが可能になる。そして、このとき、第1の係合結合部11a(係合構造11g)と第2の係合結合部12b(弾性係合端12q)が相互に弾性係合することにより、軸線方向の複数の係合位置で保持機能を発揮し、軸線方向の係止力を発生するため、軸力とは無関係に、当該係止力に基づく相対的らせん運動の方向の保持力により、上記ねじ結合の緩みを防止できる。また、上記の軸線方向の係止力は、ねじ結合による連結状態に重畳的に与えられることから、全体として大きな保持固定力を得ることができるため、手術後の早期のリハビリなどの際の高い負荷に耐えることも可能になる。
【0039】
第1の固定具11と第2の固定具12からなる本実施形態の骨固定システム10は、図4に示すように骨折部Bfにドリルやリーマなどの穿孔具を用いて図示しない貫通孔を形成し、当該貫通孔に第1の固定具11を挿入し、反対側から第2の固定具12を連結することによって装着できる。この場合、第1の固定具11は、図5に示す回転操作用の工具13に装着し、第2の固定具12は、図6に示す回転操作用の工具14に装着した状態で操作する。
【0040】
工具13は、第1の固定具11のヘッド部11bのソケット部(六角穴)11dに対して軸線周りに係合する回転係合部(六角ヘッド)13aを先端に備える本体軸13bと、この本体軸13bの基端に設けられる把持部13cと、本体軸13bの内部を貫通する軸孔を通して回転係合部13aのさらに先端側へ突出する雄ねじ部13dを備える係合軸13eとを備える。係合軸13eは、把持部13cの基端から突出する操作端13fを備える。係合軸13eは、本体軸13bに対して軸線方向の基端側にのみ移動可能、かつ、回転可能に挿入されている。このため、工具13の回転係合部13aをソケット部11dに係合させた状態で、係合軸13eの先端の雄ねじ部13dをねじ穴11eにねじ込むことにより、本体軸13bと係合軸13eにより第1の固定具11を工具13の先端に保持固定することができる。
【0041】
工具14は、第2の固定具12のヘッド部12bに設けられたソケット部(六角穴)12dに対して軸線周りに係合する回転係合部(六角ヘッド)14aを先端に備える本体軸14bと、この本体軸14bの軸孔内に挿通され、上記回転係合部14aの内側で係合球14sを内側から支持する先端部を備えた駆動軸14cと、本体軸14bの基端に設けられる把持部14dと、駆動軸14cの軸孔内を通して回転係合部14aよりさらに先端側へ突出する先端部14eを備える検出軸14fとを備える。検出軸14fは、把持部14dの基端から突出する表示部14g内に配置される基端部14hを備える。検出軸14fは、本体軸14bに対して軸線方向先端側にコイルばねなどの弾性材14iにより付勢された状態で軸線方向に移動可能に挿入されている。
【0042】
駆動軸14cは上記本体軸14bに螺合したロック操作部14jを先端側へ移動させると摺動リング14kを介して先端側へ押し出されるように構成されるとともに、係合球14sを半径方向内側から支持する先端部も先端側へ移動することにより、係合球14sの支持箇所が小径部から大径部へ変化するように構成されている。これにより、第2の固定具12のソケット部12dに回転係合部14aを挿入した状態で、上記ロック操作部14jを回転させて先端側へ移動させると、駆動軸14cも先端側へ移動し、この駆動軸14cの先端部に支持された係合球14sが当該先端部の小径部上から大径部上に移動するため、回転係合部14aに設けられた開口14zから係合球14sが外側へ突出し、第2の固定具12のソケット部12dの内面に設けられた凹部12z(図3(a)参照)に嵌合することで、第2の固定具12が工具14に保持固定される。
【0043】
上述のようにして、第1の固定具11を工具13に保持固定し、第2の固定具12を工具14に保持固定した状態で、第1の固定具11の第1の端部11aと、第2の固定具12の第2の端部12aとを骨折部Bfに形成された貫通孔を通して軸線方向に対向させた位置関係に設定する。このとき、貫通孔を穿孔する際に用いたガイドピンをそのまま用いて第1の固定具11や第2の固定具12の導入を案内することも可能である。なお、本実施形態の骨固定システム10は、単独で種々の骨折部Bfに適用することができるが、例えば、長管骨に挿入された髄内釘の横断孔に骨固定システム10を挿通した状態で、当該髄内釘が挿入された骨折部Bfに適用することもできる。このように骨固定システム10を髄内釘の横断孔に挿通して用いる場合には、図示しないターゲット装置を使用して位置決めされたガイドピンや案内スリーブなどに案内された状態で上記横断孔と整合する貫通孔を形成する。
【0044】
第1の固定具11の第1の端部11aと、第2の固定具12の第2の端部12aとを骨折部Bfに形成された貫通孔を通して軸線方向に対向させた位置関係に設定したら、工具13と工具14を同時に使用して第1の固定具11と第2の固定具12を同軸上で相対的に回転操作し、第1のねじ結合部11aと第2のねじ結合部12aをねじ結合させていく。図4(a)のようにねじ結合が開始された後に、図4(b)~(d)に示すように、第1の係合結合部11aと第2の係合結合部12bとが弾性係合し、弾性係合体12pの弾性係合端12qが係合構造11g上の複数の保持位置に対応する係合位置のいずれかに係合する。ここで、骨折部Bfの上記間隙Gpの大小により、上記ねじ結合のねじ込み深さを変えて骨折部Bfを締め付けることで、骨折部Bfを保持することができる。
【0045】
このとき、係合構造11gの環状溝の内側面11gと、これに対面する弾性係合端12qの外側面12qは、前述のように軸線方向に向けて大きく傾いているため、第1の固定具11と第2の固定具12のねじ結合の深さが増大する方向に相対移動する際に弾性係合体12pが変形されやすくなり、弾性係合端12qが外周側へ容易に移動する。したがって、このときの各係合位置における係止力が小さくなることから、第1の固定具11と第2の固定具12が上記ねじ結合のねじ込み深さが増大する向きに相対移動するときの各保持位置における保持力(抵抗力)は小さい。一方、係合構造11gの環状溝の内側面11gと、これに対面する弾性係合端12qの外側面12qは前述のように軸線方向に向けた傾きが小さいため、第1の固定具11と第2の固定具12が上記ねじ結合のねじ込み深さが減少する向きに相対移動するときの各係合位置における係止力が大きくなることから、このときの各保持位置における保持力(抵抗力)は大きくなる。これにより、第1の固定具11と第2の固定具12を締め付けていくときにはねじ込みに必要な締め付けトルクは小さいが、ねじ結合のねじが緩む方向の保持力は大きいために、ねじ結合の軸力が低下したり失われたりししても、ねじの緩みは発生しにくい。ただし、骨固定システム10の抜去時などにおいては、多少の操作トルクは必要になるものの、第1の固定具11と第2の固定具12のねじ結合を解除することは可能である。
【0046】
なお、第1の係合結合部11a(係合構造11g)と第2の係合結合部12b(弾性係合端12q)との間の係合結合の態様は、図示例の場合、係合構造11gの環状溝の谷内径と弾性係合端12qの先端内径がほぼ同様で、弾性係合構造の半径方向の弾性変形がほとんどない状態で相互に回転可能に係合するように構成されている。これにより、相互の回転時の摺動抵抗はほとんどなくなるので、係合結合部の摩擦による影響がねじ結合のための回転操作の妨げにはなりにくいように構成される。一方、上記の弾性係合構造を半径方向に弾性変形した状態で係合するように設計すれば、係合構造11gの内面と弾性係合端12qの先端とが弾性力により半径方向に常時押し付けられた状態となるので、係合結合部に摩擦による摺動抵抗が発生し、静止摩擦も増大することになる。このため、ねじ結合の緩み止め効果を更に高めることができる。なお、係合結合構造(相互に係合する一対の構造のうちの少なくとも一方が弾性係合構造を備えた弾性係合結合構造)は、図示例の係合構造11gと弾性係合端12qに限らず、ラッチ構造として機能するものであればよく、直線状のラック構造とフック、ラック構造同士などの種々の構造を用いることができる。
【0047】
また、図4(d)に示すように、骨折部Bfに対応する間隔Gpが第1の固定具11の長さより小さい場合には、最終的に第1の端部11aが第2の固定具12の基端より突出する場合がある。しかし、その突出量が大きすぎると、手術後に患者に疼痛などを与える虞がある。このため、工具14では、第1の端部11aの突出により基端側へ押し込まれる検出軸14fの基端部14hが表示部14gにおいて突出するように視認されることで、第1の端部11aの突出量を知ることができるようにしている。当該突出量が過剰であれば、より短い第1の固定具11に交換することが好ましい。ここで、上記検出軸14fの先端部の突出量を適宜に設定することで、より広いねじ結合の深さ範囲において、第1の固定具11の第1の端部11aを第2の固定具12の内部(軸孔12j)を通して検出軸14fの先端部に当接可能とすることができる。このようにすると、工具14に第2の固定具12を保持固定した状態で、表示部14gにおいて基端部14hの位置を見ることにより、より広い範囲でねじ結合の深さを手元(表示部14g)で知ることができる。また、第1の係合結合部11a(係合構造11g)に第2の係合結合部11b(弾性係合端12q)が係合結合したか否か(例えば、図4(c)の状態か、図4(a)の状態か)を、第1の端部11aにより押し込まれる検出軸14fの基端部14hの位置により、上記表示部14gにおいて知ることができるように構成することもできる。
【0048】
なお、本発明に係る骨固定システムは、上述の図示例のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、上記実施形態では、第1の骨係合部11fと第2の骨係合部12fはいずれも骨の表面に係合するワッシャとして機能するものであるが、第1の骨係合部及び第2の骨係合部としては、骨に係合するものであればどのようなものであってもよく、例えば、骨にねじ込まれるスクリュー構造や釘構造、ボルトや骨ねじのヘッド構造、骨プレートなどであっても構わない。
【0049】
また、図示例では、第1のねじ結合部と第1の係合結合部、並びに、第2のねじ結合部と第2の係合結合部をそれぞれ軸線方向に配列させているが、上記のねじ結合のための回転可能な構成条件を充足すれば、例えば、第1のねじ結合部と第1の係合結合部、並びに、第2のねじ結合部と第2の係合結合部を軸線方向の同じ領域に重ねて設ける(例えば軸線周りの角度位置を相互に変えて設ける)ことも可能である。
【0050】
さらに、図示例では、複数の保持位置に対応する係合位置を構成する係合構造11gに対して、係合構造11gのうちの一つの対応する係合位置にのみ係合する弾性係合端12qを有する。しかし、この弾性係合端12qの代わりに、第2の係合結合部において、上記第1の係合結合部の複数の保持位置に対応する複数の係合位置に同時に係合する複数の(弾性)係合端を設けてもよい。
【0051】
本発明は、従来の特許文献3に開示されているように、両端に雄ねじを備えた挿入ロッドに一対のワッシャ付きのナットを装着するようなシステムにも適用できる。この場合において、挿入ロッドの両端のうちのいずれか一方のみに係合結合のための構造を設けるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0052】
10…骨固定システム、11…第1の固定具、11a…第1の端部、11a…第1のねじ結合部、11a…第1の係合結合部、11b…ヘッド部、11c…シャフト部、11d…ソケット部、11e…ねじ穴、11f…第1の骨係合部、11f…フランジ部、11f…本体、11f…環状溝、11f…弾性リング、11t…雄ねじ、11g…環状溝群、12…第2の固定具、12a…第2の端部、12a…第2のねじ結合部、12b…ヘッド部、12b…第2の係合結合部、12c…シャフト部、12d…ソケット部、12f…第2の骨係合部、12f…フランジ部、12f…本体、12f…環状溝、12f…弾性リング、12t…雌ねじ、12j…軸孔、12k…拡大孔部、12p…弾性係合体、12q…弾性係合端、12r…切り込み部、12s…切り欠き部、12u…保持枠、12v…係止溝、12w…係止リング
図1
図2
図3
図4
図5
図6