(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-07
(45)【発行日】2023-03-15
(54)【発明の名称】前癌病変又は癌の有無の予測を補助する方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6851 20180101AFI20230308BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20230308BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20230308BHJP
C12N 15/54 20060101ALI20230308BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20230308BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20230308BHJP
【FI】
C12Q1/6851 Z
C12Q1/686 Z
C12N15/09 Z
C12N15/54 ZNA
C12N15/12
G01N33/50 P
(21)【出願番号】P 2018236928
(22)【出願日】2018-12-19
【審査請求日】2021-09-10
(31)【優先権主張番号】P 2017242407
(32)【優先日】2017-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(72)【発明者】
【氏名】末廣 寛
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 隆弘
(72)【発明者】
【氏名】星田 朋美
【審査官】小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/132844(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0129523(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0148644(US,A1)
【文献】国際公開第2017/043497(WO,A1)
【文献】特表2016-500521(JP,A)
【文献】国際公開第2016/209011(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2002/0192642(US,A1)
【文献】特表2015-521482(JP,A)
【文献】日本外科学会雑誌, 2006, 107巻, 臨時増刊号(2),p.443 (PS-040-8)
【文献】Hepatol. Int., 2013, Vol.7, pp.1050-1057
【文献】Annals of Oncology, 2011, Vol.22, Suppl.5, p.v46 (P-0077)
【文献】Clin. Invest. Med., 2011, Vol.34, No.4, pp.E238-E244
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12Q 1/00- 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程(a)及び(b)を備えたことを特徴とする、被検対象における前癌病
変の有無の予測を補助する方法
であって、前記前癌病変が、大腸の進行腺腫、胃の過形成ポリーブ若しくは胃腺腫である、前記方法。
(a)被検対象から採取された
血清又は血漿中の二本鎖DNAの濃度又は量を測定する工程;
(b)工程(a)で測定した二本鎖DNAの濃度又は量が所定のカットオフ値以上の場合に、被検対象において前癌病
変を有するとの予測を補助する工程;
【請求項2】
所定のカットオフ値が、健常者から採取された
血清又は血漿中の二本鎖DNAの濃度又は量の中央値、平均値、又は、所定のパーセンタイル値であることを特徴とする請求項
1記載の被検対象における前癌病
変の有無の予測を補助する方法。
【請求項3】
以下の工程(c)及び(d)を備えたことを特徴とする、被検対象における前癌病
変の有無の予測を補助する方法
であって、前記前癌病変が、大腸の進行腺腫、胃の過形成ポリーブ若しくは胃腺腫である、前記方法。
(c)被検対象から採取された
血清又は血漿中のヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)遺伝子のコピー数を測定する工程;
(d)工程(c)で測定したhTERT遺伝子のコピー数が所定のカットオフ値以上の場合に、被検対象において前癌病
変を有するとの予測を補助する工程;
【請求項4】
所定のカットオフ値が、健常者から採取された
血清又は血漿中のhTERT遺伝子のコピー数の中央値、平均値、又は、所定のパーセンタイル値であることを特徴とする請求項
3記載の被検対象における前癌病
変の有無の予測を補助する方法。
【請求項5】
工程(c)が、被検対象から採取された血清又は血漿中のヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)遺伝子のコピー数を、DNAを抽出せずに測定する工程であることを特徴とする請求項3又は4記載の被検対象における前癌病変の有無の予測を補助する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明、被検対象における前癌病変又は癌の有無の予測を補助する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
厚生労働省が毎年行っている「人口動態統計」によれば、癌(悪性新生物)は、日本人の死因の1位を占めており、2位が心疾患、3位が肺炎である。平成25年度統計結果では、癌による死亡者数は年間36万人を超え、ほぼ3人に1人が癌で死亡していることになる。また、臓器別に見ると、男女で多少差があるものの、近年は大腸癌(結腸癌と直腸癌の合計)、肺癌、肝臓癌、胃癌で癌死亡率(人口10万人に対して)が高い傾向にある。
【0003】
癌は早期の発見がその治療にとっては何より重要であり、これまでに多くの検査手法が開発されてきた。主な検査手法としては、たとえば大腸癌の場合には便潜血検査、血液検査、直腸指診、大腸内視鏡を用いた診断などがある。しかしながら、大腸癌で広く用いられる便潜血検査は早期の癌の検出感度が低いという問題があった。また、大腸癌及び胃癌で広く用いられる内視鏡検査では、内視鏡検査に対する被検者の抵抗感が高いという問題があった。
【0004】
こうしたなか本発明者らは、大腸癌の検査についてこれまで研究を進めてきた。まず、便潜血検査によらずに大腸癌の予後予測をする方法として、Twist homolog 1(Drosophila)遺伝子及び/又はEnhancer of zeste homolog2(Drosophila)遺伝子の発現上昇を検出する、大腸癌の予後予測方法(特許文献1参照)を開示した。しかしながら、上記方法は患者の組織を切除する必要があり、侵襲性が高いという問題があった。
【0005】
一方、癌に至らなくても、腺腫を有している状態が把握できれば、その後の経過を注意深く観察することで、たとえその後、癌になった場合でも初期段階での治療が可能となり、予後が良好となる可能性が高まる。また、腺腫の段階で内視鏡切除することで、癌の発生が減ると共に癌死亡率も減ることが報告されている。
【0006】
そこで、本発明者らは、Twist homolog 1の所定領域内の1又は2以上のCpG配列のメチル化の頻度を測定することで大腸腫瘍の有無を予測する方法(特許文献2参照)を開示した。
【0007】
また、本発明者らは、便中あるいは血清中のTWIST1、NDRG4、BMP3、又はSEPT9遺伝子のメチル化の検出による大腸腫瘍の有無を予測する方法を開示した(特許文献3参照)。しかしながら、上記方法ではメチル化解析のためにDNAの制限酵素処理が必要であった。
【0008】
ところで、近年、血漿中や血清中のDNAと癌との関係についても研究が進められている。たとえば、非特許文献1には、(1)血清中のDNA量が腫瘍マーカーCEAと正の相関があること、(2)手術切除後に血清中DNA量が低下し、癌が再発した時には血清中DNA量が増加することが開示されている。また、非特許文献2には、(1)血漿中のDNA量が大腸癌患者で増加していること、(2)血漿中の長鎖DNA断片/短鎖DNA断片比が大腸癌患者で増加していることが開示されている。しかしながら、いずれの文献も腺腫と血清中DNA量や血漿中DNA量との関係は検討されていない。また、いずれの文献も進行が進んだ大腸癌患者の結果に過ぎず、癌初期段階での結果は示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2011-067130号公報
【文献】国際公開第2010/113529号パンフレット
【文献】国際公開第2017/043497号パンフレット
【非特許文献】
【0010】
【文献】Quantitative and qualitative characterization of plasma DNAidentifies primary and recurrent colorectal cancer. Cancer Letters 263 170-181,2008
【文献】Increased integrity of free circulating DNA in sera ofpatients with colorectal or periampullary cancer: direct quantitative PCR forALU repeats. Clinical Chemistry 52:6 1062-1069, 2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、被検対象の生体試料から得られたDNAを解析することで、被検対象における前癌病変又は癌の有無の予測を補助する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
腫瘍の予後予測マーカーがいくつかこれまで開発されてきているが、腫瘍の予後予測マーカーはあくまで進行癌の有無の予測で用いられること、及び前癌病変は通常完治できることから予後予測の必要性が乏しかったことから、腫瘍の予後予測マーカーを前癌病変の有無の予測に使えるとは通常考えにくい。そのため前癌病変の有無を予測するには、腫瘍の予後予測マーカーとは全く別に前癌病変の有無を予測する方法を検討する必要があった。そこで本発明者らは、まず血清中のhTERT遺伝子のコピー数に着目し、かかるhTERT遺伝子のコピー数に基づいて大腸癌だけでなく前癌病変である大腸腺腫であっても予測可能であることを見出した。また、血清中のhTERT遺伝子のコピー数が血清中の二本鎖DNAの濃度と正の相関を示すことを明らかにし、血清中の二本鎖DNAの濃度に基づいて大腸腺腫の有無も予測可能であることを見出した。さらに、大腸癌以外にも検討を進めた結果、胃癌や肝臓癌においても血清中のhTERT遺伝子のコピー数や二本鎖DNAの濃度に基づいて前癌病変又は癌も予測可能であることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
(1)以下の工程(a)及び(b)を備えたことを特徴とする、被検対象における前癌病変又は癌の有無の予測を補助する方法。
(a)被検対象から採取された生体試料中の二本鎖DNAの濃度又は量を測定する工程;
(b)工程(a)で測定した二本鎖DNAの濃度又は量が所定のカットオフ値以上の場合に、被検対象において前癌病変又は癌を有するとの予測を補助する工程;
(2)前癌病変又は癌の有無の予測における癌が胃癌又は肝臓癌であることを特徴とする上記(1)記載の被検対象における前癌病変又は癌の有無の予測を補助する方法。
(3)所定のカットオフ値が、健常者から採取された生体試料中の二本鎖DNAの濃度又は量の中央値、平均値、又は、所定のパーセンタイル値であることを特徴とする上記(1)又は(2)記載の被検対象における前癌病変又は癌の有無の予測を補助する方法。
(4)生体試料が血清又は血漿であることを特徴とする上記(1)~(3)のいずれか記載の被検対象における前癌病変又は癌の有無の予測を補助する方法。
(5)以下の工程(c)及び(d)を備えたことを特徴とする、被検対象における前癌病変又は癌の有無の予測を補助する方法。
(c)被検対象から採取された生体試料中のヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)遺伝子のコピー数を測定する工程;
(d)工程(c)で測定したhTERT遺伝子のコピー数が所定のカットオフ値以上の場合に、被検対象において前癌病変又は癌を有するとの予測を補助する工程;
(6)前癌病変又は癌の有無の予測における癌が胃癌又は肝臓癌であることを特徴とする上記(5)記載の被検対象における前癌病変又は癌の有無の予測を補助する方法。
(7)所定のカットオフ値が、健常者から採取された生体試料中のhTERT遺伝子のコピー数の中央値、平均値、又は、所定のパーセンタイル値であることを特徴とする上記(5)又は(6)記載の被検対象における前癌病変又は癌の有無の予測を補助する方法。
(8)生体試料が血清又は血漿であることを特徴とする上記(5)~(7)のいずれか記載の被検対象における前癌病変又は癌の有無の予測を補助する方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、被検対象における前癌病変又は癌の有無の予測を非侵襲的、低コスト、簡易に補助することが可能となる。特に、本発明によれば、前癌病変や癌の初期段階でも、前癌病変又は癌であることを予測することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例1において、正常(Control)、非進行腺腫(Non-advanced adenoma)、進行腺腫(Advanced adenoma)、又は、大腸癌(Colorectal cancer(CRC))と判断された患者それぞれにおける血清中のhTERT遺伝子のコピー数の結果を示す図である。
【
図2】実施例1において、(Control)に対する進行腺腫(Advanced adenoma)とのROC曲線の結果を示す図である。
【
図3】実施例3において、血清中の二本鎖DNA濃度(ng/μL:DNAサンプル溶液1μL(血清8μLに相当)あたりの二本鎖DNA含量)と血清中のhTERT遺伝子のコピー数との関係を求めた図である。
【
図4】実施例4において、正常(Control)、非進行腺腫(Non-advanced adenoma)、進行腺腫(Advanced adenoma)、又は、大腸癌(Colorectal cancer(CRC))と判断された患者それぞれにおける血清から抽出した二本鎖DNA濃度(ng/μL:DNAサンプル溶液1μL(血清8μLに相当)あたりの二本鎖DNA含量)の結果を示す図である。
【
図5】実施例4において、正常(Control)に対する進行腺腫(Advanced adenoma)とのROC曲線の結果を示す図である。
【
図6】実施例5において、血清サンプルからDNA抽出を行わずに、ダイレクトにデジタルPCRを行った場合のデジタルPCRの生データを示す図である。1つのドットが1つのドロップレットの蛍光量を示す。
【
図7】実施例5において、血清サンプルからDNA抽出を行わずに、ダイレクトにデジタルPCRを行った場合の各サンプルのhTERT遺伝子のコピー数を示す図である。
【
図8】実施例6において、正常(Control)、胃の過形成ポリープ(Hyperplastic polyp)、胃腺腫(adenoma)、又は、胃癌(Gastric cancer)と判断された患者それぞれにおけるhTERT遺伝子のコピー数の結果を示す図である。
【
図9】実施例6において、正常(Control)に対する胃癌(Gastric cancer)とのROC曲線の結果を示す図である。
【
図10】実施例7において、血清中の二本鎖DNA濃度(ng/μL:DNAサンプル溶液1μL(血清8μLに相当)あたりの二本鎖DNA含量)と血清中のhTERT遺伝子のコピー数との関係を求めた図である。
【
図11】実施例8において、正常(Control)、胃の過形成ポリープ(Hyperplastic polyp)、胃腺腫(adenoma)、又は、胃癌(Gastric cancer)と判断された患者それぞれにおける血清から抽出した二本鎖DNA濃度(ng/μL:DNAサンプル溶液1μL(血清8μLに相当)あたりの二本鎖DNA含量)の結果を示す図である。
【
図12】実施例8において、正常(Control)に対する胃癌(Gastric cancer)とのROC曲線の結果を示す図である。
【
図13】実施例9において、正常(Control)、慢性肝障害、又は、肝臓癌と判断された患者それぞれにおける血清中の二本鎖DNA濃度(ng/μL:DNAサンプル溶液1μL(血清8μLに相当)あたりの二本鎖DNA含量)をまとめた結果を示す図である。
【
図14】実施例9において、正常(Control)に対する慢性肝障害とのROC曲線の結果を示す図である。
【
図15】実施例9において、正常(Control)に対する肝臓癌とのROC曲線の結果を示す図である。
【
図16】実施例9において、慢性肝障害に対する肝臓癌とのROC曲線の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、(a)被検対象から採取された生体試料中の二本鎖DNAの濃度又は量を測定する工程;(b)工程(a)で測定した二本鎖DNAの濃度又は量が所定のカットオフ値以上の場合に、被検対象において前癌病変又は癌を有するとの予測を補助する工程;の工程(a)及び(b)を備えたことを特徴とする、被検対象における前癌病変又は癌の有無の予測を補助する方法や、(c)被検対象から採取された生体試料中のhTERT遺伝子のコピー数を測定する工程;(d)工程(c)で測定したhTERT遺伝子のコピー数が所定のカットオフ値以上の場合に、被検対象において前癌病変又は癌を有するとの予測を補助する工程;以下の工程(c)及び(d)を備えたことを特徴とする、被検対象における前癌病変又は癌の有無の予測を補助する方法であり、かかる方法により被検対象における前癌病変又は癌の有無の予測を非侵襲的、低コスト、簡易に補助することが可能となる。
【0017】
本発明において、「癌」とは、大腸癌(結腸癌又は直腸癌)、胃癌、肝臓癌、脳腫瘍、肺癌(腺癌、扁平上皮癌、腺扁平上皮癌、未分化癌、大細胞癌、小細胞癌)、食道癌、十二指腸癌、小腸癌、皮膚癌、乳癌、前立腺癌、膀胱癌、膣癌、子宮頸部癌、子宮体癌、腎臓癌、膵臓癌、脾臓癌、気管癌、気管支癌、頭頚部癌、胆嚢癌、胆管癌、精巣癌、卵巣癌などの癌、骨組織・軟骨組織・脂肪組織・筋組織・神経組織・血管組織及び造血組織の癌(軟骨肉腫、ユーイング肉腫、悪性血管内皮腫、悪性シュワン腫、骨肉腫、軟部組織肉腫などの肉腫や、肝芽腫、髄芽腫、腎芽腫、神経芽腫、膵芽腫、胸膜肺芽腫、網膜芽腫などの芽腫や、胚細胞腫瘍や、リンパ腫や、白血病)を挙げることができ、大腸癌、胃癌、肝臓癌を好適に挙げることができ、大腸癌をより好適に挙げることができる。
【0018】
本発明において、「前癌病変」とは、正常組織よりも癌を発生しやすい状態へと形態学的に変化した組織を意味する。なお、上記「前癌病変」における癌は、上記「癌」として挙げたそれぞれの癌を挙げることができる。具体的には、大腸癌の前癌病変としては、大腸の進行腺腫(Advanced adenoma)、胃癌の前癌病変としては、癌化との関連性が認められる1mm以上の過形成ポリープ(Hyperplastic polyp)や5mm以上の胃腺腫(adenoma)、肝臓であれば慢性肝障害、乳腺であれば慢性乳腺症、子宮頚部であれば子宮頚部の異形成を挙げることができる。
【0019】
なお、上記大腸における前癌病変又は癌の発生する組織としては、盲腸、結腸、直腸、肛門等を挙げることができる。
【0020】
「前癌病変又は癌」とは、「前癌病変」と「癌」のいずれかであることを意味し、癌にはステージIIIやIVの段階だけでなく、ステージ0やIやIIの段階の癌も含まれる。換言すれば、癌が進行してステージIIIやIVの段階にならなくても、早期発見による治療によって死亡率が低下する前癌病変やステージ0やIやIIの段階でその病態を把握し、その後の癌の予後や治療が可能となる。
【0021】
生体試料としては、血清、血漿、血液、唾液、尿などを挙げることができ、血清又は血漿を好適に挙げることができる。
【0022】
生体試料中の二本鎖DNAを抽出する方法としては、フェノール抽出法、フェノール・クロロホルム抽出法、アルカリ溶解法等や、市販のDNA抽出試薬を用いる方法を挙げることができる。
【0023】
生体試料中の二本鎖DNAの濃度又は量を測定する場合や、hTERT遺伝子のコピー数を測定するにあたって、生体試料中のDNAを抽出し、かかるDNAから二本鎖DNAの濃度又は量の測定や、hTERT遺伝子のコピー数の測定を行ってもよく、生体試料中のDNAの抽出を行わず、生体試料中から直接二本鎖DNAの濃度又は量の測定や、hTERT遺伝子のコピー数の測定を行ってもよい。
【0024】
生体試料中の二本鎖DNAの濃度又は量を測定する方法は特に限定されず、市販のDNAの濃度又は量の測定キットを用いる方法や、電気泳動法を挙げることができる。
【0025】
ターゲットを二本鎖DNAとするのは、血液(血漿又は血清)中のセルフリーDNAは二本鎖であり、高度に断片化しており、約150bpの長さであることから、測定値の正確性や再現性の観点から好ましいためである。
【0026】
ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)は、ヒトの染色体末端(テロメア)の特異的反復配列を伸長させる酵素である。かかるhTERTは、発現することにより、発現した細胞において複製老化を回避するのに十分なテロメア長を維持することが知られている。
【0027】
生体試料中のhTERT遺伝子のコピー数を測定する方法は特に限定されず、市販の遺伝子コピー数測定キットを用いる方法や、後述する実施例に示すように、デジタルPCR等のPCRによる方法や、LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)法や、リアルタイム定量PCR法を挙げることができる。PCRにより増幅する場合の増幅する配列の長さとしては、20~300塩基、好ましくは30~200塩基、より好ましくは50~150塩基を挙げることができる。
【0028】
上記「デジタルPCR」は、サンプルDNA量を絶対定量する方法である。この方法では、サンプルDNAを約2万個の小水滴(ドロップレット)に分画し、サーマルサイクラーを用いてPCRを行う。ターゲットDNAが入っている小水滴は光り、入っていない小水滴は変化しない。光っている小水滴と光っていない小水滴の数をカウントすることでサンプル中の測定対象遺伝子の濃度を絶対的な数値として出すことができるという原理である。データは、小水滴(ドロップレット)のターゲットDNAのアリ/ナシで判断することから、それがデジタル信号の1/0と同じなので「デジタルPCR」という。「コピー数カウント」は、ドロップレットリーダーによって、上記2万個の小水滴(ドロップレット)を一つずつ蛍光量測定し、蛍光を発するドロップレットの数をカウントすることで、遺伝子のコピー数の絶対値を計測する工程を意味する。
【0029】
本発明の工程(b)において、被検対象において前癌病変又は癌を有するとの予測を補助する際の所定のカットオフ値としては特に制限されないが、例えば、健常者から採取された生体試料中の二本鎖DNAの濃度又は量を測定し、その二本鎖DNAの濃度又は量の中央値、平均値、又は、所定のパーセンタイル値を挙げることができる。所定のパーセンタイル値としては、50パーセンタイル、好ましくは60パーセンタイル、より好ましくは75パーセンタイル、さらに好ましくは80パーセンタイル、最も好ましくは90パーセンタイルを挙げることができる。
【0030】
また、生体試料中の二本鎖DNAの濃度又は量を基に、所望の感度、特異度となるように作成した受信者操作特性曲線(receiver operating characteristic curve:ROC)に基づきカットオフ値を求めてもよい。また、カットオフ値を求める具体的方法としては、感度=100%(Y座標)、100%-特異度=0%(X座標)の点からなるべく近いROC曲線上の点で、かつ、高い特異度が得られるよう設定してカットオフ値を求める方法を挙げることができる。このカットオフ値は目的に応じて設定でき、たとえば、偽陽性を避けて高い特異度を求める場合には、Youden index「感度(%)+特異度(%)-100%」により求めた値が最も高値になるカットオフ値とすることができる。なお、カットオフ値、感度、特異度は相関し、カットオフ値を決めると感度と特異度も一組決まるので、カットオフ値を低いほうから高いほうへ順に変えていくと、そのカットオフ値の数だけ感度と特異度が求められる。
【0031】
本発明の工程(d)において、被検対象において前癌病変又は癌を有するとの予測を補助する際の所定のカットオフ値としては特に制限されないが、例えば、健常者から採取された生体試料中のhTERT遺伝子のコピー数を測定し、そのhTERT遺伝子のコピー数の中央値、平均値、又は、所定のパーセンタイル値を挙げることができる。所定のパーセンタイル値としては、50パーセンタイル、好ましくは60パーセンタイル、より好ましくは75パーセンタイル、さらに好ましくは80パーセンタイル、最も好ましくは90パーセンタイルを挙げることができる。また、生体試料中のhTERT遺伝子のコピー数を基に、上述と同様に所望の感度、特異度となるように作成したROCに基づきカットオフ値を求めてもよい。
【0032】
上記工程(b)において、被検対象から採取された生体試料中の二本鎖DNAの濃度又は量が上記所定のカットオフ値以上であれば、被検対象において前癌病変又は癌を有する可能性が高いとの予測を補助することができる。同様に上記工程(d)において、被検対象から採取された生体試料中のhTERT遺伝子のコピー数が所定のカットオフ値以上であれば、被検対象において前癌病変又は癌を有する可能性が高いとの予測を補助することができる。また、例えば癌が大腸癌の場合においては、下部消化管内視鏡検査によって容易に判別が可能であるため、前癌病変又は癌を有する可能性が高いと予測された患者については、さらに癌か否かを内視鏡検査等で調べることで、大腸腫瘍が大腸癌か大腸腺腫(非進行腺腫又は進行腺腫)かを判別し、その後の治療や検診の方針の参考とすることが可能となる。
【0033】
なお、上記工程(b)において、被検対象から採取された生体試料中の二本鎖DNAの「濃度」を用いる場合には、カットオフ値を求める際には健常者から採取された生体試料中の二本鎖DNAの「濃度」を用いることとなり、ここでの濃度は、同量の生体試料あたりの二本鎖DNA量で揃えるようにする。同様に、上記工程(b)において、被検対象から採取された生体試料中の二本鎖DNAの「量」を用いる場合には、カットオフ値を求める際には健常者から採取された生体試料中の二本鎖DNAの「量」を用いることとなり、ここでの量は、同量の生体試料あたりの二本鎖DNA量で揃えるようにする。
【0034】
また、上記工程(d)において、被検対象から採取された生体試料中のhTERT遺伝子のコピー数を用いる場合には、カットオフ値を求める際には健常者から採取された生体試料中のhTERT遺伝子のコピー数を用いることとなり、ここでのコピー数は、同量の生体試料あたりのhTERT遺伝子のコピー数で揃えるようにする。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの
例示に限定されるものではない。
【0036】
[実施例1]血清中のhTERT遺伝子のコピー数による前癌病変又は大腸癌の有無の予測
1.血清からのDNA抽出
血清は精密検査で、正常(Control:n=25)、非進行腺腫(Non―advanced adenoma:n=25)、進行腺腫(Advanced adenoma:n=70)、又は、大腸癌(Colorectal cancer(CRC):n=18;ステージI=14症例、ステージII=1症例、ステージIII=3症例)と判断された患者の血清を用いた。なお、上記「進行腺腫」は、径1cm以上の腺腫、villous components(絨毛状成分)、(tubulovillous(管状絨毛状)若しくはvillous(絨毛状))を合併する腺腫、又はhigh-grade or severe dysplasia(高度異型性)を合併する腺腫とした。また、「非進行腺腫」は、良性腫瘍のうち上記進行腺腫に該当せず、転移性のない腺腫とした。
【0037】
血清からのDNA抽出方法は以下の方法で行った。
MagNA Pureコンパクト核酸アイソレーションキットI(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)を使用し、400μLの血清から、自動サンプル抽出機MagNa Pure Compactシステムの「DNA_Blood_100_400」プロトコルによりDNAを自動抽出し、最終的に50μLのバッファーに溶出してサンプルDNA液を得て、その後の測定に用いた。
【0038】
2.デジタルPCR
上記で得たサンプルDNA液を用いてデジタルPCRを以下の方法で行い、hTERT遺伝子のコピー数をカウントした。
(1)PCR反応液の作製
サンプルDNA液 5.0μL
水 5.0μL
ddPCR Supermix for probes
(#186-3010, BioRad社製) 10.0μL
10μM hTERTフォワードプライマー(配列番号1) 0.5μL
10μM hTERTリバースプライマー(配列番号2) 0.5μL
5μM hTERT TaqManプローブ(配列番号3の5’末端に蛍光物質VIC、3’末端にMinor Groove Binder(MGB)を修飾)
1.0μL
(2)ドロップレット作製
PCR反応液をAutoDGシステム(BioRad社製)にセットし、ドロップレットを作製した。
(3)PCR反応
以下の条件でPCRを行った。
95度10分
40サイクル(94度30秒、56度1分、ランプ速度2度/秒)
98度10分
(4)コピー数カウント
QX100 Droplet Digital PCRシステムのDroplet Reader(BioRad社製)にPCR反応済み検体をセットし、各液滴内のTaqManプローブ由来の蛍光色素を検出することで、hTERT遺伝子のコピー数(血清40μLあたりのhTERT遺伝子のコピー数)をカウントした。
【0039】
3.結果
正常(Control)、非進行腺腫(Non―advanced adenoma)、進行腺腫(Advanced adenoma)、又は、大腸癌(Colorectal cancer(CRC))と判断された患者それぞれにおけるhTERT遺伝子のコピー数(血清40μLあたりのhTERT遺伝子のコピー数)の結果を
図1に、また、正常(Control)に対する進行腺腫(Advanced adenoma)とのROC曲線の結果を
図2示す。
【0040】
図1に示すように、hTERT遺伝子のコピー数は大腸癌患者だけでなく前癌病変である大腸進行腺腫の患者においても増加していることが明らかとなった。さらに、
図2に示すように、カットオフ値を1211コピーとすれば、感度53%、特異度72%で大腸進行腺腫を有すると予測可能であることが明らかとなった。大腸癌は、進行しても自覚症状がないことが多いが、早期であればほぼ完全に治癒するため、自覚症状のない前癌病変も含めた状況を早期に把握することが重要となる。本発明により、前癌病変の状態であってもその状態を把握することが可能であることが明らかとなった。なお、上記カットオフ値1211コピーは、感度=100%(Y座標)、100%-特異度=0%(X座標)の点からなるべく近いROC曲線上の点で、かつ、高い特異度が得られるように設定して求めた。このカットオフ値は目的に応じて設定でき、例えば、
図2中、(x)、(y)の位置のコピー数としてもよく、(x)の位置のコピー数をカットオフ値とした場合の感度、特異度はそれぞれ19%、91%であり、(y)の位置のコピー数をカットオフ値とした場合の感度、特異度はそれぞれ71%、52%である。また、偽陽性を避けて高い特異度を求める場合には、Youden index「感度(%)+特異度(%)-100%」により求めた値が最も高値になる位置のコピー数としてもよい。
【0041】
[実施例2]血清中の二本鎖DNA濃度
Qubit(登録商標)蛍光定量による二本鎖DNA濃度を、Qubit assays Quick reference(https://assets.thermofisher.com/TFS-Assets/LSG/manuals/qubit_assays_qrc.pdf)を参考にして以下の方法で行った。
(1)キット及びチューブの用意
Qubit dsDNA HS assay kit(Life Technology, Cat. No. Q32851又はQ32854)及び0.5mL透明チューブ(Qubit assay tube,Life technology, Cat. No. Q32856)を用意した。
(2)Qubit working solutionの作製
Qubit working solutionを以下により作製した。
I. Qubit reagentを1μL×サンプル数分用意した。
II. Qubit bufferを199μL×サンプル数分用意した。
III. 上記I.IIを混合した。
(3)スタンダードの調製
I.Qubit dsDNA Assay HS standard #1 10μLとQubit working solution 190μLをボルテックスで2-3秒間混合し、その後2分間静置した。
II.Qubit dsDNA Assay HS standard #2 10μLとQubit working solution 190μLをボルテックスで2-3秒間混合し、その後2分間静置した。
(4)測定サンプルの調整
I.上記実施例1と同様の方法で、血清400μLからサンプルDNA液を得た。
II.測定対象となるサンプルDNA液 1-20μLにQubit working solutionを加えて最終的に200μLとし、ボルテックスで2-3秒間混合し、その後2分間静置した。
(5)Qubit 2.0 fluorometerによる測定
I.希釈したstandard#1をQubit 2.0にセットし、キャリブレーションを行った。
II.希釈したstandard#2をQubit 2.0にセットし、キャリブレーションを行った。
III.測定対象サンプルをstandard#2をQubit 2.0にセットし、Qubit working solution溶液中の二本鎖DNA濃度を求めた。続いて、Qubit working solutionによるDNA希釈倍率で補正し、最終的に、DNAサンプル液中の二本鎖DNA濃度(ng/μL)を算出した。なお、ここでのDNAサンプル液中の二本鎖DNA濃度(ng/μL)はDNAサンプル液1μL中の二本鎖DNA量(ng)である。これは、血清8μLあたりの二本鎖DNA量(ng)に相当する。
【0042】
[実施例3]血清中の二本鎖DNA濃度と血清中のhTERT遺伝子のコピー数との関係
実施例2で求めた血清中の二本鎖DNA濃度をX軸とし、実施例1で求めた血清中のhTERT遺伝子のコピー数をY軸としてそれぞれの関係を求めたグラフを
図3に示す。
図3に示すように、血清中の血清中の二本鎖DNA濃度と血清中のhTERT遺伝子のコピー数とは正の相関があることが明らかとなった。
【0043】
[実施例4]検体の血清中の二本鎖DNA濃度による大腸進行腺腫の有無の予測
上述のように、実施例1において血清中のhTERT遺伝子のコピー数により大腸進行腺腫の有無の予測ができ、実施例3において血清中のhTERT遺伝子のコピー数と血清中の二本鎖DNAとは正の相関があったため、血清中の二本鎖DNA濃度によって大腸進行腺腫や大腸癌の有無の予測ができるのではないかと考えた。そこで、正常(Control)、非進行腺腫(Non-advanced adenoma)、進行腺腫(Advanced adenoma)、又は、大腸癌(Colorectal cancer(CRC))と判断された患者それぞれにおける血清中の二本鎖DNA濃度をまとめた結果を
図4に、また、正常(Control)に対する進行腺腫(Advanced adenoma)とのROC曲線の結果を
図5示す。
【0044】
図4に示すように、血清から抽出した二本鎖DNA濃度は大腸癌患者だけでなく大腸進行腺腫患者においても増加していることが明らかとなった。さらに、
図5示すように、カットオフ値を0.274ng/μLとすれば、感度44%、特異度72%で大腸進行腺腫を有すると予測可能であることが明らかとなった。なお、上記カットオフ値0.274ng/μLは、感度=100%(Y座標)、100%-特異度=0%(X座標)の点からなるべく近いROC曲線上の点で、かつ、高い特異度が得られるよう設定して求めた。このカットオフ値は実施例1に記載したとおり、目的に応じて適宜設定できる。
【0045】
従来、癌患者において血清中の二本鎖DNA濃度が増加していることは知られていた。この原因の一つとしては、癌患者の場合には癌細胞が壊れて二本鎖DNA断片が多量に生成し、癌細胞の血管への浸潤や炎症等により透過性が著しく亢進した周辺の血管中にその二本鎖DNA断片が入ることによるものと考えられる。しかしながら、まだ組織としては正常であり低透過性を維持した血管を有する前癌病変の患者においても血清中の二本鎖DNA濃度が増加することは驚くべきことであった。
【0046】
[実施例5]血清中のhTERT遺伝子のコピー数の測定
実施例1では血清からDNAを抽出したうえでhTERT遺伝子のコピー数を測定したが、以下の方法により、血清からDNAを抽出せずにhTERT遺伝子のコピー数を測定することが可能となる。
【0047】
血清2μLに水を48μL加えて血清希釈液とした。次に、実施例1のPCR反応液の作製において、サンプルDNA液5μLの代わりに上記血清希釈液を5μL用いた以外は、実施例1と同様にデジタルPCRを行った。
【0048】
デジタルPCRの生データを
図6に、各サンプルのhTERT遺伝子のコピー数の結果を
図7に示す。
図6、7に示すように、4症例から得た血清検体サンプルA~DのhTERT遺伝子のコピー数はそれぞれ3、6、4、4であり、血清サンプルからDNA抽出を行わずに、ダイレクトにデジタルPCRが可能であることが明らかとなった。
【0049】
[実施例6]血清中のhTERT遺伝子のコピー数による胃の前癌病変又は胃癌の有無の予測
実施例1において、血清中のhTERT遺伝子のコピー数により前癌病変又は大腸癌の有無の予測が可能であることが明らかとなった。そこで、さらに他の癌でも上記予測について応用可能かどうかを確認するために、胃病変患者の血清によって同様の解析を行った。
【0050】
1.血清からのDNA抽出及びデジタルPCR
実施例1と同様の方法で、血清からのDNA抽出及びデジタルPCRを行い、血清40μLあたりの胃病変患者のhTERT遺伝子のコピー数をカウントした。血清は精密検査で、正常(Control:n=27:慢性胃炎患者8名含む)、前癌病変である胃の10mm大の過形成ポリープ(Hyperplastic polyp:n=1)、前癌病変である胃の5、7、17、20、22mm大の腺腫(adenoma:n=5)、又は、胃癌(Gastric cancer:n=20;ステージI=18症例、ステージII=2症例)と判断された患者の血清を用いた。
【0051】
2.結果
正常(Control)、胃の過形成ポリープ(Hyperplastic polyp)、胃腺腫(adenoma)、又は、胃癌(Gastric cancer)と判断された患者それぞれにおけるhTERT遺伝子のコピー数の結果を
図8に、また、正常(Control)に対する胃癌(Gastric cancer)とのROC曲線の結果を
図9示す。
【0052】
図8に示すように、hTERT遺伝子のコピー数は胃癌患者だけでなく胃の10mm大の過形成ポリープや胃の5、7、17、20、22mm大の腺腫を有する患者においても健常者と比較して明らかに増加していることが明らかとなった。さらに、
図9に示すように、カットオフ値を755コピーとすれば、感度65%、特異度96%で胃癌を有すると予測可能であることが明らかとなった。また、コントロールに慢性胃炎患者も含んでいることから、炎症によるTERTコピー数への影響は少ないことが確認された。なお、上記カットオフ値755コピーは、感度=100%(Y座標)、100%-特異度=0%(X座標)の点からなるべく近いROC曲線上の点で、かつ、高い特異度が得られるよう設定して求めた。このカットオフ値は実施例1に記載したとおり、目的に応じて適宜設定できる。
【0053】
[実施例7]血清中のhTERT遺伝子のコピー数と血清中の二本鎖DNA濃度との関係
実施例2と同様に、正常(Control:n=27:慢性胃炎患者8名含む)、胃の10mm大の過形成ポリープ(Hyperplastic polyp:n=1)、胃の5、7、17、20、22mm大の腺腫(adenoma:n=5)、又は、胃癌(Gastric cancer:n=20)と判断された患者(一部の患者からは複数検体)における血清中の二本鎖DNA濃度を測定した。次に、求めた血清中の二本鎖DNA濃度をX軸とし、実施例6で求めた血清中のhTERT遺伝子のコピー数をY軸としてそれぞれの関係を求めたグラフを
図10に示す。
図10に示すように、血清中のhTERT遺伝子のコピー数と血清中の二本鎖DNA濃度とは胃病変患者においても正の相関があることが明らかとなった。
【0054】
[実施例8]検体の血清中の二本鎖DNA濃度による胃の前癌病変又は胃癌の有無の予測
上述のように、実施例6において血清中のhTERT遺伝子のコピー数により胃の前癌病変又は胃癌の有無の予測ができ、実施例7において血清中のhTERT遺伝子のコピー数と血清中の二本鎖DNAとは正の相関があったため、血清中の二本鎖DNAによって胃の前癌病変又は胃癌の有無の予測ができるのではないかと考えた。そこで、正常(Control)、胃の過形成ポリープ(Hyperplastic polyp)、胃腺腫(adenoma)、又は、胃癌(Gastric cancer)と判断された患者それぞれにおける血清中の二本鎖DNA濃度(ng/μL)をまとめた結果を
図11に、また、正常(Control)に対する胃癌(Gastric cancer)とのROC曲線の結果を
図12に示す。
【0055】
図11に示すように、血清から抽出した二本鎖DNA濃度は胃癌だけでなく胃の前癌病変である胃の過形成ポリープや胃腺腫においても増加していることが明らかとなった。さらに、
図12示すように、カットオフ値を0.1435ng/μLとすれば、感度65%、特異度96%で胃癌を有すると予測可能であることが明らかとなった。なお、上記カットオフ値0.1435ng/μLは、感度=100%(Y座標)、100%-特異度=0%(X座標)の点からなるべく近いROC曲線上の点で、かつ、高い特異度が得られるよう設定して求めた。このカットオフ値は実施例1に記載したとおり、目的に応じて適宜設定できる。
【0056】
[実施例9]検体の血清中の二本鎖DNA濃度による肝臓の前癌病変又は肝臓癌の有無の予測
大腸癌、胃癌と同様に患者数が多い肝臓癌患者についても、血清から抽出した二本鎖DNA濃度との関係を調べた。
【0057】
実施例1、2と同様の方法で、血清40μLからのDNA抽出及び血清中の二本鎖DNA濃度の測定を行った。血清は精密検査で、正常(Control:n=27)、肝臓の前癌病変である慢性肝障害(n=23)、又は、肝臓癌(n=39)と判断された患者の血清を用いた。
【0058】
正常(Control:n=27)、慢性肝障害(n=23)、又は、肝臓癌(n=39)と判断された患者それぞれにおける血清中の二本鎖DNA濃度をまとめた結果を
図13に、また、正常(Control)に対する慢性肝障害とのROC曲線の結果を
図14に、正常(Control)に対する肝臓癌とのROC曲線の結果を
図15に、慢性肝障害に対する肝臓癌とのROC曲線の結果を
図16に示す。
【0059】
図13に示すように、血清から抽出した二本鎖DNA濃度は肝臓癌だけでなく肝臓の前癌病変である慢性肝障害においても増加していることが明らかとなった。さらに、
図14~16に示すように、ROC曲線に基づいて慢性肝障害又は肝臓癌を有すると予測可能であることが明らかとなった。
【配列表】