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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-07
(45)【発行日】2023-03-15
(54)【発明の名称】薬物送達のための抗体融合タンパク質
(51)【国際特許分類】
   C07K 19/00 20060101AFI20230308BHJP
   A61K 47/64 20170101ALI20230308BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20230308BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230308BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20230308BHJP
   C12N 15/62 20060101ALN20230308BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20230308BHJP
【FI】
C07K19/00 ZNA
A61K47/64
A61K47/68
A61P35/00
C07K16/28
C12N15/62 Z
C12N15/13
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019516048
(86)(22)【出願日】2017-06-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-09-26
(86)【国際出願番号】 CN2017087350
(87)【国際公開番号】W WO2017211278
(87)【国際公開日】2017-12-14
【審査請求日】2020-05-08
(31)【優先権主張番号】62/346,386
(32)【優先日】2016-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516325143
【氏名又は名称】アスクリピウム タイワン シーオー., エルティーディー.
【氏名又は名称原語表記】ASCLEPIUMM TAIWAN CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】No.45, Sec. 1, Lingyun Rd., Wugu Dist., New Taipei City 248, Taiwan
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】弁理士法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チェン ミンチェ
(72)【発明者】
【氏名】リュウ ヤーチュアン
(72)【発明者】
【氏名】チャン ポーハオ
(72)【発明者】
【氏名】ツァイ ヤーピン
(72)【発明者】
【氏名】チェン チュンウェイ
(72)【発明者】
【氏名】リー ペイイー
【審査官】山▲崎▼ 真奈
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0008480(US,A1)
【文献】国際公開第2008/015841(WO,A1)
【文献】特表2011-529079(JP,A)
【文献】特表2007-511209(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0071395(US,A1)
【文献】特表2014-521661(JP,A)
【文献】国際公開第2015/006744(WO,A1)
【文献】特表2014-515921(JP,A)
【文献】特表2015-532102(JP,A)
【文献】国際公開第2016/199674(WO,A1)
【文献】特表2018-533909(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0008649(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C07K
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
列番号9、13、15、17、19、21及び23から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖配列と、配列番号11のアミノ酸配列を有する軽鎖配列とを含む、
融合タンパク質。
【請求項2】
請求項1に記載の融合タンパク質と、薬理学的に好適な担体とを含む、細胞へのエフェクターペプチドの送達に使用される組成物。
【請求項3】
エフェクターペプチドをタンパク質ペイロードとして細胞又は細胞核へと送達する薬剤の製造における請求項1に記載の融合タンパク質又は請求項2に記載の組成物の使用。
【請求項4】
前記薬剤は非経口又は腔内経路投与用薬剤である、請求項に記載の使用。
【請求項5】
前記薬剤は、癌、線維症、炎症疾患、代謝障害、免疫系障害、感染性疾患、老化防止又は酵素補充療法用薬剤である、請求項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体融合タンパク質に関する。特に、本発明は、細胞内及び核内薬物送達のための抗体融合タンパク質に関する。本発明の抗体融合タンパク質は、二重機能標的(dual functional targets)を有し、細胞外表面マーカーを結合して、細胞内標的調節を達成する。
【背景技術】
【0002】
標的療法選択の中でも、抗体薬物複合体(ADC)は最も有望なものとして台頭してきている。ADCは、強力な細胞傷害性薬を抗原発現細胞に選択的に送達するように設計されたモノクローナル抗体である。選択抗体(the selection of the antibody)、リンカー、細胞傷害性薬ペイロード、及び薬物を抗体に付着させるために使用される付着部位を含むADCの幾つかの構成要素が、ADCの活性に重要である。ADCの作製に使用される細胞傷害性薬(すなわち、ペイロード)は通例、システイン又はリシン残基を介して抗体にコンジュゲートする。これにより、抗体1つ当たりの薬物の数が不均一なADCが生じる。一般に薬物抗体比(DAR)と称される抗体1つ当たりの薬物の数は、IgG1抗体については薬物が0個~8個と変動する可能性がある。0個の薬物を有する抗体は効果がなく、抗原発現細胞への結合についてADCと競合する。抗体1つ当たり8個の薬物を有する抗体は、in vivo安定性が低下し、これが標的とは関係のない毒性の一因となり得る。一様な化学量論組成を有する精製ADCであっても、依然として複数の部位にコンジュゲートする薬物を保有し、独自の要素の複雑な混合物である。初期の不均一なADCには、臨床開発を妨げる安定性、薬物動態及び効力の問題があった。改変システイン残基、非天然アミノ酸、並びにグリコトランスフェラーゼ及びトランスグルタミナーゼによる酵素的コンジュゲーションの使用を含む化学部位選択的抗体コンジュゲーションの最近の進歩は、より均一なADCの生成をもたらしているが、抗体の遺伝的修飾の要求、コンジュゲーションへの酵素の使用、及びコンジュゲーション部位の数/位置を含む幾つかの違いが方法の間に見られる。
【0003】
特許文献1は標的結合部分(TBM)、マスキング部分(MM)及び切断可能部分(CM)を含有する活性化可能な結合ポリペプチド(ABP)を提供し、CMを切断することが可能な切断剤の存在下でのCMの切断後よりも切断されていない場合にTBMの少なくとも1つが標的にアクセスし難いように活性化可能な立体配座をABPが示すことを提唱している。特許文献2は、標的細胞又は組織においてその病態を治療するために選択的に活性化されることが可能なヒンジ抗体を開示している。ヒンジ抗体は機能的抗体と、2つの阻害ドメインと、4つの切断可能リンカーとを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2009/025846号
【文献】米国特許出願公開第2016/0185875号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これら2つの特許文献のペイロードは、満足のいく効果を達成することができないため、より高いペイロードを有する薬物送達系を開発する必要がある。
本発明では、細胞内及び核内治療のためのペプチドペイロードを対象の標的に標的化すると同時に送達する、抗体と1つ以上の細胞膜透過性エフェクターペプチド(CPEP)とを含む抗体融合タンパク質を使用する。本発明の抗体融合タンパク質は、化学修飾戦略を用いる場合よりも均一な生産を単純化するだけでなく、ペイロードとしての化学薬品又はコンジュゲートのための修飾化学リンカーを含有しない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、(a)細胞外表面マーカーを標的とすることが可能な抗体又はその抗原結合フラグメント(Ab)と、(b)(a)のAbに融合又は(a)のAbの内部に融合した1つ以上の細胞膜透過性エフェクターペプチド(CPEP)とを含み、1つのCPEPは、CPEPが(a)のAbの末端に融合する場合に、任意のポリアニオン性ドメイン(PAD)、1つ若しくは2つの切断可能リンカー(CL)、ポリカチオンドメイン(PCD)及びエフェクターペプチド(EP)をN末端からC末端に向かって(EP-PCD-CL)、(PCD-EP-CL)、(EP-PCD-CL-PAD)、(PAD-CL-PCD-EP-CL)、(CL-PCD-EP)、(CL-EP-PCD)、(PAD-CL-PCD-EP)若しくは(CL-EP-PCD-CL-PAD)の配置で含み、CPEPがその2つの末端でAbの内部に融合する場合に、任意のポリアニオン性ドメイン(PAD)、2つの切断可能リンカー(CL)、ポリカチオンドメイン(PCD)及びエフェクターペプチド(EP)をN末端からC末端に向かって(CL-PCD-EP-CL)、(CL-EP-PCD-CL)、(PAD-CL-PCD-EP-CL)、(PAD-CL-EP-PCD-CL)、(CL-EP-PCD-CL-PAD)若しくは(CL-PCD-EP-CL-PAD)の配置で含む、融合タンパク質を提供する。
【0007】
一実施の形態では、1つのCPEPが、CPEPが抗体又はその抗原結合フラグメントの末端に融合する場合に任意のポリアニオン性ドメイン(PAD)、1つ又は2つの切断可能リンカー(CL)、ポリカチオンドメイン(PCD)、及び細胞内標的に結合するエフェクターペプチド(EP)をN末端からC末端に向かって(EP-PCD-CL)、(PCD-EP-CL)、(EP-PCD-CL-PAD)、(PAD-CL-PCD-EP-CL)、(CL-PCD-EP)、(CL-EP-PCD)、(PAD-CL-PCD-EP)又は(CL-EP-PCD-CL-PAD)の配置で含む。
【0008】
別の実施の形態では、1つのCPEPが、CPEPがその2つの末端で抗体又はその抗原結合フラグメントの内部に融合する場合に任意のポリアニオン性ドメイン(PAD)、2つの切断可能リンカー(CL)、ポリカチオンドメイン(PCD)、及び細胞内標的に結合するエフェクターペプチド(EP)をN末端からC末端に向かって(CL-PCD-EP-CL)、(CL-EP-PCD-CL)、(PAD-CL-PCD-EP-CL)、(PAD-CL-EP-PCD-CL)、(CL-EP-PCD-CL-PAD)又は(CL-PCD-EP-CL-PAD)の配置で含む。すなわち、CPEPは、抗体又はその抗原結合フラグメント(Ab)に上述の配置のいずれか1つで組み込まれる。一実施の形態では、CPEPはAbの重鎖の内部に融合する。
【0009】
更なる実施の形態では、CPEPは、Abの重鎖の末端又は内部に融合する。
【0010】
例示的な実施の形態では、好ましい抗体が本明細書の段落[0046]および[0047]に記載される。一実施の形態では、抗体は配列番号24のアミノ酸配列を有する重鎖と、配列番号11のアミノ酸配列を有する軽鎖配列とを含む。一部の実施の形態では、抗体の抗原結合フラグメントはFabフラグメント、Fab’フラグメント、Fdフラグメント、Fd’フラグメント、Fvフラグメント、dAbフラグメント、F(ab’)フラグメント、一本鎖フラグメント、ダイアボディ(diabody)又は線状抗体である。
【0011】
一部の実施の形態では、1つ以上のCPEPがAbのN末端若しくはC末端に融合するか、又はAbの内部に融合する。
【0012】
PCDは、5個~20個又はその任意の中間範囲の連続塩基性アミノ酸を含む配列を有する。一実施の形態では、ポリカチオンペプチドはポリリシン、ポリアルギニン、ポリオルニチン、ポリヒスチジン及びカチオン性多糖、又はそれらの混合物からなる群から選択される。別の実施の形態では、ポリカチオンペプチドはリシン、アルギニン、ポリリシン、ポリアルギニン、ポリオルニチン、ポリヒスチジン及びカチオン性多糖からなる群から選択される少なくとも2つのポリカチオンを含む組成物である。好ましい実施の形態では、ポリカチオンペプチド組成物は、リシン及びアルギニンから構成される。更なる実施の形態では、ポリカチオンペプチドは、ホモポリマー若しくはコポリマー、又はそれらの混合物である。
【0013】
EPは、細胞内標的に結合するタンパク質ペイロードである。EPの実施の形態は、本明細書の段落[0054]および[0055]に記載される。例示的な本発明の融合タンパク質に使用される好ましいEP及びその配列は、本明細書の段落[0056]および[0057]に列挙する。
【0014】
本発明のCPEPの切断可能リンカー(CL)は、複数のアミノ酸残基を含む切断可能リンカーである。CLは、例えば約4個~約100個のアミノ酸又は約6個~約30個のアミノ酸を含み得る。CLはアミノ酸残基を含んでいてもよく、約4個~約30個又は約4個~約10個のアミノ酸残基のペプチド結合であってもよい。CLは、癌性細胞及び組織周辺に見ることができる酸性条件、若しくは低酸素若しくは虚血細胞及び組織周辺に見ることができる還元環境等の細胞環境に見られる条件;病変、アポトーシス若しくは壊死細胞及び組織等の治療すべき病態を有する細胞の表面上に見られる、若しくは細胞周辺で放出されるプロテアーゼ若しくは他の酵素;又は他の条件若しくは因子によって切断可能である。CLの切断のための例示的な酵素としては、本明細書の段落[0065]および[0066]に記載されるものが挙げられるが、それらに限定されない。一部の実施の形態では、CLは、本明細書の段落[0067]および[0068]に記載されるものから選択される。
【0015】
CPEPは、任意のポリアニオン性ドメイン(PAD)を任意に含んでいてもよい。一実施の形態では、CPEPがポリアニオン性ドメイン(PAD)を有する場合、CPEPは活性化可能な細胞膜透過エフェクターペプチド(ACPEP)である。PADは、4個~20個の酸性アミノ酸(好ましくは5個~9個の酸性アミノ酸)を含む配列を有するポリアニオン性ペプチドである。PADは、ACPEPが細胞膜を越えるのを妨げる自己組織化ポリアニオン-ポリカチオン相互作用の形成に効果的である。一部の実施の形態では、PADは、4個~20個又はその任意の中間範囲の連続した酸性アミノ酸を含む配列を有する。
【0016】
一部の実施の形態では、CPEPが(a)のAbの末端に融合する場合に、本発明の融合タンパク質は、N末端からC末端に向かって(EP-PCD-CL)-Ab、(PCD-EP-CL)-Ab、(EP-PCD-CL-PAD)-Ab、(PAD-CL-PCD-EP-CL)-Ab、Ab-(CL-PCD-EP)、Ab-(CL-EP-PCD)、Ab-(PAD-CL-PCD-EP)又はAb-(CL-EP-PCD-CL-PAD)の配置を有する。
【0017】
一部の他の実施の形態では、CPEPがその2つの末端でAbの内部に融合する場合、本発明の融合タンパク質は、N末端からC末端に向かってAb-(CL-PCD-EP-CL)-Ab、Ab-(CL-EP-PCD-CL)-Ab、Ab-(PAD-CL-PCD-EP-CL)-Ab、Ab-(PAD-CL-EP-PCD-CL)-Ab、Ab-(CL-EP-PCD-CL-PAD)-Ab又はAb-(CL-PCD-EP-CL-PAD)-Abの配置を有する。ここで、AbはAbのN末端フラグメントであり、AbはAbのC末端フラグメントである。
【0018】
本発明の融合タンパク質は二重機能標的を有し、細胞外表面マーカーを結合し、細胞内標的調節を達成する。本発明の融合タンパク質のエフェクターペプチドは、特定の条件の存在下又は特定の環境でCLが切断されることによって標的細胞に入ることができる。好ましい実施の形態では、CLは、生理学的条件下で切断可能である。かかるCLの切断は、融合タンパク質送達が所望される細胞に関係する特定の病理学的シグナル又は特定の環境によって増強されるか、又は達成することができる。CLは、かかる条件が得られる特定の位置への細胞取込みの標的化を達成することができるように、特異的酵素によって切断することができる。CLの切断後に、融合タンパク質のPCD-EP又はEP-PCD部分がAbから遊離する。
【0019】
一部の実施の形態では、本発明の融合タンパク質は配列番号9、13、15、17、19、21又は23から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖配列と、配列番号11から選択されるアミノ酸配列を有する軽鎖配列とを含む。
【0020】
本発明は、細胞へのエフェクターペプチドの送達に使用される組成物も提供する。一実施の形態では、組成物は、本発明の融合タンパク質と薬理学的に好適な担体とを含む。
【0021】
本発明は、エフェクターペプチドを細胞又は細胞核へと送達する方法であって、本発明の融合タンパク質又は本発明の融合タンパク質を含む組成物を被験体に投与することを含む、方法も提供する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】ASCバイオ医薬品のMoA(作用機構)の概要図である。工程1は、抗体が細胞表面マーカーを認識した様子を示す。工程2は、CPEPの内部の切断可能リンカーが微小環境プロテアーゼ(例えば、MMP及びADAM等)によって切断された後、CPEPの細胞膜透過性機能のスイッチを入れた様子を示す。工程3は、疾患治療機能を有する細胞傷害性ペプチド(ASCバイオ医薬品から切り取られたペプチド)がCPP/PCDによって細胞質及び/又は核へと運ばれる様子を示す。
図2A-2C】ASCバイオ医薬品のMoA研究を示す図である。図2Aは、フローサイトメトリーによりASCバイオ医薬品が標的細胞を認識することが実証されたことを示す。図2BおよびCは、フローサイトメトリー及び免疫蛍光を用いることで、結果から3D4S9のポリカチオンドメインが切断され、ヒト乳腺癌MCF7細胞に内在化することを示す。
図3A-3B】3D4KLAがヒト乳腺癌MCF7及びヒト非小細胞肺癌H1299細胞において悪性化(transformation)活性を低減することを示す図である。3D4KLAで処理したヒト乳腺癌MCF7(図3A)及びヒト非小細胞肺癌H1299細胞(図3B)における軟寒天コロニー形成活性の減少を示す。
図4A-4F】3D4S9が種々の細胞株において悪性化活性を低減することを示す図である。3D4S9で処理したヒト乳腺癌MDA-MB-231(図4A)、ヒト乳腺癌SKBR3(図4B)、ヒト乳腺癌MCF7(図4C)、ヒト肺癌A549(図4D)、ヒト非小細胞肺癌H1299(図4E)及びヒト膵癌PANC-1細胞(図4F)における軟寒天コロニー形成活性の減少を示す。
図5】3D4rS9がヒト肺癌A549細胞において悪性化活性を低減することを示す図である。3D4rS9で処理したヒト肺癌A549細胞における軟寒天コロニー形成活性の減少を示す。
図6A-6B】3D4rS9-Aがヒト乳腺癌SKBR3及びヒト肺癌A549細胞において悪性化活性を低減することを示す図である。3D4rS9-Aで処理したヒト乳腺癌SKBR3(図6A)及びヒト肺癌A549細胞(図6B)における軟寒天コロニー形成活性の減少を示す。
図7】3D4rS9-Dがヒト肺癌A549細胞において悪性化活性を低減することを示す図である。3D4rS9-Dで処理したヒト肺癌A549細胞における軟寒天コロニー形成活性の減少を示す。
図8】3D4rS9-ΔD6がヒト乳腺癌SKBR3細胞において悪性化活性を低減することを示す図である。3D4rS9-ΔD6で処理したヒト乳腺癌SKBR3細胞における軟寒天コロニー形成活性の減少を示す。
図9】3D4Fc-rS9がヒト肺癌A549細胞において悪性化活性を低減することを示す図である。3D4Fc-rS9で処理したヒト肺癌A549細胞における軟寒天コロニー形成活性の減少を示す。
図10A-10C】3D4S9がNOD/ SCIDマウスにおいてヒト膵癌PANC-1細胞を用いた異種移植片腫瘍成長を低減することを示す図である。3D4scr又は3D4S9を3週間にわたって週2回、30mg/kgの用量でi.p.で与えた。マウスを屠殺した後、腫瘍を摘出し、それらの質量を測定した。3D4scr対照群の231(±150)mmと比較して、3D4S9で処理したヒトPANC-1腫瘍異種移植片を担持するマウスは、3週間後に84(±40)mmの腫瘍体積を有していた。3D4S9処理により異種移植片腫瘍体積が60%低減した(図10A)。3D4scr対照群の0.66(±0.3)gと比較して、3D4S9で処理したヒトPANC-1腫瘍異種移植片を担持するマウスは、3週間後に0.13(±0.02)gの腫瘍重量を有していた。3D4S9処理により異種移植片腫瘍重量が80%低減した(図10B)。屠殺前にマウスの体重を量った。3D4scr又は3D4S9で処理したヒトPANC-1腫瘍異種移植片を担持するマウスは、ほぼ同じ体重を有していた(図10C)。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下の説明では、特許請求される主題の理解を容易にするために多数の用語を用い、以下の定義を提示する。本明細書で明示的に定義されていない用語は、その一般的かつ通常の意味に従って用いられる。
【0024】
本明細書に記載される抗体、結合フラグメント及びポリヌクレオチドは、多くの実施形態において、それぞれのポリペプチド又はポリヌクレオチド配列によって記載される。他に指示がない限り、ポリペプチド配列はNからCの方向、ポリヌクレオチド配列は5’から3’の方向で提示される。ポリペプチド配列については、遺伝子にコードされるアミノ酸の従来の三文字又は一文字の略称を用いることができる。
【0025】
本発明に用いられるペプチドの略称は、以下の通りである:
Ab:抗体又はその抗原結合フラグメント、
CPEP:細胞膜透過性エフェクターペプチド、
PAD:ポリアニオン性ドメイン、
CL:切断可能リンカー、
PCD:ポリカチオンドメイン、
EP:エフェクターペプチド、
Ab:抗体又はその抗原結合フラグメント(Ab)のN末端フラグメント、及び、
Ab:抗体又はその抗原結合フラグメント(Ab)のC末端フラグメント。
【0026】
他に指定がない限り、数量を特定しない用語(the term "a" or "an")は、「1つ以上」を意味する。
【0027】
「又は」という用語は、文脈上明らかに他の指示がない限り、「及び/又は」という用語を意味するように本明細書で使用され、「及び/又は」という用語と区別なく使用される。
【0028】
本願全体を通して、「約」という用語は、値が固有の誤差の変動を含むことを示すために使用される。
【0029】
本明細書で使用される場合、「ペイロード」という用語はEPを指す。EPは、細胞内標的に結合するペプチド又はタンパク質ペイロードである。
【0030】
本明細書で使用される場合、「核酸」、「核酸配列」、「ヌクレオチド配列」、「ポリヌクレオチド配列」及び「ポリヌクレオチド」という用語は、区別なく使用される。これらは任意の長さのヌクレオチドのポリマー形態、デオキシリボヌクレオチド若しくはリボヌクレオチドのいずれか、又はその類似体を指す。ポリヌクレオチドは一本鎖又は二本鎖のいずれであってもよく、一本鎖である場合、コード鎖であっても又は非コード(アンチセンス)鎖であってもよい。ポリヌクレオチドは、メチル化ヌクレオチド及びヌクレオチド類似体等の修飾ヌクレオチドを含み得る。
【0031】
本明細書で使用される場合、「アミノ酸」という用語は、一般式NHCHRCOOHの有機化合物を表し、ここで、Rは任意の有機基とすることができる。具体的には、アミノ酸という用語は、Aib=α-アミノイソ酪酸;tBuAla=tert-ブチルアラニン;Thr-OBzl=トレオニンベンジルエステル;5Ava=5-アミノ吉草酸;Asp=D=アスパラギン酸;Ala=A=アラニン;Arg=R=アルギニン;Asn=N=アスパラギン;Gly=G=グリシン;Glu=E=グルタミン酸;Gln=Q=グルタミン;His=H=ヒスチジン;Ile=I=イソロイシン;Leu=L=ロイシン;Lys=K=リシン;Met=M=メチオニン;Mamb=(3-アミノメチル)安息香酸;Mamp=(3-アミノメチル)フェニル酢酸;Nle=ノルロイシン;Nva=ノルバリン;Phe=F=フェニルアラニン;Pro=P=プロリン;Ser=S=セリン;Thr=T=トレオニン;Trp=W=トリプトファン;Tyr=Y=チロシン;及びVal=V=バリン等の天然及び非天然(人工)のアミノ酸を指す場合がある。
【0032】
本明細書で使用される場合、「透過性ペプチド」という用語は、生物学的障壁を介した物質の移行を容易にする任意のペプチドを指す。生物学的障壁の例としては、密着結合及び原形質膜が挙げられるが、これらに限定されない。細胞膜透過性ペプチド(CPP又はPCD)は、細胞膜を透過し、種々の積み荷分子(cargoes)を細胞内に移行させることが可能である。
【0033】
本明細書で使用される場合、「ポリペプチド」及び「タンパク質」という用語は、アミノ酸残基のポリマーを指すために本明細書で区別なく使用される。この用語は、1つ以上のアミノ酸残基が対応する自然発生アミノ酸の人工化学模擬体であるアミノ酸ポリマー、並びに自然発生アミノ酸ポリマー及び非自然発生アミノ酸ポリマーに適用される。他に指示がない限り、特定のポリペプチド配列は、保存的に修飾されたその変異体も暗黙的に包含する。
【0034】
本明細書で使用される場合、「抗体」という用語は無傷抗体、モノクローナル又はポリクローナル抗体を指す。「抗体」という用語は、二重特異性抗体等の多重特異性抗体も包含する。ヒト抗体は、通常は各々が可変領域及び定常領域を含む2つの軽鎖及び2つの重鎖でできている。軽鎖可変領域は、フレームワーク領域が隣接するCDRL1又はL1、CDRL2又はL2及びCDRL3又はL3として本明細書で識別される3つのCDRを含む。重鎖可変領域は、フレームワーク領域が隣接するCDRH1又はH1、CDRH2又はH2及びCDRH3又はH3として本明細書で識別される3つのCDRを含む。本発明のヒト化抗体のCDRは、Kabat及びChotiaの定義を用いて識別することができる。
【0035】
本明細書で使用される場合、「活性化可能な」又は「スイッチ可能な」という用語は、活性化可能な細胞膜透過エフェクターペプチド(ACPEP)が、自然又は非切断状態(すなわち、第1の立体配座)にある場合に標的に対して第1のレベルの非結合を示し、切断状態(すなわち、第2の立体配座)で標的に対して第2のレベルの結合を示すことを指す。
【0036】
本明細書で使用される場合、「投与する("administer", "administering" or "to administer")」という用語は、in vivo投与及びex vivo組織への直接投与を含む薬剤の投与又は供給を指す。
【0037】
本明細書で使用される場合、「薬学的に許容可能な」という用語は、妥当なベネフィット/リスク比に相応する、毒性、刺激及び/又はアレルギー反応等の必要以上の有害な副作用なしにヒト及び/又は動物への投与に好適な化合物及び組成物を指す。
【0038】
本明細書で使用される場合、「被験体」及び「患者」という用語は本明細書で区別なく使用され、温血動物、特に哺乳動物を指すと理解される。本用語の範囲及び意味内の動物の非限定的な例としては、モルモット、イヌ、ネコ、ラット、マウス、ウマ、ヤギ、ウシ、ヒツジ、動物園の動物、非ヒト霊長類及びヒトが挙げられる。
【0039】
本明細書で使用される場合、「有効量」という用語は、本発明概念の方法で使用した場合に妥当なベネフィット/リスク比に相応する、過度の有害な副作用(毒性、刺激及びアレルギー反応等)なしに検出可能な治療効果を示すのに十分な融合タンパク質又はペプチドの量を指す。
【0040】
本明細書で使用される場合、「治療有効量」という用語は、疾患の治療のために哺乳動物又は他の被験体に投与した場合に検出可能な治療効果を示すのに十分であり、かかる疾患の治療を達成するのに十分な融合タンパク質又はペプチドの量を指す。
【0041】
本明細書で使用される場合、「治療」、「治療する」等の用語は哺乳動物、特にヒトにおける疾患の任意の治療を包含し、(a)疾患にかかりやすい可能性があるが、疾患を有するとは診断されていない被験体において疾患が生じるのを防ぐこと;(b)疾患を阻害すること、すなわち、その発症を阻止すること;及び(c)疾患を軽減すること、すなわち、疾患の退行を生じさせることを含む。
【0042】
本発明は、生物学的障壁を介したエフェクターペプチドの送達のために様々な標的に特異的に結合するペプチド透過系としての融合タンパク質を提供する。本発明の融合タンパク質は非効率性、活性物質の生物学的特性の変化、標的細胞の死滅、生物学的障壁の不可逆的な損傷及び/又はヒト被験体への使用に対する高いリスク等の当該技術分野で見られる欠点を直す。本発明の融合タンパク質は、エフェクターペプチド等の変質していない生物活性物質の効率的な非侵襲的送達を示す。
【0043】
一態様では、本発明は、
(a)細胞外表面マーカーを標的とすることが可能な抗体又はその抗原結合フラグメント(Ab)と、(b)(a)のAbに融合又は(a)のAbの内部に融合した1つ以上の細胞膜透過性エフェクターペプチド(CPEP)と、を含み、1つのCPEPは、CPEPが(a)のAbの末端に融合する場合に、任意のポリアニオン性ドメイン(PAD)、1つ若しくは2つの切断可能リンカー(CL)、ポリカチオンドメイン(PCD)及びエフェクターペプチド(EP)をN末端からC末端に向かって(EP-PCD-CL)、(PCD-EP-CL)、(EP-PCD-CL-PAD)、(PAD-CL-PCD-EP-CL)、(CL-PCD-EP)、(CL-EP-PCD)、(PAD-CL-PCD-EP)若しくは(CL-EP-PCD-CL-PAD)の配置で含み、CPEPがその2つの末端でAbの内部に融合する場合に、任意のポリアニオン性ドメイン(PAD)、2つの切断可能リンカー(CL)、ポリカチオンドメイン(PCD)及びエフェクターペプチド(EP)をN末端からC末端に向かって(CL-PCD-EP-CL)、(CL-EP-PCD-CL)、(PAD-CL-PCD-EP-CL)、(PAD-CL-EP-PCD-CL)、(CL-EP-PCD-CL-PAD)若しくは(CL-PCD-EP-CL-PAD)の配置で含む、融合タンパク質を提供する。
【0044】
1つ以上のCPEPは、抗体若しくはその抗原結合フラグメントに融合するか、又は抗体若しくはその抗原結合フラグメントの内部に融合する。本発明において使用される抗体又はその抗原結合フラグメントは、対象の標的を発現する任意の細胞又は細胞集団上の対象の標的に特異的に結合する。例示的な標的としては、アミノ酸配列(例えばポリペプチド、ペプチド及びタンパク質)、多糖、オリゴ糖、炭水化物及び脂質が挙げられるが、これらに限定されない。具体的な非限定的な標的の種類としては、受容体及び抗原が挙げられる。標的には、抗原に結合する受容体、受容体又はリガンドが含まれ、これらにはホルモン、成長因子、分化抗原群(cluster of differentiation)(CD分子又はCDマーカーと総称される)、ホルモン及び成長因子類似体、並びにホルモン、ホルモン類似体、成長因子、成長因子類似体のフラグメント、並びに成長因子及び類似体のフラグメントが含まれる。抗原標的としては、ウイルス抗原、細菌抗原、真菌抗原及び寄生生物抗原が挙げられる。抗原標的には腫瘍関連抗原(TAA)も含まれる。一実施形態では、標的は細胞外標的である。例示的な好ましい細胞外標的としては、以下の表に列挙されるものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0045】
【表1】
【0046】
標的に結合する例示的な抗体としては、以下の表に列挙されるものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0047】
【表2】
【0048】
更なる実施形態では、抗体はアテゾリズマブ、アベルマブ、ペムブロリズマブ、デュリゴツマブ(duligotumab)、ペルツズマブ又はザルツムマブ、セツキシマブ、リツキシマブ、トラスツズマブである。一実施形態では、抗体は配列番号24のアミノ酸配列を有する重鎖と、配列番号11のアミノ酸配列を有する軽鎖配列とを含む。
【0049】
抗体の抗原結合フラグメントは、完全抗体の構成要素のサブセットを含み、抗体の抗原結合特性を保持するタンパク質を指す。抗体の抗原結合フラグメントは通例、少なくとも1つの可変ドメインを含む。可変ドメインは任意のサイズ又はアミノ酸組成であってもよく、概して1つ以上のフレームワーク配列に隣接する又はそれとインフレームの少なくとも1つのCDRを含む。VLドメインと会合したVHドメインを有する抗原結合フラグメントでは、VHドメイン及びVLドメインは、互いに任意の好適な配置で位置することができる。例えば、可変領域が二量体であり、VH-VH、VH-VL又はVL-VL二量体を含有していてもよい。代替的には、抗体の抗原結合フラグメントは、単量体VHドメイン又はVLドメインを含有していてもよい。一部の実施形態では、抗体の抗原結合フラグメントはFabフラグメント、Fab’フラグメント、Fdフラグメント、Fd’フラグメント、Fvフラグメント、dAbフラグメント、F(ab’)フラグメント、一本鎖フラグメント、ダイアボディ又は線状抗体である。
【0050】
一実施形態では、1つのCPEPが、CPEPが抗体又はその抗原結合フラグメントの末端に融合する場合に任意のポリアニオン性ドメイン(PAD)、1つ又は2つの切断可能リンカー(CL)、ポリカチオンドメイン(PCD)及びエフェクターペプチド(EP)をN末端からC末端に向かって(EP-PCD-CL)、(PCD-EP-CL)、(EP-PCD-CL-PAD)、(PAD-CL-PCD-EP-CL)、(CL-PCD-EP)、(CL-EP-PCD)、(PAD-CL-PCD-EP)又は(CL-EP-PCD-CL-PAD)の配置で含む。
【0051】
別の実施形態では、1つのCPEPが、CPEPがその2つの末端で抗体又はその抗原結合フラグメントの内部に融合する場合に任意のポリアニオン性ドメイン(PAD)、2つの切断可能リンカー(CL)、ポリカチオンドメイン(PCD)及びエフェクターペプチド(EP)をN末端からC末端に向かって(CL-PCD-EP-CL)、(CL-EP-PCD-CL)、(PAD-CL-PCD-EP-CL)、(PAD-CL-EP-PCD-CL)、(CL-EP-PCD-CL-PAD)又は(CL-PCD-EP-CL-PAD)の配置で含む。すなわち、CPEPは、上述の配置のいずれか1つで抗体又はその抗原結合フラグメント(Ab)に組み込まれる。
【0052】
本発明のCPEPの切断可能リンカー(CL)は、複数のアミノ酸残基を含む切断可能リンカーである。CPEPは、1つ又は2つのCLを含み得る。2つのCLは同じであっても、又は異なっていてもよい。CPEPがPADを有しない場合、CLは、抗体又はその抗原結合フラグメントをPCD-EP又はEP-PCDと接続する必要がある。CPEPがPADを有する場合、CLは、酸性部分PADを塩基性部分PCDと接続する働きをする。CLは、例えば約4個~約100個のアミノ酸又は約6個~約30個のアミノ酸を含み得る。CLはアミノ酸残基を含んでいてもよく、約4個~約30個又は約4個~約10個のアミノ酸残基のペプチド結合であってもよい。
【0053】
PCDは、少なくとも1つの哺乳動物細胞の膜を介したCPEPの輸送に効果的な5個~20個の塩基性アミノ酸(好ましくは、7個~12個の塩基性アミノ酸)を含む配列を有するポリカチオンペプチドである。ポリカチオンペプチドは、核局在化能を有することも見出されている。PCDは、5個~20個又はその任意の中間範囲の連続塩基性アミノ酸を含む配列を有する。一実施形態では、PCDは7個~12個の連続塩基性アミノ酸を含む。一実施形態では、塩基性アミノ酸はpH6.0で正に帯電している。一実施形態では、ポリカチオンペプチドはポリリシン、ポリアルギニン、ポリオルニチン、ポリヒスチジン及びカチオン性多糖、又はそれらの混合物からなる群から選択される。別の実施形態では、ポリカチオンペプチドはリシン、アルギニン、ポリリシン、ポリアルギニン、ポリオルニチン、ポリヒスチジン及びカチオン性多糖からなる群から選択される少なくとも2つのポリカチオンを含む組成物である。好ましい実施形態では、ポリカチオンペプチド組成物は、リシン及びアルギニンから構成される。更なる実施形態では、ポリカチオンペプチドはホモポリマー若しくはコポリマー、又はそれらの混合物である。ポリカチオンペプチドホモポリマーは、同じカチオンモノマーの単一反復単位を含む。ポリカチオンペプチドコポリマーは、異なるカチオンモノマー又は異なるカチオン性ポリマーを含む。一実施形態では、ポリカチオンペプチドコポリマーはカチオンモノマーの混合物、ポリカチオンホモポリマーの混合物又はポリカチオンコポリマーの混合物を含み得る。一部の実施形態では、PCDは非標準アミノ酸、例えばヒドロキシリシン、デスモシン、イソデスモシン、又は他の非標準アミノ酸を含む。
【0054】
EPは、細胞内標的に結合するタンパク質ペイロードである。一実施形態では、EPはペプチドフラグメント、タンパク質の酵素ドメイン又は機能性タンパク質である。例示的なEPとしては、以下に列挙されるものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0055】
【表3】
【0056】
例示的な本発明の融合タンパク質に使用される好ましいEP及びそれらの配列を以下に列挙する。
【0057】
【表4】
【0058】
CPEPは、任意のポリアニオン性ドメイン(PAD)を任意に含んでいてもよい。一実施形態では、CPEPがポリアニオン性ドメイン(PAD)を有する場合、CPEPは活性化可能な細胞膜透過エフェクターペプチド(ACPEP)である。ACPEPは、標的タンパク質に対して活性化可能な結合(スイッチ可能な結合)を示す。細胞膜透過性ペプチドの全身性細胞取込みは、それらをポリアニオン性ペプチドドメインにプロテアーゼ切断可能リンカーを介して融合し、ポリカチオンドメインを分子内ヘアピンの形成により中和することによって阻止される。特異性については、リンカーは或る特定の酵素によって切断されるように設計される。投与後に、本発明のACPEPを含む融合タンパク質は腫瘍に移動し、そこでACPEPがプロテイナーゼによって切断され、標的組織中に蓄積する。
【0059】
PADは、4個~20個の酸性アミノ酸(好ましくは、5個~9個の酸性アミノ酸)を含む配列を有するポリアニオン性ペプチドである。PADは、ACPEPが細胞膜を越えるのを妨げる自己組織化ポリアニオン-ポリカチオン相互作用の形成に効果的である。一部の実施形態では、PADは、4個~20個又はその任意の中間範囲の連続した酸性アミノ酸を含む配列を有する。一実施形態では、PADは、5個~9個の連続した酸性アミノ酸を含む。一実施形態では、酸性アミノ酸は、pH6.0で負に帯電している。一実施形態では、酸性アミノ酸は、6.0未満のpKaを有する側鎖を有する。酸性(acid)アミノ酸の非限定的な例としては、アスパラギン酸、グルタミン酸、ホスホセリン及びホスホトレオニンが挙げられる。特定の実施形態では、PADは5個~9個の連続グルタミン酸、アスパラギン酸又はそれらの混合物を含む。一部の実施形態では、PADは1つ以上のD-アミノ酸を含む。特定の実施形態では、PADはD-アミノ酸からなる。一部の実施形態では、PADは6個の連続したアスパラギン酸である。一部の実施形態では、PADは非標準アミノ酸、例えばヒドロキシリシン、デスモシン、イソデスモシン、又は他の非標準アミノ酸を含む。A部分は修飾アミノ酸を含んでいてもよい。
【0060】
一部の実施形態では、CPEPが(a)のAbの末端に融合する場合に、本発明の融合タンパク質は、N末端からC末端に向かって(EP-PCD-CL)-Ab、(PCD-EP-CL)-Ab、(EP-PCD-CL-PAD)-Ab、(PAD-CL-PCD-EP-CL)-Ab、Ab-(CL-PCD-EP)、Ab-(CL-EP-PCD)、Ab-(PAD-CL-PCD-EP)又はAb-(CL-EP-PCD-CL-PAD)の配置を有する。
【0061】
一部の他の実施形態では、CPEPがその2つの末端でAbの内部に融合する場合、本発明の融合タンパク質は、N末端からC末端に向かってAb-(CL-PCD-EP-CL)-Ab、Ab-(CL-EP-PCD-CL)-Ab、Ab-(PAD-CL-PCD-EP-CL)-Ab、Ab-(PAD-CL-EP-PCD-CL)-Ab、Ab-(CL-EP-PCD-CL-PAD)-Ab又はAb-(CL-PCD-EP-CL-PAD)-Abの配置を有し、ここで、AbはAbのN末端フラグメントであり、AbはAbのC末端フラグメントである。CPEPがその2つの末端でAbの内部に融合する場合、CPEPは、本発明の融合タンパク質がN末端からC末端に向かって抗体N末端フラグメント、CPEP及び抗体C末端フラグメントを含むようにAb内の対象位置に組み込まれる。抗体N末端フラグメント及び抗体C末端フラグメントのサイズは、CPEPが組み込まれる位置に応じて異なる。
【0062】
更なる実施形態では、CPEPは、Abの重鎖の末端又は内部に融合する。
【0063】
本発明の融合タンパク質は二重機能標的を有し、細胞外表面マーカーを結合し、細胞内標的調節を達成する。本発明の融合タンパク質のエフェクターペプチドは、特定の条件の存在下又は特定の環境でCLが切断されることによって標的細胞に入ることができる。好ましい実施形態では、CLは、生理学的条件下で切断可能である。かかるCLの切断は、融合タンパク質送達が所望される細胞に関係する特定の病理学的シグナル又は特定の環境によって増強されるか、又は達成することができる。CLは、かかる条件が得られる特定の位置への細胞取込みの標的化を達成することができるように、特異的酵素によって切断することができる。CLの切断後に、融合タンパク質のPCD-EP又はEP-PCD部分がAbから遊離する。
【0064】
一部の実施形態では、CLは、癌性細胞及び組織周辺に見ることができる酸性条件、若しくは低酸素若しくは虚血細胞及び組織周辺に見ることができる還元環境等の細胞環境に見られる条件;病変、アポトーシス若しくは壊死細胞及び組織等の治療すべき病態を有する細胞の表面上に見られる、若しくは細胞周辺で放出されるプロテアーゼ若しくは他の酵素;又は他の条件若しくは因子によって切断可能である。
【0065】
CLの切断のための例示的な酵素としては、以下に列挙されるものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0066】
【表5】
【0067】
例示的な本発明の融合タンパク質に使用される好ましいCL及びその配列を以下に列挙する。
【0068】
【表6】
【0069】
一部の実施形態では、本発明の融合タンパク質は下記表に示される。各融合タンパク質のヌクレオチド及びアミノ酸配列も下記表に列挙する。したがって、一部の実施形態では、本発明の融合タンパク質は、配列番号9、13、15、17、19、21及び23から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖配列と、配列番号11から選択されるアミノ酸配列を有する軽鎖配列とを含む。
したがって、本発明の融合タンパク質は、
3D4KLA:配列番号9のアミノ酸配列を有する重鎖及び配列番号11のアミノ酸配列を有する軽鎖配列、
3D4S9:配列番号13のアミノ酸配列を有する重鎖及び配列番号11のアミノ酸配列を有する軽鎖配列、
3D4rS9:配列番号15のアミノ酸配列を有する重鎖及び配列番号11のアミノ酸配列を有する軽鎖配列、
3D4rS9-ΔD6:配列番号17のアミノ酸配列を有する重鎖及び配列番号11のアミノ酸配列を有する軽鎖配列、
3D4rS9-A:配列番号19のアミノ酸配列を有する重鎖及び配列番号11のアミノ酸配列を有する軽鎖配列、
3D4rS9-D:配列番号21のアミノ酸配列を有する重鎖及び配列番号11のアミノ酸配列を有する軽鎖配列、又は、
3D4Fc-rS9:(配列番号23)のアミノ酸配列を有する重鎖及び配列番号11のアミノ酸配列を有する軽鎖配列を含む。
【0070】
【表7】
【0071】
融合タンパク質の調製は、タンパク質の化学合成、融合タンパク質の各構成要素をコードするポリヌクレオチドを含む(保有する)発現(組み換え)ベクターを用いた(適当な宿主細胞中での)タンパク質発現等のようなタンパク質を調製する任意の一般的方法によって行うことができる。
【0072】
本発明の融合タンパク質は、従来の公に知られている遺伝子工学的技法に従って製造することができる。このため、例えば、AbをコードするDNA及びCPEPをコードするDNAの各々を必要に応じて増幅し、これらのDNAを互いに結合させ、得られるDNAを細胞発現ベクターに挿入し、宿主細胞をベクターでトランスフェクトして、融合タンパク質を発現させることによって、本発明の融合タンパク質を製造することができる。DNAの増幅は、例えばPCR法によって行うことができる。増幅DNAの結合は、例えば重複伸長PCR法によって行うことができる。人工合成遺伝子が直接作製されるように発現される融合タンパク質のアミノ酸配列を設計することも可能である。発現ベクターが発現効率を高めるためのプロモーター、及び発現された融合タンパク質の培養上清からの容易な回収のために抗体重鎖シグナル配列又は抗体κ鎖シグナル配列等の分泌シグナル配列を含むのが好ましい。発現宿主細胞については、哺乳動物細胞、酵母、動物細胞、昆虫細胞、植物細胞、細菌細胞(大腸菌(Escherichia coli)等)等を使用することができる。中でも動物細胞が好ましく、CHO細胞、HEK293細胞等が特に好ましい。
【0073】
このように規定される融合タンパク質をペプチド及びタンパク質の化学合成の既知の方法によって合成することができることが当業者には明らかである。融合タンパク質は、化学ペプチド合成の方法、特に好適な樹脂を担体として使用した固相でのペプチド合成の技法を用いた化学ペプチド合成の方法によって合成することができる。代替的には、融合タンパク質は、連続タンパク質としてのペプチドの化学合成の方法によって合成することができる。代替的には、タンパク質の個々のフラグメント(ドメイン)を別個に合成した後、或るペプチドフラグメントのアミノ末端を第2のペプチドのカルボキシル末端へと縮合することによってペプチド結合を介した1つの連続ペプチドに組み合わせることができる。かかる技法は従来のものであり、よく知られている。
【0074】
本発明は、細胞へのエフェクターペプチドの送達に使用される組成物も提供する。一実施形態では、組成物は本発明の融合タンパク質と、薬理学的に好適な担体とを含む。通例、かかる組成物は溶液又は懸濁液のいずれかとして調製されるが、錠剤、丸薬、粉末等のような固体形態も企図される。本発明の融合タンパク質は、薬学的に許容可能であり、融合タンパク質に適合する賦形剤と混合してもよい。好適な賦形剤は、例えば水、生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノール等、又はそれらの混合物である。加えて、組成物は湿潤剤又は乳化剤、pH緩衝剤等のような少量の補助物質を含有していてもよい。加えて、組成物は様々なアジュバント(抗原又は免疫原に対する液性及び/又は細胞性免疫応答を誘導又は増大することができる化合物)を含有していてもよい。組成物の経口形態を投与することが所望される場合、様々な増粘剤、香料、希釈剤、乳化剤、分散助剤又は結合剤等を添加してもよい。本発明の組成物は、投与に好適な形態の組成物を提供するために、このような任意の付加的な成分を含有することができる。
【0075】
本発明の組成物(調製物、配合物等)は、非経口(例えば動脈内、静脈内、筋肉内、皮下を含む)、局所(皮膚、経皮、皮下等を含む)、経口、経鼻、粘膜(舌下を含む)及び腔内経路(膣内、頸管内、子宮内、陰茎内(intrapenis)及び鼻腔内等)を含むが、これらに限定されない、当業者によく知られる多くの好適な手段のいずれかによって投与することができる。一部の実施形態では、投与様式は注射、皮内又は経口でのものである。
【0076】
本発明は、エフェクターペプチドを細胞及び/又は細胞核へと送達する方法であって、本発明の融合タンパク質又は本発明の融合タンパク質を含む組成物を被験体に投与することを含む、方法も提供する。したがって、本発明は、エフェクターペプチドを細胞及び/又は細胞核へと送達する薬剤の製造における本発明の融合タンパク質の使用を提供する。本発明の融合タンパク質が、該融合タンパク質によって送達されるエフェクターペプチドに応じて癌、線維症、炎症疾患、代謝障害、免疫系障害、感染性疾患、老化防止及び酵素補充療法のために投与され得る。融合タンパク質は、細胞内及び核内薬物送達を達成することができる。上述の例は、本発明の特定の実施形態を更に説明する働きをするが、いかなる形でも本発明を限定すると解釈されるものではない。
【実施例
【0077】
実施例1 本発明のバイオ医薬品送達技術の作用機構
細胞表面への抗体標的化(工程1)と、その後のCPEPの腫瘍微小環境での活性化(工程2)と、CPP(細胞膜透過性ペプチド)/PCDによる細胞傷害性ペプチドペイロードであるEPの細胞への送達(工程3)とを利用する、この癌治療のための革新的なバイオ医薬品送達技術である、ASC(抗体によりスイッチが入る細胞傷害:Antibody Switched-on Cytotoxicity)生物製剤プラットホームの作用機構(MOA)の概要図を図1に示す。
【0078】
実施例2 ASCバイオ医薬品の発現及び精製
各ASCバイオ医薬品の遺伝子を、de novo DNA合成又はPCRベースの合成によって合成し、修飾哺乳動物発現ベクターにクローニングした。ASCバイオ医薬品(3D4scr、3D4KLA、3D4S9、3D4rS9、3D4rS9-ΔD6、3D4rS9-A、3D4S9-D及び3D4Fc-rS9)を、抗DSG2抗体(3D4)をベースとして作製した。また、細胞傷害性を有しないEPを有する3D4scrを、陽性対照として抗DSG2抗体(3D4)をベースとして作製した。3D4及び3D4scrのヌクレオチド及びアミノ酸配列を下記表1に列挙する。各ASCバイオ医薬品のヌクレオチド及びアミノ酸配列は、先の配列表に記載されている(段落[0070]を参照)。ASCバイオ医薬品を、Expi293(商標) Expression System(Thermo Fisher Scientific)を用いた一過性遺伝子発現により、製造業者の使用説明書に従って発現させた。ASCバイオ医薬品を、プロテインAアフィニティー精製(GE Healthcare)によりExpi293(商標)の上清から精製した。プロテインA樹脂を0.1M Tris(pH8.0)及び10mM Tris(pH8.0)で洗浄した後、ASCバイオ医薬品を0.1Mグリシン(pH3.0)で溶出させ、続いて溶出液1mL当たり0.1mLの1M Tris-HCl(pH8.0)の添加によりサンプルpHの迅速な調整を行った。次いで、タンパク質溶液を、PD-10(Nap-10) Desalting Column(GE Healthcare)を用いてPBSで緩衝液交換し、最後にVivaspin Protein Concentrator Spin Column(GE Healthcare)を用いて濃縮した。得られるASCバイオ医薬品には、3D4scr、3D4KLA、3D4S9、3D4rS9、3D4rS9-ΔD6、3D4rS9-A、3D4S9-D及び3D4Fc-rS9が含まれる。
【0079】
【表8】
【0080】
実施例3 フローサイトメトリーによるASCバイオ医薬品の分析
細胞(1×10個/ml)を採取し、2mM EDTAを含有する2% FBSを含むPBSに再懸濁し、1μg/ml IgG、3D4scr、3D4KLA又は3D4S9と共に4℃で30分間インキュベートした。4℃で30分間、細胞をPBSで2回洗浄した後、二次FITCコンジュゲート抗体(Alexa Fluor 488ヤギ抗ヒトIgG)を添加した。サンプルをPBSで2回洗浄し、フローサイトメトリーを用いて分析した。1サンプル当たり10000の細胞事象を分析した。図2Aにフローサイトメトリーによる表面結合ASCバイオ医薬品を示すが、結果からASCバイオ医薬品が標的細胞を認識することが示される。
【0081】
ヒト乳腺癌MCF7細胞を採取し、2mM EDTAを含有する2% FBSを含むPBSに再懸濁し、3D4S9(1μg/ml)と共に各時点(1分、5分、10分、15分、30分、60分、90分及び120分)について4℃又は37℃でインキュベートした。全細胞を1%パラホルムアルデヒド中で10分間固定し、PBSで2回洗浄し、一次ウサギ抗リンカー-X抗体で染色した。Alexa Fluor 594ヤギ抗ウサギIgG及びAlexa Fluor 488ヤギ抗ヒトIgGを使用して、リンカー-X及びASCバイオ医薬品をそれぞれ検出した。フローサイトメトリーを用いてサンプルを分析した。1サンプル当たり10000の細胞事象を分析した。図2Bでは、切断されたASCバイオ医薬品がフローサイトメトリーにより評価される。
【0082】
ヒト乳腺癌MCF7細胞をガラスカバースリップ上に48時間播種し、3D4S9を用いて37℃で1時間及び48時間処理した。カバースリップ上の細胞をPBSで洗浄し、4%パラホルムアルデヒド中で固定し、PBSで2回洗浄し、0.2%Triton X-100で15分間透過処理した。PBSで洗浄した後、細胞を10%FBSで1時間ブロッキングし、続いてウサギ抗リンカー-X抗体とのインキュベーションを行った。Alexa Fluor 594ヤギ抗ウサギIgG及びAlexa Fluor 488ヤギ抗ヒトIgGを使用して、リンカー-X及びASCバイオ医薬品の位置をそれぞれ可視化した。最後に、固定した細胞をPBSで3回洗浄し、それらの核を対比染色し、マウントし、蛍光顕微鏡又は共焦点顕微鏡を用いることによって観察した。図2Cにこの蛍光ICC染色を示す。図2B及び図2Cの結果から、3D4S9のポリカチオンドメインが切断され、ヒト乳腺癌MCF7細胞に内在化することが示される。
【0083】
実施例4 軟寒天コロニー形成アッセイ
細胞(2×10個)を3D4scr、3D4KLA、3D4S9、3D4rS9、3D4rS9-ΔD6、3D4rS9-A、3D4S9-D又は3D4Fc-rS9で10分間処理した後、成長培地中で0.35%アガロースと混合し、12ウェルプレートの成長培地中の0.5%アガロースの固化層の上部にプレーティングした。1週間~2週間後にコロニーをクリスタルバイオレット(0.01%溶液)で着色し、PBSで洗浄し、顕微鏡を用いてコロニーを計数した。3D4scr、3D4KLA、3D4S9、3D4rS9、3D4rS9-ΔD6、3D4rS9-A、3D4S9-D又は3D4Fc-rS9の軟寒天コロニー形成アッセイの結果を図3図9に示す。結果から、3D4KLAで処理したヒト乳腺癌MCF7細胞(図3A)及びヒト非小細胞肺癌H1299(図3B)における軟寒天コロニー形成活性の低下;3D4S9で処理したヒト乳腺癌MDA-MB-231(図4A)、ヒト乳腺癌SKBR3(図4B)、ヒト乳腺癌MCF7(図4C)、ヒト肺癌A549(図4D)、ヒト非小細胞肺癌H1299(図4E)及びヒト膵臓腺癌PANC-1細胞(図4F)における軟寒天コロニー形成活性の低下;3D4rS9で処理したヒト肺癌A549細胞における軟寒天コロニー形成活性の低下(図5);3D4rS9-Aで処理したヒト乳腺癌SKBR3(図6A)及びヒト肺癌A549細胞(図6B)における軟寒天コロニー形成活性の低下;3D4rS9-Dで処理したヒト肺癌A549細胞における軟寒天コロニー形成活性の低下(図7);3D4rS9-ΔD6で処理したヒト乳腺癌SKBR3細胞における軟寒天コロニー形成活性の低下(図8);3D4Fc-rS9で処理したヒト肺癌A549細胞における軟寒天コロニー形成活性の低下(図9)が示される。
【0084】
3D4scr、3D4S9、3D4KLA、3D4rS9、3D4rS9-ΔD6、3D4rS9-A、3D4rS9-D及び3D4Fc-rS9を様々な癌細胞株中でのin vitro阻害アッセイにおいて使用した。結果を下記表2に示す。
【0085】
【表9】
【0086】
実施例5 腫瘍異種移植片
6週齢雄性非肥満糖尿病-重症複合免疫不全マウスに、マトリゲル(1:1)と混合した0.1mlのPBS中の2×10個のヒト膵癌PANC1細胞株の細胞の皮下注射を行った。腫瘍体積が20mm前後に達した時点で、マウスを各処理群に無作為に割り当てた。PBSで希釈した3D4scr及び3D4S9(30mg/kg)を、3週間にわたって週2回腹腔内注射した。3D4scr及び3D4S9療法の全身毒性を評価するために、体重を治療期間の終了時に記録した。ノギスを用いて腫瘍サイズを測定し、式(長さ×幅)/2に従って腫瘍体積を算出した。
【0087】
図10A図10Cに、3D4S9がヒト膵癌PANC1細胞を用いたNOD/SCIDマウスにおける異種移植片腫瘍成長を低減することが示される。3D4scr対照群の231(±150)mmと比較して、3D4S9で処理したヒトPANC1腫瘍異種移植片を担持するマウスは、3週間後に84(±40)mmの腫瘍体積を有していた。3D4S9処理により異種移植片腫瘍体積が60%低減した(図10A)。3D4scr対照群の0.66(±0.3)gと比較して、3D4S9で処理したヒトPANC1腫瘍異種移植片を担持するマウスは、3週間後に0.13(±0.02)gの腫瘍重量を有していた。3D4S9処理により異種移植片腫瘍重量が80%低減した(図10B)。屠殺前にマウスの体重を量った。3D4scr又は3D4S9で処理したヒトPANC1腫瘍異種移植片を担持するマウスは、ほぼ同じ体重を有していた(図10C)。
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
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