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特許7240007改良されたトランスポザーゼポリペプチドおよびその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-07
(45)【発行日】2023-03-15
(54)【発明の名称】改良されたトランスポザーゼポリペプチドおよびその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/10 20060101AFI20230308BHJP
   A61K 38/45 20060101ALI20230308BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230308BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230308BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230308BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230308BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230308BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230308BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230308BHJP
   C12N 15/54 20060101ALI20230308BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230308BHJP
   C12N 15/87 20060101ALI20230308BHJP
【FI】
C12N9/10 ZNA
A61K38/45
A61K48/00
A61P35/00
A61P43/00 105
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N15/54
C12N15/63 Z
C12N15/87 Z
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020510583
(86)(22)【出願日】2018-08-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-11-26
(86)【国際出願番号】 EP2018072320
(87)【国際公開番号】W WO2019038197
(87)【国際公開日】2019-02-28
【審査請求日】2021-07-29
(31)【優先権主張番号】17187128.8
(32)【優先日】2017-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】301076083
【氏名又は名称】ヨーロピアン モレキュラー バイオロジー ラボラトリー
【氏名又は名称原語表記】European Molecular Biology Laboratory
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100163544
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 緑
(72)【発明者】
【氏名】バラバス,オルソルヤ
(72)【発明者】
【氏名】ケルク,イルマ
(72)【発明者】
【氏名】ズリアニ,セシリア イネス
【審査官】木原 啓一郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-531650(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12N 9/00-9/99
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランポザーゼポリペプチドが、スリーピングビューティー(SleepingBeauty、SB)トランスポザーゼであり、配列番号2に示されるアミノ酸配列と比較して176および212の位置で少なくとも2つの変異アミノ酸を含むものであって、該トランスポザーゼポリペプチドが、配列番号1または配列番号3に示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、該トランスポザーゼポリペプチドが、配列番号2で示される配列を含む参照非変異SBトランポザーゼと比較して、(i)高い収量で産生することができる、(ii)高い熱安定性を有する、および、(iii)より長く保存することができる、のうち少なくとも1つの性質を有する、トランポザーゼポリペプチド。
【請求項2】
該少なくとも2つの変異アミノ酸が、セリン残基に変異しているものである、請求項1に記載のトランポザーゼポリペプチド。
【請求項3】
配列番号1または3に示される全長アミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1または2に記載のトランポザーゼポリペプチド。
【請求項4】
配列番号1または3に示される全長アミノ酸配列と少なくとも100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1~3のいずれか1に記載のトランポザーゼポリペプチド。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1に記載のトランポザーゼポリペプチドをコードする核酸配列を含むポリヌクレオチド、または
請求項1~4のいずれか1に記載のトランポザーゼポリペプチドをコードする核酸配列を含むポリヌクレオチドであって、該ポリヌクレオチドがRNAまたはDNAである、ポリヌクレオチド。
【請求項6】
請求項5に記載の発現可能なポリヌクレオチドおよびプロモーター配列を含む発現構築物であって、該プロモーター配列が発現可能なポリヌクレオチドに作動可能に連結され、該ポリヌクレオチドの発現を可能にするものである、発現構築物。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか1に記載のトランポザーゼポリペプチド、請求項5に記載のポリヌクレオチド、および/または請求項6に記載の発現構築物を含む、組換え細胞。
【請求項8】
(a)標的細胞のゲノムに挿入される目的の配列に隣接する、逆方向末端反復配列(ITR)または直接末端反復配列(DTR)を含むトランスポゾンユニット、および
(b)請求項1~4のいずれか1に記載のトランポザーゼポリペプチド、請求項5に記載のポリヌクレオチド、および/または請求項6に記載の発現構築物、
を含むトランスポゾンシステム。
【請求項9】
標的細胞に遺伝子送達するための請求項8に記載のトランスポゾンシステムのインビトロ使用。
【請求項10】
(a)標的細胞と請求項8に記載のトランスポゾンシステムを接触させる工程、
(b)前記標的細胞の培養を許容する条件下で前記標的細胞を培養する工程、
を含む、標的細胞への遺伝子送達インビトロ方法。
【請求項11】
請求項1~4のいずれか1に記載のトランポザーゼポリペプチド、請求項5に記載のポリヌクレオチド、および/または請求項6に記載の発現構築物を薬学的に許容される担体および/または賦形剤と共に含む医薬組成物。
【請求項12】
(a)標的細胞のゲノムに挿入される目的の配列に隣接する逆方向末端反復(ITR)またはDTRを含むトランスポゾンユニット、および
(b)請求項1~4のいずれか1に記載のトランポザーゼポリペプチド、請求項5に記載のポリヌクレオチド、および/または請求項6に記載の発現構築物、
を含むキット。
【請求項13】
疾患の治療のための請求項11に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は増加した溶解度を有する改良されたトランスポザーゼポリペプチドに関連する。本発明の酵素はスリーピングビューティー(Sleeping Beauty、SB)トランスポザーゼに基づいて開発された。本発明は核酸、ベクターおよび改良トランスポザーゼをコードするまたは含む組換え細胞、ならびにトランスポザーゼシステムをさらに提供する。遺伝子送達のための本発明のトランスポザーゼの医療および非医療での使用がさらに提供される。特に本発明は、さまざまな疾患を治療するための遺伝子組換え細胞ベースの治療アプローチにおける遺伝子送達のツールとして有用である。
【背景技術】
【0002】
DNAトランスポゾンは、ゲノム内およびゲノム間を移動できる生命の樹全体にわたって広範に伝播する分散した遺伝的実体である。それらは、ゲノムのリモデリング、進化の変化、抗生物質耐性決定因子の伝達および適応免疫などの新しい生物学的機能の開発を促進する顕著な進化の力である。その天然の特徴により、DNAトランスポゾンは、遺伝子組換えおよび機能的ゲノミクスにおける人工遺伝子担体および挿入変異誘発物質としてうまく利用されている。
【0003】
サケ類の魚のゲノム由来のスリーピングビューティー(Sleeping Beauty、SB)トランスポゾンの再構築によって、脊椎動物のゲノム操作のためのDNAトランスポゾンの使用が、最初に利用可能となった。適用されるSBトランスポゾンシステムは、特定のSB逆方向反復配列(IR)が隣接する目的の遺伝子(遺伝子カーゴ(cargo))および別のプラスミドまたは遺伝子座から発現されるトランスポザーゼタンパク質で構成されるトランスポゾンからなる。トランスポザーゼはIRに特異的に結合し、ドナー遺伝子座からトランスポゾンを切断し、それを新しいゲノムの遺伝子座に組み込む。SBは脊椎動物のゲノムで非常に高い挿入効率を有することにより、高等生物への遺伝子組換え、幹細胞の生成、がん遺伝子の発見にうまく適用される、主要な遺伝的ツールの開発を可能にした。
【0004】
重要なことに、現在、SBは、悪性腫瘍特異的抗原に対するキメラ抗原受容体(CAR)を組み込むことによりex vivoでT細胞を修飾することを目的とした5つの臨床試験で、非ウイルス遺伝子送達ベクターとしても適用されている。これらの研究において、SBトランスポザーゼは、ドナープラスミド由来のCAR遺伝子運搬トランスポゾンを患者由来のT細胞のゲノムに挿入し、癌患者に連続的に再注入される。導入されたCARは、T細胞に癌細胞を明確に標的とする新しい特異性を提供し、抗原との遭遇時にエフェクター機能の引き金を引く。最も成功したCAR-T療法は、悪性B細胞で過剰発現するCD19抗原を標的とする。この治療法は、急性および慢性白血病の治療において前例のない奏功率(70%~90%)を示し、今後数年間で多くのB細胞悪性腫瘍の主流の治療となるだろう。しかしながら、多くの患者の治療のために、製造の実現可能性と安全性を改善する緊急の必要性があり、これは一般に遺伝子治療の決定的な要件でもある。
【0005】
SBは単純なバイナリ合成システムであるため、ウイルスベクターよりも安価で簡単かつ迅速に作成および実装できる。これは、特に単回使用および個別の適用に特定の利点を提供する。非ウイルス性SBベクターの使用は、一般的な遺伝子治療用途、および特に癌免疫療法(すなわち、CAR-T細胞療法)におけるウイルスベクターの使用に関連する主要な安全上の懸念を構成する、患者の望ましくない免疫応答活性化のリスクも低減する。さらに、活発に転写される領域または調節領域に優先的に挿入されるガンマレトロウイルスおよびレンチウイルスベクターとは対照的に、SBは挿入変異誘発および遺伝毒性のリスクを減らす、ほぼランダムなゲノム組み込みパターンを示す。ジンクフィンガー、TALEN、およびCas9などのゲノム編集ヌクレアーゼとは異なり、SBトランスポザーゼは、標的遺伝子座で潜在的に有害な二本鎖切断を生成することなく、そのカーゴを染色体に直接かつ正確に組み込む。したがって、SBの挿入率と安全性は、標的細胞の修復機構の効率に依存しない。これらの利点により、SBは臨床試験でCAR-T細胞操作に使用される唯一の非ウイルス遺伝子送達ビヒクルとなり、この数年でSBシステムにかなりの商業的関心が寄せられた。
【0006】
SBシステムは通常、ウイルスベクターよりも低い遺伝子導入効率を持つが、最近の戦略(その構成因子の設計と送達方法の改善、およびCAR陽性細胞の選択的増殖)により、SBを介したT細胞操作での成功がウイルスのアプローチと同様のレベルにまで増加した。これらの改善にもかかわらず、重要な問題が残っている。特に、長期のトランスポザーゼ発現は、制御されない進行中の転位、潜在的に導入遺伝子の再動員、望ましくない挿入事象、ゲノムの不安定性、および細胞毒性を引き起こす可能性がある。さらに、(例えば、相同組換えによる)発現ベクターからのSBトランスポザーゼ遺伝子の挿入は、無限のトランスポザーゼ産生をもたらす可能性があり、トランスポザーゼプロモーターの意図しない獲得は、標的細胞における癌遺伝子の活性化または遺伝子調節ネットワークの破壊を引き起こす可能性がある。これは、現在のSBシステムの安全性に関する懸念を生じさせ、これらのリスクを軽減または緩和するための技術的進歩の必要性に光をあてる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これらのリスクを回避するために、SBトランスポザーゼタンパク質の直接送達が非常に望まれる。これは、特に治療用途において、より厳密な効率/時間制御を達成し、転位に基づく細胞操作の安全性を改善するのに役立つ。それにもかかわらず、十分な量と品質での活性組換えSBトランスポザーゼの産生は、これまで困難だった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の問題は、トランスポザーゼの参照アミノ酸配列(例えば、非変異人工トランポザーゼまたは野生型酵素)と比較して少なくとも1つの変異アミノ酸残基を含むものであって、該少なくとも1つの変異アミノ酸残基は、トランスポザーゼの触媒ドメイン内に位置する、トランスポザーゼポリペプチドによる第1の態様で解決される。触媒ドメインは、例えばSB100x(配列番号2)の残基150~250の間のアミノ酸配列内にあることが好ましい。好ましくは本発明の参照トランポザーゼは野生型酵素としての、またはSB10、SB11、またはSB100Xなどの遺伝子組換え酵素としてのSBトランスポザーゼである。
【0009】
トランスポザーゼポリペプチドは、先行技術のSB100x酵素と比較していくつかの驚くべき利点を有する。本発明のトランスポザーゼが組換えタンパク質発現においてより高いタンパク質収率を示し、エレクトロポレーションによるタンパク質の送達に有利である(エレクトロポレーションバッファーによく溶ける)増加した溶解度を有し、該酵素は、より安定でタンパク質分解の傾向が低く、特に先行技術の酵素よりも熱安定性が高くエレクトロポレーション中も有利であることを実施例の節において示す。
【0010】
本発明は、変異トランスポザーゼ変異体を直接送達することにより、哺乳類細胞の効率的で安定し制御された遺伝子操作を達成するための安全で効果的な戦略を提供する。本発明の新たなトランスポザーゼ変異体は、大規模な組換えタンパク質の産生およびトランスフェクションに適しており、そのことによりさまざまな哺乳動物細胞株の良好な操作とキメラ抗原受容体(CAR)T細胞の製造を可能にする。「SBprotAct」と名付けられた本戦略は安全性の問題を軽減する新しいアプローチを提供し、臨床応用におけるトランスポザーゼシステムの最大限の制御を可能にする。最後に、本発明のトランスポザーゼは、同じ遺伝子組換え率で細胞あたりの挿入数が少なくなることが証明され、したがって、厳密に制御された遺伝子送達が可能になる。
【0011】
本明細書で使用される「トランスポザーゼ」という用語は、転位が可能な機能的核酸-タンパク質複合体の構成要素であり、転位を媒介する酵素を指す。「トランスポザーゼ」という用語は、レトロトランスポゾンまたはレトロウイルス起源のインテグラーゼも指す。本明細書で使用される「転位反応」は、トランスポゾンが標的核酸に挿入される反応を指す。転位反応の主要構成要素は、トランスポゾンおよびトランスポザーゼまたはインテグラーゼ酵素である。例えば、本発明によるトランポザーゼシステムは好ましくはいわゆる「スリーピングビューティー(Sleeping Beauty、SB)」トランポザーゼである。ある態様において、トランスポザーゼは、酵素機能の向上などの特性が改良された人工酵素である。人工SBトランポザーゼのいくつかの特定の例は、これに限定されるものではないが、SB10、SB11またはSB100× SBトランポザーゼ (例えば、Mates et al., Nat. Gen. 2009を参照、参照により本明細書に組み込まれる)を含む。他の転移システムでは、例えば、Ty1 (Devine and Boeke, 1994, および WO 95/23875)、Tn7 (Craig, 1996)、Tn 10 および IS 10 (Kleckneret al. 1996)、 マリナートランポザーゼ (Lampe et al., 1996)、Tc1 (Vos et al., 1996)、Tn5 (Park et al., 1992)、P因子 (Kaufman and Rio, 1992) および Tn3 (Ichikawaand Ohtsubo, 1990)、細菌挿入配列 (Ohtsubo and Sekine, 1996)、レトロウイルス (Varmus and Brown 1989)、および酵母のレトロトランスポゾン (Boeke, 1989)が使用され得る。
【0012】
本発明の好ましい態様において、トランポザーゼはスリーピングビューティー(Sleeping Beauty、SB)トランポザーゼ、および好ましくはSB100X(配列番号2)またはSB100X由来の酵素である。
【0013】
したがって、本発明によるトランスポザーゼポリペプチドは、トランスポザーゼ活性を有するポリペプチドであって、少なくとも1つの変異アミノ酸残基が、SBトランスポザーゼ、好ましくはSB100Xトランポザーゼのアミノ酸150~250の間に位置する残基である。
【0014】
いくつかの態様において、少なくとも1つの変異アミノ酸残基は、少なくとも2つの変異アミノ酸残基、または少なくとも3、4、5、またはそれ以上のアミノ酸であることが好ましい。本発明のトランスポザーゼポリペプチドは、その配列をSBトランスポザーゼ、好ましくはSB100Xの配列と整列させた場合、アミノ酸170~180および/または207~217のいずれか1つで変異していることが好ましい。より好ましくは、少なくとも1つの変異アミノ酸残基は、SBトランスポザーゼ、好ましくはSB100Xのアミノ酸176および/または212から選択される。最も好ましくは、少なくとも1つの変異アミノ酸残基は、セリン残基に変異しており、好ましくはC176S、またはC176SおよびI212Sである。
【0015】
他の態様において、本発明のトランポザーゼポリペプチドは、配列番号1(hsSB)に示される残基150~250の間のアミノ酸配列と少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、最も好ましくは100%の配列同一性を有するアミノ酸配列をさらに含む。トランスポザーゼポリペプチドは、配列番号2に示される配列と比較して少なくともC176変異、好ましくはC176Sを含むことが好ましい。さらにより好ましくは、トランスポザーゼポリペプチドは、位置I212、好ましくはI212Sに突然変異をさらに含む。
【0016】
いくつかの態様において、本発明のトランポザーゼポリペプチドは、配列番号1または3(hsSB)に示される全長アミノ酸配列と少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、最も好ましくは100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。好ましくは、配列同一性の程度はいくつかの実施態様では100%未満であるが、上記の少なくとも1つの突然変異が本発明のトランスポザーゼポリペプチドに存在するものとする。
【0017】
本明細書では、2つ以上の核酸またはタンパク質/ポリペプチド配列の観点で本明細書のどこかで使用される場合、用語「同一」またはパーセント「同一性」は、同じまたは特定のパーセントのアミノ酸残基またはヌクレオチドを有する(または少なくとも有する)2つ以上の配列または部分配列を指すものであって、配列比較アルゴリズムを使用して、または手動のアライメントおよび目視検査(例えばNCBIウェブサイトを参照)によって測定されたものと同じ(すなわち、比較ウィンドウまたは指定された領域で最大の一致を得るために比較およびアライメントされた場合、特定の領域にわたって、好ましくはこれらの全長配列にわたって、少なくとも約60%の同一性、好ましくは少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%または94%の同一性、より好ましくは少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%、またはそれ以上の同一性。)である。特定の態様において、例えば、本発明のトランスポザーゼのタンパク質または核酸配列を例えば参照(非変異トランスポザーゼ)と比較する場合、同一性のパーセントはNCBIで提供されるBlast検索により決定することができ、特にアミノ酸同一性の場合、BLASTP 2.2.28+で以下のパラメーター[Matrix: BLOSUM62;Gap Penalties: Existence: 11, Extension: 1; Neighboring words threshold: 11;Window for multiple hits: 40]を使用することができる。
【0018】
さらに、いくつかの態様において、本発明のトランポザーゼポリペプチドは、参照非変異トランスポザーゼポリペプチドと比較して増加した溶解度を有するものであって、好ましくは、参照非変異トランポザーゼポリペプチドはSB100Xトランポザーゼ、好ましくは配列番号2(非変異SB100X)で示されるトランポザーゼである。
【0019】
本発明の別の態様において、上記のトランスポザーゼポリペプチドをコードする核酸配列を含むポリヌクレオチドが提供され、好ましくは該ポリヌクレオチドはRNAまたはDNAである。例えば、RNAは、mRNAが生体細胞に導入される場合、本発明のトランスポザーゼポリペプチドへの直接翻訳を可能にするメッセンジャーRNA(mRNA)の形態で提供され得る。
【0020】
本発明の別の態様では、本発明のポリヌクレオチドを含むベクターに関する。本発明のトランスポザーゼポリペプチドをコードする発現可能なポリヌクレオチドおよびプロモーター配列を含む発現構築物も提供されるものであって、該プロモーター配列は、発現可能なポリヌクレオチドに作動可能に連結され、ポリヌクレオチドの発現を可能にするものである。
【0021】
本発明のトランスポザーゼポリペプチド、本発明のポリヌクレオチド、または本発明のベクターおよび/または発現構築物を含む組換え細胞も提供される。
【0022】
組換え細胞は、組換えタンパク質の発現に適した細胞であることが好ましく、好ましくは、本発明のトランスポザーゼポリペプチドの組換えタンパク質発現のためのものである。例えば、細菌細胞または真核細胞など、最も好ましくは大腸菌などの細菌細胞またはショウジョウバエS2細胞などの昆虫細胞またはHEK293T細胞などの哺乳動物細胞が挙げられる。
【0023】
別の態様では、
(a)標的細胞のゲノムに挿入される目的の配列に隣接する、逆方向末端反復配列(ITR)または直接末端反復配列(DTR)を含むトランスポゾンユニット、および
(b)トランスポザーゼポリペプチド、ポリヌクレオチド、ベクター、および/または上記の発現構築物、
を含むトランスポゾンシステムに関する。
【0024】
本明細書において、用語「トランスポゾンユニットは」標的細胞ゲノムに導入される標的配列とともにトランスポゾン遺伝配列を構成する核酸構築物を指すものとする。通常、トランスポゾンユニットは核酸であり、転位に適した任意の形態のベクターであり得る。
【0025】
本明細書に記載のとおり、用語「逆方向末端反復」はベクターまたはトランスポゾンユニットの反対側の端に位置する相補配列と組み合わせて使用される場合、トランスポザーゼポリペプチドによって切断されるトランスポゾンユニットの一端に位置する配列を指す。一対の逆方向末端反復は、本開示のトランスポゾンユニットのトランスポゾンの転位活性に関与し、特に目的DNAのDNAの付加または除去および切除および組み込みに関与する。一例において、少なくとも一対の逆方向末端反復は、プラスミドの転位活性に必要な最小配列であると思われる。別の例において、本開示のトランスポゾンユニットは、少なくとも2、3または4対の逆方向末端反復を含み得る。当業者によって理解されるように、クローニングの容易さを促進するために、必要な末端配列は可能な限り短くてもよく、したがって可能な限り少ない逆方向反復を含んでもよい。したがって、一例において、本開示のトランスポゾンユニットは、1つ以下、2つ以下、3つ以下、または4つ以下の逆方向末端反復を含んでもよい。一例において、本開示のトランスポゾンユニットは、1つの逆位末端反復のみを含み得る。理論に拘束されることを望まないが、複数の逆方向末端反復を有することは、複数の逆方向末端反復への非特異的トランスポザーゼ結合をもたらす可能性があり、結果として所望の配列の除去または望ましくない配列の挿入をもたらす可能性があるため、不利であり得ることが想定される。本開示の逆方向末端反復は、完全な逆方向末端反復(または「完全な逆方向反復」と交換可能に呼ばれる)または不完全な逆方向末端反復(または交換可能に「不完全な逆方向反復」と呼ばれる)を形成し得る。本明細書で使用されるとおり、用語「完全な逆方向反復」は反対方向に配置された2つの同一のDNA配列を指す。ITRでのトランスポゾンユニットに関する上記の説明は、DTRでのトランスポゾンユニットにも適用される。
【0026】
本発明の本発明のトランスポゾンポリペプチド/核酸と共に使用することができるトランスポゾンシステムは、例えば参照により本開示に含まれるWO 2017/050448 A1に開示されている。
【0027】
本発明によるトランスポゾンシステムは、(a)のトランスポゾンユニットがミニサークルの形態であることが好ましい。しかしながら、トランスポゾンユニットは他の核酸システムであってもよい。しかしながら、T細胞操作の観点では、ミニサークルが好ましい。
【0028】
好ましい態様における本発明のトランスポゾンシステムは、SBトランスポゾンシステムである。
【0029】
本発明の別の態様は、標的細胞への遺伝子送達について記載されたトランスポゾンシステムの使用にも関する。遺伝子送達は、好ましくは、造血または胚性幹細胞、T細胞、B細胞またはチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞などの幹細胞から選択される標的細胞などの標的細胞へのエクスビボ遺伝子送達である。最も好ましくは、CAR T細胞の生成に使用される本発明のシステムまたは化合物である。
【0030】
本明細書で使用される用語「キメラ抗原受容体」(CAR)は、T細胞またはNK-92細胞などの細胞の細胞内シグナル伝達ドメインに融合される細胞外抗原結合ドメインを指す。
【0031】
(a)上記標的細胞とトランスポゾンシステムを接触させる工程、(b)前記標的細胞の培養を許容する条件下で前記標的細胞を培養する工程、
を含む、標的細胞への遺伝子送達方法も提供される。
【0032】
別の態様において、トランスポザーゼポリペプチド、ポリヌクレオチド、ベクター、および/または発現構築物を薬学的に許容される担体および/または賦形剤と共に含む医薬組成物が提供される。
【0033】
別の態様では、
(a)標的細胞のゲノムに挿入される目的の配列に隣接する逆方向末端反復(ITR)またはDTRを含むトランスポゾンユニット、および
(b)本明細書に記載の本発明のトランスポザーゼポリペプチド、ポリヌクレオチド、ベクター、および/または発現構築物、
を含むキットに関する。
【0034】
本発明の化合物およびシステムは、好ましくは医薬における用途を見出すことができる。したがって、本発明のこのような化合物およびシステムは、好ましくは疾患の治療に使用するためのものである。そのような疾患は、癌などの増殖性疾患であり得る。癌治療のために、本発明は、改変された免疫細胞の生成の観点で使用され得る。例えば、本発明を使用して、免疫細胞にT細胞受容体(TCR)またはCARまたは他の免疫分子を導入し、癌細胞に対する患者の免疫系を強化および標的化することができる。改変できる免疫細胞は、ヒトTリンパ球またはB細胞から選択され得る。本発明から利益を得ることができる他の疾患は、遺伝子機能の喪失を特徴とする遺伝的障害である。そのような疾患において、細胞は、疾患関連遺伝子の健常なコピーを含むように本発明で改変され得る。本発明に関連して好ましく使用される他の標的細胞は、例えば、胚性幹細胞などの幹細胞、または造血幹細胞などの成体幹細胞である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
以下の図、配列、および実施例は、単に本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を実施例に記載された本発明の特定の実施形態に限定すると解釈されるべきではない。本明細書に引用されるすべての参考文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0036】
図1-1】SB100Xトランポザーゼの合理的な変異誘発
図1-2】同上
図1-3】同上
図1-4】同上
図1-5】同上
図1-6】同上
図2】SBprotAct操作手順の概略図
図3】導入遺伝子(ネオマイシン)の挿入は、トランスフェクトされたhsSBトランスポザーゼの転位活性によって引き起こされる。
図4】11個の単離されたネオマイシン陽性HeLa細胞クローンからのネオマイシン遺伝子座の配列分析により得られた挿入部位。TAジヌクレオチドでSB IRの挿入が正しく行われる。
図5-1】タンパク質またはプラスミドによるhsSBの送達。(a):タンパク質としてHeLa細胞に送達された、またはプラスミドDNAから発現されたhsSBの保持
図5-2】タンパク質またはプラスミドによるhsSBの送達。(b)および(c):HeLa細胞の代表的な転位アッセイは、プラスミド(b)またはタンパク質(c)として提供されるhsSBトランスポザーゼを使用した場合、同等の導入遺伝子(ネオマイシン耐性)挿入率を示す。誤差範囲は、2つの独立した実験の平均の標準誤差を示す(n = 2)、
図5-3】同上
図5-4】タンパク質またはプラスミドによるhsSBの送達。(d)および(e):Venusを運ぶトランスポゾンプラスミドおよび(d)hsSBプラスミド、または(e)エレクトロポレーションによるhsSB送達でトランスフェクトされたHeLa細胞の蛍光標識細胞分取(FACS)による代表的なフローサイトメトリー分析。トランスポゾンプラスミドを獲得した細胞は、トランスフェクションの2日後に選別された、転位効率は、FACS分析により21日後に定量化された。
図6】細胞選別による定量化を伴うSBprotAct操作手順の概略図。
図7】Venusを運ぶトランスポゾンプラスミドでトランスフェクトされ、hsSBトランスポザーゼでエレクトロポレーションされたHeLa細胞の代表的なフローサイトメトリー分析。
図8】Venusを運ぶトランスポゾンプラスミドでトランスフェクトされ、hsSBトランスポザーゼでエレクトロポレーションされたチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞の代表的なフローサイトメトリー分析。
図9-1】hsSBトランスポザーゼタンパク質の直接送達によるmESCの遺伝子操作。
図9-2】同上
図9-3】同上
図10】フローサイトメトリー分析により定量化された、異なる細胞株におけるSBprotActシステムの遺伝子組換え効率。誤差は標準偏差(n = 2)として示される。
【発明を実施するための形態】
【0037】
(下線は、変異または変異する残基である。 太字および斜体は、組換えタンパク質発現のために導入された残基である)
【実施例
【0038】
実施例1:SB100Xトランポザーゼの合理的な変異誘発
【0039】
図1において、 (a)左側にSB100Xトランスポザーゼ(以下、SBという)触媒ドメインの結晶構造が示されている。hsSB変異体の生成のためにセリンに変異した残基は、マゼンタの棒で示されている。右:組換えタンパク質生産に使用される完全長hsSBトランスポザーゼ変異体のアミノ酸配列。マゼンタの太字下線付き文字は、SB100X配列におけるC176およびI212をそれぞれ置換するセリンを示す。組換えタンパク質産生のために、N末端に青色の残基が導入されている。
【0040】
図1(b)は本発明のhsSBタンパク質の組換え産物を示す。精製されたhsSBタンパク質変異体のSDS-PAGE分析が提供される。hsSBは、大腸菌(N末端精製および溶解性タグに融合)で大量に組換え産生される。hsSBは、タグの除去とサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)の後、高純度である。hsSBの精製収率を図1cに示す。サイズ排除クロマトグラムは、hsSBがSBと比較して大幅に高い収量(ほぼ2倍量)で組換え産生されたことを示し、hsSB変異体の溶解性が改良されたことを示す。エレクトロポレーションバッファーへのhsSBの高い溶解性を図1cに示す。hsSBは50倍まで濃縮できるが(20mg/mlに相当)、一方でSBは7mg/mlよりも高い濃度で沈殿する。hsSBは、高タンパク質濃度でも、低塩Rバッファー(エレクトロポレーション用)に非常に溶けやすい。濃縮するとある程度の沈殿が観察されまするが、大部分のhsSBは可溶性画分に留まる。37℃でのインキュベーション時の精製SBタンパク質のSDS-PAGE分析を図1eに示す。SBは、生理的温度での短いインキュベーションでも分解(アスタリスクで示される分解生成物)を示すが、hsSBは示さない。また、図1fに示すように、hsSBはSBよりも熱安定性がある。生理学的(200 mM NaCl、pH 7.5)バッファー条件に近い両タンパク質のCD測定。しかしながら、左パネルに示すように、hsSBはSBと同じ折り畳みを持つ。それにもかかわらず、hsSBは非常に熱安定性が高く、95℃ではまだ完全に折り畳み構造は解けない(右パネル)。エレクトロポレーションでは試料を加熱することを考慮すると、この特性はタンパク質トランスフェクションに非常に有利である。最後に、長期保存時、hsSBはSBよりもよく保存される(図1g)。左パネルで-80℃での長期保存時の精製SBタンパク質のSDS-PAGE分析では、SBが凍結後に著しい分解を受けるが、hsSBはそうではないことを示す(右パネル)。左の青いボックスとアスタリスクで示されるバンドの質量分析により、バンドがSBタンパク質の分解産物に対応していることが確認される。
【0041】
実施例2:hsSBトランスポザーゼを使用したHela細胞への遺伝子送達
【0042】
図2に遺伝子送達の戦略が描かれる。導入遺伝子(ネオマイシン耐性遺伝子)の挿入は、トランスフェクトされたhsSBトランスポザーゼの転位活性によって引き起こされる(図3)。上: HeLa細胞における代表的な転位アッセイ。ネオマイシン耐性コロニーの数は括弧内に示される。下: HeLa細胞における転位アッセイの定量化。 誤差範囲は標準誤差を表す(n=3)。
【0043】
図4は、単離されたネオマイシン陽性HeLa細胞由来のネオマイシン遺伝子座の配列分析により得られた挿入部位を示す。TAジヌクレオチドでSB IRの挿入が正しく行われる。
【0044】
図5(a)は、タンパク質としてHeLa細胞に送達された、またはプラスミドDNAから発現されたhsSBの保持を示す。ウェスタンブロット分析では、エレクトロポレーション後48時間で送達されたhsSBタンパク質のほぼ完全な損失を示す、一方で、hsSB発現プラスミドでトランスフェクトされた細胞は、トランスフェクション後24時間から5日まで連続して高レベルのタンパク質を産生する。0.5μgのpSBTer(Tpn)をトランスフェクトし、10μgのhsSBタンパク質をエレクトロポレーションしたか、0.5μgのhsSB発現プラスミドをトランスフェクトしたHeLa細胞の細胞溶解液でウエスタンブロットを行った。示された時点で試料を採取し、20μg-sの全溶解物を電気泳動で分離し、ニトロセルロース膜に転写した。SBは抗SB抗体で検出された。内部ローディングコントロールは、抗GAPDH抗体で検出されたグリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)とした。バンドの強度を測定することにより、HeLa細胞のhsSBの残存性を経時的に定量化できる(左のグラフを参照)。
【0045】
発現プラスミド上で提供されるhsSBによって行われるか、エレクトロポレーションによってタンパク質として直接送達されるhsSB によるHeLa細胞における遺伝子操作効率の比較を図5(b)~5(e)に示す。図からわかるように、遺伝子操作の効率はトランスフェクション法に依存しないが、タンパク質のエレクトロポレーションはより短時間でより効率的であり、一方でプラスミドトランスフェクションは、トランスポザーゼの長期発現をもたらす。
【0046】
セルソーティングによる定量化を伴うSBprotAct操作手順の模式図を図6に示す。図7は、Venusを運ぶトランスポゾンプラスミドでトランスフェクトされ、hsSBトランスポザーゼでエレクトロポレーションされたHeLa細胞の代表的なフローサイトメトリー分析を示す。転位陽性細胞を選択するために、トランスフェクションの3週間後にVenus陽性細胞を特定する。エレクトロポレーションされたhsSBタンパク質の量は、各図表の上に示される。Y軸:生細胞を選択するためのヨウ化プロピジウム(PI)染色。X軸:Venus由来緑色蛍光。NT:非トランスフェクション。
【0047】
実施例3:CHO細胞およびマウス胚性幹細胞(mESC)におけるhsSBトランスポザーゼを使用した遺伝子送達
【0048】
Venusを運ぶトランスポゾンプラスミドでトランスフェクトし、hsSBトランスポザーゼでエレクトロポレーションしたチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞の代表的なフローサイトメトリー分析を図8に示す。転位陽性細胞を選択するために、トランスフェクションの3週間後にVenus陽性細胞を特定する。エレクトロポレーションされたhsSBタンパク質の量は、各図表の上に示される。Y軸:生細胞を選択するためのヨウ化プロピジウム(PI)染色。X軸:Venus由来緑色蛍光。NT:非トランスフェクション。
【0049】
図9は、hsSBトランスポザーゼタンパク質の直接送達によるmESCの遺伝子操作を示す。(a):トランスフェクトされたhsSBトランスポザーゼによる効率的な導入遺伝子(ネオマイシン耐性)挿入を実証するマウス胚性幹細胞(mESC)の代表的な転位アッセイ。(b):Venusを運ぶトランスポゾンプラスミドでトランスフェクトされ、hsSBトランスポザーゼでエレクトロポレーションされたmESCの代表的なフローサイトメトリー分析。転位陽性細胞を選択するために、トランスフェクションの3週間後にVenus陽性細胞が特定される。エレクトロポレーションされたhsSBタンパク質の量は、各図表の上に示される。Y軸:生細胞を選択するためのヨウ化プロピジウム(PI)染色。X軸:Venus由来緑色蛍光。NT:非トランスフェクション。(c):Oct4染色により、操作されたmESCが多能性状態を保持していることが確認される。
【0050】
異なる細胞株におけるSBprotActシステムの遺伝子組換え効率は、フローサイトメトリー分析によって定量化された図10に示される。誤差は標準偏差として示される(n = 2)。
【0051】
図11(a)は、トランスフェクトされたhsSBトランスポザーゼによる効率的な導入遺伝子(ネオマイシン)挿入を実証するマウス胚性幹細胞(mESC)の代表的な転位アッセイを示す。(b)では、トランスポゾンプラスミドを運ぶVenusでトランスフェクトされ、hsSBトランスポザーゼでエレクトロポレーションされたmESCの代表的なフローサイトメトリー分析が提供される。転位陽性細胞を選択するために、トランスフェクションの3週間後にVenus陽性細胞が特定される。エレクトロポレーションされたhsSBタンパク質の量は、各図表の上に示される。Y軸:生細胞を選択するためのヨウ化プロピジウム(PI)染色。X軸:Venus由来緑色蛍光。NT:非トランスフェクション。図11(c)において、Oct4染色により、操作されたmESCが多能性状態を保持していることが確認される。
【0052】
さらなる実験において、本発明者らは、転位効率を定量化しようとした。異なる細胞株におけるSBprotActシステムの遺伝子組換え効率は、フローサイトメトリー分析によって定量化された。結果を図12に示す。誤差は標準偏差として示される(n = 2)。
【0053】
結論として、新規のトランスポザーゼ変異体およびトランスフェクション戦略(すなわち、SBprotAct)は、これまでに前例のない精製されたトランスポザーゼタンパク質の使用に基づき、細胞操作用の新世代のSBトランスポゾンシステムを確立する。標準的なSBに基づく応用では、SBトランスポザーゼの発現は、標的細胞に送達される発現プラスミドまたはタンパク質をコードするメッセンジャーRNAのいずれかにより達成される。進行中の臨床遺伝子治療試験では、発現プラスミドがSBトランスポザーゼの供給源としてのみ使用される。トランスポザーゼ遺伝子送達と比較して、SBprotActでの直接hsSBタンパク質送達は以下を提供する:
a)多様な細胞タイプで同等の遺伝子組換え率。
b)トランスポザーゼ遺伝子またはプロモーターの組み込みのリスクはなく、標的細胞での制御されていない長期の転位および望ましくない転写活性化(例えば、癌遺伝子)を回避。
c)標的細胞での転写および翻訳が不要。これにより、タンパク質の過剰発現が困難である、および/または細胞生存率を損なう細胞へのSB媒介操作の適用性が拡大。
d)hsSBタンパク質は送達後48時間以内に分解される、高速細胞操作および迅速なタンパク質代謝回転。したがって、hsSBタンパク質はヒットアンドラン方式で作用し、非特異的な活性を最小限に抑える(以下参照)。
e)転位の一時的なウィンドウが限られていることによる、細胞毒性の低下、挿入変異誘発および導入遺伝子の再移動のリスクの減少。
f)同じ遺伝子組換え率で細胞あたりの挿入数を低減し、ゲノム摂動(genome perturbation)を最小限に抑える。
g)用量依存的効率。トランスフェクトされたhsSBタンパク質の濃度を変えることにより、陽性クローンの数を厳密に制御可能。
h)挿入イベントの離散的で調整可能な数。 hsSB媒介操作により、ゲノムごとに個別の挿入数を持つクローンが生成され、これはタンパク質の投与量を変えることで調整可能。対照的に、発現プラスミドからの制御されていないレベルおよび転位の時間は、異種のマルチコピークローンをもたらす。
【0054】
さらに、CAR-T細胞の生成では、SBトランスポザーゼの代替源としてmRNAの使用が検討されているが、mRNAの不安定性は、治療への広範な使用を妨げる可能性のある品質管理の問題を引き起こす。hsSBタンパク質送達には、mRNA送達と比較して以下のいくつかの利点がある:
i)細胞の翻訳効率と制御からの独立。
j)SBトランスポザーゼは翻訳を必要とせずにトランスフェクション後すぐに機能するため、転位の効率をさらに厳密かつ直接制御する。
k)適用前にin vitroでタンパク質の品質と活性を評価可能(刊行物に記載され、本明細書の図1hに示されるアッセイ)。これは、商業または臨床環境での品質管理手順に特に関連する。
【0055】
今日まで、高効率の哺乳類細胞操作のための活性トランスポザーゼの送達は、PiggyBacトランスポザーゼについてのみ達成されてきたが、レンチウイルス粒子へのタンパク質の取り込みが必要だった。したがって、SBprotActは初めて、医学的に適切な環境でトランスポザーゼタンパク質を効率的に送達するための完全なウイルスフリーシステムを提供し、ウイルスベクターの使用と製造に関連するすべての安全上の懸念と経済的制限を回避する。
【0056】
要約すると、我々の発明である、SBprotActシステムは、その遺伝子操作適用においてSB転位の最大制御を達成する新しい可能性を開き、SBをより安全な遺伝子ツールにする。hsSBタンパク質の直接送達により、細胞からのトランスポザーゼの迅速な排除が可能となり、長期的な転位の望ましくない影響を回避できる。さらに、転位の活性因子を直接提供し、活性のある導入遺伝子の挿入の速度と時間枠を細かく調整でき、細胞機構によるトランスポザーゼ発現(プラスミドから)または翻訳(mRNAから)のタイムラインおよび確率的イベントに依存しないため、標的細胞の適合コストも回避できる。
【0057】
現在、SBは、臨床試験でCAR T細胞を製造するために現在使用されている唯一の非ウイルス遺伝子送達ツールであり、すでに臨床開発がかなり進んでいる。本発明のSBprotActは、単純さ、容易さおよび低コストを含む現在のSBシステムのすべての利点を維持しながら、臨床応用における現在のSBシステムの使用に関する安全性の問題を克服するための新しいアプローチを提供する。
【0058】
図面の用語
Lysate 細胞溶解液
Soluble fraction 可溶性画分
Flowthrough フロースルー
Wash 1(100mM imidazole) 洗浄1(100mM イミダゾール)
Elution (150mM imidazole) 溶出(150mM イミダゾール)
hsSB (after SEC) hsSB (SEC後)
SB (after SEC) SB (SEC後)
UV absorbance at 280 nm 280nmでのUV吸収
Elution volume 溶出量
Before conc. 前の濃度
After conc. 後の濃度
18 fold, 1:20 dilution 18倍、1:20希釈
18 fold conc. in R buffer, soluble fraction 18倍濃度、Rバッファー中、可溶性画分
18 fold conc. in R buffer, pellet 18倍濃度、Rバッファー中、ペレット
50 fold, 1:20 dilution 50倍、1:20希釈
50 fold conc. in R buffer, soluble fraction 50倍濃度、Rバッファー中、可溶性画分
50 fold conc. in R buffer, pellet 50倍濃度、Rバッファー中、ペレット
Incubation time at 37℃ 37℃でのインキュベーション時間
Wavelength 波長
Temperature 温度
number of identifications 確認数
amino acid sequence and position アミノ酸配列および位置
av. score. p. aa アミノ酸あたりの平均スコア
Transgene delivery 導入遺伝子送達
transfection トランスフェクション
protein delivery タンパク質送達
electroporation エレクトロポレーション
Neon (R); system Neon(登録商標)システム
Drug selection (2 weeks) 薬剤選択(2週間)
Neomycin resistance colonies quantificationネオマイシン耐性コロニーの定量化
hsSB protein hsSBタンパク質
Neo-resistant colonies ネオマイシン耐性コロニー
dilution 1:10 希釈1:10
Number of neo-resistant colonies ネオマイシン耐性コロニー数
Single Insertions sequence 単一挿入配列
Chromosome 染色体
Double insertions sequence 二重挿入配列
red=left IR 赤=左IR
blue=right IR 青=右IR
hsSB delivered as protein タンパク質として送達されたhsSB
hsSB expressed from plasmid DNA プラスミドDNAから発現されたhsSB
time (h) 時間(h)
anti-hsSB 抗hsSB
anti-GAPDH 抗GAPDH
hsSB persistence in HeLa cells HeLa細胞中のhsSB残存性
intensity 強さ
Protein タンパク質
Plasmid プラスミド
Colony number コロニー数
Venus+ cells sorting Venus陽性細胞選別
3 weeks post-trasfection トランスフェクション後3週間
Venus+ cells quantification Venus陽性細胞定量化
Venus+ Venus陽性
Number of colonies コロニー数
Venus+ cells 21 days after electroporation エレクトロポレーション後21日のVenus陽性細胞
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図1-4】
図1-5】
図1-6】
図2
図3
図4
図5-1】
図5-2】
図5-3】
図5-4】
図6
図7
図8
図9-1】
図9-2】
図9-3】
図10
【配列表】
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