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特許7240012電極シート圧延ローラおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-07
(45)【発行日】2023-03-15
(54)【発明の名称】電極シート圧延ローラおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16C 13/00 20060101AFI20230308BHJP
   H01M 4/04 20060101ALI20230308BHJP
【FI】
F16C13/00 A
H01M4/04 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021043216
(22)【出願日】2021-03-17
(65)【公開番号】P2021148292
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2021-03-17
(31)【優先権主張番号】10-2020-0034237
(32)【優先日】2020-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】514087326
【氏名又は名称】ジェイ アンド エル テク カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジュン、ヨン ハ
(72)【発明者】
【氏名】ヨ、キ ホ
(72)【発明者】
【氏名】シン、ウィ チョル
(72)【発明者】
【氏名】ジュン、チュン ギル
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2016-0138810(KR,A)
【文献】特開2017-136625(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0038684(KR,A)
【文献】特開2003-314560(JP,A)
【文献】特開2012-208073(JP,A)
【文献】特開2011-038821(JP,A)
【文献】特開2009-265235(JP,A)
【文献】特開平10-029762(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 13/00-13/06
H01M 4/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジグに圧延ローラを据え置き、コーティング装置のチャンバの内部にジグとともに圧延ローラを装入するローラ装入ステップ(S10)と、
前記チャンバに備えられたイオンガンソースを介してアルゴンガスを注入しながら、イオンガンソースに電源を印加してアルゴンイオンで圧延ローラの表面をエッチングして不純物および酸化層を除去するドライクリーニングステップ(S20)と、
前記圧延ローラの表面に圧延ローラをなす金属材質より格子定数の大きい単一金属がコーティングされて第1バッファ層が形成される第1バッファ層コーティングステップ(S30)と、
前記第1バッファ層の表面に第1バッファ層をなす金属材質より格子定数の大きい同種金属の窒化物または炭化物がコーティングされて第2バッファ層が形成される第2バッファ層コーティングステップ(S40)と、
前記第2バッファ層の表面にDLCがコーティングされてDLC層が形成されるDLC層コーティングステップ(S50)と、を含み、
前記DLC層コーティングステップ(S50)はイオンガンソースを用いて行われ、前記イオンガンソースの電圧は500V~3000V、電流は0.2A~3Aであり、蒸着源にはCH、C、C、C10のいずれか一つを使用し、バイアス電圧を漸進的に増加させて、前記DLC層が半径方向の内側から外側へいくほど、黒鉛構造(SP)よりダイヤモンド構造(SP)の比率が増加して、前記半径方向に沿って硬度が漸進的に増加することを特徴とする、電極シート圧延ローラの製造方法。
【請求項2】
前記第1バッファ層コーティングステップ(S30)において、第1バッファ層は、圧延ローラの表面にCr、W、Ti、Zrのうちのいずれか1つの金属がコーティングされて形成されたことを特徴とする請求項に記載の電極シート圧延ローラの製造方法。
【請求項3】
前記第2バッファ層コーティングステップ(S40)において、第2バッファ層は、CrN、TiN、ZrNのうちのいずれか1つがコーティングされて形成されたことを特徴とする請求項に記載の電極シート圧延ローラの製造方法。
【請求項4】
前記第2バッファ層コーティングステップ(S40)において、第2バッファ層は、CrC、WC、TiC、ZrCのうちのいずれか1つがコーティングされて形成されたことを特徴とする請求項に記載の電極シート圧延ローラの製造方法。
【請求項5】
前記DLC層コーティングステップ(S50)において、炭化水素系ガスとともに、Siが含有されたガスであるシランガス、TMS、HMDSOのうちのいずれか1つを注入しながら、イオンビーム蒸着を施して前記第2バッファ層の表面にSiドーピングされたDLC層を形成することを特徴とする請求項に記載の電極シート圧延ローラの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極シート圧延ローラおよびその製造方法に関し、より詳細には、ローラの表面の耐摩耗性向上のためにDLCコーティング層が形成された電極シート圧延ローラおよびその圧延ローラを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池は、モバイル機器だけでなく、ハイブリッドおよび純粋電気自動車、商用電力収容先の補助動力源へと次第にその使用領域が拡大している。
【0003】
二次電池の電極はシートに電極物質をコーティングする方式で製造されるが、電極物質がコーティングされた電極シートは、電極の容量密度を高め、電極集電体と電極物質との間の接着性を増加させ、電極を目標の厚さに形成するために圧延工程が実施される。
【0004】
一方、電極シートの圧延に用いられるローラは、使用時間が長く経過すると電極シートとの摩擦によって表面が摩耗して電極シートを所望の厚さに形成できなくなる。特に、電極物質の境界面や電極シートの境界面に対応する位置には摩耗が不均一に進行して表面段差が発生し、このような表面段差が発生したローラは、電極シートを全体的に均一に圧延できないため、使用が不可能で取替えなければならず、これは多くの費用の発生をもたらした。
【0005】
したがって、従来は、電極シート圧延ローラの表面にDLC(Diamond like carbon;ダイヤモンドライクカーボン)コーティングを施してDLC層を形成した。DLC層は、カーボンコーティング膜の一種であって、ダイヤモンドと類似して硬度が高く、摩擦係数が小さくて優れた耐摩耗性を有する。
【0006】
前記のように、圧延ローラの表面にDLC層を形成して圧延ローラの表面の硬度と耐摩耗性を向上させることにより、圧延ローラの表面の段差発生を防止して、電極シートの圧延品質を向上させ、圧延ローラの取替費用を節減した。
【0007】
ところが、前記DLC層は、その性質が硬いだけに内部応力が大きく、これによってコーティングが施された基材(ローラ)の表面から剥離されやすい性質がある。このように、DLC層に剥離が発生すると、表面粗さが大きく低下するだけでなく、剥離されたDLC破片が圧延ローラと電極シートとの間に挟まれて電極シートの圧延品質を大きく低下させる問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】大韓民国登録特許公報第10-1709538号(2017.02.23.公告)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであって、DLC層の剥離が防止されることにより、高硬度、高耐摩耗性の優れた表面品質を安定して長い時間保持できるようになった電極シート圧延ローラおよびその製造方法を提供することを、目的とする。
【0010】
また、本発明は、硬度と耐摩耗性などの表面特性がさらに強化された電極シート圧延ローラおよびその製造方法を提供することを、他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するための、本発明に係る電極シート圧延ローラは、二次電池の電極シートを圧延する圧延ローラにおいて、前記圧延ローラの圧延部の外周面全体に表面強化層が形成され、前記表面強化層は、圧延ローラの表面に形成された第1バッファ層と、前記第1バッファ層の表面に形成された第2バッファ層と、前記第2バッファ層の表面に形成されたDLC層と、を含む。
【0012】
前記圧延ローラと、第1バッファ層と、第2バッファ層と、DLC層とは、圧延ローラの半径方向の内側から外側へいくほど、順次にその層をなす物質の格子定数が増加する。
【0013】
前記第1バッファ層は、Cr層であり、第2バッファ層は、CrN層で形成される。
【0014】
また、前記第1バッファ層は、Cr層であり、第2バッファ層は、CrC層で形成される。
【0015】
また、前記第1バッファ層は、Ti、Zrのうちのいずれか1つからなり、第2バッファ層は、第1バッファ層と同種金属の窒化物(TiN、ZrN)からなってもよい。
【0016】
また、前記第1バッファ層は、W、Ti、Zrのうちのいずれか1つからなり、第2バッファ層は、第1バッファ層と同種金属の炭化物(WC、TiC、ZrC)からなってもよい。
【0017】
前記DLC層は、半径方向の内側から外側へいくほど、黒鉛構造(SP)よりダイヤモンド構造(SP)の比率が増加して、その硬度が漸進的に増加する。
【0018】
また、前記DLC層は、ta-Cからなってもよい。
【0019】
また、前記DLC層は、SiドーピングされたDLCからなってもよい。
【0020】
一方、本発明に係る電極シート圧延ローラの製造方法は、ジグに圧延ローラを据え置き、コーティング装置のチャンバの内部にジグとともに圧延ローラを装入するローラ装入ステップ(S10)と、前記チャンバに備えられたイオンガンソースを介してアルゴンガスを注入しながら、イオンガンソースに電源を印加してアルゴンイオンで圧延ローラの表面をエッチングして不純物および酸化層を除去するドライクリーニングステップ(S20)と、前記圧延ローラの表面に圧延ローラをなす金属材質より格子定数の大きい単一金属がコーティングされて第1バッファ層が形成される第1バッファ層コーティングステップ(S30)と、前記第1バッファ層の表面に第1バッファ層をなす金属材質より格子定数の大きい同種金属の窒化物または炭化物がコーティングされて第2バッファ層が形成される第2バッファ層コーティングステップ(S40)と、前記第2バッファ層の表面にDLCがコーティングされてDLC層が形成されるDLC層コーティングステップ(S50)と、を含む。
【0021】
前記第1バッファ層コーティングステップ(S30)において、第1バッファ層は、圧延ローラの表面にCr、W、Ti、Zrのうちのいずれか1つの金属がコーティングされて形成される。
【0022】
前記第2バッファ層コーティングステップ(S40)において、第2バッファ層は、CrN、TiN、ZrNのうちのいずれか1つがコーティングされて形成される。
【0023】
前記第2バッファ層コーティングステップ(S40)において、第2バッファ層は、CrC、WC、TiC、ZrCのうちのいずれか1つがコーティングされて形成される。
【0024】
また、前記DLC層コーティングステップ(S50)において、バイアス電圧を漸進的に増加させて、前記DLC層が半径方向の内側から外側へいくほど、黒鉛構造(SP)よりダイヤモンド構造(SP)の比率が増加して、硬度が漸進的に増加する。
【0025】
また、前記DLC層コーティングステップ(S50)において、FCVA法を利用して前記第2バッファ層の表面にta-C層が形成される。
【0026】
前記DLC層コーティングステップ(S50)において、炭化水素系ガスとともに、Siが含有されたガスであるシランガス、TMS、HMDSOのうちのいずれか1つを注入しながら、イオンビーム蒸着を施して前記第2バッファ層の表面にSiドーピングされたDLC層が形成される。
【発明の効果】
【0027】
以上説明したような本発明によれば、ローラとDLC層との間に複数のバッファ層が存在し、これらのバッファ層によってDLC層の密着力が向上して、DLC層が圧延ローラの表面で剥離される現象が防止される。
【0028】
したがって、硬度と耐摩耗性に優れた表面層が持続的に保持されることにより、電極シートの圧延品質が向上するだけでなく、圧延ローラの耐久寿命が増大して頻繁な取替を必要としなくなるので、費やされる費用が節減される効果がある。
【0029】
また、DLC層の剥離が防止されて、剥離されたDLC破片が電極シートと圧延ローラとの間に挟まれなくなることにより、電極シートの圧延品質が向上する効果がある。
【0030】
さらに、DLC層がSiドーピングされたDLCまたはta-Cからなることにより、圧延ローラの表面硬度および耐摩耗性がさらに向上する効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明に係る電極シート圧延ローラの断面図。
図2】前記図1の一部(A部)拡大図であって、電極シート圧延ローラの表面強化層の拡大断面図。
図3】前記圧延ローラの表面に表面強化層を形成するためのコーティング装置の概略図。
図4】本発明に係る電極シート圧延ローラの製造方法を概略的に示すブロック図。
図5】(a)~(c)は本発明に係る電極シート圧延ローラの製造方法による順次のコーティング進行状態図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明は、多様な変更が加えられて様々な実施例を有し得ることから、特定の実施例を図面に例示し詳細に説明する。しかし、これは、本発明を特定の実施形態に対して限定しようとするものではなく、本発明の思想および技術範囲に含まれるあらゆる変更、均等物乃至代替物を含むことが理解されなければならない。添付した図面に示された線の厚さや構成要素の大きさなどは、説明の明瞭性と便宜のために誇張されて示されていることがある。
【0033】
また、後述する用語は、本発明における機能を考慮して定義された用語であって、これは、使用者、運用者の意図または判例によって異なる。そのため、これらの用語に対する定義は、本明細書全般にわたる内容に基づいて行われなければならない。
【0034】
以下、本発明に係る好ましい実施形態を、添付した図面を参照して詳細に説明する。
【0035】
図1に示されるように、本発明に係る電極シート圧延ローラ100は、電極シートを圧延する圧延部の外周表面に全周にわたって表面強化層200が形成される。
【0036】
前記表面強化層200は、順次に形成された複数のコーティング層からなり、図2に示されるように、圧延ローラ100の表面から半径方向の外側に、第1バッファ層210、第2バッファ層220、DLC層230の順にコーティングが行われる。
【0037】
前記第1バッファ層210および第2バッファ層220を含むバッファ層(buffer layer)は、母材、すなわち圧延ローラ100の表面と表面強化層200の最外層をなすDLC層230との間の格子定数および熱膨張係数の差を緩和することにより、圧延ローラ100の表面に対するDLC層230の密着性を向上させて、DLC層230の剥離を防止する役割を果たす。
【0038】
前記第1バッファ層210は、圧延ローラ100の表面にCr(クロム)ターゲットをスパッタリングして形成されたCr層であって、圧延ローラ100の表面の酸化を防止し、外側のDLC層230を介して伝達される圧延荷重に対応できるように、一次的な表面強度を確保する。
【0039】
第1バッファ層210は、0.1μm~5μmの範囲の厚さに形成され、その厚さが0.1μm未満であれば、十分な強度が確保されず、その外側に位置する第2バッファ層220とDLC層230を安定して支持できないので、特に硬度の高いDLC層230の膜破損が誘発されることがあり、5μmを超えると、コーティング材料(ターゲット)の使用量とコーティング時間の過剰により製造費用が無駄に増加する傾向がある。
【0040】
前記第1バッファ層210は、Crの他にも、W(タングステン)、Ti(チタン)、Zr(ジルコニウム)のうちのいずれか1つをスパッタリングして、当該金属のコーティング層に形成可能である。
【0041】
前記第2バッファ層220は、第1バッファ層210と同じ金属の窒化物でコーティングされる。第2バッファ層220は、第1バッファ層210とDLC層230との間に該当する格子定数と熱膨張係数を有することにより、内側層に対して外側層がコーティングされる時、粒子の付着が円滑に行われてコーティング層間の密着性に優れ、かつ、温度による内部応力の変化が減少して層間剥離現象を防止するのに有利である。
【0042】
同種金属を含む化合物間の親和力を利用するために前記第1バッファ層210がCrからなる場合、第2バッファ層220は、窒化クロム(CrN)からなることが好ましい。
【0043】
同じく、第1バッファ層210がTi、Zrのうちのいずれか1つからなる場合に、第2バッファ層220は、同じ金属の窒化物すなわち、窒化チタン(TiN)、窒化ジルコニウム(ZrN)からなることが好ましい。
【0044】
一方、前記第2バッファ層220は、第1バッファ層210と同種金属の炭化物で形成できることはもちろんである。例えば、第1バッファ層210がCr、W、Ti、Zrのうちのいずれか1つの金属からなる場合、第2バッファ層220は、それと同じ金属の炭化物である炭化クロム(CrC)、炭化タングステン(WC)、炭化チタン(TiC)、炭化ジルコニウム(ZrC)からなってもよい。
【0045】
前記のように、第2バッファ層220が第1バッファ層210と同種金属の窒化物または炭化物で構成されることにより、2つのコーティング層の格子定数と熱膨張率の差が異種金属の場合より小さいため、コーティング層の間に良好な密着力を確保するのに有利である。
【0046】
前記第2バッファ層220は、0.1μm~1μmの範囲の厚さに形成される。第2バッファ層220の厚さが0.1μm未満であれば、その厚さがわずかで、第1バッファ層210とDLC層230との間に別途の中間層(格子定数、熱膨張係数などの物性が緩やかに変化する転移層)を形成する意味がなく、また、第2バッファ層220は、第1バッファ層210とDLC層230との間でDLC層230を形成するカーボンが円滑に付着できる表面のみ提供すれば良いものであるので、必要以上の過剰のコーティング厚さは製造費用の増加だけをもたらすことから、前記のように最大1μm程度であれば十分である。
【0047】
前記第1バッファ層210および第2バッファ層220は、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、分子線エピタキシー法、レーザアブレーション法、イオンアシスト法などの多様な薄膜形成方法で形成できることはもちろんである。
【0048】
前記DLC層230は、圧延ローラ100の表面に高い表面硬度と耐摩耗性および潤滑性を付与するために形成されたコーティング層である。DLC(ダイヤモンド状炭素)は、構造的にダイヤモンドと黒鉛が互いに混ざり合った、両者の中間構造を有するもので、ダイヤモンドと類似して硬度が高く、耐摩耗性、固体潤滑性、熱伝導性、化学的安定性、耐腐食性に非常に優れている。
【0049】
前記DLC層230は、0.1μm~3μmの厚さに形成される。DLC層230の厚さが0.1μm未満の場合には、圧延ローラ100の耐摩耗性と耐久性が著しく低下し、3μmを超える場合には、コーティング膜自体の内部応力が過度に高く形成されて剥離が容易であるからである。
【0050】
圧延ローラ100の一実施形態として、例えば、第1バッファ層210がCr層であり、第2バッファ層220が窒化クロム(CrN)層である場合、各コーティング層の間には次のような関係がある。
【0051】
圧延ローラ100は、Crが11%以上含有されたステンレス鋼材質であり、その格子定数は2.8であり、第1バッファ層210をなすCrの格子定数は2.9であり、第2バッファ層220の一例である窒化クロム(CrN)は、格子定数が3.1であり、DLCは、原則として非晶質であるので格子定数はないもののダイヤモンドと性質が類似しているので、ダイヤモンドの格子定数3.5を適用することができる。このように、圧延ローラ100とDLC層230との間で、格子定数が前記第1バッファ層210および第2バッファ層220によって段階的に減少することが分かる。すなわち、DLC層230は、圧延ローラ100の表面より相対的に格子定数の差の小さい第2バッファ層220に形成されることにより、それだけコーティング膜の密着力が向上するのである。
【0052】
前記のように、電極シート圧延ローラ100の最外層表面が、硬度が高く、耐摩耗性と耐腐食性に優れたDLC層230からなることにより、電極シート圧延工程を長い時間行っても、圧延ローラ100の表面摩耗がほとんど発生しなかったり、極めてわずかに発生する。
【0053】
したがって、圧延ローラ100の表面段差の発生が防止され、よって、電極シートを全体的に均一に圧延できるので、電極シートの圧延品質が向上する。
【0054】
また、前記DLC層230が圧延ローラ100の表面に直接コーティングされず、第1バッファ層210と第2バッファ層220を介在してコーティングされることにより、DLC層230の密着力が向上し、圧延ローラ100で剥離されなくなる。したがって、圧延表面が均一な平面に保持され、剥離されたDLC破片が圧延面の間に挟み込まれなくなることにより、電極シートの圧延品質が向上する。
【0055】
一方、前記DLC層230は、半径方向の内側から外側へいくほど、その硬度が漸進的に増加するように形成される。これは、DLC層230のコーティング中にバイアス電圧を漸進的に増加させて、黒鉛構造(SP)よりダイヤモンド構造(SP)の形成比率を増加させることにより可能である。これによって、第2バッファ層220とDLC層230との間の急激な硬度差の発生を抑制して、DLC層230の密着力をさらに向上させることができる。
【0056】
また、前記DLC層230は、一般的なDLCではなく、ta-Cからなってもよい。一般的なDLCは、ダイヤモンド構造が40~80%であるのに対し、前記ta-C(Tetra amorphous carbon)は、ダイヤモンド構造が80%以上であって、一般のDLCに比べて硬度がより高く、より優れた耐酸化性および耐腐食性を有する。
【0057】
したがって、前記DLC層230がta-Cからなる場合、より厚さが薄いながらも、耐摩耗性に優れた表面強化層200を得ることができる。
【0058】
また、前記ta-Cは、FCVA(Filtered Cathodic Vacuum Arc)ソースを用いてコーティングされるため、磁気フィルタ(Magnetic filter)により、ターゲットからコーティングイオンとともに発生するドロプレット(Droplet;macro-particle)を取り除くことができるので、コーティング面にピンホール(pin-hole)のような欠陥が発生しない。したがって、DLC層230の表面粗さ(Surface roughness)が大きく向上し、これは、電極シートの圧延品質の向上に役立つ。
【0059】
さらに、前記DLC層230は、シリコン(Si)ドーピングされたDLCからなってもよい。DLC層230は、水素を多く含むほど硬度が減少するが、DLCにSiがドーピングされると、水素サイトをSiが占めるようになって水素が減少することにより硬度が増加する。DLCコーティングの際、Siドーピングのためには、炭素供給のための炭化水素系ガスとともに、Si供給のためにSiが含有されたガス(シランガス(SiH)、TMS(Tetramethysilane)、HMDSO(Hexamethyldisiloxane)など)をともに使用する。
【0060】
以下、本発明に係る電極シート圧延ローラの製造方法を説明する。
【0061】
まず、図3を参照して、本発明に係る電極シート圧延ローラの製造方法を実施するためのコーティング装置の概略的な構成を説明する。
【0062】
コーティング装置は、真空空間形成のためのチャンバ10と、イオンを放出するイオンガンソース20と、ターゲットを含めてイオンとターゲット物質をともに放出するスパッタソース30とを含む。また、FCVA(Filtered Cathodic Vacuum Arc)ソース40をさらに含んでもよい。前記イオンガンソース20、スパッタソース30、FCVAソース40は、必要に応じて、チャンバ10の両側壁面に左右対称に設けられるか、いずれか一方にのみ選択的に設けられてもよい。
【0063】
前記チャンバ10は、圧延ローラ100が装入できる大きさを有し、チャンバ10を開閉可能なドアが備えられる。また、チャンバ10の内部には、圧延ローラ100を据え置くためのジグが備えられ、ジグには、圧延ローラ100を一定速度で回転させるための駆動装置が備えられる。
【0064】
その他、コーティング源になるガスおよび不活性ガスなどを注入するためのガス供給装置、ガスの除去および真空形成のためのガス排出装置と真空ポンプ、プラズマ形成およびバイアス電圧をかけるための電源装置が備えられる。
【0065】
図4は、本発明に係る電極シート圧延ローラを製造する方法を概略的に示すブロック図であり、図5(a)~(c)は、本発明に係る電極シート圧延ローラの製造方法による順次のコーティング進行状態図であって、図示のように、本発明に係る電極シート圧延ローラの製造方法は、圧延ローラ装入ステップS10と、ドライクリーニングステップS20と、第1バッファ層コーティングステップS30と、第2バッファ層コーティングステップS40と、DLC層コーティングステップS50と、を含む。
【0066】
前記圧延ローラ装入ステップS10は、チャンバ10内に圧延ローラ100を装入するステップである。スライディング移動可能なジグに圧延ローラ100を据え置き、ジグをチャンバ10の内部に進入させる。圧延ローラ100を回転駆動する装置は、前記ジグに設けられるか、またはチャンバ10の内部に設けられて、ジグと圧延ローラ100がチャンバ10内に装入された時、圧延ローラ100と連結されてもよい。圧延ローラ100およびジグのチャンバ10内への進入が完了すれば、ドアを閉じてチャンバ10の内部を密閉状態にする。
【0067】
前記ドライクリーニングステップS20は、圧延ローラ100の表面の不純物を除去するステップである。圧延ローラ100は、チャンバ10への装入前にウェット洗浄ステップを実施して、粒子の大きい不純物を先に除去することが一般的である。
【0068】
前記ドライクリーニングステップS20では、イオンガンソース20を介してアルゴン(Ar)ガスを供給しながらプラズマを形成してアルゴンイオンを圧延ローラ100の表面に衝突させることにより、エッチング作用によって不純物および酸化層を除去し、圧延ローラ100の表面を、後にコーティング粒子が蒸着されやすい活性化状態にすることである。
【0069】
この時、イオンガンソース20の電圧は500~3000V、電流は0.2~3Aに制御される。例えば、前記ドライクリーニングステップS20は、アルゴンガスを注入しながら、イオンガンソース20に1500V、1Aの条件で電源を供給することにより行われる。
【0070】
第1バッファ層コーティングステップS30と第2バッファ層コーティングステップS40は、スパッタソース30を用いて行われる。スパッタソース30の供給電流は15~50Aであり、使用ガスはアルゴン(Ar)ガスである。
【0071】
第1バッファ層210には、圧延ローラ100の材質(ステンレス鋼)に対して親和力の優れた金属が使用されることにより、圧延ローラ100に第2バッファ層220が優れた密着力を有するようにする。
【0072】
第1バッファ層210としてCr層を形成する場合、スパッタソース30にCrターゲットを設け、アルゴンガスを供給しながら、高電圧をかけてプラズマを形成する。Crターゲットから放出されたCrイオンが圧延ローラ100の表面に付着してコーティングが行われる。
【0073】
前記第1バッファ層210は、0.1μm~5μmの範囲の厚さに形成され、コーティング層の厚さが0.1μm未満であれば、十分な強度が確保されず、5μmを超えると、後の層の密着力の向上とは関係なく製造費用だけが過度に増加するという欠点がある。
【0074】
前記第1バッファ層210は、Crの他にも、W、Ti、Zrのうちのいずれか1つからなるターゲットをスパッタリングすることにより、当該金属からなるコーティング層を形成することができる。
【0075】
また、前記第1バッファ層210は、スパッタリング法の他にも、イオンプレーティング法、分子線エピタキシー法、レーザアブレーション法などのすでに公知の多様な真空薄膜形成方法によって形成できることはもちろんである。
【0076】
前記第2バッファ層コーティングステップS40は、第1バッファ層210の外側に第1バッファ層210をなす金属と同種の窒化物層または同種の炭化物層をコーティングするステップである。上記で第1バッファ層210にCrをコーティングした場合を説明したので、その窒化物であるCrNをコーティングする場合を説明する。
【0077】
スパッタソース30の供給電流は15~50Aであって、第1バッファ層コーティングステップS30と同一に実施することができる。ターゲットとしてCrターゲットを使用しながら、反応ガスとして窒素(N)ガスを注入して、窒素イオンとCrイオンとを反応させてCrNを形成して蒸着させることができる。この時、窒素ガスは、イオンガンソース20を介して注入してイオン化することもできる。
【0078】
一方、第2バッファ層220は、前記クロム窒化物(CrN)の代わりに、クロム炭化物(CrC)で形成される。ターゲットとしてCrターゲットを使用し、反応ガスとして炭化水素系ガス、例えば、Cを使用することができる。
【0079】
前記第2バッファ層220は、0.1μm~1μmの範囲の厚さに形成される。第2バッファ層220の厚さが0.1μm未満であれば、その厚さがわずかでバッファ層として機能することができず、1μmを超えると、DLC層230の密着性能とは関係なく経済性が低下する。
【0080】
前記第2バッファ層220も、スパッタリング法の他に、真空蒸着法、イオンプレーティング法、分子線エピタキシー法、レーザアブレーション法、イオンアシスト法などの多様な薄膜形成方法で形成可能である。
【0081】
前記DLC層コーティングステップS50において、DLC層230は、前記イオンガンソース20を用いてコーティングされる。イオンガン電圧は500~3000V、電流は0.2~3Aである。蒸着源になるガスは、炭化水素(C)系ガスとして、CH、C、C、C10などが使用可能である。
【0082】
炭化水素ガスが供給され、イオンガンソース20に電源が印加されると、供給されたガスがプラズマ化され、ガス中の炭素イオンは第2バッファ層220の表面に衝突して付着することにより、DLC層230が形成される。
【0083】
DLC層230は、前記スパッタソース30に黒鉛ターゲットを設け、スパッタリングを施すことにより形成され、その他、多様な真空薄膜形成方法によって形成されてもよい。
【0084】
前記DLC層230の硬度は2200~2500(Hv)であり、摩擦係数は0.1~0.15であって、非常に硬くて滑らかな表面をなすことにより、電極シートの圧延時に摩耗が最小化されて、圧延ローラ100の耐久性が大きく増大する。
【0085】
前記DLC層230は、0.1μm~3μmの厚さに形成される。DLC層230の厚さが0.1μm未満の場合には、圧延ローラ100の耐摩耗性と耐久性が著しく低下してDLC層230をコーティングする意味がなく、3μmを超える場合には、コーティング膜自体の内部応力が過度に高く形成されて剥離が容易であるからである。
【0086】
一方、前記DLC層コーティングステップS50では、ta-C(Tetra amorphous carbon)コーティングが行われる。ta-Cコーティングは、FCVA(Filtered Cathodic Vacuum Arc)ソース40を用いるFCVA法によって行われる。FCVAソース40は、磁気フィルタ(Magnetic filter)を含み、これによって、ターゲットからコーティングイオンとともに発生するドロプレット(Droplet;macro-particle)を除き、コーティングイオンのみを放出してコーティング対象面に蒸着させることができる。したがって、コーティング面にピンホール(pin-hole)のような欠陥が発生しなくなることにより、ta-Cコーティング層は表面粗さ(Surface roughness)に非常に優れている。
【0087】
前記のように形成されたta-Cコーティング層は、硬度が4000~8000(Hv)であって、一般のDLC層に比べて硬度が非常に高く、優れた耐酸化性および耐腐食性を有する。
【0088】
また、前記DLC層コーティングステップS50において、DLC層230は、シリコン(Si)ドーピングされたDLCからなってもよい。SiドーピングDLC層コーティングのためには、炭素供給のための炭化水素系ガスとともに、ドーピング源であるSi供給のためにSiが含有されたガス(シランガス(SiH)、TMS、HMDSOなど)をともに注入しながら、イオンビーム蒸着法、PECVD法を実施することができる。さらに、このステップは、黒鉛ターゲットを用いるスパッタリングを行いながら、シランガスを注入する方式で実施することもできる。
【0089】
このようにすれば、DLC中の水素サイトにSiがドーピングされて、結果としてDLC層230の水素含有量が減少することにより硬度が増加し、よって、一般のDLCコーティングの場合に比べて、より硬質の、摩擦特性に優れたコーティング膜を得ることができる。
【0090】
また、DLCの炭素および水素結合構造にSiがドーピングされることによりDLC層230のヤング率が増加し、それによってDLC層230の内部応力が減少して、より硬度が高く、剥離に対する耐久性が良いコーティング層を得ることができる。
【0091】
上述のように、本発明は、図面に示された実施例を参照して説明されたが、これは例示的なものに過ぎず、当該技術の属する分野における通常の知識を有する者であれば、これから多様な変形および均等な他の実施例が可能である点を理解するであろう。したがって、本発明の真の技術的保護範囲は以下の特許請求の範囲によって定められなければならない。
【符号の説明】
【0092】
10:チャンバ
20:イオンガンソース
30:スパッタソース
40:FCVAソース
100:圧延ローラ
200:表面強化層
210:第1バッファ層
220:第2バッファ層
230:DLC層
図1
図2
図3
図4
図5