IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 有限会社ニシノテクノスの特許一覧

特許7240020銀添着炭酸カルシウム含有粒子の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-07
(45)【発行日】2023-03-15
(54)【発明の名称】銀添着炭酸カルシウム含有粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/44 20060101AFI20230308BHJP
   A01N 59/16 20060101ALI20230308BHJP
【FI】
C23C18/44
A01N59/16 A
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021168531
(22)【出願日】2021-10-14
【審査請求日】2022-04-11
(73)【特許権者】
【識別番号】521451765
【氏名又は名称】有限会社ニシノテクノス
(74)【代理人】
【識別番号】100148862
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100179811
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 良和
(72)【発明者】
【氏名】西野 直之
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-017803(JP,A)
【文献】特開平04-219195(JP,A)
【文献】特開平11-104621(JP,A)
【文献】特開昭61-195935(JP,A)
【文献】特開平10-081604(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0091653(US,A1)
【文献】特開平10-085759(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/44
A01N 59/16
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸カルシウム含有粒子としての化石サンゴ粒の表面に銀が添着した銀添着炭酸カルシウム含有粒子を製造する方法であって、
処理容器内で、前記炭酸カルシウム含有粒子を硝酸銀水溶液に浸漬させることで、前記炭酸カルシウム含有粒子の表面に炭酸銀を沈積させる工程と、
前記処理容器に塩化ナトリウムを供給して、前記処理容器に残存する硝酸銀を塩化銀として沈殿させる工程と、
前記処理容器に還元剤としてのL-アスコルビン酸を供給して、前記炭酸カルシウム含有粒子の表面に沈積した炭酸銀を還元処理することで、銀添着炭酸カルシウム含有粒子を得る工程と
を有する
銀添着炭酸カルシウム含有粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀添着炭酸カルシウム含有粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化石サンゴは、海底に生息していたサンゴ礁が死滅して長い年月をかけてサンゴの骨格(主成分:炭酸カルシウム)だけになり、波に洗われ細分化及び化石化して、海底に堆積したものである。海底から採取される砂状の化石サンゴを風化造礁サンゴ粒(通称:サンゴ砂)と呼ぶ。風化造礁サンゴ粒は、日本国内では主に沖縄県地方の海底から採取され、海外でもミクロネシア地域やカリブ海沿岸など温暖な海域で採取される。また、風化造礁サンゴが数万年前の地殻変動により陸上に隆起して化石化したものが琉球石灰岩(通称:山サンゴ)である。これは砂状ではなく岩石状の塊として産出され、比較的形成年代の若いものはサンゴ骨格の特徴である無数の細孔構造を有している。
【0003】
以上の風化造礁サンゴ粒(サンゴ砂)と琉球石灰岩(山サンゴ)を総称して「化石サンゴ」と呼んでおり、化石サンゴは無数の細孔構造を有することから表面積が大きく、カルシウムイオンの溶出やそれに伴うpHの中和又は弱アルカリ性化の効果がある。そのような観点から、化石サンゴを粒度調整して水洗い乾燥した化石サンゴ粒が、水の濾過材や水質調整材に利用されている。
【0004】
一方、古代ギリシャ時代から銀食器による水の腐敗防止効果が認識されていたように、銀の抗菌効果(弱い殺菌効果)は古くから知られており、現代においても日用品の抗菌剤として幅広く利用されている。例えば、銀コーティングした活性炭(銀活性炭又は抗菌活性炭)を浄水器のカートジッジ内に配置することで、飲料水の細菌繁殖防止に利用されている。
【0005】
そこで、炭酸カルシウムが主成分となる化石サンゴ粒の表面に、抗菌剤として銀をコーティングして、銀添着炭酸カルシウム含有粒子を製造する方法が検討されている。特許文献1には、炭酸カルシウムと硝酸銀との反応で得られた炭酸銀を、過酸化水素水との接触で還元することを特徴とする還元銀の製造方法が記載されている。特許文献2には、サンゴ砂に硝酸銀粉末又は水溶液を添加し混合したのち、210~250℃に加熱して溶融した硝酸銀とサンゴ砂の炭酸カルシウムとの反応で炭酸銀を生成させ、ついでこれを250~350℃に加熱して炭酸銀の熱分解を促進させ、生成した銀をサンゴ砂表面に析出させることを特徴とする滅菌用浄化剤の製造方法が記載されている。特許文献3には、(a)コーラルサンド等の微細孔を有する炭酸カルシウムを遮光状態において硝酸銀水溶液に長時間浸漬させる工程と、(b)硝酸銀水溶液より取り出した後、水切りし炭酸カルシウムをアスコルビン酸又はエリソルビン酸のアルカリ金属塩の5~15重量%水溶液に浸漬させ、さらに300~400℃に加熱することで、銀を還元添加させる工程、とからなる炭酸カルシウムへの銀の添加方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭61-195935号公報
【文献】特開平4-11988号公報
【文献】特開平4-219195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載された方法では、毒物及び劇物取締法により劇物に指定されている過酸化水素で炭酸銀を還元するため、その取り扱いには細心の注意が必要である。また、反応系に残存する硝酸銀と過酸化水素が反応して、酸化銀が沈殿するとともに二酸化窒素が発生するが、酸化銀を銀にするには例えば高温での更なる還元が必要であり、二酸化窒素には不快臭があり環境汚染の原因にもなる。特許文献2及び3に記載された方法でも、二酸化窒素の発生と高温での加熱が必須となるが、一般に普及しているオーブン式加熱器では加熱温度が不足する可能性がある。より高温にまで加熱できる加熱器は、価格が高く、消費エネルギーも大きいことから、高温での加熱処理をしなくとも銀添着炭酸カルシウム含有粒子を製造できる方法を開発することが求められている。
【0008】
そこで、本発明は、高温での加熱処理をしなくとも簡便に銀添着炭酸カルシウム含有粒子を製造できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、炭酸カルシウム含有粒子としての化石サンゴ粒の表面に銀が添着した銀添着炭酸カルシウム含有粒子を製造する方法であって、
処理容器内で、前記炭酸カルシウム含有粒子を硝酸銀水溶液に浸漬させることで、前記炭酸カルシウム含有粒子の表面に炭酸銀を沈積させる工程と、
前記処理容器に塩化ナトリウムを供給して、前記処理容器に残存する硝酸銀を塩化銀として沈殿させる工程と、
前記処理容器に還元剤としてのL-アスコルビン酸を供給して、前記炭酸カルシウム含有粒子の表面に沈積した炭酸銀を還元処理することで、銀添着炭酸カルシウム含有粒子を得る工程と
を有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高温での加熱処理をしなくとも簡便に銀添着炭酸カルシウム含有粒子を製造できる方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、炭酸カルシウム含有粒子の表面に銀が添着した銀添着炭酸カルシウム含有粒子を製造する方法である。銀は、その抗菌効果(弱い殺菌効果)から日用品の抗菌剤として幅広く利用されており、本発明に係る方法により製造された銀添着炭酸カルシウム含有粒子も、同様に抗菌剤として好適に使用される。なお、酸化銀にも抗菌作用は認められるが、銀は食品添加物であることからも人体への影響は少なく(酸化銀は食品添加物ではない)、また水中の溶存酸素を活性酸素に変えて細菌表面に損傷を与えるオリゴダイナミックアクションが起きる(酸化銀では起きない)ことから、酸化銀ではなく銀を添着させることが好ましい。
【0012】
銀を添着させる基材粒子である炭酸カルシウム含有粒子としては、風化造礁サンゴ粒(サンゴ砂、コーラルサンドとも呼ぶ)、琉球石灰岩(山サンゴ)等の化石サンゴ粒、石灰岩(Limestone)、ドロマイト(Dolomite)が挙げられるが、化石サンゴ粒が好ましい。化石サンゴ粒は、無数の細孔構造を有することから表面積が大きく、カルシウムイオンの溶出やそれに伴うpHの中和又は弱アルカリ性化の効果もあることから、本発明に係る方法により製造された銀添着化石サンゴは、例えば、浄水器又は活水器用のミネラル溶出濾過材や、それを不織布に入れた携帯用水質改質剤として好適に使用することができる。
【0013】
炭酸カルシウム含有粒子の粒子径については、製造される銀添着炭酸カルシウム含有粒子の用途・利用目的等に応じて適宜設定すればよいが、通常は、0.1~5.0mmの範囲が好ましく、0.5~3mmの範囲がより好ましい。なお、炭酸カルシウム含有粒子の平均粒子径についても、上記の範囲であることが好ましい。
【0014】
本発明では、まず、処理容器内で、炭酸カルシウム含有粒子を硝酸銀水溶液に浸漬させる。こうすることで、炭酸カルシウム含有粒子の表面に存在する炭酸カルシウム(CaCO)と硝酸銀(AgNO)が下記の反応を起こして、炭酸カルシウム含有粒子の表面に炭酸銀(AgCO)が沈積する。
CaCO+2AgNO→AgCO↓+Ca(NO
炭酸カルシウム含有粒子の表面に沈着させる炭酸銀の量については、炭酸カルシウム含有粒子の表面に存在する炭酸カルシウムと硝酸銀の反応が起きることを考慮し、また製造される銀添着炭酸カルシウム含有粒子の用途・利用目的等に応じて適宜設定すればよいが、通常は、炭酸カルシウム含有粒子100gに対して、使用する硝酸銀水溶液中の硝酸銀を0.1~10gとすることが好ましく、0.5~5gとすることがより好ましい。この範囲であれば、後述する還元工程により所望の量の銀を炭酸カルシウム含有粒子の表面に添着させることができる。
【0015】
次いで、処理容器に塩化ナトリウムを供給する。こうすることで、処理容器に残存する硝酸銀(AgNO)と塩化ナトリウム(NaCl)が下記の反応を起こして、塩化銀(AgCl)が白色沈殿する。
AgNO+NaCl→AgCl↓+NaNO
なお、この塩化銀の多くは水溶液中で沈殿するが、一部は、炭酸銀が沈着した炭酸カルシウム含有粒子の表面に付着する場合があるものの、次の還元工程で塩化銀は還元されて銀が析出することから問題ない。塩化ナトリウムの添加量については、未反応の硝酸銀を塩化銀として沈殿させるのに必要な量を考慮して適宜設定すればよいが、通常は、使用した硝酸銀の0.1~1.0倍モルとすることが好ましく、0.25~0.75倍モルとすることがより好ましい。
【0016】
そして、次いで、処理容器に還元剤を供給する。こうすることで、炭酸カルシウム含有粒子の表面に沈積した炭酸銀が還元処理されて銀が析出し、銀添着炭酸カルシウム含有粒子が得られる。なお、炭酸銀が沈着した炭酸カルシウム含有粒子の表面に塩化銀が付着している場合もあるが、その塩化銀も同時に還元処理されて銀が析出することから、その場合でも結果的に銀添着炭酸カルシウム含有粒子が得られる。
【0017】
還元剤としてL-アスコルビン酸(C)を用いた場合、炭酸銀(AgCO)及び塩化銀(AgCl)は、下記反応式により還元されて銀(Ag)が析出する。
AgCO+C→2Ag↓+HCO+C
2AgCl+C→2Ag↓+2HCl+C
還元剤として水素(H)を用いた場合、炭酸銀(AgCO)及び塩化銀(AgCl)は、下記反応式により還元されて銀(Ag)が析出する。
AgCO+H→2Ag↓+HCO
2AgCl+H→2Ag↓+2HCl
【0018】
還元剤の添加量については、炭酸カルシウム含有粒子の表面に沈積した炭酸銀(及び塩化銀)が還元処理された銀が析出するのに必要な量を考慮して適宜設定すればよいが、通常は、使用した硝酸銀の0.5~5.0倍モルとすることが好ましく、1.0~3.0倍モルとすることがより好ましい。あるいは、還元剤として水素を用いる場合には、反応系を密閉し、そこに水素ガスを供給して還元処理を行うこともできる。
【0019】
以上のような本発明によれば、人体に有害な二酸化窒素の発生を抑止し、かつ高温での加熱処理をしなくとも簡便に銀添着炭酸カルシウム含有粒子を製造できる。
【実施例
【0020】
<実施例1>
化石サンゴ粒(粒子径:0.8~1.7mm)200gを2.63重量%硝酸銀水溶液120g(硝酸銀3.15g=0.0185mol)に投入し、温度50℃の環境下で24時間浸漬処理した。その後、0.90重量%塩化ナトリウム水溶液60g(塩化ナトリウム0.535g=0.00925mol)を加えることで、残留している硝酸銀が塩化銀になり白色の沈殿が生じた。そして、3.26重量%L-アスコルビン酸水溶液200g(L-アスコルビン酸6.52g=0.0370mol)を加えて撹拌し、温度50℃の環境下で24時間還元処理した。得られた反応溶液から粒子を回収した後、よく水洗し、さらに120℃で20分間乾燥させた。
【0021】
<実施例2>
実施例2では、実施例1で用いた還元剤を水素ガスに変更した。化石サンゴ粒(粒子径:0.8~1.7mm)200gを2.63重量%硝酸銀水溶液120g(硝酸銀3.15g=0.0185mol)に投入し、温度50℃の環境下で24時間浸漬処理した。その後、0.90重量%塩化ナトリウム水溶液60g(塩化ナトリウム0.535g=0.00925mol)を加えることで、残留している硝酸銀が塩化銀になり白色の沈殿が生じた。そして、この溶液を密閉容器に移し、密閉容器内に水素ガス(H)を通じながら、常温で24時間還元処理した。得られた反応溶液から粒子を回収した後、よく水洗し、さらに120℃で20分間乾燥させた。
【0022】
<比較例1>
比較例1では、従来技術である特許文献3に記載された方法に準じて実施した。化石サンゴ粒(粒子径:0.8~1.7mm)200gを1.575重量%硝酸銀水溶液200g(硝酸銀3.15g=0.0185mol)に投入し、温度50℃の環境下で24時間浸漬処理した。その後、10.0重量%L-アスコルビン酸ナトリウム水溶液200g(L-アスコルビン酸ナトリウム20.0g=0.101mol)を加えて撹拌し、温度50℃の環境下で24時間還元処理した。得られた反応溶液から粒子を回収した後、よく水洗し、さらに120℃で20分間乾燥させた。
【0023】
<比較例2>
比較例1で得られた粒子を、さらに300℃で60分間加熱処理した。
【0024】
<結果>
実施例1及び2では二酸化窒素由来の異臭の発生は認められなかったが、比較例1では二酸化窒素由来の異臭の発生が認められた。また、実施例1及び2で得られた粒子は茶褐色~灰褐色となり、化石サンゴ粒の表面に銀の添着が認められたが、同温度で製造した比較例1で得られた粒子は黒褐色となり、化石サンゴ粒の表面に酸化銀の添着が認められた。比較例1で得られた粒子をさらに300℃で高温加熱還元することで(比較例2)初めて茶褐色~灰褐色となり、化石サンゴ粒の表面に銀の添着が認められた。
【0025】
さらに、実施例1及び2、並びに比較例2で得られた粒子及び対照として表面処理していない化石サンゴ粒について、その銀含有量を原子吸光分析法にて分析した結果を表1に示す。実施例1及び2で得られた粒子における銀の回収率は、従来技術(比較例2)と同等以上であり、実用化するのに十分な銀の回収率であった。なお、銀の回収率は、硝酸銀の使用量から算出した理論上の銀の量に対する、実際に化石サンゴ粒の表面に添着していた銀の量を意味する。
【0026】
【表1】
【要約】
【課題】高温での加熱処理をしなくとも簡便に銀添着炭酸カルシウム含有粒子を製造できる方法を提供する。
【解決手段】本発明は、炭酸カルシウム含有粒子の表面に銀が添着した銀添着炭酸カルシウム含有粒子を製造する方法であって、処理容器内で、炭酸カルシウム含有粒子を硝酸銀水溶液に浸漬させることで、前記炭酸カルシウム含有粒子の表面に炭酸銀を沈積させる工程と、前記処理容器に塩化ナトリウムを供給して、前記処理容器に残存する硝酸銀を塩化銀として沈殿させる工程と、前記処理容器に還元剤を供給して、前記炭酸カルシウム含有粒子の表面に沈積した炭酸銀を還元処理することで、銀添着炭酸カルシウム含有粒子を得る工程とを有する。
【選択図】なし