(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-07
(45)【発行日】2023-03-15
(54)【発明の名称】細胞から組織を製造する装置および方法
(51)【国際特許分類】
C12M 3/00 20060101AFI20230308BHJP
C12N 5/077 20100101ALI20230308BHJP
C12N 5/074 20100101ALN20230308BHJP
C12N 5/0775 20100101ALN20230308BHJP
【FI】
C12M3/00 Z
C12N5/077
C12N5/074
C12N5/0775
(21)【出願番号】P 2021510528
(86)(22)【出願日】2019-04-26
(86)【国際出願番号】 EP2019060744
(87)【国際公開番号】W WO2019211189
(87)【国際公開日】2019-11-07
【審査請求日】2021-06-24
(32)【優先日】2018-05-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(32)【優先日】2018-06-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520426139
【氏名又は名称】モサ ミート ビーブイ
【氏名又は名称原語表記】MOSA MEAT BV
【住所又は居所原語表記】Oxfordlaan 70 6229 EV Maastricht Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブレームハール,ヨナサン
(72)【発明者】
【氏名】ポスト,マルク
【審査官】伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0263021(US,A1)
【文献】国際公開第2011/161086(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 3/00
C12N 1/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養細胞からバイオ人工筋肉を製造するための装置であって、
少なくとも1つの周方向の溝を有し、緊密にフィットする関係によって、少なくとも1つのトラフを貫通して中央に延びるように動作可能な細長い本体を有し、
前記少なくとも1つのトラフは
、前記細長い本体を囲む円形、長円形または楕円形の閉じた経路状に延在
しており、
前記少なくとも1つのトラフは、トラフの低部領域から内側縁まで延びる傾斜壁と、前記低部領域からトラフの外側縁まで延びる外壁とを有し、
前記周方向の溝の少なくとも1つは前記少なくとも1つのトラフの内側縁に向かって開いていることを特徴とする装置。
【請求項2】
前記細長い本体は、緊密にフィットする関係によって、少なくとも1つのトラフを貫通して中央に延び、前記周方向の溝の少なくとも1つが前記少なくとも1つのトラフの内側縁に向かって開いている請求項1に記載の装置。
【請求項3】
複数の細長い本体を有し、前記複数の細長い本体の別個の細長い本体がそれぞれ前記少なくとも1つのトラフの別個のトラフを貫通して延びている請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記少なくとも1つのトラフが積み重ねられている請求項1~3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記細長い本体は、前記少なくとも1つの周方向の溝の深さを少なくとも有する長手方向の溝を有する請求項1~4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記周方向の溝のそれぞれが前記トラフの内側縁に向かって開いている請求項1~5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記細長い本体と前記少なくとも1つのトラフとの間の緊密にフィットする関係が、スライド式の係合を含む請求項1~6のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
前記細長い本体が柱状の形態である請求項1~7のいずれか一項に記載の装置。
【請求項9】
細胞から組織に移行する移行中間体を介して、細胞から組織を製造する方法であって、下記の工程を有することを特徴とする方法。
a.請求項1~8のいずれか一項に記載の装置を用意する;
b.細胞、および足場生体材料を含む液体
のヒドロゲルを、前記装置の少なくとも1つのトラフに加える;
c.前記足場生体材料を架橋する;
d.移行中間体に分化培地を適用する;
e.前記分化培地中で移行中間体を培養して、少なくとも1つの周方向の溝内
に組織のリン
グを形成する。
【請求項10】
前記工程eの組織が筋線維の形態である請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記細胞が、間葉系細胞、筋芽細胞および筋細胞よりなる群から選ばれる少なくとも1つである請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
前記細胞が、前記少なくとも1つのトラフに加えられる前に前記ヒドロゲルに加えられる請求項9~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記分化培地が、前記
移行中間体を培養
する期間の少なくとも一部の後に活性化され、前記活性化が、i)酸素化、ii)少なくとも1つの栄養素の添加、iii)粒子状物質の除去、およびiv)前記分化培地の新しい分化培地との交換のうちの少なくとも1つを含む請求項9~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
さらに下記の工程を有する請求項9~13のいずれか一項に記載の方法。
f.それぞれの少なくとも1つのトラフから前記細長い本体を除去することによって少なくとも1つの細長い本体を収集し、前記細長い本体が、少なくとも1つの周方向の溝内に
前記組織のリングを有する。
【請求項15】
さらに下記の工程を有する請求項9~14のいずれか一項に記載の方法。
g.
前記組織のリングを切断して、前記細長い本体から取り外す。
【請求項16】
前記切断が前記細長い本体の長手方向の溝に沿って行われる請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に筋肉産生に関し、より具体的には、細胞から組織を製造する装置、および前述の装置を使用して細胞から組織を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
古くから、肉は人間の食生活における高品質のタンパク質の主要な供給源であり、今日まで、指数関数的に増加する世界の人口に栄養を提供し続けている。しかし、肉は非常に非効率的な食料源であり、その生産量は非常に増加しているため、現在、多くの深刻な問題の最大の原因の一つとなっている。まず第一に、食肉生産は人為的な気候変動の最大の原因の一つである。この主な理由は、肥料/肥やしや森林伐採後の土壌から放出される亜硝酸ガスや反芻動物からのメタン放出である。それに加えて、食肉生産は動物愛護や汚染や食品安全の問題にも関係している。2050年までに肉の需要は70%増加すると予想されている。そのため、より持続可能な肉の代替品が求められている。
【0003】
しかし、世界人口の90%以上が肉に依存しているため、食卓から肉を取り除くことは非常に困難である。植物やその他の持続可能なタンパク源からの肉代替品は数十年前から存在しており、技術の進歩によって改善されているが、社会の大多数にはまだ肉に代わるものとして受け入れられていない。
【0004】
動物の肉の理想的な代替品は、組織工学によって製造された肉である。前述の食肉生産の欠点は事実上すべて解消され、消費者は今まで通り食肉を楽しむことできる。
【0005】
筋肉組織の成長は医療および研究分野で長い間研究開発の対象となっており、成長および分化培地の存在下で二次元(2D)筋細胞を三次元(3D)組織特異的前駆細胞に人工的に増殖させることによって行われている。しかし、現在の組織工学でさえ、いくつかの理由により潜在的に肉を製造する技術として失敗している。
【0006】
第一に、筋肉を成長させるために必要な細胞は、動物に非常に優しくなく比較的希少な物質であるウシ胎児血清(FCS)を使用して成長する。また、組織形成は通常、組織形成を促進するゲル、一般的には動物由来のコラーゲンを利用する。プロセスは動物を含まないようにする必要がある(最初の細胞サンプルを除く)。
【0007】
また現在、医療または研究分野で行われている組織形成プロセスは、通常、非常に労働集約的であり、したがって、大量生産には経済的に実行可能ではない。
【0008】
効率的な方法で製造された、美味しくて虐待のない栄養価の高い肉製品を探すには、自動化されたスケーラブルなバイオ人工筋肉の製造方法を開発することが強く求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本開示は、細胞から組織を製造する装置の提供を図るものである。本開示はまた、前述の装置を介して細胞から組織を製造する方法の提供を図るものである。本開示は、培養細胞からのバイオ人工筋肉の製造のスケーラビリティの困難性など、既存の問題に対する解決策の提供を図るものである。本開示の目的は、従来技術において遭遇する問題を少なくとも部分的に克服する解決策を提供し、伝統的な肉に代わる効果的ではるかに持続可能な代替物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一態様では、本開示の一実施形態は、細胞から組織を製造する装置を提供する。この装置は、少なくとも1つの周方向の溝を有し、緊密にフィットする関係によって、少なくとも1つのトラフを貫通して中央に延びるように動作可能な細長い本体を有し、前記少なくとも1つのトラフは閉じた経路状に延在し、前記周方向の溝の少なくとも1つはトラフの内側縁に向かって開いている。
【0011】
別の態様では、本開示の一実施形態は、細胞から組織に移行する移行中間体を介して、細胞から組織を製造する方法を提供し、この方法は下記の工程を有する。
a.前述の請求項のいずれかに記載の装置を用意する;
b.細胞、および足場生体材料を含む液体ヒドロゲルを、前記装置の少なくとも1つのトラフに加える;
c.前記足場生体材料を架橋する;
d.移行中間体に分化培地を適用する;
e.前記分化培地中で移行中間体を培養して、少なくとも1つの周方向の溝内のリングに含まれる組織を形成する。
【発明の効果】
【0012】
本開示の実施形態は、先行技術における前述の問題を実質的になくすか、少なくとも部分的に対処し、実質的に労働集約的でなく、バイオ人工筋肉の効率的な製造を可能にする。さらに本開示は、従来技術によって提供されるものよりも組織の大規模な製造を可能にする。
【0013】
本開示の追加の態様、利点、特徴、および目的は、以下の添付の特許請求の範囲と併せて解釈される例示的な実施形態の図面および詳細な説明から明らかにされるであろう。
【0014】
本開示の特徴は、添付の特許請求の範囲によって定義される本開示の範囲から逸脱することなく、様々なコンビネーションで組み合わせ可能であることが理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
上記の概要、ならびに例示的な実施形態の以下の詳細な説明は、添付の図面と併せて読むとよりよく理解される。本開示を説明する目的で、本開示の例示的な構成が図面に示されている。しかしながら、本開示は、本明細書に開示される特定の方法および手段に限定されるものではない。さらに、当業者は、図面が原寸に比例していないことを理解するであろう。可能な限り、同様の要素は同じ番号で示されている。
【0016】
本開示の実施形態は、ここで例としてのみ、以下の図を参照して説明される。
【0017】
【
図1】本開示の一実施形態による、細胞から組織を製造する装置の斜視図を表す。
【
図2】本開示の一実施形態による、
図1に示した装置の断面図を表す。
【
図3】本開示の一実施形態による、装置のトラフの斜視図を表す。
【
図4】本開示の一実施形態による、
図3に示したトラフを積み重ねた状態の斜視図を表す。
【
図5】本開示の別の実施形態による、複数のトラフを貫通して中央に延びる動作可能な複数の細長い本体を有する装置の斜視図を表す。
【
図6】本開示の一実施形態による、装置の細長い本体の斜視図を表す。
【
図7】本開示のさらに別の実施形態による、細胞から組織を製造する装置の斜視図を表す。
【
図8】本開示の様々な実施形態による、装置のトラフを充填するための様々な技術の概略図を表す。
【
図9】本開示の様々な実施形態による、装置のトラフを充填するための様々な技術の概略図を表す。
【
図10】本開示の様々な実施形態による、装置のトラフを充填するための様々な技術の概略図を表す。
【
図11】本開示の様々な実施形態による、装置のトラフを充填するための様々な技術の概略図を表す。
【
図12】本開示の一実施形態による、細胞から組織を製造する方法の工程の概略図を表す。
【
図13】本開示の一実施形態による、細胞から組織を製造する方法の工程の概略図を表す。
【
図14】本開示の一実施形態による、細胞から組織を製造する方法の工程の概略図を表す。
【
図15】本開示の一実施形態による、細胞から組織を製造する方法の工程の概略図を表す。
【
図16】本開示の一実施形態による、細胞から組織を製造する方法の工程の概略図を表す。
【
図17】本開示の一実施形態による、細胞から組織を製造する方法の工程の概略図を表す。
【
図18】本開示の一実施形態による、細胞から組織に移行する移行中間体を介して、細胞から組織を製造する方法の工程を示すブロック図を表す。
【0018】
添付の図面において、下線が付された番号は、下線が付された番号が配置されているアイテムまたは下線が付された番号が隣接しているアイテムを表すために使用されている。下線のない番号は、下線のない番号をアイテムにつなぐ線で識別されるアイテムに関連している。番号に下線がなく関連する矢印が付いている場合、下線なしの番号は、矢印が指している一般的なアイテムを識別するために使用される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下の詳細な説明は、本開示の実施形態およびそれらを実施することができる方法を示している。本開示を実施するいくつかのモードが開示されているが、当業者は、本開示を実行または実施するための他の形態も可能であることを認識するであろう。
【0020】
本開示は、細胞から組織を製造する装置を提供する。有益なことに、この装置は効率的であり労働集約的ではない。さらに、この装置は、標準的な肉に代わるより持続可能な代替品の製造を可能にする。換言すれば、この装置を使用して製造されたバイオ人工筋肉は、改善された品質、すなわち製造されたバイオ人工肉に必要な均一性を保証する。バイオ人工筋肉の均一性は、外観、質感、風味の点で標準的な肉を模擬的に再現する。さらに、バイオ人工筋肉は、競争力のある価格で同じ消費者体験を提供する。
【0021】
本開示は、前述の装置を使用して、細胞から組織を製造する方法を提供する。有益なことに、この装置は効率的であり労働集約的ではない。さらに、この装置は、標準的な肉に代わるより持続可能な代替品を提供する。換言すれば、この装置を使用して製造されたバイオ人工筋肉は、製品全体の均一性を保証する。製品の均一性は、外観、食感、風味の点で標準的な肉を模擬的に再現し、競争力のある価格で同じ消費者体験を提供する。
【0022】
本開示は、細胞から組織を製造する装置を提供し、当該装置は、少なくとも1つの周方向の溝を有し、緊密にフィットする関係によって、少なくとも1つのトラフを貫通して中央に延びるように動作可能な細長い本体を有し、少なくとも一つのトラフは閉じた経路状に延在し、周方向の溝の少なくとも1つはトラフの内側縁に向かって開いている。
【0023】
本開示全体を通して、本明細書で使用される「細長い本体」という用語は、天然または合成材料から構成される三次元(3D)支持構造に関する。細長い本体は、ステンレス鋼や、アセタール、ナイロン、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸などのプラスチック材料から構成され得るが、これらに限定されるものではなく、好ましくは、各材料は、医療グレードの材料として提供される。細長い本体は、筋肉細胞から製造されたバイオ人工筋肉組織のアンカーとして機能するように設計されている。任意の選択で、細長い本体は、いくつかの可変の形状および寸法を含み得る。可変の形状および寸法は、細胞の増殖と架橋細胞の破壊を防ぐための理想的な構造を確実なものとし、最適化することができる。
【0024】
細長い本体の長さは、装置および方法の生産性を決定するために最適化され得ることに留意されたい。より長い細長い本体がより多くの量のバイオ人工生成物を保持することは明らかである。しかし、細長い本体を出し入れする(配置するまたは引き戻す)際の材料の変形または閉塞の増加によって生じ得る制限を避けるために、約20ミリメートルから1000ミリメートルの長さの細長い本体が使用され得る。必要に応じて、細長い本体の長さとは別に、細長い本体の直径も最適化する必要が生じるかもしれない。引張応力は分化プロセスにおいて重要であるが、より大きな直径は、最終的な組織により大きな引張応力を誘発する可能性があることが理解されよう。したがって、細長い本体の典型的な直径は、2ミリメートルから10ミリメートルの範囲で最適化され得る。
【0025】
より任意の選択で、細長い本体は、柱の形態であり得る。例として、細長い本体は、円筒形の柱状、長円形または楕円形の柱状であってもよい。具体的には、柱は、バイオ人工筋肉が柱に付着せずに、柱を取り囲むように形成することを可能にする。これにより、構造が維持され、バイオ人工筋肉の無駄が少なくなる。しかし、所望の生成物が周囲に形成された細長い本体は、引き戻す段階で障害を経験する可能性がある。そのような障害は、所望の生成物の偶発的な破損をもたらす可能性があるため、細長い本体は、細長い本体に少なくとも1つの周方向の溝を設けるか、または細長い本体の形状を最適化することによって、偶発的な破損を防ぐようにデザインされ得る。この点で、細長い本体は、可撓性材料から構成されてもよい。一実施形態として、細長い本体は、可撓性の表面層を有していてもよい。有利には、所望の生成物の構造を支持するために、柔軟な材料で作られた細長い本体または柔軟な表面層を有し得る。任意の選択で、細長い本体は食用であってもよく、または少なくとも表面層が食用材料から構成されていてもよい。
【0026】
細長い本体は、少なくとも1つの周方向の溝を有し、緊密にフィットする関係によって、少なくとも1つのトラフを貫通して中央に延びるように動作可能な細長い本体を有し、少なくとも1つのトラフは閉じた経路状に延在し、周方向の溝の少なくとも1つはトラフの内側縁に向かって開いている。細長い本体は、少なくとも1つの周方向の溝を含む適切なサイズおよび形状に最適化され、少なくとも1つのトラフを貫通して中央に延び、所定の場所に適合する。任意の選択で、各周方向の溝は、800ミクロンのくぼみの深さ(または厚さ)に最適化され得る。周方向の溝のくぼみの深さは、製造されるバイオ人工筋肉の厚さを受け入れるのに十分であることが好ましい。また、細長い本体の長さに沿って垂直方向に隣接する周方向の溝は、装置の垂直方向に隣接するトラフ間の垂直方向の間隔に相当する距離だけ離れていてもよい。さらに、周方向の溝の間の間隔が狭いと、柱の長さあたりのバイオ人工筋肉の製造量が増える。
【0027】
任意の選択で、周方向の溝のそれぞれは、トラフの内側縁に向かって開いている。本開示を通して、本明細書で使用される「トラフ」という用語は、組織の製造のための出発生体材料を保持するためのウェルに関する。少なくとも1つのトラフのそれぞれが中央の穴を有するようにデザインされていることに留意されたい。任意の選択で、少なくとも1つのトラフのそれぞれの中央の穴は、円形、円筒形、長円形または楕円形であり得る。さらに、少なくとも1つの周方向の溝を有する細長い本体は、緊密にフィットする関係によって、少なくとも1つのトラフの中央の穴を通って延びるように動作可能である。
【0028】
少なくとも1つのトラフは、閉じた経路状に延在するようにデザインされている。閉じた経路は、細長い本体または柱の断面形状に適合する任意の形状にすることができる。一実施形態では、閉じた経路は楕円形である。別の実施形態では、閉じた経路は円形である。少なくとも1つのトラフは、組織の製造のために選択されたドナー生物に由来する、出発生体材料または初期細胞を保持するようにデザインされた円形ウェルであってもよい。したがって、トラフが円形の閉じた経路状で延在する場合、前述の装置は、細長い本体を囲む少なくとも1つの円形のトラフを提供する。
【0029】
一実施形態では、閉じた経路はスタジアム形状であってもよい。スタジアム形状の閉じた経路は、長方形の対向する両辺に半円を備えた形状で構成されたトラフを提供するようにデザインすることができる。さらに、スタジアムの形状をしたトラフはカプセルに似ている。したがって、トラフがスタジアム形状の閉じた経路状で延在する場合、前述の装置は、細長い本体を囲むスタジアムのトラックのような形状の少なくとも1つのトラフを提供する。
【0030】
任意の選択で、少なくとも1つのトラフは、外壁、外側縁、内側縁、および傾斜壁を有する。より任意の選択で、少なくとも1つのトラフは、トラフの低部領域から内側縁まで延びる傾斜壁と、低部領域からトラフの外側縁まで延びる外壁とを有する。さらに、より任意の選択により、外壁は垂直で外側に曲がる傾斜を有していてもよく、内側縁まで延びる傾斜壁は、湾曲され、ある角度で、好ましくは45度(または45°)の角度で傾斜していてもよい。そのような傾斜は、開示されたプロセス中に、生体材料のリングのトラフからの移動をアシストする。有益なことに、トラフの閉じた経路、および壁の最適化された高さ(すなわち深さ)は、組織の製造のために、選択されたドナー生物に由来する出発生体材料または初期細胞がトラフから漏れないことを確実なものにする。任意の選択で、各トラフの深さは、40マイクロリットルから1000マイクロリットルの範囲であり得る。トラフは、ステンレス鋼や、アセタール、ナイロン、ポリスチレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸などのプラスチックなど、任意の適切な材料から作ることができる。それらは、打刻、射出成形、真空成形、またはCNCフライス加工によって成形することができる。
【0031】
換言すれば、細長い本体が少なくとも1つのトラフを貫通して中央に延び、所定の場所に適合すると、その際、周方向の溝の少なくとも1つがトラフの内側縁に向かって開く。対応するトラフの内側縁に対する周方向の溝のそのような構成は、トラフから移動する生体材料のリングが、それ自体の展開張力によって周方向の溝に導かれることを可能にする。
【0032】
任意の選択で、細長い本体は、緊密にフィットする関係によって、少なくとも1つのトラフを貫通して中央に延び、周方向の溝の少なくとも1つはトラフの内側縁に向かって開いている。細長い本体は、所定の位置で少なくとも1つのトラフを貫通して中央に延び、その結果、細長い本体の周方向の溝の少なくとも1つが少なくとも1つのトラフの内側縁と位置合わせされる。細長い本体の周方向の各溝は、隣接するトラフに対して対応する所定の位置に整列させることができる。一例では、第1の周方向の溝は第1のトラフと位置合わせされ、第1の周方向の溝は細長い本体の下端に配置され、第1のトラフは前述の装置の底部に配置される。同様に、第2の周方向の溝は第2のトラフと位置合わせされ、第1の周方向の溝は、細長い本体の一部(周方向の溝ではない)によって分けられた第1の周方向の溝の上方に配置され、第2のトラフは、第1のトラフと第2のトラフの間の所定の垂直間隔で分けられた第1のトラフの上方に配置される。
【0033】
任意の選択で、少なくとも1つの細長い本体は、別個の細長い本体がそれぞれ別個の少なくとも1つのトラフを貫通して延びる。前述のように、細長い本体は、少なくとも1つのトラフを貫通して中央に延びる。ただし、別個の細長い本体は、それぞれ別個の少なくとも1つのトラフを貫通して延びていてもよい。別個の細長い本体は、これらに限定されるものではないが、組織を製造するための出発生体材料、培地(例えば、成長および/または分化培地)、追加の成長因子などを充填(および/または再充填)するためのパイプを含んでいてもよい。別個の細長い本体は、少なくとも1つのトラフの別個の通路(または中央の穴)を通って延在されてもよい。任意の選択で、細長い本体は、隣接するトラフにその内容物を注ぐことを可能にする所定の距離にサイドポートを有していてもよい。
【0034】
任意の選択で、パイプなどの細長い本体は、閉鎖端および閉鎖端の近くにサイドポートを有し、当該パイプが装置の少なくとも1つまたは複数のトラフの少なくとも1つの貫通穴を通って延びるように動作可能であってもよい。より任意の選択で、組織を製造するための出発生体材料、培地(例えば、成長および/または分化培地)、追加の成長因子などを移動させるという所望の機能を実行するために、パイプは少なくとも1つの貫通穴を通って移動され、サイドポートを少なくとも1つのトラフと位置合わせしてもよい。
【0035】
一実施形態では、1つ以上の別個の細長い本体が、同心円状の配置で細長い本体の内部に設置され、細長い本体がパイプを収容してもよい。任意の選択で、パイプなどの細長い本体は、長手方向の内部チャネルと、内部チャネルから細長い本体の周方向の溝に開くように配置されたサイドホールとを有していてもよい。続いて、そのような同心円状の配置は、中央の穴を通って移動され、所望の機能を実行するために少なくとも1つのトラフと位置合わせされてもよい。
【0036】
任意の選択で、細長い本体と少なくとも1つのトラフとの間の緊密にフィットする関係は、スライド式の係合を含む。細長い本体をトラフにスライドさせることによって、細長い本体は少なくとも1つのトラフを貫通して延びる。換言すれば、細長い本体の延在を支配する緊密にフィットする関係は、少なくとも1つのトラフを中央に貫通する細長い本体の所定の位置決めを確実にする。具体的には、細長い本体の周方向の溝の少なくとも1つは、隣接する少なくとも1つのトラフの内側縁に向かって開くように位置合わせされる。より具体的には、そのような位置合わせは、細長い本体を少なくとも1つのトラフを中央に貫通してスライドさせることによって達成される。
【0037】
任意の選択で、トラフはその外壁の外側で端に沿って横方向に隣接するトラフに結合され、それにより、別個の細長い本体が前記トラフおよび前記横方向に隣接するトラフを貫通して延びている。少なくとも1つのトラフは、その外壁でその横方向に隣接するトラフに結合されている。別個の細長い本体は、4つの水平に配置されたトラフの配置によって形成されたトラフと空間を貫通して延びていてもよい。例えば、第1のトラフは第2のトラフとそれらの外壁を介して端に沿って結合され、第2のトラフは第1のトラフに横方向に隣接して配置される。同様に、第3のトラフは第2のトラフとそれらの外壁を介して端に沿って結合される。さらに、第4のトラフは第1のトラフと第3のトラフと、それぞれの外壁を介して端に沿って結合される。
【0038】
任意の選択で、端に沿って結合されたトラフは一体構成要素として形成され、一体構成要素は上面および下面を有する。上記の例では、外壁の外側で端に沿って結合された横方向に隣接する4つのトラフが、トラフの一体構成要素と称されるプレート状の配置を形成し、一つの共通の上面と一つの共通の下面を有することに留意されたい。さらに、一体構成要素は、上面と下面との間を連通する少なくとも1つの貫通穴を有し、貫通穴はトラフの外壁の外側に位置する。上記の例では、第1のトラフ、第2のトラフ、第3のトラフ、および第4のトラフを含む一体構成要素が、横方向に隣接する4つのトラフの間に貫通穴を形成することに留意されたい。貫通穴は、トラフの一体構成要素の一つの共通の上面と一つの共通の下面を接続する。貫通穴は、横方向に隣接するトラフの外壁の外側に位置することは明らかである。
【0039】
任意の選択で、少なくとも1つのトラフは積み重ねられている。複数のトラフは、垂直に積み重ねて配置することができる。より任意の選択で、少なくとも1つのトラフは垂直方向に延びるスペーサーを備え、隣接して積み重ねられたトラフ間の距離が確保されている。前述のように、垂直に積み重ねられた複数のトラフは、垂直方向に延びるスペーサーによって離間され、隣接して積み重ねられたトラフ間の距離を確保することができる。任意の選択で、そのような垂直方向に延びるスペーサーを使用して、垂直に隣接するトラフ間に1ミリメートルから5ミリメートルの距離を作り出すことができる。
【0040】
任意の選択で、端に沿って結合されたトラフの一体構成要素を少なくとも一つ有し、一体構成要素のトラフの各上面を、その上側に隣接する一体構成要素のトラフの対応する下面に結合することにより、一体構成要素が垂直方向に結合され、大きな一体構成要素を形成する。垂直方向に積み重ねられて結合されたトラフの複数の一体構成要素は、トラフの大きな一体構成要素を形成する。トラフの複数の一体構成要素のそのような垂直方向の積み重ねは、ある一体構成要素のトラフの各上面を、隣接する別の一体構成要素のトラフの対応する下面に結合することによって達成される。例えば、はしごの各段が一緒に結合され一体のはしごを形成し、各段は垂直に積み重ねられたトラフを反映し、はしごは大きな一体構成要素を反映する。任意の選択で、大きな一体構成要素は、3D印刷によって、または一体構成要素を積み重ねて溶接することによって製造できる。
【0041】
任意の選択で、細長い本体は、少なくとも1つの周方向の溝の深さを少なくとも有する長手方向の溝を有する。長い細長い本体は、その周りに複数のバイオ人工筋肉(BAMs)を形成することを可能にし、それによって、細長い本体からのバイオ人工筋肉(BAMs)の採取および切断を簡略化できることが理解されよう。有益なことに、細長い本体の長手方向の溝に沿ったカッターの1つの動きによって、多数のバイオ人工筋肉(BAMs)を採取することができる。さらに、長く細長いボディを採用することで、メリットを享受しながら、複数の正確で過度の切断動作の必要性がなくなる。
【0042】
任意の選択で、装置の細長い本体およびトラフは、細胞から組織を製造するための容器に入れてもよい。より任意の選択で、特に前記製造の異なる段階のために、少なくとも1つ以上の容器を用意してもよい。具体的には、細長い本体を容器から取り出し、異なる培養期間の間別の容器に入れてもよい。少なくとも1つの容器は、増殖培地および/または分化培地を含んでいてもよい。さらに、容器は、細胞からの組織の製造をアシストするために、増殖培地および/または分化培地を受け取って排出するようにデザインされていてもよい。
【0043】
本開示はまた、細胞から組織に移行する移行中間体を介して、細胞から組織を製造する方法に関する。
【0044】
前述の方法は、筋肉の内部細胞の壊死性コアに関連する問題に対処するための適切な厚さの高品質な製品の確保に貢献し、従来の方法と比較して環境への影響と動物への虐待を減らす。また、本開示は、細胞からの組織の大量生産に必要な工程数と装置の部品数を減らすことを狙いとしている。さらに本方法は、最小限のエラーで、簡単にスケールアップでき、操作を自動化することができる。さらに、本方法はまた、複数の周方向の溝内に生体材料のリングを有する細長い本体を浸すのに必要な分化培地の総体積を減少させることを狙いとしている。
【0045】
細胞から組織に移行する移行中間体を介して細胞から組織を製造する方法は、細胞から組織を製造する前述の装置を用意することを含む。
【0046】
本開示を通して、本明細書で使用される「細胞」という用語は、ドナー生物から得られた出発物質を指す。細胞は、細胞膜、遺伝物質からなる少なくとも1つの染色体、および細胞質を含む。さらに、細胞は、エネルギーおよびタンパク質の合成、呼吸、消化、栄養素の貯蔵および輸送、運動、細胞分裂などの1つ以上の重要な機能を実行するように適合または特殊化された様々な細胞小器官を含む。任意の選択で、細胞は、間葉系細胞、筋芽細胞、および筋細胞よりなる群から少なくとも1つを選んでもよい。より任意の選択で、細胞は、間葉系細胞、筋肉細胞(筋芽細胞および筋細胞)、脂肪細胞、体節細胞、軟骨細胞、血液細胞、または幹細胞を含んでいてもよいが、これらに限定されるものではない。細胞は有糸分裂または減数分裂によって分裂し、分離された遺伝物質をそれぞれ含む2つまたは4つの娘細胞を生成する。
【0047】
選択されたドナー生物(すなわち動物)に由来する少数の初期細胞(または出発生体材料)を使用して、細胞分裂を開始することができる。任意の選択で、牛、豚、羊、家禽、アヒル、鹿、ウサギ、魚または他の海産食品から選ばれる動物であって、食用動物組織の製造。より任意の選択で、ドナー生物は、家畜種(牛、水牛、羊、山羊、豚、ラクダ、ウサギ、鹿など)、家禽種(鶏肉、ガチョウ、七面鳥、キジ、アヒル、ダチョウなど)、および/または、水生または半水生種(魚、軟体動物(すなわち、アワビ、アサリ、コンク、ムール貝、カキ、ホタテ、カタツムリ)、頭足類(すなわち、コウイカ、タコ、イカなど)、甲殻類(すなわち、カニ、クレイフィッシュ、ロブスター、小エビ、エビ)、鯨類、カエル、カメ、クロコダイルなどから選ぶことができる。良質の初期細胞を得るために、ドナー動物は厳密に衛生的な条件下に保たれることが理解されよう。さらに、細胞分裂に続いて、細胞の成長と、様々な活動を実行するための多種の機能コンポーネントつまり組織への分化が行われる。
【0048】
任意の選択で、前記方法は、ヒトまたは動物の組織の製造に使用することができる。前記装置によってそのような方法によって製造された組織は、医学、外科手術、食品産業、皮革産業などの様々な目的に使用することができる。
【0049】
本開示を通して、本明細書で使用される「組織」という用語は、それらの細胞外マトリックスとともに類似の細胞の集合を指す。組織は、細胞と生物の器官の間の中間体であり、特定の機能を実行するように適合されている。組織は、結合組織、筋肉組織、神経組織、上皮組織の4つのカテゴリーに分類できる。一例では、複数の組織を機能的にグループ化して器官を生成することができる。
【0050】
任意の選択で、細胞は筋芽細胞であり、本方法は、足場生体材料を含む液体ヒドロゲルとの混合物中の筋芽細胞を、装置の少なくとも1つのトラフに加えるのに先立って、筋芽細胞を固定する表面を提供し、それらを増殖培地中で培養することによって筋芽細胞を増殖することをさらに含む。細胞からの組織の製造は、最適な温度、栄養へのアクセス、細胞の空間的位置に関する情報を伝えるための細胞の付着面など、適切な環境で行われる。そのような付着面は、生体内の細胞の細胞外マトリックス(ECM)であってもよい。本開示における細胞外マトリックス(ECM)は、架橋された足場生体材料を含むヒドロゲルから構成される。適切な足場生体材料の例は、近くの細胞の様々な細胞小器官によって生成されるタンパク質および多糖類である。他の例については後述するが、動物組織から採取する必要のないものもある。細胞外マトリックス(ECM)が基底や頂端などの細胞の適切なサイトに配置されると、細胞への付着面が提供され、それによって組織培養と構造が支持される。細胞は、例えば筋線維になるなど、形態を発達させ変化させることができる。このようなプロセスは分化プロセスと呼ばれ、細胞が成長して特殊な組織に分化する。
【0051】
例えば、筋肉細胞(つまり筋細胞)は成長し、筋肉組織に分化する。筋細胞は多核で細長く、繊維に似ており、しばしば筋線維または筋細胞と呼ばれる。筋細胞(または筋線維または筋細胞)は、筋芽細胞が筋管、多核線維に融合することで発達する。筋芽細胞は、線維芽細胞成長因子(FGF)の存在下で筋細胞に分化することができる一種の胚性前駆細胞であり、筋管は筋組織の基礎を形成する。筋肉組織は、骨格筋組織(多核)、平滑筋組織(単核)、および心筋組織(単核)に分類される。
【0052】
本方法はさらに、細胞、および足場生体材料を含む液体ヒドロゲルを、装置の少なくとも1つのトラフに加えることを含む。筋肉細胞(筋芽細胞と筋細胞)は液体ヒドロゲルに加えられる。本明細書で使用される「ヒドロゲル」という用語は、水中に広範囲に分散され、異なるタイプの架橋メカニズムのために不溶性にされている親水性の天然または合成高分子のネットワークを指す。ヒドロゲルは、水を吸収して保持する能力があるため、自然組織を非常によく反映している。ヒドロゲルは、天然または合成成分から合成することができ、それにより、異なるレベルの機能性および分解性を示す。ヒドロゲルは、ポリマー成分の三次元ネットワークと、ポリマー高分子間の水充填スペースを含む。ヒドロゲルは、単一種のモノマー、2種以上の異なるモノマー種、または2つの独立した架橋合成および/または天然ポリマー成分にそれぞれ由来するポリマーネットワークのタイプに応じて、ホモポリマー、コポリマー、またはマルチポリマー相互侵入ポリマーヒドロゲル(IPN)であり得る。ヒドロゲルは、コラーゲン、エラスチン様ポリペプチド、トロポエラスチン、ヒアルロン酸、アルギン酸塩、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリカプロラクトン(PCL)、合成DNAヒドロゲルなどであってもよいが、これらに限定されるものではない。さらに、ヒドロゲルは、細胞外マトリックス(ECM)を高度に反映し、細胞の付着と増殖を助ける足場生体材料を含んでいてもよい。
【0053】
細胞は、少なくとも1つのトラフに加える前に、液体ヒドロゲルにうまい具合に加えられてもよい。具体的には、細胞と液体ヒドロゲルを適切に混合することにより、細胞がヒドロゲル内の足場生体材料に付着することが保証される。本明細書で使用される「足場生体材料」という用語は、細胞が付着することができる天然または合成のマトリックス分子のアレイを指す。天然の足場生体材料は、植物ベースの材料、または動物ベースの二次元(2D)または三次元(3D)構造であってもよい。足場生体材料は、細胞の付着および成長のために最大の表面積を提供する非常に多孔性の材料から構成されてもよい。任意の選択で、足場生体材料は、I型コラーゲン、エラスチン、フィブリン、プロテオグリカン、ポリウレタン、ポリ乳酸、ペクチン、キチン、ヒアルロン酸およびそれらのオリゴマー、微粒子、リポソーム、マトリゲル(登録商標)などであってもよい。
【0054】
任意の選択で、細胞およびヒドロゲルを加えるとき、少なくとも1つのトラフは、少なくとも1つのトラフの内側縁の深さレベルまで混合物で満たされる。内側縁の高さは、組織の製造のために、選択されたドナー生物に由来する出発生体材料または初期細胞の高さに最適化されることが理解されよう。少なくとも1つのトラフの内側縁に対応する深さレベルは、混合物がウェルから漏れ出さないことを確実にする。
【0055】
任意の選択で、細胞と足場生体材料を含む液体ヒドロゲルの混合物は、長手方向の内部チャネルと、内部チャネルから細長い本体の周方向の溝に開くように配置されたサイドホールとを有する細長い本体を設けることによって、少なくとも1つのトラフに加えられてもよい。そのような長手方向の内部チャネルと内部チャネルから細長い本体の周方向の溝に開くように配置されたサイドホールは、足場生体材料を含む液体ヒドロゲルとの混合物中の細胞を、長手方向のチャネルとサイドホールを通して装置の少なくとも1つのトラフを移動させるのに使用され得る。
【0056】
一実施形態において、本方法は、パイプおよびサイドポートを介して装置の少なくとも1つのトラフに細胞および足場生体材料を含む液体ヒドロゲルを加えることを含む。続いて、パイプを少なくとも1つの貫通穴を通して動かして、サイドポートを、細胞および足場生体材料を含む液体ヒドロゲルを少なくとも1つのトラフに加えるための少なくとも1つのトラフと位置合わせしてもよい。
【0057】
さらに別の実施形態では、細胞と液体ヒドロゲルの混合物は、細胞と液体ヒドロゲルの混合物を満たすために、少なくとも1つのトラフを貫通して中央に延びていてもよいパイプによって追えられてもよい。続いて、パイプが引き抜かれ、細長い本体が、少なくとも1つのトラフを貫通して中央に延びることによって、容器内に配置される。
【0058】
さらに別の実施形態では、装置は、同心配置され同心サイドポートを備えたパイプおよび細長い本体を有していてもよく、同心配置は、細胞および足場生体材料を含む液体ヒドロゲルをパイプとサイドポートを介して装置の少なくとも1つのトラフに充填するための少なくとも1つのトラフを貫通して中央に延びるように動作可能となっている。続いて、パイプおよび細長い本体を中央の穴を通して動かし、細胞および足場生体材料を含む液体ヒドロゲルを少なくとも1つのトラフに加えるために、サイドポートを少なくとも1つのトラフと位置合わせしてもよい。さらに、パイプおよび細長い本体のそのような同心配置は、少なくとも1つのトラフに、細胞および足場生体材料を含む液体ヒドロゲルの混合物を充填および再充填するために使用することができる。
【0059】
さらに別の実施形態では、細胞と液体ヒドロゲルの混合物は、足場生体材料を含む液体ヒドロゲルとの混合物中の細胞をピペッティングによって装置の少なくとも1つのトラフに移すことによって、少なくとも1つのトラフに加えてもよい。さらに、細胞と液体ヒドロゲルの混合物をトラフに移し、続いて、少なくとも1つのトラフのトラフについて、上側に隣接するトラフを順次積み重ねる。さらに、細胞および足場生体材料を含む液体ヒドロゲルの混合物のそのような移動は、少なくとも1つのトラフを、細胞および足場生体材料を含む液体ヒドロゲルの混合物で充填および再充填するために、細胞および足場生体材料を含む液体ヒドロゲルの混合物をピペッティングすることによって達成してもよい。
【0060】
さらに別の実施形態では、細胞と液体ヒドロゲルの混合物は、細胞と液体ヒドロゲルの混合物で満たされた容器内にトラフを沈めることによって加えるようにしてもよい。
【0061】
一実施形態では、パイプは、少なくとも1つのトラフを上側から貫通して中央に延びるように動作可能であってもよい。別の実施形態では、パイプは、少なくとも1つのトラフを下側から貫通して中央に延びるように動作可能であってもよい。任意の選択で、トラフの充填は下から上に順番に充填される。あるいは、または追加で、任意の選択で、トラフの充填は上から下に順番に充填される。
【0062】
任意の選択で、培養は細胞特異的な最適温度で実施される。より任意の選択で、培養は、最適な温度などの最適な培養条件下で、所定の期間、所定の規制条件下で行ってもよい。任意の選択で、細胞特異的な最適温度は約37℃である。しかし、元の細胞が供給された動物の正常な血液温度は、最適な温度の指針となり、そのような正常な血液温度はよく知られている。さらに、培養は数日間(1日または2日など)進行させることができ、これは、細胞を足場生体材料に付着させて成長させるのに適している。任意の選択で、増殖培地は少なくとも1つのトラフに加えてもよい。任意の選択で、培地は、トラフから溢れる前に、外側縁の周囲を通ってゆっくりと上昇しながら、各トラフに入る。培地のそのような添加は、細胞と足場材料を含む液体ヒドロゲルの混合物が片側から溢れることによってダメージを受けないことを保証する。
【0063】
細胞は、足場生体材料のマトリックスへのその後の付着によって一方向に増殖することが理解されよう。
【0064】
一実施形態では、容器内の細胞および足場生体材料を含む液体ヒドロゲルを含む混合物は、ガス(CO2など)で燻蒸され、適切なpHに調整され、最終的には密封されてもよい。さらに、細胞がヒドロゲルに存在する足場生体材料に定着したら、必要に応じて、アミノ酸、ビタミン、グルコース、その他の成長サプリメントおよび培地のリフレッシュメント(多くの場合、バッチ単位、通常は週に2回、または継続的)の添加を行ってもよい。さらに、増殖培地および増殖条件は、細胞から組織を製造する方法を容易にするために、当業者に知られている方法で最適化してもよい。
【0065】
前述したように、少なくとも1つのトラフの内側縁は、細長い本体の周方向の溝のそれぞれに通じている。したがって、増殖する細胞は、細長い本体の周方向の溝の上、上方、または内部で成長する可能性がある。特に、移行中間体は、足場生体材料が架橋された後、少なくとも1つのトラフから少なくとも1つの周方向の溝に移動する。
【0066】
一例では、足場材料は、分化培地の存在下で、筋肉細胞が成長し、移行中間体である筋線維に分化するための初期付着サイトを提供する。さらに、筋線維は筋肉組織に分化する。その過程で、筋線維は少なくとも1つのトラフから細長い本体の対応する周方向の溝に移動する。
【0067】
本方法は、足場生体材料を架橋することをさらに含む。ヒドロゲル中の材料の選択に応じて、異なるタイプの架橋メカニズムが以前に言及されており、これらは、例えば、熱または紫外線への曝露によって促進されてもよい。細胞が付着した足場生体材料は、互いに架橋して、細胞の成長と増殖をアシストする。さらに、足場材料の架橋は、分化培地の存在下で起こり得る。上述した生物活性ヒドロゲルに捕捉された細胞が増殖し、培地を移行させることに留意されたい。具体的には、培地の移行とは、ヒドロゲル(コラーゲンなどが豊富)からトラフを含む容器に充填された分化培地への培地の変化を指す。その結果、分化培地の存在下で、再生可能な細胞が分化して融合筋管を生成し、これはさらに10~12日間連続的に収縮(または圧縮)して、所望のバイオ人工筋肉(BAMs)組織を生成する。圧縮細胞は、組織の深さ全体にわたって適切な細胞密度および一方向の細胞の整列を維持することが理解されよう。
【0068】
細胞は増殖および分化して、特殊な組織を生成する。しかし、細胞からの組織の生成は、細胞から組織に移行する移行中間体を介して達成される。「移行中間体」という用語は、細胞とその対応する組織との間の中間体に関する。たとえば、筋肉細胞から筋肉組織を生成する方法は、移行中間体を介して単核(単一核)筋細胞の多核(多数核)筋管への分化を確実にする。
【0069】
本方法は、分化培地を移行中間体に適用することをさらに含む。移行する中間体は分化して、筋肉組織の基礎を形成する筋管を生成する。移行中間体は、分化培地から栄養素と酸素を利用して増殖し、筋肉組織に増殖および分化し、分化の過程で粒子状物質を放出する。任意の選択で、分化培地は、装置の少なくとも1つのトラフ内の混合物に適用される。任意の選択で、分化培地は、培養期間の少なくとも一部の後に活性化され、活性化は、i)酸素化、ii)栄養素の添加、iii)粒子状物質の除去、およびiv)分化培地の新しい分化培地との交換のうちの少なくとも1つを含む。細胞が移行中間体に成長した後、装置内の分化培地は、新鮮な酸素、栄養素を供給し、死んだ細胞破片および他の粒子状物質を除去するために補充される必要がある。混合物は、培養期間の1つ以上の部分で培養されてもよいことに留意されたい。
【0070】
分化培地中の移行中間体の培養は、段階的に実施してもよい。例えば、培養の一部は、移行中間体がトラフにある間に行ってもよい。さらに、培養方法の一部は、移行中間体が周方向の溝にある間に、細長い本体をトラフから除去する前に行ってもよい。培養方法の一部は、細長い本体をトラフから除去した後、移行中間体が細長い本体の周方向の溝にある間に有利に実行される。
【0071】
任意の選択で、細長い本体の周方向の溝で生成した比較的大きくて厚いバイオ人工筋肉(BAMs)組織は、密に詰められ、均一に整列され、高度に分化した筋線維を含む。バイオ人工筋肉(BAMs)のこのような形状と構造は、3次元構成で再現可能な細胞の空間分布を制御することによって実現できる。増殖中の細胞の空間分布は、特定の幾何学的制約を適用することによって作り上げられる。そのような誘導された空間分布は、細長い本体の所定のセクションの周りに作り上げられたバイオ人工筋肉(BAMs)の適切な組織多孔性、サイズ、および厚さを保証する。換言すれば、細長い本体の1つまたは複数の表面または点での固定化によるストレスファイバーの発達および一方向の細胞の整列を示す筋肉細胞の能力は、その周囲にバイオ人工筋肉(BAMs)の作製をもたらす。任意の選択で、培養後に形成される組織は筋線維の形態である。筋線維は、収縮することができる多核の単一筋細胞である。筋線維の収縮は、アクチンとミオシンの筋フィラメントで構成される筋原線維のネットワークに起因する。アクチンとミオシンの筋フィラメントは互いにすれ違って、筋肉細胞の張力を生じ、それによって体の部分の動きをもたらす。換言すれば、足場材料の架橋は、組織、またはこの場合、筋線維を生み出す。
【0072】
任意の選択で、バイオ人工筋肉(BAMs)の外側の境界から適用される特定の幾何学的制約により、組織領域全体にわたって高度に整列した細胞で構成される薄い筋肉の束またはリングが生成する。
【0073】
一実施形態で、細胞の分化は、培養中に生体材料のリングを電気パルス刺激に供することで加速されてもよい。分化プロセスの電気刺激は、移行中間体の生成を加速する。
【0074】
任意の選択で、適切な組織の多孔性は、比較的厚い筋肉のバイオ人工筋肉(BAMs)組織内の栄養素と酸素の輸送を促進する。継続的な栄養素と酸素の供給は、組織の内部細胞の壊死性コアの発達を回避する。このようなシナリオにおいて、バイオ人工筋肉(BAMs)は、標準的な肉と同じ外観、靭性、味を生み出すために、標準的な肉の均一に整列した構造を再現する。
【0075】
任意の選択で、本方法は、細長い本体の少なくとも一部のための容器を用意し、分化培地を容器に加え、細長い本体上の生体材料のリングを容器内の分化培地内に沈めて、生体材料のリングを分化培地中で培養し、細長い本体から分化培地を排出し、分化培地を補充し生体材料のリングを再び沈めることを含む。より任意の選択で、筋線維を除去し、装置を洗浄した後、同じ装置を再利用してもよい。
【0076】
任意の選択で、本方法は、少なくとも1つのトラフのそれぞれから細長い本体を除去することによって少なくとも1つの細長い本体を収集することを含み、細長い本体は、少なくとも1つの周方向の溝内に生体材料のリングを有する。少なくとも1つの周方向の溝内に生体材料のリングを有する細長い本体は、容器から取り出して収集し、他の場所で、好ましくはより大きな容器で培養してもよい。少なくとも1つの周方向の溝内に生体材料のリングを有する細長い本体をより大きな容器に移すことは、細長い本体が培養のためにより大きな容器内で互いに近くに配置され得るので、空間を解放することを可能にすることに留意されたい。一方、最初の容器(トラフ付きの解放された容器)は、培地を排出し、細胞と液体ヒドロゲルの混合物を使用し、洗浄し、再配置し、細胞からの組織の製造の次のサイクルに再利用してもよい。より任意の選択で、本方法は、少なくとも1つのトラフのそれぞれから細長い本体を除去することによって少なくとも1つの細長い本体を収集する前に培養の最初の部分を1~4日間行い、前述の収集後に培養のさらなる部分を行う必要がある場合がある。特に、そのような培養は、分化培地の存在下で生体材料のリング内の細胞の圧縮から組織のリングの形成を可能にする。
【0077】
別の実施形態では、少なくとも1つの周方向の溝内に組織のリングを有する少なくとも1つの細長い本体は、上記のように完全に培養した後、少なくとも1つのトラフのそれぞれから取り除くことによって収集してもよい。組織内の細胞の圧縮により、組織のリングが形成されることが理解されよう。組織の圧縮は、細胞外マトリックス(ECM)の細胞誘導による引き込みと、その結果としての水分子の押し出しによって達成される。
【0078】
任意の選択で、本方法は、細長い本体の端に隣接して充填するためにトラフの1つが整列するように、細長い本体を、緊密にフィットする関係によって、少なくとも1つのトラフの1つ以上を中央に延びるように位置決めすることをさらに含む。細長い本体の周方向の溝から組織のリングを取り外すと、細長い本体は洗浄され、細胞と液体ヒドロゲルのリフレッシュされた混合物からの組織の製造の次のサイクルのために再利用されてもよいことに留意されたい。これに関して、前述のように、洗浄された細長い本体は、細長い本体の端に隣接して充填するためにトラフの1つが整列するように、少なくとも1つのトラフのうちの1つ以上を貫通して中央に延びることによって位置決めされる。
【0079】
任意の選択で、本方法は、パイプを用いて細長い本体の端に隣接する整列したトラフに、細胞および液体ヒドロゲルを加えることをさらに含む。前述のように、セルと液体ヒドロゲルの混合物は、パイプによって細長い本体の端に隣接するトラフを整列させることによって、装置の少なくとも1つのトラフに追加または再充填してもよい。
【0080】
任意の選択で、本方法は、パイプおよび細長い本体を移動させ、充填のために少なくとも1つのトラフの別のものと位置合わせすることをさらに含む。前述のように、同心パイプと細長い本体は、細胞と液体ヒドロゲルの混合物を充填するために、位置合わせをして、少なくとも1つのトラフと垂直方向(下または上)に隣接する別のトラフに充填してもよい。
【0081】
任意の選択で、本方法は、少なくとも1つのトラフのそれぞれが満たされるまで、パイプによって細長い本体の端に隣接する整列したトラフに細胞および液体ヒドロゲルを加え、パイプおよび細長い本体を移動して、充填のために少なくとも1つのトラフの別のものと位置合わせすることをさらに含む。換言すれば、充填のために少なくとも1つのトラフの別のものと位置合わせすることによって、パイプと細長い本体の同心配置を移動させることにより、少なくとも1つ以上のトラフのそれぞれを再充填する。
【0082】
本方法はさらに、組織のリングを切断して、細長い本体から取り外すことを含む。前述の培養が終了すると、少なくとも1つの周方向の溝内の組織のリングは、組織のリングを切断して細長い本体から取り外すためのカッターに移される。任意の選択で、本方法は、組織のリングを切断して、細長い本体の少なくとも1つの周方向の溝からそれを取り外すことを必要とする。任意の選択で、切断は、細長い本体の長手方向の溝に沿って行われる。具体的には、カッターを使用して、細長い本体の周方向の溝から組織のリングを切断する。より具体的には、長手方向のシングルカットは、細長い本体の片側に刻まれた長手方向の溝に沿ってカッターを動かすことによって行うことができる。このようなシングルカットは、細長い本体から複数の組織のリングをきれいに取り除く。さらに、複数の組織のリングのそのようなきれいな除去は、細長い本体の周方向の溝の深さに相当する長手方向の溝の深さに起因する。有益なことに、細長い本体の長手方向の溝に沿って行われる切断は、製造された筋肉組織の品質と構造を維持することを確かなものにする。続いて、組織のリングを採取し、層状にして、所望の生成物であるバイオ人工筋肉を製造することができる。
【0083】
同時に、少なくとも1つの周方向の溝内に生体材料のリングを有する細長い本体をそれぞれの少なくとも1つのトラフから除去した後、少なくとも1つの周方向の溝の別のものがトラフの内側縁に向かって開くまで少なくとも1つの細長い本体を前進させることによって、容器が洗浄され、再配置され、再利用されてもよい。細長い本体は、各下側の周方向の溝が、トラフの内側縁に短時間開きながら、トラフの内側縁の上側に垂直方向に隣接するように注意深く装置に配置される。任意の選択で、本方法は、前述の前進の前に培養の最初の部分を1~4日間行い、その前進の後に培養のさらなる部分を行う必要がある場合がある。さらに、装置から細長い本体を取り除くと、細胞の成長、分化、およびリング形成の次のサイクルのためにトラフが解放される。
【0084】
続いて、任意の選択で、本方法は、足場生体材料を含む液体ヒドロゲルとの混合物中の細胞をトラフに移すことによって、トラフを最充填することを含む。前述のように、トラフは、最適な温度で、所定の期間、トラフの内側縁までの深さレベルで、細胞と液体ヒドロゲルの混合物で満たされてもよい。これは、横方向に結合されたトラフの別個に延びるように動作可能な、またはトラフを混合物で満たすようにトラフの外壁の穴のレベルで開きながらトラフを貫通して中央に延びるように動作可能なパイプを使用して達成することができる。
【0085】
続いて、本方法は、組織のリングを切断して、細長い本体の少なくとも1つの周方向の溝から取り外すことを含む。細長い本体は、そこから組織のリングを採取するために再び取り除かれる。
【0086】
一実施形態では、提供される装置は、連続ループの形態の細長い本体を有していてもよい。任意の選択で、上記の方法は、連続ループの形態の細長い本体を使用して自動化することができる。より任意の選択で、複数の周方向の溝および周方向の溝に相当する深さを有する長手方向の溝を有する細長い本体の連続ループは、所定の期間、連続ループ内の少なくとも1つのトラフを通過するように動作可能であってもよい。所定の期間は、最適な環境での細胞からの組織の製造のさまざまな段階に必要なそれぞれの期間に関連する。有益なことに、上記の方法の自動化は、トラフに生体材料を充填し、細長い本体から組織のリングを採取して切断するのに必要な反復労働を減らすことができる。
【0087】
一実施形態では、細長い本体は、筋肉組織の分岐した血管網を反映する1つ以上の周方向の溝のそれぞれの周りの組織のリングの内部細胞に栄養素を提供し、そこから廃代謝物をシャットアウトするために、周方向の溝の縁に開口するサイドポートを有する長手方向のチャネルを含むようにデザインされてもよい。細長い本体のそのような最適化は、形成された組織の最適な厚さを維持しながら、組織のリングの内部細胞の壊死性コアを防ぐのに有益であり得る。
【0088】
図面の詳細な説明
図1を参照すると、本開示の一実施形態による、細胞から組織を製造する装置100の斜視図が示されている。ここに示されるように、装置100は、溝104のような少なくとも1つの周方向の溝を有する細長い本体102を有する。装置100はまた、トラフ106(
図2によりよく示されている)のような少なくとも1つのトラフを有する。細長い本体102は、緊密にフィットする関係によって、少なくとも1つのトラフ、すなわちトラフ106を貫通して中央に延びるように動作可能である。さらに示されるように、トラフ106は閉じた経路状に延びる。例えば、示されるように、閉じた経路は円形であり、それにより、細長い本体102を囲む少なくとも1つの円形のトラフ(トラフ106など)を提供する。
【0089】
図2を参照すると、本開示の一実施形態による、
図1に示した装置100の断面図が示されている。
図2において、
図1の細長い本体102は、トラフ106を貫通して中央に延びることが示されていることが理解されよう。さらに、溝104のような周方向の溝の少なくとも1つは、トラフの内側縁に向かって開いている。例えば、示されるように、細長い本体102の溝104のそれぞれは、対応する(または隣接する)トラフ106の内側縁、そのような内側縁110に向かって開いている。さらに、少なくとも1つのトラフは、トラフの低部領域から内側縁まで延びる傾斜壁と、低部領域からトラフの外側縁まで延びる外壁とを有する。例えば、示されるように、トラフ106のそれぞれは、低部領域114から内側縁110まで延びる傾斜壁112を有する。さらに、トラフ106のそれぞれは、低部領域114からトラフ106の外側縁118まで延びる外壁116を有する。
【0090】
図3は、本開示の一実施形態による、
図1の装置100などの装置のトラフの斜視図が示されている。上記の
図1で説明したように、装置100は少なくとも1つのトラフを有し、具体的には、装置100はトラフ106のような複数のトラフを含む。本実施形態では、トラフ106は、外壁116のようなそれらの外壁の外側で、横方向に隣接するトラフと端に沿って結合されている。トラフ106は端に沿って結合されて、一体構成要素120として形成される。一体構成要素120は、上面122と下面124を含む。さらに、一体構成要素120は、貫通穴126のような、上面122と下面124との間を連通する少なくとも1つの貫通穴を有する。貫通穴126は、トラフ106の外壁116の外側に位置する。一体構成要素120(すなわちトラフ106)はまた、
図1の細長い本体102のような細長い本体を貫通して受け入れるように動作可能な、貫通穴130のような中央の穴を含むことが理解されよう。
【0091】
図4を参照すると、本開示の一実施形態による、
図3のトラフ106を積み重ねた斜視図が示されている。具体的には、
図3の複数の一体構成要素120は、積み重ねられた状態で示されている。さらに、トラフ106のような少なくとも1つのトラフは、隣接して積み重ねられたトラフ106間の距離を確保するために、スペーサー140のような垂直方向に延びるスペーサーが設けられている。さらに、一体構成要素120のような少なくとも1つのトラフの一体構成要素は、端に沿って結合されている。一体構成要素120は、
図3に示される上面122のような、一体構成要素120のトラフ106の各上面を、
図3に示される下面124のような、その上側に隣接する一体構成要素120のような一体構成要素のトラフ106の対応する下面に結合することにより、垂直方向に結合され、大きな一体構成要素150を形成する。
【0092】
図5を参照すると、本開示の別の実施形態による、複数のトラフ(一体構成要素120を形成するトラフ106など)を貫通して中央に延びるように動作可能な複数の細長い本体102を有する装置100のような装置の斜視図が示されている。
図5の装置100は、
図1の装置の複数のユニットを組み合わせることで形成されていることが理解されよう。例えば、大きな一体構成要素150(すなわち、積み重ねられた一体構成要素120)は、複数の細長い本体102を受け入れるように動作可能である。さらに、上記で述べたように、一体構成要素120はまた、細長い本体102を貫通して受け入れるように動作可能な中央の貫通穴130を含む。これにより、
図2に示すように、細長い本体102とトラフ106との間のスライド式の係合が可能になり、これらの間に緊密にフィットする関係が形成される。
【0093】
図6は、本開示の一実施形態による、装置(
図1の装置100など)の細長い本体102の斜視図を表す。ここに示されるように、一実施形態では、細長い本体102は柱状の形態である。例えば、細長い本体102は、周方向の溝104のような少なくとも1つの周方向の溝を含む。示されるように、周方向の溝104は、細長い本体102の長さに沿って均一に離間されており、周方向の溝104のそれぞれは、半円形状を有するようにデザインされている。細長い本体102はまた、少なくとも1つの周方向の溝104の深さを少なくとも有する長手方向の溝152を含む。一例では、長手方向の溝152は、細長い本体102の長さに沿って延びる長方形の切り込みである。細長い本体102はまた、挿入端部154および挿入端部154の反対側の末端部156を含む。
【0094】
図7は、本開示のさらに別の実施形態による、細胞から組織を製造する装置200の斜視図を表す。装置200は、
図5の装置100と実質的に同じである。例えば、装置200はまた、細長い本体202のような少なくとも1つの細長い本体、およびトラフ206のような少なくとも1つのトラフ(すなわち、大きな一体構成要素250を形成するように積み重ねられた一体構成要素220)を含む。細長い本体202は、一体構成要素220によって中央に受け取られるように示されている。示されるように、トラフ206は、閉じた経路状に延びている。本実施形態では、閉じた経路はスタジアム形状であり、それにより、細長い本体202を囲むスタジアムのトラックのような形状の少なくとも1つのトラフを形成する。
【0095】
装置200はさらに、パイプ260のような、閉鎖端262と、閉鎖端262の近くに、サイドポート264のような少なくとも1つのサイドポートとを有する少なくとも1つのパイプを有する。パイプ260は、一体構成要素220において、貫通穴226のような少なくとも1つの貫通穴を貫通して延びるように動作可能である。パイプ260は、細胞と液体ヒドロゲルの混合物をサイドポート264によってトラフ206に加えるために使用される。例えば、パイプ260は、トラフ206の貫通穴226によって受け入れられるように動作可能であり、サイドポート264をトラフ206と位置合わせし、それによって、細胞と液体ヒドロゲルの混合物がサイドポート264を通してトラフ206に加えられる。細胞と液体ヒドロゲルの混合物は、他の複数の技術を使用して装置のトラフに加えられてもよく、これについては後述の図とともに後で説明する。トラフ106は、トラフ106の内側縁(
図2に示される内側縁110など)の深さのレベルまで、細胞および液体ヒドロゲルの混合物で満たされ得ることが理解されるであろう。
【0096】
図8~
図11は、本開示の様々な実施形態による、装置100のような装置の、トラフ106などのトラフを充填するための様々な技術の概略図表す。
図8に示されるように、トラフ106などのトラフが積み重ねられ、トラフ106はパイプ300を使用して充填されてもよい。パイプ300は、閉鎖端302、閉鎖端302の反対側の開放端304、および閉鎖端302の近くのサイドポート306などの少なくとも1つのサイドポートを含む。パイプ300は、サイドポート306をトラフ106と位置合わせするために、トラフ106の中央貫通穴130のような貫通穴により受け入れられるように動作可能であり、それにより、細胞および液体ヒドロゲルがサイドポート306を通ってトラフ106に加えられる。パイプ300は、トラフ106を細胞と液体ヒドロゲルの混合物で充填するために、貫通穴130の上側または下側から受け入れられ得る。トラフ106は、垂直の上向きまたは下向きの方向に沿って順次充填され得ることが理解されよう。
【0097】
図9は、本開示の一実施形態による、装置100のような装置の細長い本体400の断面図を表す。細長い本体400は、装置100のトラフ106によって中央に受け入れられることが示されている。細長い本体400は、周方向の溝402のような少なくとも1つの周方向の溝を含む。細長い本体400は、長手方向の穴410と、長手方向の穴410に接続された少なくとも1つのサイドポート412とを含む。細長い本体400は、サイドポート412をトラフ106と位置合わせするために、中央貫通穴130のような貫通穴によって受け入れられるように動作可能であり、それにより、細胞と液体ヒドロゲルの混合物が、細長い本体400のサイドポート412を通ってトラフ106に加えられる。さらに、トラフ106は最初に積み重ねられ、その後、順次充填されてもよい。
【0098】
ここで
図10を参照すると、本開示の一実施形態による、装置100として、トラフ106のようなトラフを充填するために使用されるピペット500の概略図が示されている。トラフ106は、ピペット500を使用して、細胞と液体ヒドロゲルの混合物で満たされてもよいことが理解されるであろう。さらに、トラフ106は、順次充填され、その後積み重ねられてもよい。
【0099】
ここで
図11を参照すると、本開示の一実施形態による、装置100のような装置のトラフ106などのトラフを充填するために使用される容器600の概略図が示されている。トラフ106を、混合物602で満たされた容器600内に沈めることによって、トラフ106が、細胞と液体ヒドロゲルの混合物602で満たされてもよいことが理解されよう。
【0100】
図12~
図17は、本開示の一実施形態による、細胞から組織を製造する方法の工程の概略図を表す。本方法は、細胞から組織を製造するために、装置100または200のような装置を使用する。したがって、
図12に示すように、この方法では最初に、装置100のような装置が用意される。さらに、
図12に示されるように、細胞と液体ヒドロゲルとの混合物702が、装置100のトラフ106のような少なくとも1つのトラフに加えられる。ここで
図13を参照すると、細胞と液体ヒドロゲルの混合物702で満たされたトラフ106を備えた装置100が示されている。しかし、
図13に示されるように、細胞と液体ヒドロゲルとの混合物702は、液体ヒドロゲル中に存在する足場生体材料の架橋により固化する。一例では、細胞と液体ヒドロゲルの混合物702の固化は1時間で起こる。さらに、
図14には、細胞と液体ヒドロゲルの固化混合物702で満たされたトラフ106を備え、分化培地706で満たされた容器704内に沈められた装置100が示されている。この方法において、装置は、容器を分化培地で満たす前に、容器内に降ろされてもよい。細胞と液体ヒドロゲルの固化混合物702は、移行中間体の1つの段階である。ここで
図15を参照すると、細胞および液体ヒドロゲルの固化混合物702(
図14に示される)からの移行中間体708の移動が示されている。トラフ106から柱の周方向の溝への移行中間体708の移動は2~3日で起こる。さらに、移行中間体708は、細胞によって引き起こされる圧縮のために、すなわち足場生体材料の架橋後に、トラフ106から周方向の溝104に移動することが示されている。ここで
図16を参照すると、組織を形成するための移行中間体708(
図15に示される)の培養が示されている。
図16に示すように。
図15の移行中間体708は分化培地706中で培養され、周方向の溝104内のリングに含まれる組織710を形成することが示されている。一例では、組織710の(リング形態への)培養は2~4週間で起こり得る。ここで
図17を参照すると、組織710のリングを切断して、細長い本体102の周方向の溝104から取り外す様子が示されている。ここに示されるように、切断は、刃物またはウォーターカッターなどのカッター712を使用して行うことができる。さらに、切断は、細長い本体102の長手方向の溝152に沿って行われる。
【0101】
図18は、本開示の一実施形態による、細胞から組織に移行する移行中間体を介して、細胞から組織を製造する方法800の工程を示すブロック図を表す。方法800は、
図1~
図17に関連して示され説明された装置100、200のうちの1つのような装置を使用して実施されることが理解されよう。
【0102】
工程802では、前述の説明による、すなわち、
図1~
図17に関連して示され説明された装置が用意される。工程804では、細胞、および足場生体材料を含む液体ヒドロゲルが、装置の少なくとも1つのトラフに加えられる。工程806では、足場生体材料が架橋される。工程808では、分化培地が移行中間体に適用される。工程810では、移行中間体が分化培地中で培養されて、少なくとも1つの周方向の溝内のリングに含まれる組織を形成する。
【0103】
工程802から工程810は例示に過ぎず、特許請求の範囲から逸脱することなく、1つ以上の工程が追加されたり、1つ以上の工程が除去されたり、または1つ以上の工程が異なる順序で行われるなど、他の代替案も提供され得る。例えば、方法800において、細胞は、少なくとも1つのトラフに加えられる前に、ヒドロゲルに加えられる。任意の選択で、方法800において、分化培地は、培養期間の少なくとも一部の後に活性化される。方法800は、それぞれの少なくとも1つのトラフから細長い本体を除去することによって少なくとも1つの細長い本体を収集することを含んでいてもよく、前記細長い本体は、少なくとも1つの周方向の溝内に生体材料のリングを有する。さらに、方法800は、組織のリングを切断してそれを細長い本体から取り外すことをさらに含む。任意の選択で、方法800はさらに、細長い本体の端に隣接して充填するためにトラフの1つが位置合わせされるように、緊密にフィットする関係によって、少なくとも1つのトラフの1つ以上を中央に延びるように細長い本体を位置決めすること;パイプを使用して、細長い本体の端に隣接する位置合わせされたトラフに細胞と液体ヒドロゲルを加えること;パイプと細長い本体を動かして、充填のために少なくとも1つのトラフの別のものと位置合わせすること;少なくとも1つのトラフのそれぞれが満たされるまで、繰り返し、細胞と液体ヒドロゲルをトラフに加え、パイプと細長い本体を移動させることを繰り返すことをさらに含む。
【0104】
前述の本開示の実施形態の変更は、添付の特許請求の範囲によって定義される本開示の範囲から逸脱することなく可能である。本開示を説明およびクレームするのに使用される「including(含む)」、「comprising(有する)」、「incorporating(組み込む)」、「have(有する)」、「is(である)」などの表現は、非排他的に解釈されることを意図し、すなわち、明示的に記載されていないアイテム、成分または要素も存在し得る。単数形への言及も、複数形に関連していると解釈されるべきである。