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特許7240039水中構造物用被覆材、水中構造物及び被覆材付水中構造物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-07
(45)【発行日】2023-03-15
(54)【発明の名称】水中構造物用被覆材、水中構造物及び被覆材付水中構造物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A01K 61/77 20170101AFI20230308BHJP
【FI】
A01K61/77
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022015825
(22)【出願日】2022-02-03
【審査請求日】2022-05-27
(73)【特許権者】
【識別番号】519021233
【氏名又は名称】株式会社朝日テック
(74)【代理人】
【識別番号】100172225
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 宏行
(72)【発明者】
【氏名】池田 修
【審査官】小笠原 かれん
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-50513(JP,A)
【文献】特開2006-81457(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 61/00-61/95
A01G 33/00
E02B 3/04-3/14
C02F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも硫酸第一鉄とフルボ酸を反応させることで生成されたフルボ酸鉄(2価)を含み、
少なくとも一部が水中に設置される水中構造物の外面に被覆されることを特徴とする水中構造物用被覆材。
【請求項2】
前記水中構造物用被覆材は、前記水中構造物の外面に吹きかけられて塗布される、
請求項1に記載の水中構造物用被覆材。
【請求項3】
本体部と、
前記本体部の外面に設けられ、硫酸第一鉄、フルボ酸を反応させることで生成されたフルボ酸鉄(2価)を含む被覆材と、を備える水中構造物。
【請求項4】
前記被覆材の厚みは、3~10mmである、請求項3に記載の水中構造物。
【請求項5】
少なくとも一部が水中に設置されるための水中構造物を形成し、
前記水中構造物の外面に少なくとも硫酸第一鉄とフルボ酸を反応させることで生成されたフルボ酸鉄(2価)を含む被覆材を被覆することを特徴とする被覆材付水中構造物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくともその一部を水中に設置する水中構造物に関わる水中構造物用被覆材、水中構造物及び被覆材付水中構造物の製造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、沿岸部などでは、藻などの海藻が減少して磯焼けが進行している。それは、従前であれば森林の腐の植土壌中で生成するフルボ酸鉄が河川から流れ込んでいたが、近年はその量が減ってしまっているので、海藻に必要な栄養分が足らなくなってしまったからである。特許文献1には、二価鉄含有物質と腐植含有物質を存在させ、水中に沈設した状態でフルボ酸鉄が溶出するような水域環境保全材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-81457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、水中には消波ブロック、防波堤などの水中構造物が存在し、その水中構造物の成分の中にはコンクリートがよく使用される。コンクリートの中に含まれる水酸化カルシウムが水中のフルボ酸鉄と反応して、フルボ酸鉄が海藻の成長に寄与しない3価の状態になってしまう。その結果、水中に水中構造物が剥き出しで存在する限り、特許文献1のような水域環境保全材料を使っても磯焼けの進行を抑えることが難しい。
【0005】
そこで本発明は、コンクリートなどを含むような水中構造物を利用しても海藻への栄養分をより長期的に供給することのできる水中構造物用被覆材及び被覆材に覆われた水中構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の水中構造物用被覆材は、少なくとも硫酸第一鉄とフルボ酸を反応させることで生成されたフルボ酸鉄(2価)を含み、少なくとも一部が水中に設置される水中構造物の外面に被覆される。
【0007】
本発明の水中構造物は、本体部と、前記本体部の外面に設けられ、硫酸第一鉄、フルボ酸を反応させることで生成されたフルボ酸鉄(2価)を含む被覆材と、を備える。
【0008】
本発明の被覆材付水中構造物の製造方法は、少なくとも一部が水中に設置されるための水中構造物を形成し、前記水中構造物の外面に少なくとも硫酸第一鉄とフルボ酸を反応させることで生成されたフルボ酸鉄(2価)を含む被覆材を被覆することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、水中構造物を利用しても海藻への栄養分をより長期的に供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施の形態の人工礁の斜視図
図2】本発明の一実施の形態の人工礁の断面図
図3】本発明の一実施の形態の人工礁の製造工程の説明図
図4】本発明の一実施の形態の人工礁の機能の説明図
図5】本発明の一実施の形態の岸壁および消波ブロックの説明図
図6】本発明の一実施の形態の岸壁および消波ブロックの側面図
図7】本発明の一実施の形態の岸壁の断面図
図8】本発明の一実施の形態の消波ブロックの説明図及び断面図
図9】本発明の一実施の形態の防波堤および消波ブロックの側面図
図10】本発明の一実施の形態の防波堤の断面図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に図面を用いて、本発明の一実施の形態を詳細に説明する。以下で述べる構成、形状、成分等は説明のための例示であって、水中構造物、被覆材、水中施肥材の仕様に応じ、適宜変更が可能である。以下では、全ての図面において対応する要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0012】
まず図1図2を参照して、水中構造物の一例として人工礁1の構成について説明する。なお水中構造物としては、そのほかに、図5~10に示されるような消波ブロックや防波堤、岸壁や橋の一部など少なくともその外面の一部が水中に配置、設置されるケーソンなどであり、一般的にコンクリート又は鋼などを含んで製造される。
【0013】
人工礁1は、内部に内部空洞2aが形成された略球状の本体部2と、本体部2に形成された保持部4に充填して水中に設置される施肥材(以下、「水中施肥材3」と称する。)を含んで形成されている。本体部2の上部2bには、内部空洞2aまで貫通する上部開口5が少なくとも1つ形成されている。また、本体部2の側部2cには、内部空洞2aまで貫通する複数の側部開口6が形成されている。人工礁1は、本体部2の底部2dが海底に接地するように設置される。なお、本体部2の形状は、海底に安定して設置できる形状であればよく、岩を模した不規則な形状であってもよい。
【0014】
図2において、本体部2は、内部空洞2a側の基部7と、基部7の外側に形成された外殻部8を含んで形成されている。基部7は、セメント、砂利、砂、珪藻土、減水剤などを含み、ち密なコンクリートで形成されている。これにより、基部7は、海水中でも長時間強度を維持することができる。外殻部8は、セメント、砂利、砂、珪藻土、減水剤などを含み、多数の凹凸形状や細孔が形成されている。本体部2の上部2b、側部2c、底部2d、内部2e(内部空洞2aを形成する基部7の面)を含む本体部2の外面は、フルボ酸鉄(2価鉄状態)を含む被覆材9を塗布などによって被覆している。フルボ酸鉄(2価鉄状態)については、後述する。このように、本体部2は、コンクリートを含んで形成されており、本体部2の少なくとも外面(上部2b、側部2c)は、多数の凹凸形状や細孔を有している。本体部2の外面に多数の凹凸形状や細孔を有することで、人工礁1の外面に海藻などが容易に付着して成長することができる。なお、本体部2の外面の凹凸形状や細孔は、付着して生育する海藻の種類に応じて、自在に設計される。
【0015】
図2において、保持部4は、本体部2の外面(側部2c)から外殻部8、基部7を貫いて内部空洞2aまで貫通して形成されている。保持部4には、水中施肥材3が充填されている。水中施肥材3は、セメント、砂、砂利、シリコン、珪藻土、粒状(例えば、直径3mm~5mm)の石材などのうちから少なくとも一つとフルボ酸鉄(2価鉄状態)を含んで構成されている。水中施肥材3が含む石材としては、マグネシウム、バリウム、ストロンチウム、ルビジウムなどの元素を含むものが望ましい。水中施肥材3の水素イオン指数(pH)は8未満であり、7.7~7.9が最も望ましい。水中施肥材3は、セメントにより保持部4の内部や本体部2の外面に固形の状態で付着させることができる。また、水中施肥材3は、海藻などの育成に必要な成分であるミネラル等をその内部から少量ずつ長時間にわたって供給することができる。さらに、水中施肥材3を保持部4に充填することで、ミネラル等を適度に安定的に供給することができる。
【0016】
なお、水中施肥材3は、内部空洞2aと本体部2の外面の少なくともいずれかに露出していればよい。また、水中施肥材3は、必ずしも保持部4に完全に充填させる必要はなく、保持部4の内壁の一部に詰められている状態でもよい。さらに、本体部2の外面(上部2b、側部2c)に溝を形成し、その溝に水中施肥材3を付着させる構成であってもよい。このように、人工礁1は、本体部2と、本体部2の少なくとも一部に付着させる、セメント、硫化鉄、シリコンを含む水中施肥材3と、を含んでいるとよい。
【0017】
図1図2において、人工礁1のサイズは、高さが20cmから2m程度であり、設置する場所、育成対象の海藻や魚などの種類に応じて、適宜変更される。例えば、高さが70cmの人工礁1では、本体部2の厚さは基部7と外殻部8を合わせて15cm、重量が170kgである。また、上部開口5は直径30cm、側部開口は直径15cmから25cm、保持部4は直径10cmから15cmである。上部開口5や側部開口6は、人工礁1を設置する位置に生息する魚が自由に外部と内部空洞2aを往来できる大きさが望ましい。また、重量(本体部2の厚さ)は、台風などの大波で人工礁1が移動しない重さが望ましい。
【0018】
次に図3を参照して、人工礁1の製造工程について説明する。まず、型枠に基部7となる所定の材料を含む生コンクリート(固まっていないコンクリート)を流し込んで、基部7を作成する(図3(a))。型枠には、予め内部空洞2a、上部開口5、側部開口6となる形状が形成されている。次に、基部7の外面部分を加工して、多数の凹凸形状や細孔を有する外殻部8を形成する(図3(b))。なお、外殻部8は、基部7の外面に追加で塗布した生コンクリートを加工して形成してもよい。
【0019】
次に、本体部2の側部2cに内部空洞2aまで貫通する保持部4を形成する(図3(c))。保持部4となる穴は、コアドリルなどで形成する。なお、保持部4は、必ずしも内部空洞2aまで貫通した形状である必要はなく、本体部2の表面(上部2b、側部2c、底部2d、内部2e)に形成した凹部であっても、溝であってもよい。また、保持部4の位置、数は、適宜設計可能である。また、保持部4を本体部2の上部2bに形成してもよい。また、保持部4は、上部開口5、側部開口6と同様に、基部7の作成時に形成してもよい。
【0020】
次に、本体部2に形成された保持部4、上部開口5、側部開口6の内壁を含む本体部2の外面(上部2b、側部2c、底部2d、内部2e)全てに、被覆材9を塗布する(図3(d))。被覆材9は塗布によって被覆されることに限らず、本体部2を覆っていれば良い。被覆材9は後述するが硫化鉄を含み、エアガンなどで本体部2に塗布しても、容器(槽)に貯めた硫化鉄を含む液剤に本体部2を浸して塗布してもよい。本体部2(外殻部8)の外面に塗布された硫化鉄はコンクリートに浸入して、硫化鉄含有層を形成するので、水酸化カルシウムの水中への流出を防ぐことができる。
【0021】
次に、水中施肥材3となる所定の材料に水を加えてペースト状にする。次に、ペースト状のものを保持部4などに充填、付着させて、所定の形状に形成する(図4(e))。その後、乾燥させることで、固形の水中施肥材3となる。このように、本実施の形態の水中施肥材3は、水を加えてペースト状にして、所定の箇所に充填、付着させることで、多様な形状を容易に作成することができる。また、乾燥後は固形となって、包含するミネラル等を水中に少量ずつ長時間にわたって供給することができる。
【0022】
次に図4を参照して、人工礁1の機能について説明する。図4は、海底10に設置した人工礁1を示している。人工礁1の保持部4に充填されている水中施肥材3からは、人工礁1の外(矢印a)と内部空洞2a(矢印b)の海水11にミネラルが供給される。人工礁1の側部開口6A、側部開口6Bから内部空洞2aに流れ込む水流は(矢印c)、内部空洞2aの内部を流れ(矢印d)、上部開口5から人工礁1の外部に流出する(矢印e)。これにより、水中施肥材3から内部空洞2aに供給されたミネラルが人工礁1の遠方まで供給される。
【0023】
このように、内部空洞2aは、本体部2の内部に形成され、本体部2の外と上部開口5、側部開口6A、6Bを通じて連通している。また、保持部4は、複数の側部開口6A、6Bのいずれかより上方の位置に配置するのが望ましい。これにより、保持部4に充填されている水中施肥材3から内部空洞2aに浸出したミネラルを、効率的に上部開口5から外部に供給することができる。
【0024】
また、側部開口6A、6Bと上部開口5は、台風などで発生し、人工礁1の側部2cに押し寄せる大波を、側部開口6A、6Bから上部開口5に流出させることにより、人工礁1を横方向に移動させる力を分散させることができる。これにより、砂地や砂礫地に設置した人工礁1が設置場所から移動したり、転倒したり、砂に埋没することを防止して、安定した状態を維持することができる。さらに、保持部4に水中施肥材3を付着させることで、大波によって水中施肥材3が散失することも防止することができる。
【0025】
このように水中施肥材3から供給されるミネラル等などの成分により、人工礁1の外面(上部2b、側部2c)や人工礁1の周辺の海底10に海藻などが生育する。すなわち、水中施肥材3が付着された人工礁1は、水中に海藻やサンゴの育成に必要なミネラル等を供給する水中施肥構造体である。なお、水中構造体は、人工礁1の他、水中または海岸や河岸に設置する消波ブロックなどであってもよい。
【0026】
ここで、水中構造体が人工礁1以外である例について説明する。図5から図8を参照して、水中構造体が岸壁12及び(または)消波ブロック13の場合を説明し、図9、10を参照して、水中構造体が防波堤14及び(または)消波ブロック13の場合を説明する。
【0027】
図5、6に示される通り、水中構造体である岸壁12と消波ブロック13は、少なくともその一部が水中内に設置されている。図7の通り、岸壁12は海岸に被さるように構成されるので、陸地と海岸の境目の一部に本体部2が設置される。従って、岸壁12の少なくとも本体部2が海水と接する部分の外面に被覆材9を被覆している。もちろん、被覆材9を岸壁12の外面全体に被覆しても良い。また、岸壁12が海水と接する外面の一部に保持部4を設けるなどして、水中施肥材3を一つまたは複数配置することができる。また、岸壁12の本体部2と海底10との間にも、被覆材9を被覆しても良い。
【0028】
また、図8(a)は消波ブロック13であり、図8(b)は図8(a)のA方向から見た消波ブロック13の略断面図である。図8(b)の通り、消波ブロック13の本体部2の外面には、少なくとも海水と接する部分に被覆材9が被覆されており、外面全体に被覆されてもよい。消波ブロック13が海水と接する外面の一部に保持部4を設けるなどして、水中施肥材3を一つまたは複数配置することができる。
【0029】
また、水中構造体が防波堤14の場合、図9に示される通り、水中構造体である防波堤14と消波ブロック13は、少なくともその一部が水中内に設置されている。防波堤14は海岸から離れたところに設置されるため、海底10の上に最下部に基礎石材14cを設け、基礎石材14cの上にケーソン14bを設置し、上部にコンクリート14aが設置される。被覆材9は、少なくとも、ケーソン14bと基礎石材14cの外面の海水に接する部分に被覆されるが、その外面全体に被覆されてもよい。もちろん、コンクリート14aの外面も少なくとも一部に被覆材9を被覆しても良い。防波堤14が海水と接する例えばケーソン14bの外面の一部に保持部4を設けるなどして、水中施肥材3を一つまたは複数配置することができる。
【0030】
次に、被覆材9及び水中施肥材3に含まれるフルボ酸鉄(2価鉄状態)について説明する。先述したとおり、沿岸部などでは、海藻が減少して磯焼けが進行している。従前であれば、森林の腐の植土壌中で生成するフルボ酸鉄が河川から流れ込んでいたが、近年はその量が減ってしまっている。そこで、海水中にフルボ酸を供給したいものの、通常の2価のフルボ酸鉄(2価の鉄イオン)は水中の酸素によって酸化され易く、3価のフルボ酸鉄(3価の鉄イオン)に変化して即座に粒状鉄として沈降してしまい、生物が摂取することができなくなってしまう。
【0031】
さらに、2価のフルボ酸鉄(2価の鉄イオン)はコンクリート内に含まれる水酸化カルシウムとも反応し、3価のフルボ酸鉄(3価の鉄イオン)になってしまう。この場合、水中構造物によく使われるコンクリート内の水酸化カルシウムも溶け出してしまうので、コンクリートの耐久性を劣化させることにもなる。このように、そもそも水中にコンクリートが剥き出して設置することは、水中内の2価のフルボ酸鉄(2価の鉄イオン)を3価のフルボ酸鉄(3価の鉄イオン)に変化させてしまい磯焼けを促進するとともに、コンクリートの劣化を促すので、海中環境のために好ましくない。
【0032】
従って、本発明では、水中でも2価状態をより長期間維持できるフルボ酸を含む被覆材9及び水中施肥材3と、コンクリートの劣化を防ぐ構造を提供する。
【0033】
まず、ここで、水中でも2価状態を維持できるフルボ酸について説明する。フルボ酸鉄(2価鉄状態)は、好ましくはPh4以下の硫酸第一鉄とフルボ酸をそれぞれ真水で溶かし、それらを混ぜ合わせるなどして製造される。すなわち、常に酸性状態でフルボ酸鉄に変化させると良い。Ph4以下の硫酸第一鉄を使用することで、フルボ酸鉄が水・海水に触れても長期間3価鉄に変化しにくくなる。重量として、硫酸第一鉄に対して少なくとも0.001~0.1%のフルボ酸を配合することが好ましい。
【0034】
被覆材9は、上記の方法で硫酸第一鉄とフルボ酸を真水で溶かすことにより製造されたフルボ酸鉄(2価鉄状態)を本体部2全体に吹き付けるなどして被覆(塗布でも良い)する。人工礁1以外の水中構造体(例えば消波ブロック、防波堤、岸壁など)である場合も、水中構造体の少なくとも水に触れる外面部分に被覆する。もちろん、外面全体に被覆してもよい。
【0035】
このように水中構造体の外面の外面処理として外面全体に被覆材9を被覆することによって硫化鉄含有層を形成するので、水中構造体に含まれるコンクリート内の水酸化カルシウムが水中に溶け出すことが抑えられ、水中構造体の強度が下がることを抑制できる。また、コンクリート内の水酸化カルシウムによってフルボ酸鉄が酸化されることも防げるので、2価鉄状態のフルボ酸鉄を長期的に水中に供給することができる。
【0036】
なお、被覆材9の役割は、その成分の一部であるフルボ酸鉄を水中に供給することで海藻の生育を促す。それと同時に、長期的に水中構造物の外面を被覆し続けることで、水中構造物に含まれるコンクリートの水酸化カルシウムが水中に流出することも防ぐ。従って、被覆材9は、水中に溶け出す役割と、水中構造物の外面に残り続ける役割とがある。従って、この2つの役割を長期的に果たし続けるために、最低でも3mmの厚さが必要であり、好ましくは5mm~10mm程度とする。ただし、本体部2の外面は凹凸がある場合、その被覆材9の厚さは凹凸形状によって変わる。
【0037】
また、水中施肥材3は、適量のセメント、砂、小砂利、マイクロシリカ、天鉱石、岩塩等を海水で混ぜ、その混合物の中に好ましくはPh4以下の硫酸第一鉄とフルボ酸それぞれを真水に溶かし、それらを合わせて反応させて生成したフルボ酸鉄(2価鉄状態)を混ぜることで製造されることができる。水中施肥材3の製造時だけでなく、被覆材9の製造時にも天鉱石や岩塩等を加えてもよい。こうすることで水中施肥材3を用いない場合でも被覆材9から天鉱石や岩塩等からなる栄養塩が水中に溶け出し、海藻の生育を促す。
【0038】
なお、本体部2の外面(上部2b、側部2c、底部2d、内部2e)に硫化鉄等を含む被覆材9を形成することで、人工礁1が海水と接する外面付近の水素イオン指数(pH)を海藻の成長に適する環境となるように調整することができる。例えば、人工礁1が海水と接する外面付近の水素イオン指数(pH)は、海水と同程度の7.8~8.4が望ましい。
【0039】
なお、これまでの説明では、主に海水中に設置される水中構造体について説明したが、大雨災害で川の氾濫により、川の護岸工事等で川底、川岸がコンクリートで固められ流など水中構造体を利用することが増えている。そのような川など海以外の水中に設置された水中構造体についても、氾濫などにより海に影響を及ぼす可能性があるため、本願発明を適用するとよい。
【産業上の利用可能性】
【0040】
安定して海藻などの育成に必要な成分を供給するための水中構造物用被覆材及び被覆材に覆われた水中構造物を提供する。
【符号の説明】
【0041】
1 人工礁(水中施肥構造体)
2 本体部
2a 内部空洞
2b 上部(外面)
2c 側部(外面)
3 水中施肥材
4 保持部
5 上部開口
6、6A、6B 側部開口

【要約】
【課題】水中構造物を利用しても海藻への栄養分をより長期的に供給することができる水中構造物用被覆材を提供することを目的とする。
【解決手段】水中構造物用被覆材は、少なくとも硫酸第一鉄とフルボ酸を反応させることで生成されたフルボ酸鉄(2価)を含み、少なくとも一部が水中に設置される水中構造物(例えば人工礁1)の外面に被覆される。これにより、水中構造物を利用しても海藻への栄養分をより長期的に供給することができる。
【選択図】図1

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10