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特許7240067接着性樹脂組成物、シート、蓋材、密封容器用部材セット及び容器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-07
(45)【発行日】2023-03-15
(54)【発明の名称】接着性樹脂組成物、シート、蓋材、密封容器用部材セット及び容器
(51)【国際特許分類】
   C09J 131/04 20060101AFI20230308BHJP
   C09J 123/04 20060101ALI20230308BHJP
   C09J 11/08 20060101ALI20230308BHJP
   C09J 7/35 20180101ALI20230308BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20230308BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20230308BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20230308BHJP
【FI】
C09J131/04
C09J123/04
C09J11/08
C09J7/35
B32B27/00 H
B32B27/00 M
B32B27/32
B65D65/40 D
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019119558
(22)【出願日】2019-06-27
(65)【公開番号】P2021004327
(43)【公開日】2021-01-14
【審査請求日】2022-04-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】711004506
【氏名又は名称】トーヨーケム株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山田 智紀
(72)【発明者】
【氏名】赤木 太亮
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-076398(JP,A)
【文献】特開2019-044058(JP,A)
【文献】特開2018-150444(JP,A)
【文献】特開2016-186059(JP,A)
【文献】特開2014-051631(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0064337(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
B32B 27/00、27/32
B65D 65/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
密度が0.88~0.93g/cmのエチレン-αオレフィン共重合体(A)10~25質量%、酢酸ビニル含有率が5%以上18%未満のエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)20~45質量%、酢酸ビニル含有率が18%以上30%未満のエチレン-酢酸ビニル共重合体(C)10~35質量%、粘着付与樹脂(D)25~35質量%を含有する、接着性樹脂組成物。
【請求項2】
前記エチレン-αオレフィン共重合体(A)の示差走査型熱量計により測定した融点が100~120℃である、請求項1に記載の接着性樹脂組成物。
【請求項3】
前記酢酸ビニル含有率が5%以上18%未満のエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)の示差走査型熱量計により測定した融点が80~100℃である、請求項1又は2に記載の接着性樹脂組成物。
【請求項4】
前記酢酸ビニル含有率が18%以上30%未満のエチレン-酢酸ビニル共重合体(C)の示差走査型熱量計により測定した融点が60~90℃である、請求項1~3いずれか1項に記載の接着性樹脂組成物。
【請求項5】
前記粘着付与樹脂(D)が脂環族炭化水素樹脂を含む、請求項1~4いずれか1項に記載の接着性樹脂組成物。
【請求項6】
接着性樹脂組成物のメルトフローレートが10~25g/10分である、請求項1~5いずれか1項に記載の接着性樹脂組成物。
【請求項7】
基材上に、請求項1~いずれか1項に記載の接着性樹脂組成物の膜が積層されたシート。
【請求項8】
請求項に記載のシートにより形成された蓋材。
【請求項9】
ポリエステル系樹脂製の容器本体又は内面がポリエステル系樹脂で覆われた容器本体と、請求項に記載の蓋材とからなる、開封可能な密封容器用部材セット。
【請求項10】
ポリエステル系樹脂製の容器本体又は内面がポリエステル系樹脂で覆われた容器本体の開口部が、請求項に記載の蓋材により密封された、開封可能な容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、開封時に界面剥離することで易開封性を示し、耐容器付着性と成膜性に優れる接着性樹脂組成物、該接着性樹脂組成物を用いたシート、蓋材、密封容器用部材セット及び容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
食品包装の分野では、これまで、カップラーメンやヨーグルト、ゼリー等の内容物をポリエチレン系樹脂で被覆された紙容器に充填し、該容器の開口部にシール性の優れたヒートシール層を有する蓋材を接着する包装形態が盛んに利用されてきた。
【0003】
しかし近年では、強度、透明性、耐熱性等の物理的性質が優れているという理由から、ポリエステル系樹脂、特にポリエチレンテレフタレート(以下、PETという)系樹脂からなる容器の利用が増大している。
【0004】
従来、主にポリエチレン系樹脂で被覆された紙容器を対象とした易開封性接着剤として、例えば、8~49質量%の少なくとも500,000の平均分子量を有する1-ブテンのホモポリマー又は共重合体、及び92~51質量%の930kg/m3又はこれ以下の密度を有する変性又は非変性低密度ポリエチレンを含む組成物が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
また、メルトインデックスが0.1~100である熱可塑性樹脂Aと、この熱可塑性樹脂Aに非相溶系又は部分相溶系の熱可塑性樹脂Bであって、メルトインデックスが前記熱可塑性樹脂Aと特定の関係にある熱可塑性樹脂Bとを特定の割合で含有する組成物が提案されている(特許文献2参照)。
【0006】
さらに他の例として、エチレン重合体及びエチレン・酢酸ビニル共重合体の少なくとも一方の樹脂Aと、前記樹脂Aに非相溶の樹脂Bと、粘着付与樹脂を含有し、引張破断強度が2MPa以上15MPa以下であり、引張伸び強度が50%以上500%以下である組成物が提案されている(特許文献3参照)。
【0007】
【文献】特開平1-315443号公報
【文献】特開2000-302990号公報
【文献】特開2016-148003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1~3で提案されている組成物は、相溶性の異なる2種類の樹脂を用いることにより開封時に凝集破壊することが特徴である。これにより、内容物をしっかり密封することができる。しかし一方で、容器のフランジにおいて樹脂残りや糸曳きが発生するため、外観不良だけでなく、容器に口をつけて食べる際に誤飲する可能性がある。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、特に被着体がポリエステル系容器に対し、常温・冷凍下においても、容器のフランジにおいて樹脂残りや糸曳きが発生せず耐容器付着性に優れ、良好な易開封性を示し、且つ、塗工時の成膜性に優れる接着性樹脂組成物、該組成物を用いたシート、蓋材、密封容器用部材セット及び容器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、密度が0.88~0.93g/cmのエチレン-αオレフィン共重合体(A)、酢酸ビニル含有率が5%以上18%未満のエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)、酢酸ビニル含有率が18%以上30%未満のエチレン-酢酸ビニル共重合体(C)、及び粘着付与樹脂(D)を特定範囲の比率で含有することで上記課題を解決することを見出した。
特酢酸ビニル含有率が5%以上18%未満のエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)は、PETへの密着性を付与する密度が0.88~0.93g/cmのエチレン-αオレフィン共重合体(A)と、冷凍下において接着強度を発現する酢酸ビニル含有率が18%以上30%未満のエチレン-酢酸ビニル共重合体(C)との相溶化剤として働き、成膜性を向上させる効果を有する。
上記により、特に被着体がポリエステル系容器に対し、常温・冷凍下において易開封性と耐容器付着性に優れ、また、塗工時の成膜性に優れた接着性樹脂組成物、及びその接着性樹脂組成物の被膜が積層されたシートを提供することが可能となる。
すなわち本発明は下記〔1〕~〔11〕の発明に関する。
【0011】
〔1〕 密度が0.88~0.93g/cmのエチレン-αオレフィン共重合体(A)10~25質量%、酢酸ビニル含有率が5%以上18%未満のエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)20~45質量%、酢酸ビニル含有率が18%以上30%未満のエチレン-酢酸ビニル共重合体(C)10~35質量%、粘着付与樹脂(D)25~35質量%を含有する、接着性樹脂組成物。
【0012】
〔2〕 前記エチレン-αオレフィン共重合体(A)の示差走査型熱量計により測定した融点が100~120℃である、〔1〕に記載の接着性樹脂組成物。
【0013】
〔3〕 前記酢酸ビニル含有率が5%以上18%未満のエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)の示差走査型熱量計により測定した融点が80~100℃である、〔1〕又は〔2〕に記載の接着性樹脂組成物。
【0014】
〔4〕 前記酢酸ビニル含有率が18%以上30%未満のエチレン-酢酸ビニル共重合体(C)の示差走査型熱量計により測定した融点が60~90℃である、〔1〕~〔3〕いずれか1項に記載の接着性樹脂組成物。
【0015】
〔5〕 前記粘着付与樹脂(D)が脂環族炭化水素樹脂を含む、〔1〕~〔4〕いずれか1項に記載の接着性樹脂組成物。
【0016】
〔6〕 接着性樹脂組成物のメルトフローレートが10~25g/10分である、〔1〕~〔5〕いずれか1項に記載の接着性樹脂組成物。
【0017】
〔7〕 酢酸ビニル含有量が5%以上18%未満のエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)及び酢酸ビニル含有量が18%以上30%未満のエチレン-酢酸ビニル共重合体(C)の合計に対する酢酸ビニル含有量が、8%以上9.5%未満である、〔1〕~〔6〕いずれか1項に記載の接着性樹脂組成物。
【0018】
〔8〕 基材上に、〔1〕~〔7〕いずれか1項に記載の接着性樹脂組成物の膜が積層されたシート。
【0019】
〔9〕 〔8〕に記載のシートにより形成された蓋材。
【0020】
〔10〕 ポリエステル系樹脂製の容器本体又は内面がポリエステル系樹脂で覆われた容器本体と、〔9〕に記載の蓋材とからなる、開封可能な密封容器用部材セット。
【0021】
〔11〕 ポリエステル系樹脂製の容器本体又は内面がポリエステル系樹脂で覆われた容器本体の開口部が、〔9〕に記載の蓋材により密封された、開封可能な容器。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、特に被着体がポリエステル系容器に対し、常温・冷凍下においても、容器のフランジにおいて樹脂残りや糸曳きが発生せず耐容器付着性に優れ、良好な易開封性を示し、且つ、塗工時の成膜性に優れる接着性樹脂組成物、該組成物を用いたシート、蓋材、密封容器用部材セット及び容器を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本願発明の接着性樹脂組成物は、密度が0.88~0.93g/cmのエチレン-αオレフィン共重合体(A)10~25質量%、酢酸ビニル含有率が5%以上18%未満のエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)20~45質量%、酢酸ビニル含有率が18%以上30%未満のエチレン-酢酸ビニル共重合体(C)10~35質量%、粘着付与樹脂(D)25~35質量%を含有する。
以下に、本発明について、詳細に説明する。
【0024】
<密度が0.88~0.93g/cmのエチレン-αオレフィン共重合体(A)>
本発明の接着性組成物を構成する密度が0.88~0.93g/cmのエチレン-αオレフィン共重合体(A)としては、エチレンとプロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン及びそれ以上の炭素鎖の長いオレフィンの中からなる群より選ばれる少なくとも1種とを任意の比率で重合した共重合体を用いることができる。
耐ブロッキング性の観点からエチレン-αオレフィン共重合体(A)は、プロピレン又はブテンが好ましく、より好ましくはブテンである。オレフィンの炭素鎖は短いほど耐ブロッキング性は向上する。
なお、本願における密度とは、JIS.K7112にピクノメーター法による測定値である。
【0025】
エチレン-αオレフィン共重合体(A)は、接着性樹脂組成物中、10~25質量%であり、好ましくは10~20質量%である。
エチレン-αオレフィン共重合体(A)が10質量%以上であることにより、冷凍下において開封強度を損なうことなく、ポリエステル系樹脂製容器に十分に接着する。また、25質量%以下であることにより、冷凍下及び常温下において開封強度を損なうことなく、ポリエステル系樹脂製容器に十分に接着する。
【0026】
また、エチレン-αオレフィン共重合体(A)としては、示差走査型熱量計により測定した融点(以下、DSC融点という)が80~140℃であることが好ましく、より好ましくは90~130℃であり、特に好ましくは100~120℃の範囲内である。上記の範囲内であると、PETへの密着性を向上できる点で好ましい。
【0027】
<酢酸ビニル含有量が5%以上18%未満のエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)>
本発明における接着性組成物を構成する酢酸ビニル含有率が5%以上18%未満のエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)としては、エチレンに対し酢酸ビニルを5%以上18%未満の比率で重合した共重合体を用いることができる。
【0028】
エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)は、接着性樹脂組成物中20~45質量%であり、好ましくは25~40質量%の範囲内である。
エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)が20質量%以上であることにより、冷凍下及び常温下において開封強度を損なうことなく、ポリエステル系樹脂製容器に十分に接着する。また、45質量%以下であることにより、塗加工適性と接着性とのバランスをとることができるだけでなく、常温・冷凍下においても、容器のフランジにおいて樹脂残りや糸曳きが発生しない。
【0029】
エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)としては、DSC融点が80℃以上100℃未満、好ましくは85℃以上95未満の範囲内が好ましい。上記の範囲内であると、エチレン-αオレフィン共重合体(A)とエチレン-酢酸ビニル共重合体(C)とを相溶させ、塗加工適性を向上させるとともに開封強度を損なうことなく十分に接着できる点で好ましい。
【0030】
<酢酸ビニル含有量が18%以上30%未満のエチレン-酢酸ビニル共重合体(C)>
本発明における接着性組成物を構成する酢酸ビニル含有率が18%以上30%未満のエチレン-酢酸ビニル共重合体(C)としては、エチレンに対し酢酸ビニルを18%以上30%未満の比率で重合した共重合体を用いることができる。
【0031】
エチレン-酢酸ビニル共重合体(C)は、接着性樹脂組成物中、10~35質量%であり、好ましくは10~30質量%であり、特に好ましくは10~25質量%の範囲である。
エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)が10質量%以上であることにより、冷凍下でノ開封強度を抑制することができる。また、35質量%以下であることにより、成膜性と冷凍下及び常温化での接着性とのバランスをとることができる。
【0032】
エチレン-酢酸ビニル共重合体(C)としては、DSC融点が60℃以上90℃未満、好ましくは、65℃以上85℃未満の範囲内が好ましい。上記の範囲内であると、冷凍下における接着性を向上できる点で好ましい。
【0033】
<粘着付与樹脂(D)>
本発明の接着性組成物を構成する粘着付与樹脂(D)としては、脂肪族炭化水素樹脂、脂環族炭化水素樹脂、芳香族系炭化水素樹脂、ポリテルペン系樹脂、ロジン類等、シーラント接着分野で使用されている公知の粘着付与樹脂を用いることができる。粘着付与樹脂(D)は、単独又は2種類以上が使用できる。
粘着付与樹脂(D)は、接着性組成物中、25~35質量%の範囲である。粘着付与樹脂が25質量%以上であると、冷凍下及び常温下において開封強度を損なうことなく、ポリエステル系樹脂製容器に十分に接着する。また、35質量%以下であると、成膜性が良好となる。中でも、粘着付与樹脂(D)は、脂環族炭化水素樹脂及び芳香族炭化水素樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、より好ましくは脂環族炭化水素樹脂を含むものである。上記樹脂は、部分水添や完全水添されていてもよい。
【0034】
粘着付与樹脂(D)は、ヒートシール時の接着性、即ち開封強度(易開封性)の観点において、軟化点が120℃以下であることが好ましい。なお、本発明における軟化点とは、JIS K 6863に規定される方法により求められる温度である。すなわち、規定の環に充填し12時間以上静置させた樹脂を、熱媒体中に入れて規定の球を置き一定の割合で熱媒体の温度を上昇させたとき、樹脂の軟化により球が沈み環台の底板に触れたときの温度である。
また、粘着付与樹脂(D)のDSC融点は、65~95℃であることが好ましく、より好ましくは65~80℃である。
【0035】
<接着性樹脂組成物>
密度が0.88~0.93g/cmのエチレン-αオレフィン共重合体(A)、酢酸ビニル含有率が5%以上18%未満のエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)、酢酸ビニル含有率が18%以上30%未満のエチレン-酢酸ビニル共重合体(C)及び粘着付与樹脂(D)を、(A)/(B)/(C)/(D)=10~25/20~45/10~35/25~35(質量%)の組成で含有するものであり、好ましくは、10~20/25~40/10~30/25~35(質量%)であり、より好ましくは、10~20/25~40/10~25/25~35(質量%)である。但し、(A)、(B)、(C)及び(D)の合計を100質量%とする。
【0036】
エチレン-αオレフィン共重合体(A)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(C)及び粘着付与樹脂(D)の合計量は、接着性樹脂組成物100質量%中、90質量%以上が好ましく、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上である。
【0037】
接着性樹脂組成物のMFRは、1~50g/10分であることが好ましく、より好ましくは10~25g/10分の範囲内である。上記の範囲内であると、塗工時の成膜性の点で好ましい。本願におけるMFRとは、JIS.K7210に準ずる190℃、21.168NにおけるMFR値である。
【0038】
また、接着性樹脂組成物において、酢酸ビニル含有量が5%以上18%未満のエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)及び酢酸ビニル含有量が18%以上30%未満のエチレン-酢酸ビニル共重合体(C)の合計に対する酢酸ビニル含有量は、好ましくは8%以上9.5%未満であり、より好ましくは8.5%以上9.0%未満である。上記範囲であると、成膜性、並びに、常温下及び冷凍下の易開封性のバランスに優れ、両物性を両立する観点から好ましい。
【0039】
本発明の樹脂組成物には、本発明の目的に反しない範囲、すなわち、成膜性、冷凍下及び常温下での易開封性、並びにPET容器への耐容器付着性を損なわない範囲で、エチレン-αオレフィン共重合体(A)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(C)及び粘着付与樹脂(D)以外の樹脂を配合してもよい。
【0040】
このような樹脂としては、具体的には、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン等、公知のポリオレフィン樹脂及びその酸化物やマレイン酸変性物、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体等のエチレン-不飽和モノカルボン酸共重合体及びその金属塩、スチレン-ブタジエン共重合エラストマー及びその水素付加物等の各種エラストマー、あるいは、高密度ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、エチレン-酢酸ビニル共重合体ワックス、フィッシャートロプシュワックス、パラフィンワックス、酸化ワックス、マレイン酸変性ワックス、スチレンモノマーのグラフトされたポリエチレンワックス等、公知のワックスが挙げられる。また、これらの樹脂は、単独で用いられても、2種類以上が併用されてもよい。
【0041】
本発明の接着性樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、熱劣化、熱分解、ブロッキング等を防止するため、及びフィルム加工、押出ラミネート加工等の加工適正を確保するために、さらに添加剤等が使用されてもよい。添加剤の例としては、例えばエルカ酸アミド等の有機滑剤、炭酸カルシウム等の無機滑剤、ヒンダードフェノール等の酸化防止剤、その他ブロッキング防止剤、帯電防止剤、充填剤、顔料、防曇剤などが挙げられる。これら添加剤は、エチレン-αオレフィン共重合体(A)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(C)及び粘着付与樹脂(D)の配合時に添加されてもよいし、予めエチレン-αオレフィン共重合体(A)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(C)又は粘着付与樹脂(D)のいずれかに練りこまれた後、他の成分と混練することにより配合されてもよい。
【0042】
エチレン-αオレフィン共重合体(A)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(C)、粘着付与樹脂(D)及び必要に応じ用いられる添加剤の配合は、例えば、これら各成分をヘンシェルミキサー、タンブラーミキサーなどの混合装置に投入し、ブレンド時間5~20分間で混合した後、押出機に入れ、加熱混練した後押し出すことにより行われる。押出物は通常ペレット形状とされて、後の工程で利用される。押出機としては、例えば二軸押出機などが好ましいものとして挙げられるが、これに限られるものではない。また、押出は、通常140~200℃で行われる。
【0043】
<シート>
次に、基材上に、本発明の接着性樹脂組成物の被膜が積層されたシートについて説明する。本発明の接着性樹脂組成物の基材への積層方法としては、例えば、前記のごとくペレット化された樹脂組成物を用い、インフレーション法あるいはキャスト法などにより単層フィルム化し、このフィルムを基材と必要であれば別の接着剤層を介して積層する方法が挙げられる。あるいは、混練された樹脂組成物を直接基材に被覆してもよいし、更に他の方法がとられてもよい。
【0044】
積層面の接着性を改善するために、基材表面に火炎処理、オゾン処理、コロナ放電処理又はアンカーコート剤による処理が行われてもよい。ポリエチレン系樹脂を予めラミネートしてある基材に対しては、ダイレクトに押出しラミネートすることも可能である。また、ポリエチレンやポリプロピレン等との共押出しで多層フィルム化しておき、ドライラミネーション又はサンドラミネーションにより、基材となるポリエステルフィルム、ポリアミドフィルム、ポリプロピレンフィルム等の延伸又は未延伸フィルムと積層することにより、積層されたシートを得ることもできる。この場合にも、積層面の接着性を改善するために、必要であれば、基材表面に対し、火炎処理、オゾン処理、コロナ放電処理又はアンカーコート剤による処理などが行われてもよい。また、本発明の接着性樹脂組成物層の厚みは、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上である。
なお、本発明における「基材」とは、長尺及びカットされた短尺のフィルム、シートを包含するものとして用いられ、さらに「基材」は、単層のもの及び複数の層からなる積層物をも包含するものである。また、本発明の接着性樹脂組成物が積層されたシートは、後述するように蓋材として用いることができる他、シーラントフィルムとして接着性樹脂組成物の被膜を内面としてシールした製袋品にも好適に使用できる。
【0045】
<蓋材>
基材上に接着性樹脂組成物が積層された本発明のシートは、密封対象である容器本体の開口形状に合わせて裁断され蓋材として好適に用いられる。
本発明のシートを蓋材として用いる場合、基材としては種々の基材を用いることができる。使用される基材としては、紙、アルミニウム、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アルミ蒸着ポリエステル、アルミ蒸着ポリプロピレン又はシリカ蒸着ポリエステルなどを挙げることができる。このような基材は、単層である必要はなく、二層以上の積層体であっても良い。
また、本発明のシートにより蓋材を形成する場合、基材として好ましくは、例えば5~20μmのPETと5~30μmのポリエチレンとの積層体であり、前記積層体のポリエチレン面に、本発明の接着性樹脂組成物から形成される厚さ5~40μmの被膜を積層したものが好ましい。
【0046】
<容器本体>
容器本体としては、ポリエステル系樹脂製の容器本体、内面がポリエステル系樹脂で覆われた容器本体の他、ポリエチレン系樹脂製の容器本体、内面がポリエチレン系樹脂で覆われた容器本体等が挙げられ、特に、ポリエステル系樹脂製の容器本体、内面がポリエステル系樹脂で覆われた容器本体が好ましい。
【0047】
<開封可能な密封容器>
本発明の開封可能な密封容器は、容器本体の開口形状に合わせて裁断された蓋材によって、容器本体の開口部の封緘がなされたものである。即ち、蓋材の一方の面に配設された本発明の接着性樹脂組成物と、密封容器の開口部の接着面(フランジとも言われる)とを接触させ加熱することによって、両者を接着する。接着条件は、100~180℃であることが好ましい。
容器本体がPET容器の場合、該容器本体と前記蓋材とを熱接着温度100~180℃で熱接着を行うことが好ましく、常温での開封強度が7~15Nの範囲であり、また剥離時に熱接着層が界面剥離することが好ましい。本発明の開封可能な密封には、例えばゼリー、プリン、ヨーグルトや冷菓、乾燥菓子又はカップ麺等を包装することができる。
【実施例
【0048】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。なお、実施例中、「部」及び「%」は、「質量部」及び「質量%」をそれぞれ表す。
【0049】
<接着性樹脂組成物の製造方法>
[実施例1~9及び比較例1~8]
(接着性樹脂組成物(S-1)~(S-17)の製造)
表1に記載の、密度が0.88~0.93g/cmのエチレン-αオレフィン共重合体(A)、酢酸ビニル含有率が5%以上18%未満のエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)、酢酸ビニル含有率が18%以上30%未満のエチレン-酢酸ビニル共重合体(C)、粘着付与樹脂(D)、ブロッキング防止剤及び酸化防止剤を、ヘンシェルミキサーで5分間プリブレンドした。ホッパーにプリブレンド物を投入し、スクリューフィーダーを用いて下記押出機に供給し、接着性樹脂組成物(S-1)~(S-17)を製造した。表1中の数値の単位は、表記のないものは部を表す。

≪押出機条件≫
押出機:アイ・ケー・ジー社製同方向回転二軸押出機PMT32-40.5
バレル温度:180℃(供給口160℃)
スクリュー回転速度:200rpm
供給速度:10kg/hr
【0050】
<接着性樹脂組成物の評価>
得られた接着性樹脂組成物について、MFR及び成膜性を評価した。また、下記に従って積層されたシート(蓋材)を作製し、該シートを用いて、冷凍下及び常温下の開封強度(易開封性)、耐容器付着性(糸曳き)を、以下の方法及び基準に基づいて評価した。結果を表1に示す。
【0051】
[MFR]
接着性樹脂組成物のMFRは、JIS.K7210に準拠し、メルトインデクサーL244(宝工業株式会社製)の内径9.55mm、長さ162mmのシリンダにサンプルを充填し、190℃で溶融した後、重さ2160g、直径9.48mmのプランジャーを使用して均等に荷重をかけ、シリンダの中央に設けた径2.1mmのオリフィスより単位時間あたりに押出される樹脂量(g/10分)から求めた。
【0052】
[成膜性]
接着性樹脂組成物の成膜性は、下記加工条件において200~250℃のいずれかの温度での塗工の可否と、得られた塗工物から膜厚計を用いて無造作に10カ所の膜厚を測定した際の数値から、下記基準で評価した。
≪加工条件≫
押出しラミネーター:ムサシノキカイ製400M/MテストEXTラミネーターダイ直下樹脂温度:200~250℃
加工速度:30m/分
Tダイ幅:400mm
冷却ロール表面温度:20℃
基材:PET12μm/PE25μm基材のPE面に塗工
○:塗工可能、かつ、膜厚が20±3μmである:良好
△:塗工可能、かつ、膜厚が20±6μmである:使用可能
×:膜割れ若しくは膜切れのいずれかが発生して塗工不可、又は、塗工可能だが膜厚が20±6μmを超える:不良
【0053】
[シート(蓋材)の作製方法]
得られた接着性樹脂組成物を、押出しラミネーターを用いて、PET12μm/PE25μmの基材のPE面に積層してシートを作製した。接着剤層の厚さは20μmであった。以下に加工条件を示す。
押出しラミネーター:ムサシノキカイ製400M/MテストEXTラミネーターダイ直下樹脂温度:200℃~250℃(接着性樹脂組成物のMFR等により適宜調整した)。
加工速度:30m/分
Tダイ幅:400mm
冷却ロール表面温度:20℃
【0054】
[易開封性(常温)]
得られた積層シート(蓋材)を90mm×90mmのサイズに断裁後、ゲージ圧0.3MPa、150℃、1秒にて71ΦPET容器に、接着性樹脂組成物面を熱接着し、密封を行なった。温度23℃湿度65%の恒温恒湿室に24時間放置し、同恒温恒湿室にて90°角剥離、引張速度200mm/分の条件で剥離強度の測定を行った。最大値を開封強度とし、易開封性を下記基準で評価した。
〇:剥離強度が、7N以上15N未満:良好
△:剥離強度が、5N以上 7N未満、又は、15N以上17N未満:使用可能
×:剥離強度が、5N未満、又は、17N以上:不良
【0055】
[易開封性(冷凍)]
得られた積層シート(蓋材)を90mm×90mmのサイズに断裁後、ゲージ圧0.3MPa、150℃、1秒にて71ΦPET容器に、接着性樹脂組成物面を熱接着し、密封を行なった。温度-20℃の恒温槽に24時間放置し、同恒温槽にて90°角剥離、引張速度200mm/分の条件で剥離強度の測定を行った。最大値を開封強度とし、易開封性を下記基準で評価した。
〇:剥離強度が、7N以上15N未満:良好
△:剥離強度が、5N以上 7N未満、又は、15N以上17N未満:使用可能
×:剥離強度が、5N未満、又は、17N以上:不良
【0056】
[常温下及び冷凍下での耐容器付着性]
上記常温下及び冷凍下における開封強度測定時のPET容器フランジ部の接着性樹脂組成物の有無を目視で確認し、下記基準で評価した。
〇: 常温下及び冷凍下いずれにおいても、フランジ部に接着性樹脂組成物の付着がないもの:良好
△:常温下又は冷凍下いずれかにおいて、フランジ部に接着性樹脂組成物の付着が僅かにみられたもの:使用可能
×:常温下又は冷凍下いずれかにおいて、フランジ部に接着性樹脂組成物の付着がみられたもの:不良
【0057】
【表1】
【0058】
表1で用いた原料略称を以下に示す。
A1:ルミタック22-7(東ソー社製、エチレン-ブテン共重合体、密度0.900g/cm3、DSC融点113℃、MFR2g/10分)
A2:ルミタック43-1(東ソー社製、エチレン-ブテン共重合体、密度0.910g/cm3、DSC融点113℃、MFR20g/10分)
【0059】
B1:ウルトラセン540(東ソー社製、エチレン-酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニル含有率10%)、密度0.929g/cm3、DSC融点94℃、MFR3g/10分)
B2:ウルトラセン626(東ソー社製、エチレン-酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニル含有率15%)、密度0.936g/cm3、DSC融点88℃、MFR3g/10分)
【0060】
C1:ウルトラセン627(東ソー社製、エチレン-酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニル含有率20%)、密度0.941g/cm3、DSC融点83℃、MFR1g/10分)
C2:ウルトラセン751(東ソー社製、エチレン-酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニル含有率28%)、密度0.952g/cm3、DSC融点70℃、MFR6g/10分)
C3:ウルトラセン634(東ソー社製、エチレン-酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニル含有率26%)、密度0.949g/cm3、DSC融点74℃、MFR4g/10分)
【0061】
D1:アルコンM-115(荒川化学工業社製、部分水添脂環族炭化水素樹脂、軟化点115℃)
D2:アルコンP-115(荒川化学工業社製、完全水添脂環族炭化水素樹脂、軟化点115℃)
【0062】
ブロッキング防止剤:インクロスリップC(クローダ社製、エルカ酸アミド、DSC融点80℃)
【0063】
酸化防止剤:IRGANOX 1010(BASF社製、ヒンダードフェノール系酸化防止剤)
【0064】
VA cont.:酢酸ビニル含有率(%)
【0065】
実施例1~9の接着剤組成物は、成膜性に優れ、且つ、常温下及び冷凍下においてPET容器に対して良好な易開封性と耐容器付着性を示した。よって、特定の樹脂(A)~(D)を特定比率で含む本願発明の接着性樹脂組成物は、ポリエステル系樹脂、特にポリエチレンテレフタレート(PET)系樹脂からなる容器向け蓋材用として最適である。