(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-07
(45)【発行日】2023-03-15
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
C08L 21/00 20060101AFI20230308BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20230308BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20230308BHJP
C08L 9/00 20060101ALI20230308BHJP
C08L 45/00 20060101ALI20230308BHJP
【FI】
C08L21/00
B60C1/00 A
B60C1/00 Z
C08K3/36
C08L9/00
C08L45/00
(21)【出願番号】P 2016095590
(22)【出願日】2016-05-11
【審査請求日】2019-03-20
【審判番号】
【審判請求日】2021-02-25
(31)【優先権主張番号】P 2015222441
(32)【優先日】2015-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹中 美夏子
(72)【発明者】
【氏名】児島 良治
【合議体】
【審判長】近野 光知
【審判官】稲葉 和生
【審判官】杉江 渉
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-263587(JP,A)
【文献】特表2011-528735(JP,A)
【文献】特開2011-88988(JP,A)
【文献】国際公開第2015/079703(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/178336(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/057993(WO,A1)
【文献】特開2008-221955(JP,A)
【文献】特開2014-80050(JP,A)
【文献】特開2014-214297(JP,A)
【文献】特開2009-138025(JP,A)
【文献】国際公開第2011/158509(WO,A1)
【文献】特開2008-174696(JP,A)
【文献】特開2007-56137(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
B60C1/00-19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分、ならびに、i)シクロペンタジエン系樹脂、または、ii)シクロペンタジエン系樹脂およびテルペン系樹脂を含有し、
前記ゴム成分中にブタジエンゴムを20~90質量%含有し、
前記ゴム成分100質量部に対してシリカを5~200質量部含有し、
純水の接触角が125~140°であるゴム組成物を用いたタイヤ。
〔但し、上記ゴム組成物は下記(イ)のゴム組成物を除くものとし、上記タイヤは下記(ロ)のタイヤを除くものとする:
(イ)天然ゴムを70質量%以上含むゴム成分(A)を配合してなり、ゴム成分100質量部に対して、C5系樹脂、C5~C9系樹脂、C9系樹脂、テルペン系樹脂、テルペン-芳香族化合物系樹脂、ロジン系樹脂、ジシクロペンタジ工ン樹脂、及びアルキルフェノール系樹脂の中から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂(B)を5~50質量部、並びにシリカを含む充填剤(C)を20~120質量部配合してなり、
前記充填剤(C)中のシリカの含有量が50~100質量%である、ことを特徴とするゴム組成物、
(ロ)ゴム成分、熱可塑性樹脂及び充填材を含有するゴム組成物であって、該ゴム成分中、(A)変性共役ジエン-芳香族ビニル共重合体を10~60質量%及び(B)共役ジエン重合体を90質量%以下含み、(A)成分の重合開始剤がリチウムアミド化合物であるか又は(A)成分の活性末端に用いられる変性剤が(C)窒素原子及び珪素原子を含むヒドロカルビルオキシシラン化合物もしくは(D)珪素原子を含むヒドロカルビルオキシシラン化合物であるゴム組成物をトレッドに用いることを特徴とするタイヤ。〕
【請求項2】
ゴム成分およびテルペン系樹脂を含有し、
前記ゴム成分中にブタジエンゴムを20~90質量%含有し、
前記ゴム成分100質量部に対して、シリカを5~200質量部、オイルを40質量部以上含有し、
純水の接触角が125~140°であるゴム組成物を用いたタイヤ。
〔但し、上記ゴム組成物は下記(ハ)のゴム組成物を除くものとする:
(ハ)冬季タイヤ用のトレッドとして有用であり且つジエンエラストマー、30phrよりも多い液体可塑剤および50phrと150phrとの間の補強用充填剤を少なくとも含むゴム組成物であって、5phrと40phrとの間の硫酸マグネシウム微小粒子を含むことを特徴とするゴム組成物。〕
【請求項3】
前記シクロペンタジエン系樹脂が水素添加されたシクロペンタジエン系樹脂である請求項1記載のタイヤ。
【請求項4】
前記テルペン系樹脂が水素添加されたテルペン系樹脂である請求項1~3のいずれか1項に記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定のゴム組成物を用いて製造されたタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スタッドレスタイヤ、スノータイヤなどの冬用タイヤの氷雪上グリップ性能を向上させる方法として、トレッド用ゴム組成物の硬度(Hs)を低くすることにより、低温における弾性率(モジュラス)を低下させ(低温特性を向上させ)、粘着摩擦を向上させる方法や、トレッドのブロック表面に所定のサイプを設け、氷雪路面でのグリップ力を得る方法、トレッド表面に深い横溝を設け、この横溝により雪を圧縮し、圧縮した雪を掴むように走行することでグリップ力を得る方法が提案されている。
【0003】
ブロック表面に設けたサイプは、路面上の雪や氷と接触することでグリップ力を発揮できる。しかし、トレッド表面に雪が付着する「雪付き」が生じると、サイプは路面上の雪や氷と接触することができず、本来有する氷雪上グリップ性能を発揮することができなくなるという問題がある。
【0004】
また、横溝に掴まれた雪は、タイヤが1周して再度、横溝が路面上の雪に接触するまでに排雪される。これにより、横溝は繰り返しグリップ力を発揮できる。しかし、排雪ができなくなる「雪詰まり」が生じると、その横溝は雪を掴むことができない、つまり本来有する雪上グリップ性能を発揮することができなくなるという問題がある。
【0005】
これらの問題を解消する方法として横溝などのトレッドパターンを所定の形状とする方法が提案されている。例えば、特許文献1には、トレッドパターンを所定の形状とすることで雪付きを抑制する方法が記載されている。また、特許文献2には、横溝を所定の形状に設計することで雪詰まりを抑制する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-221955号公報
【文献】特開2014-80050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
横溝などのトレッドパターン形状のみによる雪詰まりおよび雪付きの抑制には限界があり、さらなる氷上グリップ性能の改善が求められている。また、横溝などのトレッドパターン形状が、雪詰まりおよび雪付きを抑制し得る形状に束縛されるため、形状設計の自由度が低下し、氷雪上性能、耐摩耗性やウェットグリップ性能などが犠牲になるという問題がある。
【0008】
本発明は、雪詰まりおよび雪付きが抑制されたタイヤを提供することを目的とする。特に、トレッドパターン形状に依存することなく、ウェットグリップ性能および耐摩耗性を維持したまま、雪詰まりおよび雪付きが抑制され、氷雪上性能に優れたタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ゴム成分、テルペン系樹脂および/またはシクロペンタジエン系樹脂を含有し、純水の接触角が125~140°であるゴム組成物を用いたタイヤに関する。
【0010】
前記テルペン系樹脂が水素添加されたテルペン系樹脂であることが好ましい。
【0011】
前記シクロペンタジエン系樹脂が水素添加されたシクロペンタジエン系樹脂であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のゴム成分およびテルペン系樹脂および/またはシクロペンタジエン系樹脂を含有し、純水の接触角が125~140°であるゴム組成物を用いたタイヤによれば、雪詰まりおよび雪付きが抑制されたタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のタイヤは、ゴム成分およびテルペン系樹脂および/またはシクロペンタジエン系樹脂を含有し、純水との接触角が所定の範囲を満たすゴム組成物を用いたことを特徴とする。
【0014】
前記ゴム成分としては特に限定されず、従来タイヤ用ゴム組成物として使用されているゴム成分とすることができる。例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)およびスチレンブタジエンゴム(SBR)よりなる群から選ばれる少なくとも1種のジエン系ゴム成分とすることができる。なかでも、低温特性に優れるという理由からはNRおよびBRを含有することが好ましい。
【0015】
前記NRとしては特に限定されず、タイヤ業界において一般的なものを用いることができ、例えば、SIR20、RSS#3、TSR20などが挙げられる。また、前記IRとしてもタイヤ業界において一般的なものを用いることができる。
【0016】
ゴム成分中にNRおよび/またはIRを含有する場合の含有量は、ゴムの混練り加工性、押出し加工性において優れるという点から、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましい。また、NRおよび/またはIRの含有量は、低温特性において優れるという点から、80質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましい。
【0017】
前記BRとしては、ハイシス1,4-ポリブタジエンゴム(ハイシスBR)、1,2-シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含むブタジエンゴム(SPB含有BR)、変性ブタジエンゴム(変性BR)などの各種BRを用いることができる。
【0018】
前記ハイシスBRとは、シス1,4結合含有率が90重量%以上のブタジエンゴムである。このようなハイシスBRとして、例えば、日本ゼオン(株)製のBR1220、宇部興産(株)製のBR130B、BR150Bなどが挙げられる。ハイシスBRを含有することで低温特性および耐摩耗性を向上させることができる。
【0019】
前記SPB含有BRは、1,2-シンジオタクチックポリブタジエン結晶が、単にBR中に結晶を分散させたものではなく、BRと化学結合したうえで分散しているものが挙げられる。このようなSPB含有BRとしては、宇部興産(株)製のVCR-303、VCR-412、VCR-617などが挙げられる。
【0020】
前記変性BRとしては、リチウム開始剤により1,3-ブタジエンの重合をおこなったのち、スズ化合物を添加することにより得られ、さらに変性BR分子の末端がスズ-炭素結合で結合されているもの(スズ変性BR)や、ブタジエンゴムの活性末端に縮合アルコキシシラン化合物を有するブタジエンゴム(シリカ用変性BR)などが挙げられる。このような変性BRとしては、例えば、日本ゼオン(株)製のBR1250H(スズ変性)、住友化学工業(株)製のS変性ポリマー(シリカ用変性)などが挙げられる。
【0021】
これらの各種BRの中でも、低温特性および耐摩耗性において優れるという点からハイシスBRまたはシリカ用変性BRを用いることが好ましい。
【0022】
ゴム成分中にBRを含有する場合の含有量は、低温特性および耐摩耗性の観点から、20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましい。また、前記各種BRの含有量は、ゴムの加工性の悪化を防ぐという点から90質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましい。
【0023】
ジエン系ゴム成分としては、前記のNR、IR、BRおよびSBR以外にも、例えば、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)などが挙げられ、これらのなかから、1種または2種以上を選択し、NRおよびBRと併用することもできるが、これらのゴム成分は低温特性が大幅に低下するという理由から含まないことが好ましい。
【0024】
また、前記ゴム成分にはジエン系ゴム成分以外にも、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(X-IIR)、イソモノオレフィンとパラアルキルスチレンとの共重合体のハロゲン化物などのゴム成分を含有してもよいが、これらのゴム成分は低温特性が大幅に低下するという理由から含まないことが好ましい。
【0025】
本発明に係るゴム組成物は、テルペン系樹脂および/またはシクロペンタジエン系樹脂を含有することを特徴とする。テルペン系樹脂および/またはシクロペンタジエン系樹脂を含有することでゴム組成物の撥水性が向上し、このゴム組成物を用いてタイヤとすることで、雪詰まりおよび雪付きが抑制されたタイヤとすることができる。
【0026】
テルペン系樹脂およびシクロペンタジエン系樹脂は、クマロン樹脂、石油系樹脂(脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、脂環族系石油樹脂など)、フェノール系樹脂、ロジン誘導体などのタイヤ用ゴム組成物に用いられる他の粘着性樹脂よりもSP値が低いという特徴がある。ここでSP値とは、化合物の構造に基づいてHoy法によって算出された溶解度パラメーター(Solubility Parameter)を意味し、二つの化合物のSP値が離れているほど相溶性が低いことを示す。ここで、水のSP値は約23であり、前記他の粘着樹脂のSP値は約9~12であることから、他の粘着樹脂よりもSP値が低いテルペン樹脂は、より水との相溶性が低い粘着性樹脂であり、これを含有するゴム組成物とすることにより、ゴム組成物の撥水性を向上させることができる。なお、前記Hoy法とは、例えば、K.L.Hoy “Table of Solubility Parameters”, Solvent and Coatings Materials Research and Development Department, Union Carbites Corp.(1985)に記載された計算方法である。
【0027】
テルペン系樹脂としては、α-ピネン、β-ピネン、リモネン、ジペンテンなどのテルペン原料から選ばれる少なくとも1種からなるポリテルペン樹脂、テルペン化合物と芳香族化合物とを原料とする芳香族変性テルペン樹脂、テルペン化合物とフェノール系化合物とを原料とするテルペンフェノール樹脂などのテルペン系樹脂(水素添加されていないテルペン系樹脂)、ならびにこれらのテルペン系樹脂に水素添加処理を行ったもの(水素添加されたテルペン系樹脂)が挙げられる。ここで、芳香族変性テルペン樹脂の原料となる芳香族化合物としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルトルエンなどが挙げられ、また、テルペンフェノール樹脂の原料となるフェノール系化合物としては、例えば、フェノール、ビスフェノールA、クレゾール、キシレノールなどが挙げられる。
【0028】
テルペン系樹脂のなかでも、よりSP値が低く、ゴム成分との相溶性に優れ、より撥水性を向上させることができるという理由から、水素添加されたテルペン系樹脂が好ましく、100%に近い水素添加が可能であり、さらに耐久性にも優れるという理由から水素添加されたポリテルペン樹脂がより好ましい。テルペン系樹脂への水素添加処理は、公知の方法で行うことができ、また、本発明においては、市販の水素添加されたテルペン系樹脂を使用することもできる。
【0029】
テルペン系樹脂の軟化点は、ハンドリングの容易性などの観点から、75℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましく、90℃以上がさらに好ましい。また、加工性、ゴム成分とフィラーとの分散性向上という観点から、150℃以下が好ましく、140℃以下がより好ましく、130℃以下がさらに好ましい。なお、本発明における樹脂の軟化点は、フローテスター((株)島津製作所製のCFT-500Dなど)を用い、試料として1gの樹脂を昇温速度6℃/分で加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押出し、温度に対するフローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度とした。
【0030】
テルペン系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、ゴム組成物のガラス転移温度が高くなり、耐久性が悪化することを防ぐという理由から、60℃以下が好ましく、50℃以下がより好ましい。また、テルペン系樹脂のガラス転移温度の下限は特に限定されないが、オイルと同等以上の重量平均分子量(Mw)にでき、かつ難揮発性を確保できるという理由から、5℃以上が好ましい。また、テルペン系樹脂の重量平均分子量は、高温時の揮発性に優れ、消失させやすいことから、300以下が好ましい。
【0031】
テルペン系樹脂のSP値は、ゴム組成物の撥水性をより向上させることができるという理由から、8.60以下が好ましく、8.50以下がより好ましい。テルペン系樹脂のSP値の下限は、ゴム成分との相溶性の観点から7.5以上が好ましい。
【0032】
シクロペンタジエン系樹脂の軟化点は、ハンドリングの容易性などの観点から、80℃以上が好ましく、90℃以上がより好ましく、100℃以上がさらに好ましい。また、加工性、ゴム成分とフィラーとの分散性向上という観点から、160℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましく、140℃以下がさらに好ましい。なお、本発明における樹脂の軟化点は、フローテスター((株)島津製作所製のCFT-500Dなど)を用い、試料として1gの樹脂を昇温速度6℃/分で加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押出し、温度に対するフローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度とした。
【0033】
シクロペンタジエン系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、ゴム組成物のガラス転移温度が高くなり、耐久性が悪化することを防ぐという理由から、90℃以下が好ましく、80℃以下がより好ましい。また、シクロペンタジエン系樹脂のガラス転移温度の下限は特に限定されないが、オイルと同等以上の重量平均分子量(Mw)にでき、かつ難揮発性を確保できるという理由から、30℃以上が好ましい。また、シクロペンタジエン系樹脂の重量平均分子量は、高温時の揮発性に優れ、消失させやすいことから、1000以下が好ましい。
【0034】
シクロペンタジエン系樹脂のSP値は、ゴム組成物の撥水性をより向上させることができるという理由から、8.5以下が好ましく、8.4以下がより好ましい。シクロペンタジエン系樹脂のSP値の下限は、ゴム成分との相溶性の観点から7.9以上が好ましい。
【0035】
テルペン系樹脂および/またはシクロペンタジエン系樹脂のゴム成分100質量部に対する含有量は、本発明の効果が良好に得られるという理由から5質量部以上が好ましく、8質量部以上がより好ましく15質量部以上がさらに好ましい。また、テルペン系樹脂および/またはシクロペンタジエン系樹脂の含有量は、ゴム組成物の硬度、成形加工性、粘度を適切に確保できるという観点から、40質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましい。なお、テルペン系樹脂およびシクロペンタジエン系樹脂を含有する場合、2種以上のテルペン系樹脂またはシクロペンタジエン系樹脂を含有する場合は合計含有量を、テルペン系樹脂および/またはシクロペンタジエン系樹脂の含有量とする。
【0036】
本発明に係るゴム組成物はゴム成分およびテルペン系樹脂およびシクロペンタジエン系樹脂以外にも、従来からタイヤ工業に使用される配合剤や添加剤、例えば、各種補強用充填剤、カップリング剤、酸化亜鉛、各種オイル、軟化剤、ワックス、各種老化防止剤、ステアリン酸、硫黄などの加硫剤、各種加硫促進剤などを、必要に応じて適宜含有することができる。
【0037】
前記各種補強用充填剤としては、従来、タイヤ用ゴム組成物において慣用されるもののなかから任意に選択して用いることができるが、主としてカーボンブラックやシリカが好ましい。
【0038】
カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、グラファイトなどが挙げられ、これらのカーボンブラックは単独で用いてもよく、2種以上を組合せて用いてもよい。なかでも、低温特性と摩耗性能をバランスよく向上させることができるという理由から、ファーネスブラックが好ましい。
【0039】
カーボンブラックのチッ素吸着比表面積(N2SA)は、十分な補強性および耐摩耗性が得られる点から、70m2/g以上が好ましく、90m2/g以上がより好ましい。また、カーボンブラックのN2SAは、分散性に優れ、発熱しにくいという点から、300m2/g以下が好ましく、250m2/g以下がより好ましい。なお、本明細書におけるカーボンブラックのN2SAとは、JIS K 6217-2「ゴム用カーボンブラック基本特性-第2部:比表面積の求め方-窒素吸着法-単点法」に準じて測定された値である。
【0040】
カーボンブラックを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、3質量部以上が好ましく、4質量部以上がより好ましい。3質量部未満の場合は、十分な補強性が得られない傾向がある。また、カーボンブラックの含有量は200質量部以下が好ましく、150質量部以下がより好ましく、60質量部以下がさらに好ましい。200質量部を超える場合は、加工性が悪化する傾向、発熱しやすくなる傾向、および耐摩耗性が低下する傾向がある。
【0041】
シリカとしては特に限定されず、例えば、乾式法シリカ(無水ケイ酸)、湿式法シリカ(含水ケイ酸)等が挙げられるが、シラノール基が多いという理由から、湿式法シリカが好ましい。
【0042】
シリカのチッ素吸着比表面積(N2SA)は、耐久性や破断時伸びの観点から、80m2/g以上が好ましく、100m2/g以上がより好ましい。また、シリカのN2SAは、低燃費性および加工性の観点から、250m2/g以下が好ましく、220m2/g以下がより好ましい。なお、本明細書におけるシリカのN2SAとは、ASTM D3037-93に準じて測定された値である。
【0043】
シリカを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、耐久性や破断時伸びの観点から、5質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましい。また、シリカの含有量は、混練時の分散性向上の観点、圧延時の加熱や圧延後の保管中にシリカが再凝集して加工性が低下することを抑制するという観点から、200質量部以下が好ましく、150質量部以下がより好ましい。
【0044】
シリカを含有する場合はシランカップリング剤を併用することが好ましい。シランカップリング剤としては、ゴム工業において、従来からシリカと併用される任意のシランカップリング剤を使用することができ、例えば、エボニックデグッサ社製のSi75、Si266(ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド)、同社製のSi69(ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)などのスルフィド系、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、Momentive社製のNXT-Z100、NXT-Z45、NXTなどのメルカプト系(メルカプト基を有するシランカップリング剤)、ビニルトリエトキシシランなどのビニル系、3-アミノプロピルトリエトキシシランなどのアミノ系、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシランなどのグリシドキシ系、3-ニトロプロピルトリメトキシシランなどのニトロ系、3-クロロプロピルトリメトキシシランなどのクロロ系などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、スルフィド系、メルカプト系がシリカとの結合力が強く、低発熱性において優れるという点から好ましい。
【0045】
シランカップリング剤を含有する場合のシリカ100質量部に対する含有量は、2質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましい。シランカップリング剤の含有量が2質量部未満の場合は、シリカ分散性の改善効果が十分に得られない傾向がある。また、シランカップリング剤の含有量は、25質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましい。シランカップリング剤の含有量が25質量部を超える場合は、コストに見合った効果が得られない傾向がある。
【0046】
本発明に係るゴム組成物は、公知の方法により製造することができる。例えば、前記の各成分をオープンロール、バンバリーミキサー、密閉式混練機などのゴム混練装置を用いて混練りし、その後加硫する方法などにより製造できる。
【0047】
本発明に係るゴム組成物は、純水の接触角が125~140°であり、128~140°が好ましく、130~140°以上がより好ましい。ここで、純水との接触角とは、水平に保持されたゴム組成物の表面に純水をガラス細管等を用いて小粒状に滴下し、そのときの液滴の端部がゴム組成物の表面となす角度をいう。接触角が大きいほど撥水力が高いことを示す。また、この接触角は、接触角測定装置を用いて測定することができる。
【0048】
本発明の空気入りタイヤは、前記ゴム組成物を用いて、通常の方法により製造することができる。すなわち、前記の各成分を混練して得られた未加硫ゴム組成物をタイヤ部材の形状にあわせて押出し加工した部材をタイヤ成形機上で他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、通常の方法にて成形することにより、未加硫タイヤを形成し、この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することにより、本発明のタイヤを得ることができる。前記ゴム組成物は、雪詰まりおよび雪付きを抑制することができるゴム組成物であることから、タイヤ外周のトレッドおよび/またはサイドウォールを構成するゴム組成物とすることが好ましく、雪詰まりおよび雪付きの抑制がより求められるトレッドを構成するゴム組成物とすることがより好ましい。
【0049】
本発明のタイヤは、空気入りタイヤとすることが好ましく、特に前記ゴム組成物により構成されたトレッドを有する空気入りタイヤは、トレッドパターン形状に依存することなく雪詰まりおよび雪付きが抑制されたタイヤであることから、スタッドレスタイヤ、スノータイヤなどの冬用タイヤに適用することが好ましく、特に氷上でのグリップ性能が求められるスタッドレスタイヤに適用することがより好ましい。
【実施例】
【0050】
本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は、実施例にのみ限定されるものではない。
【0051】
以下、実施例および比較例において用いた各種薬品をまとめて示す。
NR:TSR20
BR:日本ゼオン(株)製のBR1220(未変性BR、シス含量:96質量%)
カーボンブラック:三菱化学(株)製のダイアブラックI(ASTM No.N220、N2SA:114m2/g、DBP:114ml/100g)
シリカ:エボニックデグサ社製のウルトラシルVN3(N2SA:175m2/g、平均一次粒子径:15nm)
テルペン樹脂1:ヤスハラケミカル(株)製のPX1150N(水素添加されていないポリテルペン樹脂、軟化点:115℃)
テルペン樹脂2:ヤスハラケミカル(株)製のP125(水素添加されたポリテルペン樹脂、軟化点:125℃)
ジシクロペンタジエン樹脂1:ExxonMobil社製のOppera PR-140(水素添加されたジシクロペンタジエン樹脂、軟化点:100℃)
ジシクロペンタジエン樹脂2:ExxonMobil社製のOppera PR-120(水素添加されたジシクロペンタジエン樹脂、軟化点:120℃)
芳香族系石油樹脂:Arizona Chemical社製のSYLVARES SA85(α-メチルスチレンとスチレンとの共重合体、軟化点:85℃、Mw:1000)
シランカップリング剤:エボニックデグサ社製のSi75(ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド)
ワックス:大内新興化学工業(株)製のサンノックN
老化防止剤:住友化学(株)製のアンチゲン6C(N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン)
オイル:(株)ジャパンエナジー製のプロセスX-140(アロマオイル)
ステアリン酸:日油(株)製のステアリン酸「椿」
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
硫黄:軽井沢硫黄(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
【0052】
実施例および比較例
表1に示す配合処方にしたがい、1.7Lの密閉型バンバリーミキサーを用いて、硫黄および加硫促進剤以外の薬品を150℃に達するまで5分間混練りし、混練り物を得た。次に、オープンロールを用いて、得られた混練り物に硫黄および加硫促進剤を添加し、80℃の条件下3分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。さらに、得られた未加硫ゴム組成物を170℃の条件下で12分間プレス加硫し、各試験用ゴム組成物を得た。
【0053】
また、前記未加硫ゴム組成物を所定の形状の口金を備えた押し出し機でタイヤトレッドの形状に押し出し成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせて未加硫タイヤを形成し、170℃の条件下で12分間プレス加硫することにより、試験用タイヤ(サイズ:195/65R15、スタッドレスタイヤ)を製造した。
【0054】
得られた未加硫ゴム組成物、加硫ゴム組成物および試験用タイヤについて下記の評価を行った。評価結果を表1および2に示す。
【0055】
純水の接触角
未加硫ゴム組成物をプレス加硫する際に、加硫ゴム組成物の表面粗さを統一することを目的として、ポリイミドフィルム(東レ・デュポン株式会社製のカプトン)をプレス加硫機と未加硫ゴム組成物との間に挟んだこと以外は、前記試験用ゴム組成物と同様に撥水性測定用ゴム組成物を製造した。各撥水性測定用ゴム組成物を接触角測定装置(協和界面科学(株)製のCA-A型機)により液滴の接触角を測定することで行った。液滴としては純水を用い、滴下5秒後に測定を行った。接触角が大きいほど加硫ゴム組成物が撥水性に優れることを示す。
【0056】
耐摩耗性能
各試験用タイヤを車両(国産FF2000cc)の全輪に装着し、走行距離8000km後のタイヤトレッド部の溝深さを測定し、タイヤ溝深さが1mm減るときの走行距離を求めた。結果は指数で表し、指数が大きいほど耐摩耗性が良好であることを示す。指数は次の式で求めた。表1における基準例は比較例1、表2における基準例は比較例2である。
(耐摩耗性指数)=(各配合例のタイヤ溝が1mm減るときの走行距離)/(基準例のタイヤ溝が1mm減るときの走行距離)×100
【0057】
ウェットグリップ性能
各試験用タイヤを車両(国産FF2000cc)の全輪に装着して、湿潤アスファルト路面にて初速度100km/hからの制動距離を求めた。結果は指数で表し、指数が大きいほどウェットグリップ性が良好であることを示す。指数は次の式で求めた。表1における基準例は比較例1、表2における基準例は比較例2である。
(ウェットグリップ性指数)=(基準例の制動距離)/(各配合例の制動距離)×100
【0058】
氷雪上性能
前記試験用タイヤを国産2000ccのFR車に装着し、下記条件下で氷雪上を実車走行し、氷雪上性能を評価した。氷雪上性能評価としては、具体的には、前記車両により氷雪上を走行し、時速30km/hでロックブレーキを踏み、停止させるまでに要した停止距離(氷上制動停止距離、雪上制動停止距離)を測定し、下記式により指数表示した。指数が大きいほど、氷雪上性能(氷雪上でのグリップ性能)が良好である。なお、指数の値が100を超えると、氷雪上性能が改善しているといえる。表1における基準例は比較例1、表2における基準例は比較例2である。
(制動性能〔氷雪上性能〕指数)=(基準例の制動停止距離)/(各配合の制動停止距離)×100
(氷上)試験場所:北海道名寄テストコ-ス、気温:-1~-6℃
(雪上)試験場所:北海道名寄テストコ-ス、気温:-2~-10℃
【0059】
雪詰まり、雪付き
各試験用タイヤを試験用実車(国産FR車、排気量:2000cc)に装着し、雪上で実車走行を行い、走行後の各試験用タイヤの横溝における雪詰まりおよび雪付きを目視にて観察し、5点満点で評価した。点数が大きいほど、雪詰まりおよび雪付きを抑制する効果が高いことを示し、4点以上であれば雪詰まりおよび雪付きが抑制されたと評価できる。なお、試験場所は住友ゴム工業株式会社の北海道名寄テストコースで行い、雪上気温は-2~-10℃であった。
【0060】
【0061】
【0062】
表1および2の結果より、ゴム成分、テルペン系樹脂および/またはシクロペンタジエン系樹脂を含有し、純水の接触角が所定の範囲を満たすゴム組成物により構成されたトレッドを有するタイヤとすることにより、トレッドパターン形状に依存することなく、ウェットグリップ性能および耐摩耗性を維持したまま、雪詰まりおよび雪付きが抑制され、氷雪上性能に優れたタイヤが得られることがわかる。