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特許7240089偏光板、画像表示装置、および偏光板の製造方法
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  • 特許-偏光板、画像表示装置、および偏光板の製造方法 図1
  • 特許-偏光板、画像表示装置、および偏光板の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-07
(45)【発行日】2023-03-15
(54)【発明の名称】偏光板、画像表示装置、および偏光板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20230308BHJP
   B29C 55/06 20060101ALI20230308BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20230308BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20230308BHJP
   G02F 1/1335 20060101ALI20230308BHJP
   G09F 9/00 20060101ALI20230308BHJP
   H05B 33/02 20060101ALI20230308BHJP
   H10K 50/00 20230101ALI20230308BHJP
   H10K 59/00 20230101ALI20230308BHJP
【FI】
G02B5/30
B29C55/06
B32B27/30 102
B32B27/36
G02F1/1335 510
G09F9/00 313
H05B33/02
H05B33/14 A
H10K59/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017193273
(22)【出願日】2017-10-03
(65)【公開番号】P2019066714
(43)【公開日】2019-04-25
【審査請求日】2020-09-04
【審判番号】
【審判請求日】2022-03-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【弁理士】
【氏名又は名称】籾井 孝文
(72)【発明者】
【氏名】南川 善則
(72)【発明者】
【氏名】池嶋 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】後藤 周作
(72)【発明者】
【氏名】石丸 咲美
【合議体】
【審判長】杉山 輝和
【審判官】関根 洋之
【審判官】井口 猶二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/149909(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル系樹脂基材と、前記ポリエステル系樹脂基材の片側に積層された偏光子とを有し、
前記偏光子の厚みが10μm以下であり、
前記ポリエステル系樹脂基材は、非偏光ATR法のFT-IR測定により得られる1340cm-1の吸収強度をP(1340)とし、1410cm-1の吸収強度をP(1410)としたとき、P(1340)/P(1410)の値が0.60以上である、偏光板の製造方法であって、
前記ポリエステル系樹脂基材の片側にポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層体とすること、
前記積層体を、染色および延伸することにより前記ポリビニルアルコール系樹脂層を偏光子とすること、および
前記延伸後に、前記ポリエステル系樹脂基材と前記偏光子との積層体を加熱処理することを含み、
前記延伸における延伸浴の温度が67℃以下であり、かつ、前記加熱処理における最高加熱温度が102℃以上であるか、または、
前記延伸における延伸浴の温度が69℃以下であり、かつ、前記加熱処理における最高加熱温度が105℃以上であり、
前記加熱処理において、前記積層体を熱ドラムロールに沿わせた状態で前記最高加熱温度に加熱し、前記最高加熱温度に保たれた時間が、0.2秒~2秒である、偏光板の製造方法。
【請求項2】
前記偏光子が、前記ポリエステル系樹脂基材の片側に接着層を介することなく積層されている、請求項1に記載の偏光板の製造方法。
【請求項3】
前記ポリエステル系樹脂基材と前記偏光子との間に易接着層を有する、請求項1または2に記載の偏光板の製造方法。
【請求項4】
前記ポリエステル系樹脂基材が前記偏光子の保護層として機能する、請求項1~3のいずれかに記載の偏光板の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の偏光板の製造方法を含む、画像表示装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光板、画像表示装置、および偏光板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル系樹脂基材上にポリビニルアルコール系樹脂層を形成し、この積層体を延伸、染色することにより、厚みの薄い偏光子を得る方法が提案されている(例えば、特許文献1)。このような偏光子の製造方法は、例えば、画像表示装置の薄型化に寄与し得るとして注目されている。
【0003】
上記偏光子は上記ポリエステル系樹脂基材に積層された状態のままで用いられ得、この場合、ポリエステル系樹脂基材は偏光子の保護層として用いられる(特許文献2)。これにより、偏光子に保護フィルムを貼り合せることなく、ポリエステル系樹脂基材と偏光子との積層体を偏光板として用いることができ、例えば、画像表示装置の低コスト化に寄与し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-338329号公報
【文献】特許第4979833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記偏光板の偏光子側の面を、粘着剤を介して表示セルまたは位相差板等の他の光学部材に貼り合せた場合、ポリエステル系樹脂基材の熱収縮挙動が大きい場合には、高温高湿環境下において偏光板の剥がれが生じ得る。
【0006】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、熱収縮挙動が小さく、剥がれが抑制された偏光板、上記偏光板を備えた画像表示装置、および偏光板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の偏光板は、ポリエステル系樹脂基材と、上記ポリエステル系樹脂基材の片側に積層された偏光子とを有し、上記偏光子の厚みが10μm以下であり、上記ポリエステル系樹脂基材は、非偏光ATR法のFT-IR測定により得られる1340cm-1の吸収強度をP(1340)とし、1410cm-1の吸収強度をP(1410)としたとき、P(1340)/P(1410)の値が0.60以上である。
1つの実施形態においては、上記偏光子が、上記ポリエステル系樹脂基材の片側に接着層を介することなく積層されている。
1つの実施形態においては、上記ポリエステル系樹脂基材と上記偏光子との間に易接着層を有する。
1つの実施形態においては、上記ポリエステル系樹脂基材が上記偏光子の保護層として機能する。
本発明の別の局面によれば、画像表示装置が提供される。この画像表示装置は、上記偏光板を有する。
本発明の別の局面によれば、上記偏光板の製造方法が提供される。該製造方法は、上記ポリエステル系樹脂基材の片側にポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層体とすること、上記積層体を、染色および延伸することにより上記ポリビニルアルコール系樹脂層を偏光子とすること、および上記延伸後に、上記ポリエステル系樹脂基材と上記偏光子との積層体を加熱処理することを含み、上記延伸における延伸浴の温度が67℃以下であり、かつ、上記加熱処理における最高加熱温度が102℃以上であるか、または、上記延伸における延伸浴の温度が69℃以下であり、かつ、上記加熱処理における最高加熱温度が105℃以上である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、熱収縮挙動が小さく、剥がれが抑制された偏光板、上記偏光板を備えた画像表示装置、および偏光板の製造方法を提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の1つの実施形態に係る偏光板の断面図である。
図2】1つの実施形態に係る偏光板の製造工程を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0011】
A.偏光板の全体構成
図1は、本発明の1つの実施形態による偏光板の断面図である。図1に示すように、偏光板10は、ポリエステル系樹脂基材11と、ポリエステル系樹脂基材11の片側に積層された偏光子12とを有する。偏光子12の厚みは10μm以下である。ポリエステル系樹脂基材11は、非偏光を測定光とするATR法(全反射減衰分光法)のFT-IR(フーリエ変換赤外分光法)測定により得られる1340cm-1の吸収強度をP(1340)とし、1410cm-1の吸収強度をP(1410)としたとき、P(1340)/P(1410)の値が0.60以上である。偏光子12は、好ましくは、ポリエステル系樹脂基材11の一方の面に密着して(換言すれば、接着層を介さずに)積層されている。偏光板10は、好ましくは、ポリエステル系樹脂基材11と偏光子12との間に易接着層(図示せず)を有する。偏光板10は、偏光子12のポリエステル系樹脂基材11とは反対側に保護フィルム(図示せず)を有していてもよい。ポリエステル系樹脂基材11は、代表的には偏光子12の保護層として機能する。従来の偏光板は、偏光子側の面を他の光学部材に貼り合せて高温高湿環境下に置いた場合、偏光板の延伸方向における両端部で光学部材からの剥がれが生じ得る。これに対して、本実施形態の偏光板10は、偏光子12側の面を他の光学部材に貼り合せたときのポリエステル系樹脂基材11の熱収縮挙動が小さく、高温高湿環境下における剥がれを抑制し得る。
【0012】
B.偏光子
偏光子は、実質的には、ヨウ素が吸着配向されたポリビニルアルコール系樹脂層(PVA系樹脂層)である。偏光子の厚みは、上記のとおり10μm以下であり、好ましくは7.5μm以下であり、より好ましくは5μm以下である。一方、偏光子の厚みは、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1.5μm以上である。厚みが薄すぎると得られる偏光子の光学特性が低下するおそれがある。偏光子は、好ましくは、波長380nm~780nmのいずれかの波長で吸収二色性を示す。偏光子の単体透過率は、好ましくは40.0%以上、より好ましくは41.0%以上、さらに好ましくは42.0%以上である。偏光子の偏光度は、好ましくは99.8%以上、より好ましくは99.9%以上、さらに好ましくは99.95%以上である。
【0013】
上記PVA系樹脂層を形成するPVA系樹脂としては、任意の適切な樹脂が採用され得る。例えば、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体が挙げられる。ポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルをケン化することにより得られる。エチレン-ビニルアルコール共重合体は、エチレン-酢酸ビニル共重合体をケン化することにより得られる。PVA系樹脂のケン化度は、通常85モル%~100モル%であり、好ましくは95.0モル%~99.95モル%、さらに好ましくは99.0モル%~99.93モル%である。ケン化度は、JIS K 6726-1994に準じて求めることができる。このようなケン化度のPVA系樹脂を用いることによって、耐久性に優れた偏光子が得られ得る。ケン化度が高すぎる場合には、ゲル化してしまうおそれがある。
【0014】
PVA系樹脂の平均重合度は、目的に応じて適切に選択され得る。平均重合度は、通常1000~10000であり、好ましくは1200~4500、さらに好ましくは1500~4300である。なお、平均重合度は、JIS K 6726-1994に準じて求めることができる。
【0015】
C. ポリエステル系樹脂基材
ポリエステル系樹脂基材は、上記のとおり、非偏光を測定光とするATR法のFT-IR測定により得られる1340cm-1の吸収強度をP(1340)とし、1410cm-1の吸収強度をP(1410)としたとき、P(1340)/P(1410)の値(以下、耐久性指数と称する場合がある)が0.60以上である。耐久性指数は、好ましくは0.60~1.20であり、より好ましくは0.65~1.00である。これにより、高温高湿環境下におけるポリエステル系樹脂基材の収縮を抑制し得、その結果、偏光板を光学部材に貼り合せた場合に、光学部材からポリエステル系樹脂基材が剥がれることを抑制し得る。上記耐久性指数は、後述する偏光板の製造方法において、ポリエステル系樹脂基材とポリビニルアルコール系樹脂層との積層体を水中延伸する際の延伸浴の温度と、水中延伸後に加熱処理する際の最高加熱温度とを適切に設定することによって、所望の数値範囲内に制御し得る。
【0016】
ポリエステル系樹脂基材の形成材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、イソフタル酸、シクロヘキサン環等を含む脂環式のジカルボン酸または脂環式のジオール等を含む共重合PET(PET-G)、その他ポリエステル、および、これらの共重合体やブレンド体等を用いることができる。なかでも、非晶質の(結晶化していない)PETまたは共重合PETを用いることが好ましい。これらの樹脂によれば、未延伸状態では非晶で高倍率延伸に適した優れた延伸性を有し、延伸、加熱により結晶化することで、耐熱性および寸法安定性を付与できる。さらに、未延伸の状態でPVA系樹脂を塗布、乾燥することが可能な程度の耐熱性を確保できる。
【0017】
ポリエステル系樹脂基材のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは170℃以下である。このようなポリエステル系樹脂基材を用いることにより、PVA系樹脂層の結晶化を抑制しながら、延伸性を十分に確保することができる。水によるポリエステル系樹脂基材の可塑化と、水中延伸を良好に行うことを考慮すると、120℃以下であることがさらに好ましい。1つの実施形態においては、ポリエステル系樹脂基材のガラス転移温度は、好ましくは60℃以上である。このようなポリエステル系樹脂基材を用いることにより、後述のPVA系樹脂を含む塗布液を塗布・乾燥する際に、ポリエステル系樹脂基材が変形(例えば、凹凸やタルミ、シワ等の発生)する等の不具合を防止することができる。また、積層体の延伸を、好適な温度(例えば、60℃~70℃程度)にて行うことができる。別の実施形態においては、PVA系樹脂を含む塗布液を塗布・乾燥する際に、ポリエステル系樹脂基材が変形しなければ、60℃より低いガラス転移温度であってもよい。なお、ガラス転移温度(Tg)は、JIS K 7121に準じて求められる値である。
【0018】
1つの実施形態においては、ポリエステル系樹脂基材は、吸水率が0.2%以上であることが好ましく、さらに好ましくは0.3%以上である。このようなポリエステル系樹脂基材は水を吸収し、水が可塑剤的な働きをして可塑化し得る。その結果、水中延伸において延伸応力を大幅に低下させることができ、延伸性に優れ得る。一方、ポリエステル系樹脂基材の吸水率は、好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下である。このようなポリエステル系樹脂基材を用いることにより、製造時にポリエステル系樹脂基材の寸法安定性が著しく低下して、得られる積層体の外観が悪化するなどの不具合を防止することができる。また、水中延伸時に破断したり、ポリエステル系樹脂基材からPVA系樹脂層が剥離したりするのを防止することができる。なお、吸水率は、JIS K 7209に準じて求められる値である。
【0019】
ポリエステル系樹脂基材の厚みは、好ましくは10μm~200μm、さらに好ましくは20μm~150μmである。
【0020】
D.保護フィルム
偏光板10は、上記のとおり、偏光子12のポリエステル系樹脂基材11とは反対側に保護フィルムを有し得る。上記保護フィルムの形成材料としては、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース等のセルロース系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂等のエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、これらの共重合体樹脂等が挙げられる。保護フィルムの厚みは、好ましくは10μm~100μmである。
【0021】
E.易接着層
偏光板10は、上記のとおり、ポリエステル系樹脂基材11と偏光子12との間に易接着層を有し得る。易接着層は、実質的に易接着層形成用組成物のみから形成される層であってもよく、易接着層形成用組成物と偏光子の形成材料とが混合(相溶を含む)した層または領域であってもよい。易接着層が形成されていることにより、優れた密着性が得られ得る。易接着層の厚みは、0.05μm~1μm程度とすることが好ましい。易接着層は、例えば、偏光板の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することにより確認することができる。
【0022】
易接着層形成用組成物は、好ましくはポリビニルアルコール系成分を含む。ポリビニルアルコール系成分としては、任意の適切なPVA系樹脂が用いられ得る。具体的には、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコールが挙げられる。変性ポリビニルアルコールとしては、例えば、アセトアセチル基、カルボン酸基、アクリル基および/またはウレタン基で変性されたポリビニルアルコールが挙げられる。これらの中でも、アセトアセチル変性PVAが好ましく用いられる。アセトアセチル変性PVAとしては、下記一般式(I)で表わされる繰り返し単位を少なくとも有する重合体が好ましく用いられる。
【0023】
【化1】
【0024】
上記式(I)において、l+m+nに対するnの割合は、好ましくは1%~10%である。
【0025】
アセトアセチル変性PVAの平均重合度は、好ましくは1000~10000であり、好ましくは1200~5000である。アセトアセチル変性PVAのケン化度は、好ましくは97モル%以上である。アセトアセチル変性PVAの4重量%水溶液のpHは、好ましくは3.5~5.5である。
【0026】
易接着層形成用組成物は、目的等に応じて、ポリオレフィン系成分、ポリエステル系成分、ポリアクリル系成分等をさらに含み得る。好ましくは、易接着層形成用組成物は、ポリオレフィン系成分をさらに含む。
【0027】
上記ポリオレフィン系成分としては、任意の適切なポリオレフィン系樹脂が用いられ得る。ポリオレフィン系樹脂の主成分であるオレフィン成分としては、例えば、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン等の炭素数2~6のオレフィン系炭化水素が挙げられる。これらは単独で、または、二種以上組み合わせて用いることができる。これらの中でも、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1-ブテン等の炭素数2~4のオレフィン系炭化水素が好ましく、さらに好ましくはエチレンが用いられる。
【0028】
上記ポリオレフィン系樹脂を構成するモノマー成分のうち、オレフィン成分の占める割合は、好ましくは50重量%~95重量%である。
【0029】
上記ポリオレフィン系樹脂は、カルボキシル基および/またはその無水物基を有することが好ましい。このようなポリオレフィン系樹脂は水に分散し得、易接着層が良好に形成され得る。このような官能基を有するモノマー成分としては、例えば、不飽和カルボン酸およびその無水物、不飽和ジカルボン酸のハーフエステル、ハーフアミドが挙げられる。これらの具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸が挙げられる。ポリオレフィン系樹脂の分子量は、例えば5000~80000である。
【0030】
易接着層形成用組成物において、ポリビニルアルコール系成分とポリオレフィン系成分との配合比(前者:後者(固形分))は、好ましくは5:95~60:40、さらに好ましくは20:80~50:50である。ポリビニルアルコール系成分が多すぎると密着性が十分に得られないおそれがある。具体的には、偏光子をポリエステル系樹脂基材から剥離する際に要する剥離力が低下して、十分な密着性が得られないおそれがある。一方、ポリビニルアルコール系成分が少なすぎると得られる偏光板の外観が損なわれるおそれがある。具体的には、易接着層の形成の際に、塗布膜が白濁する等の不具合が発生して、外観に優れた偏光板を得ることが困難となるおそれがある。
【0031】
易接着層形成用組成物は、好ましくは水系である。易接着層形成組成物は、有機溶剤を含み得る。有機溶剤としては、例えば、エタノール、イソプロパノール等が挙げられる。易接着層形成用組成物の固形分濃度は、好ましくは1.0重量%~10重量%である。
【0032】
易接着層形成用組成物の塗布方法としては、任意の適切な方法を採用することができる。易接着層形成用組成物の塗布後、塗布膜は乾燥され得る。乾燥温度は、例えば50℃以上である。
【0033】
F.偏光板の製造方法
本発明の偏光板の製造方法は、ポリエステル系樹脂基材の片側にPVA系樹脂層を形成して積層体とすること、積層体を、染色および延伸することによりPVA系樹脂層を偏光子とすること、および、延伸後に、ポリエステル系樹脂基材と偏光子との積層体を加熱処理することを含む。延伸浴の温度が67℃以下であり、かつ、加熱処理における最高加熱温度が102℃以上であるか、または、延伸浴の温度が69℃以下であり、かつ、加熱処理における最高加熱温度が105℃以上である。
【0034】
図2は、1つの実施形態に係る偏光板の製造工程を示す概略図である。本実施形態に係る偏光板の製造工程は、代表的には、ポリエステル系樹脂基材とPVA系樹脂層との積層体10’を、繰り出し部101から繰り出し、ロール111および112によってホウ酸水溶液の浴110中に浸漬した後(不溶化処理)、ロール121および122によって二色性物質(ヨウ素)およびヨウ化カリウムの水溶液の浴120中に浸漬する(染色処理)。次いで、ロール131および132によってホウ酸およびヨウ化カリウムの水溶液の浴130中に浸漬する(架橋処理)。次いで、積層体10’を、ホウ酸水溶液の延伸浴140中に浸漬しながら、速比の異なるロール141および142で縦方向(長手方向、搬送方向、MD方向)に張力を付与して延伸する(水中延伸処理)ことにより、PVA系樹脂層を偏光子とする。次いで、水中延伸した積層体10’を、ロール151および152によってヨウ化カリウム水溶液の浴150中に浸漬し(洗浄処理)、乾燥処理に供する(図示せず)。次いで、積層体10’を加熱手段160に入れて加熱する(加熱処理)ことにより、本実施形態の偏光板10が得られる。その後、得られた偏光板10を巻き取り部170にて巻き取る。図示は省略するが、積層体10’に不溶化処理を施す前に、空中延伸処理を施してもよい。なお、図2に示す製造工程は一例であり、上記の処理の回数、順序等は、特に限定されない。
【0035】
F-1.積層体の作製
ポリエステル系樹脂基材上にPVA系樹脂層を形成する方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。好ましくは、ポリエステル系樹脂基材上に、PVA系樹脂を含む塗布液を塗布し、乾燥することにより、PVA系樹脂層を形成する。1つの実施形態においては、ポリエステル系樹脂基材上に、易接着層形成用組成物を塗布し、乾燥することにより、易接着層を形成し、該易接着層上にPVA系樹脂層を形成する。
【0036】
上記ポリエステル系樹脂基材の形成材料は、上記C項で説明したとおりである。ポリエステル系樹脂基材の厚み(後述する延伸前の厚み)は、好ましくは20μm~300μm、より好ましくは50μm~200μmである。20μm未満であると、PVA系樹脂層の形成が困難になるおそれがある。300μmを超えると、例えば、水中延伸において、ポリエステル系樹脂基材が水を吸収するのに長時間を要するとともに、延伸に過大な負荷を要するおそれがある。
【0037】
上記塗布液は、代表的には、上記PVA系樹脂を溶媒に溶解させた溶液である。溶媒としては、例えば、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、各種グリコール類、トリメチロールプロパン等の多価アルコール類、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン等のアミン類が挙げられる。これらは単独で、または、二種以上組み合わせて用いることができる。これらの中でも、好ましくは、水である。溶液のPVA系樹脂濃度は、溶媒100重量部に対して、好ましくは3重量部~20重量部である。このような樹脂濃度であれば、ポリエステル系樹脂基材に密着した均一な塗布膜を形成することができる。1つの実施形態においては、上記塗布液はハロゲン化物を含む。上記ハロゲン化物としては、任意の適切なハロゲン化物が採用され得る。例えば、ヨウ化物および塩化ナトリウムが挙げられる。ヨウ化物としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、およびヨウ化リチウムが挙げられる。これらの中でも、好ましくは、ヨウ化カリウムである。塗布液におけるハロゲン化物の量は、好ましくは、PVA系樹脂100重量部に対して5重量部~20重量部であり、より好ましくは、PVA系樹脂100重量部に対して10重量部~15重量部である。PVA系樹脂100重量部に対するハロゲン化物の量が20重量部を超えると、ハロゲン化物がブリードアウトし、最終的に得られる偏光子が白濁する場合がある。ハロゲン化物を含むPVA系樹脂層とポリエステル系樹脂基材との積層体をホウ酸水中で延伸する前に空気中で高温延伸(補助延伸)することにより、補助延伸後のPVA系樹脂層中のPVA系樹脂の結晶化が促進され得る。その結果、PVA系樹脂層を液体に浸漬した場合において、PVA系樹脂層がハロゲン化物を含まない場合に比べて、ポリビニルアルコール分子の配向の乱れ、および配向性の低下が抑制され得る。これにより、最終的に得られる偏光子の光学特性を向上し得る。
【0038】
塗布液に、添加剤を配合してもよい。添加剤としては、例えば、可塑剤、界面活性剤等が挙げられる。可塑剤としては、例えば、エチレングリコールやグリセリン等の多価アルコールが挙げられる。界面活性剤としては、例えば、非イオン界面活性剤が挙げられる。これらは、得られるPVA系樹脂層の均一性や染色性、延伸性をより一層向上させる目的で使用され得る。また、添加剤としては、例えば、易接着成分が挙げられる。易接着成分を用いることにより、ポリエステル系樹脂基材とPVA系樹脂層との密着性を向上させ得る。その結果、例えば、ポリエステル系樹脂基材からPVA系樹脂層が剥がれる等の不具合を抑制して、後述の染色、水中延伸を良好に行うことができる。易接着成分としては、例えば、アセトアセチル変性PVAなどの変性PVAが用いられる。
【0039】
塗布液の塗布方法としては、任意の適切な方法を採用することができる。例えば、ロールコート法、スピンコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、ダイコート法、カーテンコート法、スプレーコート法、ナイフコート法(コンマコート法等)等が挙げられる。塗布液の塗布・乾燥温度は、好ましくは50℃以上である。
【0040】
上記PVA系樹脂層の厚み(後述する延伸前の厚み)は、好ましくは3μm~20μmである。
【0041】
PVA系樹脂層を形成する前に、ポリエステル系樹脂基材に表面処理(例えば、コロナ処理等)を施してもよいし、ポリエステル系樹脂基材上に易接着層形成用組成物を塗布(コーティング処理)してもよい。このような処理を行うことにより、ポリエステル系樹脂基材とPVA系樹脂層との密着性を向上させることができる。その結果、例えば、ポリエステル系樹脂基材からPVA系樹脂層が剥がれる等の不具合を抑制して、後述の染色および延伸を良好に行うことができる。
【0042】
F-2.空中延伸処理
空中補助延伸の延伸方法は、固定端延伸(たとえば、テンター延伸機を用いて延伸する方法)でもよいし、自由端延伸(たとえば、周速の異なるロール間に積層体を通して一軸延伸する方法)でもよい。一つの実施形態においては、空中延伸処理は、上記積層体をその長手方向に搬送しながら、熱ロール間の周速差により延伸する熱ロール延伸工程を含む。空中延伸処理は、代表的には、ゾーン延伸工程と熱ロール延伸工程とを含む。なお、ゾーン延伸工程と熱ロール延伸工程の順序は限定されず、ゾーン延伸工程が先に行われてもよく、熱ロール延伸工程が先に行われてもよい。ゾーン延伸工程は省略されてもよい。1つの実施形態においては、ゾーン延伸工程および熱ロール延伸工程がこの順に行われる。
【0043】
積層体の延伸温度は、ポリエステル系樹脂基材の形成材料、延伸方式等に応じて、任意の適切な値に設定することができる。空中延伸処理における延伸温度は、好ましくはポリエステル系樹脂基材のガラス転移温度(Tg)以上であり、さらに好ましくはポリエステル系樹脂基材のガラス転移温度(Tg)+10℃以上、特に好ましくはTg+15℃以上である。一方、積層体の延伸温度の上限は、好ましくは170℃である。このような温度で延伸することで、PVA系樹脂の結晶化が急速に進むのを抑制して、当該結晶化による不具合(例えば、延伸によるPVA系樹脂層の配向を妨げる)を抑制することができる。
【0044】
F-3.不溶化処理
上記不溶化処理は、代表的には、ホウ酸水溶液にPVA系樹脂層を浸漬することにより行う。不溶化処理を施すことにより、PVA系樹脂層に耐水性を付与することができる。当該ホウ酸水溶液の濃度は、水100重量部に対して、好ましくは1重量部~4重量部である。不溶化浴(ホウ酸水溶液)の液温は、好ましくは20℃~50℃である。好ましくは、不溶化処理は、上記水中延伸や上記染色処理の前に行う。
【0045】
F-4.染色処理
PVA系樹脂層の染色は、代表的には、PVA系樹脂層にヨウ素を吸着させることにより行う。当該吸着方法としては、例えば、ヨウ素を含む染色液にPVA系樹脂層(積層体)を浸漬させる方法、PVA系樹脂層に当該染色液を塗工する方法、当該染色液をPVA系樹脂層に噴霧する方法等が挙げられる。好ましくは、染色液にPVA系樹脂層(積層体)を浸漬させる方法である。ヨウ素が良好に吸着し得るからである。
【0046】
上記染色液は、好ましくは、ヨウ素水溶液である。ヨウ素の配合量は、水100重量部に対して、好ましくは0.1重量部~0.5重量部である。ヨウ素の水に対する溶解度を高めるため、ヨウ素水溶液にヨウ化物を配合することが好ましい。ヨウ化物の具体例は、上述のとおりである。ヨウ化物の配合量は、水100重量部に対して、好ましくは0.02重量部~20重量部、より好ましくは0.1重量部~10重量部である。染色液の染色時の液温は、PVA系樹脂の溶解を抑制するため、好ましくは20℃~50℃である。染色液にPVA系樹脂層を浸漬させる場合、浸漬時間は、PVA系樹脂層の透過率を確保するため、好ましくは5秒~5分である。また、染色条件(濃度、液温、浸漬時間)は、最終的に得られる偏光子の偏光度もしくは単体透過率が所定の範囲となるように、設定することができる。1つの実施形態においては、得られる偏光子の偏光度が99.98%以上となるように、浸漬時間を設定する。別の実施形態においては、得られる偏光子の単体透過率が40%~44%となるように、浸漬時間を設定する。
【0047】
染色処理は、任意の適切なタイミングで行い得る。好ましくは、水中延伸の前に行う。
【0048】
F-5.架橋処理
上記架橋処理は、代表的には、ホウ酸水溶液にPVA系樹脂層(積層体)を浸漬することにより行う。架橋処理を施すことにより、PVA系樹脂層に耐水性を付与することができる。当該ホウ酸水溶液の濃度は、水100重量部に対して、好ましくは1重量部~5重量部である。また、上記染色処理後に架橋処理を行う場合、さらに、ヨウ化物を配合することが好ましい。ヨウ化物を配合することにより、PVA系樹脂層に吸着させたヨウ素の溶出を抑制することができる。ヨウ化物の配合量は、水100重量部に対して、好ましくは1重量部~5重量部である。ヨウ化物の具体例は、上述のとおりである。架橋浴(ホウ酸水溶液)の液温は、好ましくは20℃~60℃である。好ましくは、架橋処理は水中延伸処理の前に行う。好ましい実施形態においては、空中延伸処理、染色処理および架橋処理をこの順で行う。
【0049】
F-6.水中延伸処理
偏光板の製造工程は、上記のとおり、積層体を延伸浴中で水中延伸処理することを含む。具体的には、上記積層体の延伸方向と平行な方向に水中延伸する。水中延伸によれば、上記ポリエステル系樹脂基材やPVA系樹脂層のガラス転移温度(代表的には、80℃程度)よりも低い温度で延伸し得、PVA系樹脂層を、その結晶化を抑えながら、高倍率に延伸することができる。その結果、優れた光学特性(例えば、偏光度)を有する偏光子を作製することができる。なお、本明細書において「平行な方向」とは、0°±5.0°である場合を包含し、好ましくは0°±3.0°、さらに好ましくは0°±1.0°である。
【0050】
水中延伸の延伸温度(延伸浴の液温)は、69℃以下であり、より好ましくは67℃以下である。延伸浴の液温の下限は、好ましくは40℃であり、より好ましくは50℃である。延伸浴の液温を上記の範囲内に設定することにより、後述の加熱処理における最高加熱温度とも相まって、ポリエステル系樹脂基材の耐久性指数を好ましい範囲内の値に調整することができる。さらに、上記のような温度であれば、PVA系樹脂層の溶解を抑制しながら高倍率に延伸することができる。具体的には、上述のように、ポリエステル系樹脂基材のガラス転移温度(Tg)は、PVA系樹脂層の形成との関係で、好ましくは60℃以上である。この場合、延伸温度が40℃を下回ると、水によるポリエステル系樹脂基材の可塑化を考慮しても、良好に延伸できないおそれがある。一方、延伸浴の温度が高温になるほど、PVA系樹脂層の溶解性が高くなって、優れた光学特性が得られないおそれがある。積層体の延伸浴への浸漬時間は、好ましくは15秒~5分である。
【0051】
水中延伸処理における延伸方法は、任意の適切な方法を採用することができる。具体的には、固定端延伸でもよいし、自由端延伸でもよい。積層体の延伸方向は、実質的には、上記空中延伸の延伸方向(長手方向)である。積層体の延伸は、一段階で行ってもよいし、多段階で行ってもよい。
【0052】
水中延伸は、好ましくは、ホウ酸水溶液中に積層体を浸漬して行う(ホウ酸水中延伸)。延伸浴としてホウ酸水溶液を用いることで、PVA系樹脂層に、延伸時にかかる張力に耐える剛性と、水に溶解しない耐水性とを付与することができる。具体的には、ホウ酸は、水溶液中でテトラヒドロキシホウ酸アニオンを生成してPVA系樹脂と水素結合により架橋し得る。その結果、PVA系樹脂層に剛性と耐水性とを付与して、良好に延伸することができ、優れた光学特性(例えば、偏光度)を有する偏光子を作製することができる。
【0053】
上記ホウ酸水溶液は、好ましくは、溶媒である水にホウ酸および/またはホウ酸塩を溶解させることにより得られる。ホウ酸濃度は、水100重量部に対して、好ましくは1重量部~10重量部である。ホウ酸濃度を1重量部以上とすることにより、PVA系樹脂層の溶解を効果的に抑制することができ、より高特性の偏光子を作製することができる。なお、ホウ酸またはホウ酸塩以外に、ホウ砂等のホウ素化合物、グリオキザール、グルタルアルデヒド等を溶媒に溶解して得られた水溶液も用いることができる。
【0054】
染色処理により、予め、PVA系樹脂層に二色性物質(代表的には、ヨウ素)が吸着されている場合、好ましくは、上記延伸浴(ホウ酸水溶液)にヨウ化物を配合する。ヨウ化物を配合することにより、PVA系樹脂層に吸着させたヨウ素の溶出を抑制することができる。ヨウ化物としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタン等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、ヨウ化カリウムである。ヨウ化物の濃度は、水100重量部に対して、好ましくは0.05重量部~15重量部、より好ましくは0.5重量部~8重量部である。
【0055】
上記ポリエステル系樹脂基材と水中延伸(ホウ酸水中延伸)とを組み合わせることにより、高倍率に延伸することができ、優れた光学特性(例えば、偏光度)を有する偏光子を作製することができる。具体的には、最大延伸倍率は、上記積層体の元長に対して(積層体の延伸倍率を含めて)、好ましくは5.0倍以上、より好ましくは5.5倍以上、さらに好ましくは6.0倍以上である。本明細書において「最大延伸倍率」とは、積層体が破断する直前の延伸倍率をいい、別途、積層体が破断する延伸倍率を確認し、その値よりも0.2低い値をいう。なお、上記ポリエステル系樹脂基材を用いた積層体の最大延伸倍率は、水中延伸を経た方が空中延伸のみで延伸するよりも高くなり得る。
【0056】
F-7.洗浄処理
洗浄処理は、代表的には、ヨウ化カリウム水溶液にPVA系樹脂層を浸漬することにより行う。乾燥処理における乾燥温度は、好ましくは30℃~100℃である。
【0057】
F-8.加熱処理
加熱処理は、水中延伸後に行われる。加熱処理により、ポリエステル系樹脂基材の結晶化が進行し得る。加熱処理は、代表的には加熱手段160内に配置された搬送ロールを加熱する(いわゆる熱ドラムロール(加熱ロール)を用いる)ことにより行う(熱ドラムロール加熱方式)。1つの実施形態においては、加熱手段160はオーブンであり、オーブン内に熱風を送風することによる加熱方式(オーブン加熱方式)を併用してもよい。熱ドラムロール加熱方式とオーブン加熱方式とを併用することにより、熱ドラムロール間での急峻な温度変化を抑制することができ、積層体10’の幅方向の収縮を容易に制御することができる。オーブンの炉内の温度は、好ましくは30℃~100℃である。また、オーブンによる加熱時間は、好ましくは1秒~300秒である。熱風の風速は、好ましくは10m/s~30m/s程度である。なお、当該風速はオーブン内における風速であり、ミニベーン型デジタル風速計により測定することができる。
【0058】
熱ドラムロールを用いて加熱することにより、カールを抑制して、外観に優れた偏光子を製造することができる。具体的には、熱ドラムロールに積層体10’を沿わせた状態で加熱することにより、上記ポリエステル系樹脂基材の結晶化を効率的に促進させて結晶化度を増加させることができ、比較的低い加熱温度であっても、ポリエステル系樹脂基材の結晶化度を良好に増加させることができる。その結果、ポリエステル系樹脂基材は、その剛性が増加して、加熱によるPVA系樹脂層の収縮に耐え得る状態となり、カールが抑制される。また、熱ドラムロールを用いることにより、積層体10’を平らな状態に維持しながら加熱できるので、カールだけでなくシワの発生も抑制することができる。
【0059】
加熱手段160内には、複数の熱ドラムロールが配置され得、各熱ドラムロールは異なる温度に設定され得る。加熱手段160内には、通常2個~20個、好ましくは4個~10個の熱ドラムロールが配置され得る。積層体10’と熱ドラムロールとの接触時間(総接触時間)は、好ましくは1秒~300秒である。熱ドラムロールの温度、熱ドラムロールの数、熱ドラムロールとの接触時間等を調整することにより、加熱条件を制御することができる。
【0060】
複数の熱ドラムロールのうち、最も高温に設定された熱ドラムロールの温度を「最高加熱温度」としたとき、最高加熱温度は、102℃以上であり、より好ましくは105℃以上であり、さらに好ましくは110℃以上である。最高加熱温度の上限は、好ましくは150℃であり、より好ましくは120℃である。加熱処理における最高加熱温度を上記の範囲内に設定することにより、水中延伸処理における延伸浴の温度とも相まって、ポリエステル系樹脂基材の耐久性指数を好ましい範囲内の値に調整することができる。なお、熱ドラムロールの温度は、接触式温度計により測定することができる。最高加熱温度に保たれた熱ドラムロールへの積層体の接触時間(最高加熱温度の熱ドラムロールが複数存在する場合には、合計接触時間)は、好ましくは0.2秒~2秒であり、より好ましくは0.5秒~2秒である。なお、「接触時間」とは、積層体上の任意の一点が、最高加熱温度に保たれた熱ドラムロールの外周面に接触してから離れるまでの時間を意味するものとする。
【0061】
G.画像表示装置
上記F項に記載の製造方法によって得られる上記A項からE項に記載の偏光板は、液晶表示装置などの画像表示装置に適用され得る。したがって、本発明は、上記偏光板を用いた画像表示装置を包含する。本発明の実施形態による画像表示装置は、上記A項からE項に記載の偏光板を備える。
【実施例
【0062】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお、各特性の測定方法および評価方法は以下の通りである。
(1)厚み
デジタルマイクロメーター(アンリツ社製、製品名「KC-351C」)を用いて測定した。
(2)耐久性指数
実施例および比較例で得られた偏光板のポリエステル系樹脂基材について、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)(Perkin Elmer社製、商品名「SPECTRUM2000」)を用いて、非偏光を測定光とする全反射減衰分光法(非偏光ATR法)のFT-IR測定により、1340cm-1の吸収強度および1410cm-1の吸収強度を測定し、耐久性指数を下記式により算出した。なお、ポリエステル系樹脂基材の延伸方向に対する赤外光の進行方向を90°とし、ポリエステル系樹脂基材に対する赤外光の入射角を45°として、上記吸収強度を測定した。
(耐久性指数)=(1340cm-1の吸収強度)/(1410cm-1の吸収強度)
(3)密着性評価
実施例および比較例で得られた長尺状の偏光板を150mm(MD方向)×200mm(TD方向)のサイズに切り取り、評価用サンプルとした。上記評価用サンプルの偏光子側を、アクリル系粘着剤を介してガラスに貼り合せ、60℃/90%Rhで500時間保管した後、評価用サンプルの端部におけるガラスからの剥がれの有無を確認した。また、評価用サンプルがガラスから剥がれていた場合には、剥がれた部分の長さを測定した。
【0063】
<実施例1>
ポリエステル系樹脂基材として、長尺状で非晶質のイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート(IPA共重合PET)フィルム(厚み:100μm、IPA変性度:5mol%)を用いた。(変性度=[エチレンイソフタレートユニット]/[エチレンテレフタレートユニット+エチレンイソフタレートユニット])
ポリエステル系樹脂基材の片面に、コロナ処理(処理条件:50W・min/m)を施し、このコロナ処理面に、アセトアセチル変性ポリビニルアルコール(PVA)(日本合成化学工業社製、商品名「ゴーセファイマーZ200」)の変性ポリオレフィン樹脂水性分散体(ユニチカ社製、商品名「アローベースSE1030N」)と純水を混合した混合液(固形分濃度4.0%)を、乾燥後の厚みが2000nmになるように塗布し、65℃で2分間乾燥し、下塗り層を形成した。ここで、混合液におけるアセトアセチル変性PVAと変性ポリオレフィンとの固形分配合比は30:70であった。次いで、下塗り層面に、PVA(重合度4200、ケン化度99.2モル%)90重量部およびアセトアセチル変性PVA(日本合成化学工業社製、商品名「ゴーセファイマーZ410」)10重量部で配合したPVA系樹脂と、PVA系樹脂100重量部に対して13重量部となるようにヨウ化カリウムを配合した水溶液を、25℃で塗布および60℃で3分間乾燥して、厚み13μmのPVA系樹脂層を形成した。こうして、積層体を作製した。
得られた積層体を、140℃のオーブン内で周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に2倍に自由端一軸延伸した(空中補助延伸)。
次いで、積層体を、液温40℃の不溶化浴(水100重量部に対して、ホウ酸を4重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(不溶化処理)。
次いで、液温30℃の染色浴(水100重量部に対して、ヨウ素を0.2重量部配合し、ヨウ化カリウムを1.5重量部配合して得られたヨウ素水溶液)に60秒間浸漬させた(染色処理)。
次いで、液温40℃の架橋浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを3重量部配合し、ホウ酸を5重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(架橋処理)。
その後、積層体を、ホウ酸水溶液(水100重量部に対して、ホウ酸を3重量部配合し、ヨウ化カリウムを5重量部配合して得られた水溶液)の延伸浴(延伸浴温度:67℃)に浸漬させながら、周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に2.75倍(総延伸倍率:5.5倍)に一軸延伸を行った(水中延伸処理)。
その後、積層体を液温30℃の洗浄浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを3.5重量部配合して得られた水溶液)に浸漬させた(洗浄処理)。
次いで、積層体を、80~110℃に保たれた複数の加熱ロールを有し、80℃に保たれたオーブンの中で、最高加熱温度である110℃に保たれた加熱ロールへの接触時間の合計が1秒となるようにして、加熱ロールを用いて搬送しながら加熱処理した。
このようにして、ポリエステル系樹脂基材上に厚み5μmの偏光子が積層された長尺状の偏光板1を得た。偏光板1のポリエステル系樹脂基材の耐久性指数は0.77であった。偏光板1を上記密着性評価に供したところ、ガラスからの剥がれは発生しなかった。
【0064】
<実施例2>
最高加熱温度を105℃、かつ接触時間の合計を1秒としたこと以外は実施例1と同様にして偏光板2を得た。偏光板2のポリエステル系樹脂基材の耐久性指数は0.67であった。偏光板2を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0065】
<実施例3>
最高加熱温度を102℃、かつ接触時間の合計を1秒としたこと以外は実施例1と同様にして偏光板3を得た。偏光板3のポリエステル系樹脂基材の耐久性指数は0.61であった。偏光板3を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0066】
<実施例4>
延伸浴温度が69℃である延伸浴を用いて積層体を水中延伸したこと、および、最高加熱温度を105℃、かつ接触時間の合計を1秒としたこと以外は実施例1と同様にして偏光板4を得た。偏光板4のポリエステル系樹脂基材の耐久性指数は0.62であった。偏光板4を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0067】
<比較例1>
最高加熱温度を100℃、かつ接触時間の合計を1秒としたこと以外は実施例1と同様にして偏光板5を得た。偏光板5のポリエステル系樹脂基材の耐久性指数は0.58であった。偏光板5を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0068】
<比較例2>
最高加熱温度を95℃、かつ接触時間の合計を1秒としたこと以外は実施例1と同様にして偏光板6を得た。偏光板6のポリエステル系樹脂基材の耐久性指数は0.49であった。偏光板6を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0069】
<比較例3>
炉内の温度を60℃に設定したこと、および、最高加熱温度を60℃、かつ接触時間の合計を1秒としたこと以外は実施例1と同様にして偏光板7を得た。偏光板7のポリエステル系樹脂基材の耐久性指数は0.39であった。偏光板7を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0070】
<比較例4>
最高加熱温度を102℃、かつ接触時間の合計を1秒としたこと以外は実施例4と同様にして偏光板8を得た。偏光板8のポリエステル系樹脂基材の耐久性指数は0.56であった。偏光板8を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0071】
<比較例5>
最高加熱温度を100℃、かつ接触時間の合計を1秒としたこと以外は実施例4と同様にして偏光板9を得た。偏光板9のポリエステル系樹脂基材の耐久性指数は0.54であった。偏光板9を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
表1から明らかなように、耐久性指数が0.60以上である偏光板は、高温高湿環境下に置いてもガラスからの剥がれが生じなかった。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の偏光板は、液晶表示装置、有機EL表示装置等の画像表示装置に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0075】
10 偏光板
11 ポリエステル系樹脂基材
12 偏光子
図1
図2