(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-07
(45)【発行日】2023-03-15
(54)【発明の名称】プレキャスト合成スラブ並びにプレキャスト合成スラブと梁材との接合方法及び接合構造
(51)【国際特許分類】
E04B 5/02 20060101AFI20230308BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20230308BHJP
【FI】
E04B5/02 C
E04B1/58 602
(21)【出願番号】P 2018086054
(22)【出願日】2018-04-27
【審査請求日】2021-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000006839
【氏名又は名称】日鉄建材株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000198787
【氏名又は名称】積水ハウス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090114
【氏名又は名称】山名 正彦
(74)【代理人】
【識別番号】100174207
【氏名又は名称】筬島 孝夫
(72)【発明者】
【氏名】石丸 亮
(72)【発明者】
【氏名】川上 寛明
(72)【発明者】
【氏名】中野 英行
(72)【発明者】
【氏名】小久保 隆博
(72)【発明者】
【氏名】海老沢 豊
(72)【発明者】
【氏名】柳沢 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】秦 智博
(72)【発明者】
【氏名】阿部 俊之
【審査官】兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】実開平06-014312(JP,U)
【文献】実開昭62-131513(JP,U)
【文献】特開2006-274564(JP,A)
【文献】実開平05-039764(JP,U)
【文献】特開平08-284299(JP,A)
【文献】特開平07-207794(JP,A)
【文献】実開昭62-187011(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 5/00-5/48
E04B 1/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
山部と谷部が傾斜部を介して交互に連なる波形鋼板にエンボスや鍵溝等の合成機構を施した合成スラブ用デッキプレート
と、前記デッキプレートの長さ方向両端部の下面
に設けられ、梁材へ接合するためのボルト孔を有する固定プレート
と、前記デッキプレート上に
打設されるコンクリート
とを有するプレキャスト合成スラブであって、
前記固定プレートは、その全長が前記デッキプレートの幅寸と略等しい長さで、前記デッキプレートの長さ方向両端部の前記谷部の下面に、前記デッキプレートの長さ方向両端部から突出することなく焼抜き栓溶接手段又はシアコネクタ接合手段で設けられていることを特徴とする、プレキャスト合成スラブ。
【請求項2】
前記固定プレートのボルト孔は、前記デッキプレートの山部の下方に位置する部位に設けられていることを特徴とする、請求項
1に記載したプレキャスト合成スラブ。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載のプレキャスト合成スラブの前記固定プレートを前記梁材の上面に設置し、前記固定プレートのボルト孔を利用して前記プレキャスト合成スラブと前記梁材とをボルト接合することを特徴とする、プレキャスト合成スラブと梁材との接合方法。
【請求項4】
請求項1
又は2に記載のプレキャスト合成スラブの前記固定プレートを前記梁材に梁受け金物を介して設置し、前記固定プレートのボルト孔を利用して前記プレキャスト合成スラブと梁受け金物とをボルト接合することより、前記プレキャスト合成スラブと梁材とを接合することを特徴とする、プレキャスト合成スラブと梁材との接合方法。
【請求項5】
請求項1
又は2に記載のプレキャスト合成スラブの前記固定プレートが前記梁材の上面に設置され、前記固定プレートのボルト孔を利用して前記プレキャスト合成スラブと前記梁材とがボルト接合されることを特徴とする、プレキャスト合成スラブと梁材との接合構造。
【請求項6】
請求項1
又は2に記載のプレキャスト合成スラブの前記固定プレートが前記梁材に梁受け金物を介して設置され、前記固定プレートのボルト孔を利用して前記プレキャスト合成スラブと梁受け金物とがボルト接合されることにより、前記プレキャスト合成スラブと梁材とが接合されることを特徴とする、プレキャスト合成スラブと梁材との接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、プレキャスト合成スラブの技術分野に属し、さらにいえば、従来から施工現場でコンクリートを打設するために用いられる波形鋼板にエンボスや鍵溝等の合成機構を施した合成スラブ用デッキプレートを用いて実現したプレキャスト合成スラブ、並びにプレキャスト合成スラブと梁材との接合方法及び接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
主に鉄骨造で使用される波形鋼板にエンボスや鍵溝等の合成機構を施した合成スラブ用デッキプレートは、デッキプレートが型枠の役割を果たし、また、コンクリート硬化後は引張鉄筋の役割も果たす合理的な施工を実現でき、スラブの軽量化が図れるなどメリットが多いことから、デッキプレートのなかでも6割程度のシェアを占める等、近年も需要が伸び続けている。
【0003】
その一方、現在実用化されているプレキャストスラブは、ALCパネル(軽量気泡コンクリート)や鉄筋コンクリート板が一般的であり、前記合成スラブ用デッキプレートを用いて実現したプレキャスト合成スラブの実施例は無い。せいぜい特許文献1に記載したような、前記合成スラブ用デッキプレートを用いてハーフ型のプレキャスト合成スラブを施工し、現場でコンクリートを打設する技術が開示されているに過ぎない。
ちなみに、この特許文献1に係るハーフ型のプレキャスト合成スラブは、同文献1の
図1、
図2等に示したように、プレキャスト合成スラブ本体(11)の長さ方向両端部及び幅方向両端部にそれぞれデッキプレート(12)の表面を露出させた接合用切欠部(14a、14b)を予め設けておくことにより、現場でのスラブ同士の接合作業(敷設作業)、スラブと梁(4)との接合作業を行う工夫が施されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1に係るプレキャスト合成スラブは、梁と接合するための接合用切欠部(14a)を予めわざわざ確保して製造する必要があった。また、梁(4)と接合する場合、前記接合用切欠部(14a)が形成するスペースを利用してスタッド(5)を溶接する等の溶接手段を導入する必要があった。さらには、前記接合用切欠部(14a)に後打ちコンクリートを行う必要もあった。
すなわち、前記特許文献1に係るプレキャスト合成スラブによると、接合用切欠部(14a)を形成することに伴う製造上の問題に加え、現場で溶接作業、及び後打ちコンクリート作業が必須となる等の作業上(施工上)の問題もあり、この点が解決すべき課題となっている。
【0006】
ちなみに、前記ALCパネル(軽量気泡コンクリート)を用いて床スラブを構築する場合は前記した課題は生じない。しかしながら、前記ALCパネル自体に水平剛性(特には地震等の面内せん断力)を負担させることができないので、梁間に水平ブレース(例えばアングルブレース)を張設する必要があり、経済的でなく、また、設備配管等の現場作業の障害となる点が従来から指摘されているところである。
【0007】
もっとも、集合住宅など、プレキャストスラブやALCパネルのような乾式工法を採用するような現場では、溶接など火気を使うことを嫌がり、ボルトやビス等の機械接合を用いることが多い。
【0008】
本発明は、上述した背景技術の課題に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、梁材との接合に際し、現場で溶接作業、及び後打ちコンクリート作業を行うことなく、ボルト接合を実現して施工性、経済性に非常に優れたプレキャスト合成スラブ、並びにプレキャスト合成スラブと梁材との接合方法及び接合構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための手段として、請求項1に記載した発明に係るプレキャスト合成スラブは、山部と谷部が傾斜部を介して交互に連なる波形鋼板にエンボスや鍵溝等の合成機構を施した合成スラブ用デッキプレートと、前記デッキプレートの長さ方向両端部の下面に設けられ、梁材へ接合するためのボルト孔を有する固定プレートと、前記デッキプレート上に打設されるコンクリートとを有するプレキャスト合成スラブであって、
前記固定プレートは、その全長が前記デッキプレートの幅寸と略等しい長さで、前記デッキプレートの長さ方向両端部の前記谷部の下面に、前記デッキプレートの長さ方向両端部から突出することなく焼抜き栓溶接手段又はシアコネクタ接合手段で設けられていることを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載した発明は、請求項1に記載したプレキャスト合成スラブにおいて、 前記固定プレートのボルト孔は、前記デッキプレートの山部の下方に位置する部位に設けられていることを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載した発明に係るプレキャスト合成スラブと梁材との接合方法は、請求項1又は2に記載したプレキャスト合成スラブの前記固定プレートを前記梁材の上面に設置し、前記固定プレートのボルト孔を利用して前記プレキャスト合成スラブと前記梁材とをボルト接合することを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載した発明に係るプレキャスト合成スラブと梁材との接合方法は、請求項1又は2に記載のプレキャスト合成スラブの前記固定プレートを前記梁材に梁受け金物を介して設置し、前記固定プレートのボルト孔を利用して前記プレキャスト合成スラブと梁受け金物とをボルト接合することより、前記プレキャスト合成スラブと梁材とを接合することを特徴とする。
【0014】
請求項5に記載した発明に係るプレキャスト合成スラブと梁材との接合方法は、請求項1又は2に記載のプレキャスト合成スラブの前記固定プレートが前記梁材の上面に設置され、前記固定プレートのボルト孔を利用して前記プレキャスト合成スラブと前記梁材とがボルト接合されることを特徴とする。
【0015】
請求項6に記載した発明に係るプレキャスト合成スラブと梁材との接合方法は、請求項1又は2に記載のプレキャスト合成スラブの前記固定プレートが前記梁材に梁受け金物を介して設置され、前記固定プレートのボルト孔を利用して前記プレキャスト合成スラブと梁受け金物とがボルト接合されることにより、前記プレキャスト合成スラブと梁材とが接合されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るプレキャスト合成スラブ並びにプレキャスト合成スラブと梁材との接合方法及び接合構造によれば、以下の効果を奏する。
(1)プレキャスト合成スラブと梁材との接合を、前記プレキャスト合成スラブの固定プレートのボルト孔を利用したボルト接合で実現でき、溶接作業、及び後打ちコンクリート作業は不要となる。また、接合作業を機械的に行うことができ、溶接作業等に必要な熟練工も不要となる。よって、施工性、経済性に非常に優れている。
(2)前記ボルト接合作業は、合成スラブ用デッキプレートの山部の下方に形成された空間を有効利用して行うことができるので、納まりがよく至極合理的な接合作業を実現できる。
(3)プレキャスト合成スラブ(の前記デッキプレート)と固定プレートとを焼抜き栓溶接手段又はシアコネクタ接合手段(スタッド溶接手段を含む。)で接合すると、固定プレートと梁材とをボルト接合することで、プレキャスト合成スラブに生じた(入力された)地震等の面内せん断力を前記梁材に確実に伝達する構造を実現できる。よって、プレキャスト合成スラブに水平方向の荷重を負担させることができ、水平ブレースを設けなくても十分な水平剛性を確保する構造を実現できる。特に、前記シアコネクタ接合手段で実施する場合は(
図6参照)、シアコネクタとして用いるスタッド(図示例では頭付きスタッド)又は鉄筋等の金属の棒状部材が、コンクリートとの付着強度を高めるのに寄与するので、より強度・剛性に優れたプレキャスト合成スラブを実現できる。
(4)プレキャスト合成スラブは、ALCパネルと比し、全体重量も重いので、必然的に遮音性が向上し、居住性もアップする。また、耐火性能にも優れている。
(5)
図4、
図5に示したように、プレキャスト合成スラブを、梁受け金物を介在させることにより梁材の下フランジにボルトで接合することもできるので、スラブに段差を設ける等の構造設計にも柔軟に対応できる等、自在性にも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】Aは、本発明に係るプレキャスト合成スラブの実施例を示した部分斜視図であり、Bは、同正面図である。
【
図2】A、Bはそれぞれ、
図1に係るプレキャスト合成スラブのバリエーションを示した正面図である。
【
図3】本発明に係るプレキャスト合成スラブと梁材との接合要領を示した立面図である。
【
図4】本発明に係るプレキャスト合成スラブと梁材との接合要領を示した立面図である。
【
図5】本発明に係るプレキャスト合成スラブと梁材との接合要領を示した立面図である。
【
図6】Aは、
図1に係るプレキャスト合成スラブの異なる実施例を示した部分斜視図であり、Bは、同正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明に係るプレキャスト合成スラブ、並びにプレキャスト合成スラブと梁材との接合方法及び接合構造の実施例を図面にもとづいて説明する。
【0019】
本発明に係るプレキャスト合成スラブ1は、
図1等に示したように、山部20と谷部21が傾斜部22を介して交互に連なる波形鋼板にエンボスや鍵溝等の合成機構を施した合成スラブ用デッキプレート2(以下適宜、デッキプレート2と略す。)
と、前記デッキプレート2の長さ方向両端部(一端部は図示の便宜上省略)の下面
に設けられ、梁材5へ接合するためのボルト孔3aを有する固定プレート3
と、前記デッキプレート2上に
打設されるコンクリート4
とを有する。前記固定プレート3は、その全長が前記デッキプレート2の幅寸と略等しい長さで、前記デッキプレート2の長さ方向両端部の前記谷部21の下面に、前記デッキプレート2の長さ方向両端部から突出することなく焼抜き栓溶接手段又はシアコネクタ接合手段で設けられている。
すなわち、前記梁材5と前記固定プレート3、ひいてはプレキャスト合成スラブ1とがボルト接合自在な構成となっている。
なお、図示は省略するが、前記コンクリート4の内部には、ひび割れ防止のため、コンクリート4の上面からかぶり厚さ30mm程度の部位に溶接金網、異径鉄筋等のひび割れ拡大防止筋が配設されている。
【0020】
前記固定プレート3は、一例として、全長が前記デッキプレート2の幅寸と略等しい600mm程度、奥行が70mm程度、板厚が6mm程度の平鋼で実施されている。そして、前記デッキプレート2の各山部20(図示例では2箇所)の略中央部の下方に位置する部位に前記ボルト孔3aが穿設されている。
【0021】
前記合成スラブ用デッキプレート2について説明すると、このデッキプレート2は、山部20と谷部21とが傾斜部22を介して交互に連なり波形断面をなす鋼板で形成され、さらに前記谷部21に鍵溝を、前記傾斜部22に段部を備えた構成で実施されている。このデッキプレート2の寸法は、一例として、幅が600mm程度(2山タイプ)、高さ(山高)が50~75mm程度(図示例は50mm)、山部と谷部のトップ(平面部)の幅寸が115~125mm程度、板厚が1.0~1.6mm程度、全長(スパン長)が1.8~3.6m程度で実施されている。
なお、前記デッキプレート2の形態(形状、寸法)はこの限りではなく、設置面積、梁材(支持梁)5の設置間隔、構造上必要な強度等の構造設計に応じて適宜設計変更可能である。
【0022】
例えば、
図2Aに示したプレキャスト合成スラブ10のように、前記した2山タイプのデッキプレート2と一山タイプ(幅寸が300mm程度)のデッキプレート2’とを連結した(符号X部参照)合成デッキプレートを用い、その長さ方向両端部の下面に、当該合成デッキプレートの幅寸と略等しい長さの固定プレート3を固定すると共に、その上面にコンクリート4を打設してなる形態で実施することもできる。
また、
図2Bに示したプレキャスト合成スラブ10’のように、前記した2山タイプのデッキプレート2を2つ連結した(符号X部参照)合成デッキプレートを用い、その長さ方向両端部の下面に、当該合成デッキプレートの幅寸と略等しい長さの固定プレート3を固定すると共に、その上面にコンクリート4を打設してなる形態で実施することもできる。
ちなみに、
図2A、Bに係る固定プレート3は、その左端部が、
図1に係る固定プレート3とは異なり、デッキプレートの継手部の下方に存在しない構成で実施されているが、これは設計の自在性を勘案した結果に過ぎない。
【0023】
なお、
図1と
図2A、Bに例示した3種のプレキャスト合成スラブ1、10、10’のコンクリート厚は、もっとも薄い部分となる前記デッキプレート2の山部20の部位であっても少なくとも50mm(本実施例では65mm)を確保するように実施している。
【0024】
前記固定プレート3は、前記合成スラブ用デッキプレート2の長さ方向両端部の下面に、焼抜き栓溶接によって接合されている。
前記焼抜き栓溶接手段を採用する意義は、前記固定プレート3と前記デッキプレート2との接合強度を高くすることにより、ALCパネル敷設時に必要とされたアングルブレース等の水平ブレースを無用化することにある。
すなわち、前記固定プレート3を焼抜き栓溶接手段により前記デッキプレート2に高強度に溶接接合しておくことで、コンクリート4を打設して製造されたプレキャスト合成スラブ1(10、10’)は、前記梁材5上にボルト6接合手段で敷設することにより(
図3~
図5参照)、当該プレキャスト合成スラブ1(10、10’)に生じた地震等の面内せん断力を前記梁材5へ確実に伝達できる構造を実現できるので、その結果、水平ブレースの無用化を実現できるのである。
ちなみに、合成スラブは、前記デッキプレート2の山部20の上部に50mm以上のコンクリート厚があればアングルブレース以上の面内せん断力を負担することが一般的に知られている。前記プレキャスト合成スラブ1、10、10’の山部20の上部のコンクリート厚は、上記したように65mmもあるのでこの要件を満たしている。
【0025】
そして、梁材5(鉄骨梁)との接合方法は、
図3に示したように行う。
すなわち、上記した構成のプレキャスト合成スラブ1(10、10’)を、重機等により吊り支持し、所定部位から鉛直下方へ落とし込み(図中の矢印参照)、梁材5(H形鋼)の上フランジ5aの上面(の略中央部)に載置する。
前記上フランジ5aには予め、前記固定プレート3のボルト孔3aと芯が一致する位置にボルト孔5dが穿設されており、前記ボルト孔3aとボルト孔5dとの芯を一致させる位置決め作業を行う。
続いて、芯が一致した前記ボルト孔3a、5dにボルト6を上側から(又は下側から)通してナット7を締結することにより、前記固定プレート3を前記上フランジ5aの上面にボルト接合し、もって、前記プレキャスト合成スラブ1(10、10’)が梁材5(の上フランジ5a)にボルト接合される。
なお、ここでは、プレキャスト合成スラブ1(10、10’)の一端部のボルト接合作業について説明しているが、他端部のボルト接合作業についても上記したような同様の作業を行う。
【0026】
図4は、梁材5との接合方法の異なる実施例を示している。具体的に、この実施例は、クライアントの要望等によりスラブに段差を設けて構築する場合の施工例を示している。
この接合方法は、先ず、梁受け金物8として1本のアングル材8(図示例のサイズL-70×70×6mm)を採用し、前記梁材5の下フランジ5bに予め、前記アングル材8の鉛直面の背面側を溶接接合し、前記アングル材8の水平面を外方へ突き出した構成で一体化しておく。
次に、上記した構成のプレキャスト合成スラブ1(10、10’)を、重機等により吊り支持し、所定部位から鉛直下方へ落とし込み(図中の矢印参照)、前記アングル材8の水平面の上面に載置する。
前記アングル材8の水平面には予め、前記固定プレート3のボルト孔3aと芯が一致する位置にボルト孔8aが穿設されており、前記ボルト孔3aとボルト孔8aとの芯を一致させる位置決め作業を行う。
続いて、芯が一致した前記ボルト孔3a、8aに、ボルト6を上側から(又は下側から)通してナット7を締結することにより、前記固定プレート3を前記アングル材8にボルト接合し、もって、前記プレキャスト合成スラブ1(10、10’)が梁材5(の下フランジ5b)にボルト接合される。
なお、ここでは、プレキャスト合成スラブ1(10、10’)の一端部のボルト接合作業について説明しているが、他端部のボルト接合作業についても上記したような同様の作業を行う。
【0027】
図5は、
図4に示したような、スラブに段差を設けて構築する場合のバリエーションを示している。
この接合方法は、先ず、梁受け金物9としてアングル材(図示例のサイズL-70×70×6mm)を2本組み合わせて(背面同士を溶接接合して)断面略Z字状に形成したもの(以下、断面Z字金物9という。)を採用し、前記梁材5の下フランジ5bに予め、前記断面Z字金物9の上フランジを重ね合わせ、要所をボルト6とナット7を用いて接合し、前記断面Z字金物9の下フランジを外方へ突き出した構成で一体化しておく。
その後の作業は、
図4で説明した作業と略同様である。すなわち、上記した構成のプレキャスト合成スラブ1(10、10’)を、重機等により吊り支持し、所定部位から鉛直下方へ落とし込み(図中の矢印参照)、前記断面Z字金物9の下フランジの上面に載置する。
前記断面Z字金物9の下フランジには予め、前記固定プレート3のボルト孔3aと芯が一致する位置にボルト孔9aが穿設されており、前記ボルト孔3aとボルト孔9aとの芯を一致させる位置決め作業を行う。
続いて、芯が一致した前記ボルト孔3a、9aに、ボルト6を上側から(又は下側から)通してナット7を締結することにより、前記固定プレート3を前記断面Z字金物9にボルト接合し、もって、前記プレキャスト合成スラブ1(10、10’)が梁材5(の下フランジ5b)にボルト接合される。
なお、ここでは、プレキャスト合成スラブ1(10、10’)の一端部のボルト接合作業について説明しているが、他端部のボルト接合作業についても上記したような同様の作業を行う。
【0028】
前記
図3~
図5に基づいて説明したボルト接合作業は、共通して、前記デッキプレート2の山部20の下方と前記固定プレート3のボルト孔3aの上方とが形成する空間を有効利用して行うことができるので、納まりがよく至極合理的な接合作業を実現できる。
また、前記
図3~
図5に基づいて説明したボルト接合構造は、プレキャスト合成スラブ1(10、10’)の前記デッキプレート2(2’を含む)と固定プレート3とが焼抜き栓溶接手段で接合されているので、固定プレート3と梁材5とを上記
図3~
図5で説明したようにボルト接合することで、プレキャスト合成スラブ1(10、10’)に生じた地震等の面内せん断力を前記梁材5に確実に伝達する構造を実現できる。よって、プレキャスト合成スラブ1(10、10’)に水平方向の荷重を負担させることができ、水平ブレースを設けなくても十分な水平剛性を確保する構造を実現できる。
【0029】
以上に本発明の実施例を図面に基づいて説明したが、本発明は、図示例の限りではなく、その技術的思想を逸脱しない範囲において、当業者が通常に行う設計変更、応用のバリエーションの範囲を含むことを念のために言及する。
例えば、上記実施例では、アングルブレース等の水平ブレースを無用化するべく、前記固定プレート3は前記デッキプレート2、2’の長さ方向両端部の下面に焼抜き栓溶接手段で一体化して実施しているがこれに限定されない。
図6に示したように、シアコネクタ接合手段(スタッド溶接手段を含む。)でも同様に一体化して実施できる。前記シアコネクタとしては、鉄筋やスタッド等の金属の棒状部材が好適に用いられる。ちなみに図示例ではスタッドとして頭付きスタッド11を採用している。このシアコネクタ接合手段で実施する場合は、前記金属の棒状部材(図示例では頭付きスタッド)が、コンクリートとの付着強度を高めるのに寄与するので、より強度・剛性に優れたプレキャスト合成スラブを実現できる。
【0030】
また、図示例に係るプレキャスト合成スラブ1(10、10’)は、いわゆるフルプレキャスト合成スラブで実施しているが、勿論これに限定されず、ハーフ型のプレキャスト合成スラブでも同様に実施できる。前記デッキプレート2を用いている限り、同様の作用効果を奏するからである。
さらに、本発明は、本出願人が先に出願した特願2017-196851に係るプレキャスト合成スラブにも、予め前記固定プレート3を合成スラブ用デッキプレート等に(焼抜き栓溶接手段、シアコネクタ接合手段等により)接合しておくことで簡単に適用できる。
【符号の説明】
【0031】
1 プレキャスト合成スラブ
2 合成スラブ用デッキプレート
2’ 合成スラブ用デッキプレート
3 固定プレート
3a ボルト孔
4 コンクリート
5 梁材(H形鋼)
5a 上フランジ
5b 下フランジ
5c ウエブ
6 ボルト
7 ナット
8 梁受け金物(アングル材)
8a ボルト孔
9 梁受け金物(断面Z字金物)
9a ボルト孔
10 プレキャスト合成スラブ
10’ プレキャスト合成スラブ
11 頭付きスタッド
20 山部
21 谷部
22 傾斜部