(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-07
(45)【発行日】2023-03-15
(54)【発明の名称】乗物の音声システム及び音声出力方法
(51)【国際特許分類】
G10L 13/02 20130101AFI20230308BHJP
G10L 13/00 20060101ALI20230308BHJP
G10L 13/033 20130101ALI20230308BHJP
【FI】
G10L13/02 130Z
G10L13/00 100H
G10L13/033 101Z
(21)【出願番号】P 2018169349
(22)【出願日】2018-09-11
【審査請求日】2021-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】521431099
【氏名又は名称】カワサキモータース株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】衣畑 昌範
(72)【発明者】
【氏名】河合 大輔
(72)【発明者】
【氏名】寺井 昭平
(72)【発明者】
【氏名】河田 久之輔
(72)【発明者】
【氏名】志村 拡俊
【審査官】中村 天真
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-175558(JP,A)
【文献】特開2008-170980(JP,A)
【文献】特開2005-062713(JP,A)
【文献】特開2006-090988(JP,A)
【文献】特開2002-140800(JP,A)
【文献】特開平07-064594(JP,A)
【文献】特開2002-314637(JP,A)
【文献】特開平05-265466(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10L 13/00-25/93
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者が乗物外部に露出した状態で運転する乗物の音声システムであって、
騒音発生要因に関する情報に基づいて将来の騒音状態を推定する騒音推定部と、
前記推定された騒音状態に応じて、運転者に向けて出力する音声の出力タイミングを変更する音声制御部と、を備える、乗物の音声システム。
【請求項2】
前記音声制御部は、前記騒音推定部で推定される騒音レベルが所定値よりも大きくなると、音声の出力を保留させる、請求項
1に記載の乗物の音声システム。
【請求項3】
前記音声制御部は、前記騒音推定部で推定される騒音レベルが所定値未満になると予測される時点に到達すると、前記保留していた音声を音声出力器から出力させる、請求項
2に記載の乗物の音声システム。
【請求項4】
前記乗物が走行するロケーションの騒音発生情報を取得するロケーション騒音取得部を更に備え、
前記音声制御部は、前記ロケーション騒音取得部で求められた情報に基づいて、騒音レベルが前記所定値未満になると予測される時点を特定する、請求項
3に記載の乗物の音声システム。
【請求項5】
前記音声制御部は、前記騒音推定部で推定される騒音レベルが所定値以上になった場合には、音声出力の中止又は中断を行い、騒音レベルが前記所定値未満となった時点で音声出力を再生し直し又は再開させる、請求項1乃至
4のいずれかに記載の乗物の音声システム。
【請求項6】
前記音声制御部は、出力される音声の重要度に応じて前記所定値を変更する、請求項
5に記載の乗物の音声システム。
【請求項7】
運転者が乗物外部に露出した状態で運転する乗物の音声システムであって、
騒音発生要因に関する情報に基づいて将来の騒音状態を推定する騒音推定部と、
前記推定された騒音状態に応じて、運転者に向けて出力する音声の属性を変更する音声制御部と、を備え、
前記音声制御部は、前記推定された騒音状態に応じて、前記属性としての前記音声のセンテンス長さを決定する、乗物の音声システム。
【請求項8】
運転者が乗物外部に露出した状態で運転する乗物の音声出力方法であって、
騒音発生要因に関する情報に基づいて、運転者に向けて出力する音声の出力タイミングを変更する、乗物用の音声出力方法。
【請求項9】
運転者が乗物外部に露出した状態で運転する乗物の音声出力方法であって、
騒音発生要因に関する情報に基づいて、運転者に向けて出力する音声のセンテンス長さを決定する、乗物用の音声出力方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者が車両外部に露出した状態で運転する乗物の音声システム及び音声出力方法に関する。
【背景技術】
【0002】
運転者に対する各種案内を音声で行うシステムにおいて、周囲の騒音レベルを実測し、その入力された騒音の周波数特性に応じて特定の周波数を強調した音声を生成することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、運転者が車両外部に露出した状態で運転する車両、たとえば自動二輪車では、走行中に運転者が感じる騒音は比較的大きく、騒音の動的変化幅も激しい。騒音を実測する方法では、騒音の分析処理等が必要であるために音声生成に応答遅れが生じる。騒音の動的変化が激しい場合には、騒音取得に対する音声出力の遅延が生じることによって、運転者が聞き取りやすい音声の出力が遅れる場合がある。
【0005】
そこで本発明は、騒音に対する音声生成の応答遅れによる音声不適合を防止し、運転者が音声を聞き取りやすくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る乗物の音声システムは、運転者が乗物外部に露出した状態で運転する乗物の音声システムであって、騒音発生要因に関する情報に基づいて将来の騒音状態を推定する騒音推定部と、前記推定された騒音状態に応じて、運転者に向けて出力する音声の属性を変更する音声制御部と、を備える。
【0007】
前記構成によれば、騒音発生要因に関する情報に基づいて騒音状態を推定するので、騒音自体を検出する場合に比べて、将来の騒音状態を予測的に知ることができる。そのため、騒音状態の動的変化が激しい運転者露出型の乗物(開放乗物)においても、騒音に対する音声生成の応答遅れによる音声不適合を防止できる。これによって、運転者が音声を聞き取り易くしたり、音声が表す情報を認識し易くすることができる。
【0008】
前記騒音発生要因に関する情報は、乗物自体から発生する駆動音、乗物が走行することで生じる走行音、及び乗物周囲で生じる環境音の少なくとも1つの音の発生要因に関する情報であってもよい。
【0009】
前記構成によれば、運転者露出型の乗物における騒音発生要因として影響の大きい音に基づく騒音の状態を予測的に推定することができ、他の種類の騒音に比べて、運転者の聞き取り易さ向上の効果を高めることができる。
【0010】
前記騒音発生要因に関する情報は、前記駆動音、前記走行音及び前記環境音のうち、複数の音の発生要因に関する情報であってもよい。
【0011】
前記構成によれば、運転者露出型の乗物における騒音発生要因として影響の大きい複数の音の発生要因に基づいて騒音状態を予測的に推定することができ、運転者の聞き取り易さ向上の効果を更に高めることができる。
【0012】
前記騒音推定部は、前記騒音発生要因に関する情報に基づいて騒音レベルを推定し、前記音声制御部は、前記推定された騒音レベルに応じて前記音声の前記属性を変更する構成としてもよい。
【0013】
前記構成によれば、運転者による音声の聞き取りに大きく影響する騒音レベルを考慮して音声の属性を変更することで、運転者の聞き取り易さ向上の効果を高めることができる。
【0014】
前記騒音推定部は、前記騒音発生要因の時間変化に基づいて将来の騒音状態を推定し、前記音声制御部は、前記推定した将来の騒音レベルに応じて前記音声の前記属性を変更する構成としてもよい。
【0015】
前記構成によれば、予測する将来の騒音状態に基づくことで、音声生成にかかる遅延の影響を抑えることができ、運転者の聞き取り易さ向上の効果を高めることができる。
【0016】
前記騒音推定部は、運転者の車両操作に関する操作情報に基づいて前記騒音状態を推定する構成としてもよい。
【0017】
前記構成によれば、運転者の操作情報に基づくことで、乗物自体から発生する駆動音、乗物が走行することで生じる走行音の騒音変化を推測することができ、音声生成にかかる遅延の影響を抑えることができ、運転者の聞き取り易さ向上の効果を高めることができる。
【0018】
前記乗物が走行するロケーションの騒音発生情報を取得するロケーション騒音取得部を更に備え、前記騒音推定部は、前記ロケーションの騒音発生情報に応じて前記騒音状態を決定する構成としてもよい。
【0019】
前記構成によれば、車両が走行するロケーションに起因する騒音変化を考慮することにより、騒音をより好適に推定できる。
【0020】
前記音声制御部は、前記推定された騒音状態に応じて、前記属性としての前記音声のセンテンス長さを決定する構成としてもよい。
【0021】
前記構成によれば、音質を変化させる場合に比べて自然な音を維持することができ、運転者による音声の認識し易さを高めることができる。
【0022】
本発明の一態様に係る乗物の音声出力方法は、運転者が乗物外部に露出した状態で運転する乗物の音声出力方法であって、騒音発生要因に関する情報に基づいて、運転者に向けて出力する音声の属性を変更する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、騒音に対する音声生成の応答遅れによる音声不適合が防止され、運転者が音声を聞き取りやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】実施形態に係る自動二輪車の音声システムのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。
【0026】
図1は、実施形態に係る自動二輪車の音声システム1のブロック図である。音声システム1は、運転者が外部に露出した状態で運転する乗物(即ち、運転者露出型の乗物)に適当されるものであり、本実施形態では当該乗物の好適例として自動二輪車を例示する。
【0027】
音声システム1は、音声コントローラ2を備える。音声コントローラ2は、ハードウェア面において、プロセッサ、揮発性メモリ、不揮発性メモリ及びI/Oインターフェース等を有し、不揮発性メモリには所定の音声プログラムが保存されている。音声コントローラ2は自動二輪車に搭載された制御デバイスであってもよいが、本実施形態では、音声コントローラ2は自動二輪車に付随する携帯情報端末(例えば、スマートフォン)である。即ち、音声コントローラ2の前記プロセッサ、前記揮発性メモリ、前記不揮発性メモリ及び前記I/Oインターフェース等は、前記携帯情報端末に内蔵されたものであり、前記音声プログラムは、前記携帯情報端末にインストールされたアプリケーションプログラムである。前記携帯情報端末は、自動二輪車の運転者が所持してもよいし、自動二輪車のホルダに設置されてもよい。
【0028】
音声コントローラ2の入力側には音声入力器3が接続され、音声コントローラ2の出力側には音声出力器4が接続されている。音声入力器3は、例えばマイクロフォンである。音声出力器4は、例えばスピーカー又はイヤフォンである。音声コントローラ2に対する音声入力器3及び音声出力器4の接続は、無線接続(例えば、Bluetooth(登録商標))でも有線接続でもよい。
【0029】
音声コントローラ2は、ソフトウェア面において、音声認識部5、情報処理部6及び音声生成部7を有する。音声生成部7には、音源データ部8が接続される。音声認識部5、情報処理部6及び音声生成部7は、前記不揮発性メモリに保存された前記音声プログラムに基づいて前記プロセッサが前記揮発性メモリを用いて演算処理することで実現される。
【0030】
音声認識部5は、音声入力器3から入力された運転者が発する音声を認識し、テキストとしてデジタル化するものである。音声認識部5の音声認識には、公知の音声認識技術が用いられる。即ち、音声認識部5は、音響モデルを用いることにより、音声入力器3から入力された音声の特徴(例えば、周波数特性等)を音素に変換し、言語モデル(例えば、単語辞書や文法辞書)を用いることにより、その音素の組合せをテキスト(入力テキスト)に変換する。
【0031】
情報処理部6は、音声認識部5で認識された入力テキストに対して所定の処理を行い、出力テキスト(応答テキスト)を生成する。例えば、情報処理部6は、会話機能を提供する。具体的には、情報処理部6は、前記入力テキストに対して構文解析を行ってから意味解析を行い、入力テキストに対する出力テキストの決定ルールを有する会話エンジンを参照し、前記入力テキストの意味に最適な出力テキストを出力する。
【0032】
情報処理部6は、後述のCAN情報又はCAN情報以外に車両に搭載されるセンサの情報に基づく車両情報、GPSセンサ14等の位置情報、ナビゲーション情報、地図情報、天気情報等に対して、所定の処理を行い、運転者の発話より先に出力テキストを生成してもよい。このように、情報処理部6による音声生成タイミングは、予め定める任意のタイミングによって実現されてもよい。
【0033】
図1では情報処理部6が音声コントローラ2により実現される態様を図示したが、情報処理部6は、音声コントローラ2に通信ネットワーク(例えば、インターネット)を介して接続される外部コンピュータ(サーバ)により実現されてもよい。即ち、音声認識部5で認識された前記入力テキストを前記通信ネットワークを介して前記外部コンピュータに送信し、前記外部コンピュータが所定の処理を行って前記出力テキストを生成し、前記生成された出力テキストを前記通信ネットワークを介して音声コントローラ2に送信して音声生成部7に入力してもよい。また、音声認識部5及び/又は音声生成部7も同様に、音声コントローラ2により実現されてもよいし、外部コンピュータにより実現されてもよい。
【0034】
音声生成部7は、情報処理部6から入力された出力テキストを音に変換することで音声を生成し、その生成された音声を音声出力器4に出力させる。このようにして、運転者が音声入力器3に対して発話(入力音声)すると、音声認識部5、情報処理部6及び音声生成部7を介して音声出力器4から応答音声(出力音声)が運転者の耳に向けて返される。そのため、音声入力器3への音声入力から音声出力器4での音声出力までには、音声認識部5及び情報処理部6での処理時間により時間を要し、音声生成に応答遅れが生じる可能性がある。例えば、運転者からの音声入力内容を分析・把握したり、音声出力すべき適切な情報を検索・抽出したりすることで、音声生成に応答遅れが生じる場合がある。
【0035】
そこで以下詳述するように、音声コントローラ2は、運転者が音声及び/又は音声が表す情報を認識し易くするための機能を備える。
【0036】
音声コントローラ2は、そのI/Oインターフェースによって、自動二輪車に搭載された図示しない車両制御装置(ECU)と情報通信可能に接続されている。本実施形態では、音声コントローラ2のI/Oインターフェースと前記車両制御装置との夫々に無線送受信機が設けられ、音声コントローラ2と前記車両制御装置とは前記無線送受信機を介して互いの情報を送受信できる。例えば、音声コントローラ2は、前記無線送受信機を介して、自動二輪車に設けた各種センサの検出値、自動二輪車に設けたアクチュエータの動作指令値を取得することができる。本実施形態では、自動二輪車に搭載される各種の電装部品(アクチュエータ、センサ、制御装置を含む)が、車内通信ネットワークであるCAN通信規格に従ったバス接続回路によって接続される。自動二輪車に搭載される無線送受信機は、前記バス接続回路に介在して接続される。これによって、自動二輪車のバス接続回路によって送受信される情報であるCAN情報を、音声コントローラ2へも伝達することができる。例えば、各無線送受信機は、Bluetooth(登録商標)に従った規格に従って構成されることで、互いに情報を送受信可能となる。
【0037】
音声コントローラ2の入力側には、アクセルセンサ11、エンジン回転速度センサ12、車速センサ13、GPSセンサ14、地図情報データベース15及び天気情報取得器16が接続されている。アクセルセンサ11、エンジン回転速度センサ12及び車速センサ13は、自動二輪車に搭載されており、CANを介して音声コントローラ2に接続されている。GPSセンサ14は、自動二輪車に搭載されたものでもよいし、携帯情報端末(音声コントローラ2)に搭載されたものでもよい。地図情報データベース15及び天気情報取得器16は、自動二輪車に設けられたものでもよいし、携帯情報端末(音声コントローラ2)に設けられたものでもよいし、前記通信ネットワークを介して接続される外部コンピュータに設けられたものでもよい。
【0038】
アクセルセンサ11は、運転者が操作する自動二輪車のアクセルの操作量を検出する。即ち、アクセルセンサ11は、運転者の車両操作に関する操作情報としてアクセル操作量を検出する。エンジン回転速度センサ12は、自動二輪車のエンジンの回転速度を検出する。なお、エンジン回転速度センサ12は、自動二輪車の原動機が電動モータである場合には、電気モータの回転速度を検出する回転速度センサとしてもよいし、音声コントローラ2が回転速度センサの検出信号を参照しないものとしてもよい。車速センサ13は、自動二輪車の走行速度を検出するもので、例えば、自動二輪車の従動輪の回転速度を検出する。
【0039】
GPSセンサ14は、GPS(Global Positioning System)を利用して自動二輪車の位置を検出する。地図情報データベース15は、地図情報を有すると共に、地図上における位置と騒音関連物(例えば、高速道路、トンネル、石畳、砂利道等)の存在との関係を示す情報を有する。天気情報取得器16は、地図上の位置と天気の種類との関係を示す天気情報を外部情報源(例えば、天気情報サーバ)から通信ネットワークを介して取得する。
【0040】
音声コントローラ2は、ソフトウェア面において、ロケーション騒音取得部17、騒音推定部18及び音声制御部19を更に有する。ロケーション騒音取得部17、騒音推定部18及び音声制御部19は、前記不揮発性メモリに保存された前記音声プログラムに基づいて前記プロセッサが前記揮発性メモリを用いて演算処理することで実現される。
【0041】
ロケーション騒音取得部17は、GPSセンサ14、地図情報データベース15及び天気情報取得器16から受信した情報に基づいて、自動二輪車が走行するロケーションの騒音発生情報を求める。例えば、ロケーション騒音取得部17は、GPSセンサ14で検出される自車位置を地図情報データベース15に照合することで、地図上の自車位置及び自車位置からの進路上に前記騒音関連物が存在するか否かを判定する。ロケーション騒音取得部17は、前記騒音関連物が存在すると判定される場合には、前記騒音関連物(例えば、高速道路、トンネル、石畳、砂利道等)に起因する騒音状態(例えば、騒音のレベル及び周波数特性)を所定の規則(例えば、対応表等)に基づいて決定して騒音推定部18に出力する。
【0042】
騒音推定部18は、自動二輪車自体から発生する駆動音の発生要因と、自動二輪車が走行することで生じる走行音の発生要因と、自動二輪車の周囲で生じる環境音の発生要因とに関する情報に基づき、自動二輪車の運転者が感じる騒音の状態(例えば、レベル及び周波数特性)を推定する。ここで、騒音の発生要因は、検出される騒音自体ではなく、騒音の発生に影響する要因を意味する。
【0043】
自動二輪車自体から発生する駆動音の発生要因としては、運転者のアクセル操作量の増加、エンジン回転速度の増加等が挙げられる。自動二輪車が走行することで生じる走行音の発生要因としては、自動二輪車の走行速度の増加が挙げられる。自動二輪車の周囲で生じる環境音の発生要因は、自動二輪車の周囲環境の変化であり、例えば路面状態(例えば、石畳、砂利道等)の変化、トンネルや高速道路の存在、周囲走行する他の車両の音、雨音等が挙げられる。
【0044】
具体的には、騒音推定部18は、アクセルセンサ11、エンジン回転速度センサ12、車速センサ13及びロケーション騒音取得部17から出力される情報に基づいて騒音状態を推定する。騒音推定部18は、アクセルセンサ11で検出されるアクセル操作量の時間変化(増加傾向又は減少傾向)を参照することで、近い将来に乗物駆動音(例えば、エンジンの吸気音、燃焼爆発音、排気音、歯車衝突音、エンジン振動に起因する車体振動音等)が大きくなるか小さくなるか、近い将来に自動二輪車が走行することで生じる走行音(風切り音)が大きくなるか小さくなるか等を推定してもよい。即ち、騒音推定部18は、運転者の操作情報に基づくことで、自動二輪車自体から発生する駆動音、自動二輪車が走行することで生じる走行音等の騒音変化を事前に推測できる。
【0045】
前記乗物駆動音は、エンジンが駆動していれば走行停止状態でも乗物自体から発生する音であり、一般にエンジン回転速度に比例する。そのため、騒音推定部18は、所定の規則(例えば、エンジン回転速度と駆動音との対応関係を記述したテーブル等)に基づいて、エンジン回転速度センサ12で検出されるエンジン回転速度から現在のエンジンの駆動音を推定してもよい。具体的には、騒音推定部18は、エンジン回転速度が増加するにつれて、推定する騒音レベルを増加させてもよい。
【0046】
自動二輪車が走行することで生じる走行音(風切り音、ロードノイズ、走行振動に起因する車体振動音等)は、走行中であればエンジン停止状態でも発生する音であり、一般に自動二輪車の走行速度に比例する。そのため、騒音推定部18は、所定の規則(例えば、走行速度と走行音との対応関係を記述したテーブル等)に基づいて、車速センサ13で検出される走行速度から現在の走行音を推定してもよい。具体的には、騒音推定部18は、自動二輪車の走行速度が増加するにつれて、推定する騒音レベルを増加させてもよい。
【0047】
前記自動二輪車の周囲で生じる環境音は、自動二輪車の周囲環境の変化により発生する音である。そのため、騒音推定部18は、周囲環境(例えば、路面状態、トンネルや高速道路の存在、周囲走行する他の車両の音、雨音等)に関する情報に基づいて環境音を推定してもよい。具体的には、騒音推定部18は、環境音が大きくなる傾向に周囲環境が変化するにつれて、推定する騒音レベルを増加させてもよい。
【0048】
音声制御部19は、騒音推定部18で推定された騒音状態に応じて、音声生成部7で生成される音声の属性を変更する。音声の属性としては、周波数特性、センテンス長さ、音声出力器4による音声出力タイミング等が挙げられる。騒音に応じて、音声の属性を適切に変化させることで、騒音が生じているなかでも、生成した音声の情報を運転者に聞き取りやすくすることができる。
【0049】
例えば、音声制御部19は、騒音推定部18で推定される騒音レベルが大きくなるにつれて、音声生成部7に生成させる音声の周波数特性(例えば、音の高さ、音の長さ(スピード)、音色等)を変化させ、ロンバート効果に基づいて、運転者が聞き取り易い音声に調節する。また、音声制御部19は、騒音推定部18で推定される騒音の周波数特性に応じて、音声生成部7に生成される音声の周波数特性を変化させ、運転者が聞き取り易い音声に調節してもよい。
【0050】
音声制御部19は、騒音推定部18で推定される騒音レベルが大きくなるにつれて、音声生成部7で生成される音声のセンテンス長さを短縮化するように調節してもよい。これによれば、音声のセンテンス長さが長い場合に比べ、音声が意味する内容を運転者が認識し易くなる。また、騒音推定部18が騒音レベルの急上昇を予測した場合には、騒音レベルの減少を予測するまで、音声制御部19は音声出力を抑えるようにしてもよい。これによって、騒音レベルが高い状態での音声出力が抑えられることで、聞き漏らしを防ぐことができる。
【0051】
音声制御部19は、騒音推定部18で推定される騒音レベルが所定値よりも大きくなると、音声の出力タイミングを変更してもよい。即ち、音声制御部19は、騒音推定部18で推定される騒音レベルが所定値よりも大きくなると、音声生成部7に音声出力器4から音声を出力させるのを保留し、ロケーション騒音取得部17で求められた情報に基づいて近い将来に騒音レベルが所定値未満になると予測される時点を特定し、その時点に到達すると音声出力器4が保留していた音声を音声出力器4から出力させるようにしてもよい。これによれば、音質を自然な状態に維持しながらも、運転者が音声を認識し易くなる。
【0052】
なお、音声の出力開始後であっても、騒音レベルが所定値以上になった場合には、音声出力の中止又は中断を行い、騒音レベルが所定値未満となった時点で音声出力を再生し直し又は再開させてもよい。また、前記所定値は、出力される音声の重要度に応じて変更されてもよい。即ち、前記出力される音声の重要度が低い場合には、前記所定値を大きく(閾値を緩和)し、前記出力される音声の重要度が高い場合には、前記所定値を小さく(閾値を厳しく)するように、前記所定値を変更してもよい。
【0053】
以上に説明した構成によれば、騒音発生要因に関する情報に基づいて騒音状態を推定するので、騒音自体を検出する場合に比べて、騒音状態を予測的に知ることができる。そのため、騒音状態の動的変化が激しい自動二輪車等においても、騒音に対する音声生成の応答遅れによる音声不適合を防止できる。これによって、運転者が音声を聞き取り易くして、音声が表す情報を認識し易くすることができる。また、騒音レベルそのものを実測するのではなく騒音発生要因に関する情報に基づいて騒音レベルを推定するので、騒音を実測するための集音センサが無い場合も、運転者が音声情報を聞き取り易くすることができる。
【0054】
上述したように、騒音発生要因に関する情報に基づいて、騒音状態の将来の変化が推定されることが好ましい。推定した騒音状態の将来の時間変化に基づいて、音声の属性が変更されるとよい。例えば、音声生成の応答遅れにより、音声生成後の将来の騒音状態が大きくなることが推定される場合には、その遅れを考慮して音声が聞き取りやすいように音声の属性を変更する。更に具体的には、音声生成を生成するための応答時間を予め把握(例えば、事前設定または計測)し、推定される騒音の単位時間当たりの増加幅が予め定める増加閾値を超える場合には、応答時間経過後の騒音状が大きくなると推定して、騒音があっても聞きやすいように出力音声のレベルを高めるよう音声属性を変更させてもよい。また、推定された騒音の単位時間当たりの減少幅が予め定める減少閾値を超える場合には、応答時間経過後の騒音が小さくなると推定して、騒音があっても聞きやすいように出力音声のレベルを下げるよう音声属性を変更させてもよい。
【0055】
本実施形態では、騒音発生要因に関する情報は、運転者による出力音声の聞き取りやすさに影響するような時間的な騒音変化を生じる情報であるとよい。例えば、運転者の操作量を騒音発生要因に関する情報とすることで、騒音変化が実際の聞き取り易さに影響が生じる前に、騒音変化を予測することができる。例えば、アクセル操作量を変化させてから実際にエンジン回転数が変化するまでに時間的な遅れが生じることから、騒音(特に乗物の駆動音)として変化が生じる前に騒音変化を予測し、その予測に応じて音声属性を変化させることができる。また、運転者の操作量として、アクセル操作量のほか、ブレーキ操作、クラッチ操作、ギア操作などの操作開始・操作終了・操作の時間変化の情報を騒音推定に用いることができる。これらによっても、操作後の騒音変化を予測して、音声属性を変化させやすい。これらの運転者の操作量は、車両に設けられる既存のセンサによって検出することができる。
【0056】
また例えば、車両状態の時間変化を騒音発生要因に関する情報とすることで、騒音変化が実際の聞き取り易さに影響が生じる前に、騒音変化を予測することができる。車両状態としては、例えば、エンジン回転数の時間変化を用いることができる。エンジン回転数の時間変化が急上昇して所定値を越えた場合には、騒音(特に乗物の駆動音、走行音)の急上昇を予測することができる。このようにして急な騒音変化を予測して、予測に応じて音声属性を変化させてもよい。車両状態の時間変化として、エンジン回転数の時間変化のほか、スロットル開度、車速、前輪回転数、後輪回転数、加減速度、変速比などの時間変化、即ち、時間微分値を用いることができる。これらによっても騒音変化を予測して、音声属性を変化させることができる。これらの車両状態は、車両に設けられる既存のセンサによって検出することができる。
【0057】
また、走行経路と走行速度と予め記憶される路面状態とに基づいて、将来の騒音変化を予測し、予測に応じて出力音声の属性を変化させてもよい。トンネル進入が予測されたり、高速道路への進路変更が予測される場合には、予測される騒音変化に応じて、出力音声の属性を変化させてもよい。例えば、将来のトンネル進入、高速道路走行から騒音(特に環境音)が大きくなると予想して聞き取りやすく出力音声の属性を変化させてもよい。また天候の変化、例えば将来の雨天走行を予想して、予測に応じて出力音声の属性を変化させてもよい。
【0058】
本実施形態では、騒音発生要因に基づいて、駆動音、走行音および環境音の将来の音を予測し、その予測した騒音に基づいて、出力音声の属性を変更したが、駆動音、走行音及び環境音の少なくとも1つに基づいて、出力音声の属性を変更してもよい。好ましくは、駆動音、走行音及び環境音のうち複数の音の騒音発生要因に基づいて出力音声の属性を変更することで、総合的に騒音に基づいて音声属性を変化させることができる。
【0059】
また、将来の騒音の音圧レベルを対数値(デジベル)による騒音値に変換することで、運転者の認識する騒音として判断しやすい。更に、運転者の聞こえやすさを考慮して音の周波数ごとに補正した出力音声に変更することで、人間の聴覚として認識する騒音としてより判断しやすい。騒音レベルに応じて、音声の周波数特性を変化させることで、運転者の聞き取りやすい出力音声を生成することができる。なお、本実施形態では、騒音レベルに基づいて音声属性を変更したが、騒音レベル以外の音の指標に基づいて、音声属性を変更する場合も本発明に含まれる。
【0060】
また、自動二輪車は、騒音レベルを測定する集音センサを更に備えてもよい。これによって騒音レベルの検出精度を高めることができ、さらに聞き取りやすい音声情報を提供することができる。音声コントローラ2は、予め定める条件を満足する場合に運転者への情報発信のための音声生成が可能であればよく、運転者の発した音声を認識する機能や、公衆回線への通信機能がない場合も、本発明に含まれる。運転者露出型の乗物は、少なくとも運転者の頭部が、車体のボディによって覆われていない乗物を意味する。自動二輪車のほか、バギー車、小型滑走艇、雪上車、ボート、オープンカーなどにも本発明を好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 音声システム
17 ロケーション騒音取得部
18 騒音推定部
19 音声制御部