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▶ クラレ・ヨーロップ・ゲーエムベーハーの特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-07
(45)【発行日】2023-03-15
(54)【発明の名称】ポリビニルアセタール樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/48 20060101AFI20230308BHJP
【FI】
C08F8/48
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018179322
(22)【出願日】2018-09-25
(65)【公開番号】P2020050713
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-06-11
(73)【特許権者】
【識別番号】521358523
【氏名又は名称】クラレ・ヨーロップ・ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Kuraray Europe GmbH
【住所又は居所原語表記】Philipp-Reis-Strasse 4, 65795 Hattersheim am Main, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110001782
【氏名又は名称】弁理士法人ライトハウス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉山 雄太
(72)【発明者】
【氏名】森 健吾
(72)【発明者】
【氏名】徳田 佳弘
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル ヴェンツリック
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル ゲンスラー
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105399877(CN,A)
【文献】特開2003-226714(JP,A)
【文献】特開2004-256764(JP,A)
【文献】特開2004-217764(JP,A)
【文献】特開2008-050412(JP,A)
【文献】特開2005-060535(JP,A)
【文献】特開2003-335817(JP,A)
【文献】特開2008-285513(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00-246/00、301/00
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコールとアルデヒド類とを反応させてポリビニルアセタール樹脂を製造する方法において、
触媒の存在下、温度20~35℃で、ポリビニルアルコール溶液とアルデヒド類の混合溶液を混合器内で撹拌し、該混合溶液において生成するポリビニルアセタールの平均アセタール化度が10モル%未満の状態で、該混合溶液を連続的に反応器へ供給する工程(I);および
該反応器において、供給された混合溶液の温度を20~35℃に維持して、0.1~1.0時間、アセタール化反応を行った後、反応器内の温度を昇温して、さらにアセタール化反応を行う工程(II);
を含み、
工程(II)における反応器内の温度の昇温速度が0.50~1.0℃/分であり、昇温後にアセタール化反応を行う際の混合溶液の温度が50℃~80℃である、ポリビニルアセタール樹脂の製造方法。
【請求項2】
ポリビニルアルコール溶液とアルデヒド類の混合溶液が、予めポリビニルアルコール溶液と触媒を混合した溶液と、アルデヒド類とを混合することで得られる、請求項1に記載のポリビニルアセタール樹脂の製造方法。
【請求項3】
ポリビニルアルコール溶液中のポリビニルアルコールの濃度が10~20質量%である、請求項1または2に記載のポリビニルアセタール樹脂の製造方法。
【請求項4】
混合溶液を混合器内で、せん断速度600~2000[1/s]で撹拌する、請求項1~3のいずれかに記載のポリビニルアセタール樹脂の製造方法。
【請求項5】
混合器から反応器までの混合溶液の線速度が0.5~3.0[m/s]である、請求項1~4のいずれかに記載のポリビニルアセタール樹脂の製造方法。
【請求項6】
混合器から反応器までの混合溶液の平均滞留時間が5秒以内である、請求項1~5のいずれかに記載のポリビニルアセタール樹脂の製造方法。
【請求項7】
工程(I)の後、混合器から反応器への混合溶液の供給を停止する工程(III)を含む、請求項1~6のいずれかに記載のポリビニルアセタール樹脂の製造方法。
【請求項8】
工程(II)において、昇温後の混合溶液のアセタール化反応の反応時間が1~3時間である、請求項1~のいずれかに記載のポリビニルアセタール樹脂の製造方法。
【請求項9】
工程(II)において、生成するポリビニルアセタール樹脂の平均アセタール化度を65モル%以上とする、請求項1~のいずれかに記載のポリビニルアセタール樹脂の製造方法。
【請求項10】
得られるポリビニルアセタール樹脂の嵩密度が200kg/m以上であり、ナトリウムイオン含有量が40ppm以下である、請求項1~のいずれかに記載のポリビニルアセタール樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小型の混合器と大型の反応器を組み合わせたポリビニルアセタール樹脂の製造方法、および嵩密度の高い輸送性に優れた高品質樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアセタール樹脂は、様々な有機・無機基材に対する接着性や相溶性、有機溶剤への溶解性に優れており、例えば接着剤、各種インク、塗料、セラミック用バインダー、合わせガラス用中間膜、太陽電池用封止材などに利用されている。従来、ポリビニルアセタール樹脂は、反応器内にて、ポリビニルアルコール水溶液に、酸触媒とアルデヒド類を一括で加えてアセタール化反応を進行させ、その後、中和、水洗および乾燥を行うことにより製造される方法が一般的である。
【0003】
ポリビニルアセタール樹脂の製造方法として、予め反応器に仕込まれたポリビニルアルコール溶液と触媒の混合溶液にアルデヒド類を添加してアセタール化反応を行うバッチ方式が従来から採用されている。しかし、このバッチ方式では、反応器が大きくなると、反応の開始時にポリビニルアルコール溶液中にアルデヒド類や触媒が均一に分散されていないことがあり、アルデヒド類や触媒の濃度の違いが局所的に発生し、粗大粒子が発生するなど、得られるポリビニルアセタール樹脂の品質を低下させることがあった。
また、バッチ方式では、局所的な濃度の違いが発生することによる問題を回避するために、反応器に供給するポリビニルアルコール溶液の濃度を低くして、溶液の粘度を下げ、より短時間で均一にアルデヒド類、および触媒を分散させている。その結果、アセタール化反応の終了後に得られるポリビニルアセタール樹脂を含むスラリー中におけるポリビニルアセタール樹脂の濃度も低くなることがあった。
さらに、バッチ方式では、局所的な濃度の違いが発生することによる問題を回避するために、アルデヒド類および触媒が均一に分散するまでポリビニルアセタールの析出が起こらないように、反応器に原料を供給する際の温度を低くすることが行われていた。
【0004】
こうした品質や生産性の問題を解決するために、反応方法や製造方法に関する種々の提案がなされてきた。例えば高せん断力ミキサーを用いた連続プロセスにより高温下での反応を行う方法(特許文献1)、密閉反応器に連続的に原料を供給し、所定のアセタール化度に到達した反応物を、連続的に排出する工程を有する方法(特許文献2)、反応器に予め水、あるいは酸触媒を溶解した水溶液を仕込む方法(特許文献3)、マイクロ分散器、管型反応器および熟成反応器を用いた方法(特許文献4)などが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2012-524152号公報
【文献】特開2003-226714号公報
【文献】特開2004-217763号公報
【文献】中国特許出願公開第105399877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来から公知の方法や、上記の方法は、その生産性は高いが、触媒の洗浄除去が十分でなく、得られるポリビニルアセタール樹脂の品質に問題がある場合、あるいは、高い品質を有するポリビニルアセタール樹脂を得ることができるが、生産性が十分でない場合がある。また、商業スケールでの生産を考えた場合、樹脂による配管詰りの対策や、より高い嵩密度を有するポリビニルアセタール樹脂を製造することで輸送コストを下げることも望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、従来の製造方法から大幅に生産性が向上する、安定的な製造方法を見出し、かつ、本製造方法によって得られたポリビニルアセタール樹脂が、触媒の除去性に優れ、高い嵩密度を有することを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
本発明によれば、上記課題は、
[1]ポリビニルアルコールとアルデヒド類とを反応させてポリビニルアセタール樹脂を製造する方法において、
触媒の存在下、温度20~35℃で、ポリビニルアルコール溶液とアルデヒド類の混合溶液を混合器内で撹拌し、該混合溶液において生成するポリビニルアセタールの平均アセタール化度が10モル%未満の状態で、該混合溶液を連続的に反応器へ供給する工程(I);および、
該反応器において、供給された混合溶液のアセタール化反応を行う工程(II);
を含む、ポリビニルアセタール樹脂の製造方法;
[2]ポリビニルアルコール溶液とアルデヒド類の混合溶液が、予めポリビニルアルコール溶液と触媒を混合した溶液と、アルデヒド類とを混合することで得られる、前記[1]のポリビニルアセタール樹脂の製造方法;
[3]ポリビニルアルコール溶液中のポリビニルアルコールの濃度が10~20質量%である、前記[1]または[2]のポリビニルアセタール樹脂の製造方法;
[4]混合溶液を混合器内で、せん断速度600~2000[1/s]で撹拌する、前記[1]~[3]のいずれかのポリビニルアセタール樹脂の製造方法;
[5]混合器から反応器までの混合溶液の線速度が0.5~3.0[m/s]である、前記[1]~[4]のいずれかのポリビニルアセタール樹脂の製造方法;
[6]混合器から反応器までの混合溶液の平均滞留時間が5秒以内である、前記[1]~[5]のいずれかのポリビニルアセタール樹脂の製造方法;
[7]工程(I)の後、混合器から反応器への混合溶液の供給を停止する工程(III)を含む、前記[1]~[6]のいずれかのポリビニルアセタール樹脂の製造方法;
[8]工程(II)において、反応器内の温度を昇温速度0.50~1.0℃/分で昇温し、50℃~80℃で混合溶液のアセタール化反応を行う、前記[1]~[7]のいずれかのポリビニルアセタール樹脂の製造方法;
[9]工程(II)において、反応器内の温度を昇温し、昇温後の混合溶液のアセタール化反応の反応時間が1~3時間である、前記[1]~[8]のいずれかのポリビニルアセタール樹脂の製造方法;
[10]工程(II)において、生成するポリビニルアセタール樹脂の平均アセタール化度を65モル%以上とする、前記[1]~[9]のいずれかのポリビニルアセタール樹脂の製造方法;
[11]得られるポリビニルアセタール樹脂の嵩密度が200kg/m以上であり、ナトリウムイオン含有量が40ppm以下である、前記[1]~[10]のいずれかのポリビニルアセタール樹脂の製造方法;
[12]前記[1]~[11]のいずれかの製造方法で得られる、ポリビニルアセタール樹脂;
[13]嵩密度が200kg/m以上であり、比表面積が1.5~1.65m/gである、ポリビニルアセタール樹脂;
を提供することによって解決される。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリビニルアセタール樹脂の製造方法は、従来の製造方法に比べ生産性が高く、かつ、触媒の除去性に優れ、高い嵩密度を有するポリビニルアセタール樹脂を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、ポリビニルアルコールとアルデヒド類とを反応させてポリビニルアセタール樹脂を製造する方法において、触媒の存在下、温度20~35℃でポリビニルアルコール溶液とアルデヒド類の混合溶液を混合器内で撹拌し、該混合溶液において生成するポリビニルアセタールの平均アセタール化度が10モル%未満の状態で、該混合溶液を連続的に反応器へ供給する工程(I);および該反応器において、供給された混合溶液のアセタール化反応を行う工程(II);を含む、ポリビニルアセタール樹脂の製造方法に関する。
【0011】
本発明の製造方法では、ポリビニルアルコール溶液、触媒およびアルデヒド類を小型の混合器に連続的に供給して混合させた後に、この混合溶液を、混合器よりも大型の反応器に連続的に供給してアセタール化を行うため、アルデヒド類、触媒の局所的な濃度の違いが発生することなく、高品質のポリビニルアセタール樹脂を得ることができる。
【0012】
本発明の製造方法では、アルデヒド類や触媒の局所的な濃度の違いという問題は発生しないため、反応器に供給するポリビニルアルコール溶液の濃度を高くすることができる。そのため、バッチ方式と比べ、同じ大きさの反応器に供給できるポリビニルアルコールの量を増やすことが可能となる。その結果、本発明の製造方法によれば、同じ大きさの反応器を利用した場合であっても、バッチ方式よりもポリビニルアセタール樹脂の生産量を増やすことができる。
【0013】
本発明の製造方法では、アルデヒド類および触媒の局所的な濃度の違いという問題は発生しないため、バッチ方式と比べ、より高い温度で原料を反応器に供給することができる。本発明の製造方法によれば、より高い温度でアセタール化反応が進められるため、アセタール化反応の進行速度も速くなり、且つ、アセタール化反応を高温で行うための昇温時間も短くすることができる。結果として、従来のバッチ方式よりも短時間で、ポリビニルアセタール樹脂を製造することが可能となる。
【0014】
(工程(I))
工程(I)は、触媒の存在下、温度20~35℃で、ポリビニルアルコール溶液とアルデヒド類の混合溶液を混合器内で撹拌し、該混合溶液において生成するポリビニルアセタールの平均アセタール化度が10モル%未満の状態で、該混合溶液を連続的に反応器へ供給する工程である。
【0015】
ポリビニルアルコール溶液は、例えば撹拌槽などに水とポリビニルアルコールを仕込み、撹拌下で90℃以上に昇温して溶解させて得られる。得られたポリビニルアルコール溶液は、20~35℃まで冷却した後に、混合器へ供給される。
【0016】
ポリビニルアルコール溶液中のポリビニルアルコールの濃度は10質量%以上が好ましく、11質量%以上がより好ましく、13質量%以上がさらに好ましい。ポリビニルアルコールの濃度は20質量%以下が好ましく、16質量%以下がより好ましく、14質量%以下がさらに好ましい。ポリビニルアルコールの濃度が10質量%未満となると、ポリビニルアセタール樹脂の生産効率が低くなる傾向にある。ポリビニルアルコールの濃度が20質量%より高くなると、混合溶液の粘度が高くなるため、混合器内での混合能力が低下するおそれがある。また、圧力損失の増加を抑制すべく、反応器に供給される混合溶液の線速度を低下させると、混合溶液の平均滞留時間が長くなる傾向にある。
【0017】
ポリビニルアルコールの粘度平均重合度は100以上が好ましく、300以上がより好ましく、400以上がより好ましく、600以上がさらに好ましく、700以上が特に好ましく、750以上が最も好ましい。ポリビニルアルコールの粘度平均重合度が300未満となると、得られるポリビニルアセタール樹脂の溶融粘度が低下する傾向にある。また、ポリビニルアルコールの粘度平均重合度は5000以下が好ましく、3000以下がより好ましく、2500以下がさらに好ましく、2300以下が特に好ましく、2000以下が最も好ましい。ポリビニルアルコールの粘度平均重合度が5000を超えると、得られるポリビニルアセタール樹脂の成形が難しくなるおそれがある。
【0018】
なお、本発明のポリビニルアセタール樹脂の粘度平均重合度は原料となるポリビニルアルコールの粘度平均重合度と一致する。ポリビニルアルコールの粘度平均重合度はJIS K 6726に準じて測定され、上記したポリビニルアルコールの好ましい粘度平均重合度はポリビニルアセタール樹脂の好ましい粘度平均重合度と一致する。
【0019】
後述するように、得られるポリビニルアセタール樹脂のビニルアセテート単位の含有量は30モル%以下に設定することが好ましいため、ポリビニルアルコールのけん化度は70モル%以上が好ましく、95モル%以上がより好ましい。
【0020】
ポリビニルアルコールとしては、ビニルエステルと他の単量体との共重合体をけん化して得られるポリビニルアルコール系重合体を用いることもできる。ここで、該他の単量体としては、例えばエチレン、プロピレン、n-ブテン、イソブチレン等のα-オレフィン;アクリル酸およびその塩;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸i-プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸i-ブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシル等のアクリル酸エステル類;メタクリル酸およびその塩;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸i-プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸i-ブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシル等のメタクリル酸エステル類;アクリルアミド;N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンおよびその塩またはその4級塩、N-メチロールアクリルアミドおよびその誘導体等のアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンおよびその塩またはその4級塩、N-メチロールメタクリルアミドおよびその誘導体等のメタクリルアミド誘導体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、i-プロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、i-ブチルビニルエーテル、t-ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類;塩化ビニル、フッ化ビニル等のハロゲン化ビニル類;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン類;酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸およびその塩、そのエステルまたはその無水物;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニル等が挙げられる。
【0021】
アセタール化反応に用いる触媒は、酸触媒が好ましい。酸触媒としては、有機酸および無機酸のいずれも使用可能であり、例えば酢酸、パラトルエンスルホン酸、塩酸、硫酸、硝酸等が挙げられる。中でも塩酸、硫酸、硝酸が好ましく用いられる。例えば触媒として塩酸を水溶液として用いる場合、塩酸水溶液の濃度は10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましい。また、塩酸の濃度は25質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。
【0022】
ポリビニルアルコールのアセタール化反応に用いるアルデヒド類としては、炭素数1以上で、炭素数12以下のアルデヒドが好ましい。アルデヒド類の炭素数が12を超えると、アセタール化反応の反応性が低下し、反応中に樹脂のブロックが発生しやすくなり、ポリビニルアセタール樹脂の合成に困難を伴い易くなる。
【0023】
アルデヒド類としては、例えばホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n-ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、バレルアルデヒド、イソバレルアルデヒド、n-ヘキシルアルデヒド、2-エチルブチルアルデヒド、n-ヘプチルアルデヒド、n-オクチルアルデヒド、2-エチルヘキシルアルデヒド、n-ノニルアルデヒド、n-デシルアルデヒド、ベンズアルデヒド、シンナムアルデヒド等の脂肪族、芳香族、脂環式アルデヒドが挙げられる。中でも炭素数2以上で、炭素数6以下の脂肪族アルデヒドが好ましく、ブチルアルデヒドが特に好ましい。また、アルデヒドは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。更に、多官能アルデヒドやその他の官能基を有するアルデヒドなどを併用してもよい。
【0024】
工程(I)では、ポリビニルアルコール溶液、触媒およびアルデヒド類のそれぞれが、一定の供給速度で、混合器へ連続的に供給され、混合器内で撹拌されることで混合溶液が得られる。混合器に供給する前に配管内で不均一に反応が進行し、配管付着およびつまりが発生するおそれがあることから、予めポリビニルアルコール溶液と触媒を混合した溶液を調製し、該溶液とアルデヒド類を混合して、混合溶液とすることが好ましい。例えばポリビニルアルコール溶液と触媒をインラインミキサーで混合した溶液を混合器へ供給し、これとは別に、アルデヒド類を混合器へ供給することができる。このように、予めポリビニルアルコール溶液と触媒を混合した溶液を調製し、該溶液とアルデヒド類を混合して混合溶液とすることで、触媒が塩酸などの水溶液である場合に、ポリビニルアルコール溶液と触媒を混合した溶液の粘度が低くなりやすく、均一に混ざりやすくなる。
【0025】
また、予めポリビニルアルコール溶液とアルデヒド類を混合してもよく、例えばポリビニルアルコール溶液の調製槽に触媒、または、アルデヒド類を直接添加する方法、混合器の手前にスタティックミキサー等のインラインミキサーを設置し、連続的に一定割合で添加する方法などが挙げられる。
【0026】
ポリビニルアルコール溶液、触媒およびアルデヒド類の流量は、混合器の容積、混合器と反応器を接続する接続配管の配管径および配管長さに応じて、適宜変更することができる。ポリビニルアルコール溶液の混合器への流量に対する触媒溶液の混合器への流量の比である(触媒溶液の混合器への流量)/(ポリビニルアルコール溶液の混合器への流量)は0.05以上が好ましく、0.09以上がより好ましい。また、該流量の比は0.2以下が好ましく、0.17以下がより好ましい。該流量の比が0.2を超えると、得られるポリビニルアセタール樹脂中に残存する触媒量が多くなる傾向にあり、該流量の比が0.05より小さくなると、アセタール化反応の進行が遅くなる傾向にある。
【0027】
ポリビニルアルコール溶液の混合器への流量に対するアルデヒド類の混合器への流量の比である(アルデヒド類の混合器への流量)/(ポリビニルアルコール溶液の混合器への流量)は0.08以上が好ましく、0.09以上がより好ましい。また、該流量の比は0.12以下が好ましく、0.11以下がより好ましい。該流量の比が0.12を超えると、また、該流量の比が0.08より小さくなると、所望の物性を有するポリビニルアセタール樹脂を得られない場合がある。
【0028】
混合器内の混合溶液の温度は20℃以上であり、25℃以上が好ましく、27℃以上がより好ましい。混合器内の混合溶液の温度は35℃以下であり、34℃以下が好ましく、33℃以下がより好ましい。混合溶液の温度が20℃よりも低いと、原料粘度が高く、原料供給配管内の圧力損失が高くなるため、流量低下による供給時間が長時間化するおそれがある。また、反応速度が低下することでその後のバッチ反応の時間が長時間化するおそれがある。混合溶液の温度が35℃よりも高いと、反応途中で析出したポリビニルアセタール粒子の凝集により硬い粗大粒子が生成され、高い品質のポリビニルアセタール樹脂を得られない。また、ポリビニルアセタール粒子の凝集により、得られるポリビニルアセタール樹脂が多孔質とならず、アセタール反応化後に触媒を洗浄により除去しにくくなる。なお、混合器内で混合溶液についてアセタール化反応が進行することで反応熱が発生するが、熱交換器により、温度を20~35℃に維持することができる。
【0029】
混合溶液を混合器内で、せん断速度600[1/s]以上で撹拌することが好ましく、800[1/s]以上で撹拌することがより好ましく、900[1/s]以上で撹拌することがさらに好ましい。また、混合溶液を混合器内で、せん断速度2000[1/s]以下で撹拌することが好ましく、1600[1/s]以下で撹拌することがより好ましく、1100[1/s]以下で撹拌することがさらに好ましい。撹拌のせん断速度が600[1/s]未満となると、ポリビニルアルコール溶液中に触媒やアルデヒド類が均一に分散せずに、粗大粒子が発生しやすくなる傾向にある。撹拌のせん断速度が2000[1/s]より高くなると、1次粒子径の制御が困難になったり、せん断発熱による局所反応の進行から反応制御が困難となる傾向にある。撹拌のせん断速度を1000~2000[1/s]とする方法としては、ダイナミックミキサー、スタティックミキサーなどのインラインミキサーを用いて撹拌する方法が挙げられる。
【0030】
混合器の容積は、反応器の容積A[L]に対して、0.01A[L]以上が好ましく、0.05A[L]以上がより好ましい。混合器の容積は1A[L]以下が好ましく、0.5A[L]以下がより好ましい。混合器の容積が、0.01A[L]未満となると、混合器内での混合溶液の滞留時間が短くなり、原料が均一に分散しにくくなる傾向にある。混合器の容積が、1A[L]よりも大きいと、原料が混合器に供給されてから反応器に供給されるまでの混合溶液の平均滞留時間が長くなり、混合器や接続配管の詰まりの原因となることがある。
【0031】
該混合溶液が反応器に供給されるまでに、混合溶液において生成するポリビニルアセタールの平均アセタール化度は10モル%未満であり、8モル%未満が好ましく、6モル%未満がより好ましい。該混合溶液において生成するポリビニルアセタールの平均アセタール化度が、10モル%以上となると、嵩密度が高いポリビニルアセタール樹脂を得ることができなくなり、また、触媒を洗浄により除去しにくくなる。反応器に供給される前のポリビニルアセタールのアセタール化度を10モル%未満とする手段としては、例えば混合器の容積、並びに、混合器から反応器までの接続配管の配管径および配管長さを適切に調整する方法が挙げられる。
【0032】
混合器から反応器までの混合溶液の線速度(流速)は0.5[m/s]以上が好ましい。混合器から反応器までの混合溶液の線速度は3.0[m/s]以下が好ましく、2.7[m/s]以下がより好ましく、2.5[m/s]以下がさらに好ましい。混合器から反応器までの混合溶液の線速度が、0.5[m/s]未満となると、混合溶液が混合器から反応器に供給されるまでにアセタール化反応が相当程度進んでしまい、接続配管の詰まりの原因となることがある。混合器から反応器までの混合溶液の線速度が、3.0[m/s]を越えると、接続配管内での圧力損失が増加し、混合溶液を送液する送液ポンプでの負荷が大きくなり設備負担が大きくなる傾向にある。混合器から反応器までの混合溶液の線速度(流速)を0.5~3.0[m/s]とする手段としては、例えば接続配管の配管径および配管長さを適切に調整する方法が挙げられる。接続配管を細く、短くすることで、混合溶液の線速度が増す。
【0033】
混合器から反応器までの混合溶液の平均滞留時間は、混合器と反応器を接続する配管がある場合には、配管中を混合溶液が通過する時間も含む。混合器から反応器までの平均滞留時間は、混合溶液中に析出したポリビニルアセタール樹脂による配管詰まりおよび付着を抑制する観点から5秒以内が好ましく、3秒以内がより好ましい。原料が混合器に供給されてから反応器に供給されるまでの混合溶液の平均滞留時間を5秒以内とする手段としては、例えば混合器の容積、並びに、混合器から反応器までの接続配管の配管径および配管長さを適切に調整する方法が挙げられる。
【0034】
工程(I)の後、混合器から反応器への混合溶液の供給を停止する工程(III)を含むことが好ましい。反応器の容積に応じた適切な量の混合溶液が供給された後に、混合溶液の連続的な供給が停止される。
【0035】
(工程(II))
工程(II)は、反応器において該混合溶液のアセタール化反応を行う工程である。
【0036】
混合溶液のアセタール化反応を効率よく行う観点から、式(a):
0.01 ≦ V/(V+V’) ≦ 0.1 (a)
(式中、V[L]は予め反応器に仕込む水または触媒を溶解させた水溶液の体積を表し、V’[L]は工程(I)において反応器に供給する混合溶液の総体積を表す。)に従って、反応器内に予め水または触媒を溶解させた水溶液を仕込むことが好ましい。
【0037】
V/(V+V’)の下限値は0.01が好ましく、0.05がより好ましい。V/(V+V’)の上限値は0.1が好ましく、0.08がより好ましい。V/(V+V’)が前記範囲内であると、反応器内の混合状態や混合溶液の濃度が適切な範囲となり、反応効率に優れる。
【0038】
混合溶液のアセタール化反応を効率よく行う観点から、式(b):
0.03 ≦ V/v ≦ 0.3 (b)
(式中、V[L]は予め反応器に仕込む水または触媒を溶解させた水溶液の体積を表し、v[L/hr]は反応器に供給する混合溶液の単位時間当たりの体積を表す。)に従って、反応器内には予め水または触媒を溶解させた水溶液を仕込むことが好ましい。
【0039】
V/vの下限値は0.03が好ましく、0.05がより好ましい。V/vの値が下限値を下回ると、得られるポリビニルアセタール樹脂の品質低下を招いたり、圧力損失が大きくなることでプロセス負荷が大きくなるおそれがある。より具体的には、反応器に予め仕込む水の量が少ないと、撹拌翼による十分な撹拌ができず、混合溶液が固化するおそれがある。また、反応器への混合溶液の供給速度が速く、圧力損失が大きくなり、プロセス負荷が大きくなるおそれがある。
【0040】
V/vの上限値は0.3が好ましく、0.1がより好ましい。V/vの値が上限値を上回ると、生産性が低下するおそれがある。より具体的には、反応器に仕込む水の量が多く、混合溶液中のポリビニルアルコールの濃度が薄まり、生産性が低下するおそれがある。また、混合溶液の供給速度が遅くなることで、生産が低下するおそれがある。
【0041】
工程(II)においても、反応器内の混合溶液の温度を20℃以上に維持することが好ましく、25℃以上に維持することがより好ましく、27℃以上に維持することがさらに好ましい。また、反応器内の混合溶液の温度を35℃以下に維持することが好ましく、34℃以下に維持することがより好ましく、33℃以下に維持することがさらに好ましい。混合溶液の温度が20℃よりも低いと、アセタール化反応が十分に進行しにくくなる傾向にある。また、混合溶液の温度が35℃よりも高いと、反応途中で析出したポリビニルアセタール粒子の凝集により硬い粗大粒子が生成され、高い品質のポリビニルアセタール樹脂が得られないおそれがある。また、ポリビニルアセタール粒子の凝集により、得られるポリビニルアセタール樹脂が多孔質とならず、アセタール反応化後に触媒を洗浄により除去しにくくなる傾向にある。
【0042】
反応器内の混合溶液の温度を20~35℃に維持してアセタール化反応を行う時間は0.1時間以上が好ましく、0.3時間以上がより好ましい。また、また、反応器内の混合溶液の温度を20~35℃に維持してアセタール化反応を行う時間は1.0時間以下が好ましく、0.7時間以下がより好ましい。
【0043】
反応器内の混合溶液の温度を、0.1~1.0時間、20~35℃に維持した後、アセタール化反応を進行させるために、反応器内および混合溶液の温度を、所定の温度まで昇温させることが好ましい。反応器内の温度を昇温速度0.5℃/分以上で昇温することが好ましく、0.6℃/分以上で昇温することがより好ましく、0.7℃/分以上で昇温することがさらに好ましい。工程(II)において、反応器内の温度を昇温速度1.0℃/分以下で昇温することが好ましく、0.9℃/分以下で昇温することがより好ましく、0.8℃/分以下で昇温することがさらに好ましい。反応器内の温度の昇温速度が0.5℃/分より遅いと、反応器内の温度が所定の温度になるまでの時間が長くなり、生産効率が低下する傾向にある。反応器内の温度の昇温速度が1.0℃/分より速いと、粒子同士の合着が起こり、得られる樹脂が粗大化する傾向にある。
【0044】
工程(II)では、反応器内の温度を昇温した後、50℃以上で混合溶液のアセタール化反応を行うことが好ましく、58℃以上でアセタール化反応を行うことがより好ましく、65℃以上でアセタール化反応を行うことが、さらに好ましい。また、反応器内の温度を昇温した後、80℃以下で混合溶液のアセタール化反応を行うことが好ましく、77℃以下でアセタール化反応を行うことがより好ましく、75℃以下でアセタール化反応を行うことがさらに好ましい。アセタール化反応を行う際の昇温後の反応器内の温度が50℃未満であると、アセタール化反応の速度が十分ではなく、生産効率が低くなる傾向にある。昇温後の反応器内の温度が80℃より高くなると、粒子同士の合着が起こり、得られる樹脂が粗大化する傾向にある。
【0045】
工程(II)において、混合溶液を昇温した後のアセタール化反応の反応時間は1時間以上が好ましく、2時間以上がより好ましい。混合溶液のアセタール化反応の反応時間は3時間以内が好ましく、2.5時間以内がより好ましい。混合溶液のアセタール化反応の反応時間が1時間未満であると、アセタール化反応が十分に進行せずに、未反応のアルデヒド類が残存する場合がある。混合溶液のアセタール化反応の反応時間が3時間を超えると、生産効率が低くなる傾向にある。
【0046】
アセタール化反応が完結した後、中和、水洗および乾燥を行うことで、ポリビニルアセタール樹脂を粉末として得ることができる。アセタール化反応後にポリビニルアセタール樹脂中に残存するアルデヒド類および触媒を除去する方法としては、公知の方法が挙げられる。触媒として酸触媒を用いた場合、ポリビニルアセタール樹脂は、アルカリ化合物により中和されるが、中和前に、ポリビニルアセタール樹脂中に残存するアルデヒド類をできるだけ除去しておくことが好ましい。中和前にアルデヒド類を除去する方法としては、アルデヒド類の反応率が高くなる条件で反応を追い込む方法、水または水/アルコール混合溶媒等により十分に洗浄する方法、化学的にアルデヒド類を処理する方法が有用である。
【0047】
アルデヒド類を除去するために、水または水/アルコール混合溶媒等により洗浄する場合は、ポリビニルアセタール樹脂の樹脂量の3倍以上の水または水/アルコール混合溶媒でアルデヒド類の洗浄を繰り返すことが好ましく、樹脂量の5倍以上の水または水/アルコール混合溶媒で洗浄を繰り返すことがより好ましい。洗浄は、3回以上繰り返すことが好ましい。
【0048】
ポリビニルアセタール樹脂の中和に使用されるアルカリ化合物としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;アンモニア;トリエチルアミン、ピリジン等のアミン系化合物が挙げられる。中でも、水洗により容易に除去できる観点から、アルカリ金属水酸化物が好ましい。
【0049】
中和に用いる水酸化ナトリウムなどのアルカリ中和剤は酸触媒と反応して金属塩を生成し、ポリビニルアセタール樹脂の特性、例えば透明性、耐湿性、電気絶縁性などを損なうおそれがある。中和により発生する金属塩を除去する方法としては、アルデヒド類の除去と同様に、水または水/アルコール混合溶媒等により洗浄を繰り返すことが好ましい。この場合、洗浄に用いる水または水/アルコール混合溶媒の量はポリビニルアセタール樹脂の樹脂量の3倍以上が好ましく、4倍以上がより好ましく、5倍以上がさらに好ましい。洗浄は4回以上繰り返すことが好ましく、6回以上繰り返すことがより好ましい。
【0050】
(ポリビニルアセタール樹脂)
ポリビニルアセタール樹脂は、通常、ビニルアセタール単位、ビニルアルコール単位およびビニルアセテート単位から構成されており、ポリビニルアセタール樹脂中のこれらの各単位の含有量は、例えばJIS K 6728「ポリビニルブチラール試験方法」や核磁気共鳴法(NMR)によって測定することができる。
【0051】
ポリビニルアセタール樹脂が、ビニルアセタール単位以外の単位を含む場合は、ビニルアルコールの単位量とビニルアセテートの単位量を測定し、これらの両単位量をビニルアセタール単位以外の単位を含まない場合のビニルアセタール単位量から差し引くことで、残りのビニルアセタール単位量を算出することができる。
【0052】
ポリビニルアセタール樹脂中のビニルアルコール単位の含有量は15モル%以上が好ましく、20モル%以上がより好ましく、25モル%以上がさらに好ましい。また、ポリビニルアセタール樹脂中のビニルアルコール単位の含有量は50モル%以下が好ましく、40モル%以下がより好ましく、30モル%以下がさらに好ましい。
【0053】
ポリビニルアセタール樹脂のビニルアセテート単位の含有量は30モル%以下が好ましい。ビニルアセテート単位の含有量が30モル%を超えると、ポリビニルアセタール樹脂の製造時に粒子同士の合着を起こしやすくなるため、製造しにくくなる。ビニルアセテート単位の含有量は20モル%以下が好ましく、8モル%以下がより好ましく、4モル%以下がさらに好ましく、1モル%以下が特に好ましい。
【0054】
ポリビニルアセタール樹脂の平均アセタール化度は65モル%以上が好ましく、70モル%以上がより好ましい。ポリビニルアセタール樹脂の平均アセタール化度は90モル%以下が好ましく、85モル%以下がより好ましく、80モル%以下がさらに好ましい。ポリビニルアセタール樹脂の平均アセタール化度が65モル%未満となると、例えば、安全ガラス用の中間膜として用いた場合に十分な強度のフィルムを得られないおそれがある。
【0055】
得られるポリビニルアセタール樹脂の粒子径は500μm以下が好ましく、300μm以下がより好ましく、100μm以下がさらに好ましい。ポリビニルアセタール樹脂の粒子径が50μm未満となると、得られる樹脂が洗浄工程で排水に含まれたり、乾燥工程で排ガスに含まれたりするおそれがある。
【0056】
本発明の製造方法により、高い嵩密度を有するポリビニルアセタール樹脂を得ることができる。得られるポリビニルアセタール樹脂の嵩密度は150kg/m以上が好ましく、180kg/m以上がより好ましく、200kg/m以上がさらに好ましく、230kg/m以上が特に好ましい。嵩密度が上記範囲であると、得られるポリビニルアセタール樹脂の輸送性に優れる。
【0057】
得られるポリビニルアセタール樹脂の比表面積は1.5m/g以上が好ましく、1.52m/g以上がより好ましく、1.6m/g以上がさらに好ましい。また、比表面積は1.65m/g以下が好ましい。本発明のポリビニルアセタール樹脂の製造方法により得られるポリビニルアセタール樹脂は多孔質の粉末であり、大きな比表面積を有するものであり、触媒の除去性に優れる。
【0058】
得られるポリビニルアセタール樹脂のナトリウムイオン含有量は40ppm以下が好ましく、25ppm以下がより好ましく、15ppm以下がさらに好ましい。得られるポリビニルアセタール樹脂のナトリウムイオン含有量が40ppmを超えると、ポリビニルアセタール樹脂をフィルムやシートとして用いた場合などに、フィルムやシートが吸湿し白化することがある。
【0059】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0060】
(実施例1)
20kgの撹拌槽に純水13.84kgとけん化度99モル%のポリビニルアルコール(粘度平均重合度 1700)2.16kgを仕込み、撹拌条件下で約95℃まで加温することで溶解を完了させることで、13.5質量%のポリビニルアルコール水溶液を調整した。
【0061】
原料供給開始前に、予め反応器に純水を0.4L仕込み、撹拌を開始した。次いで、得られたポリビニルアルコール水溶液を30℃まで冷却し、濃度16質量%の塩酸とインライン混合した後に、連続的に混合器への供給を開始した。同時に、ブチルアルデヒド(純度:>99.5%)も別のラインから連続的に混合器への供給を開始し、混合器内で3液の混合溶液の撹拌を開始した。ポリビニルアルコール水溶液、塩酸およびブチルアルデヒドの流量はそれぞれ3.9L/h、0.5L/hおよび0.4L/hとし、混合器のせん断速度は977[1/s]とした。混合器内で混合された混合溶液は、連続的に反応器へ供給された。混合器から反応器までの混合溶液の線速度は、0.6[m/s]であり、混合器から反応器までの混合溶液の平均滞留時間は3秒であった。全ての混合溶液を反応器へ供給するために要した時間は1.5時間であった。なお、反応器の容積に対する混合器の容積の比は0.13であった。全てのポリビニルアルコール溶液が混合器へ供給されると、塩酸およびブチルアルデヒドの混合器への供給を停止した。混合器へ供給された原料からなる混合溶液の全てが反応器へ供給されると、混合溶液の反応器への供給を停止した。なお、これらの原料を混合器へ供給し、反応器へ混合溶液を供給する間、熱交換器により混合器の温度を30℃に維持した。混合器から反応器へ供給される直前で、混合溶液の一部をサンプリングして測定したところ、反応器直前での混合溶液の平均アセタール化度は5モル%であった。
【0062】
反応器への混合溶液の供給を完了した後、反応器において、ジャケット冷却により混合器の温度を30℃に30分間維持したまま、撹拌を行った。30分が経過した後に混合溶液の昇温(0.8℃/分)を開始し、71℃、2時間の条件でアセタール化反応を行った。実施例1では、V/vは0.08であり、V/(V+V’)は0.05である。その後、反応液を取り出し、濃度25質量%となるまで脱水した後、得られた樹脂量の5倍の純水で塩酸の脱水洗浄を3回繰り返した。次いで、濃度10質量%の水酸化ナトリウム水溶液を添加し、pHを10から10.5として中和した。再び樹脂量の5倍の純水で塩の脱水洗浄を3回繰り返し、乾燥することでポリビニルブチラール樹脂を得た。
【0063】
(評価)
[アセタール化度]
反応器に供給される直前の混合溶液中のポリビニルブチラール樹脂、および、最終的に得られたポリビニルブチラール樹脂のアセタール化度をIR元素分析法により測定した。結果を表1に示す。
【0064】
[粒子径]
ポリビニルブチラール樹脂の粒子径をレーザ回折式粒度分布測定装置(マスターサイザー 3000E、マルバーン社製)により測定した。結果を表1に示す。
【0065】
[比表面積]
ポリビニルブチラール樹脂のBET比表面積をBET1点法比表面積測定装置(MONOSORB、カンタクローム社製)により測定した。結果を表1に示す。
【0066】
[残留ナトリウムイオン濃度]
ポリビニルブチラール樹脂中の残存ナトリウムイオン含有量をICP発光分析法により測定した。結果を表1に示す。
【0067】
[凝集粒子の評価]
ポリビニルブチラール樹脂の粒子径測定の際に得られた1mm以上の粗大粒子の割合、形状および硬さを評価した。なお、形状については、球状か不定形、硬さについては指で容易に粉砕できるか否かとした。
【0068】
(実施例2)
混合器のせん断速度を1222[1/s]としたこと以外は、実施例1と同様にして、ポリビニルブチラール樹脂を得た。得られたポリビニルブチラール樹脂の各種評価を、実施例1と同様に行った。評価結果を表1に示す。
【0069】
(実施例3)
20kgの撹拌槽に純水14.24kgとけん化度99モル%のポリビニルアルコール(粘度平均重合度 1700)1.76kgを仕込み、撹拌条件下で約95℃まで加温して溶解させることで、11.0質量%のポリビニルアルコール水溶液を調製した。得られたポリビニルアルコール水溶液を用いたこと以外は実施例2と同様にして、ポリビニルブチラール樹脂を得た。得られたポリビニルブチラール樹脂の各種評価を、実施例1と同様に行った。評価結果を表1に示す。
【0070】
(比較例1)
混合器の容積、反応器までの接続配管の配管径および配管長さを変更し、混合器のせん断速度を2463[1/s]とすることで、混合溶液の平均滞留時間を11秒、反応器直前での混合溶液の平均アセタール化度を18モル%としたこと以外は実施例3と同様にして、ポリビニルブチラール樹脂を得た。得られたポリビニルブチラール樹脂の各種評価を、実施例1と同様に行った。評価結果を表1に示す。なお、比較例1では、反応器の容積に対する混合器の容積の比は0.8であった。
【0071】
(比較例2)
ポリビニルアルコール水溶液を40℃まで冷却し、インラインで濃度16質量%の塩酸と混合し、混合器および反応器の温度を40℃に維持したこと以外は実施例2と同様にして、ポリビニルブチラール樹脂を得た。得られたポリビニルブチラール樹脂の各種評価を、実施例1と同様に行った。評価結果を表1に示す。
【0072】
(比較例3)
還流冷却器、温度計、イカリ型撹拌翼を備えた1リットルガラス容器に、イオン交換水606g、けん化度99モル%のポリビニルアルコール(粘度平均重合度 1700)95gを仕込み、95℃に昇温してポリビニルアルコールを完全に溶解させた。得られたポリビニルアルコール水溶液を30℃まで冷却し、700rpmで撹拌をしながら、n-ブチルアルデヒド54gおよび濃度16質量%の塩酸71mLを添加し、アセタール化反応を0.5時間行った。その後、昇温(0.8℃/分)を開始し、71℃、2時間の条件でアセタール化反応を行った。その後、反応液を取り出し、濃度25質量%となるまで脱水した後、得られた樹脂量の5倍の純水で塩酸の脱水洗浄を3回繰り返した。次いで、濃度10質量%の水酸化ナトリウム水溶液を添加し、pHを10から10.5として中和した。再び樹脂量の5倍の純水で塩の脱水洗浄を3回繰り返し、乾燥することでポリビニルブチラール樹脂を得た。得られたポリビニルブチラール樹脂の各種評価を、実施例1と同様に行った。評価結果を表1に示す。
【0073】
【表1】