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  • 特許-液中焼入れ装置及び液中焼入れ方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-07
(45)【発行日】2023-03-15
(54)【発明の名称】液中焼入れ装置及び液中焼入れ方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 1/64 20060101AFI20230308BHJP
   C21D 1/10 20060101ALI20230308BHJP
   C21D 9/04 20060101ALN20230308BHJP
【FI】
C21D1/64
C21D1/10 H
C21D1/10 E
C21D9/04 B
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018191045
(22)【出願日】2018-10-09
(65)【公開番号】P2020059877
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2021-08-27
(73)【特許権者】
【識別番号】390029089
【氏名又は名称】高周波熱錬株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390029805
【氏名又は名称】THK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】弁理士法人航栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 嘉昌
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 昭一郎
(72)【発明者】
【氏名】小▲崎▼ 英幸
(72)【発明者】
【氏名】安藤 良寛
(72)【発明者】
【氏名】川下 武治
(72)【発明者】
【氏名】石川 晋平
【審査官】櫛引 明佳
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第101519716(CN,A)
【文献】特開2009-144201(JP,A)
【文献】特開平08-020821(JP,A)
【文献】特開2005-281754(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 1/00-1/84
C21D 9/00-9/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを水平に支持し且つワークの長手方向にワークを搬送する搬送部と、
ワークの搬送経路上に配置されており、搬送されるワークを挿通可能な一対の開口部を有する液槽と、
前記液槽内に配置されており、前記一対の開口部に挿通されるワークを誘導加熱する加熱コイルと、
前記液槽に焼入れ液を供給する液供給部と、
を備え、
前記加熱コイルと、前記加熱コイルによって加熱されるワークの加熱箇所とは、前記液槽に溜められた焼入れ液中に配置され、
前記液槽は、前記液供給部から供給される前記焼入れ液が流入する流入口と、
当該液槽に供給された前記焼入れ液が流出する流出口と、を有し、
前記流入口は、前記一対の開口部を通る鉛直面を挟んで複数設けられており、
前記流出口は、前記一対の開口部を通る鉛直面を挟んで複数設けられている、
液中焼入れ装置。
【請求項2】
請求項1記載の液中焼入れ装置であって、
前記流出口から流出した前記焼入れ液を前記液供給部に戻す循環部を備える、
液中焼入れ装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の液中焼入れ装置であって、
前記液槽は、前記一対の開口部の各開口部に設けられるシール部材を有し、
前記シール部材は、ワークの断面形状に対応する開口を有する枠部と、前記開口に配置されており且つ開閉可能に前記枠部に接続されている弾性変形可能なシール部を有する、
液中焼入れ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液中焼入れ装置及び液中焼入れ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波誘導加熱によってワークを加熱する焼き入れにおいて、油等の焼き入れ液中でワークを加熱及び冷却することにより、酸化スケールの発生を抑制する方法が知られている。
【0003】
特許文献1に記載された油中高周波焼入れ方法は、ワークとしてのボールネジを油中で加熱及び冷却するものである。ボールネジは油槽内で鉛直に配置される。ボールネジが挿通される環状の加熱コイルも油槽内に配置されている。ボールネジが油槽内で一旦下降され、ボールネジの上端が加熱コイルの近傍に配置される。そして、ボールネジが、鉛直方向に上昇され、油中で加熱コイルを順次通過することにより、ボールネジは焼入れされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-144201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された油中高周波焼入れ方法では、ボールネジを全長に亘って収容可能な油槽が必要である。このため、ワークが比較的短尺なものに限られる。
【0006】
本発明は、長尺なワークにも適用可能な液中焼入れ装置及び液中焼入れ方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様の液中焼入れ装置は、ワークを水平に支持し且つワークの長手方向にワークを搬送する搬送部と、ワークの搬送経路上に配置されており、搬送されるワークを挿通可能な一対の開口部を有する液槽と、前記液槽内に配置されており、前記一対の開口部に挿通されるワークを誘導加熱する加熱コイルと、前記液槽に焼入れ液を供給する液供給部と、を備え、前記加熱コイルと、前記加熱コイルによって加熱されるワークの加熱箇所とは、前記液槽に溜められた焼入れ液中に配置される。
【0008】
また、本発明の一態様の液中焼入れ方法は、ワークを水平に且つ当該ワークの長手方向に搬送し、前記ワークの搬送経路上に配置された液槽の一対の開口部を通して、前記ワークを前記液槽に挿通させ、前記液槽に焼入れ液を供給し、前記液槽内に配置された加熱コイルによって、前記液槽に溜められた焼入れ液中で前記ワークを焼入れする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、長尺なワークにも適用可能な液中焼入れ装置及び液中焼入れ方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態を説明するための、液中焼入れ装置の一例の模式図である。
図2図1の液中焼入れ装置の液槽の構成例の模式図である。
図3図2の液槽のシール部材の模式図である。
図4図1の液中焼入れ装置の液槽の他の構成例の模式図である。
図5図1の液中焼入れ装置の液槽の他の構成例の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、本発明の実施形態を説明するための、液中焼入れ装置の一例を示す。
【0012】
液中焼入れ装置1は、鋼等の金属材料からなる比較的長尺のワークWを液中で焼入れする。ワークWは、例えば棒材、管材、レール材等であり、断面形状は特に限定されない。液中焼入れ装置1は、ワークWを搬送する搬送部2と、搬送部2によって搬送されるワークWを搬送経路上で焼入れする焼入れ部3とを備える。
【0013】
搬送部2は、複数のローラ4と、複数のローラ5とを備える。複数のローラ4は、水平方向に延びるワークWの搬送経路の下側で搬送経路に沿って間隔をあけて配置されている。複数のローラ5は、ワークWの搬送経路の上側で搬送経路に沿って間隔をあけて配置されている。複数のローラ4及びローラ5のうち少なくとも一部のローラは、図示しない駆動源によって回転駆動される。ワークWは、ローラ4の列とローラ5の列との間で水平に支持され且つワークWの長手方向に搬送される。
【0014】
焼入れ部3は、ワークWの搬送経路上に配置されている液槽6と、液槽6内に配置されている加熱コイル7と、液槽6に焼入れ液を供給する液供給部8と、加熱コイル7に高周波の交流電力を供給する電源部9とを有する。焼入れ液は、例えば水、ポリマーを溶かした水溶液等であり、ポリマーとしては、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアルキレングリコール等を例示できる。
【0015】
液槽6は、搬送されるワークWを挿通可能な一対の開口部10,11を有する。搬送されるワークWは、一方の開口部10を通して液槽6内に進入し、他方の開口部11を通して液槽6内から退出する。加熱コイル7は、液槽6内に位置するワークWの一部分に対向して配置され、対向するワークWの一部分を誘導加熱する。ワークWの搬送に伴い、加熱コイル7がワークWの一端側から他端側に向けて相対移動され、ワークWが全長に亘って連続的に誘導加熱される。
【0016】
液槽6内において、加熱コイル7と、加熱コイル7によって誘導加熱されるワークWの加熱箇所とは、液槽6に溜められた焼入れ液中に配置される。誘導加熱されたワークWの加熱箇所は、ワークWの搬送に伴い、液槽6内で加熱コイル7の下流側に移動される。そして、ワークWの加熱箇所は、液槽6に溜められた焼入れ液によって直ちに冷却され、焼入れされる。
【0017】
液中焼入れによれば、ワークWの表面に硬化層が形成されるので、酸化スケールの発生が抑制される。また、ワークWの加熱箇所に隣接する近傍箇所は焼入れ液によって冷却されており、加熱箇所から近傍箇所への熱伝導に起因する近傍箇所の温度上昇が抑制されるので、ワークWの歪も低減され、焼入れ品質を高めることができる。そして、液中焼入れ装置1では、ワークWを水平に且つワークWの長手方向に搬送し、搬送経路上に配置された液槽6を通過させ、ワークWの一部分が液槽6を通過する際に、この一部分を液槽6内で液中焼入れするので、ワークWを全長に亘って収容する液槽は不要である。したがって、液中焼入れ装置1は、長尺なワークの液中焼入れにも適用可能である。
【0018】
ワークWの加熱箇所は、液槽6に溜められた焼入れ液中に配置されるが、この場合に、液槽6内の焼入れ液の液面は、少なくとも一対の開口部10,11の最下端よりも上に位置する。したがって、焼入れ液は一対の開口部10,11から流出する。そこで、流出した焼入れ液を補充するに足る量の焼入れ液が液供給部8から逐次供給され、液槽6内の液位が保たれる。これにより、ワークWが液槽6を通過する期間中、加熱コイル7と、ワークWの加熱箇所とが、液槽6に溜められた焼入れ液中に配置される。例えば、液供給部8が供給する焼入れ液の単位時間当たりの供給量をV1とし、一対の開口部10,11にワークWが挿通されている状態で、一対の開口部10,11から流出する焼入れ液の単位時間当たりの流出量をV2として、V1≧V2とすればよい。
【0019】
図2及び図3は、液槽6の構成例を示す。
【0020】
図2及び図3に示す例では、ワークWは断面略コ字形状のレール材である。液槽6は、開口部10に設けられるシール部材20を備える。シール部材20は、例えばゴム等の弾性材料からなり、ワークWの断面形状に対応した略コ字形状の開口22を有する枠部21と、弾性変形可能なシール部23とを有する。シール部23は、開口22と同様の略コ字形状に形成されており、開口22を塞ぐように開口22に配置され、開閉可能に枠部21と接続されている。図示は省略するが、他方の開口部11にも、同様のシール部材が設けられる。
【0021】
ワークWが開口部10を通して液槽6内に進入する際に、シール部23は、ワークWの先端に押されて液槽6内に向けて撓められ、開口22が開放される。ワークWは、開放された開口22を通して液槽6内に進入する。断面略コ字形状のワークWに対して開口22もまた略コ字形状に形成されており、例えば開口22が矩形状である場合に比べて、ワークWと開口22の縁との隙間が狭くなる。これにより、開口部10から流出する焼入れ液の流出量を低減できる。
【0022】
なお、ワークWが断面略コ字形状のレール材であるものとして説明したが、ワークWの断面形状は特に限定されず、開口22及びシール部23の形状は、ワークWの断面形状に応じて設定される。
【0023】
図4は、液槽6の他の構成例を示す。
【0024】
液槽6に溜められた焼入れ液は、好ましくは液槽6内で流動される。焼入れ液を液槽6内で流動させることにより、加熱コイル7及びワークWの加熱箇所の近傍において焼入れ液の温度が局所的に上昇することを抑制でき、加熱箇所の冷却不足を防止して、焼入れ品質を高めることができる。さらに、焼入れ液を液槽6内で流動させることにより、例えば焼入れ液の沸騰によって生じた気泡がワークWの加熱箇所の表面に付着することを抑制でき、気泡がワークWの表面に付着することに起因する加熱箇所の冷却不足を防止して、焼入れ品質を高めることができる。なお、図4で、ワークWの断面にクロスハッチングで示される領域Hは焼入れ領域を示す。
【0025】
図4に示す例では、液槽6は、液供給部8から供給される焼入れ液が流入する流入口30と、液槽6に供給された焼入れ液が流出する流出口31と、を槽壁に有する。焼入れ液は、流入口30から流出口31に向けて流動される。液槽6内における焼入れ液の流動に偏りが生じることのないよう、流入口30は、一対の開口部10,11を通る鉛直面S1、換言すればワークWの中心軸を含む鉛直面S1を挟んで複数設けられ、流出口31もまた、鉛直面S1を挟んで複数設けられている。
【0026】
流出口31から流出した焼入れ液は、例えば廃棄されてもよいが、好ましくは再利用され、本例では、循環部32によって液供給部8に戻される。また、焼入れ液は、加熱コイル7及びワークWの加熱箇所によって加熱され、加熱された焼入れ液は、熱対流によって上昇する。この熱対流を妨げないように、好ましくは、流入口30は、一対の開口部10,11を通る水平面S2、換言すればワークWの中心軸を含む水平面S2よりも下側に設けられ、流出口31は、水平面S2よりも上側に設けられる。
【0027】
ワークWの加熱箇所の冷却不足を防止する観点では、ワークWの加熱箇所に対して焼入れ液を噴射してもよく、図5に示す例では、液中焼入れ装置1は、焼入れ液を噴射する冷却部40を備える。冷却部40は、液槽6に溜められた焼入れ液中で、加熱コイル7よりもワークWの搬送方向下流側に配置されており、加熱コイル7と、冷却部40とは、ワークWの搬送方向に離れている。そして、冷却部40は、ワークWの加熱箇所に対し、液供給部8から供給される焼入れ液を搬送方向下流側に向けて噴射する。ワークWの加熱箇所に対して焼入れ液を噴射することにより、ワークWの加熱箇所の冷却を促進して焼入れ品質をさらに高めることができる。
【0028】
図2及び図3に示したシール部材20の構成と、図4に示した流入口30及び流出口31の構成と、図5に示した冷却部40の構成とは、それぞれ単独で用いられてもよいし、組み合わされて用いられてもよい。
【0029】
以上、説明したとおり、本明細書に開示された液中焼入れ装置は、ワークを水平に支持し且つワークの長手方向にワークを搬送する搬送部と、ワークの搬送経路上に配置されており、搬送されるワークを挿通可能な一対の開口部を有する液槽と、前記液槽内に配置されており、前記一対の開口部に挿通されるワークを誘導加熱する加熱コイルと、前記液槽に焼入れ液を供給する液供給部と、を備え、前記加熱コイルと、前記加熱コイルによって加熱されるワークの加熱箇所とは、前記液槽に溜められた焼入れ液中に配置される。
【0030】
また、本明細書に開示された液中焼入れ装置は、前記液供給部が供給する焼入れ液の単位時間当たりの供給量は、前記一対の開口部にワークが挿通されている状態で、前記一対の開口部から流出する前記焼入れ液の単位時間当たりの流出量以上である。
【0031】
また、本明細書に開示された液中焼入れ装置は、前記加熱コイルと、ワークに焼入れ液を噴射する冷却部とは、ワークの搬送方向に離れている。
【0032】
また、本明細書に開示された液中焼入れ装置は、前記液槽は、前記液供給部から供給される前記焼入れ液が流入する流入口と、該液槽に供給された前記焼入れ液が流出する流出口と、を有し、前記流入口は、前記一対の開口部を通る鉛直面を挟んで複数設けられており、前記流出口は、前記一対の開口部を通る鉛直面を挟んで複数設けられている。
【0033】
また、本明細書に開示された液中焼入れ装置は、前記流出口から流出した前記焼入れ液を前記液供給部に戻す循環部を備える。
【0034】
また、本明細書に開示された液中焼入れ装置は、前記液槽は、前記一対の開口部の各開口部に設けられるシール部材を有し、前記シール部材は、ワークの断面形状に対応する開口を有する枠部と、前記開口に配置されており且つ開閉可能に前記枠部に接続されている弾性変形可能なシール部を有する。
【0035】
また、本明細書に開示された液中焼入れ方法は、ワークを水平に且つ当該ワークの長手方向に搬送し、前記ワークの搬送経路上に配置された液槽の一対の開口部を通して、前記ワークを前記液槽に挿通させ、前記液槽に焼入れ液を供給し、前記液槽内に配置された加熱コイルによって、前記液槽に溜められた焼入れ液中で前記ワークを焼入れする。
【符号の説明】
【0036】
1 液中焼入れ装置
2 搬送部
3 焼入れ部
4 ローラ
5 ローラ
6 液槽
7 加熱コイル
8 液供給部
9 電源部
10 開口部
11 開口部
20 シール部材
21 枠部
22 開口
23 シール部
30 流入口
31 流出口
32 循環部
40 冷却部
S1 鉛直面
S2 水平面
W ワーク
図1
図2
図3
図4
図5