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  • 特許-Ca2Si5N8単晶 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-07
(45)【発行日】2023-03-15
(54)【発明の名称】Ca2Si5N8単晶
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/082 20060101AFI20230308BHJP
   C01B 33/06 20060101ALI20230308BHJP
   C30B 29/38 20060101ALI20230308BHJP
【FI】
C01B21/082 C
C01B33/06
C30B29/38 Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018191952
(22)【出願日】2018-10-10
(65)【公開番号】P2020059625
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2021-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高野 美育
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 将治
(72)【発明者】
【氏名】増田 賢太
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-109123(JP,A)
【文献】特開2005-093913(JP,A)
【文献】特開2008-019407(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/082
C01B 33/00-33/193
C30B 1/00-35/00
C09K 11/00-11/89
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線回折スペクトルにおいて2θ=36.0°に位置するピークの半値幅が0.195°以下である、Ca2Si58多結晶。
【請求項2】
大気暴露1時間後の酸素増加率が10%以下である、請求項1記載のCa2Si58多結晶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ca2Si58単晶に関する。
【背景技術】
【0002】
Ca2Si58単晶は、蛍光体原料として用いられている。例えば、Ca2Si58単晶とユーロピウム化合物とを混合し、高温加熱炉の炉内を窒素ガスなどで加圧して炉内圧力を維持しながら、1600℃以上で焼成することにより、蛍光体を製造することができる(特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-207143号公報
【文献】特開2016-44306号公報
【文献】特開2017-88800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
Ca2Si58単晶は、大気中の僅かな水分で酸化してしまう。酸化したCa2Si58単晶は、蛍光体用原料として適さないうえ、厳密な割合で原料調合を行うことが困難になる。そのため、当該技術分野では酸素が忌避物質として認識されており、蛍光体を製造する際には、大気との接触を完全に遮断した環境下で行うことが必要となる。
本発明の課題は、大気中の酸素や水分に対する安定性が高いCa2Si58単晶を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、X線回折スペクトルにおいて特定の回折角2θに位置するピークの半値幅が特定値以下であるCa2Si58単晶が、大気中の酸素や水分に対する安定性が高いことを見出した。
【0006】
すなわち、本発明は、次の〔1〕~〔3〕を提供するものである。
〔1〕X線回折スペクトルにおいて2θ=36.0°に位置するピークの半値幅が0.195°以下である、Ca2Si58単晶。
〔2〕平均粒子径が5~50μmであるSi34を原料として含む、〔1〕記載のCa2Si58単晶。
〔3〕大気暴露1時間後の酸素増加率が10%以下である、〔1〕又は〔2〕記載のCa2Si58単晶。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、大気中の酸素や水分に対する安定性が高いCa2Si58単晶を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1で得られたCa2Si58単晶のX線回折パターンを示す図である。
図2】比較例1で得られたCa2Si58とCaSiN2との混晶のX線回折パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のCa2Si58単晶は、X線回折スペクトルにおいて2θ=36.0°に位置するピークの半値幅が0.195°以下であることを特徴とするものである。
ここで、本明細書において、X線回折スペクトルは、粉末X線回折測定法に準拠し、以下の条件により測定することができる。なお、X線回折測定装置として、例えば、D8 ADVANCE(Bruker社製)を使用することができる。
【0010】
X線源 Cukα
測定範囲 2θ=5~65°
測定間隔 0.0234°
走査速度 7.8°/min
測定電圧 35kV
測定電流 350mA
【0011】
粉末X線回折測定法により得られたX線回折スペクトルに基づいて、2θ=36.0°に位置するピークの半値幅(FWHM)を読み取る。ここで、2θ=36.0°に位置するピークは、図1に示すように、X線回折スペクトルの中で相対強度が高く、かつ他のピークと重ならないため、Ca2Si58単晶に特異的なものである。
【0012】
X線回折スペクトルにおいて2θ=36.0°に位置するピークの半値幅は0.195°以下であるが、大気中の酸素や水分に対する安定性(以下、単に「安定性」とも称する)のより一層の向上の観点から、0.190°以下が好ましく、0.185°以下が更に好ましい。
【0013】
また、本発明のCa2Si58単晶は、安定性向上の観点から、平均粒子径が5~50μmであるSi34を原料として含むことが好ましい。Si34の平均粒子径は、より一層の安定性向上の観点から、5~40μmが好ましく、5~30μmが更に好ましい。ここで、本明細書において「平均粒子径」とは、JIS R 1629「ファインセラミックス原料のレーザ回折・散乱法による粒子径分布測定方法」に準拠して試料の粒度分布を体積基準で作成したときに積算分布曲線の50%に相当する粒子径(d50)を意味する。なお、レーザ回折・散乱法による粒子径分布測定装置として、例えば、マイクロトラックMT3300EX II(マイクロトラック・ベル社製)を使用することができる。
【0014】
本発明のCa2Si58単晶は、このような特性を具備するため、大気中の酸素や水分に対する安定性に優れている。例えば、本発明のCa2Si58単晶を、室温(20~25℃)、相対湿度30~40%の環境下で、1時間大気暴露したときの酸素増加率を通常10%以下、好ましくは8%以下、より好ましくは7%以下、更に好ましくは6.5%以下に抑えることができる。なお、下限値は特に限定されず、0%であっても構わない。具体的な評価方法は、後掲の実施例に記載に方法により行うことができる。
【0015】
このように、本発明のCa2Si58単晶は、大気中の酸素や水分に対する安定性に優れるため、例えば、蛍光体の原料として極めて有用である。
【0016】
本発明のCa2Si58単晶は、粉末X線回折測定において上記特性を具備すれば、適宜の方法により製造することが可能であり、特に限定されない。例えば、炉内で窒化ケイ素と、窒化カルシウムとの混合物を、酸素非含有雰囲気下、1300~1500℃で焼成することにより製造することができる。
【0017】
窒化ケイ素としては、窒化ケイ素の安定性や取り扱い性等の観点から、Si34を用いることが好ましい。Si34には、α型とβ型の結晶形が存在するが、より一層の安定性向上の観点から、β型が好ましい。
窒化ケイ素としてSi34を用いる場合、Si34の平均粒子径は、より一層の安定性向上の観点から、5~50μmが好ましく、5~40μmがより好ましく、5~30μmが更に好ましい。
【0018】
窒化カルシウムとしては、例えば、Ca32、CaN、Ca2Nが挙げられ、1種又は2種以上を使用することができる。中でも、より一層の安定性向上の観点から、Ca32好ましい。
【0019】
窒化ケイ素及び窒化カルシウムは、Ca2Si58となる量を混合すればよく、窒化ケイ素と窒化カルシウムの種類に応じて化学量論組成を満たすように使用量を適宜決定することができる。
Si34と、窒化カルシウムとの混合は、乳鉢、ボールミル等を用いることができる。
【0020】
焼成炉は、炉内の雰囲気を調整できる炉であればよく、高温加熱炉のような特殊な焼成炉でなくてもよい。炉内圧は、常圧でよく、高圧にする必要がない。
【0021】
炉内の雰囲気としては、酸素非含有雰囲気下であれば特に限定されず、例えば、不活性ガス雰囲気下であればよい。より具体的には、窒素ガス雰囲気下、アルゴンガス雰囲気下、窒素水素混合ガス雰囲気下、アルゴン水素混合ガス雰囲気下を挙げることができる。中でも、アルゴンガス雰囲気下、窒素ガス雰囲気下が好ましい。なお、窒素水素混合ガス又はアルゴン水素混合ガスを用いる場合は、水素を3~5体積%とすることが好ましい。
【0022】
焼成温度は1300~1500℃であり、かかる範囲内とすることで、Ca2Si58を単晶として得ることができる。焼成温度は、より一層の安定性向上の観点から、1350~1500℃が好ましく、1400~1500℃が更に好ましい。
焼成時間は、より一層の安定性向上の観点から、0.5~12時間が好ましく、2~10時間がより好ましく、4~8時間が更に好ましい。
【実施例
【0023】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施の形態を更に具体的に説明する。但し、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0024】
1.平均粒子径の測定
原料として使用したSi34の粒度分布を、JIS R 1629「ファインセラミックス原料のレーザ回折・散乱法による粒子径分布測定方法」に準拠して体積基準で作成した。そして、積算分布曲線の50%に相当する粒子径(d50)を求めた。なお、レーザ回折・散乱法による粒子径分布測定装置として、マイクロトラックMT3300EX II(マイクロトラック・ベル社製)を使用した。
【0025】
2.半値幅の測定
X線回折装置(D8 ADVANCE、Bruker社製)を用いてX線回折スペクトルを測定し、X線回折パターンから鉱物相の同定を行った。Ca2Si58単晶と判断した場合には、2θ=36.0°(Cukα)の半値幅を読み取った。なお、X線回折測定装置として、D8 ADVANCE(Bruker社製)を使用し、測定条件は上記において説明したとおりである。
【0026】
3.大気暴露試験
各実施例及び比較例で得られたCa2Si58単晶について、グローブボックス内で、試料カプセルに充填して、酸素窒素同時分析装置(TCH-600、LECOジャパン社製)を用いて酸素濃度を測定した。次いで、グローブボックス内でCa2Si58単晶0.3gをスクリュー管に量り取り、密栓し大気中に取り出した。次いで、温度20℃、相対湿度40%の大気下でスクリュー管を開放状態で1時間静置した後、密栓し再びグローブボックス内に戻し、試料カプセルに充填して、酸素窒素同時分析装置により酸素濃度を測定した。次いで、大気暴露試験後における酸素増加率を下記式(1)により算出した。そして、酸素増加率が10質量%以下であるものを「〇」、酸素増加率が10質量%超であるものを「×」として評価した。
【0027】
酸素増加率(%)=(X-Y)/Y×100 (1)
【0028】
〔式中、Xは大気暴露試験後のCa2Si58単晶の酸素濃度(質量%)を示し、Yは大気暴露試験前のCa2Si58単晶の酸素濃度(質量%)を示す。〕
【0029】
実施例1
原料の取扱いは、露点を-90℃以下に保っているグローブボックス内で行った。先ず、平均粒子径が28.2μmであるSi34(信越化学社製)と、Ca32(太平洋セメント社製)とをCa:Siのモル比で2:5になるように秤量した。秤量後、メノウ乳鉢と乳棒を用いて10分間混合した。混合した原料を管状炉に仕込み、N2ガスを1L/minの速度で流通させ、1450℃まで5℃/minで昇温し、6時間保持して焼成を行った。焼成後、管状炉から取り出し、鉱物を得た。得られた鉱物について、X線回折装置によりX線回折スベクトルを測定し、X線回折パターンから鉱物相の同定を行い、2θ=36.0°(Cukα)の半値幅を読み取った。次いで、大気暴露試験を行い、評価した。その結果を表1に示す。
【0030】
実施例2
焼成温度を1500℃に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作により鉱物を得た。得られた鉱物について、実施例1と同様にX線回折装置によりX線回折スベクトルを測定し、X線回折パターンから鉱物相の同定を行い、2θ=36.0°(Cukα)の半値幅を読み取った。次いで、大気暴露試験を行い、評価した。その結果を表1に示す。
【0031】
実施例3
平均粒子径が15.3μmであるSi34(信越化学社製)を用い、焼成温度を1300℃に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作により鉱物を得た。得られた鉱物について、実施例1と同様にX線回折装置によりX線回折スベクトルを測定し、X線回折パターンから鉱物相の同定を行い、2θ=36.0°(Cukα)の半値幅を読み取った。次いで、大気暴露試験を行い、評価した。その結果を表1に示す。
【0032】
実施例4
焼成温度を1450℃に変更したこと以外は、実施例3と同様の操作により鉱物を得た。得られた鉱物について、実施例1と同様にX線回折装置によりX線回折スベクトルを測定し、X線回折パターンから鉱物相の同定を行い、2θ=36.0°(Cukα)の半値幅を読み取った。次いで、大気暴露試験を行い、評価した。その結果を表1に示す。
【0033】
実施例5
焼成温度を1500℃に変更したこと以外は、実施例3と同様の操作により鉱物を得た。得られた鉱物について、実施例1と同様にX線回折装置によりX線回折スベクトルを測定し、X線回折パターンから鉱物相の同定を行い、2θ=36.0°(Cukα)の半値幅を読み取った。次いで、大気暴露試験を行い、評価した。その結果を表1に示す。
【0034】
実施例6
平均粒子径が6.6μmであるSi34(信越化学社製)を用い、焼成温度を1450℃に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作により鉱物を得た。得られた鉱物について、実施例1と同様にX線回折装置によりX線回折スベクトルを測定し、X線回折パターンから鉱物相の同定を行い、2θ=36.0°(Cukα)の半値幅を読み取った。次いで、大気暴露試験を行い、評価した。その結果を表1に示す。
【0035】
実施例7
焼成温度を1500℃に変更したこと以外は、実施例6と同様の操作により鉱物を得た。得られた鉱物について、実施例1と同様にX線回折装置によりX線回折スベクトルを測定し、X線回折パターンから鉱物相の同定を行い、2θ=36.0°(Cukα)の半値幅を読み取った。次いで、大気暴露試験を行い、評価した。その結果を表1に示す。
【0036】
比較例1
平均粒子径が54.2μmであるSi34(信越化学社製)を用い、焼成温度を1500℃に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作により鉱物を得た。得られた鉱物について、実施例1と同様にX線回折装置によりX線回折スベクトルを測定し、X線回折パターンから鉱物相を同定したところ、Ca2Si58とCaSiN2との混晶であることが確認された。そのため、2θ=36.0°(Cukα)の半値幅の測定及び大気暴露試験を断念した。
【0037】
比較例2
焼成温度を1300℃に変更したこと以外は、実施例6と同様の操作により鉱物を得た。得られた鉱物について、実施例1と同様にX線回折装置によりX線回折スベクトルを測定し、X線回折パターンから鉱物相の同定を行い、2θ=36.0°(Cukα)の半値幅を読み取った。次いで、大気暴露試験を行い、評価した。その結果を表1に示す。
【0038】
比較例3
平均粒子径が3.8μmであるSi34(信越化学社製)を用い、焼成温度を1500℃に変更した以外は、実施例1と同様の操作により鉱物を得た。得られた鉱物について、実施例1と同様にX線回折装置によりX線回折スベクトルを測定し、X線回折パターンから鉱物相の同定を行い、2θ=36.0°(Cukα)の半値幅を読み取った。次いで、大気暴露試験を行い、評価した。その結果を表1に示す。
【0039】
比較例4
焼成温度を1450℃に変更したこと以外は、比較例3と同様の操作により鉱物を得た。得られた鉱物について、実施例1と同様にX線回折装置によりX線回折スベクトルを測定し、X線回折パターンから鉱物相の同定を行い、2θ=36.0°(Cukα)の半値幅を読み取った。次いで、大気暴露試験を行い、評価した。その結果を表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
表1から、X線回折スペクトルにおいて2θ=36.0°に位置するピークの半値幅が0.195°以下であるCa2Si58単晶は、大気暴露試験後の酸素増加率が10%以下に抑えられており、大気中の酸素や水分に対する安定性が高いことがわかる。
図1
図2