(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-07
(45)【発行日】2023-03-15
(54)【発明の名称】複合繊維
(51)【国際特許分類】
D01F 8/18 20060101AFI20230308BHJP
D01F 9/08 20060101ALI20230308BHJP
C01B 32/956 20170101ALI20230308BHJP
C01B 32/907 20170101ALI20230308BHJP
C01B 32/158 20170101ALI20230308BHJP
C01B 32/184 20170101ALI20230308BHJP
【FI】
D01F8/18 ZNM
D01F9/08 Z
C01B32/956
C01B32/907
C01B32/158
C01B32/184
(21)【出願番号】P 2018199206
(22)【出願日】2018-10-23
【審査請求日】2021-09-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【氏名又は名称】田邊 淳也
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼岡 勝哉
(72)【発明者】
【氏名】近藤 彰彦
【審査官】静野 朋季
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106087112(CN,A)
【文献】特開平11-256429(JP,A)
【文献】特開平07-118932(JP,A)
【文献】特開平01-314730(JP,A)
【文献】特開2008-100864(JP,A)
【文献】特開2017-024922(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 8/00-9/32
C01B 32/00-32/991
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属炭化物の含有率が92重量%以上の金属炭化物含有繊維と、
前記金属炭化物含有繊維の表面の90%以上を覆う炭素層と、を備えた複合繊維であって、
前記金属炭化物含有繊維は、TiCまたはCrCによってコートされたSiC繊維であり、
前記炭素層は、炭素原子が蜂の巣状に配列した構造を有し、
前記金属炭化物含有繊維の表面近傍は、前記金属炭化物を構成する金属の含有割合が、前記表面に近づくほど減少する連続的な変化をしていることを特徴とする複合繊維。
【請求項2】
前記炭素層は、複層のカーボンナノチューブ、及び複層のグラフェンのうちの少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1に記載の複合繊維。
【請求項3】
前記炭素層の径方向の平均厚みが10nm~500nmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の複合繊維。
【請求項4】
前記複合繊維の酸素含有率が1.2重量%以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の複合繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複合繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子材料分野等における応用を目指して、炭素物質であるカーボンナノチューブを用いたカーボンナノチューブ付きSiCウィスカー、カーボンナノチューブ膜、カーボンナノチューブ膜付きSiC基板等が検討されている(例えば、特許文献1参照)。カーボンナノチューブ等の炭素物質は、高い熱伝導率及び高い電気伝導率を発揮するから、炭素物質を備えたウィスカー、膜、基板等も、熱伝導率及び電気伝導率に優れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1で提供される物の形状は、ウィスカー、膜、基板という特定形状に限定されており、応用範囲が限定されてしまう。他方、繊維は、従来から種々の用途に適用されており、その応用範囲は、一般的に広い。
そこで、炭素物質を備えた繊維が望まれているが、本発明者らが知る限りでは、この構成を備えた実用的な繊維は存在しなかった。
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、高い熱伝導率及び高い電気伝導率を発揮する炭素物質が備えられるとともに、幅広い用途に適用可能な複合繊維を提供することを目的とする。本発明は、以下の形態として実現することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一形態は、金属炭化物の含有率が92重量%以上の金属炭化物含有繊維と、前記金属炭化物含有繊維の表面の90%以上を覆う炭素層と、を備えた複合繊維であって、前記金属炭化物含有繊維は、TiCまたはCrCによってコートされたSiC繊維であり、前記炭素層は、炭素原子が蜂の巣状に配列した構造を有し、前記金属炭化物含有繊維の表面近傍は、前記金属炭化物を構成する金属の含有割合が、前記表面に近づくほど減少する連続的な変化をしている。
その他、本発明は、以下のような形態として実現することも可能である。
〔1〕金属炭化物の含有率が92重量%以上の金属炭化物含有繊維と、
前記金属炭化物含有繊維の表面の90%以上を覆う炭素層と、を備えた複合繊維であって、
前記炭素層は、炭素原子が蜂の巣状に配列した構造を有し、
前記金属炭化物含有繊維の表面近傍は、前記金属炭化物を構成する金属の含有割合が、前記表面に近づくほど減少する連続的な変化をしていることを特徴とする複合繊維。
【0006】
〔2〕前記炭素層は、複層のカーボンナノチューブ、及び複層のグラフェンのうちの少なくとも1種を含むことを特徴とする〔1〕に記載の複合繊維。
【0007】
〔3〕前記炭素層の径方向の平均厚みが10nm~500nmであることを特徴とする〔1〕又は〔2〕に記載の複合繊維。
【0008】
〔4〕前記複合繊維の酸素含有率が1.2重量%以下であることを特徴とする〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の複合繊維。
【発明の効果】
【0009】
本発明の複合繊維は、繊維形状であるので、幅広い用途に適用可能である。また、本発明の複合繊維によれば、金属炭化物の含有率が92重量%以上の金属炭化物含有繊維を備えているので、耐熱性、強度共に優れている。更に、金属炭化物含有繊維の表面の90%以上を覆う炭素層を備えており、炭素層は、炭素原子が蜂の巣状に配列した構造を有するから、熱伝導率及び電気伝導率に優れる。しかも、金属炭化物含有繊維の表面近傍は、金属炭化物を構成する金属の含有割合が、表面に近づくほど減少する連続的な変化をしている。よって、金属炭化物含有繊維の表面と、炭素層との結合が強固となり、炭素層が金属炭化物含有繊維から剥がれにくい。
炭素層が、複層のカーボンナノチューブ、及び複層のグラフェンのうちの少なくとも1種を含む場合には、熱伝導率及び電気伝導率がより良好となる。
炭素層の径方向の平均厚みが10nm~500nmである場合には、複合繊維を折り曲げた際の、炭素層の破損が抑制される。また、平均厚みがこの範囲では、炭素層が厚すぎることに起因する、炭素層と金属炭化物含有繊維との界面でのクラック(剥がれ)が抑制される。
複合繊維の酸素含有率が1.2重量%以下であると、実際に複合繊維を使用して発熱した際に抵抗値変化が起きにくい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態における複合繊維の縦断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態における複合繊維の横断面図である。
【
図3】
図1の一点鎖線で囲まれた部分の拡大図である。グラフェンのシートが金属炭化物含有繊維の長手方向に伸張している様子も示されている。
【
図4】複合繊維の調製方法を説明するための説明図である。
【
図5】抵抗値〔1〕〔2〕を測定するための測定サンプルを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳しく説明する。なお、本明細書において、数値範囲について「~」を用いた記載では、特に断りがない限り、下限値及び上限値を含むものとする。例えば、「10~20」という記載では、下限値である「10」、上限値である「20」のいずれも含むものとする。すなわち、「10~20」は、「10以上20以下」と同じ意味である。
【0012】
1.複合繊維1
複合繊維1は、
図1,2に示されるように、金属炭化物の含有率が92重量%以上の金属炭化物含有繊維3と、金属炭化物含有繊維3の表面の90%以上を覆う炭素層5と、を備える。炭素層5は、炭素原子が蜂の巣状に配列した構造を有する。
金属炭化物含有繊維3の表面近傍は、金属炭化物を構成する金属の含有割合が、表面に近づくほど減少する連続的な変化をしている。言い換えれば、金属炭化物含有繊維3は、金属炭化物を構成する金属の含有割合が略一定である芯部3Aと、金属炭化物を構成する金属の含有割合が、表面に近づくほど減少する表層部3Bとを有している。表層部3Bでは、表面に近づくほど、金属の含有割合が段階的に少しずつ減少して、金属の含有割合がグラデーションをなしている。例えば、金属炭化物がSiCの場合には、表層部3Bでは、表面に近づくほど、Si(ケイ素)の含有割合が段階的に少しずつ減少して、Siの含有割合がグラデーションをなしている。
なお、
図1,2に示されるように、表層部3Bの上に炭素層5が形成されている。
【0013】
(1)平均繊維径、アスペクト比
複合繊維1の平均繊維径は、特に限定されない。平均繊維径は、強度と柔軟性の観点から、6μm~50μmであることが好ましく、10μm~30μmであることがより好ましい。
複合繊維1の平均長さは、特に限定されない。平均長さは、通常200μm以上であり、1mm以上であることが好ましい。
複合繊維1のアスペクト比は、特に限定されない。アスペクト比は、通常20以上である。
【0014】
(2)複合繊維1の折り曲げ時の特徴
本発明の複合繊維1は、折り曲げ角度が60°になるまで折り曲げても折れないという性質を有していることが好ましい。
【0015】
(3)金属炭化物
金属炭化物は、金属の炭化物であれば特に限定されない。金属の炭化物を構成する金属は、Si(ケイ素)、Zr(ジルコニウム)、及びTi(チタン)からなる群より選ばれた1種以上が好ましい。金属炭化物は、複合繊維1の耐熱性及び強度向上の観点から、SiC、ZrC、及びTiCからなる群より選ばれた1種以上が好ましい。なお、金属炭化物含有繊維3に含有される金属炭化物の種類は、EPMA(電子プローブマイクロアナライザ)による組成分析の結果と、XRD測定の結果との組み合わせから特定できる。
【0016】
(4)金属炭化物含有繊維3
金属炭化物含有繊維3における金属炭化物の含有率、すなわち、金属炭化物含有繊維3における金属炭化物の純度は、92重量%以上である。金属炭化物含有繊維3における金属炭化物の含有率は、95重量%以上であることがより好ましい。金属炭化物の含有率は、100重量%であってもよい。
なお、金属炭化物含有繊維3における金属炭化物の含有量は、次のようにして求めることができる。金属炭化物含有繊維3における金属量をICP発光分光分析法によって測定する。金属炭化物含有繊維3における炭素量を炭素含有量分析によって測定する。この炭素含有量分析は、JIS1616の炭化ケイ素の化学分析に準じて行う。
これらの測定結果から、金属炭化物含有繊維3に含まれる金属原子数、及び炭素原子数が求まる。そして、金属炭化物の組成式における金属原子数と炭素原子数の比を考慮して、金属炭化物含有繊維3において金属炭化物の構成に関与する金属原子と炭素原子を求めて、金属炭化物含有繊維3内の金属炭化物の含有量を決定する。例えば、金属炭化物含有繊維3に含まれる金属炭化物がSiCの場合には、SiCを構成する金属原子数(Siの原子数)と炭素原子数の比は「1:1」である。ここで、測定により数が求められた金属炭化物含有繊維3に含まれる金属原子(Si原子)、及び炭素原子のうち、金属炭化物の構成に関与するものは、金属原子(Si原子)1つに対して、炭素原子1つであって、金属原子(Si原子)と炭素原子とが対になるものである。よって、金属原子(Si原子)と炭素原子とが対を構成できずに、余剰となる原子は、金属炭化物を構成しないと考える。具体的には、例えば、測定によって求まった金属原子数(Siの原子数)が100、炭素原子数が105とすると、100の金属原子(Si原子)と100の炭素原子とがSiCを形成しており、余剰の5の炭素原子は、SiCを形成しないと考える。このようにして、SiCを構成する金属原子(Si原子)と炭素原子の量が分かるから、金属炭化物含有繊維3に含まれる金属炭化物(SiC)の含有量が計算できる。そして、この金属炭化物の含有量と、金属炭化物含有繊維3の重量から、金属炭化物の含有率が計算される。
なお、金属炭化物含有繊維3は、柔軟性の観点から、3nm~25nmの金属炭化物粒子が結合されて形成されていることが好ましい。このような金属炭化物含有繊維3は、粒界を有している。
金属炭化物含有繊維3が、複数の金属炭化物粒子の集合体の場合には、金属炭化物含有繊維3は、しなやかさを有している。他方、ウィスカーは、1つの粒子が成長した単結晶でかたい(しなやかさがない)。このように、金属炭化物粒子の集合体である金属炭化物含有繊維3と、ウィスカーとは異なる。
【0017】
(5)炭素層5
本発明の複合繊維1では、炭素層5は、金属炭化物含有繊維3の表面3Cの90%以上を覆っている。炭素層5は、熱伝導率及び電気伝導率をより高めるとの観点から、金属炭化物含有繊維3の表面3Cの95%以上を覆っていることが好ましい。炭素層5は、金属炭化物含有繊維3の表面3Cの100%を覆っていてもよい。
炭素層5は、炭素原子が蜂の巣状に配列した構造を有する。すなわち、炭素層5は、炭素原子によって形成される六員環ネットワークを有している。炭素層5は、炭素原子によって形成される六員環のみならず、炭素原子によって形成される5員環や、炭素原子によって形成される7員環を含んでもよい。
炭素層5は、熱伝導率及び電気伝導率に特に優れるという観点から、カーボンナノチューブ、及びグラフェンのうちの少なくとも1種を含むことが好ましく、複層のカーボンナノチューブ、複層のグラフェンのうちの少なくとも1種を含むことがより好ましい。
【0018】
炭素原子が蜂の巣状に配列した構造である六員環ネットワークのなす面は、金属炭化物含有繊維3の表面3Cと略平行になっていることが好ましい。
すなわち、炭素層5に、グラフェンが含まれる場合には、グラフェンのシート面は、金属炭化物含有繊維3の表面3Cと略平行になっていることが好ましい。
図3は、グラフェンのシート7のシート面が、金属炭化物含有繊維3の表面3Cと略平行になっている様子を模式的に示している。なお、
図3では、グラフェンのシート7が金属炭化物含有繊維3の長手方向に伸張している様子も示されている。
炭素層5の
図3で例示したように、炭素含有金属繊維の表面に炭素層5が形成された構造は、複合繊維1の熱伝導率及び電気伝導率の向上に寄与する。
【0019】
炭素層5の複合繊維1の径方向の平均厚みは、特に限定されない。この径方向の平均厚みは、10nm~500nmであることが好ましい。この範囲内では、複合繊維1を折り曲げた際の、炭素層5の破損が抑制される。また、平均厚みがこの範囲では、炭素層5が厚すぎることに起因する、炭素層5と金属炭化物含有繊維3との界面でのクラック(剥がれ)が抑制される。
【0020】
(6)複合繊維1の酸素含有率
複合繊維1の酸素含有率は、特に限定されない。複合繊維1の酸素含有量は、1.2重量%以下であることが好ましく、0.8重量%以下であることがより好ましい。複合繊維1の酸素含有率は、0重量%であってもよい。
複合繊維1の酸素含有率をこの範囲内にすると、複合繊維1が発熱体に使用されて、実際に発熱した際に抵抗値変化が起きにくくなる。
【0021】
2.複合繊維1の製造方法
本発明の複合繊維1は、例えば次の方法で製造できる。複合繊維1は、金属炭化物を含有した原料繊維(金属炭化物含有繊維)を、減圧下にて加熱する製造方法で製造できる。
減圧条件としては、例えば、真空度が10-2Torr~10-4Torrの条件を好適に採用できる。真空度は、10-3Torr~10-4Torrが好ましい。
なお、複合繊維1を製造する雰囲気中には、酸素が含まれないことが望ましい。
加熱温度は、例えば、1650℃~1950℃が好ましく、1700℃~1800℃がより好ましい。
複合繊維1を製造する際に、単数(1本)の原料繊維を減圧下で加熱してもよいし、複数の原料繊維を束ねて減圧下で加熱してもよい。また、原料繊維をカーボン製の棒状体に巻き付けた状態とし、減圧下で加熱してもよい。
【実施例】
【0022】
実施例により本発明を更に具体的に説明する。
なお、実験例1~20が実施例に相当し、実験例21~25は比較例である。比較例については、表1において、実験例の番号を示す数字の後に「21*」のように「*」を付している。
【0023】
1.複合繊維1の調製
(1)実験例1~22,24~25
実験例1~22,24~25の場合には、表1に記載の各種原料繊維12を
図4に示すように、SiCのバルク10で保持した。この状態で、原料繊維12を高温炉に入れ、真空度1×10
-4Torr、1750℃の条件で加熱し、各実験例の複合繊維1を得た。
表1に記載の各原料繊維12の詳細は、以下の通りである。
「SiC繊維」は、平均繊維径25μmのSiC繊維を意味する。
「SiC繊維-TiCコート」は、平均繊維径20μmのSiC繊維がTiCコートされた繊維を意味する。
「SiC繊維-CrCコート」は、平均繊維径20μmのSiC繊維がCrCコートされた繊維を意味する。
「Al
2O
3繊維-TiCコート」は、平均繊維径40μmのAl
2O
3繊維がTiCコートされた繊維を意味する。
「ムライト繊維-CrCコート」は、平均繊維径30μmのムライト繊維がTiCコートされた繊維を意味する。
(2)実験例23
実験例23の場合は、上記SiC繊維を、単層グラフェンが分散した分散液(溶媒:エタノール)でディップコートし、複合繊維1とした。
【0024】
2.評価方法
(1)複合繊維1のうち、炭素層5よりも内側部分(金属炭化物含有繊維3)における金属炭化物の含有率は、上述の「(4)金属炭化物含有繊維3」の欄で記載の方法により求めた。この金属炭化物の含有率(重量%)は、表1では、「純度(wt%)」として記載されている。
(2)炭素層が金属炭化物含有繊維の表面を覆っている割合である被覆率は、複合繊維1 10本をSEMにて観察し、画像解析によって平均被覆率として算出した。
(3)複合繊維1の酸素含有率は、JIS1616:2007の13項記載の方法を用いて求めた。
(4)炭素層5の種類は、ラマン分光法により判定した。表1中、次の記載の定義は以下の通りである。
「単層グラフェン」は、単層のグラフェンを示す。
「グラフェン」は、複層のグラフェンを示す。
「カーボンナノチューブ/グラフェン」は、複層のカーボンナノチューブ及び複層のグラフェンを示す。
(5)炭素層5の平均厚みは、TEMによる複合繊維1の断面観察、及び画像解析より算出した。
(6)金属炭化物含有繊維3の表面近傍において、金属炭化物を構成する金属の含有割合が、表面に近づくほど減少する連続的な変化をしていることは、以下のように確認した。すなわち、金属の含有割合が連続的な変化をしている場合には、TEMによる複合繊維1の断面観察を行うと、金属炭化物含有繊維3と炭素層5の接合界面が連続状態となっている。つまり、金属炭化物含有繊維3と炭素層5の接合界面が、明確に確認できない状態であった。これに対して、金属の含有割合が連続的な変化をしていない場合には、金属炭化物含有繊維3と炭素層5の接合界面が不連続な状態となっている。このように接合界面の状態により、金属の含有割合が、表面に近づくほど減少する連続的な変化をしているか否かの判断をした。なお、上記接合界面の連続状態が、金属の含有割合の連続的な変化に対応しており、上記接合界面の不連続状態が、金属の含有割合の連続的な変化が無いこと(金属の含有割合が略一定であること)に対応していることは、別途、次のように確認している。確認は、金属炭化物含有繊維3の表面近傍において、TEM-EDXのライン分析で元素の変化を読み取ることにより行った。なお、このライン分析において、C(炭素)が99%以上のところを炭素層5とした。その結果、TEMによる複合繊維1の断面観察で接合界面が連続状態の場合は、ライン分析では金属炭化物含有繊維3の表面近傍において、金属の含有割合が、表面に近づくほど減少する連続的な変化をしていた。他方、TEMによる複合繊維1の断面観察で接合界面が不連続な状態の場合は、ライン分析では金属炭化物含有繊維3の表面近傍において、金属の含有割合は、略一定であり、連続的な変化をしていなかった。
なお、ライン分析では、C(カーボン)の含有割合の測定は困難なので、金属炭化物の金属元素と炭素との合計を100とし、この100から金属元素の含有割合を減じた差分を炭素の含有割合とし、この炭素の含有割合の変化を観察した。
表1において、以上の連続的な変化の有無を「連続変化の有無」で示した。この欄における表記は次の通りである。
「○」は、接合界面が連続状態となっている場合を示す。
「×」は、接合界面が不連続状態となっている場合を示す。
なお、接合界面が連続状態となっている場合には、金属炭化物含有繊維3と炭素層5とは化学結合している。他方、接合界面が不連続な状態となっている場合には、金属炭化物含有繊維3と炭素層5とは物理結合している。
【0025】
(7)複合繊維1の抵抗値〔1〕
図5に示すように、複数本の複合繊維1を束ねて、束21の径方向の断面積が10000μm
2~15000μm
2となるようにした。束21の断面積は、複合繊維1の平均繊維径と本数とから算出した。測定サンプル23は、複合繊維の束21の外周を銅箔25で覆ったものである。
測定サンプル23の初期の抵抗値を測定した。その後、測定サンプル23に電流値1Aの電流を100sec流し、電気処理後の抵抗値を測定した。電気処理後の抵抗値について、初期の抵抗値に対する変化率を求めた。評価は以下のようにした。なお、この変化率が少ないほど性能がよい。すなわち、この抵抗値の変化が少ないことは、電流による測定サンプル23の破損や、電流を流すことに伴う発熱による複合繊維1の表層(炭素層5)の変質が起きていないことを意味している。
「△」…10%以上
「〇」…7%以上10%未満
「◎」…4%以上7%未満
「★」…4%未満
【0026】
(8)複合繊維1の抵抗値〔2〕
「(7)複合繊維1の抵抗値〔1〕」の欄と同様の測定サンプル23の初期の抵抗値を測定した。その後、測定サンプル23に水中で20kHzの超音波振動を加え、超音波処理後の抵抗値を測定した。超音波処理後の抵抗値について、初期の抵抗値に対する変化率を求めた。評価は以下のようにした。なお、この変化率が少ないほど性能がよい。すなわち、この抵抗値の変化が少ないことは、測定サンプル23に超音波による応力が付与された場合であっても、表層(炭素層5)が影響を受けていないことを意味している。
「×」…20%以上
「△」…10%以上20%未満
「〇」…7%以上10%未満
「◎」…4%以上7%未満
「★」…4%未満
【0027】
(9)複合繊維1の熱伝導率
長さ100mmの複合繊維1の一端部1mmをお湯(90℃)につけ、他端部が湯温と同じになるまでの時間を測定した。評価は以下のようにした。なお、この時間が短いほど性能がよい。
「×」…50sec以上
「△」…30sec以上50sec未満
「〇」…25sec以上30sec未満
「◎」…20sec以上25sec未満
「★」…20sec未満
【0028】
3.評価結果
表1に評価結果を併記する。
【0029】
【0030】
実施例である実験例1~20は、次の〔1〕~〔3〕の全ての要件を満たしている。
〔1〕複合繊維1は、金属炭化物の含有率(純度)が92重量%以上の金属炭化物含有繊維3と、金属炭化物含有繊維3の表面の90%以上を覆う炭素層5と、を備えている。
〔2〕炭素層5は、炭素原子が蜂の巣状に配列した構造を有している。
〔3〕金属炭化物含有繊維3の表面近傍は、金属炭化物を構成する金属の含有割合が、表面に近づくほど減少する連続的な変化をしている。すなわち、接合界面が連続状態となっている。
これに対して、比較例である実験例21~25は以下の要件を満たしていない。
実験例21では、〔1〕の要件を満たしてない。すなわち、実験例21は、金属炭化物含有繊維ではなく、Al2O3繊維となっている。
実験例22では、〔1〕の要件を満たしてない。すなわち、実験例22は、金属炭化物含有繊維ではなく、ムライト繊維となっている。
実験例23では、〔1〕及び〔3〕の要件を満たしてない。すなわち、実験例23は、金属炭化物の含有率(純度)が92重量%未満である。また、実験例23は、接合界面が不連続状態となっている。
実験例24では、〔1〕の要件を満たしてない。すなわち、実験例24では、炭素層5が金属炭化物含有繊維3の表面を覆っている割合(被覆率)が90%未満である。
実験例25では、〔1〕の要件を満たしてない。すなわち、実験例25は、金属炭化物の含有率(純度)が92重量%未満である。また、実験例25では、炭素層5が金属炭化物含有繊維3の表面を覆っている割合(被覆率)が90%未満である。
【0031】
実施例である実験例1~20は、比較例である実験例21~25と比較して、抵抗値〔1〕の特性、抵抗値〔2〕の特性、及び熱伝導率がいずれも優れていた。
【0032】
また、実施例である実験例1~20のうち、炭素層5が、複層のカーボンナノチューブ、及び複層のグラフェンのうちの少なくとも1種を含む実験例6~20は、実験例1~5と比較して、抵抗値〔1〕の特性、及び抵抗値〔2〕の特性が優れていた。
【0033】
また、実施例である実験例1~20のうち、炭素層5の径方向の平均厚みが10nm~500nmである実験例12~20は、抵抗値〔2〕の特性が特に優れていた。
【0034】
また、実施例である実験例1~20のうち、複合繊維1の酸素含有率が1.2重量%以下である実験例16~20は、抵抗値〔1〕の特性、及び抵抗値〔2〕の特性が極めて優れていた。
【0035】
<他の実施形態(変形例)>
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の複合繊維は、電気伝導、熱伝導の媒体として使用することができる。具体的には、複合繊維は、トランス、モーター、配線基板、放熱基板、線材等に利用可能である。
【符号の説明】
【0037】
1 …複合繊維
3 …金属炭化物含有繊維
3A…芯部
3B…表層部
3C…表面
5 …炭素層
7 …グラフェンのシート
9 …カーボンナノチューブ
10…SiCのバルク
12…原料繊維
21…複合繊維の束
23…測定サンプル
25…銅箔