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▶ ドクトル ゲルハルト マン ケム−ファルム. ファブリック ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツンクの特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-07
(45)【発行日】2023-03-15
(54)【発明の名称】貯蔵安定性の眼用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/36 20060101AFI20230308BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20230308BHJP
   A61P 27/04 20060101ALI20230308BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230308BHJP
   A61K 31/728 20060101ALI20230308BHJP
   A61K 31/23 20060101ALI20230308BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20230308BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20230308BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20230308BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20230308BHJP
   A61K 47/26 20060101ALN20230308BHJP
   A61K 47/18 20170101ALN20230308BHJP
   A61K 47/04 20060101ALN20230308BHJP
   A61K 47/02 20060101ALN20230308BHJP
   A61K 47/12 20060101ALN20230308BHJP
【FI】
A61K47/36
A61P27/02
A61P27/04
A61P43/00 121
A61K31/728
A61K31/23
A61K9/107
A61K47/14
A61K47/32
A61K47/10
A61K47/26
A61K47/18
A61K47/04
A61K47/02
A61K47/12
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2018549558
(86)(22)【出願日】2017-04-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-06-13
(86)【国際出願番号】 EP2017058825
(87)【国際公開番号】W WO2017178544
(87)【国際公開日】2017-10-19
【審査請求日】2020-03-23
(31)【優先権主張番号】16165546.9
(32)【優先日】2016-04-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】594026217
【氏名又は名称】ドクトル ゲルハルト マン ケム-ファルム. ファブリック ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツンク
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100123652
【弁理士】
【氏名又は名称】坂野 博行
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】ベルマン,ギュンター
(72)【発明者】
【氏名】クローネ,ルッツ
【審査官】長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104306430(CN,A)
【文献】国際公開第2014/148450(WO,A1)
【文献】特表2015-507010(JP,A)
【文献】特表2009-502866(JP,A)
【文献】特開2005-325141(JP,A)
【文献】再公表特許第2014/148450(JP,A1)
【文献】特開2008-156290(JP,A)
【文献】特開2005-298448(JP,A)
【文献】日本医薬品添加剤協会訳編,改訂 医薬品添加物ハンドブック,株式会社薬事日報社,2007年,第582頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00 - 9/72
A61K 47/00 -47/69
A61K 31/728
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種類の液体水相および少なくとも1種類の液体疎水性相を含む貯蔵安定性の多相眼用組成物であって、
該組成物は乳化剤を含まず、
該組成物は緩衝剤を含ない
ことを特徴とする眼用組成物であって、前記組成物が、該組成物の総質量に基づいて、以下の物質:
液体水相中の0.15から0.3質量%のヒアルロン酸および/またはヒアルロン酸塩
液体疎水性相中の0.15から0.25質量%の中鎖トリグリセリド、
0.05から0.1質量%のカルボマー、
1.5から7質量%の、等張性を調節するための作用物質であるグリセリン、
pH調節のための水酸化ナトリウム、および
100質量%にするのに十分な水、
を含む、眼用組成物。
【請求項2】
前記組成物が、20℃で350mPa・s未満の粘度を示す、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記ヒアルロン酸および/またはヒアルロン酸塩が、50,000から10,000,000g/モルの分子量Mwを示す、請求項1または2記載の組成物。
【請求項4】
前記ヒアルロン酸塩が、ヒアルロン酸ナトリウム、ヒアルロン酸カリウム、ヒアルロン酸亜鉛、およびその混合物からなる群より選択される、請求項1から3いずれか1項記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物が、前記液体水相を連続相として、前記液体疎水性相をその中に分散した液滴として含む、請求項1から4いずれか1項記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物が、少なくとも1種類の高分子ゲル形成成分を含む、請求項1から5いずれか1項記載の組成物。
【請求項7】
前記液体疎水性相が、眼科的に許容される油を含む、請求項1から6いずれか1項記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物が、瞼用スプレイ、洗眼器、洗眼溶液、または点眼薬の形態にある、請求項1から7いずれか1項記載の組成物。
【請求項9】
請求項1から8いずれか1項記載の、液滴を形成する、貯蔵安定性の多相眼用組成物を調製する方法であって、前記液体疎水性相が連続液体水相中に均一に分散しており、該液体水相がヒアルロン酸および/またはヒアルロン酸塩を含む、方法。
【請求項10】
薬剤として使用するための、請求項1から8いずれか1項記載の、液滴を形成する、貯蔵安定性の多相眼用組成物。
【請求項11】
目、もしくは目の周りまたはそれと接続された器官や組織の疾患または症状を治療するのに使用するための、請求項1から8いずれか1項記載の、液滴を形成する、貯蔵安定性の多相眼用組成物。
【請求項12】
請求項1から8いずれか1項記載の組成物が収容された容器であって、該容器は、単回投与用容器または多回投与用容器、Ophtiole(登録商標)、単回投与用「Ophtiole」、または塗布システム、ポンプを使用した塗布システムまたは先端シール塗布システムである、容器。
【請求項13】
少なくとも1種類の液体水相および少なくとも1種類の液体疎水性相を含む多相の、乳化剤を含まない組成物を安定化させるためのヒアルロン酸および/またはヒアルロン酸塩の使用であって、前記組成物が、該組成物の総質量に基づいて、以下の物質:
液体水相中の0.15から0.3質量%のヒアルロン酸および/またはヒアルロン酸塩
液体疎水性相中の0.15から0.25質量%の中鎖トリグリセリド、
0.05から0.1質量%のカルボマー、
1.5から7質量%の、等張性を調節するための作用物質であるグリセリン、
pH調節のための水酸化ナトリウム、および
100質量%にするのに十分な水、
を含む、ヒアルロン酸および/またはヒアルロン酸塩の使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴を形成する貯蔵安定性の眼用組成物、並びにその調製および塗布に関する。

【背景技術】
【0002】
例えば、集中的に画面を見続けること、コンタクトレンズの装着、または空調により生じる乾燥した室内の空気の結果として、目が頻繁にヒリヒリしたり、痒くなったり、涙が出たりすることが一般に知られている。この理由は、大抵、涙の蒸発の増加または涙の分泌不足により生じる涙液膜の機能障害である。しかしながら、目の湿潤欠陥は、高齢におけるホルモン調整、薬品の摂取、もしくはシェーグレン症候群、リウマチまたは糖尿病などの内科疾患によっても促進され得る。
【0003】
特に、「ドライアイ」、乾性角結膜炎の場合、ヒリヒリしたまたは炎症を起こした目を水溶液製剤で治療することが当該技術分野で公知である。これらの製剤は、通常、流体、ゲルまたはクリームの形態で入手できる。
【0004】
アレルギー反応、刺激または特定の成分に対する不耐性をもたらす成分がしばしば溶液に添加されることは不都合である。同様に、水溶液からの成分が目と接触したときに、それらにより、痒み、ヒリヒリ感、または他の不快な副作用が生じることが知られている。その上、特に、ゲル、クリームまたは軟膏の形態の製剤には、目が痛む炎症を既に被っている患者により、塗布がさらなる不快さと受け取られるという不利な点がある。それに加え、眼内または目での製剤の分布は、擦ることによって、しばしば支援されなければならない。これは、患者にとって余計な痛みの知覚を同様にもたらす過程である。
【0005】
二相エマルションも当該技術分野において公知である。しかしながら、それらの安定性は、とりわけ、その粘度に依存する。したがって、例えば、親水性相中に微細に分散している疎水性相が凝集すると、エマルションが不安定になる。この過程は、エマルションの貯蔵の際の安定性を著しく限定し、エマルションの連続相の粘性がより強いほど、進行がより遅くなる。エマルションの十分な安定性を達成するには、通常、乳化剤が使用される。しかしながら、乳化剤は、アレルギー反応または過敏症に関連する他の反応を同様にもたらすであろう。
【0006】
乳化剤を含まない製剤が、例えば、特許文献1に開示されている。しかしながら、この製剤の不利な点は、高い粘度を示すことである。このように、患者にとって塗布が不快になり得、例えば、眼内を擦ることによる、製剤の分布は、余計な痛みを生じ得る。さらに、容器または単回投与用容器からの高粘性製剤の投与は、特に、高齢の患者または運動能力が限られた患者にとって、複雑である。
【0007】
特許文献2には、粘度が200mPa・s以上かつ2000mPa・s未満の範囲にある、無菌の、点眼薬を形成する、多相の、乳化剤を含まない眼用製剤が開示されている。しかしながら、これらの製剤にリン酸塩が使用されている。角膜損傷の著しい患者のまれな場合には、これらの塩は角膜基質中に存在するカルシウムと反応し得、これにより、リン酸カルシウムの凝集が生じることがある(非特許文献1を参照のこと)。
【0008】
貯蔵安定性の多相の眼用組成物が、特許文献3にも開示されている。しかしながら、これらの組成物は、乳化剤、緩衝剤、またはリン酸塩を含有することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】欧州特許出願公開第1913934A1号明細書
【文献】国際公開第2007/012625A1号
【文献】国際公開第2013/122801A1号
【非特許文献】
【0010】
【文献】BfArM & PEI Bulletin zur Arzneimittelsicherheit 2013, 1, 7-12
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、耐容性が良好であり、公知の不利な点を避ける、貯蔵安定性の眼用組成物が、当該技術分野において今もなお必要とされている。
【0012】
それゆえ、貯蔵安定性であり、耐容性が良好である眼用組成物を提供することが、本発明の課題である。その組成物が、液滴を形成するものであり、親油性成分を含むことが望ましい。さらに、その組成物が、乳化剤または緩衝剤物質を添加せずに、低粘度でも貯蔵安定性であることが望ましい。

【0013】
さらに、薬剤として使用するための眼用組成物を提供することが、本発明の課題である。その組成物が、目、もしくは目の周りまたはそれと接続された器官や組織の疾患または症状を治療するのに適しており、好ましくはドライアイを治療するのに適していることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した課題およびさらに別の課題が、独立請求項に定義された主題にしたがって解決される。
【0015】
本発明の1つの態様によれば、少なくとも1種類の液体水相および少なくとも1種類の液体疎水性相を含む貯蔵安定性の多相眼用組成物であって、
その組成物は乳化剤を含まず、
その組成物は緩衝剤を含まず、
その組成物はヒアルロン酸および/またはヒアルロン酸塩を含む、
ことを特徴とする眼用組成物が提供される。
【0016】
本発明のさらなる態様によれば、本発明による、液滴を形成する、貯蔵安定性の多相眼用組成物を調製する方法であって、液体疎水性相が連続液体水相中に均一に分散しており、その液体水相がヒアルロン酸および/またはヒアルロン酸塩を含む、方法が提供される。

【0017】
本発明のさらなる態様によれば、薬剤として使用するための、本発明による、液滴を形成する、貯蔵安定性の多相眼用組成物が提供される。

【0018】
本発明のさらなる態様によれば、目、もしくは目の周りまたはそれと接続された器官や組織の疾患または症状を治療するのに使用するための、好ましくはドライアイを治療するのに使用するための、本発明による、液滴を形成する、貯蔵安定性の多相眼用組成物が提供される。

【0019】
本発明のさらなる態様によれば、本発明による組成物を収容する容器であって、その容器は、単回投与用容器または多回投与用容器、好ましくはOphtiole(登録商標)、単回投与用「Ophtiole」、または塗布システム、好ましくはポンプを使用した塗布システムまたは先端シール塗布システムである、容器が提供される。
【0020】
本発明のさらなる態様によれば、少なくとも1種類の液体水相および少なくとも1種類の液体疎水性相を含む多相の、乳化剤を含まない組成物を安定化させるためのヒアルロン酸および/またはヒアルロン酸塩の使用が提供される。
【0021】
さらに好ましい実施の形態が、対応する従属請求項に記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0022】
1つの実施の形態において、前記組成物は、20℃で350mPa・s未満、好ましくは20℃で250mPa・s未満、より好ましくは20℃で200mPa・s未満、さらにより好ましくは20℃で150mPa・s未満、最も好ましくは20℃で100mPa・s未満の粘度を示す。別の実施の形態において、前記組成物は、その組成物の総質量に基づいて、少なくとも0.001質量%の量、好ましくは少なくとも0.01質量%の量、より好ましくは少なくとも0.1質量%の量、さらにより好ましくは少なくとも0.15質量%の量、最も好ましくは少なくとも0.2質量%の量でヒアルロン酸および/またはヒアルロン酸塩を含む。
【0023】
1つの実施の形態において、前記ヒアルロン酸および/またはヒアルロン酸塩は、50,000から10,000,000g/モル、より好ましくは100,000から5,000,000g/モル、最も好ましくは250,000から1,000,000g/モルの分子量Mwを示す。さらなる実施の形態において、そのヒアルロン酸塩は、ヒアルロン酸ナトリウム、ヒアルロン酸カリウム、ヒアルロン酸亜鉛、およびその混合物からなる群より選択され、そのヒアルロン酸塩がヒアルロン酸ナトリウムであることが好ましい。さらなる実施の形態において、前記組成物は、前記液体水相を連続相として、前記液体疎水性相をその中に分散した液滴として含む。
【0024】
1つの実施の形態において、前記組成物は、少なくとも1種類の高分子ゲル形成成分、好ましくは少なくとも1種類のポリアクリル酸および/または少なくとも1種類の高分子アクリル酸誘導体、および最も好ましくは少なくとも1種類のカルボマーを含む。さらなる実施の形態において、前記液体疎水性相は、眼科的に許容される油、好ましくはトリグリセリド、最も好ましくは中鎖トリグリセリドを含む。別の実施の形態において、前記組成物は、好ましくは、デキストロース、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、マンニトール、尿素、ポリエチレングリコール、ホウ酸、硫酸マグネシウム、硫酸亜鉛、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、硫酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、リン酸三ナトリウム、およびその混合物からなる群より選択される、より好ましくは、デキストロース、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、マンニトール、尿素、ポリエチレングリコールからなる群より選択される、等張性を調節するための作用物質、最も好ましくはグリセリンを含む。
【0025】
1つの実施の形態において、前記組成物は、その組成物の総質量に基づいて、以下の物質を含む:
0.15から0.3質量%のヒアルロン酸ナトリウム、
0.15から0.25質量%の中鎖トリグリセリド、
0.05から0.1質量%のカルボマー、
1.5から7質量%の、等張性を調節するための作用物質、好ましくは、グリセリン、
pH調節のための水酸化ナトリウム、および
100質量%にするのに十分な水。
【0026】
1つの実施の形態において、前記組成物は、瞼用スプレイ、洗眼器、洗眼溶液、または点眼薬の形態にあり、好ましくは瞼用スプレイまたは点眼薬の形態にある。
【0027】
以下において、本発明に使用される用語を説明する。
【0028】
本発明の目的のために、「液滴を形成する」という用語は、眼用組成物が、液滴を形成することができ、したがって、液滴の形態で塗布できることを意味する。液滴のサイズは、それから前記組成物が塗布される、容器、特に点滴器に依存する。例えば、液滴のサイズは、5から70μLの範囲にあることがある。

【0029】
本発明の目的のために、「貯蔵安定性」という用語は、目に見える相分離が起こらず、前記組成物が、2から8℃の温度で少なくとも12ヶ月の期間に亘り貯蔵されたときに、pH値、オスモル濃度、粘度および外観に関してほぼ全くまたはわずかしか変動を示さないことを意味する。1つの実施の形態において、ある組成物は、その組成物の液滴、好ましくは50μLが、12ヶ月の期間に亘り貯蔵された後に、150μm超の液滴の直径で最大で10の油滴(親油性相)、100μm超の直径で最大15の油滴(親油性相)を示す場合、貯蔵安定性である。その親油性相の液滴の直径は、顕微鏡法により評価できる。

【0030】
本発明の目的のために、「乳化剤を含まない」という用語は、前記組成物が、本発明の意味において乳化剤ではない成分しか含有しないことを意味する。本発明の目的のために、「乳化剤」は、油相と水相の間の界面で蓄積することによって、これらの二相の間の界面張力を減少させられる界面活性物質である。これは、少なくとも1つの極性(親水性)基および少なくとも1つの非極性(親油性)基を有する、乳化剤の両親媒性分子構造により可能になる。これにより、それらは親水性相および親油性相中に可溶性である。対応する相中により可溶性である部分が、その相中に延在し、それによって、両方の相の間の界面張力を減少させる。
【0031】
本発明によれば、前記組成物は、特に、眼科的に許容される油、高分子ゲル形成成分、等張性を調節するための作用物質、眼用活性成分、pH値を調節するための酸または塩基、水およびその混合物からなる群より選択される物質を含み得、それにより、これらの物質は、本発明の意味において、乳化剤ではない。
【0032】
本発明の目的のために、「緩衝剤を含まない」という用語は、前記組成物が、本発明の意味において緩衝剤ではない成分だけを含むことを意味する。本発明の目的のために、「緩衝剤」は、緩衝剤系、例えば、酸とその共役塩基の混合物、または緩衝剤物質であることがある。本発明の意味による緩衝剤の例に、リン酸緩衝液、リン酸・クエン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、酒石酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、リンゴ酸緩衝液、コハク酸緩衝液、酢酸緩衝液、酢酸・ホウ酸緩衝液、MES(2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸)、HEPES(2-(4-(2-ヒドロキシエチル)1-ピペラジニル-エタンスルホン酸)、BES(N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-アミノエタンスルホン酸)、MOPS(3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸)、TRIS(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)、またはBIS-TRIS(ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ-トリス(ヒドロキシメチル)メタンがある。
【0033】
1つの実施の形態において、前記組成物は、その組成物の緩衝能Piが0.005未満、好ましくは0.0005未満である場合、緩衝剤を含まない。緩衝能Piを決定するために、0.3単位のpH変化が生じるまで、試験すべき組成物10mLに水酸化ナトリウムの0.1N溶液を加える。次に、緩衝能Piは、以下のように決定できる:
【0034】
【数1】
【0035】
(Dolder, Skinner, Ophthalmika, 4巻, Wissenschaftliche Verlagsgesellschaft, 606頁, 4.1.2.4章を参照のこと)。
【0036】
「粘度」という用語は、特に明記のない限り、絶対粘度としても知られている、動的粘度として、ここに理解される。本発明によれば、粘度は、5rpmおよび20℃で、CP51スピンドルを備えたDV-III+型のWells-Brookfieldコーン・プレート型粘度計(独国、Brookfield Engineering Laboratories GmbH社製)によるWells-Brookfieldコーン・プレート手順により決定される。その粘度は、特に明記のない限り、目に塗布する前の組成物の粘度を称する。
【0037】
特に明記のない限り、名詞は、複数の対象を含む。
【0038】
「含む」という用語が本明細書および特許請求の範囲に使用されている場合、その用語は、他の要素を排除するものではない。本発明の目的のために、「からなる」という用語は、「含む」という用語の好ましい実施の形態であると考えられる。以後、群が、実施の形態の少なくとも特定の数を含むと定義されている場合、これは、これらの実施の形態のみからなることが好ましい群を開示すると理解すべきでもある。
【0039】
「得られる」または「定義できる」および「得られた」または「定義された」などの用語は、交換可能に使用される。これは、例えば、文脈が明白にそうではないと定めていない限り、「得られた」という用語は、例えば、ある実施の形態が、例えば、「得られた」という用語の後に続く各工程の結果により得られなければならないと示すものではないが、そのような限定された理解は、好ましい実施の形態として「得られた」または「定義された」という用語により常に含まれることを意味する。
【0040】
「含有する」または「示す」という用語が使用されているところはどこでも、それらの用語は、「含む」という用語と同等であると考えるべきである。
【0041】
本発明によれば、少なくとも1種類の液体水相および少なくとも1種類の液体疎水性相を含む、液滴を形成する、貯蔵安定性の多相眼用組成物が提供される。この組成物は、乳化剤を含まず、かつ緩衝剤を含まず、ヒアルロン酸および/またはヒアルロン酸塩を含むことを特徴とする。


【0042】
本発明の好ましい実施の形態が、以下に記載されている。これらの実施の形態および仕様は、本発明の方法および本発明の使用に、変更すべきところは変更して、適用される。
【0043】
液体水相および液体疎水性相
本発明の眼用組成物は、多相であり、少なくとも1種類の液体水相および少なくとも1種類の液体疎水性相を含む。その疎水性相は、親油性相と称されることもある。
【0044】
1つの実施の形態において、その液体水相は、水、好ましくは注射用の水を含む。別の実施の形態において、その液体水相は、天然の涙液膜に類似している。これにより、液体水相は、角膜を濡らし、洗浄機能および保護機能を果たす。1つの実施の形態において、液体水相は、7.1から7.8のpH値および/または260から320オスモル/kgのオスモル濃度を示す。
【0045】
本発明の1つの実施の形態において、その液体疎水性相は、眼科的に許容される油を含む。本発明の1つの実施の形態において、その眼科的に許容される油は、脂肪酸エステル、フタル酸エステル、中鎖トリグリセリド、長鎖トリグリセリド、ピーナッツ油、オリーブ油、ココヤシ油、ゴマ油、綿実油、ヒマワリ油、トウモロコシ胚芽油、キーウィ種子油、亜麻仁油、クルミ油、菜種油、チーア油、エゴマ油、大麻油、ヤシ油、アーモンド油、魚油、藻類油、およびそれらの混合物からなる群より選択される。
【0046】
前記油が、生物学的油、すなわち、植物または動物起源の油であることが好ましい。1つの実施の形態において、前記疎水性相は、ピーナッツ油、オリーブ油、ココヤシ油、ゴマ油、綿実油、ヒマワリ油、トウモロコシ胚芽油、キーウィ種子油、亜麻仁油、クルミ油、菜種油、チーア油、エゴマ油、大麻油、ヤシ油、アーモンド油、およびそれらの混合物からなる群より選択されることが好ましい、眼科的に許容される植物油を含む。
【0047】
本発明の意味において、「中鎖トリグリセリド」は、6から12のC原子の鎖長を有する脂肪酸を示す。本発明の意味において、「長鎖トリグリセリド」は、14から18のC原子の鎖長を有する脂肪酸を示す。
【0048】
1つの実施の形態において、前記液体疎水性相はトリグリセリドを含む。適切なトリグリセリドは、オリーブ油、ヤシ油、アーモンド油、ココヤシ油、およびそれらの混合物などの、合成油、半合成油または天然油の形態で入手できる。適切なトリグリセリドがココヤシ油から得られることが好ましい。そのような中鎖トリグリセリドは、例えば、cocus nucifera L.の内胚乳の油から、好ましくは乾燥部分から、またはelasis guineensis Jacq.から、調製される。さらに好ましい適切なトリグリセリド、好ましくは中鎖トリグリセリドは、例えば、コグニスジャパン(株)から市販されている、商標名Myritol(登録商標)312、「Myritol」318、または「Myritol」331で販売されている、中性油である。欧州薬局方5.0, 01/2010:0868, 3471頁, triglycerida saturata mediaに開示されているような、中鎖トリグリセリドが特に好ましい。その酸成分は、n-オクタン酸およびn-デカン酸の割合が、脂肪酸の総質量に基づいて、好ましくは少なくとも90質量%、より好ましくは少なくとも94質量%、最も好ましくは少なくとも95質量%である混合物を含む。他の適切な中鎖トリグリセリドが、商標名Acomed(登録商標)、Captex(登録商標)、Neobee(登録商標)M5F、Miglyol(登録商標)810、「Miglyol」812、Mazol(登録商標)、またはSefsol(登録商標)860で市販されている。中鎖トリグリセリドは、都合よく、水性成分の蒸発を防ぎ、涙液膜または眼用組成物の速すぎる乾燥を防ぐことができる。
【0049】
1つの実施の形態において、前記トリグリセリドは中鎖トリグリセリドである。その中鎖トリグリセリドは、脂肪酸の総質量に基づいて、例えば、少なくとも80質量%、好ましくは少なくとも90質量%、より好ましくは少なくとも95質量%のC~C12脂肪酸、好ましくはC~C10脂肪酸から構成することができる。好ましくは、その中鎖トリグリセリドが飽和した中鎖トリグリセリドであることがある。1つの実施の形態において、その飽和した中鎖トリグリセリドは、脂肪酸の総質量に基づいて、少なくとも80質量%、好ましくは少なくとも90質量%、より好ましくは少なくとも95質量%の飽和C~C10脂肪酸から構成される。
【0050】
トリカプリル・トリカプリングリセリド、すなわち、エステル化された飽和C~C10脂肪酸から作られた混合物が特に好ましい。この混合物には、その飽和脂肪酸は、脂質薄膜の安定性を改善し、それによって、眼内の組成物の驚くほど改善されたより長い持続時間を提供できるとゆう利点がある。
【0051】
1つの実施の形態において、前記液体疎水性相は、脂肪酸エステル、フタル酸エステル、中鎖トリグリセリド、長鎖トリグリセリド、ピーナッツ油、オリーブ油、ココヤシ油、ゴマ油、綿実油、ヒマワリ油、トウモロコシ胚芽油、キーウィ種子油、亜麻仁油、クルミ油、菜種油、チーア油、エゴマ油、大麻油、ヤシ油、アーモンド油、魚油、藻類油、およびそれらの混合物からなる群より選択されることが好ましい、脂肪酸エステル、フタル酸エステル、中鎖トリグリセリド、長鎖トリグリセリド、ピーナッツ油、オリーブ油、ココヤシ油、ゴマ油、綿実油、ヒマワリ油、トウモロコシ胚芽油、キーウィ種子油、亜麻仁油、クルミ油、菜種油、チーア油、エゴマ油、大麻油、ヤシ油、アーモンド油、およびそれらの混合物からなる群より選択されることがより好ましい、眼科的に許容される油からなり、その眼科的に許容される油が中鎖トリグリセリドであることが最も好ましい。別の実施の形態において、前記液体疎水性相は、眼科的に許容される油、好ましくはトリグリセリド、最も好ましくは中鎖トリグリセリドを含む。
【0052】
1つの実施の形態において、前記組成物は、前記眼科的に許容される油を、その組成物の総質量に基づいて、0.05から10質量%、好ましくは0.1から5質量%、より好ましくは0.15から2質量%、最も好ましくは0.2から1.5質量%の量で含む。好ましい実施の形態において、前記組成物は、前記眼科的に許容される油を、その組成物の総質量に基づいて、0.5質量%未満の量で含む。
【0053】
理論で束縛する意図はないが、本発明の発明者等は、眼科的に許容される油を添加することによって、涙液膜の脂質層の完全性を改善するまたは回復させることができると考えている。この涙液膜の安定化によって、涙液の蒸発を最小にすることができる。本発明の発明者等は、既に、本発明の組成物において、少量の眼科的に許容される油が、目に塗布された後に、適切な蒸発バリアを提供することを見出した。それによって、塗布後の視力障害を防ぐまたは低下させることができる。
【0054】
1つの実施の形態において、前記組成物は、前記眼科的に許容される油を、その組成物の総質量に基づいて、0.05から0.45質量%、好ましくは0.1から0.4質量%、より好ましくは0.15から0.35質量%、最も好ましくは0.2から0.4質量%の量で含む。例えば、本発明の組成物は、前記眼科的に許容される油を、その組成物の総質量に基づいて、0.15から0.25質量%の量で含むことができる。
【0055】
1つの実施の形態において、前記多相の眼用組成物は、前記液体水相を連続相として、前記液体疎水性相をその中に分散した液滴として含む。その液滴は、1から30μm、好ましくは5から15μmの直径を有することがある。
【0056】
前記製剤は、少なくとも二相であることが好ましく、好ましい実施の形態において、三相であることがある。例えば、前記組成物は、下記にさらに記載されるような、高分子のゲル形成成分を有する追加の水相を含むことがある。
【0057】
本発明の組成物は、高含有量の液体水相を示すことがある。1つの実施の形態において、その組成物は、その液体水相を、その組成物の総質量に基づいて、60から99.95質量%、好ましくは80から99.9質量%、より好ましくは90から99.85質量%、最も好ましくは92から99.8質量%の量で含む。別の実施の形態において、その組成物は、その液体水相を、その組成物の総質量に基づいて、0.05から10質量%、好ましくは0.1から5質量%、より好ましくは0.15から2質量%、最も好ましくは0.2から1.5質量%の量で含む。好ましい実施の形態において、その液体疎水性相は、前記眼科的に許容される油から完全になる。
【0058】
ヒアルロン酸および/またはヒアルロン酸塩
本発明の眼用組成物は、ヒアルロン酸および/またはヒアルロン酸塩を含むという点で特徴付けられる。
【0059】
ヒアルロン酸は、グルコース誘導体のD-グルクロン酸およびN-アセチル-D-グルコサミンからなる天然由来の高粘性グリコサミノグリカンである。ヒアルロン酸の分子量Mwは、抽出法に応じて、50,000から10,000,000g/モルに及び得る。ヒアルロン酸は、脊椎動物の細胞外基質の成分であり、具体的に、人の涙液の天然成分である。ヒアルロン酸は、動物源または植物源から得ても、または合成または半合成により調製してもよい。
【0060】
本発明の1つの実施の形態において、前記組成物は、ヒアルロン酸および/またはヒアルロン酸塩を、その組成物の総質量に基づいて、少なくとも0.001質量%の量、好ましくは少なくとも0.01質量%の量、より好ましくは少なくとも0.1質量%の量、さらにより好ましくは少なくとも0.15質量%の量、最も好ましくは少なくとも0.2質量%の量で含む。本発明の別の実施の形態において、前記組成物は、ヒアルロン酸および/またはヒアルロン酸塩を、その組成物の総質量に基づいて、0.001から5質量%の量、好ましくは0.01から2質量%の量、より好ましくは0.1から1.5質量%の量、さらにより好ましくは0.15から1質量%の量、最も好ましくは0.2から0.8質量%の量で含む。例えば、本発明の組成物は、ヒアルロン酸および/またはヒアルロン酸塩を、その組成物の総質量に基づいて、0.15から0.3質量%の量で含み得る。
【0061】
1つの実施の形態において、そのヒアルロン酸および/またはヒアルロン酸塩の分子量Mwは、50,000から10,000,000g/モル、好ましくは100,000から5,000,000g/モル、最も好ましくは250,000から1,000,000g/モルに及ぶ。
【0062】
遊離ヒアルロン酸の代わりに、または遊離ヒアルロン酸に加えて、ヒアルロン酸の塩、すなわち、ヒアルロン酸塩も、本発明の眼用組成物に用いてよい。1つの実施の形態において、そのヒアルロン酸塩は、ヒアルロン酸ナトリウム、ヒアルロン酸カリウム、ヒアルロン酸亜鉛、およびその混合物からなる群より選択される。好ましい実施の形態において、そのヒアルロン酸塩はヒアルロン酸ナトリウムである。
【0063】
本発明の発明者等は、意外なことに、ヒアルロン酸および/またはヒアルロン酸塩は、多相眼用組成物の安定性、特に貯蔵安定性を改善することを見出した。理論で束縛する意図はないが、本発明の発明者等は、ヒアルロン酸および/またはヒアルロン酸塩が、立体効果によって、液体水相中に分散された液体疎水性相の液滴を安定化させると考えている。
【0064】
さらに、意外なことに、本発明の組成物は、より低い粘度範囲においても、特に、350mPa・s未満、例えば、250mPa・s未満、または200mPa・s未満の粘度でも、長期間に亘り安定なままであることが分かった。低粘度エマルションの組成物は、典型的に、貯蔵および脱混合の際に不安定になるので、その組成物にとって、このことは特に都合よい。低粘度の組成物が、患者への適用性を著しく改善することが特に有利である。それにより、低粘度のために、目の角膜上によりよく分布させることができる、液滴を形成する組成物を都合よく提供することができ、その目は、分布の追加の機械的支持により刺激される必要がない。さらに、低粘度の組成物は、塗布の際に目に異物の感覚をほんのわずかしか生じず、患者にとってより快適な耐性を与えることが都合よい。さらに、低粘度の組成物は、投与容器から投与するのがより容易であり、塗布するのがより容易である。瞼用スプレイの形態で低粘度の組成物を提供することも可能であり、その瞼用スプレイは、患者にとって投与がより容易である。

【0065】
本発明の組成物の特別な利点は、その眼用組成物の安定性が、乳化剤を添加せずに達成されることである。さらに、緩衝剤の添加が必要ない。それにより、本発明によれば、乳化剤を含まず、緩衝剤を含まない組成物を提供できる。これにより、本発明の組成物の耐性を改善することができ、目の刺激または「ヒリヒリ感」が防がれる。
【0066】
本発明の1つの態様によれば、少なくとも1種類の液体水相および少なくとも1種類の液体疎水性相を含む多相の、乳化剤を含まない組成物を安定化するための、ヒアルロン酸および/またはヒアルロン酸塩の使用が提供される。本発明の1つの実施の形態において、少なくとも1種類の液体水相および少なくとも1種類の液体疎水性相を含む、液滴を形成する、多相の、乳化剤を含まず、緩衝剤を含まない組成物を安定化するための、ヒアルロン酸および/またはヒアルロン酸塩の使用が提供される。

【0067】
さらに別の成分
上述した成分に加え、本発明の眼用組成物は、さらに別の成分を含み得る。
【0068】
1つの実施の形態において、前記組成物は、少なくとも1種類の高分子ゲル形成成分を含む。それによって、例えば、その組成物の粘度を厳密に制御することができる。さらに、涙液膜のムチン層へのその組成物の吸着力を、高分子ゲル形成成分によって改善することができ、それにより、眼内の組成物の保持期間が長くなる。その組成物の潤滑性および/または水結合能力も、高分子ゲル形成成分の存在によって改善することができる。
【0069】
その高分子ゲル形成成分が、少なくとも1種類のポリアクリル酸および/または少なくとも1種類の高分子アクリル酸誘導体を含むことが好ましい。
【0070】
好ましいポリアクリル酸または高分子アクリル酸誘導体は、約3から5百万g/モルの範囲の分子量Mwを示す。特に好ましい適用できるポリアクリル酸または高分子アクリル酸誘導体は、架橋したアクリル酸高分子、好ましくは、INCI名でカルボマーと記載される、疎水的に修飾された架橋アクリル酸高分子である。好ましいカルボマーは、例えば、米国のThe Lubrizol Coorperation社から、商標名Carbopol(登録商標)で入手できる。特に好ましいカルボマーは、アクリル酸単独重合体、例えば、「Carbopol」単独重合体であり、「Carbopol」980NFが特に好ましく、「Carbopol」940NFがさらに特に好ましい。ポリアクリル酸および高分子アクリル酸という用語は、本出願の目的のために、交換可能に使用される。好ましい実施の形態によれば、本発明の組成物は少なくとも1種類のカルボマーを含む。
【0071】
1つの実施の形態において、前記組成物は、前記高分子ゲル形成成分を、その組成物の総質量に基づいて、0.01から5質量%、好ましくは0.02から3質量%、より好ましくは0.04から1質量%、最も好ましくは0.05から0.08質量%の量で含む。別の実施の形態において、前記組成物は、その組成物の総質量に基づいて、0.01から5質量%、好ましくは0.02から3質量%、より好ましくは0.04から1質量%、最も好ましくは0.05から0.1質量%の量で少なくとも1種類のポリアクリル酸および/または高分子アクリル酸を、好ましくは少なくとも1種類のカルボマーを含む。
【0072】
1つの実施の形態において、前記組成物は、その組成物が、20℃で350mPa・s未満、好ましくは20℃で250mPa・s未満、より好ましくは20℃で200mPa・s未満、さらにより好ましくは20℃で150mPa・s未満、最も好ましくは20℃で100mPa・s未満の粘度を示すような量で前記高分子ゲル形成成分を含む。
【0073】
1つの実施の形態において、本発明の組成物は、等張性を調節するための作用物質、すなわち、等張化剤を含む。非電解質および/または電解質が適切な等張化剤である。等張性を調節するための適切な非電解質の例に、デキストロース、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、マンニトール、尿素、ポリエチレングリコール、およびその混合物がある。等張性を調節するための適切な電解質の例に、ホウ酸、硫酸マグネシウム、硫酸亜鉛、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、硫酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、リン酸三ナトリウム、およびその混合物がある。
【0074】
1つの実施の形態において、前記組成物は、デキストロース、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、マンニトール、尿素、ポリエチレングリコール、ホウ酸、硫酸マグネシウム、硫酸亜鉛、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、硫酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、リン酸三ナトリウム、およびその混合物からなる群より選択される、好ましくはデキストロース、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、マンニトール、尿素、ポリエチレングリコール、およびその組合せからなる群より選択される、等張性を調節するための作用物質を含む。好ましい実施の形態において、等張性を調節するための作用物質はグリセリンである。
【0075】
1つの実施の形態において、前記組成物は、その組成物を天然の涙液に等張的に提供するのに十分な量で、等張性を調節するための作用物質を含む。好ましい実施の形態において、その組成物は、その等張性を調節するための作用物質を、その組成物の総質量に基づいて、0.1から10質量%、好ましくは0.5から9質量%、より好ましくは1から8質量%、最も好ましくは1.5から7質量%の量で含む。別の好ましい実施の形態において、その組成物は、その組成物の総質量に基づいて、0.1から10質量%、好ましくは0.5から9質量%、より好ましくは1から5質量%、最も好ましくは2から3質量%の量で、等張化剤としてグリセリンを含む。1つの実施の形態において、その組成物は、その組成物が、100から500オスモル/kg、好ましくは200から400オスモル/kg、最も好ましくは260から320オスモル/kgでオスモル濃度を示すような量で、等張性を調節するための作用物質を含む。
【0076】
本発明の組成物が、抗ウイルス物質、ステロイド性または非ステロイド性抗炎症化合物またはコルチコステロイド、抗生物質、抗真菌薬、麻酔薬、抗炎症薬、または抗アレルギー薬などのどのような医薬物質または活性医薬成分も含有しないことが好ましい。「活性医薬成分」は、本発明の目的のために、特に、ビタミンAおよびビタミンEではない。
【0077】
1つの実施の形態において、本発明の組成物は、少なくとも1種類の眼用活性成分を含む。例えば、本発明の組成物は、抗ウイルス物質、ステロイド性および非ステロイド性抗炎症化合物またはコルチコステロイド、抗生物質、抗真菌薬、麻酔薬、抗炎症薬、免疫抑制剤および/または抗アレルギー薬などの医薬物質または活性医薬成分を含有することがある。
【0078】
1つの実施の形態において、前記組成物は、好ましくはシクロスポリンA、アザチオプリン、シクロホスファミド、タクロリムス水和物、ミコフェノール酸モフェチル、ミコフェノール酸、ピメクロリムス、ピメクロリムス水和物、シロリムス、シロリムス水和物、およびその混合物からなる群より選択される、免疫抑制剤をさらに含む。好ましい実施の形態において、その組成物は、シクロスポリンAをさらに含む。
【0079】
さらなる実施の形態において、前記組成物は、ビタミンA成分、好ましくはビタミンAパルミテートをさらに含む。
【0080】
1つの実施の形態において、前記組成物は、少なくとも1種類の眼用活性成分、好ましくはビタミンA成分、最も好ましくはビタミンAパルミテート、および/または酸化防止剤、最も好ましくはビタミンEを含む。ビタミンAパルミテートの量は、組成物のグラム当たり1000I.U.のビタミンAパルミテートであり得、それによって、追加の20%の必要以上の安定性量が使用される。好ましくは、適切なビタミンAパルミテートは、ビタミンAパルミテートのグラム当たり1百万I.U.を有し、好ましくは、安定剤として、ブチル化ヒドロキシアニソールおよび/またはブチル化ヒドロキシトルエンを含む。1つの実施の形態において、その組成物は、その組成物の総質量に基づいて、約0.12質量%の必要以上の安定性量を考慮して、0.05から0.5質量%の量、好ましくは0.08から0.2質量%の量、最も好ましくは約0.1質量%の量のビタミンA成分、好ましくはビタミンAパルミテートを含む。
【0081】
前記ビタミンA成分が、ビタミンEなどの酸化防止剤との組合せで使用されることが特に好ましい。ビタミンA成分は、少なくとも1種類の酸化防止剤、好ましくはビタミンE、より好ましくはD,L-α-トコフェロールにより安定化されることがある。安定化のために、少量の酸化防止剤、好ましくはビタミンE、より好ましくはD,L-α-トコフェロールが、例えば、組成物の総質量に基づいて、0.002から0.01質量%、好ましくは0.006から0.008質量%の量で使用される。
【0082】
本発明の組成物の別の利点は、液体疎水性相中に懸濁されたかまたは溶解した活性成分がより均一に分布され得ることである。それにより、眼用デバイスのコンタクトシェルまたは前部レンズなどの、角膜上に配置され得る物体の湿潤性を改善できる。
【0083】
本発明の組成物のpH値は、酸および/または塩基で調節できる。例えば、pH値は、ホウ酸および/または水酸化ナトリウム溶液で調節してよい。1つの実施の形態において、本発明の組成物は、組成物の総質量に基づいて、0.01から1質量%、好ましくは0.02から0.5質量%、最も好ましくは0.02から0.05質量%の量で酸および/または塩基を含む。
【0084】
1つの実施の形態において、前記組成物は、pH値を調節するために水酸化ナトリウム溶液を含む。pH値の調節のために、2%から3%の水酸化ナトリウム溶液が特に適している。1つの実施の形態において、本発明の組成物は、その組成物の総質量に基づいて、0.01から1質量%、好ましくは0.02から0.5質量%、最も好ましくは0.02から0.05質量%の量で水酸化ナトリウムを含む。
【0085】
さらに、本発明の組成物は、水溶性リン酸塩を含むことがある。
【0086】
本発明の好ましい実施の形態において、前記組成物はリン酸塩を含まない。
【0087】
1つの実施の形態において、本発明の組成物は、6から8の範囲、好ましくは6.5から7.5の範囲、最も好ましくは6.8から7.2の範囲のpH値を示す。例示の実施の形態によれば、本発明の組成物は、6から7の範囲のpH値を示す。
【0088】
本発明の組成物は、さらなる成分、例えば、好ましくはセトリミド、ベンゾドデシニウムクロリド、ベンザルコニウムクロリド、チオマーサル、アレキシジン、およびその混合物からなる群より選択される、最も好ましくは、セトリミドおよび/またはアレキシジンである、防腐剤を含むことがある。「セトリミド」は、N-セチル-N,N,N-トリメチル-アンモニウムブロミドの慣用名であり、「ベンゾドデシニウムクロリド」は、N-ベンジル-N-ドデシル-N,N-ジメチル-アンモニウムクロリドの慣用名であり、「ベンザルコニウムクロリド」は、ベンジルラウリルジメチルアンモニウムクロリドの慣用名であり、「チオマーサル」は、2-(エチルメルクリチオ)安息香酸ナトリウム塩の慣用名である。本発明の目的のために、アレキシジンは乳化剤に関係なく、使用されるアレキシジンの量は乳化効果を示さない。
【0089】
1つの実施の形態において、本発明の組成物は、その組成物の総質量に基づいて、0.001から0.05質量%の量、好ましくは0.005から0.01質量%の量で防腐剤を含む。
【0090】
特に好ましい実施の形態において、本発明の組成物は、防腐剤を含まない。
【0091】
本発明の1つの実施の形態において、前記液滴を形成する、貯蔵安定性の多相眼用組成物は、ヒアルロン酸および/またはヒアルロン酸塩、眼科的に許容される油、少なくとも1種類の高分子ゲル形成成分、等張性を調節するための作用物質、塩基および水を含む。本発明のさらなる実施の形態において、その液滴を形成する、貯蔵安定性の多相眼用組成物は、ヒアルロン酸および/またはヒアルロン酸塩、好ましくはヒアルロン酸塩、中鎖トリグリセリド、少なくとも1種類のポリアクリル酸および/または少なくとも1種類の高分子ポリアクリル酸誘導体、等張性を調節するための作用物質、塩基および水を含む。本発明のさらなる実施の形態において、その液滴を形成する、貯蔵安定性の多相眼用組成物は、ヒアルロン酸および/またはヒアルロン酸塩;中鎖トリグリセリド;カルボマー;デキストロース、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、マンニトール、尿素、ポリエチレングリコール、およびその混合物からなる群より選択される、等張性を調節するための作用物質;塩基、好ましくは水酸化ナトリウム;および水を含む。1つの実施の形態において、本発明の組成物は、リン酸塩および防腐剤を含まない。

【0092】
本発明の1つの実施の形態において、前記液滴を形成する、貯蔵安定性の多相眼用組成物は、その組成物の総質量に基づいて、以下の物質を含む:
0.001から5質量%、好ましくは0.01から2質量%、より好ましくは0.1から1.5質量%、さらにより好ましくは0.15から1質量%、最も好ましくは0.2から0.8質量%の量のヒアルロン酸および/またはヒアルロン酸塩、好ましくはヒアルロン酸塩;0.05から10質量%、好ましくは0.1から5質量%、より好ましくは0.15から2質量%、最も好ましくは0.2から1.5質量%の量の眼科的に許容される油、好ましくは中鎖トリグリセリド;0.01から5質量%、好ましくは0.02から3質量%、より好ましくは0.04から1質量%、最も好ましくは0.05から0.1質量%の量の少なくとも1種類の高分子ゲル形成成分、好ましくはポリアクリル酸および/または高分子ポリアクリル酸誘導体、より好ましくはカルボマー;0.1から10質量%、好ましくは0.5から9質量%、より好ましくは1から8質量%、最も好ましくは1.5から7質量%の量の、デキストロース、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、マンニトール、尿素、ポリエチレングリコール、およびその混合物からなる群より選択される、等張性を調節するための作用物質、好ましくはグリセリン;0.01から1質量%、好ましくは0.02から0.5質量%、最も好ましくは0.02から0.05質量%の量の塩基、好ましくは水酸化ナトリウム;および水。

【0093】
1つの実施の形態において、前記液滴を形成する、貯蔵安定性の多相眼用組成物は、その組成物の総質量に基づいて、以下の物質を含む:
0.15から0.3質量%のヒアルロン酸ナトリウム、
0.15から0.25質量%の中鎖トリグリセリド、
0.05から0.1質量%のカルボマー、
1.5から7質量%の、等張性を調節するための作用物質、好ましくは、グリセリン、
好ましくは0.02から0.05質量%の量の、pH調節のための水酸化ナトリウム、および
100質量%にするのに十分な水。

【0094】
「100質量%にするのに十分な水」という表現は、本発明の目的のために、水が、100質量%の合計量に到達するような量で加えられることを意味する。
【0095】
好ましい実施の形態において、本発明の組成物は、上述したものに加えて、さらに別の物質を含有しない。
【0096】
性質、調製および使用
本発明によれば、少なくとも1種類の液体水相および少なくとも1種類の液体疎水性相を含む、液滴を形成する、貯蔵安定性の多相眼用組成物であって、乳化剤を含まず、緩衝剤を含まず、ヒアルロン酸および/またはヒアルロン酸塩を含むことを特徴とする組成物が提供される。

【0097】
本発明の組成物は、当業者に公知のどの適切な液体製剤で提供しても差し支えない。1つの実施の形態によれば、その組成物は、瞼用スプレイ、洗眼器、洗眼溶液、または点眼薬の形態にある。好ましい実施の形態によれば、その組成物は、瞼用スプレイまたは点眼薬の形態にある。
【0098】
1つの実施の形態において、前記組成物は、20℃で350mPa・s未満、好ましくは20℃で250mPa・s未満、より好ましくは20℃で200mPa・s未満、さらにより好ましくは20℃で150mPa・s未満、最も好ましくは20℃で100mPa・s未満の粘度を示す。本発明によれば、その粘度は、5rpmおよび20℃で、CP51スピンドルを備えたDV-III+型のWells-Brookfieldコーン・プレート型粘度計(独国、Brookfield Engineering Laboratories GmbH社製)によるWells-Brookfieldコーン・プレート手順により決定される。
【0099】
本発明の組成物は、難なく、無菌で調製され、十分に耐性がある。多相組成物を調製するための適切な過程が、当業者に公知である。本発明の組成物の調製が多段階過程をとることが好ましい。具体的に、本発明の液体水相にヒアルロン酸および/またはヒアルロン酸塩が加えられる。その眼用組成物が、使用するために無菌形態で提供されること、その無菌物質が無菌条件下で施されること、またはその組成物が、その物質の添加後に殺菌されることが認識されるであろう。
【0100】
本発明の別の態様によれば、少なくとも1種類の液体水相および少なくとも1種類の液体疎水性相を含む、液滴を形成する、貯蔵安定性の多相眼用組成物を調製する方法であって、液体疎水性相が連続液体水相中に均一に分散され、その液体水相がヒアルロン酸および/またはヒアルロン酸塩を含む、方法が提供される。

【0101】
本発明の組成物を調製する好ましい方法において、好ましくは無菌条件下で、液体水相中にヒアルロン酸および/またはヒアルロン酸塩が最初に溶かされる。次に、好ましくは無菌条件下で、この液体水相中に、液体疎水性相が分散させられる。これが、完全に均一になるまで撹拌されることが好ましい。分散体中の液体疎水性相のこのようにして得られた液滴の直径が100μm未満であることが好ましい。好ましい実施の形態において、これは、1から30μm、好ましくは5から15μmの直径の液滴が得られるまで、均質化される。その後、得られた、好ましくは無菌の、組成物を標準様式で包装することができる。
【0102】
別の実施の形態において、前記液体水相中に、高分子ゲル形成成分が加えられる。それにより、液体水相および液体疎水性相に加え、それぞれ、ゲル相またはムチン相を含む三相組成物を提供できる。さらに、その液体水相中に、等張化剤および/またはさらなる上述した成分を加えてもよい。
【0103】
例示の実施の形態において、好ましくは無菌条件下で、少なくとも1種類のポリアクリル酸および/または少なくとも1種類のアクリル酸誘導体の懸濁液が最初に調製される。それに続いて、この懸濁液に、ヒアルロン酸および/またはヒアルロン酸塩、並びに必要であれば、等張化剤を含む除菌水溶液が加えられ、それにより、好ましくは除菌された、窒素または圧縮ガスとしての圧縮空気の適用下で、それに作業してよい。完全に混合した後、少なくとも1種類のポリアクリル酸および/または少なくとも1種類のアクリル酸誘導体のカルボキシル基を、好ましくは無菌の、水酸化ナトリウムの2%から3%の溶液の添加により中和し、少なくとも1種類のポリアクリル酸および/または少なくとも1種類のアクリル酸誘導体のゲル形成を開始し、その混合物を、ゲルの均一性が達成されるまで撹拌することが好ましい。次に、無菌条件下で、調製されたヒドロゲルに、液体疎水性相が加えられる。
【0104】
さらに、このようにして得られた無菌ゲルに、眼用活性成分、例えば、ビタミンAパルミテートを加えてもよい。例示の実施の形態において、その活性成分は、無菌条件下で加えられ、均一に混合される。例えば、ビタミンA成分および存在する、好ましくはずっと少ない量の酸化防止剤を、疎水性相中に溶かし、次に、除菌してもよい。次に、無菌疎水性活性成分含有相を、撹拌しながら、そのゲルに加えてよい。
【0105】
本発明の組成物は、目、もしくは目を取り囲むか、またはそれに接続された器官や組織の疾患または症状を治療するのに特に適している。この眼用組成物は、ドライアイに関連する不快感を緩和するのに、および/またはドライアイの対症療法に特に適している。
【0106】
本発明の別の態様によれば、少なくとも1種類の液体水相および少なくとも1種類の液体疎水性相を含み、乳化剤を含まず、緩衝剤を含まず、ヒアルロン酸および/またはヒアルロン酸塩を含むことを特徴とする、液滴を形成する、貯蔵安定性の多相眼用組成物であって、薬剤として使用するための眼用組成物が提供される。1つの実施の形態において、少なくとも1種類の液体水相および少なくとも1種類の液体疎水性相を含み、乳化剤を含まず、緩衝剤を含まず、ヒアルロン酸および/またはヒアルロン酸塩を含むことを特徴とする、本発明による、液滴を形成する、貯蔵安定性の多相眼用組成物は、目、もしくは目を取り囲むか、またはそれに接続された器官や組織の疾患または症状を治療するのに使用するための、好ましくはドライアイの治療に使用するための眼用組成物が提供される。
【0107】
本発明の眼用組成物は、目を刺激する物質、例えば、乳化剤または緩衝剤物質が存在しないために、例えば、涙代用剤として、ドライアイの長期に亘る治療に適している。驚いたことに、本発明の組成物の塗布後、すでに数分以内で、目の乾きの感覚だけでなく、ヒリヒリ感、痒み、充血または腫れ上がりなどの障害の著しい改善を達成できることが分かった。その障害は、本発明の組成物によって、長期間に亘り緩和されることが特別な長所である。防腐剤を含まない、および/またはリン酸塩を含まない、本発明の組成物は、長期治療に特に適している。
【0108】
本発明の組成物は、塗布するために、内容物を目に塗布できるように設計されていることが好ましい、適切な容器に充填されることがある。
【0109】
別の態様によれば、本発明の組成物を収容する容器であって、単回投与用容器または多回投与用容器、好ましくは「Ophtiole」、単回投与用「Ophtiole」または塗布システム、好ましくはポンプを使用した塗布システムまたは先端シール塗布システムである、容器が提供される。
【0110】
本発明の1つの実施の形態において、本発明の組成物は、ある種の単回投与用容器内に提供される。単回投与用容器は、例えば、単回投与用「Ophtiole」の名称で、当該技術分野で公知であり、LDPE(低密度ポリエチレン)などのポリエチレンから製造されることが好ましいであろう。特に好ましい実施の形態において、本発明の組成物は、防腐剤を含まずに、単回投与用容器内に提供される。
【0111】
あるいは、本発明の組成物を収容する容器は、多回投与用容器であってもよい。例えば、その容器は、滴下ボトルであってもよい。適切な滴下ボトルは、例えば、「Ophtiole」の名称で、当該技術分野で公知であり、ポリエチレン、好ましくはHDPE(高密度ポリエチレン)またはLDPE(低密度ポリエチレン)から製造されることがある。
【0112】
多回投与用容器は、ポンプを使用した塗布システムまたは先端シール塗布システムなどの塗布システムであってよい。ポンプを使用した塗布システムの例に、瞼用スプレイ、計量噴霧ボトル、または両方ともUrsatec Verpackung GmbH社により製造されている、COMOD(登録商標)システムまたは3K(登録商標)システムなどの点眼ポンプがある。先端シール塗布システムの例には、Aptargroup,Inc.社からのOphthalmic Squeeze Dispenser(OSD(登録商標))システム、またはNemera社からのNovelia(登録商標)システムがある。
【0113】
1つの実施の形態によれば、本発明の組成物を収容する計量噴霧ボトルが提供され、その組成物が瞼用スプレイの形態にあることが好ましい。それにより、その瞼用スプレイを、噴霧の形態で目に施すことができる。典型的に、瞼用スプレイは、一日数回、閉じた瞼に噴霧される。しかしながら、本発明の瞼用スプレイを、開いた目の正面または横から施すこともできる。本発明の組成物が目の涙液膜と一旦接触したら、その組成物の粘度は、涙液膜の塩分のために、低下し、それによって、組成物が不安定化するであろう。その結果、液体水相および液体疎水性相が分離し、目の涙液膜上に均一な疎水性膜、例えば、油膜が形成し、それによって、蒸発バリアを提供する、および/または脂質層の完全性を改善するまたは回復させることができる。このように、迅速で、直接的であり、効果的な作用を提供することができる。
【0114】
このことは、典型的にリン脂質を含有するリポソームを含む、当該技術分野で公知のリポソーム瞼用スプレイと比べて、利点である。このリポソームに含まれる脂質は、涙液膜の脂質層に取り込まれ、それによって、それを安定化させるはずであり、このことは、リポソームの分解を必要とするように思われる。さらに、リポソーム瞼用スプレイは、しばしば、特有の匂いを持ち、これは、患者の不快な経験となる。
【0115】
本発明の範囲および主題は、限定または制限と理解すべきではない、選択された実施の形態に基づく以下の実施により明らかになる。
【実施例
【0116】
1.測定方法
pH値
調製した眼用組成物のpH値は、Knick pH-Meter 765またはKnick pH-Meter 766(独国、Knick Elektronische Messgeraete GmbH & Co.KG)により20℃の温度で測定した。
【0117】
オスモル濃度
調製した眼用組成物のオスモル濃度は、マイクロ・オスモメーター(独国、Hermann Roebling Messtechnik)により20℃の温度で測定した。
【0118】
粘度
調製した眼用組成物の粘度は、5rpmおよび20℃で、CP51スピンドルを備えたDV-III+型のWells-Brookfieldコーン・プレート型粘度計(独国、Brookfield Engineering Laboratories GmbH社製)によるWells-Brookfieldコーン・プレート手順により決定した。
【0119】
液滴サイズの測定
液体疎水性相の液滴の直径は、顕微鏡Axio Imager M1(独国、Carl Zeiss AG)により顕微鏡によって決定した。
【0120】
滴下実験(プライミング)
滴下実験は、ポンプを使用した適用システム(「3K」システム、独国、Ursatec Verpackung GmbH)の垂直操作によって手作業で行った。要求される操作は、その適用システムによる中位の滴径の液滴の放出により決定した。
【0121】
安定性試験
調製した眼用組成物の貯蔵安定性は、60分の期間に亘る20℃での毎分5700回転の速度でのその組成物の遠心分離により決定した。調査に実験用遠心分離Multifuge 1 S(独国、Kendro Laboratory Products GmbH)を使用した。
【0122】
この組成物は、遠心分離の完了後、目視検査し、以下のように評価した:
OK:光学的分離がない、または濁度の差が見えない。
ET:下から見える濁度。
【0123】
2.物質
HA:ヒアルロン酸ナトリウム(中国、Bloomage Freda Biopharm Co.,Ltd.)。
MCT:トリカプリル・トリカプリングリセリド(Myritol 318、独国、BASF AG)。
カルボマー:Carbopol 980 NF(ベルギー国、Lubrizol Advanced Materials Europe BVBA)。
IM:等張化剤;以下の物質を使用した:グリセリン、ソルビトール、マンニトール、グルコース、プロピレングリコール、尿素、PEG300。
【0124】
3.実施例
試料1から9と標識された眼用組成物を、表1に列挙された物質および量を使用することによって、以下の過程にしたがって調製した。
【0125】
調製の第1の工程において、カルボマーを水中に懸濁させ、その後、オートクレーブ処理した。第2の工程において、水、ヒアルロン酸ナトリウム、および等張化剤を含む無菌水溶液を調製し、カルボマー懸濁液に加えた。その後、必要に応じて、無菌水酸化ナトリウム溶液を加えることによって、pH値を6から7に調節し、液体疎水性相を均質化状態で加えた。最終的な組成物を一次包装内に無菌充填した。
【0126】
表2に纏められた結果は、本発明の試料2から9の全てが、安定性試験に合格し、したがって、貯蔵安定性であることを示す。反対に、ヒアルロン酸塩を含まない比較試料1は、安定性試験の実施後、下から見える濁度を示し、これは、複数の相の脱混合を示す。
【0127】
【表1】
【0128】
【表2】