(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-07
(45)【発行日】2023-03-15
(54)【発明の名称】電動アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20230308BHJP
H02K 7/116 20060101ALI20230308BHJP
【FI】
F16H1/32 A
H02K7/116
(21)【出願番号】P 2019049763
(22)【出願日】2019-03-18
【審査請求日】2021-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100129148
【氏名又は名称】山本 淳也
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 隆英
(72)【発明者】
【氏名】石川 慎太朗
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-194151(JP,A)
【文献】特開2005-201295(JP,A)
【文献】特開2007-187191(JP,A)
【文献】特開平03-117725(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
H02K 7/116
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイクロイド減速機を有する差動装置と、前記差動装置を駆動する電動モータと、
前記差動装置を支持する軸受と、を備える電動アクチュエータにおいて、
前記差動装置は、回転軸を中心として回転可能の駆動回転体、自転可能でかつ前記回転軸を中心として公転可能の遊星回転体、および前記回転軸を中心として回転可能の従動回転体を有し、前記遊星回転体が前記駆動回転体および前記従動回転体のそれぞれと噛み合い、前記遊星回転体と前記駆動回転体との間に第一減速機を形成し、前記遊星回転体と前記従動回転体との間に第二減速機を形成し、前記第一減速機の減速比と前記第二減速機の減速比とを異ならせており、
前記電動モータは、前記遊星回転体を駆動するロータを有し、
前記軸受は、前記ロータの内側で前記遊星回転体を支持する第一軸受と、前記ロータと重ならないように軸方向にずれた位置で前記遊星回転体を支持する第二軸受と、を含み、
前記第二軸受は、前記第一減速機と前記第二減速機の双方を支持しており、
前記第一減速機は、前記遊星回転体に形成される第一内歯部と、前記駆動回転体に形成される第一外歯部と、を含み、
前記第二減速機は、前記遊星回転体に形成される第二内歯部と、前記従動回転体に形成される第二外歯部と、を含み、
前記第一内歯部の歯面と前記第一外歯部の歯面との少なくとも一方、又は、前記第二内歯部の歯面と前記第二外歯部の歯面との少なくとも一方は、複数のディンプルを有することを特徴とする電動アクチュエータ。
【請求項2】
前記第一軸受は、針状ころ軸受であり、
前記針状ころ軸受は、前記
遊星回転体に接触しつつ転動する転動体を備え、
前記
遊星回転体は、前記転動体が接触しつつ転動する外周面を有しており、
前記外周面は、複数のディンプルを有する請求項1に記載の電動アクチュエータ。
【請求項3】
前記駆動回転体は、スプロケットを有しており、
前記サイクロイド減速機を介して前記駆動回転体に駆動されるカムシャフ
トを備え、
前記スプロケットに対する前記カムシャフトの回転位相差を変更してバルブの開閉タイミングを変更する可変バルブタイミング装置に適用した請求項1又は2に記載の電動アクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
外部から駆動力が入力される入力側と、入力された駆動力を出力する出力側とで、回転位相差を変化させることが可能な電動アクチュエータとして、例えば、自動車のエンジンの吸気バルブと排気バルブの一方または両方のバルブの開閉タイミングを変更する可変バルブタイミング装置に用いられるものが知られている。
【0003】
例えば特許文献1には、サイクロイド減速機からなる差動装置を備える電動アクチュエータが開示されている。この電動アクチュエータでは、電動モータによって差動装置が駆動されないときは、入力側の部材(例えば、スプロケット)と出力側の部材(例えば、カムシャフト)とが同期回転し、電動モータによってサイクロイド減速機が駆動されるときは、当該サイクロイド減速機によって入力側の部材に対する出力側の部材の回転位相差が変更されることで、バルブの開閉タイミングが調整される。
【0004】
この電動アクチュエータは、エンジンによって駆動されるスプロケットを有する駆動回転体(入力回転体)と、駆動回転体によって駆動される従動回転体(出力回転体)と、駆動回転体と従動回転体との間に設けられる遊星回転体(内歯車)と、遊星回転体を駆動するロータを有する電動モータと、を備える。サイクロイド減速機は、駆動回転体に形成される第一外歯部と、遊星回転体の内周面に形成される第一内歯部及び第二内歯部と、従動回転体に形成される第二外歯部とにより構成される。
【0005】
サイクロイド減速機は、電動モータによって駆動される場合に、遊星回転体の回転運動及び偏心運動に伴って、内歯部と歯面と外歯部との歯面とが相互に滑りながら(摺動しながら)移動することで従動回転体を減速しながら駆動回転体から従動回転体へと動力を伝達する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
サイクロイド減速機を採用する従来の電動アクチュエータでは、内歯部の歯面と外歯部の歯面との滑りを伴って動力を伝達することから、その摩擦による差動装置の効率低下を招くおそれがあった。
【0008】
本発明は上記の事情に鑑みて為されたものであり、サイクロイド減速機の効率低下を防止することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記の課題を解決するためのものであり、サイクロイド減速機を有する差動装置と、前記差動装置を駆動する電動モータと、を備える電動アクチュエータにおいて、前記差動装置は、互いに噛み合う内歯部と外歯部とを備え、前記内歯部の歯面及び前記外歯部の歯面の少なくとも一方は、複数のディンプルを有することを特徴とする。
【0010】
かかる構成によれば、差動装置の内歯部の歯面及び外歯部の歯面の一方又は両方に複数のディンプルを形成し、当該ディンプルに潤滑油の油溜りを生じさせることで、各歯面に油膜を形成し易くなる。これにより、内歯部と外歯部に滑りが生じている場合に、各歯面に作用する摩擦力を低減することで、差動装置(サイクロイド減速機)の効率低下を防止できる。
【0011】
前記差動装置は、内周に前記内歯部が形成された回転体と、前記回転体を支持する針状ころ軸受とを備え、前記針状ころ軸受は、前記回転体に接触しつつ転動する転動体を備え、前記回転体は、前記転動体が接触しつつ転動する外周面を有しており、前記外周面は、複数のディンプルを有してもよい。
【0012】
かかる構成よれば、針状ころ軸受の転動体が接触しつつ転動する回転体の外周面(転走面)にディンプルを形成することで、当該外周面に潤滑油による油膜を形成し易くなる。これにより、油膜によって外周面を潤滑することで、当該外周面の摩耗や焼き付きを防止できる。
【0013】
本発明に係る電動アクチュエータは、スプロケットを有する駆動回転体と、前記サイクロイド減速機を介して前記駆動回転体に駆動されるカムシャフトとを備え、前記スプロケットに対する前記カムシャフトの回転位相差を変更してバルブの開閉タイミングを変更する可変バルブタイミング装置に適用できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、サイクロイド減速機の効率低下を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る電動アクチュエータの断面図である。
【
図9】減速機の内歯部と外歯部との噛み合いの進行過程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付の図面に基づいて、本発明を実施するための形態について説明する。なお、本発明を説明するための各図面において、同一の機能もしくは形状を有する部材や構成部品等の構成要素については、判別が可能な限り同一符号を付すことにより一度説明した後ではその説明を省略する。
【0017】
図1は、本実施形態に係る電動アクチュエータの縦断面図、
図2は、当該電動アクチュエータの分解斜視図である。本実施形態に係る電動アクチュエータは、例えばエンジン(駆動源)の可変バルブタイミング装置として用いられるが、この用途に限定されるものではない。
【0018】
図1及び
図2に示すように、電動アクチュエータ1は、駆動回転体2と、従動回転体3と、電動モータ4と、差動装置5と、これらを収容するケーシング6とを主要な構成要素として備える。
【0019】
駆動回転体2は、全体として軸方向両端が開口した円筒状に構成されており、本体21と、エンジンからの駆動力の入力部となるスプロケット22とを有する。本体21及びスプロケット22は、何れも回転軸Oを中心として同軸上に配置される。従って、本体21及びスプロケット22は、エンジンからの駆動力により、回転軸Oを中心として一体に回転する。
【0020】
本体21は、スプロケット22が設けられる第一筒部21aと、ケーシング6に支持される第二筒部21bと、差動装置5の一部として機能する第三筒部21cと、を備える。スプロケット22は、本体21の第一筒部21aにトルク伝達可能に設けられ、エンジンからチェーンを介して伝達された駆動力により回転駆動される。
【0021】
従動回転体3は、駆動回転体2から伝達された駆動力を出力する部材であり、円筒状の本体31と、カムシャフト32とを有する。カムシャフト32は、一つあるいは複数のカム(図示省略)を備え、エンジンの吸気バルブおよび排気バルブの少なくとも一方を駆動するように構成される。本体31およびカムシャフト32は、回転軸O上で同軸に配置され、センタボルト33によって互いに結合されている。これにより、本体31およびカムシャフト32は、回転軸Oを中心として一体に回転する。
【0022】
カムシャフト32の外周面と、駆動回転体2に係る本体21の第一筒部21aの内周面との間には軸受8が配置されている。駆動回転体2に係る本体21の第二筒部21bの外周面とケーシング6との間には軸受9が配置されている。これらの軸受8,9により、駆動回転体2と従動回転体3の間の相対回転が許容される。軸受8,9は、転がり軸受により構成されるが、これに限らず、滑り軸受その他の軸受で構成することができる。
【0023】
ケーシング6は、組み立ての都合上、有底円筒状のケーシング本体6aと、蓋部6bとに分割されている。ケーシング本体6aと蓋部6bとは、ボルト等の締結手段を用いて一体化される。蓋部6bには、電動モータ4へ給電するための給電線や、電動モータ4の回転数を検知する図示しない回転数検知センサに接続される信号線を、外部に引き出すための筒状の突起6c,6d(
図2参照)が設けられている。ケーシング6の蓋部6bの内周面と従動回転体3の本体31の外周面との間には軸受13が配置されている。
【0024】
電動モータ4は、ケーシング本体6aに固定されたステータ41と、ステータ41の半径方向内側に隙間をもって対向するように配置されたロータ42とを有するラジアルギャップ型のモータである。ステータ41は、軸方向に積層した複数の電磁鋼板から成るステータコア41aと、ステータコア41aに装着された絶縁材料から成るボビン41bと、ボビン41bに巻き回されたステータコイル41cとで構成されている。ロータ42は、環状のロータコア(ロータインナ)42aと、ロータコア42aに取り付けられた複数のマグネット42bとで構成されている。電動モータ4は、ステータ41とロータ42の間に作用する励磁力により、ロータ42を、回転軸Oを中心として回転させる。
【0025】
差動装置5は、駆動回転体2の本体21と、従動回転体3の本体31と、ロータ42と一体に回転する偏心部材51と、偏心部材51の内周に配置された遊星回転体52と、偏心部材51と遊星回転体52との間に配置された第一軸受53及び第二軸受54と、を主要な構成要素として備える。なお、ケーシング6の内部には、潤滑油が充填されており、差動装置5にはこの潤滑油が供給されている。
【0026】
偏心部材51は、軸方向両端が開口した円筒状に構成されており、大径筒部51aと、大径筒部51aよりも小径に構成される中径筒部51bと、中径筒部51bより小径に形成される小径筒部51cとを一体に有する。
【0027】
大径筒部51aは、ロータコア42aと重ならないように、中径筒部51bから軸方向に突出している。大径筒部51aは、軸受17を介してケーシング6のケーシング本体6aに回転自在に支持されている。中径筒部51bは、軸方向においてロータコア42aと重なるように、当該ロータコア42aの内周に固定されている。小径筒部51cは、ロータコア42aと重ならないように、中径筒部51bから軸方向(大径筒部51aとは反対側)に突出している。小径筒部51cは、軸受18を介してケーシング6の蓋部6bに回転自在に支持されている。
【0028】
大径筒部51aの外周面、中径筒部51bの外周面及び小径筒部51cの外周面は、回転軸Oと同軸に形成された円筒面である。偏心部材51の大径筒部51aの内周面には、回転軸Oに対して偏心した円筒面上の偏心内周面51a1が形成されている。また、偏心部材51の中径筒部51bの内周面には、回転軸Oに対して偏心した円筒面状の偏心内周面51b1が形成されている。偏心部材51の大径筒部51a及び中径筒部51bは、その外周面と偏心内周面51a1,51b1との関係から、厚肉部分と薄肉部分とを有している。
【0029】
遊星回転体52は、軸方向両端が開口した円筒状に構成されており、大径筒部52aと、小径筒部52bとを備える。大径筒部52aの内周には第一内歯部55が形成され、小径筒部52bの内周には第二内歯部56が形成されている。第一内歯部55と第二内歯部56は、何れも半径方向の断面が曲線(例えばトロコロイド系曲線)を描く複数の歯で構成されている。第一内歯部55と第二内歯部56は軸方向にずれた位置に形成されている。第二内歯部56のピッチ円径は第一内歯部55のピッチ円径よりも小さい。また、第二内歯部56の歯数は、第一内歯部55の歯数よりも少ない。
【0030】
第二内歯部56の歯幅方向における第一内歯部55側の端部56aは、遊星回転体52の大径筒部52aの外周面と軸方向において重なるように形成されている。換言すると、第二内歯部56の一部(端部56a)は、軸方向(歯幅方向)において第二軸受54と重なるように形成されている。
【0031】
駆動回転体2に係る本体21の第三筒部21cの外周面には、第一内歯部55と噛み合う第一外歯部57が形成されている。また、従動回転体3に係る本体31の外周面には、第二内歯部56と噛み合う第二外歯部58が形成されている。第一外歯部57および第二外歯部58は、何れも半径方向の断面が曲線(例えばトロコイド系曲線)を描く複数の歯で形成されている。第二外歯部58のピッチ円径は第一外歯部57のピッチ円径よりも小さく、第二外歯部58の歯数は、第一外歯部57の歯数よりも少ない。
【0032】
第二外歯部58における歯幅方向の一端部58aは、遊星回転体52の大径筒部52aの外周面と軸方向において重なるように配されている。換言すると、第二外歯部58の一部(端部58a)は、軸方向(歯幅方向)において第二軸受54と重なるように形成されている。
【0033】
第一外歯部57の歯数は、互いに噛み合う第一内歯部55の歯数よりも少なく、好ましくは一つ少ない。同様に、第二外歯部58の歯数も、互いに噛み合う第二内歯部56の歯数よりも少なく、好ましくは一つ少ない。一例として、本実施形態では、第一内歯部55の歯数を24個、第二内歯部56の歯数を20個、第一外歯部57の歯数を23個、第二外歯部58の歯数を19個としている。
【0034】
互いに噛み合う第一内歯部55と第一外歯部57は第一減速機5aを構成し、第二内歯部56と第二外歯部58は第二減速機5bを構成する。第一減速機5aおよび第二減速機5bは、何れもサイクロイド減速機と呼ばれるものである。二つの減速機5a,5bの減速比は異なっており、本実施形態では第一減速機5aの減速比を第二減速機5bの減速比よりも大きくしている。このように二つの減速機5a,5bの減速比を異ならせることで、カムシャフト32の回転を、電動モータ4の作動状態に応じて変化させる(差動させる)ことが可能となる。
【0035】
図3は、駆動回転体2(本体21)の斜視図、
図4は、従動回転体3(本体31)の斜視図である。
図5は、遊星回転体52の斜視図、
図6は、各減速機5a,5bにおける各内歯部55,56および各外歯部57,58の拡大断面図である。
【0036】
図3乃至
図6に示すように、第一減速機5a及び第二減速機5bを構成する第一内歯部55、第二内歯部56、第一外歯部57及び第二外歯部58の各歯面には、複数のディンプル59(凹部)が形成されている。なお、
図3乃至
図5では、ディンプル59が形成される部分にハッチングを付して表示している。ディンプル59の範囲は、第一減速機5a及び第二減速機5bを構成する第一内歯部55、第二内歯部56、第一外歯部57及び第二外歯部58の各歯面の全域に施されるのが好ましいが、この範囲に限定されるものではない。
【0037】
ディンプル59は、例えば各歯面にショットブラスト等を行うことにより形成される。ショットブラストでは、投射材の種類(粒径、組成、密度、硬度、強度)、投射速度、投射角度、投射量等を適宜選択することで、電動アクチュエータ1の仕様に適したディンプル59を各歯面に形成できる。投射材の粒径は、例えば0.05~0.6mmとされるが、この範囲に限定されるものではない。
【0038】
第一軸受53は、偏心部材51の偏心内周面51b1と、遊星回転体52の小径筒部52bの外周面との間に配置される。従って、遊星回転体52の外周面および内周面の中心(P)は、回転軸Oに対して偏心した位置にある。この第一軸受53により、遊星回転体52は、偏心部材51に対して相対回転可能に支持される。第一軸受53は、例えば外輪53aと、転動体53b(針状ころ)とを有する針状ころ軸受で構成される。外輪53aは、偏心部材51に係る中径筒部51bの偏心内周面51b1に固定されている。転動体53bは、遊星回転体52の小径筒部52bの外周面52b2に接触している。小径筒部52bの外周面52b2は、第一軸受53の転動体53bが接触しつつ転動する転走面として構成される。
【0039】
図5に示すように、遊星回転体52の小径筒部52bにおける外周面52b2には、例えばショットブラスト等の手段により、複数のディンプル59が形成されている。ディンプル59の寸法、形状は、各減速機5a,5bの各歯面に形成されたものと同じである。ディンプル59の範囲は、遊星回転体52の外周面52b2の全域に施されるのが好ましいが、この範囲に限定されるものではない。
【0040】
第二軸受54は、電動モータ4のロータコア42aの内周に重ならないように、第一軸受53から軸方向にずれた位置に配される。具体的には、第二軸受54は、遊星回転体52の大径筒部52aと、偏心部材51に係る大径筒部51aの偏心内周面51a1との間に配される。
【0041】
第二軸受54は、外輪54aと、内輪54bと、転動体54c(ボール)とを有する深溝玉軸受で構成される。第二軸受54の外輪54aは、偏心部材51の大径筒部51aの偏心内周面51a1に固定(圧入)されている。第二軸受54の内輪54bは、遊星回転体52の大径筒部52aの外周面に固定(圧入)されている。
【0042】
第二軸受54は、第一減速機5aと第二減速機5bの双方を支持するように、各減速機5a,5bに跨って配置される。すなわち、第二軸受54は、軸方向において第一減速機5aの一部と重なるように、かつ軸方向において第二減速機5bの一部と重なるように偏心部材51と遊星回転体52との間に配される。
【0043】
図7は、第一減速機5aで切断した断面図(
図1におけるA-A線矢視断面図)、
図8は、第二減速機5bで切断した断面図(
図1におけるB-B線矢視断面図)である。
【0044】
図7に示すように、第一内歯部55の中心Pは、回転軸Oに対して径方向に距離E偏心している。従って、第一内歯部55と第一外歯部57は、周方向の一部の領域で互いに噛み合った状態となり、これとは径方向反対側の領域で噛み合わない状態となる。また、
図8に示すように、第二内歯部56の中心Pも回転軸Oに対して径方向に距離E偏心しているため、第二内歯部56と第二外歯部58とは、周方向の一部の領域で互いに噛み合った状態となり、これとは径方向反対側の領域で噛み合わない状態となる。なお、
図7及び
図8では、互いの矢視方向が異なっているため、第一内歯部55と第二内歯部56のそれぞれの偏心方向が各図において互いに左右逆方向に示されているが、第一内歯部55及び第二内歯部56は同じ方向に同じ距離Eだけ偏心している。
【0045】
ここで、差動装置5の減速比をi、モータ回転速度をnm、スプロケット22の回転速度をnsとすると、出力回転位相角度差は(nm-ns)/iとなる。
【0046】
また、第一減速機5aの減速比をi1、第二減速機5bの減速比をi2とすると、本実施形態に係る差動装置5の減速比は、下記式1によって求められる。
【0047】
減速比=i1×i2/|i1-i2|・・・式1
【0048】
例えば、第一減速機5aの減速比(i1)が24/23、第二減速機5bの減速比(i2)が20/19の場合、上記式1から減速比は120となる。このように、本実施形態に係る差動装置5では、大きな減速比によって高トルクを得ることが可能である。
【0049】
本実施形態の電動アクチュエータ1では、遊星回転体52の内径側に駆動回転体2および従動回転体3を配置しているため、遊星回転体52を駆動する電動モータ4として中空モータを採用し、この中空モータを遊星回転体52の外径側に配置するレイアウトを採用している。そのため、スペース効率が良好となり、電動アクチュエータ1のコンパクト化(特に軸方向寸法のコンパクト化)を達成できるメリットが得られる。
【0050】
続いて、
図1乃至
図9を参照しつつ本実施形態に係る電動アクチュエータの動作について説明する。
【0051】
エンジンの動作中は、スプロケット22に伝達されたエンジンからの駆動力によって駆動回転体2が回転する。
【0052】
電動モータ4に通電されず、電動モータ4から差動装置5への入力がない状態では、駆動回転体2の回転が遊星回転体52を介して従動回転体3に伝達され、従動回転体3は駆動回転体2と一体に回転する。すなわち、駆動回転体2と遊星回転体52は、第一内歯部55と第一外歯部57との噛み合い部でのトルク伝達により、この噛み合い状態を保持したまま一体に回転する。同様に、遊星回転体52と従動回転体3も第二内歯部56と第二外歯部58の噛み合い位置を保持したまま一体に回転する。そのため、駆動回転体2と従動回転体3は同じ回転位相を保持しながら回転する。
【0053】
その後、例えばエンジンがアイドル運転などの低回転域に移行した際には、公知の手段、例えば、電子制御などによって電動モータ4に通電し、ロータ42をスプロケット22の回転数よりも相対的に遅く又は速く回転させる。電動モータ4を作動させると、ロータ42のロータコア42aに結合された偏心部材51が回転軸Oを中心として一体に回転する。これに伴い、薄肉部分と厚肉部分とを備えた偏心部材51の回転に伴う押圧力が第一軸受53を介して遊星回転体52に作用する。この押圧力により、第一内歯部55と第一外歯部57との噛み合い部で周方向の分力が生じるため、遊星回転体52が駆動回転体2に対して相対的に偏心回転運動を行う。つまり、遊星回転体52が回転軸Oを中心として公転しながら、第一内歯部55および第二内歯部56の中心Pを中心として自転する。この際、遊星回転体52が1回公転するごとに、第一内歯部55と第一外歯部57との噛み合い位置が一歯分ずつ周方向にずれるため、遊星回転体52は減速されつつ回転(自転)する。
【0054】
図9は、電動モータ4の作動中における第一内歯部55と第一外歯部57との噛み合いの進行過程を示す断面図である。上記のように遊星回転体52が公転しながら自転する場合、第一内歯部55の歯面と第一外歯部57の歯面とは、接触した状態で滑りを生じながら(摺動しながら)相対的に移動する。第一外歯部57は、
図9において実線で示す位置で第一内歯部55Aと接触している状態から、第一内歯部55Aとの接触を維持したまま一点鎖線で示す位置に相対的に移動する。その後、第一外歯部57は、接触していた第一内歯部55Aから離れ、二点鎖線で示すように、次の第一内歯部55Bへと接触し、同様な移動を繰り返す。
【0055】
また、遊星回転体52が上述の偏心回転運動を行うことにより、遊星回転体52の1回の公転ごとに、第二内歯部56と第二外歯部58との噛み合い箇所が一歯分ずつ周方向にずれる。これにより、従動回転体3が遊星回転体52に対して減速されつつ回転する。このように、遊星回転体52を電動モータ4で駆動することにより、スプロケット22からの駆動力に電動モータ4からの駆動力が重畳され、従動回転体3の回転が、電動モータ4からの駆動力の影響を受ける差動の状態となる。そのため、駆動回転体2に対する従動回転体3の相対的な回転位相差を正逆方向に変更することが可能となり、カムシャフト32のカムによるバルブの開閉タイミングを進角方向もしくは遅角方向に変更することができる。なお、第二内歯部56(56A,56B)の歯面と第二外歯部58との歯面との相対的な移動(噛み合いの進行過程)は、
図9で説明した第一内歯部55(55A,55B)及び第一外歯部57の場合と同様に行われる。
【0056】
上記のようにバルブの開閉タイミングを変更することにより、アイドル運転時におけるエンジンの回転の安定化と燃費の向上を図ることができる。また、アイドル状態からエンジンの運転が通常運転に移行し、例えば、高速回転に移行した際には、スプロケット22に対する電動モータ4の相対回転の速度差を大きくすることで、スプロケット22に対するカムシャフト32の回転位相差を高回転に適した回転位相差に変更することができ、エンジンの高出力化を図ることが可能である。
【0057】
上記のように、本実施形態の電動アクチュエータ1では、各減速機5a,5bの各内歯部55,56、各外歯部57,58の各歯面に複数のディンプル59を形成することで、当該ディンプル59に潤滑油の油溜りができ、各面に油膜を形成し易くなる。このため、電動モータ4の動作中に滑りを生じながら動力伝達を行う各歯面に作用する摩擦力を低減することで、差動装置5の効率低下を防止できるとともに、摩耗および焼き付きを防止することで差動装置の長寿命化が可能となる。また、めっき等により各面に被膜を形成する場合と比較して、摩耗による被膜の剥離を招くこともない。また、遊星回転体52の小径筒部52bの転走面(外周面52b2)にディンプル59を形成することで、当該転走面の摩耗および焼き付きを効果的に防止できる。
【0058】
なお、本発明は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、上記した作用効果に限定されるものでもない。本発明は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0059】
上記の実施形態では、内歯部55,56、外歯部57,58の双方にディンプル59を形成した例を示したが、本発明はこの構成に限定されない。例えば、相互に噛み合う内歯部55,56と外歯部57,58のうち、いずれか一方のみにディンプル59を形成してもよい。
【符号の説明】
【0060】
1 電動アクチュエータ
2 駆動回転体
3 従動回転体
4 電動モータ
5 差動装置
5a 第一減速機
5b 第二減速機
22 スプロケット
32 カムシャフト
52 遊星回転体
52b2 遊星回転体の外周面
53 第一軸受(針状ころ軸受)
53b 転動体
55 第一内歯部
56 第二内歯部
57 第一外歯部
58 第二外歯部
59 ディンプル