(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-07
(45)【発行日】2023-03-15
(54)【発明の名称】軟骨伝導イヤホン及びそれを備えた軟骨伝導補聴器
(51)【国際特許分類】
H04R 1/10 20060101AFI20230308BHJP
H04R 25/00 20060101ALI20230308BHJP
H04R 1/00 20060101ALI20230308BHJP
【FI】
H04R1/10 104Z
H04R25/00 F
H04R1/00 317
(21)【出願番号】P 2019075676
(22)【出願日】2019-04-11
【審査請求日】2022-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】507126487
【氏名又は名称】公立大学法人奈良県立医科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000115636
【氏名又は名称】リオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110881
【氏名又は名称】首藤 宏平
(72)【発明者】
【氏名】西村 忠己
(72)【発明者】
【氏名】綿貫 敬介
【審査官】岩田 淳
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/116272(WO,A1)
【文献】特許第4772930(JP,B1)
【文献】特開2016-063276(JP,A)
【文献】特開2018-148339(JP,A)
【文献】国際公開第2008/029515(WO,A1)
【文献】Hiroshi HOSOI, Tadashi NISHIMURA, Ryota SHIMOKURA, Tadashi KITAHARA,Cartilage conduction as the third pathway for sound transmission,Auris Nasus Larynx, [online],2019年02月02日,46(2019),pp.151-159,[2022年12月5日検索], <URL: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S038581461830943X>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/00- 1/14
H04R 1/42- 1/46
H04R 25/00-25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気信号を機械振動に変換する電気機械変換器と、前記機械振動を伝達する振動部材とを備えた軟骨伝導イヤホンであって、
前記振動部材は、前記電気機械変換器と係合した状態で前記機械振動に応じて厚さ方向に振動する平板状の振動板と、前記振動板の複数の端部からそれぞれ前記厚さ方向に突出する複数の当接部とを有し、
前記軟骨伝導イヤホンの装着時に、前記複数の当接部のそれぞれが耳甲介腔の側壁に当接され、かつ前記振動板が外耳道に対向する状態で前記振動部材が支持され
、
前記電気機械変換器と前記振動部材とは、前記電気機械変換器に設けた第1の係合部と、前記振動板に設けた第2の係合部とを介して回動自在に係合される、
ことを特徴とする軟骨伝導イヤホン。
【請求項2】
更に、前記電気機械変換器と前記振動部材とは、前記第1の係合部と前記第2の係合部とを介して着脱自在に係合されることを特徴とする請求項
1に記載の軟骨伝導イヤホン。
【請求項3】
前記第2の係合部は内周側に撓む構造を有し、前記第1の係合部を前記第2の係合部の外周側に挿入したとき前記第2の係合部が前記第1の係合部を外周側に押圧することにより前記第1の係合部と前記第2の係合部とが安定的に係合することを特徴とする請求項
2に記載の軟骨伝導イヤホン。
【請求項4】
前記複数の当接部は、前記振動板の長手方向に対向する一端及び他端に設けた1対の当接部であることを特徴とする請求項1から
3のいずれか1項に記載の軟骨伝導イヤホン。
【請求項5】
前記1対の当接部は、前記振動板の一方の表面の側にのみ突出することを特徴とする請求項
4に記載の軟骨伝導イヤホン。
【請求項6】
前記1対の当接部は、前記振動板の両方の表面の側に突出することを特徴とする請求項
4に記載の軟骨伝導イヤホン。
【請求項7】
請求項1から
6のいずれか1項に記載の軟骨伝導イヤホンと、
外部の音を収集するマイクロホンの出力信号に補聴処理を施して前記電気信号を生成する補聴器本体と、
前記補聴器本体により生成された前記電気信号を前記電気機械変換器に伝送する配線を収納するケーブルと、
を備えることを特徴とする軟骨伝導補聴器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気導音と軟骨伝導音の両方を用いて音を伝達する軟骨伝導イヤホンとそれを用いた軟骨伝導補聴器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、イヤホンを具備する補聴器等の機器においては、音源から内耳への音伝達経路として、気導経路、骨伝導経路、軟骨伝導経路の経路が知られている。近年では、外耳道閉鎖症などの難聴者の音聴取に適したイヤホンとして、耳軟骨を振動させることにより軟骨伝導経路を介して音を伝達する軟骨伝導イヤホンが注目されている。例えば、電気機械変換器をハウジングの内部に配設し、このハウジングを回転可能な状態で耳甲介腔に支持する構造のイヤホンが提案されている(特許文献1参照)。また例えば、圧電バイモルフ素子を有する振動源により軟骨伝導振動部を振動させ、この軟骨伝導振動部を耳甲介腔に嵌め込む構造のイヤホンが提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-232905号公報
【文献】特開2016-201768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、補聴器等の機器において、難聴者を含む多様な使用者を想定すると、気導音と軟骨伝導音の両方を用いて音を伝達するイヤホンを搭載することが望ましい。そこで、本発明は、気導音と軟骨伝導音の両方を用いて音を伝達しつつ、振動部材の構造に基づき、上記従来の軟骨伝導イヤホンより気導音の音圧を高めることが可能な軟骨伝導イヤホン等を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の軟骨伝導イヤホンは、電気信号を機械振動に変換する電気機械変換器(12)と、前記機械振動を伝達する振動部材(13)とを備えた軟骨伝導イヤホンであって、前記振動部材は、前記電気機械変換器と係合した状態で前記機械振動に応じて厚さ方向に振動する平板状の振動板(20)と、前記振動板の複数の端部からそれぞれ前記厚さ方向に突出する複数の当接部(21)とを有し、前記軟骨伝導イヤホンの装着時に、前記複数の当接部のそれぞれが耳甲介腔(30)の側壁に当接され、かつ前記振動板が外耳道(33)に対向する状態で前記振動部材が支持され、前記電気機械変換器と前記振動部材とは、前記電気機械変換器に設けた第1の係合部と、前記振動板に設けた第2の係合部とを介して回動自在に係合されることを特徴としている。
【0006】
本発明の軟骨伝導イヤホンによれば、使用者の耳への装着時に、耳甲介腔の側壁に当接される複数の当接部により振動部材を安定に支持しつつ、外耳道に対向する振動板は主に気導経路を介した気導音の伝達に寄与し、かつ、複数の当接部は近傍の耳軟骨による軟骨伝導経路を介した軟骨伝導音の伝達に寄与する。そのため、従来の構造に比べると、平板状の振動板を薄くできるとともに、振動板の動きが複数の当接部により拘束されにくい。よって、複数の当接部により軟骨伝導音を確実に伝達しつつ、振動板の振動量を増加させて十分な音圧の気導音を伝達することが可能となる。
【0007】
本発明において、電気機械変換器と振動部材とは、電気機械変換器に設けた第1の係合部と、前記振動板に設けた第2の係合部とを介して回動自在に係合する構造を有する。これにより、電気機械変換器と振動部材の相対的な角度調整を適切に行うことでき、使用者の耳の形状等に適合するように軟骨伝導イヤホンを装着することができる。この場合、更に電気機械変換器と振動部材とは、第1の係合部と第2の係合部とを介して着脱自在に係合する構造としてもよい。
【0008】
本発明において、電気機械変換器と振動部材とを係合させるための多様な係合構造を採用することができる。例えば、第2の係合部を内周側に撓む構造とし、第1の係合部を第2の係合部の外周側に挿入したとき第2の係合部が第1の係合部を外周側に押圧することにより第1の係合部と第2の係合部とが安定的に係合する構造を採用することができる。
【0009】
本発明において、複数の当接部は、振動板の長手方向に対向する一端及び他端に設けた1対の当接部とすることができる。これにより、1対の当接部を耳甲介腔の側壁の2箇所に当接させることで振動部材を安定的に支持することができる。この場合、1対の当接部は、振動板の一方の表面の側にのみ突出する構造としてもよいが、振動板の両方の表面の側に突出する構造としてもよい。
【0010】
また、上記課題を解決するために、本発明の軟骨伝導イヤホンと、外部の音を収集するマイクロホンの出力信号に補聴処理を施して前記電気信号を生成する補聴器本体(10)と、前記補聴器本体により生成された前記電気信号を前記電気機械変換器に伝送する配線を収納するケーブル(11)とを備えて構成される。これにより、気導音と軟骨伝導音の両方を用いつつ難聴者の音聴取に適した軟骨伝導イヤホンを実現することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、平板状の振動板に複数の当接部を設けて振動部材を構成し、耳甲介腔の側壁に複数の当接部を当接して振動部材を安定に支持するようにしたので、気導経路を介した気導音と軟骨伝導経路を介した軟骨伝導音との両方を利用しつつ、特に気導音の音圧を十分に高めることができ、多様な難聴者の使用に適した軟骨伝導イヤホンを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態の軟骨伝導補聴器1の全体的な構造を示す斜視図である。
【
図2】振動部材13の構造例であって、
図2(A)は斜視図であり、
図2(B)は
図2(A)の側面図である。
【
図3】振動部材13を耳に装着したときの状態に関し、
図3(A)は振動板20を未装着の状態を示す図であり、
図3(B)は振動部材13を耳に装着した状態を示す図である。
【
図4】振動部材13を耳に装着した状態において、耳と振動部材13の断面の状態を示す図である。
【
図5】電気機械変換器12及び振動部材13の係合構造の一例として、
図5(A)は振動部材13を
図1の上方から見た平面図であり、
図5(B)は電気機械変換器12に振動部材13を取り付けた状態の側面図(部分断面図)である。
【
図6】振動部材13に対して電気機械変換器12を回動させる場合の具体例を説明する図である。
【
図7】本実施形態の軟骨伝導補聴器1の変形例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態について添付図面を参照しながら説明する。ただし、以下に述べる実施形態は本発明を適用した形態の一例であって、本発明が本実施形態の内容により限定されることはない。以下では、気導音と軟骨伝導音の両方を用いて音を伝達する軟骨伝導イヤホンを備える軟骨伝導補聴器に対して本発明を適用した形態について説明する。
【0014】
以下、
図1及び
図2を参照して、本実施形態の軟骨伝導補聴器の基本構造について説明する。
図1は、軟骨伝導補聴器1の全体構造を示す斜視図である。
図1に示すように、本実施形態の軟骨伝導補聴器1は、補聴器本体10と、ケーブル11と、電気機械変換器(振動子)12と、振動板20及び当接部21からなる振動部材13とを備えて構成される。また、軟骨伝導補聴器1のうち、電気機械変換器12及び振動部材13は、本発明の軟骨伝導イヤホンとして機能する。
【0015】
図1の基本構造において、補聴器本体10は、耳介の後部に装着可能な形状を有する樹脂等からなる筐体の内部に、外部の音を収集するマイクロホンと、このマイクロホンの出力信号に所定の補聴処理などの信号処理を施すDSP(Digital Signal Processor)等の信号処理部や、軟骨伝導補聴器1の各部に電源を供給する電池などを内蔵する。
【0016】
ケーブル11は、一端が補聴器本体10に接続されるとともに、他端が電気機械変換器12に接続される。ケーブル11は、柔軟性を有する合成樹脂などの材料により形成され、その内部に補聴器本体10から電気機械変換器12に供給される電気信号を伝送する配線が収納されている。
【0017】
電気機械変換器12は、補聴器本体10からケーブル11を介して伝送された電気信号に応じた振動を発生する振動子であり、その全体が樹脂等からなるケースの内部に収納されている。電気機械変化器12としては、例えば、磁気回路を用いてアーマチュアを変位させるバランスド・アーマチュア型の構成を採用することができる。
【0018】
振動部材13は、後述の耳甲介腔に装着された状態で、電気機械変換器12により発生した振動に基づき、気導経路と軟骨伝導経路の両方の経路を利用して音を伝達する役割がある。振動部材13は、厚さ方向に振動する平板状の振動板20と、この振動板20の一端及び他端から振動板20の厚さ方向に突出する1対の当接部21とを備えている。以下、
図2を参照して、振動部材13の構造例について説明する。
【0019】
本実施形態の振動部材13の構造例として、
図2(A)は斜視図を示しており、
図2(B)は
図2(A)の側面図を示している。
図2の構造例において、振動部材13の振動板20は、平面視で略矩形の平面形状を有し、比較的薄く形成された平板状の部材である。また、振動部材13の1対の当接部21は、振動板20の長手方向の一端と他端にそれぞれ配置され、振動板20の厚さ方向に突出して形成される。振動板20及び1対の当接部21は、例えば、適度な弾性力を有する樹脂材料を用いて形成される。なお、振動板20及び1対の当接部21は、例えば、ABS樹脂等を用いて一体的に形成することができる。また、特に1対の当接部21については、直接皮膚に当接されるので、その表面をゴム等の柔軟な素材で覆ってもよい。
【0020】
振動板20のうち平面視で略中央の位置には、前述の電気機械変換器12と係合する構造を設けるための係合領域20aが存在する。電気機械変換器12により発生した振動は、係合領域20aを介して振動板20及び1対の当接部21に伝達される。
図2(B)からわかるように、係合領域20aは、振動板20に対して1対の当接部21の突出方向と同じ側に位置する。本実施形態においては、振動部材13が係合領域20aを介して電気機械変換器12と着脱自在かつ回動可能な構造を有しているが、係合領域20aにおける具体的な係合構造の例については後述する。
【0021】
振動部材13の寸法パラメータとしては、振動板20の長手方向の長さX(
図2(B))と、振動板20の短手方向の長さY(
図2(A))と、振動板20の厚さ方向に沿った1対の当接部21の高さH(
図2(B))をそれぞれ示している。これらの振動部材13の寸法パラメータの具体例としては、例えば、X=20mm、Y=10mm、H=5mmを挙げることができる。なお、使用者の耳の形状とサイズが多様であることに鑑み、複数種類の寸法パラメータで形成した振動部材13を予め用意しておき、使用者ごとに所望の寸法パラメータの振動部材13を選択可能としてもよい。
【0022】
振動板20は、電気機械変換器12において発生した振動を受け、主に外耳道内の気導経路に沿って気導音を伝搬する役割がある。一方、1対の当接部21は、軟骨伝導補聴器1の装着時に振動部材13を耳甲介腔に支持するとともに、主に軟骨伝導経路を介して軟骨伝導音を伝搬する役割がある。ここで、
図3及び
図4を用いて、使用者の耳に振動部材13を装着したときの状態について説明する。
【0023】
使用者の耳を外部から見た場合において、
図3(A)は振動部材13を未装着の状態を示すとともに、
図3(B)は振動部材13を耳に装着した状態を示す。また、
図4は、振動部材13を耳に装着した状態において、耳と振動部材13の断面の状態を示す。なお、
図3(B)及び
図4では、軟骨伝導補聴器1のうち補聴器本体10、ケーブル11、電気機械変換器12については図示を省略している。まず、
図3(A)の耳の構造において、略中央の耳甲介腔30と、この耳甲介腔30の周囲の耳珠31及び対輪32を示している。また、耳甲介腔30の一端には、後述の外耳道33(
図4)に連通する外耳道入口部33aを示している。
【0024】
そして、
図3(A)の状態から振動部材13を装着すると、
図3(B)に示すように、1対の当接部21が耳甲介腔30の側壁の2箇所に当接される状態で、振動部材13が支持される。一方の当接部21は耳甲介腔30の側壁のうち耳珠31近傍の部分に当接され、他方の当接部21が耳甲介腔30の側壁のうち対輪32近傍の部分に当接されている。このとき、
図4に示すように、1対の当接部21は耳の外部を向く配置となっており、振動板20は、長手方向の一端の直下で外耳道33と対向する位置関係にある。また、振動板20において、外部に面する表面の中央に前述の係合領域20aが配置されており、外部から容易に電気機械変換器12を着脱及び回動することができる。
【0025】
図3(B)及び
図4のような状態で、電気機械変換12からの振動が振動部材13に伝達されると、振動板20が振動し、それが外耳道33の気導音として伝達される。一方、振動板20の振動が1対の当接部21に伝わると、皮膚の当接部分を介して近傍の耳軟骨を振動させるので、それが軟骨伝導音として伝達される。以上のように、気導経路による気導音の伝達には振動板20が支配的であるとともに、軟骨伝導経路による軟骨伝導音の伝達には1対の当接部21が支配的であることがわかる。
【0026】
本実施形態において、振動板20の平面視の形状は略矩形に限られず、多様な平面形状で構成することができる。ただし、振動部材13が耳に支持された状態で、外耳道33を塞がないことが望ましい。実際に
図3(B)に示す配置においては、振動部材13を耳に支持した状態で、振動板20の平面視の形状が耳甲介腔30より小さく、振動板20の短手方向の両側に十分な隙間があるため、外耳道33を塞ぐ構造にはなっていない。これにより、外部からの音が遮蔽されることなく外耳道33に伝達可能であるとともに、使用者にとって自声の響き音や咀嚼音などに起因するこもり音を抑制することができる。
【0027】
また、振動部材13においては1対の当接部21を設ける場合に限らず、3個以上の当接部21を設けることができる。ただし、複数の当接部21が耳甲介腔30に当接した状態で振動部材13を安定的に支持する必要がある。この場合、1個の当接部21のみでは振動部材13を支持することは一般的に困難である。一方、振動部材13の全周を覆うように1個の当接部21を設ける構造(例えば、特許文献1の構造)は、当接部21が振動板20を拘束する構造となり、音圧が低下する恐れがあるため望ましくない。この点については後述する。
【0028】
ここで、本実施形態で説明した構造を有する軟骨伝導イヤホンの音響特性について、従来の構造と対比しつつ説明する。
図2に示した振動部材13の構造に基づき、本実施形態の軟骨伝導イヤホンが気導音と軟骨伝導音の両方を利用可能であることは前述した通りである。この点に関し、気導音と軟骨伝導音の両方を伝達する構造のイヤホンが従来から知られている(例えば、特許文献1の構造)。しかし、本実施形態の振動部材13の構造は、特許文献1の構造に比べて、気導音の音圧を十分に得られる点が特徴的である。すなわち、特許文献1の構造によれば、ハウジング2の厚さが厚く、かつ軟骨伝導音の伝導を担う外周面2aによりハウジング2の厚さ方向の動きが拘束されるため、気導音の音圧の低下は避けられない。これに対し、本実施形態の振動部材13は、振動板20の厚さを薄くでき、軟骨伝導音の伝導を担う1対の当接部21が部分的に形成されるので振動板20の動きが拘束されにくい。
【0029】
上記の構造上の相違から、特許文献1の構造を採用すると、軟骨伝導音が相対的に大きくなるが、気導音の音圧が十分に確保できない。これに対し、本実施形態の振動部材13の構造を採用すると、軟骨伝導音に加えて、気導音の音圧を十分に高めることができる。一般に、気導音と軟骨伝導音の両方を伝達する場合、低域周波数では軟骨伝導音が増加し、高域周波数では気導音が増加する傾向がある。よって、気導音の音圧が不足すると、特に会話等において重要な高域周波数の成分が聴き取り難くになることが問題となる。そのため、特許文献1の構造を有する軟骨伝導イヤホンは、外耳道閉鎖症などの使用者には適していたとしても、一般的な老人性難聴の使用者等には適していない。これに対し、本実施形態の軟骨伝導イヤホンは、様々な難聴を含む多様な使用者にとって良好な音響特性を実現することができる。
【0030】
次に
図5を用いて、振動板20の係合領域20aにおける係合構造の具体例について説明する。本実施形態においては、電気機械変換器12の所定の側面に設けた係合部40(本発明の第1の係合部)と、振動板20の中央部に設けた係合部41(本発明の第2の係合部)とが互いに係合することにより、振動部材13が電気機械変換器12と着脱自在かつ回動自在に係合する構造となっている。電気機械変換器12及び振動部材13の係合構造の一例として、
図5(A)は振動部材13を
図1と同様の方向から見た平面図を示すとともに、
図5(B)は電気機械変換器12に振動部材13を取り付けた状態の側面図(部分断面図)であって、電気機械変換器12の係合部40のみ断面を示し、それ以外の要素は側面を示している。
【0031】
図5(A)、(B)に示すように、振動板20の係合部41には、略円柱形状の周囲に楔状に突出した楔部41aが形成されるとともに、係合部41の中心軸から十字状に切り欠いた切欠部41bが形成されている。これにより、係合部41を中心軸方向に押圧した際、切欠部41aの存在により係合部41が内周側に撓む構造となっている。一方、
図5(B)の断面図に示すように、電気機械変換器12の係合部40は、内周側が空洞になった略円筒形状であり、下端の内周側に凸状の係止部40aが形成されている。
【0032】
図5(B)において、外周側の係合部40を上方から内周側の係合部41に位置合わせしつつ下方に押し込むと、最初に係合部40の係止部40aが係合部41の楔部41aを内周側に撓ませた後、係止部40aが楔部41aの位置を超えると楔部41aの撓みが元に戻る。この時点で、係止部40aが楔部41aを電気機械変換器12側に押し付けるとともに、楔部41aが係止部40aを振動板20側に押し付けるため、係合部40と係合部41が係合する状態となる。この状態で、電気機械変換器12の機械振動はそれぞれの係合部40、41を経由して振動部材13に伝達可能となる。係合部40が係合部41を電気機械変換器12側に押し付けるか、若しくは係合部41が係合部40を振動板20側に押し付けるか、いずれかの係合状態であってもよい。一方、電気機械変換器12に対し十分な上向きの力を加えることで、その係合部40を振動部材13の係合部41から引き抜くことができる。すなわち、本実施形態において、電気機械変換器12と振動部材13は着脱自在である。
【0033】
また、電気機械変換器12と振動部材13とは、略円筒形状の係合部40と略円柱形状の係合部41とが係合状態にあるとき、互いの中心軸の周囲に回動自在となっている。ここで、
図6を用いて、振動部材13に対して電気機械変換器12を回動させる場合の具体例を説明する。まず、
図6(A)は、振動部材13の長手方向に対し、電気機械変換器12の長手方向が直交する位置関係となる配置を平面視で示す図である。この配置は、
図1における電気機械変換器12と振動部材13の位置関係に対応する。一方、
図6(B)は、
図6(A)の位置関係から、電気機械変換器12を所定方向に一定の角度だけ(例えば、45°程度)回動させた配置を平面視で示す図である。
【0034】
本実施形態の例では、
図6(B)の配置で、電気機械変換器12の動きが一方の当接部21により規制されるため、電気機械変換12の回動の範囲は所定の角度の範囲内(例えば、±45°)となる。ただし、回動の範囲は電気機械変換器12及び振動部材13の形状及びサイズに依存するので、適宜に形状及びサイズを変更することで、回動の範囲はより広く、あるいはより狭くすることが可能である。これにより、使用者が軟骨伝導補聴器1を耳に装着する際、ケーブル11の引き回し等に応じて、電気機械変換器12の適切な角度調整を行うことができる。この場合、角度調整の自由度の観点から、前述の回動の範囲はある程度大きくすることが望ましい。
【0035】
本実施形態の軟骨伝導補聴器1は、
図1~
図6に示した構造には限定されることなく、多様な変型例がある。例えば、
図7は、
図1の振動部材13の構造のうち、1対の当接部21の形状を変更した場合の変形例を示している。
図1の構造では1対の当接部21が振動板20の平面に対し一方の表面の側にのみ突出するのに対し、
図7の変形例では1対の当接部21が振動板20の平面に対し対称的であって両方の表面の側に突出する点で異なる。ただし、振動板20の係合領域20aは
図1と同様、振動板20の一方の表面にのみ存在するため、振動部材13の装着方向は係合領域20aの配置に依存する。
【0036】
図7の変形例において、1対の当接部21の高さ(振動板20の厚さ方向の高さ)は適宜に設定することができるが、
図1に比べると、1対の当接部21の面積を比較的大きくしやすい。よって、
図1と比べると、
図7の振動部材13は若干複雑な構造となるものの、1対の当接部21と耳甲介腔30の側壁との間の摩擦力を高めることで、振動部材13を安定的に支持することができる。
【0037】
以上、本実施形態に基づき本発明の内容を具体的に説明したが、本発明に係る軟骨伝導イヤホンは上述の実施形態で開示した構造には限られず、その要旨を逸脱しない範囲で多様な変更を施すことができる。例えば、
図1では、軟骨伝導イヤホン(電気機械変換器12及び振動部材13)を具備する軟骨伝導補聴器1に対し本発明を適用する場合を説明したが、本実施形態で説明した構造的特徴を有し、かつ同様の効果を得られる限り、補聴器以外の多様な聴取機器に対し広く適用可能である。さらに、その他の点についても上記実施形態により本発明の内容が限定されるものではなく、本発明の作用効果を得られる限り、上記実施形態に開示した内容には限定されることなく適宜に変更可能である。
【符号の説明】
【0038】
1…軟骨伝導補聴器
10…補聴器本体
11…ケーブル
12…電気機械変換器(振動子)
13…振動部材
20…振動板
21…当接部
30…耳甲介腔
31…耳珠
32…対輪
33…外耳道
40、41…係合部