(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-07
(45)【発行日】2023-03-15
(54)【発明の名称】車両用照明灯具、及び車両用前照灯
(51)【国際特許分類】
F21S 41/25 20180101AFI20230308BHJP
F21S 41/16 20180101ALI20230308BHJP
F21V 5/04 20060101ALI20230308BHJP
F21V 5/08 20060101ALI20230308BHJP
F21V 7/28 20180101ALI20230308BHJP
G02B 5/18 20060101ALI20230308BHJP
F21W 102/155 20180101ALN20230308BHJP
F21W 102/18 20180101ALN20230308BHJP
F21W 103/00 20180101ALN20230308BHJP
F21W 103/35 20180101ALN20230308BHJP
F21Y 113/10 20160101ALN20230308BHJP
F21Y 115/30 20160101ALN20230308BHJP
【FI】
F21S41/25
F21S41/16
F21V5/04 650
F21V5/08
F21V7/28 240
G02B5/18
F21W102:155
F21W102:18
F21W103:00
F21W103:35
F21Y113:10
F21Y115:30
(21)【出願番号】P 2019514360
(86)(22)【出願日】2018-04-10
(86)【国際出願番号】 JP2018015112
(87)【国際公開番号】W WO2018198760
(87)【国際公開日】2018-11-01
【審査請求日】2021-03-05
(31)【優先権主張番号】P 2017090706
(32)【優先日】2017-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017090707
(32)【優先日】2017-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017090708
(32)【優先日】2017-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017090709
(32)【優先日】2017-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017090710
(32)【優先日】2017-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100143764
【氏名又は名称】森村 靖男
(72)【発明者】
【氏名】内田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】鬼頭 壮宜
【審査官】河村 勝也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/072484(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/040993(WO,A1)
【文献】特開2004-252253(JP,A)
【文献】特開2017-009782(JP,A)
【文献】特開2006-147377(JP,A)
【文献】特開2013-196957(JP,A)
【文献】特開2012-146621(JP,A)
【文献】特開2013-171645(JP,A)
【文献】特開2010-135069(JP,A)
【文献】特開2017-068948(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F21S 41/00
F21V 5/00
F21V 7/28
G02B 5/18
F21W 102/155
F21W 102/18
F21W 103/00
F21W 103/35
F21Y 113/10
F21Y 115/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
前記光源から入射する光を回折する回折格子と、
を備え、
前記回折格子により回折される光は、所定の配光パターンで照射され、
前記回折格子に入射する光のうち前記回折格子を直進して透過する0次光が投影される投影領域の全体は、前記配光パターンよりも下側であり、車両の運転者の視界が前記車両により妨げられる範囲内に位置する
ことを特徴とする車両用照明灯具。
【請求項2】
前記配光パターンは、ロービームの配光パターンである
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用照明灯具。
【請求項3】
前記配光パターンは、光度分布を有する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用照明灯具。
【請求項4】
1つの前記光源と1つの前記回折格子とを含む発光光学系を複数有し、
それぞれの前記発光光学系から出射する光を合成する合成光学系を更に備え、
それぞれの前記発光光学系における前記光源は互いに異なる所定の波長の光を出射し、それぞれの前記発光光学系における前記回折格子は、前記合成光学系で合成された光がロービームの配光パターンとなるように前記光源からの光を回折する
ことを特徴とする請求項3に記載の車両用照明灯具。
【請求項5】
それぞれの前記発光光学系における前記回折格子を直進して透過する前記0次光は前記合成光学系で合成され、前記投影領域に投影される
ことを特徴とする請求項4に記載の車両用照明灯具。
【請求項6】
光源と、
前記光源から入射する光を回折する回折格子と、
前記回折格子を直進して透過する0次光の投影領域と前記回折格子との間における前記0次光の光路上に配置され、光のエネルギー密度を下げる光学素子と、
フロントカバーを有し、前記光源及び前記回折格子を収容する筐体と、
を備え、
前記回折格子から出射される光のうち前記回折格子により回折される光は、前記フロントカバーを透過して所定の配光パターンで照射され、
前記光学素子は、前記フロントカバーにおける前記回折格子側の面上に配置される
ことを特徴とする車両用照明灯具。
【請求項7】
前記光学素子は、遮光素子である
ことを特徴とする請求項6に記載の車両用照明灯具。
【請求項8】
前記光学素子は、光拡散素子である
ことを特徴とする請求項6に記載の車両用照明灯具。
【請求項9】
前記投影領域は、前記配光パターンの外側に位置する
ことを特徴とする請求項6から8のいずれか1項に記載の車両用照明灯具。
【請求項10】
前記配光パターンは、所定の光度分布を有し、
前記投影領域は、前記配光パターンのうち、前記回折格子により回折される光の光度分布のなかで最も高い光度の半値よりも低い光度となる領域内に含まれる
ことを特徴とする請求項6から8のいずれか1項に記載の車両用照明灯具。
【請求項11】
1つの前記光源と1つの前記回折格子とを含む発光光学系を複数有し、
それぞれの前記発光光学系から出射する光を合成する合成光学系を更に備え、
それぞれの前記発光光学系における前記光源は互いに異なる所定の波長の光を出射し、それぞれの前記発光光学系における前記回折格子は、前記合成光学系で合成された光が前記配光パターンとなるように前記光源からの光を回折する
ことを特徴とする請求項6から10のいずれか1項に記載の車両用照明灯具。
【請求項12】
それぞれの前記発光光学系における前記回折格子を直進して透過する前記0次光は前記合成光学系で合成され、
前記光学素子は、前記合成光学系で合成された光成分のエネルギー密度を下げる
ことを特徴とする請求項11に記載の車両用照明灯具。
【請求項13】
光源と、
前記光源から入射する光を回折する回折格子と、
を備え、
前記回折格子により回折される光と前記回折格子を直進して透過する0次光とで所定の光度分布を有する配光パターンが形成され、
前記配光パターンのなかで前記回折格子を直進して透過する前記0次光の投影領域は、前記回折格子により回折される光の光度分布のなかで最も高い光度の半値よりも高い光度となる領域内に位置する
ことを特徴とする車両用照明灯具。
【請求項14】
前記投影領域は、前記光度分布のなかで最も高い光度となる部位を避けて位置する
ことを特徴とする請求項13に記載の車両用照明灯具。
【請求項15】
前記領域は、ホットゾーンである
ことを特徴とする請求項14に記載の車両用照明灯具。
【請求項16】
前記配光パターンは、ロービームの配光パターンである
ことを特徴とする請求項15に記載の車両用照明灯具。
【請求項17】
1つの前記光源と1つの前記回折格子とを含む発光光学系を複数有し、
それぞれの前記発光光学系から出射する光を合成する合成光学系を更に備え、
それぞれの前記発光光学系における前記光源は互いに異なる所定の波長の光を出射し、それぞれの前記発光光学系における前記回折格子は、前記合成光学系で合成された光が前記配光パターンとなるように前記光源からの光を出射する
ことを特徴とする請求項13から16のいずれか1項に記載の車両用照明灯具。
【請求項18】
それぞれの前記発光光学系における前記回折格子を直進して透過する前記0次光は前記合成光学系で合成され、前記投影領域に照射される
ことを特徴とする請求項17に記載の車両用照明灯具。
【請求項19】
光源と、
前記光源から入射する光を回折する回折格子と、
を備え、
前記回折格子から出射される光は、所定の光度分布を有する配光パターンで照射され、
前記配光パターンのうち前記回折格子を直進して透過する0次光の投影領域では、前記回折格子により回折され前記投影領域に照射される光の光度が、前記回折格子により回折され前記投影領域の外側において前記投影領域の外側周縁に沿って延在する領域に照射される光の光度よりも小さくされる
ことを特徴とする車両用照明灯具。
【請求項20】
前記回折格子により回折され前記投影領域に照射される光の光度と、前記回折格子を直進して透過し前記投影領域に照射される0次光の光度との合計値は、前記回折格子により回折される光の光度分布のなかで最も高い光度よりも低くされる
ことを特徴とする請求項19に記載の車両用照明灯具。
【請求項21】
前記回折格子により回折され前記投影領域に照射される光の光度は、ゼロである
ことを特徴とする請求項20に記載の車両用照明灯具。
【請求項22】
前記投影領域は、前記回折格子により回折される光の光度分布のなかで最も高い光度の半値よりも高い光度となる領域内に含まれる
ことを特徴とする請求項19から21のいずれか1項に記載の車両用照明灯具。
【請求項23】
前記投影領域は、前記回折格子により回折される光の光度分布のなかで最も高い光度となる位置を含んでいる
ことを特徴とする請求項22項に記載の車両用照明灯具。
【請求項24】
1つの前記光源と1つの前記回折格子とを含む発光光学系を複数有し、
それぞれの前記発光光学系から出射する光を合成する合成光学系を更に備え、
それぞれの前記発光光学系における前記光源は互いに異なる所定の波長の光を出射し、それぞれの前記発光光学系における前記回折格子は、前記合成光学系で合成された光が前記配光パターンとなるように前記光源からの光を出射する
ことを特徴とする請求項19から23のいずれか1項に記載の車両用照明灯具。
【請求項25】
それぞれの前記発光光学系における前記回折格子を直進して透過する0次光は前記合成光学系で合成され、前記投影領域に照射される
ことを特徴とする請求項24に記載の車両用照明灯具。
【請求項26】
1つの前記光源と1つの前記回折格子とを含む発光光学系を複数有し、
それぞれの前記発光光学系における前記光源は互いに異なる所定の波長の光を出射し、それぞれの前記発光光学系における前記回折格子は、車両から所定の距離離れた位置において前記配光パターンとなるように前記光源からの光を出射する
ことを特徴とする請求項19から23のいずれか1項に記載の車両用照明灯具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用照明灯具、及び車両用前照灯に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用ヘッドライトに代表される車両用前照灯は、夜間に前方を照らすためのロービームを少なくとも照射する構成とされている。このロービームの配光パターンを形成するために光源から出射する光の一部を遮蔽するシェードが用いられている。しかし、車両のデザインの多様化により、車両用前照灯に対して小型化の要請がある。
【0003】
下記特許文献1には、シェードを用いずともロービームの配光パターンを形成し得る車両用前照灯が記載されている。この車両用前照灯は、ホログラム素子と、このホログラム素子に参照光を照射する光源とを備えている。ホログラム素子は、参照光が照射されることで再生される回折光がロービームの配光パターンを形成するように計算されている。この車両用前照灯は、この様にホログラム素子によりロービームの配光パターンを形成するため、シェードが不要であり、小型化が可能であるとされる。
【0004】
【発明の概要】
【0005】
本発明の車両用照明灯具は、光源と、前記光源から入射する光を回折する回折格子と、を備え、前記回折格子により回折される光は、所定の配光パターンで照射され、前記回折格子に入射する光のうち前記回折格子を直進して透過する成分が投影される投影領域は、前記配光パターンよりも下側であり、車両の運転者の視界が前記車両により妨げられる範囲内に位置することを特徴とするものである。
【0006】
回折格子を直進して透過する成分は、上記の0次光に相当し、1次光以降の高次光の光度に比べ高い光度を有する。しかし、本発明の車両用照明灯具では、0次光に相当する成分が投影される投影領域は、車両の運転者の視界が車両により妨げられる範囲内に位置するため、当該成分に起因して運転者の注意喚起の能力が低下することを抑止できる。このため、0次光が自動車の運転者の視界にある場合に比べて運転し易くできる。
【0007】
また、前記配光パターンは、ロービームの配光パターンであることとしても良い。この場合、本発明の車両用照明灯具では、回折格子により回折される光がロービームの配光パターンで照射されることで、シェードを用いずともロービームの配光パターンを形成することができる。このため、シェードを用いる車両用照明灯具に比べて小型化することができる。
【0008】
また、前記配光パターンは、光度分布を有することとしても良い。この場合、配光パターンの中央部が明るく、当該中央部以外の周辺部が相対的に暗くなる光度分布とすれば、運転者にとって違和感のない自然な配光パターンにすることができる。
【0009】
また、1つの前記光源と1つの前記回折格子とを含む発光光学系を複数有し、それぞれの前記発光光学系から出射する光を合成する合成光学系を更に備え、それぞれの前記発光光学系における前記光源は互いに異なる所定の波長の光を出射し、それぞれの前記発光光学系における前記回折格子は、前記合成光学系で合成された光がロービームの配光パターンとなるように前記光源からの光を回折することとしても良い。
【0010】
この場合、それぞれの発光光学系において、光源から出射する所定の波長の光が回折格子により回折されて配光パターンが形成される。この際、それぞれの発光光学系において、回折格子により回折される光は上記のように所定の波長であるため、回折格子が波長依存性を有しても、それぞれの回折格子から出射する光における配光パターンの縁近傍で色のにじみが生じることを抑制することができる。この様に色のにじみが抑制された配光パターンを有する光が合成光学系で合成されてロービームの配光パターンが形成される。従って、本発明の車両用照明灯具により照射されるロービームは、配光パターンの縁近傍で色のにじみが出ることを抑制することができる。
【0011】
また、それぞれの前記発光光学系における前記回折格子を直進して透過する成分は前記合成光学系で合成され、前記投影領域に投影されることとしても良い。この場合、上記のように回折格子が波長依存性を有しても、それぞれの回折格子を透過する成分を同色にすることができる。従って、車外の歩行者等が投影領域を無用に意識してしまうことを低減することができる。
【0012】
また、本発明の車両用照明灯具は、光源と、前記光源から入射する光を回折する回折格子と、前記回折格子を直進して透過する光成分の投影領域と前記回折格子との間における前記光成分の光路上に配置され、光のエネルギー密度を下げる光学素子と、を備え、前記回折格子から出射される光のうち前記回折格子により回折される光は、所定の配光パターンで照射されることを特徴とするものである。
【0013】
回折格子を直進して透過する光成分は、上記の0次光に相当し、回折格子により回折される光は、上記の高次回折光に相当する。このため、回折格子を直進して透過する光は、回折格子により回折される光の光度に比べ高い光度を有する傾向にある。しかし、本発明の車両用照明灯具の場合、この0次光に相当する光成分の投影領域と回折格子との間における光成分の光路上には、光のエネルギー密度を下げる光学素子が配置されている。従って、回折格子から出射される光のうち、回折格子により回折される光の光度よりも回折格子を直進して透過する光成分の光度が高くても、その光成分のエネルギー密度は光学素子により下げられる。このため、回折格子から出射される光のうち回折格子により回折される光による配光パターンよりも、当該回折格子を直進して透過する光成分の投影領域が際立って明るくなることを抑制することができる。こうして、本発明の車両用照明灯具は、上記の光学素子を備えていない場合に比べて運転し易くできる。
【0014】
また、光のエネルギー密度を下げる光学素子を備える場合、前記光源及び前記回折格子を収容する筐体を備え、前記光学素子は、前記筐体内に配置されることとしても良い。この場合、0次光に相当する光成分が車外に出射することが低減される。従って、0次光に相当する光成分の投影領域が車外において際立って明るくなることを抑制することができ、この結果、運転者や歩行者等が投影領域を無用に意識してしまうことを抑制することができる。
【0015】
また、光のエネルギー密度を下げる光学素子を備える場合、前記光学素子は、遮光素子であることとしても良く、光拡散素子であることとしても良い。このため本発明の車両用照明灯具では、当該車両用照明灯具が搭載される車種等に応じて、光学素子として遮光素子又は光拡散素子を選択し得る。
【0016】
また、光のエネルギー密度を下げる光学素子を備える場合、前記投影領域は、前記配光パターンの外側に位置することとしても良い。この場合、配光パターン内に投影領域が位置する場合に比べて配光パターンの一部が際立って明るくなることを抑制することができ、この結果、より一段と運転し易くできる。
【0017】
また、光のエネルギー密度を下げる光学素子を備える場合、前記配光パターンは、所定の光度分布を有し、前記投影領域は、前記配光パターンのうち、前記回折格子により回折される光の光度分布のなかで最も高い光度の半値以下の光度となる領域内に含まれることとしても良い。
【0018】
この場合、回折格子により回折される光の光度分布のなかで最も高い光度の半値よりも高い領域に投影領域が含まれる場合に比べて、回折格子により回折される光の光度分布のなかで最も高い光度となる位置を基準として、配光パターンの光度分布を滑らかに形成し易くなる。
【0019】
また、光のエネルギー密度を下げる光学素子を備える場合、1つの前記光源と1つの前記回折格子とを含む発光光学系を複数有し、それぞれの前記発光光学系から出射する光を合成する合成光学系を更に備え、それぞれの前記発光光学系における前記光源は互いに異なる所定の波長の光を出射し、それぞれの前記発光光学系における前記回折格子は、前記合成光学系で合成された光が前記配光パターンとなるように前記光源からの光を回折することとしても良い。
【0020】
この場合、それぞれの発光光学系において、光源から出射する所定の波長の光が回折格子により回折されて配光パターンが形成される。この際、それぞれの発光光学系において、回折格子により回折される光は上記のように所定の波長であるため、回折格子が波長依存性を有しても、それぞれの回折格子から出射する光における配光パターンの縁近傍で色のにじみが生じることを抑制することができる。この様に色のにじみが抑制された配光パターンを有する光が合成光学系で合成されてロービームの配光パターンが形成される。従って、本発明の車両用照明灯具により照射されるロービームは、配光パターンの縁近傍で色のにじみが出ることを抑制することができる。
【0021】
また、光のエネルギー密度を下げる光学素子を備える場合、それぞれの前記発光光学系における前記回折格子を直進して透過する光成分は前記合成光学系で合成され、前記光学素子は、前記合成光学系で合成された光成分のエネルギー密度を下げることとしても良い。
【0022】
この場合、それぞれの発光光学系における回折格子を直進して透過する光成分が合成されない場合に比べると、光学素子に照射される光成分の照射領域を小さくできる。従って、回折格子から出射される光のうち回折格子により回折される光のエネルギー密度が光学素子で下げられることを抑制することができる。
【0023】
また、本発明の車両用照明灯具は、光源と、前記光源から入射する光を回折する回折格子と、を備え、前記回折格子により回折される光と前記回折格子を直進して透過する光とで所定の光度分布を有する配光パターンが形成され、前記配光パターンのなかで前記回折格子を直進して透過する光の投影領域は、前記回折格子により回折される光の光度分布のなかで最も高い光度の半値よりも高い光度となる領域内に位置することを特徴とするものである。
【0024】
回折格子を直進して透過する光は上記の0次光に相当し、回折格子により回折される光は上記の高次回折光に相当する。このため、回折格子を直進して透過する光は、回折格子により回折される光の光度に比べ高い光度を有する傾向にある。しかし、本発明の車両用照明灯具の場合、0次光に相当する光の投影領域は、高次回折光に相当する光の光度分布のなかで最も高い光度の半値よりも高い光度となる領域内に位置する。従って、0次光に相当する光が投影領域に照射されても、配光パターンのなかで投影領域が際立って明るくなることを抑制することができる。従って、本発明の車両用前照灯は、回折格子により回折される光の光度分布のなかで最も高い光度の半値よりも高い光度となる領域の外側に投影領域が配置される場合に比べて運転し易くできる。
【0025】
また、0次光に相当する光の投影領域が、高次回折光に相当する光の光度分布のなかで最も高い光度の半値よりも高い光度となる領域内に位置する場合、前記投影領域は、前記光度分布のなかで最も高い光度となる部位を避けて位置することが好ましい。この場合、高次回折光に相当する光の光度分布のなかで最も高い光度となる部位が過度に明るくなることを抑制することができる。
【0026】
また、0次光に相当する光の投影領域が、高次回折光に相当する光の光度分布のなかで最も高い光度の半値よりも高い光度となる領域内に位置する場合、前記領域は、ホットゾーンであることが好ましい。この場合、0次光に相当する光を配光パターンとして利用しつつも、当該配光パターンにおいて投影領域が際立って明るくなることを抑制し得る。
【0027】
また、0次光に相当する光の投影領域が、高次回折光に相当する光の光度分布のなかで最も高い光度の半値よりも高い光度となる領域内に位置する場合、前記配光パターンは、ロービームの配光パターンであることとしても良い。
【0028】
また、0次光に相当する光の投影領域が、高次回折光に相当する光の光度分布のなかで最も高い光度の半値よりも高い光度となる領域内に位置する場合、1つの前記光源と1つの前記回折格子とを含む発光光学系を複数有し、それぞれの前記発光光学系から出射する光を合成する合成光学系を更に備え、それぞれの前記発光光学系における前記光源は互いに異なる所定の波長の光を出射し、それぞれの前記発光光学系における前記回折格子は、前記合成光学系で合成された光が前記配光パターンとなるように前記光源からの光を出射することとしても良い。
【0029】
この場合、それぞれの光源から出射する所定の波長の光が回折格子を通じて配光パターンが形成される。この際、それぞれの発光光学系において、回折格子により回折される光は所定の波長であるため、回折格子が波長依存性を有しても、それぞれの回折格子から出射する光における配光パターンの縁近傍で色のにじみが生じることを抑制することができる。この様に色のにじみが抑制された配光パターンを有する光が合成光学系で合成されて配光パターンが形成される。従って、配光パターンの縁近傍で色のにじみが出ることを抑制することができる。
【0030】
また、0次光に相当する光の投影領域が、高次回折光に相当する光の光度分布のなかで最も高い光度の半値よりも高い光度となる領域内に位置する場合、それぞれの前記発光光学系における前記回折格子を直進して透過する成分は前記合成光学系で合成され、前記投影領域に照射されることとしても良い。この場合、上記のように回折格子が波長依存性を有しても、それぞれの回折格子を透過する0次光を白の同色にすることができる。従って、運転者が投影領域を無用に意識してしまうことを低減することができ、より一段と運転し易くできる。
【0031】
また、本発明の車両用照明灯具は、光源と、前記光源から入射する光を回折する回折格子と、を備え、前記回折格子から出射される光は、所定の光度分布を有する配光パターンで照射され、前記配光パターンのうち前記回折格子を直進して透過する光の投影領域では、前記回折格子により回折され前記投影領域に照射される光の光度が前記投影領域の外側周縁に照射される光の光度よりも小さくされることを特徴とするものである。
【0032】
回折格子を直進して透過する光は上記の0次光に相当し、回折格子により回折される光は上記の高次回折光に相当する。このため、回折格子を直進して透過する光は、回折格子により回折される光の光度に比べ高い光度を有する傾向にある。しかし、本発明の車両用照明灯具の場合、0次光に相当する光の投影領域では、高次回折光に相当する光の光度が投影領域の外側周縁に照射される光の光度よりも小さくされている。このため、投影領域に0次光に相当する光が照射されても、配光パターンのなかで投影領域が際立って明るくなることを低減することができる。従って、本発明の車両用照明灯具は、投影領域での高次回折光の光度がその投影領域の外側周縁に照射される光の光度以上である場合に比べて運転し易くできる。
【0033】
また、0次光に相当する光の投影領域において、高次回折光に相当する光の光度が投影領域の外側周縁に照射される光の光度よりも小さくされている場合、前記回折格子により回折され前記投影領域に照射される光の光度と、前記回折格子を直進して透過し前記投影領域に照射される光の光度との合計値は、前記回折格子により回折される光の光度分布のなかで最も高い光度よりも低くされることとしても良い。
【0034】
この場合、回折格子により回折される光の光度分布のなかで最も高い光度となる位置を基準として、配光パターンの光度分布を滑らかに形成し易くなる。
【0035】
また、0次光に相当する光の投影領域において、高次回折光に相当する光の光度が投影領域の外側周縁に照射される光の光度よりも小さくされている場合、前記回折格子により回折され前記投影領域に照射される光の光度は、ゼロであることとしても良い。
【0036】
この場合、0次光に相当する光の光度と高次回折光に相当する光の光度との差が大きい場合であっても、配光パターンのなかで投影領域が際立って明るくなることを低減し、当該配光パターン全体として滑らかな光度分布を形成し易くなる。
【0037】
また、0次光に相当する光の投影領域において、高次回折光に相当する光の光度が投影領域の外側周縁に照射される光の光度よりも小さくされている場合、前記投影領域は、前記回折格子により回折される光の光度分布のなかで最も高い光度の半値よりも高い光度となる領域内に含まれることとしても良い。
【0038】
この場合、回折格子により回折される光の光度分布のなかで最も高い光度の半値以下の領域に投影領域が含まれる場合に比べて、配光パターンのなかで投影領域が際立って明るくなることを低減することができる。
【0039】
また、0次光に相当する光の投影領域において、高次回折光に相当する光の光度が投影領域の外側周縁に照射される光の光度よりも小さくされている場合、前記投影領域は、前記回折格子により回折される光の光度分布のなかで最も高い光度となる位置を含んでいることとしても良い。
【0040】
この場合、0次光に相当する光の光度が大きいか否かにかかわらず、配光パターンのなかで最も明るい領域は概ね変化しなくなる。このため、回折格子により回折される光の光度分布のなかで最も高い光度となる位置を基準として、配光パターンの光度分布をより滑らかに形成し得る。
【0041】
また、0次光に相当する光の投影領域において、高次回折光に相当する光の光度が投影領域の外側周縁に照射される光の光度よりも小さくされている場合、1つの前記光源と1つの前記回折格子とを含む発光光学系を複数有し、それぞれの前記発光光学系から出射する光を合成する合成光学系を更に備え、それぞれの前記発光光学系における前記光源は互いに異なる所定の波長の光を出射し、それぞれの前記発光光学系における前記回折格子は、前記合成光学系で合成された光が前記配光パターンとなるように前記光源からの光を出射することとしても良い。
【0042】
この場合、それぞれの発光光学系において、光源から出射する所定の波長の光が回折格子により回折されて配光パターンが形成される。この際、それぞれの発光光学系において、回折格子により回折される光は上記のように所定の波長であるため、回折格子が波長依存性を有しても、それぞれの回折格子から出射する光における配光パターンの縁近傍で色のにじみが生じることを抑制することができる。この様に色のにじみが抑制された配光パターンを有する光が合成光学系で合成されて配光パターンが形成される。従って、本発明の車両用照明灯具により形成される配光パターンの縁近傍で色のにじみが出ることを抑制することができる。
【0043】
また、0次光に相当する光の投影領域において、高次回折光に相当する光の光度が投影領域の外側周縁に照射される光の光度よりも小さくされている場合、それぞれの前記発光光学系における前記回折格子を直進して透過する成分は前記合成光学系で合成され、前記投影領域に照射されることとしても良い。この場合、上記のように回折格子が波長依存性を有しても、それぞれの回折格子を透過する成分を同色にすることができる。従って、運転者が投影領域を無用に意識してしまうことを低減することができ、より一段と運転し易くできる。
【0044】
また、0次光に相当する光の投影領域において、高次回折光に相当する光の光度が投影領域の外側周縁に照射される光の光度よりも小さくされている場合、1つの前記光源と1つの前記回折格子とを含む発光光学系を複数有し、それぞれの前記発光光学系における前記光源は互いに異なる所定の波長の光を出射し、それぞれの前記発光光学系における前記回折格子は、車両から所定の距離離れた位置において前記配光パターンとなるように前記光源からの光を出射することとしても良い。
【0045】
この場合、上記の合成光学系を用いないため、簡易な構成とすることができる。
【0046】
また、本発明の車両用前照灯は、光源及び回折格子を有する少なくとも2つの発光光学系を備え、それぞれの前記発光光学系における前記光源は互いに異なる所定の波長の光を出射し、それぞれの前記発光光学系における前記回折格子は、それぞれの発光光学系から出射する光が合成された光が夜間照明用の配光パターンとなるように前記光源からの光を回折することを特徴とするものである。
【0047】
この車両用前照灯は上記特許文献1に記載の車両用前照灯と同様にシェードを用いずともロービームの配光パターンを形成することができるため、上記特許文献1の車両用前照灯と同様にシェードを用いる車両用前照灯と比べて小型化することができる。また、それぞれの前記発光光学系において、光源から出射する所定の波長の光が回折格子により回折されて配光パターンが形成される。この際、それぞれの発光光学系において、回折格子により回折される光は上記のように所定の波長であるため、回折格子が波長依存性を有しても、それぞれの回折格子から出射する光における配光パターンの縁近傍で色のにじみが生じることを抑制することができる。この様に色のにじみが抑制された配光パターンを有する光が合成されてロービームやハイビームといった夜間照明用の配光パターンが形成される。従って、本発明の車両用前照灯により照射されるロービームは、上記特許文献1のように白色の光が回折格子で回折される場合と比べて、配光パターンの縁近傍で色のにじみが出ることを抑制することができる。なお、それぞれの発光光学系から出射する光の合成は、車両用前照灯内で行われても車両用前照灯外で行われてもよい。
【0048】
また、光源及び回折格子を有する少なくとも2つの発光光学系を備える場合、前記発光光学系を少なくとも3つ備えることが好ましい。
【0049】
この場合、三原色の光を用いることができる。従って、それぞれの発光光学系から出射する光の光度を調整することにより、所望の色の光を照射することができる。
【0050】
また、光源及び回折格子を有する少なくとも2つの発光光学系を備える場合、それぞれの前記発光光学系から出射する光の外形を合わせて合成する合成光学系を更に備えることが好ましく、この場合、前記合成光学系は、少なくとも1つの波長選択フィルタを有し、前記波長選択フィルタは、当該波長選択フィルタを透過する光と、当該波長選択フィルタを反射する光とを合成することとしても良い。
【0051】
この場合、それぞれの発光光学系から出射する光が合成光学系で合成されてから車両用前照灯から出射するため、車両からの距離によらず照射される配光パターンの縁近傍で色のにじみが出ることを更に抑制することができる。また、それぞれの発光光学系から出射する光が合成光学系で合成されてから車両用前照灯から出射するため、それぞれの発光光学系から出射する光が合成されずに車両用前照灯から出射して車両用前照灯外で合成される場合と比べて、合成された光が出射する車両用前照灯の出射部位を小さくすることができ、デザインの自由度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【
図1】本発明の第1実施形態にかかる車両用前照灯を備える車両の概略を示す断面図である。
【
図2】
図1の車両用前照灯の光学系ユニットの拡大図である。
【
図5】本発明の第2実施形態にかかる車両用前照灯の光学系ユニットを
図2と同様に示す図である。
【
図6】本発明の第3実施形態にかかる車両用前照灯を備える車両の概略を示す断面図である。
【
図7】本発明の第4実施形態にかかる車両用前照灯の光学系ユニットを
図2と同様に示す図である。
【
図8】ロービームの配光パターンと標識視認用の光の配光パターンとを示す図である。
【
図10】本発明の第5実施形態にかかる車両用前照灯を備える車両の概略を示す断面図である。
【
図11】
図10の車両用前照灯の光学系ユニットの拡大図である。
【
図12】ロービームの配光パターンと、その配光パターンの光度分布とを示す図である。
【
図13】本発明の第6実施形態にかかる車両用前照灯の光学系ユニットを
図11と同様に示す図である。
【
図14】ロービームの配光パターンと標識視認用の光の配光パターンとを示す図である。
【
図15】ロービームの配光パターンと、その配光パターンの光度分布とを示す図である。
【
図16】0次光ビームが非照射である場合のロービームの配光パターンと、その配光パターンの光度分布とを示す図である。
【
図17】本発明の第9実施形態における車両用前照灯を備える車両の概略を示す断面図である。
【
図20】本発明の第10実施形態における車両用前照灯の光学系ユニットを
図18と同様に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0053】
以下、本発明に係る車両用照明灯具、及び車両用前照灯を実施するための形態が添付図面とともに例示される。以下に例示する実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、以下の実施形態から変更、改良することができる。
【0054】
まず、本実施形態の車両用照明灯具の構成について説明する。
【0055】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態にかかる車両用前照灯を備える車両の概略を示す断面図である。本実施形態の車両用前照灯1は、筐体10と、灯具ユニット20とを備える。
【0056】
筐体10は、ランプハウジング11、フロントカバー12及びバックカバー13を主な構成要素として備える。ランプハウジング11の前方は開口しており、当該開口を塞ぐようにフロントカバー12がランプハウジング11に固定されている。また、ランプハウジング11の後方には前方よりも小さな開口が形成されており、当該開口を塞ぐようにバックカバー13がランプハウジング11に固定されている。
【0057】
ランプハウジング11と、当該ランプハウジング11の前方の開口を塞ぐフロントカバー12と、当該ランプハウジング11の後方の開口を塞ぐバックカバー13とによって形成される空間は灯室Rであり、この灯室R内に灯具ユニット20が収容されている。
【0058】
灯具ユニット20は、ヒートシンク30と、冷却ファン40と、光学系ユニット50とを主な構成要素として備える。なお、灯具ユニット20は、不図示の構成により筐体10に固定されている。
【0059】
ヒートシンク30は、概ね水平方向に延在する金属製のベース板31を有し、当該ベース板31の下方の面側には複数の放熱フィン32がベース板31と一体に設けられている。冷却ファン40は放熱フィン32と隙間を隔てて配置され、ヒートシンク30に固定されている。この冷却ファン40の回転による気流によりヒートシンク30は冷却される。
【0060】
ヒートシンク30におけるベース板31の上面には光学系ユニット50が配置されている。光学系ユニット50は、第1発光光学系51Rと、第2発光光学系51Gと、第3発光光学系51Bと、合成光学系55と、カバー59とを備える。
【0061】
図2は、
図1の車両用前照灯の光学系ユニットの拡大図である。
図2に示すように、第1発光光学系51Rは、光源52Rと、コリメートレンズ53Rと、回折格子54Rとを備える。光源52Rは、所定の波長のレーザ光を出射するレーザ素子とされ、本実施形態では、パワーのピーク波長が例えば638nmの赤色のレーザ光を出射する。また、光学系ユニット50は、不図示の回路基板を有しており、光源52Rは当該回路基板に実装されている。この回路基板を介して光源52Rに電力が供給される。
【0062】
コリメートレンズ53Rは、光源52Rから出射するレーザ光のファスト軸方向、スロー軸方向をコリメートするレンズである。レーザ光のファスト軸方向をコリメートするコリメートレンズとスロー軸方向をコリメートするコリメートレンズとが個別に設けられていても良い。
【0063】
回折格子54Rは、コリメートレンズ53Rから出射するレーザ光を所定の配光パターンとなるように出射する。具体的には、回折格子54Rは、後述の合成光学系55において、第1発光光学系51Rと第2発光光学系51Gと第3発光光学系51Bとのそれぞれから出射する光がロービームLの配光パターンとなるようにコリメートレンズ53Rから入射するレーザ光を回折する。この配光パターンには光度分布も含まれる。このため、本実施形態の回折格子54Rは、回折格子54Rから出射するレーザ光がロービームLの配光パターンの外形と同じ外形になると共にロービームLの配光パターンの光度分布に基づいた光度分布となるように、コリメートレンズ53Rから入射するレーザ光を回折する。
【0064】
この回折格子54Rにより回折される光は1次以上の次数を有する高次回折光であり、当該高次回折光の他に、回折格子54Rを回折することなく直進して透過する0次光が回折格子54Rから出射する。つまり、回折格子54Rから出射する光は、回折格子54Rにより回折される光成分である高次回折光と、当該回折格子54Rを直進して透過する光成分である0次光とを含む。本実施形態では、後述の合成光学系55から出射する0次光ビームLCの投影領域がロービームLの配光パターンよりも下側の所定の範囲内に位置するように、回折格子54Rを直進して透過する0次光が回折格子54Rから出射する。例えば、回折格子54Rは、回折格子54Rを直進する0次光の方向よりも上側にずれた状態で高次回折光が出射するように、コリメートレンズ53Rから入射するレーザ光を回折すればよい。
【0065】
こうして、第1発光光学系51Rからは、ロービームLのうちの赤色成分の高次回折光が出射すると共に、0次光ビームLCのうちの赤色成分の0次光が出射する。本実施形態では、第1発光光学系51Rから出射する赤色成分の高次回折光を第1の光LRとし、当該赤色成分の0次光を第1の0次光LCRとする。
【0066】
第2発光光学系51Gは、光源52Gと、コリメートレンズ53Gと、回折格子54Gとを備え、第3発光光学系51Bは、光源52Bと、コリメートレンズ53Bと、回折格子54Bとを備える。光源52G,52Bは、それぞれ所定の波長のレーザ光を出射するレーザ素子とされ、本実施形態では、光源52Gはパワーのピーク波長が例えば515nmの緑色のレーザ光を出射し、光源52Bはパワーのピーク波長が例えば445nmの青色のレーザ光を出射する。また、光源52G,52Bはそれぞれ上記回路基板に実装されており、当該回路基板を介して光源52G,52Bに電力が供給される。
【0067】
コリメートレンズ53Gは、光源52Gから出射するレーザ光のファスト軸方向、スロー軸方向をコリメートするレンズであり、コリメートレンズ53Bは、光源52Bから出射するレーザ光のファスト軸方向、スロー軸方向をコリメートするレンズである。これらコリメートレンズ53G,53Bにおいて、コリメートレンズ53Rと同様にして、レーザ光のファスト軸方向をコリメートするコリメートレンズとスロー軸方向をコリメートするコリメートレンズとが個別に設けられていても良い。
【0068】
回折格子54Gは、コリメートレンズ53Gから出射するレーザ光を所定の配光パターンとなるように出射し、回折格子54Bは、コリメートレンズ53Bから出射するレーザ光を所定の配光パターンとなるように出射する。具体的には、回折格子54G,54Bは、合成光学系55において、第1発光光学系51Rと第2発光光学系51Gと第3発光光学系51Bとのそれぞれから出射する光がロービームLの配光パターンとなるようにコリメートレンズ53G,53Bから入射するレーザ光をそれぞれ回折する。上記のように配光パターンには光度分布も含まれる。このため、本実施形態の回折格子54G,54Bは、回折格子54G,54Bから出射するそれぞれのレーザ光がロービームLの配光パターンの外形と同じ外形になると共にロービームLの配光パターンの光度分布に基づいた光度分布となるように、コリメートレンズ53G,53Bから入射するレーザ光をそれぞれ回折する。
【0069】
この回折格子54Gにより回折される光は1次以上の次数を有する高次回折光であり、当該高次回折光の他に、回折格子54Gを回折することなく直進して透過する0次光が回折格子54Gから出射する。つまり、回折格子54Gから出射する光は、回折格子54Gにより回折される光成分である高次回折光と、当該回折格子54Gを直進して透過する光成分である0次光とを含む。本実施形態では、後述の合成光学系55から出射する0次光ビームLCの投影領域がロービームLの配光パターンよりも下側の所定の範囲内に位置するように、回折格子54Gを直進して透過する0次光が回折格子54Gから出射する。例えば、回折格子54Gは、回折格子54Gを直進する0次光の方向よりも上側にずれた状態で高次回折光が出射するように、コリメートレンズ53Gから入射するレーザ光を回折すればよい。
【0070】
同様に、この回折格子54Bにより回折される光は1次以上の次数を有する高次回折光であり、当該高次回折光の他に、回折格子54Bを回折することなく直進して透過する0次光が回折格子54Bから出射する。つまり、回折格子54Bから出射する光は、回折格子54Gにより回折される光成分である高次回折光と、当該回折格子54Bを直進して透過する光成分である0次光とを含む。本実施形態では、後述の合成光学系55から出射する0次光ビームLCの投影領域がロービームLの配光パターンよりも下側の所定の範囲内に位置するように、回折格子54Bを直進して透過する0次光が回折格子54Bから出射する。例えば、回折格子54Bは、回折格子54Bを直進する0次光の方向よりも上側にずれた状態で高次回折光が出射するように、コリメートレンズ53Bから入射するレーザ光を回折すればよい。
【0071】
こうして、第2発光光学系51GからはロービームLのうちの緑色成分の高次回折光が出射すると共に、0次光ビームLCのうちの緑色成分の0次光が出射する。また、第3発光光学系51BからはロービームLのうちの青色成分の高次回折光が出射すると共に、0次光ビームLCのうちの青色成分の0次光が出射する。本実施形態では、第2発光光学系51Gから出射する緑色成分の高次回折光を第2の光LGとし、当該緑色成分の0次光を第2の0次光LCGとし、第3発光光学系51Bから出射する青色成分の高次回折光を第3の光LBとし、当該青色成分の0次光を第3の0次光LCBとする。従って、本実施形態では、第1の光LRが最も波長が長く、第2の光LG、第3の光LBの順に波長が短くなる。同様に、第1の0次光LCRが最も波長が長く、第2の0次光LCG、第3の0次光LCBの順に波長が短くなる。
【0072】
なお、上記のロービームLの配光パターンの光度分布に基づいた光度分布とは、ロービームLの配光パターンにおける光度が高い部位では、回折格子54R,54G,54Bから出射するそれぞれの光の光度も高いという意味である。
【0073】
合成光学系55は、第1光学素子55fと第2光学素子55sとを有する。第1光学素子55fは、第1発光光学系51Rから出射する第1の光LRと、第2発光光学系51Gから出射する第2の光LGとを合成する光学素子である。また第1光学素子55fは、第1発光光学系51Rから出射する第1の0次光LCRと、第2発光光学系51Gから出射する第2の0次光LCGとを合成する光学素子でもある。本実施形態では、第1光学素子55fは、第1の光LRを透過すると共に第2の光LGを反射することで第1の光LRと第2の光LGとを合成し、第1の0次光LCRを透過すると共に第2の0次光LCGを反射することで第1の0次光LCRと第2の0次光LCGとを合成する。
【0074】
第2光学素子55sは、第1光学素子55fで合成された第1の光LR及び第2の光LGと、第3発光光学系51Bから出射する第3の光LBとを合成する光学素子である。また第2光学素子55sは、第1光学素子55fで合成された第1の0次光LCR及び第2の0次光LCGと、第3発光光学系51Bから出射する第3の0次光LCBとを合成する光学素子でもある。本実施形態では、第2光学素子55sは、第1光学素子55fで合成された第1の光LR及び第2の光LGを透過すると共に第3の光LBを反射することで第1の光LRと第2の光LGと第3の光LBとを合成する。また、第2光学素子55sは、第1光学素子55fで合成された第1の0次光LCR及び第2の0次光LCGを透過すると共に第3の0次光LCBを反射することで第1の0次光LCRと第2の0次光LCGと第3の0次光LCBとを合成する。
【0075】
この様な第1光学素子55f、第2光学素子55sとしては、ガラス基板上に酸化膜が積層された波長選択フィルタを挙げることができる。この酸化膜の種類や厚みをコントロールすることで、所定の波長よりも長い波長の光を透過し、この波長よりも短い波長の光を反射する構成とすることができる。
【0076】
こうして、合成光学系55からは、第1の光LRと第2の光LGと第3の光LBとが合成されることでロービームLが出射し、第1の0次光LCRと第2の0次光LCGと第3の0次光LCBとが合成されることで0次光ビームLCが出射する。
【0077】
カバー59は、ヒートシンク30のベース板31上に固定されている。カバー59は概ね矩形の形状をしており、例えばアルミニウム等の金属から成る。カバー59の内側の空間には、上記の第1発光光学系51R、第2発光光学系51G、第3発光光学系51B、合成光学系55が配置されている。また、カバー59の前方には合成光学系55から出射する光が透過可能な開口59Hが形成されている。なお、カバー59の内壁は、黒アルマイト加工等による光吸収性とされることが好ましい。カバー59の内壁が光吸収性とされることで、意図しない反射や屈折等によりカバー59の内壁に照射された光が反射して開口59Hから意図しない方向に出射することを抑制することができる。
【0078】
次に本実施形態の車両用前照灯1による光の出射について説明する。
【0079】
まず不図示の電源から電力が供給されることで、それぞれの光源52R,52G,52Bからレーザ光が出射する。上記のように光源52Rからは赤色のレーザ光が出射し、光源52Gからは緑色のレーザ光が出射し、光源52Bからは青色のレーザ光が出射する。それぞれのレーザ光は、コリメートレンズ53R,53G,53Bでコリメートされた後、回折格子54R,54G,54Bに入射する。そして、上記のように回折格子54R,54G,54Bでそれぞれのレーザ光が回折されて、第1発光光学系51RからはロービームLの配光パターンの赤色成分の光である第1の光LRが出射し、第2発光光学系51GからはロービームLの配光パターンの緑色成分の光である第2の光LGが出射し、第3発光光学系51BからはロービームLの配光パターンの青色成分の光である第3の光LBが出射する。また、上記のように回折格子54R,54G,54Bをそれぞれ直進して透過する0次光として、赤色成分の0次光である第1の0次光LCRが第1発光光学系51Rから出射し、緑色成分の0次光である第2の0次光LCGが第2発光光学系51Gから出射し、青色成分の0次光である第3の0次光LCBが第3発光光学系51Bから出射する。
【0080】
合成光学系55では、まず、第1の光LRと第2の光LGが第1光学素子55fで合成されて出射すると共に、第1の0次光LCRと第2の0次光LCGが第1光学素子55fで合成されて出射する。第1光学素子55fで合成された第1の光LR及び第2の光LGは第2光学素子55sで第3の光LBと合成され、第1光学素子55fで合成された第1の0次光LCRと第2の0次光LCGは第2光学素子55sで第3の0次光LCBと合成される。このとき、それぞれの光LR,LG,LBは外形がロービームLの外形と同様にされているため、それぞれの光LR,LG,LBの外形が互いに一致されて合成される。また、それぞれの0次光LCR,LCG,LCBの外形も同様にされているため、それぞれの0次光LCR,LCG,LCBの外形が互いに一致されて合成される。つまり、第1の光LRの外形と第2の光LGの外形と第3の光LBの外形、及び、第1の0次光LCRの外形と第2の0次光LCGの外形と第3の0次光LCBの外形が、上記のように合成光学系で合わさるように、各発光光学系や合成光学系の位置が微調整されている。
【0081】
こうして、赤色の第1の光LRと緑色の第2の光LGと青色の第3の光LBとが合成された光は白色の光となる。また、赤色の第1の0次光LCRと緑色の第2の0次光LCGと青色の第3の0次光LCBとが合成された光は白色の0次光となる。なお、第1の光LR、第2の光LG及び第3の光LBは、上記のようにそれぞれロービームLの配光パターンの光度分布に基づいた光度分布であるため、これらの光が合成された白色の光はロービームLの光度分布となる。
【0082】
こうして、合成された白色の光は、カバー59の開口59Hから出射し、この光はフロントカバー12を介して車両用前照灯1から車両の前方に出射する。この光はロービームLの配光パターンを有しているため、照射される光はロービームLとなる。
【0083】
図3は本実施形態におけるロービームLの配光パターンを示す図である。
図3においてSは水平線を示し、配光パターンが太線で示される。このロービームLの配光パターンPTN
Lのうち、領域LA1は最も光度が高い領域であり、領域LA2、領域LA3の順に光度が低くなる。つまり、それぞれの回折格子54R,54G,54Bは、合成された光がロービームLの光度分布を含む配光パターンを形成するように光を回折する。
【0084】
また、合成された白色の0次光は、カバー59の開口59Hから出射し、この光はフロントカバー12を介して車両用前照灯1から車両の前方下側に出射し、ロービームLの配光パターンの下側の投影領域に投影される。
【0085】
図4は、0次光の投影領域を示す図である。
図4に示すように、本実施形態の投影領域ARは、自動車の運転者の視界がその車両のボンネットにより妨げられる範囲RNG内に位置する。つまり、投影領域ARは、自動車の運転者の死角となる範囲RNG内に位置している。なお、自動車の運転者の死角となる範囲RNGのうち、0次光の投影領域AR以外の領域の路面照度は、概ね5ルクス以下とされる。
【0086】
ところで、上記特許文献1における車両用前照灯のホログラム素子は、ロービームの配光パターンの形成用となる1次光が車両前方に照射され、そのロービームの配光パターン以外の前方に向けて0次光が照射されるように、計算されている。このため、上記特許文献1における車両用前照灯では、0次光がグレアの原因となる可能性を防止し得るとされる。0次光は、1次以上の次数を有する高次回折光の光度に比べ高い光度を有する傾向にある。しかし、上記特許文献1における車両用前照灯では、ホログラム素子から出射する0次光がロービームの配光パターン以外ではあるが車両前方に向けて0次光が照射されている。このため、運転をより容易にしたいとの要請がある。
【0087】
そこで、本実施形態の車両用前照灯1は、光源52R,52G,52Bと、光源52R,52G,52Bから入射する光を回折する回折格子54R,54G,54Bと、を備える。
【0088】
この回折格子54R,54G,54Bに入射する光のうち回折格子54R,54G,54Bを直進して透過する成分である0次光が投影される投影領域ARは、当該回折格子54R,54G,54Bにより回折され照射される配光パターンよりも下側である。これに加えて投影領域ARは、自動車の運転者の視界がその自動車により妨げられる範囲RNG内に位置する。
【0089】
従って、本実施形態の車両用前照灯1は、1次光以降の高次光の光度に比べ高い光度を有する0次光に起因して運転者の注意喚起の能力が低下することを抑止できる。このため本実施形態の車両用前照灯1は、0次光が自動車の運転者の視界にある場合に比べて運転し易くできる。
【0090】
なお、回折格子54R,54G,54Bにより回折される光は、本実施形態では、ロービームLの配光パターンで照射される。このロービームLの配光パターンPTN
Lは、
図3に示すように、配光パターンPTN
Lの中央部が明るく、当該中央部以外の周辺部が相対的に暗くなる光度分布であるため、運転者に対し違和感のない自然な配光パターンを照射し得る。
【0091】
従って、本実施形態の車両用前照灯1はシェードを用いずともロービームLの配光パターンPTNLを形成することができるため、シェードを用いる車両用前照灯と比べて小型化することができる。
【0092】
また、本実施形態の車両用前照灯1は、1つの光源と1つの回折格子とを含む発光光学系を複数有する。すなわち、車両用前照灯1は、1つの光源52Rと1つの回折格子54Rとを含む第1発光光学系51Rと、1つの光源52Gと1つの回折格子54Gとを含む第2発光光学系51Gと、1つの光源52Bと1つの回折格子54Bとを含む第3発光光学系51Bとを有する。これに加えて本実施形態の車両用前照灯1は、それぞれの発光光学系51R,51G,51Bから出射する光を合成する合成光学系55を更に備える。そして、それぞれの光源52R,52G,52Bは互いに異なる所定の波長の光を出射し、それぞれの回折格子54R,54G,54Bは合成光学系55で合成された光がロービームLの配光パターンPTNLとなるように光源52R,52G,52Bからの光を回折する。
【0093】
この場合、それぞれの光源52R,52G,52Bから出射する所定の波長の光が回折格子54R,54G,54Bにより回折されて配光パターンPTNLが形成される。この際、それぞれの発光光学系51R,51G,51Bにおいて、回折格子54R,54G,54Bにより回折される光は所定の波長であるため、回折格子54R,54G,54Bが波長依存性を有しても、それぞれの回折格子54R,54G,54Bから出射する光における配光パターンPTNLの縁近傍で色のにじみが生じることを抑制することができる。この様に色のにじみが抑制された配光パターンを有する光が合成光学系55で合成されてロービームLの配光パターンPTNLが形成される。従って、本実施形態の車両用前照灯1により照射されるロービームLは、配光パターンPTNLの縁近傍で色のにじみが出ることを抑制することができる。
【0094】
また、本実施形態の車両用前照灯1では、それぞれの回折格子54R,54G,54Bを直進して透過する0次光LCR,LCG,LCBは合成光学系55で合成され、投影領域ARに投影される。この場合、上記のように回折格子54R,54G,54Bが波長依存性を有しても、それぞれの回折格子54R,54G,54Bを透過する0次光LCR,LCG,LCBを白の同色にすることができる。従って、本実施形態の車両用前照灯1では、車外の歩行者等が投影領域ARを無用に意識してしまうことを低減することができる。
【0095】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について
図5を参照して詳細に説明する。なお、第1実施形態と同一又は同等の構成要素については、特に説明する場合を除き、同一の参照符号を付して重複する説明は省略する。
【0096】
図5は、本実施形態にかかる車両用前照灯の光学系ユニットを
図2と同様に示す図である。
図5に示すように本実施形態の車両用前照灯の光学系ユニット50は、合成光学系55を備えず、第1発光光学系51R、第2発光光学系51G、第3発光光学系51Bから出射するそれぞれの光が合成されない状態で、カバー59から出射する点において、第1実施形態の光学系ユニット50と異なる。本実施形態では、第1発光光学系51R、第2発光光学系51G、第3発光光学系51Bは、光の出射方向がカバー59の開口59H側とされている。
【0097】
本実施形態においても、第1実施形態と同様にして、第1発光光学系51Rの回折格子54R、第2発光光学系51Gの回折格子54G、第3発光光学系51Bの回折格子54Bのそれぞれにおいて、合成された光がロービームLの配光パターンを形成するように光を出射する。
【0098】
すなわち、回折格子54Rから出射する第1の光LR、回折格子54Gから出射する第2の光LG、及び、回折格子54Bから出射する第3の光LBは、それぞれカバー59の開口59Hから出射し、フロントカバー12を介して車両用前照灯の外部に照射される。また、回折格子54Rから出射する第1の0次光LCR、回折格子54Gから出射する第2の0次光LCG、及び、回折格子54Bから出射する第3の0次光LCBは、それぞれカバー59の開口59Hから出射し、フロントカバー12を介して車両用前照灯の外部に照射される。このとき、第1の光LR、第2の光LG及び第3の光LBは、車両から所定の距離離れた焦点位置においてそれぞれの配光パターンの外形が概ね一致するように照射される。この車両からの距離は、例えば25mとされる。また、第1の0次光LCR、第2の0次光LCG及び第3の0次光LCBは、自動車の運転者の死角となる範囲RNG内においてそれぞれの配光パターンの外形が概ね一致するように照射される。つまり、本実施形態では、上記のように外形が一致するように、第1発光光学系51R、第2発光光学系51G、第3発光光学系51Bの光の出射方向が微調整されている。
【0099】
本実施形態の車両用前照灯によれば、第1実施形態の合成光学系55を用いないため、簡易な構成とすることができる。また本実施形態の車両用前照灯1によれば、第1実施形態と同様に、1次光以降の高次光の光度に比べ高い光度を有する0次光を自動車の運転者の死角となる範囲RNG内に照射するため、運転者の注意喚起の能力が低下することを抑止できる。なお、本実施形態の第1の光LRの外形と第2の光LGの外形と第3の光LBの外形、及び、第1の0次光LCRの外形と第2の0次光LCGの外形と第3の0次光LCBの外形とは、上記の焦点位置以外では互いに僅かにずれる傾向にある。しかし、白色の光を1つの回折格子に入射して得られる光と比べると、この外形のずれを抑制することができる。従って、本実施形態によっても、小型化しつつ色のにじみを抑制し得る車両用前照灯が実現され得る。
【0100】
なお、上記第1、第2実施形態では、赤色成分の第1の光LRを出射する第1発光光学系と、緑色成分の第2の光LGを出射する第2発光光学系と、青色成分の第3の光LBを出射する第3発光光学系とを備えた。しかし、上記第1、第2実施形態では、3つの発光光学系がそれぞれ有する光源から出射する光は、それぞれ互いに異なる所定の波長であれば、赤色、緑色、青色に限らない。
【0101】
また、発光光学系は1つ又は2つであっても良い。さらに、発光光学系は3つ以上であっても良い。この場合、例えば、ロービームLの黄色成分の光を出射する第4発光光学系を備えても良い。この場合、上記の赤色、緑色、青色の発光光学系に加えて、第4発光光学系は、ロービームLの黄色成分の光を出射するものとしても良い。また、赤色、緑色、青色の一部の光度が低い場合、第4発光光学系が光度の低い色と同じ色成分の光を出射するものとしても良い。
【0102】
また、上記第1、第2実施形態では、ホワイトバランス調整回路が更に設けられても良い。このホワイトバランス調整回路は、第1発光光学系51Rの光源52Rから出射する光の全光束量と、第2発光光学系51Gの光源52Gから出射する光の全光束量と、第3発光光学系51Bの光源52Bから出射する光の全光束量と、を制御することで、所望のホワイトバランスとすることができる。例えば、法規の範囲内で、暖色系の白色の光を出射したり、青色系の白色の光を出射するように、切り換えが可能にしても良い。
【0103】
また、上記第1実施形態では、第1光学素子55fは、第1の光を第1の光LRを透過すると共に第2の光LGを反射することで第1の光LRと第2の光LGとを合成し、第2光学素子55sは、第1光学素子55fで合成された第1の光LR及び第2の光LGを透過すると共に第3の光LBを反射することで第1の光LRと第2の光LGと第3の光LBとを合成した。しかし、例えば、第1光学素子55fにおいて第3の光LBと第2の光LGとが合成され、第2光学素子55sにおいて第1光学素子55fで合成された第3の光LB及び第2の光LGと第1の光LRとが合成される構成とされても良い。この場合、上記第1実施形態の第1発光光学系51Rと第3発光光学系51Bとの位置が入れ替わる。またこの場合、第1光学素子55fにおいて第3の0次光LCBと第2の0次光LCGとが合成され、第2光学素子55sにおいて第1光学素子55fで合成された第3の0次光LCB及び第2の0次光LCGと第1の0次光LCRとが合成される構成とされる。また、上記第1実施形態において、所定の波長帯域の光を透過し、他の波長帯域の光を反射するバンドパスフィルタが第1光学素子55fや第2光学素子55sに用いられても良い。また、合成光学系55は、それぞれの発光光学系から出射する光の外形を合わせて合成すれば良く、上記第1実施形態に限定されない。
【0104】
また、上記第1実施形態では、それぞれの回折格子54R,54G,54Bを直進して透過する0次光LCR,LCG,LCBは合成光学系55で合成され、投影領域ARに投影された。しかし、0次光LCR,LCG,LCBは合成光学系55で合成されず、自動車の運転者の死角となる範囲RNG内における別々の領域に投影されても良い。但し、上記のように、車外の歩行者等が投影領域ARを無用に意識してしまうことを低減する場合には、それぞれの回折格子54R,54G,54Bを直進して透過する0次光LCR,LCG,LCBは合成光学系55で合成され、投影領域ARに投影されることが好ましい。
【0105】
また、上記第1、第2実施形態では、暗所照明用の配光パターンとしてロービームLの配光パターンが形成された。しかし、暗所照明用の配光パターンであれば、ロービームLの配光パターンだけに限定されない。なお、暗所照明用の配光パターンは、夜間や、トンネル等の暗所において用いられる。例えば、ロービームLの配光パターンと、その配光パターンの外側の例えば上方に位置する標識視認用の光の配光パターンとが暗所照明用の配光パターンとして形成される場合がある。この場合、それぞれの回折格子54R,54G,54Bにより回折される高次回折光に当該標識視認用の光が含まれていることが好ましい。また例えば、ハイビームの配光パターンが暗所照明用の配光パターンとして形成される場合がある。
【0106】
また、上記第1、第2実施形態では、車両用前照灯1として自動車の前照灯が例示された。しかし、上記第1、第2実施形態は、自動車の前照灯に限らず他の車両の前照灯とされてもよい。また、上記第1、第2実施形態は、前照灯に限らず、後照灯、尾灯、制動灯、表示灯などの灯具であってもよい。
【0107】
要するに、上記第1、第2実施形態に例示される本発明は次のような車両用照明灯具であればよい。すなわち、車両用照明灯具は、光源と、光源から入射する光を回折する回折格子とを備える。この回折格子により回折される光は所定の配光パターンで照射され、当該回折格子に入射する光のうち、回折格子を直進して透過する成分が投影される投影領域は、配光パターンよりも下側であり、車両の運転者の視界が、車両により妨げられる範囲内に位置する。このような車両用照明灯具であれば、運転し易くできる。
【0108】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について説明する。なお、上記第1実施形態と同一又は同等の構成要素については、特に説明する場合を除き、同一の参照符号を付して重複する説明は省略する。
図6は、本実施形態にかかる車両用前照灯を備える車両の概略を示す断面図である。
図6に示すように、本実施形態における車両用前照灯1は、光学素子60を備える点において異なる。
【0109】
本実施形態の光学系ユニット50は、第1発光光学系51Rと、第2発光光学系51Gと、第3発光光学系51Bと、合成光学系55と、カバー59と、光学素子60とを備える。
【0110】
光学素子60は、光のエネルギー密度を下げる光学素子とされる。光学素子60として、例えば、遮光素子や、光拡散素子が挙げられる。遮光素子の具体例としては、アルミニウム等の金属板に黒アルマイト加工を施したものや、カーボンブラック等の遮光材料と基材とを成型したもの等が挙げられる。光拡散素子の具体例としては、光を拡散又は散乱させるレンズやシート等が挙げられる。
【0111】
このような光学素子60は、0次光ビームLCの投影領域と回折格子54R,54G,54Bとの間における0次光ビームLCの光路上に配置される。本実施形態の光学素子60は、筐体10内に配置される。
図6に示す例では、光学素子60は、フロントカバー12の灯室R側の面上に配置され、当該光学素子60と光学素子60に最も近い回折格子54Bとの間における光路の距離は、例えば100mmとされる。
【0112】
次に本実施形態の車両用前照灯1による光の出射について説明する。
【0113】
上記第1実施形態と同様に、まず不図示の電源から電力が供給されることで、それぞれの光源52R,52G,52Bからレーザ光が出射する。上記のように光源52Rからは赤色のレーザ光が出射し、光源52Gからは緑色のレーザ光が出射し、光源52Bからは青色のレーザ光が出射する。それぞれのレーザ光は、コリメートレンズ53R,53G,53Bでコリメートされた後、回折格子54R,54G,54Bに入射する。そして、上記のように回折格子54R,54G,54Bでそれぞれのレーザ光が回折されて、第1発光光学系51RからはロービームLの配光パターンの赤色成分の光である第1の光LRが出射し、第2発光光学系51GからはロービームLの配光パターンの緑色成分の光である第2の光LGが出射し、第3発光光学系51BからはロービームLの配光パターンの青色成分の光である第3の光LBが出射する。また、上記のように回折格子54R,54G,54Bをそれぞれ直進して透過する0次光として、赤色成分の0次光である第1の0次光LCRが第1発光光学系51Rから出射し、緑色成分の0次光である第2の0次光LCGが第2発光光学系51Gから出射し、青色成分の0次光である第3の0次光LCBが第3発光光学系51Bから出射する。
【0114】
合成光学系55では、まず、第1の光LRと第2の光LGが第1光学素子55fで合成されて出射すると共に、第1の0次光LCRと第2の0次光LCGが第1光学素子55fで合成されて出射する。第1光学素子55fで合成された第1の光LR及び第2の光LGは第2光学素子55sで第3の光LBと合成され、第1光学素子55fで合成された第1の0次光LCRと第2の0次光LCGは第2光学素子55sで第3の0次光LCBと合成される。このとき、それぞれの光LR,LG,LBは外形がロービームLの外形と同様にされているため、それぞれの光LR,LG,LBの外形が互いに一致されて合成される。また、それぞれの0次光LCR,LCG,LCBの外形も同様にされているため、それぞれの0次光LCR,LCG,LCBの外形が互いに一致されて合成される。つまり、第1の光LRの外形と第2の光LGの外形と第3の光LBの外形、及び、第1の0次光LCRの外形と第2の0次光LCGの外形と第3の0次光LCBの外形が、上記のように合成光学系で合わさるように、各発光光学系や合成光学系の位置が微調整されている。
【0115】
こうして、赤色の第1の光LRと緑色の第2の光LGと青色の第3の光LBとが合成された光は白色となり、当該白色の光が合成光学系55からロービームLとして出射する。また、赤色の第1の0次光LCRと緑色の第2の0次光LCGと青色の第3の0次光LCBとが合成された光は白色となり、当該白色の光が合成光学系55から0次光ビームLCとして出射する。
【0116】
合成光学系55から出射する0次光ビームLCは、カバー59の開口59Hから出射し、フロントカバー12の灯室R側の面に取り付けられる光学素子60に照射され、当該光学素子60により0次光ビームLCのエネルギー密度が下げられる。
【0117】
合成光学系55から出射するロービームLは、カバー59の開口59Hから出射し、フロントカバー12を介して車両用前照灯1から車両の前方に出射し、所定の配光パターンで照射される。本実施形態では、
図3に示すロービームLの配光パターンPTN
Lで照射される。
【0118】
以上説明したように、本実施形態の車両用前照灯1は、光源52R,52G,52Bと、光源52R,52G,52Bから入射する光を回折する回折格子54R,54G,54Bと、を備える。この回折格子54R,54G,54Bから出射される光のうち、回折格子54R,54G,54Bにより回折される高次回折光はロービームLの配光パターンPTNLで照射される。
【0119】
これに加えて本実施形態の車両用前照灯1は、光学素子60を備えている。この光学素子60は、0次光ビームLCの投影領域と回折格子54R,54G,54Bとの間における0次光ビームLCの光路上に配置され、当該0次光ビームLCのエネルギー密度を下げる。
【0120】
従って、本実施形態の車両用前照灯1では、回折格子54R,54G,54Bを出射する光のうち、高次回折光の光度よりも0次光の光度が高くても、その0次光のエネルギー密度は光学素子60により下げられる。このため、回折格子54R,54G,54Bから出射される光のうち高次回折光による配光パターンPTNLよりも0次光の投影領域が際立って明るくなることを抑制することができる。こうして、本実施形態の車両用前照灯1は、光学素子60を備えていない場合に比べて運転し易くできる。
【0121】
本実施形態の場合、上記のように光学素子60が筐体10内に配置されている。このため、0次光が車外に出射することが低減される。従って、0次光ビームLCの投影領域が車外において際立って明るくなることを抑制することができ、この結果、運転者や歩行者等が投影領域を無用に意識してしまうことを抑制することができる。
【0122】
また本実施形態の場合、上記のように光学素子60は遮光素子であっても光拡散素子であっても良い。このため本実施形態の車両用前照灯1では、当該車両用前照灯1を搭載する車種等に応じて、光学素子60として遮光素子又は光拡散素子を選択し得る。
【0123】
また本実施形態の場合、投影領域は、ロービームLの配光パターンPTNLの外側に位置している。この場合、ロービームLの配光パターンPTNL内に投影領域が位置する場合に比べて、当該配光パターンPTNLの一部が際立って明るくなることを抑制することができ、この結果、より一段と運転し易くできる。
【0124】
また、本実施形態の車両用前照灯1は、1つの光源と1つの回折格子とを含む発光光学系を複数有する。すなわち、車両用前照灯1は、1つの光源52Rと1つの回折格子54Rとを含む第1発光光学系51Rと、1つの光源52Gと1つの回折格子54Gとを含む第2発光光学系51Gと、1つの光源52Bと1つの回折格子54Bとを含む第3発光光学系51Bとを有する。これに加えて本実施形態の車両用前照灯1は、それぞれの発光光学系51R,51G,51Bから出射する光を合成する合成光学系55を更に備える。そして、それぞれの光源52R,52G,52Bは互いに異なる所定の波長の光を出射し、それぞれの回折格子54R,54G,54Bは合成光学系55で合成された光がロービームLの配光パターンPTNLとなるように光源52R,52G,52Bからの光を回折する。
【0125】
この場合、それぞれの光源52R,52G,52Bから出射する所定の波長の光が回折格子54R,54G,54Bにより回折されて配光パターンPTNLが形成される。この際、それぞれの発光光学系51R,51G,51Bにおいて、回折格子54R,54G,54Bにより回折される光は所定の波長であるため、回折格子54R,54G,54Bが波長依存性を有しても、それぞれの回折格子54R,54G,54Bから出射する光における配光パターンPTNLの縁近傍で色のにじみが生じることを抑制することができる。この様に色のにじみが抑制された配光パターンPTNLを有する光が合成光学系55で合成されてロービームLの配光パターンPTNLが形成される。従って、本実施形態の車両用前照灯1により照射されるロービームLは、配光パターンPTNLの縁近傍で色のにじみが出ることを抑制することができる。
【0126】
また、本実施形態の車両用前照灯1では、それぞれの回折格子54R,54G,54Bを直進して透過する0次光LCR,LCG,LCBは合成光学系55で合成され、光学素子60は、合成光学系55で合成された0次光ビームLCのエネルギー密度を下げている。
【0127】
このため、それぞれの回折格子54R,54G,54Bを直進して透過する0次光が合成されない場合に比べると、光学素子60に照射される0次光の照射領域を小さくできる。従って、回折格子54R,54G,54Bから出射される光のうち高次回折光のエネルギー密度が光学素子60で下げられることを抑制することができる。
【0128】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態について
図7を参照して詳細に説明する。なお、第3実施形態と同一又は同等の構成要素については、特に説明する場合を除き、同一の参照符号を付して重複する説明は省略する。
【0129】
図7は、本実施形態にかかる車両用前照灯の光学系ユニットを
図2と同様に示す図である。
図7に示すように本実施形態の車両用前照灯の光学系ユニット50は、合成光学系55を備えず、第1発光光学系51R、第2発光光学系51G、第3発光光学系51Bから出射するそれぞれの光が合成されない状態で、カバー59から出射する点において、第3実施形態の光学系ユニット50と異なる。本実施形態では、第1発光光学系51R、第2発光光学系51G、第3発光光学系51Bは、光の出射方向がカバー59の開口59H側とされている。
【0130】
本実施形態においても、第3実施形態と同様にして、第1発光光学系51Rの回折格子54R、第2発光光学系51Gの回折格子54G、第3発光光学系51Bの回折格子54Bのそれぞれにおいて、合成された光がロービームLの配光パターンを形成するように光を出射する。
【0131】
すなわち、回折格子54Rから出射する第1の光LR、回折格子54Gから出射する第2の光LG、及び、回折格子54Bから出射する第3の光LBは、それぞれカバー59の開口59Hから出射し、フロントカバー12を介して車両用前照灯の外部に照射される。このとき、第1の光LR、第2の光LG、及び、第3の光LBと、第1の0次光LCR、第2の0次光LCG、及び、第3の0次光LCBとは、車両から所定の距離離れた焦点位置においてそれぞれの配光パターンの外形が概ね一致するように照射される。この車両からの距離は、例えば25mとされる。つまり、本実施形態では、上記のように外形が一致するように、第1発光光学系51R、第2発光光学系51G、第3発光光学系51Bの光の出射方向が微調整されている。
【0132】
また、車両用前照灯の光学系ユニット50は、光学素子60に代えて、第1発光光学系51R、第2発光光学系51G、第3発光光学系51Bから出射する0次光のエネルギー密度を下げる光学素子60A~60Cを備えている点において、第3実施形態の光学系ユニット50と異なる。光学素子60Aは、第1の0次光LCRの投影領域と回折格子54Rとの間における第1の0次光LCRの光路上に配置される。また、光学素子60Bは、第2の0次光LCGの投影領域と回折格子54Gとの間における第2の0次光LCGの光路上に配置され、光学素子60Cは、第3の0次光LCBの投影領域と回折格子54Bとの間における第3の0次光LCBの光路上に配置される。なお、光学素子60A~60Cの配置位置は、回折格子54Rから出射する第1の光LR、回折格子54Gから出射する第2の光LG、回折格子54Bから出射する第3の光LBと重なる位置とされているが、重ならない位置とされていても良い。本実施形態では、光学素子60A~60Cは、カバー59内に配置され、図示せぬ固定具を介してカバー59に固定される。それぞれの光学素子60A~60Cと回折格子54Rとの間における光路の距離は、例えば100mmとされる。従って、本実施形態の光学系ユニット50は、第3実施形態の光学系ユニット50よりも大きい構成であると理解できる。
【0133】
本実施形態の車両用前照灯によれば、第3実施形態の合成光学系55を用いないため、簡易な構成とすることができる。また、回折格子54R,54G,54Bを出射する光のうち、高次回折光の光度よりも0次光の光度が高くても、その0次光のエネルギー密度は光学素子60A~60Cにより下げられる。このため、合成光学系55が用いられなくても、上記第3実施形態と同様に、高次回折光による配光パターンPTNLよりも0次光の投影領域が際立って明るくなることを抑制することができる。
【0134】
なお、上記第3、第4実施形態では、赤色成分の第1の光LRを出射する第1発光光学系と、緑色成分の第2の光LGを出射する第2発光光学系と、青色成分の第3の光LBを出射する第3発光光学系とを備えた。しかし、上記第3、第4実施形態では、3つの発光光学系がそれぞれ有する光源から出射する光は、それぞれ互いに異なる所定の波長であれば、赤色、緑色、青色に限らない。
【0135】
また、発光光学系は1つ又は2つであっても良い。さらに、発光光学系は3つ以上であっても良い。この場合、ロービームLの黄色成分の光を出射する第4発光光学系を備えても良い。例えば、上記の赤色、緑色、青色の発光光学系に加えて、第4発光光学系は、ロービームLの黄色成分の光を出射するものとしても良い。また、赤色、緑色、青色の一部の光度が低い場合、第4発光光学系が光度の低い色と同じ色成分の光を出射するものとしても良い。
【0136】
また、上記第3、第4実施形態では、ホワイトバランス調整回路が更に設けられても良い。このホワイトバランス調整回路は、第1発光光学系51Rの光源52Rから出射する光の全光束量と、第2発光光学系51Gの光源52Gから出射する光の全光束量と、第3発光光学系51Bの光源52Bから出射する光の全光束量と、を制御することで、所望のホワイトバランスとすることができる。例えば、法規の範囲内で、暖色系の白色の光を出射したり、青色系の白色の光を出射するように、切り換えが可能にしたりしても良い。
【0137】
また、上記第3実施形態では、第1光学素子55fは、第1の光を第1の光LRを透過すると共に第2の光LGを反射することで第1の光LRと第2の光LGとを合成し、第2光学素子55sは、第1光学素子55fで合成された第1の光LR及び第2の光LGを透過すると共に第3の光LBを反射することで第1の光LRと第2の光LGと第3の光LBとを合成した。しかし、例えば、第1光学素子55fにおいて第3の光LBと第2の光LGとが合成され、第2光学素子55sにおいて第1光学素子55fで合成された第3の光LB及び第2の光LGと第1の光LRとが合成される構成とされても良い。この場合、上記第3実施形態の第1発光光学系51Rと第3発光光学系51Bとの位置が入れ替わる。またこの場合、第1光学素子55fにおいて第3の0次光LCBと第2の0次光LCGとが合成され、第2光学素子55sにおいて第1光学素子55fで合成された第3の0次光LCB及び第2の0次光LCGと第1の0次光LCRとが合成される構成とされる。また、上記第3実施形態において、所定の波長帯域の光を透過し、他の波長帯域の光を反射するバンドパスフィルタが第1光学素子55fや第2光学素子55sに用いられても良い。また、合成光学系55は、それぞれの発光光学系から出射する光の外形を合わせて合成すれば良く、上記第3実施形態に限定されない。
【0138】
また、上記第3実施形態では、それぞれの回折格子54R,54G,54Bを直進して透過する0次光LCR,LCG,LCBは合成光学系55で合成されず、光学素子60の別々の領域に照射されても良い。但し、上記のように、光学素子60に照射される0次光の照射領域を小さくし、高次回折光のエネルギー密度が光学素子60で下げられることを抑制する場合には、それぞれの回折格子54R,54G,54Bを直進して透過する0次光LCR,LCG,LCBは合成光学系55で合成されることが好ましい。
【0139】
また、上記第3、第4実施形態では、ロービームLの配光パターンPTNLの外側に投影領域が位置していたが、当該配光パターンPTNL内に位置していても良い。この場合、ロービームLの配光パターンPTNLのうち、回折格子54R,54G,54Bにより回折される高次回折光の光度分布のなかで最も高い光度の半値以下の光度となる領域内に投影領域が含まれることが好ましい。このようにすれば、高次回折光の光度分布のなかで最も高い光度の半値よりも高い領域に投影領域が含まれる場合に比べて、当該光度分布のなかで最も高い光度となる位置を基準として、配光パターンの光度分布を滑らかに形成し易くなる。
【0140】
また、上記第3、第4実施形態の光学素子60は、入射する0次光のエネルギー密度をゼロとするものであっても、入射する0次光のエネルギー密度よりも小さいエネルギー密度で0次光を出射するものであっても良い。但し、上記のように、ロービームLの配光パターンPTNL内に投影領域が位置する場合には、入射する0次光のエネルギー密度よりも小さいエネルギー密度で0次光を出射する光学素子60が採用されることが好ましい。このようにすれば、0次光をロービームLの配光パターンPTNLとして利用しつつも、当該配光パターンPTNLにおいて0次光の投影領域が際立って明るくなることを抑制し得る。
【0141】
また、上記第3、第4実施形態では、暗所照明用の配光パターンとしてロービームLの配光パターンPTN
Lが形成された。しかし、暗所照明用の配光パターンであれば、ロービームLの配光パターンPTN
Lだけに限定されない。なお、暗所照明用の配光パターンは、夜間や、トンネル等の暗所において用いられる。例えば、
図8に示すように、ロービームLの配光パターンPTN
Lと、その配光パターンPTN
Lの外側の例えば上方に位置する標識視認用の光の配光パターンPTN
Sとが暗所照明用の配光パターンとして形成される場合がある。この場合、それぞれの回折格子54R,54G,54Bにより回折される高次回折光に当該標識視認用の光が含まれていることが好ましい。また例えば、
図9に示すように、ハイビームの配光パターンPTN
Hが暗所照明用の配光パターンとして形成される場合がある。このハイビームの配光パターンPTN
Hのうち、領域HA1は最も光度が高い領域であり、領域HA2は領域HA1よりも光度が低い領域である。つまり、それぞれの回折格子54R,54G,54Bは、合成された光がハイビームの光度分布を含む配光パターンPTN
Hを形成するように光を回折する。
【0142】
また、上記第3、第4実施形態では、車両用前照灯1として自動車の前照灯が例示された。しかし、上記第3、第4実施形態は、自動車の前照灯に限らず他の車両の前照灯とされてもよい。また、上記第3、第4実施形態は、前照灯に限らず、後照灯、尾灯、制動灯、表示灯などの灯具であってもよい。
【0143】
要するに、上記第3、第4実施形態に例示される本発明は次のような車両用照明灯具であればよい。すなわち、車両用照明灯具は、光源と、光源から入射する光を回折する回折格子と、回折格子を直進して透過する光成分の投影領域と回折格子との間における光成分の光路上に配置され、光のエネルギー密度を下げる光学素子とを備える。回折格子から出射される光のうち回折格子により回折される光は、所定の配光パターンで照射される。このような車両用照明灯具であれば、運転し易くできる。
【0144】
(第5実施形態)
次に、本発明の第5実施形態について説明する。なお、上記第1実施形態と同一又は同等の構成要素については、特に説明する場合を除き、同一の参照符号を付して重複する説明は省略する。
図10は、本実施形態にかかる車両用前照灯を備える車両の概略を示す断面図である。
図11は、
図10の車両用前照灯の光学系ユニットの拡大図である。
図10、
図11に示すように、本実施形態における車両用前照灯1の構成は、上記第1実施形態における車両用前照灯1の構成と同じであるものの、本実施形態の車両用前照灯1が出射する光の配光パターンは、上記第1実施形態の車両用前照灯1が出射する光の配光パターンと異なる。
【0145】
本実施形態の回折格子54Rは、コリメートレンズ53Rから入射するレーザ光を所定の配光パターンとなるように回折する。具体的には、回折格子54Rは、後述の合成光学系55において、第1発光光学系51Rと第2発光光学系51Gと第3発光光学系51Bとのそれぞれから出射する光が回折光ビームLDの配光パターンとなるようにコリメートレンズ53Rから入射するレーザ光を回折する。この配光パターンには光度分布も含まれる。このため、本実施形態の回折格子54Rは、回折格子54Rにより回折される光が回折光ビームLDの配光パターンの外形と同じ外形になると共に回折光ビームLDの配光パターンの光度分布に基づいた光度分布となるように、コリメートレンズ53Rから入射するレーザ光を回折する。
【0146】
この回折格子54Rにより回折される光は1次以上の次数を有する高次回折光であり、当該高次回折光の他に、回折格子54Rを回折することなく直進して透過する0次光が回折格子54Rから出射する。本実施形態では、後述の合成光学系55から出射する0次光ビームLCの投影領域が、当該0次光ビームLCと回折光ビームLDとで形成されるロービームLの配光パターン内に位置するように、回折格子54Rから0次光が出射する。
【0147】
こうして、第1発光光学系51Rからは、ロービームLのうちの赤色成分の高次回折光が出射すると共に、0次光ビームLCのうちの赤色成分の0次光が出射する。本実施形態では、第1発光光学系51Rから出射する赤色成分の高次回折光を第1の光LDRとし、当該赤色成分の0次光を第1の0次光LCRとする。
【0148】
回折格子54Gは、コリメートレンズ53Gから入射するレーザ光を所定の配光パターンとなるように回折し、回折格子54Bは、コリメートレンズ53Bから入射するレーザ光を所定の配光パターンとなるように回折する。具体的には、回折格子54G,54Bは、合成光学系55において、第1発光光学系51Rと第2発光光学系51Gと第3発光光学系51Bとのそれぞれから出射する光が回折光ビームLDの配光パターンとなるようにコリメートレンズ53G,53Bから入射するレーザ光をそれぞれ回折する。上記のように配光パターンには光度分布も含まれる。このため、本実施形態の回折格子54G,54Bは、回折格子54G,54Bから出射するそれぞれのレーザ光が回折光ビームLDの配光パターンの外形と同じ外形になると共に回折光ビームLDの配光パターンの光度分布に基づいた光度分布となるように、コリメートレンズ53G,53Bから入射するレーザ光をそれぞれ回折する。
【0149】
この回折格子54Gにより回折される光は1次以上の次数を有する高次回折光であり、当該高次回折光の他に、回折格子54Gを回折することなく直進して透過する0次光が回折格子54Gから出射する。本実施形態では、後述の合成光学系55から出射する0次光ビームLCの投影領域が、当該0次光ビームLCと回折光ビームLDとで形成されるロービームLの配光パターン内に位置するように、回折格子54Gから0次光が出射する。
【0150】
同様に、この回折格子54Bにより回折される光は1次以上の次数を有する高次回折光であり、当該高次回折光の他に、回折格子54Bを回折することなく直進して透過する0次光が回折格子54Bから出射する。本実施形態では、後述の合成光学系55から出射する0次光ビームLCの投影領域が、当該0次光ビームLCと回折光ビームLDとで形成されるロービームLの配光パターン内に位置するように、回折格子54Bから0次光が出射する。
【0151】
こうして、第2発光光学系51GからはロービームLのうちの緑色成分の高次回折光が出射すると共に、0次光ビームLCのうちの緑色成分の0次光が出射する。また、第3発光光学系51BからはロービームLのうちの青色成分の高次回折光が出射すると共に、0次光ビームLCのうちの青色成分の0次光が出射する。本実施形態では、第2発光光学系51Gから出射する緑色成分の高次回折光を第2の光LDGとし、当該緑色成分の0次光を第2の0次光LCGとし、第3発光光学系51Bから出射する青色成分の高次回折光を第3の光LDBとし、当該青色成分の0次光を第3の0次光LCBとする。従って、本実施形態では、第1の光LDRが最も波長が長く、第2の光LDG、第3の光LDBの順に波長が短くなる。同様に、第1の0次光LCRが最も波長が長く、第2の0次光LCG、第3の0次光LCBの順に波長が短くなる。
【0152】
なお、上記の回折光ビームLDの配光パターンの光度分布に基づいた光度分布とは、回折光ビームLDの配光パターンにおける光度が高い部位では、回折格子54R,54G,54Bから出射するそれぞれの高次回折光の光度も高いという意味である。
【0153】
合成光学系55は、第1光学素子55fと第2光学素子55sとを有する。第1光学素子55fは、第1発光光学系51Rから出射する第1の光LDRと、第2発光光学系51Gから出射する第2の光LDGとを合成する光学素子である。また第1光学素子55fは、第1発光光学系51Rから出射する第1の0次光LCRと、第2発光光学系51Gから出射する第2の0次光LCGとを合成する光学素子でもある。本実施形態では、第1光学素子55fは、第1の光LDRを透過すると共に第2の光LDGを反射することで第1の光LDRと第2の光LDGとを合成し、第1の0次光LCRを透過すると共に第2の0次光LCGを反射することで第1の0次光LCRと第2の0次光LCGとを合成する。
【0154】
第2光学素子55sは、第1光学素子55fで合成された第1の光LDR及び第2の光LDGと、第3発光光学系51Bから出射する第3の光LDBとを合成する光学素子である。また第2光学素子55sは、第1光学素子55fで合成された第1の0次光LCR及び第2の0次光LCGと、第3発光光学系51Bから出射する第3の0次光LCBとを合成する光学素子でもある。本実施形態では、第2光学素子55sは、第1光学素子55fで合成された第1の光LDR及び第2の光LDGを透過すると共に第3の光LDBを反射することで第1の光LDRと第2の光LDGと第3の光LDBとを合成する。また、第2光学素子55sは、第1光学素子55fで合成された第1の0次光LCR及び第2の0次光LCGを透過すると共に第3の0次光LCBを反射することで第1の0次光LCRと第2の0次光LCGと第3の0次光LCBとを合成する。
【0155】
この様な第1光学素子55f、第2光学素子55sとしては、ガラス基板上に酸化膜が積層された波長選択フィルタを挙げることができる。この酸化膜の種類や厚みをコントロールすることで、所定の波長よりも長い波長の光を透過し、この波長よりも短い波長の光を反射する構成とすることができる。
【0156】
こうして、合成光学系55からは、第1の光LDRと第2の光LDGと第3の光LDBとが合成されることで回折光ビームLDが出射し、第1の0次光LCRと第2の0次光LCGと第3の0次光LCBとが合成されることで0次光ビームLCが出射する。
【0157】
次に本実施形態の車両用前照灯1による光の出射について説明する。
【0158】
まず不図示の電源から電力が供給されることで、それぞれの光源52R,52G,52Bからレーザ光が出射する。上記のように光源52Rからは赤色のレーザ光が出射し、光源52Gからは緑色のレーザ光が出射し、光源52Bからは青色のレーザ光が出射する。それぞれのレーザ光は、コリメートレンズ53R,53G,53Bでコリメートされた後、回折格子54R,54G,54Bに入射する。そして、上記のように回折格子54R,54G,54Bでそれぞれのレーザ光が回折されて、第1発光光学系51Rからは回折光ビームLDの赤色成分である第1の光LDRが出射し、第2発光光学系51Gからは回折光ビームLDの緑色成分である第2の光LDGが出射し、第3発光光学系51Bからは回折光ビームLDの青色成分である第3の光LDBが出射する。また、上記のように回折格子54R,54G,54Bをそれぞれ直進して透過し、第1発光光学系51Rからは0次光ビームLCの赤色成分である第1の0次光LCRが出射し、第2発光光学系51Gからは0次光ビームLCの緑色成分である第2の0次光LCGが出射し、第3発光光学系51Bからは0次光ビームLCの青色成分である第3の0次光LCBが出射する。
【0159】
合成光学系55では、まず、第1の光LDRと第2の光LDGが第1光学素子55fで合成されて出射すると共に、第1の0次光LCRと第2の0次光LCGが第1光学素子55fで合成されて出射する。第1光学素子55fで合成された第1の光LDR及び第2の光LDGは第2光学素子55sで第3の光LDBと合成され、第1光学素子55fで合成された第1の0次光LCRと第2の0次光LCGは第2光学素子55sで第3の0次光LCBと合成される。このとき、それぞれの光LDR,LDG,LDBは外形が回折光ビームLDの外形と同様にされているため、それぞれの光LDR,LDG,LDBの外形が互いに一致されて合成される。また、それぞれの0次光LCR,LCG,LCBの外形も同様にされているため、それぞれの0次光LCR,LCG,LCBの外形が互いに一致されて合成される。つまり、第1の光LDRの外形と第2の光LDGの外形と第3の光LDBの外形、及び、第1の0次光LCRの外形と第2の0次光LCGの外形と第3の0次光LCBの外形が、上記のように合成光学系で合わさるように、各発光光学系や合成光学系の位置が微調整されている。
【0160】
こうして、赤色の第1の光LDRと緑色の第2の光LDGと青色の第3の光LDBとが合成された光は白色となり、当該白色の光が合成光学系55から回折光ビームLDとして出射する。また、赤色の第1の0次光LCRと緑色の第2の0次光LCGと青色の第3の0次光LCBとが合成された光は白色となり、当該白色の光が合成光学系55から0次光ビームLCとして出射する。
【0161】
合成光学系55から出射する回折光ビームLDと0次光ビームLCは、カバー59の開口59Hから出射し、フロントカバー12を介して車両用前照灯1から車両の前方に出射する。車両の前方では回折光ビームLDと0次光ビームLCとでロービームLの配光パターンが形成される。
【0162】
図12は、本実施形態におけるロービームの配光パターンと、その配光パターンの光度分布とを示す図である。
図12に示すように、ロービームLの配光パターンPTN
Lは第1の領域LA1、第2の領域LA2、第3の領域LA3を有し、当該第1の領域LA1、第2の領域LA2、第3の領域LA3の順に光度が低くなる。
【0163】
第1の領域LA1は、高次回折光である回折光ビームLDの光度分布のなかで第1光度閾値よりも高い光度となる領域であり、当該第1の領域LA1では、回折光ビームLDの光度分布のなかで最も高い光度LHとなる部位Pが含まれる。第2の領域LA2は、回折光ビームLDの光度分布のなかで第1光度閾値以下となり第1光度閾値よりも低く設定される第2光度閾値よりも高い光度となる領域であり、第3の領域LA3は、回折光ビームLDの光度分布のなかで第2光度閾値以下となる領域である。第1光度閾値は、例えば、回折光ビームLDの光度分布のなかで最も高い光度LHの半値とされる。
【0164】
このようなロービームLの配光パターンPTN
Lのうち、0次光ビームLCが照射される0次光の投影領域PARは、第1の領域LA1内に位置し、更に、この第1の領域LA1よりも狭いホットゾーンHZ内に位置する。但し、0次光の投影領域PARは、回折光ビームLDの光度分布のなかで最も高い光度L
Hとなる部位Pを避けて位置する。なお、投影領域PARの光度は、回折光ビームLDの光度と0次光ビームLCの光度との合計値である。
図12に示す例では、投影領域PARの光度は、回折光ビームLDの光度分布のなかで最も高い光度L
Hよりも高くなっているが、当該光度L
Hよりも低くされていても良い。例えば、投影領域PARには回折光ビームLDが非照射とされることで、当該光度L
Hよりも投影領域PARの光度を低くし得る。
【0165】
以上説明したように、本実施形態の車両用前照灯1は、光源52R,52G,52Bと、光源52R,52G,52Bから入射する光を回折する回折格子54R,54G,54Bと、を備える。
【0166】
この回折格子54R,54G,54Bにより回折される光は合成光学系55で合成され、当該合成光学系55から回折光ビームLDとして出射する。また、回折格子54R,54G,54Bを直進して透過する光は合成光学系55で合成され、当該合成光学系55から0次光ビームLCとして出射する。この回折光ビームLDと0次光ビームLCとでロービームLの配光パターンが形成される。
図12に示すように、配光パターンのなかで0次光ビームLCの投影領域PARは、高次回折光である回折光ビームLDの光度分布のなかで最も高い光度L
Hの半値よりも高い光度となる領域内に位置する。
【0167】
従って、高次回折光の光度に比べ高い光度を有する0次光が投影領域PARに照射されても、ロービームLの配光パターンPTNLのなかで投影領域PARが際立って明るくなることを抑制することができる。従って、本実施形態の車両用前照灯1は、回折光ビームLDの光度分布のなかで最も高い光度LHの半値よりも高い光度となる領域の外側に投影領域PARが配置される場合に比べて運転し易くできる。
【0168】
なお、本実施形態の場合、投影領域PARは、回折光ビームLDの光度分布のなかで最も高い光度LHとなる部位Pを避けて位置している。従って、回折光ビームLDの配光パターンPTNLのなかで最も高い光度LHとなる部位Pが過度に明るくなることを抑制することができる。
【0169】
また、投影領域PARがホットゾーンHZ内に配置されることで、0次光ビームLCをロービームLの配光パターンPTNLとして利用しつつも、当該配光パターンPTNLにおいて投影領域PARが際立って明るくなることを抑制し得る。
【0170】
また、本実施形態の車両用前照灯1は、1つの光源と1つの回折格子とを含む発光光学系を複数有する。すなわち、車両用前照灯1は、1つの光源52Rと1つの回折格子54Rとを含む第1発光光学系51Rと、1つの光源52Gと1つの回折格子54Gとを含む第2発光光学系51Gと、1つの光源52Bと1つの回折格子54Bとを含む第3発光光学系51Bとを有する。これに加えて本実施形態の車両用前照灯1は、それぞれの発光光学系51R,51G,51Bから出射する光を合成する合成光学系55を更に備える。そして、それぞれの光源52R,52G,52Bは互いに異なる所定の波長の光を出射し、それぞれの回折格子54R,54G,54Bは合成光学系55で合成された光がロービームLの配光パターンPTNLとなるように光源52R,52G,52Bからの光を出射する。
【0171】
この場合、それぞれの光源52R,52G,52Bから出射する所定の波長の光が回折格子54R,54G,54Bを通じて配光パターンPTNLが形成される。この際、それぞれの発光光学系51R,51G,51Bにおいて、回折格子54R,54G,54Bにより回折される光は所定の波長であるため、回折格子54R,54G,54Bが波長依存性を有しても、それぞれの回折格子54R,54G,54Bから出射する光における配光パターンPTNLの縁近傍で色のにじみが生じることを抑制することができる。この様に色のにじみが抑制された配光パターンPTNLを有する光が合成光学系55で合成されてロービームLの配光パターンPTNLが形成される。従って、本実施形態の車両用前照灯1により照射されるロービームLは、配光パターンPTNLの縁近傍で色のにじみが出ることを抑制することができる。
【0172】
また、本実施形態の車両用前照灯1では、それぞれの回折格子54R,54G,54Bを直進して透過する0次光LCR,LCG,LCBは合成光学系55で合成され、投影領域PARに照射される。この場合、上記のように回折格子54R,54G,54Bが波長依存性を有しても、それぞれの回折格子54R,54G,54Bを透過する0次光LCR,LCG,LCBを白の同色にすることができる。従って、本実施形態の車両用前照灯1では、運転者が投影領域PARを無用に意識してしまうことを低減することができ、より一段と運転し易くできる。
【0173】
(第6実施形態)
次に、本発明の第6実施形態について
図13を参照して詳細に説明する。なお、第5実施形態と同一又は同等の構成要素については、特に説明する場合を除き、同一の参照符号を付して重複する説明は省略する。
【0174】
図13は、本実施形態にかかる車両用前照灯の光学系ユニットを
図11と同様に示す図である。
図13に示すように本実施形態の車両用前照灯の光学系ユニット50は、合成光学系55を備えず、第1発光光学系51R、第2発光光学系51G、第3発光光学系51Bから出射するそれぞれの光が合成されない状態で、カバー59から出射する点において、第5実施形態の光学系ユニット50と異なる。本実施形態では、第1発光光学系51R、第2発光光学系51G、第3発光光学系51Bは、光の出射方向がカバー59の開口59H側とされている。
【0175】
本実施形態においても、第5実施形態と同様にして、第1発光光学系51Rの回折格子54R、第2発光光学系51Gの回折格子54G、第3発光光学系51Bの回折格子54Bのそれぞれにおいて、合成された光がロービームLの配光パターンを形成するように光を出射する。
【0176】
すなわち、回折格子54Rから出射する第1の光LD
R、回折格子54Gから出射する第2の光LD
G、及び、回折格子54Bから出射する第3の光LD
Bは、それぞれカバー59の開口59Hから出射し、フロントカバー12を介して車両用前照灯の外部に照射される。また、回折格子54Rから出射する第1の0次光LC
R、回折格子54Gから出射する第2の0次光LC
G、及び、回折格子54Bから出射する第3の0次光LC
Bは、それぞれカバー59の開口59Hから出射し、フロントカバー12を介して車両用前照灯の外部に照射される。このとき、第1の光LD
R、第2の光LD
G、及び、第3の光LD
Bと、第1の0次光LC
R、第2の0次光LC
G、及び、第3の0次光LC
Bとは、車両から所定の距離離れた焦点位置においてそれぞれの配光パターンの外形が概ね一致するように照射される。この車両からの距離は、例えば25mとされる。従って、車両から所定の距離離れた位置においてロービームLの配光パターンが形成される。この配光パターンは、
図12に示す配光パターンPTN
Lとされ、
図12に示す光度分布と同じ光度分布を有する。このため、第5実施形態と同様に、配光パターンPTN
Lのなかで0次光の投影領域PARは、高次回折光である回折光ビームLDの光度分布のなかで最も高い光度L
Hの半値よりも高い光度となる領域内に位置する。
【0177】
本実施形態の車両用前照灯によれば、第5実施形態の合成光学系55を用いないため、簡易な構成とすることができる。また、本実施形態の車両用前照灯によれば、0次光の投影領域PARが高次回折光の光度分布のなかで最も高い光度LHの半値よりも高い光度となる領域内に位置するため、第5実施形態と同様に、投影領域PARが際立って明るくなることを抑制し得る。なお、本実施形態の第1の光LDRの外形と第2の光LDGの外形と第3の光LDBの外形、及び、第1の0次光LCRの外形と第2の0次光LCGの外形と第3の0次光LCBの外形とは、上記の焦点位置以外では互いに僅かにずれる傾向にある。しかし、白色の光を1つの回折格子に入射して得られる光と比べると、この外形のずれを抑制することができる。従って、本実施形態によっても、小型化しつつ色のにじみを抑制し得る車両用前照灯が実現され得る。
【0178】
なお、上記第5、第6実施形態では、赤色成分の第1の光LDRを出射する第1発光光学系と、緑色成分の第2の光LDGを出射する第2発光光学系と、青色成分の第3の光LDBを出射する第3発光光学系とを備えた。しかし、上記第5、第6実施形態の車両用前照灯では、3つの発光光学系がそれぞれ有する光源から出射する光は、それぞれ互いに異なる所定の波長であれば、赤色、緑色、青色に限らない。
【0179】
また、発光光学系は1つ又は2つであっても良い。さらに、発光光学系は3つ以上であっても良い。この場合、例えば、ロービームLの黄色成分の光を出射する第4発光光学系を備えても良い。この場合、上記の赤色、緑色、青色の発光光学系に加えて、第4発光光学系は、ロービームLの黄色成分の光を出射するものとしても良い。また、赤色、緑色、青色の一部の光度が低い場合、第4発光光学系が光度の低い色と同じ色成分の光を出射するものとしても良い。
【0180】
また、上記第5、第6実施形態では、ホワイトバランス調整回路が更に設けられても良い。このホワイトバランス調整回路は、第1発光光学系51Rの光源52Rから出射する光の全光束量と、第2発光光学系51Gの光源52Gから出射する光の全光束量と、第3発光光学系51Bの光源52Bから出射する光の全光束量と、を制御することで、所望のホワイトバランスとすることができる。例えば、法規の範囲内で、暖色系の白色の光を出射したり、青色系の白色の光を出射するように、切り換えが可能にしても良い。
【0181】
また、上記第5実施形態では、第1光学素子55fは、第1の光を第1の光LDRを透過すると共に第2の光LDGを反射することで第1の光LDRと第2の光LDGとを合成し、第2光学素子55sは、第1光学素子55fで合成された第1の光LDR及び第2の光LDGを透過すると共に第3の光LDBを反射することで第1の光LDRと第2の光LDGと第3の光LDBとを合成した。しかし、例えば、第1光学素子55fにおいて第3の光LDBと第2の光LDGとが合成され、第2光学素子55sにおいて第1光学素子55fで合成された第3の光LDB及び第2の光LDGと第1の光LDRとが合成される構成とされても良い。この場合、上記第5実施形態の第1発光光学系51Rと第3発光光学系51Bとの位置が入れ替わる。またこの場合、第1光学素子55fにおいて第3の0次光LCBと第2の0次光LCGとが合成され、第2光学素子55sにおいて第1光学素子55fで合成された第3の0次光LCB及び第2の0次光LCGと第1の0次光LCRとが合成される構成とされる。また、上記第5実施形態において、所定の波長帯域の光を透過し、他の波長帯域の光を反射するバンドパスフィルタが第1光学素子55fや第2光学素子55sに用いられても良い。また、合成光学系55は、それぞれの発光光学系から出射する光の外形を合わせて合成すれば良く、上記第5実施形態に限定されない。
【0182】
また、上記第5実施形態では、それぞれの回折格子54R,54G,54Bを直進して透過する0次光LCR,LCG,LCBは合成光学系55で合成されず、投影領域PARの別々の領域に照射されても良い。但し、上記のように、運転者が投影領域PARを無用に意識してしまうことを低減するためには、それぞれの回折格子54R,54G,54Bを直進して透過する0次光LCR,LCG,LCBが合成されることが好ましい。
【0183】
また、上記第5、第6実施形態では、投影領域PARは、高次回折光の光度分布のなかで最も高い光度LHとなる位置を避けて位置していたが、当該位置を含んでいても良い。この場合、0次光の光度が大きいか否かにかかわらず、ロービームLの配光パターンPTNLのなかで最も明るい領域は概ね変化しなくなる。このため、回折光ビームLDの光度分布のなかで最も高い光度となる位置を基準として、ロービームLの配光パターンPTNLの光度分布をより滑らかに形成し易くなる。但し、上記のように回折光ビームLDの配光パターンPTNLのなかで最も高い光度LHとなる部位Pが過度に明るくなることを抑制するためには、回折光ビームLDの光度分布のなかで最も高い光度LHとなる位置を避けて位置することが好ましい。
【0184】
また、上記第5、第6実施形態では、暗所照明用の配光パターンとしてロービームLの配光パターンPTN
Lが形成された。しかし、暗所照明用の配光パターンであれば、ロービームLの配光パターンPTN
Lだけに限定されない。なお、暗所照明用の配光パターンは、夜間や、トンネル等の暗所において用いられる。例えば、
図14に示すように、ロービームLの配光パターンPTN
Lと、その配光パターンPTN
Lの外側の例えば上方に位置する標識視認用の光の配光パターンPTN
Sとが暗所照明用の配光パターンとして形成される場合がある。この場合、それぞれの回折格子54R,54G,54Bにより回折される高次回折光に当該標識視認用の光が含まれていることが好ましい。また例えば、ハイビームの配光パターンが暗所照明用の配光パターンとして形成される場合がある。
【0185】
また、上記第5、第6実施形態では、車両用前照灯1として自動車の前照灯が例示された。しかし、上記第5、第6実施形態は、自動車の前照灯に限らず他の車両の前照灯とされてもよい。また、上記第5、第6実施形態は、前照灯に限らず、後照灯、尾灯、制動灯、表示灯などの灯具であってもよい。
【0186】
要するに、上記第5、第6実施形態に例示される本発明は次のような車両用照明灯具であればよい。すなわち、車両用照明灯具は、光源と、光源から入射する光を回折する回折格子とを備える。回折格子により回折される光と回折格子を直進して透過する光とで所定の光度分布を有する配光パターンが形成される。この配光パターンのなかで回折格子を直進して透過する光の投影領域は、回折格子により回折される光の光度分布のなかで最も高い光度の半値よりも高い光度となる領域内に位置する。このような車両用照明灯具であれば、運転し易くできる。
【0187】
(第7実施形態)
次に、本発明の第7実施形態について説明する。なお、上記第5実施形態と同一又は同等の構成要素については、特に説明する場合を除き、同一の参照符号を付して重複する説明は省略する。本実施形態における車両用前照灯1の構成は、上記第5実施形態における車両用前照灯1の構成と同じであるものの、本実施形態の車両用前照灯1が出射する光の配光パターンは、上記第5実施形態の車両用前照灯1が出射する光の配光パターンと異なる。
【0188】
本実施形態の回折格子54Rは、コリメートレンズ53Rから入射するレーザ光を所定の配光パターンとなるように出射する。具体的には、回折格子54Rは、合成光学系55において、第1発光光学系51Rと第2発光光学系51Gと第3発光光学系51Bとのそれぞれから出射する光が回折光ビームLDの配光パターンとなるようにコリメートレンズ53Rから入射するレーザ光を出射する。この配光パターンには光度分布も含まれる。このため、本実施形態の回折格子54Rは、回折格子54Rにより回折される光が回折光ビームLDの配光パターンの外形と同じ外形になると共に回折光ビームLDの配光パターンの光度分布に基づいた光度分布となるように、コリメートレンズ53Rから入射するレーザ光を出射する。
【0189】
この回折格子54Rにより回折される光は1次以上の次数を有する高次回折光であり、当該高次回折光の他に、回折格子54Rを回折することなく直進して透過する0次光が回折格子54Rから出射する。本実施形態では、合成光学系55から出射する0次光ビームLCの投影領域が、当該0次光ビームLCと回折光ビームLDとで形成されるロービームLの配光パターン内に位置するように、回折格子54Rから0次光が出射する。本実施形態の回折格子54Rは、0次光ビームLCの投影領域では回折格子54Rにより回折される高次回折光が非照射となるように、コリメートレンズ53Rから入射するレーザ光を出射する。従って、ロービームLの配光パターンにおける0次光ビームLCの投影領域では、回折格子54Rにより回折される高次回折光の光度がゼロとされる。
【0190】
こうして、第1発光光学系51Rからは、ロービームLのうちの赤色成分の高次回折光が出射すると共に、0次光ビームLCのうちの赤色成分の0次光が出射する。本実施形態では、第1発光光学系51Rから出射する赤色成分の高次回折光を第1の光LDRとし、当該赤色成分の0次光を第1の0次光LCRとする。
【0191】
回折格子54Gは、コリメートレンズ53Gから入射するレーザ光を所定の配光パターンとなるように出射し、回折格子54Bは、コリメートレンズ53Bから入射するレーザ光を所定の配光パターンとなるように出射する。具体的には、回折格子54G,54Bは、合成光学系55において、第1発光光学系51Rと第2発光光学系51Gと第3発光光学系51Bとのそれぞれから出射する光が回折光ビームLDの配光パターンとなるようにコリメートレンズ53G,53Bから入射するレーザ光をそれぞれ回折する。上記のように配光パターンには光度分布も含まれる。このため、本実施形態の回折格子54G,54Bは、回折格子54G,54Bから出射するそれぞれのレーザ光が回折光ビームLDの配光パターンの外形と同じ外形になると共に回折光ビームLDの配光パターンの光度分布に基づいた光度分布となるように、コリメートレンズ53G,53Bから入射するレーザ光をそれぞれ回折する。
【0192】
この回折格子54Gにより回折される光は1次以上の次数を有する高次回折光であり、当該高次回折光の他に、回折格子54Gを回折することなく直進して透過する0次光が回折格子54Gから出射する。本実施形態では、合成光学系55から出射する0次光ビームLCの投影領域が、当該0次光ビームLCと回折光ビームLDとで形成されるロービームLの配光パターン内に位置するように、回折格子54Gから0次光が出射する。本実施形態の回折格子54Gは、0次光ビームLCの投影領域では回折格子54Gにより回折される高次回折光が非照射となるように、コリメートレンズ53Gから入射するレーザ光を出射する。従って、ロービームLの配光パターンにおける0次光ビームLCの投影領域では、回折格子54Gにより回折される高次回折光の光度がゼロとされる。
【0193】
同様に、この回折格子54Bにより回折される光は1次以上の次数を有する高次回折光であり、当該高次回折光の他に、回折格子54Bを回折することなく直進して透過する0次光が回折格子54Bから出射する。本実施形態では、合成光学系55から出射する0次光ビームLCの投影領域が、当該0次光ビームLCと回折光ビームLDとで形成されるロービームLの配光パターン内に位置するように、回折格子54Bから0次光が出射する。本実施形態の回折格子54Bは、0次光ビームLCの投影領域では回折格子54Bにより回折される高次回折光が非照射となるように、コリメートレンズ53Bから入射するレーザ光を出射する。従って、ロービームLの配光パターンにおける0次光ビームLCの投影領域では、回折格子54Bにより回折される高次回折光の光度がゼロとされる。
【0194】
こうして、第2発光光学系51GからはロービームLのうちの緑色成分の高次回折光が出射すると共に、0次光ビームLCのうちの緑色成分の0次光が出射する。また、第3発光光学系51BからはロービームLのうちの青色成分の高次回折光が出射すると共に、0次光ビームLCのうちの青色成分の0次光が出射する。本実施形態では、第2発光光学系51Gから出射する緑色成分の高次回折光を第2の光LDGとし、当該緑色成分の0次光を第2の0次光LCGとし、第3発光光学系51Bから出射する青色成分の高次回折光を第3の光LDBとし、当該青色成分の0次光を第3の0次光LCBとする。従って、本実施形態では、第1の光LDRが最も波長が長く、第2の光LDG、第3の光LDBの順に波長が短くなる。同様に、第1の0次光LCRが最も波長が長く、第2の0次光LCG、第3の0次光LCBの順に波長が短くなる。
【0195】
次に本実施形態の車両用前照灯1による光の出射について説明する。
【0196】
まず不図示の電源から電力が供給されることで、それぞれの光源52R,52G,52Bからレーザ光が出射する。上記のように光源52Rからは赤色のレーザ光が出射し、光源52Gからは緑色のレーザ光が出射し、光源52Bからは青色のレーザ光が出射する。それぞれのレーザ光は、コリメートレンズ53R,53G,53Bでコリメートされた後、回折格子54R,54G,54Bに入射する。そして、上記のように回折格子54R,54G,54Bでそれぞれのレーザ光が回折されて、第1発光光学系51Rからは回折光ビームLDの赤色成分である第1の光LDRが出射し、第2発光光学系51Gからは回折光ビームLDの緑色成分である第2の光LDGが出射し、第3発光光学系51Bからは回折光ビームLDの青色成分である第3の光LDBが出射する。また、上記のように回折格子54R,54G,54Bをそれぞれ直進して透過し、第1発光光学系51Rからは0次光ビームLCの赤色成分である第1の0次光LCRが出射し、第2発光光学系51Gからは0次光ビームLCの緑色成分である第2の0次光LCGが出射し、第3発光光学系51Bからは0次光ビームLCの青色成分である第3の0次光LCBが出射する。
【0197】
合成光学系55では、まず、第1の光LDRと第2の光LDGが第1光学素子55fで合成されて出射すると共に、第1の0次光LCRと第2の0次光LCGが第1光学素子55fで合成されて出射する。第1光学素子55fで合成された第1の光LDR及び第2の光LDGは第2光学素子55sで第3の光LDBと合成され、第1光学素子55fで合成された第1の0次光LCRと第2の0次光LCGは第2光学素子55sで第3の0次光LCBと合成される。このとき、それぞれの光LDR,LDG,LDBは外形が回折光ビームLDの外形と同様にされているため、それぞれの光LDR,LDG,LDBの外形が互いに一致されて合成される。また、それぞれの0次光LCR,LCG,LCBの外形も同様にされているため、それぞれの0次光LCR,LCG,LCBの外形が互いに一致されて合成される。つまり、第1の光LDRの外形と第2の光LDGの外形と第3の光LDBの外形、及び、第1の0次光LCRの外形と第2の0次光LCGの外形と第3の0次光LCBの外形が、上記のように合成光学系で合わさるように、各発光光学系や合成光学系の位置が微調整されている。
【0198】
こうして、赤色の第1の光LDRと緑色の第2の光LDGと青色の第3の光LDBとが合成された光は白色となり、当該白色の光が合成光学系55から回折光ビームLDとして出射する。また、赤色の第1の0次光LCRと緑色の第2の0次光LCGと青色の第3の0次光LCBとが合成された光は白色となり、当該白色の光が合成光学系55から0次光ビームLCとして出射する。
【0199】
合成光学系55から出射する回折光ビームLDと0次光ビームLCは、カバー59の開口59Hから出射し、フロントカバー12を介して車両用前照灯1から車両の前方に出射する。車両の前方では回折光ビームLDと0次光ビームLCとでロービームLの配光パターンが形成される。
【0200】
図15は、本実施形態のロービームの配光パターンと、その配光パターンの光度分布とを示す図である。
図15に示すように、ロービームLの配光パターンPTN
Lは第1の領域LA1、第2の領域LA2、第3の領域LA3を有し、当該第1の領域LA1、第2の領域LA2、第3の領域LA3の順に光度が低くなる。
【0201】
第1の領域LA1は、高次回折光である回折光ビームLDの光度分布のなかで第1光度閾値よりも高い光度となる領域であり、当該第1の領域LA1では、回折光ビームLDの光度分布のなかで最も高い光度LHとなる部位Pが含まれる。第2の領域LA2は、回折光ビームLDの光度分布のなかで第1光度閾値以下となり第1光度閾値よりも低く設定される第2光度閾値よりも高い光度となる領域であり、第3の領域LA3は、回折光ビームLDの光度分布のなかで第2光度閾値以下となる領域である。第1光度閾値は、例えば、回折光ビームLDの光度分布のなかで最も高い光度LHの半値とされる。
【0202】
このようなロービームLの配光パターンPTNLのうち、0次光ビームLCが照射される0次光の投影領域PARは、第2の領域LA2内に含まれ、第1の領域LA1の一部と重なっている。また、0次光の投影領域PARの光度は、回折光ビームLDの光度分布のなかで最も高い光度LHよりも低くされる。
【0203】
図16は、0次光ビームLCが非照射である場合のロービームLの配光パターンと、その配光パターンの光度分布とを示す図である。上記のように本実施形態では、0次光の投影領域PARに照射される高次回折光の光度がゼロとされるため、
図16に示すように、0次光ビームLCが非照射である場合にはロービームLの配光パターンPTN
Lにおける0次光の投影領域PARは暗い穴のようになる。この投影領域PARに0次光ビームLCが照射されることで、
図15に示すロービームLの配光パターンPTN
Lが形成される。つまり、投影領域PARの光度は、回折光ビームLDの光度と0次光ビームLCの光度との合計値となるが、本実施形態では、上記のように投影領域PARに照射される高次回折光の光度がゼロとされるため、投影領域PARの光度は、0次光ビームLCの光度と一致する。
【0204】
以上説明したように、本実施形態の車両用前照灯1は、光源52R,52G,52Bと、光源52R,52G,52Bから入射する光を回折する回折格子54R,54G,54Bと、を備える。
【0205】
この回折格子54R,54G,54Bから出射する光は合成光学系55で合成され、当該合成光学系55から回折光ビームLD及び0次光ビームLCとして出射する。この回折光ビームLDと0次光ビームLCとでロービームLが得られ、当該ロービームLは所定の光度分布を有する配光パターンPTNLで照射される。この配光パターンPTNLにおける0次光の投影領域PARでは、回折光ビームLDが非照射とされる。上記のように回折光ビームLDは、回折格子54R,54G,54Bにより回折される高次回折光である。
【0206】
従って、投影領域PARにおける高次回折光の光度は、その投影領域PARの外側周縁に照射される光の光度よりも小さい。このため、高次回折光の光度に比べ高い光度を有する0次光が投影領域PARに照射されても、ロービームLの配光パターンPTNLのなかで投影領域PARが際立って明るくなることを低減することができる。従って、本実施形態の車両用前照灯1は、投影領域PARでの高次回折光の光度がその投影領域PARの外側周縁に照射される光の光度以上である場合に比べて運転し易くできる。
【0207】
なお、本実施形態の場合、上記のように投影領域PARには回折光ビームLDが非照射とされているため、当該投影領域PARに照射される高次回折光の光度はゼロである。従って、本実施形態では、0次光の光度と高次回折光の光度との差が大きい場合であっても、ロービームLの配光パターンPTNLのなかで投影領域PARが際立って明るくなることを低減し、当該配光パターンPTNL全体として滑らかな光度分布を形成し易くなる。
【0208】
上記のように投影領域PARに照射される高次回折光の光度がゼロとされるため、投影領域PARの光度は0次光の光度となる。この0次光の光度は、
図15に示すように、高次回折光である回折光ビームLDの光度分布のなかで最も高い光度L
Hよりも低くされている。従って、本実施形態では、高次回折光の光度分布のなかで最も高い光度L
Hとなる部位Pを基準として、配光パターンPTN
Lの光度分布を滑らかに形成し易くなる。
【0209】
さらに、本実施形態の場合、ロービームLの配光パターンPTNLは、第1の領域LA1と、その第1の領域LA1の光度よりも低い光度の第2の領域LA2と、その第2の領域LA2の光度よりも低い光度の第3の領域LA3とを有する。そして、投影領域PARは第2の領域LA2内に含まれると共に、当該投影領域PARの一部は第1の領域LA1と重なっている。従って、ロービームLの配光パターンPTNLのなかで最も光度が低い領域である第3の領域LA3に投影領域PARが含まれている場合に比べると、ロービームLの配光パターンPTNLのなかで投影領域PARが際立って明るくなることを低減することができる。
【0210】
また、本実施形態の車両用前照灯1は、1つの光源と1つの回折格子とを含む発光光学系を複数有する。すなわち、車両用前照灯1は、1つの光源52Rと1つの回折格子54Rとを含む第1発光光学系51Rと、1つの光源52Gと1つの回折格子54Gとを含む第2発光光学系51Gと、1つの光源52Bと1つの回折格子54Bとを含む第3発光光学系51Bとを有する。これに加えて本実施形態の車両用前照灯1は、それぞれの発光光学系51R,51G,51Bから出射する光を合成する合成光学系55を更に備える。そして、それぞれの光源52R,52G,52Bは互いに異なる所定の波長の光を出射し、それぞれの回折格子54R,54G,54Bは合成光学系55で合成された光がロービームLの配光パターンとなるように光源52R,52G,52Bからの光を出射する。
【0211】
この場合、それぞれの光源52R,52G,52Bから出射する所定の波長の光が回折格子54R,54G,54Bにより回折されて配光パターンが形成される。この際、それぞれの発光光学系51R,51G,51Bにおいて、回折格子54R,54G,54Bにより回折される光は所定の波長であるため、回折格子54R,54G,54Bが波長依存性を有しても、それぞれの回折格子54R,54G,54Bから出射する光における配光パターンの縁近傍で色のにじみが生じることを抑制することができる。この様に色のにじみが抑制された配光パターンを有する光が合成光学系55で合成されてロービームLの配光パターンが形成される。従って、本実施形態の車両用前照灯1により照射されるロービームLは、配光パターンの縁近傍で色のにじみが出ることを抑制することができる。
【0212】
また、本実施形態の車両用前照灯1では、それぞれの回折格子54R,54G,54Bを直進して透過する0次光LCR,LCG,LCBは合成光学系55で合成され、投影領域PARに照射される。この場合、上記のように回折格子54R,54G,54Bが波長依存性を有しても、それぞれの回折格子54R,54G,54Bを透過する0次光LCR,LCG,LCBを白の同色にすることができる。従って、本実施形態の車両用前照灯1では、運転者が投影領域PARを無用に意識してしまうことを低減することができ、より一段と運転し易くできる。
【0213】
(第8実施形態)
次に、本発明の第8実施形態について説明する。なお、第7実施形態と同一又は同等の構成要素については、特に説明する場合を除き、同一の参照符号を付して重複する説明は省略する。
【0214】
本実施形態にかかる車両用前照灯の光学系ユニットを示す図は、
図13と同様の記載となるため、
図13を参照して本実施形態について説明する。
図13に示すように本実施形態の車両用前照灯の光学系ユニット50は、合成光学系55を備えず、第1発光光学系51R、第2発光光学系51G、第3発光光学系51Bから出射するそれぞれの光が合成されない状態で、カバー59から出射する点において、第7実施形態の光学系ユニット50と異なる。本実施形態では、第1発光光学系51R、第2発光光学系51G、第3発光光学系51Bは、光の出射方向がカバー59の開口59H側とされている。
【0215】
本実施形態においても、第7実施形態と同様にして、第1発光光学系51Rの回折格子54R、第2発光光学系51Gの回折格子54G、第3発光光学系51Bの回折格子54Bのそれぞれにおいて、合成された光がロービームLの配光パターンを形成するように光を出射する。
【0216】
すなわち、回折格子54Rから出射する第1の光LD
R、回折格子54Gから出射する第2の光LD
G、及び、回折格子54Bから出射する第3の光LD
Bは、それぞれカバー59の開口59Hから出射し、フロントカバー12を介して車両用前照灯の外部に照射される。また、回折格子54Rから出射する第1の0次光LC
R、回折格子54Gから出射する第2の0次光LC
G、及び、回折格子54Bから出射する第3の0次光LC
Bは、それぞれカバー59の開口59Hから出射し、フロントカバー12を介して車両用前照灯の外部に照射される。このとき、第1の光LD
R、第2の光LD
G、及び、第3の光LD
Bと、第1の0次光LC
R、第2の0次光LC
G、及び、第3の0次光LC
Bとは、車両から所定の距離離れた焦点位置においてそれぞれの配光パターンの外形が概ね一致するように照射される。この車両からの距離は、例えば25mとされる。従って、車両から所定の距離離れた位置においてロービームLの配光パターンが形成される。この配光パターンは、
図15に示す配光パターンPTN
Lとされ、
図15に示す光度分布と同じ光度分布を有する。このため、第7実施形態と同様に、0次光の投影領域PARでは回折光ビームLDが非照射とされ、投影領域PARにおける高次回折光の光度はその投影領域PARの外側周縁に照射される光の光度よりも小さい。
【0217】
本実施形態の車両用前照灯によれば、第7実施形態の合成光学系55を用いないため、簡易な構成とすることができる。また、本実施形態の車両用前照灯によれば、投影領域PARにおける高次回折光の光度がその投影領域PARの外側周縁に照射される光の光度よりも小さいため、第7実施形態と同様に、配光パターンPTNLのなかで投影領域PARが際立って明るくなることを低減し得る。なお、本実施形態の第1の光LDRの外形と第2の光LDGの外形と第3の光LDBの外形、及び、第1の0次光LCRの外形と第2の0次光LCGの外形と第3の0次光LCBの外形とは、上記の焦点位置以外では互いに僅かにずれる傾向にある。しかし、白色の光を1つの回折格子に入射して得られる光と比べると、この外形のずれを抑制することができる。従って、本実施形態によっても、小型化しつつ色のにじみを抑制し得る車両用前照灯が実現され得る。
【0218】
なお、上記第7、第8実施形態では、赤色成分の第1の光LDRを出射する第1発光光学系と、緑色成分の第2の光LDGを出射する第2発光光学系と、青色成分の第3の光LDBを出射する第3発光光学系とを備えた。しかし、上記第7、第8実施形態の車両用前照灯では、3つの発光光学系がそれぞれ有する光源から出射する光は、それぞれ互いに異なる所定の波長であれば、赤色、緑色、青色に限らない。
【0219】
また、発光光学系は1つ又は2つであっても良い。さらに、発光光学系は3つ以上であっても良い。この場合、例えば、ロービームLの黄色成分の光を出射する第4発光光学系を備えても良い。この場合、上記の赤色、緑色、青色の発光光学系に加えて、第4発光光学系は、ロービームLの黄色成分の光を出射するものとしても良い。また、赤色、緑色、青色の一部の光度が低い場合、第4発光光学系が光度の低い色と同じ色成分の光を出射するものとしても良い。
【0220】
また、上記第7、第8実施形態では、ホワイトバランス調整回路が更に設けられても良い。このホワイトバランス調整回路は、第1発光光学系51Rの光源52Rから出射する光の全光束量と、第2発光光学系51Gの光源52Gから出射する光の全光束量と、第3発光光学系51Bの光源52Bから出射する光の全光束量と、を制御することで、所望のホワイトバランスとすることができる。例えば、法規の範囲内で、暖色系の白色の光を出射したり、青色系の白色の光を出射するように、切り換えが可能にしても良い。
【0221】
また、上記第7実施形態では、第1光学素子55fは、第1の光を第1の光LDRを透過すると共に第2の光LDGを反射することで第1の光LDRと第2の光LDGとを合成し、第2光学素子55sは、第1光学素子55fで合成された第1の光LDR及び第2の光LDGを透過すると共に第3の光LDBを反射することで第1の光LDRと第2の光LDGと第3の光LDBとを合成した。しかし、例えば、第1光学素子55fにおいて第3の光LDBと第2の光LDGとが合成され、第2光学素子55sにおいて第1光学素子55fで合成された第3の光LDB及び第2の光LDGと第1の光LDRとが合成される構成とされても良い。この場合、上記第7実施形態の第1発光光学系51Rと第3発光光学系51Bとの位置が入れ替わる。またこの場合、第1光学素子55fにおいて第3の0次光LCBと第2の0次光LCGとが合成され、第2光学素子55sにおいて第1光学素子55fで合成された第3の0次光LCB及び第2の0次光LCGと第1の0次光LCRとが合成される構成とされる。また、上記第7実施形態において、所定の波長帯域の光を透過し、他の波長帯域の光を反射するバンドパスフィルタが第1光学素子55fや第2光学素子55sに用いられても良い。また、合成光学系55は、それぞれの発光光学系から出射する光の外形を合わせて合成すれば良く、上記実施形態に限定されない。
【0222】
また、上記第7、第8実施形態では、回折格子54R,54G,54Bにより回折され回折格子54R,54G,54Bから出射する高次回折光が投影領域PARには非照射とされ、当該投影領域PARでは高次回折光の光度がゼロとされた。しかし、投影領域PARに照射される高次回折光の光度が投影領域PARの外側周縁に照射される光の光度よりも小さくされる限り、当該投影領域PARに照射される高次回折光の光度がゼロよりも大きくされても良い。
【0223】
また、上記第7実施形態では、それぞれの回折格子54R,54G,54Bを直進して透過する0次光LCR,LCG,LCBは合成光学系55で合成されず、投影領域PARの別々の領域に照射されても良い。但し、上記のように、運転者が投影領域PARを無用に意識してしまうことを低減するためには、それぞれの回折格子54R,54G,54Bを直進して透過する0次光LCR,LCG,LCBが合成されることが好ましい。
【0224】
また、上記第7、第8実施形態では、投影領域PARが第1の領域LA1の一部と重なっていたが、当該第1の領域LA1内に含まれていても良い。また、投影領域PARは、高次回折光の光度分布のなかで最も高い光度LHとなる位置を含んでいなかったが、当該位置を含んでいても良い。この場合、0次光の光度が大きいか否かにかかわらず、ロービームLの配光パターンPTNLのなかで最も明るい領域は概ね変化しなくなる。このため、高次回折光の光度分布のなかで最も高い光度となる位置を基準として、ロービームLの配光パターンPTNLの光度分布をより滑らかに形成し得る。
【0225】
また、上記第7、第8実施形態では、投影領域PARの光度が高次回折光の光度分布のなかで最も高い光度LHよりも低くされた。しかし、投影領域PARの光度は高次回折光の光度分布のなかで最も高い光度LH以上とされても良い。この場合、第1の領域LA1内に投影領域PARが含まれていることが好ましく、高次回折光の光度分布のなかで最も高い光度LHとなる位置に投影領域PARが含まれていることがより好ましい。
【0226】
また、上記第7、第8実施形態では、暗所照明用の配光パターンとしてロービームLの配光パターンPTNLが形成された。しかし、暗所照明用の配光パターンであれば、ロービームLの配光パターンPTNLだけに限定されない。なお、暗所照明用の配光パターンは、夜間や、トンネル等の暗所において用いられる。例えば、ロービームLの配光パターンと、その配光パターンの外側の例えば上方に位置する標識視認用の光の配光パターンとが暗所照明用の配光パターンとして形成される場合がある。この場合、それぞれの回折格子54R,54G,54Bにより回折される高次回折光に当該標識視認用の光が含まれていることが好ましい。また例えば、ハイビームの配光パターンが暗所照明用の配光パターンとして形成される場合がある。
【0227】
また、上記第7、第8実施形態では、車両用前照灯1として自動車の前照灯が例示された。しかし、上記第7、第8実施形態は、自動車の前照灯に限らず他の車両の前照灯とされてもよい。また、上記第7、第8実施形態は、前照灯に限らず、後照灯、尾灯、制動灯、表示灯などの灯具であってもよい。
【0228】
要するに、上記第7、第8実施形態に例示される本発明は次のような車両用照明灯具であればよい。すなわち、車両用照明灯具は、光源と、光源から入射する光を回折する回折格子とを備える。この回折格子から出射される光は、所定の光度分布を有する配光パターンで照射される。そして、配光パターンのうち回折格子を直進して透過する光の投影領域では、回折格子により回折され投影領域に照射される光の光度が投影領域の外側周縁に照射される光の光度よりも小さくされる。このような車両用照明灯具であれば、運転し易くできる。
【0229】
(第9実施形態)
次に、本発明の第9実施形態について説明する。なお、上記第1実施形態と同一又は同等の構成要素については、特に説明する場合を除き、同一の参照符号を付して重複する説明は省略する。
図17は、本実施形態における車両用前照灯を備える車両の概略を示す断面図である。
図18は、
図17に示す車両用前照灯1の光学系ユニット50の拡大図である。
図17、
図18に示すように、本実施形態における車両用前照灯1の構成は、上記第1実施形態における車両用前照灯1の構成と同じであるものの、本実施形態の車両用前照灯1が出射する光の配光パターンは、上記第1実施形態の車両用前照灯1が出射する光の配光パターンと異なる。
【0230】
本実施形態の回折格子54Rは、コリメートレンズ53Rから出射するレーザ光を所定の配光パターンとなるように回折する。具体的には、回折格子54Rは、後述の合成光学系55において、第1発光光学系51Rと第2発光光学系51Gと第3発光光学系51Bとのそれぞれから出射する光がロービームの配光パターンとなるようにコリメートレンズ53Rから入射するレーザ光を回折する。この配光パターンには光度分布も含まれる。このため、本実施形態の回折格子54Rは、回折格子54Rから出射するレーザ光がロービームLの配光パターンの外形と同じ外形になると共にロービームLの配光パターンの光度分布に基づいた光度分布となるように、コリメートレンズ53Rから入射するレーザ光を回折する。こうして、第1発光光学系51Rからは、ロービームLの配光パターンの赤色成分の光が出射する。本実施形態では、この第1発光光学系51Rから出射する赤色成分の光を第1の光LRとする。
【0231】
回折格子54Gは、コリメートレンズ53Gから出射するレーザ光を所定の配光パターンとなるように回折し、回折格子54Bは、コリメートレンズ53Bから出射するレーザ光を所定の配光パターンとなるように回折する。具体的には、回折格子54G,54Bは、合成光学系55において、第1発光光学系51Rと第2発光光学系51Gと第3発光光学系51Bとのそれぞれから出射する光がロービームLの配光パターンとなるようにコリメートレンズ53G,53Bから入射するレーザ光をそれぞれ回折する。上記のように配光パターンには光度分布も含まれる。このため、本実施形態の回折格子54G,54Bは、回折格子54G,54Bから出射するそれぞれのレーザ光がロービームLの配光パターンの外形と同じ外形になると共にロービームLの配光パターンの光度分布に基づいた光度分布となるように、コリメートレンズ53G,53Bから入射するレーザ光をそれぞれ回折する。こうして、第2発光光学系51GからはロービームLの配光パターンの緑色成分の光が出射し、第3発光光学系51BからはロービームLの配光パターンの青色成分の光が出射する。本実施形態では、第2発光光学系51Gから出射するこの緑色成分の光を第2の光LGとし、第3発光光学系51Bから出射する青色成分の光を第3の光LBとする。従って、本実施形態では、第1の光LRが最も波長が長く、第2の光LG、第3の光LBの順に波長が短くなる。
【0232】
合成光学系55は、第1光学素子55fと第2光学素子55sとを有する。第1光学素子55fは、第1発光光学系51Rから出射する第1の光LRと、第2発光光学系51Gから出射する第2の光LGとを合成する光学素子である。本実施形態では、第1光学素子55fは、第1の光LRを透過すると共に第2の光LGを反射することで第1の光LRと第2の光LGとを合成する。また、第2光学素子55sは、第1光学素子55fで合成された第1の光LR及び第2の光LGと、第3発光光学系51Bから出射する第3の光LBとを合成する光学素子である。本実施形態では、第2光学素子55sは、第1光学素子55fで合成された第1の光LR及び第2の光LGを透過すると共に第3の光LBを反射することで第1の光LRと第2の光LGと第3の光LBとを合成する。この様な第1光学素子55f、第2光学素子55sとしては、ガラス基板上に酸化膜が積層された波長選択フィルタを挙げることができる。この酸化膜の種類や厚みをコントロールすることで、所定の波長よりも長い波長の光を透過し、この波長よりも短い波長の光を反射する構成とすることができる。
【0233】
こうして、合成光学系55からは、第1の光LRと第2の光LGと第3の光LBとが合成された光が出射する。
【0234】
次に本実施形態の車両用前照灯1による光の出射について説明する。
【0235】
まず不図示の電源から電力が供給されることで、それぞれの光源52R,52G,52Bからレーザ光が出射する。上記のように光源52Rからは赤色のレーザ光が出射し、光源52Gからは緑色のレーザ光が出射し、光源52Bからは青色のレーザ光が出射する。それぞれのレーザ光は、コリメートレンズ53R,53G,53Bでコリメートされた後、回折格子54R,54G,54Bに入射する。そして、上記のように回折格子54R,54G,54Bでそれぞれのレーザ光が回折されて、第1発光光学系51RからはロービームLの配光パターンの赤色成分の光である第1の光LRが出射し、第2発光光学系51GからはロービームLの配光パターンの緑色成分の光である第2の光LGが出射し、第3発光光学系51BからはロービームLの配光パターンの青色成分の光である第3の光LBが出射する。
【0236】
合成光学系55では、まず、第1の光LRと第2の光LGが第1光学素子55fで合成されて出射する。第1光学素子55fで合成された第1の光LR及び第2の光LGは、第2光学素子55sで第3の光LBと合成される。このとき、それぞれの光は外形がロービームLの外形と同様にされているため、それぞれの光の外形が互いに合わされて合成される。つまり、第1の光LRの外形と第2の光LGの外形と第3の光LBの外形とが、上記のように合成光学系で合わさるように、各発光光学系や合成光学系の位置が微調整されている。こうして、赤色の第1の光LRと緑色の第2の光LGと青色の第3の光LBとが合成された光は白色の光となる。また、第1の光LR、第2の光LG及び第3の光LBは、上記のようにそれぞれロービームLの配光パターンの光度分布に基づいた光度分布であるため、これらの光が合成された白色の光はロービームLの光度分布となる。
【0237】
こうして、合成された白色の光は、カバー59の開口59Hから出射し、この光はフロントカバー12を介して車両用前照灯1から出射する。この光はロービームLの配光パターンを有しているため、照射される光はロービームLとなる。
【0238】
図19は本実施形態における夜間照明用の配光パターンを示す図であり、具体的には、
図19(A)はロービームの配光パターンを示す図であり、
図19(B)はハイビームの配光パターンを示す図である。
図19においてSは水平線を示し、配光パターンが太線で示される。
図19(A)に示される夜間照明用の配光パターンであるロービームLの配光パターンのうち、領域LA1は最も光度が高い領域であり、領域LA2、領域LA3の順に光度が低くなる。つまり、それぞれの回折格子54R,54G,54Bは、合成された光がロービームLの光度分布を含む配光パターンを形成するように光を回折するのである。なお、
図19において破線で示すように、ロービームLが照射される位置よりも上方にロービームLよりも光度の低い光が車両用前照灯1から照射されても良い。この光は、標識視認用の光OHSとされる。この場合、それぞれの回折格子54R,54G,54Bから出射される回折光に当該標識視認用の光OHSが含まれていることが好ましい。また、この場合、ロービームLと標識視認用の光OHSとで、夜間照明用の配光パターンが形成されると理解することができる。なお、夜間照明用の配光パターンは、夜間のみに用いられるものではなく、トンネル等の暗所においても使用される。
【0239】
ところで、上記特許文献1の車両用前照灯のホログラム素子には、光源から白色の参照光が入射して、その回折光によりロービームの配光パターンが形成される。しかし、白色の光は複数の波長の光が合成されて成る光である。ところで、回折格子の一種であるホログラム素子は波長依存性を有している。従って、白色に含まれる互いに異なる波長の光は、ホログラム素子により互いに異なる配光パターンとなる傾向がある。このため、上記特許文献1に記載の車両用前照灯によりロービームが照射される場合、ロービームの配光パターンの縁近傍において、異なる色の光が浮き出る光のにじみが生じる。このため、小型化しつつ色のにじみを抑制したいとの要請がある。
【0240】
そこで、本実施形態の車両用前照灯1は、光源52R,52G,52B及び回折格子54R,54G,54Bを有する3つの第1発光光学系51R、第2発光光学系51G、第3発光光学系51Bと、それぞれの発光光学系から出射する光を合成する合成光学系55と、を備える。そして、それぞれの発光光学系における光源52R,52G,52Bは互いに異なる所定の波長の光を出射し、それぞれの発光光学系における回折格子54R,54G,54Bは、合成光学系55で合成された光がロービームLの配光パターンとなるように各光源52R,52G,52Bからの光を回折する。
【0241】
従って、本実施形態の車両用前照灯1はシェードを用いずともロービームLの配光パターンを形成することができるため、シェードを用いる車両用前照灯と比べて小型化することができる。また、それぞれの発光光学系において、光源52R,52G,52Bから出射する所定の波長の光が個別に回折格子54R,54G,54Bにより回折されて配光パターンが形成される。この際、それぞれの発光光学系において、回折格子54R,54G,54Bにより回折される光は上記のように所定の波長であるため、回折格子54R,54G,54Bが波長依存性を有しても、それぞれの回折格子54R,54G,54Bから出射する光における配光パターンの縁近傍で色のにじみが生じることを抑制することができる。この様に色のにじみが抑制された配光パターンを有する光が合成光学系55で合成されてロービームLの配光パターンが形成される。従って、本実施形態の車両用前照灯1により照射されるロービームLは、配光パターンの縁近傍で色のにじみが出ることを抑制することができる。また、本実施形態では、互いに異なる波長の光を出射する3つの発光光学系を有するため、それぞれの発光光学系から出射する光の光度を調整することにより、所望の色の光を出射することができる。
【0242】
また、本実施形態の車両用前照灯1は、第1発光光学系51R、第2発光光学系51G、第3発光光学系51Bから出射するそれぞれの光が合成光学系55で合成され、合成された光が車両用前照灯1から出射する。このため、それぞれの第1発光光学系51R、第2発光光学系51G、第3発光光学系51Bから出射するそれぞれの光が、個別に車両用前照灯1から出射して車両用前照灯1の外で合成される場合よりも、車両からの距離によらず照射される配光パターンの縁近傍で色のにじみが出ること抑制することができる。また、それぞれの発光光学系から出射する光が合成光学系55で合成されてから、車両用前照灯から出射するため、車両用前照灯1の光の出射部位を小さくすることができ、デザインの自由度を向上させることができる。
【0243】
(第10実施形態)
次に、本発明の第10実施形態について
図20を参照して詳細に説明する。なお、第9実施形態と同一又は同等の構成要素については、特に説明する場合を除き、同一の参照符号を付して重複する説明は省略する。
【0244】
図20は、本実施形態にかかる車両用前照灯の光学系ユニットを
図18と同様に示す図である。
図20に示すように本実施形態の車両用前照灯の光学系ユニット50は、合成光学系55を備えず、第1発光光学系51R、第2発光光学系51G、第3発光光学系51Bから出射するそれぞれの光が合成されない状態で、カバー59から出射する点において、第9実施形態の光学系ユニット50と異なる。本実施形態では、第1発光光学系51R、第2発光光学系51G、第3発光光学系51Bは、光の出射方向がカバー59の開口59H側とされている。
【0245】
本実施形態においても、第9実施形態と同様にして、第1発光光学系51Rの回折格子54R、第2発光光学系51Gの回折格子54G、第3発光光学系51Bの回折格子54Bのそれぞれにおいて、合成された光がロービームLの配光パターンを形成するように光を回折する。回折格子54Rから出射する第1の光L
R、回折格子54Gから出射する第2の光L
G、及び、回折格子54Bから出射する第3の光L
Bは、それぞれカバー59の開口59Hから出射し、フロントカバー12を介して車両用前照灯の外部に照射される。このとき、第1の光L
R、第2の光L
G、及び、第3の光L
Bは、車両から所定の距離離れた焦点位置においてそれぞれの配光パターンの外形が概ね一致するように照射される。この焦点位置は、例えば車両から25m離れた位置とされる。つまり、本実施形態では、上記のように外形が一致するように、第1発光光学系51R、第2発光光学系51G、第3発光光学系51Bの光の出射方向が微調整されている。なお、本実施形態においても、
図19において破線で示すように、標識視認用の光OHSが出射されても良い。この場合、第9実施形態と同様に、それぞれの回折格子54R,54G,54Bから出射される回折光に当該標識視認用の光OHSが含まれていることが好ましい。
【0246】
本実施形態の車両用前照灯によれば、第9実施形態の合成光学系55を用いないため、簡易な構成とすることができる。なお、本実施形態の第1の光LRの外形と第2の光LGの外形と第3の光LBの外形とは、上記の焦点位置以外では互いに僅かにずれる傾向にある。しかし、白色の光を1つに回折格子に入射してえられる回折光と比べると、この外形のずれを抑制することができる。従って、本実施形態によっても、小型化しつつ色のにじみを抑制し得る車両用前照灯が実現され得る。
【0247】
なお、上記第9、第10実施形態では、車両用前照灯1からロービームLが出射するものとされたが、第9、第10実施形態は夜間照明用の光を出射するのであればこれに限らない。例えば、車両用前照灯1からは、ハイビームHが出射するものとされても良い。その場合、
図19(B)に示される夜間照明用の配光パターンであるハイビームHの配光パターンの光が照射される。なお、
図19(B)のハイビームHの配光パターンのうち、領域HA1は最も光度が高い領域であり、領域HA2は領域HA1よりも光度が低い領域である。つまり、それぞれの回折格子は、合成された光がハイビームHの光度分布を含む配光パターンを形成するように光を回折するのである。
【0248】
また、上記第9、第10実施形態では、赤色成分の第1の光LRを出射する第1発光光学系と、緑色成分の第2の光LGを出射する第2発光光学系と、青色成分の第3の光LBを出射する第3発光光学系とを備えた。しかし、上記第9、第10実施形態の車両用前照灯は、少なくとも2つの発光光学系が、それぞれ互いに異なる所定の波長の光を出射する光源を有し、合成された光が夜間照明用の配光パターンとなる限りにおいて、発光光学系の数や、光源から出射する光は、限定されない。例えば、発光光学系が2つの場合、一方の発光光学系が緑色の光を出射し、他方の発光光学系が赤色の光を出射して、黄色の夜間照明の光とされても良く、或いは、一方の発光光学系が青色の光を出射し、他方の発光光学系が黄色の光を出射して、白色の夜間照明の光とされても良い。
【0249】
また、発光光学系は3つ以上であっても良い。この場合、例えば、ロービームLの黄色成分の光を出射する第4発光光学系を備えても良い。例えば、上記の赤色、緑色、青色の発光光学系に加えて、第4発光光学系は、ロービームLの黄色成分の光を出射するものとしても良い。また、赤色、緑色、青色の一部の光度が低い場合、第4発光光学系が光度の低い色と同じ色成分の光を出射するものとしても良い。
【0250】
また、上記第9、第10実施形態では、ホワイトバランス調整回路が更に設けられても良い。このホワイトバランス調整回路は、第1発光光学系51Rの光源52Rから出射する光の全光束量と、第2発光光学系51Gの光源52Gから出射する光の全光束量と、第3発光光学系51Bの光源52Bから出射する光の全光束量と、を制御することで、所望のホワイトバランスとすることができる。例えば、法規の範囲内で、暖色系の白色の光を出射したり、青色系の白色の光を出射するように、切り換えが可能にしたりしても良い。
【0251】
また、第9実施形態では、第1光学素子55fは、第1の光を第1の光LRを透過すると共に第2の光LGを反射することで第1の光LRと第2の光LGとを合成し、第2光学素子55sは、第1光学素子55fで合成された第1の光LR及び第2の光LGを透過すると共に第3の光LBを反射することで第1の光LRと第2の光LGと第3の光LBとを合成した。しかし、例えば、第1光学素子55fにおいて第3の光LBと第2の光LGとが合成され、第2光学素子55sにおいて第1光学素子55fで合成された第3の光LB及び第2の光LGと第1の光LRとが合成される構成とされても良い。この場合、第9実施形態の第1発光光学系51Rと第3発光光学系51Bとの位置が入れ替わる。また、第9実施形態において、所定の波長帯域の光を透過し、他の波長帯域の光を反射するバンドパスフィルタが第1光学素子55fや第2光学素子55sに用いられても良い。また、合成光学系55は、それぞれの発光光学系から出射する光の外形を合わせて合成すれば良く、第9実施形態の構成や上記構成に限定されない。
【0252】
以上のように、本発明によれば、運転し易い車両用照明灯具、小型化しつつ色のにじみを抑制し得る車両用前照灯が提供され、自動車等の車両用照明灯具などの分野において利用可能である。
【符号の説明】
【0253】
1・・・車両用前照灯
10・・・筐体
20・・・灯具ユニット
30・・・ヒートシンク
40・・・冷却ファン
51R・・・第1発光光学系
51G・・・第2発光光学系
51B・・・第3発光光学系
52R,52G,52B・・・光源
54R,54G,54B・・・回折格子
55・・・合成光学系
55f・・・第1光学素子
55s・・・第2光学素子