(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-07
(45)【発行日】2023-03-15
(54)【発明の名称】撥水撥油剤及びその製造方法、並びに撥水撥油性製品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 3/18 20060101AFI20230308BHJP
C08J 3/215 20060101ALI20230308BHJP
D06M 15/05 20060101ALI20230308BHJP
D06M 15/21 20060101ALI20230308BHJP
D06M 15/277 20060101ALI20230308BHJP
【FI】
C09K3/18 102
C08J3/215 CEP
D06M15/05
D06M15/21
D06M15/277
(21)【出願番号】P 2019527578
(86)(22)【出願日】2019-01-22
(86)【国際出願番号】 JP2019001830
(87)【国際公開番号】W WO2019151040
(87)【国際公開日】2019-08-08
【審査請求日】2021-01-22
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2018/029644
(32)【優先日】2018-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018016748
(32)【優先日】2018-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000241810
【氏名又は名称】北越コーポレーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【氏名又は名称】今下 勝博
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【氏名又は名称】岡田 賢治
(72)【発明者】
【氏名】田村 篤
(72)【発明者】
【氏名】福島 彰太
(72)【発明者】
【氏名】田中 光次
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-040365(JP,A)
【文献】国際公開第2018/012643(WO,A1)
【文献】特開2017-124529(JP,A)
【文献】国際公開第2015/129634(WO,A1)
【文献】特開2016-113724(JP,A)
【文献】国際公開第2014/116941(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/138574(WO,A1)
【文献】特開2015-025140(JP,A)
【文献】特開2014-218579(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/18
C08J 3/24
C09D 1/00-201/10
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
D06M13/00- 15/715
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースナノファイバーと、
架橋剤として、オキサゾリン基、カルボジイミド基、エポキシ基又はイソシアネート基の少なくともいずれか1種の官能基を有する化合物と、
パーフルオロアルキル化合物と、
を含有することを特徴とする撥水撥油剤。
【請求項2】
前記セルロースナノファイバーが、修飾基が導入されていないセルロースナノファイバーであることを特徴とする請求項1に記載の撥水撥油剤。
【請求項3】
前記パーフルオロアルキル化合物のパーフルオロアルキル基の炭素原子数が6以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の撥水撥油剤。
【請求項4】
前記パーフルオロアルキル化合物は、カチオン性のパーフルオロアルキル化合物であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一つに記載の撥水撥油剤。
【請求項5】
前記架橋剤の含有量が、セルロースナノファイバー100質量部に対して固形分換算で10~400質量部であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一つに記載の撥水撥油剤。
【請求項6】
前記パーフルオロアルキル化合物の含有量が、セルロースナノファイバー100質量部に対して固形分換算で10~400質量部であることを特徴とする請求項1~5のいずれか一つに記載の撥水撥油剤。
【請求項7】
前記架橋剤が、オキサゾリン基、エポキシ基又はイソシアネート基の少なくともいずれか1種の官能基を有する化合物であることを特徴とする請求項1~6のいずれか一つに記載の撥水撥油剤。
【請求項8】
アクリル系化合物を更に含有することを特徴とする請求項1~7のいずれか一つに記載の撥水撥油剤。
【請求項9】
前記架橋剤は、前記セルロースナノファイバーを架橋させる架橋剤であることを特徴とする請求項1~8のいずれか一つに記載の撥水撥油剤。
【請求項10】
撥水撥油剤が、水溶性高分子及び合成樹脂を含有しないことを特徴とする請求項1~9のいずれか一つに記載の撥水撥油剤。
【請求項11】
セルロースナノファイバーと、
架橋剤として、オキサゾリン基、カルボジイミド基、エポキシ基又はイソシアネート基の少なくともいずれか1種の官能基を有する化合物と、
パーフルオロアルキル化合物と、を混合する混合工程を有することを特徴とする撥水撥油剤の製造方法。
【請求項12】
前記混合工程において、
前記セルロースナノファイバーを含有するセルロースナノファイバー水分散液を準備し、
該セルロースナノファイバー水分散液に、オキサゾリン基、カルボジイミド基、エポキシ基又はイソシアネート基の少なくともいずれか1種の官能基を有する前記化合物を添加し、
次いで、前記パーフルオロアルキル化合物を添加することを特徴とする請求項
11に記載の撥水撥油剤の製造方法。
【請求項13】
前記セルロースナノファイバーが、サーモメカニカルパルプ由来のセルロースナノファイバーであることを特徴とする請求項
11又は12に記載の撥水撥油剤の製造方法。
【請求項14】
前記セルロースナノファイバーが、木粉由来のセルロースナノファイバーであることを特徴とする請求項
11又は12に記載の撥水撥油剤の製造方法。
【請求項15】
前記セルロースナノファイバーが、木材パルプを水酸化ナトリウム水溶液に浸漬させて膨潤後、機械的解繊処理を施して得られたセルロースナノファイバーであることを特徴とする請求項
11又は12に記載の撥水撥油剤の製造方法。
【請求項16】
前記木材パルプが、サーモメカニカルパルプ由来のセルロースナノファイバーであることを特徴とする請求項
15に記載の撥水撥油剤の製造方法。
【請求項17】
前記セルロースナノファイバーが、木粉由来のセルロースナノファイバーであることを特徴とする請求項
15に記載の撥水撥油剤の製造方法。
【請求項18】
前記セルロースナノファイバー水分散液におけるセルロースナノファイバーの濃度が5質量%以下であることを特徴とする請求項
12に記載の撥水撥油剤の製造方法。
【請求項19】
前記架橋剤は、前記セルロースナノファイバーを架橋させる架橋剤であることを特徴とする請求項12~18のいずれか一つに記載の撥水撥油剤の製造方法。
【請求項20】
水溶性高分子及び合成樹脂を添加しないことを特徴とする請求項12~19のいずれか一つに記載の撥水撥油剤の製造方法。
【請求項21】
請求項1~10のいずれか一つに記載の撥水撥油剤を、布
製、不織布
製、紙
製、革
製又は木
製の対象物に塗工、噴霧又は含浸する工程を有することを特徴とする撥水撥油性製品の製造方法。
【請求項22】
透気性を有する基材の少なくとも一方の面に、オキサゾリン基、カルボジイミド基、エポキシ基又はイソシアネート基の少なくともいずれか1種の官能基を有する化合物により架橋されたセルロースナノファイバーと、パーフルオロアルキル化合物とを含有する塗工層を有することを特徴とする撥水撥油性製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、撥水撥油剤及びその製造方法、並びに撥水撥油性製品及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
物品に撥水性と撥油性とを付与する目的で撥水撥油剤が用いられている。撥水撥油剤を付与することにより、紙や布などに水や油が染み込みにくくなり、汚れの付着防止や、汚れが付着しても容易に除去できるといった機能を与えるものがある。このような撥水撥油剤として、有機フッ素化合物を含有する撥水撥油剤が提案されている(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
撥水撥油剤に用いられる有機フッ素化合物としては、パーフルオロオクタン酸(PFOA)やパーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)などのパーフルオロアルキル化合物がある。しかし、現在、これらのパーフルオロアルキル化合物のうち、パーフルオロアルキル基の炭素原子数が多いものは難分解性と生体蓄積性が高く、加熱などによるオフガスの発生など有害性の懸念が持たれている。これらの有害性はパーフルオロアルキル基の炭素原子数が8以上の場合に高いレベルになると考えられており、当該炭素原子数の少ないものが求められている。
【0005】
そこで、パーフルオロアルキル基の炭素原子数が6以下のフッ素系撥水撥油剤が提案されているが、耐油性、耐水性などの特性については、パーフルオロアルキル基の炭素原子数が8以上のフッ素系撥水撥油剤よりも劣っているのが現状である。
【0006】
本開示は、このような問題を鑑みてなされたものであり、撥水性及び撥油性に優れ、更には有害性の懸念が比較的低い撥水撥油剤及びその製造方法、並びに撥水撥油性製品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討したところ、セルロースナノファイバーと所定の架橋剤とパーフルオロアルキル化合物を含有する撥水撥油剤が上記課題を解決する出来ることを見出し、本発明を完成させた。具体的には、本発明に係る撥水撥油剤は、セルロースナノファイバーと、架橋剤として、オキサゾリン基、カルボジイミド基、エポキシ基又はイソシアネート基の少なくともいずれか1種の官能基を有する化合物と、パーフルオロアルキル化合物と、を含有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る撥水撥油剤においては、前記セルロースナノファイバーが、修飾基が導入されていないセルロースナノファイバーであることが好ましい。このような構成とすることにより、撥水撥油剤に含まれる他のイオン性成分との相溶性が良好となり、凝集物の少ない撥水撥油剤とすることができる。
【0009】
また、本発明に係る撥水撥油剤においては、前記パーフルオロアルキル化合物のパーフルオロアルキル基の炭素原子数が6以下であることが好ましい。このような構成とすることにより、難分解性や生体蓄積性、加熱によるオフガスの発生などによる有害性の懸念が比較的低い撥水撥油剤とすることができる。
【0010】
また、本発明に係る撥水撥油剤においては、前記パーフルオロアルキル化合物が、カチオン性のパーフルオロアルキル化合物であることが好ましい。このような構成とすることにより、より撥水性と撥油性に優れる。
【0011】
また、本発明に係る撥水撥油剤においては、前記架橋剤の含有量が、セルロースナノファイバー100質量部に対して固形分換算で10~400質量部であることが好ましい。撥水性と撥油性に優れ、液体性状が安定した撥水撥油剤となる。
【0012】
また、本発明に係る撥水撥油剤においては、前記パーフルオロアルキル化合物の含有量が、セルロースナノファイバー100質量部に対して固形分換算で10~400質量部であることが好ましい。撥水性と撥油性に優れ、液体性状が安定した撥水撥油剤となる。
【0013】
本発明に係る撥水撥油剤では、前記架橋剤が、オキサゾリン基、エポキシ基又はイソシアネート基の少なくともいずれか1種の官能基を有する化合物である形態を包含する。
【0014】
本発明に係る撥水撥油剤では、アクリル系化合物を更に含有することが好ましい。基材との密着性、硬度付与又はブロッキング防止などをより向上させることができる。本発明に係る撥水撥油剤では、前記架橋剤は、前記セルロースナノファイバーを架橋させる架橋剤である形態を包含する。本発明に係る撥水撥油剤では、撥水撥油剤が、水溶性高分子及び合成樹脂を含有しないことが好ましい。
【0015】
また、本発明に係る撥水撥油剤の製造方法は、セルロースナノファイバーと、架橋剤として、オキサゾリン基、カルボジイミド基、エポキシ基又はイソシアネート基の少なくともいずれか1種の官能基を有する化合物と、パーフルオロアルキル化合物と、を混合する混合工程を有することを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る撥水撥油剤の製造方法においては、前記混合工程において、前記セルロースナノファイバーを含有するセルロースナノファイバー水分散液を準備し、該セルロースナノファイバー水分散液に、オキサゾリン基、カルボジイミド基、エポキシ基又はイソシアネート基の少なくともいずれか1種の官能基を有する前記化合物を添加し、次いで、前記パーフルオロアルキル化合物を添加することが好ましい。このような製造方法とすることで、凝集物の発生を抑えることができる。
【0017】
ここで、本発明に係る撥水撥油剤の製造方法においては、前記セルロースナノファイバーが、サーモメカニカルパルプ由来のセルロースナノファイバーであることが好ましい。撥水撥油剤の塗布、含浸及び噴霧がしやすい。
【0018】
あるいは本発明に係る撥水撥油剤の製造方法においては、前記セルロースナノファイバーが、木粉由来のセルロースナノファイバーであることが好ましい。撥水撥油剤の塗布、含浸及び噴霧がしやすい。
【0019】
あるいは本発明に係る撥水撥油剤の製造方法においては、前記セルロースナノファイバーが、木材パルプを水酸化ナトリウム水溶液に浸漬させて膨潤後、機械的解繊処理を施して得られたセルロースナノファイバーであることが好ましい。撥水撥油剤の塗布、含浸及び噴霧がしやすい。ここで、本発明に係る撥水撥油剤の製造方法においては、前記木材パルプが、サーモメカニカルパルプ由来のセルロースナノファイバーであることが好ましい。撥水撥油剤の塗布、含浸及び噴霧がしやすい。あるいは、本発明に係る撥水撥油剤の製造方法においては、前記セルロースナノファイバーが、木粉由来のセルロースナノファイバーであることが好ましい。撥水撥油剤の塗布、含浸及び噴霧がしやすい。
【0020】
また、本発明に係る撥水撥油剤の製造方法においては、前記セルロースナノファイバー水分散液におけるセルロースナノファイバーの濃度が5質量%以下であることが好ましい。撥水撥油剤としての良好な流動性を確保しやすい。本発明に係る撥水撥油剤の製造方法では、前記架橋剤は、前記セルロースナノファイバーを架橋させる架橋剤である形態を包含する。本発明に係る撥水撥油剤の製造方法では、水溶性高分子及び合成樹脂を添加しないことが好ましい。
【0021】
本発明に係る撥水撥油性製品の製造方法は、本発明に係る撥水撥油剤を、布製、不織布製、紙製、革製又は木製の対象物に塗工、噴霧又は含浸する工程を有することを特徴とする。
【0022】
本発明に係る撥水撥油性製品は、透気性を有する基材の少なくとも一方の面に、オキサゾリン基、カルボジイミド基、エポキシ基又はイソシアネート基の少なくともいずれか1種の官能基を有する化合物により架橋されたセルロースナノファイバーと、パーフルオロアルキル化合物とを含有する塗工層を有することを特徴とする。透気性に優れた撥水撥油性製品とすることができる。
【発明の効果】
【0023】
本開示によれば、撥水性及び撥油性に優れ、更には有害性の懸念が比較的低い撥水撥油剤及びその製造方法を提供することができる。また、撥水性及び撥油性に優れ、更には透気性にも優れる撥水撥油性製品及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、本発明について実施形態を示して詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々の変形をしてもよい。
【0025】
本実施形態において、セルロースナノファイバーとは、数平均繊維径が1~500nmの微細セルロース繊維である。アスペクト比(数平均繊維長/数平均繊維径)は100以上であり、化学処理(改質)した微細なセルロースナノファイバーを含む。セルロースナノファイバーとしては、例えば、セルロース繊維を高圧下で剪断して解繊したマイクロフィブリレーテッドセルロース、ナノフィブリレーテッドセルロース又は微生物が産生する微細なバクテリアセルロースである。改質したセルロースナノファイバーとしては、例えば、天然セルロースを40%以上の濃硫酸で処理して得られるセルロースナノクリスタル又は木材パルプを構成している繊維の最小単位であるミクロフィブリルを常温常圧の温和な化学処理及び軽微な機械処理で水分散体として単離した超極細、かつ、繊維径の均一な微細セルロース繊維である。本実施形態において、セルロースナノファイバーの繊維径は、数平均繊維径が2~30nmであることが好ましく、3~20nmであることがより好ましい。
【0026】
セルロースナノファイバーは、セルロース原料を未変性のままか、または、化学処理(改質)を施した後、解繊処理を行う(剪断力をかける)ことにより得ることができる。本実施形態において、前記セルロース原料としては、特に限定するものではなく、例えば、木材パルプとして、LBKP(広葉樹さらしクラフトパルプ)、NBKP(針葉樹さらしクラフトパルプ)、LUKP(広葉樹未さらしクラフトパルプ)、NUKP(針葉樹未さらしクラフトパルプ)などの化学パルプ;GP(砕木パルプ)、PGW(加圧式砕木パルプ)、RMP(リファイナーメカニカルパルプ)、TMP(サーモメカニカルパルプ)、CTMP(ケミサーモメカニカルパルプ)、CMP(ケミメカニカルパルプ)、CGP(ケミグランドパルプ)などの機械パルプ;DIP(脱インキパルプ)などを用いることができ、又は、非木材パルプとして、ケナフ、バガス、竹、コットンなどを用いることができる。これらは、単独で使用するか、又は2種以上を任意の割合で混合して使用してもよい。また、木材を粉砕して得られる木粉も用いることができる。これらの中でも機械パルプは微細化しやすくかつセルロースナノファイバースラリーの粘度が比較的低くなるため、撥水撥油剤としての塗布、含浸及び噴霧を考慮すると、より好ましいセルロース原料である。従って、本実施形態においては、セルロースナノファイバーが機械パルプ由来のセルロースナノファイバーであることが好ましく、特にTMP由来のセルロースナノファイバーが好ましい。また木材を粉砕して得られる木粉もTMPと同様に好ましい。
【0027】
また、木材パルプは水酸化ナトリウム水溶液に浸漬して膨潤させた後に機械的解繊処理を行うことで微細化しやすくなる。水酸化ナトリウム水溶液による膨潤後に機械的解繊処理を施したセルロースナノファイバーは、スラリーの粘度が比較的低くなるため、撥水撥油剤としての塗布、含浸及び噴霧を考慮すると、より好ましいセルロースナノファイバーである。
【0028】
本実施形態においては、例えば、水酸化ナトリウム水溶液中に木材パルプを数分から数時間浸漬させることで木材パルプを膨潤させることができる。木材パルプを水酸化ナトリウム水溶液に浸漬させたスラリーの水酸化ナトリウム濃度は、特に限定するものではないが、0.2~12質量%が好ましく、2~10質量%が好ましく、3~8質量%がより好ましい。スラリーの水酸化ナトリウム濃度が0.2質量%未満ではセルロース原料の解繊が進みにくく、逆に濃度が12質量%を超えると比較的高濃度のアルカリ水溶液を取り扱うこととなり安全性が損なわれるばかりか、脱水、洗浄又は中和を行う場合は多くの時間を要することとなる。加えて、濃度が12質量%を超えても機械的解繊処理工程での解繊処理時間は頭打ちとなり非効率的となる。また、結晶系がセルロースI型からII型となり弾性率の低いセルロースナノファイバーとなることが予想され、用途によって不具合が生じる可能性がある。木材パルプを浸漬させる前の水酸化ナトリウム水溶液の濃度は0.2~15質量%が好ましく、0.5~12質量%がより好ましい。水酸化ナトリウム水溶液への木材パルプの浸漬時間は、特に限定するものではないが、1分から24時間が好ましい。より好ましくは5分~12時間である。木材パルプを水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬させている間は攪拌を行うことが好ましい。
【0029】
本実施形態においては、木材パルプを膨潤させた後、膨潤した木材パルプを脱アルカリしてもよい。脱アルカリの工程としては、例えば、(1)膨潤した木材パルプを水で洗浄する、(2)水での洗浄と脱水を繰り返す、(3)酸を加えて中和する、(4)水で洗浄した後、酸で中和する、または、これらを2つ以上選択して組み合わせることによって、脱アルカリをする。例えば、(1)と(2)の組み合わせ、(1)と(3)の組み合わせ、(1)と(4)の組み合わせ、(2)と(3)の組み合わせ、(2)と(4)の組み合わせ、(3)と(4)の組み合わせ、(1)と(2)と(3)の組み合わせ、(1)と(2)と(4)の組み合わせ、(1)と(3)と(4)の組み合わせ、(2)と(3)と(4)の組み合わせ、(1)と(2)と(3)と(4)の組み合わせであり、各組み合わせの順番を入れ替えてもよい。ここで脱アルカリとは、木材パルプに付着した水酸化ナトリウムを取り除くことを意味し、例えば木材パルプを多量の水で洗浄することが含まれる。水での洗浄と脱水とを繰り返すことで効率的に木材パルプから水酸化ナトリウムを取り除くことが可能となる。また、必要に応じて希硫酸や希塩酸などの酸による中和を行ってもよい。好ましくは膨潤した木材パルプを水で十分に洗浄し、必要に応じて酸での中和を行い、膨潤した木材パルプスラリーのpHを中性領域(pH6~8)とする。このような脱アルカリ工程を設けることによって、後の機械的解繊処理工程で比較的高濃度のアルカリ水溶液を扱う必要がなくなり、作業の安全性が高まる。脱アルカリ工程で使用する洗浄機及び脱水機としては、例えば、2連エキストラクター、3連エキストラクター、ディスクシックナー、DDウォッシャー、フォールウォッシャー、DNTウォッシャー、PTパワーシックナー、ダブルワイヤーシックナー、スクリュープレス、ツインドラムプレス、傾斜シックナー、バルブレスフィルター、等があるが、特定の機種に限定するものではない。
【0030】
本実施形態におけるセルロースナノファイバーとしては、化学処理(改質)したもの、すなわち修飾基の導入されたセルロースナノファイバーも用いることができるが、修飾基の導入されていないセルロースナノファイバーであることが好ましい。修飾基の導入されていないセルロースナノファイバーとは、セルロース原料を未変性のまま解繊処理したものである。化学処理(改質)をし、修飾基が導入されたセルロースナノファイバーとしては、TEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシラジカル)酸化によるもの、リン酸化エステル化処理によるもの等が知られているが、いずれもアニオン性基が導入されるためセルロースナノファイバーが大きくマイナスに帯電することとなる。このことにより表面電荷を有する資材との混合を行った場合、凝集が発生するおそれがある。化学処理(改質)をし、修飾基が導入されたセルロースナノファイバーを用いる場合は、他の資材のイオン性に留意して凝集を生じないようにすることが好ましい。
【0031】
解繊処理としては機械的解繊が好ましく、グラインダー方式、水中対向衝突方式、ホモジナイザー方式が使用できる。グラインダー方式としてはスーパーマスコロイダー(増幸産業製)、グローミル(グローエンジニアリング製)などが挙げられる。水中対向衝突方式としてはスターバースト(スギノマシン製)が挙げられる。またこれらの機械的解繊方式を組み合わせる、例えばグラインダー方式で処理したのち水中対向衝突方式で処理するなどでもよい。
【0032】
本実施形態の撥水撥油剤は、オキサゾリン基、カルボジイミド基、エポキシ基又はイソシアネート基のいずれか1種以上の官能基を有する化合物を含有する。これらの化合物はセルロースナノファイバーとの関係において、架橋剤として機能する。オキサゾリン基、カルボジイミド基、エポキシ基又はイソシアネート基のいずれか1種以上の官能基を有する化合物(以下、架橋剤と記載することがある)を含有させることにより、撥水撥油剤の乾燥塗布膜に撥水性と撥油性を付与することができる。架橋剤としては、オキサゾリン基、エポキシ基又はイソシアネート基の少なくともいずれか1種の官能基を有する化合物であることがより好ましく、撥水性、撥油性ともに向上しやすいことから、オキサゾリン基を有する化合物がより好ましい。
【0033】
本実施形態の撥水撥油剤における架橋剤の含有量は、特に限定するものではないが、セルロースナノファイバー100質量部に対して、固形分換算で10~400質量部が好ましい。特に好ましくは25~100質量部である。400質量部を超えると高価な撥水撥油剤になるだけで無く、相対的にセルロースナノファイバーが少なくなることで撥水撥油剤の乾燥塗布膜の撥水性と撥油性とが低下するおそれがある。10質量部を下回るとセルロースナノファイバーの架橋不足で撥水撥油剤の乾燥塗布膜が脆くなりやすく、結果として撥水性と撥油性とが低下するおそれがある。撥水撥油剤としての液体性状が不安定となり、凝集物が生じやすくなるおそれがある。
【0034】
本実施形態の撥水撥油剤は、パーフルオロアルキル化合物を含有する。パーフルオロアルキル化合物は有機フッ素化合物の一種であり、代表的なものとしてパーフルオロオクタン酸やパーフルオロオクタンスルホン酸などがある。パーフルオロアルキル化合物は、アクリロイル基を有さないパーフルオロアルキル化合物であることが好ましい。
【0035】
本実施形態においては、パーフルオロアルキル化合物として、パーフルオロアルキル基の炭素原子数が6以下であるものを用いることが好ましい。パーフルオロアルキル基の炭素原子数を6以下とすることで、難分解性や生体蓄積性、加熱によるオフガスの発生などによる有害性の懸念が比較的低い撥水撥油剤とすることができる。尚、パーフルオロアルキル基の炭素原子数が6以下のパーフルオロアルキル化合物を用いた撥水撥油剤は、同炭素原子数が8以上のパーフルオロアルキル化合物を用いた撥水撥油剤に比べて撥水性、撥油性ともに劣る傾向にあるが、本実施形態によれば、炭素原子数が6以下のパーフルオロアルキル化合物を用いた撥水撥油剤として優れた撥水性と撥油性を発現することができる。パーフルオロアルキル基の炭素原子数の下限は、特に限定されないが、3以上であることが好ましく、4以上であることがより好ましく、5以上であることが更に好ましい。また、パーフルオロアルキル基の炭素原子数は、6であることが特に好ましい。
【0036】
本実施形態においては、パーフルオロアルキル化合物がカチオン性のパーフルオロアルキル化合物であることが好ましい。カチオン性のパーフルオロアルキル化合物は、アニオン性のセルロースナノファイバーと効率的に結合し、撥水性と撥油性とが向上する。
【0037】
本実施形態においては、パーフルオロアルキル化合物はアクリル系化合物と併用することが好ましい。より好ましくはパーフルオロアルキル化合物とアクリル系化合物とをあらかじめ混合したのち使用することがより好ましい。アクリル系化合物とは、アクリロイル基を含む化合物をいい、例えば、アクリルポリオールタイプ、アクリルウレタンタイプである。アクリル系化合物を使用することにより基材との密着性、硬度付与又はブロッキング防止などに効果的となる。ここでパーフルオロアルキル化合物はC6フルオロアルキルとC6フルオロアルキルオールに代表されるが、パーフルオロアルキル化合物:アクリル系化合物=1:9~8:2が好ましく、1:9~5:5がより好ましい。アクリル系化合物の比率が低すぎると前述の基材との密着性、硬度付与又はブロッキング防止効果が劣り、アクリル系化合物の比率が高すぎると撥水及び撥油性能が発現しにくくなる。尚、この比率はトータルイオンクロマトグラフの面積比から算出できる。
【0038】
本明細書において、アクリル系化合物は、化学式中にフッ素原子を含有するフッ素含有アクリル系化合物と、化学式中にフッ素原子を含有しない非フッ素含有アクリル系化合物と、を包含する。フッ素含有アクリル系化合物は、パーフルオロアクリレート化合物と呼ばれることもある。
【0039】
パーフルオロアルキル化合物と非フッ素含有アクリル系化合物とをあらかじめ混合した資材としてはAG-E060、AG-E080(何れもAGC社製)等が挙げられる。このようなパーフルオロアルキル化合物と非フッ素含有アクリル系化合物とをあらかじめ混合した資材は、ステキヒトサイズ度(JIS P 8122:2004)が低い紙基材との相性がよく、ステキヒトサイズ度が10秒未満である場合に撥水性と撥油性を両立させやすくなり、ステキヒトサイズ度が5秒以下の場合に特に撥水性と撥油性を両立させやすくなる。パーフルオロアルキル化合物と非フッ素含有アクリル系化合物とをあらかじめ混合した資材を用いる場合、サイズ剤を含有していない無サイズ紙を紙基材として採用することがより好ましい。
【0040】
一方、市場にはパーフルオロアルキル化合物とフッ素含有アクリル系化合物(パーフルオロアクリレート化合物)とを混合したものがあるが、こちらはステキヒトサイズ度が比較的高い紙基材との相性が良く、ステキヒトサイズ度が10秒以上の場合に撥水性と撥油性を両立させやすくなる。
【0041】
本実施形態の撥水撥油剤におけるパーフルオロアルキル化合物の含有量は、特に限定するものではないが、セルロースナノファイバー100部に対して、固形分換算で10~400質量部が好ましい。特に好ましくは25~100質量部である。400質量部を超えると高価な撥水撥油剤になるだけで無く、撥水撥油剤に凝集物が生じやすくなるおそれがある。10質量部を下回ると所望する撥水性と撥油性とを満足できないおそれがある。
【0042】
本実施形態の撥水撥油剤の調製方法は、前述したセルロースナノファイバーと、架橋剤と、パーフルオロアルキル化合物とを混合することによって得ることができる。調製方法の一例としては、水中にセルロースナノファイバーを分散させたセルロースナノファイバー水分散液を攪拌しながら架橋剤を添加し、十分に混合した後にパーフルオロアルキル化合物を添加する。このようにして調製することで凝集物の発生を抑制することができる。尚、撥水撥油剤としての良好な流動性を確保するという観点からは、セルロースナノファイバー水分散液の濃度は5質量%以下とすることが好ましい。好ましくは3質量%以下である。セルロースナノファイバー水分散液の濃度が5質量%を超えると、撥水撥油剤の粘度が極端に上がり、塗工適性や噴霧適性を損ねるおそれがある。セルロースナノファイバー水分散液の濃度の下限は例えば0.2質量%が好ましく、0.5質量%がより好ましい。TMPのセルロースナノファイバー水分散液の濃度は、3質量%以下であることが好ましく、2質量%以下であることがより好ましい。木粉のセルロースナノファイバー水分散液の濃度は、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましい。
【0043】
本実施形態の撥水撥油剤には、目的とする効果を損なわない範囲で、適宜助剤を含有させることができる。例えば増粘剤、減粘剤、消泡剤、界面活性剤、防腐剤等である。
【0044】
本実施形態の撥水撥油剤は、布、不織布、紙、革、木、などの対象物に適用が可能であり、その付与方法も塗工、噴霧、含浸などを適宜使用することができる。対象物への付与後の乾燥方法も特に限定は無く、自然乾燥により撥水性及び耐油性は発現する。短時間で所望する品質を得るためには、加熱乾燥、熱風乾燥を行ってもよい。自然乾燥の場合は1か月間程度、加熱乾燥又は熱風乾燥の場合は2週間程度のエージングを施すことにより所望する撥水性及び耐油性が得られやすい。撥水撥油剤の固形分濃度としても特に限定するものではなく、付与方法や所望する撥水性や撥油性に応じて適宜変更すればよいが、例えば0.5~10.0%程度である。
【0045】
また、本実施形態の撥水撥油剤は、更に界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤を添加することにより、布、不織布、紙、革又は木などの基材への浸透性を高めることができ、基材との相性によっては撥水性と撥油性を両立させやすくなる。界面活性剤としては特に限定するものではないが、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルなどの非イオン界面活性剤が好ましい。界面活性剤の添加量は撥水撥油剤の濃度に応じて適宜変更すればよいが、例えば0.01~3%程度である。多量に添加しすぎると撥水性と撥油性を損ねるおそれがある。
【0046】
本実施形態の撥水撥油剤は、基材の少なくとも一方の面に付与することで対象となる基材に撥水性と撥油性とを付与することができるが、基材の透気性を損ないにくいという特性がある。従って、透気性を有する基材の少なくとも一方の面に、本実施形態の撥水撥油剤による塗工層を設けることで、透気性に優れた撥水撥油性製品とすることができる。すなわち本実施形態に係る撥水撥油性製品は、透気性を有する基材の少なくとも一方の面に、オキサゾリン基、カルボジイミド基、エポキシ基又はイソシアネート基の少なくともいずれか1種の官能基を有する化合物により架橋されたセルロースナノファイバーと、パーフルオロアルキル化合物とを含有する塗工層を有する。透気性を有する基材としては、例えば、布、不織布、紙などが挙げられる。布や不織布への適用であれば、例えば衣服や袋類などが考えられ、紙への適用であれば透気性が要求される食品包装紙などが考えられる。本実施形態の撥水撥油材剤の基材への塗工量については、基材の材質に応じて適宜変更すればよいが、固形分換算で0.05~15g/m2とすることが好ましい。より好ましくは0.2~10g/m2である。このような範囲であれば基材に十分な撥水性と撥油性とを与え、且つ、基材が透気性を有するものの場合は、その透気性を損ないにくい。
【0047】
基材の透気度としては、紙や不織布の場合、ガーレー透気度で1~200秒が好ましい。より好ましくは5~50秒である。このような透気性の高い基材に本発明の撥水撥油剤を塗布することで、高い撥水性と撥油性を有しながら、透気性の高い(透気度の低い)撥水撥油製品を得ることができる。
【0048】
本実施形態の撥水撥油剤を紙基材に塗布する場合、紙基材の紙面pHは5以上が好ましく、より好ましくは紙面pH7以上である。原因は不明であるがpH5未満では撥水性が発現し難くなることがある。紙面pHが5以上の紙としては、炭酸カルシウムを含む紙基材が好ましく、中性紙が好ましい。
【0049】
本実施形態の撥水撥油剤は、任意の対象物に付与することで、その対象物に撥水性と撥油性とを与えることができる。従って、本実施形態の撥水撥油剤が付与された対象物は、汚れの付きにくい(汚れが付いても除去しやすい)対象物とすることができる。加えて、本実施形態の撥水撥油剤は、付与後の対象物の表面性に与える影響が少ない。すなわち、樹脂をコーティングした場合のような光沢感や透明感が生じにくいので、対象物の表面性を維持しやすい。このような特性を利用し、例えば、本実施形態の撥水撥油剤を木製の家具に適用すれば、木の質感を損ねずに防汚性が付与された木製家具とすることができる。
【0050】
本実施形態の撥水撥油剤には、前述のとおり、目的とする効果を損なわない範囲で、適宜助剤を含有させることができるが、澱粉、ポリビニルアルコールなどの水溶性高分子や、スチレンブタジエン共重合樹脂などの合成樹脂は含有しないことが好ましい。これらの水溶性高分子や合成樹脂を多量に含有させると、撥水撥油剤を付与した対象物の塗布面に被膜を形成してしまうためか、対象物の透気性を大きく低下させたり、外観を変化させたりすることがある。
【実施例】
【0051】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。また、例中の「部」、「%」は、特に断らない限りそれぞれ「質量部」、「質量%」を示す。なお、添加部数は、固形分換算の値である。
【0052】
(実施例1)
<セルロースナノファイバーの製造>
LTMP(広葉樹サーモメカニカルパルプ)を水で離解して2%濃度のパルプスラリーとし、スーパーマスコロイダーMKCA6-5J型(砥石板直径:6インチ、増幸産業社製)にて処理を行った。使用した砥粒板及び処理回数はE6-46深溝で4回処理しその後とGC-80標準で2回処理とした。回転数は1800rpm、周速848m/分で一律運転とした。得られたセルロースナノファイバーの水分散液は、濃度2質量%、B型粘度計(60rpm、20℃)での粘度が500cpsであった。
<撥水撥油剤の調製>
セルロースナノファイバー2質量%の水分散液撹拌下に架橋剤(商品名:エポクロスK2020E、オキサゾリン系樹脂、日本触媒社製)をセルロースナノファイバー100部に対して50部添加、炭素原子数が6のパーフルオロアルキル化合物(商品名:アサヒガードAGE-060、カチオン性フッ素系樹脂、AGC社製)をセルロースナノファイバー100部に対して50部添加し、撥水撥油剤を得た。
【0053】
(実施例2)
撥水撥油剤の調製において、架橋剤の添加量を50部から10部に変更した以外は実施例1と同様にして撥水撥油剤を得た。
【0054】
(実施例3)
撥水撥油剤の調製において、架橋剤の添加量を50部から200部に変更した以外は実施例1と同様にして撥水撥油剤を得た。
【0055】
(実施例4)
撥水撥油剤の調製において、炭素原子数が6のパーフルオロアルキル化合物の添加量を50部から10部に変更した以外は実施例1と同様にして撥水撥油剤を得た。
【0056】
(実施例5)
撥水撥油剤の調製において、炭素原子数が6のパーフルオロアルキル化合物の添加量を50部から200部に変更した以外は実施例1と同様にして撥水撥油剤を得た。
【0057】
(実施例6)
撥水撥油剤の調製において、架橋剤の添加量を50部から10部に、炭素原子数が6のパーフルオロアルキル化合物の添加量を50部から10部に、それぞれ変更した以外は実施例1と同様にして撥水撥油剤を得た。
【0058】
(実施例7)
撥水撥油剤の調製において、架橋剤の添加量を50部から200部に、炭素原子数が6のパーフルオロアルキル化合物の添加量を50部から200部に、それぞれ変更した以外は実施例1と同様にして撥水撥油剤を得た。
【0059】
(実施例8)
撥水撥油剤の調製において、架橋剤(商品名:エポクロスK2020E、オキサゾリン系樹脂、日本触媒社製)を、架橋剤(商品名:CR-5L、エポキシ系樹脂、DIC社製)に変更した以外は実施例1と同様にして撥水撥油剤を得た。
【0060】
(実施例9)
撥水撥油剤の調製において、炭素原子数が6のパーフルオロアルキル化合物(商品名:アサヒガードAGE-060、カチオン性フッ素系樹脂、AGC社製)を、炭素原子数が6のパーフルオロアルキル化合物(商品名:アサヒガードAGE-080、アニオン性フッ素系樹脂、AGC社製)に変更した以外は実施例1と同様にして撥水撥油剤を得た。
【0061】
(実施例10)
セルロースナノファイバーを製造せず、撥水撥油剤の調製において、セルロースナノファイバー2質量%の水分散液を、TEMPO酸化セルロースナノファイバー(商品名:レオクリスタC-2SP、第一工業製薬社製)の0.5質量%水分散液(B型粘度計(60rpm、20℃)での粘度が1800cps)とし、炭素原子数が6のパーフルオロアルキル化合物(商品名:アサヒガードAGE-060、カチオン性フッ素系樹脂、AGC社製)を、炭素原子数が6のパーフルオロアルキル化合物(商品名:アサヒガードAGE-080、アニオン性フッ素系樹脂、AGC社製)に変更した以外は実施例1と同様にして撥水撥油剤を得た。なお、TEMPO酸化セルロースナノファイバーは、アニオン変性である。
【0062】
(実施例11)
撥水撥油剤の調製において、架橋剤(商品名:エポクロスK2020E、オキサゾリン系樹脂、日本触媒社製)を、架橋剤(商品名:カルボジライトSV-02、カルボジイミド系樹脂、日清紡ケミカル社製)に変更した以外は実施例1と同様にして撥水撥油剤を得た。
【0063】
(実施例12)
撥水撥油剤の調製において、架橋剤(商品名:エポクロスK2020E、オキサゾリン系樹脂、日本触媒社製)を、架橋剤(商品名:CR-60N、イソシアネート系樹脂、DIC社製)に変更した以外は実施例1と同様にして撥水撥油剤を得た。
【0064】
(実施例13)
<セルロースナノファイバーの製造>
LBKP(広葉樹晒クラフトパルプ)を水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、LBKP濃度3%、水酸化ナトリウム水溶液濃度8.0%となるようパルプスラリーを調整し、標準離解機で10分間離解した。LBKPを水酸化ナトリウム水溶液に浸漬してから3時間後、浸漬後のパルプを、100メッシュ篩を用い水道水にて中性となるまで水洗して脱アルカリ処理を行った。脱アルカリ処理したLBKPを水で離解して2%濃度のパルプスラリーとし、スーパーマスコロイダーMKCA6-5J型(砥石板直径:6インチ、増幸産業社製)にて処理を行った。得られたセルロースナノファイバーの水分散液は、濃度2質量%、B型粘度計(60rpm、20℃)での粘度が800cpsであった。
<撥水撥油剤の調製>
セルロースナノファイバー2質量%の水分散液を攪拌しながら、架橋剤(商品名:エポクロスK2020E、オキサゾリン系樹脂、日本触媒社製)をセルロースナノファイバー100部に対して50部添加、炭素原子数が6のパーフルオロアルキル化合物(商品名:アサヒガードAGE-060、カチオン性フッ素系樹脂、AGC社製)をセルロースナノファイバー100部に対して50部添加し、撥水撥油剤を得た。
【0065】
(実施例14)
セルロースナノファイバーの製造において、LBKP(広葉樹晒クラフトパルプ)をNUKP(針葉樹未さらしクラフトパルプ)に変更した以外は実施例13と同様にして撥水撥油剤を得た。
【0066】
(実施例15)
セルロースナノファイバーの製造において、LBKP(広葉樹晒クラフトパルプ)をLTMP(広葉樹サーモメカニカルパルプ)に変更した以外は実施例13と同様にして撥水撥油剤を得た。
【0067】
(実施例16)
セルロースナノファイバーの製造において、LBKP(広葉樹晒クラフトパルプ)をNBKP(針葉樹晒クラフトパルプ)に変更した以外は実施例13と同様にして撥水撥油剤を得た。
【0068】
(実施例17)
セルロースナノファイバーの製造において、LTMP(広葉樹サーモメカニカルパルプ)をスギ木粉(40メッシュパス品、富山西部森林組合品)に変更した以外は実施例1と同様にして撥水撥油剤を得た。
【0069】
(実施例18)
セルロースナノファイバーの製造において、LBKP(広葉樹晒クラフトパルプ)をスギ木粉(40メッシュパス品、富山西部森林組合品)に変更した以外は実施例13と同様にして撥水撥油剤を得た。
【0070】
(実施例19)
実施例1のセルロースナノファイバーの製造において、LTMP(広葉樹サーモメカニカルパルプ)をLBKP(広葉樹晒クラフトパルプ)に変更した。得られたセルロースナノファイバーの水分散液は、濃度2質量%、B型粘度計(60rpm、20℃)での粘度が7000cpsであった。そこでこの水分散液を、濃度1質量%に水で希釈し、粘度を1000cpsとした。そして、水分散液撹拌下で撥水撥油剤を調整した。このように上記に記載した事項以外は実施例1と同様にして濃度1質量%の撥水撥油剤を得た。
【0071】
(比較例1)
架橋剤(商品名:エポクロスK2020E、オキサゾリン系樹脂、日本触媒社製)50部と、炭素原子数が6のパーフルオロアルキル化合物(商品名:アサヒガードAGE-060、カチオン性フッ素系樹脂、AGC社製)50部とを水中に添加して混合し、濃度2質量%の撥水撥油剤を得た。
【0072】
(比較例2)
撥水撥油剤の調製において、架橋剤を添加しなかった以外は実施例1と同様にして撥水撥油剤を得た。
【0073】
(比較例3)
撥水撥油剤の調製において、炭素原子数が6のパーフルオロアルキル化合物を添加しなかった以外は実施例1と同様にして撥水撥油剤を得た。
【0074】
(比較例4)
炭素原子数が6のパーフルオロアルキル化合物(商品名:アサヒガードAGE-060、カチオン性フッ素系樹脂、AGC社製)を水中に添加し、濃度1質量%の撥水撥油剤とした。
【0075】
実施例1~19及び比較例1~4で得た撥水撥油剤について次の評価を行った。結果を表1に示す。また、評価方法については次に示す。
【0076】
<撥水撥油剤の紙基材への塗布>
NBKP(針葉樹漂白クラフトパルプ)30部とLBKP(広葉樹漂白クラフトパルプ)70部とを水中に分散し、叩解機によってカナディアンスタンダードフリーネス(CSF)400mlとなるように叩解処理し、パルプスラリーを得た。このパルプスラリーに、ポリアミドエピクロルヒドリン(商品名:WS-4020、星光PMC製)0.3部と硫酸バンド0.5部とを添加し、長網抄紙機で抄紙して坪量157g/m2、王研式透気度30秒の紙基材を得た。なお、この紙基材は、サイズ剤を添加しない無サイズ紙である。紙基材のステキヒトサイズ度は0秒であった。この紙基材に、実施例1~18及び比較例1~4で得られた撥水撥油剤を、付着量が固形分換算で1g/m2となるように(表1において、CNF付着量、架橋剤付着量及び撥水剤付着量の合計付着量を意味する。)、含浸ロールにて含浸塗布し、ドライヤーにて熱風乾燥させて、評価用サンプルを得た。実施例19については、付着量が固形分換算で2g/m2となるように含浸ロールにて含浸塗布した。
【0077】
(実施例20)
撥水撥油剤の調製において、炭素原子数が6のパーフルオロアルキル化合物(商品名:アサヒガードAGE-060、カチオン性フッ素系樹脂、AGC社製)を、炭素原子数が6のパーフルオロアルキル化合物(ユニダインTG-8811、ダイキン工業社製)に変更した以外は実施例1と同様にして撥水撥油剤を得た。
【0078】
(実施例21)
撥水撥油剤の調製において、架橋剤の添加量を50部から10部に、炭素原子数が6のパーフルオロアルキル化合物の添加量を50部から10部に、それぞれ変更した以外は実施例20と同様にして撥水撥油剤を得た。
【0079】
(比較例5)
炭素原子数が6のパーフルオロアルキル化合物(商品名:ユニダインTG-8811、ダイキン工業社製)を水中に添加し、濃度1質量%の撥水撥油剤とした。
【0080】
<撥水撥油剤の紙基材への塗布>
NBKP(針葉樹漂白クラフトパルプ)30部とLBKP(広葉樹漂白クラフトパルプ)70部とを水中に分散し、叩解機によってカナディアンスタンダードフリーネス(CSF)400mlとなるように叩解処理し、パルプスラリーを得た。このパルプスラリーに、サイズ剤(CC167:星光PMC社製)0.2部、ポリアミドエピクロルヒドリン(商品名:WS-4020、星光PMC製)0.3部と硫酸バンド0.5部を添加し、長網抄紙機で抄紙して坪量157g/m2、王研式透気度30秒の紙基材を得た。紙基材のステキヒトサイズ度は、50秒であった。この紙基材に、実施例20~21及び比較例5で得られた撥水撥油剤を、付着量が固形分換算で1g/m2となるように(表1において、CNF付着量、架橋剤付着量及び撥水剤付着量の合計付着量を意味する。)、含浸ロールにて含浸塗布し、ドライヤーにて熱風乾燥させて、評価用サンプルを得た。
【0081】
<撥水性評価>
各評価用サンプルについて、JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法 No.68:2000「紙及び板紙-はっ水性試験方法」に準じて撥水性を測定した。測定結果はR0~R10で表され、数値の大きいものほど撥水性が高いことを示す。
【0082】
<耐油性評価>
各評価用サンプルについて、TAPPI UM 557「Repellency of Paper and Board to Grease,Oil,and Waxes(Kit Test)」に準拠して耐油性を測定した。測定結果は等級で表され、等級の大きいもの(数値の大きいもの)ほど、耐油性(撥油性)が高いことを示す。
【0083】
<透気度>
JIS P 8117:2009「紙及び板紙-透気度及び登記抵抗度試験方法(中間領域)-ガーレー法」に準じ、王研式試験機法により透気度を測定した。
【0084】
【0085】
表1の結果から以下のことが示されている。実施例1~21は撥水性及び耐油性が向上した。一方、比較例1~5は撥水性及び耐油性に劣るものであった。これらより、セルロースナノファイバーと、架橋剤と、撥水剤とを組み合わせることで、撥水性と耐油性とが向上することがわかった。
【0086】
実施例1と実施例15とを比較すると、LTMPに対して苛性処理を行っても元々粘度が低いため、効果は良好のまま変わらないことがわかった。実施例13で用いたLBKP、実施例14で用いたNUKP及び実施例16で用いたNBKPは、苛性処理を行うことでLTMPの粘度に近くなり(低くなり)、塗工性が向上し、性能も向上した。実施例19と実施例13とを比較すると、LBKPの苛性未処理品を用いてセルロースナノファイバーの水分散液を調製した実施例19では、CNF濃度を実施例13よりも小さくし(実施例13:2質量%、実施例19:1質量%)、かつ、撥水撥油剤の付着量を実施例13よりも多くする(実施例13:1g/m2、実施例19:2g/m2)ことによって、撥水性及び耐油性を実施例13の性能に近づいている。このように実施例13では、LBKPの苛性処理品を用いたため、撥水撥油剤の付着量が少なくても、撥水性及び耐油性を高めることが実現できている。
【0087】
実施例1と実施例9とを比較すると、アニオン性フッ素系樹脂を用いた実施例9よりも、カチオン性フッ素系樹脂を用いた実施例1のほうがさらに良好な結果が得られることがわかった。
【0088】
TEMPO.CNFはアニオン性が強く、カチオン性フッ素系樹脂を使用すると、塗工液が強く凝集し塗工ができない。しかし、実施例10のように、アニオン性フッ素樹脂であれば使用することができ、実施例9に近い結果を得ることができる。
【0089】
実施例8ではエポキシ系樹脂を用いており、実施例11ではエポキシ系樹脂を用いており、実施例12ではイソシアネート系樹脂を用いていて、良好な結果が得られているが、オキサゾリン系樹脂を用いた実施例1はさらに良好な結果が得られることがわかった。オキサゾリン系樹脂はCNFへの架橋効果が優れていると推測される。