(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-07
(45)【発行日】2023-03-15
(54)【発明の名称】ディップ成形用組成物、手袋の製造方法及び手袋
(51)【国際特許分類】
C08L 9/02 20060101AFI20230308BHJP
C08L 9/04 20060101ALI20230308BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20230308BHJP
B29C 41/14 20060101ALI20230308BHJP
A41D 19/00 20060101ALI20230308BHJP
A41D 19/015 20060101ALI20230308BHJP
A41D 19/04 20060101ALI20230308BHJP
【FI】
C08L9/02
C08L9/04
C08L63/00 A
B29C41/14
A41D19/00 A
A41D19/015 210Z
A41D19/04 B
(21)【出願番号】P 2020128359
(22)【出願日】2020-07-29
(62)【分割の表示】P 2019537325の分割
【原出願日】2019-03-27
【審査請求日】2022-03-23
(31)【優先権主張番号】P 2018074240
(32)【優先日】2018-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018074929
(32)【優先日】2018-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】391009372
【氏名又は名称】ミドリ安全株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】榎本 憲秀
(72)【発明者】
【氏名】小川 太一
(72)【発明者】
【氏名】柴田 要
(72)【発明者】
【氏名】柴▲崎▼ 淳二
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/147638(WO,A1)
【文献】特開2013-100410(JP,A)
【文献】国際公開第2017/126660(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/102985(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/16
B29C 41/14
A41D 19/00
A41D 19/015
A41D 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリロニトリル由来の構造単位、不飽和カルボン酸由来の構造単位、及びブ
タジエン由来の構造単位をポリマー主鎖に含むエラストマーと、エポキシ架橋剤と、水、
pH調整剤と、を少なくとも含むディップ成形用組成物であって、
前記エラストマーにおいて、(メタ)アクリロニトリル由来の構造単位が20~40重
量%、不飽和カルボン酸由来の構造単位が1~10重量%、及びブタジエン由来の構造単
位が50~75重量%であり、
前記エポキシ架橋剤は、1分子中に複数のグリシジルエーテル基と、脂環族、脂肪族ま
たは芳香族の炭化水素を有する母骨格を持つエポキシ化合物から構成され、
前記エポキシ架橋剤の平均エポキシ基数が2.0を超えるものであり、
前記エポキシ架橋剤の下記測定方法によるMIBK/水分配率が27%以上、30%未
満であり、前記エポキシ架橋剤の添加量が、エラストマー100重量部に対して1.0重
量部以上である、ディップ成形用組成物。
MIBK/水分配率測定方法:試験管に水5.0g、メチルイソブチルケトン(MIB
K)5.0gおよびエポキシ架橋剤0.5gを精秤し、23℃±2℃で3分間攪拌、混合し
た後、1.0×10
3
Gで10分間遠心分離し、水層とMIBK層に分離させる。次いで
、MIBK層を分取、計量し、次式によりMIBK/水分配率を算出する。
MIBK/水分配率(%)=(分配後MIBK層重量(g)-分配前MIBK重量(g
))/架橋剤添加重量(g)×100
上記測定を3回行い、平均値をMIBK/水分配率とする。
【請求項2】
(メタ)アクリロニトリル由来の構造単位、不飽和カルボン酸由来の構造単位、及びブ
タジエン由来の構造単位をポリマー主鎖に含むエラストマーと、エポキシ架橋剤と、水、
pH調整剤と、を少なくとも含むディップ成形用組成物であって、
前記エラストマーにおいて、(メタ)アクリロニトリル由来の構造単位が20~40重
量%、不飽和カルボン酸由来の構造単位が1~10重量%、及びブタジエン由来の構造単
位が50~75重量%であり、
前記エポキシ架橋剤は、1分子中に複数のグリシジルエーテル基と、脂環族、脂肪族ま
たは芳香族の炭化水素を有する母骨格を持つエポキシ化合物から構成され、
前記エポキシ架橋剤の平均エポキシ基数が2.0を超えるものであり、
前記エポキシ架橋剤の下記測定方法によるMIBK/水分配率が30%以上であり、前
記エポキシ架橋剤の添加量が、エラストマー100重量部に対して0.1重量部以上であ
る、ディップ成形用組成物。
MIBK/水分配率測定方法:試験管に水5.0g、メチルイソブチルケトン(MIB
K)5.0gおよびエポキシ架橋剤0.5gを精秤し、23℃±2℃で3分間攪拌、混合し
た後、1.0×10
3
Gで10分間遠心分離し、水層とMIBK層に分離させる。次いで
、MIBK層を分取、計量し、次式によりMIBK/水分配率を算出する。
MIBK/水分配率(%)=(分配後MIBK層重量(g)-分配前MIBK重量(g
))/架橋剤添加重量(g)×100
上記測定を3回行い、平均値をMIBK/水分配率とする。
【請求項14】
手袋の厚みが0.04~0.2mmである、請求項
12または
13に記載の手袋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫黄架橋剤、硫黄系加硫促進剤を使用せず、不飽和カルボン酸由来の構造単位が有するカルボキシル基と、エポキシ化合物を含有するエポキシ架橋剤との架橋構造を含むエラストマーの硬化フィルムからなる手袋、ディップ成形用組成物及び手袋の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、硫黄及びチアゾール系の硫黄系加硫促進剤で架橋してなるラテックス組成物を用いてディップ成形することにより製造された手袋が種々の工業分野及び医療分野等において幅広く使用されていた。しかし、硫黄架橋剤及び硫黄系加硫促進剤はIV型アレルギーを引き起こすため、これを用いない加硫促進剤フリーの手袋が提案された。これには、ラテックス重合中に有機架橋性化合物を含ませる自己架橋型と、ポリカルボジイミドやエポキシ架橋剤で架橋する外部架橋剤型がある。加硫促進剤フリーの手袋については、自己架橋型として特許文献1があり、外部架橋型としてエポキシ架橋剤を用いているものに特許文献2がある。ただし、これはエポキシ架橋剤を外部架橋剤として用いた手袋に関しての詳細な検討はほとんど行われていない。さらに、エポキシ架橋剤を用いて得た手袋については、すでに製品化されているものもある。しかし、これらはいずれも水溶率90%以上のジエポキシ化合物を用いたもので従来の硫黄架橋XNBR手袋の性能を上回るには至っていなかった。発明者らは、これを1分子中に3個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物を含有するエポキシ架橋剤を用いることについて開発を進めてきた。
一方、エポキシ架橋剤を用いた手袋を実際の量産条件下で実製品化するためにはディップ成形用組成物中でのエポキシ架橋剤の経時劣化について検討が必要であることが分かってきた。
本発明は、ディップ成形用組成物の調製後の使用可能な経過時間、すなわちポットライフ(可使時間)に着目したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-144163号公報
【文献】国際公開第2017/126660号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ディップ成形用組成物を用いたXNBR手袋の量産においては、ディップ成形用組成物を調製してから、大きなマチュレーション(熟成)用タンクで少なくとも1~2日程度マチュレーションを行ったうえで、これを逐次ディッピング槽に注入し、2~3日程度の間にこれを消費することが通常である。そのため、ディップ成形用組成物に含まれるエポキシ架橋剤の劣化を最小限にとどめ、得られる手袋の疲労耐久性が実製品としての性能を満足できるようなディップ成形用組成物と、そのディップ成形用組成物を用いた手袋の製造方法と、手袋とを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態は、以下のディップ成形用組成物、手袋の製造方法及びその手袋の製造方法により得られる手袋に関する。なお、以降、エポキシ架橋剤を含むディップ成形用組成物を用いて得た手袋を、「エポキシ架橋手袋」と略すことがある。また、硫黄架橋剤や硫黄系加硫促進剤を含むディップ成形用組成物を用いて得た手袋を、「硫黄架橋手袋」と略すことがある。
[1](メタ)アクリロニトリル由来の構造単位、不飽和カルボン酸由来の構造単位、及びブタジエン由来の構造単位をポリマー主鎖に含むエラストマーと、エポキシ架橋剤と、水と、及びpH調整剤とを少なくとも含むディップ成形用組成物であって、
前記エラストマーにおいて、(メタ)アクリロニトリル由来の構造単位が20~40重量%、不飽和カルボン酸由来の構造単位が1~10重量%、及びブタジエン由来の構造単位が50~75重量%であり、
前記エポキシ架橋剤は、1分子中に3個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物を含有するエポキシ架橋剤を含むものであり、下記測定方法による水溶率が10~70%であるディップ成形用組成物。
水溶率測定方法:ビーカーにエポキシ架橋剤を25.0g精秤し、水(25℃)を225g加え、室温(23℃±2℃)で15分間強く撹拌・混合した後、1時間静置しビーカー底部に沈殿した油状物の体積(mL)を測定し、次式により水溶率を算出する。
水溶率(%)=(25.0-(油状物の体積(mL)×エポキシ架橋剤の密度(g/mL))/25.0×100
[2](メタ)アクリロニトリル由来の構造単位、不飽和カルボン酸由来の構造単位、及びブタジエン由来の構造単位をポリマー主鎖に含むエラストマーと、エポキシ架橋剤と、水、及びpH調整剤とを少なくとも含むディップ成形用組成物であって、
前記エラストマーにおいて、(メタ)アクリロニトリル由来の構造単位が20~40重量%、不飽和カルボン酸由来の構造単位が1~10重量%、及びブタジエン由来の構造単位が50~75重量%であり、
前記エポキシ架橋剤は、1分子中に3個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物を含有するエポキシ架橋剤を含むものであり、前記エポキシ架橋剤の下記測定方法によるMIBK/水分配率が27%以上である、ディップ成形用組成物。
MIBK/水分配率測定方法:試験管に水5.0g、メチルイソブチルケトン(MIBK)5.0gおよびエポキシ架橋剤0.5gを精秤し、23℃±2℃で3分間攪拌、混合した後、1.0×103Gで10分間遠心分離し、水層とMIBK層に分離させる。次いで、MIBK層を分取、計量し、次式によりMIBK/水分配率を算出する。
MIBK/水分配率(%)=(分配後MIBK層重量(g)-分配前MIBK重量(g))/架橋剤添加重量(g)×100
上記測定を3回行い、平均値をMIBK/水分配率とする。
[3]前記エポキシ架橋剤のMIBK/水分配率が50%以上である、[2]に記載のディップ成形用組成物。
[4]さらにエポキシ架橋剤の分散剤を含む、[1]~[3]のいずれかに記載のディップ成形用組成物。
[5]前記エポキシ架橋剤の分散剤が、一価の低級アルコール、以下の式(1)で表されるグリコール、以下の式(2)で表されるエーテル、以下の式(3)で表されるエステルからなる群から選択される1種以上である、[4]に記載のディップ成形用組成物。
HO-(CH2CHR1-O)n1-H (1)
[式(1)中、R1は、水素またはメチル基を表し、n1は1~3の整数を表す。]
R2O-(CH2CHR1-O)n2-R3(2)
[式(2)中、R1は、水素またはメチル基を表し、R2は、炭素数1~5の脂肪族炭化水素基を表し、R3は、水素または炭素数1~3の脂肪族炭化水素基を表し、n2は0~3の整数を表す。]
R2O-(CH2CHR1-O)n3-(C=O)-CH3 (3)
[式(3)中、R1は、水素またはメチル基を表し、R2は、炭素数1~5の脂肪族炭化水素基を表し、n3は0~3の整数を表す。]
[6]ディップ成形用組成物に対するエポキシ架橋剤の添加量が、ディップ成形用組成物に含まれるエラストマーの100重量部に対して、0.1重量部以上、5.0重量部以下である、[1]~[5]のいずれかに記載のディップ成形用組成物。
[7]前記ディップ成形用組成物に、さらに金属架橋剤として酸化亜鉛および/またはア
ルミニウム錯体を含む[1]~[6]に記載のディップ成形用組成物。
[8]ディップ成形用組成物に対する金属架橋剤の添加量が、前記エラストマー100重量部に対して0.2~4.0重量部である、[7]に記載のディップ成形用組成物。
[9]ポットライフが3日以上である、[1]~[8]のいずれかに記載のディップ成形用組成物のディップ成形用組成物。
[10](1)手袋成形型を、カルシウムイオンを含む凝固剤液中に浸して、該凝固剤を手袋成形型に付着させる工程、
(2)pH調整剤によりpHを9.0以上に調整した[1]~[9]のいずれか1つに記載のディップ成形用組成物を撹拌する工程(マチュレーション工程)、
(3)前記(1)の凝固剤が付着した手袋成形型を、前記(2)の工程を経たディップ成形用組成物に浸漬し、手袋成形型にディップ成形用組成物を凝固させ、膜を形成させるディッピング工程、
(4)手袋成形型上に形成された膜をゲル化し、硬化フィルム前駆体を作製するゲリング工程であり、21℃から140℃までの温度で20秒以上の条件で放置するゲリング工程、
(5)手袋成形型上に形成された硬化フィルム前駆体から不純物を除去するリーチング工程、
(6)前記リーチング工程の後に、手袋の袖口部分に巻きを作るビーディング工程、
(7)硬化フィルム前駆体を最終的に70℃以上150℃以下で、10分~30分間加熱及び乾燥し、硬化フィルムを得る、キュアリング工程、
を含み、上記(3)~(7)の工程を上記の順序で行う、手袋の製造方法。
[11]上記(2)及び(3)の工程を、合計で72時間以上かけて行う、[10]に記載の手袋の製造方法。
[12]上記(3)及び(4)の工程をその順序で2回繰り返す、[10]または[11]に記載の手袋の製造方法。
[13]上記(6)と(7)の工程の間に、前記硬化フィルム前駆体を(7)の工程の温度よりも低温で加熱及び乾燥するプリキュアリング工程をさらに含む、[10]~[12]のいずれかに記載の手袋の製造方法。
[14][10]~[13]のいずれかに記載された製造方法により作製された、手袋。[15]前記硬化フィルムの下記試験方法による疲労耐久性が240分以上であり、かつ、下記試験方法による該硬化フィルムの引張強度は20MPa以上である、[14]に記載の手袋。
疲労耐久性試験方法:硬化フィルムから長さ120mmのJIS K6251の1号ダンベル試験片を作製し、試験片の下部を固定して長さ60mmまで人工汗液に浸漬した状態で試験片の上部を引張り、長さ方向に最大195mm、最小147mmの間で12.8秒かけて伸縮させることを繰り返し、試験片が破れるまでの時間を測定する。
引張強度試験方法:硬化フィルムからJIS K6251の5号ダンベル試験片を切り出し、A&D社製のTENSILON万能引張試験機RTC-1310Aを用い、試験速度500mm/分、チャック間距離75mm、標線間距離25mmで、引張強度(MPa)を測定する。
[16]手袋の厚みが0.04~0.2mmである、[14]または[15]に記載の手袋。
【発明の効果】
【0006】
従来のエポキシ架橋手袋においては、エポキシ架橋剤がディップ成形用組成物中における加水分解により失活するという弱点を持っていたため、エポキシ架橋手袋の特徴である高い疲労耐久性を持つ手袋を製造するためには、1日程度の短い期間の間に手袋を製造せざるを得なかった。
一方、エポキシ架橋手袋を実用化、量産化するためには、ディップ成形用組成物の可使時間として、マチュレーション工程で1~2日、ディッピング工程で2~3日を必要とす
る。
本発明においては、上記の解決手段により、ディップ成形用組成物のポットライフとして最低でも3日以上、より好ましい態様では5日以上を確保することができ、これによって、量産時においても安定して高い疲労耐久性を特徴とするエポキシ架橋手袋を製造することを可能にした。
また、このためには、従来想定していなかった水に溶けにくいエポキシ架橋剤をあえて使用しつつ、エポキシ架橋剤の水中での失活を最小限にとどめ、量産に適合する長いポットライフを実現した。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】表3のディップ成形用組成物で作製したフィルムの疲労耐久性とディップ成形用組成物の蔵置経過日数の関係を示す図である。
【
図2】表3の各エポキシ架橋剤のMIBK/水分配率と各エポキシ架橋剤を用いたディップ成形用組成物のポットライフの関係を示す図である。
【
図3】表3の各エポキシ架橋剤の水溶率と各エポキシ架橋剤を用いたディップ成形用組成物のポットライフの関係を示した図である。
【
図4】疲労耐久性試験装置の一例を模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明するが、本発明がこれらの実施形態に限定されることはなく、様々な修正や変更を加えてもよいことは言うまでもない。なお、本明細書において「重量」と「質量」は同じ意味で用いられるので、以下、「重量」に統一して記載する。
本明細書において、「疲労耐久性」とは、手袋が、使用者(作業者)の汗により性能が劣化して破断することに対する耐性を意味する。その具体的な評価方法については後述する。
また、疲労耐久性については、通常、手袋の指股部分が破れやすいため、指股部分が90分を超えることを実用上の合格ラインとしているが、本発明においては、陶板上でフィルムを作製し、疲労耐久性を見ているため、手のひら部分に相当する疲労耐久性で見ることになる。手のひら部分と指股部分の疲労耐久性については、下式で変換可能である。
式(手のひら疲労耐久性(分)+21.43)÷2.7928=指股疲労耐久性(分)
よって、本発明における疲労耐久性試験の合格ラインは240分とする。
また、本発明においては、引張強度はMPaで表示しており、破断時荷重(N)を試験片の断面積で除した値であり、厚みによる影響を除いた数値であり、合格ラインを通常の薄手手袋(3.2g超~4.5g:膜厚60μm超~90μm)では20MPaとしている。一方、EN規格(EN 455)では、破断時荷重6Nを基準としており、より薄手の手袋(2.7~3.2g:膜厚50~60μm)の手袋においては、35MPaを超える性能が要求される。
【0009】
1.ディップ成形用組成物
(1)ディップ成形用組成物の概要
本実施形態のディップ成形用組成物は、特定のエラストマーと、特定のエポキシ架橋剤と、水と、及びpH調整剤とを少なくとも含み、さらに必要に応じて金属架橋剤等を含むものである。
このディップ成形用組成物は、手袋用のディッピング液としてpH9.0~10.5程度に調整され、各固形分はマチュレーションによって攪拌され、ほぼ均一に分散していると考えられるエマルションである。
ディップ成形用組成物は、通常、7割以上(好ましくは78~92重量%)を水が占めている水系エマルションであるので、水に溶けやすいエポキシ架橋剤を用いることが良いと考えられていた。しかし、水溶率が高いエポキシ架橋剤はアルカリ性下の水中で急速に
失活することから、非常に短いポットライフしか得られないことが分かった。
そこで、水溶率を基準として各エポキシ架橋剤のポットライフを確認する実験を行ったところ、水溶率の低いエポキシ架橋剤を用いた場合ほど、ポットライフが長くなる傾向があることがわかった。
また、ディップ成形用組成物は、XNBR(カルボキシル化(メタ)アクリロニトリルブタジエンエラストマー)を含有するラテックスであり、XNBRが水系エマルションとして粒子径50~250nm程度の粒子を形成している。粒子内と粒子外では環境が大きく異なり、粒子内はブタジエン残基、(メタ)アクリロニトリル残基、(メタ)アクリル酸から構成される炭化水素を主成分としているため、親油性である。一方、粒子外は、水および水溶性成分(例えばpH調整剤、他)から構成されているため、粒子外は親水性を有している。
粒子外の親水性領域にエポキシ架橋剤が留まるときは、加水分解により失活してしまうことを考えると、水と接触を避けることができる粒子内の親油性領域に、より多く入ることのできるエポキシ架橋剤の方が失活を免れ、その結果ポットライフを延ばすことができると考えられる。
そこで各エポキシ架橋剤が、水(親水性領域)と有機溶媒(親油性領域)のどちらに溶けやすいかという分配率とポットライフの関係を検討することとした。
まず、簡易的な水/オクタノール分配率、水/酢酸エチル分配率で検討したところ、オクタノール、酢酸エチルに多く溶けるエポキシ架橋剤の方がポットライフが長い傾向があることがわかった。しかし、オクタノールについては、水も同時に引き込む点や酢酸エチルについてはエポキシ架橋剤の特定の構造によって数値が左右されることから、基準としては適切でなかった。
そのため、ラテックスの親油性環境により近く、水溶性も低いメチルイソブチルケトン(MIBK)で各エポキシ架橋剤のMIBK/水分配率を計測した上で、各エポキシ架橋剤で作ったディップ成形用組成物のポットライフと対照したところ、上記推論通りMIBK/水分配率が高いほどディップ成形用組成物のポットライフが長くなることがわかった。
この結果、ディップ成形用組成物中において、エポキシ架橋剤の水溶率10~70%、または、MIBK/水分配率が27%以上である3価以上のエポキシ架橋剤を使うことによって、最低でも3日以上の、量産に最低限必要なポットライフを得られることがわかった。
また、ポットライフの長いエポキシ架橋剤であるほど水には溶けにくく、水にも油にも溶けるジエチレングリコール(DEG)等の分散剤を併せて使用することがよいこともわかった。
なお、本発明の実施形態にかかるディップ成形用組成物は、手袋の成形用以外にも、例えば、哺乳瓶用乳首、スポイト、導管、水枕等の医療用品、風船、人形、ボール等の玩具や運動具、加圧成形用バッグ、ガス貯蔵用バッグ等の工業用品、手術用、家庭用、農業用、漁業用及び工業用の手袋、指サック等のディップ成形品の成形に用いることができる。次に、ディップ成形用組成物の固形分につき説明する。
【0010】
(2)エラストマー
エラストマーは、(メタ)アクリロニトリル由来の構造単位、不飽和カルボン酸由来の構造単位、及びブタジエン由来の構造単位をポリマー主鎖に少なくとも含む。このエラストマーを、カルボキシル化(メタ)アクリロニトリルブタジエンエラストマー又は単に「XNBR」とも記す。またエラストマーとしてXNBRを用いて得た手袋のことを単に「XNBR手袋」ともいう。
【0011】
各構造単位の比率は、手袋を製造するためにはエラストマー中に、(メタ)アクリロニトリル由来の構造単位、すなわち(メタ)アクリロニトリル残基が20~40重量%、不飽和カルボン酸由来の構造単位、すなわち不飽和カルボン酸残基が1~10重量%、及び
ブタジエン由来の構造単位、すなわちブタジエン残基が50~75重量%の範囲である。これらの構造単位の比率は、簡便には、エラストマーを製造するための使用原料の重量比率から求めることができる。
【0012】
(メタ)アクリロニトリル由来の構造単位は、主に手袋に強度を与える要素であり、少なすぎると強度が不十分となり、多すぎると耐薬品性は上がるが硬くなりすぎる。エラストマー中における(メタ)アクリロニトリル由来の構造単位の比率は、25~40重量%であることがより好ましい。従来のXNBR手袋においては(メタ)アクリロニトリル由来の構造単位の比率は25~30重量%が通常であったが、近年30重量%以上のXNBRで強度を高くしながら、かつ、伸びもよいXNBRが開発されており、超薄手の手袋を作る際には有効である。(メタ)アクリロニトリル由来の構造単位の量は、ニトリル基の量を元素分析により求められる窒素原子の量から換算して求めることができる。
【0013】
ブタジエン由来の構造単位は、手袋に柔軟性を持たせる要素であり、通常50重量%を下回ると柔軟性を失う。エラストマー中におけるブタジエン由来の構造単位の比率は、55~70重量%であることがより好ましく、60重量%程度が特に好ましい。
【0014】
不飽和カルボン酸由来の構造単位の量は、適度な架橋構造を有し最終製品である手袋の物性を維持するために、1~10重量%であることが好ましく、1~9重量%、及び1~6重量%であることが、この順により好ましい。不飽和カルボン酸由来の構造単位の量は、カルボキシル基の逆滴定法、及びカルボキシル基由来のカルボニル基を赤外分光(IR)等により定量することによって、求めることができる。
【0015】
不飽和カルボン酸由来の構造単位を形成する不飽和カルボン酸としては、特に限定はされず、モノカルボン酸でもよいし、ポリカルボン酸でもよい。より具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸等が挙げられる。なかでも、アクリル酸及び/又はメタクリル酸(以下「(メタ)アクリル酸」という。)が好ましく使用され、より好ましくはメタクリル酸が使用される。
ブタジエン由来の構造単位は、1,3-ブタジエン由来の構造単位であることが好ましい。
【0016】
ポリマー主鎖は、実質的に、(メタ)アクリロニトリル由来の構造単位、不飽和カルボン酸由来の構造単位、及びブタジエン由来の構造単位からなることが好ましいが、その他の重合性モノマー由来の構造単位を含んでいてもよい。
その他の重合性モノマー由来の構造単位は、エラストマー中に30重量%以下であることが好ましく、20重量%以下であることがより好ましく、15重量%以下であることが一層好ましい。
【0017】
好ましく使用できる重合性モノマーとしては、スチレン、α-メチルスチレン、ジメチルスチレンなどの芳香族ビニル単量体;(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド等のエチレン性不飽和カルボン酸アミド;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシルなどのエチレン性不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体;及び酢酸ビニル等が挙げられる。これらは、いずれか1種、又は複数種を組み合わせて、任意に用いることができる。
【0018】
エラストマーは、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸等の不飽和カルボン酸、1,3-ブタジエン等のブタジエン、及び必要に応じてその他の重合性モノマーを用い、定法に従い、通常用いられる乳化剤、重合開始剤、分子量調整剤等を使用した乳化重合によって、調製することができる。
乳化重合時の水は、固形分が30~60重量%である量で含まれることが好ましく、固形分が35~55重量%となる量で含まれることがより好ましい。
エラストマー合成後の乳化重合液を、そのまま、ディップ成形用組成物のエラストマー成分として用いることができる。
【0019】
乳化剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、脂肪族スルホン酸塩、等のアニオン性界面活性剤;ポリエチレングリコールアルキルエーテル、ポリエチレングリコールアルキルエステル、等の非イオン性界面活性剤が挙げられ、好ましくは、アニオン性界面活性剤が使用される。
【0020】
重合開始剤としては、ラジカル開始剤であれば特に限定されないが、過硫酸アンモニウム、過リン酸カリウム等の無機過酸化物;t-ブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、p-メンタンハイドロパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル等のアゾ化合物等を挙げることができる。
【0021】
分子量調整剤としては、t-ドデシルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン等のメルカプタン類、四塩化炭素、塩化メチレン、臭化メチレン等のハロゲン化炭化水素が挙げられ、t-ドデシルメルカプタン;n-ドデシルメルカプタン等のメルカプタン類が好ましい。
【0022】
本発明の実施形態にかかるエポキシ架橋手袋に使用する好適なエラストマーの特徴につき、以下説明する。
<ムーニー粘度(ML(1+4)(100℃))によるエラストマーの選択>
手袋は、種々の架橋剤による架橋部分を除いた相当の部分が、凝固剤であるカルシウムで架橋されている(凝固剤としてカルシウムイオンを含むものを用いた場合)。本発明で金属架橋剤を使用しない場合、引張強度はカルシウム架橋によって保持される。
カルシウム架橋による引張強度はエラストマーのムーニー粘度の高さにほぼ比例することがわかっている。エポキシ架橋も行わない場合でムーニー粘度が80のエラストマーを用いた場合は約15MPa、ムーニー粘度が100の場合は約20MPaの引張強度になる。したがって、ムーニー粘度が100~150程度のエラストマーを選択することが好適である。
ムーニー粘度の上限は、ムーニー粘度そのものの測定限界が220であり、ムーニー粘度が高すぎると成形加工性の問題が生じるので、概ね220である。一方、ムーニー粘度が低すぎるエラストマーを用いた場合には引張強度が出ない。
【0023】
<エラストマー鎖の分岐が少なく直鎖状であること>
亜鉛や硫黄に比べて分子量の大きいエポキシ化合物を含むエポキシ架橋剤が、エラストマー鎖内部に侵入しやすくするためには、エラストマー鎖の分岐が少なく、直鎖状であるエラストマーが好適である。分岐の少ないエラストマーは、各ラテックスメーカーにおいてその製造時に各種の工夫がなされているが、概して言えば、重合温度の低いコールドラバー(重合温度5~25℃)の方がホットラバー(重合温度25~50℃)より好ましいと考えられる。
【0024】
<エラストマーのゲル分率(MEK不溶解分)>
本発明の実施形態に用いるエラストマーにおいては、ゲル分率は少ない方が好ましい。
メチルエチルケトン(MEK)不溶解分の測定では、40重量%以下であることが好ましく、10重量%以下であることがより好ましい。ただし、MEK不溶解分は、ムーニー
粘度のような引張強度との相関性はない。
なお、このことは、エラストマーのアセトン可溶成分が多いエラストマーが好適であるとも言え、これによってエポキシ架橋剤が親油性環境であるエラストマー粒子内に侵入して保護されるので、エラストマーの疲労耐久性も高くなると考えられる。
【0025】
<エラストマーの離水性>
本発明の実施形態に用いるエラストマーは、水系エマルションとして粒子径50~250nm程度の粒子を形成している。エラストマーには、水との親和性が比較的高いものと低いものがあり水との親和性が低いほど、粒子間の水の抜けやすさ(離水性)が高くなり、離水性が高いほどエラストマー粒子間の架橋が円滑に行われる。
このため、離水性の高いXNBRを使用すれば架橋温度もより低くすることができる。
【0026】
<エラストマー中の硫黄元素の含有量>
本発明の実施形態に用いるエラストマーにおいて、燃焼ガスの中和滴定法により検出される硫黄元素の含有量は、エラストマー重量の1重量%以下であることが好ましい。
硫黄元素の定量は、エラストマー試料0.01gを空気中、1350℃で10~12分間燃焼させて発生する燃焼ガスを、混合指示薬を加えた過酸化水素水に吸収させ、0.01NのNaOH水溶液で中和滴定する方法により行うことができる。
【0027】
ディップ成形用組成物には、複数種のエラストマーを組み合わせて含ませてもよい。ディップ成形用組成物中のエラストマーの含有量は、特に限定されないが、ディップ成形用組成物の全量に対して15~35重量%程度であることが好ましく、18~30重量%であることがより好ましい。
【0028】
(3)エポキシ架橋剤
(a)本発明の実施形態にかかるエポキシ架橋剤
本発明の実施形態にかかるエポキシ架橋剤は、1分子中に3個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物を含有するエポキシ架橋剤であり、水溶率が10~70%、または、MIBK/水分配率が27%以上であるエポキシ架橋剤である。
以下、順を追って説明する。
【0029】
(b)1分子中に3個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物を含有するエポキシ架橋剤
i.1分子中に3個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物
1分子中に3個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物は、通常複数のグリシジルエーテル基と、脂環族、脂肪族又は芳香族の炭化水素を有する母骨格を持つもの(以下「3価以上のエポキシ化合物」ともいう)である。3価以上のエポキシ化合物は、3個以上のグリシジルエーテル基を有するエポキシ化合物を好ましく挙げることができる。3個以上のグリシジルエーテル基を有するエポキシ化合物は、通常、エピハロヒドリンと1分子中に3個以上の水酸基を持つアルコールとを反応させて製造することができる。
1分子中に3個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物を含有するエポキシ架橋剤としては、その他ポリグリシジルアミン、ポリグリシジルエステル、エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化大豆油等を挙げることができる。
【0030】
3価以上のエポキシ化合物の母骨格を形成する3個以上の水酸基を持つアルコールとしては、脂肪族のグリセロール、ジグリセロール、トリグリセロール、ポリグリセロール、ソルビトール、ソルビタン、キシリトール、エリスリトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、芳香族のクレゾールノボラック、トリスヒドロキシフェニルメタンが挙げられる。
3価以上のエポキシ化合物の中でも、ポリグリシジルエーテルを用いることが好ましい
。
具体的には、グリセロールトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ソルビトールトリグリシジルエーテル、ソルビトールテトラグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールトリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、ジグリセロールトリグリシジルエーテルから選択される少なくとも一種を含むエポキシ架橋剤を用いることが好ましく、中でもトリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールトリグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ジグリセロールトリグリシジルエーテル及びペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテルの中から選択される少なくとも一種を含むエポキシ架橋剤を用いることがさらに好ましい。また、ソルビトール骨格を有さないエポキシ化合物を含むエポキシ架橋剤を用いることが好ましい。
【0031】
ii.1分子中に3個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物を含有するエポキシ架橋剤(以下、3価以上のエポキシ架橋剤ともいう)について
エポキシ架橋剤の中でも、グリシジルエーテル基を有するエポキシ化合物を含むものについては、一般にアルコールの水酸基とエピハロヒドリンを以下のように反応させて製造することができる。なお、以下の(I)では、説明を簡略化するために、アルコールとして1価のものを使用し、エピハロヒドリンとしてエピクロロヒドリンを使用している。
【化1】
エポキシ架橋剤に含まれるエポキシ化合物は、原料のアルコールの水酸基の数によって、2価から概ね8価までのものがある。ただし、反応の過程での副反応により、例えば3価のエポキシ化合物を目的物として合成した場合でも、数種類の化合物が生成し、通常、その中に2価のエポキシ化合物も含まれる。
そのため、例えば、3価のエポキシ架橋剤は、2価及び3価のエポキシ化合物の混合物となることが一般的である。通常、3価のエポキシ架橋剤といわれているものも、主成分である3価のエポキシ化合物の含有率は50%程度といわれている。
また、エポキシ架橋剤には水に溶けにくいものがあり、これは、エポキシ化合物の構造中に含まれる塩素等の影響が大きい。
本発明において使用するエポキシ架橋剤は、グリシジルエーテル基を有するエポキシ化合物を含むものである場合、通常、エピハロヒドリンと、3個以上の水酸基を有するアルコールとを反応させて得られる3価以上のエポキシ化合物を含有するエポキシ架橋剤である。
より具体的には、ディップ成形用組成物のポットライフの観点からは、ナガセケムテックス社製デナコールEx-313、Ex-314、Ex-321、Ex-321B、Ex-411、Ex-421、Ex-612、Ex-622等の製品が挙げられる。
なお、エピハロヒドリンとして、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、及びエピアイオダイトヒドリンから選ばれる一種以上を使用することができる。これらの中でもエピクロロヒドリンを用いることが好ましい。また、3価以上のエポキシ架橋剤と、2価のエポキシ架橋剤を混ぜて使用することができる。あるいは、3価以上のエポキシ架橋剤を製造する際に、3個以上の水酸基を有するアルコールと、2個の水酸基を有するアルコールを混合して反応させることもできる。
【0032】
iii.従来の2価のエポキシ架橋剤と3価以上のエポキシ架橋剤の比較
従来から用いられていた2価のエポキシ架橋剤では、エポキシ化合物の1分子で2つの
カルボキシル基間を架橋する2点架橋であったのに対し、本発明の実施形態で用いるエポキシ架橋剤に含まれるエポキシ化合物は、1分子で3以上のカルボキシル基間を架橋する多点架橋ができることが特徴である。これによりエラストマー分子間の架橋が多くなって、従来の2点架橋の手袋に比較して、圧倒的な疲労耐久性をもたらしていると考えられる。より良好な疲労耐久性を得るために、エポキシ架橋剤に含まれるエポキシ化合物の1分子中に含まれるエポキシ基の数の上限値は、特に限定されないが、例えば8を挙げることができる。また、従来メインとして使用されている2価のエポキシ化合物だとエポキシ基が1つ失活するだけでエポキシ化合物が架橋機能を失ってしまう。
これに対し、本発明において用いる3価以上のエポキシ化合物を含むエポキシ架橋剤だと、エポキシ化合物のエポキシ基の1つが失活しても、2個以上のエポキシ基が残存するので、架橋機能が残ることになる。これにより、本発明は従来の2価のエポキシ化合物を用いた場合と比べてより効率的に架橋を行うことができる。
これにより、従来に比べて少ない添加量のエポキシ架橋剤で同一性能の手袋が作れるようになった。
【0033】
iv.エポキシ化合物とXNBRのカルボキシル基との架橋反応
以下の式(II)で示すように、エポキシ架橋は以下の反応により生じる。なお、以下(II)で示すエポキシ化合物は説明を簡略化する観点から1価のものを用いている。
【化2】
エポキシ化合物が架橋を形成するのは、XNBR中のカルボキシル基であり、エポキシ化合物で架橋を形成するには、最適の条件として、キュアリング工程において110℃以上で加熱し、エポキシ基の開環反応を起こさせることが挙げられる。
後述する実施例においては、プリキュアリング工程を80℃2分、キュアリング工程を130℃30分行っている。後述する多くの実施例では、0.5重量部という少量のエポキシ架橋剤を用いたが、架橋を十分に行わせることを考慮した条件としたものであり、そのような少量のエポキシ架橋剤であっても、十分な疲労耐久性の数字を示している。
また、ディップ成形用組成物に含まれるXNBRの粒子内の親油性環境下で失活を免れていたエポキシ架橋剤は、硬化フィルム前駆体となり、キュアリング工程において全体が親油環境となって加熱されたとき、粒子外に突き出たXNBRのカルボキシル基と反応する。このとき、離水性の良いXNBRを選定することにより架橋効率が上がり、架橋温度を下げることができる。
【0034】
v.好適なエポキシ架橋剤の性質
<平均エポキシ基数>
上述のように3価以上のエポキシ架橋剤であっても、2価のエポキシ化合物も副反応として含まれることがあるので、各製品を評価するうえでは、平均エポキシ基数を把握して3価のエポキシ基を有する化合物の割合を把握しておくことが重要である。
平均エポキシ基数は、エポキシ架橋剤に含まれる各エポキシ化合物をGPCにより特定し、それぞれのエポキシ化合物の1分子中のエポキシ基の数に、該エポキシ化合物のモル数を乗じて得たエポキシ基数を、各エポキシ化合物について求め、それらの合計値をエポキシ架橋剤に含まれる全てのエポキシ化合物に含まれる全てのエポキシ化合物の合計モル
数で割って得られる。
本発明の実施形態に用いるエポキシ架橋剤の平均エポキシ基数は2.0を超えるものであり、手袋の良好な疲労耐久性を得る観点から、平均エポキシ基数が2.3以上であることが好ましく、2.5以上がより好ましい。
【0035】
<当量>
好適な疲労耐久性を得る観点から、エポキシ架橋剤のエポキシ当量は、100g/eq.以上230g/eq.以下であることが好ましい。エポキシ当量が同程度であっても、3価のエポキシ架橋剤の方が、2価のエポキシ架橋剤に比較して疲労耐久性が良い傾向がある。
エポキシ架橋剤のエポキシ当量は、エポキシ架橋剤の平均分子量を平均エポキシ基数で除した値であり、エポキシ基1個当たりの平均重量を示す。この値は過塩素酸法により計測することができる。
【0036】
<分子量>
また、水中分散性の観点から、エポキシ架橋剤が含有するエポキシ化合物の分子量は150~1500であることが好ましく、175~1400であることがより好ましく、200~1300であることがより好ましい。
【0037】
vi.エポキシ架橋剤の添加量
エポキシ架橋剤の添加量は、エラストマー間に充分な架橋構造を導入して疲労耐久性を確保する観点から、エポキシ化合物の1分子中のエポキシ基の数や純度にも依るが、エラストマー100重量部に対して0.1重量部以上を挙げることができる。実用的には、極薄(2.7g手袋、膜厚50μm程度)であってもエラストマー100重量部に対して0.4重量部以上で十分な性能の手袋を製造できる。一方、添加量が過剰量となるとかえってエラストマーの特性を低下させる恐れがあることから、エポキシ架橋剤のディップ成形用組成物への添加量の上限は、エラストマーを100重量部に対して5重量部であることが好ましいと考えられる。特筆すべきは、従来の2価のエポキシ架橋剤を用いて得られた手袋を例に挙げると、エラストマー100重量部に対して2重量部の添加量で、薄手(4.5g手袋:膜厚90μm程度)の手袋を作製した場合、手のひら部分の疲労耐久性が240分以下、指股部分の疲労耐久性が90分程度と合格基準すれすれであった。
一方、本発明においては、薄手手袋の場合、エポキシ架橋剤の添加量はエラストマー100重量部に対して0.4~1.0重量部が好ましく、0.5~0.7重量部がより好ましい。
他方で、エポキシ架橋剤の種類に応じて、特にMIBK/水分配率が27%以上30%未満のエポキシ架橋剤の場合には、そのエポキシ架橋剤の添加量としてエラストマー100重量部に対して1.0重量部以上であることを好ましく例示できる。
ただし、厚手手袋(膜厚200超~300μm程度)の場合のように、亜鉛を減らすときには、さらにエポキシ架橋剤の添加量を増やすことも考えられる。
【0038】
(c)水溶率が10~70%、または、MIBK/水分配率が27%以上であるエポキシ架橋剤
i.量産に必要なポットライフを確保するためのエポキシ架橋剤の条件
ディッピング法による手袋の量産ラインでは、通常、ディップ成形用組成物(ディップ液)が3~5日の間、変質せず使用可能にすることが必要である。
本明細書において、「ポットライフ」とは、ディップ成形用組成物の特性を示すものであり、下記の実施例の項でその求め方を説明する。具体的には、「ポットライフ」とは、ディップ成形用組成物の調製から硬化フィルムの作製に供するまでの期間であり、かつ、その期間内にディップ成形用組成物を用いれば、得られる硬化フィルムが特定の基準を満たすことができる期間のことである。
エポキシ架橋剤は、ディップ成形用組成物中においてpHが9.0~10.5のアルカリ性下でOH
-が触媒となり、以下の式(III)で示すように加水分解が進み、エポキシ化合物が失活してしまう(以下の式(III)では、説明を簡略化するために1価のエポキシ化合物を記載している)。
【化3】
エポキシ架橋剤は、従来、主にアクリル樹脂等と合わせて使用する2液性の塗料の架橋剤として使用されていた。その使用態様では、2液を混合させてすぐに使用するため、長時間のポットライフを維持する必要はなかった。
エポキシ架橋剤は、主に水溶率90%以上のものは水性塗料用として、90%未満のものは溶剤系塗料用として使用されてきた。その使用態様においても、水性塗料用としてエポキシ架橋剤を水と混合してもすぐに使用するので、エポキシ架橋剤の弱点である加水分解による失活は問題とならなかった。
従来の、2価の水溶率の高いエポキシ架橋剤を用いた手袋はエポキシ架橋剤を多く添加しても疲労耐久性は合格ラインすれすれで、しかもポットライフは1日程度であった。
本発明では3価以上のエポキシ架橋剤を用いることにより、従来の2価のエポキシ架橋剤を用いて得た手袋をはるかに上回る高い疲労耐久性を持たせたうえで、量産時に必要なポットライフを持たせたものである。
すなわち、水系エマルションであるディップ成形用組成物にあえて水に溶けにくいエポキシ架橋剤を使用することで、エポキシ架橋剤の水中での失活を最小限に抑え、必要なポットライフを確保できることを見出した。
そして、水溶率を基準として一定の水溶率の範囲内のエポキシ架橋剤を使用することで、ディップ成形用組成物の量産に必要なポットライフを得ることができる。
さらに、XNBR粒子内の親油性領域でエポキシ架橋剤が失活を免れることに着目し、水よりも親油性領域に入りやすいエポキシ架橋剤を使用することで、ディップ成形用組成物に必要なポットライフを確保できることを見出した。
そして、MIBK/水分配率を基準として、一定のMIBK/水分配率の範囲内のエポキシ架橋剤を使用することでディップ成形用組成物の量産に必要なポットライフを得ることができる。
なお、本発明においては、少なくとも3日経過したディップ成形用組成物で作成したフィルムが手袋性能として必要とする引張強度20MPa以上、疲労耐久性240分以上を満たすものであることを量産に必要なディップ成形用組成物のポットライフの合格基準とした。
【0039】
ii.水溶率が10~70%であるエポキシ架橋剤
本発明において、下記測定方法による水溶率が10~70%のエポキシ架橋剤を用いることで、3日以上のポットライフをもつディップ成形用組成物を得ることができる。
水溶率が70%を超えると、ポットライフは3日に達しない傾向がある。水溶率が小さくなるほどポットライフは延びるが、10%未満になると、水にも、XNBRにも不溶となっていき、実用上の生産に不適になる。
ただし、例外的に水溶率が70%を超えても次に述べるMIBK/水分配率が高ければ3日のポットライフを持つものもあるが、70%以下であれば確実に3日以上のポットライフを持たせることができる。
【0040】
水溶率測定方法
1.ビーカーにエポキシ架橋剤を25.0g精秤し、水(25℃)を225g加える。
2.室温(23℃±2℃)で15分間強く撹拌・混合後、1時間静置する。
3.ビーカー底部に沈殿した油状物の体積(mL)を測定する。
4.次式により水溶率を算出する。
水溶率(%)=(25.0(g)-(油状物の体積(mL)×エポキシ架橋剤の密度(g/mL))/25.0×100
【0041】
iii.MIBK/水分配率が27%以上であるエポキシ架橋剤
本発明において、下記測定方法によるMIBK/水分配率が27%以上のエポキシ架橋剤を用いることで、3日以上のポットライフを持つディップ成形用組成物を得ることができる。MIBK/水分配率が27%未満であるとポットライフは3日に達しない。エポキシ架橋剤のMIBK/水分配率は30%以上であることが、ディップ成形用組成物のポットライフを所望のものにするために好ましい。MIBK/水分配率とポットライフには相関関係があり、MIBK/水分配率が上がるほど例外なくポットライフは延びる。
MIBK/水分配率が50%以上のエポキシ架橋剤であれば、5日以上のポットライフを得ることができる。
さらに、MIBK/水分配率が70%以上のエポキシ架橋剤であれば、概ね7日以上のポットライフを得ることができる。
【0042】
MIBK/水分配率は以下のようにして測定することができる。
まず、試験管に水約5.0g、MIBK約5.0g、エポキシ架橋剤約0.5gを精秤して加える。MIBKの重量をM(g)、エポキシ架橋剤の重量をE(g)とする。
この混合物を23℃±2℃の温度下で3分間良く攪拌混合した後、1.0×103Gの条件で10分間遠心分離し、水層とMIBK層に分ける。次いで、MIBK層の重量を測定し、これをML(g)とする。
MIBK/水分配率(%)=(ML(g)-M(g))/E(g)×100
なお、本明細書におけるMIBK/水測定法については、水とMIBKの重量を基準に計測したが、MIBKが水を若干溶解するため、実験数値としてマイナス%が出るが、同一基準で計測しているので、基準として採用可能であると考えた。
【0043】
iv.エポキシ架橋剤とポットライフの関係
エポキシ架橋剤を含有するディップ成形用組成物のポットライフを検討するために、ディップ成形用組成物を調製してからの経過時間ごと(1日ごと)に作製したフィルムの疲労耐久性をプロットし、そのカーブの傾き、ピーク位置および各架橋剤で得られたフィルムの疲労耐久性の数値レベルを確認した(実施例として後述する)。
まず、2価のエポキシ架橋剤と3価以上のエポキシ架橋剤では、3価以上のエポキシ架橋剤の方が、疲労耐久性の数値レベルは高い。
次に、3価以上のエポキシ架橋剤の中でも、例えば1日目のフィルムの疲労耐久性を見ると合格ラインである240分を超えた中でも大きく異なっている。
3価以上のエポキシ架橋剤を用いた場合であっても、疲労耐久性のピークが1日以内で、そのピークから急激に疲労耐久性が落ち、短いポットライフしか得られないエポキシ架橋剤が存在した。また、疲労耐久性のピークが2日目以降にあり、そのピークから緩やかなカーブを描き疲労耐久性が落ちていき、長いポットライフを示すエポキシ架橋剤も存在し、これら2つに大別されることがわかった。
前者は、水溶率が高く、MIBK/水分配率が低いエポキシ架橋剤であり、後者は水溶性が低く、MIBK/水分配率が高いエポキシ架橋剤であった。
水溶率と、MIBK/水分配率はポットライフと概ね相関するが、水溶率が高くてもMIBK/水分配率が高ければ、ポットライフは長くなる傾向にあった。本発明では、上記
で挙げた水溶率とMIBK/水分配率の両方の要件を満たすエポキシ架橋剤を好ましく使用することができる。
【0044】
(4)エポキシ架橋剤の分散剤
上述したエポキシ架橋剤は、ディップ成形用組成物中において均一な分散状態に保つ必要がある。一方、本発明の実施形態における水溶率が10~70%またはMIBK/水分配率が27%以上のエポキシ架橋剤においては、水溶率が低いもの、あるいはMIBK/水分配率が高いものほどラテックス溶液に架橋剤を添加するのが難しく、また分散しにくいという問題があることが分かってきた。
もともと、水性塗料用として使用されていた水溶率90%を超えるエポキシ架橋剤は、水分散性に問題は生じないが、溶剤系塗料用として使用されていた水溶率が90%以下のエポキシ架橋剤については、分散剤を用いてエポキシ架橋剤を溶解した上で、エラストマーへ配合することを考えた。
特に、水溶率が64%以下、あるいはMIBK/水分配率が50%以上になると水に溶かしたときに白濁が見られるので、分散剤による分散が必要であると考えた。
【0045】
前記エポキシ架橋剤の分散剤は、一価の低級アルコール、以下の式(1)で表されるグリコール、以下の式(2)で表されるエーテル、以下の式(3)で表されるエステルからなる群から選択される1種以上であることが好ましい。
HO-(CH2CHR1-O)n1-H (1)
(式(1)中、R1は、水素またはメチル基を表し、n1は1~3の整数を表す。)
R2O-(CH2CHR1-O)n2-R3 (2)
[式(2)中、R1は、水素またはメチル基を表し、R2は、炭素数1~5の脂肪族炭化水素基を表し、R3は、水素または炭素数1~3の脂肪族炭化水素基を表し、n2は0~3の整数を表す。]
R2O-(CH2CHR1-O)n3-(C=O)-CH3 (3)
[式(3)中、R1は、水素またはメチル基を表し、R2は、炭素数1~5の脂肪族炭化水素基を表し、n3は0~3の整数を表す。]
【0046】
一価の低級アルコールとしては、メタノール、エタノールなどを挙げることができる。
式(1)で表されるグリコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールなどを挙げることができる。
式(2)で表されるエーテルの内、グリコールエーテルとしては、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテルなどが挙げられる。また、式(2)で表されるエーテルとして、n2=0のエーテルも用いることができる。
式(3)で表されるエステルとしては、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートなどを挙げることができる。
上記のエポキシ架橋剤の分散剤を用いる場合は、一種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、上記分散剤は、予め水と混合せずに使用することが好ましい。
【0047】
本発明者は、分散剤として有機溶媒を用いることを検討し、有機溶媒については、まず人体に有害でない溶媒を選別した結果、アルコールが好ましいことが分かった。
アルコールの中でも、グリセリンや、高級アルコールはよい結果が得られなかった。
その結果、上記の中でもアルコールをエポキシ架橋剤の分散剤として用いることが好適であることを見出した。
上記の中でも、メタノール、エタノール、ジエチレングリコールを用いることが好ましく、揮発性、引火性の観点からジエチレングリコールを用いることが特に好ましい。
ジエチレングリコールは、親水性の高いグリコール基とエーテル構造を有すると同時に親油性のある炭化水素構造が含まれ、水にもエラストマーにも溶けやすいので好適であると推測される。
【0048】
ディップ成形用組成物における、エポキシ架橋剤と分散剤の重量比は、1:4~1:1であることが好ましい。
ディップ成形用組成物を調製する際に、水溶率が低いエポキシ架橋剤を用いる場合には、予めそのエポキシ架橋剤をエポキシ架橋剤の分散剤に溶解させた上で、ディップ成形用組成物の他の構成成分と混合することが好ましい。
【0049】
(5)pH調整剤
ディップ成形用組成物は、後述するマチュレーション工程の段階でアルカリ性に調整しておく必要がある。アルカリ性にする理由のひとつは、金属架橋を十分に行うために、エラストマーの粒子から-COOHを-COO-として外側に配向させ、酸化亜鉛のような金属架橋剤と、凝固剤としてカルシウムイオンを含むものを用いる場合に、亜鉛とカルシウムなどの粒子間架橋を十分に行わせるためである。
好ましいpHの値は9.0~10.5であり、pHが低くなると-COOHの粒子外への配向が少なくなり架橋が不十分となり、pHが高くなりすぎるとラテックスの安定性が悪くなる。
pH調整剤としては、アンモニア、アンモニウム化合物、アミン化合物及びアルカリ金属の水酸化物から得られる一種以上を使用できる。これらの中でも、pH調整やゲリング条件などの製造条件が容易であるため、アルカリ金属の水酸化物を用いることが好ましく、その中でも水酸化カリウム(以下、KOHともいう)が最も使用しやすい。以下、実施例ではpH調整剤はKOHを主に使用して説明する。
pH調整剤の添加量は、ディップ成形用組成物中のエラストマー100重量部に対して0.1~4.0重量部程度を挙げることができるが、通常、工業的には1.8~2.0重量部程度を使用する。
【0050】
(6)金属架橋剤
本発明の実施形態にかかる手袋を構成するエラストマーにおいては、凝固剤としてカルシウムイオンを含むものを用いた場合、カルシウムのイオン結合と組み合わされた架橋構造を持っている。
カルシウムは、人の汗を模した人工汗液中ですぐに溶出しやすいので引張強度が低下しやすい。また、カルシウムイオンは、他の金属架橋剤である酸化亜鉛またはアルミニウム錯体に比べイオン半径が大きく有機溶媒の非透過性が不十分である。そのため、亜鉛架橋またはアルミニウム架橋によって一部のカルシウム架橋を置換しておくことは有効であると考えられる。また、酸化亜鉛またはアルミニウム錯体の量を増やすことによって引張強度、耐薬性をコントロールすることができる。特に架橋後のアルミニウムは、人工汗液のような汗を模した溶液中に非常に溶出しにくいという利点がある。
【0051】
金属架橋剤として用いられる多価金属化合物は、エラストマー中の未反応のカルボキシル基等の官能基間をイオン架橋するものである。多価金属化合物としては、二価金属酸化物である酸化亜鉛が通常に用いられる。また、三価金属であるアルミニウムはこれを錯体にすることで架橋剤に用いることができる。アルミニウムは、イオン半径が上記の中で最も小さく、耐薬性、引張強度を出すには最適であるが、あまり多く添加すると手袋が硬くなりすぎるので、その取り扱いは難しい。
二価金属酸化物、例えば酸化亜鉛、及び/またはアルミニウム錯体の添加量は、ディップ成形用組成物中のエラストマー100重量部に対して、0.2~4.0重量部であり、好ましくは0.4~3.0重量部である。実用上は、0.9~1.5重量部を挙げることができる。
【0052】
アルミニウムを架橋剤として使用するためには、コンパウンドするときに、中性~弱塩基性の溶液でXNBRラテックスに加える必要がある。
しかし、アルミニウム塩の水溶液は中性~弱塩基性の時は水酸化アルミニウムのゲルとなってしまい、架橋剤として用いることができない。それを解決するために、配位子として多塩基性ヒドロキシカルボン酸を用いた手法が考えられる。ここでの多塩基性ヒドロキシカルボン酸としては、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸などの水溶液が利用できる。
この中では、手袋の引張強度、疲労耐久性の点からはリンゴ酸が、アルミニウム水溶液の安定性の点からは、クエン酸を配位子として用いることが好ましい。
【0053】
(7)その他の成分
ディップ成形用組成物は、上記の成分と水を含むものであり、それ以外にも、通常は、その他の任意成分を含んでいる。ディップ成形用組成物における水の含有量は、通常、78~92重量%を挙げることができる。
【0054】
ディップ成形用組成物は、さらに、分散剤を含んでいてもよい。分散剤としては、アニオン界面活性剤が好ましく、例えば、カルボン酸塩、スルホン酸塩、リン酸塩、ポリリン酸エステル、高分子化アルキルアリールスルホネート、高分子化スルホン化ナフタレン、高分子化ナフタレン/ホルムアルデヒド縮合重合体等が挙げられ、好ましくはスルホン酸塩が使用される。
【0055】
分散剤には市販品を使用することができる。例えば、BASF社製「Tamol NN9104」などを用いることができる。その使用量は、ディップ成形用組成物中のエラストマー100重量部に対し0.5~2.0重量部程度であることが好ましい。
【0056】
ディップ成形用組成物は、さらにその他の各種の添加剤を含むことができる。該添加剤としては、酸化防止剤、顔料、キレート剤等が挙げられる。酸化防止剤として、ヒンダードフェノールタイプの酸化防止剤、例えば、WingstayLを用いることができる。また、顔料としては、例えば二酸化チタンが使用される。キレート化剤としては、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム等を使用することができる。
【0057】
本実施形態のディップ成形用組成物は、エラストマー、エポキシ架橋剤、pH調整剤、及び水、必要に応じて保湿剤、分散剤、酸化防止剤等の各添加剤を、慣用の混合手段、例えば、ミキサー等で混合して作ることができる。
【0058】
2.手袋の製造方法
本実施形態の手袋は、以下の製造方法により好ましく製造することができる。
すなわち、
(1)凝固剤付着工程(手袋成形型に凝固剤を付着させる工程)、
(2)マチュレーション工程(ディップ成形用組成物を調整し、攪拌する工程)、
(3)ディッピング工程(手袋成形型をディップ成形用組成物に浸漬する工程)、
(4)ゲリング工程(手袋成形型上に形成された膜をゲル化し、硬化フィルム前駆体を作る工程)、
(5)リーチング工程(手袋成形型上に形成された硬化フィルム前駆体から不純物を除去する工程)、
(6)ビーディング工程(手袋の袖口部分に巻きを作る工程)、
(7)プリキュアリング工程、(硬化フィルム前駆体をキュアリング工程よりも低温で加熱及び乾燥する工程)ただし、本工程は任意工程である。
(8)キュアリング工程(架橋反応に必要な温度で加熱及び乾燥する工程)
を含み、上記(3)~(8)の工程を上記の順序で行う手袋の製造方法である。
また、上記の製造方法において、上記(3)(4)の工程を2回繰り返す、いわゆるダブルディッピングによる手袋の製造方法も含む。
【0059】
なお、本明細書において、硬化フィルム前駆体とは、ディッピング工程で凝固剤により手袋成形型上に凝集されたエラストマーから構成される膜であり、続くゲリング工程において該膜中にカルシウムが分散してある程度ゲル化された膜であって、最終的なキュアリングを行う以前のものを指す。
【0060】
以下、各工程ごとに詳細を説明する。
(1)凝固剤付着工程
(a)モールド又はフォーマ(手袋成形型)を、凝固剤及びゲル化剤としてCa2+イオンを5~40重量%、好ましくは8~35重量%含む凝固剤溶液中に浸す。ここで、モールド又はフォーマの表面に凝固剤等を付着させる時間は適宜定められ、通常、10~20秒間程度である。凝固剤としては、カルシウムの硝酸塩又は塩化物が用いられる。エラストマーを析出させる効果を有する他の無機塩を用いてもよい。中でも、硝酸カルシウムを用いることが好ましい。この凝固剤は、通常、5~40重量%含む水溶液として使用される。
また、凝固剤を含む溶液は離型剤としてステアリン酸カリウム、ステアリン酸カルシウム、鉱油、又はエステル系油等を0.5~2重量%程度、例えば1重量%程度含むことが好ましい。
(b)凝固剤溶液が付着したモールド又はフォーマを炉内温度110℃~140℃程度のオーブンに1~3分入れ、乾燥させ手袋成形型の表面全体又は一部に凝固剤を付着させる。この時注意すべきは、乾燥後の手型の表面温度は60℃程度になっており、これが以降の反応に影響する。
(c)カルシウムは、手袋成形型の表面に膜を形成するための凝固剤機能としてばかりでなく、最終的に完成した手袋の相当部分の架橋機能に寄与している。後で添加される金属架橋剤は、このカルシウムの架橋機能の弱点を補強するためのものともいえる。
【0061】
(2)マチュレーション工程
(a)ディップ成形用組成物のpH調整剤の項目で説明したように、本発明の実施形態にかかるディップ成形用組成物をpH9.0以上に調整し、攪拌する工程である。この工程により、ディップ成形用組成物中の成分が分散・均一化すると考えられる。
(b)実際の手袋の製造工程においては、通常大規模なタンクで本工程を行うため、マチュレーションにも24時間程度かかることがある。これをディップ槽に流し、ディッピングしていくがディップ槽の水位が下がるのに応じて継ぎ足していく。そのため、エポキシ架橋剤は好ましくは5日程度、最低でも3日程度は失活しないようにしておく必要がある。従来の2価のエポキシ架橋剤については最大でも1日程度しかもたなかったが(1日を超えると失活してしまった)、3価の水溶率が10~70%またはMIBK/水分配率が27%以上のエポキシ架橋剤を使うことで、量産条件としての最低限の3日を確保(失活させずにおく)することができる。
ディップ槽においては、使用時間に従いpHが下がる傾向があるが工場によっては調整するところもある。
【0062】
(3)ディッピング工程
前記マチュレーション工程で、攪拌した本発明の実施形態にかかるディップ成形用組成物(ディップ液)をディップ槽に流し入れ、このディップ槽中に上記凝固剤付着工程で凝
固剤を付着、乾燥した後のモールド又はフォーマを通常、1~60秒間、25~35℃の温度条件下で浸漬する工程である。
この工程で凝固剤に含まれるカルシウムイオンにより、ディップ成形用組成物に含まれるエラストマーをモールド又はフォーマの表面に凝集させて膜を形成させる。
本発明の実施形態にかかる製造方法では、上記の(2)及び(3)の工程を、合計で72時間以上かけて行うことが好ましい。
【0063】
(4)ゲリング工程
(a)従来の硫黄架橋手袋においては、ゲリングオーブンで100℃近くまで加熱することが常識であった。これは、ラテックスの架橋を若干進ませて、後のリーチングの時に膜が変形しないように一定程度ゲル化するためであった。同時に、膜中にカルシウムを分散させ、後にカルシウム架橋を十分にさせる目的もあった。
これに対し、本発明のようにエポキシ架橋剤を用いる場合のゲリング条件は、通常、室温21℃~140℃近くの温度範囲内で20秒以上である。
この条件はpH調整剤としてKOHを使用する場合の条件であり、pH調整剤としてアンモニア化合物やアミン化合物を使用するときは、これとは異なる条件を採用してもよい。
(b)一般量産においてエポキシ架橋剤を使用する際のゲリング条件は、すでにモールド又はフォーマがある程度の温度を有していることや、工場内の周囲温度が50℃程度である場合が多いことなどから定められたものである。さらに、ゲリング工程の温度の上限については、品質を上げるため、あえて加熱するケースも想定したものである。本発明の実施形態のように、エポキシ架橋剤を用い、pH調整剤としてKOHを使用する場合にはそのような高温の条件にも十分に対応できる。
また、ゲリング工程の時間については、通常1分30秒~4分を挙げることができる。
【0064】
(5)リーチング工程
(a)リーチング工程は、硬化フィルム前駆体の表面に析出したカルシウム等の後のキュアリングに支障となる余剰な薬剤や不純物を水洗除去する工程である。通常は、フォーマを30~70℃の温水に1~5分程度くぐらせている。
(b)金属架橋剤として酸化亜鉛及び/又はアルミニウム錯体をディップ成形用組成物が含む場合、リーチング工程のもう1つの役割は、それまでアルカリ性に調整していた硬化フィルム前駆体を水洗して中性に近づけ、硬化フィルム前駆体中に含まれている酸化亜鉛又はアルミニウム錯イオンをZn2+、Al3+にし、後のキュアリング工程で金属架橋を形成できるようにすることである。
【0065】
(6)ビーディング工程
リーチング工程が終了した硬化フィルム前駆体の手袋の袖口端部を巻き上げて適当な太さのリングを作り、補強する工程である。リーチング工程後の湿潤状態で行うと、ロール部分の接着性が良い。
【0066】
(7)プリキュアリング工程
(a)前記ビーディング工程の後、硬化フィルム前駆体を後のキュアリング工程よりも低温で加熱及び乾燥する工程である。通常、この工程では60~90℃で30秒間~5分間程度、加熱及び乾燥を行う。プリキュアリング工程を経ずに高温のキュアリング工程を行うと、水分が急激に蒸発し、手袋に水膨れのような凸部ができて、品質を損なうことがあるが、本工程を経ずにキュアリング工程に移行してもよい。
(b)本工程を経ずに、キュアリング工程の最終温度まで温度を上げることもあるが、キュアリングを複数の乾燥炉で行いその一段目の乾燥炉の温度を若干低くした場合、この一段目の乾燥はプリキュアリング工程に該当する。
【0067】
(8)キュアリング工程
(a)キュアリング工程は、高温で加熱及び乾燥し、最終的に架橋を完成させ、手袋としての硬化フィルムにする工程である。エポキシ架橋剤による手袋は、高温でないと架橋が不十分となるので、通常100~150℃で10~30分、好ましくは15~30分程、加熱及び乾燥させる。ただし、本発明の実施形態では離水性の高いXNBRを使用するので、90℃、さらに70℃程度まで温度を下げても架橋が形成される。したがって、キュアリング工程の温度は、70~150℃を挙げることができる。キュアリング工程の好ましい温度としては、100~140℃を挙げることができる。
(a)このキュアリング工程において、手袋の架橋は完成するが、この手袋はXNBRのカルボキシル基とカルシウム架橋、エポキシ架橋と、金属架橋剤として酸化亜鉛及び/またはアルミニウム錯体を添加する場合には、亜鉛および/またはアルミニウム架橋、から形成されている。また、pH調整剤としてKOHを用いる場合には、そのカリウムと結合しているカルボキシル基もキュアリング工程において、エポキシ基が開環してカルボキシル基のカルボニル基と架橋する。
【0068】
(9)ダブルディッピング
手袋の製造方法について、上記ではいわゆるシングルディッピングの説明を行った。これに対し、ディッピング工程とゲリング工程を2回以上行うことがあり、これを通常ダブルディッピングという。
ダブルディッピングは、厚手手袋(膜厚200超~300μm程度)を製造するときや、薄手手袋の製造方法においても、ピンホールの生成防止等の目的で行われる。
ダブルディッピングの注意点としては、2回目のディッピング工程において、XNBRを凝集させるために、1回目のゲリング工程において、カルシウムを十分膜表面にまで析出させておくためのゲリング工程の十分な時間を必要とすることが挙げられる。
【0069】
従来のエポキシ架橋手袋の製造にあたっては、小さなマチュレーションタンクで短時間にマチュレーションを行い、すぐにディッピングを行い、エポキシ架橋手袋を製造せざるを得なかった。
これに対し、本発明においては3価の水溶率が10~70%、または、MIBK/水分配率が27%以上のエポキシ架橋剤を使用したディップ成形用組成物が、3日以上のポットライフ(可使時間)を持つので、現状の量産における上記製造方法によって少ないエポキシ架橋剤の添加量で、高い疲労耐久性を持ち、かつ必要な引張強度を持つ手袋を量産できるようになった。
【0070】
3.手袋
(1)本実施形態における手袋の構造
第1の実施形態における手袋は(メタ)アクリロニトリル由来の構造単位、不飽和カルボン酸由来の構造単位及びブタジエン由来の構造単位をポリマー主鎖に含むエラストマーの硬化フィルムからなる手袋であって、前記エラストマーは不飽和カルボン酸由来の構造単位が有するカルボキシル基と、1分子中に3個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物を含んでおり、エポキシ架橋剤の水溶率が10~70%、または、MIBK/水分配率が27%以上のエポキシ架橋剤との架橋構造を持つものである。また、本手袋は、これに加え、凝固剤由来のカルシウムとカルボキシル基との架橋構造も有している。
この手袋は、好ましくは上述の本実施形態のディップ成形用組成物を用いて製造することができる。エラストマーは、(メタ)アクリロニトリル由来の構造単位が20~40重量%、不飽和カルボン酸由来の構造単位が1~10重量%、及びブタジエン由来の構造単位が50~75重量%であることが好ましい。
第2の実施形態における手袋は、第1の実施形態における架橋構造に加え、エラストマーのカルボキシル基と、亜鉛および/またはアルミニウムとの架橋構造を持つものである。
【0071】
本発明は、上記実施形態において3価以上の中でも水溶率が10~70%、または、MIBK/水分配率が27%以上のエポキシ架橋剤を用いることによって、その特徴とする長いポットライフを通して2価エポキシ架橋剤、その他の3価以上のエポキシ架橋剤に比較し、高い疲労耐久性を持つ手袋を安定して製造することができる。
本発明の実施形態にかかる手袋の膜厚として、0.04~0.2mmを挙げることができるが、これに限定されない。この膜厚の範囲のうち、0.09超~0.2mm(90超~200μm)は市販される手袋の普通の厚みの範囲である。
他方で、第1の実施形態における手袋は、特に厚手(膜厚200超~300μm)の手袋を製造する際に有効である。フィルムの膜厚が厚ければ、引張強度、疲労耐久性等を出せるからである。
一方で、第2の実施形態における手袋として、カルシウム架橋の弱点を、亜鉛および/またはアルミニウム架橋で補ったものを挙げることができる。カルシウム架橋は、初期性能としての強度は維持できるものの、塩水中でのカルシウムの溶出による強度低下を起こしやすく、薬品を透過しやすいという欠点を亜鉛および/またはアルミニウム架橋で補うことができる。
第2の実施形態にかかる手袋は、特に、超薄手~薄手の手袋(膜厚40~90μm)を製造する際に好ましい。
以上のように、第2の実施形態による手袋は、エポキシ架橋、カルシウム架橋、亜鉛および/またはアルミニウム架橋の比率を変えることによって、手袋の性能を変化させることができる。
【0072】
(2)本発明の実施形態にかかる手袋の特徴
(a)本発明の実施形態にかかる手袋は、他の加硫促進剤フリーの手袋と同じく、従来のXNBR手袋のように硫黄及び加硫促進剤を実質的に含まないので、IV型アレルギーを生じさせないことが最大の特徴である。ただし、エラストマー製造時の界面活性剤等に硫黄が含まれているため、ごく微量の硫黄は検出されることがある。
【0073】
(b)一般に、手袋の物性としては、引張強度、伸び率、疲労耐久性を見るのが通常であり、本発明においては、引張強度は後述する引張試験により測定し、現在市場に出ている実製品の下限値である20MPaを合格基準として設定している。なお、手袋の引張強度の合格基準としては、ヨーロッパの規格(EN 455)においては破断時荷重が6N以上とされている。
手袋の伸びについては、後述する引張試験時の破断時伸び率が500~750%、100%モジュラス(伸び100%時における引張応力)が、3~10MPaの範囲内、疲労耐久性については指股部分で90分以上(手のひらでは240分以上に相当)が合格基準である。
本発明の上記実施形態は、ディップ成形用組成物のポットライフが3~5日間必要とされる量産時においても上記手袋の物性を満たすものである。さらに、本発明の実施形態にかかる手袋は、その他の3価以上エポキシ架橋剤を使用した手袋と比較しても高い疲労耐久性を持つものである。エポキシ架橋手袋は、疲労耐久性が高いことが特徴であるが、2価のエポキシ架橋剤を使用した手袋と比較して、はるかに高い疲労耐久性を持つものである。
【0074】
(c)本発明の第2の実施形態にかかる手袋の作製に用いるディップ成形用組成物には、さらに亜鉛および/またはアルミニウム等の金属架橋剤を添加しているが、これによって装着時の人の汗による強度低下を防ぎ、薬品非透過性を強化した手袋が得られる。
【0075】
(d)本発明の実施形態における1分子中に3個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物を含み、水溶率が10~70%、または、MIBK/水分配率が27%以上のエポキ
シ架橋剤を使用して作った手袋は、従来のエポキシ架橋剤のポットライフが短いという課題を解決したと同時に、その他のポットライフの短い3価以上のエポキシ架橋剤による手袋と比較しても高い疲労耐久性を持つ手袋である。
中でも、MIBK/水分配率が70%以上の3価以上のエポキシ架橋剤を用いて製造した手袋は高い疲労耐久性を持つ手袋である。
【実施例】
【0076】
1.実施方法
以下、本発明を実施例に基づきより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。特に断らない限り、「%」は「重量%」であり、「部」は「重量部」である。
また、以下の説明において「重量部」は、原則としてエラストマー100重量部に対しての重量部数を示す。
各添加剤の重量部数は固形分量によるものであり、エポキシ架橋剤の重量部数については架橋剤の総重量によるものである。
また、ポットライフはディップ成形用組成物の調製時にエポキシ架橋剤を添加してから、手型にディップ成形用組成物を付着させるまでの時間を基準に求めるものである。また、ディップ成形用組成物に使用したXNBRとエポキシ架橋剤の種類については、各表に記載している。
【0077】
(1)使用したXNBR
本実験例で用いたXNBRの特性を下表に記載する。
【表1】
【0078】
本実験例で用いたXNBRの特性は、次のようにして測定した。
<アクリロニトリル(AN)残基量及び不飽和カルボン酸(MMA)残基量>
上記各エラストマーを乾燥して、フィルムを作製した。該フィルムをFT-IRで測定し、アクリロニトリル基に由来する吸収波数2237cm-1とカルボン酸基に由来する吸収波数1699cm-1における吸光度(Abs)を求め、アクリロニトリル(AN)残基量及び不飽和カルボン酸(MMA)残基量を求めた。
アクリロニトリル残基量(%)は、予め作成した検量線から求めた。検量線は、各エラストマーに内部標準物質としてポリアクリル酸を加えた、アクリロニトリル基量が既知の試料から作成したものである。不飽和カルボン酸残基量は、下記式から求めた。
不飽和カルボン酸残基量(wt%)=[Abs(1699cm-1)/Abs(2237cm-1)]/0.2661
上式において、係数0.2661は、不飽和カルボン酸基量とアクリロニトリル基量の
割合が既知の、複数の試料から検量線を作成して求めた換算値である。
【0079】
<ムーニー粘度(ML(1+4)100℃)>
硝酸カルシウムと炭酸カルシウムとの4:1混合物の飽和水溶液200mlを室温にて攪拌した状態で、各エラストマーラテックスをピペットにより滴下し、固形ゴムを析出させた。得られた固形ゴムを取り出し、イオン交換水約1Lでの攪拌洗浄を10回繰り返した後、固形ゴムを搾って脱水し、真空乾燥(60℃、72時間)して、測定用ゴム試料を調製した。得られた測定用ゴムを、ロール温度50℃、ロール間隙約0.5mmの6インチロールに、ゴムがまとまるまで数回通したものを用い、JIS K6300-1:2001「未加硫ゴム-物理特性、第1部ムーニー粘度計による粘度およびスコ-チタイムの求め方」に準拠して、100℃にて大径回転体を用いて測定した。
【0080】
<MEK不溶解分量>
MEK(メチルエチルケトン)不溶解(ゲル)成分は、次のように測定した。0.2gのXNBRラテックス乾燥物試料を、重量を測定したメッシュ籠(80メッシュ)に入れて、籠ごと100mLビーカー内のMEK溶媒80mL中に浸漬し、パラフィルムでビーカーに蓋をして、24時間、ドラフト内で静置した。その後、メッシュ籠をビーカーから取り出し、ドラフト内にて宙吊りにして1時間乾燥させた。これを、105℃で1時間減圧乾燥したのち、重量を測定し、籠の重量を差し引いて、XNBRラテックス乾燥物の浸漬後重量とした。
MEK不溶解成分の含有率(不溶解分量)は、次の式から算出した。
不溶解成分含有率(重量%)=(浸漬後重量g/浸漬前重量g)×100
なお、XNBRラテックス乾燥物試料は、次のようにして作製した。すなわち、500mLのボトル中で、回転速度500rpmでXNBRラテックスを30分間攪拌したのち、180×115mmのステンレスバットに14gの該ラテックスを量り取り、23℃±2℃、湿度50±10RH%で5日間乾燥させてキャストフィルムとし、該フィルムを5mm四方にカットして、XNBRラテックス乾燥物試料とした。
【0081】
(2)使用したエポキシ架橋剤
本実験例において使用したエポキシ架橋剤は下表のとおりである。
【表2】
【0082】
なお、エポキシ当量は各社カタログ値によるものであり、平均エポキシ基数については分析値である。
【0083】
<水溶率>
水溶率(%)は、各エポキシ架橋剤の水溶性を見るために計測した値である。水溶率は以下の手順で測定可能である。
1.ビーカーに架橋剤組成物を25.0g精秤する。
2.25℃の水を225g加えて、マグネティックスターラーで15分間、室温で強く撹拌する。
3.室温で1時間静置後に底部に沈殿した油状物の体積(mL)を測定する。
4.次式で水溶率を算出する。
水溶率(%)=(25.0(g)-(油状物の体積(mL)×架橋剤組成物の密度(g/mL))/25.0×100
【0084】
<MIBK/水分配率>
メチルイソブチルケトン(MIBK)/水分配率(%)は、ラテックス液中と類似した環境でエポキシ架橋剤がどれほどMIBK層へ移動するかを確認するために計測した値である。
有機層としてMIBKを用いたのは、ラテックスの物性がメチルエチルケトン(MEK)と類似しているため、MEKと性質が近く、かつ水への溶解性がMEKより低く、層の分離がはっきりできると考えられたためである。
本明細書におけるMIBK/水分配率測定法については、水とMIBKの重量を基準に計測したが、MIBKが水を若干溶解するため、実験数値としてマイナス%が出るが、同一基準で計測しているので、基準として採用可能であると考えた。
【0085】
表2では、MIBK/水分配率の高いエポキシ架橋剤を上から順に下に並べている。エポキシ架橋剤の水溶率は概ねMIBK/水分配率と相関するが、一部異なる場合がある。
まず、発明者らは水溶率とディップ成形用組成物のポットライフとの関係を検討した。次に、MIBK/水分配率とディップ成形用組成物のポットライフとの関係を検討した。
【0086】
MIBK/水分配率は以下の手順で測定可能である。
1.ホールねじ口試験管(マルエム社製φ16.5×105×φ10.0 12mL NR-10H)に純水5.0g、メチルイソブチルケトン(MIBK)5.0gを正確に秤量し、架橋剤試料0.5gを加え室温(23±2℃)で攪拌(3分間)し、よく混合させる。
2.遠心分離機(株式会社コクサン製、卓上遠心分離機 H-103N)に3000rpm、10分の条件(1.0×103G)でかけ、水層とMIBK層に分離させる。
3.分離したMIBK層をパスツールピペットで、ディスポカップに分取、計量する。
4.次式でMIBK/水分配率を算出する。
MIBK/水分配率(%)=(分配後MIBK層重量(g)-分配前MIBK重量(g))/(架橋剤添加重量(g))×100
5.この計測を3回行い、平均値を算出し、MIBK/水分配率の数値とした。
なお、手順2.の攪拌時には、ボルテックスミキサー(Scientific Industries, Inc.製、スタンダードモデル、VORTEX-GENIE 2 Mixer)を使用した。
【0087】
(3)硬化フィルムの作成と評価
(a)ディップ成形用組成物の調製
表1に記載したXNBRの溶液250gに、水100gを加えて希釈し攪拌を開始した。
その後、5重量%水酸化カリウム水溶液を使用して予備的にpH9.2~9.3に調整した。
表2に示す各種エポキシ架橋剤0.5重量部を、水溶率が90%未満のものはジエチレングリコール0.5重量部と混合してから、水溶率が90%以上のものは混合せずそのまま加えた。
さらに、酸化防止剤0.2重量部(Farben Technique(M)社製「CVOX-50」(固形分53%))、酸化亜鉛1.0重量部(Farben Technique(M)社製、商品名「CZnO-50」)及び酸化チタン1.5重量部(Farben Technique(M)社製、「PW-601」(固形分71%))を添加し、終夜(16時間)撹拌混合した。その後、5重量%水酸化カリウム水溶液を使用してpHを10~10.5に調整した後、ディップ成形用組成物の固形分濃度を、水を加えて22%に調整し、使用するまでビーカー内で撹拌を続けた。
なお、固形分濃度は凝固液のカルシウム濃度と組み合わせ、フィルムの膜厚を調整するためのもので、この場合の固形分濃度22%は、凝固液のカルシウム濃度20%とによってフィルムの膜厚を80μmに調整できる。
本実施例における1日目のフィルムは、エポキシ架橋剤を加えてから24時間後にディッピングしたフィルムである。
なお、実施例によって上記条件の一部を変更するときは、実施例ごとにその条件を記載する。
【0088】
(b)凝固液の調製
ハンツマン社(Huntsman Corporation)製の界面活性剤「Teric 320」0.56gを水42.0gに溶解した液に、離型剤としてCRESTAGE IN
DUSTRY社製「S-9」(固形分濃度25.46%)19.6gを、あらかじめ計量しておいた水30gの一部を用いて約2倍に希釈した後にゆっくり加えた。容器に残ったS-9を残った水で洗い流しながら全量を加え、3~4時間撹拌し、S-9分散液を作成する。
別のビーカーに硝酸カルシウム四水和物143.9gを水153.0gに溶解させたものを用意し、撹拌しながら、先に調製したS-9分散液を硝酸カルシウム水溶液に加えた。
5%アンモニア水でpHを8.5~9.5に調整し、最終的に硝酸カルシウムが無水物として20%、S-9が1.2%の固形分濃度となるように水を加え、500gの凝固液を得た。得られた凝固液は、使用するまで1Lビーカーで撹拌を継続した。
【0089】
(c)陶板への凝固剤付着
上記凝固液を撹拌しながら50℃程度に加温し、200メッシュのナイロンフィルターでろ過した後、浸漬用容器に入れ、洗浄後70℃に温めた陶製の板(200×80×3mm、以下「陶板」と記す。)を浸漬した。具体的には、陶板の先端が凝固液の液面に接触してから、陶板の先端から18cmの位置までを4秒かけて浸漬させ、浸漬したまま4秒保持し、3秒間かけて抜き取った。速やかに陶板表面に付着した凝固液を振り落し、陶板表面を乾燥させた。乾燥後の陶板は、ディップ成形用組成物(ラテックス)浸漬に備えて、再び70℃まで温めた。
【0090】
(d)硬化フィルムの製造
表1のXNBRと表2の各エポキシ架橋剤を用いて、ディップ成形用組成物(ラテックス)へのエポキシ架橋剤の投入から一定の間隔24時間(1日)ごとに区切った経過時間ごとに硬化フィルムを作成した。
具体的には、ディップ成形用組成物を室温のまま200メッシュナイロンフィルターでろ過した後、浸漬用容器に入れ、上記の凝固液を付着させた70℃の陶板を浸漬した。
具体的には陶板を6秒かけて浸漬し、4秒間保持し、3秒かけて抜き取った。ラテックスが垂れなくなるまで空中で保持し、先端に付着したラテックス滴を軽く振り落した。
陶板上に凝集し膜を形成した、硬化フィルム前駆体を80℃2分で乾燥させ(ゲリング工程)、50℃の温水で2分間リーチングした。
その後70℃で5分間乾燥させ、130℃で30分間熱硬化させた。
得られた硬化フィルムを陶板からきれいに剥がし、物性試験に供するまで、23℃±2℃、湿度50%±10%の環境で保管した。
なお、実施例によって上記条件の一部を変更するときは、その実施例ごとにその条件を記載する
【0091】
(e)硬化フィルムの評価
<引張強度、引張伸び率>
硬化フィルムからJIS K6251の5号ダンベル試験片を切り出し、A&D社製のTENSILON万能引張試験機RTC-1310Aを用い、試験速度500mm/分、チャック間距離75mm、標線間距離25mmで、引張強度(MPa)を測定した。
引張伸び率は、以下の式に基づき求めた。
引張伸び率(%)=100×(引張試験での破断時の標線間距離-標線間距離)/標線間距離
【0092】
<疲労耐久性>
硬化フィルムからJIS K6251の1号ダンベル試験片を切り出し、これを、人工汗液(1リットル中に塩化ナトリウム20g、塩化アンモニウム17.5g、乳酸17.05g、酢酸5.01gを含み、水酸化ナトリウム水溶液によりpH4.7に調整)中に浸漬して、上述の耐久性試験装置を用いて疲労耐久性を評価した。
すなわち、長さ120mmのダンベル試験片の2端部からそれぞれ15mmの箇所を固定チャック及び可動チャックで挟み、固定チャック側の試験片の下から60mmまでを人工汗液中に浸漬した。可動チャックを、147mm(123%)となるミニマムポジション(緩和状態)に移動させて11秒間保持したのち、試験片の長さが195mm(163%)となるマックスポジション(伸長状態)と、再びミニマムポジション(緩和状態)に1.8秒かけて移動させ、これを1サイクルとしてサイクル試験を行った。1サイクルの時間は12.8秒であり、試験片が破れるまでのサイクル数を乗じて、疲労耐久性の時間(分)を得た。
【0093】
2.実験例
(1)実験例1
本実験例は、各エポキシ架橋剤の水溶率またはMIBK/水分配率とディップ成形用組成物のポットライフの相関性を検証したものである。
なお、ディップ成形用組成物のポットライフについては、以下の手順で求めた。ポットライフは「日」単位である。各エポキシ架橋剤を用いて、ディップ成形用組成物を調製して攪拌しながら蔵置し、1日経過ごとに硬化フィルムを作製した。ディップ成形用組成物の蔵置経過日数に関しては、硬化フィルムの疲労耐久性の合格ラインである240分を下回る日(最終合格日の翌日)まで計測した。その最終合格日までの蔵置経過日数をポットライフとする。本実験例では、最長の蔵置経過日数として7日まで実験を行った。
そして、ポットライフが2日以上のディップ成形用組成物を用いた場合、各硬化フィルムの1日目と最終合格日でのそれぞれのディップ成形用組成物を用いて作製した硬化フィルムは、両時点において合格基準である引張強度20MPa及び破断時伸び率500%を上回る特性を有していた。
本実験例において、XNBRはNL120H(a)を使用し、エポキシ架橋剤は0.5重量部でフィルム膜厚は80μmで統一し、上記の硬化フィルムの作成方法にしたがってフィルムを作成し、性能を評価した。なお、水溶率90%未満のエポキシ架橋剤について分散剤としてジエチレングリコールを使用している。
表3の疲労耐久性の数値は、フィルムn=3の平均値である。なお、疲労耐久性については、4000分をもって計測を中止した。以下の表3にその実験結果を示す。
【0094】
【0095】
図1は、表3の疲労耐久性をプロットしたグラフである。グラフに記載した番号は各実験ナンバーである。折れ線が実線であるのは、ポットライフが3日以上ある実験で、折れ線が破線であるものは、ポットライフが3日に満たないものや、3日を超した実験であっても、疲労耐久性が合格ラインを下回る時点で破線とした。
図2、3は、表3の実験のポットライフとMIBK/水分配率、水溶率の関係を示したグラフである。
【0096】
表3に示すように、実験例1の結果を見ると、3価以上のエポキシ架橋剤でMIBK/水分配率が30%以上の実験1~7のポットライフは3日以上となる。さらに、MIBK/水分配率が50%以上の実験1~5のポットライフは5日以上となる。さらに、MIBK/水分配率が70%以上になると、実験3のソルビトール系を除き、実験1、2、4はポットライフが7日以上になることが分かった。
3価以上のエポキシ架橋剤でMIBK/水分配率が30%未満の実験8~12は、ポットライフが3日に満たなかった。また、実験13~15の2価エポキシ架橋剤は、MIBK/水分配率に関らずポットライフが3日に満たなかった。
図1を見ると、実験1~4は、疲労耐久性のピークが2日目以降に来ており、そこから徐々に疲労耐久性が低下していき、ポットライフが5日以上であることが分かる。実験5~14は、疲労耐久性のピークが1日経過前に有り、そこから急激に疲労耐久性が低下していき、ポットライフが3日に満たないものが大半であるが、実験5はポットライフが5日、実験6、7はポットライフが3日あり、ポットライフが確保されている。
図2は、エポキシ架橋剤のMIBK/水分配率とポットライフの関係を図示したものである。そのうちソルビトール系は、実験3、6、9、10であるが相対的にポットライフが短いことがわかる。
また、実験例1の結果と水溶率の関連を見ると、ポットライフとMIBK/水分配率ほどの規則的な相関性は見られないが、水溶率の高い実験はポットライフが短い点は顕著に認められる。水溶率が高くても、MIBK/水分配率も高くポットライフが3日以上となる実験7のような例もあるが、水溶率が70%以下であれば、確実に3日以上のポットライフが得られ、ソルビトール系を除くと5日以上のポットライフが得られる。
図3は、エポキシ架橋剤の水溶率とポットライフの関係を図示したものである。エポキシ架橋剤の水溶率が70%以下であれば、確実に3日以上のポットライフを持つ。
【0097】
(2)実験例2
本実験例は、実験例1でポットライフが3日以下となるエポキシ架橋剤について、実験例1の添加量である0.5重量部よりも添加量を増やせば、3日のポットライフが得られるかについて実験したものである。
計測対象としては、実験例1でポットライフが2日であったエポキシ架橋剤H、実験例1でポットライフが3日であったエポキシ架橋剤G、および3価のエポキシ架橋剤のI~L、2価のエポキシ架橋剤の中でも比較的MIBK/水分配率が高いエポキシ架橋剤Mを使用した。
なお、実験条件はエポキシ架橋剤の量を除いては実験例1と同様である。以下の表4にその実験結果を示す。
【0098】
【0099】
表4に示すように、エポキシ架橋剤の添加量を1.0重量部に増やすと、MIBK/水分配率28%の架橋剤Hのみが、ポットライフが3日となることがわかった。添加量を1.5重量部に増やしてもI~Mの架橋剤については3日のポットライフを得られなかった。添加量を2.0重量部に増やしたときにも同様の結果であった。
したがってエポキシ架橋剤の量を増やしても、ディップ成形用組成物が3日のポットライフを有するようにするためにはMIBK/水分配率が27%以上の3価エポキシ架橋剤を使用することが必要と考えられる。
なお、エポキシ架橋剤のMIBK/水分配率とポットライフには、本実験例の場合でも相関性は見られるが、水溶率については70%を超えてくると相関性は見られなくなってくる。
【0100】
(3)実験例3
実験例1の中で、実験1は最も長いポットライフを持ち、疲労耐久性の数値のレベルも最も高いものであった。これは、XNBRが120Hで膜厚80μm(4.2g手袋相当)のフィルムの計測結果であった。
本実験例は、膜厚が51~57μm(2.7~3.2g手袋相当)の超薄手手袋をXNBRの種類を変えてポットライフ4日時点での手袋性能を計測したものである。
また、キュアリング時間も15分に変更し、より量産に近づけて実験したものであるが、その他の条件は前記硬化フィルムの製造とほぼ同じである。
【0101】
【0102】
本実験例では、XNBRの種類を変えても高い疲労耐久性が出せることわかる。
また、一般に膜厚が薄い手袋においては、疲労耐久性は下がるが超薄手手袋でも高い疲労耐久性が出せることがわかる。
また、キュアリング温度をより量産条件に近い15分程度に短縮しても高い疲労耐久性を出せることがわかった。
ただし、本来の量産において、より厳しい製造条件になるので、本実験例より疲労耐久性の数値は相当下がるが、それでも他の手袋と比較すると疲労耐久性のレベルは高い。
本実験例は、超薄手手袋の製造を目的とするが、XNBRの選択条件としては、引張強度(6N)、伸び率、疲労耐久性のバランスによって選択される。
【0103】
(4)実験例4
本実験例は、原出願時の実験例に各実験のMIBK/水分配率、ジエチレングリコール(以下、DEGと略すことがある)添加量、硬化フィルム膜厚、引張伸び率を追加したものである。
また、当初、メーカーが水溶率20%以下を不溶としていたのを踏襲して記載していたが、今回、実験28、29についても水溶率を新たに計測し、その水溶率を記載した。そのうえで、水溶率の低い順に並べ替えたものである。その表を以下に示す。
【0104】
【0105】
水溶率が10~90%の3価エポキシ架橋剤を使用することによって、少なくとも2日以上のポットライフを持つディップ成形用組成物が得られた。
水溶率90%以下の3価以上のエポキシ架橋剤は、溶剤系塗料に用いられていたもので、水性塗料よりも加水分解による失活を免れると考えられる。水溶率10%に満たない3価以上のエポキシ架橋剤は、MIBKにも溶けにくく、疲労耐久性や引張強度が落ちていくと考えられる。表6については、そのような傾向性は見て取れるが、実験条件としてはXNBR4種類、膜厚50~80μm、エポキシ架橋剤添加量、DEG添加量が各実験でそれぞれ異なる点を考え、表3において条件を統一してポットライフを再度検証したものである。表6を見ると、疲労耐久性の数値レベルが相対的に低いが、これは実験27~32までは、膜厚が極薄であること等によるものであったことが考えられる。
【0106】
(5)実験例5
実験例1においては、水溶率90%以下の3価以上のエポキシ架橋剤については、あらかじめ同量のDEGで溶解した上で、ディップ成形用組成物を調合した。
これは、水溶率が低く、MIBK/水分配率の高いエポキシ架橋剤ほど粘度が高く、DEGで溶解してからでないと、エポキシ架橋剤が分散しにくかったからである。
DEGは、エポキシ架橋剤をディップ成形用組成物中で分散させ、XNBR粒子内にエポキシ架橋剤を分散させるために好適であった。
以下の表7は、DEGの有無と、エポキシ架橋剤とDEGの添加量の割合(エポキシ架橋剤:DEG)を50:50、20:80と変化させ、ポットライフ及び疲労耐久性の結果を示すものである。実験条件は表6の実験条件とほぼ同様である。以下、その結果を表7に示す。
【0107】
【0108】
表7を見ると、DEGなしでも、好適なポットライフと疲労耐久性を得ることができるが、上述のようにエポキシ架橋剤の分散性の観点から、DEGを添加したが方が好適であると考えられ、量産時には添加することが好ましいと考えられる。
DEGの添加量は、種々検討の結果、エポキシ架橋剤:DEGの重量比は20:80の方が水分散性の観点から良かった。しかし、実際の量産においてはバルキーになりすぎるので、DEGの添加量と、エポキシ架橋剤の水分散性の関係を検討したところ、エポキシ架橋剤:DEGの重量比が50:50までであれば、分散性を十分維持できた。