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▶ グラクソスミスクライン バイオロジカルズ ソシエテ アノニムの特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-07
(45)【発行日】2023-03-15
(54)【発明の名称】増強されたプロモーター
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/11 20060101AFI20230308BHJP
   C12N 15/861 20060101ALI20230308BHJP
   C12N 7/01 20060101ALN20230308BHJP
【FI】
C12N15/11 Z ZNA
C12N15/861 Z
C12N7/01
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020521284
(86)(22)【出願日】2018-10-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-12-24
(86)【国際出願番号】 EP2018078242
(87)【国際公開番号】W WO2019076892
(87)【国際公開日】2019-04-25
【審査請求日】2021-10-01
(31)【優先権主張番号】62/572,944
(32)【優先日】2017-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/572,951
(32)【優先日】2017-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/572,927
(32)【優先日】2017-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】305060279
【氏名又は名称】グラクソスミスクライン バイオロジカルズ ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】コロカ,ステファノ
【審査官】市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第08865881(US,B2)
【文献】PLOS ONE,2014年,Vol. 9, Issue 8, e106472
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下:
(i)hCMVエンハンサー配列、
(ii)hCMVプロモーター配列、
(iii)スプライスドナー領域、
(iv)ユビキチン(UBC)エンハンサー配列、及び
(v)スプライスアクセプター領域
を含むプロモーター。
【請求項2】
上記UBCエンハンサーが配列番号11の配列を含む、請求項に記載のプロモーター。
【請求項3】
配列番号8、配列番号10、配列番号11及び配列番号12の1以上を含む、請求項1に記載のプロモーター。
【請求項4】
上記プロモーターが更にニワトリβ-アクチン配列の断片を含み、該ニワトリβ-アクチン配列の断片がニワトリβ-アクチン配列の5'非翻訳領域を含み、かつニワトリβ-アクチン配列のプロモーター配列を含まない、請求項1に記載のプロモーター。
【請求項5】
配列番号3に対して少なくとも90%の同一性を有する核酸配列を含むプロモーター。
【請求項6】
上記プロモーターが、配列番号3に対して少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、又は少なくとも約99%の配列同一性を有する核酸配列を含む、請求項に記載のプロモーター。
【請求項7】
上記プロモーターが配列番号3の核酸配列を含む、請求項に記載のプロモーター。
【請求項8】
上記プロモーターが配列番号3の核酸配列からなる、請求項に記載のプロモーター。
【請求項9】
導入遺伝子及びプロモーターを含む発現カセットを含むアデノウイルスベクターであって、該プロモーターが
(i)hCMVエンハンサー配列、
(ii)hCMVプロモーター配列、
(iii)スプライスドナー領域、
(iv)ユビキチン(UBC)エンハンサー配列、及び
(v)スプライスアクセプター領域
を含む、上記アデノウイルスベクター。
【請求項10】
上記発現カセットが第1の発現カセットである請求項に記載のアデノウイルスベクターであって、該アデノウイルスベクターが更に第2の発現カセットを含み、該第2の発現カセットが導入遺伝子及びプロモーターを含み、該プロモーターが以下
(i)hCMVエンハンサー配列、
(ii)hCMVプロモーター配列、
(iii)スプライスドナー領域、
(iv)細胞由来エンハンサー配列、及び
(v)スプライスアクセプター領域
を含む、上記アデノウイルスベクター。
【請求項11】
上記プロモーターが配列番号3に対して少なくとも90%の同一性を有する核酸配列を含む、請求項に記載のアデノウイルスベクター。
【請求項12】
上記プロモーターが配列番号8、配列番号10、配列番号11及び配列番号12の1以上を含む、請求項に記載のアデノウイルスベクター。
【請求項13】
上記プロモーターがニワトリβ-アクチン配列の断片を含み、該ニワトリβ-アクチン配列の断片がニワトリβ-アクチン配列の5'非翻訳領域を含み、かつニワトリβ-アクチン配列のプロモーター配列を含まない、請求項に記載のアデノウイルスベクター。
【請求項14】
上記プロモーターが、配列番号3に対して少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、又は少なくとも約99%の配列同一性を有する核酸配列を含む、請求項11に記載のアデノウイルスベクター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスミド又はウイルス等のベクター、特にアデノウイルスベクター等のウイルスベクターにおいて使用するためのプロモーターの分野に属する。特に、本発明は、増強されたヒトCMVプロモーターに関する。
【背景技術】
【0002】
用語「ベクター」とは、遺伝子材料を含むか運搬する物質(例えばプラスミド又はウイルス)をいい、これは外来遺伝子を生物中に導入するために使用することができる。アデノウイルスベクターは一つのタイプのベクターの一例である。
【0003】
ベクターがある生物の細胞に遺伝子材料を送達した場合、RNAポリメラーゼを使用して送達されたDNAからRNAが転写され得る。RNAポリメラーゼは特定のプロモーターエレメントを認識して、そのプロモーターエレメントに連結されたDNA配列の転写を可能とすることができる。
【0004】
プロモーターは、RNAポリメラーゼの結合を可能とし、DNAの転写を指令するヌクレオチド配列である。典型的には、プロモーターは転写開始部位に近接して、DNAの非コード領域中に位置している。転写の開始において機能するプロモーター内の配列エレメントは、多くの場合にコンセンサスヌクレオチド配列を特徴とする。
【0005】
ベクターは、しばしば「発現カセット」を含むと言われる。発現カセットは、宿主細胞における導入遺伝子の転写、翻訳、及び/又は目的のDNAの発現を可能とするように、目的の遺伝子材料を調節エレメントに機能的に連結して含む。プロモーターはこれらの調節エレメントの一つである。目的のDNA配列(例えば遺伝子)が、その遺伝子に隣接するベクター配列に対して異種である場合、それは「導入遺伝子」ということができる。
【0006】
プロモーターの例としては、限定するものではないが、細菌、酵母、植物、ウイルス、及び哺乳動物(サル及びヒトを含む)由来のプロモーターが挙げられる。内部、天然、構成的、誘導性及び/又は組織特異的プロモーターを含む、非常に多くの発現調節配列が、当分野において知られている。
【0007】
利用可能なプロモーターの例としては、限定するものではないが、TBGプロモーター、レトロウイルスのラウス肉腫ウイルスLTRプロモーター(任意にエンハンサーと共に用いる)、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター(任意にCMVエンハンサーと共に用いる、例えばBoshart等、Cell, 41: 521-530 (1985)を参照のこと)、CASIプロモーター、SV40プロモーター、ジヒドロ葉酸レダクターゼプロモーター、β-アクチンプロモーター、ホスホグリセロールキナーゼ(PGK)プロモーター、及びEF1aプロモーター(Invitrogen)が挙げられる。
【0008】
CMVプロモーターは強力かつ普遍的に活性である。これは多くの組織型で高レベルの導入遺伝子発現を駆動する能力を有し、当分野で周知である。
CASIプロモーターは、CMVエンハンサー、ニワトリβ-アクチンプロモーター、及びユビキチン(UBC)エンハンサーを挟むスプライスドナー及びスプライスアクセプターの組み合わせとして記載されている合成プロモーターである(US 8865881号)。配列番号2は、CASIプロモーターをコードするポリヌクレオチド配列である。
当分野において、新規プロモーターが必要とされている。
【発明の概要】
【0009】
本発明は新規プロモーターに関する。より具体的には、本発明は新規ヒトCMVプロモーターに関する。
本発明は、以下:
(i)hCMVエンハンサー配列、
(ii)hCMVプロモーター配列、
(iii)スプライスドナー領域、
(iv)細胞由来エンハンサー配列、及び
(v)スプライスアクセプター領域
を含むプロモーターを提供する。
【0010】
用語「細胞由来」とは、プロモーターが真核生物(例えばヒト)細胞から得られることを意味する。
好ましい実施形態において、細胞由来エンハンサー配列は、ユビキチン(UBC)エンハンサー配列である。
【0011】
別の好ましい実施形態において、プロモーターの構成要素(i)~(v)は上記の記載順で提供され、すなわち構成要素(i)が1番目、(ii)が2番目、(iii)が3番目、(iv)が4番目、そして(v)が5番目である。別の実施形態において、2種のエンハンサー(すなわち構成要素(i)及び(iv))の順序は入れ替えることができる。
【0012】
一実施形態において、プロモーターは以下の配列:
(i)hCMVエンハンサー配列、及び
(ii)配列番号8のhCMVプロモーター配列、及び/又は
(iii)配列番号10のスプライスドナー領域、及び/又は
(iv)配列番号11のUBCエンハンサー配列、及び/又は
(v)配列番号12のスプライスアクセプター領域
の一以上を含む。
【0013】
一部の実施形態において、プロモーターは、配列番号8、配列番号10、配列番号11及び/又は配列番号12に対して少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、又はそれ以上の配列同一性を有する。一部の実施形態において、プロモーターの構成要素(i)~(v)は関連配列からなる。
【0014】
一実施形態において、プロモーターは、
(i)hCMVエンハンサー配列、及び
(ii)配列番号8のhCMVプロモーター配列、及び
(iii)配列番号10のスプライスドナー領域、
(iv)配列番号11のUBCエンハンサー配列、及び
(v)配列番号12のスプライスアクセプター領域
を含む。
一実施形態において、プロモーターは更に
(vi)β-アクチン配列の断片
を含む。
【0015】
β-アクチン配列の断片を含むこの実施形態において、ニワトリβ-アクチン配列の断片は、好ましくはニワトリβ-アクチン配列の5'非翻訳領域を含み、かつプロモーター配列を含まない。一実施形態において、ニワトリβ-アクチン配列は、配列番号9に対して少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、又はそれ以上の配列同一性を有し得る。(vi)β-アクチン配列の断片を含む実施形態において、この断片は好ましくはhCMVプロモーター領域(ii)及びスプライスドナー領域(iii)の間に見られる。
【0016】
別の態様において、本発明は、配列番号3に対して少なくとも約84.1%又はそれ以上の同一性を有する新規プロモーターに関する。一部の実施形態において、プロモーターは、配列番号3に対して少なくとも約84.5%、少なくとも約85%、少なくとも約86%、少なくとも約87%、少なくとも約88%、少なくとも約89%、又はそれ以上の配列同一性を有する核酸配列を含み得る。
【0017】
一部の実施形態において、プロモーターは、配列番号3に対して少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、又はそれ以上の配列同一性を有する核酸配列を含み得る。一部の実施形態において、プロモーターは配列番号3の核酸配列を含むかまたはそれからなる。
【0018】
別の態様において、本発明は、上記の新規プロモーターを含む、アデノウイルスベクター又はプラスミド等のベクターに関する。プロモーターに関連する上記の特徴の全てが、ベクターに組み込まれ得る。例えば、一実施形態において、本発明は、導入遺伝子及びプロモーターを含む発現カセットを含む本発明のアデノウイルスベクターであって、プロモーターが、
(i)hCMVエンハンサー配列、
(ii)hCMVプロモーター配列、
(iii)スプライスドナー領域、
(iv)細胞由来エンハンサー配列、及び
(v)スプライスアクセプター領域
を含むアデノウイルスベクターを提供する。
【0019】
本発明のベクターの別の例は、導入遺伝子及びプロモーターを含む発現カセットを含むアデノウイルスベクターであって、該プロモーターが配列番号3に対して少なくとも84.1%の同一性を有する核酸配列を含む、アデノウイルスベクターである。
【0020】
更なる例において、ベクター(例えばアデノウイルスベクター)は、各発現カセットが導入遺伝子及びプロモータ-を含む第1及び第2の発現カセットを含み、第1の発現カセット及び/又は第2の発現カセットのプロモーターが上記の新規プロモーターである。一実施形態において、第1の発現カセットが該プロモーターを含む。別の実施形態において、第2の発現カセットが該プロモーターを含む。
【0021】
例えば、一実施形態において、本発明のアデノウイルスベクターは、第1及び第2の発現カセットを含み、各発現カセットが導入遺伝子及びプロモーターを含み、第1の発現カセット及び/又は第2の発現カセットのプロモーターが、以下
(i)hCMVエンハンサー配列、
(ii)hCMVプロモーター配列、
(iii)スプライスドナー領域、
(iv)細胞由来配列、及び
(v)スプライスアクセプター領域
を含むプロモーターである。
【0022】
更なる例において、アデノウイルスベクターは、第1及び第2の発現カセットを含み、各発現カセットが導入遺伝子及びプロモーターを含み、第1の発現カセット及び/又は第2の発現カセットのプロモーターが、配列番号3に対して少なくとも84.1%の同一性を有するプロモーターである。
【0023】
本発明のベクター(例えばアデノウイルスベクター)は、被験者における免疫応答の誘導のための免疫原性組成物、治療におけるそれらの使用方法及び製造プロセスの構成要素として有用である。本発明のアデノウイルスベクターは、好ましくは非ヒトのサルアデノウイルス由来であり、「サルアデノウイルス」ともいう。好ましくは、本発明のサルアデノウイルスベクターは、チンパンジーアデノウイルス(例えばChAd155又はChAd83)である。
【0024】
本発明はまた、上記のアデノウイルスベクター及び薬学的に許容される賦形剤を含有する組成物を提供する。更に、本発明は、医薬、ワクチンとしての使用のため、及び/又は疾患の治療若しくは予防のための、上記のアデノウイルスベクター又はそのようなアデノウイルスベクターを含有する組成物を提供する。
【0025】
本発明はまた、上記のアデノウイルスベクター又は上記の組成物を被験者に投与することを含む、被験者における免疫応答を誘導する方法を提供する。本発明のベクター又は組成物は、疾患の予防又は治療のための医薬の製造に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】デュアル発現カセットを有する本発明のサルアデノウイルス構築物を示す。逆方向末端反復配列(ITR)は3’及び5’末端に隣接し;ヒトCMV(hCMV)はサイトメガロウイルスプロモーターであり;増強hCMVは増強されたサイトメガロウイルスプロモーターであり;N-M2-1及びFΔTMはRSV抗原であり;WPREはウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメントであり;ΔEは初期遺伝子3が欠失していることを示し;ファイバーはファイバータンパク質をコードするアデノウイルス遺伝子を示し;そしてAd5E4orf6は初期遺伝子4(E4)領域における置換体である。図1のベクターは、アデノウイルスゲノムのE1領域の代わりに第1の導入遺伝子発現カセット、HE2領域中、すなわち右側のITRの下流に第2の導入遺伝子発現カセットを挿入することによって構築した。
図2】非還元条件下での感染後48時間及び96時間におけるウェスタンブロットによって実証される、MRC5細胞株でのFΔTM導入遺伝子を発現するベクターの発現レベルの比較を示す。細胞を、感染多重度500及び1250で感染させた。
図3】還元条件下での感染後48時間におけるウェスタンブロットによって実証される、MRC5細胞株でのNM2-1導入遺伝子を発現するベクターの発現レベルの比較を示す。細胞を、感染多重度250及び1250で感染させた。
図4】RSV抗原FΔTmを発現するChAd155ベクターからの免疫原性の比較を示す。データは、5×108個のウイルス粒子の用量でのワクチン接種後4週間及び8週間で収集した。
図5】M2 RSV抗原を発現するChAd155ベクターからの免疫原性の比較を示す。データは、107個又は106個のウイルス粒子の用量でのワクチン接種後3週間で収集した。
図6】異なるプロモーターを有するChAd155によるMRC5細胞におけるSeAP発現を示す。
図7】異なるプロモーターを有するChAd155によるHeLa細胞におけるSeAP発現を示す。
【0027】
配列の説明
配列番号1-野生型ChAd155をコードするポリヌクレオチド配列
配列番号2-CASIプロモーターをコードするポリヌクレオチド配列
配列番号3-増強されたhCMVプロモーターをコードするポリヌクレオチド配列
配列番号4-hCMV NM2 bghpolyAカセットをコードするポリヌクレオチド配列
配列番号5-NM2タンパク質配列
配列番号6-hCMV F0 WPRE bghpolyAカセットをコードするポリヌクレオチド配列
配列番号7-F0タンパク質配列
配列番号8-hCMVプロモーター及びエンハンサー配列をコードするポリヌクレオチド配列(配列番号3のヌクレオチド1-650)
配列番号9-ニワトリβ-アクチン断片をコードするポリヌクレオチド配列(配列番号3のヌクレオチド651-809)
配列番号10-スプライスドナー領域をコードするポリヌクレオチド配列(配列番号3のヌクレオチド810-824)
配列番号11-ユビキチン(UBC)エンハンサーをコードするポリヌクレオチド配列(配列番号3のヌクレオチド825-1127)
配列番号12-スプライスアクセプター領域をコードするポリヌクレオチド配列(配列番号3のヌクレオチド1128-1187)
【発明を実施するための形態】
【0028】
アデノウイルス
アデノウイルスは、約36kbの線状二重鎖DNAゲノムを有するエンベロープのない二十面体ウイルスである。アデノウイルスは、宿主細胞のゲノムに組み込まれることなく、分裂細胞及び非分裂細胞の双方を含む、数種の哺乳動物種の多くの細胞型に形質導入することができる。その証明された安全性、様々な標的組織において効率の高い遺伝子導入を達成できる能力、及び大きな導入遺伝子容量のために、アデノウイルスは遺伝子導入適用に広く使用されている。ヒトアデノウイルスベクターが現在遺伝子治療及びワクチンに使用されているが、一般的なヒトアデノウイルスに対する以前の暴露による既存の免疫が世界的に広く持たれているという欠点を有する。
【0029】
アデノウイルスは、3種の主要なタンパク質、ヘキソン(II)、ペントンベース(III)及びノブを有するファイバー(IV)を、多数の他の微量のタンパク質、VI、VIII、IX、IIIa及びIVa2と共に含む二十面体カプシドの特徴的な形態を有する。ヘキソンは、カプシドの構造コンポーネントの大部分を占め、カプシドは240個の三量体ヘキソンカプソメアと12個のペントンベースとから構成されている。ヘキソンは3個の保存された二重バレルを有し、頂点には3個のタワーがあり、それぞれのタワーが、カプシドの大部分を形成する各サブユニットからのループを含んでいる。ヘキソンのベースはアデノウイルス血清型間で高度に保存されている一方、表面のループは可変である。ペントンはもう一つのアデノウイルスカプシドタンパク質である。これは、ファイバーが付着する五量体のベースを形成する。三量体のファイバータンパク質がカプシドの12個の頂点のそれぞれでペントンベースから突出しており、ノブのある棒状構造である。ファイバータンパク質の主要な役割は、ノブ領域と細胞受容体との相互作用を介してウイルスカプシドを細胞表面につなげることである。フレキシブルなシャフト、並びにファイバーのノブ領域における変化は異なるアデノウイルス血清型の特徴である。
【0030】
アデノウイルスゲノムはかなり性状解析されている。線状の二本鎖DNAが高い塩基性のタンパク質VII及び小さなペプチドpX(muともいう)と会合している。もう一つのタンパク質VはこのDNA-タンパク質複合体でパッケージングされており、タンパク質VIを介してカプシドに対する構造的連結をもたらしている。同様に配置された特定のオープンリーディングフレーム、例えば、各ウイルスのE1A、E1B、E2A、E2B、E3、E4、L1、L2、L3、L4及びL5遺伝子の位置に関して、アデノウイルスゲノムの全体的な構成は一般的に保存されている。アデノウイルスゲノムの各末端には逆方向末端反復配列(ITR)として知られる配列が含まれており、これはウイルス複製に必要である。アデノウイルスゲノムの5’末端にはパッケージング及び複製のために必要な5’シスエレメント、すなわち5’ ITR配列(複製起点として機能し得る)、及び線状アデノウイルスゲノムをパッケージングするために必要な配列及びE1プロモーターのためのエンハンサーエレメントを含む天然の5’パッケージングエンハンサードメインが含まれる。アデノウイルスゲノムの3’末端には、パッケージング及びカプシド形成に必要なITRを含む3’シスエレメントが含まれる。ウイルスはまた、ウイルスがコードするプロテアーゼを含み、これは感染性ビリオンを産生するために必要な構造タンパク質の一部をプロセシングするのに必要である。
【0031】
アデノウイルスゲノムの構造は、宿主細胞への形質導入後にウイルス遺伝子が発現する順序に基づいて記載される。より具体的には、ウイルス遺伝子は、転写がDNA複製開始前であるか開始後であるかによって、初期(E)又は後期(L)遺伝子と呼ばれる。形質導入の初期段階では、アデノウイルスのE1A、E1B、E2A、E2B、E3及びE4遺伝子が発現され、ウイルス複製のために宿主細胞の準備をする。E1遺伝子は、マスタースイッチと考えられ、転写活性化因子として作用し、初期及び後期遺伝子双方の転写に関与する。E2はDNA複製に関与し;E3は免疫調節に関与し、そしてE4はウイルスmRNA代謝を制御する。感染の後期段階において、ウイルス粒子の構造的コンポーネントをコードする後期遺伝子L1-L5の発現が活性化される。後期遺伝子は、主要後期プロモーター(MLP)から選択的スプライシングによって転写される。
【0032】
HE1及びHE2部位は、これらの特定の位置での挿入がC型若しくはE型チンパンジーアデノウイルス等のチンパンジーアデノウイルス、例えばChAd155及びChAd83のコード配列又は重要な調節配列を妨害しないため、導入遺伝子の挿入部位候補として同定された。HE1及びHE2部位は任意のチンパンジーアデノウイルスでの配列アライメントによって同定することができる。従って、ChAdゲノムのHE1及びHE2部位での発現カセットのクローニングは、ウイルス複製サイクルに影響を与えない。
【0033】
アデノウイルス複製
歴史的に、アデノウイルスワクチンの開発は、不完全な非複製ベクターに焦点を当ててきた。これらは複製に必須のE1領域遺伝子の欠失によって複製が不完全なものとなっている。典型的に、必須ではないE3領域遺伝子も欠失し、外来導入遺伝子のための余地を作っている。次いで、外来プロモーターの制御下にある導入遺伝子を含む発現カセットが挿入される。これらの複製欠損ウイルスは、次いでE1補完細胞中で産生される。
【0034】
用語「複製欠損(replication-defective)」又は「複製能のない(replication-incompetent)」アデノウイルスは、少なくとも機能的欠失(又は「機能喪失(loss-of-function)変異」)、すなわち遺伝子を完全に除去することなくその機能を損なう欠失又は変異、例えば人工的な終結コドンの導入、活性部位若しくは相互作用ドメインの欠失又は変異、遺伝子の制御配列の変異又は欠失等、あるいはウイルス複製のために必須の遺伝子産物をコードする遺伝子、例えばE1A、E1B、E2A、E2B、E3及びE4から選択されるアデノウイルス遺伝子の1以上(E3 ORF1、E3 ORF2、E3 ORF3、E3 ORF4、E3 ORF5、E3 ORF6、E3 ORF7、E3 ORF8、E3 ORF9、E4 ORF7、E4 ORF6、E4 ORF4、E4 ORF3、E4 ORF2及び/又はE4 OR1等)の完全な除去を含むように操作されたために複製することができないアデノウイルスをいう。好適には、E1と、任意にE3及び/又はE4が欠失される。欠失した場合、上記の欠失した遺伝子領域は、別の配列に対する同一性%を決定する際にアライメントで考慮しないことが好適である。
【0035】
本発明の一部の実施形態において、アデノウイルスベクターは複製欠損アデノウイルスである。例えば、2個の発現カセットを有するアデノウイルスベクターの実施形態において、第1の発現カセットは欠失したE1領域中に挿入され、従ってこれらのアデノウイルスは複製欠損となる。
【0036】
別の実施形態において、アデノウイルスベクターは複製能のあるアデノウイルスである。用語「複製能のある(replication-competent)」アデノウイルスとは、細胞中に含まれる任意の組換えヘルパータンパク質の不存在下で宿主細胞中で複製することができるアデノウイルスをいう。好適には、「複製能のある」アデノウイルスは、インタクトな構造遺伝子と、以下のインタクト若しくは機能的に必須の初期遺伝子:E1A、E1B、E2A、E2B及びE4を含む。特定の動物から単離された野生型アデノウイルスは、その動物中で複製能を有するであろう。
【0037】
本発明のベクター
非ヒトのサルアデノウイルスに基づくウイルスベクターは、遺伝子治療及び遺伝子ワクチンのためのヒト由来ベクターの使用の代替となる。非ヒトのサルから単離された特定のアデノウイルスは、ヒト起源の細胞における効率的な増殖によって実証されるように、ヒトから単離されたアデノウイルスと密接に関連している。ヒトは典型的にはサルアデノウイルスに対する免疫を発達させないため、サルアデノウイルスはヒトアデノウイルスの使用の改善された代替物を提供することが期待される。
【0038】
「低い血清有病率」は、ヒトアデノウイルス5(Ad5)と比較して既存の中和抗体レベルが低いことを意味し得る。同様に、又はあるいは、「低い血清有病率」は、約40%未満の血清有病率、約30%未満の血清有病率、約20%未満の血清有病率、約15%未満の血清有病率、約10%未満の血清有病率、約5%未満の血清有病率、約4%未満の血清有病率、約3%未満の血清有病率、約2%未満の血清有病率、約1%未満の血清有病率、又は検出不能の血清有病率を意味し得る。血清有病率は、Hum. Gene Ther. (2004) 15:293に記載された方法を使用して、(50%中和力価>200として定義して)臨床的に関連する中和力価を有する個体のパーセンテージとして測定され得る。
【0039】
一実施形態において、本発明のアデノウイルスベクターは、非ヒトのサルアデノウイルス由来であり、「サルアデノウイルス」ともいう。チンパンジー、ボノボ、アカゲザル、オランウータン及びゴリラなどの非ヒトのサルから、多くのアデノウイルスが単離されている。これらのアデノウイルス由来のベクターは、これらのベクターによってコードされる導入遺伝子に対する強力な免疫応答を誘導し得る。非ヒトのサルアデノウイルスに基づくベクターの特定の利点として、ヒト標的集団におけるこれらのアデノウイルスに対する交差中和抗体が相対的に欠如していることが挙げられ、従ってこれらの使用によって、ヒトアデノウイルスに対する既存の免疫を克服できる。例えば、一部のサルアデノウイルスは、既存のヒト中和抗体との交差反応性を有さず、特定のチンパンジーアデノウイルスの既存のヒト中和抗体との交差反応は、特定のヒトアデノウイルスベクター候補の場合の35%と比較して、標的集団の2%にのみ存在する(Sci. Transl. Med. (2012) 4:1)。
【0040】
本発明のアデノウイルスベクターは、サルアデノウイルスなどの非ヒトアデノウイルス由来であって良く、例えばチンパンジー(Pan troglodytes)、ボノボ(Pan paniscus)、ゴリラ(Gorilla gorilla)及びオランウータン(Pongo abelii及びPongo pygnaeus)由来であって良い。これらはグループB、グループC、グループD、グループE及びグループG由来のアデノウイルスを含む。チンパンジーアデノウイルスとしては、限定するものではないが、ChAd3、ChAd19、ChAd25.2、ChAd26、ChAd27、ChAd29、ChAd30、ChAd31、ChAd32、ChAd33、ChAd34、ChAd35、ChAd37、ChAd38、ChAd39、ChAd40、ChAd63、ChAd83、ChAd155、ChAd15、SadV41及びChAd157が挙げられる。あるいはまた、アデノウイルスベクターは、ボノボから単離された非ヒトのサルアデノウイルス由来であって良く、例えばPanAd1、PanAd2、PanAd3、Pan5、Pan6、Pan7(C7ともいう)及びPan9であって良い。ベクターには、全体的及び部分的に、非ヒトアデノウイルスのファイバー、ペントン又はヘキソンをコードするヌクレオチドが含まれ得る。
【0041】
本発明のアデノウイルスベクターの実施形態において、アデノウイルスベクターは、ヒト被験体において40%未満、30%未満、20%未満、10%未満又は5%未満の血清有病率を有し、好ましくはヒト被験体における血清有病率を有さず、より好ましくはチンパンジーアデノウイルスと以前に接触していないヒト被験体において血清有病率を有さない。
【0042】
本発明のアデノウイルスベクターの実施形態において、アデノウイルスDNAは哺乳動物標的細胞に侵入することができ、すなわち、それは感染性である。本発明の感染性組換えアデノウイルスベクターは、予防的若しくは治療的ワクチンとして、また遺伝子治療のために使用することができる。従って、一実施形態において、組換えアデノウイルスベクターは、標的細胞への送達のための内因性分子を含む。標的細胞は哺乳動物細胞、例えばウシ細胞、イヌ細胞、ヤギ細胞、シカ細胞、チンパンジー細胞、翼手目動物(chiroptera)細胞、ウマ細胞、ネコ細胞、ヒト細胞、オオカミ(lupine)細胞、ヒツジ細胞、ブタ細胞、齧歯類細胞、クマ細胞又はキツネ細胞である。標的細胞への送達のための内因性分子は発現カセットである。
【0043】
本発明の一実施形態において、ベクターは、左側ITR領域、欠失したE1領域、次いで欠失したE3領域を含み、場合によって追加のエンハンサーエレメントを含む。これらに次いでファイバー領域、E4領域及び右側ITRが続く。翻訳は右方向及び左方向になされる。この実施形態において、第1の発現カセットは欠失したE1領域に挿入され、第2の発現カセットは欠失したE3領域に挿入される。更なる実施形態において、2つの発現カセットのプロモーターはCMVプロモーターである。更なる実施形態において、エンハンサーエレメントはB型肝炎ウイルス翻訳後調節エレメント(HPRE)又はウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)である。
【0044】
本発明の一実施形態において、ベクターは、左側及び右側ITR領域、欠失したE1領域、少なくとも部分的に欠失したE3領域、ファイバー領域、E4領域、それぞれプロモーター及び少なくとも1種の目的の抗原を含む2個の発現カセット、及び場合によって1種以上のエンハンサーエレメントを含む。第1の発現カセットは欠失したE1領域に挿入され、第2の発現カセットはHE1部位、すなわちファイバー遺伝子の終止コドンとE4領域との間(「HE1部位」)に挿入される。ChAd155 HE1挿入部位は、野生型ChAd155配列のbp34611及び34612の間である。ChAd83 HE1挿入部位は、野生型ChAd83配列のbp33535及び33536の間である。翻訳は右方向及び左方向になされる。更なる実施形態において、プロモーターはCMVプロモーターである。好ましい実施形態において、一方のプロモーターはCMVプロモーターであり、他方はeCMVプロモーターである。更なる実施形態において、エンハンサーエレメントはHPRE又はWPREである。
【0045】
更なる実施形態において、ベクターは、左側及び右側ITR領域、欠失したE1領域、少なくとも部分的に欠失したE3領域、ファイバー領域、E4領域、それぞれがプロモーター、少なくとも1種の目的の抗原、及び場合によって1種以上のエンハンサーエレメントを含む2個の発現カセットを含む。第1の発現カセットは欠失したE1領域に挿入され、第2の発現カセットはHE2部位、すなわち左側ITRの末端とE4 mRNAのキャップ部位との間(「HE2部位」)に挿入される。ChAd155 HE2挿入部位は、野生型ChAd155配列のbp37662及び37663の間である。ChAd83 HE2挿入部位は、野生型ChAd83配列のbp36387及び36388の間である。翻訳は右方向及び左方向になされる。更なる実施形態において、プロモーターはCMVプロモーターである。好ましい実施形態において、一方のプロモーターはCMVプロモーターであり、他方はeCMVプロモーターである。更なる実施形態において、エンハンサーエレメントはHPRE又はWPREである(エンハンサーエレメントは導入遺伝子の発現を増大させる)。
【0046】
HE1及びHE2部位は、これらの特定の位置での挿入がChAd155及びChAd83のコード配列又は調節配列を妨害しないため、導入遺伝子の挿入部位として同定された。従って、ChAdゲノムのHE1又はHE2部位における発現カセットの挿入は、ウイルス複製サイクルに影響しない。
【0047】
本発明の一実施形態において、ベクターは、アデノウイルスベクターの機能的又は免疫原性誘導体である。「アデノウイルスベクターの誘導体」とは、ベクターの改変型、例えばベクターの1以上のヌクレオチドが欠失、挿入、改変又は置換されたものを意味する。
【0048】
更なる調節エレメント
調節エレメント、すなわち発現調節配列は、プロモーター配列に加えて、適切な転写開始、終結及びエンハンサー配列;効率的なRNAプロセシングシグナル、例えばウサギβ-グロビンポリA等のスプライシング及びポリアデニル化(ポリA)シグナル;テトラサイクリン調節システム、マイクロRNA、転写後調節エレメント(例えばWPRE、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント);細胞質mRNAを安定化させる配列;翻訳効率を増大させる配列(例えばKozakコンセンサス配列);タンパク質の安定性を増大させる配列;及び望ましい場合にはコードされた産物の分泌を増大させる配列、を含む。
【0049】
場合によって、治療的に有用な、又は免疫原性の産物をコードする導入遺伝子を保持するベクターはまた、選択マーカー又はレポーター遺伝子を含んでいても良い。レポーター遺伝子は、当分野において公知のものから選択することができる。好適なレポーター遺伝子としては、限定するものではないが、増大した緑色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質、ルシフェラーゼ及び分泌型胚性アルカリ性ホスファターゼ(seAP)が挙げられ、特にジェネティシン、ハイグロマイシン又はピューロマイシン(purimycin)耐性をコードする配列を挙げることができる。このような選択レポーター又はマーカー遺伝子(ウイルス粒子中にパッケージングされるウイルスゲノムの外側に位置してもしていなくても良い)を用いて、アンピシリン耐性等で、細菌細胞中のプラスミドの存在を示すことができる。ベクターの他の構成要素としては、複製起点を挙げることができる。
【0050】
本明細書で用いる「転写後調節エレメント」は、転写された場合に、本発明のウイルスベクターによって送達される導入遺伝子又はその断片の発現を増大させるDNA配列である。転写後調節エレメントとしては、限定するものではないがB型肝炎ウイルス翻訳後調節エレメント(HPRE)及びウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)が挙げられる。WPREは、全てではないが特定のプロモーターによって駆動される導入遺伝子の発現を増大させることが実証されている三成分の(tripartite)シス作用性エレメントである。
【0051】
本発明の実施形態において、ChAd155ベクターは、プロモーター、エンハンサー、及びレポーター遺伝子の1種以上を含み得る。例えば、本発明のベクターは、ChAd155-増強hCMV-SeAP、ChAd155-CASI-seAP及びChAd155-hCMV-seAPを、場合によってテトラサイクリンのオン/オフ転写調節と共に、またChAd155-CMV-hFerL-chEF1-seAPをテトラサイクリンのオン/オフ転写調節と共に、含み得る。
【0052】
本発明の実施形態において、ChAd83ベクターは、プロモーター、エンハンサー、及びレポーター遺伝子の1種以上を含み得る。例えば、本発明のベクターは、ChAd155-増強hCMV-SeAP、ChAd83増強hCMV SeAP、ChAd155-CASI-seAP及びChAd83-hCMV-seAPを、場合によってテトラサイクリンのオン/オフ転写調節と共に、またChAd83-CMV-hFerL-chEF1-seAPをテトラサイクリンのオン/オフ転写調節と共に、含み得る。
【0053】
本発明のベクターは、当業者に公知の技術と併せて、本明細書で提供する技術を用いて作製される。そのような技術としては、本明細書に記載されたもの等のcDNAの伝統的なクローニング技術、アデノウイルスゲノムの重複したオリゴヌクレオチド配列の使用、ポリメラーゼ連鎖反応、及び所望のヌクレオチド配列を提供する任意の適切な方法が挙げられる。
【0054】
導入遺伝子
「導入遺伝子」は、その導入遺伝子に隣接するベクター配列に対して異種の核酸配列であり、目的のポリペプチドをコードする。核酸コード配列は、宿主細胞中での導入遺伝子の転写、翻訳、及び/又は発現を可能にするように調節コンポーネントに機能的に連結する。本発明の実施形態において、ベクターは、治療的又は予防的レベルで導入遺伝子を発現する。トランスジェニックポリペプチドの「機能的誘導体」は、ポリペプチドの改変型であり、例えば、1個以上のアミノ酸が欠失、挿入、改変又は置換されたものである。
【0055】
導入遺伝子は、予防又は治療のために、例えば免疫応答を誘導するためのワクチンとして、不完全若しくは欠損した遺伝子を修復又は置き換えることで遺伝的欠陥を修正するために、又は癌治療剤として、使用することができる。本明細書において使用する場合、免疫応答の誘導とは、そのタンパク質に対するT細胞及び/又は液性抗体免疫応答を誘導する、タンパク質の能力をいう。
【0056】
導入遺伝子によって生起される免疫応答は、中和抗体を産生する抗原特異的B細胞応答であり得る。生起された免疫応答は、抗原特異的T細胞応答であり得、これは全身的及び/又は局所的応答であり得る。抗原特異的T細胞応答は、サイトカイン、例えばインターフェロンγ(IFNγ)、腫瘍壊死因子α(TNFα)及び/又はインターロイキン2(IL2)を発現するCD4+ T細胞が関与する応答等のCD4+ T細胞応答を含み得る。あるいは、又はそれに加えて、抗原特異的T細胞応答は、サイトカイン、例えばIFNγ、TNFα及び/又はIL2を発現するCD8+ T細胞が関与する応答等のCD8+ T細胞応答を含む。
【0057】
導入遺伝子配列の組成は、得られるベクターの用途に依存するであろう。一実施形態において、導入遺伝子は、予防的導入遺伝子、治療的導入遺伝子又は免疫原性導入遺伝子等、生物学及び医薬において有用な産物、例えばタンパク質又はRNAをコードする配列である。タンパク質導入遺伝子は抗原を含む。本発明の抗原性導入遺伝子は、疾患を引き起こす生物に対する免疫原性応答を誘導する。
【0058】
狂犬病ウイルス抗原、例えば狂犬病糖タンパク質(RG)、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)抗原、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)抗原、又はこれらの断片等の導入遺伝子は、本発明のプロモーターと共に使用するために好適であろう。しかしながら、本発明は、そのような導入遺伝子との使用に限定されない。
【0059】
遺伝子コードの冗長性の結果、あるポリペプチドが、様々な異なる核酸配列によってコードされ得る。コード化は、一部の同義コドンの使用に偏っており、すなわち、他よりも多く同じアミノ酸をコードするコドンがある。「コドン最適化されている」とは、組換え核酸のコドン組成の改変がアミノ酸配列の変更なしでなされていることを意味する。コドン最適化は、生物特異的なコドン使用頻度を使用することによって、異なる生物でのmRNA発現を改善するために使用されてきた。
【0060】
コドンバイアスに加え、またそれとは独立して、一部の同義コドンの対が他よりもより頻繁に使用される。このコドン対のバイアスは、一部のコドン対が多く現れ(overrepresented)、他のコドン対はあまり現れない(underrepresented)ことを意味する。コドン対の最適化解除(deoptimization)は、ウイルスの毒性を低減させるために使用されてきた。例えば、あまり現れないコドン対を含むように改変されたポリオウイルスは翻訳効率の低下を示し、野生型ポリオウイルスと比較して弱毒化することが報告されている(Science (2008) 320:1784)。コドン対の最適化解除による合成弱毒化ウイルスの操作によって、野生型と同じアミノ酸配列をコードするが、同義コドンの異なるペアワイズの配置を使用するウイルスを産生し得る。コドン対の最適化解除によって弱毒化したウイルスは、野生型と比較して最大1000倍少ないプラークを形成し、より少ないウイルス粒子を産生し、プラークを形成するのに約100倍多くのウイルス粒子を必要とした。
【0061】
対照的に、ヒトゲノム中で多く現れるコドン対を含むように改変されたポリオウイルスは、野生型RNAと類似した方法で作用し、野生型RNAと同じサイズのプラークを形成した(Coleman等、(2008) Science 320:1784)。このことは、多く現れるコドン対を有するウイルスが、あまり現れないコドン対を有するウイルスと類似した数の変異を含み、野生型と比較して増大した翻訳を示すという事実にもかかわらず生じた。この観察から、コドン対を最適化した構築物が、コドン対を最適化していない対応物と類似の方法で作用することが予測され、機能的な利点をもたらすことは予測されないことが示唆される。理論に拘束されるものではないが、このことは、自然進化がコドン対を最適化した理由かも知れない。
【0062】
本発明の構築物は、コドン最適化された核酸配列を含み得る。あるいは、又はそれに加えて、本発明のベクターは、導入遺伝子又はその免疫原性誘導体若しくは断片のコドン最適化した配列を含む。本発明の構築物は、コドン対が最適化された核酸配列を含み得る。あるいは、又はそれに加えて、本発明のベクターは、導入遺伝子又はその免疫原性誘導体若しくは断片のコドン対が最適化された配列を含むか、又はそれからなる。
【0063】
呼吸器合胞体ウイルス(RSV)導入遺伝子
RSVによる感染は、完全な防御免疫を与えない。幼年期における感染に続いて、症候性のRSV再感染が成人期を通して継続する。これらの再感染は、通常は一般的な急性上気道感染症として現れるため、診断されずに終わることが一般的である。しかしながら、より脆弱な人(例えば免疫不全の成人又は高齢者)では、再感染はまた重篤な疾患につながり得る。重篤な疾患からの保護には免疫システムの双方のアーム(液性及び細胞性免疫)が関与する[Guvenel、2014]。
【0064】
液性免疫応答は、ウイルスを中和してウイルス複製を阻害することができ、それによって下気道RSV感染及び重篤な疾患に対する保護において主要な役割を果たし得る[Piedra、2003]。予防的に投与された免疫グロブリンG(IgG)RSV-中和モノクローナル抗体(Synagis)の形態での受動免疫は、未熟児及び気管支肺異形成又は心肺の基礎疾患を有する新生児においてある程度RSV疾患を防止することが示されている[Cardenas、2005]。
【0065】
T細胞も、RSV疾患の制御に関与する。致死的なRSV感染は、重症複合免疫不全症、骨髄及び肺移植のレシピエントの場合のような、CD8 T細胞数が低い患者で記載されている[Hertz、1989]。新生児のRSV感染の致死症例の病理組織学では、肺浸潤中にCD8 T細胞が比較的少ないことが示されている[Welliver、2007]。更に、インターフェロンγ(IFNγ)を産生するCD8 T細胞の存在は、RSVの動物モデルにおいてTh2応答の減少及び好酸球増加症の低減と関連していた[Castilow、2008;Stevens、2009]。
【0066】
ヒト又は非ヒト動物を免役するための免疫原として有用なRSVの好適な抗原は、融合タンパク質(F)、付着タンパク質(G)、マトリックスタンパク質(M2)及び核タンパク質(N)から選択され得る。用語「Fタンパク質」又は「融合タンパク質」又は「Fタンパク質ポリペプチド」又は「融合タンパク質ポリペプチド」は、RSV融合タンパク質ポリペプチドのアミノ酸配列の全て若しくは一部を有するポリペプチド又はタンパク質をいう。同様に、用語「Gタンパク質」又は「Gタンパク質ポリペプチド」は、RSV付着タンパク質ポリペプチドのアミノ酸配列の全て若しくは一部を有するポリペプチド又はタンパク質をいう。用語「Mタンパク質」又は「マトリックスタンパク質」又は「Mタンパク質ポリペプチド」は、RSVマトリックスタンパク質のアミノ酸配列の全て若しくは一部を有するポリペプチド又はタンパク質をいい、M2-1(本明細書においてM2.1と記載され得る)及びM2-2遺伝子産物のいずれか又は双方を含み得る。同様に、用語「Nタンパク質」又は「ヌクレオカプシドタンパク質」又は「Nタンパク質ポリペプチド」は、RSV核タンパク質のアミノ酸配列の全て若しくは一部を有するポリペプチド又はタンパク質をいう。
【0067】
主としてG糖タンパク質の抗原性の違いに基づいて、2つの群のヒトRSV株、A群及びB群が記載されている。これまでにRSVの多くの株が単離されており、そのいずれもが、本明細書に開示される免疫原性組み合わせ物の抗原として好適である。GenBank及び/又はEMBL登録番号で示される例示的な株が、米国特許出願公開番号第2010/0203071号(WO 2008/114149号)に見ることができ、該文献は、本発明における使用に好適なRSV F及びGタンパク質の核酸及びポリペプチド配列を開示する目的で、参照により本明細書中に組み込まれる。一実施形態において、RSV Fタンパク質は、RSV Fタンパク質のエクトドメイン(FΔTM)であり得る。
【0068】
例示的なM及びNタンパク質の核酸及びタンパク質配列は、例えば米国特許出願公開番号第2014/0141042号(WO 2012/089833号)に見ることができ、該文献は、本発明における使用に好適なRSV M及びNタンパク質の核酸及びポリペプチド配列を開示する目的で、本明細書中に組み込まれる。
【0069】
導入遺伝子核酸は、RSV F抗原及びRSV M及びN抗原をコードし得る。より具体的には、核酸は、RSV FΔTM抗原(膜貫通領域及び細胞質領域を欠失する融合(F)タンパク質)、及びRSV M2-1(転写抗終結(transcription anti-termination))及びN(ヌクレオカプシド)抗原をコードし得る。
【0070】
膜貫通領域及び細胞質領域を欠失する融合(F)タンパク質(FΔTM)
RSV Fタンパク質は主要な表面抗原であり、標的細胞へのウイルスの融合を仲介する。Fタンパク質は、RSV サブグループ及び株の間で高度に保存されている抗原である。Fタンパク質は、予防的RSV中和モノクローナル抗体Synagisを含む、中和抗体のための標的である。膜貫通領域及び細胞質テイルの欠失により、FΔTMタンパク質の分泌が可能となる。Fタンパク質のこの可溶性形態を認識する、Synagisを含む中和抗体は、in vitroでRSVの感染性を阻害する[Magro、2010]。
【0071】
ヌクレオカプシド(N)タンパク質
Nタンパク質は、RSV株間で高度に保存され、多くのT細胞エピトープの供給源として知られる内部(暴露されていない)抗原である[Townsend、1984]。Nタンパク質はRSVゲノムの複製及び転写に必須である。Nタンパク質の主要な機能は、RNA転写、複製及びパッケージングの目的でウイルスゲノムをカプセル化し、リボヌクレアーゼからそれを保護することである。
【0072】
転写抗終結(M2-1)タンパク質
M2-1タンパク質は、全長メッセンジャーRNA(mRNA)の効率的な合成、並びにセグメント化されていないマイナス鎖RNAウイルスに特徴的なポリシストロン性のリードスルーmRNAの合成のために重要な転写抗終結因子である。M2-1は、RSV株間で高度に保存されており、多くのT細胞エピトープの供給源として知られる内部(暴露されていない)抗原である[Townsend、1984]。
【0073】
N-M2-1融合タンパク質
リンカーをコードするポリヌクレオチドは、RSV N抗原又はその断片をコードするポリヌクレオチドと、RSV M2.1抗原又はその断片をコードするポリヌクレオチドとの間に配置される。従って、特定の好ましい例において、発現カセットは融合したRSVウイルスタンパク質N-リンカー-M2.1をコードする導入遺伝子を含む。リンカーはフレキシブルリンカーであることが好ましく、好ましくは配列番号13(Gly-Gly-Gly-Ser-Gly-Gly-Gly)又は配列番号14(Gly-Gly-Gly-Gly-Ser-Gly-Gly-Gly-Gly)のアミノ酸配列を含むフレキシブルリンカーである。
【0074】
アデノウイルスベクターの送達
一部の実施形態において、本発明の組換えアデノウイルスベクターは、経皮(epicutaneous)投与、皮内投与、筋肉内注射、腹腔内注射、静脈内注射、鼻内投与、経口投与、直腸投与、皮下注射、経皮(transdermal)投与又は膣内投与によって被験者に投与される。
【0075】
本発明の一実施形態において、ベクターは筋肉内に(IM)投与され、すなわち、筋肉内に直接注入され得る。筋肉には血管が多く、取り込みは典型的に急速である。
【0076】
アジュバント
特定の病原体に対する強力で持続的な免疫を確立するためのアプローチに、ワクチンへのアジュバントの添加が含まれる。「アジュバント」は、組成物の活性成分に対する免疫応答を増大させ、刺激し、活性化し、増強し、又は調節する薬剤を意味する。アジュバント効果は、細胞レベル若しくは液性レベル、又はその双方で生じ得る。アジュバントは実際の抗原に対する免疫システムの応答を刺激するが、それ自体は免疫学的効果を有さない。あるいは、又はそれに加えて、本発明のアジュバント添加組成物は、1種以上の免疫刺激剤を含有し得る。「免疫刺激剤」とは、抗原と共に又は別個に投与して、被験体の免疫応答の全体的な一時的増大を誘導する薬剤を意味する。
【0077】
本発明の組成物は、アジュバントと共に、又はアジュバントなしで、投与され得る。あるいは、又はそれに加えて、組成物は、1種以上のアジュバント(例えばワクチンアジュバント)を含んでいても良く、又はこれと共に投与しても良く、特に、組成物は、導入遺伝子をコードする免疫学的有効量の本発明のベクターを含む。
【0078】
使用方法/使用
本明細書に開示されるような免疫学的有効量の構築物又は組成物を投与するステップを含む、病原体によって引き起こされる疾患に対する免疫応答を、それを必要とする被験体において誘導する方法が提供される。一部の実施形態において、それを必要とする被験体においてトランスジェニック抗原に対する免疫応答を誘導するための、本明細書に開示される構築物又は組成物の使用が提供される。本発明のベクターは、感染に起因する疾患の予防、治療又は軽減のために投与され得る。
【0079】
本発明の方法は、医薬における本発明のベクターの使用を含む。方法には、病原体によって引き起こされる疾患の治療のための、本発明のベクターの使用が含まれる。本発明のベクターは、病原体によって引き起こされる疾患を治療するための医薬の製造において使用され得る。
【0080】
アデノウイルスベクターによる効果的な免疫は、アデノウイルスベクター骨格の内因性の免疫調節能に依存する。免疫学的に強力ではないアデノウイルスは、より低い抗原発現を誘導する。効果的な免疫はまた、強力かつ持続的な導入遺伝子発現を駆動するプロモーターの能力にも依存する。例えば、サイトメガロウイルス前初期(CMV-IE)プロモーターによって駆動されるアデノウイルスベクターは、発現を抑制する(dampen)サイトカインを誘導するため、長期の導入遺伝子発現を持続させない。
【0081】
「被験体」とは、哺乳動物、例えばヒト又は獣医学的哺乳動物(veterinary mammal)等の脊椎動物を意図する。一部の実施形態において、被験体はヒトである。
【0082】
通則
本発明のベクターは、本明細書において提供された技術及び配列を、当業者に公知の技術と組み合わせて使用して作製される。そのような技術としては、教科書に記載されているようなcDNAの伝統的なクローニング技術、アデノウイルスゲノムの重複したオリゴヌクレオチド配列の使用、ポリメラーゼ連鎖反応、及び所望のヌクレオチド配列を提供する任意の適切な方法が挙げられる。
【0083】
他に説明のない限り、本明細書で使用する全ての技術的及び科学的用語は、本開示が属する分野の当業者が通常理解するのと同じ意味を有する。単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈が明確に他のことを示さない限り複数形の対象物を含む。同様に、「又は(or)」は、文脈が明確に他のことを示さない限り「及び(and)」を含むことが意図される。用語「複数の(plurality)」は2以上を示す。更に、物質の濃度又はレベルに関して記載される数値限定、例えば溶液中の成分の濃度又はその比率、及び温度、圧力及びサイクル数等の反応条件は、概数であることが意図される。本明細書において使用する用語「約」は、その量±10%を意味することが意図される。
本発明を、以下の非限定的実施例によって以下で更に記載する。
【実施例
【0084】
[実施例1:チンパンジーアデノウイルスの構築]
健康なチンパンジーから標準的な手順を用いて野生型チンパンジーアデノウイルス155型(ChAd155)(WO 2016/198621号)を単離し、Sci Transl Med (2012) 4:1及びWO 2010/086189号に記載されたような複製欠損ウイルスとして構築した。
【0085】
ChAd155は、アデノウイルス(adeno)の2つの異なる位置に2種の導入遺伝子発現カセットを挿入することによって構築する:
(1)第1の発現カセットの構成要素は、古典的なヒトCMV(hCMV)プロモーター及びN.M2-1 RSV抗原を含む。この第1の発現カセットは、アデノウイルスのE1領域中に(E1領域を欠失させた後で)挿入する。
(2)第2の発現カセットは、増強させた古典的ヒトCMV(増強hCMV)プロモーター、FΔTM RSV抗原及びWPREエンハンサーを含む。この第1の発現カセットは、アデノウイルスのHE2領域中に(HE2領域を欠失させた後で)挿入する。
【0086】
デュアル発現カセットを含むこのベクターを図1に示す。
図1の構築物において、Ad5E4orf6が初期遺伝子4(E4)領域中に置換されている。この置換は、HEK293細胞における生産性を上昇させるために必要である。
【0087】
[実施例2:実施例1のチンパンジーアデノウイルスからの導入遺伝子発現]
MRC5細胞における例6のChAd155ベクター(図面において「デュアル」又は「デュアルカセット」と示す)中の導入遺伝子発現レベルを、
(i)単一のF発現カセットを含むベクター(ChAd155-FΔTM、「F0ΔTm」と表記)、
(ii)単一のNM2発現カセットを含むベクター(ChAd155-NM2、「NM2-1」と表記)、及び
(iii)F及びN-M2 RSV抗原を含む単一の発現カセットを含む例5のベクター(ChAd155-FΔTM.NM2、「RSV」とも表記する)
と比較するウェスタンブロット解析を行った。
【0088】
ウェスタンブロット解析は図2及び図3に示す。
図2に示すように、細胞を、細胞あたり500個のウイルス粒子の感染多重度で、ChAd155-FΔTM、ChAd155-FΔTM.NM2(「RSV」)又はChAd155デュアルカセットで感染させた。更に、細胞を、細胞あたり1250個のウイルス粒子の感染多重度でChAd155-FΔTM.NM2(「RSV」)で感染させた。細胞を、感染後48時間又は96時間で回収し、標準的な方法を使用して抽出物を調製し、等量の全細胞抽出物をSDS-PAGEゲル上にロードした。
図2は、ChAd155デュアルカセットが、MRC5細胞中でChAd155FΔTMと同等で、かつChAd155-FΔTM.NM2よりも高いF抗原の発現レベルをもたらすことを示す。
【0089】
図3に示すように、細胞を、細胞あたり250個及び1250個のウイルス粒子の感染多重度でChAd155-NM2、ChAd155-FΔTM.NM2(「RSV」)又は例6のChAd155デュアルカセットで感染させた。細胞を、感染後48時間で回収し、標準的な方法を使用して抽出物を調製し、等量の全細胞抽出物をSDS-PAGEゲル上にロードした。
図3において、ChAd155デュアルカセットは、MRC5細胞中でChAd155-NM2単一ベクターと同等であり、かつChAd155-FΔTM.NM2(「RSV」)よりも高いNM2-1発現レベルをもたらしている。
【0090】
[実施例3:実施例1のチンパンジーアデノウイルスの免疫原性]
例6のデュアル発現カセットの免疫原性を、CD1異系交配マウス(群あたり10匹)で評価した。実験は、5×108個のウイルス粒子をマウスに筋肉内注射することによって行った。免疫後4週間及び8週間で、RSV中和力価を測定することによってB細胞応答を測定した。各ドットは一匹のマウスの応答を示し、横線は各投与群での平均に相当する。この解析の結果を図4に示す。
図4は、ChAd155デュアルカセットがChAd155-FΔTMに匹敵し、かつChAd155-FΔTM.NM2(「RSV」)によってもたらされるよりも高いB細胞応答をもたらすことを示す。
【0091】
例6のデュアル発現カセットの免疫原性を、BALB/c異系交配マウス(群あたり48、11又は8匹)でも評価した。実験は、107個又は108個のウイルス粒子を筋肉内注射することにより行った。免疫後3週間で、BALB/cマウスにマッピングしたM2ペプチドT細胞エピトープを使用するex vivoでのIFN-γ酵素結合免疫スポット(ELISpot)によってT細胞応答を測定した。結果を、100万個の脾細胞あたりのIFN-γスポット形成細胞(SFC)として表して図11に示す。各ドットは一匹のマウスの応答を示し、横線は各投与群での平均に相当する。ウイルス粒子数での注入用量をx軸上に示す。結果を図5に示す。
【0092】
図5は、ChAd155デュアルカセットが、ChAd155-FΔTM.NM2(「RSV」、その結果は歴史的データから得られる)によってもたらされるよりも高いT細胞応答をもたらすことを示す。この応答の差は106個の用量でより大きい。
図5は、「陽性マウス数」、すなわちワクチンに応答したマウスの数を示す。
【0093】
[実施例3:異なるプロモーターを有するChAd155によるMRC5細胞におけるSeAP発現]
分泌型胚性アルカリホスファターゼ(SeAP)システムは、プロモーター活性を試験するために広く使用されている。SeAPレポーター遺伝子は、膜アンカードメインを欠くヒト胎盤性アルカリホスファターゼ遺伝子の切断型をコードしている。従って、SeAPタンパク質は細胞上清中に分泌され、細胞を破壊することなくプロモーター活性を決定することを可能とする。
【0094】
図6は、異なるプロモーターを用いて構築されたChAd155ベクターからのMRC5細胞におけるSeAP発現を示す。本実施例で使用された3種の異なるChAd155ベクターは以下の通りである:
・公知のヒトCMV(hCMV)プロモーターを有するChAd155
・公知のCASIプロモーターを有するChAd155
・新規増強hCMVプロモーターを有するChAd155
【0095】
この実験において、MRC5を、moi=250vp/細胞で感染させ、ChAd155ウイルスの感染後2日(48時間)、4日(96時間)及び7日(1週間)でSeAPの測定を行った。
図6からわかるように、新規増強hCMVプロモーターを用いて構築したベクターは、測定した全ての時点において、他の2種のベクターよりも高いSeAP発現を示した。
【0096】
[実施例4:異なるプロモーターを有するChAd155によるHeLa細胞におけるSeAP発現]
図7は、異なるプロモーターを用いて構築されたChAd155ベクターからのHeLa細胞におけるSeAP発現を示す。実施例3と同様に、この実験で使用された3種の異なるChAd155ベクターは以下の通りである:
・公知のヒトCMV(hCMV)プロモーターを有するChAd155(d)
・公知のCASIプロモーターを有するChAd155(d)
・新規増強hCMVプロモーターを有するChAd155(d)
【0097】
この実験において、HeLaをmoi=50vp/細胞で感染させ、ChAd155ウイルスの感染後2日(48時間)、4日(96時間)及び7日(1週間)でSeAPの測定を行った。
図7からわかるように、新規増強hCMVプロモーターを用いて構築したベクターは、測定した全ての時点において、他の2種のベクターよりも高いSeAP発現を示した。

本発明は以下を提供する。
1. 以下:
(i)hCMVエンハンサー配列、
(ii)hCMVプロモーター配列、
(iii)スプライスドナー領域、
(iv)細胞由来エンハンサー配列、及び
(v)スプライスアクセプター領域
を含むプロモーター。
2. 導入遺伝子及びプロモーターを含む発現カセットを含むアデノウイルスベクターであって、該プロモーターが
(i)hCMVエンハンサー配列、
(ii)hCMVプロモーター配列、
(iii)スプライスドナー領域、
(iv)細胞由来エンハンサー配列、及び
(v)スプライスアクセプター領域
を含む、上記アデノウイルスベクター。
3. 第1及び第2の発現カセットを含むアデノウイルスベクターであって、各発現カセットが導入遺伝子及びプロモーターを含み、第1の発現カセット及び/又は第2の発現カセットのプロモーターが、以下
(i)hCMVエンハンサー配列、
(ii)hCMVプロモーター配列、
(iii)スプライスドナー領域、
(iv)細胞由来エンハンサー配列、及び
(v)スプライスアクセプター領域
を含むプロモーターである、上記アデノウイルスベクター。
4. 上記細胞由来エンハンサー配列がユビキチン(UBC)エンハンサー配列である、上記1~3のいずれかに記載のプロモーター又はアデノウイルスベクター。
5. 上記UBCエンハンサーが配列番号11の配列を含む、上記4に記載のプロモーター又はアデノウイルスベクター。
6. 配列番号8、配列番号10、配列番号11及び配列番号12の1以上を含む、上記1~5のいずれかに記載のプロモーター又はアデノウイルスベクター。
7. 上記第1の発現カセットが上記プロモーターを含む、上記3に記載のアデノウイルスベクター。
8. 上記第2の発現カセットが上記プロモーターを含む、上記3又は7に記載のアデノウイルスベクター。
9. 上記プロモーターが更に
(vi)ニワトリβ-アクチン配列の断片
を含み、該ニワトリβ-アクチン配列の断片がニワトリβ-アクチン配列の5'非翻訳領域を含み、かつ上記プロモーター配列を含まない、上記1~8のいずれかに記載のプロモーター又はアデノウイルスベクター。
10. 配列番号3に対して少なくとも84.1%の同一性を有する核酸配列を含むプロモーター。
11. 導入遺伝子及びプロモーターを含む発現カセットを含むアデノウイルスベクターであって、該プロモーターが配列番号3に対して少なくとも84.1%の同一性を有する核酸配列を含む、上記アデノウイルスベクター。
12. 第1及び第2の発現カセットを含むアデノウイルスベクターであって、各発現カセットが導入遺伝子及びプロモーターを含み、第1の発現カセット及び/又は第2の発現カセットのプロモーターが、配列番号3に対して少なくとも84.1%の同一性を有するプロモーターである、上記アデノウイルスベクター。
13. 上記第1の発現カセットが上記プロモーターを含む、上記12に記載のアデノウイルスベクター。
14. 上記第2の発現カセットが上記プロモーターを含む、上記12又は13に記載のアデノウイルスベクター。
15. 上記プロモーターが、配列番号3に対して少なくとも約84.5%、少なくとも約85%、少なくとも約86%、少なくとも約87%、少なくとも約88%、少なくとも約89%、又はそれ以上の配列同一性を有する核酸配列を含む、上記10~14のいずれかに記載のプロモーター又はアデノウイルスベクター。
16. 上記プロモーターが、配列番号3に対して少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、又はそれ以上の配列同一性を有する核酸配列を含む、上記10~15のいずれかに記載のプロモーター又はアデノウイルスベクター。
17. 上記プロモーターが配列番号3の核酸配列を含む、上記1~7のいずれかに記載のプロモーター又はアデノウイルスベクター。
18. 上記プロモーターが配列番号3の核酸配列からなる、上記1~8のいずれかに記載のプロモーター又はアデノウイルスベクター。
【0098】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
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