IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ パイオニア株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-発光装置の製造方法 図1
  • 特許-発光装置の製造方法 図2
  • 特許-発光装置の製造方法 図3
  • 特許-発光装置の製造方法 図4
  • 特許-発光装置の製造方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-07
(45)【発行日】2023-03-15
(54)【発明の名称】発光装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H10K 71/40 20230101AFI20230308BHJP
   H10K 71/16 20230101ALI20230308BHJP
   H10K 71/30 20230101ALI20230308BHJP
   H10K 71/60 20230101ALI20230308BHJP
   H10K 50/155 20230101ALI20230308BHJP
   H10K 50/17 20230101ALI20230308BHJP
【FI】
H10K71/40
H10K71/16
H10K71/30
H10K71/60
H10K50/155
H10K50/17
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020562419
(86)(22)【出願日】2019-12-26
(86)【国際出願番号】 JP2019051164
(87)【国際公開番号】W WO2020138306
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-06-25
(31)【優先権主張番号】P 2018247736
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005016
【氏名又は名称】パイオニア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(74)【代理人】
【識別番号】100127236
【弁理士】
【氏名又は名称】天城 聡
(72)【発明者】
【氏名】平沢 明
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 佑生
【審査官】小久保 州洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-324537(JP,A)
【文献】特開2007-043122(JP,A)
【文献】国際公開第2005/064994(WO,A1)
【文献】特開2002-313583(JP,A)
【文献】国際公開第2011/040238(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 71/40
H10K 71/16
H10K 71/30
H10K 71/60
H10K 50/155
H10K 50/17
H01L 51/50 - 51/56
H05B 33/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の第1面上に第1電極を形成する工程と、
前記第1電極上に第1層を含む有機層を形成する工程と、
前記有機層上に第2電極を形成する工程と、
を含み、
前記有機層を形成する工程は、前記第1層を加熱する工程を含み、
前記第1層は、第1有機材料と、金属元素を含む化合物と、を含み、
前記第1層における前記化合物の濃度が、前記第1電極近傍よりも前記第1電極から離れた位置において低くなっている発光装置の製造方法。
【請求項2】
請求項に記載の発光装置の製造方法において、
前記第1層における前記化合物の濃度分布は、前記第1層を加熱し前記化合物の少なくとも一部を沈殿させて生成される発光装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、発光装置は、有機発光ダイオード(OLED)を有することがある。OLEDは、第1電極、有機層及び第2電極を含んでいる。有機層は、有機エレクトロルミネッセンス(EL)によって発光する発光層(EML)を含んでいる。有機層は、第1電極及びEMLの間に機能層(例えば、正孔注入層(HIL)又は正孔輸送層(HTL))をさらに含んでいることがある。
【0003】
特許文献1には、有機材料及び金属化合物を含む機能層を形成する方法の一例について記載されている。機能層は、有機材料及び金属化合物の共蒸着によって形成される。特許文献1には、共蒸着の条件(例えば、蒸着源から蒸着ターゲットまでの距離)の制御によって、第1電極側からEML側に向けて機能層における金属化合物の濃度が減少することが記載されている。
【0004】
特許文献2には、第1金属化合物及び第2金属化合物を含む機能層を形成する方法の一例について記載されている。機能層は、第1金属化合物及び第2金属化合物の共蒸着によって形成される。特許文献2には、第2金属化合物の蒸着速度の制御によって、第1電極側からEML側に向けて機能層における第1金属化合物の混合割合及び第2金属化合物の混合割合が変化することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-43122号公報
【文献】国際公開2011/040238号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、有機材料中の金属元素含有化合物(例えば、モリブン酸化物)の好適な濃度分布を実現すること、例えば、当該濃度を、第1電極から一定距離離れた位置において、第1電極の近傍の位置においてよりも低下させることを検討した。
【0007】
本発明が解決しようとする課題としては、有機材料中における金属元素を含む化合物の好適な濃度分布を実現することが一例として挙げられる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、
第1電極と、
前記第1電極上に位置し、第1層を含む有機層と、
前記有機層上に位置する第2電極と、
を含み、
前記第1層は、
第1有機材料と、金属元素を含む化合物と、を含み、前記第1電極に接する第1領域と、
前記第1有機材料と、前記化合物と、を含み、前記第1領域よりも前記第1電極から離れた第2領域と、
を含み、
前記第2領域における前記金属元素のSIMSプロファイルの平均強度は、前記第1領域における前記金属元素のSIMSプロファイルの平均強度の10%未満である、発光装置である。
【0009】
請求項10に記載の発明は、
第1電極と、
前記第1電極上に位置し、第1層を含む有機層と、
前記有機層上に位置する第2電極と、
を含み、
前記第1層は、
第1有機材料と、金属元素を含む化合物と、を含み、前記第1電極に接する第1領域と、
前記第1有機材料と、前記化合物と、を含み、前記第1領域よりも前記第1電極から離れた第2領域と、
を含み、
前記第2領域における前記金属元素のSIMSプロファイルの最大強度は、前記第1領域における前記金属元素のSIMSプロファイルの最大強度の10%未満である、発光装置である。
【0010】
請求項11に記載の発明は、
第1電極と、
前記第1電極上に位置し、第1層を含む有機層と、
前記有機層上に位置する第2電極と、
を含み、
前記第1層は、
第1有機材料と、金属元素を含む化合物と、を含み、前記第1電極に接する第1領域と、
前記第1有機材料と、前記化合物と、を含み、前記第1領域よりも前記第1電極から離れた第2領域と、
を含み、
前記第2領域における、前記第1有機材料の体積及び前記化合物の体積の合計に対する前記化合物の体積の割合のプロファイルの平均は、前記第1領域における、前記第1有機材料の体積及び前記化合物の体積の合計に対する前記化合物の体積の割合のプロファイルの平均の10%未満である、発光装置である。
【0011】
請求項12に記載の発明は、
第1電極と、
前記第1電極上に位置し、第1層を含む有機層と、
前記有機層上に位置する第2電極と、
を含み、
前記第1層は、
第1有機材料と、金属元素を含む化合物と、を含み、前記第1電極に接する第1領域と、
前記第1有機材料と、前記化合物と、を含み、前記第1領域よりも前記第1電極から離れた第2領域と、
を含み、
前記第2領域における、前記第1有機材料の体積及び前記化合物の体積の合計に対する前記化合物の体積の割合のプロファイルの最大は、前記第1領域における、前記第1有機材料の体積及び前記化合物の体積の合計に対する前記化合物の体積の割合のプロファイルの最大の10%未満である、発光装置である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態に係る発光装置の断面図である。
図2図1に示した第1層における二次イオン質量分析(SIMS)プロファイルの一例を示す図である。
図3図1に示した発光装置の製造方法の一例を説明するための図である。
図4】第1層を加熱する理由の一例を説明するための図である。
図5】第1層を加熱する理由の一例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0014】
本明細書において「AがB上に位置する」という表現は、例えば、AとBの間に他の要素(例えば、層)が位置せずにAがB上に直接位置することを意味してもよいし、又はAとBの間に他の要素(例えば、層)が部分的又は全面的に位置することを意味してもよい。さらに、「上」、「下」、「左」、「右」、「前」及び「後ろ」等の向きを示す表現は、基本的に図面の向きと合わせて用いるものであって、例えば本明細書に記載された発明品の使用する向きに限定して解釈されるものではない。
【0015】
本明細書中における陽極とは、発光材料を含む層(例えば有機層)に正孔を注入する電極のことを示し、陰極とは、発光材料を含む層に電子を注入する電極のことを示す。また、「陽極」及び「陰極」という表現は、「正孔注入電極」及び「電子注入電極」又は「正極」及び「負極」等の他の文言を意味することもある。
【0016】
本明細書における「発光装置」とは、ディスプレイや照明等の発光素子を有するデバイスを含む。また、発光素子と直接的、間接的又は電気的に接続された配線、IC(集積回路)又は筐体等も「発光装置」に含む場合もある。
【0017】
本明細書において、特に断りがない限り「第1、第2、A、B、(a)、(b)」等の表現は要素を区別するためのものであり、その表現により該当要素の本質、順番、順序又は個数等が限定されるものではない。
【0018】
本明細書において、各部材及び各要素は単数であってもよいし、又は複数であってもよい。ただし、文脈上、「単数」又は「複数」が明確になっている場合はこれに限らない。
【0019】
本明細書において、「AがBを含む」という表現は、特に断らない限り、AがBのみによって構成されていることに限定されず、AがB以外の要素によって構成され得ることを意味する。
【0020】
本明細書において「断面」とは、特に断らない限り、発光装置を画素や発光材料等が積層した方向に切断したときに現れる面を意味する。
【0021】
本明細書において、「~後に」、「~に続いて」、「~次に」、「~前に」等の時間的前後関係を説明する表現は、相対的な時間関係を表しているものであり、時間的前後関係が用いられた各要素が必ずしも連続しているとは限らない。各要素が連続していることを表現する場合、「直ちに」又は「直接」等の表現を用いることがある。
【0022】
本明細書において「Aを加熱する」という表現は、Aに熱が加わることを意味しており、Aのみを加熱することに限定されない。当該表現は、例えば、Aを含む要素が加熱されることを意味してもよい。また、「加熱する」とは故意的又は人為的に熱を加えることを意味し、Aの周囲の雰囲気の単なる温度変化は含まない。
【0023】
図1は、実施形態に係る発光装置10の断面図である。図2は、図1に示した第1層120aにおける二次イオン質量分析(SIMS)プロファイルの一例を示す図である。
【0024】
図1及び図2を用いて、発光装置10の概要を説明する。発光装置10は、第1電極110、有機層120及び第2電極130を含んでいる。有機層120は、第1電極110上に位置している。有機層120は、第1層120aを含んでいる。第2電極130は、有機層120上に位置している。第1層120aは、第1領域RG1及び第2領域RG2を含んでいる。第1領域RG1は、第1有機材料及び金属化合物(金属元素を含む化合物)を含んでいる。第1領域RG1は、第1電極110に接している。第2領域RG2は、第1有機材料及び金属化合物を含んでいる。第2領域RG2は、第1領域RG1よりも、第1電極110から離れている。
【0025】
図2に示すSIMSプロファイルは、上述した金属化合物の金属元素に由来する信号を示している。具体的には、図2に示すSIMSプロファイルは、モリブデン酸化物のモリブデン元素の信号を示している。図2に示すSIMSプロファイルは、第1有機材料の体積及び金属化合物の体積の合計に対する金属化合物の割合のプロファイルと相関関係を有している。
【0026】
本実施形態において、第2領域RG2における金属元素のSIMSプロファイルの平均強度は、第1領域RG1における金属元素のSIMSプロファイルの平均強度より小さくすることができる。具体的には、図2に示すように、第2領域RG2における金属元素のSIMSプロファイルの平均強度は、第1領域RG1における金属元素のSIMSプロファイルの平均強度の10%未満、好ましくは1.0%未満にすることができる。
【0027】
本実施形態において、第2領域RG2における金属元素のSIMSプロファイルの最大強度は、第1領域RG1における金属元素のSIMSプロファイルの最大強度より小さくすることができる。具体的には、図2に示すように、第2領域RG2における金属元素のSIMSプロファイルの最大強度は、第1領域RG1における金属元素のSIMSプロファイルの最大強度の10%未満、好ましくは1.0%未満にすることができる。
【0028】
第1層120aは、第1有機材料及び金属化合物を、第1有機材料のガラス転移点Tg1以上の温度で加熱することを経て形成することができる。本発明者は、第1層120aを形成するためのプロセスを検討し、その結果、第1層120aを第1有機材料のガラス転移点Tg1以上の温度で加熱した場合、金属化合物の濃度が、第1電極110から一定距離離れた位置において、第1電極110の近傍の位置においてよりも、低下し得ることを新規に見出した。すなわち、第1層120aの加熱という簡易なプロセスによって、第1層120aにおける金属化合物の濃度分布を制御することができる。
【0029】
金属化合物の上述した濃度分布は、発光装置10にとって好ましい。第1電極110の近傍の位置における金属化合物の濃度は、様々な要請(例えば、電流注入効率の向上や第1電極110との密着性向上)から、高いことが望ましい。しかしながら、金属化合物の量が多すぎることは、様々な弊害(例えば、整流性の低下)を招き得る。したがって、第1電極110から一定距離離れた位置における金属化合物の濃度は、高すぎないことが望ましい。上述した濃度分布では、第1電極110から一定距離離れた位置における金属化合物の濃度は、第1電極110の近傍の位置における金属化合物の濃度より低くすることができる。
【0030】
図1を用いて、発光装置10の詳細を説明する。
【0031】
発光装置10は、基板100、第1電極110、有機層120及び第2電極130を含んでいる。
【0032】
基板100は、第1面102及び第2面104を有している。第1電極110、有機層120及び第2電極130は、基板100の第1面102側に位置している。第2面104は、第1面102の反対側にある。
【0033】
基板100は、第1電極110、有機層120及び第2電極130を形成するための支持体として機能することができる。基板100は、透光性及び可撓性を有していてもよい。基板100は、単層であってもよいし、又は複数層であってもよい。一例において、基板100は、ガラス基板にしてもよい。他の例において、基板100は、樹脂基板であってもよく、有機材料(例えば、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PES(ポリエーテルサルホン)、PET(ポリエチレンテレフタラート)又はポリイミド)を含んでいてもよい。基板100が樹脂基板である場合、基板100の第1面102及び第2面104の少なくとも一方は、無機バリア層(例えば、SiN又はSiON)を有していてもよい。基板100と第1電極110との間に、少なくとも第1電極110よりも広い領域に、平坦化や密着性改善を目的に1層以上の有機材料を含む層を有していてもよい。
【0034】
第1電極110は、陽極として機能することができる。一例において、第1電極110は、金属又は合金を含んでいてもよい。金属又は合金は、例えば、銀又は銀合金である。この例において、第1電極110の厚さは、例えば、5nm以上50nm以下にしてもよい。第1電極110の厚さが上記下限以上である場合、第1電極110の電気抵抗を低くすることができ、第1電極110の厚さが上記上限以下である場合、第1電極110の透過率を高くすることができる。他の例において、第1電極110は、酸化物半導体を含んでいてもよい。酸化物半導体は、例えば、ITO(Indium Tin Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)、IWZO(Indium Tungsten Zinc Oxide)、ZnO(Zinc Oxide)又はIGZO(Indium Galium Zinc Oxide)である。
【0035】
有機層120は、第1層120a、正孔輸送層(HTL)120b、発光層(EML)120c、電子輸送層(ETL)120d及び電子注入層(EIL)120eを含んでいる。第1層120a、HTL120b、EML120c、ETL120d及びEIL120eのそれぞれは、単層であってもよいし、又は複数層であってもよい。有機層120においては、正孔が第1電極110から第1層120a及びHTL120bを経由してEML120cに注入され、電子が第2電極130からEIL120e及びETL120dを経由してEML120cに注入される。有機層120は、HTL120b、ETL120d及びEIL120eを含んでいなくてもよい。
【0036】
第1層120aは、特定の特性を有する機能層として機能することができる。第1層120aは、例えば、正孔注入特性及び正孔輸送特性の少なくとも一方を有していてもよく、例えば、正孔注入層(HIL)及び正孔輸送層(HTL)の少なくとも一方として機能することができる。第1層120aは、第1電極110上に位置しており、第1電極110に接している。
【0037】
第1層120aは、第1有機材料及び金属化合物を含んでいる。
【0038】
第1有機材料は、例えば、ガラス転移点を有している電子受容性有機半導体材料にしてもよい。第1有機材料の例としては、トリフェニルアミン誘導体、具体的には、α-NPD(4,4’-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニル-アミノ]-ビフェニル)が挙げられる。また、TCTA(4,4’,4”-トリス(カルバゾール-9-イル)-トリフェニルアミン)などの芳香族アミン化合物;1,3-ビス(N-カルバゾリル)ベンゼンなどのカルバゾール誘導体;Spiro-NPB(N,N’-ビス(ナフタレン-1-イル)-N,N’-ビス(フェニル)-9,9’-スピロビスフルオレン)などのスピロ化合物等、従来有機EL素子の作製に使用されている公知のものを適宜用いることができる。
【0039】
金属化合物は、アクセプタ性を有する金属化合物、例えば、金属酸化物にすることができる。金属酸化物は、例えば、遷移金属酸化物にすることができる。遷移金属酸化物は、例えば、モリブデン酸化物、チタン酸化物、ジルコニウム酸化物、ハフニウム酸化物、バナジウム酸化物、ニオブ酸化物、タンタル酸化物、クロム酸化物、タングステン酸化物、マンガン酸化物又はレニウム酸化物にすることができる。
【0040】
金属化合物は、モリブデン酸化物にしてもよい。モリブデン酸化物は、MoO(2≦x≦3)で示される組成を有しており、三酸化モリブデン(MoO)及び二酸化モリブデン(MoO)のうちの少なくとも一方であり、好ましくは、三酸化モリブデン(MoO)である。
【0041】
第1層120aにおいて、金属化合物の濃度は、第1電極110(第1電極110及び第1層120aの間の界面)から一定距離離れた位置において、第1電極110(第1電極110及び第1層120aの間の界面)の近傍の位置においてよりも、低下している。
【0042】
第1層120aは、第1層120aの全体積に対して、例えば、1体積%以上20体積%以下の金属化合物を含んでいてもよい。金属化合物の体積パーセントが上記下限以上である場合、発光装置10の特性(例えば、導電性)を向上させることができる。金属化合物の体積パーセントが上記上限以下である場合、第1層120aの加熱によって、金属化合物の濃度を、第1電極110から一定距離離れた位置において、第1電極110の近傍の位置においてよりも、十分に低下させることができる。
【0043】
第1層120aにおける金属化合物の濃度は、二次イオン質量分析(SIMS)深度プロファイル(図1の縦方向)における、金属化合物を構成する金属元素(例えば、モリブデン酸化物を構成するモリブデン(Mo)元素)の信号強度とみなすことができる。
【0044】
第1層120aの加熱後、第1層120aは、例えば、5nm以上200nm以下の厚さTを有していてもよい。
【0045】
第2電極130は、陰極として機能することができる。一例において、第2電極130は、金属又は合金を含んでいてもよい。金属又は合金は、例えば、Al、Au、Ag、Pt、Mg、Sn、Zn及びInからなる群の中から選択される少なくとも1つの金属又はこの群から選択される金属の合金である。
【0046】
第1電極110、有機層120及び第2電極130は、基板100の第1面102から順に並んで、発光部140を形成している。
【0047】
発光装置10は、ボトムエミッションであってもよいし、又はトップエミッションであってもよい。発光装置10がボトムエミッションである場合、有機層120から発せられた光は、第1電極110及び基板100を透過して(つまり、発光装置10がボトムエミッションである場合、基板100及び第1電極110は、透光性を有している。)、基板100の第2面104から光を発する。発光装置10がトップエミッションである場合、有機層120から発せられた光は、第2電極130を透過して(つまり、発光装置10がトップエミッションである場合、第2電極130は、透光性を有している。)、基板100の第2面104の反対側から光を発する。
【0048】
図2を用いて、第1層120aの詳細を説明する。
【0049】
第1層120aは、第1領域RG1、第2領域RG2及び第3領域RG3を含んでいる。第1領域RG1、第2領域RG2及び第3領域RG3は、第1有機材料及び金属化合物(金属元素を含む化合物)を含んでいる。第1領域RG1、第3領域RG3及び第2領域RG2は、第1電極110側(図2の横軸において深い側)から順に並んでいる。
【0050】
第1領域RG1は、第1電極110に接している。第1領域RG1の範囲は、様々な指針によって決定することができる。一例において、第1領域RG1の範囲は、第1電極110及び第1層120aの境界からの距離に基づいて決定してもよい。例えば、第1領域RG1は、第1電極110及び第1層120aの境界から10nmまで位置していてもよい。他の例において、第3領域RG3(詳細は後述する。)における金属元素のSIMSプロファイルの最大強度が第1領域RG1における金属元素のSIMSプロファイルの平均濃度の90%となるように、第1領域RG1の範囲を決定してもよい。
【0051】
第1領域RG1は、一定の厚さを有している。例えば、第1領域RG1は、5nm以上の厚さ、好ましくは10nm以上の厚さを有している。この場合、第1層120aの導電率を増加させることができ、第1電極110及び第1層120aの密着性を向上させることができる。第1領域RG1の厚さは、第2領域RG2(詳細は後述する。)の厚さよりも厚くてもよい。この場合、第1層120aの導電率を増加させることができる。
【0052】
第2領域RG2は、第1領域RG1よりも第1電極110から離れている。第2領域RG2は、第1層120a上の層(図1に示す例では、HTL120b)に接していてもよい。第2領域RG2の範囲は、様々な指針によって決定することができる。一例において、第2領域RG2における金属元素のSIMSプロファイルの平均強度が第1領域RG1における金属元素のSIMSプロファイルの平均強度の一定の割合以下となるように、第2領域RG2の範囲を決定してもよい。
【0053】
第2領域RG2は、一定の厚さを有している。例えば、第2領域RG2は、5nm以上の厚さ、好ましくは10nm以上の厚さを有している。この場合、発光装置10の信頼性を向上(例えば、逆バイアス電流印加時の電流値の抑制)させることができる。
【0054】
第2領域RG2における金属元素のSIMSプロファイルの強度は、第1領域RG1における金属元素のSIMSプロファイルの強度の10%以下、好ましくは1.0%以下にすることができる。この場合、発光装置10の信頼性を向上させることができる。
【0055】
第2領域RG2における金属元素のSIMSプロファイルの強度は、第1領域RG1における金属元素のSIMSプロファイルの強度の0.1%以上、好ましくは0.2%以上にすることができる。この場合、第2領域RG2における電気抵抗を低減することができる。
【0056】
第3領域RG3は、第1領域RG1及び第2領域RG2の間に位置している。第3領域RG3は、第1領域RG1及び第2領域RG2に接していてもよい。第3領域RG3における金属元素のSIMSプロファイルの強度は、第1領域RG1から第2領域RG2にかけて減少している。第3領域RG3における金属元素のSIMSプロファイルの強度は、厳密に単調に減少していなくてもよく、部分的に増加していてもよい。例えば、第3領域RG3における金属元素のSIMSプロファイルの強度が部分的に増加していたとしても、第3領域RG3における金属元素のSIMSプロファイルの全体に亘ってのプロットのフィッティング曲線が単調に減少しているとき、第3領域RG3における金属元素のSIMSプロファイルの強度は、減少しているといえる。
【0057】
第3領域RG3は、一定の厚さを有している。例えば、第3領域RG3は、5nm以上の厚さ、好ましくは10nm以上の厚さを有している。第3領域RG3における厚さが厚い場合、第3領域RG3における濃度勾配を緩やかにすることができる。例えば、第3領域RG3におけるSIMSプロファイルの傾きは、第1領域RG1のSIMSプロファイルの平均強度を100%としたとき、0.5%/nm以上20%/nm以下である。濃度勾配が緩やかになる(濃度分布がステップ状に変化しない)ことで、電荷の注入障壁を低減することができ、注入障壁による電圧上昇を低減することができる。さらに、濃度勾配が緩やかになる(濃度分布がステップ状に変化しない)ことで、屈折率段差を低減することができ、屈折率段差による光取出し効率の低下を低減することができる。
【0058】
第1領域RG1における金属元素のSIMSプロファイルの強度の変動係数は、第2領域RG2における金属元素のSIMSプロファイルの強度の変動係数より大きくてもよい。変動係数は、平均値に対する標準偏差の比である。本実施形態による製造プロセスにおいては、第1領域RG1における金属元素のSIMSプロファイルの強度のばらつき(変動係数)が第2領域RG2における金属元素のSIMSプロファイルの強度のばらつき(変動係数)より大きくなることがある。
【0059】
図3は、図1に示した発光装置10の製造方法の一例を説明するための図である。
【0060】
発光装置10は、以下のようにして、製造することができる。
【0061】
まず、基板100の第1面102上に第1電極110を形成する。例えば、第1電極110は、マスクを用いて金属又は合金(例えば、銀又は銀合金)を蒸着することで形成してもよいし、又は酸化物半導体をパターニングすることで形成してもよい。
【0062】
次いで、図3に示すように、第1電極110上に第1層120aを形成する。第1層120aは、第1有機材料及び金属化合物を共蒸着させて形成することができる。共蒸着の条件の制御によって、第1層120aの全体積に対する金属化合物の体積パーセントを調整することができる。第1有機材料及び金属化合物は、基板100を加熱しないまま共蒸着させてもよいし、又は基板100を特定の温度(例えば、第1有機材料のガラス転移点Tg1未満の温度)で加熱したまま共蒸着させてもよい。
【0063】
次いで、第1層120aを、第1有機材料のガラス転移点Tg1以上の温度(加熱温度T1)で加熱する。第1層120aを第1有機材料のガラス転移点Tg1以上の温度で加熱した場合、金属化合物の濃度を、第1電極110から一定距離離れた位置において、第1電極110の近傍の位置においてよりも、低下させることができる。
【0064】
金属化合物の上述した濃度分布が生成される理由は、次のように推定される。第1層120aが加熱される前、金属化合物は、第1層120a内の深度によらず、ほぼ一様に分布している。第1層120aが第1有機材料のガラス転移点Tg1以上の温度で加熱されると、第1有機材料が流動性を呈する。第1有機材料が流動性を呈すると、一部の金属化合物が第1電極110に向けて沈殿する。このようにして、金属化合物の上述した濃度分布が生成されると推定される。
【0065】
また、濃度分布を形成するにあたって、金属化合物の密度は、第1有機材料の密度より高い方が好ましい。ここで、密度とは単位体積あたりの質量(g/cm)のことを表す。
【0066】
第1層120aを加熱する方法は、特定の方法に限定されない。例えば、第1層120aは、基板100を第1層120aの加熱温度T1の環境下に置くこと(例えば、基板100をホットプレート上に載置すること又は基板100を真空加熱オーブン内に配置すること)又は電磁波照射(例えば、フラッシュランプアニール)によって加熱することができる。
【0067】
加熱温度T1は、例えば、第1有機材料のガラス転移点Tg1より10℃高い温度以上第1有機材料のガラス転移点Tg1より70℃高い温度以下にしてもよいし(Tg1+10≦T1≦Tg1+70)、又は第1有機材料のガラス転移点Tg1より30℃高い温度以上第1有機材料のガラス転移点Tg1より40℃高い温度以下にしてもよい(Tg1+30≦T1≦Tg1+40)。
【0068】
第1層120aを加熱温度T1で加熱する時間は、例えば、ホットプレート又はオーブンによる加熱では1分以上60分以下、フラッシュランプアニールによる加熱では1μs以上1s以下にしてもよい。
【0069】
次いで、第1層120a上にHTL120b(図1)を形成する。言い換えると、この例に係る方法は、第1層120aを加熱した後に、第1層120aに接する第2層(図1に示す例では、HTL120b)を形成する工程を含んでいる。さらに言い換えると、第1層120aは、第1層120aが第2層(図1に示す例では、HTL120b)で覆われる前に、加熱されている。HTL120bを形成する方法は、特定の方法に限定されない。例えば、HTL120bは、蒸着又は塗布プロセス(例えば、インクジェット)によって形成することができる。
【0070】
次いで、EML120c、ETL120d及びEIL120eを形成する。EML120c、ETL120d及びEIL120eを形成する方法は、特定の方法に限定されない。例えば、EML120c、ETL120d及びEIL120eは、蒸着又は塗布プロセス(例えば、インクジェット)によって形成することができる。
【0071】
次いで、第2電極130を形成する。第2電極130を形成する方法は、特定の方法に限定されない。例えば、第2電極130は、蒸着によって形成することができる。
【0072】
このようにして、発光装置10が製造される。
【0073】
図4及び図5は、第1層120aを加熱する理由の一例を説明するための図である。
【0074】
第1層120aを加熱する理由は、金属化合物の上述した濃度分布を形成することだけでなく、図4及び図5を用いて説明する理由も含んでいてもよい。
【0075】
図4に示す例では、第1電極110の表面に異物Pが付着している。図4に示す例では、第1電極110を形成した後、第1電極110を形成するためのチャンバから第1層120aを形成するためのチャンバへの基板100(例えば、図1又は図2)の移動のため、基板100(例えば、図1又は図2)を大気に曝している。基板100の移動の間に、大気中の異物(図4に示す例では、異物P)が第1電極110の表面に付着することがある。
【0076】
図4に示す例において、第1層120aは、蒸着層であり、第1有機材料及び金属化合物を共蒸着させて形成されている。蒸着によって形成された層は、他の堆積(例えば、ALD(Atomic Layer Deposition))によって形成された層よりも、段差被覆性に劣っている。したがって、第1層120aは、異物Pの周辺において途切れることがある。仮に、第1層120aが途切れたまま第1層120a上の要素(例えば、図1に示した第2電極130)を形成すると、第1電極110及び第2電極130(例えば、図1)の間で短絡が生じ得る。
【0077】
図5に示すように、第1層120aの加熱は、異物Pを第1層120aによって埋め込むために行われる。第1層120aは、第1有機材料のガラス転移点Tg1以上の温度で加熱されて、流動性を呈するようになる。図4に示すように、加熱によって、第1層120aは、異物Pを埋め込むように変形することができる。第1層120aによる異物Pの埋込によって、第1電極110及び第2電極130(例えば、図1)の間の短絡を防止することができる。
【0078】
(変形例)
変形例に係る発光装置10は、以下の点を除いて、実施形態に係る発光装置10と同様である。
【0079】
第1電極110は、陰極として機能し、第1層120aは、電子注入層及び電子輸送層の少なくとも一方として機能する。第1層120aは、第1有機材料及び金属化合物を含んでいる。実施形態で説明した方法によって、第1層120aにおける金属化合物の濃度は、実施形態における濃度と同様にすることができる。
【0080】
金属化合物は、ドナー性を有する金属化合物、例えば、リチウムフッ化物(LiF)、リチウム酸化物(LiO)、セシウムフッ化物(CsF)又は炭酸カルシウム(CaCO)にすることができる。
【0081】
以上、図面を参照して実施形態及び実施例について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【0082】
この出願は、2018年12月28日に出願された日本出願特願2018-247736号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0083】
10 発光装置
100 基板
102 第1面
104 第2面
110 第1電極
120 有機層
120a 第1層
120b HTL
120c EML
120d ETL
120e EIL
130 第2電極
140 発光部
RG1 第1領域
RG2 第2領域
RG3 第3領域
図1
図2
図3
図4
図5