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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-07
(45)【発行日】2023-03-15
(54)【発明の名称】減速機
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/027 20120101AFI20230308BHJP
   B60K 17/06 20060101ALN20230308BHJP
【FI】
F16H57/027
B60K17/06 G
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021001065
(22)【出願日】2021-01-06
(65)【公開番号】P2022106213
(43)【公開日】2022-07-19
【審査請求日】2022-12-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下田 勝海
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 拓造
(72)【発明者】
【氏名】青山 雅
(72)【発明者】
【氏名】橘田 槙
(72)【発明者】
【氏名】増田 大輝
(72)【発明者】
【氏名】山田 展資
(72)【発明者】
【氏名】蔡 冠華
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-50130(JP,A)
【文献】特開2018-206959(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/027
B60K 17/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
減速機であって、
開口部を有するハウジングと、
前記ハウジングの前記開口部を封止するカバーと、
前記カバーに設けられ前記ハウジング内外を通気する通気部材と、を備え、
前記通気部材は、気体の通過を許容する通気膜を有し、
前記通気膜は、前記開口部の軸方向において、前記カバーの外面よりも外側に位置することを特徴とする減速機。
【請求項2】
請求項1に記載の減速機であって、
前記カバーは、前記外面から突出し前記通気部材を囲う壁部をさらに有し、
前記通気膜は、前記壁部から前記軸方向に露出しないように設けられることを特徴とする減速機。
【請求項3】
請求項2に記載の減速機であって、
前記壁部には、前記軸方向に延びるスリットが設けられることを特徴とする減速機。
【請求項4】
請求項3に記載の減速機であって、
前記カバーは、前記壁部が設けられる本体部をさらに有し、
前記スリットの底部は、前記軸方向において、前記本体部の外面と前記通気膜との間に位置することを特徴とする減速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減速機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両等の転舵装置に設けられる減速機が開示されている。特許文献1に記載の減速機では、減速機を収容するハウジングにカバーが取り付けられる。カバーはハウジングの内側に凹んだ凹部を有し、凹部には呼吸弁が取り付けられる。呼吸弁は、カバーの外面よりハウジングの内側に位置するように取り付けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-50130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両に搭載される減速機は、車両の種類によって設置される向きが異なる。特許文献1に記載のような減速機では、呼吸弁がカバーの凹部に設けられるため、減速機が車両に設置される向きによっては、カバーの凹部に雨水等の水が溜まり、呼吸弁が水没して、呼吸弁の機能が損なわれるおそれがある。
【0005】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、減速機の向きによらず、通気部材の機能を維持することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、減速機であって、開口部を有するハウジングと、ハウジングの開口部を封止するカバーと、カバーに設けられハウジング内外を通気する通気部材と、を備え、通気部材は、気体の通過を許容する通気膜を有し、通気膜は、開口部の軸方向において、カバーの外面よりも外側に位置することを特徴とする。
【0007】
この発明では、通気部材の通気膜は、ハウジングの開口部の軸方向において、カバーの外面よりも外側に位置する。よって、減速機の向きによらず、通気膜が水没することが防止される。したがって、通気部材の機能を維持することができる。
【0008】
本発明は、カバーは、外面から突出し通気部材を囲う壁部をさらに有し、通気膜は、壁部から軸方向に露出しないように設けられることを特徴とする。
【0009】
この発明では、カバーの壁部は、通気膜よりも高く形成される。よって、壁部によって通気膜を水や異物から保護することができる。したがって、通気部材の機能を維持することができる。
【0010】
本発明は、壁部には、軸方向に延びるスリットが設けられることを特徴とする。
【0011】
この発明では、壁部のスリットにより、壁部内に入り込んだ水が排出される。したがって、通気部材の機能を維持することができる。
【0012】
本発明は、カバーは、壁部が設けられる本体部をさらに有し、スリットの底部は、軸方向において、本体部の外面と通気膜との間に位置することを特徴とする。
【0013】
この発明では、壁部のスリットにより、壁部内に入り込んだ水がより確実に排出される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、減速機の向きによらず、通気部材の機能を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係る減速機の部分断面図である。
図2】通気部材が設けられたカバーの平面図である。
図3】通気部材周辺の拡大断面図である。
図4】変形例に係るカバーの平面図である。
図5】変形例に係るカバーの拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図面を参照して、本発明の実施形態に係る減速機100について説明する。本実施形態では、減速機100が、電動パワーステアリング装置に用いられる場合について説明する。
【0017】
電動パワーステアリング装置は、ドライバによるハンドルの操舵を補助する回転トルクとして、電動モータ(図示せず)の駆動力を、減速機100によって減速してラック軸(図示せず)に付与する。
【0018】
図1に示すように、減速機100は、電動モータからの駆動力が入力されるウォームシャフト1と、ウォームシャフト1と噛み合うウォームホイール2と、ウォームホイール2と一体に回転するピニオン軸3と、ピニオン軸3に形成されラック軸と噛み合うピニオン4と、ピニオン軸3を回転自在に支持する軸受5,6と、を備える。
【0019】
電動モータからの駆動力は、ウォームシャフト1,ウォームホイール2,ピニオン軸3,及びピニオン4を通じてラック軸に伝達され、ドライバの操舵力をアシストするように作用する。
【0020】
減速機100は、開口部10を有するハウジング11と、ハウジング11の開口部10を封止するカバー12と、カバー12に設けられハウジング11内外を通気する通気部材13と、を備える。通気部材13は、水の通過を遮断し気体の通過は許容するように構成され、電動モータや減速機100の動作等によってハウジング11内の温度が上昇しても、通気部材13によりハウジング11内の圧力が一定に保たれる。ハウジング11とカバー12とは、締結部材としての複数のボルト15によって固定される。
【0021】
図1,2に示すように、カバー12は、ハウジング11の開口部10に挿入される本体部12aと、本体部12aの外周部から径方向に突出して形成される取付部12bと、を有する。本体部12aは円板状に形成され、取付部12bは半円状に形成される。
【0022】
本体部12aには、カバー12により封止されたハウジング11の内外を連通する連通孔12cが設けられる。連通孔12cは、本体部12aの中央に設けられ、本体部12aを軸方向に貫通する。図3に示すように、連通孔12cには、ハウジング11外に開口する大径部12dと、ハウジング11内に開口し大径部12dよりも小径な小径部12eと、が形成される。大径部12dと小径部12eにより、連通孔12c内には、環状の台座部19が形成される。後に詳細に説明するように、連通孔12cには通気部材13が設けられる。
【0023】
取付部12bには、ボルト15が挿通する挿通孔12fが形成される。取付部12bは、ボルト15の締結力により、ハウジング11の端面に押圧されて固定される。
【0024】
カバー12は、ハウジング11の開口部10の軸方向外側を向いている外面18を有する。外面18は、本体部12aの外面16と、取付部12bの外面17と、から形成される。本実施形態では、外面18は、外面16と外面17が連続した平面状に形成される。
【0025】
図2,3に示すように、カバー12は、通気部材13を囲う壁部12gをさらに有する。壁部12gは、本体部12aに設けられて連通孔12cを環状に囲い、本体部12aの外面16から軸方向に突出する。壁部12gは、通気部材13を水や異物から保護するものであり、カバー12の外面18を構成するものではない。壁部12gには、外面16から壁部12gの頂部にわたって、ハウジング11の開口部10の軸方向に延びるスリット12hが形成される。スリット12hは、壁部12gを径方向に貫通する。本実施形態では、スリット12hは、底部12iが外面16と面一となるように設けられる。また、スリット12hは、壁部12gの周方向に等間隔を空けて複数設けられ、本実施形態では四つ設けられる。
【0026】
図3に示すように、通気部材13は、本体部13aと、本体部13aを貫通する貫通孔13bと、貫通孔13bに設けられる通気膜13cと、を有する。本体部13aは、例えば樹脂製であり、大径部13dと小径部13eとを有する。小径部13eの端部には、環状の鉤部13fが形成される。貫通孔13bは、本体部13aを軸方向に貫通する。通気膜13cは、水の通過を遮断し気体の通過は許容する膜であり、貫通孔13b内における大径部13d側の開口端面を封止するように設けられる。
【0027】
次に、カバー12と通気部材13との関係について詳しく説明する。
【0028】
図3に示すように、通気部材13は、本体部13aが連通孔12c内に挿入され、大径部13dと鉤部13fの間で連通孔12cの台座部19を挟持することによってカバー12に取り付けられる。本体部13aと台座部19との間には、通気部材13と連通孔12cの間を封止するシール部材14が圧縮して設けられる。シール部材14は、例えばOリング等の環状の弾性部材である。通気膜13cは、ハウジング11の開口部10の軸方向において、カバー12の外面18よりも外側に位置する。具体的には、通気膜13cは、開口部10の軸方向において、本体部12aの外面16と取付部12bの外面17のそれぞれよりも外側に位置する。また、通気膜13cは、壁部12gから軸方向に露出しないように設けられる。
【0029】
ここで、減速機は、車両の種類によって設置される向きが異なる。よって、減速機100は、カバー12が鉛直方向の上方を向くように車両に設置される場合がある。また、減速機は、雨水、泥水、洗浄水等を受ける場合もある。そのため、減速機100のカバー12の外面18に水が溜まり、通気部材13が水没してしまう可能性があり、その場合には、通気部材13の機能が損なわれるおそれがある。
【0030】
本実施形態における減速機100は、通気部材13の通気膜13cは、ハウジング11の開口部10の軸方向において、カバー12の外面18よりも外側に位置する。つまり、減速機100がカバー12が鉛直方向の上方を向くように車両に設置されても、通気膜13cがカバー12の外面18よりも高い位置に設置されることになる。よって、減速機100の向きによらず、通気膜13cが水没することが防止される。したがって、通気部材13の機能を維持することができる。
【0031】
また、カバー12の壁部12gは、通気膜13cよりも高く形成される。よって、壁部12gにより通気膜13cを雨水、泥水、洗浄水等の水や異物から保護することができる。さらに、車両の高圧洗浄の際に、カバー12が高圧の洗浄水を受けても、壁部12gにより通気膜13cが保護される。したがって、通気部材13の機能を維持することができる。
【0032】
また、カバー12の壁部12gにはスリット12hが設けられる。よって、壁部12g内に水が入り込んだとしても、スリット12hにより、壁部12g内に入り込んだ水が排出される。したがって、通気膜13cが水没することが防止され、通気部材13の機能を維持することができる。また、カバー12と通気部材13との間からハウジング11内に水が浸入することを防止することができる。
【0033】
以上の本実施形態によれば、以下に示す作用効果を奏する。
【0034】
通気部材13の通気膜13cは、ハウジング11の開口部10の軸方向において、カバー12の外面18よりも外側に位置するため、減速機100がカバー12が鉛直方向の上方を向くように車両に設置されても、通気膜13cがカバー12の外面18よりも高い位置となる。よって、減速機100の向きによらず、通気膜13cが水没することが防止される。したがって、通気部材13の機能を維持することができる。
【0035】
カバー12の壁部12gは、通気膜13cよりも高く形成されるため、壁部12gによって通気膜13cを雨水、泥水、洗浄水等の水や異物から保護することができる。さらに、車両の高圧洗浄の際に、カバー12が高圧の洗浄水を受けても、壁部12gにより通気膜13cが保護される。したがって、通気部材13の機能を維持することができる。
【0036】
カバー12の壁部12gにはスリット12hが設けられるため、壁部12g内に水が入り込んだとしても、スリット12hにより、壁部12g内に入り込んだ水が排出される。したがって、通気膜13cが水没することが防止され、通気部材13の機能を維持することができる。また、カバー12と通気部材13との間からハウジング11内に水が浸入することを防止することができる。
【0037】
次に、本実施形態の変形例について説明する。
【0038】
上記実施形態では、通気部材13がカバー12の本体部12aの中央の連通孔12cに設けられる。しかし、通気部材13が設けられる位置はこれに限らない。例えば、図4に示すように、本体部12aの中央から離れた位置に連通孔12c及び通気部材13が設けられてもよい。通気部材13の位置を変えることにより、減速機100が設置される車両の他の部品と通気部材13が干渉することを回避することができる。
【0039】
また、上記実施形態では、カバー12の外面18は本体部12aの外面16と取付部12bの外面17とが連続した平面状に形成される。しかし、外面18は平面状に限らない。外面18がどのような形状であっても、通気部材13の通気膜13cが、ハウジング11の開口部10の軸方向において、カバー12の外面18のどの面よりも外側に位置する構成であればよい。例えば、図5に示すように、本体部12aと取付部12bとの間に段差が形成され、ハウジング11の開口部10の軸方向において、取付部12bの外面17が本体部12aの外面16よりも外側に位置する場合について説明する。この場合は、本体部12aにおける連通孔12cの近傍を隆起させることにより、通気部材13の通気膜13cが取付部12bの外面17よりも外側に位置するようにすればよい。また、通気部材13を軸方向に長くすることにより、通気部材13の通気膜13cが取付部12bの外面17よりも外側に位置するようにしてもよい。
【0040】
また、上記実施形態では、スリット12hは、その底部12iが外面16と面一となるように設けられる。しかし、スリット12hの形状は上記に限らない。例えば、スリット12hの底部12iは、ハウジング11の開口部10の軸方向において、本体部12aの外面16と通気膜13cとの間に位置してもよい。つまり、スリット12hの底部12iは、本体部12aの外面16と面一(上記実施形態)または開口部10の軸方向において外面16よりも外側に位置し、かつ、開口部10の軸方向において通気膜13cよりも内側に位置してもよい。この構成では、減速機100がカバー12が鉛直方向の上方を向くように車両に設置されても、スリット12hの底部12iは本体部12aの外面16よりも低い位置とならず、通気膜13cよりも高い位置ともならない。よって、減速機100の向きによらず、壁部12g内に入り込んだ水がより確実に排出され、通気膜13cが水没することが防止される。したがって、通気部材13の機能を維持することができる。なお、スリット12hの形状は、スリット12hにより壁部12g内に入り込んだ水が排出され通気膜13cが水没することが防止される構成であればよく、スリット12hの個数も上記に限らない。
【0041】
以上のように構成された本発明の実施形態の構成、作用、及び効果をまとめて説明する。
【0042】
減速機100は、開口部10を有するハウジング11と、ハウジング11の開口部10を封止するカバー12と、カバー12に設けられハウジング内外を通気する通気部材13と、を備え、通気部材13は、気体を透過する通気膜13cを有し、通気膜13cは、開口部10の軸方向において、カバー12の外面18よりも外側に位置する。
【0043】
この構成では、通気部材13の通気膜13cは、ハウジング11の開口部10の軸方向において、カバー12の外面18よりも外側に位置する。よって、減速機100の向きによらず、通気膜13cが水没することが防止される。したがって、通気部材13の機能を維持することができる。
【0044】
また、カバー12は、外面18から突出し通気部材13を囲う壁部12gをさらに有し、通気膜13cは、壁部12gから軸方向に露出しないように設けられる。
【0045】
この構成では、カバー12の壁部12gは、通気膜13cよりも高く形成される。よって、壁部12gによって通気膜13cを水や異物から保護することができる。したがって、通気部材13の機能を維持することができる。
【0046】
また、壁部12gには、軸方向に延びるスリット12hが設けられる。
【0047】
この構成では、スリット12hにより、壁部12g内に入り込んだ水が排出される。したがって、通気膜13cが水没することが防止され、通気部材13の機能を維持することができる。
【0048】
また、カバー12は、壁部12gが設けられる本体部12aをさらに有し、スリット12hの底部12iは、軸方向において、本体部12aの外面16と通気膜13cとの間に位置する。
【0049】
この構成では、壁部12gのスリット12hにより、壁部12g内に入り込んだ水がより確実に排出される。
【0050】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0051】
上記実施形態では、電動パワーステアリング装置の減速機100に本発明を適用する例について説明したが、コンベア、ウィンチ、工作機械、建設機械等の種々の機械の減速機に本発明を適用することもできる。
【符号の説明】
【0052】
10・・・開口部、11・・・ハウジング、12・・・カバー、12a・・・本体部、12g・・・壁部、12h・・・スリット、12i・・・底部、13・・・通気部材、13c・・・通気膜、16,18・・・外面、100・・・減速機
図1
図2
図3
図4
図5