(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-07
(45)【発行日】2023-03-15
(54)【発明の名称】放熱部材及び半導体モジュール
(51)【国際特許分類】
H01L 23/36 20060101AFI20230308BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20230308BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20230308BHJP
【FI】
H01L23/36 D
C08L63/00 C
H05K7/20 F
(21)【出願番号】P 2021036188
(22)【出願日】2021-03-08
(62)【分割の表示】P 2016011574の分割
【原出願日】2016-01-25
【審査請求日】2021-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000190611
【氏名又は名称】日東シンコー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】塚本 克己
(72)【発明者】
【氏名】池山 佳樹
【審査官】佐藤 靖史
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-210597(JP,A)
【文献】特開2014-239176(JP,A)
【文献】特開2015-082651(JP,A)
【文献】特開2001-358264(JP,A)
【文献】特開2008-010897(JP,A)
【文献】特開平03-020068(JP,A)
【文献】特開2004-165281(JP,A)
【文献】特開2013-039834(JP,A)
【文献】特開平05-102355(JP,A)
【文献】特開2015-082652(JP,A)
【文献】特開2005-235968(JP,A)
【文献】特開2005-057157(JP,A)
【文献】特開2001-196512(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/36
C08L 63/00
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性を有する樹脂と、該樹脂よりも熱伝導率の高い無機物とを含む放熱部材であって、
前記熱硬化性を有する樹脂は、エポキシ樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、フェノキシ樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、及び、熱硬化性ウレタン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記エポキシ樹脂は、下記一般式(X)で表されるトリスフェノールメタン型のエポキシ樹脂を含んでおり、
【化1】
(ただし、式(X)中のnは、0~3の整数である。)
前記樹脂によって被着体に接着させて用いられ、該被着体に接着される第1面と、該第1面に対向する第2面とを有し、
前記無機物は、第1面側から第2面側へと連続した状態となって含まれており、
板状形状を有し、一面側に被着体に接着される前記第1面を有しており、前記無機物が厚み方向に連続しており、
厚み方向の寸法が前記板状形状よりも一回り小さい板状体を備え、該板状体が前記無機物で形成され、該板状体には複数の穴が形成されており、該穴に前記樹脂が収容され、且つ、前記板状体の一面側のみに前記樹脂で形成された皮膜が備えられ、前記板状体の他方面側では前記無機物が表面露出しており、
半導体素子を備えた半導体モジュールにおいて、モジュール表面と前記半導体素子との間に絶縁層を形成するために用いられる
放熱部材。
【請求項2】
前記穴が前記板状体の一面側において開口する面積をS
1(mm
2)、前記穴が前記
板状体の他面側において開口する面積をS
2(mm
2)とし、前記板状体の平面視における形状の面積をS
0(mm
2)とした際に、下記式(1)及び下記式(2)の内の一方又は両方を満足する請求項1に記載の放熱部材。
3%≦[(S
1/S
0)×100%]≦80% ・・・(1)
3%≦[(S
2/S
0)×100%]≦80% ・・・(2)
【請求項3】
前記穴の少なくとも一部は、板状体の厚み方向中央部から表面に向かう方向に拡大する形状を有している請求項1または2に記載の放熱部材。
【請求項4】
前記穴の少なくとも一部が、板状体を厚み方向に貫通する貫通孔である請求項1乃至3の何れか1項に記載の放熱部材。
【請求項5】
前記貫通孔を複数有し、該貫通孔の少なくとも一部は、板状体の一面側から他面側に向かう方向に拡大する形状を有している請求項4に記載の放熱部材。
【請求項6】
穴を有する前記板状体が、複数の無機物粒子を連結させた多孔板である請求項1乃至5の何れか1項に記載の放熱部材。
【請求項7】
前記多孔板は、水銀圧入法によって細孔分布曲線を求めた際に細孔容積のピークトップが細孔径15μm以上50μm以下の範囲に現れる請求項6記載の放熱部材。
【請求項8】
前記多孔板は、水銀圧入法によって細孔分布曲線を求めた際に細孔孔10μm以下の細孔容積の累積値が全体の5%以下となる請求項6又は7記載の放熱部材。
【請求項9】
貫通孔を有する前記板状体は、非多孔質な無機物板に複数の前記貫通孔が穿設されたものであり、該板状体の両面における前記貫通孔の平均開口径(D
ave)がそれぞれ15μm以上1000μm以下である請求項4又は5記載の放熱部材。
【請求項10】
半導体素子を備えた半導体モジュールであって、
モジュール表面と前記半導体素子との間に絶縁層が形成されており、
請求項1乃至9の何れか1項に記載の放熱部材によって前記絶縁層が形成されている半導体モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放熱部材及び半導体モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂と、該樹脂よりも高い熱伝導率を有する無機物粒子とを含む樹脂組成物で形成されたシート体や該シート体を金属箔などの基材シートに積層した積層シートが“熱伝導性シート”などと称される放熱部材として広く用いられている(下記特許文献1参照)。
この種の放熱部材は、発熱体と放熱器との間に介装させて用いられ、発熱体から放熱器までの間に良好な伝熱経路を形成させるべく用いられる。
また、熱伝導性シートなどと称される放熱部材は、熱伝導性に優れた絶縁層の形成材料として電気・電子分野において利用されている。
熱伝導性シートは、例えば、半導体モジュールなどの電子部品の構成部材として利用されており、半導体素子の熱をモジュール表面に伝達する放熱経路に熱伝導性に優れた絶縁層を形成させるために利用されている。
【0003】
この伝熱経路に良好な熱伝導性を確保するには、放熱部材自体が高い熱伝導率を有するのみならず放熱部材に接する他の部材と放熱部材との間の界面熱抵抗が低いことが重要になる。
そのため、この種の放熱部材は、従来、発熱体である半導体素子や半導体素子を搭載したリードフレームなどの被着体に対して接着剤などを介さずに接着されており、熱接着などの直接的な方法で接着されている。
そして、放熱部材の原材料である前記樹脂としては、熱接着性に優れるとともに被着体が高温になっても接着力が大きく低下しないエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂が広く採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
放熱部材は、それ自体の熱伝導率を向上させるべく、無機物粒子を高充填することが従来検討されている。
しかし、無機物粒子を高充填する従来の取り組みにおいては、熱伝導率を十分に向上させることが難しく、例えば、10W/mKを超えるような高い熱伝導率を放熱部材に発揮させることが難しい状況になっている。
また、このようなことから半導体モジュールは、優れた放熱性を発揮させることが難しくなっている。
【0006】
そこで、本発明は、従来のものよりもさらに優れた熱伝導性を発揮する放熱部材を提供し、放熱性の良好な半導体モジュールを提供することを課題としている。
なお、これまで以上に優れた熱伝導性を発揮することは、放熱部材に広く一般に求められている事柄であり、半導体モジュールにおいて絶縁層を形成させるような場合のみに求められるものではない。
即ち、放熱部材に係る上記課題は特定用途においてのみ存在するものではない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく、本発明は、熱硬化性を有する樹脂と、該樹脂よりも熱伝導率の高い無機物とを含む放熱部材であって、前記樹脂によって被着体に接着させて用いられ、該被着体に接着される第1面と、該第1面に対向する第2面とを有し、前記無機物は、第1面側から第2面側へと連続した状態となって含まれている放熱部材を提供する。
【0008】
また、本発明は、半導体素子を備えた半導体モジュールであって、モジュール表面と前記半導体素子との間に絶縁層が形成されており、上記のような放熱部材によって前記絶縁層が形成されている半導体モジュールを提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、優れた熱伝導性を発揮する放熱部材が提供され、放熱性の良好な半導体モジュールが提供され得る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施形態の半導体モジュールの構造を示す概略断面図。
【
図2】一実施形態の放熱部材(熱伝導性シート)を示す概略斜視図。
【
図3】複数の無機物(酸化アルミニウム)粒子の連結体(板状体)の表面状態を示した図(走査型電子顕微鏡写真)。
【
図5】複数の無機物(酸化アルミニウム)粒子の連結体(板状体)の断面構造を示した図(走査型電子顕微鏡写真)。
【
図7】
図3~
図6とは異なる無機物(窒化アルミニウム)粒子の連結体(板状体) の断面構造を示した図(走査型電子顕微鏡写真)。
【
図9】孔明き無機物(窒化アルミニウム)板の一面側の表面状態を示した図(走査型電子顕微鏡写真)。
【
図11】孔明き無機物(窒化アルミニウム)板の他面側の表面状態を示した図(走査型電子顕微鏡写真)。
【
図13】板状体に形成された穴の面積を求める方法を示した概略図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施の形態について説明する。
以下においては、放熱部材が熱伝導性シートであり、且つ、当該熱伝導性シートが半導体モジュールの絶縁層の形成に用いられる場合を例にして説明する。
【0012】
まずは、
図1を参照しつつ、半導体モジュールについて説明する。
図に示すように、本実施形態の半導体モジュールは、平面視矩形で扁平な直方体形状を有しており、天面から複数の端子を上向きに突出させている。
本実施形態の半導体モジュール100は、厚み方向中央部、且つ、平面方向中央部となる位置に発熱体である半導体素子10を有している。
また、本実施形態の半導体モジュール100は、前記半導体素子10が発する熱が伝達される金属材であるとともに前記半導体素子10への導電経路となるリード部材20を備え、該リード部材20の下方に前記リード部材20から前記熱が伝達される放熱器30を有している。
さらに、前記半導体モジュール100は、前記リード部材20と前記放熱器30との間に熱伝導性シート1によって形成された電気絶縁層40を有している。
【0013】
本実施形態における前記リード部材20は、長板状の金属製部材が長手方向の途中において略直角に折り曲げられた形状を有しており、半導体モジュール内において板面が略水平方向となるように配された水平部21と該水平部21の一端から上方に向けて垂直に延びる垂直部22とを有し、該垂直部22の上端部によって前記端子を形成させている。
本実施形態の半導体モジュール100は、半導体素子10の下方に前記水平部21が配されており、該水平部21の上面21aが前記半導体素子10の下面10bと接着されるとともに当該接着箇所においてリード部材20と半導体素子10との電気的な接続がなされている。
【0014】
また、本実施形態の半導体モジュール100は、半導体素子10を水平部上面に搭載したリード部材20とは別のリード部材20’をさらに備えている。
なお、以下においては、半導体素子10を搭載したリード部材20を「第1リード部材」と称し、これとは別のリード部材20’を「第2リード部材」と称する。
【0015】
前記第2リード部材20’は、第1リード部材20と同様に水平部21’と垂直部22’とを有し、前記水平部21’と前記半導体素子10とがボンディングワイヤー60によって電気的に接続され、垂直部22’の上端部が前記第1リード部材20とは別に端子を形成する状態となって半導体モジュール100に備えられている。
【0016】
なお、本実施形態の半導体モジュール100においては、前記第1リード部材20の水平部21の下面21b、及び、前記第2リード部材20’の水平部21’の下面21b’が前記電気絶縁層40の上面に接着されており、該電気絶縁層40の下面は前記放熱器30の上面30aに接着されている。
そして、本実施形態における前記放熱器30は、金属ブロックとなっている。
該放熱器30としては、複数のフィンが立設された、「放熱フィン」などと称されるものや単なる板状形状のものが用いられうる。
【0017】
本実施形態の半導体モジュール100には、電気絶縁層40の上面よりも上側に樹脂モールド50が形成されており、前記半導体素子10、前記第1リード部材20、及び、前記第2リード部材20’を覆う形で前記樹脂モールド50が形成されている。
従って、前記電気絶縁層40の上面は、前記第1リード部材20、及び、前記第2リード部材20’と接着されている領域以外において前記樹脂モールド50の下面50bに接着されている。
【0018】
前記電気絶縁層40を構成する本実施形態の放熱部材は、熱硬化性を有する樹脂と、該樹脂よりも熱伝導率の高い無機物とを含む放熱部材であって、前記樹脂によって被着体に接着させて用いられ、該被着体に接着される第1面と、該第1面に対向する第2面とを有し、前記無機物は、第1面側から第2面側へと連続した状態となって含まれている放熱部材である。
【0019】
本実施形態の放熱部材たる熱伝導性シート1は、
図1、2に示すように板状形状を有し、一面側に被着体に接着される前記第1面1aを有しており、前記無機物が厚み方向t に連続している。
即ち、前記無機物は、第1面1aの側から第2面1bの側にかけて連続している。
なお、本実施形態の熱伝導性シート1は、第1面1aを第1リード部材20の下面に接着させているとともに第2面1bを放熱器30に接着させている。
従って、本実施形態の半導体モジュール100では、第1面1a側から第2面1b側にかけて熱伝導性に優れた無機物が連続的に配されているため、半導体素子10が発する熱が熱伝導性シート1(絶縁層40)を介して放熱器30に速やかに伝達される。
【0020】
また、本実施形態においては、第1面1aや第2面1bと、第1リード部材20や放熱器30との前記接着が接着剤などの他の部材を用いることなく行われており、熱伝導性シート1に含まれている熱硬化性樹脂によって前記接着がなされている。
【0021】
そのため、本実施形態の半導体モジュール100は、絶縁層40と第1リード部材20との界面熱抵抗、及び、絶縁層40と放熱器30との界面熱抵抗についても十分低減されている。
【0022】
本実施形態の熱伝導性シート1は、前記板状形状を有する板状体1xを備え、該板状体1xが前記無機物で形成されている。
即ち、前記板状体1xは、厚み方向tの寸法、幅方向Wの寸法、及び、長さ方向Lの寸法が熱伝導性シート1の全体形状と共通している。
該板状体1xには、穴や溝等の表面凹凸が形成されており、前記樹脂が凹入部分に収容されている。
即ち、前記樹脂は、第1リード部材20や放熱器30との接着に寄与すべく少なくとも熱伝導性シート1の表層部に配されている。
【0023】
本実施形態の熱伝導性シート1は、第1面1aと第2面1bとの一方又は両方において前記無機物が表面露出している。
即ち、本実施形態の熱伝導性シート1は、前記板状体1xの一方の表面(以下「第1面1xa」ともいう)か、該第1面1xaとは反対側の他方の表面(以下「第2面1xb」ともいう)かの何れかが表面に露出した状態になっている。
【0024】
なお、無機物が表面露出していることについては、熱伝導性シート1の表面を画像解析装置付きの光学顕微鏡や電子顕微鏡にて撮影し、撮影した画像を画像解析装置で解析するなどして確かめることができる。
【0025】
即ち、本実施形態の熱伝導性シート1は、表面に所定の面積割合で無機物が露出しているため、当該無機物を第1リード部材20や放熱器30に直接的に接触させることができる。
従って、本実施形態の半導体モジュール100は、前記絶縁層40に良好なる導電パスを備えさせうる。
また、熱伝導性シート1において無機物が表面露出していない部分は、樹脂が板状体1xを覆っている部分であり、熱伝導性シート1は、前記部分を一定以上の割合で有することで優れた接着性を発揮する。
【0026】
本実施形態の熱伝導性シート1は、厚み方向の寸法が前記板状形状よりも一回り小さい板状体を備え、該板状体が前記無機物で形成され、該板状体の一面側と他面側との内の少なくとも一方には前記樹脂で形成された皮膜が備えられていてもよい。
【0027】
この場合、樹脂皮膜が備えられていることで、第1リード部材20や放熱器30に対してより優れた接着性を熱伝導性シートに発揮させ得る。
【0028】
本実施形態の熱伝導性シート1は、前記皮膜が一面側のみに形成され、他面側では前記無機物を表面露出させるようにしてもよい。
【0029】
この場合、熱伝導性シートは、一面側において優れた接着性を発揮し、且つ、他面側においては優れた熱伝達率を発揮する。
【0030】
本実施形態の前記板状体1xには複数の穴が形成されており、該穴に前記樹脂が収容されている。
前記穴は、板状体1xの片面のみに形成されていても両面に形成されていてもよい。
即ち、前記穴は、板状体1xの第1面1xaにのみ開口していてもよく、第2面1xbのみに開口していてもよい。
また、前記穴は、板状体1xの第1面1xaと第2面1xbとの両方に開口していてもよい。
本実施形態の熱伝導性シート1は、前記穴が前記板状体1xの第1面1xaの側において開口する面積をS1(mm2)、前記穴が前記板状体1xの第2面1xbの側において開口する面積をS2(mm2)とし、前記板状体1xの平面視における形状(輪郭形状)の面積をS0(mm2)とした際に、下記式(1)及び下記式(2)の内の一方又は両方を満足することが好ましい。
3% ≦[(S1/S0)×100%]≦ 80 % ・・・(1)
3% ≦[(S2/S0)×100%]≦ 80 % ・・・(2)
【0031】
熱伝導性シート1の表面に板状体1xを露出させて第1リード部材20や放熱器30に対して板状体1xを直接接触させる場合、前記穴の開口面積の割合は、第1リード部材20や放熱器30に対して樹脂が接する面積の割合を意味するものとなる。
従って、前記穴の開口面積の割合については、第1リード部材20や放熱器30に対する熱伝導性シート1の接着性や熱伝導性シート1が発揮する熱伝導性などの観点から上記の式(1)や式(2)を満たすことが好ましい。
【0032】
前記穴の少なくとも一部は、板状体の厚み方向中央部から表面に向かう方向に拡大する形状を有していてもよい。
このことにより、熱伝導性シート1は、樹脂と板状体1xとの間で高いアンカー効果を発揮する。
【0033】
熱伝導性シート1は、前記穴の少なくとも一部が、板状体1xを厚み方向に貫通する貫通孔である。
貫通孔は、厚み方向の途中で行き止まりとなる穴に比べて樹脂を充填させ易い。
従って、貫通孔を有する熱伝導性シート1は、内部に空気溜まりが形成されることを抑制することができる。
【0034】
熱伝導性シート1の板状体1xは、前記貫通孔を複数有し、該貫通孔の少なくとも一部が当該板状体1xの一面側から他面側に向かう方向(厚み方向t)に拡大する形状を有していてもよい。
この場合、板状体1xは、前記貫通孔に対して開口面積の大きな側から樹脂を充填することで、樹脂の充填作業をより簡単なものとすることができる。
【0035】
穴を有する前記板状体1xは、複数の無機物粒子を連結させた多孔板であってもよい。
【0036】
複数の無機物粒子の連結体である前記多孔板としては、例えば、
図3~
図8に示した表面構造、及び、断面構造を有するものが挙げられる。
また、前記多孔板としては、例えば、非多孔質な無機物板に複数の孔を穿設したものであってもよい。
例えば、前記多孔板としては、
図9~
図12に示した孔明き無機物板であってもよい。
【0037】
図9~
図12に示した多孔板を板状体1xとして採用する場合、該板状体1xは、穴の形状が明瞭であるため表面観察するだけで開口面積などを正確に求めることが可能であり、前記の式(1) や式(2)を満たす状態になっているか否かを容易に判別できる。
一方で
図3~
図8に示したような多孔板を板状体1xとして採用する場合、該板状体1xは、表面観察するだけでは穴の開口面積を正確に求めることが難しい。
その場合、金属の組織観察などに際して用いられる常温硬化型の埋め込み樹脂を用いるなどして前記板状体1xを樹脂埋めし、前記板状体1xの表面を僅かに研磨して前記開口面積を求めるようにすればよい。
より具体的には、板状体1xを樹脂埋めした測定用試料を、エメリーペーパーを配した回転台を有する研磨機などで研磨し、且つ、板状体1xの第1面1xaをエメリーペーパーに対面させて測定用試料を研磨して、該測定用試料の研磨面に板状体1xを露出させ、該研磨面を画像解析装置付きの金属顕微鏡で撮影し、板状体1xを構成している無機物粒子が研磨面に露出している面積を画像解析装置を使って算出し、該面積を全体の面積から
減じることで残りの面積を第1面1xaにおける穴の開口面積(S
1)として求めることができる。
なお、この場合の板状体1xの研磨は、例えば、
図13に仮想線L1で示したように板状体1xの厚み(T
0) の0.1倍(0.1T
0)程度とすることができる。
また、第 面1xbにおける穴の開口面積(S
2)も同様にして求めることができる。
さらに、板状体1xの厚み方向中央部における穴の面積については、
図13に仮想線L2で示したところまで研磨を行い、上記と同様に研磨面を画像解析することで求めることができる。
【0038】
表面から内部に樹脂を導入させやすい点において、前記板状体1xは、少なくとも一方の表面における穴の開口面積(「S1」及び/ 又は「S2」)が厚み方向中央部におけ
穴の面積の1.1倍以上であることが好ましく、1.5倍以上であることがより好ましい。
なお、表面における穴の開口面積(S1、S2)は、通常、厚み方向中央部における穴の面積の5倍以下とされる。
【0039】
前記多孔板としては、複数の無機物粒子CPが互いに連結した連結体で、表面に開口した孔H1を複数有し、該孔H1を通じて内部に樹脂RSを充填可能なものを採用し得る。
なお、
図6に示されているように、前記多孔板は、無機物粒子CPが互いに連結して厚み方向tに導電パスP1が形成されている。
従って、このような無機物がこのような多孔板の形態で含まれる熱伝導性シート1は、良好なる熱伝導性を示す。
【0040】
このような多孔板を前記板状体1xとして採用する場合、前記多孔板としては、水銀圧入法によって細孔分布曲線を求めた際に当該細孔分布曲線が特定の状態になるものを採用することが好ましい。
例えば、細孔分布曲線の最大ピークのピークトップが細孔径の小さな範囲に現れるということは多孔板が緻密で高強度であることを意味する。
また、ピークトップが細孔径の大きな範囲に現れるということは当該多孔板が樹脂を含浸させ易い状態であることを意味する。
さらに、細孔分布曲線における細孔径の小さな範囲での累積細孔容積が少ないということは、当該多孔板が、その隅々にまで樹脂を行き渡らせ易い状態にあることを意味する。
【0041】
そこで、前記多孔板としては、水銀圧入法によって細孔分布曲線を求めた際に細孔容積のピークトップが、細孔径1μm以上200μm以下の範囲に現れるものを採用することが好ましく、細孔径5μm以上100μm以下の範囲に現れるものを採用することがより好ましく、細孔径15μm以上50μm以下の範囲に現れるものを採用することが特に好ましい。
また、多孔板を前記板状体1xとして採用する場合、前記多孔板としては、水銀圧入法によって細孔分布曲線を求めた際に細孔径10μm以下の細孔容積の累積値が全体5%以下となるものを採用することが特に好ましい。
【0042】
細孔分布曲線は、市販の細孔容積測定装置(例えば、島津製作所製の商品名「オートポアV9600」など)によって測定することができ、Log微分細孔容積分布〔dV/d(logD)〕を測定することによって求めることができる。
即ち、細孔分布曲線は、差分細孔容積(dV)を、細孔径の対数扱いの差分値(d・logD)で割った値を求め、これを各区間の平均細孔径に対してプロットすることによって求めることができる。
【0043】
また、熱伝導性シート1が良好なる熱伝導性を示す点においては、
図9~
図12に示したような多孔板を採用する場合も同じである。
この
図9~
図12に示した多孔板は、縦横に所定の間隔を設けて非多孔質な無機物板に複数の孔H1を穿設したものである。
具体的には、
図9~
図12に示した多孔板は、窒化アルミニウム板に空間形状が円錐台型となる貫通孔を穿設したもので、平面に対して正多角形を隙間無く配置した(ピタゴラスのタイル割りを行った)際の正多角形の頂点となる位置に前記貫通孔を配置したものである。
即ち、多孔板は、
図3~
図8に示したような孔の配置がランダムなものだけでなく、
図9~
図12に示したような孔の配置がパターン(規則性)を有するものであってもよい。
【0044】
図9~
図12に示した多孔板の孔H1は、前記のように空間形状が円錐台型となって多孔板を厚み方向に貫通孔している。
従って、
図9~
図12に示した多孔板の孔H1は、板状体の第1面1xaにおいて円形となって開口しているとともに第2面1xbにおいては、第1面1xaよりも大きな円形(例えば、直径1.2倍~3倍)となって開口している。
図9~
図12に示した多孔板の孔H1は、多孔板の両面においてある程度大きく開口している方が熱伝導性シート1に対して優れた接着力を発揮させる上において有利となる。
一方で、
図9~
図12に示した多孔板の孔H1の開口径は、ある程度小さい方が熱伝導性シート1に対して優れた熱伝導性を発揮させる上において有利となる。
そのため、
図9~
図12に示した多孔板の孔H1は、多孔板の両面における各平均開口径(D
ave)が15μm以上1000μm以下であることが好ましく、平均開口径(D
ave)が100μm以上800μm以下であることがより好ましく、平均開口径(D
ave)が20 0μm以上700μm以下であることが特に好ましい。
図9~
図12に示した多孔板の孔H1は、形状が円形である必要はなく、開口形状が多角形などであってもよい。
多孔板の孔H1の形状が円形以外である場合、前記の平均開口径(D
ave)は、円相当径として求められる。
即ち、孔H1の形状が円形以外である場合、多孔板の両面において無作為に選択した複数の穴の開口面積を測定して各面における平均値を求め、当該平均値と同じ面積を有する円の直径をそれぞれの面の平均開口径(D
ave)とすることができる。
【0045】
前記板状体(多孔板)を構成する無機物としては、無機窒化物、金属酸化物、金属炭化物、金属水酸化、炭素系物質などが挙げられる。
【0046】
前記無機窒化物としては、窒化アルミニウム、窒化ホウ素粒子、窒化ケイ素、窒化ガリウム、窒化クロム、窒化タングステン、窒化マグネシウム、窒化モリブデン、窒化リチウム等が挙げられる。
【0047】
前記金属酸化物としては、例えば、酸化ケイ素(シリカ)、酸化アルミニウム(アルミナ) 、酸化マグネシウム(マグネシア)、酸化チタン(チタニア 、酸化セリウム、酸化ジルコニウム等が挙げられる。
また、前記金属酸化物としては、例えば、金属イオンがドーピングされている酸化インジウムスズ、酸化アンチモンスズ等であってもよい。
【0048】
前記金属炭化物としては、例えば、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化アルミニウム、炭化チタン、炭化タングステン等が挙げられる。
【0049】
前記金属水酸化物としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛等が挙げられる。
【0050】
前記炭素系物質としては、例えば、カーボンブラック、グラファイト、ダイヤモンドパウダー、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、カーボンマイクロコイル等が挙げられる。
【0051】
前記板状体(多孔板)は、厚みが薄い方が熱伝導性シートの厚み方向tにおける熱抵抗値を低減できる。
一方で前記板状体(多孔板)が、過度に薄いと当該板状体が割れやすくなって熱伝導性シートの取り扱いに注意が必要になる。
また、前記板状体(多孔板)が、過度に薄いと半導体モジュールの絶縁層に求められる電気絶縁性を熱伝導性シートに発揮させることが難しくなる。
【0052】
熱伝導性シートは、JIS C2139:2008に準拠して体積抵抗率を測定した際に、1×1010Ω・cm以上の電気絶縁性を有していることが好ましく、AC3kV(実効値)×1分以上の耐電圧特性(油中耐電圧)を示すことが好ましい。
【0053】
このような点において板状体(多孔板)の平均厚みは、0.05mm以上3mm以下であることが好ましく、0.1mm以上2mm以下であることがより好ましい。
また、熱伝導性シートが樹脂による皮膜を板状体の片面又は両面に備えている場合、熱伝導性シートの平均厚みは、0.05mm以上3mm以下であることが好ましく、0.1mm以上2mm以下であることがより好ましい。
そして、樹脂による皮膜の平均厚みは、5μm以上50μm以下であることが好ましい。
【0054】
前記板状体や前記熱伝導性シートの平均厚みは、マイクロメーターで無作為に5~10箇所の測定を行った際の算術平均値として求めることができる。
また、樹脂皮膜の平均厚みは、樹脂皮膜の設けられている熱伝導性シートの平均厚みを上記のような方法で測定した後、有機溶媒などによって板状体の表面から樹脂皮膜を除去し、樹脂皮膜除去後の板状体の平均厚みを測定することによって求めることができる。
即ち、樹脂皮膜の平均厚みは、熱伝導性シートの平均厚みと板状体の平均厚みとの差として求めることができる。
なお、板状体の両面に樹脂皮膜が形成されており、両面それぞれの樹脂皮膜の平均厚みを求める場合には、樹脂皮膜の除去を片面のみとして除去前の厚みと比較すればよい。
【0055】
前記板状体とともに熱伝導性シートを構成する前記樹脂としては、 例えば、エポキシ樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、フェノキシ樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、熱硬化性ウレタン樹脂などが挙げられる。
【0056】
上記の樹脂は、例えば、有機溶媒に溶解した溶液を調製し、該溶液を板状体に塗布・乾燥することで板状体に担持させ得る。
また、板状体が微細な孔を有するものである場合、板状体に対する樹脂の担持は、例えば、減圧下において板状体を前記溶液中に浸漬させた後に減圧を解除し、前記溶液を孔の奥深くにまで浸透させるような方法で実施すればよい。
【0057】
なお、前記溶液には、前記樹脂の硬化剤や硬化促進剤となる物質を含有させることができる。
また、前記板状体には、予めシランカップリング処理などを施しておいてもよい。
【0058】
穴を有する板状体に樹脂の担持させる場合、上記のように有機溶媒を使用すると板状体の内部において気泡が形成され、局所的に熱伝導率が低い部位が形成される可能性がある。
また、気泡の存在は、熱伝導性シートの部分放電開始電圧を低下させる要因ともなり得る。
そこで、上記の樹脂としては、比較的低温で軟化して優れた流動性を発揮するものが好ましい。
この点に関し、前記のエポキシ樹脂などでは、硬化前の状態において常温液体状のものが汎用品として市販されている。
しかし、常温液体状のエポキシ樹脂を用いるとべたつきを生じるなどして熱伝導性シートが取り扱い難いものになるおそれがある。
そこで、前記樹脂としては、融点が40℃以上180℃以下のものが好ましく、融点が50℃以上70℃以下のものがより好ましい。
また、前記樹脂としては、融点(Tm)よりも90℃ 高い温度(Tm+90℃)における溶融粘度が、0.01Pa・s以上5Pa・s以下であることが好ましく、0.5P a・s以上1.5Pa・s以下であることがより好ましい。
【0059】
このような樹脂としては、エポキシ樹脂が好ましく、なかでも下記一般式(X)で表されるトリスフェノールメタン型のエポキシ樹脂が好ましい。
【0060】
なお、式(1)中の「n」は、通常、1~3の正の整数である。
式(X)中の「n」は、「0」であっても良い。
即ち、下記一般式(X)にはトリス[4-(グリシジルオキシ)フェニル]メタン(メチリジントリスフェノール型エポキシ樹脂)も含まれる。
【0061】
【0062】
エポキシ樹脂を硬化させるための硬化剤は、エポキシ樹脂と同様の溶融挙動を示すものが好ましい。
即ち、硬化剤は、融点が40℃以上180℃以下のものが好ましく、融点が50℃以上70℃以下のものがより好ましい。
また、前記硬化剤としては、融点(Tm)よりも90℃ 高い温度(Tm+90℃)における溶融粘度が、0.01Pa・s以上5Pa・s以下であることが好ましく、0.5Pa・s以上1.5Pa・s以下であることがより好ましい。
【0063】
前記硬化剤は、フェノール系硬化剤が好ましく、フェノールノボラック型の硬化剤がより好ましい。
【0064】
エポキシ樹脂の硬化を促進させるための硬化促進剤は、エポキシ樹脂の融点や硬化剤の融点などよりも高温において活性を示すものが好ましい。
高温で活性を示す硬化促進剤を採用することで、エポキシ樹脂、硬化剤、及び、当該硬化促進剤を含むエポキシ樹脂組成物は、加熱することで十分に低粘度化できるものになり、有機溶媒を加えることなくても低粘度化可能なものとなる。
エポキシ樹脂の融点をTme(℃)とした場合、硬化促進剤の種類や配合量は、エポキシ樹脂組成物の反応開始温度(Tr)が下記式(3)を満足するように選択することが好ましく、下記式(4)を満足するように選択することがより好ましい。
〔Tme+10〕≦ Tr ≦ 〔Tme+120〕 ・・・(3)
〔Tme+80〕≦ Tr ≦ 〔Tme+100〕 ・・・(4)
【0065】
硬化促進剤は、微粉末となってエポキシ樹脂組成物に配合されることが好ましく、レーザー回折法によって測定される体積基準のメジアン径(D50)が0.1μm以上300μm以下であることが好ましく、メジアン径(D50)が1μm以上5μm以下であることが好ましい。
なお、硬化促進剤はテトラフェニルホスホニウム系のものが好ましく、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレートであることがより好ましい。
【0066】
エポキシ樹脂、硬化剤の融点やエポキシ樹脂組成物の反応開始温度は、市販の示差走査熱量計(DSC)を用いて測定することができ、例えば、ティー・エイ・インスツルメント社製の商品名「Q2000」を用いて測定することができる。
例えば、エポキシ樹脂、硬化剤の融点は、それぞれ試料量を約5mgとし、昇温速度を10℃/minとする条件でDSC曲線を求め、該DSC曲線の吸熱ピークのピークトップ値として求めることができる。
また、エポキシ樹脂組成物の反応開始温度は、試料量を約10mgとし、昇温速度を10℃/minとする条件でDSC曲線を求め、該DSC曲線がベースラインから離れて発熱を開始した時点の温度として求めることができる。
【0067】
そして、本実施形態の熱伝導性シートは、厚み方向に無機物が連続しているために、半導体素子を有する半導体モジュールの放熱経路に高い熱伝導性を有する絶縁層を形成させるのに有効なものとなる。
また、本実施形態の熱伝導性シートは、樹脂をBステージ状態とすることで熱接着性を発揮させ得る。
例えば、本実施形態の熱伝導性シートは、半導体素子の熱を瞬時に奪うためのヒートスプレッダや半導体素子を搭載したリードフレームなどに熱接着させて絶縁層を形成させることができ、その際には、樹脂がBステージ状態であることで被着体に良好なる接着性を示すことになる。
そのため、熱伝導性シートは、ヒートスプレッダやリードフレームとの間に高い界面熱抵抗が形成されることを抑制することができる。
【0068】
本実施形態の放熱部材は、10W/m・K以上50W/m・K以下(好ましくは、15W/m・K以上50W/m・K以下)の優れた熱伝導率を示すため、上記例示の熱伝導性シート(半導体モジュールの構成部品)として用いられる他に、例えば、コンピュータのCPUとフィンとの間に設けられる放熱用シートや、電気自動車のインバータなどで利用されるパワーカードの放熱用シート等としても好適に用いられ得る。
【0069】
なお、放熱部材の熱伝導率は、キセノンフラッシュアナライザー(NETZSCH社製、LFA-447型)で求められる熱拡散係数と、DSC(TA instrumen t製、Q-2000)を用いて求められる比熱(JISK7123:2012)と、電子天秤(株式会社島津製作所製、AEL-200)を用いて測定(アルキメデス法)される密度との積として求めることができる。
【0070】
なお、本発明の放熱部材は、熱伝導性シートのような板状である必要はなく、他の形状であってもよい。
また、ここではこれ以上に詳細な説明を繰り返さないが、本実施形態の放熱部材については、上記例示に限定されるものではなく上記例示に適宜な変更を加え得るものである。
【符号の説明】
【0071】
1 熱伝導性シート
10 半導体素子
30 放熱器
40 電気絶縁層
100 半導体モジュール