(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-07
(45)【発行日】2023-03-15
(54)【発明の名称】ガラス、及びガラスの製造方法
(51)【国際特許分類】
C03C 1/10 20060101AFI20230308BHJP
【FI】
C03C1/10
(21)【出願番号】P 2021122530
(22)【出願日】2021-07-27
【審査請求日】2022-07-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000178826
【氏名又は名称】日本山村硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100180644
【氏名又は名称】▲崎▼山 博教
(72)【発明者】
【氏名】山本 柱
(72)【発明者】
【氏名】辻 良太
【審査官】篠原 法子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0065329(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第102807323(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108997609(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0140315(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00- 1/10
C03C 3/00- 3/32
C03B 1/00- 1/02
C04B26/00-26/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス以外の材料から再生されるガラス成形用再生材料を用いて形成されたガラス
の製造方法であって、
前記ガラス成形用再生材料として
、
カルシウム成分を含む無機物質、熱可塑性樹脂を含む材料を所定の配合率で配合して形成した成型物に由来するカルシウム成分である成型物由来カルシウム成分を含む成型物由来再生材料
を含み、カルシウム成分の総量が所定の調合比となるように配合されたものが用いられ、
前記カルシウム成分の一部又は全部として、前記成型物由来カルシウム成分を含むものが用いられること、
を特徴とするガラス
の製造方法。
【請求項2】
ガラス以外の材料から再生されるガラス成形用再生材料を用いて形成されたガラスの製造方法であって、
前記ガラス成形用再生材料として、
穀物に由来するケイ素成分からなる穀物由来ケイ素成分を含む穀物由来再生材料と、
カルシウム成分を含む無機物質、熱可塑性樹脂を含む材料を所定の配合率で配合して形成した成型物に由来するカルシウム成分である成型物由来カルシウム成分を含む成型物由来再生材料と、を含み、ケイ素成分の総量、及びカルシウム成分の総量が所定の調合比となるように配合されたものが用いられ、
前記ケイ素成分の一部又は全部として、前記穀物由来ケイ素成分を含むものが用いられ、
前記カルシウム成分の一部又は全部として、前記成型物由来カルシウム成分を含むものが用いられること、
を特徴とす
るガラス
の製造方法。
【請求項3】
ガラス以外の材料から再生されるガラス成形用再生材料を用いて形成されたガラスの製造方法であって、
前記ガラス成形用再生材料として、
穀物に由来するケイ素成分からなる穀物由来ケイ素成分を含む穀物由来再生材料と、
カルシウム成分を含む無機物質、熱可塑性樹脂を含む材料を所定の配合率で配合して形成した成型物に由来するカルシウム成分である成型物由来カルシウム成分を含む成型物由来再生材料と、を含み、前記成型物由来再生材料がカルシウム成分を炭酸カルシウムとして含有するものが用いられること、
を特徴とす
るガラス
の製造方法。
【請求項4】
前記穀物由来再生材料が、穀物に由来する炭素成分が除去されたものであること、
を特徴とする請求項
2又は3に記載のガラス
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス、及びガラスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下記非特許文献1や非特許文献2に開示されているように、ガラスびんは、リユースやリサイクルの形態により再活用されてきた。具体的には、ガラスびんは、非特許文献1に開示されているように、回収した使用済みのびんに洗浄等を施して繰り返し使用する、リユースと呼ばれる形態で再活用することができる。また、ガラスびんは、非特許文献2に開示されているように、使用済みのびんを細かく砕くことによって得られたカレットを、新しいびんなどのガラス製品を作るために活用する、リサイクルと呼ばれる形態でも再活用することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】ガラスびん3R推進協議会ウェブサイト(https://www.glass-3r.jp/learn/reuse.html)
【文献】ガラスびん3R推進協議会ウェブサイト(https://www.glass-3r.jp/learn/recycle.html)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上述したように、ガラスびんを砕いてカレットの形態にして、ガラス製品を形成するための資源として再活用する等の形態においては、新しいガラス容器のガラス製品を作成するために使用済みのガラスを活用することができる。しかしながら、限りある資源の有効活用を図ることを鑑みれば、使用済みのガラスだけでなく、ガラス以外の材料もガラスを製造するための材料として活用できるようにすることが好ましい。
【0005】
そこで本発明は、ガラス以外の材料から再生されたガラス成形用再生材料を用いて形成されたガラス、及び当該ガラスの製造方法の提供を目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明のガラスは、ガラス以外の材料から再生されるガラス成形用再生材料を含むものであって、前記再生材料として、穀物に由来するケイ素成分からなる穀物由来ケイ素成分を含む穀物由来再生材料と、カルシウム成分を含む無機物質、熱可塑性樹脂を含む材料を所定の配合率で配合して形成した成型物に由来するカルシウム成分である成型物由来カルシウム成分を含む成型物由来再生材料と、の少なくともいずれかを含むこと、を特徴とするものである。
【0007】
かかる構成によれば、穀物に由来する穀物由来ケイ素成分や、カルシウム成分を含む無機物質を用いて形成された成型物に由来するカルシウム成分を含んだガラス成形用再生材料を用いたガラスを提供できる。
【0008】
(2)上述した本発明のガラスは、前記ガラス成形用再生材料が、ケイ素成分の総量、及びカルシウム成分の総量が所定の調合比となるように配合したものであり、前記ケイ素成分の一部又は全部として、前記穀物由来ケイ素成分を含むものであり、前記カルシウム成分の一部又は全部として、前記成型物由来カルシウム成分を含むものであること、を特徴とするものであると良い。
【0009】
かかる構成によれば、穀物由来ケイ素成分や成型物由来カルシウム成分を活用したガラスを得ることができる。
【0010】
ここで、本発明者らが鋭意検討したところ、ガラスを透明(フリント)のものとして提供する観点からすると、穀物に由来する炭素成分が穀物由来再生材料から除去されていると良いとの知見を得た。
【0011】
(3)かかる知見に基づけば、上述した本発明のガラスは、前記穀物由来再生材料が、穀物に由来する炭素成分が除去されたものであること、を特徴とするものであると良い。
【0012】
本発明のガラスは、かかる構成とすることにより、穀物に由来する炭素成分に起因した着色が抑制されたものとして提供できる。
【0013】
ここで、炭酸カルシウムあるいは酸化カルシウムのいずれの形態でカルシウム成分が含まれていても、カルシウムの量を精度良くコントロールできれば、品質的に問題ないガラスを形成できる。しかしながら、炭酸カルシウム及び酸化カルシウムは、重量当たりに占めるカルシウムの含有量が相違している。そのため、ガラス成形用再生材料を用いたガラスにおいて、ガラス成形用再生材料に含まれる成型物由来カルシウム成分が炭酸カルシウム及び酸化カルシウムの混合物である場合には、成型物由来カルシウム成分の重量に基づいてガラスの原料を調合すると、これを用いて製造したガラスの品質に大幅なバラツキが生じてしまう可能性が高い。また一般的に、石灰石(炭酸カルシウム)がガラスの製造工程に用いられること等の事情を鑑みて、ガラス成形用再生材料として、ガラスの製造現場において支障なく利用可能な状態でカルシウム成分が含まれたものを用いることにより、品質的に安定したガラスを提供できると考えられる。
【0014】
(4)かかる知見に基づけば、上述した本発明のガラスにおいては、前記成型物由来再生材料が、カルシウム成分を炭酸カルシウムとして含有すること、を特徴とするものであると良い。
【0015】
本発明のガラスは、かかる構成とされているため、成型物由来カルシウム成分の重量に基づいてガラスの原料を調合しても重量当たりに占めるカルシウムの含有量を適確に調整され、ガラスの製造工程において石灰石(炭酸カルシウム)等を利用しているガラスの製造現場において製造されたとしても高品質なものとして提供できる。
【0016】
(5)本発明のガラスの製造方法は、ガラス以外の材料から再生される再生材料が配合され、ガラスの成形に用いられるものであって、前記再生材料として、穀物由来再生材料、及び成型物由来再生材料のいずれか一方又は双方を準備する工程を含むものであり、前記穀物由来再生材料が、穀物に由来するケイ素成分からなる穀物由来ケイ素成分を含むものであり、前記成型物由来再生材料が、カルシウム成分を含む無機物質、及び熱可塑性樹脂を含む材料を所定の配合率で配合して形成された成型物に由来するカルシウム成分である成型物由来カルシウム成分を含むものであること、を特徴とするものである。
【0017】
本発明によれば、穀物に由来する穀物由来ケイ素成分や、カルシウム成分を含む無機物質を用いて形成された成型物に由来するカルシウム成分を含んだ再生材料を、ガラスを製造するための材料として活用可能なガラス成形用再生材料を製造できる。従って、本発明によれば、ガラス以外の材料から再生された再生材料を用いて、ガラスの製造するための材料として活用可能なガラス成形用再生材料を製造できる。
【0018】
(6)本発明のガラスは、ガラス以外の材料から再生される再生材料を用いて形成されたものであって、二酸化ケイ素、炭酸カルシウムを組成物として含み、二酸化ケイ素が、重量比で70.0%以上、74.0%以下の範囲で含まれ、酸化カルシウムが、重量比で6.0%以上、13.0%以下の範囲で含まれており、前記二酸化ケイ素の一部又は全部として、穀物に由来するケイ素成分からなる穀物由来ケイ素成分を含むこと、を特徴とするものである。
【0019】
かかる構成によれば、穀物に由来するケイ素成分からなる穀物由来ケイ素成分を活用したガラスを提供できる。なお、本発明のガラスは、二酸化ケイ素が、重量比で71.5%以上、73.0%以下の範囲で含まれ、酸化カルシウムが、重量比で10.0%以上、13.0%以下の範囲で含まれているとなお一層良い。また、本発明のガラスは、ガラス化可能な範囲を考慮して、二酸化ケイ素と酸化カルシウムとが100:0~58:42の組成比で含まれたものとすると良い。
【0020】
(7)本発明のガラスは、ガラス以外の材料から再生される再生材料を用いて形成されたものであって、二酸化ケイ素、炭酸カルシウムを組成物として含み、二酸化ケイ素が、重量比で70.0%以上、74.0%以下の範囲で含まれ、酸化カルシウムが、重量比で6.0%以上、13.0%以下の範囲で含まれており、前記酸化カルシウムの一部又は全部として、カルシウム成分を含有する無機物質を含む材料を所定の配合率で配合して形成した成型物に由来するカルシウム成分である成型物由来カルシウム成分を含むこと、を特徴とするものである。
【0021】
かかる構成によれば、カルシウム成分を含有する無機物質を含む材料を所定の配合率で配合して形成した成型物に由来するカルシウム成分である成型物由来カルシウム成分を活用したガラスを提供できる。
【0022】
(8)上述した本発明のガラスの製造方法は、ケイ素成分を含む穀物、又は当該穀物に由来する穀物由来物を加熱処理することにより、穀物又は穀物由来物に含まれているケイ素成分を穀物由来ケイ素成分として含む穀物由来再生材料を取得する穀物由来再生材料取得工程を含むこと、を特徴とするものであると良い。
【0023】
本発明に係る製造方法によれば、穀物由来再生材料取得工程において、穀物又は穀物由来物に含まれているケイ素成分を、穀物由来ケイ素成分として含む穀物由来再生材料を取得し、ガラス成形用再生材料を製造することが可能となる。従って、本発明によれば、ガラス以外の材料から再生された再生材料を用いて、ガラス成形用再生材料を製造するための製造方法を提供できる。
【0024】
また、本発明のガラスの製造方法では、二酸化炭素を吸収して生育した穀物又は穀物由来物を原料として使用する。ガラス成形用再生材料の製造に際して熱処理する際に二酸化炭素が発生する二酸化炭素は、再び穀物の生育過程で吸収される。このように、本発明によれば、カーボンリサイクルが成立した環境に配慮した製造方法によりガラス成形用再生材料を製造できる。
【0025】
ここで、上述したように、本発明者らが鋭意検討した結果、透明(フリント)のガラスの製造にガラス成形用再生材料を用いることを想定すると、穀物に由来する炭素成分が穀物由来再生材料から除去されていることが好ましいとの知見を得た。また、本発明者らがさらに鋭意検討した結果、穀物又は穀物由来物に含まれる有機物を熱分解した一次加熱物に炭素成分が含まれていたとしても、一次加熱物をさらに間接加熱することにより炭素成分を除去できるとの知見を得た。
【0026】
(9)かかる知見に基づけば、上述した本発明のガラスの製造方法は、前記穀物由来再生材料取得工程が、穀物又は穀物由来物を直接加熱、あるいは間接加熱することにより、穀物又は穀物由来物に含まれる有機物を熱分解して一次加熱物を形成する一次加熱工程と、前記一次加熱物を間接加熱することにより、前記一次加熱物に含まれる炭素成分の一部又は全部を除去する二次加熱工程と、を含むこと、を特徴とするものであると良い。
【0027】
本発明に係る製造方法は、本発明者らが鋭意検討して得られた知見に則り、一次加熱物をさらに間接加熱することにより、一次加熱物に含まれる炭素成分の一部又は全部を除去するものである。従って、本発明に係る製造方法によれば、穀物に由来する炭素成分が穀物由来再生材料から除去され、透明(フリント)のガラスの製造に適したガラス成形用再生材料を製造できる。
【0028】
(10)上述した本発明のガラスの製造方法は、前記二次加熱工程において、前記一次加熱物に含まれる前記炭素成分の燃焼温度以上の温度で間接加熱が行われること、を特徴とするものであると良い。
【0029】
本発明に係る製造方法によれば、二次加熱工程において、一次加熱物に含まれる炭素成分を燃焼させて除去できる。従って、本発明に係る製造方法によれば、穀物に由来する炭素成分が穀物由来再生材料から十分除去され、透明(フリント)のガラスの製造に適したガラス成形用再生材料を製造できる。
【0030】
(11)上述した本発明のガラスの製造方法は、前記成型物を加熱処理することにより、前記成型物に含まれているカルシウム成分を成型物由来カルシウム成分として含む成型物由来再生材料を取得する成型物由来再生材料取得工程を含むこと、を特徴とするものであると良い。
【0031】
本発明に係る製造方法によれば、成型物由来再生材料取得工程において、成型物に含まれているカルシウム成分を、成型物由来カルシウム成分として含む成型物由来再生材料を取得し、ガラス成形用再生材料を製造することが可能となる。従って、本発明によれば、ガラス以外の材料から再生された再生材料を用いて、ガラス成形用再生材料を製造するための製造方法を提供できる。
【0032】
(12)上述した本発明のガラスの製造方法は、成型物由来再生材料取得工程が、前記成型物を直接加熱、あるいは間接加熱することにより、前記成型物に含まれる前記熱可塑性樹脂を熱分解して除去するものであること、を特徴とするものであると良い。
【0033】
本発明に係る製造方法によれば、成型物由来再生材料取得工程において、成型物を直接加熱あるいは間接加熱することで、成型物に含まれる熱可塑性樹脂を熱分解して除去し、成型物由来再生材料に含まれるカルシウム成分の純度を高めることができる。
【0034】
ここで、上述したように、ガラス成形用再生材料において、炭酸カルシウムあるいは酸化カルシウムのいずれの形態でカルシウム成分が含まれていても、カルシウムの量を精度良くコントロールできれば、品質的に問題ないガラスを形成できる。しかしながら、炭酸カルシウム及び酸化カルシウムが混在している場合、成型物由来カルシウム成分の重量に基づいてガラスの原料を調合すると、これを用いて形成したガラスの性質にバラツキが生じる可能性が高い。また、石灰石(炭酸カルシウム)がガラスの製造工程に用いられること等の事情を鑑みれば、炭酸カルシウムの状態でカルシウム成分が含まれたガラス成形用再生材料を製造できることが好ましい。
【0035】
さらに、本発明に係る製造方法において処理対象物となる成型物が熱可塑性樹脂を含むものである場合、熱可塑性樹脂を十分に除去することが好ましい。
【0036】
(13)かかる知見に基づけば、上述した本発明のガラスの製造方法は、前記成型物に含まれるカルシウム成分が、炭酸カルシウムであり、前記成型物由来再生材料取得工程において、前記熱可塑性樹脂が熱分解する温度よりも高温であって、炭酸カルシウムの熱分解温度よりも低温の温度域において前記成型物を加熱すること、を特徴とするものであると良い。
【0037】
本発明に係る製造方法では、カルシウム成分として炭酸カルシウムが含まれた成型物を用いると共に、炭酸カルシウムの熱分解温度よりも低温の温度域において成型物を加熱する。そのため、本発明に係る製造方法により得られるガラス成形用再生材料は、製造工程において炭酸カルシウムが熱分解して酸化カルシウムになるのを抑制し、炭酸カルシウムの状態でカルシウム成分を取得できる。また、本発明に係る製造方法では、成型物由来再生材料取得工程において、熱可塑性樹脂が熱分解する温度よりも高温条件下において成型物を加熱する。そのため、本発明に係る製造方法によれば、成型物を構成する熱可塑性樹脂を十分に除去した状態のガラス成形用再生材料を取得できる。従って、本発明の製造方法によれば、熱可塑性樹脂の含有率が低く、炭酸カルシウムの状態でカルシウム成分が含まれたガラス成形用再生材料を製造できる。
【0038】
ここで本発明のガラスの製造方法は、ケイ素成分を含む穀物又は穀物由来物から穀物由来再生材料を形成する工程と、カルシウム成分を含む成型物から成型物由来再生材料を形成する工程を別々に行い、各工程を経て得られた穀物由来再生材料及び成型物由来再生材料を混合してガラス成形用再生材料とすることができる。本発明者らがさらに鋭意検討したところ、穀物由来再生材料を形成する工程、及び成型物由来再生材料を形成する工程において熱処理に適した温度域が大きく相違しないという知見が得られた。これにより、穀物由来再生材料を形成する工程、及び成型物由来再生材料を形成する工程の双方において、加熱により熱分解する処理を行うのであれば、穀物由来再生材料及び成型物由来再生材料を形成してから両者を混合するのではなく、ケイ素成分を含む穀物又は穀物由来物、及びカルシウム成分を含む成型物を混合した混合物の状態で加熱により熱分解する処理を行うようにしても良いとの知見が得られた。
【0039】
また、本発明者らが鋭意検討した結果、カルシウム成分を含む成型物が熱可塑性樹脂を含むものである場合には、熱処理によりカルシウム成分(成型物由来カルシウム成分)を形成する過程において、熱可塑性樹脂が燃焼することにより、加熱処理雰囲気の温度が短時間のうちに大幅に上昇し、加熱処理時における温度コントロールが行いにくくなる可能性があるとの知見に至った。さらに、本発明者らによる鋭意検討の結果、ケイ素成分を含む穀物又は穀物由来物、及びカルシウム成分を含む成型物を混合した混合物の状態で加熱により熱分解する処理を行うようにすれば、成型物が熱可塑性樹脂を含むものである場合であっても、熱可塑性樹脂が緩やかに熱分解され、温度コントロールが行いやすくなるとの知見が得られた。
【0040】
(14)上述した知見に基づけば、本発明のガラスの製造方法は、ケイ素成分を含む穀物又は当該穀物に由来する穀物由来物と、カルシウム成分を含む無機物質及び熱可塑性樹脂を含む材料を所定の配合率で配合して形成された成型物と、を混合した混合物を熱処理対象物として直接加熱あるいは間接加熱して熱分解することにより、穀物に由来するケイ素成分からなる穀物由来ケイ素成分を含む穀物由来再生材料、及び前記成型物に含まれているカルシウム成分を成型物由来カルシウム成分として含む成型物由来再生材料を含む混合再生材料をガラス成形用再生材料として形成する混合再生材料取得工程を有すること、を特徴とするものであると良い。
【0041】
本発明に係る製造方法では、ケイ素成分を含む穀物又は穀物由来物、及びカルシウム成分を含む成型物を混合した混合物の状態で加熱により熱分解するための加熱処理を行う。そのため、本発明に係る製造方法では、成型物に含まれている熱可塑性樹脂が緩やかに熱分解しつつ、穀物又は穀物由来物から得られるケイ素成分(穀物由来ケイ素成分)と、成型物から得られるカルシウム成分(成型物由来カルシウム成分)を含んだ混合再生材料をガラス成形用再生材料として形成できる。また、本発明に係る製造方法では、ケイ素成分を含む穀物又は穀物由来物、及びカルシウム成分を含む成型物を所定の配合率で配合した状態で熱処理を行うため、混合再生材料中に含まれる穀物由来ケイ素成分及び成型物由来カルシウム成分の配合率についても適切にコントロールできる。従って、本発明に係る製造方法によれば、加熱処理時の温度コントロールを行いやすく、穀物由来ケイ素成分及び成型物由来カルシウム成分が適切な配合率で配合された混合再生材料をガラス成形用再生材料として製造できる。
【0042】
(15)上述した本発明のガラスの製造方法は、前記混合再生材料取得工程において、穀物又は穀物由来物に含まれる有機物を熱分解することにより形成される前記炭素成分の燃焼温度T1、及び前記成型物に含まれる前記熱可塑性樹脂の熱分解温度T2のうち高い方の温度TLよりも高温の温度域において、前記熱処理対象物を直接加熱あるいは間接加熱すること、を特徴とするものであると良い。
【0043】
本発明の製造方法によれば、熱処理対象物を直接加熱あるいは間接加熱する温度域を設定することにより、穀物又は穀物由来物に含まれる有機物の熱分解により形成される炭素成分の残存率を抑制しつつ、成型物に含まれる熱可塑性樹脂を十分に熱分解することができる。
【0044】
(16)上述した本発明のガラスの製造方法は、前記成型物に含まれるカルシウム成分が、炭酸カルシウムであり、前記混合再生材料取得工程において、炭酸カルシウムの熱分解温度よりも低温の温度域において前記熱処理対象物を熱処理すること、を特徴とするものであると良い。
【0045】
本発明の製造方法によれば、成型物に含まれている炭酸カルシウムが酸化カルシウムに分解されるのを抑制し、炭酸カルシウムを成型物由来カルシウム成分として含むガラス成形用再生材料を製造できる。そのため、本発明の製造方法によれば、ガラスの製造工程において石灰石(炭酸カルシウム)等を利用しているガラスの製造現場においても、支障なく石灰石等の一部又は全部に代えて利用可能なガラス成形用再生材料を製造できる。
【発明の効果】
【0046】
本発明によれば、ガラス以外の材料から再生されたガラス成形用再生材料を用いたガラス、及び当該ガラスの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【
図1】実施例2において作成された各サンプルに係る外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、本発明の一実施形態に係るガラス成形用再生材料を用いて形成されたガラス、及び当該ガラスの製造方法について説明する。
【0049】
≪ガラス、及びガラス成形用再生材料について≫
本実施形態のガラスは、ガラス以外の材料から再生される再生材料(ガラス成形用再生材料)を用いて形成されたものである。本実施形態のガラスの原料となるガラス成形用再生材料は、ケイ素成分の総量、及びカルシウム成分の総量が所定の調合比となるように配合されたものとされている。また、ガラス成形用再生材料は、穀物由来再生材料、及び成型物由来再生材料のみからなるもの、又はこれらとは異なる再生材料等を含むものとすることができる。以下、本実施形態のガラスに用いられる穀物由来再生材料や、成型物由来再生材料について、さらに詳細に説明する。
【0050】
[穀物由来再生材料]
穀物由来再生材料は、ケイ素成分を含む穀物、又は当該穀物に由来する穀物由来物を加熱処理することにより、穀物又は穀物由来物に含まれているケイ素成分を穀物由来ケイ素成分として含む再生材料である。穀物由来再生材料は、ガラス成形用再生材料において、ケイ素成分の全部をなすもの、あるいは他のケイ素成分(例えば、珪砂や酸化ケイ素の試薬など)と共にガラス成形用再生材料におけるケイ素成分の一部をなすものとすることができる。穀物由来再生材料は、穀物に由来する炭素成分を含むもの、あるいは熱処理等によって炭素成分を除去したものとすることができる。
【0051】
穀物由来再生材料が、穀物に由来する炭素成分を含むものである場合には、ガラス成形時に添加する炭素成分の一部又は全部として、穀物由来の炭素成分を活用すると良い。また、穀物由来再生材料は、熱処理等によって炭素成分を除去したものとすることにより、例えばガラスの製造工程において従来使用されている珪砂などの炭素成分を含まない、あるいは炭素成分を殆ど含まないものと同様にガラスの製造過程において取り扱うことができる。
【0052】
[成型物由来再生材料]
成型物由来再生材料は、カルシウム成分を含む無機物質を用いて作成された成型物に由来するカルシウム成分を成型物由来カルシウム成分として含む再生材料である。成型物由来再生材料は、ガラス成形用再生材料において、カルシウム成分の全部をなすもの、あるいは他のカルシウム成分(例えば、石灰石や炭酸カルシウム試薬、酸化カルシウム試薬など)と共にガラス成形用再生材料におけるカルシウム成分の一部をなすものとすることができる。
【0053】
成型物由来再生材料の原料となる成型物は、カルシウム成分を含む無機物質を含み、当該無機物質に加えて熱可塑性樹脂等を所定の配合率で配合したものである。成型物由来再生材料の原料となる成型物には、カルシウム成分を含む無機物質を含んだ様々な組成や形態のものを選択可能である。成型物由来再生材料の原料となる成型物には、例えば炭酸カルシウムに加えて熱可塑性樹脂や補助剤等を含み、シート状に形成された石灰紙等を好適に選択可能である。さらに具体的には、当該成型物を構成する無機物質は、例えば炭酸カルシウム、クレー、シリカ、酸化チタン、タルク、カオリン、水酸化アルミニウムからなる群から選択される一種類以上のものからなるものであると良い。また、当該成型物を構成する熱可塑性樹脂は、例えばポリプロピレン、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン等のポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン等のビニル樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、再生樹脂等とすることができる。当該熱可塑性樹脂は、これらから選ばれた一種類を単独で用いてもよく、二種以上を混合したものであってもよい。また、当該成型物を構成する補助剤は、例えば、滑剤、カップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、色剤、着色用顔料、流動性改良材、分散剤、安定剤、帯電防止剤、難燃剤等の中から選ばれる一種以上のものとすると良い。
【0054】
[ガラス成形用再生材料の組成]
ガラス成形用再生材料は、穀物由来ケイ素成分をケイ素成分の一部又は全部として含む穀物由来再生材料単体からなるものや、成型物由来カルシウム成分をカルシウム成分の一部又は全部として含む成型物由来再生材料単体からなるものとすることができる。また、ガラス成形用再生材料は、穀物由来再生材料及び成型物由来再生材料を混合することにより、穀物由来ケイ素成分をケイ素成分の一部又は全部として含むと共に、成型物由来カルシウム成分をカルシウム成分の一部又は全部として含んだ混合再生材料とすることも可能である。
【0055】
ここで、ガラス成形用再生材料を上述した混合再生材料とする場合は、ガラスの製造原料に含まれるケイ素成分及びカルシウム成分の調合比、製造するガラスの色等の条件を考慮して、混合再生材料におけるケイ素成分及びカルシウム成分の調合比を調整すると良い。さらに具体的には、例えばガラスびん等の成形品を構成するソーダ石灰ガラスを製造するための製造原料として珪砂、及び石灰石を使用する場合において、珪砂や石灰石の一部又は全部として混合再生材料を用いる場合には、ケイ素成分として二酸化ケイ素を重量比で73%以下の範囲で含み、カルシウム成分として重量比で13%以下の範囲で炭酸カルシウムを含むものであると良い。また、透明(フリント)のガラスを製造する場合には、酸化鉄の調合比が重量比で0.09%以下の範囲で含むものであると良い。
【0056】
≪ガラス製品の製造方法≫
本実施形態のガラスは、上述したようなガラス以外の材料から形成されるガラス成形用再生材料を用いることにより、珪砂や石灰石等を用いた場合と同様にして、ガラスを製造することができる。具体的には、ガラス成形用再生材料を用いてガラス製品を製造する場合には、先ず酸化ケイ素の重量を100としたときに、炭酸カルシウムが重量比で27、炭酸ナトリウムが重量比で28、硫酸ナトリウムが重量比で1.5、炭素(カーボン)が重量比で0.1となる調合比を標準的な調合比とし、製造するガラスの特性(例えば粘性等)に応じて各成分の調合比率を変動させることにより、原料の調合を行う。このようにして原料の調合を行う際に、酸化ケイ素及び炭酸カルシウムのいずれか一方又は双方について、その一部又は全部として、上述したガラス成形用再生材料を配合する。
【0057】
また、ガラス成形用再生材料を用いたガラス製品を製造する場合には、上述したようにして調合された原料を溶解炉に投入して溶解させる。ガラス成形用再生材料を用いる場合も、ガラス成形用再生材料を用いない場合と同様に、例えばシーメンス型の連続炉などの大規模なガラス溶解炉や、光学炉や手吹き炉などの小規模なタンク炉を溶解炉として用いることができる。ガラス成形用再生材料を含む原料を溶解して得られた溶解物を溶解炉から取り出し、これを例えばガラスびんなどの形状に成形した後、徐冷することにより、ガラス製品とすることができる。
【0058】
本実施形態のガラスの製造方法は、原料の準備段階において、ガラス以外の材料からガラス成形用再生材料を製造する工程が含まれる点において、従来公知のガラスの製造方法と相違しており、この点に大きな特徴を有する。以下、ガラス以外の材料からガラス成形用再生材料を製造する工程(ガラス成形用再生材料の製造方法)について、さらに詳細に説明する。
【0059】
≪ガラス成形用再生材料の製造方法≫
上述したガラス成形用再生材料は、ケイ素成分を含む穀物又は当該穀物に由来する穀物由来物を原料(当該原料を以下「穀物系原料」とも称す)として穀物由来再生材料からなるガラス成形用再生材料を製造する製造方法、及びカルシウム成分を含む成型物を原料(当該原料を以下「成型物系原料」とも称す)として、成型物由来再生材料からなるガラス成形用再生材料を製造する製造方法のように、穀物由来再生材料及び成型物由来再生材料のいずれか一方又は双方を個別に製造する製造方法によりガラス成形用再生材料を製造できる。また、穀物系原料及び成型物系原料の双方を含む原料(当該原料を以下「混合原料」とも称す)を処理する製造方法により、穀物由来再生材料及び成型物由来再生材料の双方を含むガラス成形用再生材料を製造することもできる。以下、(1)穀物系原料からガラス成形用再生材料として穀物由来ケイ素成分を製造する製造方法(以下、「穀物由来再生材料製造法」とも称す)、(2)成型物系原料からガラス成形用再生材料を製造する製造方法(以下、「成型物由来再生材料製造法」とも称す)、及び(3)混合原料からガラス成形用再生材料を製造する製造方法(以下、「混合再生材料製造法」とも称す)について説明する。
【0060】
[(1)穀物由来再生材料製造法]
穀物由来再生材料製造法は、穀物系原料を加熱処理することにより、穀物系原料に含まれているケイ素成分を穀物由来ケイ素成分として含む穀物由来再生材料を取得する工程(穀物由来再生材料取得工程)を製造工程の一部又は全部として含む製造方法である。穀物由来再生材料製造方法は、穀物系原料の加熱処理を単段階で行うものとすることにより穀物由来再生材料取得工程を簡略化することができる。また、穀物由来再生材料製造方法は、穀物系原料の加熱処理を多段階で行うもののとすることにより、穀物系原料の加熱処理することにより生じる炭素成分の含有量を減少させることができる。
【0061】
穀物由来再生材料取得工程は、例えば、一次加熱工程、及び二次加熱工程の二段階に分けて加熱処理を行うものとすると良い。また、穀物由来再生材料取得工程は、一次加熱工程において、穀物又は穀物由来物からなる穀物由来原料を直接加熱あるいは間接加熱により熱処理して一次加熱物を形成し、二次加熱工程において一次加熱物を間接加熱すると良い。穀物由来原料の直接加熱は、例えば燃焼炉内において穀物由来原料に着火して燃焼する等の方法で行うと良い。また、穀物由来原料の間接加熱は、例えば、ロータリーキルン等の熱処理装置を用い、炉内温度が所定温度になるように条件設定して穀物由来原料の加熱を行うと良い。これにより、一次加熱工程において穀物系原料に含まれる有機物を熱分解して酸化ケイ素を含む一次加熱物を取得できる。また、一次加熱物に熱分解されずに残存している有機物が存在していたとしても、二次加熱工程においてさらに加熱処理を行うことにより、有機物を熱分解して酸化ケイ素として取得することができる。また、二次加熱工程において熱処理を行う温度を、一次加熱物に含まれる炭素成分の燃焼温度以上の温度とすることにより、一次加熱物に含まれる炭素成分を除去することができる。これにより、炭素成分の含有量を低減し、酸化ケイ素の純度が高い穀物由来再生材料を製造することができる。
【0062】
[(2)成型物由来再生材料製造法]
成型物由来再生材料製造法は、カルシウム成分を含む成型物(成型物系原料)を加熱処理することにより、成型物由来カルシウム成分を含む成型物由来再生材料を取得する工程(成型物由来再生材料取得工程)を製造工程の一部又は全部として含む製造方法である。成型物由来再生材料製造法は、成型物を直接加熱、あるいは間接加熱することにより、成型物に含まれる熱可塑性樹脂を熱分解して除去することにより、成型物に含まれているカルシウム成分を成型物由来カルシウム成分として含む成型物由来再生材料を取得することができる。成型物由来原料の直接加熱は、例えば燃焼炉内において成型物由来を直接燃焼する等の方法で行うと良い。また、成型物由来原料の間接加熱は、例えば、ロータリーキルン等の熱処理装置を用い、炉内温度が所定温度になるように条件設定して成型物由来原料の加熱を行うと良い。
【0063】
成型物由来再生材料製造法において、成型物系原料に含まれているカルシウム成分が炭酸カルシウムである場合には、熱可塑性樹脂が熱分解する温度よりも高温であって、炭酸カルシウムの熱分解温度よりも低温の温度域において成型物を加熱すると良い。これにより、炭酸カルシウムが熱分解されて酸化カルシウムになるのを抑制できる。その結果、成型物由来再生材料製造法により得られた成型物由来再生材料を、ガラスの製造工程に用いられる石灰石と同様にガラスの原料として使用可能なものとして取り扱い可能となる。
【0064】
[(3)混合再生材料製造法]
混合再生材料製造法は、穀物由来原料と成型物由来原料とを混合した混合物(混合原料)を熱処理対象物として直接加熱あるいは間接加熱して熱分解することにより、ケイ素成分を含む穀物由来再生材料、及びカルシウム成分を含む成型物由来再生材料を含む混合再生材料をガラス成形用再生材料として形成する工程(混合再生材料取得工程)を製造工程の一部又は全部として含む製造方法である。混合再生原料の直接加熱は、例えば燃焼炉内において混合再生原料に含まれる穀物由来原料に着火する等の方法により、混合再生原料を燃焼する等の方法で行うと良い。また、混合再生原料の間接加熱は、例えば、ロータリーキルン等の熱処理装置を用い、炉内温度が所定温度になるように条件設定して混合再生原料の加熱を行うと良い。
【0065】
混合再生材料製造法において、混合原料を熱処理する際の熱処理温度は、穀物由来原料に含まれる有機物を熱分解することにより形成される炭素成分の燃焼温度T1、及び成型物由来原料に含まれる熱可塑性樹脂の熱分解温度T2のうち高い方の温度TLよりも高温の温度域に設定される。これにより、穀物由来原料を熱処理することにより発生する炭素成分の残存を最小限に抑制しつつ、成型物由来原料に含まれる熱可塑性樹脂を十分に熱分解できる。その結果、ケイ素成分及びカルシウム成分を主成分とし、炭素成分などの不純物の含有量を最小限に抑制したガラス成形用再生材料を製造できる。
【0066】
また、混合再生材料製造法において、混合原料を熱処理する際の熱処理温度は、炭酸カルシウムの熱分解温度よりも低温の温度域となるように調整される。これにより、成型物由来原料に含まれる炭酸カルシウムが、熱分解されて酸化カルシウムになるのを抑制できる。さらに、炭酸カルシウムの熱分解温度よりも高温の温度域においては、ガラス成形用再生材料においてケイ素成分をなす酸化ケイ素がアモルファス状の形態から結晶化したものに変化してしまう懸念がある。酸化ケイ素がアモルファス状のものであるか結晶化したものであるかの違いは、ガラスの製造品質に大きな影響を与えるものではない。しかしながら、結晶化した酸化ケイ素は、発がん性などの問題が懸念されるため、ガラスの製造工程において取り扱いにくいという問題がある。そのため、混合再生材料製造法において、混合原料を熱処理する際の熱処理温度を炭酸カルシウムの熱分解温度よりも低温の温度域とすることにより、酸化ケイ素の結晶化を抑制し、ガラスの製造工程において取り扱いやすいアモルファス状の酸化ケイ素を含んだガラス成形用再生材料を製造できる。
【実施例1】
【0067】
続いて、本発明の一実施形態に係るガラスの製造方法により製造したガラスについての実施例について説明する。本実施例においては、ガラス成形用再生材料を以下に示した準備方法によりサンプルA~Dを準備した。
【0068】
≪サンプルAの準備方法について≫
サンプルAは、成型物系原料として石灰紙を選択し、これを熱処理することにより製造した成型物由来再生材料である。成型物系原料である石灰紙として、株式会社TBM社製の商品名LIMEXを選択した。LIMEXは、炭酸カルシウムを約60%、熱可塑性樹脂であるポリオレフィンを約40%含むものである。
【0069】
サンプルAの製造時における熱処理温度の下限値は、ポリオレフィン系の熱可塑樹脂の分解により発生するプロピレンガス発生温度(243℃)、イソブテンガスの発生温度(245℃)、あるいはプロパンガスの発生温度(253℃)のいずれかの温度以上であることが好ましく、ポリオレフィン系の熱可塑樹脂が着火する温度(410℃)以上であることがより一層好ましい。また、サンプルAの製造時における熱処理温度の上限値は、炭酸カルシウムが熱分解により脱二酸化炭素反応を起こす温度未満であることが好ましい。ポリオレフィン系の熱可塑樹脂を確実に熱分解させつつ、炭酸カルシウムが熱分解してしまうことに対する安全率を考慮し、ポリオレフィン系の熱可塑樹脂が着火する400℃前後の温度よりも高く、炭酸カルシウムが熱分解を起こすと考えられる704℃よりも十分に低い600℃以下の温度域で熱処理を行い、サンプルAを準備した。
【0070】
≪サンプルBの準備方法について≫
サンプルBは、穀物系原料としてもみ殻を選択し、これを熱処理することにより製造した穀物由来再生材料である。サンプルBは、上記実施形態に示した穀物由来再生材料製造法における一次加熱工程により得られる一次加熱物に相当するものである。サンプルBは、株式会社M.I.T社製のエシカルスターを用いてもみ殻を直接燃焼により熱処理することによって準備した。
【0071】
≪サンプルCの準備方法について≫
サンプルCは、上述したサンプルBの状態において残存しているカーボンの除去を行ったものを準備することを想定して、サンプルBの準備方法により穀物系原料(もみ殻)を処理した後、さらに間接加熱する熱処理(二次処理)を行うことにより準備した。すなわち、サンプルCは、穀物系原料としてもみ殻を選択し、一次処理、及び二次処理を行うことにより作成したサンプルである。サンプルCの準備方法においては、原料となるサンプルBを均一に酸化することを考慮し、ロータリーキルンを用い、炉内温度を一定温度に設定してサンプルBを大気雰囲気下において間接加熱した。また、サンプルCの準備に際しては、炭素成分の分解温度以上の温度域(528℃以上)において熱処理を行った。
【0072】
≪サンプルDの準備方法について≫
サンプルDは、穀物系原料であるもみ殻と、成型物系原料である石灰紙とを混合した混合原料を熱処理することにより準備した。サンプルDの製造試験においては、上記サンプルAの製造試験に用いたものと同一の石灰紙(LIMEX)を成型物系原料とした用いた。また、サンプルDの製造試験においては、熱処理後に所定の配合比で二酸化ケイ素と炭酸カルシウムとが配合された状態になるように、もみ殻とLIMEXとの混合比を調整した。具体的には、サンプルDの製造試験においては、二酸化ケイ素と炭酸カルシウムとの配合比が100:27となるように、もみ殻とLIMEXとを14.4:1の質量比で混合させて熱処理した。
【0073】
サンプルDの準備においては、成型物系原料である石灰紙に含まれるポリオレフィン系の熱可塑樹脂の着火温度(410℃)、炭酸カルシウムが熱分解により脱二酸化炭素反応を起こす温度(704℃)、穀物系原料の加熱に伴い発生する炭素成分(カーボン)の分解温度(528℃)を考慮し、528℃以上であって、704℃未満の温度域となるように温度管理を行って熱処理を行った。このようにして、二酸化ケイ素と炭酸カルシウムとが混合されたサンプルDを準備した。
【実施例2】
【0074】
上記実施例1において準備されたガラス成形用再生材料のサンプルを用いたガラスの製造試験を行った。実施例2において作成したガラスの組成(ガラス組成)は表1に示すような結果となり、ガラス特性は表2に示すような結果となった。また、各サンプルに係るガラスの色調を調べた結果、表3のような結果が得られた。
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
具体的には、実施例2においては、比較例のサンプル1として、透明(フリント)のガラスを、ガラス成形用再生材料を用いることなく作成した。また、サンプル2として、上記実施例1のサンプルD、すなわち穀物由来原料であるもみ殻と、成型物由来原料であるLIMEXを14.4:1の比で混合した混合原料を熱処理して得られたガラス成形用再生材料により、比較例のサンプル1の作成に要する二酸化ケイ素及び炭酸カルシウムの全量を置換したものを作成した。また、サンプル3として、上記実施例1のサンプルAに係るガラス成形用再生材料、及びサンプルCに係るガラス成形用再生材料を用いたガラスを作成した。サンプル3の作成に際し、サンプルAに係るガラス成形用再生材料により、比較例のサンプル1の作成に要する二酸化ケイ素の全量を置換した。また、サンプル3の作成に際し、サンプルCに係るガラス成形用再生材料により、比較例のサンプル1の作成に要する炭酸カルシウムの全量を置換した。
【0079】
実施例2においては、サンプル4として、上記実施例1のサンプルBに係るガラス成形用再生材料を用いたガラスを作成した。また、実施例2では、サンプル5として、上記実施例1のサンプルCに係るガラス成形用再生材料を用いたガラスを作成した。サンプル4及びサンプル5の作成に際し、サンプルBあるいはサンプルCに係るガラス成形用再生材料により、比較例のサンプル1の作成に要する二酸化ケイ素の全量を置換した。また、実施例2では、サンプル6として、上記実施例1のサンプルAに係るガラス成形用再生材料を用いたガラスを作成した。サンプル6の作成に際し、サンプルAに係るガラス成形用再生材料により、比較例のサンプル1の作成に要する炭酸カルシウムの全量を置換した。
【0080】
上述したガラスの製造試験の結果、ガラス成形用再生材料を用いたサンプル2~サンプル6のいずれについても、比較例のサンプル1と同様に、ガラスとして製造できることが見いだされた。また、サンプル1~サンプル6について、ガラスの組成やガラス特性を調べたところ、表1に示すような試験結果が得られた。
【0081】
ここで、表1の試験結果について検討すると、サンプル4は、ガラス組成やガラス特性において他のサンプルと異なる傾向を示すことが見いだされた。具体的には、サンプル4のガラス組成は、比較例であるサンプル1と比べて、ガラス組成が大幅に異なることが見いだされた。さらに詳細には、比較例であるサンプル1のガラスに含まれる酸化鉄の組成が0.03であるのに対し、サンプル4においては0.18であった。また、比較例であるサンプル1において三酸化硫黄(SO3)の組成が0.21であるのに対し、サンプル4においては0.46であった。
【0082】
サンプル4のガラス特性は、サンプル1の比較例に対して組成の傾向が異なることに起因して、粘性が10
2[Poise]となる温度(MPI/高温粘性)がサンプル1の比較例よりも低くなる傾向が見られた。また、
図1に示すように、比較例であるサンプル1が透明(フリント)であるのに対し、サンプル4のガラスの色調はアンバーあるいは黒色であり、大幅に相違していることが判明した。具体的には、光の波長と透過率の関係を確認したところ、サンプル4は比較例であるサンプル1に比べて光の透過率が極めて低いことが判明した。これにより、サンプル4のように、サンプルBに係るもみ殻を一次加熱工程により得られる一次加熱物をガラス成形用再生材料とした用いることにより、ガラスを形成することができる一方で、色調が透明(フリント)にはならずアンバーあるいは黒色になることが見いだされた。そのため、色調が透明(フリント)のガラスを製造するという観点からすれば、炭素成分(カーボン)が残存した状態の穀物由来再生材料をガラス成形用再生材料として用いるのは不適切であるとの知見が得られた。
【0083】
また、ガラス成形用再生材料の原料として穀物由来原料(もみ殻)を含んだサンプル2、サンプル3、及びサンプル5について、ガラス組成を検討した。その結果、これらのサンプルにおいては、二酸化ケイ素及び酸化カルシウムの含有量が許容範囲内であったことが見いだされた。具体的には、サンプル2、サンプル3、及びサンプル5に係るガラスは、二酸化ケイ素が、重量比で70.0%以上、73.0%以下の範囲で含まれ、酸化カルシウムが、重量比で6.0%以上13.0%以下の範囲で含まれたものであることが見いだされた。また、サンプル2、サンプル3、及びサンプル5に係るガラスは、二酸化ケイ素と酸化カルシウムとが100:0~58:42の組成比で含まれたものであることが見いだされた。また、酸化鉄(Fe2O3)について検討すると、比較例であるサンプル1に比べて高くなる傾向にあることが見いだされた。サンプル2、サンプル3、及びサンプル5における酸化鉄の組成比は、色調が透明(フリント)のガラスとして許容範囲内(重量比で0.02%以上0.09%以下)のものであることが確認された。このように、サンプル2、サンプル3、及びサンプル5において酸化鉄が高くなる傾向が見られたのは、原料として穀物由来物(もみ殻)に由来する酸化鉄がガラスの組成物として含まれたことに起因すると考えられる。
【0084】
サンプル3及びサンプル5に係るガラスの組成比についてさらに検討すると、これらのサンプルは三酸化硫黄(SO3)の組成が比較例であるサンプル1に比べて高くなる傾向にあることが見いだされた。このような傾向が見られたのは、サンプルCにおいて熱処理されずに残存していたもみ殻由来のカーボンによる影響であると考えられる。
【0085】
また、サンプル2のガラス組成について検討すると、上述したサンプル3~サンプル5に比べて、サンプル2においては三酸化硫黄(SO3)の組成が低く、比較例に係るサンプル1と比べても十分に低いことが見いだされた。これにより、サンプル2のように穀物由来原料(本実施例ではもみ殻)と、成型物由来原料(本実施例ではLIMEX)を混合した混合原料を熱処理して得られたガラス成形用再生材料においては、炭素成分(カーボン)が十分に減少しており、その結果としてこれを用いたガラスにおいても三酸化硫黄(SO3)の組成が低くなるとの知見が得られた。また、サンプル2に係るガラスは、酸化鉄がサンプル3~サンプル5や比較例に係るサンプル1に比べて高いことが判明した。これを反映して、サンプル2に係るガラスは、比較例に係るサンプル1や、サンプル3、サンプル5に比べて色調が緑色を帯びた状態になることが見いだされた。また、サンプル2に係るガラスは、サンプル3~サンプル5や比較例に係るサンプル1に比べて、粘性が102[Poise]となる温度(MPI/高温粘性)が低くなることが見いだされた。
【0086】
ガラス成形用再生材料の原料として成型物由来原料(本実施例ではLIMEX)を含んだサンプル6について、ガラス組成を検討したところ、二酸化ケイ素及び炭酸カルシウムの含有量が許容範囲内であったことが見いだされた。具体的には、二酸化ケイ素の含有量の許容範囲が重量比で71.5%以上73.0%以下の範囲(70.0%以上74.0%以下の範囲)であり、酸化カルシウムの含有量の許容範囲が重量比で10.5%以上13.0%以下の範囲(6.0%以上13.0%以下の範囲)であるのに対し、サンプル6のガラスは二酸化ケイ素の含有量が重量比で71.84%、酸化カルシウムの含有量が重量比で11.15%であった。また、サンプル6に係るガラスは、酸化鉄の含有量が0.027%であり、色調が透明(フリント)のガラスとして許容範囲内(重量比で0.02%以上0.09%以下)のものであることが確認された。
【0087】
本実施例2において作成したサンプル2~サンプル6は、ガラス成形用再生材料によって置換することによるガラスの組成や特性への影響を顕著なものとすべく、いずれのサンプルにおいても、比較例のサンプル1等の作成に要する二酸化ケイ素及び炭酸カルシウムのいずれか一方又は双方について、全量をガラス成形用再生材料によって置換したものとした。サンプル2~サンプル6は、いずれもガラスとして成形するのに適したガラス特性を有するため、ガラスを作成するために本発明のガラス成形用再生材料を好適に利用できることが明確になった。また、透明(フリント)のガラスを作成する観点からすれば、サンプル2~サンプル6のうち、サンプル4を除くものにおいて許容できる範囲のものを製造可能であり、特に成型物由来原料(本実施例ではLIMEX)を含んだサンプル6をガラス成形用再生材料として使用した場合には、ガラス成形用再生材料を使用しない場合と遜色のないものを製造できることが判明した。従って、本実施例2のように、二酸化ケイ素及び炭酸カルシウムのいずれか一方又は双方について、全量をガラス成形用再生材料によって置換する場合はもちろんのこと、二酸化ケイ素及び炭酸カルシウムのいずれか一方又は双方の一部をガラス成形用再生材料によって置換してガラスを成形することが可能であることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明は、ガラス以外の材料から再生されたガラス成形用再生材料を用いたガラス、及び当該ガラスの製造するために好適に適用可能である。