(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-07
(45)【発行日】2023-03-15
(54)【発明の名称】バインダー成分及びエマルジョン
(51)【国際特許分類】
C09D 11/30 20140101AFI20230308BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20230308BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20230308BHJP
C08L 33/10 20060101ALI20230308BHJP
【FI】
C09D11/30
B41M5/00 120
B41J2/01 501
C08L33/10
(21)【出願番号】P 2021170891
(22)【出願日】2021-10-19
(62)【分割の表示】P 2021032900の分割
【原出願日】2021-03-02
【審査請求日】2022-12-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100220205
【氏名又は名称】大西 伸和
(72)【発明者】
【氏名】嶋中 博之
(72)【発明者】
【氏名】釜林 純
(72)【発明者】
【氏名】吉川 幸男
(72)【発明者】
【氏名】大久保 利江
(72)【発明者】
【氏名】田 路
(72)【発明者】
【氏名】田中 暁史
【審査官】長部 喜幸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/013651(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0282000(US,A1)
【文献】特開2016-094594(JP,A)
【文献】特開2012-021120(JP,A)
【文献】特開2019-135306(JP,A)
【文献】特開2019-218458(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0139526(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0296395(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第108530990(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00
C09D 13/00
B41M 5/00
B41J 2/01
C08L 33/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記要件(5)~(9)を満たすポリマーであるバインダー成分。
[要件(5)]:
メタクリル酸系モノマーに由来する構成単位の含有量が90質量%以上である、ポリマー鎖A2及びポリマー鎖B2を含むA-Bブロックコポリマーである。
[要件(6)]:
前記ポリマー鎖A2が、
生物材料由来のメタクリレートに由来する構成単位を80質量%以上含み、
数平均分子量が10,000~30,000であり、
分子量分布が1.6以下である水不溶性のポリマーブロックである。
[要件(7)]:
前記ポリマー鎖B2が、
メタクリル酸に由来する構成単位を含み、
生物材料由来のメタクリレートに由来する構成単位を40~90質量%含み、
酸価が50~150mgKOH/gであり、
数平均分子量が5,000~20,000であり、
カルボキシ基の少なくとも一部がアルカリで中和されているポリマーブロックである。
[要件(8)]:
数平均分子量が15,000~50,000であり、分子量分布が1.6以下である。
[要件(9)]:
その数平均粒子径が10~200nmの粒子である。
【請求項2】
前記生物材料由来のメタクリレートが、エチルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、オクチルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、及びオクタデシルメタクリレートからなる群より選択される少なくとも一種である請求項1に記載のバインダー成分。
【請求項3】
水性インクジェットインク
に用いられる請求項1又は2に記載のバインダー成分。
【請求項4】
水、及び請求項1~3のいずれか一項に記載のバインダー成分で形成されたバインダー粒子を含有するエマルジョン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バインダー成分及びエマルジョンに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷は、高機能化により、個人用、事務用、業務用、記録用、カラー表示用、カラー写真用と多岐にわたって使用されている。さらに、近年、従来のオフィス用のコンシューマ型のインクジェットプリンタや大判印刷用ワイドフォーマットインクジェットプリンタから、産業用途としてのインクジェット印刷機へとその適用範囲が拡大している。インクジェット印刷は、画像印刷の版が不要であることから、少量多品種産業用印刷物をオンデマンドで得ることができる印刷方法として適している。なお、環境への配慮から、水性インクジェットインクによるインクジェット印刷が盛んに提案されている。
【0003】
産業用途としては、例えば、サインディスプレー、屋外広告、施設サイン、ディスプレイ、POP広告、交通広告、パッケージング、容器、ラベル等の用途がある。これらの用途に適用される印刷基材(記録媒体)としては、紙、ボール紙、写真紙、インクジェット専用紙等の紙媒体;ポリ塩化ビニル、ポリオレフィン、ポリエステル、ナイロン等のプラスチック媒体;綿布、エステル布、ナイロン生地、不織布等の布地;等を挙げることができる。さらに、産業用途の場合、版が不要なオンデマンド印刷が主流であるとともに、高速印刷適性が要求されている。そして、染料を色材として含有する水性インクジェットインクで記録した画像は、耐水性や耐光性等の耐久性に乏しいことから、顔料を色材として含有する水性インクジェットインクが使用されている。
【0004】
そこで、耐久性を向上させた印刷画像を記録すべく、皮膜形成しうるアクリル系又はウレタン系のバインダー成分を添加したインクジェット用のインクが提案されている(特許文献1及び2)。また、水性の顔料インクジェットインクでは、顔料を安定して微分散させる必要があり、界面活性剤や高分子分散剤を用いて顔料を経時的に安定して微分散させた顔料分散液、及びこれを用いたインクジェット用のインクが提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4157868号公報
【文献】特表2009-515007号公報
【文献】国際公開第2013/008691号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1~3で提案された顔料分散液を用いたインクジェット用インクであっても、密着性及び耐摩擦性等の耐久性に優れた画像を記録することは困難であった。
【0007】
ところで、昨今の地球温暖化傾向、二酸化炭素排出問題、資源問題、及び海洋プラスチック問題等に鑑み、省エネ対応、リサイクル対応、及び環境にやさしい材料等の環境配慮型の技術の重要性が増している。このような状況の下、従来の水性インクジェットインクや水性顔料分散液に配合される、顔料を分散させるための分散剤としては、石油材料に由来するモノマー等の原材料を用いて合成された高分子分散剤が用いられている。すなわち、従来の水性インクジェットインクで記録される画像は、石油材料由来の材料で形成されていることから必ずしも環境配慮型の技術が適用されているとはいえない。ポリ乳酸やポリヒドロキシアルカン酸等の生分解性プラスチックで形成された容器やラベル等の印刷基材がインクジェット印刷に適用される一方で、このような印刷基材に記録される画像には環境配慮型の技術が適用されていないといった課題があった。
【0008】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、密着性、耐摩擦性、及び耐ブロッキング性に優れた画像等の乾燥皮膜を形成しうる、環境に配慮されたバインダー成分及びエマルジョンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明によれば、以下に示すバインダー成分が提供される。
[1]下記要件(5)~(9)を満たすポリマーであるバインダー成分。
[要件(5)]:
メタクリル酸系モノマーに由来する構成単位の含有量が90質量%以上である、ポリマー鎖A2及びポリマー鎖B2を含むA-Bブロックコポリマーである。
[要件(6)]:
前記ポリマー鎖A2が、
生物材料由来のメタクリレートに由来する構成単位を80質量%以上含み、
数平均分子量が10,000~30,000であり、
分子量分布が1.6以下である水不溶性のポリマーブロックである。
[要件(7)]:
前記ポリマー鎖B2が、
メタクリル酸に由来する構成単位を含み、
生物材料由来のメタクリレートに由来する構成単位を40~90質量%含み、
酸価が50~150mgKOH/gであり、
数平均分子量が5,000~20,000であり、
カルボキシ基の少なくとも一部がアルカリで中和されているポリマーブロックである。
[要件(8)]:
数平均分子量が15,000~50,000であり、分子量分布が1.6以下である。
[要件(9)]:
その数平均粒子径が10~200nmの粒子である。
[2]前記生物材料由来のメタクリレートが、エチルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、オクチルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、及びオクタデシルメタクリレートからなる群より選択される少なくとも一種である前記[1]に記載のバインダー成分。
[3]水性インクジェットインクに用いられる前記[1]又は[2]に記載のバインダー成分。
【0010】
また、本発明によれば、以下に示すエマルジョンが提供される。
[4]水、及び前記[1]~[3]のいずれかに記載のバインダー成分で形成されたバインダー粒子を含有するエマルジョン。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、密着性、耐摩擦性、及び耐ブロッキング性に優れた画像等の乾燥皮膜を形成しうる、環境に配慮されたバインダー成分及びエマルジョンを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<水性顔料分散液>
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本明細書中の各種物性値は、特に断りのない限り、常温(25℃)における値である。以下、「水性顔料分散液」のことを単に「顔料分散液」とも記し、「水性インクジェットインク」のことを単に「インク」とも記す。
【0013】
本発明の水性顔料分散液は、顔料、水、水溶性有機溶媒、及び顔料を分散させる高分子分散剤を含有する。そして、高分子分散剤が、(メタ)アクリル酸及びイタコン酸の少なくともいずれかに由来する構成単位(i)と、生物材料由来の(メタ)アクリレートに由来する構成単位(ii)と、を含み、酸価が30~250mgKOH/gであり、構成単位(ii)の含有量が50質量%以上であり、数平均分子量が1,000~30,000であり、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が2.5以下であり、カルボキシ基の少なくとも一部がアルカリで中和されているポリマーである。以下、本発明の水性顔料分散液の詳細について説明する。
【0014】
(顔料)
顔料としては、有機顔料や無機顔料を用いることができる。有機顔料としては、溶性アゾ顔料、不溶性アゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、イソインドリン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、ジオキサジン顔料、アントラキノン顔料、ジアンスラキノニル顔料、アンスラピリミジン顔料、アンサンスロン顔料、インダンスロン顔料、フラバンスロン顔料、ピランスロン顔料、ジケトピロロピロール顔料等を挙げることができる。無機顔料としては、二酸化チタン、酸化鉄、五酸化アンチモン、酸化亜鉛、シリカ、硫化カドミウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、クレー、タルク、黄鉛、カーボンブラック、アルミフレーク、雲母顔料等を挙げることができる。
【0015】
好適な顔料をカラーインデックスナンバー(C.I.)で示すと、C.I.ピグメントブルー15:3、15:4、15:6;C.I.ピグメントレッド122、176、254、269、291;C.I.ピグメントバイオレット19、23;C.I.ピグメントイエロー74、150、155、180;C.I.ピグメントグリーン36、58;C.I.ピグメントオレンジ43、71;C.I.ピグメントブラック7;C.I.ピグメントホワイト6等の通常のインクジェットインクに用いられる顔料を挙げることができる。
【0016】
有機顔料の数平均粒子径(一次粒子径)は、150nm以下であることが好ましい。無機顔料の数平均粒子径(一次粒子径)は、300nm以下であることが好ましい。数平均粒子径が上記範囲内の顔料を用いることで、記録される画像の光学濃度、彩度、発色性、及び印字品質を向上させることができるとともに、インク中における顔料の沈降を適度に抑制することができる。顔料の数平均粒子径は、例えば、電子顕微鏡や光散乱粒度分布計などを使用して測定することができる。
【0017】
顔料は、高分子分散剤、シランカップリング剤、無機物(シリカ、ジルコニア、硫酸等)、及び顔料誘導体(シナジスト)等の表面処理剤で表面処理されていてもよい。例えば、顔料を合成する際、顔料化する際、又は顔料を微細化する際に、これらの表面処理剤を添加又は共存させてもよい。また、キナクリドン系顔料としては、異種顔料の混合結晶化物や固溶体顔料等の複合体を用いることもできる。さらに、顔料は、高分子分散剤で処理されていたり、カプセル化されたりしていてもよい。また、生物材料由来の原料を用いて得られる顔料を用いることもできる。例えば、サトウキビ等から得られるコハク酸を用いることで、ピグメントレッド122やピグメントバイオレット19等のキナクリドン系顔料を得ることができる。
【0018】
(液媒体)
水性顔料分散液は、顔料の分散媒体として、水及び水溶性有機溶媒を含む液媒体を含有する。水溶性有機溶媒としては、アルコール系溶媒、グリコール系溶媒、グリコールエーテル類、アミド系溶媒、カーボネート系溶媒、その他の極性溶媒等を用いることができる。
【0019】
アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、プロピルアルコール、ブタノール、イソブタノール等を挙げることができる。グリコール系溶媒としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等を挙げることができる。グリコールエーテル類としては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、1,3-ブタングリコール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール等を挙げることができる。アミド系溶媒としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ピロリドン、N-メチルピロリドン、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド等を挙げることができる。カーボネート系溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート等を挙げることができる。その他の極性溶媒としては、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、ジメチルイミダゾリジノン等を挙げることができる。
【0020】
水溶性有機溶媒としては、生物材料由来の溶媒、再生された溶媒、生分解性を有する溶媒、及びグリーンソルベント等を用いることが好ましい。具体的には、発酵法や、サトウキビ、トウモロコシ、及びセルロース材料等を糖化させた後に得られるエタノール;天然物からの抽出物である1,3-ブタンジオール及びグリセリン;生分解性を有する3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール;プラスチック製品等の様々な材料の再生溶媒であるエチレングリコール、プロピレングリコール、及びこれらの誘導体;等を挙げることができる。
【0021】
高分子分散剤及び後述するバインダー成分は、水性顔料分散液や水性インクジェットインクに用いられる水溶性有機溶媒を用いる溶液重合によって製造することが好ましい。これらの水溶性有機溶媒を重合溶媒として用いると、重合して得られるポリマー溶液をそのまま用いて水性顔料分散液や水性インクジェットインクを調製することができるので、工程を簡略化することができる。
【0022】
(高分子分散剤)
高分子分散剤は、(メタ)アクリル酸及びイタコン酸の少なくともいずれかに由来する構成単位(i)を含むポリマーである。イタコン酸は発酵法で得られるモノマーであるため、環境に優しい材料である。これらのモノマーを用いることで、高分子分散剤として用いるポリマーにカルボキシ基を導入することができる。また、導入したカルボキシ基をアルカリで中和してイオン化することで、ポリマー(高分子分散剤)を水に溶解させることができる。
【0023】
ポリマー中のカルボキシ基の量は、ポリマーの酸価で規定される。具体的には、高分子分散剤として用いるポリマーの酸価は30~250mgKOH/gであり、好ましくは50~230mgKOH/gである。酸価が30mgKOH/g未満であると、ポリマーが水に溶解しにくくなる。一方、酸価が250mgKOH/g超であると、ポリマーの親水性が過度に高くなるため、顔料から脱離しやすくなり、顔料の分散安定性が低下したり、記録される画像(乾燥皮膜)の耐水性が低下したりする。
【0024】
高分子分散剤は、生物材料由来の(メタ)アクリレートに由来する構成単位(ii)を含むポリマーである。本明細書における「生物由来の(メタ)アクリレート」とは、「生物材料由来のアルコールに由来する(メタ)アクリレート」を意味する。すなわち、「生物由来の(メタ)アクリレート」は、生物材料由来のアルコールを材料として用いて合成された(メタ)アクリレートであり、(メタ)アクリロイル基以外のエステル結合の酸素を含むエステル残基が、生物材料由来のアルコール残基である。
【0025】
生物材料由来のアルコールとしては、発酵法で得られるエタノール、メタノール、イソプロパノール、イソブタノール、及び乳酸;糖、でんぷん、及び油脂を分解して得られるグルコース、グリセリン、イソソルバイド、及びグリセリンの誘導体であるグリセロールホルマイド;天然物から抽出した香料の原料となるベンジルアルコール、及びフェネチルアルコール;トウモロコシの芯から得られるフルフラールの水素還元物であるテトラヒドロフルフラール;パーム油やヤシ油等から得られるオクタノール、デシルアルコール、ドデシルアルコール、テトラデシルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、及びベヘニルアルコール;カシューナッツ等から得られる3-ペンタデシルフェノール、3-ペンタデシルフェノールモノエン、及び3-ペンタデシルフェノールジエン;リグニンの構成成分であるシナピルアルコール、コニフェリルアルコール、及びp-クマリルアルコール等;植物精製により得られるゲラニオール、ニラオール、ネノール、メントール、テルピネオール、及びボルネオール;ロジン;ロジンの樟脳から得られるイソボルニルアルコール等の主として植物から得られるモノオール;等を挙げることができる。
【0026】
生物材料由来の(メタ)アクリレートは、上記の生物材料由来のアルコールと、(メタ)アクリル酸とのエステル化物であり、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、グリセリルモノ(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェネチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0027】
生物材料由来の(メタ)アクリレートは、生物材料から得られたものであることから、石油材料由来の(メタ)アクリレートと区別することができる。さらに、石油材料由来の化合物には炭素同位体の一つである炭素14(14C)が含まれていない一方で、生物材料由来、なかでも植物材料由来の化合物には炭素14(14C)が含まれているので、炭素14(14C)の有無によって生物材料由来の(メタ)アクリレートであるか否かを判断することができる。14Cの測定方法としては、ベータ線計測法及び加速器質量分析(AMS)法等を挙げることができる。特に、環境材料としては、バイオベース濃度試験規格ASTM D6866、ヨーロッパ規格CEN16137、及びISO国際標準規格ISO16620-2等でも規定されている。
【0028】
高分子分散剤として用いるポリマー中の構成単位(ii)の含有量は、50質量%以上である。ポリマー中の構成単位(ii)の含有量が50質量%であることで、環境に配慮した高分子分散剤として用いることができるとともに、このポリマーを高分子分散剤として含有するインクで形成された画像及び印刷物を環境に配慮した印刷物等とすることができる。
【0029】
高分子分散剤として用いるポリマーを構成するモノマーの全炭素数に占める、生物材料由来のアルコール残基の炭素数から、ポリマーのバイオマス度を算出することができる。例えば、エチルアクリレート(全炭素数=5)の場合、生物材料由来のエタノール残基の炭素数は2であることから、バイオマス度は「2÷5×100=40%」である。同様にして算出した好ましい(メタ)アクリレートのバイオマス度は、エチルメタクリレート33.3%、テトラヒドロフルフリルアクリレート62.5%、テトラヒドロフルフリルメタクリレート55.5%、イソボルニルアクリレート76.9%、イソボルニルメタクリレート71.4%、オクチルアクリレート72.7%、オクチルメタクリレート66.6%、ラウリルアクリレート80%、ラウリルメタクリレート75%、ステアリルアクリレート85.7%、ステアリルメタクリレート81.8%となる。
【0030】
高分子分散剤として用いるポリマーは、構成単位(i)及び(ii)以外の構成単位、例えば、石油材料由来に由来するラジカル重合性のモノマー(その他のモノマー)に由来する構成単位を含んでいてもよい。その他のモノマーとしては、スチレン、ビニルトルエン等のビニル系モノマー;(メタ)アクリル酸系モノマー;等を挙げることができる。(メタ)アクリル酸系モノマーとしては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、2-エチルヘキシル、オクチル、デシル、ドデシル、トリデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、イソステアリル、ベヘニル、シクロヘキシル、トリメチルシクロヘキシル、t-ブチルシクロヘキシル、ベンジル、メトキシエチル、ブトキシエチル、フェノキシエチル、ノニルフェノキシエチル、イソボルニル、ジシクロペンタニル、ジシクロペンテニル、ジシクロペンテニロキシエチル、グリシジル、2-ヒドロキシエチル、2-ヒドロキシプロピル、4-ヒドロキシブチル、ジメチルアミノエチル、ジエチルアミノエチル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリイプシロンカプロラクトン、ポリジメチルシロキサン等の置換基を有する単官能(メタ)アクリレートを挙げることができる。なかでも、ポリアルキレングリコール鎖を有するモノマーは、ポリアルキレングリコール鎖が生分解性を有することから、環境対応のモノマーであるために好ましい。高分子分散剤として用いるポリマーは、上記の構成単位(i)及び(ii)のみで実質的に構成されていることが好ましい。
【0031】
高分子分散剤は、その数平均分子量(Mn)が1,000~30,000、好ましくは2,000~25,000、さらに好ましくは3,000~20,000のポリマーである。ポリマーのMnが1,000未満であると、顔料から脱離しやすくなり、顔料の分散安定性が低下する。一方、ポリマーのMnが30,000超であると、顔料分散液の粘度が高くなりすぎるとともに、顔料の粒子同士が吸着しやすくなって凝集することがある。なお、本明細書における数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mn)は、いずれも、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算の値である。
【0032】
高分子分散剤は、その分子量分布(PDI=重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))が2.5以下、好ましくは2.0以下、さらに好ましくは1.5以下のポリマーである。分子量分布(PDI)が2.5超であると、顔料の分散性が低下する。リビングラジカル重合によって、得られるポリマーの分子量をそろえたり、構造を制御したりすることができる。ポリマーの分子量をそろえることで、高分子量のポリマーや低分子量のポリマーが少なく、顔料の分散性に寄与するポリマー鎖が多く含まれることになるので好ましい。
【0033】
高分子分散剤は、(メタ)アクリル酸やイタコン酸等に由来するカルボキシ基の少なくとも一部がアルカリで中和されているポリマーである。カルボキシ基の少なくとも一部が中和されてイオン化しているため、このポリマーは水に親和及び溶解しやすい。
【0034】
アルカリとしては、アンモニア;トリエチルアミン、ジメチルアミノエタノール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アミノメチルプロパノール、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノアミン等の有機アミン;ココナッツアミン、オクチルアミン、ドデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、ジメチルオクチルアミン等の生物材料由来の有機モノアミン;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;等を挙げることができる。
【0035】
なかでも、有機物を含まず揮発性の高いアンモニア;アミノ酸由来のアミノメチルプロパノール;植物等から得られるジメチルアミノエタノール、オクチルアミン、ドデシルアミン;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;が環境対応として好ましい。さらに、アルカリとしては、アンモニア、ジメチルアミノエタノール、2-アミノ-1-プロパノール、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭素数6~22の直鎖脂肪族アミン、炭素数6~22の分岐脂肪族アミン、及び炭素数6~22の不飽和脂肪族アミンが好ましい。
【0036】
高分子分散剤として用いるポリマーは、従来公知の方法で製造することができる。具体的には、顔料分散液に用いる水溶性有機溶媒を用いる溶液重合によって合成することが好ましい。例えば、アゾ系重合開始剤や過酸化物系重合開始剤を使用し、水溶性有機溶媒中にモノマーを滴下しながら、又は一括で仕込んで重合する。重合時には、得られるポリマーの分子量を調整するために、チオール類やブロモメチルアクリル酸エステル等の連鎖移動剤を併用してもよい。また、得られるポリマーの分子量をそろえるために、リビングラジカル重合法で合成してもよい。リビングラジカル重合法としては、原子移動ラジカル重合法;ニトロキサイド等を使用するNMP法;チオエステルやチオカーボネート等を使用する可逆的付加開裂型連鎖移動重合法;有機テルルを開始剤とするTERP法;ヨウ素化合物を開始剤とするヨウ素移動重合法;無機・有機触媒を使用する可逆的移動触媒重合法や可逆的触媒媒介重合法;コバルト触媒等を使用する連鎖移動重合法;等を挙げることができる。
【0037】
高分子分散剤は、下記要件(1)~(4)を満たすポリマーであることが好ましい。
【0038】
[要件(1)]:
メタクリル酸系モノマーに由来する構成単位の含有量が90質量%以上である、ポリマー鎖A1及びポリマー鎖B1を含むA-Bブロックコポリマーである。
[要件(2)]:
ポリマー鎖A1が、
生物材料由来のメタクリレートに由来する構成単位(ii-a)を80質量%以上含み、
数平均分子量が1,000~10,000であり、
分子量分布が1.6以下である水不溶性のポリマーブロックである。
[要件(3)]:
ポリマー鎖B1が、
メタクリル酸に由来する構成単位(i-b)を含み、
生物材料由来のメタクリレートに由来する構成単位(ii-b)を40~90質量%含み、
酸価が50~260mgKOH/gであり、
数平均分子量が1,000~10,000であり、
カルボキシ基の少なくとも一部がアルカリで中和されているポリマーブロックである。
[要件(4)]:
数平均分子量が2,000~20,000であり、分子量分布が1.6以下である。
【0039】
この高分子分散剤は、ポリマー鎖A1(以下、「A1鎖」又は単に「A鎖」とも記す)及びポリマー鎖B1(以下、「B1鎖」又は単に「B鎖」とも記す)を含むA-Bブロックコポリマーである。A1鎖は水不溶のポリマーブロックであり、B1鎖はメタクリル酸に由来するカルボキシ基の少なくとも一部がアルカリで中和されている水溶性のポリマーブロックである。
【0040】
A1鎖は水不溶性のポリマーブロックであることから、疎水性が高く、水不溶性の顔料と疎水性相互作用しやすい。このため、A1鎖は水素結合等によって顔料に吸着又は堆積し、顔料をカプセル化することができる。また、A1鎖は高分子量であることから、顔料からほとんど脱離しない。さらに、A1鎖が顔料に吸着するとともに、B1鎖が水に溶解するので、微分散された顔料同士が立体反発し、長期にわたって微分散状態が維持される。また、液媒体中に遊離又は溶解している高分子分散剤が少ない、又は遊離していてもA1鎖が水不溶性で粒子を形成しているので、水性インクジェットインクの吐出安定性を向上させることができ、高速印刷に適したインクを提供することができる。
【0041】
B1鎖は水溶性のポリマーブロックである。高分子分散剤は顔料に吸着しているので、この高分子分散剤を含有するインクがインクジェットヘッド等で乾燥した場合であっても、高分子分散剤は吸着した顔料から脱離しにくい。このため、顔料が凝集したり、脱離した高分子分散剤が皮膜を形成したりすることがほとんどないので、再溶解性に優れており、水性の液媒体を添加することで分散状態へと容易に戻すことができる。
【0042】
(要件(1))
高分子分散剤は、メタクリル酸系モノマーに由来する構成単位の含有量が90質量%以上である、ポリマー鎖A1及びポリマー鎖B1を含むA-Bブロックコポリマーである。メタクリル酸系モノマーは、メタクリル酸、及びメタクリル酸のエステル化物であるメタクリレートである。A-Bブロックコポリマーは、その構造が的確に制御されたポリマーであり、リビング重合、なかでもリビングラジカル重合によって製造することができる。有機ヨウ化物を開始化合物として用いるとともに、有機化合物を触媒として用いるリビングラジカル重合によってA-Bブロックコポリマーを製造することが、環境に配慮した材料を使用可能であるとともに、ポリマー設計の自由度が高いために好ましい。有機ヨウ化物を用いるリビングラジカル重合の場合、末端成長基であるヨウ素原子は第3級の炭素原子に結合していることが好ましいため、A-Bブロックコポリマーは、メタクリル酸系モノマーに由来する構成単位の含有量が90質量%以上である。また、メタクリル酸系モノマーに由来する構成単位の含有量が多いと、A-Bブロックコポリマーのガラス転移温度が高くなるので、耐熱性等の熱的性質が向上した画像を記録することができる。さらに、メタクリル酸系モノマーは、アクリル酸エステル等のアクリル酸系モノマーに比して耐加水分解性が高いので、水性の液媒体中でも加水分解しにくく、比較的安定である。なかでも、A-Bブロックコポリマーは、メタクリル酸系モノマーに由来する構成単位の含有量が100質量%であることが好ましい。
【0043】
メタクリル酸系モノマーとしては、メタクリル酸及び生物材料由来のメタクリレートを用いることが好ましい。さらに、石油材料由来のメタクリレートを用いてもよい。
【0044】
(要件(2))
ポリマー鎖A1は、生物材料由来のメタクリレートに由来する構成単位(ii-a)を80質量%以上含み、数平均分子量が1,000~10,000であり、分子量分布が1.6以下である水不溶性のポリマーブロックである。すなわち、A1鎖は、顔料に吸着及び堆積し、顔料をカプセル化しうるポリマーブロックである。
【0045】
A1鎖中、生物材料由来のメタクリレートに由来する構成単位(ii-a)の含有量は80質量%以上であり、好ましくは90%以上である。A1鎖中の構成単位(ii-a)の含有量が80質量%未満であると、環境に対する配慮がやや不足する場合がある。また、構成単位(ii-a)の含有量が80質量%以上である限り、石油原料由来のメタクリレートに由来する構成単位を含んでいてもよい。さらに、A1鎖が水不溶性のポリマーブロックである限り、メタクリル酸に由来する構成単位を、例えば0.5~5質量%程度含んでいてもよい。
【0046】
A1鎖は、そのMnが1,000~10,000、好ましくは2,000~8,000のポリマーブロックである。A1鎖の分子量がある程度大きいため、顔料に吸着及び堆積しやすく、顔料をカプセル化することができる。A1鎖のMnが1,000未満であると、水溶性有機溶媒等の液媒体に溶解しやすくなり、顔料から脱離する場合がある。一方、A1鎖のMnが10,000超であると水不溶性になりやすいので、顔料に吸着しにくくなる場合がある。
【0047】
A1鎖は、その分子量分布(PDI)が1.6以下、好ましくは1.5以下の、分子量が比較的そろったポリマーブロックである。A1鎖のPDIが1.6超であると、上記のMnの範囲外のポリマーブロックが多く含まれることとなり、顔料の分散性を高めることがやや困難になる場合がある。
【0048】
(要件(3))
ポリマー鎖B1は、メタクリル酸に由来する構成単位(i-b)を含み、生物材料由来のメタクリレートに由来する構成単位(ii-b)を40~90質量%含み、酸価が50~260mgKOH/gであり、数平均分子量が1,000~10,000であり、カルボキシ基の少なくとも一部がアルカリで中和されているポリマーブロックである。すなわち、B1鎖は、カルボキシ基の少なくとも一部がアルカリで中和され、イオン化することで水に溶解する水溶性のポリマーブロックである。
【0049】
B1鎖は、メタクリル酸に由来するカルボキシ基を有し、その酸価が50~260mgKOH/g、好ましくは60~200mgKOH/g、さらに好ましくは70~150mgKOH/gのポリマーブロックである。酸価がこの範囲内にあることで、カルボキシ基の少なくとも一部を中和して水に溶解させるポリマーブロックとすることができる。B1鎖の酸価が50mgKOH/g未満であると、中和しても水に溶解させることができない場合がある。一方、B1鎖の酸価が260mgKOH/g超であると、親水性が高くなりすぎることがある。このため、記録される画像(乾燥皮膜)の耐水性が低下しやすくなる場合があるとともに、生物材料由来のメタクリレートに由来する構成単位の含有量が相対的に減少するので、環境への対応性が低下することがある。
【0050】
A-Bブロックコポリマーを高分子分散剤として含有するインクが乾燥した場合であっても、B1鎖が水に溶解するので、水性の液媒体を付与することで分散状態へと容易に戻すことができる。なお、水不溶性のA1鎖は顔料に吸着及び堆積しているので、インクが乾燥しても顔料から脱離しにくく、良好な分散状態へと戻すことができる。
【0051】
B1鎖中、生物材料由来のメタクリレートに由来する構成単位(ii-b)の含有量は40~90質量%である。このため、A-Bブロックコポリマーは、環境に配慮された高分子分散剤である。
【0052】
B1鎖は、そのMnが1,000~10,000、好ましくは2,000~8,000、さらに好ましくは3,000~6,000のポリマーブロックである。なお、本明細書における「B鎖の数平均分子量(Mn)」は、「A-Bブロックコポリマー全体の数平均分子量(Mn)から、A鎖の数平均分子量(Mn)を引いた値」である。B1鎖のMnが1,000未満であると、B1鎖の水溶解性がやや不足し、顔料の分散安定性が不十分になることがある。一方、B1鎖のMnが10,000超であると、A1鎖が顔料に吸着していても、ポリマー全体として脱離しやすくなることがあるとともに、水性顔料分散液の粘度が過度に上昇する場合がある。
【0053】
B1鎖は、カルボキシ基の少なくとも一部がアルカリで中和され、イオン化することで水に溶解する水溶性のポリマーブロックである。アルカリとしては、前述のアンモニア、有機アミン、アルカリ金属水酸化物等を用いることができる。カルボキシ基の全部がアルカリで中和されていてもよいし、B1鎖が水に溶解しうる範囲で、カルボキシ基の一部が中和されていてもよい。
【0054】
(要件(4))
A-BブロックコポリマーのMnは2,000~20,000、好ましくは3,000~15,000、さらに好ましくは5,000~12,000である。A-BブロックコポリマーのMnが2,000未満であると、顔料から脱離しやすくなることがある。一方、A-BブロックコポリマーのMnが20,000超であると、重合中に粘度が過度に上昇したり、水性顔料分散液の粘度が過度に上昇したりすることがある。
【0055】
A-Bブロックコポリマーの分子量分布(PDI)は1.6以下であり、好ましくは1.5以下である。A-BブロックコポリマーのPDIが1.6超であると、上記のMnの範囲外のものが多く含まれることになり、顔料の分散性がやや不足することがある。
【0056】
(A-Bブロックコポリマーの製造方法)
高分子分散剤として用いる上記のA-Bブロックコポリマーは、従来公知の方法にしたがって製造することができる。例えば、リビングアニオン重合、リビングカチオン重合、リビングラジカル重合によって製造することができる。なかでも、条件、材料、及び装置等の観点から、リビングラジカル重合によって製造することが好ましい。
【0057】
リビングラジカル重合には、原子移動ラジカル重合(ATRP法)、ニトロキサイドを介したラジカル重合(NMP法)、可逆的付加解裂連鎖移動重合(RAFT法)、有機テルル系リビングラジカル重合(TERP法)、可逆的移動触媒重合(RTCP法)、可逆的触媒媒介重合(RCMP法)等がある。なかでも、有機ヨウ化物を開始化合物として用いるとともに、有機化合物を触媒として用いるRTCP法やRCMP法が、重金属や特殊な化合物を必要とせずにコスト面で有利であるとともに、精製や処理の簡便さの面でも有利である。
【0058】
RTCP法及びRCMP法の場合、末端成長基であるヨウ素原子が第3級の炭素原子に結合しているため、安定化したラジカルが生成しやすく、特定のブロック構造を有するA-Bブロックコポリマーを一般的な設備で精度よく容易に製造することができるために好ましい。このため、A-Bブロックコポリマー中、メタクリル酸系モノマーに由来する構成単位の含有量が90質量%以上であることが好ましい。
【0059】
無溶剤、溶液重合、及び乳化重合等のいずれの重合形式によってA-Bブロックコポリマーを製造してもよい。なかでも、有機溶媒中で溶液重合することが好ましく、水性顔料分散液に配合する水溶性有機溶媒と同一の有機溶媒中で溶液重合することがさらに好ましい。これにより、A-Bブロックコポリマーを取り出すことなく、そのまま水性顔料分散液に用いることができる。上記のRTCP法やRCMP法は、水性顔料分散液に用いる水性有機溶媒中で実施することができる。
【0060】
A1鎖とB1鎖のいずれのポリマーブロックを先に重合してもよい。A1鎖を重合した後にB1鎖を重合することが好ましい。先にB1鎖を重合すると、重合率が100%未満であった場合に、残存したモノマーに由来する構成単位が、後に重合するA1鎖に導入されてしまう場合がある。この場合、B1鎖の構成成分であるメタクリル酸がA1鎖に多く導入されてしまうので、A1鎖が水に溶解しやすくなる可能性がある。
【0061】
(水性顔料分散液)
本発明の水性顔料分散液は、水性インクジェットインク用の顔料分散液として好適である。水性顔料分散液中の顔料の含有量は、5~60質量%であることが好ましい。顔料が有機顔料である場合、水性顔料分散液中の有機顔料の含有量は、5~30質量%であることが好ましく、10~25質量%であることがさらに好ましい。また、顔料が無機顔料である場合、無機顔料は比重が大きいので、水性顔料分散液中の無機顔料の含有量は、20~60質量%であることが好ましく、30~50質量%であることがさらに好ましい。
【0062】
水性顔料分散液中の水の含有量は、20~80質量%であることが好ましい。適当量の水を含有する水性顔料分散液とすることで、水性インクジェットインクを調製することができる。
【0063】
水性顔料分散液中の水溶性有機溶媒の含有量は、30質量%以下であることが好ましく、0.5~20質量%であることがさらに好ましい。水溶性有機溶媒の含有量が30質量%超であると、記録した画像が乾燥しにくくなることがある。
【0064】
水性顔料分散液中の高分子分散剤の含有量は、高分子分散剤の含有量が0.5~20質量%であることが好ましい。高分子分散剤の含有量が0.5質量%未満であると、顔料を安定的に分散させることがやや困難になることがある。一方、高分子分散剤の含有量が20質量%超であると、粘度が高くなりすぎるとともに、非ニュートニアン粘性を示してしまい、インクジェット方式で直線的に吐出することがやや困難になる場合がある。
【0065】
水性顔料分散液中の高分子分散剤の含有量は、顔料の種類、表面性質、及び粒子径等に応じて設定することも好ましい。具体的には、有機顔料100質量部に対して、高分子分散剤5~50質量部とすることが好ましく、10~30質量部とすることがさらに好ましい。また、無機顔料100質量部に対して、高分子分散剤1~20質量部とすることが好ましく、3~10質量部とすることがさらに好ましい。
【0066】
(その他の成分)
水性顔料分散液には、高分子分散剤を中和するため、又はpH調整のため、アルカリをさらに含有させてもよい。アルカリとしては、前述のアルカリを用いることができる。水性顔料分散液中のアルカリの含有量は、0.5~5質量%とすることが好ましい。
【0067】
水性顔料分散液には、界面活性剤を含有させることができる。界面活性剤を含有させることで、インクの表面張力を所定の値に維持することができる。界面活性剤としては、シリコーン系、アセチレングリコール系、フッ素系、アルキレンオキサイド系、及び炭化水素系の界面活性剤等を挙げることができる。界面活性剤には、天然物や生物材料由来の材料が用いられていることが好ましい。例えば、パーム油やココナッツ油等の脂肪酸や脂肪族アルコールを用いたポリアルキレングリコールエステル及びエーテル系の界面活性剤等が環境面で好ましい。界面活性剤は、一般的には、インクが発泡する原因となったり、フィルム表面でインクが弾かれる原因となったりすることがある。また、界面活性剤を添加することで顔料が凝集しやすくなることがあるので、界面活性剤の添加量を適切に制御することが好ましい。
【0068】
水性顔料分散液には、防腐剤を含有させることができる。防腐剤としては、安息香酸ナトリウム、ベンズイミダゾール、チアベンダゾール、ソルビタン酸カリウム、ソルビタン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、チアゾスルファミド、及びピリジンチオールオキシド等を挙げることができる。インク中の防腐剤の含有量は、インク全量を基準として、0.05~2.0質量%であることが好ましく、0.1~1.0質量%であることがさらに好ましい。
【0069】
水性顔料分散液には、必要に応じて、前述の水溶性有機溶媒以外の有機溶媒、レベリング剤、表面張力調整剤、pH調整剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、染料、フィラー、ワックス、増粘剤、消泡剤、防カビ剤、帯電防止剤、金属微粒子、磁性粉等の添加剤を含有させることができる。
【0070】
(水性顔料分散液の物性)
水性顔料分散液の粘度は、顔料の性質や、調製しようとする水性インクジェットインクの粘度等に応じて適宜設定することができる。有機顔料を用いた場合には、水性顔料分散液の25℃における粘度は3~20mPa・sであることが好ましい。無機顔料を用いた場合には、水性顔料分散液の25℃における粘度は5~30mPa・sであることが好ましい。
【0071】
水性顔料分散液の25℃における表面張力は、15~45mN/mであることが好ましく、20~40mN/mであることがさらに好ましい。水性顔料分散液の表面張力は、例えば、水溶性有機溶媒の種類及び量によって、又は界面活性剤等を添加すること等にとって調整することができる。
【0072】
(水性顔料分散液の調製方法)
水性顔料分散液は、従来公知の方法にしたがって調製することができる。例えば、水、及び必要に応じて水溶性有機溶媒を添加して、顔料及び高分子分散剤等の混合物を調製する。そして、ペイントシェイカー、ボールミル、アトライター、サンドミル、横型メディアミル、コロイドミル、ロールミル等を使用し、顔料を微分散させて分散液を調製する。調製した分散液に、水及び水溶性有機溶媒を添加するとともに、必要に応じて、バインダー成分(エマルジョン)、その他の添加剤等を添加して所望の濃度に調整する。さらに、アルカリ等を添加してpHを調整してもよい。さらに、界面活性剤や防腐剤等の各種添加剤を必要に応じて添加することで、目的とする水性顔料分散液を得ることができる。なお、各成分の混合及び分散後には、遠心分離機やフィルターを用いて粗大粒子を除去することが好ましい。
【0073】
顔料の数平均粒子径(粒度分布)を所望の範囲とするには、例えば、用いる粉砕メディアのサイズを小さくする;粉砕メディアの充填率を大きくする;処理時間を長くする;吐出速度を遅くする;粉砕後フィルターや遠心分離機等で分級する;等の手法が採用される。また、ソルトミリング法等の従来公知の方法によって事前に微細化した顔料を用いることも好ましい。
【0074】
<水性インクジェットインク>
本発明の水性インクジェットインクは、前述の水性顔料分散液を含有するインクである。前述の水性顔料分散液を用いること以外は、従来公知の方法にしたがって本発明のインクとすることができる。
【0075】
インクは、通常、水及び水溶性有機溶媒を含む液媒体を含有する。インク中の水溶性有機溶媒の含有量は、5~30質量%とすることが好ましい。また、インクには、通常の水性インクジェットインクに用いられる各種の添加剤を含有させることができる。添加剤としては、界面活性剤、有機溶媒、保湿剤、顔料誘導体、染料、レベリング剤、消泡剤、紫外線吸収剤、エマルジョン等のバインダー成分、防腐剤、抗菌剤、ワックス等を挙げることができる。界面活性剤としては、ポリエチレングリコールアルキルエーテルやアセチレン系活性剤等のエーテル系のノニオン性界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤等を用いることができる。インク中の界面活性剤の含有量は、0.1~2質量%とすることが好ましい。
【0076】
インク中の顔料の含有量は、有機顔料の場合は1~5質量%であることが好ましく、無機顔料の場合は1~10質量%であることが好ましい。インク中の高分子分散剤の含有量は、0.1~5質量%であることが好ましい。
【0077】
インクは、顔料の種類等に応じて、記録ヘッドのノズルからインクジェット方式によって吐出しうる適度な粘度に調整される。例えば、有機顔料を用いた場合のインクの粘度は、2~10mPa・sであることが好ましい。無機顔料を用いた場合のインクの粘度は、5~30mPa・sであることが好ましい。
【0078】
インクのpHは7.0~10.0であることが好ましく、7.5~9.5であることがさらに好ましい。インクのpHが7.0未満であると、分散剤が析出しやすくなるとともに、顔料が凝集しやすくなることがある。一方、インクのpHが10.0超であると、アルカリ性が強くなるので、取り扱いにくくなる場合がある。
【0079】
インクの表面張力は、インクジェットプリンタの性能等に応じて適宜設定される。例えば、インクの表面張力は15~45mN/mであることが好ましく、20~40mN/mであることがさらに好ましい。
【0080】
(バインダー成分)
上述のインクは、例えば、普通紙、写真印画紙、フォト光沢紙、マット紙等の紙類に印刷して画像を記録するインクとして有用である。但し、プラスチックフィルム、プラスチック成形品、繊維、布地、金属、セラミックス等に印刷して画像を記録する場合には、膜を形成する成分であるバインダー成分をインクにさらに含有させることが好ましい。バインダー成分を含有するインクで印刷することで、バインダー成分が皮膜を形成し、得られる画像(乾燥皮膜)の密着性、耐乾摩擦性、耐湿摩擦性、耐ブロッキング性、耐薬品性、耐溶剤性、耐傷性等を向上させることができる。なお、インク中のバインダー成分の含有量は、1~10質量%とすることが好ましい。
【0081】
バインダー成分としては、種々のポリマーを用いることができる。ポリマーとしては、アクリル系ポリマー、スチレンアクリル系ポリマー、ウレタン系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、ポリオレフィン系ポリマー等を挙げることができる。これらのポリマーは、水溶液、水分散体、及びエマルジョンの形態で用いることができる。
【0082】
アクリル系ポリマー及びスチレンアクリル系ポリマーとしては、界面活性剤の存在下、スチレンやメタクリレート等のアクリル酸系モノマーを重合して得られる、分散粒子径(数平均粒子径)50~200nmのエマルジョンを用いることができる。これらのポリマーは、水不溶性のA鎖及び水溶性のB鎖を有するA-BブロックコポリマーやA-B-Aブロックコポリマーであることが好ましい。
【0083】
ウレタン系ポリマーとしては、ジイソシアネート、ポリオール、短鎖ジオール、及びジオールモノカルボン酸等を反応させるとともに、必要に応じてヒドラジンやイソホロンジアミン等を反応させて鎖延長させた後、アルカリ水を用いて自己乳化させて得られる、分散粒子径(数平均粒子径)50~200nmの水分散体を用いることができる。ジイソシアネートとしては、イソホロンジイソシアネートやヘキサメチレンジイソシアネートの他、天然材料由来のリジンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート等が好ましい。ポリオールとしては、ポリカーボネートジオールの他、天然材料であるひまし油ポリオール等が好ましい。短鎖ジオールとしては、ジエチレングリコールの他、天然材料由来のエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、イソソルバイド等が好ましい。ジオールモノカルボン酸としては、ジメチロールプロパン酸等が好ましい。
【0084】
ポリエステル系ポリマーとしては、アジピン酸やフタル酸等の二塩基酸と、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール等のジオールと、ジメチルイソフタル酸スルホン酸ナトリウム等のスルホン酸基を有するモノマーと、を脱水又は脱アルコールさせてポリエステルとした後、強制撹拌しながら水を添加して得られる水分散体を用いることができる。
【0085】
ポリオレフィン系ポリマーとしては、ポリエチレンやポリプロピレンのアクリル酸共重合体や、マレイン酸グラフト物等を有機溶剤に溶解した後、強制撹拌しながらアルカリ水溶液を添加して水分散体とし、さらに脱有機溶剤処理して得られる水分散体を用いることができる。
【0086】
バインダー成分は、下記要件(5)~(9)を満たすポリマーであることが好ましい。
【0087】
[要件(5)]:
メタクリル酸系モノマーに由来する構成単位の含有量が90質量%以上である、ポリマー鎖A2及びポリマー鎖B2を含むA-Bブロックコポリマーである。
[要件(6)]:
前記ポリマー鎖A2が、
生物材料由来のメタクリレートに由来する構成単位を80質量%以上含み、
数平均分子量が10,000~30,000であり、
分子量分布が1.6以下である水不溶性のポリマーブロックである。
[要件(7)]:
前記ポリマー鎖B2が、
メタクリル酸に由来する構成単位を含み、
生物材料由来のメタクリレートに由来する構成単位を40~90質量%含み、
酸価が50~150mgKOH/gであり、
数平均分子量が5,000~20,000であり、
カルボキシ基の少なくとも一部がアルカリで中和されているポリマーブロックである。
[要件(8)]:
数平均分子量が15,000~50,000であり、分子量分布が1.6以下である。
[要件(9)]:
その数平均粒子径が10~200nmの粒子である。
【0088】
上記要件(5)~(9)を満たすポリマーは、高分子分散剤として用いられる前述のA-Bブロックコポリマーと類似した構造を有する。すなわち、生物材料由来のモノマーを用いて得られるA-Bブロックコポリマーであるために環境に配慮されているとともに、このポリマーをバインダー成分として用いることで、密着性、耐摩擦性、及び耐ブロッキング性に優れた画像(乾燥皮膜)を形成することができる。
【0089】
[要件(5)]
バインダー成分は、メタクリル酸系モノマーに由来する構成単位の含有量が90質量%以上である、ポリマー鎖A2及びポリマー鎖B2を含むA-Bブロックコポリマーである。メタクリル酸系モノマーは、メタクリル酸、及びメタクリル酸のエステル化物であるメタクリレートである。A-Bブロックコポリマーは、その構造が的確に制御されたポリマーであり、リビング重合、なかでもリビングラジカル重合によって製造することができる。有機ヨウ化物を開始化合物として用いるとともに、有機化合物を触媒として用いるリビングラジカル重合によってA-Bブロックコポリマーを製造することが、環境に配慮した材料を使用可能であるとともに、ポリマー設計の自由度が高いために好ましい。有機ヨウ化物を用いるリビングラジカル重合の場合、末端成長基であるヨウ素原子は第3級の炭素原子に結合していることが好ましいため、A-Bブロックコポリマーは、メタクリル酸系モノマーに由来する構成単位の含有量が90質量%以上である。また、メタクリル酸系モノマーに由来する構成単位の含有量が多いと、A-Bブロックコポリマーのガラス転移温度が高くなるので、耐熱性等の熱的性質が向上した画像を記録することができる。さらに、メタクリル酸系モノマーは、アクリル酸エステル等のアクリル酸系モノマーに比して耐加水分解性が高いので、水性の液媒体中でも加水分解しにくく、比較的安定である。なかでも、A-Bブロックコポリマーは、メタクリル酸系モノマーに由来する構成単位の含有量が100質量%であることが好ましい。
【0090】
メタクリル酸系モノマーとしては、メタクリル酸及び生物材料由来のメタクリレートを用いることが好ましい。さらに、石油材料由来のメタクリレートを用いてもよい。
【0091】
[要件(6)]
ポリマー鎖A2は、生物材料由来のメタクリレートに由来する構成単位を80質量%以上含み、数平均分子量が10,000~30,000であり、分子量分布が1.6以下である水不溶性のポリマーブロックである。このA2鎖は、印刷基材に対する密着性及び耐擦過性等の効果を発揮するポリマーブロックである。A2鎖中、生物材料由来のメタクリレートに由来する構成単位の含有量は80質量%以上であり、好ましくは90%以上である。A2鎖中の上記構成単位の含有量が80質量%未満であると、環境に対する配慮がやや不足する場合がある。また、上記構成単位の含有量が80質量%以上である限り、石油原料由来のメタクリレートに由来する構成単位を含んでいてもよい。さらに、A2鎖が水不溶性のポリマーブロックである限り、メタクリル酸に由来する構成単位を、例えば0.5~5質量%程度含んでいてもよい。
【0092】
A2鎖は、そのMnが10,000~30,000、好ましくは11,000~25,000のポリマーブロックである。A2鎖の分子量が十分に大きいため、印刷基材に対する密着性に優れているとともに、耐擦過性に優れた画像(乾燥皮膜)を形成することができる。A2鎖のMnが10,000未満であると、画像の密着性がやや低下する場合がある。一方、A2鎖のMnが30,000超であると重合率が低下することがあるとともに、分子量分布が広くなる傾向にある。
【0093】
A2鎖は、その分子量分布(PDI)が1.6以下、好ましくは1.5以下、さらに好ましくは1.4以下の、分子量が比較的そろったポリマーブロックである。A2鎖のPDIが1.6超であると、上記のMnの範囲外のポリマーブロックが多く含まれることとなる。
【0094】
[要件(7)]
ポリマー鎖B2は、メタクリル酸に由来する構成単位を含み、生物材料由来のメタクリレートに由来する構成単位を40~90質量%含み、酸価が50~150mgKOH/gであり、数平均分子量が5,000~20,000であり、カルボキシ基の少なくとも一部がアルカリで中和されているポリマーブロックである。すなわち、B2鎖は、カルボキシ基の少なくとも一部がアルカリで中和され、イオン化することで水に溶解する水溶性のポリマーブロックである。
【0095】
B2鎖は、メタクリル酸に由来するカルボキシ基を有し、その酸価が50~150mgKOH/g、好ましくは60~130mgKOH/gのポリマーブロックである。B2鎖の酸価が50mgKOH/g未満であると、B2鎖が水溶解しにくくなることがあり、粒子の安定性が損われる場合がある。また、インクの再溶解性が不十分になる場合がある。一方、B2鎖の酸価が150mgKOH/g超であると、インクの粘度が過度に高くなる場合があるとともに、画像の耐水性等がやや不十分になることがある。
【0096】
B2鎖中、生物材料由来のメタクリレートに由来する構成単位の含有量は40~90質量%であり、好ましくは50~90質量%、さらに好ましくは60~85質量%である。このため、A-Bブロックコポリマーは、環境に配慮されたバインダー成分である。
【0097】
B2鎖は、そのMnが5,000~20,000、好ましくは6,000~10,000のポリマーブロックである。十分にこのバインダーを水に安定に粒子化させること、及び、このB鎖は分子量が高いことで、A鎖と合わせてバインダー成分の被膜として働き、印画物の耐久性向上に寄与する。B2鎖のMnが5,000未満であると、水性の液媒体中における粒子の安定性がやや不足することがある。一方、B2鎖のMnが20,000超であると、インクの粘度が過度に上昇したり、画像の耐水性がやや低下したりすることがある。
【0098】
B2鎖は、カルボキシ基の少なくとも一部がアルカリで中和され、イオン化することで水に溶解する水溶性のポリマーブロックである。アルカリとしては、前述のアンモニア、有機アミン、アルカリ金属水酸化物等を用いることができる。カルボキシ基の全部がアルカリで中和されていてもよいし、B2鎖が水に溶解しうる範囲で、カルボキシ基の一部が中和されていてもよい。具体的には、pH安定性等の観点から、90mol%以上のカルボキシ基が中和されていることが好ましい。
【0099】
[要件(8)]
A-BブロックコポリマーのMnは15,000~50,000、好ましくは16,000~30,000である。A-BブロックコポリマーのMnが15,000未満であると、形成される画像(乾燥皮膜)の耐久性がやや劣ることがある。一方、A-BブロックコポリマーのMnが50,000超であると、インクの粘度が過度に上昇したり、上記の分子量の範囲外のポリマーが多く含まれたりすることがある。
【0100】
A-Bブロックコポリマーの分子量分布(PDI)は1.6以下であり、好ましくは1.5以下である。A-BブロックコポリマーのPDIが1.6超であると、上記のMnの範囲外のものが多く含まれる傾向にある。
【0101】
[要件(9)]
A-Bブロックコポリマーは、その数平均粒子径が10~200nm、好ましくは50~150nmの粒子(バインダー粒子)である。本明細書におけるポリマー等の粒子の数平均粒子径は、動的光散乱法により測定される値である。A-Bブロックコポリマーと水を混合すると、A2鎖が粒子を形成するとともに、B2鎖が水に溶解してバインダー粒子が形成されるため、ミセル、水分散体、又はエマルジョンが形成される。粒子が形成されずに溶解すると、インクの粘度が過度に上昇することがある。これに対して、このA-Bブロックコポリマーは粒子を形成するので、インクの粘度を過度に上昇させることがない。A-Bブロックコポリマーにより形成されるバインダー粒子の数平均粒子径が10nm未満であると、溶解している状態とほぼ同等であることから、インクの粘度が上昇しやすくなる。一方、バインダー粒子の数平均粒子径が200nm超であると、インクジェットヘッドのノズルからの吐出性がやや低下する場合がある。
【0102】
生物材料由来のメタクリレートとしては、エチルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、オクチルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、及びオクタデシルメタクリレートを用いることが好ましい。バインダー成分は、例えば、ABCのトリブロック構造、ABCBテトラブロック構造、及びグラジエント構造等であってもよい。ABCトリブロック構造の場合、A鎖が不溶性、B鎖が水可溶性、及びC鎖が水可溶性のA-(BC)ブロック構造等であればよい。さらに、ABAブロック構造としてもよい。
【0103】
バインダー成分として用いる上記のA-Bブロックコポリマーは、従来公知の方法にしたがって製造することができる。例えば、リビングアニオン重合、リビングカチオン重合、リビングラジカル重合によって製造することができる。なかでも、条件、材料、及び装置等の観点から、リビングラジカル重合によって製造することが好ましい。特に、有機ヨウ化物を開始化合物として用いるとともに、有機化合物を触媒として用いるRTCP法やRCMP法が、重金属や特殊な化合物を必要とせずにコスト面で有利であるとともに、精製や処理の簡便さの面でも有利である。また、インクに配合する水溶性有機溶媒中で重合する溶液重合が好ましい。溶液重合した後、アルカリを添加することで、粒子状のバインダー成分とすることができる。
【0104】
<乾燥皮膜>
上述の水性インクジェットインクは、サーマルヘッドやピエゾヘッド等の記録ヘッドを備えるインクジェットプリンタに適用することが可能であり、インクジェット記録法によって種々の印刷基材に画像を記録する(印刷)することができる。具体的には、紙、印画紙、写真光沢紙、ポリオレフィンやポリエチレンテレフタレート等のプラスチックフィルム、繊維、布地、セラミックス、金属、成形物等の印刷基材に画像を記録することができる。そして、記録される画像は、高彩度、高発色性、密着性、及び耐摩擦性等の耐久性に優れた、いわゆる乾燥皮膜である。すなわち、本発明の水性インクジェットインクを用いることで、生物材料由来の(メタ)アクリレートに由来する成分を含む、環境に優しく、カーボンニュートラルな皮膜状乾燥物である乾燥皮膜を製造することができる。
【実施例】
【0105】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。成分量に関して「部」及び「%」と記載しているものは特に断らない限り質量基準である。
【0106】
<高分子分散剤の製造>
(実施合成例1)
撹拌装置、温度計、還流管、滴下装置、及び窒素導入管を取り付けた反応容器に、窒素をバブリングしながらジエチレングリコール(BDG)300部を入れ、70℃に加温した。別容器に、イソボルニルメタクリレート(IBXMA)30部、テトラヒドロフルフリルメタクリレート(THFMA)120部、ラウリルメタクリレート(LMA)60部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)60部、メタクリル酸(MAA)30部、及び2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(商品名「V-65」、富士フイルム社製、V-65)2部を入れて混合し、均一化してモノマー混合液を調製した。イソボルニルメタクリレートとしては、松脂や松精油から得られるα-ピネンを異性化した後、カンフェン及びメタクリル酸を反応して得られたメタクリレート(バイオマス度71.4%)を用いた。テトラヒドロフルフリルメタクリレートとしては、トウモロコシの芯等から得られるフルフラールを水素化して得たテトラヒドロフルフリルアルコールと、メタクリル酸とのエステル化物(バイオマス度55.5%)を用いた。ラウリルメタクリレートとしては、パーム核油やヤシ油等の油脂を加水分解して得た脂肪酸の分留物であるラウリン酸を水素還元して得たラウリルアルコールと、メタクリル酸とのエステル化物(バイオマス度75.0%)を用いた。調製したモノマー混合液の1/3を反応容器内に滴下した後、モノマー混合液の残部を2時間かけてさらに滴下し、70℃で8時間重合してポリマーを合成し、ポリマーを含有する液体を得た。液体の一部をサンプリングし、テトラヒドロフランを展開溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にてポリマーの分子量を測定した。その結果、ポリマーの数平均分子量(Mn)は19,800であり、分子量分布(PDI=重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は2.01であり、重合率は約100%であった。重合率は、得られた液体の一部をアルミ皿に測りとり、150℃の送風乾燥機にて3時間乾燥させ、得られた残分から算出した。
【0107】
得られた液体の一部をサンプリングし、トルエン/エタノール(=1/1(体積比))混合溶媒を加えて均一化した。1%フェノールフタレイン/エタノール溶液を数滴加え、0.1規定の水酸化カリウムエタノール溶液で滴定して、ポリマーの酸価を測定した。その結果、ポリマーの酸価は64.9mgKOH/gであった。ポリマーを含有する溶液に、水酸化ナトリウム13.9部及び水136.1部の混合液を添加して中和し、分散剤D-1の水溶液(粘稠な淡黄色透明液体)を得た。得られた水溶液の固形分は42.1%であり、pHは10.1であった。
【0108】
得られた分散剤D-1(ポリマー)中、生物材料由来のメタクリレートに由来する構成単位の含有量は70%である。また、以下に示す式から、得られたポリマーのバイオマス度を算出した。
ポリマーのバイオマス度=(ポリマー100部中の各モノマーモル数×各モノマーの炭素数×各モノマーのバイオマス度の合計)÷(ポリマー100部中の各モノマーモル数×各モノマーの炭素数の合計)
【0109】
分散剤D-1の場合、バイオマス度は、(0.045×14×71.4%(IBXMA)+0.235×9×55.5%(THFMA)+0.078×16×75.0%(LMA)+0.154×6×0%(HEMA)+0.116×4×0(MAA))÷(0.045×14(IBXMA)+0.235×9(THFMA)+0.078×16(LMA)+0.154×6(HEMA)+0.116×4(MAA))=2.56÷5.38=「47.5%」と算出することができる。開始剤は、その残基のすべてがポリマーに導入されるわけではないので、バイオマス度の算出に用いないものとする。
【0110】
ポリマー1,000gには、炭素53.9molが含まれている。ポリマー1,000g中の炭素の量(mol)は、ポリマーを構成するモノマーの各質量部、モノマーの分子量及び炭素数から算出することができる。ポリマーのバイオマス度が47.5%であることから、ポリマー1,000gには生物材料由来の炭素25.6molが含まれている。このポリマー1,000gが燃焼すると二酸化炭素1,126gが放出されることから、このポリマーの吸収二酸化炭素は「1,126(g/1,000g)」である。このポリマー1,000gを用いて塗膜(乾燥皮膜)を形成した場合、二酸化炭素1,126gが貯蔵されることとなり、二酸化炭素の環境低減に寄与することとなる。
【0111】
(実施合成例2~4、比較合成例1~3)
表1及び2に示す種類及び量(単位:部)の各種材料を用いたこと以外は、前述の実施合成例1と同様にして、分散剤D-2~4、分散剤R-1~3の水溶液を得た。得られた分散剤の物性等を表1及び2に示す。また、表1及び2中の略号の意味を以下に示す。
・MPG:プロピレングリコールモノメチルエーテル
・StMA:ステアリルメタクリレート(パーム核油やヤシ油等の油脂を加水分解して得られる脂肪酸の分留物であるオレイン酸を水素還元して得たステアリルアルコールと、メタクリル酸とのエステル化物(バイオマス度81.8%))
・OA:オクチルアクリレート(パーム核油やヤシ油等の油脂を加水分解して得られる脂肪酸の分留物であるカプリル酸を水素還元して得たオクタノールと、アクリル酸とのエステル化物(バイオマス度72.7%))
・EMA:エチルメタクリレート(デンプンや糖を分解して得られるエタノールと、メタクリレートとのエステル化物(バイオマス度33.3%))
・イタコン酸:でんぷん等を発酵して得られるカルボキシ基を有するモノマー(バイオマス度100%)
・St:スチレン(石油由来材料)
・MMA:メチルメタクリレート(石油由来材料)
・BA:ブチルアクリレート(石油由来材料)
・2-EHMA:2-エチルヘキシルメタクリレート(石油由来材料)
・AIBN:2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)
【0112】
また、表1及び2中の「環境対応」の評価基準を以下に示す。
○:バイオマス度が40%以上、かつ、吸収二酸化炭素が1,000g/1,000g以上である。
×:バイオマス度が40%未満、又は、吸収二酸化炭素が1,000g/1,000g未満である。
【0113】
【0114】
【0115】
(実施合成例5)
撹拌装置、温度計、還流管、滴下装置、及び窒素導入管を取り付けた反応容器に、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル119.0部、プロピレングリコールモノプロピルエーテル59.5部、ヨウ素1.0部、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)(商品名「V-70」、富士フイルム社製、V-70)3.6部、THFMA57.1部、IBXMA24.0部、EMA16.4部、MAA21.5部、及びN-アイオドスクシンイミド(NIS)0.02部を入れた。窒素を流しながら42℃に加温し、8時間重合してポリマーを形成した。一部をサンプリングして測定した重合率は約100%であった。形成されたポリマーのMnは8,900であり、PDIは1.49であり、酸価は117.7mgKOH/gであった。
【0116】
水酸化ナトリウム10部及び水109部の混合液を添加して中和し、分散液D-5の水溶液(淡黄色透明の低粘度液体)を得た。得られた水溶液の固形分は25.3%であり、pHは10.2であった。このポリマーは、ヨウ素を開始基とし、ヨウ素を引き抜いてラジカルを生成する有機化合物を触媒とするリビングラジカル重合(可逆的移動触媒重合、RTCP法)によって形成したポリマーであり、分子量が比較的そろっている。得られた分散剤D-5(ポリマー)中、生物材料由来のメタクリレートに由来する構成単位の含有量は81.9%であった。また、分散剤D-5(ポリマー)のバイオマス度は45.6%であり、吸収二酸化炭素は1,124g/1,000gであった。
【0117】
(実施合成例6)
撹拌装置、温度計、還流管、滴下装置、及び窒素導入管を取り付けた反応容器に、BDG283.1部、THFMA119.2部、ヨウ素2.0部、V-70 3.6部、及びNIS0.1部を入れた。窒素をバブリングしながら45℃に加温し、4時間重合してA鎖(ポリマー)を形成した。一部をサンプリングして測定したMnは5,100であり、PDIは1.21であり、重合率は約100%であった。THFMA119部及びMAA30.2部の混合物を添加し、45℃で4時間重合してB鎖を形成し、A-Bブロックコポリマーを得た。A-BブロックコポリマーのMnは10,700であり、PDIは1.31であり、酸価は73.0mgKOH/gであり、重合率は約100%であった。また、B鎖のMn(全体のMn-A鎖のMn)は5,600であり、重合率を考慮した配合値から算出した酸価は132mgKOH/gであった。重合溶液を室温まで冷却した後、28%アンモニア水23.4部及び水118.5部の混合液を添加して中和し、分散剤D-6の水溶液(淡褐色透明な液体)を得た。得られた水溶液の固形分は41.1%であり、pHは9.2であった。得られた分散剤D-6(ポリマー)中、生物材料由来のメタクリレートに由来する構成単位の含有量は88.7%であった。また、分散剤D-5(ポリマー)のバイオマス度は49.9%であり、吸収二酸化炭素は1,145g/1,000gであった。
【0118】
(実施合成例7~13)
表3に示す種類及び量(単位:部)の各種材料を用いたこと以外は、前述の実施合成例6と同様にして、分散剤D-7~13の水溶液を得た。得られた分散剤の物性等を表3に示す。また、表3中、「DMEA」はジメチルアミノエタノールである。
【0119】
【0120】
<顔料分散液の調製>
(実施例1)
分散剤D-1の水溶液89.1部及びイオン交換水337.8部を混合して透明の液体を得た。得られた溶液に銅フタロシアニン顔料PB-15:3(商品名「シアニンブルーA220JC」、大日精化工業社製)150部を添加し、ディスパーを使用して30分撹拌してミルベースを調製した。横型媒体分散機(商品名「ダイノミル0.6リットルECM型」、シンマルエンタープライゼス社製、ジルコニア製ビーズの径:0.5mm)を使用し、周速10m/sで分散処理してミルベース中に顔料を十分に分散させた。水256.4部を添加して顔料濃度が18%となるように調整した。ミルベースを遠心分離処理(7,500回転、20分間)した後、ポアサイズ5μmのメンブレンフィルターでろ過した。水で希釈して、顔料濃度14%であるインクジェット用の顔料分散液-1(シアン色)を得た。
【0121】
粒度測定器(商品名「NICOMP 380ZLS-S」、インターナショナル・ビジネス社製)を使用して測定した顔料分散液-1中の顔料の数平均粒子径は138.5nmであり、顔料が微分散されていることを確認した。また、顔料分散液-1の粘度は3.70mPa・sであり、pHは9.4であった。顔料分散液-1の粘度は、E型粘度計を使用し、60回転の条件で測定した25℃における値である。70℃で1週間保存後の顔料分散液-1中の顔料の数平均粒子径は138.5nmであり、粘度は3.66mPa・sであった。これにより、顔料分散液-1の保存安定性が非常に良好であることを確認した。
【0122】
(実施例2~13、比較例1~3)
表4に示す種類の分散剤を用いたこと以外は、前述の実施例1と同様にして、顔料分散液-2~13、顔料分散液-1H~3Hを調製した。各顔料分散液の特性(分散直後及び70℃で1週間保存後の顔料の数平均粒子径及び粘度)を表4に示す。
【0123】
また、表4中の「評価」の基準を以下に示す。
○:顔料が微分散されており、70℃で1週間保存しても顔料の数平均粒子径及び粘度が大きく変化しなかった。
△:顔料が微分散されているが、粘度が4mPa・sより高かった。また、70℃で1週間保存しても顔料の数平均粒子径及び粘度はほとんど変化しなかった。
×:顔料が微分散されているが、70℃で1週間保存すると顔料の数平均粒子径が増大した、又は粘度が増大した。
【0124】
【0125】
(実施例14~16)
銅フタロシアニン顔料PB-15:3に代えて、アゾ系黄色顔料PY-155(商品名「VERSAL YELLOW 4GNY」、クラリアントジャパン社製)、キナクリドン顔料PR-122(商品名「CFR130P」、大日精化工業社製)、及びカーボンブラック顔料PB―7(商品名「S170」、デグザ社製)をそれぞれ用いたこと以外は、前述の実施例10と同様にして、顔料分散液-14~16を得た。各顔料分散液の特性(分散直後及び70℃で1週間保存後の顔料の数平均粒子径及び粘度)を表5に示す。
【0126】
【0127】
(実施例17)
水401.2部及び分散剤D-5の水溶液98.8部を混合し、均一化して液体を得た。得られた液体にC.I.ピグメントホワイト6(商品名「JR-404」、石原産業業社製)500部を添加した。ディゾルバーを使用して十分撹拌混合して、顔料及び分散剤を含有する混合物を得た。横型媒体分散機を使用して顔料を混合物中に十分に分散させた後、ポアサイズ10μmのメンブレンフィルターでろ過して粗粒を除去し、顔料濃度50%であるインクジェット用の顔料分散液-17(ホワイト色)を得た。顔料分散液-17中の顔料の数平均粒子径は263.7nmであり、粘度は12.6mPa・sであった。70℃で1週間保存後の顔料分散液-17中の顔料の数平均粒子径は226.4nmであり、粘度は12.8mPa・sであった。
【0128】
<インク(1)の調製>
(実施例18~27、比較例4~6)
表6に示す種類の顔料分散液28.7部、BDG1.5部、2-ピロリドン5部、グリセリン20.0部、界面活性剤(商品名「サーフィノール465」、エアープロダクト社製)1部、及び水44.8部を混合し、十分撹拌した後、ポアサイズ10μmのメンブランフィルターでろ過して、インクジェット用のインクを調製した。各インクの特性(調製直後及び70℃で1週間保存後の顔料の数平均粒子径及び粘度)を表6に示す。また、表6中の「評価」の基準を以下に示す。
○:70℃で1週間保存しても顔料の数平均粒子径及び粘度が大きく変化しなかった。
△:70℃1週間保存しても顔料の数平均粒子径は大きく変化しなかったが、粘度が増大した。
×:顔料が微分散されているが、70℃で1週間保存すると顔料の数平均粒子径が増大した、又は粘度が増大した。
【0129】
【0130】
<インク(1)の評価>
(実施応用例1~4)
実施例23及び25~27で得たインクをカートリッジにそれぞれ充填し、インクジェットプリンタ(商品名「EM930C」、セイコーエプソン社製)に装着した。(i)専用写真用光沢紙(PGPP)、及び(ii)普通紙(商品名「4024」、ゼロックス社製)に、「フォト720dpi」の印刷モードでベタ画像を印刷して印刷物を得た。いずれのインクも、インクジェット方式のノズルから問題なく吐出可能であることを確認した。
【0131】
光学濃度計(商品名「マクベスRD-914」、マクベス社製)を使用し、PGPPに記録した画像の彩度(C*)、光学濃度(OD値)、及び20°グロス、並びに普通紙に記録した画像の光学濃度(OD値)を測定した。結果を表7に示す。なお、各特性値はそれぞれ5回測定し、いずれも平均値を算出した。また、PGPPに記録した画像の表面を指で擦って、画像の耐擦過性を評価した。結果を表7に示す。
【0132】
【0133】
他の実施例で得たインクについても上記と同様の試験を実施し、問題なくノズルから吐出可能であること、並びに高発色性及び耐擦過性の画像を記録可能であることを確認した。
【0134】
<バインダー成分の調製>
(実施合成例14)
撹拌装置、温度計、還流管、滴下装置、及び窒素導入管を取り付けた反応容器に、BDG360.2部、THFMA124.3部、IBXMA50.5部、ヨウ素1.5部、V-70 5.5部、及びNIS0.3部を入れた。窒素をバブリングしながら45℃に加温し、4時間重合してA鎖(ポリマー)を形成した。一部をサンプリングして測定したMnは10,200であり、PDIは1.29であり、重合率は約100%であった。THFMA86.8部及びMAA22.6部の混合物を添加し、45℃で4時間重合してB鎖を形成し、A-Bブロックコポリマーを得た。A-BブロックコポリマーのMnは16,000であり、PDIは1.38であり、酸価は51.5mgKOH/gであり、重合率は約100%であった。また、B鎖のMn(全体のMn-A鎖のMn)は5,800であり、重合率を考慮した配合値から算出した酸価は116.4mgKOH/gであった。重合溶液を室温まで冷却した後、28%アンモニア水17.5部及び水310部の混合液を添加して中和し、バインダーB-1を含有する液体(褐色透明の液体)を得た。得られた液体の固形分は30.8%であり、pHは8.5であった。得られたバインダーB-1(ポリマー)中、生物材料由来のメタクリレートに由来する構成単位の含有量は92.1%であった。また、バインダーB-1(ポリマー)のバイオマス度は55.1%であり、吸収二酸化炭素は1,313g/1,000gであった。バインダーB-1を含有する液体を純水で10倍に希釈して試料を調製した。そして、粒子径分布測定装置を使用して測定した試料中のエマルジョン粒子の数平均粒子径は48.6nmであった。
【0135】
(実施合成例15~19)
表8に示す種類及び量(単位:部)の各種材料を用いたこと以外は、前述の実施合成例14と同様にして、バインダーB-2~6を含有する液体を得た。得られたバインダー成分の物性等を表8に示す。
【0136】
【0137】
<インク(2)の調製>
(実施例28~35)
実施例10で調製した顔料分散液-10、実施合成例14~19で調製したバインダー成分B-1~-6、並びに以下に示すバインダーB-7及びB-8を用意した。
【0138】
[バインダーB-7:ウレタン水分散体]
イソホロンジイソシアネート/ポリヘキサメチレンカーボネートジオール/ジメチロールブタン酸/ヒドラジンからなるポリウレタンをトリエチルアミンで中和した、石油材料由来のバインダー成分
酸価34.2mgKOH/g、数平均粒子径42.2nm、固形分25%
【0139】
[バインダーB-8:スチレンアクリルエマルジョン]
Mnが3,000であり、酸価が260mgKOH/gであるスチレン・アクリル酸・アクリル酸メトキシエチル共重合体のアンモニア中和物を保護コロイドとし、スチレン及びアクリル酸ブチルを重合して得た保護コロイド型エマルジョン(石油材料由来のバインダー成分)
スチレン・アクリル酸・アクリル酸メトキシエチル共重合体/スチレン/アクリル酸ブチル=30/30/40(質量比)、数平均粒子径105nm、固形分43%
【0140】
インク100部中、顔料の含有量が4部となる量の顔料分散液-10、バインダー(固形分)4部、界面活性剤(サーフィノールS465)0.1部、ワックス(エチレン・アクリル酸のアイオノマー、商品名「ケミパールW300」、三井化学社製)0.7部、プロピレングリコール12.0部、及び水(残部)となるように各成分を混合し、十分撹拌した後、ポアサイズ10μmのメンブランフィルターでろ過して、インクジェット用のインクを調製した。各インクの特性(調製直後及び70℃で1週間保存後の顔料の数平均粒子径及び粘度)を表9に示す。また、表9中の「評価」の基準を以下に示す。
○:70℃で1週間保存しても顔料の数平均粒子径及び粘度が大きく変化しなかった。
△:70℃1週間保存しても顔料の数平均粒子径は大きく変化しなかったが、粘度が増大した。
×:顔料が微分散されているが、70℃で1週間保存すると顔料の数平均粒子径が増大した、又は粘度が増大した。
【0141】
【0142】
(実施例36~39)
顔料分散液-10に代えて、顔料分散液-14~16をそれぞれ用いたこと以外は、前述の実施例30と同様にして、インクジェット用のインクを調製した(実施例36~38)。また、顔料分散液-17を用いて、前述の実施例28と同様にして、インク100部中、顔料の含有量が9部となる量の顔料分散液-17、バインダーB-1(固形分)4部、界面活性剤(サーフィノールS465)0.1部、プロピレングリコール12.0部、及び水(残部)となるように各成分を混合し、インクジェット用のインクを調製した(実施例39)。各インクの特性(調製直後及び70℃で1週間保存後の顔料の数平均粒子径及び粘度)を表10に示す。また、表10中の「評価」の基準を以下に示す。
○:70℃で1週間保存しても顔料の数平均粒子径及び粘度が大きく変化しなかった。
△:70℃1週間保存しても顔料の数平均粒子径は大きく変化しなかったが、粘度が増大した。
×:顔料が微分散されているが、70℃で1週間保存すると顔料の数平均粒子径が増大した、又は粘度が増大した。
【0143】
【0144】
<インク(2)の評価>
(実施応用例5~22)
実施例28~39で得たインクをカートリッジにそれぞれ充填し、プレートヒーター付きインクジェット印刷機(商品名「MMP825H」、マスターマインド社製)に装着した。そして、表面温度が50℃となるようにプレートヒーターで加熱した各印刷基材に画像を印刷して印刷物を得た。用いた印刷基材を以下に示す。
・ポリ塩化ビニルフィルム(3M社製、30μm)
・OPPフィルム(ポリプロピレンフィルム、フタムラ化学社製、50μm)
・PETフィルム(ポリエチレンテレフタレートフィルム、(フタムラ化学社製、60μm)
【0145】
(吐出性)
印刷時のインクの吐出状態を目視で観察し、以下に示す評価基準にしたがってインクの吐出性を評価した。結果を表11に示す。
〇:問題なく吐出することができ、良好な画像を印刷することができた。
△:微小液滴の飛び散りが認められた。
×:吐出の際、液滴がスプラッシュして飛び散り、画像が乱れた。
【0146】
(密着性)
ドライヤーを使用して印刷物を十分に乾燥させた後、画像にセロファンテープを十分に押し当ててから剥離した。フィルムからの画像の剥がれ具合を目視で観察し、以下に示す評価基準にしたがって画像の密着性を評価した。結果を表11に示す。
◎:まったく剥がれなかった。
〇:僅かに剥がれた。
△:剥がれなかった面積よりも、剥がれた面積の方が小さかった。
×:剥がれなかった面積よりも、剥がれた面積の方が大きかった。
【0147】
(耐摩擦性(耐乾摩擦性及び耐湿摩擦性))
学振型摩擦堅牢度試験機(商品名「RT-300」、大栄科学社製)を使用し、乾燥した白布及び水で湿らせた白布により、それぞれ500gの加重で画像の表面を20往復する摩擦試験を行った。摩擦試験後の画像の剥がれ具合を目視で観察し、以下に示す評価基準にしたがって画像の耐摩擦性(乾摩擦性及び湿摩擦性)を評価した。結果を表11に示す。
◎:まったく剥がれなかった。
○:僅かに剥がれた。
△:剥がれなかった面積よりも、剥がれた面積の方が小さかった。
×:剥がれなかった面積よりも、剥がれた面積の方が大きかった。
【0148】
【産業上の利用可能性】
【0149】
本発明の水性顔料分散液を用いれば、顔料が安定的かつ高度に微分散されているとともに、耐久性、光沢性、発色性、及び各種印刷基材への密着性に優れた画像を記録可能な、環境配慮型の水性インクジェットインクを提供することができる。そして、この水性インクジェットインクは、屋外用途ディスプレイ印刷や大量高速インクジェット印刷に好適であるとともに、水性フレキソ印刷インキ、水性塗料、水性筆記具用インキとしても有用である。