(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-07
(45)【発行日】2023-03-15
(54)【発明の名称】優れた硬度と衝撃靭性を有する耐摩耗鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20230308BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20230308BHJP
C21D 8/02 20060101ALI20230308BHJP
【FI】
C22C38/00 301H
C22C38/58
C21D8/02 B
(21)【出願番号】P 2021516742
(86)(22)【出願日】2019-09-23
(86)【国際出願番号】 KR2019012322
(87)【国際公開番号】W WO2020067685
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-05-24
(31)【優先権主張番号】10-2018-0115157
(32)【優先日】2018-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ユ,スン-ホ
(72)【発明者】
【氏名】ジョン,ヨン-ジン
(72)【発明者】
【氏名】ゾ,ナム-ヨン
【審査官】鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-123411(JP,A)
【文献】特開2018-059189(JP,A)
【文献】特開2018-048399(JP,A)
【文献】特表2016-505094(JP,A)
【文献】特開平08-041535(JP,A)
【文献】特表2016-534230(JP,A)
【文献】特表2020-504240(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 - 38/60
C21D 8/00 - 8/04
C21D 9/46 - 9/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、炭素(C):0.38~0.50%、シリコン(Si):0.5~2.0%、マンガン(Mn):0.6~1.6%、リン(P):0.05%以下(0は除く)、硫黄(S):0.02%以下(0は除く)、アルミニウム(Al):0.07%以下(0は除く)、クロム(Cr):0.1~1.5%、モリブデン(Mo):0.01~0.8%、バナジウム(V):0.01~0.08%、ボロン(B):50ppm以下(0は除く)、コバルト(Co):0.02%以下(0は除く)を含み、さらに、ニッケル(Ni):0.5%以下(0は除く)、銅(Cu):0.5%以下(0は除く)、チタン(Ti):0.02%以下(0は除く)、ニオブ(Nb):0.05%以下(0は除く)、及びカルシウム(Ca):2~100ppmからなる群から選択される1種以上をさらに含み、残りはFe及びその他の不可避不純物からなり、
微細組織が、85~98面積%以上のマルテンサイト、1~10%のベイナイト、及び1~10%の残留オーステナイトを含み、
硬度が550~650HBであり、-40℃での衝撃吸収エネルギーが47J以上であり、
硬度(HB)と衝撃吸収エネルギー(J)が下記の関係式1を満たすことを特徴とする優れた硬度と衝撃靭性を有する耐摩耗鋼
板。
[関係式1]0.61≦HB÷J×(1-Vm÷100)≦1.13
(但し、前記HBはブリネル硬度計により測定された鋼の表面硬度、Jは-40℃での衝撃吸収エネルギー値、Vmはマルテンサイトの面積分率を表す。)
【請求項2】
前記耐摩耗
板鋼は、ヒ素(As):0.05%以下(0は除く)、スズ(Sn):0.05%以下(0は除く)、及びタングステン(W):0.05%以下(0は除く)からなる群から選択される1種以上をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の優れた硬度と衝撃靭性を有する耐摩耗鋼
板。
【請求項3】
請求項1に記載された耐摩耗鋼
板の製造方法であって、
重量%で、炭素(C):0.38~0.50%、シリコン(Si):0.5~2.0%、マンガン(Mn):0.6~1.6%、リン(P):0.05%以下(0は除く)、硫黄(S):0.02%以下(0は除く)、アルミニウム(Al):0.07%以下(0は除く)、クロム(Cr):0.1~1.5%、モリブデン(Mo):0.01~0.8%、バナジウム(V):0.01~0.08%、ボロン(B):50ppm以下(0は除く)、コバルト(Co):0.02%以下(0は除く)を含み、さらに、ニッケル(Ni):0.5%以下(0は除く)、銅(Cu):0.5%以下(0は除く)、チタン(Ti):0.02%以下(0は除く)、ニオブ(Nb):0.05%以下(0は除く)、及びカルシウム(Ca):2~100ppmからなる群から選択される1種以上をさらに含み、残りはFe及びその他の不可避不純物からなる鋼スラブを1050~1250℃の温度範囲で加熱する段階と、
前記再加熱された鋼スラブを950~1050℃の温度範囲で粗圧延して粗圧延バーを得る段階と、
前記粗圧延バーを850~950℃の温度範囲で仕上げ熱間圧延して熱延鋼板を得る段階と、
前記熱延鋼板をAr3+30℃以上の加速冷却開始温度からMs-50℃以下の加速冷却停止温度まで5℃/s以上の冷却速度で加速冷却する段階と、
前記加速冷却した熱延鋼板を350~600℃の温度範囲まで昇温した後、1.3t+5分~1.3t+20分(t:板厚)間熱処理する段階とを含むことを特徴とする優れた硬度と衝撃靭性を有する耐摩耗鋼
板の製造方法。
【請求項4】
前記鋼スラブは、ヒ素(As):0.05%以下(0は除く)、スズ(Sn):0.05%以下(0は除く)、及びタングステン(W):0.05%以下(0は除く)からなる群から選択される1種以上をさらに含むことを特徴とする請求項3に記載の優れた硬度と衝撃靭性を有する耐摩耗鋼
板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高硬度の耐摩耗鋼及びその製造方法に関し、より詳細には、建設機械などに用いられる高硬度の耐摩耗鋼及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建設、土木、鉱業、セメント産業などの多くの産業分野で用いられる建設機械、産業機械は、作業時に摩擦による摩耗が激しく発生するため、耐摩耗性を示す素材の適用が必要である。
【0003】
一般に、厚鋼板の耐摩耗性と硬度は相関関係を有し、摩耗が懸念される厚鋼板は、硬度を増加させる必要がある。より安定した耐摩耗性を確保するためには、厚鋼板の表面から板の厚さの内部(t/2付近、t=厚さ)にわたって均一な硬度を有すること(すなわち、厚鋼板の表面と内部とで同じ程度の硬度を有すること)が求められる。
【0004】
通常、厚鋼板で高硬度を得るために、圧延後にAc3以上の温度で再加熱してから焼入れする方法が広く用いられている。一例として、特許文献1には、Cの含量を高め、CrとMoなどの硬化能向上元素を多量に添加することで、表面硬度を増加させる方法が開示されている。しかし、極厚物の鋼板を製造するためには、鋼板の中心部の硬化能を確保するためにさらに多くの硬化能元素の添加が求められるが、Cと硬化能合金を多量に添加すると、製造コストが上昇し、溶接性及び低温靭性が低下するという問題がある。
【0005】
したがって、硬化能を確保するために硬化能合金の添加が不可避な状況で、高硬度の確保により、耐摩耗性に優れるだけでなく、高強度及び高衝撃靭性を確保する方法が求められている状況である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術に鑑みてなされたものであって、本発明の目的は、耐摩耗性に優れるとともに、高強度及び高衝撃靭性を有する高硬度の耐摩耗鋼板及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するためになされた本発明の一態様による優れた硬度と衝撃靭性を有する耐摩耗鋼板は、重量%で、炭素(C):0.38~0.50%、シリコン(Si):0.5~2.0%、マンガン(Mn):0.6~1.6%、リン(P):0.05%以下(0は除く)、硫黄(S):0.02%以下(0は除く)、アルミニウム(Al):0.07%以下(0は除く)、クロム(Cr):0.1~1.5%、モリブデン(Mo):0.01~0.8%、バナジウム(V):0.01~0.08%、ボロン(B):50ppm以下(0は除く)、コバルト(Co):0.02%以下(0は除く)を含み、さらに、ニッケル(Ni):0.5%以下(0は除く)、銅(Cu):0.5%以下(0は除く)、チタン(Ti):0.02%以下(0は除く)、ニオブ(Nb):0.05%以下(0は除く)、及びカルシウム(Ca):2~100ppmからなる群から選択される1種以上をさらに含み、残りはFe及びその他の不可避不純物からなり、微細組織が、85~98面積%以上のマルテンサイト、1~10%のベイナイト、及び1~10%の残留オーステナイトを含むことを特徴とする。
【0009】
上記目的を達成するためになされた本発明の一態様による優れた硬度と衝撃靭性を有す
る耐摩耗鋼板の製造方法は、重量%で、炭素(C):0.38~0.50%、シリコン(Si):0.5~2.0%、マンガン(Mn):0.6~1.6%、リン(P):0.05%以下(0は除く)、硫黄(S):0.02%以下(0は除く)、アルミニウム(Al):0.07%以下(0は除く)、クロム(Cr):0.1~1.5%、モリブデン(Mo):0.01~0.8%、バナジウム(V):0.01~0.08%、ボロン(B):50ppm以下(0は除く)、コバルト(Co):0.02%以下(0は除く)を含み、さらに、ニッケル(Ni):0.5%以下(0は除く)、銅(Cu):0.5%以下(0は除く)、チタン(Ti):0.02%以下(0は除く)、ニオブ(Nb):0.05%以下(0は除く)、及びカルシウム(Ca):2~100ppmからなる群から選択される1種以上をさらに含み、残りはFe及びその他の不可避不純物からなる鋼スラブを1050~1250℃の温度範囲で加熱する段階と、上記再加熱された鋼スラブを950~1050℃の温度範囲で粗圧延して粗圧延バーを得る段階と、上記粗圧延バーを850~950℃の温度範囲で仕上げ熱間圧延して熱延鋼板を得る段階と、上記熱延鋼板をAc3+30℃以上の温度からMs-50℃以下まで5℃/s以上の冷却速度で加速冷却する段階と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、厚さが60mm以下でありながら、高硬度及び優れた低温靭性を有する耐摩耗鋼を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態の具体例を詳細に説明する。先ず、本発明の合金組成について説明する。下記で説明する合金組成の含量は重量%である。
【0012】
炭素(C):0.38~0.50%
炭素(C)は、マルテンサイト組織を有する鋼において強度及び硬度を増加させるのに効果的であり、硬化能の向上に有効な元素である。上述の効果を十分に確保するためには、0.38%以上添加することが好ましい。その含量が0.50%を超える場合には、溶接性及び靭性が阻害されるという問題がある。したがって、本発明では、Cの含量を0.38~0.50%に制御することが好ましい。上記Cの含量の下限は、0.39%であることがより好ましく、0.40%であることがさらに好ましく、0.41%であることが最も好ましい。上記Cの含量の上限は、0.49%であることがより好ましく、0.48%であることがさらに好ましく、0.47%であることが最も好ましい。
【0013】
シリコン(Si):0.5~2.0%
シリコン(Si)は、脱酸と固溶強化による強度向上に有効な元素である。また、シリコンは、Ms(マルテンサイト変態開始温度)以下に過冷した後、一定温度で熱処理した時に、セメンタイト(Fe3C)の形成を抑制し、残留オーステナイトの含量を増加させる役割を果たす。このような効果を有効に得るためには、0.5%以上添加することが好ましい。その含量が2.0%を超える場合には、溶接性が劣化するため好ましくない。したがって、本発明では、Siの含量を0.5~2.0%に制御することが好ましい。上記Siの含量の下限は、0.6%であることがより好ましく、0.65%であることがさらに好ましく、0.7%であることが最も好ましい。上記Siの含量の上限は、1.9%であることがより好ましく、1.8%であることがさらに好ましく、1.7%であることが最も好ましい。
【0014】
マンガン(Mn):0.6~1.6%
マンガン(Mn)は、フェライトの生成を抑制し、Ar3温度を下げることで、焼入れ性を効果的に上昇させ、鋼の強度及び靭性を向上させる元素である。本発明では、厚物材の硬度確保のために、Mnを0.6%以上含有することが好ましい。その含量が1.6%を超える場合には、溶接性を低下させるという問題がある。したがって、本発明では、Mnの含量を0.6~1.6%に制御することが好ましい。上記Mnの含量の下限は、0.65%であることがより好ましく、0.7%であることがさらに好ましく、0.75%であることが最も好ましい。上記Mnの含量の上限は、1.55%であることがより好ましく、1.5%であることがさらに好ましく、1.45%であることが最も好ましい。
【0015】
リン(P):0.05%以下(0は除く)
リン(P)は、鋼中に不可避に含有される元素であり、かつ鋼の靭性を阻害する元素である。したがって、本発明では、Pの含量をできる限り低くし、0.05%以下に制御することが好ましい。但し、不可避に含有される水準を考慮して、0%は除く。上記Pの含量は、0.03%以下であることがより好ましく、0.02%以下であることがさらに好ましく、0.015%以下であることが最も好ましい。
【0016】
硫黄(S):0.02%以下(0は除く)
硫黄(S)は、鋼中にMnS介在物を形成し、鋼の靭性を阻害する元素である。したがって、本発明では、Sの含量をできる限り低くし、0.02%以下に制御することが好ましい。但し、不可避に含有される水準を考慮して、0%は除く。上記Sの含量は、0.01%以下であることがより好ましく、0.005%以下であることがさらに好ましく、0.003%以下であることが最も好ましい。
【0017】
アルミニウム(Al):0.07%以下(0は除く)
アルミニウム(Al)は、鋼の脱酸剤として溶鋼中の酸素含量を減少させるのに効果的な元素である。このようなAlの含量が0.07%を超える場合には、鋼の清浄性が阻害されるという問題があるため好ましくない。したがって、本発明では、Alの含量を0.07%以下に制御することが好ましく、製鋼工程時の負荷、製造コストの上昇などを考慮して、0%は除く。上記Alの含量は、0.06%以下であることがより好ましく、0.05%以下であることがさらに好ましく、0.04%以下であることが最も好ましい。
【0018】
クロム(Cr):0.1~1.5%
クロム(Cr)は、焼入れ性を増加させて鋼の強度を増加させ、硬度の確保にも有利な元素である。上述の効果のためには、Crを0.1%以上添加することが好ましい。その含量が1.5%を超える場合には、スラブの作製のための連鋳作業時における冷却中にクラックが発生する確率が高くなる。したがって、本発明では、Crの含量を0.1~1.5%に制御することが好ましい。上記Crの含量の下限は、0.15%であることがより好ましく、0.2%であることがさらに好ましく、0.25%であることが最も好ましい。上記Crの含量の上限は、1.4%であることがより好ましく、1.3%であることがさらに好ましく、1.2%であることが最も好ましい。
【0019】
モリブデン(Mo):0.01~0.8%
モリブデン(Mo)は、鋼の焼入れ性を増加させ、特に、厚物材の硬度の向上に有効な元素である。上述の効果を十分に得るためには、Moを0.01%以上添加することが好ましい。Moも高価な元素であり、その含量が0.8%を超える場合には、製造原価が上昇するだけでなく、溶接性が劣化するという問題がある。したがって、本発明では、Moの含量を0.01~0.8%に制御することが好ましい。上記Moの含量の下限は、0.015%であることがより好ましく、0.02%であることがさらに好ましく、0.025%であることが最も好ましい。上記Moの含量の上限は、0.75%であることがより好ましく、0.7%であることがさらに好ましく、0.65%であることが最も好ましい。
【0020】
バナジウム(V):0.01~0.08%
バナジウム(V)は、熱間圧延後における再加熱時にVC炭化物を形成することで、オーステナイト結晶粒の成長を抑え、鋼の焼入れ性を向上させるため、強度及び靭性を確保するのに有利な元素である。上述の効果を十分に確保するためには、0.01%以上添加することが好ましい。その含量が0.08%を超える場合には、製造原価を上昇させる要因になる。したがって、本発明では、Vの含量を0.01~0.08%に制御することが好ましい。上記Vの含量の下限は、0.012%であることがより好ましく、0.015%であることがさらに好ましく、0.017%であることが最も好ましい。上記Vの含量の上限は、0.07%であることがより好ましく、0.065%であることがさらに好ましく、0.06%であることが最も好ましい。
【0021】
ボロン(B):50ppm以下(0は除く)
ボロン(B)は、少量添加しても鋼の焼入れ性を有効に上昇させ、強度の向上に有効な元素である。但し、その含量が高すぎると、鋼の靭性及び溶接性を却って阻害するという問題があるため、本発明では、その含量を50ppm以下に制御することが好ましい。上記Bの含量の下限は、2ppmであることがより好ましく、3ppmであることがさらに好ましく、5ppmであることが最も好ましい。上記Bの含量の上限は、40ppmであることがより好ましく、35ppmであることがさらに好ましく、30ppmであることが最も好ましい。
【0022】
コバルト(Co):0.02%以下(0は除く)
コバルト(Co)は、鋼の焼入れ性を増加させることで、鋼の強度とともに硬度の確保に有利な元素である。但し、その含量が0.02%を超える場合には、鋼の焼入れ性が低下する恐れがあり、高価な元素として製造原価を上昇させる要因になる。したがって、本発明では、Coを0.02%以下添加することが好ましい。上記Coの含量の下限は、0.001%であることがより好ましく、0.002%以下であることがさらに好ましく、0.003%以下であることが最も好ましい。上記Coの含量の上限は、0.018%であることがより好ましく、0.015%であることがさらに好ましく、0.013%であることが最も好ましい。
【0023】
本発明の耐摩耗鋼は、上述の合金組成の他にも、本発明で目標とする物性を確保するのに有利な元素をさらに含むことができる。例えば、ニッケル(Ni):0.5%以下(0は除く)、銅(Cu):0.5%以下(0は除く)、チタン(Ti):0.02%以下(0は除く)、ニオブ(Nb):0.05%以下(0は除く)、及びカルシウム(Ca):2~100ppmからなる群から選択される1種以上をさらに含むことができる。
【0024】
ニッケル(Ni):0.5%以下(0は除く)
ニッケル(Ni)は、一般に、鋼の強度とともに靭性を向上させるのに有効な元素である。但し、その含量が0.5%を超える場合には、製造原価を上昇させる原因になる。したがって、本発明では、Niを添加する場合、0.5%以下添加することが好ましい。上記Niの含量の下限は、0.01%であることがより好ましく、0.03%であることがさらに好ましく、0.05%であることが最も好ましい。上記Niの含量の上限は、0.45%であることがより好ましく、0.4%であることがさらに好ましく、0.35%であることが最も好ましい。
【0025】
銅(Cu):0.5%以下(0は除く)
銅(Cu)は、鋼の焼入れ性を向上させ、固溶強化により鋼の強度及び硬度を向上させる元素である。但し、このようなCuの含量が0.5%を超える場合には、表面欠陥を発生させ、熱間加工性を阻害するという問題がある。したがって、本発明では、Cuを添加する場合、0.5%以下添加することが好ましい。上記Cuの含量の下限は、0.01%であることがより好ましく、0.02%であることがさらに好ましく、0.03%であることが最も好ましい。上記Cuの含量の上限は、0.4%であることがより好ましく、0.3%であることがさらに好ましく、0.2%であることが最も好ましい。
【0026】
チタン(Ti):0.02%以下(0は除く)
チタン(Ti)は、鋼の焼入れ性の向上に有効な元素であるBの効果を最大化する元素である。具体的に、Tiは、窒素(N)と結合してTiN析出物を形成させ、BNの形成を抑えることで、固溶Bを増加させて焼入れ性の向上を最大化することができる。但し、Tiの含量が0.02%を超える場合には、粗大なTiN析出物が形成され、鋼の靭性が劣化するという問題がある。したがって、本発明では、Tiを添加する場合、0.02%以下添加することが好ましい。上記Tiの含量の下限は、0.002%であることがより好ましく、0.005%であることがさらに好ましく、0.007%であることが最も好ましい。上記Tiの含量の上限は、0.018%であることがより好ましく、0.016%であることがさらに好ましく、0.015%であることが最も好ましい。
【0027】
ニオブ(Nb):0.05%以下(0は除く)
ニオブ(Nb)は、オーステナイトに固溶されてオーステナイトの硬化能を増大させ、Nb(C,N)などの炭窒化物を形成することにより、鋼の強度を増加し、かつオーステナイト結晶粒の成長を抑えるのに有効である。但し、Nbの含量が0.05%を超える場合には粗大な析出物が形成され、これは、脆性破壊の起点になって靭性を阻害するという問題がある。したがって、本発明では、Nbを添加する場合、0.05%以下添加することが好ましい。上記Nbの含量の下限は、0.002%であることがより好ましく、0.003%であることがさらに好ましく、0.005%であることが最も好ましい。上記Nbの含量の上限は、0.04%であることがより好ましく、0.03%であることがさらに好ましく、0.02%であることが最も好ましい。
【0028】
カルシウム(Ca):2~100ppm
カルシウム(Ca)はSとの結合力が良いため、CaSを生成することにより、鋼材の厚さ中心部に偏析されるMnSの生成を抑える効果がある。また、Caの添加により生成されたCaSは、多湿な外部環境下で腐食抵抗を増加させる効果がある。上述の効果のためには、Caを2ppm以上添加することが好ましい。その含量が100ppmを超える場合には、製鋼操業時にノズル詰まりなどを誘発するという問題があるため好ましくない。したがって、本発明では、Caを添加する場合、その含量を2~100ppmに制御することが好ましい。上記Caの含量の下限は、2.5ppmであることがより好ましく、3ppmであることがさらに好ましく、3.5ppmであることが最も好ましい。上記Caの含量の上限は、70ppmであることがより好ましく、50ppmであることがさらに好ましく、30ppmであることが最も好ましい。
【0029】
これに加え、本発明の耐摩耗鋼は、上述の合金元素の他に、付加的に、ヒ素(As):0.05%以下(0は除く)、スズ(Sn):0.05%以下(0は除く)、及びタングステン(W):0.05%以下(0は除く)からなる群から選択される1種以上をさらに含むことができる。
【0030】
Asは、鋼の靭性の向上に有効であり、Snは、鋼の強度及び耐食性の向上に有効である。また、Wは、焼入れ性を増加させて強度を向上させるとともに高温での硬度を向上させるのに有効な元素である。但し、As、Sn、及びWの含量がそれぞれ0.05%を超える場合には、製造原価が上昇するだけでなく、却って鋼の物性を損なう恐れがある。したがって、本発明では、As、Sn、及びWをさらに含む場合、その含量をそれぞれ0.05%以下に制御することが好ましい。上記As、Sn、及びWの含量の下限はそれぞれ、0.001%であることがより好ましく、0.002%であることがさらに好ましく、0.003%であることが最も好ましい。上記As、Sn、及びWの含量の上限はそれぞれ、0.04%であることがより好ましく、0.03%であることがさらに好ましく、0.02%であることが最も好ましい。
【0031】
本発明の残りの成分は鉄(Fe)である。但し、通常の製造過程では、原料または周辺環境から意図しない不純物が不可避に混入され得るため、これを排除することはできない。これらの不純物は、通常の製造過程の技術者であれば誰でも周知のものであるため、その全ての内容を特に本明細書で言及しない。
【0032】
本発明の耐摩耗鋼の微細組織は、マルテンサイトを基地組織として含むことが好ましい。より具体的に、本発明の耐摩耗鋼は、85~98面積%のマルテンサイト、1~10%のベイナイト、及び1~10%の残留オーステナイトを含むことが好ましい。ベイナイトは、フェライトよりは硬質相(hard phase)であるが、マルテンサイトよりは軟質相(soft phase)であるため、ギガ級の耐摩耗鋼の主組織としては好ましくない。残留オーステナイトは、Ac3温度以上のオーステナイト域で熱処理しながら常温まで急速に冷却した時に、まだマルテンサイトに相変態(phase transformation)されずに残ったものであり、マルテンサイトに比べて炭素量が相対的に少ないことが特徴である。
【0033】
上記マルテンサイトの分率が85%未満であると、目標水準の強度及び硬度の確保が困難になるという問題があり、98%を超える場合には、低温衝撃靭性が低下するという欠点がある。本発明において、上記マルテンサイトはマルテンサイト相と焼戻しマルテンサイト(tempered martensite)相を含み、このように焼戻しマルテンサイト相を含む場合、鋼の靭性をより有利に確保することができる。上記マルテンサイトの分率の下限は、86%であることがより好ましく、87%であることがさらに好ましく、88%であることが最も好ましい。上記マルテンサイトの分率の上限は、97%であることがより好ましく、96%であることがさらに好ましく、95%であることが最も好ましい。一方、本発明において、上記ベイナイト及び残留オーステナイトは、低温衝撃靭性をより向上させる役割を果たす。上記ベイナイトの分率が1%未満である場合には、低温での衝撃靭性が十分ではないため、クラックが発生する恐れがあるという欠点があり、10%を超える場合には、マルテンサイトに比べて相対的に軟質であるため硬度が低下するという欠点がある。上記残留オーステナイトの分率が1%未満である場合にも、低温衝撃靭性が低下するという欠点があり、10%を超える場合には、低温靭性は大きく増加するものの、硬度が著しく減少するという欠点がある。上記ベイナイトと残留オーステナイトの分率の下限はそれぞれ、2%であることがより好ましく、3%であることがさらに好ましく、4%であることが最も好ましい。上記ベイナイトと残留オーステナイトの分率の上限はそれぞれ、9%であることがより好ましく、8%であることがさらに好ましく、7%であることが最も好ましい。
【0034】
上述のように提供される本発明の耐摩耗鋼は、550~650HBの表面硬度を確保するとともに、-40℃の低温で47J以上の衝撃吸収エネルギーを有する効果がある。但し、HBは、ブリネル硬度計により測定された鋼の表面硬度を表す。
【0035】
また、本発明の耐摩耗鋼は、硬度(HB)と衝撃吸収エネルギー(J)が下記の関係式1を満たすことが好ましい。本発明では、高硬度の他に、低温靭性特性を向上させることを特徴とするが、そのためには、下記の関係式1を満たすことが好ましい。すなわち、表面硬度のみが高く、衝撃靭性が劣化して関係式1を満たさない場合か、衝撃靭性には優れるが、表面硬度が目標値に達せず、関係式1を満たさない場合には、最終目標とする高硬度及び低温靭性特性を保証することができなくなる。
【0036】
[関係式1]0.61≦HB÷J×(1-Vm÷100)≦1.13(但し、上記HBはブリネル硬度計により測定された鋼の表面硬度、Jは-40℃での衝撃吸収エネルギー値、Vmはマルテンサイトの面積分率を表す。)
【0037】
以下、本発明の耐摩耗鋼の製造方法について詳細に説明する。
【0038】
先ず、鋼スラブを1050~1250℃の温度範囲で加熱する。鋼スラブの加熱温度が1050℃未満である場合には、Nbなどの再固溶が十分ではなく、これに対し、その温度が1250℃を超える場合には、オーステナイト結晶粒が粗大化して不均一な組織が形成される恐れがある。したがって、本発明では、鋼スラブの加熱温度が1050~1250℃の範囲を有することが好ましい。上記鋼スラブの加熱温度の下限は、1070℃であることがより好ましく、1080℃であることがさらに好ましく、1100℃であることが最も好ましい。上記鋼スラブの加熱温度の上限は、1230℃であることがより好ましく、1200℃であることがさらに好ましく、1180℃であることが最も好ましい。
【0039】
上記再加熱された鋼スラブを950~1050℃の温度範囲で粗圧延して粗圧延バーを得る。粗圧延時に、その温度が950℃未満である場合には、圧延荷重が増加して相対的に弱圧下されるため、スラブの厚さ方向の中心まで変形が十分に伝達されず、空隙のような欠陥が除去されない恐れがある。これに対し、その温度が1050℃を超える場合には、圧延と同時に再結晶が起こった後、粒子が成長するようになるため、初期オーステナイト粒子が過度に粗大化する恐れがある。したがって、本発明では、粗圧延温度は950~1050℃であることが好ましい。上記粗圧延温度の下限は、960℃であることがより好ましく、970℃であることがさらに好ましく、980℃であることが最も好ましい。上記粗圧延温度の上限は、1040℃であることがより好ましく、1030℃であることがさらに好ましく、1020℃であることが最も好ましい。
【0040】
上記粗圧延バーを850~950℃の温度範囲で仕上げ熱間圧延して熱延鋼板を得る。仕上げ熱間圧延の温度が850℃未満である場合には、二相域圧延になって微細組織中にフェライトが生成される恐れがあり、これに対し、その温度が950℃を超える場合には、最終組織の粒度が粗大になり、低温靭性が劣化するという問題がある。したがって、本発明では、仕上げ熱間圧延の温度は850~950℃であることが好ましい。上記仕上げ熱間圧延の温度の下限は、860℃であることがより好ましく、870℃であることがさらに好ましく、880℃であることが最も好ましい。上記仕上げ熱間圧延の温度の上限は、945℃であることがより好ましく、940℃であることがさらに好ましく、935℃であることが最も好ましい。
【0041】
その後、上記熱延鋼板をAc3+30℃以上の温度からMs-50℃以下まで加速冷却させる。Ac3はオーステナイト変態温度であり、Msはマルテンサイトの変態が開始する温度である。すなわち、上記加速冷却は、熱間圧延後に得られた熱延鋼板の微細組織を、オーステナイトからマルテンサイトに変態させるためのものである。加速冷却開始温度がAc3+30℃未満である場合には、圧延後に再結晶されたオーステナイトの大きさが粗大化し、低温衝撃靭性が劣化するだけでなく、空冷フェライトが生成されるため、最終微細組織が不均一になり、強度及び硬度が著しく低下する。したがって、上記加速冷却開始温度はAc3+30℃以上であることが好ましい。上記加速冷却開始温度は、Ar3+50℃以上であることがより好ましく、Ar3+80℃以上であることがさらに好ましく、Ar3+100℃以上であることが最も好ましい。一方、加速冷却停止温度がMs-50℃を超える場合には、相変態のための駆動力が不足になり、結果として、マルテンサイトは生成されず、その代わりにベイナイトまたは針状フェライトのようなマルテンサイトに比べて相対的に軟質相(soft phase)が発達するようになるため、本発明が得ようとする微細組織分率を確保することが困難になる。したがって、本発明では、加速冷却停止温度はMs-50℃以下であることが好ましい。上記加速冷却停止温度は、Ms-70℃以下であることがより好ましく、Ms-100℃以下であることがさらに好ましく、Ms-150℃以下であることが最も好ましい。
【0042】
上記加速冷却時の冷却速度は5℃/s以上であることが好ましい。この際、上記冷却速度は、鋼板の厚さの1/4の位置(quarter)が基準である。上記冷却速度が5℃/s未満である場合には、加速冷却停止温度がMs-50℃以下と低くても、相変態のための駆動力が低くなり、軟質相のベイナイトまたは針状フェライトの生成が不可避になる。したがって、本発明では、加速冷却時の冷却速度は5℃/s以上であることが好ましい。上記加速冷却速度は、7℃以上であることがより好ましく、10℃以上であることがさらに好ましく、15℃以上であることが最も好ましい。一方、本発明において、上記冷却速度の上限は特に限定されず、通常の技術者であれば、設備限界を考慮して適宜設定することができる。
【0043】
その後、必要に応じて、上記冷却した熱延鋼板に対して焼戻し(tempering)のような後続熱処理を行う。より詳細には、上記冷却した熱延鋼板を、350~600℃の温度範囲まで昇温した後、1.3t+5分~1.3t+20分(t:板厚)間熱処理する。焼戻し温度が350℃未満である場合には、焼戻しマルテンサイトの脆化現象が発生し、鋼の強度及び靭性が劣化する恐れがある。これに対し、その温度が600℃を超える場合には、再加熱及び冷却を経て高くなったマルテンサイト中の転位密度が急激に減少し、結果として、硬度が目標値に比べて低くなる恐れがあるため好ましくない。また、焼戻し時間が1.3t+20分(t:板厚)を超える場合にも、急速冷却後に発生したマルテンサイト組織中の高い転位密度が低くなり、結果として、硬度が急激に減少するようになる。一方、焼戻し時間は1.3t+5分(t:板厚)以上である必要がある。焼戻し時間が1.3t+5分(t:板厚)未満である場合には、鋼板の幅と長さ方向に均一に熱処理されず、結果として、位置毎に物性のばらつきが引き起こされる可能性がある。一方、上記熱処理後には、空冷処理を行うことが好ましい。上記焼戻し温度の下限は、360℃であることがより好ましく、370℃であることがさらに好ましく、380℃であることが最も好ましい。上記焼戻し温度の上限は、580℃であることがより好ましく、560℃であることがさらに好ましく、550℃であることが最も好ましい。上記焼戻し時間の下限は、1.3t+6分であることがより好ましく、1.3t+7分であることがさらに好ましく、1.3t+8分であることが最も好ましい。上記焼戻し時間の上限は、1.3t+18分であることがより好ましく、1.3t+16分であることがさらに好ましく、1.3t+15分であることが最も好ましい。
【0044】
上記のような工程条件を経た本発明の熱延鋼板は、60mm以下の厚さを有する厚鋼板であり、より好ましくは15~60mm、さらに好ましくは20~50mmの厚さを有する。
【0045】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。但し、下記の実施例は、本発明を例示してより詳細に説明するためのものに過ぎず、本発明の技術範囲を限定するものではない。
【0046】
(実施例)
下記表1及び2の合金組成を有する鋼スラブを準備した後、この鋼スラブに対して、下記表3の条件で鋼スラブの加熱-粗圧延-熱間圧延-加速冷却-(焼戻し)を行って熱延鋼板を製造した。上記熱延鋼板に対して、微細組織及び機械的物性を測定した結果を、下記表4に示した。
【0047】
この際、上記微細組織は、任意のサイズに試験片を切断して鏡面を製作した後、ナイタールエッチング液を用いて腐食させてから、光学顕微鏡及び走査型電子顕微鏡を活用して鋼板の厚さ方向を基準に1/4tの位置を観察した。
【0048】
そして、硬度及び靭性はそれぞれ、ブリネル硬度試験機(荷重3000kgf、10mmタングステン圧入具)及びシャルピー衝撃試験機を用いて測定した。この際、表面硬度は、板の表面を2mmミリング加工した後、3回測定したものの平均値を用いた。また、シャルピー衝撃試験の結果は、1/4tの位置で試験片を採取した後、-40℃で3回測定したものの平均値を用いた。
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
上記表1~4から分かるように、本発明が提案する合金組成と製造条件を満たす発明例1~9は、本発明の微細組織の種類及び分率を満たし、優れた表面硬度と衝撃靭性を確保することにより、関係式1を満たしていることが分かる。
【0054】
これに対し、本発明が提案する製造条件は満たすが、本発明の合金組成を満たさない比較例1、2、3、5、6、8は、本発明の微細組織の種類及び分率を満たさないだけでなく、本発明が得ようとする表面硬度、衝撃靭性、または関係式1を満たしていないことが分かる。
【0055】
本発明が提案する合金組成及び製造条件を満たさない比較例4、7、9も、本発明の微細組織の種類及び分率を満たさないだけでなく、本発明が得ようとする表面硬度、衝撃靭性、または関係式1を満たしていないことが分かる。
【0056】
これに対し、本発明が提案する合金組成は満たすが、本発明の製造条件を満たさない比較例10、11、12は、本発明の微細組織の種類及び分率を満たさないだけでなく、本発明が得ようとする表面硬度または衝撃靭性を確保することができないため、関係式1を満たしていないことが分かる。