(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-07
(45)【発行日】2023-03-15
(54)【発明の名称】運転可能な風力タービンのコンポーネントの残存有効寿命を評価するための方法
(51)【国際特許分類】
F03D 17/00 20160101AFI20230308BHJP
【FI】
F03D17/00
(21)【出願番号】P 2021560587
(86)(22)【出願日】2019-04-01
(86)【国際出願番号】 EP2019058207
(87)【国際公開番号】W WO2020200421
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】521441696
【氏名又は名称】アクシオナ ジェネラシオン リノバブル,ソシエダッド アノニマ
(73)【特許権者】
【識別番号】521441700
【氏名又は名称】センティエント サイエンス コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】リバリッチ,エイドリアン
(72)【発明者】
【氏名】ギャレゴ-カルデロン,ジュアン
(72)【発明者】
【氏名】イルージョ エスピノーサ デ モンテロス,メルセデス
【審査官】丹治 和幸
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-518978(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1706508(KR,B1)
【文献】国際公開第2018/047564(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03D 1/00-80/80
G01M 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
計算エレメントによって実行される、運転可能な風力タービンモデルのコンポーネントの残存有効寿命を評価するための方法であって、
上記計算エレメントは、運転可能な風力タービンと通信可能に接続されており、
運転可能な上記風力タービンは、
運転可能な上記風力タービンの実履歴データを測定するデータ取得モジュールと、
運転の履歴状態を識別するための付加的な状態検出ユニットと、を備えており、
上記方法は、
選択されたタイムインターバルにおいて、風速、ブレードピッチ位置、およびロータ速度を少なくとも含む履歴データを、上記データ取得モジュールから抽出するステップと、
ラン、アイドル、および、始動と通常停止と緊急停止とを含むトランジションを少なくとも含む上記風力タービンの運転状態を、選択されたタイムインターバルごとに上記状態検出ユニットによって識別するステップと、
識別された上記運転状態を、各タイムインターバルにおいて上記データ取得モジュールから抽出された上記データによって検証して、マッチしない不確定データを識別および破棄するステップと、
上記風力タービンが状態を変化させた回数を含む複数の過渡イベントを識別するステップと、
上記風力タービンが費やした最長時間における状態を含む優勢運転状態を識別するステップと、
選択された上記タイムインターバルにおける平均風速および乱流強度を少なくとも含む風況を識別するステップと、
を含んでおり、
上記方法は、疲労等価荷重を評価するために、
複数のタイムインターバルにおいて複数のシミュレーションを実行するステップをさらに含んでおり、
上記シミュレーションは、
識別された上記優勢運転状態およびその持続時間と、
各タイムインターバルにおいて識別された上記過渡イベントと、
に応じた風況に対応する上記風力タービンモデルについて荷重を取得するステップを含んでいる、方法。
【請求項2】
運転状態に応じた全ての疲労荷重をそれぞれ含む、複数の超次元応答モデルを含んでおり、
荷重コンポーネントは、上記風力タービンモデルの特定の位置に対する力および/またはモーメントを含んでいる、請求項1に記載のコンポーネントの残存有効寿命を評価するための方法。
【請求項3】
上記風力タービンモデルの特定の位置に対する力および/またはモーメントを含む少なくとも1つの荷重コンポーネントについての履歴時系列疲労等価荷重を評価するために、試運転日からの複数のタイムインターバルにおける複数の疲労荷重計算を含んでいる、請求項1に記載のコンポーネントの残存有効寿命を評価するための方法。
【請求項4】
履歴運転条件および疲労等価荷重を用いた、上記風力タービンの少なくとも1つのコンポーネントについての信頼性分析または残存有効寿命をさらに含んでいる、請求項1に記載のコンポーネントの残存有効寿命を評価するための方法。
【請求項5】
上記シミュレーションモデルは、空力弾性シミュレーションである、請求項1に記載のコンポーネントの残存有効寿命を評価するための方法。
【請求項6】
上記状態検出ユニットは、運転可能な上記風力タービンの内部制御システムによって与えられる論理変数である、請求項1に記載のコンポーネントの残存有効寿命を評価するための方法。
【請求項7】
上記データ取得モジュールは、各タイムインターバルにおけるジェネレータパワーデータを含んでいる、請求項1に記載のコンポーネントの残存有効寿命を評価するための方法。
【請求項8】
上記状態検出ユニットは、上記データ取得モジュールから運転状態を識別する計算エレメントによって実行される
コードである、請求項7に記載のコンポーネントの残存有効寿命を評価するための方法。
【請求項9】
上記タイムインターバルは、10分以内である、請求項1に記載のコンポーネントの残存有効寿命を評価するための方法。
【請求項10】
上記データ取得モジュールは、上記風力タービンにおける従来の監視制御兼データ取得(SCADA)システムである、請求項1に記載のコンポーネントの残存有効寿命を評価するための方法。
【請求項11】
各タイムインターバルにおいて、近くの気象観測タワーから風況を測定するステップをさらに含んでいる、請求項1に記載のコンポーネントの残存有効寿命を評価するための方法。
【請求項12】
運転可能な風力タービンモデルのコンポーネントの残存有効寿命を評価するためのシステムであって、
運転可能な風力タービンの実履歴データを測定するデータ取得モジュールを少なくとも含む上記風力タービンモデルと、
運転の履歴状態を識別する状態検出ユニットと、を備えており、
上記システムは、計算エレメントを備えており、
上記計算エレメントは、
選択されたタイムインターバルにおいて、風速、ブレードピッチ位置、およびロータ速度を少なくとも含む履歴データを、上記データ取得モジュールから抽出し、
ラン状態、アイドル状態、および、始動と通常停止と緊急停止とを含むトランジション状態を少なくとも含む上記風力タービンの運転状態を、選択されたタイムインターバルごとに上記状態検出ユニットによって識別し、
識別された上記運転状態を、各タイムインターバルにおいて上記データ取得モジュールから抽出された上記データによって検証して、マッチしない不確定データを識別および破棄し、
上記風力タービンが状態を変化させた回数を含む複数の過渡イベントを識別し、
上記風力タービンが費やした最長時間における状態を含む優勢運転状態を識別し、
選択された上記タイムインターバルにおける平均風速および乱流強度を少なくとも含む風況を識別し、
疲労等価荷重を評価するために、
複数のタイムインターバルにおいて複数のシミュレーションを実行するために、
それらと通信可能に接続されており、
上記シミュレーションは、
識別された上記優勢運転状態およびその持続時間と、
各タイムインターバルにおいて識別された上記過渡イベントと、
に応じた風況に対応する上記風力タービンモデルについて荷重を取得するステップを含んでいる、システム。
【請求項13】
上記計算エレメントは、請求項1から11のいずれか1項に記載の方法を実行することが可能である、請求項12に記載のコンポーネントの残存有効寿命を評価するためのシステム。
【請求項14】
請求項1から11のいずれか1項に記載の方法を実行する、コンピュータプログラム。
【請求項15】
ストレージメディア上に具現化されている、請求項14に記載のコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[本発明の対象]
本発明は、風力タービン(ウィンドタービン,風車)に対する健全性アセスメントおよび予測の分野に属し、風力タービンコンポーネントの残存有効寿命の評価(推定)(estimation)を可能にする。特に、本発明は、風力タービンが試運転された後の当該風力タービン実荷重をモデル化(モデリング)し、シミュレートする方法に関する(事後設計)。本発明は、ブレード、メインシャフト(主軸)、タワー、および他のコンポーネントにおいて実際に発生する力およびモーメントについて、非常に良好な理解を提供する。本発明は、タービンの履歴に亘る運転条件(operational conditions)およびそれらのそれぞれの疲労荷重(fatigue load)を識別し、かつ、区別する方法について説明している。次いで、タービン全体のみならず個々のコンポーネントの信頼性を決定(判定)するために、疲労荷重が使用されうる。
【0002】
[本発明の背景]
風力タービンのコンポーネントは、約20年~25年の有効実用寿命(useful service life)を有するように設計されている。環境要因の変動は、荷重パターンの変動を引き起こし、コンポーネントの早期故障を招く。これらの早期故障は、計画外のサービスを招く。当該計画外のサービスは、多くの場合、風力タービンファームのオペレータにとって運転コストの主要部分である。
【0003】
計画外のサービングスケジュールおよび修復は、生産性を低下させ、メンテナンスコストを増加させる。風力タービンのメンテナンスコストは、時間の進展に伴って増加する。コンポーネント寿命を評価するための様々な方法が、本技術分野において知られている。
【0004】
IEC61400-1(設計要件)は、タービンにおける駆動荷重を評価するための、現在の標準的な規格(conventional standards)である。IEC規格の主な目的は、20年寿命のタービンを保証(certify)することである。残存有効寿命(Remaining Useful Life,RUL)は、SCADA、適合したマスト測定、または、シミュレーションの風モデル(これらは、UL4143規格、または、既に承認されているDNVGL-ST-0262寿命延長(Life Time Extension,LTE)規格、および、および定義が進行中であるIEC61400-28LTE規格に記載されている)を通じて、サイトの風特性評価とともに評価される。これらのケースでは、風傾向が特性決定され、ウィンドファームレベルにおけるこの風傾向評価に基づいて、寿命が計算される。これらの風傾向は、特定の風力タービンの実際の風況(風の条件)(wind conditions)および運転条件ではない。そして、これらの風傾向は、発生した実際の荷重(負荷)(load)についての正確かつ精密な評価ではないので、実際のダメージ(損傷)および将来の荷重評価について正確かつ精密な評価でもない。
【0005】
一例として、文献US2016/0010628は、風力タービンの据付データ、運転データ、環境データ、および履歴データを受信するステップを含む方法を開示している。運転データおよび履歴データに基づいて、複数のダメージ値に対応する複数の補正値が決定される。複数の補正値は、(i)散発的な故障モードに起因する補正と、(ii)メンテナンススケジュール期間において得られたデータに基づいて決定された持続的な故障モードの進行に対する補正と、を含む。上記文献は、ダメージ値を比較する確率的方法と、(ii)据付データ、履歴データ、および更新された運転データを比較し、持続的な故障モードまたは散発的な故障モードを予測するモデルと、を開示している。但し、試運転日(data of commission)から風力タービンに生じる実際の風荷重は、モデル化されていない。また、各コンポーネントに対するせん断モーメントおよび曲げモーメントに起因する実際のダメージについての正確なモデルは、明示的に考慮されていない。
【0006】
文献EP2290597は、風力タービンの性能をシミュレートするために、ウィンドファームのサイト条件、タービン構成設計データ、および履歴フィールドデータを使用する性能シミュレータを含む方法を開示している。しかしながら、上記文献は、(i)特定の風力タービンの運転状態を考慮しておらず、かつ、(ii)各特定の状態において、タービンが各状態における運転の状態および時間の何回の変化に耐えたかについても考慮していない。上記事項は、風力タービンの過去の運転条件と対応する荷重を分類するために不可欠であり、かつ、コンポーネントの残存寿命を正確に評価するために重要である。加えて、データを収集するために開示された上記方法は、十分に正確ではない。このため、シミュレーションプロセスにおいて多くの不正確かつ誤ったデータが取得され、ダメージおよび寿命評価の誤差を招くであろう。
【0007】
[本発明の説明]
本明細書では、風力タービンの残存コンポーネント寿命を評価するための方法が開示されている。そして、当該方法により、従来技術の解決策に関する少なくとも上述の欠点が軽減されることが見出された。当該方法は、試運転日からの全てのコンポーネントに対するダメージの正確な定量化を提供する。当該方法は、特定の運転可能な風力タービンの各コンポーネントの残存寿命を、当該風力タービンの独自の位置(すなわち、風資源と乱流強度と設計構成)を含む当該風力タービン自体の実際の運転条件によって、正確に推定する。
【0008】
より具体的には、本発明の第1の態様に従って、当該発明は、計算エレメント(computational element)によって実行される、風力タービンモデルのコンポーネントの残存有効寿命を評価するための方法を説明する。計算エレメントは、運転可能な風力タービン(operational wind turbine)と通信可能に接続されている。上記運転可能な風力タービンは、(i)上記運転可能な風力タービンの実履歴データを測定するデータ取得モジュールと、(ii)運転の履歴状態を識別するための付加的な状態検出ユニットと、を備えている。そして、上記方法は、
-選択されたタイムインターバル(時間隔,時間幅)において、風速、ブレードピッチ位置、およびロータ速度を少なくとも含む履歴データを、上記データ取得モジュールから抽出するステップと、
-ラン(Run)、アイドル(Idle)、およびトランジション(遷移)(Transition)を少なくとも含む上記風力タービンの運転状態を、選択されたタイムインターバルごとに上記状態検出ユニットによって識別するステップと、
-識別された上記運転状態を、各タイムインターバルにおいて上記データ取得モジュールから抽出された上記データによって検証して、マッチしない不確定データ(uncertain data)を識別するステップと、
-上記風力タービンが費やした最長時間(the longest amount of time)における状態を含む優勢運転状態(prevailing operational state)を識別するステップと、
-選択された上記タイムインターバルにおける平均風速および乱流強度(turbulence intensity)を少なくとも含む風況を識別するステップと、
-シミュレーションモデルに基づき、風況、少なくとも優勢状態、およびその持続時間(duration thereof)に対応する上記風力タービンモデルについて、実際の発生荷重(実際に発生する荷重)(actual occurring loads)を取得するステップと、
を含んでいる。
【0009】
好ましくは、上記方法は、(i)上記風力タービンが状態を変化させた回数を含む複数の過渡イベント(過渡的なイベント,一時的なイベント)(transitory event)を識別するステップと、(ii)シミュレーションモデルに基づき、各タイムインターバルにおける上記過渡イベントおよび風況のうちの少なくとも1つについて、実際の発生荷重を取得するステップと、をさらに含んでいる。好ましくは、風力タービンの各コンポーネントが被る過渡イベント期間における全ての疲労荷重についての非常に正確な評価のために、全ての過渡イベントが考慮される。
【0010】
過渡イベントは、タイムインターバル内の短い時間を表しうるが、荷重および疲労ダメージに大きな影響を及ぼしうる。従って、本発明の利点の1つは、これらの過渡イベントを正確に検出し、特定の運転風力タービンモデルおよびその特定の風況変動に対する実際の荷重をシミュレートすることである。
【0011】
好ましくは、トランジション運転状態(遷移運転状態)は、3つのさらなる運転状態、すなわち、始動(スタートアップ)、通常停止(ノーマルストップ)、および緊急停止(エマージェンシーストップ)にサブカテゴリ化されている。しかしながら、本発明は、これらの運転状態のみに限定されない。より改良されたサブカテゴリ化(例:異なる種類の非常停止)が使用されてもよい。しかしながら、本発明は、上述の運転状態を最低限として使用することを示唆している。
【0012】
上述の通り、状態検出ユニットからの情報をデータ取得モジュールからの運転計量値(運転メトリクス)と組み合わせることによって、状態識別ユニットを実現できる。このことは、誤解を招く状態識別(misleading state identification)を防止し、複数の状態変化を取り扱うことを可能にする。
【0013】
好ましくは、上記状態検出ユニットは、上記風力タービンの内部制御システムの一部であり、各運転状態に応じた論理変数として与えられる。
【0014】
好ましくは、上記データ取得モジュールは、各タイムインターバルにおけるジェネレータパワー変動(発電機電力変動)(generator power variation)を含んでいる。
【0015】
あるいは、上記状態検出ユニットは、上記データ取得モジュールから運転状態を識別する計算エレメントによって実行されるコードであってもよい。例えば、上記コードは、データ取得ユニットから、独立したセンサによって供給されるデータ(例:ブレードピッチ、発電機出力、ロータ速度、および風速)を組み合わせ、かつ、瞬間的なデータを再度比較することによって、不確定データ、誤データ(erroneous data)、および/または対応しないデータを検証および識別しうるアルゴリズムであってよい。
【0016】
好ましくは、風力タービンシミュレーションは、空力弾性シミュレーション(aeroelastic simulation)、動的多体解析、有限要素シミュレーション、空気サーボ弾性モデル、または、信頼性のある疲労荷重を得るために風力タービンを忠実に表す任意のモデルであってよい。特定の風力タービンのモデルは、各運転状態に応じた実験計画(design of experiment)によって実行されるべきである。モデルは、風に関するタービンの全ての介在部分および/または任意の他の励振源との間の相互作用を、地球伴流または海波(earth wake or sea waves)としてキャプチャするために十分な表現力を有しているべきである。これらの相互作用は、タービンが露出された励振源である場合に生じる慣性力、弾性力、空気力学的力(aerodynamic force)であってよい。
【0017】
好ましくは、上述の相互作用に加えて、タービンの制御メカニズム(制御機構)が考慮されるべきである。例えば、空力弾性シミュレーションが選択された場合、制御メカニズムは、タービンの関連する全ての動的応答がキャプチャされるように、特定のタービンの真の制御挙動を十分な精度によって再現すべきである。
【0018】
各運転状態に応じた実験計画は、関連する全ての風条件を伴うべきである。本発明は、いかなる特定の風況のセットにも限定されない。但し、少なくとも、平均風速、乱流強度、垂直流入方向(アップフローとも称される)、水平流入方向(ヨーエラーとも称される)、ウィンドシア(wind shear)、および空気密度を用いることが示唆されている。全ての条件の単位は、一貫している必要がある。平均風速は、サンプル期間(例:10分)内における、タービンハブ高さにおける平均風速を指すことが通常である。乱流強度は、風速の標準偏差を同じサンプル期間における平均風速によって除算した値として計算されうる。乱流強度を算出するために、他の方法が適用されてもよい。ウィンドシアは、ウィンドグラディエント(風勾配)とも称され、水平方向における平均風速の差を指す。ウィンドシアは、べき乗則方程式(power law equation)を用いて表すことができる。当該方程式の指数は、実験計画に応じた値として使用されうる。各実験について、空力弾性モデルがシミュレートされる。シミュレーションの継続時間は、上記タイムインターバル(例:10分)と等しくあるべきである。さらに、モデルがその初期条件(例:休止時)から特定の実験の運転状態へと収束するために必要なトランジション時間(遷移時間)は、シミュレーションから除外されるべきである。当該トランジション時間は、所与の実験(風況)に応じたタービンの実際の挙動を表していないからである。
【0019】
好ましくは、上記方法は、各運転状態および風況に応じた疲労等価荷重(ダメージ等価荷重とも称される)の計算をさらに伴う。この計算は、複数のタイムインターバルにおける複数のタービンシミュレーションによって実行される。これにより、運転可能な風力タービンの特定の位置における少なくとも1つのコンポーネントに対して、タイムインターバルごとに各運転状態における疲労等価荷重を評価できる。これらの荷重値は、最初に記録された時変荷重と同じタイムインターバル(例:10分)において、風力タービンコンポーネントに対する同じダメージを生じさせるはずである。本発明は、疲労等価荷重値を計算するための方法を特定していない。但し、(i)構造コンポーネントにはレインフローカウンティング法が、(ii)全てのベアリング(軸受)コンポーネントおよびギアコンポーネントには荷重回転分布が、用いられることが示唆されている。上記荷重は、各実験の結果である。完全な実験計画に応じたタービンモデルが実行されると、各実験の疲労等価荷重が収集され、それぞれの風況と相関付けられる。
【0020】
好ましくは、さらなるステップは、各運転状態、風況、および1つの荷重の種類(例:風力タービンの決定されたコンポーネントの所定の位置における、曲げモーメント、トルク、スラスト力、せん断力、または疲労等価荷重)について、超次元応答モデル(hyper dimensional response model,HDRM)表現をモデル化することである。好ましくは、次いで、相関は、超次元応答曲面モデル(hyper-dimensional response surface model)によって表されるべきである。超次元応答曲面モデルは、複数の説明変数と1つ以上の応答変数との間の関係を探索する。この場合、応答曲面モデルは、風況に対する疲労等価荷重を探索する。実行された実験の所与のセットに基づく応答曲面モデルを確立するための種々の技法、例えば、テイラー級数(Taylor Series)、ラジアル基底関数(Radial Basis Function)、およびクリギング(Kriging)が存在する。本発明は、使用される技法を特定しない。但し、その替わりに、本発明は、相関のための最良の表現を特定するために、様々な技法がテストされるべきであることを示唆している。応答曲面モデルを生成するプロセスは、同一または類似の風況について、全ての運転状態(ラン、アイドル、トランジション)に対して繰り返されるべきである。このことは、異なるタービンモデルに対する超表面応答モデルを構築(開発)する有用な方法であり、かつ、特定の運転状態に応じた任意の風速および乱流強度に対する疲労等価荷重の評価を表現する手軽な方法である。このことは、同じウィンドファームまたは異なるウィンドファームにおいて、同じモデルの別の同等の(等価な)タービンについて評価または相関付けを行うために実行されてよい。風力リソース(風力資源)次第では、過渡イベントの数が同じにならない場合もあることに留意されたい。但し、同じ風力タービンモデルに対する特定の運転状態および風況における、特定のコンポーネントに対する疲労ダメージについての超次元応答モデルは同等であるべきである。
【0021】
どの応答曲面モデルを利用すべきかは、各タイムインターバルのプロセスにおいて以前に識別された運転状態に依存する。
【0022】
好ましくは、上述の任意のステッブは、履歴運転条件および疲労等価荷重を用いた、風力タービンの少なくとも1つのコンポーネントについての信頼性分析または残存有効寿命のために使用されうる。
【0023】
本方法は、試運転日から本日までに上記タービンが受けた荷重の時系列をさらに含みうる。このことは、試運転日からの複数のタイムインターバルにおける複数のタービンシミュレーションによって実行されることに留意されたい。これにより、運転可能な風力タービンの少なくとも1つのコンポーネントについての履歴時系列疲労等価荷重を、試運転日から正確に評価できる。このことは、計算的であり、かつ、時間集約的でありうる。従って、等価な風力タービンモデル、または、より正確にはモデル化された特定の風力タービンについて、超応答曲面モデルが計算されると、当該超応答曲面モデルは、所与のタービンモデルについての代替的な正確かつ高速な推定でありうる。
【0024】
好ましくは、上記方法は、試運転日からの実際の発生荷重による、風力タービンの各コンポーネントについての信頼性分析または残存有効寿命モデルをも含む。より詳細には、次いで、荷重時系列は、ブレード、メインシャフト、ベアリング、タワー、および他のコンポーネントなどの風力タービンコンポーネントのそれぞれについて、線形ダメージ進行モデルまたは残存有効寿命計算(例:パーティクルフィルタ)と組み合わせて、応力サイクル曲線などの信頼性分析に使用されうる。
【0025】
各タービンにおける実際の発生荷重および荷重持続時間を、運転状態の変化と明確に区別することにより、より粒度の高いアセット(設備)による具体的な荷重分析が可能になる。これにより、性能および寿命の計算において、かなりの精度の増加が裏付けられる。実運転データおよび超表面モデルの利用により、傾向風況推定および認証運転条件風車モデル化に基づくアセスメントと比較して、より高い分解能(resolution)が実現される。
【0026】
さらに、真の荷重を把握(理解)することにより、OEMまたはサードパーティ(第三者)は、試運転されたタービンに対してより良好なレトロフィット設計(改良設計)を提供することができる。そして、真の荷重を把握することにより、本発明のモデルなどの寿命分析に対する適切な荷重と組み合わせることによって、オペレータに対し、より良好な故障リスクアセスメントを提供できる。
【0027】
正確なアセット固有の荷重は、短期の従来的なO&Mではなく、アセットアクションの長期計画に注目して、試運転済のタービンに対する新たな信頼性分析を実行するために必要である。
【0028】
好ましくは、本アプローチは、時系列における風および運転条件を入力として測定する。当該時系列は、任意のタイムインターバルを有しうる。但し、少なくとも10分(1.67e-3Hz)以内のタイムインターバルを使用することが最適である。さらに、好ましくは、入力時系列は、各タイムインターバルに応じた統計値(例:平均、最小値、最大値、および標準偏差)を含むべきである。
【0029】
時系列の源(ソース)は、当該方法から独立している。但し、好ましくは、入力データは、特定の風力タービンの監視制御兼データ取得部(Supervisory Control and Data Acquisition,SCADA)から取得されてよい。また、可能であれば、入力データは、近くの気象観測タワー(meteorological tower)によって補充されてよい。これにより、ウィンドシアと風方向変更(wind shear & veer)、風アップフロー、乱流強度、および空気密度などの風況を含めることができる。
【0030】
好ましくは、各10分データポイント内のタービンの状態に関する情報を提供する、識別されるべき2つの関心変数(関心のある変数)(variables of interest)が存在する。第1の変数は、タービンが状態を変化させた回数である。例えば、ランからポーズ(一時停止)へと変化し、次いで、レディ(準備状態)へと変化し、さらにランへと変化する。
すなわち、3つの状態が変化する。第2の変数は、所与の状態においてタービンが費やした最長時間を示すコード(符号)である。連続運転が生じている場合、この構成により、風力タービンが特定の状態において運転中であることが、運転センサとともに再度保証される。しかしながら、タイムインターバル内には、複数の状態変化が存在しうる。
【0031】
本発明は、タービンが発電しているかアイドリング状態にあるかを識別することに加えて、不確定データを識別することを追求している。すなわち、状態検出ユニットおよびSCADAからのコンフリクト情報(相反する情報,競合する情報)は、「非識別(not identified)」としてマークまたは識別される。さらに、「無(None)」、「ヌル(Null)」、または物理的に不可能な値などの失われた値または無効な値は、「ガベージ(garbage)」としてラベル付けされる。
【0032】
それぞれのデータポイントは、データセット内において関連付けられた状態、例えば、ラン、アイドル、ガベージ、非識別(unidentified)を有するであろう。さらに、状態のオン時間の順次的な性質(sequential nature)は、停止イベントの識別を可能にする。緊急停止は、状態変数または運転情報に基づいて、複数の停止の内から識別される。識別された停止の残りは、「通常停止」としてラベル付けされる。「アイドル」から「ラン」状態へのトランジションは、「始動」としてラベル付けされる。
【0033】
本発明の第2の態様に従って、当該発明は、風力タービンモデルのコンポーネントの残存有効寿命を評価するためのシステムを説明する。当該システムは、(i)運転可能な風力タービンの実履歴データを測定するデータ取得モジュールを少なくとも含む上記風力タービンモデルと、(ii)運転の履歴状態を識別する状態検出ユニットと、を備えており、上記システムは、計算エレメントを備えており、
上記計算エレメントは、
-選択されたタイムインターバルにおいて、風速、ブレードピッチ位置、およびロータ速度を少なくとも含む履歴データを、上記データ取得モジュールから抽出し、
-ラン、アイドル、およびトランジションを少なくとも含む上記風力タービンの運転状態を、選択されたタイムインターバルごとに上記状態検出ユニットによって識別し、
-識別された上記運転状態を、各タイムインターバルにおいて上記データ取得モジュールから抽出された上記データによって検証して、マッチしない不確定データを識別し、
-上記風力タービンが費やした最長時間における状態を含む優勢運転状態を識別し、
-選択された上記タイムインターバルにおける平均風速および乱流強度を少なくとも含む風況を識別し、
-シミュレーションモデルに基づき、風況、少なくとも優勢状態、およびその持続時間に対応する上記風力タービンモデルについて、実際の発生荷重を取得するために、
それらと通信可能に接続されている。
【0034】
好ましくは、上記計算エレメントは、本発明の第1の態様において開示された上述の方法のステップのうちの任意の1つを実行することができる。
【0035】
本発明の第3の態様に従って、当該発明は、上記方法、および、上述のステップのうちの任意の1つを実行するように適合化されたコンピュータプログラムを開示する。
【0036】
上記方法、および、当該方法を実行するように適合化された実装されたプログラムは、決定された特定の風況、トランジションイベント(遷移イベント)、および対応する実際の疲労荷重を経験する特定の風力タービンの各コンポーネントにおける、実際のダメージについての正確なシミュレーションを実行することを可能にする。従って、運転中の特定の風力タービンに応じたコンポーネントについて、改良されたレトロフィット設計を正確に行うことができる。さらに、適切なコンポーネントの変更および当該変更のタイミングが実現されうる。さらに、真の荷重を把握することにより、例えば本発明が説明している適切な荷重対寿命分析と組み合わせることによって、より良好な故障リスクアセスメントを提供することが可能になる。
【0037】
正確なアセット固有の荷重は、短期の従来的なO&Mではなく、アセットアクションの長期計画に注目して、試運転済のタービンに対する新たな信頼性分析を実行するために必要である。
【0038】
[図面の説明]
本明細書においてなされている説明を補完するために、かつ、本発明の構成についてのより良好な理解を補助するために、本発明の実際的な実施形態における好適な例に従って、図面のセットが、当該説明の一体的部分として添付されている。以下の事項が、例示的かつ非限定的な構成によって示されている。
【0039】
図1は、風力タービンのコンポーネント寿命を評価するための方法についての好適な実施形態のブロック図を示す。
【0040】
図2は、データ取得モジュールによって取得されるデータについての例示的なグラフ、および、当該データ取得モジュールによるトランジションイベントの例示的な識別を示す。
【0041】
図3は、実際の履歴風況(風速および乱流強度)を低速メインシャフトにおける疲労等価角モーメントに相関させる、例示的な超次元応答曲面モデルを示す。
【0042】
[本発明の好適な実施形態]
図1は、本明細書において開示されている方法についての好適な実施形態のブロック図を示す。記載されている好適な実施形態において、運転可能な風力タービンの残存コンポーネント寿命を評価する方法は、(i)運転可能な風力タービンの実際の履歴データを測定する、SCADAによる従来の監視システムを含むデータ取得モジュールと、(ii)運転の履歴状態を識別するために使用される付加的な状態検出ユニットと、を含んでいる。上記方法は、10分のタイムインターバルにおいて、データ取得モジュールから、風速、パワー、ピッチ位置、およびハブ角速度を含む履歴データを抽出するステップを含む。
図2は、データ取得モジュールによって収集されたデータの例示的な表現を示す。
図1の方法の次のステップは、10分の各タイムインターバルにおいて、ラン、アイドル、およびトランジションを少なくとも含む風力タービンの運転状態を、状態検出ユニットによって識別することである。トランジションはさらに、始動、通常停止、および緊急停止にサブカテゴリ化されている。
【0043】
上述した好適な実施形態では、状態検出ユニットは、運転可能な風力タービンの内部制御システムによって与えられる論理変数である。さらに、各タイムインターバルにおいて検出された各運転状態は、10分のタイムインターバルごとにSCADAから抽出されたデータによって検証される。そして、不確定データまたは誤データは破棄される(discarded)。
【0044】
風力タービンが状態を変化させた時間、および、風力タービンが所定の運転状態に費やした最長時間が、各タイムインターバル内において検出され、かつラベル付けされる。
【0045】
従って、これらのステップが実行された後、各タイムインターバルについて実際のクリーンなデータが収集され、運転状態およびトランジションイベントの回数(times)が考慮される。識別された各運転状態に応じた空力弾性シミュレーションモデルおよびその風況は、各運転状態、風況(速度および乱流強度)に応じた疲労荷重を識別するために、特定のタービンモデルに対して実行されるべきである。好適な実施形態では、風力タービンモデルの各風況および各運転状態に対して、複数の超表面応答モデルが実行される。従って、(i)実際の発生荷重とその持続時間、および、(ii)トランジションイベントは、シミュレーションおよび/または超応答曲面モデル、および、本明細書において開示されているデータを収集するための上記方法に基づいて正確に識別される。
【0046】
このプロセスは、試運転日から、風力タービンのタイムインターバルごとに繰り返される(反復される)。
【0047】
図1に示される通り、好適な実施形態において、上記方法は、風および運転条件を、空力弾性シミュレーションにおいて計算された各運転状態に応じた疲労等価荷重に相関させる複数の超次元応答表面モデルをさらに含んでいる。例えば、
図3は、運転状態ラン(RUN)について、風速および乱流強度を低速メインシャフトにおける疲労等価角モーメントに相関させる、上記超次元応答曲面モデルの例示的表現を示す。
【0048】
上述の通り、好適な実施形態では、上記方法は、各運転状態および各タイムインターバルおよび風力タービンの各コンポーネントについての疲労等価荷重の計算を含んでいる。レインフローカウンティング法は構造コンポーネントに対して使用され、荷重回転分布は全てのベアリングコンポーネントおよびギアコンポーネントに対して使用される。荷重は、各タイムインターバルにおける各実験についての結果である。当該荷重は、各タイムインターバルにおける動的荷重と同じダメージを与えるはずの等価荷重である。
【0049】
従って、各タイムインターバルにおける風況の平均値と試運転日からの対応する疲労等価荷重とを含む履歴時系列がモデル化される。
【0050】
さらに、履歴時間運転条件時系列と各タイムインターバルにおける疲労等価荷重とを用いて、風力タービンの各コンポーネントについての信頼性分析または残存有効寿命が実行される。
【0051】
超次元応答曲面モデルは、複数の説明変数と1つ以上の応答変数との間の関係を探索する。本ケースでは、応答曲面モデルは、風況に対する疲労等価荷重を探索する。実行された実験の所与のセットに基づく応答曲面モデルを確立するための種々の技法、例えば、テイラー級数、ラジアル基底関数、およびクリギングなどが存在する。本発明は、使用される技法を特定しない。但し、その替わりに、本発明は、相関のための最良の表現を特定するために、様々な技法がテストされるべきであることを示唆している。応答曲面モデルを生成するプロセスは、同一または類似の風況について、すべての運転状態(ラン、アイドル、トランジション)に対して繰り返されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【
図1】風力タービンのコンポーネント寿命を評価するための方法についての好適な実施形態のブロック図を示す。
【
図2】データ取得モジュールによって取得されるデータについての例示的なグラフ、および、当該データ取得モジュールによるトランジションイベントの例示的な識別を示す。
【
図3】実際の履歴風況(風速および乱流強度)を低速メインシャフトにおける疲労等価角モーメントに相関させる、例示的な超次元応答曲面モデルを示す。