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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-07
(45)【発行日】2023-03-15
(54)【発明の名称】再生補強繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 11/16 20060101AFI20230308BHJP
   C08J 11/26 20060101ALN20230308BHJP
【FI】
C08J11/16 ZAB
C08J11/26
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022567565
(86)(22)【出願日】2021-12-22
(86)【国際出願番号】 JP2021047695
(87)【国際公開番号】W WO2022138764
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2022-11-07
(31)【優先権主張番号】P 2020213708
(32)【優先日】2020-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520474783
【氏名又は名称】株式会社ミライ化成
(74)【代理人】
【識別番号】100119585
【弁理士】
【氏名又は名称】東田 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100168572
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 仁志
(72)【発明者】
【氏名】円子 春菜
【審査官】岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102391543(CN,A)
【文献】特開2000-034362(JP,A)
【文献】特開2019-136932(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111171373(CN,A)
【文献】特開2017-104847(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104592546(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102731821(CN,A)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0047750(KR,A)
【文献】特開平11-109138(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03754054(EP,A1)
【文献】特開2020-114904(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 11/16
C08J 11/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂と補強繊維とを含む繊維強化樹脂材料を無機酸および水を含む酸性溶液により処理する第1の工程と、
前記第1の工程後に前記補強繊維を含む前記繊維強化樹脂材料を酸化剤を含む処理液により処理し、前記繊維強化樹脂材料の前記樹脂の少なくとも一部を前記処理液に溶解させる第2の工程と、を有し、
前記無機酸は、硫酸およびリン酸からなる群から選択される1種以上を含み、
前記樹脂が、塩基性を有する化学構造を有する樹脂成分を含む、再生補強繊維の製造方法。
【請求項2】
前記無機酸に含まれる成分のうち最もモル濃度の大きい成分のpKaが、5.0以下である、請求項1に記載の再生補強繊維の製造方法。
【請求項3】
前記酸性溶液中における前記無機酸の濃度が、0.5mol/L以上である、請求項1または2に記載の再生補強繊維の製造方法。
【請求項4】
前記酸化剤は、酸化力を有する酸を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の再生補強繊維の製造方法。
【請求項5】
前記酸化力を有する酸は、硝酸、硫酸と硝酸との混酸、硝酸と塩酸との混酸(王水)および過酸化水素と硫酸との混合溶液からなる群から選択される1種以上を含む、請求項4に記載の再生補強繊維の製造方法。
【請求項6】
前記塩基性を有する化学構造を有する樹脂成分は、主鎖構造に前記塩基性を有する化学構造を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の再生補強繊維の製造方法。
【請求項7】
前記塩基性を有する化学構造は、1、2または3級アミド結合である、請求項1~6のいずれか一項に記載の再生補強繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2020年12月23日に日本国において出願された日本国特許出願:特願2020-213708に基づく優先権を主張し、その全内容を参照により援用する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、再生補強繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ガラス繊維等の繊維を強化材として用いた繊維強化プラスチック(Fiber Reinforced Plastics;FRP)は、軽量、高強度、かつ高弾性の材料であり、小型船舶、自動車、鉄道車両等の部材に幅広く使用されている。また、更なる軽量化、高強度化、及び高弾性化を目的として、炭素繊維を強化材として用いた炭素繊維強化プラスチック(Carbon Fiber Reinforced Plastics;CFRP)が開発されており、航空機、自動車等の部材に使用されている。
【0004】
近年、使用済みの繊維強化プラスチックの廃棄量が増大傾向にあり、その再生利用技術の開発が検討されている。繊維強化プラスチックの補強繊維を回収する方法としては、主に、熱処理により樹脂成分を熱分解して除去し補強繊維を回収する熱分解法と、溶媒を用いて樹脂成分を溶解させて除去し補強繊維を回収する溶媒法とが挙げられる。このうち、溶媒法は、樹脂成分の回収が容易であり、資源リサイクルの観点から有利である。
【0005】
溶媒法としては、例えば、特許文献1、2において提案される方法が挙げられる。特許文献1には、炭素繊維複合材料を、酸性水溶液に浸漬して、炭素繊維複合材料の樹脂分の少なくとも一部を溶出して略繊維状物を得る工程、及び略繊維状物をアルカリ性水溶液に浸漬して、略繊維状物の樹脂分の少なくとも一部を溶出して繊維状物を得る工程を含む、炭素繊維の製造方法が提案されている。また、特許文献2には、リン酸を含有する溶解液を用いて、炭素繊維強化プラスチック材の母材を溶解する工程を備え、前記溶解液のリン酸濃度は、110質量%以上であり、前記溶解する工程は、前記溶解液の温度が200℃以上300℃以下で行われる炭素繊維回収方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-136932号公報
【文献】特開2020-50704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の溶媒法においては、樹脂成分を除去する効率が十分に高くなく、例えば特許文献1、2に記載される方法においては、溶媒を含む処理液の浸透を考慮して繊維強化樹脂材料を数センチ程度のチップ状に細かく裁断した上で樹脂成分を除去している。このように繊維強化樹脂材料を細かく裁断してしまうと、繊維強化樹脂材料から回収される再生補強繊維の長さが必然的に短くなり、回収前の繊維強化樹脂材料中に含まれる補強繊維の性能を維持することが困難となるとともに、回収される補強繊維の用途が、限定されてしまう。一方で、溶媒法により樹脂成分を効率除去するためには、高温等の過酷な条件で長時間処理することが要求される。
【0008】
また、溶媒法においては、繊維強化樹脂材料に含まれる樹脂成分の種類も、樹脂成分の除去効率に大きな影響を与える。例えば、アミン硬化エポキシ樹脂は、処理液への溶解が非常に困難であり、溶媒法の適用が困難であった。アミン硬化エポキシ樹脂をはじめとする塩基性を有する化学構造を有する樹脂成分を含む繊維強化樹脂材料についても、溶媒法により補強繊維を回収することができれば、より多くの繊維強化樹脂材料から補強繊維を回収することが可能となる。
【0009】
したがって、本発明の目的は、溶媒法でありながら塩基性を有する化学構造を有する樹脂成分を含む繊維強化樹脂材料について効率的に補強繊維を回収することのできる、再生補強繊維の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、塩基性を有する化学構造(以下、単に「塩基性構造」ともいう)を有する樹脂成分を含む繊維強化樹脂材料から補強繊維の回収を検討する中で、酸性溶液を用いて繊維強化樹脂材料を膨潤させ、その後酸化剤により樹脂成分を酸化させることにより、塩基性構造を有する樹脂成分が溶媒に効率よく溶解することを見出した。
そして、以上の知見に基づき、本発明者らはさらに検討を行い、本発明に至った。
【0011】
本発明の要旨は、以下の通りである。
(1) 樹脂と補強繊維とを含む繊維強化樹脂材料を酸を含む酸性溶液により処理する工程と、
前記繊維強化樹脂材料を酸化剤を含む処理液により処理し、前記繊維強化樹脂材料の前記樹脂の少なくとも一部を前記処理液に溶解させる工程と、を有し、
前記樹脂が、塩基性を有する化学構造を有する樹脂成分を含む、再生補強繊維の製造方法。
(2) 前記酸に含まれる成分のうち最もモル濃度の大きい成分のpKaが、5.0以下である、(1)に記載の再生補強繊維の製造方法。
(3) 前記酸は、硫酸、塩酸、リン酸および酢酸からなる群から選択される1種以上を含む、(1)または(2)に記載の再生補強繊維の製造方法。
(4) 前記酸性溶液中における前記酸の濃度が、0.5mol/L以上である、(1)~(3)のいずれか一項に記載の再生補強繊維の製造方法。
(5) 前記酸化剤は、酸化力を有する酸を含む、(1)~(4)のいずれか一項に記載の再生補強繊維の製造方法。
(6) 前記酸化力を有する酸は、硝酸、硫酸と硝酸との混酸、硝酸と塩酸との混酸(王水)および過酸化水素と硫酸との混合溶液からなる群から選択される1種以上を含む、(1)~(5)のいずれか一項に記載の再生補強繊維の製造方法。
(7) 前記塩基性を有する化学構造を有する樹脂成分は、主鎖構造に前記塩基性を有する化学構造を有する、(1)~(6)のいずれか一項に記載の再生補強繊維の製造方法。
(8) 前記塩基性を有する化学構造は、1、2または3級アミド結合である、(1)~(7)のいずれか一項に記載の再生補強繊維の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
以上の構成により溶媒法でありながら塩基性を有する化学構造を有する樹脂成分を含む繊維強化樹脂材料について効率的に補強繊維を回収することのできる、再生補強繊維の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態に係る再生補強繊維の製造方法の一例について説明する。本発明に係る再生補強繊維の製造方法は、樹脂と補強繊維とを含む繊維強化樹脂材料を酸を含む酸性溶液により処理する工程(酸処理工程)と、前記繊維強化樹脂材料を酸化剤を含む処理液により処理し、前記繊維強化樹脂材料の前記樹脂の少なくとも一部を前記処理液に溶解させる工程(酸化工程)と、を有し、前記樹脂が、塩基性を有する化学構造(塩基性構造)を有する樹脂成分を含む。以下、本実施形態に係る再生補強繊維の製造方法の各工程について順に説明する。
【0014】
2.1. 準備工程
まず、酸処理工程に先立ち、繊維強化樹脂材料を準備する。繊維強化樹脂材料は、補強繊維がマトリックス樹脂(単に「樹脂」ともいう)に埋設されることにより強化された樹脂材料である。このような、繊維強化樹脂材料としては、特に限定されず、例えば、炭素繊維強化プラスチック(Carbon Fiber Reinforced Plastics;CFRP)、ガラス繊維強化プラスチック(Glass Fiber Reinforced Plastics;GFRP)、ガラス長繊維マット強化熱可塑性プラスチック(Glass-Mat reinforced Thermoplastics;GMT)、アラミド繊維強化プラスチック(Aramid-Fiber-Reinforced Plastics;AFRP)、ケブラー繊維強化プラスチック(Kevlar Fiber Reinforced Plastics;KFRP)、ダイニーマ繊維強化プラスチック(Dyneema Fiber-Reinforced Plastics;DFRP)、バサルト繊維強化プラスチック、ボロン繊維強化プラスチック、およびこれらのプリプレグ等が挙げられる。上述した中でも、炭素繊維強化プラスチックは、使用量が比較的多く、また炭素繊維の製造時における消費エネルギー量が多大であるため、使用済みの炭素繊維強化プラスチックおよび/またはこのプリプレグ中の炭素繊維を回収し、再利用することが望ましい。
【0015】
また、繊維強化樹脂材料中の補強繊維は、複数の補強繊維を一方向に引き揃えた繊維束(トウ)、補強繊維の繊維束を経糸および緯糸に用いた織物または不織布の状態で存在してもよいし、各補強繊維がランダムな位置および方向に配置された状態で存在していてもよい。なお、補強繊維はチップ状であってもよく、この場合、例えば、繊維束を切断したチョップド繊維、チップ状の織物等が挙げられる。
【0016】
本実施形態において、繊維強化樹脂材料を構成する樹脂は、塩基性構造を有する樹脂成分を含む。塩基性構造を有する樹脂成分は、後述する酸処理工程において、酸性溶液中の水素イオン(プロトン)を配位させ、膨潤することができる。膨潤した塩基性構造を有する樹脂成分に対しては後述する酸化工程において酸化剤が十分に浸透することができ、この結果樹脂成分の処理液への溶解が促進される。
【0017】
樹脂成分が有する塩基性構造としては、特に限定されないがアミド結合、イミド結合、アゾ基、ジアゾ基、ウレア結合、ウレタン結合、ペプチド結合、イソシアナート基、アジ基等、もしくはそれらから派生、類似した化学構造等が挙げられ、塩基性構造を有する樹脂成分はこれらのうち1種または2種以上を含むことができる。上述した中でも、本実施形態に係る方法は、塩基性構造として1、2または3級アミド結合を有する樹脂成分を膨潤、分解するのに好適に用いることができる。
【0018】
また、塩基性構造を有する樹脂成分は、好ましくは、その主鎖構造に塩基性をもつ化学結合を含む。これにより、酸処理工程において、塩基性を有する化学構造と反応することをより一層膨潤させることができ、後述する酸化工程において、樹脂成分の分解およびこれに引き続く処理液への溶解を促進させることができる。このような塩基性構造を有する樹脂成分としては、アミン硬化エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド、メラミン樹脂、アニリン樹脂、ウレア樹脂等が挙げられ、樹脂は、これらのうち1種をまたは2種以上を樹脂成分として含むことができる。
【0019】
なお、塩基性構造を有する樹脂成分は、その側鎖に塩基性構造を含んでもよい。このような樹脂成分としては、後述する各種樹脂成分の側鎖に上述したような塩基性構造を有するものが挙げられる。
【0020】
また、繊維強化樹脂材料中の樹脂における塩基性構造を有する樹脂成分の含有量は、特に限定されないが、例えば1質量%以上、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上であり、さらに好ましくは樹脂は本質的に塩基性構造を有する樹脂成分からなり、最も好ましくは樹脂は塩基性構造を有する樹脂成分からなる。これにより、繊維強化樹脂材料からの樹脂の除去および補強繊維の回収がより一層容易となる。
【0021】
また、繊維強化樹脂材料中の樹脂は、塩基性構造を有する樹脂成分以外の樹脂成分を有してもよい。このような樹脂成分としては、特に限定されるものではなく、例えば、熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂のいずれであってもよい。また、熱硬化性樹脂は、未硬化のものであってもよいし、硬化物であってもよい。
【0022】
熱硬化性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、シアネート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂等が挙げられ、これらのうち1種を単独でまたは2種以上を組み合わせで用いることができる。
【0023】
熱可塑性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリカーボネート、アクリル樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、ポリエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド等が挙げられ、これらのうち1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
また、繊維強化樹脂材料は、それ自身がシート状をなしていてもよいし、裁断されたチップ状をなしていてもよい。特に、本実施形態に係る方法は、樹脂の除去を比較的効率よく行うことができるため、従来補強繊維の回収が困難であったシート状の繊維強化樹脂材料についても好適に適用できる。
【0025】
また、繊維強化樹脂材料の大きさも特に限定されない。しかしながら、繊維強化樹脂材料中の補強繊維の方向を保持することを考慮すると、繊維強化樹脂材料の一片の長さは、例えば、100mm以上、好ましくは500mm以上3000mm以下であることができる。より具体的には、繊維強化樹脂材料として、例えば1000mm×500mmの広さの積層された厚さ300mm程度の繊維強化樹脂材料シートを利用することもできる。上述したような比較的大きな繊維強化樹脂材料は、処理液の浸透が進行しにくく、樹脂の除去および補強繊維の回収が困難であった。しかしながら、本実施形態に係る方法は、樹脂の除去を比較的効率よく行うことができるため、比較的大きな繊維強化樹脂材料についても適用可能である。
【0026】
2.2. 酸処理工程
本工程においては、準備した繊維強化樹脂材料を酸を含む酸性溶液により処理する。このように、繊維強化樹脂材料を酸を含む酸性溶液により処理することにより、塩基性構造を有する樹脂成分に酸性溶液中の水素イオンを配位させて塩を形成させ、この結果、塩基性構造を有する樹脂成分ひいては樹脂自体が膨潤する。これにより、後述する酸化工程において酸化剤が樹脂に浸透しやすくなり、酸化工程における樹脂の分解・溶出が促進される。
【0027】
本工程における酸性溶液は、少なくとも酸を含み、任意に溶媒を含む。酸としては、無機酸もしくは有機酸またはこれらの混合物を用いることができる。無機酸としては、例えば、硫酸、塩酸、リン酸等を挙げることができ、これらのうち1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。リン酸としては、例えば、正リン酸、メタリン酸、次リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ピロリン酸、トリメタリン酸、テトラメタリン酸、ピロ亜リン酸等が挙げられる。有機酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、クエン酸、コハク酸、シュウ酸等が挙げられる。
【0028】
上述した中でも、樹脂成分を好適に膨潤させることができることから、酸は、無機酸、特に硫酸、塩酸、リン酸および酢酸からなる群から選択される1種以上を含むことが好ましい。
【0029】
また、酸に含まれる成分のうち最もモル濃度の大きい成分の酸解離定数pKaは、特に限定されないが、好ましくは5.0以下、より好ましくは1.5以下である。このように酸に含まれる成分のうち最もモル濃度の大きい成分のpKaが十分に小さいことにより、酸性溶液中に水素イオンが放出されやすくなり、この結果、効率よく樹脂成分を膨潤させることができる。なお、酸に含まれる成分のうち最もモル濃度の大きい成分が複数の酸解離定数を有する場合、1段目、すなわちより小さい酸解離定数が上記の値であることが好ましい。
【0030】
酸性溶液中に含まれる酸の濃度は特に限定されないが、例えば0.5mol/L以上、好ましくは1.0mol/L以上、より好ましくは3.5mol/L以上である。これにより、酸性溶液中に水素イオンが放出されやすくなり、この結果、効率よく樹脂成分を膨潤させることができる。なお、酸の濃度の上限は、酸性溶液として存在し得る限り限定されるものではなく、酸の種類によって異なる。
【0031】
また、酸性溶液は、通常溶媒を含む。溶媒としては、上述した酸と混合可能であり、かつ当該酸に対して化学的に安定であれば、特に限定されず、例えば、水および/または各種有機溶媒を用いることができる。
【0032】
有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、アルコール系溶媒、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、芳香族炭化水素、ハロゲン化芳香族炭化水素、ハロゲン化脂肪族炭化水素等が挙げられ、これらのうち1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
アルコール系溶媒としては、脂肪族アルコール系溶媒、芳香族アルコール系溶媒、グリコール系溶媒等や、グリセリン等のその他多価アルコールが挙げられる。
脂肪族アルコール系としては、例えば、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、2-メチル-1-ブタノール、2-メチル-2-ブタノール、3-メチル-1-ブタノール、3-メチル-2-ブタノール、2,2-ジメチル-1-プロパノール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、3-ヘキサノール、2-エチルヘキサノール、2-メチル-1-ペンタノール、4-メチル-2-ペンタノール、2-エチル-1-ブタノール、1-ヘプタノール、2-ヘプタノール、3-ヘプタノール、ドデカノール、メタノール、エタノール等の非環式脂肪族アルコールや、シクロヘキサノール、1-メチルシクロヘキサノール、2-メチルシクロヘキサノール、3-メチルシクロヘキサノール、4-メチルシクロヘキサノール等の脂環式アルコールが挙げられる。
【0034】
芳香族アルコール系溶媒としては、例えば、フェノール、クレゾール、ベンジルアルコール、フェノキシエタノール等が挙げられる。
グリコール系溶媒としては、例えば、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール(分子量200~400)、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、ジプロピレングリコール等が挙げられる。
【0035】
エーテル系溶媒としては、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル等の脂肪族エーテル、1,3-ジオキソラン、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン、フラン等の環式エーテル、アニソール、フェネトール、ジフェニルエーテル、ベンゾフラン等の芳香族含有エーテル等が挙げられる。
【0036】
ケトン系溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、2-ペンタノン、3-ペンタノン、2-ヘキサノン、メチルイソブチルケトン、2-ヘプタノン、4-プタノン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、ホロン、イソホロン、アセチルアセトン、アセトフェノン、ジエチルケトン、ジアセトンアルコール等が挙げられる。
【0037】
芳香族炭化水素としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる。
ハロゲン化芳香族炭化水素としては、例えば、オルトクロロフェノール、オルト時クロロベンゼン等が挙げられる。
ハロゲン化脂肪族炭化水素としては、例えば、クロロホルム、塩化メチレン等が挙げられる。
【0038】
上述した中でも、酸との混合が容易であり、酸における水素イオンの解離を適切に行うために、溶媒が水を含むことが好ましい。なお、溶媒は、水および水と混和可能な有機溶媒の混合溶媒であってもよい。水と混和可能な有機溶媒としては、例えば、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒等が挙げられる。
【0039】
酸性溶液中に含まれる溶媒の含有量は、特に限定されず、酸等の他の成分の残部とすることができる。
【0040】
上述したような酸性溶液を用いて繊維強化樹脂材料を処理する。処理中における酸性溶液の温度は、特に限定されず、例えば0℃以上100℃以下、好ましくは50℃以上100℃以下である。
【0041】
酸性溶液による処理の時間は、特に限定されず、目的とする温度に達してから5分以上1200分以下、好ましくは10分以上120分以下である。
【0042】
また、酸性溶液による処理は、常圧下で行ってもよいし、減圧下で行ってもよいし、または加圧下で行ってもよい。酸性溶液による処理を加圧下で行う場合、例えば、0.11MPa以上7.0MPa以下、特に0.11MPa以上2.0MPa以下の雰囲気下で処理を行うことができる。なお、安全性および経済性を考慮すると、酸性溶液による処理は、常圧下で行うことが好ましい。
【0043】
なお、酸性溶液による繊維強化樹脂材料の処理は、特に限定されず、酸性溶液中に繊維強化樹脂材料を浸漬することにより行ってもよいし、スプレー等により酸性溶液を繊維強化樹脂材料に対し噴霧することにより行ってもよく、酸性溶液と繊維強化樹脂材料とが接触可能な任意の手段を採用することができる。また、酸性溶液による処理中において、酸性溶液を攪拌してもよい。また、繊維強化樹脂材料の繊維束が維持されるように繊維強化樹脂材料を固定具により固定してもよい。
【0044】
また、本工程において、繊維強化樹脂材料中の樹脂は、膨潤するが、その一部が分解および/または酸性溶液へ溶解してもよい。
【0045】
2.3. 酸化工程
本工程においては、酸性溶液により膨潤した樹脂を含む繊維強化樹脂材料を酸化剤により処理して、繊維強化樹脂材料を酸化剤を含む処理液により処理し、繊維強化樹脂材料の樹脂の少なくとも一部を処理液に溶解させる。酸性溶液により膨潤した樹脂を含む繊維強化樹脂材料は、酸化剤が樹脂に浸透しやすくなり、この結果、本工程においては、酸化剤により樹脂が効率よく分解・溶出する。
【0046】
本工程における処理液は、少なくとも酸化剤を含み、任意に溶媒を含む。酸化剤としては、特に限定されず、硝酸、熱濃硫酸、硫酸と硝酸との混酸、硝酸と塩酸との混酸(王水)、過酸化水素と硫酸との混合溶液、過塩素酸、塩素酸、次亜塩素酸、亜塩素酸、過臭素酸、臭素酸、次亜臭素酸、亜臭素酸、過ヨウ素酸、ヨウ素酸、次亜ヨウ素酸、亜ヨウ素酸等の酸化力を有する酸、これらのアルカリ(土類)金属塩、酸素、オゾン、過酸化水素、過酸化アセトン(過酸化水素とアセトンとの反応物)等の酸素系酸化剤、塩素、二酸化塩素、臭素、フッ素、ヨウ素等のハロゲン系酸化剤等が挙げられ、これらのうち1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、アルカリ金属元素としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウムが挙げられ、アルカリ土類金属としては、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、およびラジウムが挙げられる。
【0047】
上述した中でも、比較的取り扱いやすくかつ処理液の液性を安定させることができることから、酸化剤は、好ましくは酸化力を有する酸を含む。特に、樹脂成分の分解の効率の観点から、酸化剤は、より好ましくは硝酸、硫酸と硝酸との混酸、硝酸と塩酸との混酸(王水)および過酸化水素と硫酸との混合溶液からなる群から選択される1種以上を、特に好ましくは硝酸または過酸化水素と硫酸との混合溶液を含む。
【0048】
処理液中における酸化剤の濃度は、特に限定されず、処理される繊維強化樹脂材料中の樹脂成分の量に応じて適宜設定できる。しかしながら、例えば、酸化剤が酸化力を有する酸である場合、処理液における酸化剤の濃度は、例えば5質量%以上80質量%以下、好ましくは20質量%以上50質量%以下である。
【0049】
また、処理液は、通常溶媒を含む。溶媒としては、使用する酸化剤に対し安定であれば特に限定されず、例えば上述した処理液の溶媒に挙げられた水や各種有機溶媒を1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0050】
中でも、処理液に含まれる溶媒は、上述した酸性溶液の溶媒に含まれる水または有機溶媒を含むことが好ましい。酸性溶液が複数種の溶媒を含む場合、処理液は、これらの複数種の溶媒のうち1種以上を含むことが好ましい。これにより、処理液を繊維強化樹脂材料に接触させた際に、不本意な副反応が生じたり、膨潤した繊維強化樹脂材料が不本意に収縮したりすることがより確実に抑制される。
【0051】
また、処理液は、取り扱いの容易性および酸化剤による酸化反応を促進させる観点から、好ましくは水または水と混和可能な有機溶媒と水との混合溶媒、より好ましくは水を含む。
【0052】
また、処理液は、好ましくは中性または酸性、より好ましくは酸性を呈する。これにより、処理液を繊維強化樹脂材料に接触させた際に、酸性溶液により膨潤した繊維強化樹脂材料が中和されて不本意に収縮することが抑制される。
【0053】
具体的には、25℃の処理液のpHは、例えば、5.0以下、好ましくは2.0以下、より好ましくは1.5以下である。
【0054】
処理液中に含まれる溶媒の含有量は、特に限定されず、酸化剤等の他の成分の残部とすることができる。
【0055】
上述したような処理液を用いて繊維強化樹脂材料を処理する。処理中における処理液の温度は、特に限定されず、例えば0℃以上100℃以下、好ましくは50℃以上100℃以下である。
【0056】
処理液による処理の時間は、特に限定されず、目的とする温度に達してから5分以上1200分以下、好ましくは10分以上120分以下である。
【0057】
また、処理液による処理は、常圧下で行ってもよいし、減圧下で行ってもよいし、または加圧下で行ってもよい。処理液による処理を加圧下で行う場合、例えば、0.11MPa以上7.0MPa以下、特に0.11MPa以上2.0MPa以下の雰囲気下で処理を行うことができる。なお、安全性および経済性を考慮すると、処理液による処理は、常圧下で行うことが好ましい。
【0058】
なお、処理液による繊維強化樹脂材料の処理は、特に限定されず、処理液中に繊維強化樹脂材料を浸漬することにより行ってもよいし、スプレー等により処理液を繊維強化樹脂材料に対し噴霧することにより行ってもよく、処理液と繊維強化樹脂材料とが接触可能な任意の手段を採用することができる。また、処理液による処理中において、処理液を攪拌してもよい。また、繊維強化樹脂材料の繊維束が維持されるように繊維強化樹脂材料を固定具により固定してもよい。
【0059】
2.4. 洗浄工程
次に、必要に応じて洗浄を行う。洗浄は、洗浄液を繊維強化樹脂材料と接触させることにより行うことができる。具体的には、上記の酸化工程において、処理液を洗浄液に置き換えることにより実施できる。ただし、洗浄時における洗浄液の温度や洗浄時間は、適宜設定できる。
【0060】
洗浄液としては、上述した処理液の溶媒に挙げられた水や各種有機溶媒を1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、有機溶媒としては、上述した溶媒の他、以下のエステル系溶媒、アミド系溶媒を用いてもよい。
【0061】
エステル系溶媒としては、例えば、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸ブチル、ギ酸イソブチル、ギ酸ペンチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸ペンチル、酢酸イソペンチル、3-メトキシブチルアセタート、2-エチルブチルアセタート、2-エチルヘキシルアセタート、酢酸シクロヘキシル、酢酸ベンジル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸イソペンチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸ブチル、酪酸イソペンチル、イソ酪酸イソブチル、イソ吉草酸エチル、イソ吉草酸イソペンチル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸ブチル、γ-ブチロラクトン、シュウ酸ジエチル、シュウ酸ジブチル、マロン酸ジエチル、サリチル酸メチル、エチレングリコールジアセタート、ホウ酸トリブチル、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル等が挙げられる。
【0062】
アミド系溶媒としては、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、アセトアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、カプロラクタム、カルバミド酸エステル等が挙げられる。
【0063】
また、洗浄液には、塩基性物質が含まれていてもよい。塩基性物質により中和を行って液性を調節することにより、繊維強化樹脂材料中の残存する樹脂成分やその反応物を除去することができる。
【0064】
塩基性物質としては、例えば、リチウム、アルカリ金属、アルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、亜硫酸塩、硝酸塩等の無機塩基性物質や、ジメチルアミン、ジエチルアミン等のアミン化合物が挙げられ、これらのうち1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。アルカリ金属としては、例えばナトリウム、カリウム、セシウム、ルビジウム等を挙げることができる。アルカリ土類金属としては、例えばベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等が挙げられる。
【0065】
以上の酸処理工程、酸化工程および洗浄工程は、必要に応じてそれぞれ複数回行うことができる。例えば、酸処理工程および酸化工程を複数回繰り返したのちに洗浄工程を行ってもよい。また例えば、酸処理工程を複数回行った後、酸化工程を行い、その後洗浄工程を必要な回数行ってもよい。あるいは、例えば、酸処理工程、酸化工程、および洗浄工程をこの順に必要な回数行ってもよい。
【0066】
2.5. 乾燥工程
以上のようにして繊維強化樹脂材料から樹脂成分を溶解、除去した状態で、繊維強化樹脂材料を乾燥してもよい。乾燥は、例えば、繊維強化樹脂材料を気体に接触させることより行うことができる。接触させる気体としては、特に限定されないが、安全面から、空気または窒素等の不活性ガスが好ましい。
【0067】
また、乾燥時において、接触させる気体を加温してもよい。これにより、乾燥が促進される。加温時における気体の温度は、例えば0℃以上400℃以下、好ましくは80℃以上110℃以下である。
【0068】
ここで、繊維強化樹脂材料を必要に応じて固定しつつ乾燥を行ってもよい。これにより、繊維強化樹脂材料100に含まれる補強繊維の形状や配向を維持したまま補強繊維を乾燥させることが可能である。
【0069】
以上により、再生補強繊維を得ることができる。本実施形態に係る再生補強繊維の製造方法では、塩基性構造を有する樹脂成分を含む樹脂を含む繊維強化樹脂材料を酸性溶液により処理して、樹脂を膨潤させる。次いで、膨潤した樹脂を含む繊維強化樹脂材料を酸化剤を含む処理液により処理し、繊維強化樹脂材料の樹脂の少なくとも一部を処理液に溶解させる。酸性溶液により膨潤した樹脂を含む繊維強化樹脂材料は、酸化剤が樹脂に浸透しやすくなり、この結果、酸化剤により樹脂が効率よく分解し、処理液に溶出する。
【0070】
これにより、本実施形態によれば、溶媒法でありながら塩基性構造を有する樹脂成分を含む繊維強化樹脂材料について効率的に補強繊維を回収することができる。特に、本実施形態によれば、アミン硬化エポキシ樹脂等の従来除去が困難であった樹脂を用いた繊維強化樹脂材料からの補強繊維の回収が可能となる。さらには、本実施形態によれば、効率的な樹脂の除去が可能であることから、従来とは異なり、繊維強化樹脂材料を細かく裁断してから樹脂の溶解処理を行う必要がない。すなわち、比較的大きな繊維強化樹脂材料であっても、本実施形態に係る方法を採用することにより、樹脂を酸により膨潤させて酸化剤の樹脂への浸透を促進させることができ、均一かつ効率的な樹脂の除去が可能である。
【0071】
なお、酸性溶液や処理液に溶解した樹脂については、回収してリサイクルすることも可能である。
【実施例
【0072】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0073】
1.再生補強繊維の製造
(実施例1)
(i)準備工程
まず、試料としての炭素繊維強化樹脂材料を用意した。用いた炭素繊維樹脂材料は、長さ約30cm、幅5cm、厚さ約1mmのシートであった。また、炭素繊維強化樹脂材料を構成する樹脂は、アミン硬化エポキシ樹脂であった。
【0074】
(ii)酸処理工程
次に、炭素繊維強化樹脂材料を80℃に加熱しておいた40wt%(5.3mol/L)硫酸水溶液に1時間浸漬した。浸漬時において、硫酸水溶液の温度は80℃に維持した。
【0075】
(iii)酸化工程
次に、炭素繊維強化樹脂材料を80℃に加熱しておいた40wt%(8.0mol/L)硝酸水溶液に60分間浸漬した。浸漬時において、硝酸水溶液の温度は80℃に維持した。
【0076】
(iv)洗浄工程
次に、反応生成物をN-メチル-2-ピロリドンで洗浄し、その後20質量%炭酸水素ナトリウム水溶液で中和し、その後炭素繊維強化樹脂材料中の炭素繊維を回収して、実施例1に係る再生炭素繊維を得た。
【0077】
(実施例2)
洗浄工程において反応生成物を10質量%水酸化ナトリウム水溶液(2.8mol/L)で中和および洗浄した以外は、実施例1と同様にして、実施例2に係る再生炭素繊維を得た。
【0078】
(実施例3)
酸化工程を以下のようにして行った以外は、実施例1と同様にして、実施例3に係る再生炭素繊維を得た。
酸化工程では、過酸化水素と硫酸との混合溶液による処理を行った。具体的には、酸処理工程後の炭素繊維強化樹脂材料を80℃に加熱しておいた95wt%(18.0mol/L)硫酸水溶液に15分浸漬し、その後、硫酸の体積換算で10%に当たる35wt%(11.6mol/L)過酸化水素水溶液を、炭素繊維強化樹脂材料を浸漬している硫酸水溶液に対し、5分かけて滴下した。
【0079】
(実施例4)
洗浄工程において反応生成物を10質量%水酸化ナトリウム水溶液(2.8mol/L)で中和および洗浄した以外は、実施例3と同様にして、実施例4に係る再生炭素繊維を得た。
【0080】
(実施例5)
酸処理工程において40wt%(5.3mol/L)硫酸水溶液に代えて35wt%(11.3mol/L)塩酸水溶液を用いた以外は、実施例3と同様にして、実施例5に係る再生炭素繊維を得た。
【0081】
(実施例6)
酸処理工程において40wt%(5.3mol/L)硫酸水溶液に代えて35wt%(11.3mol/L)塩酸水溶液を用いた以外は、実施例4と同様にして、実施例6に係る再生炭素繊維を得た。
【0082】
(実施例7)
酸処理工程において40wt%(5.3mol/L)硫酸水溶液に代えて40wt%(5.1mol/L)りん酸水溶液を用いた以外は、実施例3と同様にして、実施例5に係る再生炭素繊維を得た。
【0083】
(実施例8)
酸処理工程において40wt%(5.3mol/L)硫酸水溶液に代えて40wt%(5.1mol/L)りん酸水溶液を用いた以外は、実施例4と同様にして、実施例6に係る再生炭素繊維を得た。
【0084】
(比較例1)
酸処理工程を省略し、酸化工程における炭素繊維強化樹脂材料の硫酸水溶液への浸漬時間を120分間とした以外は、実施例1と同様にして、比較例1に係る再生炭素繊維を得た。
(比較例2)
酸処理工程を省略し、酸化工程における炭素繊維強化樹脂材料の硫酸水溶液への浸漬時間を120分間とした以外は、実施例2と同様にして、比較例2に係る再生炭素繊維を得た。
【0085】
(比較例3)
酸処理工程を省略した以外は、実施例3と同様にして、比較例3に係る再生炭素繊維を得た。
(比較例4)
酸処理工程を省略した以外は、実施例4と同様にして、比較例4に係る再生炭素繊維を得た。
【0086】
2.再生補強繊維の評価
得られた実施例1~8および比較例1~4にかかる再生炭素繊維について、熱重量分析(TGA)により残存樹脂量を算出した。具体的には、まず、300ml/minの流量で窒素を流しながら10℃/minの昇温速度で実施例1~8および比較例1~4にかかる再生炭素繊維を加熱し、200℃から800℃までの間の再生炭素繊維の重量の減少分を測定した。次に、熱重量分析における炭素繊維自体の重量減少を考慮し、同条件下での新品炭素繊維の重量減少がないことを予め測定で確認した。なお、上記の残存樹脂量の測定は、3回行い、その平均値を実施例1~8および比較例1~4にかかる再生炭素繊維の残存樹脂量とした。なお、未処理の炭素繊維補強樹脂材料中の樹脂量は、31.2重量%である。結果を実験条件とともに表1に示す。
【0087】
【表1】
【0088】
表1に示すように、実施例1~8においては炭素繊維強化樹脂材料から効率よく樹脂を除去できたことが確認できた。具体的には、実施例1に係る再生炭素繊維は比較例1に係る再生炭素繊維と比較して、実施例2に係る再生炭素繊維は比較例2に係る再生炭素繊維と比較して、実施例3、5、7に係る再生炭素繊維は比較例3に係る再生炭素繊維と比較して、実施例4、6、8に係る再生炭素繊維は比較例4に係る再生炭素繊維と比較して、優位に残存樹脂量が少なかった。これにより、酸処理工程を酸化処理と組み合わせることによって効率よく炭素繊維強化樹脂材料から塩基性を有する化学構造を有する樹脂成分を除去できることがわかる。
【0089】
実施例1に係る再生炭素繊維は比較例1に係る再生炭素繊維と比較して残存樹脂量に大きな差が見られた。洗浄工程における実施例1と比較例1とを比較すると、実施例1では反応生成物内部まで洗浄液が浸透していたのに対し、比較例1では1段目の洗浄工程後に反応生成物内部に未反応箇所(固い部分)が見られた。酸処理工程によって樹脂が膨潤することで酸化工程が内部まで均一に進行した効果であると考えられる。未反応箇所は2段目の洗浄工程後も残存しており、洗浄液の浸透性が良好でなかったと考えられる。
【0090】
また、実施例2と比較例2では実施例1と比較例1の比較ほど残存樹脂量に差は見られなかったが、酸処理工程・酸化処理工程共に酸性の水溶液を用いていたため、樹脂成分の中和反応が進行しやすかったことが要因として考えられる。
【0091】
さらに、今回試料として用いた炭素繊維強化樹脂材料は、比較的大きな寸法を有していたが、実施例1~8においては、十分に樹脂成分を除去することが可能であった。
【0092】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。