(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-07
(45)【発行日】2023-03-15
(54)【発明の名称】キシリレンジイソシアネート組成物、光学材料用重合性組成物、樹脂、成形体、光学素子およびレンズ
(51)【国際特許分類】
C07C 265/14 20060101AFI20230308BHJP
C07C 265/08 20060101ALI20230308BHJP
C08G 18/38 20060101ALI20230308BHJP
C08G 18/71 20060101ALI20230308BHJP
C08G 18/76 20060101ALI20230308BHJP
G02B 1/04 20060101ALI20230308BHJP
【FI】
C07C265/14
C07C265/08
C08G18/38 076
C08G18/71 020
C08G18/76 014
G02B1/04
(21)【出願番号】P 2022569261
(86)(22)【出願日】2022-03-09
(86)【国際出願番号】 JP2022010364
(87)【国際公開番号】W WO2022191247
(87)【国際公開日】2022-09-15
【審査請求日】2022-11-14
(31)【優先権主張番号】P 2021038757
(32)【優先日】2021-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103517
【氏名又は名称】岡本 寛之
(74)【代理人】
【識別番号】100149607
【氏名又は名称】宇田 新一
(72)【発明者】
【氏名】高口 勝之
(72)【発明者】
【氏名】川口 勝
【審査官】高森 ひとみ
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-512881(JP,A)
【文献】特開2018-177811(JP,A)
【文献】国際公開第2016/199795(WO,A1)
【文献】特公昭45-17434(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キシリレンジイソシアネートと、
下記化学式(1)で示される化合物と、
下記化学式(2)で示される化合物とを、含む、キシリレンジイソシアネート組成物。
【化1】
【化2】
【請求項2】
前記化学式(2)で示される化合物に対する、前記化学式(1)で示される化合物の質量比が、10000以下である、請求項1に記載のキシリレンジイソシアネート組成物。
【請求項3】
前記化学式(2)で示される化合物に対する、前記化学式(1)で示される化合物の質量比が、3000未満である、請求項2に記載のキシリレンジイソシアネート組成物。
【請求項4】
下記化学式(3)で示される硬化触媒を、さらに含み、
前記化学式(1)で示される化合物に対する、前記硬化触媒のモル比が、2以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載のキシリレンジイソシアネート組成物。
【化3】
(化学式(3)中、R
1は、炭素数1~20の直鎖アルキル基、炭素数3~20の分岐アルキル基、炭素数3~20のシクロアルキル基、またはハロゲン原子を示す。mは、0~5の整数である。mが2~5である場合、複数のR
1は同一でも異なっていてもよい。Qは、炭素原子または窒素原子を示す。)
【請求項5】
前記硬化触媒が、ピリジン、3-クロロピリジン、2-メチルピリジン、3-メチルピリジン、4-メチルピリジン、2-エチルピリジン、3-エチルピリジン、2,6-ジメチルピリジン、3,5-ジメチルピリジン、2,4,6-トリメチルピリジン、および、2-メチルピラジンから選択される少なくとも一種である、請求項4に記載のキシリレンジイソシアネート組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のキシリレンジイソシアネート組成物と、
活性水素基含有成分と、を含む、光学材料用重合性組成物。
【請求項7】
前記活性水素含有成分が、5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタン、ペンタエリスリトールテトラキス(2-メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、2,5-ビス(メルカプトメチル)-1,4-ジチアン、ビス(メルカプトエチル)スルフィド、1,1,3,3-テトラキス(メルカプトメチルチオ)プロパン、4,6-ビス(メルカプトメチルチオ)-1,3-ジチアン、2-(2,2-ビス(メルカプトメチルチオ)エチル)-1,3-ジチエタン、1,1,2,2-テトラキス(メルカプトメチルチオ)エタン、3-メルカプトメチル-1,5-ジメルカプト-2,4-ジチアペンタン、トリス(メルカプトメチルチオ)メタン、および、エチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)からなる群から選択される少なくとも1種のポリチオールを含む、請求項6に記載の光学材料用重合性組成物。
【請求項8】
請求項6または7に記載の光学材料用重合性組成物の硬化物である、樹脂。
【請求項9】
請求項8に記載の樹脂を含む、成形体。
【請求項10】
請求項9に記載の成形体を含む、光学素子。
【請求項11】
請求項10に記載の光学素子を含む、レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キシリレンジイソシアネート組成物、光学材料用重合性組成物、樹脂、成形体、光学素子およびレンズに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種産業製品に用いられる樹脂の原料として、キシリレンジイソシアネート組成物が知られている。
【0003】
例えば、キシリレンジイソシアネートと、ジクロロメチルベンジルイソシアネートとを含み、ジクロロメチルベンジルイソシアネートの含有割合が、0.6ppm以上60ppm以下である、キシリレンジイソシアネート組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
キシリレンジイソシアネート組成物から製造される樹脂は、目的および用途に応じて、優れた耐熱性が要求される場合がある。しかし、特許文献1に記載のキシリレンジイソシアネート組成物から樹脂を製造すると、樹脂の耐熱性の向上を図るには限度がある。
【0006】
そこで、本発明は、耐熱性に優れる樹脂を安定して製造できるキシリレンジイソシアネート組成物、光学材料用重合性組成物、樹脂、成形体、光学素子およびレンズを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明[1]は、キシリレンジイソシアネートと、下記化学式(1)で示される化合物と、下記化学式(2)で示される化合物とを、含む、キシリレンジイソシアネート組成物を含む。
【0008】
【0009】
【0010】
本発明[2]は、前記化学式(2)で示される化合物に対する、前記化学式(1)で示される化合物の質量比が、10000以下である、上記[1]に記載のキシリレンジイソシアネート組成物を含む。
【0011】
本発明[3]は、前記化学式(2)で示される化合物に対する、前記化学式(1)で示される化合物の質量比が、3000未満である、上記[2]に記載のキシリレンジイソシアネート組成物を含む。
本発明[4]は、下記化学式(3)で示される硬化触媒を、さらに含み、前記化学式(1)で示される化合物に対する、前記硬化触媒のモル比が、2以上である、上記[1]~[3]のいずれか1つのキシリレンジイソシアネート組成物を含む。
【化3】
(化学式(3)中、R
1は、炭素数1~20の直鎖アルキル基、炭素数3~20の分岐アルキル基、炭素数3~20のシクロアルキル基またはハロゲン原子を示す。mは、0~5の整数である。mが2~5である場合、複数のR
1は、同一でも異なっていてもよい。Qは、炭素原子または窒素原子を示す。)
本発明[5]は、前記硬化触媒が、ピリジン、3-クロロピリジン、2-メチルピリジン、3-メチルピリジン、4-メチルピリジン、2-エチルピリジン、3-エチルピリジン、2,6-ジメチルピリジン、3,5-ジメチルピリジン、2,4,6-トリメチルピリジン、および、2-メチルピラジンから選択される少なくとも一種である、上記[4]のキシリレンジイソシアネート組成物を含む。
【0012】
本発明[6]は、上記[1]~[5]のいずれか一項に記載のキシリレンジイソシアネート組成物と、活性水素基含有成分と、を含む、光学材料用重合性組成物を含む。
【0013】
本発明[7]は、前記活性水素含有成分が、5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタン、ペンタエリスリトールテトラキス(2-メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、2,5-ビス(メルカプトメチル)-1,4-ジチアン、ビス(メルカプトエチル)スルフィド、1,1,3,3-テトラキス(メルカプトメチルチオ)プロパン、4,6-ビス(メルカプトメチルチオ)-1,3-ジチアン、2-(2,2-ビス(メルカプトメチルチオ)エチル)-1,3-ジチエタン、1,1,2,2-テトラキス(メルカプトメチルチオ)エタン、3-メルカプトメチル-1,5-ジメルカプト-2,4-ジチアペンタン、トリス(メルカプトメチルチオ)メタン、および、エチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)からなる群から選択される少なくとも1種のポリチオールを含む、上記[6]に記載の光学材料用重合性組成物を含む。
【0014】
本発明[8]は、上記[6]または[7]に記載の光学材料用重合性組成物の硬化物である、樹脂を含む。
【0015】
本発明[9]は、上記[8]に記載の樹脂を含む、成形体を含む。
【0016】
本発明[10]は、上記[9]に記載の成形体を含む、光学素子を含む。
【0017】
本発明[11]は、上記[10]に記載の光学素子を含む、レンズを含む。
【発明の効果】
【0018】
本発明のキシリレンジイソシアネート組成物は、キシリレンジイソシアネートと、上記化学式(1)で示される化合物と、上記化学式(2)で示される化合物とを含有する。そのため、上記したキシリレンジイソシアネート組成物から製造される樹脂は、耐熱性に優れる。
【0019】
本発明の光学材料用重合性組成物は、上記したキシリレンジイソシアネート組成物を含む。そのため、上記した光学材料用重合性組成物から製造される樹脂は、耐熱性に優れる。
【0020】
本発明の樹脂、成形体、光学素子およびレンズは、上記した光学材料用重合性組成物の硬化物を含む。そのため、樹脂、成形体、光学素子およびレンズは、耐熱性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、各実施例のキシリレンジイソシアネート組成物におけるジクロロメチルベンジルイソシアネートに対するイソシアナトメチルベンジルカルバミン酸クロリドの質量比と、樹脂のガラス転移温度との相関を示すグラフである。
【
図2】
図2は、各実施例のキシリレンジイソシアネート組成物におけるイソシアナトメチルベンジルカルバミン酸クロリドの含有割合と、樹脂のガラス転移温度との相関を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
1.キシリレンジイソシアネート組成物
本発明のキシリレンジイソシアネート組成物は、主成分としてキシリレンジイソシアネートを98質量%以上含有する、ほぼ単一化合物(つまり、キシリレンジイソシアネート)である。本発明のキシリレンジイソシアネート組成物は、副成分として、下記化学式(1)に示す化合物および下記化学式(2)に示す化合物を含有していることから、キシリレンジイソシアネート組成物として定義している。
【0023】
つまり、本発明のキシリレンジイソシアネート組成物は、必須成分として、キシリレンジイソシアネートと、下記化学式(1)に示す化合物と、下記化学式(2)に示す化合物とを含有している。キシリレンジイソシアネート組成物は、硬化触媒を、さらに含有してもよい。
【0024】
以下において、キシリレンジイソシアネート組成物をXDI組成物とし、キシリレンジイソシアネートをXDIとする。また、下記化学式(1)に示す化合物(イソシアナトメチルベンジルカルバミン酸クロリド)を、モノカルバモイルCl体またはMCC体とする。また、下記化学式(2)に示す化合物(ジクロロメチルベンジルイソシアネート)を、DCIとする。
【0025】
【0026】
【0027】
XDIとして、例えば、1,2-XDI(o-XDI)、1,3-XDI(m-XDI)、および、1,4-XDI(p-XDI)が挙げられる。
【0028】
このようなXDIは、XDI組成物に1種または2種類以上含有されてもよい。
【0029】
XDIのなかでは、好ましくは、1,3-XDI(m-XDI)が挙げられる。
【0030】
XDIの含有割合(純度)は、XDI組成物の総質量に対して、例えば、98.00質量%以上、好ましくは、99.00質量%以上、より好ましくは、99.30質量%以上、さらに好ましくは、99.60質量%以上、また、例えば、99.95質量%以下である。XDIの含有割合は、国際公開第2018/190290号の[0376]および[0377]段落に記載の方法に準拠して測定できる。
【0031】
上記化学式(1)で示されるモノカルバモイルCl体は、イソシアナトメチルベンジルカルバミン酸クロリドであって、XDIが有する2つのイソシアネート基のうち一方のイソシアネート基がカルバモイルクロリド基(-NH-CO-Cl基)に置換されている。
【0032】
モノカルバモイルCl体として、例えば、(2-(イソシアナトメチル)ベンジル)カルバミン酸クロリド、(3-(イソシアナトメチル)ベンジル)カルバミン酸クロリド、および、(4-(イソシアナトメチル)ベンジル)カルバミン酸クロリドが挙げられる。
【0033】
このようなモノカルバモイルCl体は、XDI組成物に1種または2種類以上含有されてもよい。
【0034】
詳しくは後述するが、モノカルバモイルCl体は、XDI組成物の製造におけるXDIの反応中間体として生成し、また、XDIに塩化水素が反応することにより生成する。生成するモノカルバモイルCl体の構造異性体は、原料となるXDIの構造異性体に対応する。例えば、XDI組成物において、主成分が、1,3-XDIである場合、副成分としてのモノカルバモイルCl体は、(3-(イソシアナトメチル)ベンジル)カルバミン酸クロリドである。
【0035】
モノカルバモイルCl体のなかでは、好ましくは、(3-(イソシアナトメチル)ベンジル)カルバミン酸クロリドが挙げられる。
【0036】
モノカルバモイルCl体の含有割合は、XDI組成物の総質量に対して、例えば、1ppm、好ましくは、10ppm以上、より好ましくは、100ppm以上、さらに好ましくは、300ppm以上、とりわけ好ましくは、1000ppm以上、また、例えば、10000ppm以下、好ましくは、6000ppm以下、より好ましくは、4000ppm以下、さらに好ましくは、2000ppm以下である。
モノカルバモイルCl体の含有割合は、XDI組成物の加水分解性塩素量(HC、後述)から、モノカルバモイルCl体以外の塩素含有成分(例えば、DCIおよびCBI(後述))の塩素量を除いた残りの塩素量を算出し、その塩素量から算出する。なお、XDI組成物中にモノカルバモイルCl体とジカルバモイル体とが含有される場合、アルカリ金属水酸化物の水溶液を使用してXDI組成物を滴定した際に確認される変曲点の差異により、モノカルバモイルCl体とジカルバモイル体との比率を算出する。なお、アルカリ金属水酸化物として、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムを使用する。
【0037】
DCIに対するモノカルバモイルCl体の質量比は、例えば、1以上、好ましくは、30以上、より好ましくは、100以上、さらに好ましくは、200以上、とりわけ好ましくは、400以上、特に好ましくは、800以上、また、例えば、10000以下、好ましくは、6000以下、より好ましくは、3000未満、さらに好ましくは、1900以下、とりわけ好ましくは、950以下である。
【0038】
DCIに対するモノカルバモイルCl体の質量比が上記下限以上であれば、XDI組成物から製造される樹脂の耐熱性(ガラス転移温度Tg)の向上を安定して図ることができる。DCIに対するモノカルバモイルCl体の質量比が上記上限以下であれば、XDI組成物を後述する活性水素基含有成分と混合したときのポットライフを十分に確保することができる。とりわけ、DCIに対するモノカルバモイルCl体の質量比が3000未満であると、樹脂を注型法によって製造するときに、モールドに対する樹脂の離型性の向上を図ることができる。
【0039】
DCIは、ジクロロメチルベンジルイソシアネートであって、XDIが有する2つのイソシアナトメチル基のうち一方のイソシアナトメチル基がジクロロメチル基(-CHCl2基)に置換されている。
【0040】
DCIとして、例えば、2-ジクロロメチルベンジルイソシアネート(o-DCI)、3-ジクロロメチルベンジルイソシアネート(m-DCI)、および、4-ジクロロメチルベンジルイソシアネート(p-DCI)が挙げられる。
【0041】
このようなDCIは、XDI組成物に1種または2種類以上含有されてもよい。
【0042】
詳しくは後述するが、DCIは、XDIの製造において副生する。副生するDCIの構造異性体は、製造されるXDIの構造異性体に対応する。例えば、XDI組成物において、主成分が、1,3-XDIである場合、副成分としてのDCIは、3-ジクロロメチルベンジルイソシアネートである。
【0043】
DCIのなかでは、好ましくは、3-ジクロロメチルベンジルイソシアネート(m-DCI)が挙げられる。
【0044】
DCIの含有割合は、XDI組成物の総質量に対して、例えば、0.1ppm以上、好ましくは、0.6ppm以上、また、例えば、60ppm以下、好ましくは、30ppm以下、より好ましくは、10ppm以下、さらに好ましくは、5.0ppm以下、とりわけ好ましくは、3.0ppm以下、特に好ましくは、2.0ppm未満である。DCIの含有割合は、後述する実施例に記載の方法に準拠して、ガスクロマトグラフィーで分析することにより測定できる。
【0045】
DCIの含有割合が上記上限以下であれば、XDI組成物から製造される樹脂の耐熱性(ガラス転移温度Tg)の向上をより一層図ることができる。
【0046】
また、XDI組成物は、下記化学式(4)に示すクロロメチルベンジルイソシアネートを含有してもよい。以下において、下記化学式(4)に示すクロロメチルベンジルイソシアネートをCBIとする。
【0047】
【0048】
CBIは、モノクロロメチルベンジルイソシアネートであって、XDIが有する2つのイソシアナトメチル基のうち一方のイソシアナトメチル基がモノクロロメチル基(-CH2Cl基)に置換されている。
【0049】
CBIとして、例えば、2-クロロメチルベンジルイソシアネート(o-CBI)、3-クロロメチルベンジルイソシアネート(m-CBI)、および、4-ジクロロメチルベンジルイソシアネート(p-CBI)が挙げられる。
【0050】
このようなCBIは、XDI組成物に1種または2種類以上含有されてもよい。
【0051】
詳しくは後述するが、CBIは、XDIの製造において副生する。副生するCBIの構造異性体は、製造されるXDIの構造異性体に対応する。例えば、XDI組成物において、主成分が、1,3-XDIである場合、副成分としてのCBIは、3-クロロメチルベンジルイソシアネートである。
【0052】
CBIのなかでは、好ましくは、3-クロロメチルベンジルイソシアネート(m-CBI)が挙げられる。
【0053】
CBIの含有割合は、XDI組成物の総質量に対して、例えば、0ppm以上、好ましくは、0.2ppm以上、好ましくは、6ppm以上、より好ましくは、100ppm以上、また、例えば、5000ppm以下、好ましくは、4000ppm以下、より好ましくは、3000ppm以下、とりわけ好ましくは、1600ppm以下、特に好ましくは、1000ppm以下である。国際公開第2018/190290号の[0376]および[0377]段落に記載の方法に準拠して測定できる。
【0054】
CBIの含有割合が上記の範囲であれば、XDI組成物から製造される樹脂の耐黄変性の向上を確実に図ることができる。とりわけ、CBIの含有割合が上記上限以下であれば、XDI組成物から製造される樹脂の耐黄変性の向上を確実に図ることができるとともに、樹脂の機械特性の向上を図ることができる。
【0055】
XDI組成物における加水分解性塩素の濃度(HC)は、例えば、0.15ppm以上、好ましくは、1ppm以上、より好ましくは、50ppm以上、とりわけ好ましくは、100ppm以上、また、例えば、3000ppm以下、好ましくは、2000ppm以下、より好ましくは、1000ppm以下である。加水分解性塩素の濃度(HC)は、JIS K-1603-3(2007)に記載されている加水分解性塩素の求め方に準拠して測定される。
硬化触媒は、好ましくは、下記化学式(3)で示される。
【化4】
上記化学式(3)中、R
1は、炭素数1~20の直鎖アルキル基、炭素数3~20の分岐アルキル基、炭素数3~20のシクロアルキル基、またはハロゲン原子を示す。
R
1で表される炭素数1~20の直鎖アルキル基として、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、n-オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基が挙げられる。
R
1で表される炭素数3~20の分岐状のアルキル基として、例えば、イソプロピル基、イソブチル基、t-ブチル基、イソペンチル基、イソオクチル基、2-エチルヘキシル基、2-プロピルペンチル基、イソデシル基が挙げられる。
R
1で表される炭素数3~20のシクロアルキル基として、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基が挙げられる。
R
1は、好ましくは、炭素数1~20の直鎖アルキル基、より好ましくは、炭素数1~4の直鎖アルキル基、より好ましくは、メチル基である。
上記化学式(3)中、mは、0~5の整数、好ましくは、0~3の整数、より好ましくは、1~3である。mが2~5である場合、複数のR
1は、同一でも異なっていてもよい。好ましくは、複数のR
1は、同一である。
上記化学式(3)中、Qは、炭素原子または窒素原子を示す。Qは、好ましくは、炭素原子である。
上記化学式(3)で示される硬化触媒として、例えば、ピリジン、3-クロロピリジン、2-メチルピリジン、3-メチルピリジン、4-メチルピリジン、2-エチルピリジン、3-エチルピリジン、2,6-ジメチルピリジン、3,5-ジメチルピリジン、2,4,6-トリメチルピリジン、および、2-メチルピラジンが挙げられる。硬化触媒として、好ましくは、3,5-ジメチルピリジンおよび2,4,6-トリメチルピリジンが挙げられる。
化学式(1)で示されるモノカルバモイルCl体に対する硬化触媒のモル比は、2以上、好ましくは、2.3以上である。化学式(1)で示されるモノカルバモイルCl体に対する硬化触媒のモル比が上記下限値以上であると、光学材料用重合性組成物を円滑に硬化させることができる。
化学式(1)で示されるモノカルバモイルCl体に対する硬化触媒のモル比は、4以下、好ましくは、3以下、より好ましくは、2.5以下である。化学式(1)で示されるモノカルバモイルCl体に対する硬化触媒のモル比が上記上限値以下であると、光学材料用重合性組成物のポットライフを確保できる。
光学材料用重合性組成物は、上記化学式(3)以外の硬化触媒を含有してもよい。
化学式(3)以外の硬化触媒として、例えば、有機スズ触媒、および、ルイス酸触媒が挙げられる。
有機スズ触媒として、例えば、ジアルキルスズハロゲン化物、ジアルキルスズジカルボキシレートが挙げられる。ジアルキルスズハロゲン化物として、例えば、ジブチルスズジクロリド、ジメチルスズジクロリドが挙げられる。ジアルキルスズジカルボキシレートとして、例えば、ジメチルスズジアセテート、ジブチルスズジオクタノエート、ジブチルスズジラウレートが挙げられる。
【0056】
2.XDI組成物の製造方法
次に、XDI組成物の製造方法について説明する。
【0057】
XDI組成物の製造には、例えば、国際公開第2018/190290号の[0054]~[0110]段落に記載のXDI組成物の製造方法によって、反応マスを調製した後、少なくともXDI、モノカルバモイルCl体およびDCIの含有割合が上記の範囲となるように、反応マスを精製する。
【0058】
反応マスを調製するには、例えば、キシリレンジアミンと塩化水素とを混合して、キシリレンジアミン塩酸塩を造塩した後、塩酸塩と塩化カルボニル(ホスゲン)とを反応させる(アミン塩酸塩のホスゲン化法)。
【0059】
以下において、キシリレンジアミンをXDAとする。XDAとして、例えば、1,2-XDA(o-XDA)、1,3-XDA(m-XDA)、および、1,4-XDA(p-XDA)が挙げられ、好ましくは、1,3-XDA(m-XDA)が挙げられる。
【0060】
XDA塩酸塩を造塩する造塩工程では、例えば、XDAと塩化水素とを、不活性溶媒存在下で混合して、XDA塩酸塩を製造(造塩)する。
【0061】
不活性溶媒として、例えば、国際公開第2018/190290号の[0059]段落に記載の不活性溶媒が挙げられる。不活性溶媒は、単独使用または2種類以上併用することができる。不活性溶媒のなかでは、好ましくは、ハロゲン化芳香族炭化水素類が挙げられ、より好ましくは、クロロベンゼンおよびジクロロベンゼンが挙げられる。
【0062】
そして、XDAが不活性溶媒に溶解されたアミン溶液に、塩化水素ガスを供給する。その後、塩化水素ガスおよびアミン溶液を撹拌混合する。
【0063】
XDAおよび不活性溶媒の質量の総和に対する、XDAの質量割合(全アミン濃度)は、例えば、3質量%以上、好ましくは、5質量%以上、また、例えば、30質量%以下、好ましくは、20質量%以下、より好ましくは、15質量%以下である。
【0064】
塩化水素の供給割合は、XDA1モルに対して、例えば、2モル以上、また、例えば、10モル以下、好ましくは、6モル以下、より好ましくは、4モル以下である。
【0065】
造塩工程における造塩温度は、例えば、30℃以上、好ましくは、50℃以上、また、例えば、160℃以下、好ましくは、150℃以下である。造塩工程における造塩圧力(ゲージ圧)は、例えば、大気圧(0MPaG)以上、好ましくは、0.01MPaG以上、また、例えば、1.0MPaG以下、好ましくは、0.5MPaG以下である。
【0066】
これにより、XDAと塩化水素とからXDA塩酸塩が生成し(塩酸塩化反応)、XDA塩酸塩を含むスラリーが製造される。
【0067】
次いで、XDA塩酸塩を含むスラリーに塩化カルボニルを供給して、XDA塩酸塩と塩化カルボニルとを反応させる(イソシアネート化反応、ホスゲン化)。
【0068】
塩化カルボニルの供給割合は、XDA塩酸塩1モルに対して、例えば、4モル以上、好ましくは、5モル以上、より好ましくは、6モル以上、また、例えば、50モル以下、好ましくは、40モル以下、より好ましくは、30モル以下である。
【0069】
イソシアネート化工程の反応時間は、例えば、4時間以上、好ましくは、6時間以上、また、例えば、25時間以下、好ましくは、20時間以下、より好ましくは、15時間以下である。
【0070】
イソシアネート化工程における反応温度は、例えば、90℃以上、好ましくは、100℃以上、より好ましくは、110℃以上、また、例えば、190℃以下、好ましくは、180℃以下、より好ましくは、160℃以下である。
【0071】
イソシアネート化工程における反応圧力(ゲージ圧)としては、例えば、大気圧(0MPaG)を超過し、好ましくは、0.0005MPaG以上、より好ましくは、0.001MPaG以上、さらに好ましくは、0.003MPaG以上、とりわけ好ましくは、0.01MPaG(10kPaG)以上、特に好ましくは、0.02MPaG(20kPaG)以上、最も好ましくは、0.03MPaG(30kPaG)以上、また、例えば、0.6MPaG以下、好ましくは、0.4MPaG以下、より好ましくは、0.2MPaG以下である。
【0072】
イソシアネート化工程は、好ましくは、連続式により実施される。つまり、撹拌槽において生成したスラリー(XDA塩酸塩)を、撹拌槽から撹拌槽とは別の反応槽に連続的に送液して、反応槽においてXDA塩酸塩と塩化カルボニルとを反応させながら、反応槽から反応液(反応マス)を連続的に取り出す。
【0073】
これによって、XDA塩酸塩と塩化カルボニルとが反応して、主成分としてXDIが生成する。また、XDIの反応中間体として、モノカルバモイルCl体が生成する。
【0074】
さらに、上記したように、加圧条件下において塩化カルボニルを過剰に供給し、塩酸塩法のイソシアネート化工程を連続式で実施することにより、XDIの生成とともに副生するCBIと、塩化カルボニルに不可避的に含まれる塩素とが反応して、DCIが生成する。
【0075】
次いで、必要により、反応液(反応混合物)に対して、脱ガス工程、脱溶媒工程および脱タール工程を実施する。脱ガス工程では、反応液(反応混合物)から、余剰な塩化カルボニルや副生する塩化水素などのガスを、公知の脱ガス塔により除去する。脱溶媒工程では、反応液から公知の蒸留塔により不活性溶媒を留去する。脱タール工程では、反応液から公知の脱タール器によりタール成分を除去する。
【0076】
以上によって、XDI、モノカルバモイルCl体およびDCIを少なくとも含有する反応マスが製造される。
【0077】
反応マスにおけるXDIの含有割合は、例えば、80.0質量%以上、好ましくは、90.0質量%以上、より好ましくは、95.0質量%以上、また、例えば、99.0質量%以下、好ましくは、98.5質量%以下、より好ましくは、98.0質量%以下である。
【0078】
反応マスにおけるモノカルバモイルCl体の含有割合は、例えば、5ppm以上、好ましくは、10ppm以上、より好ましくは、20ppm以上、また、例えば、10000ppm以下、好ましくは、5000ppm以下、より好ましくは、3000ppm以下である。
【0079】
反応マスにおけるDCIの含有割合は、例えば、1ppm以上、好ましくは、2ppm以上、より好ましくは、5ppm以上、また、例えば、80ppm以下、好ましくは、70ppm以下、より好ましくは、50ppm以下である。
【0080】
反応マスは、さらにCBIを含有することができる。反応マスがCBIを含有する場合、反応マスにおけるCBIの含有割合は、例えば、0.1質量%以上、好ましくは、0.3質量%以上、より好ましくは、0.5質量%以上、また、例えば、3.0質量%以下、好ましくは、1.5質量%以下、より好ましくは、1.0質量%以下である。
【0081】
次いで、反応マス(精製前組成物)を精製して、モノカルバモイルCl体およびDCIのそれぞれの含有割合を上記の範囲に調整する。
【0082】
反応マスの精製方法として、例えば、蒸留が挙げられる。反応マスを蒸留により精製するには、例えば、反応マスから低沸物(低沸点成分)を蒸留により留去した後、脱低沸後の反応マスである脱低沸マスを精留する。
【0083】
脱低沸工程では、例えば、反応マスを脱低沸塔により蒸留して、低沸物を留去する。
【0084】
脱低沸塔として、例えば、棚段塔および充填塔が挙げられ、好ましくは、充填塔が挙げられる。脱低沸塔の理論段数は、例えば、3段以上、好ましくは、5段以上、より好ましくは、7段以上、また、例えば、40段以下、好ましくは、20段以下、より好ましくは、15段以下である。
【0085】
脱低沸塔の塔底温度は、例えば、130℃以上、好ましくは、140℃以上、より好ましくは、150℃以上、また、例えば、200℃以下、好ましくは、190℃以下、より好ましくは、180℃以下である。
【0086】
脱低沸塔の塔頂温度は、例えば、90℃以上、好ましくは、100℃以上、より好ましくは、110℃以上、また、例えば、160℃以下、好ましくは、150℃以下、より好ましくは、140℃以下である。
【0087】
脱低沸塔の塔頂圧力は、例えば、0.05kPa以上、好ましくは、0.1kPa以上、より好ましくは、0.2kPa以上、また、例えば、3.0kPa以下、好ましくは、2.0kPa以下、より好ましくは、1.0kPa以下である。
【0088】
脱低沸塔の塔頂還流比は、例えば、1以上、好ましくは、5以上、より好ましくは、10以上、また、例えば、80以下、好ましくは、60以下、より好ましくは、50以下である。
【0089】
脱低沸塔の滞留時間は、例えば、0.1時間以上、好ましくは、0.2時間以上、より好ましくは、0.3時間以上、また、例えば、10時間以下、好ましくは、5時間以下、より好ましくは、3時間以下である。
【0090】
これより、低沸物を留去させて、脱低沸マスを缶出液として得る。
【0091】
次いで、精留工程では、例えば、脱低沸マスを精留塔により蒸留して留分を取り出す。
【0092】
精留塔として、例えば、棚段塔および充填塔が挙げられ、好ましくは、充填塔が挙げられる。精留塔の理論段数は、例えば、1段以上、また、例えば、20段以下、好ましくは、10段以下、より好ましくは、5段以下である。
【0093】
精留塔の塔底温度は、例えば、120℃以上、好ましくは、130℃以上、より好ましくは、140℃以上、また、例えば、190℃以下、好ましくは、180℃以下、より好ましくは、170℃以下である。
【0094】
精留塔の塔頂温度は、例えば、90℃以上、好ましくは、110℃以上、より好ましくは、130℃以上、また、例えば、180℃以下、好ましくは、170℃以下、より好ましくは、160℃以下である。
【0095】
精留塔の塔頂圧力は、例えば、0.05kPa以上、好ましくは、0.1kPa以上、より好ましくは、0.2kPa以上、また、例えば、3.0kPa以下、好ましくは、2.0kPa以下、より好ましくは、1.0kPa以下である。
【0096】
精留塔の塔頂還流比は、例えば、0.1以上、好ましくは、0.2以上、より好ましくは、0.3以上、また、例えば、50以下、好ましくは、20以下、より好ましくは、10以下である。
【0097】
精留塔の滞留時間は、例えば、0.2時間以上、好ましくは、0.5時間以上、より好ましくは、1.0時間以上、また、例えば、20時間以下、好ましくは、10時間以下である。
【0098】
以上によって、XDI組成物が留分として取り出され、XDI組成物において、XDI、モノカルバモイルCl体およびDCIの含有割合を上記の範囲に調整できる。なお、精留後のXDI組成物にDCIを添加することにより、XDI組成物におけるDCIの含有割合を調整することもできる。また、精留後のXDI組成物に、塩化水素ガスを供給して、XDI組成物におけるモノカルバモイルCl体の含有割合を調整することもできる。
【0099】
また、実験的には後述する実施例のように、XDIおよびDCIを含有し、モノカルバモイルCl体を実質的に含有しないXDI組成物(MCC体不含有XDI組成物)を準備し、MCC体不含有XDI組成物に塩化水素ガスを供給して、XDI、モノカルバモイルCl体およびDCIを上記割合で含むXDI組成物を製造することもできる。
【0100】
MCC体不含有XDI組成物を準備するには、例えば、脱低沸工程および精留工程において、反応マスに含有されるモノカルバモイルCl体を熱分解してXDIに変換する。なお、MCC体不含有XDI組成物において、モノカルバモイルCl体の含有割合は、例えば、0.05ppm未満、好ましくは、0ppmである。
【0101】
次いで、MCC体不含有XDI組成物に塩化水素ガスを、例えば、常温(25℃)、常圧(0.1MPa)下において供給する。
【0102】
塩化水素の供給量は、MCC体不含有XDI組成物中のXDI 1モルに対して、例えば、0.08ミリモル以上、また、例えば、10ミリモル以下、好ましくは、8.0ミリモル以下、より好ましくは、6.0ミリモル以下である。
【0103】
塩化水素の供給量が上記上限値以下であると、主にXDIが塩化水素と反応して、供給した塩化水素からほぼ定量的にモノカルバモイルCl体が生成する。DCIおよびCBIは、XDIに対して微量しか存在しない。そのため、DCIおよびCBIのイソシアナト基が塩化水素と反応してカルバモイルCl体が生成する可能性は、極めて低いと考えられる。そのため、塩化水素の供給量を調整することにより、XDI組成物におけるモノカルバモイルCl体の含有割合を調整できる。
XDI組成物におけるモノカルバモイルCl体の含有割合は、上記した測定方法により測定される。
【0104】
<作用効果>
上記したXDI組成物は、XDIと、上記化学式(1)で示されるモノカルバモイルCl体と、上記化学式(2)で示されるDCIとを含有する。そのため、上記したXDI組成物から製造される樹脂は、耐熱性に優れる。
【0105】
また、DCIに対するモノカルバモイルCl体の質量比は、好ましくは、3000未満である。しかるに、樹脂は、公知の注型法によって所望の形状に成形して製造される場合がある。この場合、上記したXDI組成物におけるDCIに対するモノカルバモイルCl体の質量比が3000未満であると、モールドに対する樹脂の離型性の向上を図ることができ、樹脂をモールドから取り外すときに、樹脂が破損することを抑制できる。
【0106】
3.重合性組成物
上記したXDI組成物は、樹脂の原料として利用され、とりわけ光学材料の原料として好適に利用される。言い換えれば、XDI組成物は、好ましくは、イソシアネート成分として、光学材料用重合性組成物に含まれる。
【0107】
光学材料用重合性組成物は、イソシアネート成分と、活性水素基含有成分とを含有する。
【0108】
イソシアネート成分は、XDI組成物を含有し、好ましくは、XDI組成物からなる。
【0109】
活性水素基含有成分として、例えば、ポリオール成分、ポリチオール成分、および、ポリアミン成分が挙げられる。
【0110】
活性水素基含有成分は、単独使用または2種類以上併用できる。
【0111】
活性水素基含有成分のなかでは、例えば光学特性の観点から好ましくは、ポリチオール成分が挙げられる。
【0112】
ポリチオール成分として、例えば、脂肪族ポリチオール化合物、芳香族ポリチオール化合物、および、複素環ポリチオール化合物が挙げられる。
【0113】
脂肪族ポリチオール化合物として、例えば、メタンジチオール、1,2-エタンジチオール、1,2,3-プロパントリチオール、1,2-シクロヘキサンジチオール、ビス(2-メルカプトエチル)エーテル、テトラキス(メルカプトメチル)メタン、ジエチレングリコールビス(2-メルカプトアセテート)、ジエチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)、エチレングリコールビス(2-メルカプトアセテート)、エチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパントリス(2-メルカプトアセテート)、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)、トリメチロールエタントリス(2-メルカプトアセテート)、トリメチロールエタントリス(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(2-メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、ビス(メルカプトメチル)スルフィド、ビス(メルカプトメチル)ジスルフィド、ビス(メルカプトエチル)スルフィド、ビス(メルカプトエチル)ジスルフィド、ビス(メルカプトプロピル)スルフィド、ビス(メルカプトメチルチオ)メタン、ビス(2-メルカプトエチルチオ)メタン、ビス(3-メルカプトプロピルチオ)メタン、1,2-ビス(メルカプトメチルチオ)エタン、1,2-ビス(2-メルカプトエチルチオ)エタン、1,2-ビス(3-メルカプトプロピルチオ)エタン、1,2,3-トリス(メルカプトメチルチオ)プロパン、1,2,3-トリス(2-メルカプトエチルチオ)プロパン、1,2,3-トリス(3-メルカプトプロピルチオ)プロパン、4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタン、5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、テトラキス(メルカプトメチルチオメチル)メタン、テトラキス(2-メルカプトエチルチオメチル)メタン、テトラキス(3-メルカプトプロピルチオメチル)メタン、ビス(2,3-ジメルカプトプロピル)スルフィド、2,5-ジメルカプトメチル-1,4-ジチアン、2,5-ジメルカプト-1,4-ジチアン、2,5-ジメルカプトメチル-2,5-ジメチル-1,4-ジチアン、及びこれらのチオグリコール酸およびメルカプトプロピオン酸のエステル、ヒドロキシメチルスルフィドビス(2-メルカプトアセテート)、ヒドロキシメチルスルフィドビス(3-メルカプトプロピオネート)、ヒドロキシエチルスルフィドビス(2-メルカプトアセテート)、ヒドロキシエチルスルフィドビス(3-メルカプトプロピオネート)、ヒドロキシメチルジスルフィドビス(2-メルカプトアセテート)、ヒドロキシメチルジスルフィドビス(3-メルカプトプロピオネート)、ヒドロキシエチルジスルフィドビス(2-メルカプトアセテート)、ヒドロキシエチルジスルフィドビス(3-メルカプトプロピネート)、2-メルカプトエチルエーテルビス(2-メルカプトアセテート)、2-メルカプトエチルエーテルビス(3-メルカプトプロピオネート)、チオジグリコール酸ビス(2-メルカプトエチルエステル)、チオジプロピオン酸ビス(2-メルカプトエチルエステル)、ジチオジグリコール酸ビス(2-メルカプトエチルエステル)、ジチオジプロピオン酸ビス(2-メルカプトエチルエステル)、1,1,3,3-テトラキス(メルカプトメチルチオ)プロパン、1,1,2,2-テトラキス(メルカプトメチルチオ)エタン、4,6-ビス(メルカプトメチルチオ)-1,3-ジチアン、2-(2,2-ビス(メルカプトメチルチオ)エチル)-1,3-ジチエタン、3-メルカプトメチル-1,5-ジメルカプト-2,4-ジチアペンタン、トリス(メルカプトメチルチオ)メタン、トリス(メルカプトエチルチオ)メタン、および、2,5-ビス(メルカプトメチル)-1,4-ジチアンが挙げられる。
【0114】
芳香族ポリチオール化合物として、例えば、1,2-ジメルカプトベンゼン、1,3-ジメルカプトベンゼン、1,4-ジメルカプトベンゼン、1,2-ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,3-ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,4-ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,2-ビス(メルカプトエチル)ベンゼン、1,3-ビス(メルカプトエチル)ベンゼン、1,4-ビス(メルカプトエチル)ベンゼン、1,3,5-トリメルカプトベンゼン、1,3,5-トリス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,3,5-トリス(メルカプトメチレンオキシ)ベンゼン、1,3,5-トリス(メルカプトエチレンオキシ)ベンゼン、2,5-トルエンジチオール、3,4-トルエンジチオール、1,5-ナフタレンジチオール、および、2,6-ナフタレンジチオールが挙げられる。
【0115】
複素環ポリチオール化合物として、例えば、2-メチルアミノ-4,6-ジチオール-sym-トリアジン、3,4-チオフェンジチオール、および、ビスムチオールが挙げられる。
【0116】
このようなポリチオール成分は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0117】
また、ポリチオール成分として、好ましくは、5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタン、ペンタエリスリトールテトラキス(2-メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、2,5-ビス(メルカプトメチル)-1,4-ジチアン、ビス(メルカプトエチル)スルフィド、1,1,3,3-テトラキス(メルカプトメチルチオ)プロパン、4,6-ビス(メルカプトメチルチオ)-1,3-ジチアン、2-(2,2-ビス(メルカプトメチルチオ)エチル)-1,3-ジチエタン、1,1,2,2-テトラキス(メルカプトメチルチオ)エタン、3-メルカプトメチル-1,5-ジメルカプト-2,4-ジチアペンタン、トリス(メルカプトメチルチオ)メタン、エチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)およびジエチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0118】
3.樹脂
上記したイソシアネート成分と、上記した活性水素基含有成分とを反応させることにより、樹脂が製造される。言い換えれば、樹脂は、光学材料用重合性組成物の硬化物である。そのため、樹脂は、光学材料である。樹脂は、好ましくは、公知の成形方法によって成形される。つまり、成形体は、樹脂を含む。そのため、成形体は、光学部品である。樹脂の成形体として、例えば、光学素子が挙げられる。
【0119】
光学素子として、例えば、レンズ、シートおよびフィルムが挙げられ、好ましくは、レンズが挙げられる。
【0120】
レンズは、例えば、上記したXDI組成物と、上記したポリチオール成分との反応により製造される。レンズの製造では、例えば、注型法を採用することができる。
【0121】
レンズとして、例えば、透明レンズ、サングラスレンズ、偏光レンズ、眼鏡レンズ、カメラレンズ、ピックアップレンズ、および、コンタクトレンズが挙げられる。
【0122】
<作用効果>
上記した樹脂、成形体、光学素子およびレンズは、上記した光学材料用重合性組成物の硬化物を含む。そのため、樹脂、成形体、光学素子およびレンズは、耐熱性に優れる。
【0123】
なお、上記したXDI組成物は、コーティング(例えば、塗料および接着剤)の原料として利用することもできる。この場合、XDI組成物は、必要に応じて公知の方法で変性体化されて、イソシアネート成分として、コーティング用重合性組成物に含まれる。
【0124】
キシリレンジイソシアネート変性体組成物(以下、XDI変性体組成物とする。)は、上記したXDI組成物を変性することにより製造され、下記(a)~(i)の官能基を少なくとも1種含有する。
(a)イソシアヌレート基、
(b)アロファネート基、
(c)ビウレット基、
(d)ウレタン基、
(e)ウレア基、
(f)イミノオキサジアジンジオン基、
(g)ウレトジオン基、
(h)ウレトンイミン基、
(i)カルボジイミド基。
【0125】
より具体的には、上記(a)の官能基(イソシアヌレート基)を含有するXDI変性体組成物は、XDIのトリマーを含有しており、例えば、XDIモノマー組成物に公知のイソシアヌレート化触媒を添加して反応させ、XDIをイソシアヌレート化(例えば三量化)することにより、得ることができる。
【0126】
上記(b)の官能基(アロファネート基)を含有するXDI変性体組成物は、XDIのアロファネート変性体を含有しており、例えば、XDIモノマー組成物と、1価アルコールまたは2価アルコールとを反応させた後、公知のアロファネート化触媒を添加してさらに反応させることにより、得ることができる。
【0127】
上記(c)の官能基(ビウレット基)を含有するXDI変性体組成物は、XDIのビウレット変性体を含有しており、例えば、XDIモノマー組成物と、水または第二級アミンとを反応させた後、公知のビウレット化触媒を添加してさらに反応させることにより、得ることができる。
【0128】
上記(d)の官能基(ウレタン基)を含有するXDI変性体組成物は、XDIのポリオール変性体を含有しており、例えば、XDIモノマー組成物と、低分子量ポリオール(例えば、トリメチロールプロパン)との反応により、得ることができる。
【0129】
上記(e)の官能基(ウレア基)を含有するXDI変性体組成物は、XDIのポリアミン変性体を含有しており、例えば、XDIモノマー組成物と、ポリアミンとの反応により、得ることができる。
【0130】
上記(f)の官能基(イミノオキサジアジンジオン基)を含有するXDI変性体組成物は、XDIのイミノオキサジアジンジオン変性体(非対称性トリマー)を含有しており、例えば、XDI組成物を公知のイミノオキサジアジンジオン化触媒の存在下において反応させ、XDIをイミノオキサジアジンジオン化(例えば三量化)することにより、得ることができる。
【0131】
上記(g)の官能基(ウレトジオン基)を含有するXDI変性体組成物は、XDIのウレトジオン変性体を含有しており、例えば、XDI組成物を90℃~200℃程度で熱を印加させる方法、あるいは公知のウレトジオン化触媒の存在下において反応させ、XDIをウレトジオン化(例えば、二量化)することにより、得ることができる。
【0132】
上記(h)の官能基(ウレトンイミン基)を含有するXDI変性体組成物は、XDIのウレトンイミン変性体を含有しており、例えば、XDI組成物を公知のカルボジイミド化触媒の存在下において反応させ、カルボジイミド基を形成した後、そのカルボジイミド基にXDIを付加させることにより、得ることができる。
【0133】
上記(i)の官能基(カルボジイミド基)を含有するXDI変性体組成物は、XDIのカルボジイミド変性体を含有しており、例えば、XDI組成物を公知のカルボジイミド化触媒の存在下において反応させることにより、得ることができる。
【0134】
なお、XDI変性体組成物は、上記(a)~(i)の官能基を少なくとも1種含有していればよく、2種以上含有することもできる。また、XDI変性体組成物は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0135】
コーティング用重合性組成物は、例えば、二液硬化型樹脂原料であって、硬化剤としてのA剤と、主剤としてのB剤とを含む。
【0136】
A剤は、例えば、上記したXDI変性体組成物を含む。B剤は、例えば、ポリオール成分を含む。
【0137】
このようなコーティング用重合性組成物から形成されるコーティングも、耐熱性に優れる。
【実施例】
【0138】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、それらに限定されない。以下の記載において用いられる配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上記の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなど該当記載の上限値(「以下」、「未満」として定義されている数値)または下限値(「以上」、「超過」として定義されている数値)に代替することができる。なお、「部」および「%」は、特に言及がない限り、質量基準である。
【0139】
<測定方法>
上記化学式(2)に示す化合物(DCI)の含有割合の測定方法、および、ポットライフの測定方法は、以下の通りである。
【0140】
<<DCIの含有割合>>
国際公開第2018/190290号の準備例1と同様にして合成した純度99モル%のDCIを標準物質として用い、下記の条件でガスクロマトグラフィーにて分析して、得られたガスクロマトグラムの面積値から検量線を作成した(絶対検量線法)。
【0141】
次いで、後述する各実施例のXDI組成物を下記の条件でガスクロマトグラフィーにて分析して、DCIのモル数を得た。これを質量に換算して、後述する各実施例のXDI組成物中のDCIの含有割合を算出した。なお、DCIのリテンションタイムは、16.6分であった。
装置;HP-6890/5873(ヒューレットパッカード社製)
カラム;HP-50+、内径0.25mm×長さ30m×膜厚0.25μm(ヒューレットパッカード社製)
オーブン温度;50℃から280℃まで10℃/minで昇温、280℃到達後6minホールド。
スプリット比;パルスドスプリットレス法
注入口温度;200℃
検出器温度;280℃
キャリアガス;He
キャリアガス流量;1.0ml/min(定流量制御)
サンプル濃度:1.0質量%ジクロロメタン溶液
注入量;1.0μL
検出方法;SIM(モニタリングイオン:m/z 180、215)
<<ポットライフ>>
各実施例にて得られたXDI組成物50.8質量部と、硬化触媒としてジメチル錫ジクロライド0.01質量部とを、20℃にて混合溶解させた。続いて、4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカンおよび5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカンを主成分とするポリチオール成分49.2質量部を装入混合し、混合均一液とした。この混合均一液10gをサンプル瓶に装入して25℃の温度条件下でマグネチックスターラーにより攪拌した。1時間経過毎に、攪拌状態を目視で確認して、混合均一液の粘度が上昇してマグネチックスターラーによる攪拌ができなくなった状態の時間を計測した。この時間が長い程、ポットライフが良好であると判断した。
【0142】
<調製例:モノカルバモイルCl体を実質的に含有しないXDI組成物(MCC体不含有XDI組成物)の調製>
<<調製例1>>
国際公開第2018/190290号に記載の方法に準拠して、MCC体不含有XDI組成物を製造した。
【0143】
詳しくは、攪拌槽に、オルトジクロロベンゼン(ODCB)457.5質量部と、m-XDA43質量部とを装入した(全アミン濃度9質量%)。次いで、120℃に昇温した後、ODCBとXDAとの混合液に、塩化水素ガスを23質量部/hrの速度で2時間吹き込んだ。これによって、XDAの塩酸塩を含むスラリーを得た。
【0144】
次いで、スラリー(XDA塩酸塩)を、撹拌槽から撹拌槽とは別の反応槽に連続的に送液して、反応槽において、XDA塩酸塩に塩化カルボニルを供給して反応させながら、反応槽から反応マスを連続的に取り出した。
【0145】
XDAの塩酸塩と塩化カルボニルとの反応温度は、150℃であり、XDAの塩酸塩と塩化カルボニルとの反応圧力(ゲージ圧)は、0.03MPaGであった。また、XDAの塩酸塩1モルに対する塩化カルボニルの供給割合は、12モルであった。
【0146】
次いで、反応マスを脱ガスした後、脱溶媒し、さらにタール成分を除去した。
【0147】
その後、タール成分が除去された反応マスを、脱低沸塔において下記の条件で蒸留して、低沸物を除去した。脱低沸塔には、理論段数10段相当の充填物が充填されていた。
【0148】
脱低沸塔における脱低沸条件:
塔底温度:160~170℃
塔頂温度:115~125℃
塔頂圧力:0.5~1.0kPa
塔頂還流量:100部/hr
低沸物の留出量:3.1部/hr
塔頂還流比:32
滞留時間:0.3~3hr
次いで、低沸物が除去された反応マスを、精留塔により下記条件で精留して、留分としてXDI組成物を得た。精留塔には、理論段数3段相当の充填物が充填されていた。
【0149】
精留塔における精留条件:
塔底温度:150~160℃
塔頂温度:140~150℃
塔頂圧力:0.5~0.8kPa
XDI組成物の留出量:93.7部/hr
塔頂還流比:1
滞留時間:1~10hr
以上によって、MCC体不含有XDI組成物を製造した。
【0150】
<<調製例2>>
調製例1と同様にして、MCC体不含有XDI組成物を製造した。調製例2では、XDAの塩酸塩と塩化カルボニルとの反応圧力(ゲージ圧)を0.044MPaG、XDAの塩酸塩1モルに対する塩化カルボニルの供給割合を13.0モルに変更した。また、脱低沸塔における低沸物の留出量を3.4部/hr、塔頂還流比を29に変更した。さらに、精留塔におけるXDI組成物の留出量を93.8部/hrに変更した。
【0151】
<<調製例3>>
調製例2と同様にして、MCC体不含有XDI組成物を製造した。調製例3では、XDAの塩酸塩と塩化カルボニルとの反応圧力(ゲージ圧)を0.07MPaG、XDAの塩酸塩1モルに対する塩化カルボニルの供給割合を15.2モルに変更した。
【0152】
<実施例1~24:XDI組成物の調製>
各調製例で得られた精留直後のMCC体不含有XDI組成物に、XDI組成物におけるモノカルバモイルCl体の含有割合が目標値となるように、塩化水素ガスを吹き込んだ。これによって、XDI組成物を得た。
【0153】
得られたXDI組成物におけるモノカルバモイルCl体の含有割合を、上記した測定方法により測定した。結果を表1に示す。
【0154】
また、各XDI組成物におけるDCIの含有割合を上記の測定方法に従って測定した。その結果を表1に示す。また、DCIに対するモノカルバモイルCl体の質量比を表1に示す。
また、各XDI組成物をポリチオール成分と混合したときのポットライフを、上記の測定方法に従って測定した。その結果を表1に示す。
また、光学材料用重合性組成物のポットライフを、下記の測定方法に従って測定した。その結果を表2に示す。また、モノカルバモイルCl体に対する触媒のモル比を表2に示す。
<<ポットライフ>>
実施例1のXDI組成物50.8質量部に、表2に示される硬化触媒を、表2に示される配合量で20℃にて混合溶解させた。続いて、4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカンおよび5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカンを主成分とするポリチオール成分49.2質量部を装入混合し、実施例25~27、比較例1~4の光学材料用重合性組成物を、混合均一液として得た。得られた光学材料用重合性組成物をサンプル瓶に装入して20℃の温度条件下でマグネチックスターラーにより攪拌した。
1時間経過毎に、光学材料用重合性組成物の20℃における粘度(mPa・s)を、ブルックフィールド社製のB型粘度計を使用して、測定した。
20℃における粘度(mPa・s)が40mPa・sを超えた時間を、時間(A)と定義し、20℃における粘度(mPa・s)が1000mPa・sを超えた時間を、時間(B)と定義する。
【0155】
<プラスチックレンズの製造>
各実施例で得られたXDI組成物50.2質量部と、硬化触媒としてジメチル錫ジクロライド0.01質量部と、ゼレックUN(商品名Stepan社製品;酸性リン酸エステル)0.10質量部と、バイオソーブ583(共同薬品社製;紫外線吸収剤)1.5質量部とを、20℃にて混合溶解させた。そして、それらの混合液に、4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカンおよび5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカンを主成分とするポリチオール組成物49.2質量部を装入混合して、均一液とした。
【0156】
この均一液を600Paにて1時間脱泡した後、1μmテフロン(登録商標)フィルターにて濾過した後、ガラスモールドとテープからなるモールド型へ注入した。このモールド型をオーブンへ投入し、25℃~120℃まで徐々に昇温し、24時間で重合した。重合終了後、オーブンからモールド型を取り出し、離型して樹脂(プラスチックレンズ)を得た。樹脂は、厚さ9mm、直径75mmの円板形状を有していた。
【0157】
また、樹脂の離型性を下記の基準で評価した。その結果を表1に示す。
A:樹脂をガラスモールドから離型するときに、ガラスモールドおよび樹脂の両方が破損することなく離型できた。
B:樹脂をガラスモールドから離型するときに、ガラスモールドは破損しなかったが、樹脂が破損した。
C:加熱重合し冷却した後、樹脂をガラスモールドから離型するときに、すでにガラスモールドが破損していた。
【0158】
その後、得られた樹脂をさらに120℃で1時間アニールして、プラスチックレンズを製造した。
【0159】
そして、得られたプラスチックレンズのガラス転移温度Tgを、島津製作所製熱機械分析装置TMA-60を用いて、TMAペネートレーション法(50g荷重、ピン先0.5mmφ、昇温速度10℃/min)で測定して、耐熱性の指標とした。その結果を表1に示す。また、各実施例のXDI組成物におけるDCIに対するモノカルバモイルCl体の質量比と、樹脂(プラスチックレンズ)のガラス転移温度(Tg)との相関を、
図1に示す。また、各実施例のXDI組成物におけるモノカルバモイルCl体の含有割合と、樹脂(プラスチックレンズ)のガラス転移温度(Tg)との相関を、
図2に示す。
【0160】
【表1】
【表2】
表2に示す結果から、比較例1の時間(A)は実施例25および26の時間(B)よりも長い。そのため、比較例1の光学材料用重合性組成物は実施例25および26の光学材料用重合性組成物よりも熱硬化が進行し難いと判断できる。
比較例2の時間(A)は実施例27、28および29の時間(B)よりも長い。そのため、比較例2の光学材料用重合性組成物は実施例27、28および29の光学材料用重合性組成物よりも熱硬化が進行し難いと判断できる。