(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-08
(45)【発行日】2023-03-16
(54)【発明の名称】プラズマ発生方法、プラズマ処理方法およびプラズマ発生装置
(51)【国際特許分類】
C08J 7/00 20060101AFI20230309BHJP
B01J 19/08 20060101ALI20230309BHJP
B29C 71/04 20060101ALI20230309BHJP
H05H 1/24 20060101ALI20230309BHJP
【FI】
C08J7/00 306
B01J19/08 E
B29C71/04
H05H1/24
(21)【出願番号】P 2019061446
(22)【出願日】2019-03-27
【審査請求日】2022-02-07
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第30条第2項適用、平成31年1月14日応用物理学会プラズマエレクトロニクス分科会における第36回プラズマプロセシング研究会プロシーディングスで発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第30条第2項適用、平成31年1月17日高知城ホールで行われた第36回プラズマプロセシング研究会で発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第30条第2項適用、平成31年2月25日公益社団法人応用物理学会における第66回応用物理学会春季学術講演会 講演予稿集で発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第30条第2項適用、平成31年3月12日東京工業大学で行われた第66回応用物理学会春季学術講演会で発表
(73)【特許権者】
【識別番号】513067727
【氏名又は名称】高知県公立大学法人
(73)【特許権者】
【識別番号】000128496
【氏名又は名称】株式会社オーク製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100090169
【氏名又は名称】松浦 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100124497
【氏名又は名称】小倉 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】八田 章光
(72)【発明者】
【氏名】矢島 英樹
(72)【発明者】
【氏名】芹澤 和泉
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特表平09-501705(JP,A)
【文献】特開平08-337676(JP,A)
【文献】特開2014-113534(JP,A)
【文献】特開2004-111137(JP,A)
【文献】特開2018-145255(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 7/00
B01J 19/08
B29C 71/04
H05H 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水
とアルコールの混合液に不活性ガスを接触させることによって生成される混合ガスを
、原料ガスとしてプラズマ発生部へ供給し、
前記プラズマ発生部を間にして設けられる一対の電極間に電圧を印加することで、プラズマを発生させる
プラズマ発生方法であって、
前記混合液の水に対するエタノール重量比(>0)が、0.5より小さい範囲にあることを特徴とするプラズマ発生方法。
【請求項2】
水蒸気成分の割合よりもアルコール蒸気成分の割合が相対的に小さい
前記混合ガスを、前記プラズマ発生部へ供給することを特徴とする
請求項1に記載のプラズマ発生方法。
【請求項3】
水蒸気とアルコール蒸気とを含む
前記混合ガス
のアルコール蒸気が、エタノール、メタノール、2-プロパノールのうち少なくともいずれか1つの成分から成ることを特徴とする請求項1または2に記載のプラズマ発生方法。
【請求項4】
前記不活性ガスが、アルゴンガスであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のプラズマ発生方法。
【請求項5】
PTFE材料で被処理面を構成する被処理物を、前記プラズマ発生部に配置することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のプラズマ発生方法。
【請求項6】
前記混合液の水に対するエタノール重量比(>0)が、
0.01以上であることを特徴とする請求項
1に記載のプラズマ発生方法。
【請求項7】
前記混合液の水に対するエタノール重量比(>0)が、0.1より小さい範囲にあることを特徴とする請求項
1に記載のプラズマ発生方法。
【請求項8】
プラズ
マ発生部を間にして設けられる一対の電極間に電圧を印加することで、プラズマを発生させ、
前記プラズマ発生部内に、PTFE材料で被処理面を構成する被処理物を配置し、
表面改質後の前記被処理面の接触角が46°未満となるように、原料ガスを前記プラズマ発生部に供給する
プラズマ処理方法であって、
水蒸気とアルコール蒸気ガスとを含み、水蒸気成分の割合よりもアルコール蒸気成分の割合が相対的に小さい前記原料ガスを、前記プラズマ発生部へ供給することを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項9】
前記被処理面の接触角が25°以下となるように、
前記原料ガスを前記プラズマ発生部に供給することを特徴とする請求項8に記載のプラズマ処理方法。
【請求項10】
前記プラズマ発生部
で発生するプラズマによって、前記被処理面をプラズマ処理することを特徴とする請求項8または9に記載のプラズマ処理方法。
【請求項11】
一対の電極と、
前記一対の電極の間に設けられるプラズマ発生部と、
水蒸気とアルコール蒸気とを含む原料ガスを、前記プラズマ発生部へ供給する原料ガス供給部とを備え
、
前記原料ガス供給部が、容器内にある水とアルコールとを含む混合液に対し、不活性ガスを接触させ、前記容器内で発生する混合ガスを、前記原料ガスとして前記プラズマ発生部に供給し、
前記混合液のアルコールの割合が、水より小さいことを特徴とするプラズマ発生装置。
【請求項12】
水蒸気とアルコール蒸気とを含む前記混合ガスのアルコール蒸気が、エタノール、メタノール、2-プロパノールのうち少なくともいずれか1つの成分から成ることを特徴とする請求項11に記載のプラズマ発生装置。
【請求項13】
前記プラズマ発生部に、PTFE材料で被処理面を構成する被処理物が配置されることを特徴とする請求項
11に記載のプラズマ発生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ発生方法、プラズマ処理方法およびプラズマ発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
表面改質の手法として、プラズマ処理が知られている。プラズマ処理では、被処理物の材料に応じたガス(アルゴンなど)をガラスプレートなどで囲まれることで構成されたプラズマ発生部に供給し、高電圧を印加することでプラズマ(グロー放電、ストリーマ放電)を発生させ、被処理物の表面分子を切断、励起し、改質させる。
【0003】
例えば、エタノールを気化させてアルゴンガスと混合し、電極間のプラズマ発生部に配置されたポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの被処理物に供給する。エタノール蒸気からプラズマ励起によって水素ラジカルが解離すると、表面のC-F結合がラジカルによって切断され、親水性の官能基などが表面に修飾される(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
プラズマ処理は、他の処理と比べて安全かつ環境負荷が小さく、高速処理が可能である。そのため、より効率的に親水性(濡れ性)のある表面に改質することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のプラズマ発生方法は、新たな供給ガスをプラズマ発生部に提供することによって、親水性をもつ表面へ改質させる表面処理などを実現可能にするものであり、水蒸気とアルコール蒸気とを含む原料ガスを、プラズマ発生部へ供給し、プラズマ発生部を間にして設けられる一対の電極間に電圧を印加することで、プラズマを発生させる。
【0007】
原料ガスにおける水蒸気とアルコール蒸気の割合は様々であるが、より親水性をもたせるには、水蒸気成分の割合よりもアルコール蒸気成分の割合が相対的に小さい原料ガスを、プラズマ発生部へ供給するのが望ましい。原料ガスは、水蒸気とアルコール蒸気とを別々に供給してもよいが、割合を調整しやすいように、水蒸気とアルコール蒸気とを含む混合ガスを、原料ガスとしてプラズマ発生部に供給するのがよい。アルコール蒸気としては、例えば、エタノール、メタノール、2-プロパノールのうち少なくともいずれか1つの成分を含むガス、あるいは少なくともいずれか1つの成分から成るアルコール蒸気を適用することが可能である。
【0008】
水蒸気とアルコール蒸気と不活性ガスとを含む混合ガスを、原料ガスとしてプラズマ発生部に供給することが可能である。例えば、水とアルコールの混合液に不活性ガスを接触させることによって生成される混合ガスを、原料ガスとしてプラズマ発生部に供給することができる。
【0009】
この場合、混合液の水に対するエタノール重量比(>0)が、0.5より小さい範囲にあることが望ましい。さらに、混合液の水に対するエタノール重量比(>0)が、0.1より小さい範囲にあることが望ましい。
【0010】
本発明の他の態様であるプラズマ処理方法は、プラズマ発生部を間にして設けられる一対の電極間に電圧を印加することで、プラズマを発生させ、プラズマ発生部内に、PTFE材料で被処理面を構成する被処理物を配置し、表面改質後の被処理面の接触角が46°未満となるように、原料ガスをプラズマ発生部に供給する。さらに、表面改質後の被処理面の接触角が25°以下となることが望ましい。例えば、プラズマ発生部へ水蒸気とアルコール蒸気ガスとを含む原料ガスを供給し、被処理面をプラズマ処理することができる。
【0011】
本発明の他の態様であるプラズマ発生装置は、一対の電極と、一対の電極の間に設けられるプラズマ発生部と、水蒸気とアルコール蒸気とを含む原料ガスを、プラズマ発生部へ供給する原料ガス供給部とを備える。例えば、原料ガス供給部は、容器内にある水とアルコールとを含む混合液に対し、不活性ガスを接触させ、容器内で発生する混合ガスをプラズマ発生部に供給することができる。より親水性をもたせるため、混合液のアルコールの割合が、水より小さくするのが望ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、優れた親水性をもつ表面処理などを行うことが可能なプラズマ発生装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】混合液の水に対するエタノール重量比と接触角との関係を示したグラフである。
【
図3】エタノール濃度と水素発生量との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下では、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0015】
図1は、本実施形態であるプラズマ発生装置の概略的構成図である。
【0016】
プラズマ発生装置10は、プラズマ処理によって被処理物90の表面改質を行うことが可能であり、被処理物90としては、例えばPTFEなどが適用される。プラズマ発生装置10は、一対の電極20と、液体を貯留する容器30と、プラズマ発生部40とを備える。一対の電極20の間に配置されるプラズマ発生部40は、例えば一定距離で離間したガラスプレートによって囲まれることで構成される。
【0017】
導管70は、ガスタンク50内にある不活性ガスを容器30へ送るガス管であり、ここでは、アルゴン(Ar)ガスが供給される。導管80は、容器30内のガスをプラズマ発生部40へ送る。マスフローコントローラ(以下、MFCとする)60は、不活性ガスの供給量(質量もしくは体積)を計測し、ガス流量を制御する。ここでは、容器30、ガスタンク50、MFC60、導管70、80が、原料ガス供給部を構成している。
【0018】
容器30には、水とアルコールの混合液が貯留されている。ここでは、エタノールと水が所定の割合で混ぜた混合液体が貯留されている。MFC60によって不活性ガスが容器30内へ供給されると、バブリングによって、水蒸気、エタノール蒸気、不活性ガスから成る混合ガスが、原料ガスとしてプラズマ発生部40へ供給される。容器30の底部には、混合液の温度を一定(常温20℃)に維持するために恒温装置35が設けられている。
【0019】
一対の電極20に対しては、図示しない電源部によって高周波(数kHz以上)の高電圧(数kV以上)が、大気圧雰囲気下で印加される。これによって、プラズマがプラズマ発生部40において発生する。原料ガスからラジカル(H*、O*など)が生じることによって、被処理物90の表面に親水性の官能基が修飾され、表面改質される。
【0020】
原料ガスとして供給するエタノール蒸気と水蒸気の割合は任意であるが、被処理物90の表面に優れた親和性をもたせるため、エタノール蒸気の割合が水蒸気の割合より小さくなるように調節することが可能である。そのために、容器30内の混合液のアルコールの割合が水より小さくなるようにすれば良い。例えば、エタノールの重量比が0.5以下になるように調整される。好ましくは、重量比が0.1以下の範囲となるように混合液を作成すればよい。
【0021】
ここで、被処理物の表面に滴下した液滴の接触角について説明する。上述したプラズマ発生装置10によるプラズマ処理よって、被処理物90の表面が親水性をもつと、接触角θが小さくなる。つまり、被処理物90の表面自由エネルギーが水の表面自由エネルギーの値に近くなる。被処理物90の表面自由エネルギーが、塗料や接着剤との表面自由エネルギーに近づくことで接着性が増す。親水性のある表面ほど、液滴の接触角θが小さくなる。この接触角θは、水素生成量が増加すると小さくなる傾向があり、後述するように、水素生成量は、エタノール蒸気の割合が水蒸気の割合に対して小さい混合ガスを供給することによって顕著に増加する。
【0022】
このような効果は、エタノール蒸気以外のアルコール蒸気でも同様であり、ヒドロキシル基、カルボニル基、カルボキシル基など親水性官能基を被処理物表面に顕著に増加させるアルコール(エタノール、メタノール、2-プロパノール)のガスと水蒸気の混合ガスでもよい。あるいは、これらのアルコール蒸気のうち少なくとも2つの成分を含む混合ガスでもよい。
【0023】
不活性ガスについても、アルゴンガス以外の不活性ガスを適用してもよい。さらには、バブリングをせずに、アルコール蒸気と水蒸気とから成るガスだけを原料ガスとして供給することも可能である。また、アルコール蒸気と水蒸気と不活性ガス以外のガスを含む混合ガスを、原料ガスとして供給してもよい。そして、アルコール蒸気と、水蒸気を、混合ガスとして別々に供給することも可能である。
【0024】
プラズマ発生装置10は、ラジカル生成によって被処理物の機能を変えることが可能であるから、表面改質などの表面処理以外においても、化学変化、物理変化、エネルギー変換などを促進させるのに必要なラジカル生成の装置として、本実施形態のプラズマ発生装置を適用することができる。
【実施例】
【0025】
以下、実施例について説明する。本実施例のプラズマ発生装置は、上述した実施形態に相当するプラズマ発生装置であり、タンク内のアルゴンガスを、水とエタノールの混合液が含まれる容器に供給してバブリングさせ、発生する混合ガスをプラズマ発生部に供給する。プラズマ発生部は、幅40mm、高さ2mmの内部空間(被処理物を配置してプラズマ処理する空間)を有するように、厚さ0.3mmのガラス板を2mmの距離で対向配置により構成され、10×10mm2の一対の電極が対向するようにプラズマ発生部両側に設置した。
【0026】
このようなプラズマ発生装置に対し、接触角を測定する実験を行った。具体的には、大気圧の下、10kV、25kHzの高周波交流電圧を電極に印加し、10秒間プラズマ処理を行った。混合液のエタノール濃度を変えながら同様のプラズマ処理を行い、各エタノール濃度の接触角[°]を計測した。その一方で、四重極質量分析計QMSを用いてガス組成を分析し、水素発生量[任意単位]を測定した。
【0027】
混合液は、アルゴンガスを0.5slmの流量でバブリングする条件下で常温20℃で維持した。被処理物としては、30×30×1mm3のPTFEシートを洗浄し、対向する電極の中央部に配置した。接触角の測定には、プラズマ処理したPTFEシートの表面に脱イオン水を1マイクロリットル滴下し、30秒経過後に測定した。
【0028】
なお、予備実験として、四重極質量分析計QMSを用いてガス組成を分析したところ、混合液のエタノール濃度をエタノール水溶液による蒸気中のモル分率により換算した割合でプラズマ発生部にエタノール蒸気が供給されていることが確認された。
【0029】
図2は、水に対するエタノールの重量比と接触角との関係を示したグラフである。エタノールの重量比が「0」と「1」、すなわち、水のみ、エタノールのみの液体を用いてプラズマ処理したときの接触角も、比較対象として測定している。エタノールの重量比を0、0.01、0.03、0.05、0.1、0.5、1としたとき、測定された接触角[°]は、それぞれ87、58、18、23、25、47、46となった。
【0030】
図2に示すように、エタノールの重量比が1から0.5の範囲で小さくしても、すなわち混合液における水の割合がエタノールより小さい範囲では、エタノールのみの場合の接触角と同程度となる。特にエタノールの重量比が0.5のときは、重量比0のときの接触角(87°)と重量比1のときの接触角(46°)との中間値(67°)に対しても、接触角が小さくなることが確認された。また、エタノールの重量比が0.5よりも小さい、すなわち混合液におけるエタノールの割合が水よりも小さい範囲では、水のみ、あるいはエタノールのみの場合の接触角と比べて接触角が小さく(46°未満)なることが確認された。
【0031】
特に、エタノール重量比が0.03から0.1の範囲で小さくなるほど、接触角が25°以下になることがグラフから導かれる。したがって、供給する原料ガスについては、水蒸気成分よりもエタノール蒸気成分が少ない原料ガスを供給すること、より小さい接触角にすることができるといえる。ただし、重量比0.01付近ではエタノール量が十分でないため、0.01以上の重量比にするのがよい。
【0032】
図3は、エタノールの重量比と水素発生量との関係を示したグラフである。
図3では、横軸をエタノール濃度(重量比)、縦軸を水素発生量[任意単位]としている。
図3から明らかなように、混合液におけるエタノールの割合を少量であっても、ラジカル生成と関係づけられる水素発生量が急増していることがわかる。
【符号の説明】
【0033】
10 プラズマ発生装置
20 一対の電極
30 容器
40 プラズマ発生部
50 タンク
60 MFC
70 導管
80 導管
90 被処理物