(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-08
(45)【発行日】2023-03-16
(54)【発明の名称】探査方法、プログラム、プログラムを格納したコンピュータ読み取り可能な記録媒体およびコンピュータ
(51)【国際特許分類】
G01V 3/04 20060101AFI20230309BHJP
G01N 27/04 20060101ALI20230309BHJP
【FI】
G01V3/04
G01N27/04 Z
(21)【出願番号】P 2019101191
(22)【出願日】2019-05-30
【審査請求日】2022-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】317011137
【氏名又は名称】株式会社ジオ・ヴェスト
(73)【特許権者】
【識別番号】595088089
【氏名又は名称】株式会社ダイエーコンサルタンツ
(74)【代理人】
【識別番号】100090169
【氏名又は名称】松浦 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100124497
【氏名又は名称】小倉 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】竹内 睦雄
(72)【発明者】
【氏名】金 喜俊
【審査官】野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-337746(JP,A)
【文献】特開2007-285728(JP,A)
【文献】特開平7-12766(JP,A)
【文献】特開2011-220911(JP,A)
【文献】特開2016-99183(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01V 1/00-15/00;99/00
G01N 27/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータによる解析によって、測定領域の地下構造の3次元比抵抗モデルを構築する探査方法であって、
測定領域にある複数の測線に沿って配置された電極に電流を流すことで測定された見掛け比抵抗もしくは電位差と、電極配置情報とをデータとして受け取り、
測定領域の地形データに基づいて、地下構造の3次元比抵抗モデルを作成し、
順解析することによって、作成した3次元比抵抗モデルから理論上見掛け比抵抗もしくは電位差を算出し、
複数の測線の中で選ばれた測線に沿った鉛直方向断面における見掛け比抵抗もしくは電位差と、算出された理論上見掛け比抵抗もしくは電位差の中で選ばれた測線に沿った鉛直方向断面に対応する理論上見掛け比抵抗もしくは電位差との差に基づいて、3次元比抵抗モデルを修正する逆解析を行い、
差が所定値以下となるように、順解析と逆解析を繰り返し行い、差が所定値以下の3次元比抵抗修正モデルを構築する探査方法であって、
差が所定値以下になると、新たに選ばれた測線を先に選ばれた測線に加え、3次元比抵抗モデルの作成および順解析と逆解析の繰り返しを行うことを特徴とする探査方法。
【請求項2】
選ばれた測線に隣り合う、もしくは交差する測線を新たに加えて、3次元比抵抗モデルの作成および順解析と逆解析の繰り返しを行うことを特徴とする請求項1に記載の探査方法。
【請求項3】
初めに、1つの測線に基づく3次元比抵抗モデルの作成および順解析と逆解析の繰り返しを行うことを特徴とする請求項1または2に記載の探査方法。
【請求項4】
3次元比抵抗修正モデルの構築のたびに、1つずつ測線を加えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の探査方法。
【請求項5】
コンピュータにおいて、
測定領域にある複数の測線に沿って配置された電極に電流を流すことで測定された見掛け比抵抗もしくは電位差と、電極配置情報とを、データとして受け取る第1ステップと、
測定領域の地形データに基づいて、測定領域の地下構造の3次元比抵抗モデルを構築する第2ステップと、
順解析することによって、3次元比抵抗モデルから理論上見掛け比抵抗もしくは電位差を算出する第3ステップと、
複数の測線の中で選ばれた測線に沿った鉛直方向断面における見掛け比抵抗もしくは電位差と、算出された理論上見掛け比抵抗もしくは電位差の中でその選ばれた測線に沿った鉛直方向断面に対応する理論上見掛け比抵抗もしくは電位差との差に基づいて、3次元比抵抗モデルを修正する逆解析を行う第3ステップと、
差が所定値以下となるように、順解析と逆解析を繰り返し行い、差が所定値以下の3次元比抵抗修正モデルを構築する第4ステップと、
差が所定値以下になると、新たに選ばれた測線を先に選ばれた測線に加える第5ステップとを実行させ、
測線が加えられるたびに、第1ステップから第4ステップを実行させることを特徴とするプログラム。
【請求項6】
請求項5に記載のプログラムを格納したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【請求項7】
測定領域にある複数の測線に沿って配置された電極に電流を流すことで測定された見掛け比抵抗もしくは電位差と、電極配置情報とを、データとして受け取る収集部と、
測定領域の地形データに基づいて、測定領域の地下構造の3次元比抵抗モデルを構築する3次元モデル構築部と、
順解析することによって、3次元比抵抗モデルから理論上見掛け比抵抗もしくは電位差を算出する順解析部と、
複数の測線の中で選ばれた測線に沿った鉛直方向断面における見掛け比抵抗もしくは電位差と、算出された理論上見掛け比抵抗もしくは電位差の中でその選ばれた測線に沿った鉛直方向断面に対応する理論上見掛け比抵抗もしくは電位差との差に基づいて、3次元比抵抗モデルを修正する逆解析を行う逆解析部と、
差が所定値以下となるように、順解析と逆解析を繰り返し行い、差が所定値以下となる3次元比抵抗修正モデルを構築する演算部とを備え、
差が所定値以下になると、新たに選ばれた測線を先に選ばれた測線に加え、3次元比抵抗モデルの作成および順解析と逆解析の繰り返しを行うことを特徴とするコンピュータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下構造などを探査する電気探査方法およびシステムに関し、特に、比抵抗法による3次元探査に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、複雑な地形や地質構造を有する地域で土木構造物を建設する際には、精度の高い地盤調査が求められる。また、近年、面積が数km2に及ぶ大規模な地滑りや豪雨時の多発的な斜面崩壊など、比較的広い範囲に及ぶ地質条件に起因する地盤災害に対する防災対策や、重金属や揮発性有機化合物質等の汚染物質による地質汚染の現況把握の対策としても精度の高い地盤調査が求められる。さらに、石油や地下水脈等の地下資源の探査や火山の内部探査にも、精度の高い地盤調査が求められる。
【0003】
従来、このような地下構造を推定する手法として、比抵抗法が知られている。比抵抗法では、測線に沿って垂下させた多数の電極の中で一対の電極間に電流を流し、その他の一対の電極間の電位差を測定することで、電極間距離あるいは電極位置に応じた深度の比抵抗(見掛け比抵抗)を算出し、地盤の見掛け比抵抗分布を求める。
【0004】
2次元探査の場合、測線の側方(側線直下の探査断面に垂直な方向)に関して地下構造が変化しないことを前提として解析が行わる。そのため、地下構造が3次元的に変化する地盤において探査精度が低下する。一方、3次元探査の場合、3次元的な地形及び地盤を考慮した測定を行い、地下空間などを微小領域に分割した3次元の比抵抗モデルを作成する必要があり、解析が困難であって時間がかかる。
【0005】
地下構造を3次元的に精度よく解明するための探査方法として、2次元探査データを用いながら3次元比抵抗モデルを作成して解析する高密度3次元探査方法が知られている(特許文献1参照)。そこでは、探査範囲内に複数の直線状の測線を配置し、各測線に沿う電極間の2次元探査データを採取する一方、この探査範囲内に地下空間などを微小領域に分割した3次元比抵抗モデルを構築する。そして、有限要素法などを用いた順解析により理論値(電位あるいは見掛け比抵抗値)を求め、理論値と実測値との差が十分小さくなるように、最小二乗法などによって逆解析を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
3次元比抵抗モデルを用いた解析では、隣り合う測線間で地下構造などが複雑に変化していると、順解析の理論値と実測値との乖離が大きく、順解析と逆解析を繰り返し行っても収束困難となり、適正な3次元比抵抗モデルの構築が難しい。
【0008】
したがって、3次元比抵抗モデルを用いた探査方法において、解析によって確実に3次元比抵抗モデルを構築することが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様である探査方法は、コンピュータによる解析によって、測定領域の地下構造の3次元比抵抗モデルを構築する探査方法であり、デスクトップ、ノート型パソコンなどのコンピュータ、あるいはクラウドサーバなどのコンピュータによって実現可能である。本発明の探査方法は、測定領域にある複数の測線に沿って配置された電極に電流を流すことで測定された見掛け比抵抗(もしくは電位差)と、電極配置情報とをデータとして受け取り、測定領域の地形データに基づいて、地下構造の3次元比抵抗モデルを作成し、順解析することによって、作成した3次元比抵抗モデルから理論上見掛け比抵抗(もしくは電位差)を算出し、複数の測線の中で選ばれた測線に沿った鉛直方向断面における見掛け比抵抗(もしくは電位差)と、算出された理論上見掛け比抵抗(もしくは電位差)の中で選ばれた測線に沿った鉛直方向断面に対応する理論上見掛け比抵抗(もしくは電位差)との差に基づいて、3次元比抵抗モデルを修正する逆解析を行う。差が所定値以下となるように、順解析と逆解析を繰り返し行い、差が所定値以下の3次元比抵抗修正モデルを構築する。コンピュータの制御部あるいは解析処理部で上記処理を実行させることが可能であり、また、処理それぞれに対する回路を設けてもよい。
【0010】
そして本発明では、差が所定値以下になると、新たに選ばれた測線を先に選ばれた測線に加え、3次元比抵抗モデルの作成および順解析と逆解析の繰り返しを行う。新たな測線の追加は、コンピュータの制御部あるいは専用の回路などで自動的に測線を選ぶことが可能であり、あるいは、ユーザなどの入力操作支援によって新たな測線を選ぶことも可能である。また、すべての測線を用いた3次元比抵抗修正モデルの構築を実現してもよく、あるいは、一部の測線に基づいて3次元比抵抗修正モデルを構築することも可能である。探査方法の過程において、新たに選ばれた測線を先に選ばれた測線に加え、3次元比抵抗モデルの作成および順解析と逆解析の繰り返しを行うプロセスが少なくとも一度実行されればよい。
【0011】
測線の選び方は任意である、例えば、選ばれた測線に隣り合う、もしくは交差する測線を新たに加えて、3次元比抵抗モデルの作成および順解析と逆解析の繰り返しを行うことが可能である。
【0012】
測線の追加の仕方、すなわち解析初期の本数、増加させる本数などは任意である。例えば、初めに、1つの測線に基づく3次元比抵抗モデルの作成および順解析と逆解析の繰り返しを行うようにすることができる。また、3次元比抵抗修正モデルの構築のたびに、1つずつ測線を加えることが可能である。
【0013】
本発明の一態様であるプログラムは、コンピュータにおいて、測定領域にある複数の測線に沿って配置された電極に電流を流すことで測定された見掛け比抵抗もしくは電位差と、電極配置情報とを、データとして受け取る第1ステップと、測定領域の地形データに基づいて、測定領域の地下構造の3次元比抵抗モデルを構築する第2ステップと、順解析することによって、3次元比抵抗モデルから理論上見掛け比抵抗もしくは電位差を算出する第3ステップと、複数の測線の中で選ばれた測線に沿った鉛直方向断面における見掛け比抵抗もしくは電位差と、算出された理論上見掛け比抵抗もしくは電位差の中でその選ばれた測線に沿った鉛直方向断面に対応する理論上見掛け比抵抗もしくは電位差との差に基づいて、3次元比抵抗モデルを修正する逆解析を行う第3ステップと、差が所定値以下となるように、順解析と逆解析を繰り返し行い、差が所定値以下の3次元比抵抗修正モデルを構築する第4ステップと、差が所定値以下になると、新たに選ばれた測線を先に選ばれた測線に加える第5ステップとを実行させ、測線が加えられるたびに、第1ステップから第4ステップを実行させる。このようなプログラムは、CD-ROMその他記録媒体に格納することができる。
【0014】
本発明の一態様であるコンピュータは、測定領域にある複数の測線に沿って配置された電極に電流を流すことで測定された見掛け比抵抗もしくは電位差と、電極配置情報とを、データとして受け取る収集部と、測定領域の地形データに基づいて、測定領域の地下構造の3次元比抵抗モデルを構築する3次元モデル構築部と、順解析することによって、3次元比抵抗モデルから理論上見掛け比抵抗もしくは電位差を算出する順解析部と、複数の測線の中で選ばれた測線に沿った鉛直方向断面における見掛け比抵抗もしくは電位差と、算出された理論上見掛け比抵抗もしくは電位差の中でその選ばれた測線に沿った鉛直方向断面に対応する理論上見掛け比抵抗もしくは電位差との差に基づいて、3次元比抵抗モデルを修正する逆解析を行う逆解析部と、差が所定値以下となるように、順解析と逆解析を繰り返し行い、差が所定値以下となる3次元比抵抗修正モデルを構築する演算部とを備え、差が所定値以下になると、新たに選ばれた測線を先に選ばれた測線に加え、3次元比抵抗モデルの作成および順解析と逆解析の繰り返しを行う。
【発明の効果】
【0015】
3次元比抵抗モデルを用いた探査方法において、解析によって確実に3次元比抵抗モデルを構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態に係る地下構造の探査システムを示す概略説明図である。
【
図2】探査システムの構成を示すブロック図である。
【
図3】地下構造の解析処理の概要を示すフローチャートである。
【
図4】見掛け比抵抗値の表示方法を示す説明図である。
【
図5】3次元比抵抗モデルの一部を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下では、図面を参照して、本実施形態である地下構造の探査システムとそのシステムを用いた探査方法について説明する。
【0018】
図1は、第1の実施形態である探査システムの概略的構成図である。
【0019】
探査システム100は、電極E1…En(nは任意の整数)に電気的に接続され、測定された電位に基づいて見掛け比抵抗を測定する電気探査装置3と、電気探査装置3に電気的に接続可能なコンピュータ4とを備える。コンピュータ4は、入出力装置と中央演算処理装置とメモリと表示画面とを有し、測定された見掛け比抵抗データD・Rrlと、各測線の電極E1~Enの配置情報ImP1~ImPnと、各測線の電極E1~Enの標高情報ImL1~ImLnとを、電気探査装置3から受信する。
【0020】
電極E1…Enは、地表Gの探査範囲EX内に配置された複数の測線TL(TLa…TLm(mは任意のアルファベット))それぞれに沿って、所定間隔S毎に配置される。
図1では、2極法配置に従って電極が配置されている。電極間隔Sは、1m~800mのうち、探査対象深度に応じて実験から求められた所定の比(5倍~10倍)に基づいて所望の数値が選択される。なお、ダイポール・ダイポール配置など他の電極配置でも可能である。
【0021】
複数の測線TLに関して説明すると、測線TLaが南北方向(
図1の上下方向)に延び、他の測線TLbが東西方向(
図1の左右方向)に延び、交差する一部が緯線に対して傾斜し、一部湾曲している。第3の測線TLc、第4の測線TLd、第5の測線TLeも、他の測線と交差している。なお、複数の測線TLの配置については、他の配置にすることも可能である。
【0022】
電気探査装置3は、測線TLa…TLm上に配置された電極E1…Enの、送信側(SOURCE側)電極(電流電極)から発信された電流を、受信側(RECEIVER側)電極(電位電極)で受信して電位を測定し、発信された電流と測定された電位とに基づいて見掛け比抵抗D・Rrlを測定し、電極E1a~End2の配置情報ImP1~ImPn、標高情報ImL1~ImLnとともに、見掛け比抵抗データD・Rrlをコンピュータ4に送信する。
【0023】
【0024】
コンピュータ4は、電極配置情報収集部10と、電極標高情報収集部11と、見掛け比抵抗データ収集部12と、3次元比抵抗構造作成部13と、可視化データ作成部14と、表示部15を備えている。
【0025】
電極配置情報収集部10には、現場での測定により得られた電極の配置情報ImP1~ImPnまたは過去の測定で得られた既知の電極の配置情報ImPx1~ImPxnが入力されるようになっている。ここでいう電極の配置情報は、水平面上の位置を指し、配置プランや測定により求めてもよいし、GPS等に基づいて経緯度により求めてもよい。
【0026】
電極標高情報収集部11も同様であり、測定された電極の標高情報ImL1~ImLnまたは過去の測定で得られた既知の電極の標高情報ImLx1~ImLxnが入力される。あるいは、予めメモリまたは図示しない記憶媒体に保存されたものを利用するようにしてもよいし、通信やインターネットを通じてウェブ上で公開されたサイトから入手するようにしてもよい。
【0027】
見掛け比抵抗データ収集部12には、現場での測定により得られた見掛け比抵抗データD・Rrlまたは過去の測定で得られた既知の見掛け比抵抗データD・Rrlが入力されるようになっている。
【0028】
3次元比抵抗構造作成部13は、初期モデル構築部20と、順解析部21と、演算部22と、逆解析部23から構成される。初期モデル構築部20は、外部から入力された地形データおよび電極E1a~End2の配置情報ImP1~ImPnと電極E1a~End2の標高情報ImL1~ImLnとに基づき、初期モデルを構築する。ただし、測定された見掛け比抵抗D・Rrlをさらに参照して初期モデルを構築してもよい。
【0029】
順解析部21は、構築された初期モデルに基づいて順解析(フォワード計算)を行い、電極の配置から理論上の見掛け比抵抗値D・Rthを計算する。演算部22は、順解析により導かれた理論上の見掛け比抵抗データD・Rthと、測定された見掛け比抵抗データD・Rrlとにより理論値と測定値との差を算出し、逆解析部23は、逆解析(インヴァージョン計算)により3次元比抵抗モデルを修正する。
【0030】
そして、順解析と逆解析を繰り返しながら、地下構造の最終的な3次元比抵抗モデルを取得する。後述するように、本実施形態では、測線を増やしながら3次元比抵抗モデルをその都度修正し、すべての測線を用いた解析によって最終的な3次元比抵抗モデルを構築する。3次元比抵抗モデルのデータは、 図示しないメモリなどに記憶される。
【0031】
可視化データ作成部14は、記憶された3次元比抵抗モデルのデータから3次元可視化データD・Vとして作成する。これによって、表示装置(モニター)4Aの表示部15には、3次元可視化ソフトウェアを通じて3次元電気探査解析結果がグラフィックによって表示される。
【0032】
以下では、
図3~5を用いて解析処理について説明する。
図3は、解析処理のフローを示した図である。
【0033】
まず、電極の配置情報ImP1…Pnと電極の標高情報ImL1…Lnと見掛け比抵抗データD・Rrlなどの探査データを取得する。(S101)。そして、測定領域Gの地形データに基づいて、3次元比抵抗モデルの初期モデルを構築する(S102)。地形データは、航空測量データなどによって作成された地形図に基づき作成され、あらかじめメモリなどに記憶されている。そして、電極の配置情報ImP1…Pnと電極の標高情報ImL1…Lnによって、電極位置ずれを解消するように地形データが補正される。初期モデルは、補正された測定領域Gの地形データ(標高データ)に基づいて作成される。
【0034】
3次元比抵抗モデルは、測定領域下の地下構造における比抵抗分布を3次元的に示すモデルであり、その測定領域下の地質特性などを表す。ここでは、3次元微小要素に地下構造を分割し、その要素内で比抵抗が一定であると仮定したときの比抵抗分布をモデル化する。
【0035】
また、3次元比抵抗モデルは、セルなどの微小要素から構成されるモデルによって表される。例えば、任意の接点を対象として、正四面体に近い四面体から成る要素の集合体として地下構造をモデル化することが可能である。四面体以外にも、六面体、立方体の集合体として地下構造モデルを表すことが可能であり、格子状の3次元グリッドモデルとして表すことも可能である。また、3次元比抵抗モデルにおいて測線が配置される地表面の形状は、電極の標高情報に基づいて形成することも可能である。
【0036】
3次元比抵抗モデルの初期モデルとしては、各セル(あるいはグリッド)が、あらかじめ定められた同じ比抵抗をもつ均質モデルが作成される。ただし、入力された見掛け比抵抗の全データの平均値を各セルがもつ均質モデルとして作成してもよい。初期モデルが作成されると、解析対象となる測線が選択、設定される(S103)。ここでは、ユーザが画面上の測線選択画面などにおいて測線を選択することが可能であり、解析開始時には、任意の1つの測線が選定される。
【0037】
測線が選択、設定されると、順解析によって理論上見かけ比抵抗が求められる(S104)。順解析として、ここでは有限要素法が用いられる。有限要素法では、地下構造を多数の要素に分割したモデルを構築し、その要素の中で比抵抗は一定であり、電位分布は線形変化するものと仮定する。例えば、四面体などを要素(セル、メッシュ)で分割したモデルが構築される。有限要素法モデルは、3次元比抵抗モデルと同様のセル形状で分割してもよく、異なってもよい。
【0038】
順解析では、点電流源から直流電流Iが流れるものとし、ポアソン方程式によって地下内の電位を表す方程式を定式化し、探索領域全体に対して連立方程式を導き、微分方程式を数値解析することによって理論上の比抵抗(以下では、理論上見掛け比抵抗という)を算出することができる。点電流源の位置(節点)は、電極の配置情報ImP1…Pnに基づく。
【0039】
初めの順解析では、初期モデルに対し、測線TLaに沿った電極位置に点電流源を与え、実測時と同じ電流値を流す場合の連立方程式を定式化し、FEMによって理論上の見掛け比抵抗が求められる。初期モデルは3次元モデルであるため、一本の測線TLaを用いた順解析であっても、その測線直下の鉛直方向断面領域だけでなく、電位分布が測定領域Gの地下空間全体に対して算出される。理論上見かけ比抵抗は、算出された電位分布から求めることができる。ただし、有限要素法で計算不能なセルについては、電位分布を算出不可とする。例えば、選んだ測線から離れた地下空間領域では理論上見かけ比抵抗が算出されない。
【0040】
ところで、実測された電位差によって得られる見掛け比抵抗は、測線に沿った二次元探査データとして取得されている。
図4は、測定領域Gの1つの測線TLaに沿った見かけ比抵抗断面(疑似断面)を概略的に示した図である。
【0041】
図4では、測定された見掛け比抵抗を見掛け上の深度点に表示した2次元比抵抗分布を表す。例えば、電極間隔aの電流電極E5E6に電流Iを流し、電極間隔aの電位電極E8、E9の電位差を測定することによって、深度a(n=1)の点Pの見掛け比抵抗が求められる。ただし、ここでは四極配置方法に基づく2次元深度断面図を図示している。
【0042】
図5は、有限要素法に基づきメッシュ分割された3次元モデルを示した図である。
図5では、測線TLaに沿った鉛直方向断面領域Kを示している。
【0043】
上述したように、順解析によって算出された電位分布は、測定領域G直下の地下空間全体に対して求められているため、測線TLaに沿った鉛直方向断面領域Kに対応するセル(グリッド)についても、電位分布が算出されている。
【0044】
図3のステップS105では、順解析によって求められた理論上見かけ比抵抗の中で測線TLaに沿った鉛直方向断面領域Kの理論上見かけ比抵抗と、測定によって取得された見掛け比抵抗との差が求められる。
【0045】
求められた差が所定値より大きいと、見掛け比抵抗の差を小さくするように、初期モデルを逆解析によって修正する(S106)。ここでの逆解析では、非線形最小二乗法を用い、次式(1)の目的関数を最小にするモデルを求める。
【0046】
【0047】
Δm(κ)は反復κ回目におけるモデル修正量で未知ベクトル、m(κ-1)とΔd(κ-1)はそれぞれ前回に得られたモデルとデータ残差、Aは感度行列、Wはデータに与える重み、Cはラプラシアン操作である。この目的関数の最小化は、次式(2)の観測方程式の最小二乗解を求めることになる。
【0048】
【0049】
初期モデルが修正されると、その修正された初期モデルに基づいて順解析を行い、各セルの理論上見かけ比抵抗を算出し、測定された見掛け比抵抗との差を求める。差が許容範囲の上限値となる所定値以内となるまで、3次元比抵抗モデルを繰り返し修正する(S104~S106)。例えば、差として10%以下に収まればよく、あるいは、30%以下を許容範囲としてもよい。
【0050】
最初の1本の測線TLaについて順解析、逆解析による3次元モデル修正が終了する、すなわち、差が所定値以下となる3次元比抵抗モデル(以下、3次元比抵抗修正モデルという)が得られると、次に、新たな1つの測線が選定され、先に設定された測線に追加される(S103)。ここでは、測線TLaと交差する測線Tlb(
図1)が新たに追加される。なお、測線TLaに隣り合うようなそばにある測線を選んでもよい。測線の追加はユーザによる選択操作をここでは伴うが、コンピュータ4によって自動的に選定してもよい。
【0051】
測線が追加されると、初期モデルを再度作成し、順解析、逆解析を繰り返して3次元比抵抗修正モデルを獲得する。このとき、上述した初期モデルから順解析を開始し、最初の測線TLaおよび追加した測線Tbに沿った2つの鉛直方向断面の見かけ比抵抗と、初期モデルにおいて2つの測線における理論上見かけ比抵抗との差を算出する。そして順解析と逆解析を繰り返し行い、差が所定値以下となる3次元比抵抗修正モデルを構築する。
【0052】
2つの測線TLa、TLbに基づく3次元モデル修正が終了すると、新たに測線TLbに交差する測線(例えば測線TLc)を選定し、同じように初期モデルから出発して3次元比抵抗修正モデルを獲得する。このように測線を1つ追加しながら、測線の数に合わせて鉛直方向断面の見かけ比抵抗データを読み出し、3次元比抵抗修正モデルを構築する。そして、すべての測線に基づく3次元比抵抗修正モデルが得られると、これを最終的な3次元比抵抗地下構造モデルとして、記憶する(S107)。
【0053】
本実施形態では、すべての測線を一度に使用せず、最初に1つの測線だけを利用して順解析、逆解析の繰り返しを行う。これによって、順解析、逆解析を繰り返したとき、(地下空間領域の一部領域だけであったとしても)収束が確実に見込まれる。
【0054】
また、測線を追加するとき、先に選定された測線に近い測線(
図1では交差する測線)を選定することにより、順解析により有限要素法による理論見掛け比抵抗が算出可能な空間領域が共通の空間領域となり、3次元比抵抗モデルの初期モデルが逆解析によって修正されやすい。さらに、測線を増やしていく過程で、巡回による算出可能な空間領域が測定領域G直下の空間領域全体の中で徐々に広がっていく。
【0055】
なお、順解析、逆解析を繰り返しても収束しない場合、新たに加えた測線を外して別の測線を代わりに加えて解析を行うようにしてもよい。また、すべての測線に対して解析するのではなく、一部の測線を使用せずに最終的な3次元比抵抗修正モデルを導出してもよい。これによって、解析に障害となる測線が存在しても解析結果を導くことができる。これらの処理をコンピュータで自動的に行うことも可能である。
【0056】
順解析、逆解析については、上述した手法以外の公知の解析手法を適用することが可能である。さらに、見掛け比抵抗の代わりに電位差の差を用いるようにしてもよい。既知データの利用と測線TL敷設による測定とを組み合わせて、なお、測線TL敷設による測定をある期間ごとに繰り返して地下構造の経時的変化を求めることもできる。電極E1~Enが配置される測線TLは、直線状だけでなく、曲線状、屈曲状または途切れのある非連続状の測線により構成してもよい。
【0057】
本実施形態では、測線を1つずつ増加させていくが、最初に2つの測線を選定するなど複数の測線を選定することも可能であり、また、2つずつ測線を追加するなど、複数の測線を新たに加えて3次元比抵抗修正モデルを構築してもよい。
【0058】
本実施形態では、コンピュータ4が各機能を果たすようにしているが、これに限られるものではなく、インターネット上のクラウドサーバ(クラウドコンピュータ)で実行するようにしてもよい。すなわち、電極の配置情報ImP1~ImPnと電極の標高情報ImL1~ImLnと測定された見掛け比抵抗データD・Rrlとを、クライアント端末からクラウドサーバに送信し、クラウドサーにおいて、3次元比抵抗修正モデルを構築してもよい。そして、導出された3次元比抵抗修正モデルをクライアント端末(PC4)の表示装置4Aに表示すればよい。あるいは、インターネット上に公開されている電極の配置情報と比抵抗データとを収集し、それら情報に電極の標高情報をリンクさせれば、既知データとして眠っている情報を3次元比抵抗データとして再生させることができる。
【符号の説明】
【0059】
3 電気探査装置
4 PC(コンピュータ)
10 電極配置情報収集部
11 電極標高情報収集部
12 見掛け比抵抗データ収集部
13 3次元比抵抗構造作成部