(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-08
(45)【発行日】2023-03-16
(54)【発明の名称】作業室の無菌環境維持方法、無菌環境維持装置
(51)【国際特許分類】
A61L 2/20 20060101AFI20230309BHJP
A61L 2/10 20060101ALI20230309BHJP
A61L 101/22 20060101ALN20230309BHJP
A61L 101/10 20060101ALN20230309BHJP
【FI】
A61L2/20 106
A61L2/20 100
A61L2/10
A61L101:22
A61L101:10
(21)【出願番号】P 2019090797
(22)【出願日】2019-05-13
【審査請求日】2022-03-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内藤 敬祐
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-264506(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0008757(US,A1)
【文献】特開2009-125517(JP,A)
【文献】特開2008-200511(JP,A)
【文献】特開2018-153238(JP,A)
【文献】特開2016-083193(JP,A)
【文献】特開2019-017808(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 2/00 - 2/28
A61L 11/00 - 12/14
F24F 7/04 - 7/06
B01L 1/00 - 99/00
C12M 1/00 - 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製部材を含む作業室の無菌環境維持方法であって、
前記作業室内に過酸化水素を導入する工程(a)と、
前記工程(a)の終了後に、前記作業室内にフィルタを介して空気を導入する工程(b)と、
前記フィルタの前段又は前記作業室内において、160nm以上200nm未満にピーク波長を有する紫外線を前記空気に対して照射してオゾンを生成し、前記オゾンを前記作業室内に導入する工程(c)と、
前記作業室内に導入された前記オゾンを酸素ラジカルに分解する工程(d)とを含むことを特徴とする、作業室の無菌環境維持方法。
【請求項2】
前記工程(c)の開始タイミングが、前記工程(b)の開始タイミングよりも後であることを特徴とする、請求項1に記載の作業室の無菌環境維持方法。
【請求項3】
前記工程(c)の実行時に、前記作業室内への前記空気の導入が停止される時間帯を有することを特徴とする、請求項2に記載の作業室の無菌環境維持方法。
【請求項4】
前記工程(d)は、前記作業室内に波長450nm以上、波長800nm以下の可視光を照射する工程(d1)を含むことを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の作業室の無菌環境維持方法。
【請求項5】
前記工程(d)は、前記作業室内に波長1500nm以上、波長3000nm以下の赤外線を照射する工程(d2)を含むことを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の作業室の無菌環境維持方法。
【請求項6】
前記工程(d)は、前記作業室内に配置された紫外線光源から波長190nm以上、波長320nm以下の紫外線を照射する工程(d3)を含むことを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の作業室の無菌環境維持方法。
【請求項7】
前記工程(d1)は、可視域のフラッシュ光を照射する工程であることを特徴とする、請求項4に記載の無菌環境維持方法。
【請求項8】
前記工程(d2)は、赤外域のフラッシュ光を照射する工程であることを特徴とする、請求項5に記載の無菌環境維持方法。
【請求項9】
前記工程(d3)は、紫外域のフラッシュ光を照射する工程であることを特徴とする、請求項6に記載の無菌環境維持方法。
【請求項10】
前記工程(d)は、前記工程(c)と並行して前記作業室内に水ミストを導入する工程(d4)を含むことを特徴とする、請求項1~9のいずれか1項に記載の無菌環境維持方法。
【請求項11】
前記工程(d)は、前記工程(c)の実行後に、前記作業室内の温度を高める工程(d5)を含むことを特徴とする、請求項1~10ののいずれか1項に記載の無菌環境維持方法。
【請求項12】
樹脂製部材が内部に配置された、無菌環境の維持対象となる作業室と、
前記作業室内に気体を流入するための給気口と、
前記作業室から気体を流出するための排気口と、
前記給気口の前段に配置されたフィルタと、
前記作業室内に過酸化水素を供給する過酸化水素供給装置と、
前記作業室内又は前記吸気口の前段に配置され、160nm以上200nm未満にピーク波長を有する紫外線を出射可能な第一紫外線光源と、
前記作業室内に存在するオゾンを酸素ラジカルに分解するオゾン分解手段とを備えたことを特徴とする、無菌環境維持装置。
【請求項13】
前記オゾン分解手段は、前記作業室内に波長450nm以上、波長800nm以下の可視光を照射する可視光光源を含んで構成されることを特徴とする、請求項12に記載の無菌環境維持装置。
【請求項14】
前記オゾン分解手段は、前記作業室内に波長1500nm以上、波長3000nm以下の赤外線を照射する赤外線光源を含んで構成されることを特徴とする、請求項12に記載の無菌環境維持装置。
【請求項15】
前記オゾン分解手段は、前記作業室内に波長190nm以上、波長320nm以下の紫外線を照射をする第二紫外線光源を含んで構成されることを特徴とする、請求項12に記載の無菌環境維持装置。
【請求項16】
前記オゾン分解手段は、前記作業室内を加湿するための加湿装置を含んで構成されることを特徴とする、請求項12~15のいずれか1項に記載の無菌環境維持装置。
【請求項17】
前記オゾン分解手段は、前記作業室内を昇温するための加熱装置を含んで構成されることを特徴とする、請求項12~16のいずれか1項に記載の無菌環境維持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業室の無菌環境維持方法、及び無菌環境維持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品など、高度の品質管理を要求される製品を製造する際には、製品や容器に対して滅菌処理が施されるのみならず、密閉されたアイソレータなどの無菌環境維持装置内において、充填や施栓などの各工程が行われる。なお、無菌環境維持装置は、このような製品製造時のみならず、細胞の培養など、作業室内に対して当該作業に必要な物質以外の物質が混入するのを高度に防止することが要求される場合に利用される。
【0003】
無菌環境を維持するために、無菌環境維持装置では、HEPA(High Efficiency Particulate Air)フィルタなどの微粒子捕集用エアフィルターを介して、作業室外から作業室内に空気が取り込まれる。
【0004】
従来の無菌環境維持装置では、作業室内での作業が完了すると、次の作業に移行する前に、作業室内に過酸化水素を導入して作業室内を滅菌する処理が行われる。その後、作業室内に空気を供給することで、作業室内に導入された過酸化水素を排出・除去する処理(「エアレーション」とも呼ばれる。)が行われる。
【0005】
しかし、作業室内に存在する過酸化水素を所定の基準濃度以下に低下させるためには、このエアレーション工程に必要な時間が長くなってしまうという課題が存在する。現在は、安全性の基準として過酸化水素を1ppm以下にすることが、例えばACGIH(米国産業衛生専門家会議)によって定められており、厚生労働省においてもこの数値が推奨されている。作業室の広さにも依存するが、清浄空気を導入することで作業室内の過酸化水素を1ppm以下にするためには、場合によっては5~6時間という長時間のエアレーション工程が必要になる場合がある。
【0006】
下記の特許文献1では、作業室内の過酸化水素の濃度を低下させるのに長い時間がかかる原因として、HEPAフィルタに過酸化水素が付着することが挙げられている。この特許文献1によれば、単に清浄空気を作業室内に導入するエアレーション工程では、HEPAフィルタに付着した過酸化水素を短時間で離脱できないとされている。そこで、HEPAフィルタに付着した過酸化水素を分解する目的で、オゾン供給管から供給されたオゾンをHEPAフィルタに噴霧する方法や、HEPAフィルタの両面に対して紫外線ランプから紫外線を照射する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1に記載された方法は、作業室内に存在していた過酸化水素をエアレーションによって充分排出させた後において、HEPAフィルタに付着した過酸化水素を短時間で分解させるには有効であると考えられる。しかし、作業室内に過酸化水素が残留している場合に、当該過酸化水素を短時間で分解させるためには、上記特許文献1に記載の方法は根本的な解決方法とはいえない。
【0009】
ここで、アイソレータなどの無菌環境維持装置が備える作業室には、ステンレスやアルミニウムといった金属製部材に加えて、フッ素ゴム、シリコーン、塩化ビニル、ポリエチレンなどの樹脂製部材が含まれる場合が多い。例えば、作業室内で作業する対象物としての薬剤充填用容器を上流側から下流側に流すためのローラは、樹脂製部材で構成されることがある。このように、作業室内において作業物を載置するための載置部(載置台)は、樹脂製部材で構成されることが多い。
【0010】
過酸化水素は、作業室内に備えられたこれらの樹脂製部材に吸着し、浸透することが想定される。かかる場合、清浄空気を作業室内に流すことで、作業室内に存在している過酸化水素を作業室外に排出しても、樹脂製部材の内部に浸透していた過酸化水素が揮発しながら徐々に表面へと移動して、作業室内に放出される。このため、過酸化水素の濃度を短時間で所望の値まで低下させることができない。
【0011】
ここで、特許文献1に記載されている方法に鑑みて、オゾン供給管から供給されたオゾンを作業室内に導入する方法も考えられる。特許文献1では、オゾンとして、電気分解によって生成されたオゾンミストを用いる方法と、放電式オゾン発生器に対して供給された酸素に対して放電を生じさせることで生成されたオゾンガスを用いる方法とが挙げられている。
【0012】
しかし、オゾンミストを作業室内に導入すると、作業室内に存在する樹脂製部材の表面が著しく濡れてしまい、拭き取りや乾燥処理という別工程が必要になってしまう。また、放電式オゾン発生器で発生したオゾンを作業室内に導入すると、放電時に生成したNOxが水と反応して硝酸を生じ、この硝酸によって作業室内に存在する金属製部材を腐食させる可能性がある。特に、特許文献1では、放電によって生成されたオゾンを水に通して加湿しているため、このような加湿オゾンを作業室内に導入すると、加湿オゾンと共に硝酸が作業室内に導入される可能性が高い。
【0013】
また、上述したように、特許文献1には、HEPAフィルタの両面に紫外線を照射することでHEPAフィルタに付着した過酸化水素を分解する方法についても開示されている。この方法は、過酸化水素を分解する対象物が、HEPAフィルタのような、特定の箇所に存在する面形状を呈した部材であり、且つ、対象物に対してある程度近接させた状態で光源を配置できる場合には有効であると考えられる。しかし、作業室内に残留する過酸化水素に対して紫外線を照射することで過酸化水素を分解するためには、作業室内に多数の紫外線ランプを配置する必要があるところ、無菌環境維持装置としての性質上、そもそも導入が困難である可能性がある。また、過酸化水素を分解する目的で紫外線を照射する場合に求められる照度の紫外線が、樹脂製部材に対して直接照射されると、当該部材が劣化する可能性も考えられる。
【0014】
ところで、作業室内における対象物に対する作業内容によっては、1ppm以下の濃度の過酸化水素であっても対象物への影響が生じる場合がある。このような場合、従来のエアレーション工程では過酸化水素の濃度を基準値以下にするために更に時間がかかることが想定される。このため、より短時間で作業室内の過酸化水素の濃度を低下させる技術が求められている。
【0015】
本発明は、上記の課題に鑑み、樹脂製部材を含む作業室内に導入された過酸化水素を、従来よりも短時間で低濃度化する技術を提供することを目的とする。また、本発明は、無菌環境を生成するために過酸化水素を導入した後、この過酸化水素を、従来よりも短時間で低濃度化することのできる、無菌環境維持装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、樹脂製部材を含む作業室の無菌環境維持方法であって、
前記作業室内に過酸化水素を導入する工程(a)と、
前記工程(a)の終了後に、前記作業室内にフィルタを介して空気を導入する工程(b)と、
前記フィルタの前段又は前記作業室内において、160nm以上200nm未満にピーク波長を有する紫外線を前記空気に対して照射してオゾンを生成し、前記オゾンを前記作業室内に導入する工程(c)と、
前記作業室内に導入された前記オゾンを酸素ラジカルに分解する工程(d)とを含むことを特徴とする。
【0017】
前記工程(c)は、160nm以上200nm未満にピーク波長を有する紫外線を空気に照射することでオゾンを生成する工程を含む。この工程(c)で利用される紫外線の光エネルギーは、空気中に存在する酸素分子の結合エネルギーよりは高く、窒素分子の結合エネルギーよりは低い。従って、工程(c)によって窒素ラジカルが生じることはないため、仮に空気中に水分が含まれていたとしても、この水分と反応して硝酸が生じることはない。この結果、作業室内の設備(特に金属製の部材)を腐食させることがない。
【0018】
また、工程(c)で照射される紫外線は、過酸化水素を分解する目的ではなく、あくまでオゾンを生成する目的である。このため、作業室内の全般にわたって高い照射光量で紫外線を照射させる必要はない。
【0019】
オゾンは、気流に乗って作業室内に容易に拡散するため、作業室内に残留する過酸化水素に対して接触しやすい。ここで、本発明に係る方法には、単にオゾンを過酸化水素に反応させるのではなく、オゾンを酸素ラジカルに分解する工程(d)が含まれる。これにより、反応性の高い酸素ラジカルが過酸化水素に作用するため、過酸化水素を従来よりも高速で分解することができる。
【0020】
特に、工程(c)によって導入されたオゾンは、容易に拡散して作業室内の樹脂製部材の表面にも付着する。そして、工程(d)によってオゾンが反応性の高い酸素ラジカルに分解されると、この酸素ラジカルが過酸化水素に反応し水(H2O)に変化する。このとき、樹脂製部材の表面で過酸化水素に対する反応が生じることで、樹脂製部材の表面における過酸化水素の濃度が低下する。この結果、樹脂製部材の表面と内部とで過酸化水素の濃度に傾斜が生じ、この濃度差に起因して、樹脂製部材の内部に浸透していた過酸化水素が揮発して表面に移動する。これにより、過酸化水素の分解反応が次々と生じる。
【0021】
よって、上記の方法によれば、樹脂製部材の内部に浸透していた過酸化水素についても短時間で分解されるため、作業室内の過酸化水素の残留濃度を従来よりも高速に低下することができる。また、NOxフリーで生成されたオゾンが用いられるため、作業室内の設備(特に金属製の設備)を腐食させるおそれがない。
【0022】
前記工程(c)の開始タイミングが、前記工程(b)の開始タイミングよりも後であるものとしても構わない。
【0023】
上記の方法によれば、過酸化水素をある程度作業室から排出させた後に、オゾンが作業室内に導入される。これにより、工程(d)によって得られる酸素ラジカルが作業室内に導入される時点で過酸化水素の濃度がある程度低下できているため、過酸化水素の濃度を所望の値まで低下させるのに要する時間が短縮化される。
【0024】
前記作業室の無菌環境維持方法は、前記工程(c)の実行時に、前記作業室内への前記空気の導入が停止される時間帯を有するものとしても構わない。
【0025】
かかる方法によれば、オゾンが導入される際に作業室内への空気の導入が停止される時間帯が存在するため、作業室内におけるのオゾン濃度の上昇速度を高めることができる。この結果、工程(d)を経て得られる酸素ラジカルの作業室内における濃度を高めることができるため、作業室内における過酸化水素の濃度低下の速度が高められる。
【0026】
上記の工程(d)としては、種々の方法を採用することができる。
【0027】
一例として、前記工程(d)は、前記作業室内に波長450nm以上、波長800nm以下の可視光を照射する工程(d1)を含むことができる。この場合、作業室内を照明するための可視光光源が設置されている場合には、この可視光光源からの照明光を前記可視光として利用することができる。このとき、前記工程(d)の分解を促進させるため、可視光光源からの光の照度を高める制御が行われるものとしても構わない。また、可視光光源が設置されていない場合には、作業室の外側から作業室内に向けて可視光を照射するものとしても構わない。
【0028】
上記可視光がオゾンに照射されることで、オゾンに対して可視光由来の光エネルギーが与えられ、これによってオゾンが酸素ラジカルに分解される。
【0029】
別の一例として、前記工程(d)は、前記作業室内に波長1500nm以上、波長3000nm以下の赤外線を照射する工程(d2)を含むことができる。この赤外線を出射する赤外線光源についても、作業室内に設置されていても構わないし、作業室外に設置されていても構わない。
【0030】
上記赤外光がオゾンに照射されることで、オゾンに対して赤外光由来の熱エネルギーが与えられ、これによってオゾンが酸素ラジカルに分解される。また、この赤外光が過酸化水素に照射されることで、過酸化水素の温度が上昇し反応性が向上する。これにより、作業室内の樹脂製部材の内部に浸透していた過酸化水素を表面に拡散させやすくなり、過酸化水素の分解速度が上昇する。
【0031】
別の一例として、前記工程(d)は、前記作業室内に配置された光源から波長190nm以上、波長320nm以下の紫外線を照射する工程(d3)を含むことができる。一般的に、作業室の壁面はガラス等の部材で構成され、この波長帯の紫外線を透過しない可能性がある。このため、かかる波長帯の紫外線を用いてオゾンを分解する際には、紫外線光源は、作業室内に配置されるのが好ましい。
【0032】
なお、この場合、工程(d)で用いられる紫外線光源と、工程(c)で用いられる紫外線光源とを共通化しても構わない。
【0033】
なお、この工程(d1)は、可視域のフラッシュ光を照射する工程としても構わない。これにより、短時間の間にオゾンに対して高エネルギーを注入することができ、高濃度の酸素ラジカルが生成される。なお、酸素ラジカルは極めて反応性が高く、寿命が短いため、短時間で酸素ラジカルを多量に生成することは、過酸化水素の分解効率を高める観点からも有効である。
【0034】
同様に、前記工程(d2)は、赤外域のフラッシュ光を照射する工程としても構わない。また、同様に、前記工程(d3)は、紫外域のフラッシュ光を照射する工程としても構わない。
【0035】
別の一例として、前記工程(d)は、前記工程(c)と並行して前記作業室内に水ミストを導入する工程(d4)を含むものとしても構わない。
【0036】
この方法によれば、作業室内の湿度が高められるため、オゾンが水分子に接触しやすくなる。この接触時にオゾンは酸素と酸素ラジカルに分解される。この結果、酸素ラジカルの濃度が高められる。
【0037】
別の一例として、前記工程(d)は、前記工程(c)の実行後に、前記作業室内の温度を高める工程(d5)を含むものとしても構わない。
【0038】
この方法によれば、作業室内の温度が高められるため、赤外線をオゾンに対して照射する場合と同様に、オゾンがより分解されやすくなり、酸素ラジカルの濃度が高められる。
【0039】
前記工程(d)は、上述した各工程(d1)~(d5)のうちのいずれか1つの工程からなるものとしても構わないし、各工程(d1)~(d5)のうちの2つ以上の工程を含んでなるものとしても構わない。
【0040】
本発明に係る無菌環境維持装置は、
樹脂製部材が内部に配置された、無菌環境の維持対象となる作業室と、
前記作業室内に気体を流入するための給気口と、
前記作業室から気体を流出するための排気口と、
前記給気口の前段に配置されたフィルタと、
前記作業室内に過酸化水素を供給する過酸化水素供給装置と、
前記作業室内又は前記吸気口の前段に配置され、160nm以上200nm未満にピーク波長を有する紫外線を出射可能な第一紫外線光源と、
前記作業室内に存在するオゾンを酸素ラジカルに分解するオゾン分解手段とを備えたことを特徴とする。
【0041】
上記の無菌環境維持装置によれば、空気に対して第一紫外線光源から出射された紫外線を照射することで生成されたオゾンを作業室内に導入した後、オゾン分解手段によって作業室内に存在するオゾンに対する分解反応を促進させることで、オゾンはオゾンよりも反応性の高い酸素ラジカルに分解される。これにより、過酸化水素による滅菌処理の終了後、作業室内に残留する過酸化水素を従来よりも高速で分解できる無菌環境維持装置が実現される。
【0042】
前記オゾン分解手段は、前記作業室内に波長450nm以上、波長800nm以下の可視光を照射する可視光光源、前記作業室内に波長1500nm以上、波長3000nm以下の赤外線を照射する赤外線光源、前記作業室内に波長190nm以上、波長320nm以下の紫外線を照射をする第二紫外線光源、前記作業室内を加湿するための加湿装置、及び、前記作業室内を昇温するための加熱装置からなる群の、1つ以上で構成されるものとして構わない。
【発明の効果】
【0043】
本発明によれば、作業室に樹脂製部材が含まれる場合であっても、滅菌処理のために当該作業室内に導入された過酸化水素を、従来よりも短時間で低濃度化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図1】本発明の第一実施形態に係る無菌環境維持装置の構成を模式的に示す図面である。
【
図2】本発明の第一実施形態に係る無菌環境維持装置の別の構成を模式的に示す図面である。
【
図3】本発明の第一実施形態に係る無菌環境維持装置の別の構成を模式的に示す図面である。
【
図4】本発明の第一実施形態に係る無菌環境維持装置の別の構成を模式的に示す図面である。
【
図5】本発明の第一実施形態に係る無菌環境維持装置の別の構成を模式的に示す図面である。
【
図6】本発明の第二実施形態に係る無菌環境維持装置の構成を模式的に示す図面である。
【
図7】本発明の第二実施形態に係る無菌環境維持装置の別の構成を模式的に示す図面である。
【
図8】本発明の第三実施形態に係る無菌環境維持装置の構成を模式的に示す図面である。
【
図9】本発明の別実施形態に係る無菌環境維持装置の構成を模式的に示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本発明に係る無菌環境維持方法、及び無菌環境維持装置の実施形態につき、以下において、適宜図面を参照して説明する。なお、以下の各図面は、いずれも模式的に図示されたものであり、図面上の寸法比は必ずしも実際の寸法比に一致していない。また、各図面間においても、寸法比は必ずしも一致していない。
【0046】
[第一実施形態]
図1は、本発明の第一実施形態に係る無菌環境維持装置の構成を模式的に示す図面である。無菌環境維持装置1は、無菌環境の維持対象となる作業室20を有する。この作業室20は、作業室20の内側とは隔離された状態でグローブ23が設けられている。作業員が、このグローブ23を介して、作業室20内の載置部21に設置された作業対象物22に対して作業することで、無菌環境を維持しながら作業対象物22に対する作業が行える。
【0047】
《構成》
作業対象物22は、例えば薬剤を収容するための容器や、細胞を培養するプレートであり、無菌環境内での作業が要求される。載置部21は、作業対象物22が載置される台座としての機能を果たす。作業対象物22に対して破損やヒビが入るのを防止すべく、載置部21は、フッ素ゴム、シリコーン、塩化ビニル、ポリエチレンなどの樹脂製部材で構成されている。
【0048】
なお、作業室20内の図示しない箇所には金属製部材が設けられていても構わない。
【0049】
図1に示す無菌環境維持装置1は、作業室20に対する給気、及び作業室20からの排気が可能な構成である。より詳細には、無菌環境維持装置1は、滅菌処理用の過酸化水素を作業室20内に導入するための過酸化水素導入系30、エアレーション用の清浄空気を導入するための清浄空気導入系40、作業室20から気体を取り込んで再び作業室20に戻すための気体循環系50、及び作業室20から気体を外部に排出するための排気系60を有する。
【0050】
また、無菌環境維持装置1は、過酸化水素導入系30、清浄空気導入系40、気体循環系50、及び排気系60を制御するための制御部2を有する。制御部2は、無菌環境維持装置1の全体的な運転の制御を行う機能的手段であり、専用のハードウェア及び/又はソフトウェアで構成される。
【0051】
過酸化水素導入系30は、過酸化水素ガス源31とバルブ32を有する。バルブ32は、制御部2からの制御信号i30に基づいて開度調整が行われる。バルブ32が制御されることで、過酸化水素ガス源31から過酸化水素ガスが配管30Aを介して作業室20内に供給される。配管30Aには、微粒子捕集目的のHEPAフィルタ26が設けられており、過酸化水素ガスは、このHEPAフィルタ26を介して作業室20内に供給される。
【0052】
清浄空気導入系40は、触媒41、ブロア42及びバルブ43を有する。ブロア42及びバルブ43は、制御部2からの制御信号i40に基づいて制御される。ブロア42の運転及びバルブ43の開度が制御部2によって制御されることで、空気取り込み用の配管40Aから取り込まれた清浄空気が、配管40Bを介して作業室20内に供給される。配管40Bには、微粒子捕集目的のHEPAフィルタ25が設けられており、清浄空気は、このHEPAフィルタ25を介して作業室20内に供給される。
【0053】
すなわち、本実施形態において、配管40Bは、作業室20に対してHEPAフィルタ25を介して清浄空気を導入する「給気口」に対応する。
【0054】
なお、触媒41は、作業室20内に存在する過酸化水素やオゾンが、万一配管40Aを介して作業室20外の空間に排出される場合に備えて、過酸化水素やオゾンを分解することを目的として設けられており、例えば二酸化マンガン触媒などで構成される。作業室20内に存在する気体が配管40Aを介して系外に排出される可能性がない場合には、触媒41を備えない構成としても構わない。
【0055】
気体循環系50は、バルブ51及びブロア52を有する。バルブ51及びブロア52は、制御部2からの制御信号i50に基づいて制御される。バルブ51及びブロア52が制御されることで、作業室20内に滞留していた気体が配管50Aを介して取り出されると共に、配管40Bを介して再び作業室20内に循環供給される。ここで、
図1に示すように、配管50AにもHEPAフィルタ27が設けられていても構わない。
【0056】
なお、バルブ51の開度調整のみによって配管50Aを介した気体の循環が可能である場合には、ブロア52を必ずしも備えなくても構わない。
【0057】
排気系60は、バルブ61及び触媒62を有する。バルブ61は、制御部2からの制御信号i60に基づいて開度調整される。触媒62は、過酸化水素やオゾンを分解するための触媒であり、上述した触媒41と同様の材料で構成される。バルブ61が開状態に制御されることで、作業室20内に滞留していた気体が、触媒62を通過した後、配管60Aを介して作業室20の外部、すなわち系外に排出される。作業室20内に過酸化水素やオゾンが存在している場合であっても、触媒62によって吸着・分解されるため、過酸化水素やオゾンの濃度が安全基準の濃度以下に抑えられた状態で系外に排気される。
【0058】
すなわち、本実施形態において、配管60Aは、作業室20内の気体を無菌環境維持装置1の外部に排気する「排気口」に対応する。
【0059】
本実施形態において、無菌環境維持装置1は、作業室20内に、第一紫外線光源3と、可視光光源11とを備える。第一紫外線光源3は、160nm以上200nm未満にピーク波長を有する紫外線を出射可能な光源であり、例えばキセノン(Xe)を含む発光ガスが封入されたエキシマランプからなる。可視光光源11は、波長450nm以上、波長800nm以下の可視光を出射可能な光源であり、例えば白色LEDからなる。第一紫外線光源3及び可視光光源11は、制御部2によって点灯制御が可能に構成されている。
【0060】
《無菌環境維持方法》
以下、本実施形態の無菌環境維持装置1の作業室20内を滅菌する手順につき、説明する。
【0061】
(ステップS1)
過酸化水素導入系30から過酸化水素ガスを作業室20内に導入する。具体的には、制御部2からの制御によりバルブ32を開状態にし、過酸化水素ガス源31から過酸化水素ガスを配管30Aを通じてHEPAフィルタ26を介して作業室20内に導入する。
【0062】
このとき、清浄空気導入系40のバルブ43、及び排気系60のバルブ61については、制御部2からの制御によって閉状態とされているものとして構わない。また、気体循環系50のバルブ51については、閉状態としても構わないし、同バルブ51を開状態として過酸化水素を循環させても構わない。
【0063】
本ステップS1によって、作業室20内の滅菌処理が実行される。本ステップS1が工程(a)に対応する。
【0064】
(ステップS2)
過酸化水素ガスの供給を停止すると共に、清浄空気導入系40から清浄空気を作業室20内に導入する。具体的には、制御部2からの制御によりバルブ32を閉状態、バルブ43を開状態にし、配管40A及び配管40Bを通じて通流する清浄空気を、HEPAフィルタ25を介して作業室20内に導入する。
【0065】
そして、制御部2からの制御により、排気系60のバルブ61を開状態とする。これにより、供給される清浄空気によって作業室20内の過酸化水素ガスが排気系60から押し出される。このとき、上述したように、排気系60には過酸化水素を分解する触媒62が備えられているため、過酸化水素濃度が安全基準の濃度以下に抑制された状態で、気体が系外に排出される。また、触媒62にはパラジウム、ロジウム、白金等の貴金属や、二酸化マンガン、酸化第二鉄、酸化ニッケル等の金属酸化物を用いることができる。
【0066】
なお、本ステップS2の実行時においては、一定時間にわたって、気体循環系50のバルブ51を開状態として作業室20内の気体を循環させることで、過酸化水素濃度を低下させた後、排気系60のバルブ61を開状態として系外に排気するものとしても構わない。
【0067】
本ステップS2は、工程(b)に対応する。
【0068】
(ステップS3)
第一紫外線光源3を点灯させる。これにより、作業室20内に存在する清浄空気に対して、160nm以上200nm未満にピーク波長を有する紫外線が照射される。紫外線が清浄空気に含まれる酸素に吸収されることで、以下の(1)式の反応が生じてO原子に分解され、その後、(2)式の反応によってオゾン(O3)が生成される。
O2 + hν(λ) → O + O ‥‥(1)
O + O2 → O3 ‥‥(2)
【0069】
本ステップS3により、オゾンが作業室20内に導入される。本ステップS3は、工程(c)に対応する。
【0070】
なお、本ステップS3の実行時には、排気系60のバルブ61を閉状態にするものとしても構わない。これにより、作業室20内のオゾン濃度を高めることができる。ただし、本ステップS3が想定する作業室20内のオゾン濃度は高々300ppm以下であり、好ましくは10~80ppm程度である。
【0071】
また、ステップS3を、ステップS2の開始タイミングと併せて実行しても構わない。
【0072】
(ステップS4)
ステップS3によって作業室20内にオゾンが導入された状態で、可視光光源11を点灯する。上述したように、この可視光光源11は、波長450nm以上、波長800nm以下の可視光を出射可能な光源である。この波長帯は、オゾンの吸収スペクトルにおけるChappuis帯に重なりを有する。従って、可視光光源11から出射された可視光がオゾンに吸収され、オゾンに対して光エネルギーが与えられる結果、以下(3)式に従ってオゾンが分解され、酸素ラジカル(・O)が得られる。
O3 + hν(λ) → O2 + ・O ‥‥(3)
【0073】
ステップS3によって作業室20内に導入されたオゾンの一部は、作業室20内の載置部21の表面に付着する。このオゾンに対して上記(3)の反応が生じることで、載置部21の表面に酸素ラジカル(・O)が付着する。このとき、載置部21の表面に残存していた過酸化水素に対して酸素ラジカル(・O)が反応し、下記(4)式の反応が生じる。
H2O2 + ・O → ・HO2 + ・OH ‥‥(4)
【0074】
上記(4)式において、ヒドロペルオキシルラジカル(・HO2)及びヒドロキシラジカル(・OH)は、いずれも反応性が極めて高く短寿命であるため、直ちに安定性の高い水(H2O)や酸素(O2)に変化する。この結果、載置部21の表面に存在していた過酸化水素は、水や酸素といった安全性の高い物質に変化する。
【0075】
ここで、載置部21が樹脂製材料からなる場合、ステップS1で導入された過酸化水素が、載置部21の内部に浸透している可能性がある。しかし、本ステップS4によって反応性の高い酸素ラジカル(・O)が生成され、この酸素ラジカル(・O)により載置部21の表面に付着した過酸化水素が分解されることで、載置部21の表面と内部での過酸化水素濃度に傾斜が生じる。この結果、濃度差に起因して、載置部21の内部に浸透していた過酸化水素が揮発して載置部21の表面又はその外側(すなわち作業室20の空間内)に現れるため、更に酸素ラジカル(・O)で分解されやすくなる。
【0076】
オゾン(O3)は酸素(O2)に比べると高い反応性を示すが、酸素ラジカル(・O)に比べると反応性は低い。つまり、オゾンのみで過酸化水素を完全に分解するためには、膨大なオゾンが必要となる。しかし、高濃度のオゾンを含む気体を系外に排出するためには、触媒62で多量のオゾン除去する必要があるため、必要な触媒62の量が膨大となる。また、オゾンで過酸化水素を分解する場合には、清浄空気を通流させるのみで作業室20内の過酸化水素濃度を低下させる場合と比べると、必要な時間は短縮化されることが予想されるが、載置部21の内部にまで浸透した過酸化水素を分解するには、極めて多くの時間が必要となる。
【0077】
これに対し、本発明の方法によれば、オゾンからオゾンよりも反応性の高い酸素ラジカル(・O)が生成され、この酸素ラジカル(・O)が過酸化水素に作用する。この結果、樹脂製の載置部21の内部に浸透した過酸化水素に対しても、短時間で分解することが可能となる。
【0078】
このステップS4は、作業室20内における過酸化水素濃度が所定の基準値を下回るまで実行されるものとして構わない。この場合において、作業室20内の過酸化水素濃度を計測するセンサを有し、このセンサからの信号に基づいて、制御部2が各バルブ(32,43,51,61)の開度調整及び光源(3,11)の点灯制御を行うものとしても構わない。
【0079】
また、このステップS4は、ステップS3におけるオゾン供給工程と並行して実行されるのが好ましい。これにより、酸素ラジカル(・O)を高濃度に生成することができる。
【0080】
なお、可視光光源11は、波長500nm以上、波長700nm以下の可視光を出射可能に構成されているのがより好ましい。また、白色LEDのように広帯域のスペクトルを有する光に限られず、青色LEDや赤色LEDなどのように、狭帯域のスペクトルを有する光を出射可能な光源であっても構わない。
【0081】
(ステップS5)
過酸化水素の分解が進展した後は、清浄空気導入系40のバルブ43及び排気系60のバルブ61が開けられ、作業室20内の気体を系外に排出しつつ、作業室20内に清浄空気が満たされる。
【0082】
《別構成例》
上記実施形態では、ステップS4におけるオゾン分解工程において、可視光光源11から出射された可視光をオゾンに照射するものとして説明した。しかし、ステップS4は、オゾンを分解する工程である限りにおいて、種々の方法を採用することができる。
【0083】
〈1〉例えば、
図2に示すように、無菌環境維持装置1は、作業室20内に赤外線光源12を備えるものとしても構わない。この赤外線光源12は、波長1500nm以上、波長3000nm以下の赤外線を出射可能な光源であり、例えば赤外LEDや赤外レーザ素子からなる。
【0084】
そして、上記ステップS4として赤外線光源12が点灯される。上記赤外光がオゾンに照射されることで、オゾンに対して赤外光由来の熱エネルギーが与えられ、これによってオゾンが酸素ラジカルに分解される。
【0085】
また、上記の波長1500nm以上、波長3000nm以下の赤外線は水分に吸収されやすい波長帯である。このため、過酸化水素が載置部21の表面に付着し、一部が分解されることで表面上に存在する水分によって、赤外線光源12から出射された赤外線が吸収される。この結果、載置部21の表面又は内部の温度が上昇して、過酸化水素の拡散速度が上昇する。これにより、載置部21の内部に浸透していた過酸化水素が揮発して表面側に露出されやすくなり、過酸化水素の分解が促進される。
【0086】
〈2〉例えば、
図3に示すように、無菌環境維持装置1は、作業室20内に第二紫外線光源13を備えるものとしても構わない。この第二紫外線光源13は、波長190nm以上、波長320nm以下の紫外線を出射可能な光源であり、例えば紫外LED、紫外レーザ素子、KrClやXeClなどを発光ガスとして含むエキシマランプなどで構成される。
【0087】
この場合、ステップS4において、制御部2からの制御に基づいて第二紫外線光源13を点灯する。第二紫外線光源13から出射される紫外線の波長帯は、オゾンの吸収スペクトルにおけるHartley帯又はHuggins帯に重なりを有する。よって、第二紫外線光源13から出射された紫外線がオゾンに吸収され、オゾンに対して光エネルギーが与えられる結果、上記の(3)式に従ってオゾンが分解され、酸素ラジカル(・O)が得られる。
【0088】
更に、この波長帯の紫外線は、下記(5)式によって過酸化水素自体を分解することもできる。
H2O2 + hv(λ) → 2・HO ‥‥(5)
【0089】
〈3〉例えば、
図4に示すように、無菌環境維持装置1は、作業室20内の温度を上昇させるための加熱装置14を備えるものとしても構わない。この場合、ステップS4において、制御部2からの制御に基づいて加熱装置14の運転を開始させて、作業室20内の温度を上昇させる。オゾンは、周囲の温度が高いほど反応性が向上するため、上記(3)式に従って分解されやすくなり、酸素ラジカル(・O)が得られやすい。
【0090】
なお、無菌環境維持装置1が加熱装置14を備える場合には、ステップS3によって作業室20内にオゾンが充分充填された後に、加熱装置14の運転を開始するのが好ましい。これにより、オゾンが載置部21の表面に付着する前に、多くのオゾンが分解されることが抑制される。また、ステップS4の実行の際には、作業室20の温度をより上昇しやすくするために、排気系60のバルブ61を閉状態としておくのが好ましい。
【0091】
〈4〉例えば、
図5に示すように、無菌環境維持装置1は、作業室20内の湿度を上昇させるためのミスト供給系70を備えるものとしても構わない。ミスト供給系70は、ミスト生成装置71と、バルブ72とを有し、バルブ72を介して供給された水ミストが配管70Aを介して作業室20内に供給可能に構成されている。ミスト生成装置71及びバルブ72は、制御部2からの制御信号i70に基づいて制御される。配管70AにはHEPAフィルタ73が配置されている。
【0092】
この場合、ステップS4において、制御部2からの制御に基づいてバルブ72を開状態とし、ミスト生成装置71で生成された水ミストを作業室20内に導入することで作業室20内の湿度を上昇させる。オゾンは、周囲の湿度が高いほど反応性が向上するため分解されやすくなり、酸素ラジカル(・O)が得られやすい。
【0093】
〈5〉
図1における可視光光源11、
図2における赤外線光源12、及び
図3における第二紫外線光源13は、いずれも閃光放射が可能なフラッシュ光源であるものとしても構わない。これにより、オゾンに対して瞬間的に高いエネルギーが供給され、瞬間的に高濃度の酸素ラジカル(・O)を生成することができる。この結果、載置部21の内部と表面とでの過酸化水素濃度の差が瞬間的に拡大し、載置部21の内部に浸透した過酸化水素を表面側に揮発させる効果が高められる。
【0094】
〈6〉無菌環境維持装置1は、オゾン分解手段として、上述した可視光光源11、赤外線光源12、第二紫外線光源13、加熱装置14、及びミスト供給系70のうちの、2つ以上を備えるものとしても構わない。
【0095】
[第二実施形態]
本発明に係る無菌環境維持方法、及び無菌環境維持装置の第二実施形態につき、第一実施形態と異なる箇所のみを主として説明する。
図6は、本発明の第二実施形態に係る無菌環境維持装置の構成を模式的に示す図面である。
【0096】
図6に示す無菌環境維持装置1は、第一紫外線光源3が作業室20内に存在せず、配管40Bに備えられている点が異なる。無菌環境維持装置1が医薬品用途に利用される場合には、GMP(Good Manufacturing Practices)のガイドラインなどによって、作業室20内にエキシマランプからなる第一紫外線光源3の配置が認められない場合が想定される。
【0097】
このような場合であっても、第一紫外線光源3をHEPAフィルタ25の上流側である配管40B内に配置することで、ステップS3において清浄空気に対して160nm以上200nm未満にピーク波長を有する紫外線を照射することができる。これにより、オゾンを作業室20内に導入することができる。
【0098】
更に、上記ガイドラインなどの制約により、可視光光源11についても作業室20内に備えることができない場合には、
図7に示すように、作業室20の外側に配置された可視光光源11から、作業室20の壁面の一部を形成する不図示の窓部を介して作業室20内に可視光を照射するものとしても構わない。ただし、第二紫外線光源13を作業室20の外側に配置する場合には、第二紫外線光源13から出射される紫外線を透過可能な材料で前記窓部を形成する必要がある。
【0099】
なお、本実施形態において、可視光光源11、赤外線光源12、又は第二紫外線光源13を作業室20の外側に配置し、光ファイバなどの導光部材を介して光を作業室20内に導入するものとしても構わない。
【0100】
[第三実施形態]
本発明に係る無菌環境維持方法、及び無菌環境維持装置の第三実施形態につき、第一実施形態及び第二実施形態と異なる箇所のみを主として説明する。
図8は、本発明の第三実施形態に係る無菌環境維持装置の構成を模式的に示す図面である。
【0101】
無菌環境維持装置1が医薬品用途に利用される場合には、GMPのガイドラインなどによって、作業室20内にとどまらず、清浄空気が導入される配管40B内にもエキシマランプからなる第一紫外線光源3の配置が認められない場合が想定される。かかる事情に鑑み、
図8に示す無菌環境維持装置1は、第一紫外線光源3を含むオゾン導入系80が、清浄空気が導入される配管40Bとは別の、独立した場所に設けられている。
【0102】
より詳細には、オゾン導入系80は、触媒81、ブロア82、バルブ83、及び第一紫外線光源3を備える。ブロア82、バルブ83、及び第一紫外線光源3は、制御部2からの制御信号i80に基づいて制御される。オゾン導入系80は、配管80Aから供給された清浄空気に対して、第一紫外線光源3から160nm以上200nm未満にピーク波長を有する紫外線が照射されることで、オゾンを生成する。このオゾンを含む空気が、配管80BからHEPAフィルタ84を介して作業室20に導入される。
【0103】
また、
図8に示す無菌環境維持装置1は、
図7と同様に、作業室20の外側に配置された可視光光源11から、作業室20の壁面の一部を形成する不図示の窓部を介して作業室20内に可視光を照射可能に構成されている。
【0104】
かかる構成の場合、ステップS2において清浄空気導入系40から清浄空気が作業室20内に導入された後、ステップS3においてオゾン導入系80からオゾンが作業室20内に導入される。その後、ステップS4において、作業室10の外側より可視光光源11から出射された可視光が作業室10内のオゾンに照射される。これによって、オゾンの一部が酸素ラジカル(・O)に分解される。
【0105】
なお、本実施形態において、ステップS3でオゾンを含む空気を導入する際には、清浄空気導入系40のバルブ43は閉状態に制御されるものとして構わない。
【0106】
また、本実施形態の無菌環境維持装置1においても、第二実施形態と同様に、可視光光源11に替えて赤外線光源12又は第二紫外線光源13を作業室20の外側に配置するものとして構わないし、加熱装置14又はミスト供給系70を備えるものとしても構わない。
【0107】
[別実施形態]
以下、別実施形態につき説明する。
【0108】
〈1〉 上記各実施形態の無菌環境維持装置1は、過酸化水素を作業室20内に導入するための配管30Aと、清浄空気を作業室20内に導入するための配管40Bとが別系統である場合について図示されていた。しかし、各バルブ(32,43,51)の開度調整を高精度に行うことができる場合には、配管30Aと配管40Bとを共通化しても構わない。この場合、HEPAフィルタ25とHEPAフィルタ26とを共通化することができる。
【0109】
〈2〉 上記各実施形態の無菌環境維持装置1は、配管50Aを介して作業室20内の気体を循環させるための気体循環系50を備えるものとしたが、
図9に示すように、配管50A及び気体循環系50を備えないものとしても構わない。
【0110】
〈3〉 無菌環境維持装置1は、アイソレータに限られず、クリーンベンチやチャンバにも適用可能である。
【符号の説明】
【0111】
1 : 無菌環境維持装置
2 : 制御部
3 : 第一紫外線光源
11 : 可視光光源
12 : 赤外線光源
13 : 第二紫外線光源
14 : 加熱装置
20 : 作業室
21 : 載置部
22 : 作業対象物
23 : グローブ
25 : HEPAフィルタ
26 : HEPAフィルタ
27 : HEPAフィルタ
30 : 過酸化水素導入系
30A : 配管
31 : 過酸化水素ガス源
32 : バルブ
40 : 清浄空気導入系
40A : 配管
40B : 配管
41 : 触媒
42 : ブロア
43 : バルブ
50 : 気体循環系
50A : 配管
51 : ブロア
52 : バルブ
60 : 排気系
60A : 配管
61 : バルブ
62 : 触媒
70 : ミスト供給系
70A : 配管
71 : ミスト生成装置
72 : バルブ
73 : HEPAフィルタ
80 : オゾン導入系
80A : 配管
80B : 配管
81 : 触媒
82 : ブロア
83 : バルブ
84 : HEPAフィルタ