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  • 特許-リチウムイオン二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-08
(45)【発行日】2023-03-16
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0525 20100101AFI20230309BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20230309BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20230309BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20230309BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20230309BHJP
【FI】
H01M10/0525
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/587
H01M10/0569
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019555331
(86)(22)【出願日】2018-11-21
(86)【国際出願番号】 JP2018042965
(87)【国際公開番号】W WO2019103031
(87)【国際公開日】2019-05-31
【審査請求日】2021-08-24
(31)【優先権主張番号】P 2017224745
(32)【優先日】2017-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】森 澄男
(72)【発明者】
【氏名】加古 智典
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 明彦
(72)【発明者】
【氏名】高野 理史
(72)【発明者】
【氏名】針長 右京
【審査官】櫛引 明佳
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/011249(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/128676(WO,A1)
【文献】特開2009-199929(JP,A)
【文献】特開2007-134218(JP,A)
【文献】特開2007-042525(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
LiNiCo(0.9≦a≦1.2,0.3≦x≦0.8,0.2≦y+z≦0.7,x+y+z=1,0.2≦y,MはMn、Al、Mg、Zr、W、Ti、およびBからなる群より選択された少なくとも1種の金属元素を含む)を正極活物質として含有する正極と、
非黒鉛質炭素を負極活物質として含有する負極と、
環状炭酸エステル類又は鎖状カーボネート類を含む電解液と、含み
前記正極及び前記負極が互いに対向する部分において、前記正極活物質の目付量(P)と前記負極活物質の目付量(N)とが、0.65≦P/N≦1.05の関係式を満たす、リチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記リチウムイオン二次電池の充電電圧を3.6Vとしたときの前記負極の電位が、リチウム電位で300mV以上500mV以下である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記負極は、アルミニウムを含む負極集電体を有する、請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウム遷移金属複合酸化物からなる正極活物質が正極金属箔体の表面の所定領域に配設されてなる正極板と、炭素質材料からなる負極活物質が負極金属箔体の表面の所定領域に配設されてなる負極板とが、セパレータを介して捲回又は積層されてなる内部電極体を備えたリチウム二次電池が知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1に記載のリチウム二次電池では、正極活物質の、正極金属箔体の表面の単位配設面積当たりの質量(A(g/cm))に対する、負極活物質の、負極金属箔体の表面の単位配設面積当たりの質量(C(g/cm))の比の値(C/A)が、0.9≦(C/A)≦2.5の関係を満たし、且つ、その出力が200W以上である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-288405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リチウム二次電池は、過充電によって性能が著しく低下したり、使用できなくなったりする問題が生じるため、従来、過充電に対する保護回路を使用することにより乱用が防がれている。しかしながら、何らかの要因で保護回路が十分に稼働しなかった場合に、乱用が生じてしまうことがある。これに対して、リチウム二次電池の正極材料をマンガン酸リチウムやリン酸鉄リチウムのような熱安定性の高い材料に変更することで、過充電に対する所定の耐久性を得ることができる。ところが、これに伴い、放置耐久性が低くなることから、比較的高い過充電耐性と比較的高い放置耐久性とを両立することは難しい。
【0006】
本実施形態は、過充電に対して耐性を有し、且つ、比較的高い放置耐久性を有するリチウムイオン二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本実施形態のリチウムイオン二次電池は、LiNiCo(0.9≦a≦1.2,0.3≦x≦0.8,0.2≦y+z≦0.7,MはLi,Ni,Co以外の金属元素)を正極活物質として含有する正極と、非黒鉛質炭素を負極活物質として含有する負極と、を有し、正極及び負極が互いに対向する部分において、正極活物質の目付量(P)と負極活物質の目付量(N)とが、0.65≦P/N≦1.05の関係式を満たす。
【発明の効果】
【0008】
本実施形態によれば、過充電に対して耐性を有し、且つ、比較的高い放置耐久性を有するリチウムイオン二次電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の斜視図である。
図2図2は、図1のII-II線位置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係るリチウムイオン二次電池の一実施形態について、図1及び図2を参照しつつ説明する。尚、本実施形態の各構成部材(各構成要素)の名称は、本実施形態におけるものであり、背景技術における各構成部材(各構成要素)の名称と異なる場合がある。
【0011】
本実施形態のリチウムイオン二次電池1は、リチウムイオンの移動に伴って生じる電子移動を利用した電池である。リチウムイオン二次電池1は、電気エネルギーを供給する。リチウムイオン二次電池1は、単一又は複数で使用される。具体的に、リチウムイオン二次電池1は、要求される出力及び要求される電圧が小さいときには、単一で使用される。一方、リチウムイオン二次電池1は、要求される出力及び要求される電圧の少なくとも一方が大きいときには、他のリチウムイオン二次電池1と組み合わされて蓄電装置(電池モジュール)に用いられる。前記蓄電装置では、該蓄電装置に用いられるリチウムイオン二次電池1が電気エネルギーを供給する。
【0012】
リチウムイオン二次電池1は、図1及び図2に示すように、正極と負極とを含む電極体2と、電極体2を収容するケース3と、ケース3の外側に配置される外部端子7であって電極体2と導通する外部端子7と、を備える。また、リチウムイオン二次電池1は、電極体2、ケース3、及び外部端子7の他に、電極体2と外部端子7とを導通させる集電部材5等を有する。
【0013】
電極体2は、正極と負極とがセパレータによって互いに絶縁された状態で積層された積層体22が巻回されることによって形成される。
【0014】
正極は、金属箔(集電体)と、金属箔の表面に重ねられ且つ活物質粒子を含む正極活物質層と、を有する。本実施形態では、正極活物質層は、金属箔の両面にそれぞれ重なる。なお、正極の厚さは、40μm以上150μm以下であってもよい。
【0015】
金属箔は帯状である。本実施形態の正極の金属箔は、例えば、アルミニウム箔である。正極は、帯形状の短手方向である幅方向の一方の端縁部に、正極活物質層の非被覆部(正極活物質層が形成されていない部位)を有する。
【0016】
正極活物質層は、粒子状の活物質(活物質粒子)と、粒子状の導電助剤と、バインダとを含む。正極活物質層は、活物質を80質量%以上98質量%以下含んでもよい。正極活物質層(1層分)の厚さは、12μm以上70μm以下であってもよい。正極活物質層(1層分)の目付量は、4mg/cm以上17mg/cm以下であってもよい。正極活物質層の密度は、1.5g/cm 以上3.0g/cm 以下であってもよい。目付量及び密度は、金属箔の一方の面を覆うように配置された1層分におけるものである。
【0017】
正極活物質層の目付量は、下記の方法によって算出できる。製造され、使用された電池の密度を測定する場合、電池を3Aの電流(電池の定格容量が把握できる場合は、1Cに相当する電流)で2.0Vまで放電した後、5時間2.0Vで保持する。保持後、5時間休止させ、ドライルームまたはアルゴン雰囲気化のグローブボックス内でケース内部から電極体を取り出す。純度99.9%以上、水分量20ppm以下の炭酸ジメチル(DMC)で、電極体から取り出した正極を3回以上洗浄する。その後、DMCを真空乾燥によって除去する。そして、設定した面積S(cm)、例えば、4cm(2cm×2cm)の大きさの試験片を切り出し、質量W1(mg)を測定する。純水に浸漬すること等によって、活物質層と金属箔とを分離させる。分離後に金属箔の質量W2(mg)を測定する。活物質層の目付量を、(W1-W2)/Sによって算出する。
【0018】
正極の活物質は、リチウムイオンを吸蔵放出可能な化合物である。正極の活物質は、LiNiCo(0.9≦a≦1.2,0.3≦x≦0.8,0.2≦y+z≦0.7,MはLi,Ni,Co以外の金属元素)のリチウム遷移金属酸化物を少なくとも含有する。上記組成式におけるMは、Mn、Al、Mg、Zr、W、Ti、およびBからなる群より選択された少なくとも1種の金属元素を含んでもよい。
【0019】
本実施形態では、正極の電位をリチウム電位で4.25Vとした場合の充電容量(電極単位面積あたりの充電電流:0.5mA/cm)が、110mAh/g以上230mAh/g以下であることが好ましい。また、上記の充電容量が、150mAh/g以上200mAh/g以下であることがより好ましく、160mAh/g以上180mAh/g以下であることがさらに好ましい。
正極の活物質が上記組成のリチウム遷移金属酸化物であり、且つ、上記の充電容量が上記数値範囲内であることによって、負極に用いた炭素材料(難黒鉛化炭素)の充放電容量との関係上、過充電に対する耐性を有すること、及び、比較的高い放置耐久性を有することの両方を達成できる。
【0020】
本実施形態では、正極の活物質は、LiNiCoMnの化学組成で表されるリチウム遷移金属複合酸化物(ただし、0.9≦a≦1.2,x+y+z=1,0.3≦x≦0.8,0.2≦y≦0.7,0.2≦z≦0.7)であってもよい。なお、x≦0.55,y≦0.34,0.25≦z≦0.34)であってもよい。
【0021】
上記のごときLiNiCoMnの化学組成で表されるリチウム遷移金属複合酸化物は、例えば、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNi0.55Co0.20Mn0.25などである。
【0022】
正極の活物質粒子の平均粒子径(D50)は、2.0μm以上20μm以下であってもよい。
【0023】
正極活物質層に用いられるバインダは、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、エチレンとビニルアルコールとの共重合体、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スチレンブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース塩(CMC)等である。本実施形態のバインダは、ポリフッ化ビニリデンである。
【0024】
正極活物質層の導電助剤は、炭素質材料である。炭素質材料は、例えば、ケッチェンブラック(登録商標)、アセチレンブラック、黒鉛等である。本実施形態の正極活物質層は、導電助剤としてアセチレンブラックを有する。正極活物質層は、導電助剤を1質量%以上15質量%以下含んでもよい。
【0025】
負極は、金属箔(集電体)と、金属箔の上に形成された負極活物質層と、を有する。本実施形態では、負極活物質層は、金属箔の両面にそれぞれ重ねられる。負極の厚さは、40μm以上150μm以下であってもよい。金属箔は帯状である。負極は、帯形状の短手方向である幅方向の一方の端縁部に、負極活物質層の非被覆部(負極活物質層が形成されていない部位)を有する。
【0026】
負極は、金属箔(集電体)と、金属箔の上に形成された負極活物質層と、を有する。本実施形態では、負極活物質層は、金属箔の両面にそれぞれ重ねられる。金属箔は帯状である。金属箔の材質は、アルミニウムまたはアルミニウム合金であることが好ましい。本実施形態では、金属箔は、アルミニウム箔又はアルミニウム合金箔であり、好ましくはアルミニウム箔である。アルミニウム合金とは、アルミニウムを90質量%以上含む合金である。アルミニウムを含む金属箔の表面には、導電層が形成されてもよい。金属箔がアルミニウムを含むことにより、蓄電素子が過放電状態になった場合においても、金属箔が溶解することが抑制され、過放電に対して耐性が発揮されると考えられる。負極は、帯形状の短手方向である幅方向の一方の端縁部に、負極活物質層の非被覆部(負極活物質層が形成されていない部位)を有する。負極の厚さは、40μm以上150μm以下であってもよい。
【0027】
負極活物質層は、粒子状の活物質(活物質粒子)を少なくとも含み、バインダを含み得る。負極活物質層は、セパレータを介して正極と向き合うように配置される。負極活物質層の幅は、正極活物質層の幅よりも大きい。
【0028】
負極活物質層は、活物質を80質量%以上98質量%以下含んでもよい。負極活物質層(1層分)の厚さは、10μm以上100μm以下であってもよい。負極活物質層の目付量(1層分)は、2mg/cm以上10mg/cm以下であってもよい。負極活物質層の目付量は、上述した方法と同様の方法によって測定される。負極活物質層の密度(1層分)は、0.5g/cm以上6.0g/cm以下であってもよい。
【0029】
負極の活物質は、負極において充電反応及び放電反応の電極反応に寄与し得るものである。本実施形態の負極の活物質は、非黒鉛質炭素である。より具体的には、負極の活物質は、難黒鉛化炭素である。
【0030】
本明細書における非黒鉛質炭素とは、放電状態において、線源としてCuKα線を用いた広角X線回折法によって求められる(002)面の平均面間隔d002が、0.340nm以上0.390nm以下のものである。また、難黒鉛化炭素とは、前記平均面間隔d002が、0.360nm以上0.390nm以下のものである。
【0031】
負極活物質層に含まれ得るバインダ(有機バインダ)は、正極活物質層に用いられるバインダと同様のものである。バインダとしては、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)やカルボキシメチルセルロース塩(CMC)などが用いられる。
【0032】
負極活物質層は、ケッチェンブラック(登録商標)、アセチレンブラック等の導電助剤をさらに有してもよい。
【0033】
本実施形態では、負極活物質の目付量(N)に対する、正極活物質の目付量(P)の比(P/N)は、0.65以上1.05以下である。正極活物質の目付量(P)は、上述した正極活物質層の目付量に、正極活物質層中の正極活物質の質量比率を乗じることで算出できる。負極活物質の目付量も同様に、負極活物質層の目付量に、負極活物質層中の負極活物質の質量比率を乗じることで算出できる。上記の比(P/N)が0.65以上であることにより、正極の電位が比較的卑に抑えられて耐久性が発揮され、また、1.05以下であることにより、負極の充電深度が比較的浅くなり、過充電に対する耐性が発揮される。従って、リチウムイオン二次電池1が過充電に対して耐性を有し、且つ、比較的高い放置耐久性を有することができる。付言すると、上述したように、LiNiCo(0.9≦a≦1.2,0.3≦x≦0.8,0.2≦y+z≦0.7,MはLi,Ni,Co以外の金属元素)のリチウム遷移金属酸化物を正極の活物質として用いた場合、高温での放置耐久性が維持されない可能性があるものの、上記の比(P/N)が0.65以上であることにより、高温での放置耐久性が発揮される。
一方で、上記の比(P/N)が0.65未満であると、耐久性が不十分となるおそれがあり、1.05を超えると、負極でLiイオンの受入性が低下したり負極の熱安定性が低下したりすることで過充電に対する耐性が不十分となるおそれがある。
【0034】
本実施形態のリチウムイオン二次電池の充電電圧を3.6Vとしたときの負極の電位は、リチウム電位で300mV以上500mV以下であってもよい。上記の電位が300mV以上であることにより、過充電に対して電池がより耐性を有することができる。上記の電位が500mV以下であることにより、電池がより放置耐久性を有することができる。上記の負極の電位は、350mV以上であってもよい。なお、上記の負極の電位は、正極活物質の目付量および負極活物質の目付量を変化させることで、調整することができる。具体的には、負極活物質の目付量に対して、正極活物質の目付量を小さくすることによって上記の負極の電位をより貴にすることができる。
【0035】
本実施形態の電極体2では、以上のように構成される正極と負極とがセパレータによって絶縁された状態で巻回される。即ち、本実施形態の電極体2では、正極、負極、及びセパレータの積層体22が巻回される。セパレータは、絶縁性を有する部材である。セパレータは、正極と負極との間に配置される。これにより、電極体2(詳しくは、積層体22)において、正極と負極とが互いに絶縁される。また、セパレータは、ケース3内において、電解液を保持する。これにより、リチウムイオン二次電池1の充放電時において、リチウムイオンが、セパレータを挟んで交互に積層される正極と負極との間を移動する。
【0036】
セパレータは、帯状である。セパレータは、多孔質なセパレータ基材を有する。セパレータは、正極及び負極間の短絡を防ぐために正極及び負極の間に配置されている。本実施形態のセパレータは、セパレータ基材のみを有する。
【0037】
セパレータ基材は、多孔質である。セパレータ基材は、例えば、織物、不織布、又は多孔膜である。セパレータ基材の材質としては、高分子化合物、ガラス、セラミックなどが挙げられる。高分子化合物としては、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリアミド(PA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)などのポリオレフィン(PO)、及び、セルロースからなる群より選択された少なくとも1種が挙げられる。
【0038】
セパレータの幅(帯形状の短手方向の寸法)は、負極活物質層の幅より僅かに大きい。セパレータは、正極活物質層及び負極活物質層が重なるように幅方向に位置ずれした状態で重ね合わされた正極と負極との間に配置される。
【0039】
電解液は、非水溶液系電解液である。電解液は、有機溶媒に電解質塩を溶解させることによって得られる。有機溶媒は、例えば、プロピレンカーボネート及びエチレンカーボネートなどの環状炭酸エステル類、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、及びエチルメチルカーボネートなどの鎖状カーボネート類である。電解質塩は、LiClO、LiBF、及びLiPF等である。本実施形態の電解液は、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、及びエチルメチルカーボネートを所定の割合で混合した混合溶媒に、0.5mol/L以上1.5mol/L以下のLiPFを溶解させたものである。
【0040】
ケース3は、開口を有するケース本体31と、ケース本体31の開口を塞ぐ(閉じる)蓋板32と、を有する。ケース3は、電極体2及び集電部材5等と共に、電解液を内部空間に収容する。ケース3は、電解液に耐性を有する金属によって形成される。
【0041】
ケース3は、ケース本体31の開口周縁部と、長方形状の蓋板32の周縁部とを重ね合わせた状態で接合することによって形成される。また、ケース3は、ケース本体31と蓋板32とによって画定される内部空間を有する。本実施形態では、ケース本体31の開口周縁部と蓋板32の周縁部とは、溶接によって接合される。
【0042】
蓋板32は、ケース3内のガスを外部に排出可能なガス排出弁321を有する。ガス排出弁321は、ケース3の内部圧力が所定の圧力まで上昇したときに、該ケース3内から外部にガスを排出する。ガス排出弁321は、蓋板32の中央部に設けられる。
【0043】
ケース3には、電解液を注入するための注液孔が設けられる。注液孔は、ケース3の内部と外部とを連通する。注液孔は、蓋板32に設けられる。注液孔は、注液栓326によって密閉される(塞がれる)。注液栓326は、溶接によってケース3(本実施形態の例では蓋板32)に固定される。
【0044】
外部端子7は、他のリチウムイオン二次電池1の外部端子7又は外部機器等と電気的に接続される部位である。外部端子7は、導電性を有する部材によって形成される。外部端子7は、バスバ等が溶接可能な面71を有する。面71は、平面である。
【0045】
集電部材5は、ケース3内に配置され、電極体2と通電可能に直接又は間接に接続される。本実施形態の集電部材5は、導電性を有する部材によって形成される。集電部材5は、ケース3の内面に沿って配置される。集電部材5は、リチウムイオン二次電池1の正極と負極とにそれぞれ導通される。
【0046】
本実施形態のリチウムイオン二次電池1では、電極体2とケース3とを絶縁する袋状の絶縁カバー6に収容された状態の電極体2(詳しくは、電極体2及び集電部材5)がケース3内に収容される。
【0047】
次に、上記実施形態のリチウムイオン二次電池1の製造方法について説明する。
【0048】
例えば、リチウムイオン二次電池1の製造方法では、まず、活物質を含む組成物を金属箔に塗布し、活物質層を形成して、正極及び負極をそれぞれ作製する。また、市販のセパレータを用意するか、又は、セパレータを作製する。次に、正極、セパレータ、及び負極を重ね合わせて電極体2を形成する。さらに、電極体2をケース3に入れ、ケース3に電解液を入れることによってリチウムイオン二次電池1を組み立てる。
【0049】
正極の作製では、例えば、金属箔の両面に、活物質粒子と、バインダと、導電助剤と、溶媒と、を含む組成物をそれぞれ塗布することによって正極活物質層を形成する。正極活物質層を形成するための塗布方法としては、一般的な方法が採用される。塗布量を変化させることにより、正極活物質層の目付量を調整できる。塗布された正極活物質層を所定の圧力でロールプレスする。プレス圧を調整することにより、正極活物質層の厚さや密度を調整できる。なお、負極も同様にして作製できる。
【0050】
電極体2の形成では、正極と負極との間にセパレータを挟み込んだ積層体22を巻回することにより、電極体2を形成する。詳しくは、正極活物質層と負極活物質層とがセパレータを介して互いに向き合うように、正極とセパレータと負極とを重ね合わせ、積層体22を作る。積層体22を巻回して、電極体2を形成する。
【0051】
リチウムイオン二次電池1の組み立てでは、ケース3のケース本体31に電極体2を入れ、ケース本体31の開口を蓋板32で塞ぎ、電解液をケース3内に注入する。ケース本体31の開口を蓋板32で塞ぐときには、ケース本体31の内部に電極体2を入れ、正極と一方の外部端子7とを導通させ、且つ、負極と他方の外部端子7とを導通させた状態で、ケース本体31の開口を蓋板32で塞ぐ。電解液をケース3内へ注入するときには、ケース3の蓋板32の注入孔から電解液をケース3内に注入する。
【0052】
尚、本発明のリチウムイオン二次電池は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することができ、また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることができる。さらに、ある実施形態の構成の一部を削除することができる。
【0053】
上記の実施形態では、活物質を含む活物質層が金属箔に直接接した正極について詳しく説明したが、本発明では、正極が、バインダと導電助剤とを含む導電層であって活物質層と金属箔との間に配置された導電層を有してもよい。
【0054】
上記実施形態では、活物質層が各電極の金属箔の両面側にそれぞれ配置された電極について説明したが、本発明のリチウムイオン二次電池では、正極又は負極は、活物質層を金属箔の片面側にのみ備えてもよい。
【0055】
上記実施形態では、積層体22が巻回されてなる電極体2を備えたリチウムイオン二次電池1について詳しく説明したが、本発明のリチウムイオン二次電池は、巻回されない積層体22を備えてもよい。詳しくは、それぞれ矩形状に形成された正極、セパレータ、負極、及びセパレータが、この順序で複数回積み重ねられてなる電極体をリチウムイオン二次電池が備えてもよい。なお、上記リチウムイオン二次電池1の形状や大きさ(容量)は任意である。
【0056】
リチウムイオン二次電池1の通常の使用電圧上限を3.6Vに設計し、このようなリチウムイオン二次電池1の複数を直列に接続、好ましくは4つを直列に接続した蓄電装置を設計した場合、この蓄電装置は、従来の鉛蓄電池を備えた自動車用電源と電圧の互換性が生じるため、鉛蓄電池の代替として用いることができる。このような蓄電装置を、鉛蓄電池の代替用途に用いることで、鉛蓄電池にはできない深放電が可能となり、加えて、軽量化を図ることが可能になる。
【実施例
【0057】
以下に示すようにして、リチウムイオン二次電池を製造した。
【0058】
(試験例1)
(1)正極の作製
溶媒としてのN-メチル-2-ピロリドン(NMP)と、導電助剤(アセチレンブラック)と、バインダ(PVdF)と、メジアン径が4.0μmの活物質(LiNi1/3Co1/3Mn1/3)の粒子とを、混合し、混練することで、正極用の組成物を調製した。導電助剤、バインダ、活物質の配合量は、それぞれ4.5質量%、2.5質量%、93質量%とした。調製した正極用の組成物を、乾燥後の正極活物質層の目付量が5.3mg/cmとなるように、アルミニウム箔(厚さ12μm)の両面にそれぞれ塗布した(この場合の正極活物質の目付量(P)は、4.93mg/cm)。加熱による乾燥後、ロールプレスを行った。その後、真空乾燥して、水分等を除去した。プレス後の活物質層(1層分)の厚さは、19μmであった。活物質層の密度は、2.8g/cmであった。
【0059】
(2)負極の作製
活物質としては、メジアン径が4μmの粒子状の非黒鉛質炭素(難黒鉛化炭素)を用いた。また、バインダとしては、PVdFを用いた。溶媒としての水と、バインダと、活物質とを混合し、混練することで、負極用の組成物を調製した。バインダは、4質量%となるように配合し、活物質は、96質量%となるように配合した。調製した負極用の組成物を、乾燥後の負極活物質層の目付量が5.64mg/cmとなるように、アルミニウム箔(厚さ12μm)の両面にそれぞれ塗布した(この場合の負極活物質の目付量(N)は、5.42mg/cm)。加熱による乾燥後、ロールプレスを行った。その後、真空乾燥して、水分等を除去した。プレス後の活物質層(1層分)の厚さは、86μmであった。活物質層の密度は、1.1g/cmであった。
なお、電池の上限充電電圧を3.6Vとしたときの負極の電位が、リチウム電位で400mVとなるように、負極活物質層の目付量を設定した。
【0060】
(3)セパレータ(セパレータ基材)
セパレータ基材として厚さが22μmのポリエチレン製微多孔膜を用いた。ポリエチレン製微多孔膜の透気抵抗度は、100秒/100ccであった。
【0061】
(4)電解液の調製
電解液としては、以下の方法で調製したものを用いた。非水溶媒として、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートを、いずれも1容量部ずつ混合した溶媒を用い、この非水溶媒に、塩濃度が1mol/LとなるようにLiPFを溶解させ、電解液を調製した。
【0062】
(5)ケース内への電極体の配置
上記の正極、上記の負極、上記の電解液、セパレータ、及びケースを用いて、一般的な方法によって電池を組み立てた。
まず、セパレータが上記の正極および負極の間に配されて積層されてなるシート状物を巻回した。次に、巻回されてなる電極体を、ケースとしてのアルミニウム製の角形電槽缶のケース本体内に配置した。続いて、正極及び負極を2つの外部端子それぞれに電気的に接続させた。さらに、ケース本体に蓋板を取り付けた。上記の電解液を、ケースの蓋板に形成された注液口からケース内に注入した。最後に、ケースの注液口を封止することにより、ケースを密閉した。
【0063】
・正極活物質と負極活物質の目付量の比について
負極活物質の目付量(N)に対する、正極活物質の目付量(P)の比(P/N)は、0.91であった。
【0064】
(試験例2~7)
正極活物質層および正極活物質の各目付量を変えずに、表1に示すP/N比になるように、負極活物質層の目付量を3.11~10.07mg/cmの範囲で変更した点等以外は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造した。
【0065】
(試験例8)
正極の活物質をLiNi0.55Co0.20Mn0.25の化学組成の活物質に変更し、負極活物質層の目付量を6.34mg/cmに、正極活物質層の目付量を5.30mg/cmに変更した点等以外は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造した。
【0066】
(試験例9、10)
正極の活物質を表1に示す化学組成の活物質に変えた点、また、負極活物質層の目付量を1.50~2.31mg/cmの範囲で変更し、正極活物質層の目付量を5.30mg/cmに変更した点等以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を製造した。
【0067】
【表1】
【0068】
<過充電に対する耐性の評価>
25℃において3A定電流で3.6Vまで各電池を充電し、さらにその電圧で低電圧充電を合計3時間充電した。その後、25℃において、60A定電流で、終止電圧20Vの条件で過充電試験を実施した。斯かる試験において、最高温度を測定した。
【0069】
<(高温)放置耐久性の評価>
各電池を、3A定電流、終止電圧2.4Vの条件で放電した後、3A定電流で3.6Vまで充電し、さらに3.6V定電圧で合計3時間充電した後、3A定電流で、終止電圧2.4Vの条件で放電することにより初期放電容量を測定した。その後、各電池を25℃において3A定電流で3.6Vまで充電し、さらにその電圧で低電圧充電を合計3時間おこなった。65℃の恒温槽中において30日間(1ヶ月間)保管した。25℃で4h保持した後、上述した方法と同様の方法で放電容量を測定した。合計90日間放置をおこない、90日後の放電容量維持率を算出した。
【0070】
表1から把握されるように、上記のP/N比が0.65以上1.05以下であるリチウムイオン二次電池は、過充電に対して耐性を有し、且つ、比較的高い放置耐久性を有していた。一方、上記のP/N比が0.65未満あるいは1.05よりも大きいリチウムイオン二次電池は、過充電に対して耐性を有しないか、又は、十分な放置耐久性を有していなかった。
上記のP/N比が0.65未満であると、正極の電位が比較的貴になったこと等によって、耐久性が低くなったと考えられる。一方、上記のP/N比が1.05を超えると、充電時に負極で分極が発生してLi電析が生じやすくなり、過充電に対する耐性が低くなったと考えられる。なお、負極活物質が難黒鉛化炭素であるため、負極の電位が比較的貴であり、過充電における熱安定性が確保されたと考えられる。
【符号の説明】
【0071】
1:リチウムイオン二次電池(非水電解質二次電池)、
2:電極体、
3:ケース、 31:ケース本体、 32:蓋板、
5:集電部材、
6:絶縁カバー、
7:外部端子、 71:面。
図1
図2