(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-08
(45)【発行日】2023-03-16
(54)【発明の名称】3次元積層造形用材料
(51)【国際特許分類】
B22C 9/02 20060101AFI20230309BHJP
B22C 1/10 20060101ALI20230309BHJP
B22C 1/22 20060101ALI20230309BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20230309BHJP
【FI】
B22C9/02 101Z
B22C1/10 Z
B22C1/22 C
B22C9/02 103C
B33Y70/00
(21)【出願番号】P 2019087005
(22)【出願日】2019-04-29
【審査請求日】2022-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】591159262
【氏名又は名称】株式会社清田鋳機
(73)【特許権者】
【識別番号】593090950
【氏名又は名称】株式会社トウチュウ
(74)【代理人】
【識別番号】100105821
【氏名又は名称】藤井 淳
(72)【発明者】
【氏名】山川 晟男
(72)【発明者】
【氏名】河上 高庸
(72)【発明者】
【氏名】藤野 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】山元 寿文
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-99148(JP,A)
【文献】特開平1-31543(JP,A)
【文献】西独国特許出願公開第2745549(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22C 9/02
B22C 1/22
B22C 1/10
B33Y 70/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳物砂を含む層を形成する工程及び前記層の所定領域にバインダーを添加することにより当該領域を固化させる工程を順に繰り返す工程を含む3次元積層造形法によって鋳型を製造する方法に用いられる鋳物砂であって、
(1)鋳物砂を構成する粒子が、砂粒及びその表面を被覆する表面改質層を含み、
(2)表面改質層が、a)フラン樹脂前駆体及びb)酸成分を含み、
(3)酸成分としてエチルベンゼンスルホン酸及びクメンスルホン酸の少なくとも1種を含む、
ことを特徴とする3次元積層造形用材料。
【請求項2】
酸成分として、少なくとも下記の成分:
(a)クメンスルホン酸、
(b)エチルベンゼンスルホン酸及びキシレンスルホン酸、又は
(c)クメンスルホン酸、エチルベンゼンスルホン酸及びキシレンスルホン酸
を含む、請求項1に記載の3次元積層造形用材料。
【請求項3】
エチルベンゼンスルホン酸及びクメンスルホン酸の少なくとも1種の含有量が酸成分中50質量%以上である、請求項1又は2に記載の3次元積層造形用材料。
【請求項4】
酸成分の含有量が前記砂粒100質量部に対して0.1~0.4質量部である、請求項1~3のいずれかに記載の3次元積層造形用材料。
【請求項5】
表面改質層中にさらにシランカップリング剤を含む、請求項1~4のいずれかに記載の3次元積層造形用材料。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の3次元積層造形用材料とバインダーとを含む3次元積層造形用キット。
【請求項7】
バインダーがフラン樹脂前駆体及びアミン化合物を含む、請求項5に記載の3次元積層造形用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形法により鋳型を製造するのに適した3次元積層造形用材料に関する。特に、本発明は、鋳造用砂型造形機である3次元積層鋳型造形機に供する鋳造用材料に関する。
【背景技術】
【0002】
積層造形法は、3D-CAD等の3次元データに基づいて、スライスされた2次元の層を積み重ねて成形体を作製する技術である。実際は、特定の造形用材料を3Dプリンターで供給しながら積層することによって所望の形状をもつ造形物を創出することができる。その造形用材料としては、例えば金属、樹脂、砂、石膏、セラミックス等のさまざまな材料が使用されている。
【0003】
この中でも、砂は、その砂型(成形体)を鋳型として好適に用いることができることから、そのような砂型も積層造形法により作製されている。特に、近年では、CAD等で作成した3次元形状を直接に砂型として実現できる3次元積層造形技術が注目を浴びている。このような砂型製造方法では、砂型の造形不良を改善すること、積層流動性を改良すること等を目的として各種の製造方法あるいは造形用材料が提案されている。
【0004】
例えば、 砂と、前記砂を被覆する樹脂硬化物を含有する表面改質層とを有し、前記表面改質層に付着する硬化剤を備える鋳物砂を準備する準備工程と、前記鋳物砂を層状に形成し、前記鋳物砂の層にバインダーを添加して、前記鋳物砂の層における前記バインダーの添加部分を固める固化工程と、前記固化工程を繰り返して、前記添加部分を積層する積層工程と、を含むことを特徴とする、砂型の製造方法が知られている(特許文献1)。
【0005】
また例えば、砂と、前記砂を被覆する樹脂硬化物を含有する表面改質層とを有することを特徴とする鋳物砂が提案されている(特許文献2)。
【0006】
さらに、人工砂と、フラン樹脂前駆体を含むフラン樹脂組成物とを混合する工程と、前記フラン樹脂組成物が混合された人工砂に硬化剤を混合する工程と、を含み、前記硬化剤が、キシレンスルホン酸を含むことを特徴とする、鋳物砂の製造方法が知られている(特許文献3)。
【0007】
その他にも、例えば3次元積層鋳型造形に使用する粒状材料であって、前記粒状材料を結合するための有機バインダーを活性化して硬化させる触媒として、溶媒を揮発させた酸のコーティング層を有する粒状材料等が知られている(特許文献4~8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2017-100162
【文献】特開2017-100163
【文献】特開2018-140422
【文献】特許第6027263号
【文献】特許第6096378号
【文献】特許第6289648号
【文献】特許第5249337号
【文献】特許第5119276号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1~3に記載の鋳物砂では、表面改質層の材質であるフラン樹脂の縮合反応時に発生する水が表面改質層表面に滲出する過程において、バインダーの硬化剤となる酸触媒を表面改質層表面に付着させるという特徴を有するが、成形前の段階において酸触媒が減少するという問題がある。すなわち、バインダーと反応する前に既に酸触媒が少なくなってしまっているという事態が起こる。
【0010】
その原因としては、例えば3次元積層鋳型造形機の砂輸送管を鋳物砂が通過する過程で酸触媒が剥がれて脱離することが考えられる。これは、酸触媒が固体又は液体にかかわらず、表面改質層に対する付着力が弱いために生じる問題といえる。酸触媒が脱離した場合、その不足を補うために、3次元積層鋳型造形機のリコータ内に供給された鋳物砂を35℃以上45℃未満に加温して鋳型の硬化速度を高める必要があるが、そのために3次元積層鋳型造形機にヒーターを備え付ける方法、リコータ供給前のタンクを加温する方法等の手段を追加する必要があり、これらは装置の複雑化、高コスト化等の原因にもなる。
【0011】
特許文献4~8も、同様の問題を抱えている。すなわち、鋳物砂の砂粒表面にある酸触媒が単に分散されている状態であり、不安定である。砂輸送管の中に鋳物砂を導入するためには強力な吸引力が必要であり、酸触媒の接着力ではその吸引力のほか、輸送管中で鋳物砂の砂粒どうしが擦れる摩擦力に対抗することができない。
【0012】
このため、3次元積層鋳型造形内に積層された鋳物砂にバインダーが供給されても、バインダー固化に必要とされる酸触媒が不十分なため、鋳型の速硬化を期待することができない。これを解決するために酸触媒量を増加させる方法も考えられるが、硬化剤中に含まれる硫黄が鋳造製品の金属組織に悪影響を及ぼす可能性もあること、ガス欠陥を誘発する可能性が高くなること、積層に必要な流動性が得られ難くなること等の理由から酸触媒を増量することは実際上は難しい。特に、酸触媒としてp-トルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、硬化促進剤として硫酸マグネシウムを使用すると、その潮解性あるいは水和物が存在するがゆえに砂粒もしくは表面改質層表面で空気中の水分を吸収し、鋳物砂保管中に砂粒どうしがブロッキング現象を引き起こし、均質な鋳物砂の積層を阻害するために解砕が必要となり、作業効率が落ちる。また、キシレンスルホン酸の許容含有量にも自ずと上限がある。
【0013】
さらに、上述のように、リコータ内に供給された表面改質層を有する鋳物砂を加温した場合、表面改質層から水蒸気が発生するためにリコータ内で砂粒が軽くブロッキングを生じ、流動性が低下する。このため、高い寸法精度が要求される鋳型、薄肉形状を有する鋳型等を形成するのに不利に働くことから、より安定した流動性を確保するためには35℃未満に空調管理された環境下で鋳物砂を積層させていく必要がある。あるいは、レゾルシン等の硬化促進剤を塗布用バインダーに添加し、硬化速度を得る手段も考えられるが、硬化促進剤としてレゾルシンを添加すると、得られる鋳型の最終強度が低くなる。
【0014】
従って、本発明の主な目的は、積層造形法(粉末積層造形法)によって比較的短時間で高強度の鋳型を製造することができる鋳物砂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定の構成からなる粒子(粒子群)が上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明は、下記の3次元積層造形用材料に係る。
1. 鋳物砂を含む層を形成する工程及び前記層の所定領域にバインダーを添加することにより当該領域を固化させる工程を順に繰り返す工程を含む3次元積層造形法によって鋳型を製造する方法に用いられる鋳物砂であって、
(1)鋳物砂を構成する粒子が、砂粒及びその表面を被覆する表面改質層を含み、
(2)表面改質層が、a)フラン樹脂前駆体及びb)酸成分を含み、
(3)酸成分としてエチルベンゼンスルホン酸及びクメンスルホン酸の少なくとも1種を含む、
ことを特徴とする3次元積層造形用材料。
2. 酸成分として、少なくとも下記の成分:
(a)クメンスルホン酸、
(b)エチルベンゼンスルホン酸及びキシレンスルホン酸、又は
(c)クメンスルホン酸、エチルベンゼンスルホン酸及びキシレンスルホン酸
を含む、請求項1に記載の3次元積層造形用材料。
3. エチルベンゼンスルホン酸及びクメンスルホン酸の少なくとも1種の含有量が酸成分中50質量%以上である、前記項1又は2に記載の3次元積層造形用材料。
4. 酸成分の含有量が前記砂粒100質量部に対して0.1~0.4質量部である、前記項1~3のいずれかに記載の3次元積層造形用材料。
5. 表面改質層中にさらにシランカップリング剤を含む、前記項1~4のいずれかに記載の3次元積層造形用材料。
6. 前記項1~5のいずれかに記載の3次元積層造形用材料とバインダーとを含む3次元積層造形用キット。
7. バインダーがフラン樹脂前駆体及びアミン化合物を含む、前記項5に記載の3次元積層造形用キット。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、積層造形法(粉末積層造形法)によって比較的短時間で高強度の鋳型を製造することができる鋳物砂を提供することができる。特に、短時間でも実用に十分な強度をもつ鋳型をより確実にかつ効率的に製造することが可能である。
【0018】
本発明の鋳物砂によって高強度の鋳型が得られる理由は、定かではないが、酸成分として疎水性の高いエチルベンゼンスルホン酸及び/又はクメンスルホン酸を含むことから、表面改質層のフラン樹脂前駆体が縮合反応する際に生成する水とともに酸成分が表面改質層表面に滲出するような現象が効果的に抑制されていることによるものと考えられる。
【0019】
従来から酸触媒として使用されているキシレンスルホン酸等は疎水性が比較的低いがゆえに、フラン樹脂前駆体が縮合反応する際に生成する水とともに表面改質層表面に滲出する傾向にある。生成した鋳物砂の粒子表面に酸触媒が偏在すると、鋳物砂の運搬時、使用時等において、バインダーが添加される前の段階で、既に相当量の酸触媒が粒子表面から脱落し、酸触媒量が減少してしまう。このため、そのように酸触媒が減少した鋳物砂にバインダーを添加しても所望の強度を得ることができない。
【0020】
これに対し、本発明の鋳物砂では、前記の推察のように、酸成分(酸触媒)はその高い疎水性からフラン樹脂前駆体とのなじみが良く、表面改質層の内部において酸成分が実質的に内包された状態で維持され、鋳物砂の運搬時、使用時等においても酸成分の表面改質層表面への移行を抑制ないしは防止できる結果、バインダーが添加される際に十分な酸成分量を確保できると考えられる。換言すれば、表面改質層では、酸成分の存在により、フラン樹脂前駆体が完全硬化するのではなく、いわば半硬化状態となって酸成分を実質的に内包した状態で両者が併存できるため、酸成分の漏洩が抑制されていると推察される。表面改質層のフラン樹脂組成物は極性溶媒に溶ける性質があるため、表面改質層中に内包されている酸成分は、バインダー塗布時に移動でき、バインダー硬化時に円滑に消費されることにより、比較的速い強度発現が得られるものと考えられる。
【0021】
また、本発明のキットで採用されているバインダーは、シランカップリング剤に頼らなくても良いので、高い清掃性(すなわち、未硬化の砂を容易に除去できるという性能)を実現できる硬化速度の速いバインダーでありながら、バインダー粘度の経時変化が少なく、析出反応もないため、バインダーの長期保管が可能となる。さらに、バインダーにアミン化合物を添加する場合には、バインダーの経時的な粘度変化を抑制することができるので、長期保存性をより高めることが可能となる。
【0022】
このような特徴をもつ本発明の鋳物砂及びそれとバインダーとの組合せからなるキットは、積層造形法により砂型を製造するために好適に用いることができる。そして、このようにして得られた砂型(鋳型)は、従来の3D鋳型では対応困難だった溶融温度の高い鉄系材料の鋳造にも使用でき、例えば鋳鉄のディーゼルエンジン等の製造(鋳造)に幅広く用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の鋳物砂を用いて積層造形する手順の一例を示す図である。
図1Aには、層形成工程で鋳物砂を含む層L1が形成された後、前記層L1にバインダーを所定領域に散布した状態を上方からみた平面図を示す。
図1Bには、積層工程において、
図1AのX-Y断面の概要を示す。
【
図2】積層造形法により鋳物砂を含む層の形成とバインダーとの添加とを繰り返しながら成形体(鋳物)を製造する工程の概略を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
1.3次元積層造形用材料
本発明の3次元積層造形用材料(本発明材料)は、鋳物砂を含む層を形成する工程及び前記層の所定領域にバインダーを添加することにより当該領域を固化させる工程を順に繰り返す工程を含む3次元積層造形法によって鋳型を製造する方法に用いられる鋳物砂であって、
(1)鋳物砂を構成する粒子が、砂粒及びその表面を被覆する表面改質層を含み、
(2)表面改質層が、a)フラン樹脂前駆体及びb)酸成分を含み、
(3)酸成分としてエチルベンゼンスルホン酸及びクメンスルホン酸の少なくとも1種を含む、ことを特徴とする。
【0025】
砂粒
本発明の鋳物砂を構成する粒子のコア(芯材)として砂粒を用いる。砂粒の集合体である砂としては、天然砂又は人工砂のいずれも使用することができる。天然砂としては、例えば珪砂、ジルコン砂、クロマイト、オリビン等が挙げられる。人工砂としては、ムライト、スピネル、アルミナ等が挙げられる。本発明では、熱膨張係数が小さく、かつ、適度な流動性が確保しやすいという点において、人工砂が好ましく、その中でも焼結法で作製される人工砂がより好ましい。これらは、公知又は市販のものを使用することもできる。
【0026】
また、砂の粒度は、特に限定されないが、一般的には粒度指数でAFS75~110が好ましく、特にAFS90~110がより好ましい。粒度は、必要に応じて、公知の分級方法により調節することが可能である。
【0027】
表面改質層
表面改質層は、a)フラン樹脂前駆体及びb)酸成分を含む。本発明材料において、表面改質層は、鋳物砂を構成する粒子どうしの結合には直接寄与しないものである。このため、鋳物砂における外観性状としては乾粉であり、粉体としての流動性を有する。
【0028】
本発明材料中における表面改質層の含有量は、砂100質量部に対して通常0.01~0.30質量部程度とし、特に0.05~0.30質量部とすることが好ましく、その中でも0.15~0.30質量部とすることがより好ましい。このような範囲に設定することによって、高い強度をもつ鋳型をより確実に得ることができる。
【0029】
a)フラン樹脂前駆体
フラン樹脂前駆体としては、縮合重合等によりフラン樹脂を形成し得るものであれば限定されず、例えばフルフリルアルコール、フラン樹脂プレポリマー等が挙げられる。特に、反応熱の抑制及び樹脂の低粘度化という理由から、フルフリルアルコールとフラン樹脂プレポリマーとを併用することが望ましい。
【0030】
フラン樹脂プレポリマーとしては、例えばフルフリルアルコール単独の重合体、フルフリルアルコールとアルデヒド化合物との共重合体、フルフリルアルコールと尿素とアルデヒド化合物との共重合体(尿素変性フラン樹脂プレポリマー)、フルフリルアルコールとフルフラールとの共重合体等が挙げられる。これらは、単独使用又は2種以上で併用することができる。
【0031】
本発明では、フラン樹脂プレポリマーとして、高強度化しやすいという理由から、特にフルフリルアルコールと尿素とアルデヒド化合物との共重合体(尿素変性フラン樹脂プレポリマー)が好ましい。前記のアルデヒド化合物としては、例えばホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、グリオキザール等が挙げられる。本発明では、特にホルムアルデヒドが好ましい。
【0032】
表面改質層中におけるフラン樹脂前駆体の含有量は、その前駆体の種類等に応じて適宜設定できるが、通常は10質量%以上とし、特に50質量%以上とすることが好ましく、その中でも90質量%以上とすることがより好ましい。上記含有量の上限値は、特に制限されないが、通常は99質量%程度とすれば良い。
【0033】
また、フラン樹脂前駆体としてフルフリルアルコール及びフラン樹脂プレポリマーを併用する場合、フルフリルアルコールの含有量は、表面改質層中10~99質量%程度とし、特に35~85質量%とすることが好ましい。フラン樹脂プレポリマーの含有量は、表面改質層中1~90質量%程度とし、特に15~60質量%とすることが好ましい。また、両者の割合は、限定的ではないが、質量比でフラン樹脂プレポリマー:フルフリルアルコール=1:0.5~5.0程度の範囲内で適宜設定することができる。
【0034】
b)酸成分
酸成分は、エチルベンゼンスルホン酸及びクメンスルホン酸の少なくとも1種を含む。これらは、主として、積層造形する工程において使用されるバインダーの硬化のための酸触媒として機能するものである。これらの酸成分を用いることによって、より高い強度を発揮できる鋳型を提供することができる。
【0035】
酸成分中において、エチルベンゼンスルホン酸及びクメンスルホン酸の少なくとも1種が占める割合は通常45質量%以上とし、特に55質量%以上とすることが望ましい。上記割合の上限値は、例えば100質量%とすることもできる。
【0036】
本発明の効果を妨げない範囲内において、他の酸成分を使用することもできる。例えば、公知の鋳物砂で酸触媒として配合されている成分が挙げられる。より具体的には、脂肪族スルホン酸(例えば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸等)、芳香族スルホン酸(例えば、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸等)、無機酸(例えば、硫酸、リン酸、塩酸等)、カルボン酸(例えば、マレイン酸、シュウ酸等)等が例示される。特に、本発明では、キシレンスルホン酸が望ましい。キシレンスルホン酸としては、オルトキシレンスルホン酸、メタキシレンスルホン酸、パラキシレンスルホン酸等が挙げられる。これらキシレンスルホン酸は、単独使用又は2種以上で併用することができる。これらキシレンスルホン酸は、全酸成分中に50質量%以下であることが望ましい。
【0037】
酸成分の含有量は、用いる酸成分の種類等に応じて適宜設定できるが、通常は砂100質量部に対して0.01~0.5質量部程度とすれば良く、特に0.05~0.45質量部とすることが好ましく、その中でも0.1~0.4質量部とすることがより好ましい。上記範囲内に設定することによって、よりいっそう高い鋳型強度が得られるとともに、鋳型使用時に生じ得るガス欠陥のほか、鋳造製品の金属組織に及ぼす悪影響等を効果的に抑制ないしは防止することができる。
【0038】
c)その他の成分
表面改質層中においては、本発明の効果を妨げない範囲内において、他の成分が含まれていても良い。例えば、溶媒、架橋剤、硬化促進剤、フィラー等を必要に応じて含有させることができる。
【0039】
硬化促進剤としては、公知の積層造形法で使用されている硬化促進剤と同様のものを使用できる。例えば、レゾルシン、ビスフェノールA、ビスヒドロキシメチルフラン等が挙げられる。表面改質層中の硬化促進剤の含有割合は、限定的ではないが、通常は1~30質量%程度の範囲内で適宜設定することができる。
【0040】
溶媒としては、例えば水、アセトン、酢酸エチル、アルコール等が挙げられる。表面改質層中における溶媒の含有割合は、例えば0.01質量%以上、好ましくは1質量%以上、例えば10質量%以下である。なお、水は、フルフリルアルコールの脱水重合時に生成される水も含む。
【0041】
架橋剤としては、シランカップリング剤を好適に用いることができる。これは公知又は市販のものを使用することができる。表面改質層中における架橋剤の含有割合は、例えば0.01~2質量%程度とし、好ましくは0.1~1質量%とすることができる。シランカップリング剤としては、限定的ではないが、例えばアミノプロピルメチルジメトキシシランを好適に用いることができる。架橋剤が少なすぎる場合は表面改質層と砂の結合力を落とし、鋳型強度が低下するおそれがある。また、架橋剤が多すぎる場合は、塗布用バインダーと表面改質層の密着性を阻害し、鋳型強度が低下することがある。
【0042】
また、任意的な成分として、フィラーを配合することもできる。これにより、よりいっそう高い鋳型強度を得ることができる。フィラーとしては、本発明の効果を妨げない限り、有機系フィラー又は無機系フィラーのいずれであっても良い。また、フィラーの形状も、特に限定されず、例えば球状、繊維状、鱗片状等のいずれの形態であっても良い。また、繊維状フィラーは、短繊維又は長繊維のいずれでも良い。従って、例えば繊維径が1000nm以下でアスペクト比10~5000程度のナノファイバーも用いることもできる。ナノファイバーは、カーボン、シリカ、セルロース等の植物繊維(パルプ)、ガラス繊維、多糖類等が知られているが、いずれも公知又は市販のものを使用することができる。特に、本発明では、表面改質層内の酸成分の保持力が高まるという理由から、セルロースナノファイバーが好ましい。
【0043】
フィラーの含有量は、砂100重量部に対して1重量部以下の範囲内において、用いるフィラーの種類等に応じて適宜設定することができる。例えば、フィラーとしてセルロースナノファイバーを用いる場合は、例えば砂100重量部に対して1×10-4重量部以上1重量部以下程度とすることができ、特に1×10-3重量部以上0.1重量部以下とすることが好ましい。
【0044】
2.3次元積層造形用材料の製造
本発明材料の製造方法は、限定的ではないが、例えばa)フラン樹脂前駆体を含む第1組成物と砂とを混合することにより混合物を得る工程(第1工程)、b)前記混合物に酸成分を含む第2組成物とを混合する工程(第2工程)を含む製造方法によって好適に実施することができる。
【0045】
第1工程
第1工程では、フラン樹脂前駆体を含む第1組成物と砂とを混合することにより混合物を得る。
【0046】
砂は、前記「1.3次元積層造形用材料」で説明したものと同様のものを使用すれば良い。また、第1組成物は、フラン樹脂前駆体のほか、必要に応じて前記「1.3次元積層造形用材料」で説明した各種の成分を配合したものを好適に用いることができる。
【0047】
混合条件は、砂粒表面が第1組成物で被覆できる限りは限定されないが、温度は特に40℃以下(特に25~38℃)で混合することが好ましい。また、両者の配合割合も、前記「1.3次元積層造形用材料」で説明した割合を採用すれば良い。混合は、公知又は市販の混合機、ニーダー等を使用することができる。
【0048】
第2工程
第2工程では、前記混合物に酸成分を含む第2組成物を混合する。第2組成物としては、酸成分100質量%であっても良いが、必要に応じて他の成分が配合されていても良い。例えば、前記「c)その他の成分」で示した各成分を配合することもできる。
【0049】
混合開始条件は、砂粒表面上の第1組成物に酸成分を十分に付与できる限りは制限されないが、温度は特に40℃以下(特に25~38℃)で混合開始することが好ましい。これにより、酸成分とフラン樹脂前駆体とが反応する現象をよりいっそう確実に抑制することができる。また、両者の配合割合も、前記「1.3次元積層造形用材料」で説明した割合を採用すれば良い。混合は、公知又は市販の混合機、ニーダー等を使用することができる。
【0050】
このようにして、本発明の鋳物砂(本発明材料)を得ることができる。これは、粉体と同様の流動性を示し、外観上も乾粉状態であるため、乾粉と同様にして鋳物砂として回収できる。すなわち、公知又は市販の3次元積層鋳型造形機を利用できる流動性も有しているので、従来の鋳物砂と同様、これらの各種の造形装置に適用することができる。
【0051】
3.3次元積層造形用キット
本発明は、本発明材料(鋳物砂)とバインダーとを含む3次元積層造形用キットを包含する。すなわち、使用前は本発明材料(鋳物砂)とバインダーとは別々に保管され、使用時に両者を混合する形態(2剤型)のキットとして提供される。
【0052】
バインダー(本発明バインダー)としては、フラン樹脂前駆体を含むバインダーを好適に用いることができる。フラン樹脂前駆体としては、縮合重合等によりフラン樹脂を形成し得るものであれば限定されず、例えばフルフリルアルコール、フラン樹脂プレポリマー等が挙げられる。特に、反応熱の抑制及び樹脂の低粘度化という理由から、フルフリルアルコールとフラン樹脂プレポリマーとを併用することが望ましい。
【0053】
フラン樹脂プレポリマーとしては、例えばフルフリルアルコール単独の重合体、フルフリルアルコールとアルデヒド化合物との共重合体、フルフリルアルコールと尿素とアルデヒド化合物との共重合体(尿素変性フラン樹脂プレポリマー)、フルフリルアルコールとフルフラールとの共重合体等が挙げられる。これらは、単独使用又は2種以上で併用することができる。
【0054】
本発明では、フラン樹脂プレポリマーとして、高強度化しやすいという理由から、特にフルフリルアルコールと尿素とアルデヒド化合物との共重合体(尿素変性フラン樹脂プレポリマー)が好ましい。前記のアルデヒド化合物としては、例えばホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、グリオキザール等が挙げられる。本発明では、特にホルムアルデヒドが好ましい。
【0055】
本発明バインダーとしては、通常利用されているフラン樹脂を使用できるが、硬化促進剤を含むことがより好ましい。 硬化促進剤としては、例えばレゾルシン、クレゾール、ヒドロキノン、フロログルシノール、メチレンビスフェノール、ビスヒドロキシメチルフラン等が挙げられる。この中でも、より速い硬化速度を実現できるという点で、特にレゾルシンが好ましい。本発明バインダー中の硬化促進剤の含有量は、特に限定されないが、通常は1~30質量%とすれば良く、特に1~20質量%とすることが好ましく、その中でも1~15質量%とすることが最も好ましい。
【0056】
また、本発明バインダーでは、キットの他方の資材である鋳型砂は特定の酸成分を含む表面改質層(有機物層)を有するため、シランカップリング剤なしでも強力に鋳物砂どうしを接合させることができる。従って、バインダー中のシランカップリング剤の含有量は、通常は0~1質量%程度とし、好ましくは0~0.1質量%とすれば良い。従って、シランカップリング剤を含まない組成であっても良い。このようにシランカップリング剤の含有量を低減又は0質量%とすることによって、バインダーをより長期にわたって安定的に保管することが可能となる。
【0057】
さらに、本発明バインダーには必要に応じてアミン化合物を添加することもできる。アミン化合物を添加することによって、フラン樹脂前駆体の粘度の経時変化を効果的に抑えることができる。ただし、アミン化合物が過剰になると、硬化速度が遅くなったり、窒素によるガス欠陥を誘発する等の問題がある。従って、アミン化合物の含有量は、フラン樹脂前駆体100質量部に対して通常0.001~1質量部程度とすることが望ましく、特に0.001~0.5質量部とすることがより望ましく、さらには0.005~0.1質量部とすることが望ましく、その中でも0.01~0.05質量部とすることが最も望ましい。アミン化合物としては、炭素数1~10のアルキルアミンが好ましく、特にブチルアミンがより好ましい。
【0058】
これらの各成分を均一に混合することによってバインダーを調製することができる。この場合、3次元積層鋳型造形で作製する鋳型において、高い清掃性を確保するためにはバインダーの硬化速度を高める必要がある。
【0059】
このようなバインダーの具体例として、フルフリルアルコール及びレゾルシンを硬化促進剤として含む組成を好適に採用することができる。フルフリルアルコールとレゾルシンの組み合わせにおいて硬化速度が速まり、3次元積層鋳型造形機から比較的短時間(例えば20分~1時間程度、特に0.5時間程度)で鋳型(成形体)を取り出すことが可能となる。
【0060】
フルフリルアルコール及びレゾルシンを硬化促進剤として含む上記組成において、本発明バインダー中のフルフリルアルコールの含有量は、通常は70~99質量%程度とすれば良く、特に80~95質量%とすることが好ましく、その中でも80~90質量%とすることが最も好ましい。また、本発明バインダー中のレゾルシンの含有量は、通常は1~30質量%とすれば良く、特に1~20質量%とすることが好ましく、その中でも1~15質量%とすることが最も好ましい。なお、このような組成でも、必要に応じて他の成分が含まれていても良い。
【0061】
バインダーの使用量(キット中のバインダー量)は、特に限定されないが、一般的には本発明の鋳物砂100質量部に対して0.5~2.5質量部程度の範囲とし、特に0.5~2質量部とすることが好ましく、その中でも0.5~1.5質量部とすることが最も好ましい。バインダーが少なすぎると鋳型の強度が得られない場合がある。また、バインダーが多すぎても硬化速度が遅くなるため、所定の時間内でハンドリング強度が得られないことがある。ただし、使用時において鋳物砂とバインダーとが上記割合になっていれば良いので、本発明キットでは必ずしも上記割合でキット化されている必要はなく、例えば本発明の鋳物砂に対して過剰量のバインダーが含まれていても良い。
【0062】
4.3次元積層造形用材料の使用
本発明材料は、公知の鋳物砂と同様にして積層造形に用いることができる。より具体的には、鋳物砂を含む層を形成する工程(層形成工程)及び前記層の所定領域にバインダーを添加することにより当該領域を固化させる工程(バインダー添加工程)を順に繰り返す工程を含む3次元積層造形法によって鋳型を製造する方法において、当該鋳物砂として本発明材料を好適に用いることができる。これは、前記で説明した通り、公知又は市販の3次元積層鋳型造形機に本発明材料を供給することによって所望の形状からなる鋳型を製造することができる。
【0063】
このような3次元積層鋳型造形機(3次元積層造形装置)としては、例えば造形ユニット、砂供給部及びバインダー供給部及び操作部を有しており、3D-CADデータから砂型を作製できる3次元積層鋳型造形機を用いることができる。砂供給部は、造形ユニットに鋳物砂を供給するユニットであって、鋳物砂を収容する鋳物砂タンク、流動化剤を収容する流動化剤タンク、鋳物砂と流動化剤を混合してなる混合物を収容する混合タンク、水平移動しながら前記混合物を吐出できるリコータ等を備えている。バインダー供給部は、造形ユニットにバインダーを供給するユニットであって、バインダーを収容するバインダータンク及びバインダーを吐出するジェットヘッドを備えている。
【0064】
3次元積層造形法により鋳型を製造する場合、上記のように、鋳物砂を含む層を形成する工程(層形成工程)及び前記層の所定領域にバインダーを添加することにより当該領域を固化させる工程(バインダー添加工程)を順に繰り返す工程を含む3次元積層造形法を採用することができる。
【0065】
層形成工程
層形成工程では、鋳物砂を含む層を形成する。上記のような3次元積層鋳型造形機を用いる場合は、水平移動するリコータから鋳物砂を含む混合物を平坦面上に吐出することによって前記層を形成することができる。
【0066】
上記混合物としては、鋳物砂のほか、必要に応じて流動化剤等を配合することができる。流動化剤は、沸点が35℃以上の高沸点有機溶媒であれば特に制限されず、例えば、不飽和脂肪酸(例えば、リノール酸、オレイン酸、リノレン酸等)、飽和脂肪酸(例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸等)、イソホロン、キシレン、シリコーンオイル等が挙げられる。このような流動化剤のなかでは、好ましくは、不飽和脂肪酸が挙げられ、さらに好ましくは、リノール酸が挙げられる。流動化剤は、単独使用又は2種以上併用することができる。流動化剤の添加割合は、特に限定されないが、通常は鋳物砂100質量部に対して、例えば0.001~0.1質量部程度とすることができる。
【0067】
前記層の厚みは、鋳物砂の粒子サイズ等にもよるが、通常は100~400μm程度の範囲とし、特に200~300μmとすることが好ましい。なお、層形成工程が繰り返されるに際し、各層形成工程で形成される層厚みは互いに同じであっても良いし、異なっていても良い。
【0068】
バインダー添加工程
バインダー添加工程では、前記層の所定領域にバインダーを添加することにより当該領域を固化させる。層形成工程により鋳物砂を含む層が単層で形成されているが、目的とする成形体の断面形状のデータに基づく領域にバインダーを添加する。例えば、上記のような3次元積層鋳型造形機を用いる場合は、水平移動するジェットヘッド(ノズル)から前記層上にバインダーを散布することにより所定領域を固化させることができる。
【0069】
例えば、
図1Aには、層形成工程で鋳物砂を含む層L1が形成された後、前記層L1にバインダーを所定領域に散布した状態の平面図を示す。すなわち、平面視において、長方形状に形成された層L1に対し、バインダーが略リング状に散布された状態を示す。
図1Bには、
図1AのX-Y断面の状態を示す。
図1Bに示すように、前記層L1の特定の領域L1a(略リング状領域)にバインダーが散布される。これは、
図1Aに示すように、バインダーを吐出できるジェットヘッド11が矢印方向に水平移動しながら所定の領域にのみバインダーを散布する。
【0070】
このようにして、
図2Aに示すようにバインダーが散布された層L1が形成されるが、その後は層形成工程及びバインダー添加工程の組合せからなる一連の工程が繰り返される。
図2Bに示すように、層L1上に層L2が積層された後、層L2上の所定の領域L2aにバインダーが散布される。同様にして、
図2Cに示すように、層L2上に層L3が積層された後、層L3上の所定の領域L3aにバインダーが散布される。このように、上記一連の工程をn回繰り返すことによって、層L1~Lnが積層されるとともにバインダーが添加される領域L1a~Lnaが形成される。
図2の実施形態では、
図2Dに示すように、n=6まで繰り返した場合を示している。層形成工程及びバインダー添加工程の組合せからなる一連の工程の繰り返しが終了した後、
図2Eに示すようにバインダーが添加されていない部分を取り除くことによって、所定形状をもつ成形体(鋳型)が取り出される。
【0071】
その後、得られた成形体は、必要に応じてエージングすることもできる。これにより、樹脂成分の硬化を促進させ、より高い強度をもつ成形体を得ることができる。エージング条件は、特に限定されず、例えば鋳物砂の組成、バインダーの種類、所望の強度等に応じて適宜設定することができる。例えば、温度20~40℃及び湿度27~40%で1~48時間程度とすることができるが、これに限定されない。
【実施例】
【0072】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。なお、各表中の組成の含有量を示す「%」はいずれも「質量%」を意味する。
【0073】
(1)バインダーの調製
調製例1
表1に示す各成分を計り取ってビーカーに入れ、室温で15分混合してバインダーを調製した。
前記バインダーをE型粘度計にて25℃恒温の条件で測定したところ、粘度7.3mPa・sの値を得た。さらに、日光の当たらない室内で180日保管した後の粘度を同条件で測定したところ、粘度7.4mPa・sであった。180日経過後の粘度が3次元積層鋳型造形機に必要な6~15mPa・sのスペックを満たしていることを確認した。また、調製されたバインダーをプラスチック製容器に入れて室温で550日間保管し、沈殿物の発生がないことを肉眼で確認した。これらの結果も併せて表1に示す。
【0074】
【0075】
調製例2
表1に示す各成分を計り取ってビーカーに入れ、室温で15分混合してバインダーを調製した。実施例1と同じ要領で粘度変化と沈殿物の生成状況を確認した。その結果も表1に示す。
【0076】
調製例3
表1に示す各成分を計り取ってビーカーに入れ、室温で15分混合してバインダーを調製した。実施例1と同じ要領で粘度変化と沈殿物の生成状況を確認した。その結果も表1に示す。
【0077】
比較調製例1
表1に示す各成分を計り取ってビーカーに入れ、室温で15分混合してバインダーを調製した。実施例1と同じ要領で粘度変化と沈殿物の生成状況を確認した。その結果も表1に示す。表1に示すように、180日後の粘度が3次元積層鋳型造形機法が要求する6~15mPa・sのスペックを超えてしまった。
【0078】
比較調製例2
表1に示す各成分を計り取ってビーカーに入れ、室温で15分混合してバインダーを調製した。実施例1と同じ要領で粘度変化と沈殿物の生成状況を確認した。その結果も表1に示す。表1に示すように、550日後には肉眼で観察できるような沈殿物が生成した。
【0079】
(2)鋳物砂の製造
実施例1
まず、AFS90のムライト系焼結法人工砂と、表2の「構成1」に示す樹脂組成物とを準備した。前記人工砂100質量部に対して、表2に示す樹脂組成物0.15質量部を添加し、35℃で30秒間攪拌混合した。次に、得られた混合物に表3に示す酸成分を砂100質量部に対して0.15質量部を添加し、40℃以下であることを確認してから7分間混合した。これによって、表面改質層を粒子表面に有する鋳物砂を得た。得られた鋳物砂は、外観上は乾燥状態でさらさらの状態であった。この状態において、外気に暴露させてブロッキングの有無を確認した。500kgの前記鋳物砂をフレコンバックに詰めた状態で、1日経過後も鋳物砂中に砂の塊が見られなかった。
【0080】
【0081】
実施例2
酸成分の組成を表3のように変更したほかは、実施例1と同様にして鋳物砂を得た。得られた鋳物砂は、外観上は乾燥状態でさらさらの状態であった。この状態において、外気に暴露させブロッキングの有無を確認した。500kgの前記鋳物砂をフレコンバックに詰めた状態で、1日経過後も鋳物砂中に砂の塊が見られなかった。
【0082】
実施例3
酸成分の添加量を表3のように変更したほかは、実施例1と同様にして鋳物砂を得た。得られた鋳物砂は、外観上は乾燥状態でさらさらの状態であった。この状態において、外気に暴露させブロッキングの有無を確認した。500kgの前記鋳物砂をフレコンバックに詰めた状態で、1日経過後も鋳物砂中に砂の塊が見られなかった。
【0083】
実施例4
砂としてAFS90のスピネル系焼結法人工砂(主成分70%Al2O3-25%MgO-3%SiO2系)を用いたほかは、実施例1と同様にして鋳物砂を得た。得られた鋳物砂は、外観上は乾燥状態でさらさらの状態であった。この状態において、外気に暴露させブロッキングの有無を確認した。500kgの前記鋳物砂をフレコンバックに詰めた状態で、1日経過後も鋳物砂中に砂の塊が見られなかった。
【0084】
実施例5
表面改質層の組成を表3のように変更したほかは、実施例1と同様にして鋳物砂を得た。得られた鋳物砂は、外観上は乾燥状態でさらさらの状態であった。この状態において、外気に暴露させブロッキングの有無を確認した。500kgの前記鋳物砂をフレコンバックに詰めた状態で、1日経過後も鋳物砂中に砂の塊が見られなかった。
【0085】
比較例1
酸成分の組成を表3のように変更したほかは、実施例1と同様にして鋳物砂を得た。実施例1と同様にして評価を実施したところ、酸成分中のキシレンスルホン酸含有率が高いため、1日経過後にフレコンバック内で鋳物砂が軽く凝集した。
【0086】
(3)鋳物砂を用いた積層造形
試験例1
各実施例及び比較例で調製された鋳物砂100質量部に対し、前記「調製例1」の塗布用バインダーが1.4質量部添加されるように、3次元積層造形装置(商品名:S-Print、ExOne社製)にセットし、リコータによる鋳物砂の層形成及びジェットヘッドによる塗布用バインダーの添加を順次繰り返して、塗布用バインダーの添加部分を積層することによって、抗折力テスト用のテストピース(サイズ:22.4mm×22.4mm×178.5mm)を作製した。このテストピースを室温24℃及び湿度30%の条件下で1時間放置した後、抗折力を測定した。その結果を表3に示す。
抗折力の測定については、テストピースをその長尺方向の外側から挟み込むように試験装置(Universal Strength Machine PFG、シンプソン社製)にテストピースの両端を固定してセットした後、テストピースに圧力を加えた。テストピースが折れたときの圧力を抗折力とした。
【0087】
【0088】
表3の結果からも明らかなように、比較例1のテストピースでは、表面改質層表面に残る酸成分量が少なくなる等の原因で抗折強度も目標値が得られないことがわかる。これに対し、各実施例のテストピースは、上記のように1時間放置後で既にハンドリングに必要な20kgf/cm2以上の強度が発現していることがわかる。特に、実施例で得られた鋳物砂は、外観が流動性のある「さらさら」の状態であること及び所望の強度がより短時間で発現していること等を総合的に勘案すれば、酸成分が実質的に表面改質層中に内包されている結果、成形体製造時に十分な酸成分量が確保されるがゆえに高強度の成形体をより速く作製できたと考えられる。