(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-08
(45)【発行日】2023-03-16
(54)【発明の名称】赤外線吸収体および赤外線吸収体を備えるガスセンサ
(51)【国際特許分類】
G01J 1/02 20060101AFI20230309BHJP
G01N 21/3504 20140101ALI20230309BHJP
【FI】
G01J1/02 C
G01N21/3504
(21)【出願番号】P 2019028785
(22)【出願日】2019-02-20
【審査請求日】2022-01-06
(73)【特許権者】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000190301
【氏名又は名称】新コスモス電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000112439
【氏名又は名称】フィガロ技研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西島 喜明
(72)【発明者】
【氏名】藤 直毅
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 拓洋
(72)【発明者】
【氏名】高島 裕正
(72)【発明者】
【氏名】中尾 茂
(72)【発明者】
【氏名】上田 剛
(72)【発明者】
【氏名】井澤 邦之
(72)【発明者】
【氏名】酒井 創一朗
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-292254(JP,A)
【文献】特開2014-44164(JP,A)
【文献】特開2002-71450(JP,A)
【文献】特開2014-190975(JP,A)
【文献】木股雅章,赤外イメージング技術の現状,光学,1998年,27巻8号,P.418-422
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 1/00-G01J 1/60
G01J 11/00
G01N 21/00-G01N 21/01
G01N 21/17-G01N 21/61
H01L 31/00-H01L 31/02
H01L 31/08-H01L 31/10
H01L 31/18
H10K 30/60-H10K 30/89
H10K 39/30ーH10K 39/38
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線を吸収または放射することが可能な赤外線吸収体であって、
前記赤外線吸収体が、
前記赤外線が照射され、または前記赤外線を放射する表面側に配置される第1の金属層と、
前記第1の金属層との間で前記赤外線を反射する第2の金属層と、
前記第1の金属層と前記第2の金属層との間に配置され、前記赤外線が透過する誘電層とを備え、
前記誘電層が、
前記第2の金属層の全面を直接または間接的に被覆するように、
前記第1の金属層の側に設けられ、第1の屈折率を有する第1の誘電層と、
前記第2の金属層の側に設けられ、第1の屈折率よりも小さい第2の屈折率を有する第2の誘電層と
が互いに直接接触して積層されて形成され、
前記第1の金属層と前記第1の誘電層とは、
前記第1の金属層が前記第1の誘電層の全面を被覆するように、互いに直接接触して積層されるか、または接着層を介して間接的に積層される、
赤外線吸収体。
【請求項2】
前記第1の金属層および前記第2の金属層のそれぞれが、金、銀、銅、白金、パラジウムからなる群から選択される1種または2種以上を含んで構成される、
請求項1に記載の赤外線吸収体。
【請求項3】
前記第1の誘電層が、シリコン、ゲルマニウム、ガリウムヒ素からなる群から選択される1種または2種以上を含んで構成される、
請求項1または2に記載の赤外線吸収体。
【請求項4】
前記第2の誘電層が、酸化シリコン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化亜鉛からなる群から選択される1種または2種以上を含んで構成される、
請求項1~3のいずれか1項に記載の赤外線吸収体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の赤外線吸収体を備えるガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線吸収体および赤外線吸収体を備えるガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
赤外線を吸収することが可能な赤外線吸収体として、たとえば特許文献1には、赤外線の照射によって局在表面プラズモン共鳴を生じさせる金属層を備えた赤外線吸収体が開示されている。この赤外線吸収体は、局在表面プラズモン共鳴を介して赤外線を吸収して熱を発生するものとして特許文献1に開示されているが、熱を加えることで赤外線を放出することも可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の赤外線吸収体は、赤外線の照射によって局在表面プラズモン共鳴を生じさせるために、金属層を微細な構造にパターニングする必要がある。特許文献1の赤外線吸収体は、そのパターニングのために電子線描画などのリソグラフィ技術を用いて製造する必要があり、製造工程が複雑であるとともに、大面積化が困難である。
【0005】
本発明は、上記問題に鑑みなされたもので、リソグラフィ技術を用いることなく製造が容易で、赤外線を吸収または放射することが可能な赤外線吸収体および赤外線吸収体を備えるガスセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の赤外線吸収体は、赤外線を吸収または放射することが可能な赤外線吸収体であって、前記赤外線吸収体が、前記赤外線が照射され、または前記赤外線を放射する表面側に配置される第1の金属層と、前記第1の金属層との間で前記赤外線を反射する第2の金属層と、前記第1の金属層と前記第2の金属層との間に配置され、前記赤外線が透過する誘電層とを備え、前記誘電層が、前記第1の金属層の側に設けられ、第1の屈折率を有する第1の誘電層と、前記第2の金属層の側に設けられ、第1の屈折率よりも小さい第2の屈折率を有する第2の誘電層とが積層されて形成されることを特徴とする。
【0007】
また、前記第1の金属層および前記第2の金属層のそれぞれが、金、銀、銅、白金、パラジウムからなる群から選択される1種または2種以上を含んで構成されることが好ましい。
【0008】
また、前記第1の誘電層が、シリコン、ゲルマニウム、ガリウムヒ素からなる群から選択される1種または2種以上を含んで構成されることが好ましい。
【0009】
また、前記第2の誘電層が、酸化シリコン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化亜鉛からなる群から選択される1種または2種以上を含んで構成されることが好ましい。
【0010】
本発明のガスセンサは、前記赤外線吸収体を備えるガスセンサであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、リソグラフィ技術を用いることなく製造が容易で、赤外線を吸収または放射することが可能な赤外線吸収体および赤外線吸収体を備えるガスセンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る赤外線吸収体を備えるガスセンサを含むガス検知器の模式図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る赤外線吸収体を模式的に示す斜視図である。
【
図3】実施例の赤外線吸収体から得られた赤外線反射スペクトルを示す図であり、(a)は、実施例1~3の結果であり、(b)は、実施例4~6の結果であり、(c)は、実施例7~9の結果である。
【
図4】実施例の赤外線吸収体から得られた赤外線放射スペクトルを示す図であり、(a)は、実施例1~3の結果であり、(b)は、実施例4~6の結果であり、(c)は、実施例7~9の結果である。
【
図5】比較例1の赤外線吸収体から得られた赤外線反射スペクトルを示す図である。
【
図6】比較例の赤外線吸収体から得られた赤外線反射スペクトルを示す図であり、(a)は、比較例2の結果であり、(b)は、比較例3の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態に係る赤外線吸収体および赤外線吸収体を備えるガスセンサを説明する。ただし、以下の実施形態は一例にすぎず、本発明の赤外線吸収体およびガスセンサは以下の実施形態に限定されるものではない。
【0014】
本実施形態の赤外線吸収体は、赤外線を吸収または放射することが可能な赤外線吸収体である。赤外線吸収体は、特に限定されることはなく、たとえば、赤外線を吸収するという性質を利用して赤外線検出器に用いることが可能であり、また、赤外線を放射するという性質を利用して赤外線放射源に用いることも可能である。以下では、赤外線吸収体を、ガス検知器に備えられるガスセンサの赤外線検出器に適用した例を挙げて説明する。ただし、赤外線吸収体は、赤外線検出器に限定されることはなく、赤外線放射源である光源にも適用可能である。
【0015】
ガス検知器Mは、検知対象ガスを検知するために用いられる。ガス検知器Mは、
図1に示されるように、検知対象ガスを検知するガスセンサNを備えている。ガス検知器Mは、任意で、ガスセンサNを操作するための操作部M1(たとえば操作ボタンなど)と、ガスセンサNにより得られる検知結果を表示する表示部M2(たとえば液晶ディスプレイなど)とを備えている。ガス検知器Mは、内部バッテリまたは外部電源などの図示しない電源から電力が供給されて作動する。
【0016】
ガス検知器Mの検知対象ガスとしては、特に限定されることはなく、たとえば、メタン、ブタン、イソブタン、水、アンモニア、二酸化硫黄、三酸化硫黄、硫化水素、亜酸化窒素、アセトン、オゾン、六フッ化硫黄、オクタフルオロシクロペンテン、ヘキサフルオロ1、3ブタジエンなど、赤外線の波長領域において吸収ピークを有するガスが例示される。
【0017】
ガスセンサNは、光Lを検知対象ガスに照射して、検知対象ガスによって吸収された赤外線の吸収強度(減衰強度)を測定することで、検知対象ガスを検知する。ガスセンサNは、たとえば、公知の非分散型赤外線分析(NDIR)式として構成することができる。ガスセンサNは、本実施形態では、
図1に示されるように、内部空間Vを有する筐体N1と、筐体N1の内部に光Lを放射する光源N2と、光源N2からの光Lを反射する反射構造体N3と、光Lを検出する光検出部N4と、光源N2および光検出部N4を制御する回路部N5とを備えている。ガスセンサNは、光源N2、反射構造体N3、光検出部N4および回路部N5が筐体N1に一体となって設けられ、単体として取扱い可能なモジュールを形成している。しかし、ガスセンサNは、たとえば回路部N5が筐体N1とは別に設けられてもよく、その構成は図示された例に限定されない。
【0018】
筐体N1は、本実施形態では、光源N2、反射構造体N3、光検出部N4および回路部N5を収容し、内部空間Vに検知対象ガスが供給される部材である。筐体N1は、
図1に示されるように、光源N2と光検出部N4とを結ぶ方向(
図1中、左右方向)に延びる筒状に形成され、その内部に内部空間Vが設けられる。また、筐体N1は、内部空間V内に検知対象ガスを導入するガス導入部(図示せず)と、内部空間Vから検知対象ガスを排出するガス排出部(図示せず)とを備えている。筐体N1では、ガス導入部から検知対象ガスが導入されて、内部空間V内に検知対象ガスが供給されて、ガス排出部から検知対象ガスが排出される。筐体N1は、特に限定されることはなく、たとえば樹脂材料などにより形成される。筐体N1は、本実施形態では一方向に延びる筒状に形成されているが、略直方体形状など他の形状に形成されてもよい。
【0019】
光源N2は、検知対象ガスを検知するために利用可能な光Lを放射する。光源N2により放射される光Lは、少なくとも検知対象ガスの吸収スペクトルにおける吸収ピークの波長を有する光を含んでいればよく、その波長の単色光であっても、その波長を含む広い波長範囲の光であってもよい。光源N2は、
図1に示されるように、回路部N5に通信可能に接続されて、回路部N5によってその出力が制御される。光源N2としては、たとえば、赤外線吸収体1を赤外線発光源として採用することもできるし、公知の発光ダイオード(LED)や赤外線ランプを採用することもできる。光源N2は、たとえば、連続光やパルス光を放射する。
【0020】
反射構造体N3は、筐体N1の内部空間V内において、光源N2から放射された光L、または他の反射構造体N3から反射された光Lを反射して、さらに他の反射構造体N3、または光検出部N4に光Lを導く。反射構造体N3は、本実施形態では、
図1に示されるように、内部空間Vに隣接する筐体N1の内面に設けられる。
【0021】
光検出部N4は、光Lを検出して、光Lの強度を測定する。光検出部N4は、本実施形態では、
図1に示されるように、光源N2から放射されて筐体N1の内部空間V内を伝搬した後の光Lを検出する。光検出部N4は、光源N2から放射された光L、および/または反射構造体N3から反射された光Lを検出するように位置合わせされる。光検出部N4は、赤外線を吸収する赤外線吸収体1と、赤外線吸収体1からの熱を電気信号に変換する熱電変換素子Tとを備えている。光検出部N4は、光Lに含まれる赤外線を赤外線吸収体1により吸収し、赤外線を吸収することにより赤外線吸収体1に生じる熱を熱電変換素子Tにより電気信号に変換する。光検出部N4は、回路部N5に通信可能に接続されて、変換した電気信号を回路部N5に送信する。熱電変換素子Tとしては、特に限定されることはなく、Bi
2Te
3、PbTeなど、熱を電気信号に変換可能な公知の熱電材料により形成することができる。赤外線吸収体1の詳細については後述する。
【0022】
回路部N5は、
図1に示されるように、光源N2および光検出部N4に通信可能に接続され、光源N2および光検出部N4を制御する。また、回路部N5は、光源N2から放射された光Lの強度と、光検出部N4により測定された光Lの強度とを比較することで、検知対象ガスの有無を判定し、あるいは検知対象ガスの濃度を算出する。回路部N5は、たとえば公知の中央演算処理装置(CPU)により構成することができる。
【0023】
赤外線吸収体1は、
図2に示されるように、赤外線を互いの間で反射する第1の金属層2および第2の金属層3と、第1の金属層2と第2の金属層3との間に配置され、赤外線が透過する誘電層(または赤外線透過層)4、5とを備えている。赤外線吸収体1は、第1の金属層2と第2の金属層3との間で誘電層4、5を介して赤外線を反射させることで、赤外線を吸収する。赤外線吸収体1は、第1の金属層2と第2の金属層3との間で赤外線が反射を繰り返す際に共振することで、特定波長の赤外線を優先的に吸収する。赤外線吸収体1は、赤外線を吸収することで熱を発生させるが、逆に熱を加えることで、赤外線を放射することができる(
図4を参照)。赤外線吸収体1は、本実施形態では、シリコン(Si)や酸化シリコン(SiO
2など)などの基板S上に設けられ、下方から基板Sに支持される。ただし、赤外線吸収体1は、図示された例に限定されることはなく、基板Sにより下方から支持されるのではなく、たとえば、メンブレン構造などのように、側方から支持されてもよい。
【0024】
第1の金属層2は、少なくとも一部の赤外線を透過させるとともに、少なくとも一部の赤外線を第2の金属層3の方向に反射する。第1の金属層2は、
図2に示されるように、赤外線を含む光Lが照射され、または赤外線を放射する表面側に配置される。第1の金属層2は、第2の金属層3と対向するように、誘電層4、5の上層(赤外線を含む光Lが照射され、赤外線を放射する側、
図2中上側)に設けられる。第1の金属層2は、本実施形態では、誘電層4、5との密着性を向上させるために、接着層B1を介して間接的に誘電層4、5の上層に設けられる。ただし、第1の金属層2は、図示された例に限定されることはなく、接着層B1を介することなく、誘電層4、5の上層に直接設けられてもよい。第1の金属層2は、たとえば、抵抗加熱蒸着、スパッタリング、電子ビーム蒸着など、公知の成膜手法により形成することができる。
【0025】
接着層B1は、第1の金属層2と誘電層4、5との密着性を向上させることができ、赤外線を透過させることができれば、その膜厚や構成材料は特に限定されない。接着層B1の膜厚は、第1の金属層2と誘電層4、5との密着性を向上させる観点から、たとえば、2nm以上が好ましく、3nm以上がより好ましく、4nm以上がよりさらに好ましい。また、接着層B1の膜厚は、赤外線をできるだけ吸収することなく、透過させるという観点から、10nm以下が好ましく、8nm以下がより好ましく、6nm以下がよりさらに好ましい。接着層B1は、たとえば、クロム(Cr)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)からなる群から選択される1種または2種以上を含んで構成される。接着層B1は、たとえば、抵抗加熱蒸着、スパッタリング、電子ビーム蒸着など、公知の成膜手法により形成することができる。
【0026】
第1の金属層2は、少なくとも一部の赤外線を透過させ、少なくとも一部の赤外線を反射することができれば、その膜厚は特に限定されない。第1の金属層2の膜厚は、少なくとも一部の赤外線を透過させるという観点から、たとえば、60nm以下が好ましく、50nm以下がより好ましく、40nm以下がよりさらに好ましい。また、第1の金属層2の膜厚は、少なくとも一部の赤外線を反射するという観点から、たとえば、4nm以上が好ましく、7nm以上がより好ましく、10nm以上がよりさらに好ましい。
【0027】
第1の金属層2は、少なくとも一部の赤外線を透過させ、少なくとも一部の赤外線を反射することができれば、その構成金属は特に限定されない。第1の金属層2は、たとえば、赤外線に対する反射率の高い金属により構成されることが好ましく、その観点から、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)からなる群から選択される1種または2種以上を含んで構成されることが好ましい。第1の金属層2は、高温耐久性の観点から、金(Au)を含んで構成されることがより好ましい。
【0028】
第2の金属層3は、第1の金属層2との間で赤外線を反射する。第2の金属層3は、
図2に示されるように、第1の金属層2と対向するように、誘電層4、5の下層(赤外線を含む光Lが照射され、赤外線を放射する側とは反対側、
図2中下側)に設けられる。第2の金属層3は、本実施形態では、誘電層4、5との密着性を向上させるために、接着層B2を介して間接的に誘電層4、5の下層に設けられる。ただし、第2の金属層3は、図示された例に限定されることはなく、接着層B2を介することなく、誘電層4、5の下層に直接設けられてもよい。なお、第2の金属層3は、本実施形態では、接着層B3を介して基板S上に設けられる。第2の金属層3は、たとえば、抵抗加熱蒸着、スパッタリング、電子ビーム蒸着など、公知の成膜手法により形成することができる。
【0029】
接着層B2は、第2の金属層3と誘電層4、5との密着性を向上させることができ、赤外線を透過させることができれば、その膜厚や構成材料は特に限定されない。接着層B2の膜厚は、第2の金属層3と誘電層4、5との密着性を向上させる観点から、たとえば、2nm以上が好ましく、3nm以上がより好ましく、4nm以上がよりさらに好ましい。また、接着層B2の膜厚は、赤外線をできるだけ吸収することなく、透過させるという観点から、10nm以下が好ましく、8nm以下がより好ましく、6nm以下がよりさらに好ましい。接着層B2は、たとえば、クロム(Cr)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)からなる群から選択される1種または2種以上を含んで構成される。接着層B2は、たとえば、抵抗加熱蒸着、スパッタリング、電子ビーム蒸着など、公知の成膜手法により形成することができる。
【0030】
第2の金属層3は、少なくとも赤外線を反射させることができればよく、その構成は特に限定されることはないが、赤外線を反射させるとともに、赤外線の透過を抑制するという観点から、赤外線反射率が赤外線透過率よりも高くなるように構成されることが好ましい。第2の金属層3の膜厚は、赤外線を反射させるとともに、赤外線の透過を抑制するという観点から、たとえば、100nm以上が好ましく、140nm以上がより好ましく、180nm以上がよりさらに好ましい。
【0031】
第2の金属層3は、少なくとも赤外線を反射させることができればよく、その構成金属は特に限定されない。第2の金属層3は、たとえば、赤外線に対する反射率の高い金属により構成されることが好ましく、その観点から、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)からなる群から選択される1種または2種以上を含んで構成されることが好ましい。第2の金属層3は、高温耐久性や抗酸化、抗硫化の観点から、金(Au)を含んで構成されることがより好ましい。
【0032】
誘電層4、5は、
図2に示されるように、第1の屈折率を有する第1の誘電層(または高屈折率層)4と、第1の屈折率よりも小さい第2の屈折率を有する第2の誘電層(または低屈折率層)5とが積層されて形成される。赤外線吸収体1は、誘電層4、5が屈折率の異なる第1の誘電層4および第2の誘電層5が積層されて形成されることにより、たとえば単層の誘電層のみにより形成される場合と比べて、短波長領域から中波長領域(波長が1.4μm~8μmの領域)の赤外線の吸収率を大きくすることができる(
図3および
図6を参照)。それに伴って、赤外線吸収体1は、短波長領域から中波長領域の赤外線の放射率を大きくすることができる(
図4を参照)。これは、第1の金属層2と第2の金属層3との間で赤外線が反射を繰り返す際に、第1の誘電層4および第2の誘電層5のそれぞれで赤外線の共振が生じることによるものと考えられる。赤外線吸収体1は、第1の金属層2と第2の金属層3との間に、屈折率の異なる第1の誘電層4および第2の誘電層5を積層して誘電層4、5を形成するだけで、赤外線を吸収し、放射することができるので、たとえばリソグラフィ技術などの複雑な製造工程を経ることなく、容易に製造することができる。
【0033】
第1の誘電層4は、第2の誘電層5の第2の屈折率よりも大きい第1の屈折率を有し、赤外線を透過させる層である。第1の誘電層4は、
図2に示されるように、第1の金属層2の側に設けられる。より具体的には、第1の誘電層4は、第1の金属層2と第2の誘電層5との間に設けられる。本実施形態では、第1の誘電層4の上層(赤外線を含む光Lが照射され、赤外線を放射する側、
図2中上側)に、接着層B1を介して間接的に第1の金属層2が設けられ、第1の誘電層4の下層(赤外線を含む光Lが照射され、赤外線を放射する側とは反対側、
図2中下側)に、第2の誘電層5が直接設けられる。なお、第1の誘電層4は、上述したように、接着層B1を介さずに、その上層に直接第1の金属層2が設けられてもよい。接着層B1を介さずに、その上層に直接第1の金属層2が設けられることで、接着層B1で赤外線が吸収されることなく、赤外線を透過させることができる。第1の誘電層4は、特に限定されることはなく、抵抗加熱蒸着、スパッタリング、電子ビーム蒸着など、公知の成膜手法により形成することができる。
【0034】
第1の誘電層4は、第2の誘電層5よりも大きい屈折率を有していればよく、その屈折率は特に限定されない。第1の誘電層4の第1の屈折率を第2の誘電層5の第2の屈折率よりも大きくするという目的のために、たとえば、第1の誘電層4の第1の屈折率を2.5よりも大きくし、第2の誘電層5の第2の屈折率を2.5よりも小さくすることができる。赤外線を含む光Lが照射される表面側の第1の誘電層4の第1の屈折率を、赤外線を含む光Lが照射される表面側とは反対側の第2の誘電層5の第2の屈折率よりも大きくすることにより、短波長領域から中波長領域の赤外線の吸収率および放射率を大きくすることができる。
【0035】
第1の誘電層4の膜厚は、特に限定されることはなく、要求される赤外線の吸収波長または放射波長に応じて適宜設定が可能である。赤外線吸収体1は、以下で詳しく述べるように、膜厚の増加に伴って、赤外線の吸収波長および放射波長が長波長側にシフトする(
図3および
図4を参照)。したがって、赤外線吸収体1は、第1の誘電層4の膜厚を変化させることで、赤外線の吸収波長および放射波長をシフトさせることができる。なお、第1の誘電層4の膜厚は、第1の金属層2と第2の金属層3との間で赤外線が反射を繰り返す際に共振する膜厚であることが好ましく、その観点から、50nm以上であることが好ましい。
【0036】
第1の誘電層4は、第2の誘電層5よりも大きい屈折率を有していればよく、その構成材料は特に限定されない。第1の誘電層4は、第2の誘電層5の屈折率よりも大きい屈折率にするという目的のために、あるいは2.5よりも大きい屈折率にするという目的のために、たとえば、シリコン、ゲルマニウム、ガリウムヒ素からなる群から選択される1種または2種以上を含んで構成することができる。
【0037】
第2の誘電層5は、第1の誘電層4の第1の屈折率よりも小さい第2の屈折率を有し、赤外線を透過させる層である。第2の誘電層5は、
図2に示されるように、第2の金属層3の側に設けられる。より具体的には、第2の誘電層5は、第1の誘電層4と第2の金属層3との間に設けられる。本実施形態では、第2の誘電層5の上層(赤外線を含む光Lが照射され、赤外線を放射する側、
図2中上側)に、第1の誘電層4が直接設けられ、第2の誘電層5の下層(赤外線を含む光Lが照射される側とは反対側、
図2中下側)に、接着層B2を介して間接的に第2の金属層3が設けられる。なお、第2の誘電層5は、上述したように、接着層B2を介さずに、その下層に直接第2の金属層3が設けられてもよい。接着層B2を介さずに、その下層に直接第2の金属層3が設けられることで、接着層B2で赤外線が吸収されることなく、赤外線を透過させることができる。第2の誘電層5は、特に限定されることはなく、抵抗加熱蒸着、スパッタリング、電子ビーム蒸着など、公知の成膜手法により形成することができる。
【0038】
第2の誘電層5は、第1の誘電層4よりも小さい屈折率を有していればよく、その屈折率は特に限定されない。第2の誘電層5の第2の屈折率を第1の誘電層4の第1の屈折率よりも小さくするという目的のために、たとえば、第1の屈折率を2.5よりも大きくし、第2の屈折率を2.5よりも小さくすることができる。赤外線を含む光Lが照射される側とは反対側の第2の誘電層5の第2の屈折率を、赤外線を含む光Lが照射される側の第1の誘電層4の第1の屈折率よりも小さくすることにより、短波長領域から中波長領域の赤外線の吸収率および放射率を大きくすることができる。
【0039】
第2の誘電層5の膜厚は、特に限定されることはなく、要求される赤外線の吸収波長または放射波長に応じて適宜設定が可能である。赤外線吸収体1は、以下で詳しく述べるように、第2の誘電層5の膜厚の増加に伴って、赤外線の吸収波長および放射波長が長波長側にシフトする(
図3および
図4を参照)。したがって、赤外線吸収体1は、第2の誘電層5の膜厚を変化させることで、赤外線の吸収波長および放射波長をシフトさせることができる。なお、第2の誘電層5の膜厚は、第1の金属層2と第2の金属層3との間で赤外線が反射を繰り返す際に共振する膜厚であることが好ましく、その観点から、50nm以上であることが好ましい。
【0040】
第2の誘電層5は、第1の誘電層4よりも小さい屈折率を有していればよく、その構成材料は特に限定されない。第2の誘電層5は、第1の誘電層4の屈折率よりも小さい屈折率にするという目的のために、あるいは2.5よりも小さい屈折率にするという目的のために、たとえば、酸化シリコン(SiO2など)、酸化アルミニウム(Al2O3など)、酸化ジルコニウム(ZrO2など)、酸化チタン(TiO2など)、酸化亜鉛(ZnOなど)からなる群から選択される1種または2種以上を含んで構成することができる。
【0041】
本実施形態では、屈折率が相対的に高い第1の誘電層4が、赤外線を含む光Lが照射され、赤外線を放射する表面側に配置され、屈折率が相対的に低い第2の誘電層5が、赤外線を含む光Lが照射され、赤外線を放射する表面側とは反対側に配置され、誘電層4、5が、第1の誘電層4および第2の誘電層5の2層構造で形成されている。しかし、誘電層4、5は、少なくとも、第1の金属層2の側に屈折率が相対的に高い誘電層が配置され、第2の金属層3の側に屈折率が相対的に低い誘電層が配置されていればよく、3層以上の誘電層が積層されていてもよい。
【実施例】
【0042】
以下、実施例をもとに、本実施形態の赤外線吸収体を説明する。ただし、本発明の赤外線吸収体は、以下の実施例に限定されることはない。
【0043】
(赤外線吸収体)
実施例1~9の赤外線吸収体として、
図2に示される赤外線吸収体1を作製した。作製した実施例1~9の赤外線吸収体の各層の材料および膜厚は、以下の通りであった。
第1の金属層2:Au、15nm(成膜方法:抵抗加熱蒸着)
接着層B1:Cr、5nm(成膜方法:抵抗加熱蒸着)
第1の誘電層4:Si(成膜方法:電子ビーム蒸着)を以下の表1の条件で成膜
第2の誘電層5:SiO
2(成膜方法:スパッタリング)を以下の表1の条件で成膜
接着層B2:Cr、5nm(成膜方法:抵抗加熱蒸着)
第2の金属層3:Au、200nm(成膜方法:抵抗加熱蒸着)
接着層B3:Cr、10nm(成膜方法:抵抗加熱蒸着)
基板S:Si
【0044】
比較例1の赤外線吸収体として、
図2に示される赤外線吸収体1の第1の誘電層4をSiO
2層(膜厚:200nm、成膜方法:スパッタリング)とし、第2の誘電層5をSi層(膜厚:200nm、成膜方法:電子ビーム蒸着)とした赤外線吸収体を作製した。比較例1の赤外線吸収体は、誘電層以外は、実施例と同じ条件で作製した。
【0045】
比較例2、3の赤外線吸収体として、
図2に示される赤外線吸収体1の誘電層4、5がSiO
2単層(膜厚:200nm、1200nm、成膜方法:スパッタリング)である赤外線吸収体を作製した。比較例2、3の赤外線吸収体は、誘電層がSiO
2単層であること以外は、実施例と同じ条件で作製した。
【0046】
【0047】
(赤外線反射スペクトルの測定)
上述した実施例および比較例の赤外線吸収体に対して、赤外線反射スペクトルを測定することにより、赤外線吸収体による赤外線の吸収率を評価した。赤外線反射スペクトルの測定は、赤外線吸収体の表面(第1の金属層2)に対して略垂直に赤外線を照射し、赤外線吸収体の表面(第1の金属層2)に対して略垂直に反射した赤外線の反射率を測定することにより行なった。
【0048】
(赤外線放射スペクトルの測定)
上述した実施例の赤外線吸収体に対して、赤外線放射スペクトルを測定した。赤外線放射スペクトルの測定は、赤外線吸収体を300℃に加熱したときの赤外線の放射率を測定することにより行なった。
【0049】
(赤外線反射スペクトル)
実施例1~9の赤外線吸収体から得られた赤外線反射スペクトルを
図3に示し、比較例の赤外線吸収体から得られた赤外線反射スペクトルを
図5および
図6に示す。
【0050】
比較例1の赤外線吸収体に関する
図5を見ると、波長が1.4μm以下の波長領域にいくつかの反射ディップ(吸収ピーク)が見られるものの、反射率は最小でも40%(吸収率は最大でも60%)程度である。また、波長が1.4μmを超える短波長領域から中波長領域では、ほとんど反射ディップ(吸収ピーク)が見られていない。この結果から、表面側に屈折率の低い誘電層が配置され、表面とは反対側に屈折率の高い誘電層が配置される比較例1の赤外線吸収体は、赤外線をほとんど吸収することがないことが分かる。
【0051】
比較例2、3の赤外線吸収体に関する
図6を見ると、誘電層であるSiO
2の膜厚が200nmと1200nmのいずれでも、波長が1.4μm以下の波長領域にいくつかの反射ディップ(吸収ピーク)が見られるものの、反射率は最小でも40%(吸収率は最大でも60%)程度である。また、波長が1.4μmを超える短波長領域から中波長領域では、ほとんど反射ディップ(吸収ピーク)が見られていない。この結果から、誘電層が単層である比較例2、3の赤外線吸収体は、赤外線をほとんど吸収することがないことが分かる。
【0052】
つぎに、実施例1~9の赤外線吸収体に関する
図3を見ると、波長が1.4μm~3μmの波長領域にシャープな反射ディップ(吸収ピーク)が見られ、波長が4.5μmを超える領域にブロードな反射ディップ(吸収ピーク)が見られる。これらの短波長側および長波長側の反射ディップ(吸収ピーク)はいずれも、10%を下回る反射率(90%を超える吸収率)を示している。この結果から、表面側に屈折率の高い誘電層が配置され、表面とは反対側に屈折率の低い誘電層が配置される実施例1~9の赤外線吸収体は、比較例1~3の赤外線吸収体と比べて、赤外線をよく吸収することが分かる。また、短波長側および長波長側の反射ディップ(吸収ピーク)はいずれも、第1の誘電層4および第2の誘電層5のそれぞれの膜厚の増加に伴って長波長側にシフトしている。この結果から、第1の誘電層4および第2の誘電層5のそれぞれの膜厚を適宜設定することにより、吸収される赤外線の波長を選択することができることが分かる。
【0053】
(赤外線放射スペクトル)
実施例1~9の赤外線吸収体から得られた赤外線放射スペクトルを
図4に示す。
【0054】
図4を見ると、波長が1.4μm~3μmの波長領域にシャープな放射ピークが見られ、波長が4.5μmを超える領域にブロードな放射ピークが見られる。これらの短波長側および長波長側の放射ピークの波長はいずれも、
図3に示される反射ディップ(吸収ピーク)の波長のそれぞれにほぼ対応している。また、これらの短波長側および長波長側の放射ピークはいずれも、70~80%を超える放射率を示している。この結果から、実施例1~9の赤外線吸収体は、赤外線をよく放射することが分かる。また、短波長側および長波長側の放射ピークはいずれも、第1の誘電層4および第2の誘電層5のそれぞれの膜厚の増加に伴って長波長側にシフトしている。この結果から、第1の誘電層4および第2の誘電層5のそれぞれの膜厚を適宜設定することにより、放射される赤外線の波長を選択することができることが分かる。
【符号の説明】
【0055】
1 赤外線吸収体
2 第1の金属層
3 第2の金属層
4 第1の誘電層
5 第2の誘電層
B1、B2、B3 接着層
L 光
M ガス検知器
M1 操作部
M2 表示部
N ガスセンサ
N1 筐体
N2 光源
N3 反射構造体
N4 光検出部
N5 回路部
S 基板
T 熱電変換素子
V 内部空間