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特許7240672アルミニウム材の抵抗スポット溶接方法、アルミニウム材の抵抗スポット溶接制御装置、および抵抗スポット溶接機
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  • 特許-アルミニウム材の抵抗スポット溶接方法、アルミニウム材の抵抗スポット溶接制御装置、および抵抗スポット溶接機 図1
  • 特許-アルミニウム材の抵抗スポット溶接方法、アルミニウム材の抵抗スポット溶接制御装置、および抵抗スポット溶接機 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-08
(45)【発行日】2023-03-16
(54)【発明の名称】アルミニウム材の抵抗スポット溶接方法、アルミニウム材の抵抗スポット溶接制御装置、および抵抗スポット溶接機
(51)【国際特許分類】
   B23K 11/18 20060101AFI20230309BHJP
   B23K 11/24 20060101ALI20230309BHJP
   B23K 11/11 20060101ALI20230309BHJP
【FI】
B23K11/18
B23K11/24 315
B23K11/11 540
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019191537
(22)【出願日】2019-10-18
(65)【公開番号】P2021065900
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2021-09-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(73)【特許権者】
【識別番号】391009833
【氏名又は名称】株式会社ナ・デックス
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 剛
(72)【発明者】
【氏名】片山 聖二
(72)【発明者】
【氏名】水野 彩香
(72)【発明者】
【氏名】佐橋 賢治
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-032163(JP,A)
【文献】特表2019-508253(JP,A)
【文献】国際公開第2013/031247(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/203364(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/18
B23K 11/24
B23K 11/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアルミニウム材を重ねてスポット溶接用の電極間に挟み込む第1工程と、
前記電極間の前記アルミニウム材同士の間にナゲットを形成する本通電を行う第2工程と、
前記ナゲットが完全に凝固する前に、前記電極間の通電と通電休止とを複数回繰り返すパルセーション通電を行い、前記ナゲットの内部に、前記アルミニウム材の凝固部と凝固組織が異なるシェルを、前記ナゲットの外縁部からナゲット中心部に向かって前記アルミニウム材の重ね方向の断面において、前記凝固部と交互に形成する第3工程と、
をこの順に実施するアルミニウム材の抵抗スポット溶接方法であって、
前記第3工程において、
前記パルセーション通電の電流値を、前記本通電の電流値以上にし、
前記パルセーション通電を、前記通電と前記通電休止とを3回以上繰り返し、
前記パルセーション通電の前半から後半にかけて前記通電休止時間を徐々に増加させていく、
アルミニウム材の抵抗スポット溶接方法。
【請求項2】
前記パルセーション通電のパルス電流値を段階的に増加させる、請求項1に記載のアルミニウム材の抵抗スポット溶接方法。
【請求項3】
前記パルス電流値を段階的に増加させる途中で同じ電流値のパルス電流を通電する、
請求項に記載のアルミニウム材の抵抗スポット溶接方法。
【請求項4】
前記パルセーション通電のパルス波形がダウンスロープ波形である、
請求項1~3のいずれか1項に記載のアルミニウム材の抵抗スポット溶接方法。
【請求項5】
前記本通電と前記パルセーション通電における電流値は、15~60kAである、
請求項1~4のいずれか1項に記載のアルミニウム材の抵抗スポット溶接方法。
【請求項6】
前記パルセーション通電は、前記通電と前記通電休止を5回以上繰り返す、
請求項1~5のいずれか1項に記載のアルミニウム材の抵抗スポット溶接方法。
【請求項7】
前記パルセーション通電は、前記通電と前記通電休止を7回以上繰り返す、
請求項6に記載のアルミニウム材の抵抗スポット溶接方法。
【請求項8】
抵抗スポット溶接の打点数の増加に応じて前記パルセーション通電における前記通電休止時間を長くする、
請求項1~7のいずれか1項に記載のアルミニウム材の抵抗スポット溶接方法。
【請求項9】
重ね合わされた複数のアルミニウム材を溶接する抵抗スポット溶接の制御装置において、
前記制御装置はスポット溶接のナゲットを形成する本通電を行い、
前記本通電の終了後に前記ナゲット内に前記アルミニウム材の凝固部と凝固組織が異なるシェルを、前記ナゲットの外縁部からナゲット中心部に向かって前記アルミニウム材の重ね方向の断面において、前記凝固部と交互に形成するパルセーション通電を行い、
前記パルセーション通電の電流値を、前記本通電の電流値以上にし、
前記パルセーション通電を、前記通電と前記通電休止とを3回以上繰り返し、
前記パルセーション通電の前半から後半にかけて前記通電休止時間を徐々に増加させていく制御を行う、
アルミニウム材の抵抗スポット溶接の制御装置。
【請求項10】
前記パルセーション通電のパルス電流値を段階的に増加させる制御を行う、
請求項9に記載のアルミニウム材の抵抗スポット溶接の制御装置。
【請求項11】
前記パルス電流値を段階的に増加させる途中で同じ電流値のパルス電流を通電する、
請求項10に記載のアルミニウム材の抵抗スポット溶接の制御装置。
【請求項12】
前記パルセーション通電のパルス波形がダウンスロープ波形である、
請求項9~11のいずれか1項に記載のアルミニウム材の抵抗スポット溶接の制御装置。
【請求項13】
請求項9~12のいずれか1項に記載の制御装置を備える、アルミニウム材の抵抗スポット溶接機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム材の抵抗スポット溶接方法、アルミニウム材の抵抗スポット溶接制御装置、および抵抗スポット溶接機に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム材は、鋼材と比較して電気抵抗が小さく熱伝導率が高いため、抵抗スポット溶接を行う際、溶接電流を鋼材の場合の約3~4倍、スポット溶接の電極の加圧力を約1.5倍に高めなければならない。このため、アルミニウム材の抵抗スポット溶接には、鋼材の抵抗スポット溶接の溶接条件を適用し、応用することが非常に困難であり、アルミニウム材に最適な溶接条件を新たに見出す必要がある。
アルミニウム材の抵抗スポット溶接方法の一例として、例えば特許文献1には、電極の加圧力を2段階に変化させ、この加圧力に合わせて電流値を2段階(大電流から小電流)に変化させる技術が開示されている。
また、特許文献2には、溶接の本通電後に冷却時間を設けて、冷却時間の後に本通電の電流よりも弱いテンパー通電を行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3862640号公報
【文献】特開平5-383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、アルミニウム材を抵抗スポット溶接する場合、ナゲットとなる溶融アルミ内で、板表面の酸化被膜、錆、水分、有機物等の付着物や、材料内の蒸気圧の低い成分の蒸発により、ブローホールが形成されることがある。
一般に、アルミニウム材の継手部にブローホールが存在すると、継手部の伸びは減少し、継手の延性が失われて脆性的破壊が生じやすくなることが知られている。特に、アルミニウム材において高い強度を要する構造部材として使用する場合には、ブローホールの存在が構造部材としての信頼性に大きく影響することになる。
上記の先行技術文献では、アルミニウム材に対する各種の抵抗スポット溶接方法が提案されているが、ナゲット形成までの現象が詳細に解明されていない面が多く、依然として実用上十分なレベルにまでブローホールを制御できていない。
また、このブローホールは、溶接打点数の増加による電極の劣化に伴って発生率が高くなる。このため、ブローホールの発生を抑えるために、電極のドレッシングを頻繁に行わなければならなかった。
【0005】
本発明の目的は、電極ドレッシングの頻度を低減させつつ、ナゲット内でのブローホールの発生分布や大きさを制御して、溶接部の品質を向上できるアルミニウム材の抵抗スポット溶接方法、アルミニウム材の抵抗スポット溶接制御装置、および抵抗スポット溶接機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は下記構成からなる。
(1)複数のアルミニウム材を重ねてスポット溶接用の電極間に挟み込む第1工程と、
前記電極間の前記アルミニウム材同士の間にナゲットを形成する本通電を行う第2工程と、
前記ナゲットが完全に凝固する前に、前記電極間の通電と通電休止とを複数回繰り返すパルセーション通電を行い、前記ナゲットの内部に、前記アルミニウム材の凝固部と凝固組織が異なるシェルを、前記ナゲットの外縁部からナゲット中心部に向かって前記アルミニウム材の重ね方向の断面において、前記凝固部と交互に形成する第3工程と、
をこの順に実施するアルミニウム材の抵抗スポット溶接方法であって、
前記第3工程において、
前記パルセーション通電の電流値を、前記本通電の電流値以上にし、
前記パルセーション通電を、前記通電と前記通電休止とを3回以上繰り返し、
前記パルセーション通電の前半から後半にかけて前記通電休止時間を徐々に増加させていく、
アルミニウム材の抵抗スポット溶接方法。
(2)重ね合わされた複数のアルミニウム材を溶接する抵抗スポット溶接の制御装置において、
前記制御装置はスポット溶接のナゲットを形成する本通電を行い、
前記本通電の終了後に前記ナゲット内に前記アルミニウム材の凝固部と凝固組織が異なるシェルを、前記ナゲットの外縁部からナゲット中心部に向かって前記アルミニウム材の重ね方向の断面において、前記凝固部と交互に形成するパルセーション通電を行い、
前記パルセーション通電の電流値を、前記本通電の電流値以上にし、
前記パルセーション通電を、前記通電と前記通電休止とを3回以上繰り返し、
前記パルセーション通電の前半から後半にかけて前記通電休止時間を徐々に増加させていく制御を行う、アルミニウム材の抵抗スポット溶接の制御装置。
(3)(2)に記載の制御装置を備える、アルミニウム材の抵抗スポット溶接機。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、電極のドレッシングの頻度を低減させつつ、ナゲット内でのブローホールの発生分布や大きさを制御して溶接部の品質を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】アルミニウム材を溶接するスポット溶接機の概略構成図である。
図2】本通電及びパルセーション通電を行う本実施形態に係る抵抗スポット溶接方法における溶接電流の波形の一例を示すタイミングチャートである。
図3】(A),(B)は本通電からパルセーション通電までのナゲットの様子を模式的に示す工程説明図である。
図4】(A)~(D)はナゲットの形成途中の様子を模式的に示す説明図である。
図5】本通電及びパルセーション通電を行う参考例に係る抵抗スポット溶接方法における溶接電流の波形の一例を示すタイミングチャートである。
図6】(A)~(F)は、実施例1の溶接条件で形成された各打点数におけるナゲットの断面写真である。
図7】(A)~(F)は、実施例2の溶接条件で形成された各打点数におけるナゲットの断面写真である。
図8】(A)~(F)は、実施例3の溶接条件で形成された各打点数におけるナゲットの断面写真である。
図9】(A)~(F)は、比較例の溶接条件で形成された各打点数におけるナゲットの断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、アルミニウム材を溶接するスポット溶接機の概略構成図である。
図1に示すように、スポット溶接機11は、一対の電極13,15と、一対の電極13,15に接続された溶接トランス部17と、電源部18と、溶接トランス部17に電源部18からの溶接電力を供給する制御部19と、一対の電極13,15を軸方向に移動させる電極駆動部20とを備える。制御部19は、溶接電流、通電時間、電極の加圧力、通電タイミング、加圧タイミング、保持時間などを統合的に制御する。
【0010】
スポット溶接機11は、一対の電極13,15の間に、アルミニウム材である第1アルミニウム板21と第2アルミニウム板23との少なくとも2枚の板材を重ね合わせて挟み込む。そして、電極駆動部20による電極13,15の駆動によって、第1アルミニウム板21と第2アルミニウム板23とを板厚方向に加圧する。この加圧状態で、制御部19からの指令に基づいて溶接トランス部17が電極13,15間で通電する。これにより、電極13,15に挟まれた第1アルミニウム板21と第2アルミニウム板23との間にナゲット(スポット溶接部)25が形成され、第1アルミニウム板21と第2アルミニウム板23が一体化されたアルミニウム材の抵抗スポット溶接継手(接合体)27が得られる。
【0011】
上記例では2枚のアルミニウム板を接合してアルミニウム材の抵抗スポット溶接継手27を得ているが、本発明は2枚のアルミニウム板を接合する場合に限らず、3枚以上のアルミニウム板を接合する場合にも好適に用いられる。
【0012】
以降の説明では、第1アルミニウム板21と第2アルミニウム板23との重ね方向を、板厚方向、ナゲットの厚さ方向(溶け込み深さの深さ方向)とも呼称する。ナゲットについては、上記の重ね方向に直交してナゲット中心から放射状に延びる方向をナゲット径方向とし、ナゲットの厚さ方向に直交する方向の最大径をナゲット径とする。なお、ナゲットの厚さ方向は、アルミニウム板の板厚方向に最大となるためナゲット溶込み深さ方向とも呼ばれる。
【0013】
<アルミニウム材>
第1アルミニウム板21及び第2アルミニウム板23のアルミニウム材、及び3枚以上用いる場合の各アルミニウム板を構成するアルミニウム材としては、任意の材質のアルミニウム、又はアルミニウム合金を用いることができる。具体的には、5000系、6000系、7000系、2000系、4000系のアルミニウム合金のほか、3000系、8000系のアルミニウム合金や1000系(純アルミ)のアルミニウムを採用できる。各アルミニウム板は、同一の材質であってもよく、異なる材質のものを組み合わせた板組としてもよい。
【0014】
第1アルミニウム板21と第2アルミニウム板23(さらに他のアルミニウム板を用いる場合はそのアルミニウム板を含む)の板厚は、自動車の骨格部材などの構造部材の用途では0.5mm以上が好ましく、2.0mm以上がより好ましい。各アルミニウム板の板厚は等しくてもよく、いずれか一方が他方より厚くてもよい。また、アルミニウム材の形態は、上記したアルミニウム板(圧延板)に限らず、押出材や鍛造材、鋳造材であってもよい。
【0015】
<溶接条件>
制御部19は、所定のタイミングで溶接トランス部17から一対の電極13,15間に通電する。図2は、溶接電流の波形の一例を示すタイミングチャートである。
【0016】
図示例の溶接電流の波形は、連続通電31による本通電工程(通電時間Tm)と、通電時間の短いパルス(通電時間TPs)32の電流を繰り返し通電するパルセーション通電工程(全通電時間Tp)とを有する。
【0017】
パルセーション通電工程では、通電休止とパルス32の通電とを3回以上繰り返す。本例では、パルセーション通電は、通電休止とパルス32の通電とを7回繰り返す。また、パルセーション通電工程における電流値を、1回目のパルス32の電流値Ips1から7回目のパルス32の電流値Ips2へ徐々に増加させる。そして、このパルセーション通電の各パルス32の電流値Ips1~Ips2を、連続通電31による本通電の電流値Imより高くする。
【0018】
さらに、パルセーション通電において、通電休止時間を、パルセーション通電の前半から後半にかけて徐々に増加させていく。例えば、パルセーション通電において、1~3回目の通電休止時間を同一の通電休止時間Tc1とし、4,5回目の通電休止時間を同一の通電休止時間Tc2とし、さらに、6,7回目の通電休止時間を同一の通電休止時間Tc3とする。そして、1~3回目の通電休止時間Tc1よりも4,5回目の通電休止時間Tc2を増加させ、さらに、4,5回目の通電休止時間Tc2よりも6,7回目の通電休止時間Tc3を増加させる。
【0019】
なお、本通電工程における連続通電31とパルセーション通電工程におけるパルス32の通電波形は、矩形状であってもよく、三角波や正弦波等の他の波形や、ダウンスロープ、アップスロープ制御された波形であってもよい。図示例では、連続通電31が一定電流で、パルス32が矩形パルスをダウンスロープ制御した波形としている。なお、パルセーション通電におけるパルス32の通電波形が、ダウンスロープ、アップスロープ等の矩形以外の波形の場合は各パルス32における最大電流値をパルス32の電流値とする。
【0020】
本通電工程における連続通電31の電流値Imと、パルセーション通電工程におけるパルス32の電流値Ips1~Ips2は、いずれも15~60kAの範囲で設定される。連続通電31の電流値Imによる通電で、概ね最終的なナゲットサイズが決定される。そのため、溶接目的に応じて最適な電流値Imを決定すればよい。
【0021】
連続通電31の電流値Imは、好ましくは15~60kA、更に好ましくは30~40kAであり、通電時間Tmは100~400ms、好ましくは150~250ms、さらに好ましくは180~220msである。
【0022】
パルス32の電流値Ips1~Ips2は、好ましくは15~60kA、更に好ましくは30~40kAであり、通電時間Tpsは、10~40ms、好ましくは15~29ms、さらに好ましくは18~22msである。
【0023】
通電休止時間Tc1,Tc2,Tc3の電流値は、図示例では電極13,15間の通電を停止させた0Aであるが、必ずしも0Aでなくてもよく、通電時よりも第1アルミニウム板21と第2アルミニウム板23への入熱量を低下させることができれば、0Aより高い電流であってもよい。
【0024】
通電休止時間Tc1は好ましくは6~20msであり、更に好ましくは10~14msである。通電休止時間Tc2は好ましくは10~40msであり、さらに好ましくは16~20msである。また、通電休止時間Tc3は20~50msが好ましく、更に好ましくは20~28msである。
【0025】
また、パルセーション通電におけるパルス32の繰り返し通電回数(パルス数N)は、3回以上、好ましくは5回以上、さらに好ましくは7回以上である。
【0026】
<パルセーション通電工程を伴う抵抗スポット溶接>
図3の(A),(B)は本通電からパルセーション通電までのナゲットの様子を模式的に示す工程説明図である。
図3の(A)に示すように、一対の電極13,15間に挟まれる第1アルミニウム板21と第2アルミニウム板23に、本通電で電流値Imが通電されると、板面同士の合わせ面を中心にナゲット25が形成される。
【0027】
次に、図3の(B)に示すように、複数の短パルスによるパルセーション通電を実施すると、ナゲット25の内部には、断面が環状の殻(以下、シェルとする)26が複数形成される。ナゲット25を板厚方向に切断して断面観察をすると、ナゲット25内には、ナゲット25の中心部から同心状にシェル26の縞模様が観察できる。
【0028】
このナゲット25の形成について、さらに詳述する。
図4の(A)~(D)はナゲット25の形成途中の様子を模式的に示す説明図である。
まず、本通電においては、図4の(A)に示すように、溶融状態のナゲット(溶融ナゲット33)25が形成される。溶融ナゲット33の形成後、本通電の連続通電31を停止することで、溶融ナゲット33の外周から冷却が始まる。すると、図4の(B)に示すように、溶融ナゲット33の外周からナゲット中心部に向けて柱状晶組織が発達しながら凝固して、凝固部(凝固組織)35が形成される。
【0029】
この凝固部35の柱状晶組織がナゲット内で完全に発達しない内に、パルセーション通電を開始する。パルセーション通電においては、1回目のパルス32の通電を行い、図4の(C)に示すように、凝固部35のナゲット中心部側の一部分37を再び溶融させ、この1回目のパルス32の通電を停止する。上記の柱状晶組織が溶融した一部分37は、1回目のパルス32の通電の停止後に冷却されて再び凝固する。これにより、図4の(D)に示すように、溶融した一部分37が、柱状晶組織とは異なる組織となって凝固する。この異なる組織は上記したシェル26を形成する。
【0030】
また、溶融ナゲット33の冷却の進展によって、シェル26の内側から再び柱状晶組織がナゲット中心に向かって発達して、シェル内側の2層目の凝固部39が形成される。次いで、2回目のパルス32の通電を行うと、凝固部39に柱状晶組織が再び溶融した部分が形成されて、この溶融した部分が3層目の凝固部となる。
【0031】
このようにして、本通電後にパルセーション通電でパルス32の通電及び通電休止を複数回繰り返すことにより、柱状晶組織である凝固部35,39,・・・と、シェル26とが、ナゲット中心に向けて交互に形成される。パルセーション通電した後のナゲット25を板厚方向断面で観察すると、図3の(B)に模式的に示すように、シェル26が多重のリングとなって同心状に形成された縞模様が観察される。なお、シェル26と凝固部39には偏析や逆偏析によりMgなどの濃度がそれぞれ異なった状態で分布する。
【0032】
このように、パルセーション通電を行うことによって形成されるナゲット内の凝固シェルは、冷却速度がきわめて高く、ブローホール源となるMg等の溶解度が高い状態で凝固を完了させることができる。更にナゲット中央部までのリング状シェルを段階的に形成させることによってブローホールの成長を抑制し、また、ブローホールが発生したとしても、継手性能に影響が及ばないナゲット中央部分に配置させることができる。
【0033】
<打点数の増加によるブローホールの発生>
ところで、パルセーション通電によるシェル26の形成には、パルス32の通電間の適正な冷却が必要であり、通電休止時の電極13,15による冷却が必須となる。このため、本通電後にパルセーション通電を行っても、スポット溶接を連続して行うと、打点数の増加に伴い、電極先端部に金属間化合物層が付着し、その金属間化合物層による抵抗発熱が蓄積されて電極13,15の温度が上昇し、電極13,15による冷却性能が低下する。
【0034】
<参考例に係る抵抗スポット溶接方法>
ここで、参考例に係る抵抗スポット溶接方法について説明する。
図5は、本通電及びパルセーション通電を行う参考例に係る抵抗スポット溶接方法における溶接電流の波形の一例を示すタイミングチャートである。
図5に示すように、参考例では、パルセーション通電におけるパルス32の電流値Ips1~Ips2を、本通電である連続通電31の電流値Imより高くし、パルス32の通電と通電休止とを7回以上繰り返している。しかし、このパルセーション通電では、1回目から7回目の各通電休止時間を一定の休止時間としている。具体的には、通電休止時間Tcを12msとしている。
【0035】
このパルセーション通電を行う溶接方法では、打点数の増加に伴い電極13,15の金属間化合物層による抵抗発熱の蓄積の影響が大きくなるため、パルセーション通電休止の時間を一定にした場合、電極13,15の冷却性能が十分に発揮されず電極13,15の先端形状が変化してしまう。このため、打点数の増加に伴って十分なシェル26の形成が達成されなくなるおそれがある。これにより、シェル26の凝固過程におけるブローホール源となるMg等の溶解度が低下してブローホールが大きくなり、溶接品質が低下してしまう。
【0036】
<本実施形態に係る抵抗スポット溶接方法>
本実施形態では、パルセーション通電時のパルス32の電流値Ips1~Ips2を、本通電である連続通電31の電流値Imより高くし、パルセーション通電のパルス32の通電と通電休止とを3回以上繰り返し、さらに、パルセーション通電の前半から後半にかけて通電休止時間Tc1,Tc2,Tc3を徐々に増加させていく(図2参照)。
【0037】
このようにすると、打点数が増加しても、電極13,15の金属間化合物層による抵抗発熱の蓄積の影響を抑えることができ、少ない打点数で電極13,15の先端形状が変化することを抑制できる。したがって、電極13,15のドレッシングの頻度が低減でき、次回のドレッシングまでの連続打点数も増加することができ、生産性が向上できる。そして、溶接可能な打点数を増加させてもブローホールが抑制されてナゲット25の縞模様(パルセーション形態)が維持される。これにより、溶接部における機械的性質(以下、溶接品質とする)が優れた溶接を行うことができる。
【0038】
<他の抵抗スポット溶接方法>
また、上記のように前半から後半にかけて通電休止時間Tc1,Tc2,Tc3を徐々に増加させていくパルセーション通電を伴う抵抗スポット溶接を行う際に、抵抗スポット溶接の打点数の増加に応じて通電休止時間Tc1,Tc2,Tc3を長くしてもよい。
【0039】
具体的には、20打点目までの通電休止時間Tc1,Tc2,Tc3を、12ms,16ms、20msと設定している場合、20打点目以降の通電休止時間Tc1,Tc2,Tc3を、12ms,20ms、28msと設定し、さらに、40打点目以降の通電休止時間Tc1,Tc2,Tc3を、12ms,24ms、36msと設定する。
【0040】
このように、抵抗スポット溶接の打点数の増加に応じて通電休止時間Tc1,Tc2,Tc3を長くすると、電極13,15の金属間化合物層による抵抗発熱の蓄積の影響をより好適に抑制できる。よって、電極13,15のドレッシング頻度をさらに低減でき、次回のドレッシングまでの連続打点数をさらに増加できるため、生産性が向上できる。しかも、溶接可能な打点数を増加させてもブローホールが抑えられて縞模様(パルセーション形態)が維持された溶接品質の良好な溶接が実現できる。
【0041】
また、n回目のパルセーション通電のパルス電流値をIp(n)としたとき、Ip(n+1)>Ip(n)となるように、パルス電流値を段階的に増加させることで、ナゲット25の内部(中心部)に向かって段階的に入熱を加えることができ、よりナゲット25の中心部に近い位置までシェル26を形成させることができる。尚、パルス電流値を段階的に増加させる途中でIp(n+1)= Ip(n)となるような同じ電流値のパルス電流にしてもよい。
【0042】
また、パルセーション通電におけるパルス波形をダウンスロープ波形とすることにより、ナゲット25におけるブローホールの発生をより効果的に抑制することができ、その結果、ブローホール等による溶接品質の低下をさらに抑えることができる。
【0043】
<パルセーション通電の全体通電時間>
ここで、パルセーション通電を行う抵抗スポット溶接では、通電休止時間を加えたパルセーション通電の回数を増やすことにより溶接部(ナゲット)の品質が向上する。しかし、本通電の時間とパルセーション通電の時間の合計である全体通電時間が800msを超える場合、スポット溶接の生産性が低下する。従って、全体通電時間は800ms以内とするのが好ましい。
【実施例1】
【0044】
次に、本発明に係るアルミニウム材の抵抗スポット溶接方法の実施例を説明する。
ここでは、重ね合わせた同一材料、同一寸法の2枚のアルミニウム板を用いて、溶接条件の異なる抵抗スポット溶接をそれぞれ合計32打点行い、各打点数における溶接状態を観察した。溶接状態は、2打点、7打点、12打点、22打点、27打点、32打点で観察した。
【0045】
<試験条件>
(アルミニウム板)
材質:A5182材(Al-Mg系アルミニウム合金)
板厚:2.3mm
【0046】
(電極)
種別:クロム銅R形電極
先端曲率半径:100mm
電極直径(元径):19mm
【0047】
(溶接条件)
(実施例1)
1)電極間加圧力:5kN
2)溶接電流
・本通電
電流値Im:31kA
通電時間Tm:200ms
通電波形:矩形波
・パルセーション通電
初期電流値Ips1:32.4kA
最終電流値Ips2:40.8kA
全通電時間Tp:388ms
単一のパルスの通電時間Tps:40ms
パルス数N:7回
パルス波形:矩形波をダウンスロープ制御
通電休止時間:1~3回目の通電休止時間Tc1:12ms
4,5回目の通電休止時間Tc2:16ms
6,7回目の通電休止時間Tc3:20ms
【0048】
(実施例2)
1)電極間加圧力:5kN
2)溶接電流
・本通電
電流値Im:31kA
通電時間Tm:200ms
通電波形:矩形波
・パルセーション通電
初期電流値Ips1:32.4kA
最終電流値Ips2:40.8kA
全通電時間Tp:412ms
単一のパルスの通電時間Tps:40ms
パルス数N:7回
パルス波形:矩形波をダウンスロープ制御
通電休止時間:1~3回目の通電休止時間Tc1:12ms
4,5回目の通電休止時間Tc2:20ms
6,7回目の通電休止時間Tc3:28ms
【0049】
(実施例3)
1)電極間加圧力:5kN
2)溶接電流
・本通電
電流値Im:31kA
通電時間Tm:200ms
通電波形:矩形波
・パルセーション通電
初期電流値Ips1:32.4kA
最終電流値Ips2:40.8kA
全通電時間Tp:436ms
単一のパルスの通電時間Tps:40ms
パルス数N:7回
パルス波形:矩形波をダウンスロープ制御
通電休止時間:1~3回目の通電休止時間Tc1:12ms
4,5回目の通電休止時間Tc2:24ms
6,7回目の通電休止時間Tc3:36ms
【0050】
(比較例)
1)電極間加圧力:5kN
2)溶接電流
・本通電
電流値Im:31kA
通電時間Tm:200ms
通電波形:矩形波
・パルセーション通電
初期電流値Ips1:32.4kA
最終電流値Ips2:40.8kA
全通電時間Tp:364ms
単一のパルスの通電時間Tps:40ms
パルス数N:7回
パルス波形:矩形波をダウンスロープ制御
通電休止時間:1~7回目の通電休止時間Tc:12ms
【0051】
<試験結果>
図6図9に実施例1~3及び比較例における抵抗スポット溶接で形成されたナゲットの断面写真を示す。なお、図6図9において、(A)は2打点、(B)は7打点、(C)は12打点、(D)は22打点、(E)は27打点、(F)は32打点でのナゲットの断面写真である。
【0052】
(実施例1)
図6の(A)~(F)に示すように、実施例1では、2打点、12打点、32打点でナゲットに僅かなブローホールBHが生じたが、2打点、7打点、12打点、22打点、27打点、32打点のいずれにおいても、大きなブローホールBHが生じず、良好な縞模様の形態が維持された。
(実施例2)
図7の(A)~(F)に示すように、実施例2では、7打点、12打点、32打点でナゲットに僅かなブローホールBHが生じたが、2打点、7打点、12打点、22打点、27打点、32打点のいずれにおいても、大きなブローホールBHが生じず、良好な縞模様の形態が維持された。
(実施例3)
図8の(A)~(F)に示すように、実施例3では、7打点、12打点でナゲットに僅かなブローホールBHが生じたが、2打点、7打点、12打点、22打点、27打点、32打点のいずれにおいても、大きなブローホールBHが生じず、良好な縞模様の形態が維持された。
(比較例)
図9の(A)~(F)に示すように、比較例では、2打点でナゲットに僅かなブローホールBHが生じ、22打点で少し大きなブローホールBHが生じた。また、比較例では、12打点で縞模様の形態の崩れが生じた。
【0053】
このように、パルセーション通電の前半から後半にかけて通電休止時間を増加させていくことにより、打点数が増加しても、大きなブローホールの発生が抑制され、また、ナゲットの縞模様が維持されることがわかった。
【0054】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0055】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 複数のアルミニウム材を重ねてスポット溶接用の電極間に挟み込む第1工程と、
前記電極間の前記アルミニウム材同士の間にナゲットを形成する本通電を行う第2工程と、
前記ナゲットが完全に凝固する前に、前記電極間の通電と通電休止とを複数回繰り返すパルセーション通電を行い、前記ナゲットの内部に、前記アルミニウム材の凝固部と凝固組織が異なるシェルを、前記ナゲットの外縁部からナゲット中心部に向かって前記アルミニウム材の重ね方向の断面において、前記凝固部と交互に形成する第3工程と、
をこの順に実施するアルミニウム材の抵抗スポット溶接方法であって、
前記第3工程において、
前記パルセーション通電の電流値を、前記本通電の電流値以上にし、
前記パルセーション通電を、前記通電と前記通電休止とを3回以上繰り返し、
前記パルセーション通電の前半から後半にかけて前記通電休止時間を徐々に増加させていく、アルミニウム材の抵抗スポット溶接方法。
このアルミニウム材の抵抗スポット溶接方法によれば、シェルをナゲット中心部に向けて複数形成することにより、シェルで囲まれる溶融部分が段階的に中心部に向けて小さくなる。そのため、抵抗スポット溶接によりナゲット内にブローホールが発生しても、ブローホールがナゲット中心部に集結されて、溶接品質を低下させずに済む。その結果、ブローホール等による溶接品質の低下が抑えられる。
しかも、パルセーション通電の電流値を、前記本通電の電流値以上にし、パルセーション通電を、通電と通電休止とを3回以上繰り返し、パルセーション通電の前半から後半にかけて通電休止時間を徐々に増加させていく。これにより、打点数が増加しても、電極の抵抗発熱の蓄積の影響が抑えられ、少ない打点数で電極先端形状が変化することを抑制できる。よって、電極のドレッシングの頻度を低減でき、次回のドレッシングまでの連続打点数を増加でき、生産性が向上できる。そして、溶接可能な打点数を増加させてもブローホールが抑えられ、ナゲットの縞模様が維持された溶接品質の良好な溶接が行える。
【0056】
(2) 前記パルセーション通電のパルス電流値を段階的に増加させる、(1)に記載のアルミニウム材の抵抗スポット溶接方法。
このアルミニウム材の抵抗スポット溶接方法によれば、パルス電流値を段階的に増加させることで、ナゲット内部(中心部)に向かって段階的に入熱を加えることができ、よりナゲット中心部に近い位置までシェルを形成させることができる。
【0057】
(3)前記パルス電流値を段階的に増加させる途中で同じ電流値のパルス電流を通電する(2)に記載のアルミニウム材の抵抗スポット溶接方法。
このアルミニウム材の抵抗スポット溶接方法によれば、凝固部形成の制御がしやすくブローホールをナゲット中心部に安定して集めることができるため溶接品質がより優れた溶接を行うことができる。
【0058】
(4) 前記パルセーション通電のパルス波形がダウンスロープ波形である、(1)~(3)のいずれか1つに記載のアルミニウム材の抵抗スポット溶接方法。
このアルミニウム材の抵抗スポット溶接方法によれば、パルセーション通電におけるパルス波形をダウンスロープ波形とすることにより、ナゲットにおけるブローホールの発生をより効果的に抑制することができ、その結果、ブローホール等による溶接品質の低下をさらに抑えることができる。
【0059】
(5) 前記本通電と前記パルセーション通電における電流値は、15~60kAである、(1)~(4)のいずれか1つに記載のアルミニウム材の抵抗スポット溶接方法。
このアルミニウム材の抵抗スポット溶接方法によれば、通電経路の電流密度を高め、アルミニウム材同士の間からの発熱を促進して、効率よく溶接できる。
【0060】
(6) 前記パルセーション通電は、前記通電と前記通電休止を5回以上繰り返す、(1)~(5)のいずれか1つに記載のアルミニウム材の抵抗スポット溶接方法。
このアルミニウム材の抵抗スポット溶接方法によれば、溶融状態のナゲット内部に発生したブローホールを、応力集中が生じにくいナゲット中心部へ集結させ、ブローホールを小さくできる。
【0061】
(7) 前記パルセーション通電は、前記通電と前記通電休止を7回以上繰り返す、(6)に記載のアルミニウム材の抵抗スポット溶接方法。
このアルミニウム材の抵抗スポット溶接方法によれば、溶融状態のナゲット内部のブローホールを、より確実にナゲット中心部近傍に集結できる。
【0062】
(8) 抵抗スポット溶接の打点数の増加に応じて前記パルセーション通電における前記通電休止時間を長くする、(1)~(7)のいずれか1つに記載のアルミニウム材の抵抗スポット溶接方法。
このアルミニウム材の抵抗スポット溶接方法によれば、打点数が増加しても、電極先端付着の金属間化合物層による抵抗発熱の蓄積の影響をより好適に抑えることができ、少ない打点数で電極先端形状が変化することを抑制できる。よって、電極ドレッシングの頻度を低減できるため、次回のドレッシングまでの連続打点数を増加でき、生産性が向上できる。そして、溶接可能な打点数を増加させてもブローホールが抑えられ、ナゲットの縞模様が維持された溶接品質の良好な溶接が可能となる。
【0063】
(9) 重ね合わされた複数のアルミニウム材を溶接する抵抗スポット溶接の制御装置において、
前記制御装置はスポット溶接のナゲットを形成する本通電を行い、
前記本通電の終了後に前記ナゲット内に前記アルミニウム材の凝固部と凝固組織が異なるシェルを、前記ナゲットの外縁部からナゲット中心部に向かって前記アルミニウム材の重ね方向の断面において、前記凝固部と交互に形成するパルセーション通電を行い、
前記パルセーション通電の電流値を、前記本通電の電流値以上にし、
前記パルセーション通電を、前記通電と前記通電休止とを3回以上繰り返し、
前記パルセーション通電の前半から後半にかけて前記通電休止時間を徐々に増加させていく制御を行う、アルミニウム材の抵抗スポット溶接の制御装置。
このアルミニウム材の抵抗スポット溶接の制御装置によれば、シェルをナゲット中心部に向けて複数形成することにより、シェルで囲まれる溶融部分が段階的に中心部に向けて小さくなる。そのため、抵抗スポット溶接によりナゲット内にブローホールが発生しても、ブローホールがナゲット中心部に集結されて、溶接品質を低下させずに済む。その結果、ブローホール等による溶接品質の低下が抑えられる。
しかも、パルセーション通電の電流値を、前記本通電の電流値以上にし、パルセーション通電を、通電と通電休止とを3回以上繰り返し、パルセーション通電の前半から後半にかけて通電休止時間を徐々に増加させていく。これにより、打点数が増加しても、電極の金属間化合物層による抵抗発熱の蓄積の影響が抑えられ、少ない打点数で電極先端形状が変化することを抑制できる。よって、電極ドレッシングの頻度を低減できるため、次回のドレッシングまでの連続打点数を増加でき、生産性が向上できる。そして、溶接可能な打点数を増加させてもブローホールが抑えられ、ナゲットの縞模様が維持された溶接品質の良好な溶接が可能となる。
【0064】
(10) 前記パルセーション通電のパルス電流値を段階的に増加させる制御を行う、(9)に記載のアルミニウム材の抵抗スポット溶接の制御装置。
このアルミニウム材の抵抗スポット溶接の制御装置によれば、パルス電流値を段階的に増加させることで、ナゲット内部(中心部)に向かって段階的に入熱を加えることができ、よりナゲット中心部に近い位置までシェルを形成させることができる。
【0065】
(11)前記パルス電流値を段階的に増加させる途中で同じ電流値のパルス電流を通電する(10)に記載のアルミニウム材の抵抗スポット溶接の制御装置。
このアルミニウム材の抵抗スポット溶接の制御装置によれば、凝固部形成の制御がしやすくブローホールをナゲット中心部に安定して集めることができるため溶接品質がより優れた溶接を行うことができる。
【0066】
(12) 前記パルセーション通電のパルス波形がダウンスロープ波形である、(9)~(11)のいずれか1つに記載のアルミニウム材の抵抗スポット溶接の制御装置。
このアルミニウム材の抵抗スポット溶接の制御装置によれば、パルセーション通電におけるパルス波形をダウンスロープ波形とすることにより、ナゲットにおけるブローホールの発生をより効果的に抑制することができ、その結果、ブローホール等による溶接品質の低下をさらに抑えることができる。
【0067】
(13) (9)~(12)のいずれか1つに記載の制御装置を備える、アルミニウム材の抵抗スポット溶接機。
このアルミニウム材の抵抗スポット溶接機によれば、ブローホールをナゲット中心部に集結させて溶接品質を低下させずに済み、その結果、ブローホール等による溶接品質の低下を抑えることができる。しかも、電極ドレッシングの頻度を低減できるため、次回のドレッシングまでの連続打点数を増加でき、生産性が向上できる。そして、溶接可能な打点数を増加させてもブローホールが抑えられ、ナゲットの縞模様が維持された溶接品質の良好な溶接が可能となる。
【符号の説明】
【0068】
11 スポット溶接機
13,15 電極
19 制御部(制御装置)
21 第1アルミニウム板(アルミニウム材)
23 第2アルミニウム板(アルミニウム材)
25 ナゲット
26 シェル
35 凝固部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9