(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-08
(45)【発行日】2023-03-16
(54)【発明の名称】粒子捕捉器及びこれを備えた回転翼機
(51)【国際特許分類】
G01N 1/02 20060101AFI20230309BHJP
B64C 39/02 20060101ALI20230309BHJP
B64C 27/04 20060101ALI20230309BHJP
F24F 8/108 20210101ALI20230309BHJP
【FI】
G01N1/02 A
B64C39/02
B64C27/04
F24F8/108 220
(21)【出願番号】P 2019561690
(86)(22)【出願日】2018-12-25
(86)【国際出願番号】 JP2018047451
(87)【国際公開番号】W WO2019131583
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2021-12-22
(31)【優先権主張番号】P 2017255046
(32)【優先日】2017-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(73)【特許権者】
【識別番号】717007295
【氏名又は名称】株式会社Liberaware
(74)【代理人】
【識別番号】110002790
【氏名又は名称】One ip弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小野島 大介
(72)【発明者】
【氏名】閔 弘圭
【審査官】野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2004/0141848(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0090559(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0310483(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0047429(US,A1)
【文献】中国実用新案第205872493(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00-1/44
B64C 39/02
B64C 27/04
F24F 8/108
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
推力を発生させる発生手段と、
所定の粒子を捕捉する捕捉手段とを備えた粒子捕捉器であって、
前記捕捉手段は、前記発生手段の少なくとも表面に設けられており、前記発生手段が周期的に運動した際に特定の粒子のみを選択的に捕捉するように構成されている、
粒子捕捉器。
【請求項2】
請求項1に記載の粒子捕捉器であって、
前記発生手段は、気流を発生させる気流発生手段であり、
前記
捕捉手段は、少なくとも当該気流に含まれる前記粒子を捕捉する、
粒子捕捉器。
【請求項3】
請求項
2に記載の粒子捕捉器であって、
前記気流発生手段は、プロペラであり、
前記捕捉手段は、前記プロペラの表面に設けられている、
粒子捕捉器。
【請求項4】
請求項3に記載の粒子捕捉器であって、
前記捕捉手段は、前記プロペラの表面の捕捉構造である、
粒子捕捉器。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の粒子捕捉器であって、
前記
捕捉手段は、シート状に形成されたものであり、少なくとも前記発生手段に該
捕捉手段を張り付けるための接着手段を更に備えている、
粒子捕捉器。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5に記載の粒子捕捉器を備えた無人飛行体。
【請求項7】
請求項6に記載の無人飛行体であって、
前記
捕捉手段によって捕捉した前記粒子に関する情報を解析する手段を更に備える、
無人飛行体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子捕捉器及びこれを備えた回転翼機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ファンとフィルタを利用した空気清浄機が種々知られている。これらの原理は、ファンを用いて空気を強制的にフィルタに送り込んでフィルタを通過させることにより空気中の粒子状物質やエアロゾル粒子等をフィルタに捕捉させて空気を清浄化するものである。通常多く用いられている空気清浄機は、ファンとフィルタを完全に分離し、ファンによって風をフィルタに当てるタイプのものである(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
他の方法として、フィルタを波状に曲折させると共に該フィルタ自体を回転させることによって、フィルタに羽根車の翼とフィルタの機能の両方を持たせた空気清浄機及び加湿機が提案されている(例えば、特許文献2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-202051号公報
【文献】特開2001-120933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した空気清浄器は、いずれも、送風手段によって生じた気流をフィルタで濾しとることによって、空気中の粒子状物質やエアロゾル粒子を除去することとしている。そのため、少なからず送風手段に負荷が生じることに加え、フィルタに粒子が捕捉されるにつれて送風効率が悪化する。
【0006】
そこで、本発明は、送風効率を維持することが可能な粒子捕捉技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、
気流を発生させる気流発生手段と、
所定の粒子を捕捉する捕捉手段とを備えた粒子捕捉器であって、
前記捕捉手段は、前記気流発生手段の少なくとも表面に設けられており、
前記気流発生手段が周期的に運動した際に、少なくとも当該気流に含まれる粒子を前記捕捉手段に捕捉させるように構成されている、
粒子捕捉器が得られる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、送風効率を維持することが可能な粒子捕捉技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施の形態による粒子捕捉器に用いられる捕捉手段の機能を概念的に表すイメージ図である。
【
図2】
図1の捕捉手段の他の例を示すイメージ図である。
【
図3】
図1の捕捉手段を備えたプロペラ(回転翼)を示す図である。
【
図4】
図4(a)は、
図3のプロペラのA-A’断面を示す図である。
図4(b)は
図3のプロペラの変形例の断面を示す図である。
【
図5】通常のプロペラに、本実施の形態によるシート状の捕捉手段を張り付けたプロペラを示す図である。
【
図6】
図3のプロペラを備えた回転翼機を利用した空気清浄システムのイメージ図である。
【
図7】
図1の捕捉手段に検出手段を取り付けた状態を示すイメージ図である。
【
図8】
図6の回転翼機の機能ブロックを示す図である。
【
図9】
図1の捕捉手段によって捕捉した粒子に関する情報を検出(解析)する検出手段を更に備える粒子捕捉器を示す図である。
【
図10】本実施例によるエアロゾル捕集実験に用いたプロペラと捕集手段とを示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態の内容を列記して説明する。本発明の実施の形態による粒子捕捉器及びこれを備えた回転翼機は、以下のような構成を備える。
[項目1]
気流を発生させる気流発生手段と、
所定の粒子を捕捉する捕捉手段とを備えた粒子捕捉器であって、
前記捕捉手段は、前記気流発生手段の少なくとも表面に設けられており、
前記気流発生手段が周期的に運動した際に、少なくとも当該気流に含まれる粒子を前記捕捉手段に捕捉させるように構成されている、
粒子捕捉器。
[項目2]
請求項1に記載の粒子捕捉器であって、
前記捕捉手段は、選択的に所定の粒子を捕捉するように構成されている
粒子捕捉器。
[項目3]
請求項1又は請求項2に記載の粒子捕捉器であって、
前記気流発生手段は、プロペラであり、
前記捕捉手段は、前記プロペラの表面に設けられている
粒子捕捉器。
[項目4]
請求項3に記載の粒子捕捉器であって、
前記捕捉手段は、前記プロペラの表面の捕捉構造である
粒子捕捉器。
[項目5]
請求項4に記載の粒子捕捉器を備えた回転翼機。
[項目6]
請求項5に記載の回転翼機であって、
前記プロペラによって捕捉した前記粒子に関する情報を解析する手段を更に備える
回転翼機
[項目7]
シート状に形成された所定の粒子を捕捉する捕捉手段であって、
少なくとも前記気流発生手段に張り付けるための接着手段を更に備えている、
捕捉手段。
【0011】
<実施の形態の詳細>
以下、本発明の実施の形態による粒子捕捉器及びこれを備えた回転翼機について、図面を参照しながら説明する。
【0012】
<概要>
本発明の実施の形態による、粒子捕捉器は、空気中に存在する特定の粒子を捕捉する構造を有している。当該構造の詳細については後述する。また、回転翼機は、粒子捕捉器をその回転翼に利用することによって、空気中に存在する特定の粒子を当該回転翼に捕捉させる。
【0013】
なお、上述した回転翼機は、ドローン(Drone)、マルチコプター(Multi Copter)、無人飛行体(Unmanned aerial vehicle:UAV)、RPAS(remote piloted aircraft systems)、又はUAS(Unmanned Aircraft Systems)等と称呼されることがある。
【0014】
更に、本発明による粒子捕捉器はプロペラ形状に加工され上述した回転翼機に採用されているが、粒子捕捉器はプロペラ形状のものであれば、どのようなものでも採用することができる。更には、気流を生じさせるものであればどのような部材にも適用可能である。
【0015】
<粒子捕捉器>
図1は、本実施の形態による粒子捕捉器の断面構造を模式的に表す図である。図示されるように、粒子捕捉器は、捕捉手段と気流発生手段とを備えている。
【0016】
気流発生手段は、回転翼機に取り付けられるプロペラの基材である。機材は、主として樹脂等により形成されているが、これ以外の素材で形成されていてもよい。また、基材は単一の素材であってもよいし、複数の基材を組み合わせてなる合板状のものであってもよい。
【0017】
図1の(a)及び(b)を比較してわかるように、捕捉手段は、気流発生手段の表面に存在しており、所定の物理構造又は化学構造を有することにより、粒子を表面に捕捉させるものである。
【0018】
なお、図中の矢印は気流発生手段によって発生する気流の向きである。即ち、プロペラが回転することによって生じる気流の流れを示している。本実施の形態においては、プロペラが回転した場合に、図の下方向に気流が生じる(換言すれば、当該プロペラを有する回転翼機には上方向の推力が生じる)。
【0019】
気流発生手段と捕捉手段とは同一の素材であってもよいし、他の素材としてもよい。この場合、気流発生手段を基材としてその表面に捕捉手段がコーティングされるように構成される。
【0020】
また、捕捉手段は、その表面の物理構造又は化学構造が特定の粒子を捕捉するのに適した構造(例えば、所定の凹凸が施されている等)を有していてもよいし、その表面が静電気的に特定の粒子を引き付けるのに適した構造を有していてもよい。
【0021】
図2の(a)は、粒子捕捉器の他の例を示す図である。図示される粒子捕捉器は、複数の異なる粒子A及び粒子Bのうちから粒子Aのみを選択的に捕捉させる捕捉手段を有している。
【0022】
図2の(b)は、粒子Aのみを選択的に捕捉させる表面構造を模式的に示す図である。図示されるように、捕捉手段は、粒子Aを捕捉するのに適した形状を有している一方で、粒子Bの捕捉には適さない形状を有している。
【0023】
かかる構造によれば、プロペラの回転によって気流が発生した際に、粒子Aのみを選択的に捕捉手段に捕捉させることができる。
【0024】
図3は、粒子捕捉器としてのプロペラ10を示す図である。プロペラ10は、回転軸である軸部11と、回転により推力(揚力)を発生させるブレード部12とを備えている。本実施の形態によるプロペラ10(の少なくともブレード部12)は、捕捉手段20により形成されている。
【0025】
図4は、
図3のA-A’断面図である。図示されるように、プロペラ10の基材の上に捕捉手段20が形成されている。
【0026】
図5は、粒子捕捉器としてのプロペラ10’を示す図である。
図3のプロペラ10と同様に、プロペラ10’は、回転軸である軸部11と、回転により推力(揚力)を発生させるブレード部12とを備えている。本実施の形態によるプロペラ10’には、シール状に形成された捕捉手段20’が貼り付けられている。
【0027】
シール状に形成された捕捉手段20’は、シート状に形成された捕捉素材とブレード部12に貼り付けるための手段として粘着部とを備えている。ブレード部12に貼り付けるための手段は、他の手段を利用してもよい。
【0028】
図6は、回転したプロペラ10に粒子が捕捉する様子を示したイメージ図である。プロペラ10が回転すると下方向Wに気流が生じプロペラ10’には上向きの推力(揚力が働く)これにより回転翼機(図示せず)は上昇及び空中での静止(ホバリング)を行うことが可能となる。
【0029】
図7は、
図3又は
図5のプロペラ10又は10’を回転翼機にとりつけて大気中に配置した様子を示すイメージ図である。回転翼機は上空でホバリングすることにより、大気中の粒子状物質やエアロゾル粒子等を捕捉する機能を発揮する。
【0030】
図示されるように、上空に複数台の回転翼機を配置し、互いに通信を行うことにより、各機体の位置関係を制御する。なお、必要に応じて、地上に配置された管理制御システムによって又は併用して管理することとしてもよい。
【0031】
上述した回転翼機は、主として空中を移動するものを指すが、例えば、陸上用、水中用などの用途を組み合わせた機能を有する回転翼機も含まれる。
【0032】
上述した回転翼機は、例えば、
図8に示される機能ブロックを有している。なお、
図8の機能ブロックは最低限の参考構成である。
【0033】
フライトコントローラは、プログラマブルプロセッサ(例えば、中央演算処理装置(CPU))などの1つ以上のプロセッサを有することができる。
【0034】
フライトコントローラは、図示しないメモリを有しており、当該メモリにアクセス可能である。メモリは、1つ以上のステップを行うためにフライトコントローラが実行可能であるロジック、コード、および/またはプログラム命令を記憶している。
【0035】
メモリは、例えば、SDカードやランダムアクセスメモリ(RAM)などの分離可能な媒体または外部の記憶装置を含んでいてもよい。カメラやセンサ類から取得したデータは、メモリに直接に伝達されかつ記憶されてもよい。例えば、カメラ等で撮影した静止画・動画データが内蔵メモリ又は外部メモリに記録される。
【0036】
フライトコントローラは、回転翼機の状態を制御するように構成された制御モジュールを含んでいる。例えば、制御モジュールは、6自由度(並進運動x、y及びz、並びに回転運動θx、θy及びθz)を有する回転翼機の空間的配置、速度、および/または加速度を調整するために回転翼機の推進機構(モータ等)を制御する。制御モジュールは、搭載部、センサ類の状態のうちの1つ以上を制御することができる。
【0037】
フライトコントローラは、1つ以上の外部のデバイス(例えば、端末、表示装置、または他の遠隔の制御器)からのデータを送信および/または受け取るように構成された送受信部と通信可能である。送受信機は、有線通信または無線通信などの任意の適当な通信手段を使用することができる。
【0038】
例えば、送受信部は、ローカルエリアネットワーク(LAN)、ワイドエリアネットワーク(WAN)、赤外線、無線、WiFi、ポイントツーポイント(P2P)ネットワーク、電気通信ネットワーク、クラウド通信などのうちの1つ以上を利用することができる。
【0039】
送受信部は、センサ類で取得したデータ、フライトコントローラが生成した処理結果、所定の制御データ、端末または遠隔の制御器からのユーザコマンドなどのうちの1つ以上を送信および/または受け取ることができる。
【0040】
本実施の形態によるセンサ類は、その用途に応じて、慣性センサ(加速度センサ、ジャイロセンサ)、GPSセンサ、近接センサ(例えば、ライダー)、ビジョン/イメージセンサ(例えば、カメラ)その他の物理センサを含み得る。更に、イオンセンサー、バイオアフィニティーセンサー、ガスセンサ、その他の電気化学センサー、オプティカルセンサー等の化学センサを含んでいいてもよい。
【0041】
本発明の回転翼機は、調査、測量、観察等における産業用の回転翼機として利用が期待される機体できる。また、本発明の回転翼機は、マルチコプター・ドローン等の飛行機関連産業において利用することができ、さらに、本発明は、カメラ等を搭載した空撮用の回転翼機としても好適に使用することができる他、セキュリティ分野、農業、インフラ監視等の様々な産業にも利用することができる。
【0042】
図9は、本発明による捕捉手段によって捕捉した粒子Aに関する情報を検出(解析)する検出手段を更に備える粒子捕捉器を示す図である。検出手段は捕捉手段で捕捉(捕捉)した粒子Aを検出する。
【0043】
検出手段は、粒子Aと反応する特定の素材、試薬、その他の検出手段であればよい。また、検出手段は、必ずしも捕捉手段上に設けられている必要はなく、別体のものであってもよい。
【0044】
(実施例)
続いて、本発明による粒子吸着の効果を検証すべく、エアロゾルの捕集実験を行った。実験の手順の概要は以下のとおりである。
【0045】
図10に示されるように、疎水性デュラポアFを両面テープでプロペラPに張り付けた。本実施例に用いられた疎水性デュラポアは、ポリビニリデンフロライド製のメンブレンフィルターである。
【0046】
プロペラPをモータに接続して回転させ、回転中にエアロゾル標準粒子に曝露させた。エアロゾル標準粒子は、真球状のポリスチレン粒子の水分散体である。粒径は0.1μm±0.003μmである。
【0047】
曝露後の顕微鏡による観察の結果、フィルターFと共に少数の粒子が確認され、0.3mgの重量変化が電子天秤により確認された。
図11Aに示されるように、図中の白い小さな粒子が見て取れる。また、
図11Bに示されるように、0.1μm程度の粒子が吸着していることがわかる。
【0048】
上述した実施の形態は、本発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良することができると共に、本発明にはその均等物が含まれることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0049】
10、10’ プロペラ
11 軸部
12 ブレード部
20、20’ 捕捉手段