(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-08
(45)【発行日】2023-03-16
(54)【発明の名称】圧電材料および圧電材料用組成物
(51)【国際特許分類】
H10N 30/857 20230101AFI20230309BHJP
H10N 30/20 20230101ALI20230309BHJP
H10N 30/30 20230101ALI20230309BHJP
C08J 7/00 20060101ALI20230309BHJP
C08L 27/16 20060101ALI20230309BHJP
C08L 33/08 20060101ALI20230309BHJP
【FI】
H10N30/857
H10N30/20
H10N30/30
C08J7/00 D CEW
C08L27/16
C08L33/08
(21)【出願番号】P 2020529967
(86)(22)【出願日】2018-07-13
(86)【国際出願番号】 JP2018026603
(87)【国際公開番号】W WO2020012660
(87)【国際公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-07-02
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ウェアラブル端末の活用と技術の専門展 第4回ウェアラブルEXPOでの展示 展示日:平成30年1月17日、18日、19日 展示会名、開催場所:ウェアラブル端末の活用と技術の専門展 第4回ウェアラブルEXPO、東京ビッグサイト
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ウェアラブル端末の活用と技術の専門展 第4回ウェアラブルEXPOでの公開 公開日:平成30年1月18日 集会名、開催場所:ウェアラブル端末の活用と技術の専門展 第4回ウェアラブルEXPO、東京ビッグサイト
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 刊行物「プラスチックスエージ]での発表 発行日:平成30年6月15日 刊行物名:プラスチックスエージ,第64巻 7月号,第39~40頁 発行者:株式会社プラスチックス・エージ
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 刊行物「コンバーテック」での発表 発行日:平成30年7月11日 刊行物名:コンバーテック,2018年7月号,第49~51頁 発行者:株式会社加工技術研究会
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ウェブサイト「鵜飼育弘のテクテク見聞録 電子回路をストレッチャブルに、基材や配線の新素材 ウェアラブルEXPO報告」での公開 公開日:平成30年1月31日 ウェブサイトアドレス:http://techon.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/040400109/012900055/ 公開者:株式会社日経BP
(73)【特許権者】
【識別番号】502344178
【氏名又は名称】株式会社イデアルスター
(73)【特許権者】
【識別番号】000205638
【氏名又は名称】大阪有機化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【氏名又は名称】森住 憲一
(74)【代理人】
【識別番号】100172605
【氏名又は名称】岩木 郁子
(72)【発明者】
【氏名】表 研次
(72)【発明者】
【氏名】鮫澤 剣
(72)【発明者】
【氏名】幸田 光弘
(72)【発明者】
【氏名】池田 萩
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 悠
(72)【発明者】
【氏名】岡本 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】富盛 祐也
(72)【発明者】
【氏名】赤石 良一
(72)【発明者】
【氏名】松山 剛知
【審査官】上田 智志
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-505134(JP,A)
【文献】特開2016-197626(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0286627(US,A1)
【文献】米国特許第06689288(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 30/857
H10N 30/20
H10N 30/30
C08J 7/00
C08L 27/16
C08L 33/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体、および、
式(I):
【化1】
〔式中、Rは、
水酸基、炭素数1または2のアルキル基、および/または、炭素数1~6のアルコキシ基で置換されていてもよい、炭素数1~10のアルキル
基を表す〕
で表されるアクリル系モノマーに由来する構造単位を含み、重量平均分子量が100万以上
300万以下である、アクリル系エラストマー
を含有する、圧電材料
であって、
前記フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体の量は、圧電材料全体に基づいて98~70質量%であり、前記アクリル系エラストマーの量は、圧電材料全体に基づいて2~30質量%であり、
前記アクリル系エラストマーを得る際のモノマー成分における式(I)で表されるアクリル系モノマーの含有率は90質量%以上である、
圧電材料。
【請求項2】
フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体の粘度平均分子量は10万/mol以上である、請求項
1に記載の圧電材料。
【請求項3】
フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体において、フッ化ビニリデンに由来する構造単位の量は、全構造単位の量に基づいて55~90mol%である、請求項1
または2に記載の圧電材料。
【請求項4】
ヤング率が3.1GPa以下である、請求項1~
3のいずれかに記載の圧電材料。
【請求項5】
フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体、および、
式(I):
【化2】
〔式中、Rは、
水酸基、炭素数1または2のアルキル基、および/または、炭素数1~6のアルコキシ基で置換されていてもよい、炭素数1~10のアルキル
基を表す〕
で表されるアクリル系モノマーに由来する構造単位を含み、重量平均分子量が100万以上
300万以下である、アクリル系エラストマー
を含有する、圧電材料用組成物
であって、
前記フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体の量は、前記圧電材料用組成物から圧電材料を形成する際の該圧電材料全体に基づいて98~70質量%であり、前記アクリル系エラストマーの量は、前記圧電材料用組成物から圧電材料を形成する際の該圧電材料全体に基づいて2~30質量%であり、
前記アクリル系エラストマーを得る際のモノマー成分における式(I)で表されるアクリル系モノマーの含有率は90質量%以上である、
圧電材料用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電材料および圧電材料用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
強誘電性高分子であるフッ化ビニリデン(VDF)とトリフルオロエチレン(TrFE)との共重合体であるフッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体(P(VDF/TrFE))は、優れた圧電特性と大きい自発分極(残留分極)を有する圧電材料として知られている。この圧電材料は、例えば圧電センサー・トランスジューサ、赤外線焦電センサーなどの種々の圧電素子に用いられている。
【0003】
特許文献1には、特定のモル比でフッ化ビニリデンとトリフルオロエチレンとを共重合させて得た共重合体から作られた圧電膜が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、ウェアラブルデバイスをはじめとする分野において圧電材料を使用する試みがなされている。このような分野で使用される圧電材料に対しては、従来よりも優れた柔軟性、伸縮性が求められる。そこで本発明者らは、フッ化ビニリデンとトリフルオロエチレンとの共重合体を含む圧電材料に着目し、ウェアラブルデバイス等の分野において要求されるような高い柔軟性や伸縮性を有する材料を提供すべく検討を行った。例えば特許文献1に記載されるような圧電膜については、柔軟性や伸縮性の観点でさらなる改善が求められることがわかった。
【0006】
そこで、本発明の目的の一つは、優れた柔軟性、伸縮性を有する圧電材料および該圧電材料を得るための圧電材料用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
〔1〕本発明の圧電材料は、
フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体、および
式(I):
【化1】
〔式中、Rは、
水酸基、炭素数1または2のアルキル基、および/または、炭素数1~6のアルコキシ基で置換されていてもよい、炭素数1~10のアルキル基、
少なくとも1つの炭素原子が酸素原子で置換されていてもよい炭素数3~6の脂環式炭化水素基を含む、炭素数3~12の炭化水素基、
アルキレン部分の炭素数が1~4であり、アルキレン部分の1つの-CH
2-が-O-で置換されていてもよいフェニルアルキレン基、または、
-((CH
2)
m-O-)
n-Xで表される基[式中、mおよびnは、それぞれ2または3の数を表し、Xは水素原子またはメチル基を表す]
を表す〕
で表されるアクリル系モノマーに由来する構造単位を含み、重量平均分子量が100万以上である、アクリル系エラストマー
を含有する。本明細書において、フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体をPVTと略記する場合がある。また、例えばフッ化ビニリデン/トリフルオロエチレンの重合比が80mol%/20mol%の場合、PVT80/20と略記する場合がある。
【0008】
本発明はさらに以下の好適な態様を含む。
〔2〕フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体の量は、圧電材料全体に基づいて98~70質量%であり、アクリル系エラストマーの量は、圧電材料全体に基づいて2~30質量%である、前記〔1〕に記載の圧電材料。
【0009】
〔3〕フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体の粘度平均分子量は10万/mol以上である、前記〔1〕または〔2〕に記載の圧電材料。
【0010】
〔4〕フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体において、フッ化ビニリデンに由来する構造単位の量は、全構造単位の量に基づいて55~90mol%である、前記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の圧電材料。
【0011】
〔5〕ヤング率が3.1GPa以下である、前記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の圧電材料。
【0012】
本発明の圧電材料用組成物は、
フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体、および
式(I):
【化2】
〔式中、Rは、
水酸基、炭素数1または2のアルキル基、および/または、炭素数1~6のアルコキシ基で置換されていてもよい、炭素数1~10のアルキル基、
少なくとも1つの炭素原子が酸素原子で置換されていてもよい炭素数3~6の脂環式炭化水素基を含む、炭素数3~12の炭化水素基、
アルキレン部分の炭素数が1~4であり、アルキレン部分の1つの-CH
2-が-O-で置換されていてもよいフェニルアルキレン基、または、
-((CH
2)
m-O-)
n-Xで表される基[式中、mは2または3の数を表し、nは1~3の数を表し、Xは水素原子またはメチル基を表す]
を表す〕
で表されるアクリル系モノマーに由来する構造単位を含み、重量平均分子量が100万以上である、アクリル系エラストマー
を含有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の圧電材料は、柔軟性、伸縮性に優れているために、例えばウェアラブルデバイス等の分野において好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明の範囲はここで説明する実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更をすることができる。なお、~で示される数値の範囲は、その上限と下限とを含む。
【0015】
本発明の圧電材料は、フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体および特定のアクリル系エラストマーを含有する。本発明の圧電材料に含まれるフッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体の量は、圧電材料全体に基づいて、好ましくは98~70質量%である。フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体の量が上記の上限値以下であると、柔軟性や伸縮性を高めやすい。また、フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体の量が上記の下限値以上であると、圧電材料の自発分極が低下しにくく、圧電特性を高めやすい。
【0016】
本発明の圧電材料は、フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体および特定のアクリル系エラストマー以外の材料(以下、他の材料という)を含有する態様も含まれる。他の材料としては、フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体および特定のアクリル系エラストマー以外の共重合体やエラストマー、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤、熱伝導性フィラー、導電性フィラー等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0017】
本発明の圧電材料に含まれるアクリル系エラストマーの量は、圧電材料全体に基づいて、好ましくは2~30質量%である。アクリル系エラストマーの量が上記の下限値以上であると、圧電材料の柔軟性および伸縮性を高めやすい。また、アクリル系エラストマーの量が上記の上限値以下であると、相対的に圧電材料中のフッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体の量を大きくでき、圧電材料の自発分極を高めやすく、圧電特性を高めやすい。
【0018】
本発明の圧電材料に含まれるフッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体の量は、本発明の圧電材料に含まれるフッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体およびアクリル系エラストマーの合計重量に基づいて、好ましくは88~96質量%である。フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体の量が上記の下限値以上であると、圧電材料の自発分極が低下しにくく、圧電特性を高めやすい。また、フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体の量が上記の上限値以下であると、柔軟性や伸縮性を高めやすい。
【0019】
本発明の圧電材料用組成物は、
フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体、および、
式(I):
【化3】
〔式中、Rは、
水酸基、炭素数1または2のアルキル基、および/または、炭素数1~6のアルコキシ基で置換されていてもよい、炭素数1~10のアルキル基、
少なくとも1つの炭素原子が酸素原子で置換されていてもよい炭素数3~6の脂環式炭化水素基を含む、炭素数3~12の炭化水素基、
アルキレン部分の炭素数が1~4であり、アルキレン部分の1つの-CH
2-が-O-で置換されていてもよいフェニルアルキレン基、または、
-((CH
2)
m-O-)
n-Xで表される基[式中、mおよびnは、それぞれ、2または3の数を表し、Xは水素原子またはメチル基を表す]
を表す〕
で表されるアクリル系モノマーに由来する構造単位を含み、重量平均分子量が100万以上である、アクリル系エラストマー
を含有する。
【0020】
(アクリル系エラストマー)
本発明の圧電材料に含まれるアクリル系エラストマーは、式(I):
【化4】
〔式中、Rは、
水酸基、炭素数1または2のアルキル基、および/または、炭素数1~6のアルコキシ基で置換されていてもよい、炭素数1~10のアルキル基、
少なくとも1つの炭素原子が酸素原子で置換されていてもよい炭素数3~6の脂環式炭化水素基を含む、炭素数3~12の炭化水素基、
アルキレン部分の炭素数が1~4であり、アルキレン部分の1つの-CH
2-が-O-で置換されていてもよいフェニルアルキレン基、または、
-((CH
2)
m-O-)
n-Xで表される基[式中、mおよびnは、それぞれ2または3の数を表し、Xは水素原子またはメチル基を表す]
を表す〕
で表されるアクリル系モノマーに由来する構造単位を含む。いわば、本発明の圧電材料が含むアクリル系エラストマーは、上記式(I)で示されるアクリル系モノマーを構造単位として含む重合体(ポリマー)である。本発明の圧電材料に含まれるアクリル系エラストマーは、重量平均分子量が100万以上と比較的高いため、各分子鎖は比較的長い分子鎖を有している。このような長い分子鎖を有する高分子が集合体となると、エラストマー特性を有する。
【0021】
圧電材料に上記アクリル系エラストマーを含有させることにより、圧電材料の電気的特性を著しく低下させることなく、圧電材料の柔軟性、伸縮性を高めることができる。この理由は明らかではないが、柔軟性の高いエラストマーを添加して圧電材料の柔軟性や伸縮性を高めようとすると、圧電材料の圧電特性が低下したりする場合がある。本発明では、特定の構造を有し、比較的高い重量平均分子量を有するアクリル系エラストマーを用いることにより、ポリマー鎖の絡み合いが良好であるため、柔軟性および伸縮性と圧電特性を兼ね備え、電気的特性の低下、例えば残留分極の低下を最小限に抑えることができたと考えられる。なお、本発明の圧電材料に含まれるアクリル系エラストマーは、重量平均分子量が100万以上のポリマー鎖が互いに絡み合ってエラストマーの特性を有していると考えられるが、例えば重量平均分子量が100万以上のポリマー鎖が架橋された構造を有するエラストマーであってもよい。
【0022】
上記式(I)中のRは、
(R1)水酸基、炭素数1または2のアルキル基、および/または、炭素数1~6のアルコキシ基で置換されていてもよい、炭素数1~10のアルキル基、
(R2)少なくとも1つの炭素原子が酸素原子で置換されていてもよい炭素数3~6の脂環式炭化水素基を含む、炭素数3~12の炭化水素基、
(R3)アルキレン部分の炭素数が1~4であり、アルキレン部分の1つの-CH2-が-O-で置換されていてもよいフェニルアルキレン基、または、
(R4)-((CH2)m-O-)n-Xで表される基[式中、mおよびnは、それぞれ2または3の数を表し、Xは水素原子またはメチル基を表す]
を表す。
【0023】
(R1)水酸基、炭素数1または2のアルキル基、および/または、炭素数1~6のアルコキシ基で置換されていてもよい、炭素数1~10のアルキル基に関し、アルキル基の炭素数は、低歪特性の観点から、好ましくは1~6、より好ましくは1~4である。本明細書において、アルキル基は直鎖状または分枝状のいずれでもよい。アルキル基の例としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1,1-ジメチルプロピル基、イソアミル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、n-オクチル基等が挙げられる。これら炭素数1~10のアルキル基は、水酸基、炭素数1または2のアルキル基、および/または、炭素数1~6のアルコキシ基で置換されていてよい。
【0024】
水酸基で置換された炭素数1~10のアルキル基の例としては、例えばヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシn-プロピル基、ヒドロキシイソプロピル基、ヒドロキシn-ブチル基、ヒドロキシイソブチル基、ヒドロキシtert-ブチル基などが挙げられる。
【0025】
炭素数1または2のアルキル基で置換された炭素数1~10のアルキル基は、炭素数1~10のアルキル基を主鎖とし、該アルキル基の少なくとも1つの水素原子が炭素数1または2のアルキル基(メチル基またはエチル基)で置換された基である。主鎖となるアルキル基部分の炭素数が1~10であれば、アルキル基全体としての炭素数は10を超えていてもよい。このようなアルキル基の例としては、例えば2-エチルヘキシル基等が挙げられる。なお、アルキル基全体としての炭素数が10を超えない基の場合、該基は、炭素数1~10の分枝状アルキル基の定義にも包含される基である。
【0026】
炭素数1~6のアルコキシ基におけるアルキル基の炭素数は、好ましくは1~4、より好ましくは1~2である。アルコキシ基におけるアルキル基も、直鎖状または分枝状のいずれでもよい。
【0027】
炭素数1~6のアルコキシ基で置換された炭素数1~10のアルキル基は、好ましくは炭素数1~6のアルコキシ基で置換された炭素数1~6のアルキル基である。かかる基の例としては、例えばメトキシエチル基、エトキシエチル基、メトキシブチル基が挙げられる。
【0028】
水酸基および炭素数1~6のアルコキシ基で置換された炭素数1~10のアルキル基としては、例えば炭素数1~6のヒドロキシアルコキシ基および炭素数1~6のアルキル基を有する基、具体的にはヒドロキシメトキシエチル基、ヒドロキシエトキシエチル基、ヒドロキシプロピルオキシプロピル基等が挙げられる。
【0029】
上記アルキル基の中で、入手しやすさの観点から、水酸基および/または炭素数1~2のアルコキシ基で置換されていてよい炭素数1~6のアルキル基が好ましく、水酸基および/または炭素数1~2のアルコキシ基で置換されていてよい炭素数1~4のアルキル基が好ましく、水酸基および/または炭素数1~2のアルコキシ基で置換されていてよい炭素数1~2のアルキル基がさらにより好ましい。
【0030】
(R2)少なくとも1つの炭素原子が酸素原子で置換されていてもよい炭素数3~6の脂環式炭化水素基を含む、炭素数3~12の炭化水素基に関し、炭素数3~6の脂環式炭化水素基としては、例えばシクロヘキサンが挙げられる。
【0031】
少なくとも1つの炭素原子が酸素原子で置換された炭素数3~6の脂環式炭化水素基としては、炭素数3の脂環式炭化水素基の1つの炭素原子が酸素原子で置換されたエポキシ基、炭素数4の脂環式炭化水素基の1つの炭素原子が酸素原子で置換されたオキセタニル環、炭素数5の脂環式炭化水素基の2つの炭素原子が酸素原子で置換されたジオキソラン環、炭素数6の脂環式炭化水素基の2つの炭素原子が酸素原子で置換されたジオキサン環などが挙げられる。なお、これらの環上の水素原子は、炭素数1または2のアルキル基で置換されていてよい。また、炭素数3~6の脂環式炭化水素基を含む炭素数3~12の炭化水素基は、炭素数が1~4であり、1つの-CH2-が-O-で置換されていてもよいアルキレン部分と、上記炭素数3~6の環式炭化水素基部分とを有する基であることが好ましい。この場合、置換基の位置は特に限定されないが、アルキレン部分と環構造とがつながる部分に位置する水素原子が、メチル基またはエチル基で置換されていることが好ましい。また、脂環式炭化水素基の2つの炭素原子が酸素原子に置き換えられている構造を含む場合、2つの酸素原子の間に位置する炭素原子において、少なくとも1つの水素原子が炭素数1または2のアルキル基で置き換えられていることが好ましい。このような基としては、具体的には、3-エチル-3-オキセタニルメチルアクリレート、2-メチル-2-エチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチルアクリレート、環状トリメチロールプロパンホルマールアクリレートなどが挙げられる。
【0032】
(R3)アルキレン部分の炭素数が1~4であり、アルキレン部分の1つの-CH2-が-O-で置換されていてもよいフェニルアルキレン基に関し、かかる基は、好ましくは-(CH2)k-C6H5で表される基、または、-(CH2)k-C6H5〔kは2または3である〕で表される基である。
【0033】
(R4)-((CH2)m-O-)n-Xで表される基[式中、mおよびnは、それぞれ2または3の数を表し、Xは水素原子またはメチル基を表す]としては、好ましくはメトキシエチル基が挙げられる。
【0034】
上記式(I)中のRは、圧電材料の電気的特性、柔軟性、伸縮性、耐変形性を高めやすい観点から、好ましくは水酸基、炭素数1または2のアルキル基、および/または、炭素数1~6のアルコキシ基で置換されていてもよい、炭素数1~10のアルキル基であり、より好ましくは、炭素数1または2のアルキル基で置換されてもよい炭素数2~8のアルキル基であり、特に好ましくは炭素数1または2のアルキル基で置換されてもよい炭素数2~8のアルキル基である。
【0035】
本発明の圧電材料に含まれるアクリル系エラストマーは、上記式(I)で表される1種類の構造単位のみを有していてもよいし、上記式(I)で表される2種以上の構造単位を有していてもよい。また、本発明の圧電材料に含まれるアクリル系エラストマーは、本発明の圧電材料の特性を損なわない範囲で、少なくとも1種の別のモノマーに由来する構造単位を含んでもよい。言い換えると、本発明の圧電材料に含まれるアクリル系エラストマーは、上記式(I)で表される構造単位を与える1種類のアクリル系モノマーの単独重合体であってもよいし、上記式(I)で表される構造単位を与える2種以上のアクリル系モノマーの共重合体であってもよいし、上記式(I)で表される構造単位を与える少なくとも1種のアクリル系モノマーと、少なくとも1種の別のモノマーとの共重合体であってもよい。
【0036】
上記式(I)で表される構造単位を与えるアクリル系モノマーと共重合し得る別のモノマーとしては、例えばカルボキシル基含有モノマー、式(I)で表される構造単位を与えるアクリル系モノマー以外のカルボン酸アルキルエステル系モノマー、アミド基含有モノマー、アリール基含有モノマー、スチレン系モノマー、窒素原子含有モノマー、脂肪酸ビニルエステル系モノマー、ベタインモノマーなどが挙げられる。
【0037】
カルボキシル基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸、クロトン酸などが挙げられる。
【0038】
式(I)で表される構造単位を与えるアクリル系モノマー以外のカルボン酸アルキルエステル系モノマーとしては、例えば、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートなどのアルキル基の炭素数が11~20のアルキルアクリレート、イタコン酸メチル、イタコン酸エチルなどのアルキル基の炭素数が1~4のイタコン酸アルキルエステルなどが挙げられる。
【0039】
アミド基含有モノマーとしては、例えば、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-tert-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-オクチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミドなどのアルキル基の炭素数が1~8であるアルキル(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。
【0040】
アリール基含有モノマーとしては、例えば、ベンジル(メタ)アクリートなどのアリール基の炭素数が6~12であるアリール(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0041】
スチレン系モノマーとしては、例えば、スチレン、α-メチルスチレンなどが挙げられる。
【0042】
窒素原子含有モノマーとしては、例えば、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタムなどが挙げられる。
【0043】
脂肪酸ビニルエステル系モノマーとしては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどが挙げられる。
【0044】
ベタインモノマーとしては、例えば、N-アクリロイルオキシメチル-N,N-ジメチルアンモニウムメチル-α-スルホベタイン、N-メタクリロイルオキシメチル-N,N-ジメチルアンモニウムメチル-α-スルホベタイン、N-アクリロイルオキシメチル-N,N-ジメチルアンモニウムエチル-α-スルホベタイン、N-メタクリロイルオキシメチル-N,N-ジメチルアンモニウムエチル-α-スルホベタイン、N-アクリロイルオキシメチル-N,N-ジメチルアンモニウムプロピル-α-スルホベタイン、N-メタクリロイルオキシメチル-N,N-ジメチルアンモニウムプロピル-α-スルホベタイン、N-アクリロイルオキシメチル-N,N-ジメチルアンモニウムブチル-α-スルホベタイン、N-メタクリロイルオキシメチル-N,N-ジメチルアンモニウムブチル-α-スルホベタイン、N-アクリロイルオキシエチル-N,N-ジメチルアンモニウムメチル-α-スルホベタイン、N-メタクリロイルオキシエチル-N,N-ジメチルアンモニウムメチル-α-スルホベタイン、N-アクリロイルオキシエチル-N,N-ジメチルアンモニウムエチル-α-スルホベタイン、N-メタクリロイルオキシエチル-N,N-ジメチルアンモニウムエチル-α-スルホベタイン、N-アクリロイルオキシエチル-N,N-ジメチルアンモニウムプロピル-α-スルホベタイン、N-メタクリロイルオキシエチル-N,N-ジメチルアンモニウムプロピル-α-スルホベタイン、N-アクリロイルオキシエチル-N,N-ジメチルアンモニウムブチル-α-スルホベタイン、N-メタクリロイルオキシエチル-N,N-ジメチルアンモニウムブチル-α-スルホベタイン、N-アクリロイルオキシプロピル-N,N-ジメチルアンモニウムメチル-α-スルホベタイン、N-メタクリロイルオキシプロピル-N,N-ジメチルアンモニウムメチル-α-スルホベタイン、N-アクリロイルオキシプロピル-N,N-ジメチルアンモニウムエチル-α-スルホベタイン、N-メタクリロイルオキシプロピル-N,N-ジメチルアンモニウムエチル-α-スルホベタイン、N-アクリロイルオキプロピル-N,N-ジメチルアンモニウムプロピル-α-スルホベタイン、N-メタクリロイルオキシプロピル-N,N-ジメチルアンモニウムプロピル-α-スルホベタイン、N-アクリロイルオキシプロピル-N,N-ジメチルアンモニウムブチル-α-スルホベタイン、N-メタクリロイルオキシプロピル-N,N-ジメチルアンモニウムブチル-α-スルホベタイン、N-アクリロイルオキシブチル-N,N-ジメチルアンモニウムメチル-α-スルホベタイン、N-メタクリロイルオキシブチル-N,N-ジメチルアンモニウムメチル-α-スルホベタイン、N-アクリロイルオキシブチル-N,N-ジメチルアンモニウムエチル-α-スルホベタイン、N-メタクリロイルオキシブチル-N,N-ジメチルアンモニウムエチル-α-スルホベタイン、N-アクリロイルオキシブチル-N,N-ジメチルアンモニウムプロピル-α-スルホベタイン、N-メタクリロイルオキシブチル-N,N-ジメチルアンモニウムプロピル-α-スルホベタイン、N-アクリロイルオキシブチル-N,N-ジメチルアンモニウムブチル-α-スルホベタイン、N-メタクリロイルオキシブチル-N,N-ジメチルアンモニウムブチル-α-スルホベタインなどのN-(メタ)アクリロイルオキシアルキル-N,N-ジメチルアンモニウムアルキル-α-スルホベタインなどのスルホベタインモノマーなどが挙げられる。
【0045】
十分な圧電特性を有するアクリル系エラストマーを得やすい観点から、アクリル系エラストマーを製造する際のモノマー成分における式(I)で表されるアクリル系モノマーの含有率は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは93質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上であり、モノマー成分における式(I)で表されるアクリル系モノマーと共重合可能なモノマーの含有率は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは7質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下である。また、式(I)で表されるアクリル系モノマーを用いることによる効果を十分に発現させる観点から、アクリル系エラストマーを製造する際のモノマー成分における式(I)で表されるアクリル系モノマーの含有率は、好ましくは99質量%以下、より好ましくは98質量%以下、さらに好ましくは97質量%以下であり、モノマー成分における式(I)で表されるアクリル系モノマーと共重合可能なモノマーの含有率は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上である。
【0046】
なお、モノマー成分には、本発明の目的を阻害しない範囲内で架橋性モノマーが適量で含まれていてもよい。上述したように、本発明の圧電材料が含むアクリル系エラストマーは、上記式(I)で示されるアクリル系モノマーに由来する構造単位を含む重合体である。架橋性モノマーは、(1)上記式(I)で示されるアクリル系モノマーに由来する構造単位を含む重合体の主鎖に構造単位として含まれて、上記式(I)で示されるアクリル系モノマーを構造単位として含む重合体同士を(架橋)する、および/または、(2)上記式(I)で示されるアクリル系モノマーを構造単位として含む重合体の主鎖には含まれず、上記式(I)で示されるアクリル系モノマーを構造単位として含む重合体の側鎖と結合して、上記式(I)で示されるアクリル系モノマーを構造単位として含む重合体同士を結合(架橋)する。(1)と(2)のいずれの形態においても、アクリル系エラストマーが架橋性モノマーに由来する構造単位を含むことで、上記式(I)で示されるアクリル系モノマーを構造単位として含む複数の重合体が結合し、より分子量の大きい一つの重合体が形成される。
【0047】
架橋性モノマーとしては、例えば、メチレンビスアクリルアミド、メチレンビスメタクリルアミドなどのアルキレン基の炭素数が1~4のアルキレンビス(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリロイル基を2個以上、好ましくは2個有する(メタ)アクリルアミド化合物;エチレンジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、2-n-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリロイル基を2個以上、好ましくは2個または3個有する(メタ)アクリレート化合物;ジアリルアミン、トリアリルアミンなどの炭素-炭素二重結合を2個以上、好ましくは2個または3個有するアミン化合物;ジビニルベンゼン、ジアリルベンゼンなどの炭素-炭素二重結合を2個以上、好ましくは2個または3個有する芳香族化合物などの多官能モノマーが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの架橋性モノマーは、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0048】
本発明の圧電材料に含まれるアクリル系エラストマーの重量平均分子量は、100万以上、好ましくは110万以上、より好ましくは120万以上、さらに好ましくは130万以上、特に好ましくは140万以上である。アクリル系エラストマーの重量平均分子量が100万より小さいと、ポリマー鎖の絡み合いが疎であるため、最終的に得られる圧電材料の歪が大きくなり、圧電材料の柔軟性や伸縮性が損なわれる。アクリル系エラストマーの重量平均分子量が上記の下限値以上であると、伸縮しやすい。また、アクリル系エラストマーの重量平均分子量は、製造のし易さの観点からは、好ましくは400万以下、より好ましくは300万以下、さらに好ましくは200万以下である。
【0049】
アクリル系エラストマーの重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定することができる。測定条件等の詳細は実施例に記載するとおりである。
【0050】
(アクリル系エラストマーの製法)
本発明の圧電材料に含まれるアクリル系エラストマーは、例えば、モノマー成分を重合させることによって得ることができる。
【0051】
モノマー成分を重合させる方法としては、例えば、塊状重合法、溶液重合法、乳化重合法、懸濁重合法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの重合法のうち、低印加電圧で変位量が大きいアクリル系エラストマーを得やすい観点から、塊状重合法および溶液重合法が好ましい。また、重量平均分子量が100万以上であるアクリル系エラストマーを得やすい観点からは、塊状重合法がより好ましい。本発明の圧電材料に含まれるアクリル系エラストマーは、従来のアクリルゴムのように原料のモノマー成分を懸濁重合法によって重合させるのではなく、塊状重合法によって重合させて得たものであることが好ましい。塊状重合法を用いる場合には、伸長性に優れ、低電圧を印加したときに大きい変位量を示す、重量平均分子量が100万以上であるアクリル系エラストマーを容易に調製することができる。
【0052】
モノマー成分を溶液重合法によって重合させる際には、溶媒が用いられる。溶媒としては、非水系有機溶媒が好ましい。非水系有機溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、デカン、流動パラフィンなどの炭化水素系有機溶媒;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系有機溶媒;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系有機溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系有機溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素などの塩化物系有機溶媒;ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジオキサンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの有機溶媒は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。溶媒の量は、当該溶媒の種類によって異なるので一概には限定することができないが、通常、モノマー成分100質量部あたり、100~1000質量部程度であることが好ましい。
【0053】
モノマー成分を重合させる際には、重合開始剤を用いることができる。重合開始剤としては、例えば、光重合開始剤、熱重合開始剤などが挙げられる。これらの重合開始剤のなかでは、(メタ)アクリル系エラストマーに熱履歴を残さないようにする観点から、光重合開始剤が好ましい。
【0054】
光重合開始剤としては、例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、2,2’-ビス(o-クロロフェニル)-4,4’,5,5’-テトラフェニル-1,1’-ビイミダゾール、2,4,6-トリス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(トリクロロメチル)-6-(p-メトキシフェニルビニル)-1,3,5-トリアジン、ジフェニルヨードニウムテトラフルオロボレート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、4,4’-ジtert-ブチルジフェニルヨードニウムテトラフルオロボレート、4-ジエチルアミノフェニルベンゼンジアゾニウムヘキサフルオロホスフェート、ベンゾイン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-2-オン、ベンゾフェノン、チオキサントン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルアシルホスフィンオキシド、トリフェニルブチルボレートテトラエチルアンモニウム、ジフェニル-4-フェニルチオフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、フェニルグリオキシリックアシッドメチルエステル、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、1,2-オクタンジオン,1-[4-(フェニルチオ)-2-(o-ベンゾイルオキシム)]、ビス(η5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)ビス〔2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)フェニルチタニウム〕などの光ラジカル重合開始剤、2,4,6-トリス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(トリクロロメチル)-6-(p-メトキシフェニルビニル)-1,3,5-トリアジン、ジフェニルヨードニウムテトラフルオロボレート、4,4’-ジtert-ブチルジフェニルヨードニウムテトラフルオロボレート、4-ジエチルアミノフェニルベンゼンジアゾニウムヘキサフルオロホスフェート、ジフェニル-4-フェニルチオフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェートなどの光カチオン開環重合開始剤などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの光重合開始剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0055】
熱重合開始剤としては、例えば、ジメチル-2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’-アゾビスイソ酪酸ジメチル、アゾビスジメチルバレロニトリルなどのアゾ系重合開始剤、過酸化ベンゾイル、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過酸化物系重合開始剤などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの重合開始剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0056】
重合開始剤の量は、当該重合開始剤の種類などによって異なるので一概には決定することができないが、通常、モノマー成分100質量部あたり、0.01~20質量部程度であることが好ましい。
【0057】
モノマー成分を重合させる際には、得られるアクリル系エラストマーの分子量を調整するために連鎖移動剤を用いることができる。連鎖移動剤としては、例えば、ラウリルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、チオグリセロールなどのチオール基を有する化合物;次亜リン酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウムなどの無機塩などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの連鎖移動剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。連鎖移動剤の量は、当該連鎖移動剤の種類などによって異なるので一概には決定することができないが、通常、モノマー成分100質量部あたり、0.01~10質量部程度であることが好ましい。
【0058】
モノマー成分を重合させる際の雰囲気は、特に限定がなく、大気中であってもよく、あるいは窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気中であってもよい。
【0059】
モノマー成分を重合させる際の温度は、特に限定がなく、通常、5~100℃程度の温度であることが好ましい。モノマー成分を重合させるのに要する時間は、重合条件によって異なるので一概には決定することができないことから任意であるが、通常、1~20時間程度である。
【0060】
重合反応は、残存しているモノマー成分の量が20質量%以下になった時点で、任意に終了することができる。なお、残存しているモノマー成分の量は、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定することができる。
【0061】
以上のようにしてモノマー成分を重合させることにより、本発明の圧電材料に含まれるアクリル系エラストマーを得ることができる。
【0062】
(フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体)
本発明の圧電材料に含まれるフッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体は、フッ化ビニリデンに由来する構造単位と、トリフルオロエチレンに由来する構造単位とを含む共重合体である。フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体におけるフッ化ビニリデンに由来する構造単位の量は、耐熱性、耐変形性の良い圧電材料を得やすい観点から、全構造単位の量に基づいて、好ましくは55mol%以上、より好ましくは70mol%以上、さらに好ましくは75mol%以上、特に好ましくは80mol%以上、最も好ましくは85mol%以上である。また、上記フッ化ビニリデンに由来する構造単位の量は、圧電特性の良い圧電材料を得る観点から、全構造単位の量に基づいて、好ましくは90mol%以下、より好ましくは86mol%以下である。
【0063】
フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体におけるトリフルオロエチレンに由来する構造単位の量は、圧電特性の良い圧電材料を得る観点から、全構造単位の量に基づいて、好ましくは10mol%以上、より好ましくは14mol%以上である。また、上記トリフルオロエチレンに由来する構造単位の量は、耐熱性の良い圧電材料を得る観点から、全構造単位の量に基づいて、好ましくは45mol%以下、より好ましくは30mol%以下、さらに好ましくは25mol%以下、特に好ましくは20mol%以下である。
【0064】
本発明の圧電材料は、1種類のフッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体を含有してもよいし、2種以上のフッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体を含有してもよい。
【0065】
本発明の圧電材料に含まれるフッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体の粘度平均分子量は、特に限定されないが、破断歪みが大きく壊れにくい圧電材料を得やすい観点から、好ましくは10万/mol以上、より好ましくは30万/mol以上、さらに好ましくは50万/mol以上、さらに好ましくは55万/mol以上、特に好ましくは60万/mol以上、である。粘度平均分子量の上限は特に限定されず、例えば200万/mol以下程度である。粘度平均分子量は、公知の方法により測定できる。圧電材料が上記下限値以上(好ましくは30万/mol以上)の粘度平均分子量を有するフッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体を含む、本発明の好ましい一態様においては、比較的高い重量平均分子量を有するアクリル系エラストマーとのポリマー鎖の絡み合いがさらに良好となると考えられ、その結果、柔軟性、伸縮性に加えて、耐変形性にも優れる圧電材料が得られる。このような圧電材料は、例えばウェアラブルデバイス等の分野において特に好適に使用することができる。
【0066】
本発明の圧電材料に含まれるフッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体には、本発明の効果を損なわない範囲において、フッ化ビニリデンに由来する構造単位およびトリフルオロエチレンに由来する構造単位の他に、フッ化ビニリデンおよび/またはトリフルオロエチレンと共重合し得る他のモノマーに由来する構造単位が含まれていてもよい。他のモノマーの例としては、例えば、アクリル系エラストマーに関して上記に述べた、アクリル系モノマーと共重合し得る別のモノマーが挙げられる。耐熱性と圧電特性に優れる圧電材料を得やすい観点から、フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体におけるフッ化ビニリデンに由来する構造単位およびトリフルオロエチレンに由来する構造単位の含有率は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは93質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上であり、フッ化ビニリデンおよび/またはトリフルオロエチレンと共重合し得る他のモノマーに由来する構造単位の含有率は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは7質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下である。また、他のモノマーによる効果を発揮させやすい観点から、フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体におけるフッ化ビニリデンに由来する構造単位およびトリフルオロエチレンに由来する構造単位の含有率は、好ましくは99質量%以下、より好ましくは98質量%以下、さらに好ましくは97質量%以下であり、フッ化ビニリデンおよび/またはトリフルオロエチレンと共重合し得る他のモノマーに由来する構造単位の含有率は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上である。
【0067】
本発明の圧電材料に含まれるフッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体は、例えば特許文献1に示される組成および分子量からなるものを用いてもよいし、市販されているものを用いてもよい。市販されているフッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体の例としては、例えばPIEZOTECH社製「FC20」、「FC25」、「FC30」が挙げられる。
【0068】
(圧電材料用組成物および圧電材料)
本発明の圧電材料の製造方法は特に限定されないが、例えばフッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体、前記特定のアクリル系エラストマー、および、溶媒を含有する溶液を塗布して乾燥させた後、熱処理し、フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体を結晶化させることにより圧電特性を発生させて製造してよい。なお、乾燥と熱処理とは、同時に行ってもよい。他の例としては、フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体と、前記特定のアクリル系エラストマーを構成するモノマーと、必要に応じて溶媒とを混合する工程と、前記モノマーを重合させて前記特定のアクリル系エラストマーを得る工程と、フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体を結晶化させることにより圧電特性を発生させる工程を含む圧電材料の製造方法が挙げられる。他の例としては、前記特定のアクリル系エラストマーと、フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体を構成するモノマーと、必要に応じて溶媒とを混合する工程と、前記モノマーを重合させて前記フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体を得る工程と、フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体を結晶化させることにより圧電特性を発生させる工程とを含む圧電材料の製造方法が挙げられる。圧電材料を製造するための、フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体、前記特定のアクリル系エラストマー、および、溶媒を含有する溶液を、以下において「圧電材料用組成物」とも称する。圧電材料用組成物には、フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体および前記特定のアクリル系エラストマーのいずれか一方と、他方をそれぞれを構成するモノマーの状態で含む組成物も含まれる。本発明は、圧電材料用組成物も提供する。なお、本明細書において、本発明の圧電材料に含まれるアクリル系エラストマーおよびフッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体に関する記載は、同様に、本発明の圧電材料用組成物に含まれるアクリル系エラストマーおよびフッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体についてもあてはまる。
【0069】
圧電材料用組成物に含まれうる溶媒は、フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体およびアクリル系エラストマーを溶解できる溶媒であれば特に限定されないが、例えばN,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、1-メチル-2-ピロリドン等である。
【0070】
本発明の圧電材料用組成物は、特に限定されないが、例えばフッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体、アクリル系エラストマーおよび必要に応じて溶媒を、必要に応じて加熱しながら混合し、溶媒にフッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体およびアクリル系エラストマーを溶解させて製造してよい。また、フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体、前記特定のアクリル系エラストマーを構成するモノマーおよび溶媒を必要に応じて加熱しながら混合して圧電材料用組成物を製造してもよい。この場合、圧電材料用組成物に含まれる前記特定のアクリル系エラストマーを構成するモノマーを重合させた後で得られるアクリル系エラストマーを含有する組成物も本発明の圧電材料用組成物である。フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体を構成するモノマーと前記特定のアクリル系エラストマーとを含有させた圧電材料用組成物の場合も同様に製造できる。
【0071】
次いで、本発明の圧電材料用組成物を基材上に塗布し、必要に応じて前記特定のアクリル系エラストマーを構成するモノマーまたはフッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体を構成するモノマーを重合させ、乾燥し、熱処理により結晶化させて圧電特性を発生させることにより、本発明の圧電材料を製造することができる。例えば本発明の圧電材料が圧電膜である場合、本発明の圧電材料用組成物を基材表面上に塗布してよい。例えば本発明の圧電材料が圧電ワイヤーである場合、本発明の圧電材料用組成物を、銅線の様な導電性の線材、例えば導電性材料からなる単線に、公知の方法で塗布してよい。
【0072】
塗布された本発明の圧電材料用組成物を乾燥する方法も特に限定されず、大気圧条件下または減圧条件下等において、溶媒が蒸発するような温度で加熱して乾燥させてよい。例えば15~80℃の温度で乾燥を行うことが好ましい。
【0073】
本発明の圧電材料を製造する際の熱処理の温度は、好ましくはフッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体のキュリー点以上融点以下である。加熱時間は、好ましくは30分以上、より好ましくは2時間以上である。このような熱処理を行うことにより、フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体を結晶化させ、圧電特性を発現させることができる。
【0074】
本発明の圧電材料は、圧電膜、圧電ワイヤー、圧電ブロック(塊)であってよい。柔軟性や伸縮性に優れるという本発明の圧電材料の特徴を活かしやすい観点からは、圧電材料は圧電膜であることが好ましい。
【0075】
本発明の圧電材料の電気機械結合係数k31およびktは、十分な圧電特性を得やすい観点から、好ましくはk31が0.03以上かつktが0.1以上、より好ましくはk31が0.045以上かつktが0.15以上、特に好ましくはk31が0.06以上かつktが0.2以上である。電気機械結合係数の測定方法は、実施例に記載するとおりである。
【0076】
本発明の圧電材料のヤング率は、特にウェアラブルデバイス等の分野において要求されるような、優れた柔軟性、伸縮性を得やすい観点から、好ましくは3.1GPa以下、より好ましくは2.9GPa以下、特に好ましくは2.5GPa以下である。ヤング率の測定方法は、実施例に記載するとおりである。ヤング率の下限値は特に限定されないが、圧電材料の寸法安定性を高めやすい観点からは、例えば0.1GPa以上である。
【実施例】
【0077】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、これらの例は本発明を説明するためのものであり、本発明を何ら限定するものではない。また、特記しない限り、例中の「%」および「部」はそれぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。
【0078】
後述する実施例および比較例において、次のポリマーを使用した。
・フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体A1
VDF:TrFE=85:15(モル比)
粘度平均分子量 65万/mol
・フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体A2
VDF:TrFE=75:25(モル比)
粘度平均分子量 35万/mol
・アクリル系エラストマーB1
大阪有機化学工業(株)製「Suave-00」、エチルアクリレートのホモポリマー、重量平均分子量150~160万
【0079】
(アクリル系エラストマーの重量平均分子量)
アクリル系エラストマーの重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定した。具体的には、アクリル系エラストマーをテトラヒドロフランに溶解させて得た0.05~0.1質量%溶液を測定試料として用いた。測定条件は次の通りである。
機器:東ソー(株)製、品番:HLC-8320GPC
カラム:東ソー(株)製、品番:TSKgel GMHHR
溶離液:テトラヒドロフラン
流量:0.6mL/mIn
温度:40℃
検出器:RI
分子量標準:標準ポリスチレン
【0080】
実施例1:圧電材料用組成物1および圧電材料1の製造
フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体(P(VDF/TrFE))A1、5.5617g、アクリル系エラストマーB1、0.2825g、溶媒としてN,N-ジメチルホルムアミド、53.9796gを、栓をしたフラスコ内にて混合し、表1に示す質量比のフッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体A1およびアクリル系エラストマーB1を含有する圧電材料用組成物1を製造した。
【0081】
上記のようにして製造した圧電材料用組成物1を、ガラス基材上に0.9mmの厚さに塗布し、3hPa、65℃で1時間以上加熱して、圧電材料用組成物中の溶媒を乾燥させた。得られた塗膜を、大気下、142℃で2時間加熱して熱処理を行い、フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体を結晶化させ、圧電特性を発現させた。次に、熱処理後の塗膜をガラス基材から剥離し、膜を得た。次いで、抵抗加熱式の真空蒸着機を使用し、気圧5×10-3~5×10-4Paの範囲にてアルミニウムを加熱蒸発させ、膜の両面に電極被膜を形成させた。この様にして得た膜両面の電極間に直接、電圧振幅120MV/m、周波数100mHz以下の三角波交流を6周期印加する条件にて(自社:(株)イデアルスター製、ポーリング処理システムを用いた)分極処理を行い、圧電材料1を得た。以下、物性値の測定方法、算出方法、および評価方法について説明する。
【0082】
(残留分極/抗電界)
残留分極および抗電界は、D(電気変位)-E(電界)ヒステリシス曲線から読み取った。ここでD-Eヒステリシス曲線は、上記の方法で行った分極処理の最終6周期目の値であり、試料への印加電圧とソーヤタワー回路側のコンデンサ間電圧の2種の電圧測定データを、D(電気変位)およびE(電界)へ換算した値をプロットして作成した。
【0083】
(電気機械結合係数)
分極処理後の圧電材料1を、伸び方向(k
31)の電気機械結合係数の測定試料として、30×5mmに切り出した。また厚さ方向(k
t)の電気機械結合係数の測定試料として5×5mmに切り出した。各測定試料について、インピーダンスアナライザ(アジレント・テクノロジー(現キーサイト・テクノロジー)製、4294A)にて1k~110MHzの範囲でアドミタンス-位相データを測定した。得られた測定結果を自由共振のアドミタンス式に適用し、電気機械結合係数を求めた。
具体的には、厚さ方向の場合を例にとると、インピーダンスアナライザで測定したアドミタンスの絶対値および位相の結果と、下記の式の計算値が一致する様に各定数の値を代入し、厚さ方向の電気機械結合係数を算出した。
【数1】
[式中、
C
0=(ε
r×S×ε
0)/t
〔式中、ε
r:比誘電率、ε
0:真空誘電率[F/m]、S:電極面積[m
2]、t:膜厚[m]である〕
K
t:電気機械結合係数、ψ:機械損失、φ:誘電損失、v:音速[m/s]、ω:角速度[rad/s](=2πf、f:周波数[Hz])である。]
【0084】
(破断歪み/ヤング率)
圧電材料1を幅15mm、長さ100mmの大きさの試験片に切断した。引張り試験は、チャック間距離:50mm、引張り速度:50mm/分の条件で、(株)島津製作所製、オートグラフAGS-1kNXを用いて行った。得られた荷重-変位データより破断歪みおよびヤング率を求めた。ここで、標点間距離はチャック間距離とし、ヤング率は応力5~15MPa間のデータを用いて最小二乗法にて算出した。なお、ヤング率が低いことは、圧電材料が柔軟性および伸縮性に優れることを表す。また、破断歪みが大きいことは、圧電材料が応力によって壊れにくく、耐変形性に優れていることを表す。
【0085】
実施例1の圧電材料1について得られた結果を表2に示す。
【0086】
実施例2~4および比較例1~2
表1に示す組成に変えたこと以外は実施例1と同様にして、圧電材料を調製した。得られた圧電材料について同様の測定を行った結果を表2に示す。
【0087】
【0088】