(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-08
(45)【発行日】2023-03-16
(54)【発明の名称】心不全の予防または治療のための医薬組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 15/55 20060101AFI20230309BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20230309BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20230309BHJP
C12N 15/861 20060101ALI20230309BHJP
C12N 15/867 20060101ALI20230309BHJP
C12N 15/869 20060101ALI20230309BHJP
C12N 15/863 20060101ALI20230309BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20230309BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20230309BHJP
A61K 35/761 20150101ALI20230309BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20230309BHJP
A61K 35/763 20150101ALI20230309BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230309BHJP
A61P 9/04 20060101ALI20230309BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230309BHJP
【FI】
C12N15/55 ZNA
C12N15/12
C12N15/864 100Z
C12N15/861 Z
C12N15/867 Z
C12N15/869 Z
C12N15/863 Z
C12N15/63 Z
C12N7/01
A61K35/761
A61K35/76
A61K35/763
A61K48/00
A61P9/04
A61P43/00 105
(21)【出願番号】P 2020517799
(86)(22)【出願日】2018-09-28
(86)【国際出願番号】 KR2018011521
(87)【国際公開番号】W WO2019066548
(87)【国際公開日】2019-04-04
【審査請求日】2021-09-27
(31)【優先権主張番号】10-2017-0127442
(32)【優先日】2017-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】518167273
【氏名又は名称】ベスファジェン・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】BETHPHAGEN INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100165892
【氏名又は名称】坂田 啓司
(72)【発明者】
【氏名】カク・テファン
(72)【発明者】
【氏名】パク・ウジン
【審査官】小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/082701(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0239940(US,A1)
【文献】J. Am. Coll. Cardiol.,2016年,Vol. 67, No. 13,p. 1556-1568
【文献】J. Cardiol.,2015年,Vol. 66,p. 195-200
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00 - 15/90
C07K 14/00 - 14/825
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)SERCA2aタンパク
質をコードするヌクレオチド配列、
および
(ii)CCN5タンパク
質をコードするヌクレオチド配列
を含む、遺伝子コンストラクト。
【請求項2】
SERCA2aタンパク質が配列番号1によって表されるアミノ酸である、請求項1に記載の遺伝子コンストラクト。
【請求項3】
SERCA2aタンパク質をコードするヌクレオチド配列が配列番号2によって表される配列である、請求項2に記載の遺伝子コンストラクト。
【請求項4】
CCN5タンパク質が配列番号3によって表されるアミノ酸である、請求項1~3のいずれかに記載の遺伝子コンストラクト。
【請求項5】
CCN5タンパク質をコードするヌクレオチド配列が配列番号4によって表される配列である、請求項4に記載の遺伝子コンストラクト。
【請求項6】
ヌクレオチド配列(i)と(ii)の間に位置する自己切断配列を含む、請求項1~5のいずれかに記載の遺伝子コンストラクト。
【請求項7】
自己切断配列が、ブタテッショウウイルス-1、ゾセア・アシグナウイルス、ウマ鼻炎Aウイルスまたは口蹄疫ウイルスに由来する2Aペプチドをコードするヌクレオチド配列である、請求項6に記載の遺伝子コンストラクト。
【請求項8】
自己切断配列がブタテッショウウイルス-1に由来する2Aペプチドをコードするヌクレオチド配列である、請求項6に記載の遺伝子コンストラクト。
【請求項9】
自己切断配列が配列番号6によって表されるヌクレオチド配列である、請求項6に記載の遺伝子コンストラクト。
【請求項10】
ヌクレオチド配列(i)および(ii)を、5’から3’の方向で(i)-(ii)の順に含む、請求項1~9のいずれかに記載の遺伝子コンストラクト。
【請求項11】
作動可能に連結したプロモーター配列をさらに含む、請求項1~10のいずれかに記載の遺伝子コンストラクト。
【請求項12】
プロモーターが、サイトメガロウイルスプロモーター、アデノウイルス後期プロモーター、ワクシニアウイルス7.5Kプロモーター、SV40プロモーター、HSV tkプロモーター、RSVプロモーター、EF1アルファプロモーター、メタロチオネインプロモーター、ベータ-アクチンプロモーター、ヒトIL-2遺伝子プロモーター、ヒトIFN遺伝子プロモーター、ヒトIL-4遺伝子プロモーター、ヒトリンホトキシン遺伝子プロモーター、ヒトGM-CSF遺伝子プロモーターならびに合成の筋肉および心臓制限プロモーターからなる群から選択されるいずれか1つである、請求項11に記載の遺伝子コンストラクト。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項に記載の遺伝子コンストラクトを搭載している組換え発現ベクター。
【請求項14】
プラスミドベクターおよびコスミドベクターからなる群から選択されるいずれか1つである、請求項13に記載の組換え発現ベクター。
【請求項15】
請求項1から12のいずれか一項に記載の遺伝子コンストラクトを含む組換えウイルス。
【請求項16】
アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、レトロウイルス、レンチウイルス、単純ヘルペスウイルスおよびワクシニアウイルスからなる群から選択されるいずれか1つである、請求項15に記載の組換えウイルス。
【請求項17】
アデノ随伴ウイルスである、請求項15に記載の組換えウイルス。
【請求項18】
活性成分として、請求項1~12のいずれかに記載の遺伝子コンストラクト、請求項13または14に記載の組換え発現ベクターまたは請求項15~17のいずれかに記載の組換えウイルスを含む、心不全を予防または治療するための医薬組成物。
【請求項19】
SERCA2aタンパク
質をコードするヌクレオチド配列を搭載している発現ベクター、およびCCN5タンパク
質をコードするヌクレオチド配列を搭載している発現ベクターを含む、心不全を予防または治療するための医薬組成物。
【請求項20】
SERCA2aタンパク
質をコードするヌクレオチド配列を含む組換えウイルス、およびCCN5タンパク
質をコードするヌクレオチド配列を含む組換えウイルスを含む、心不全を予防または治療するための医薬組成物。
【請求項21】
(i)SERCA2aタンパク
質をコードするヌクレオチド配列を搭載している発現ベクターを含む医薬組成物、および(ii)CCN5タンパク
質をコードするヌクレオチド配列を搭載している発現ベクターを含む医薬組成物を含む、心不全を予防または治療するための組合せ。
【請求項22】
(i)SERCA2aタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む組換えウイルスを含む医薬組成物、および(ii)CCN5タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む組換えウイルス
を含む医薬組成物を含む、心不全を予防または治療するための組合せ。
【請求項23】
心不全を予防または治療するための医薬組成物の調製のための、請求項1~12のいずれかに記載の遺伝子コンストラクトの使用。
【請求項24】
心不全を予防または治療するための医薬組成物の調製のための、請求項13または14に記載の組換え発現ベクターの使用。
【請求項25】
心不全を予防または治療するための医薬組成物の調製のための、請求項15~17のいずれかに記載の組換えウイルスの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心不全を予防または治療するための医薬組成物に関する。特に、本発明は、SERCA2aタンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列およびCCN5タンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列を含む遺伝子コンストラクト、ならびに活性成分として遺伝子コンストラクトを含む、心不全を予防または治療するための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
心不全(HF)は、血液を入れるかまたは排出する心室のポンプ機能の構造的および機能的障害が原因で複合症状が生じる疾患である。心不全は癌よりも死亡率が高い疾患であり、診断から5年以内の死亡率は50%以上である。心不全の患者数は世界中で3800万人と推定され、その有病率も加齢とともに増加している。しかし、心不全に対する根治療法はなく、現在の治療は疾患の進行を遅らせることができるだけである。したがって、その医療は、多くの治療費を招き、これは、患者に対して大きな負担である(Braunwald E. Lancet, 2015; 385: 812-824)。
【0003】
心不全は、心臓の状態、遺伝的欠陥および全身性疾患に起因する幅広い心疾患によって引き起こされる。心不全の発症に関係している疾患としては、典型的には、虚血性疾患、高血圧性疾患および心臓弁疾患が挙げられ、原発性心筋症、アミロイド症を含めた続発性心筋症、先天性心疾患、心膜疾患などのも挙げられ、これらは、遺伝的原因または後天的原因が理由で発生する(Maron BJ. et al., Circulation., 2006; 113: 1807-1816)。様々な心疾患から発生する心不全は、心臓の構造変化および機能不全につながる病的心臓リモデリングをもたらす。特に、リモデリングに関して、心筋細胞のサイズ、形および機能の変化によって引き起こされる細胞レベルでのリモデリング、および細胞外基質(ECM)の過剰な蓄積に起因する心臓組織の線維化によって引き起こされる組織レベルでのリモデリングが存在する。そのような病的心臓リモデリングは、心筋細胞における転写的、シグナリング的、構造的、電気生理学的および機能的役割の疾患関連変化をともなう。
【0004】
心筋細胞外基質(ECM)は、心筋細胞の効率的な収縮および弛緩のための機械的機能を支持し、心筋内の微小環境において、力の適切な伝達、電気信号伝達、細胞間情報伝達、代謝産物の交換などを促進する役割を果たす精巧な構造体である。心臓壁におけるストレスの増大、損傷および疾患は、細胞外基質において線維化の進行をもたらし、それによって、心筋細胞および筋線維の運動機能、例えば、収縮および弛緩に対して損傷を引き起こす(Li AH. et al., Circ Res., 2014; 114(5): 916-27)。
【0005】
さらに、病的リモデリングは、心筋の収縮および弛緩の機能不全、ならびに心筋細胞の消失をもたらす。細胞レベルでの心筋細胞の肥大および死は、心筋の興奮収縮連関に影響を及ぼし、心筋細胞収縮、細胞生存、エネルギー代謝および酸化ストレスに関係するミトコンドリア機能を調節する分子メカニズムにおいて病的変化ももたらす(Koitabashi N., et al., Nat. rev. Cardiol., 2012; 9:147-157)。
【0006】
心臓組織は、病的構造変化、例えば、筋線維芽細胞の生成および線維化の促進、血管平滑筋の硬化、血管内皮細胞の機能不全ならびに免疫細胞の炎症作用を受ける。細胞レベルでのそのような疾患の進行は、統合されたプロセス、例えば、心筋細胞の肥大および死、血管の喪失、線維化、炎症、代謝機能不全および電気生理学的リモデリングを介して組織レベルでのリモデリングにつながり、それによって、心不全を引き起こす(Burchfield JS et al., Circulation. 2013; 128: 388-400)。
【0007】
この40年間、心不全患者に対する治療として、神経ホルモン遮断薬が使用されている。しかし、症状を軽減し、心臓の過負荷されたストレスを低下させるという心不全治療の有効性にもかかわらず、心不全患者の予後は極めて不良であり、心不全患者の死亡率は発症の5年後に50%に達し、発症の10年後に90%に達する。さらに、心不全が激しく進行する場合では、心臓補助装置および心臓移植以外の治療方法はない。したがって、心不全に対する根治療法および心臓を回復させるための新規療法の開発が緊急に必要である。
【0008】
新規療法に関して、近年、治療の開発が活発に行われている分野としては、疾患関連シグナリングシステムを調節する、薬物、細胞療法、miRNAおよび遺伝子療法が挙げられる。上記の治療の中で、いくつかの薬物は、動物の心不全疾患モデルにおいて、または小規模の第II相臨床試験において、効果的であることが報告されている(Braunwald E. Lancet, 2015; 385: 812-824, VonLueder TG. et al., Nat. Rev. Cardiol., 2015; 12: 730-740)。
【0009】
特に、心疾患の疾患機構を遺伝子レベルで理解すること、治療遺伝子の発見、遺伝子媒体についての設計およびパッケージング技法、デリバリー技法の急速な開発などの理由で、動物における心疾患の治療についての様々な前臨床試験が行われている(Gorski PA, et al. Cell Metabol. 2015; 21: 183-194)。
【0010】
近年では、多数の研究によって、心不全動物モデルへのSERCA2a遺伝子のデリバリーが生存率の増加および心臓収縮性の増大をもたらすことが報告されている。しかし、250人もの多数の臨床患者が参加する、SERCA2a、AAV-SERCA2aを発現する組換えアデノ随伴ウイルス(adeno-associated virus)を用いる第IIb相臨床試験において、心不全の遺伝子療法は、ブタ、ヒツジ、イヌ、さらに霊長類における実験結果と異なり、妥当な臨床的有用性を示さなかった(Rincon M Y. et al., Cardiovas. Res., 2015; 108: 4-20)。
【0011】
心不全の治療のための薬物の開発においてでさえ、第II相臨床試験で治療効果を示した新薬が、期待される有効性未満しか示さないか、または第III相臨床試験で失敗に終わる場合が報告されている(Vaduganathan M, et al., Nat. Rev. Cardiol., 2013; 10: 85-97)。
【0012】
心不全のための現在の治療は、症状を軽減すること、および心臓の過負荷されたストレスを低下させることに焦点を合わせている。しかし、治療の有効性にもかかわらず、心不全患者の予後は極めて悲観的であり、心不全患者の死亡率は発症の5年後に50%に達し、発症の10年後に90%に達する。心不全のための治療を開発する分野で新たに理解された疾患機構の中で、心臓のポンプ機能に直接的に影響を及ぼす線維化をともなう心臓リモデリングと心筋細胞の損傷がお互いに相互作用し、その結果、これらは密接に関連して、疾患の発生、進行および予後に影響を及ぼし、悪循環を作ることが見出された。
【0013】
したがって、単一の薬物標的または疾患機構の治療は、心不全の治療において不十分な結果を引き起こし得るので、細胞レベルで機能的回復を達成するために、および心臓の組織学的リモデリングを治療するために、新規の複合治療に関する研究が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明者らは心不全のための効果的な治療を開発するために研究し、その結果、SERCA2aタンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列およびCCN5タンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列をそれぞれが含む、遺伝子コンストラクト、発現ベクターおよび組換えウイルスが、心不全が複数の病因によって誘導されているマウスモデルにおいて、心不全によって引き起こされる機能不全に対して相乗的治療効果を示すことを確認し、それによって、本発明を完成させた。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一態様では、(i)SERCA2aタンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列、および(ii)CCN5タンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列を含む遺伝子コンストラクトが提供される。
【0016】
本発明の別の態様では、遺伝子コンストラクトが搭載された組換え発現ベクターが提供される。
【0017】
本発明のさらに別の態様では、遺伝子コンストラクトを含む組換えウイルスが提供される。
【0018】
本発明のさらになお別の態様では、活性成分として、遺伝子コンストラクト、組換え発現ベクターまたは組換えウイルスを含む、心不全を予防または治療するための医薬組成物が提供される。
【0019】
本発明のさらになお別の態様では、対象に医薬組成物を投与する工程を含む、心不全を予防または治療するための方法が提供される。
【0020】
本発明のさらになお別の態様では、SERCA2aタンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列を搭載している発現ベクター、およびCCN5タンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列を搭載している発現ベクターを含む、心不全を予防または治療するための医薬組成物が提供される。
【0021】
本発明のさらになお別の態様では、SERCA2aタンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列を含む組換えウイルス、およびCCN5タンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列を含む組換えウイルスを含む、心不全を予防または治療するための医薬組成物、が提供される。
【0022】
本発明のさらになお別の態様では、(i)SERCA2aタンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列を搭載している発現ベクター、および(ii)CCN5タンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列を搭載している発現ベクターを対象に投与する工程を含む、心不全を予防または治療するための方法が提供される。
【0023】
本発明のさらになお別の態様では、(i)SERCA2aタンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列を含む組換えウイルス、および(ii)CCN5タンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列を含む組換えウイルスを対象に投与する工程を含む、心不全を予防または治療するための方法が提供される。
【発明の効果】
【0024】
心不全の共通の特徴は、心筋細胞が消失し、心臓組織の線維化が進行し、心臓のこの構造的リモデリングが心臓ポンプの機能不全を引き起こすことである。しかし、心筋細胞の消失および心臓組織の線維化は、疾患進行の段階によって変動する可能性があり、お互いに相互作用して悪循環を示す可能性がある。したがって、心筋細胞の消失と心臓組織の線維化を同時に治療することが最も効果的な治療であり得る。
【0025】
心不全を予防および治療するための本発明の医薬組成物は、SERCA2aタンパク質とCCN5タンパク質が同時に発現するようなものである。医薬組成物は、SERCA2aタンパク質によって達成される、心筋細胞の消失の予防およびその活性の増大、ならびにCCN5タンパク質によって達成される、心臓の細胞および組織の線維化の予防を介して、相乗的治療効果を発揮することができ、それにより、様々な病因によって誘導される複合疾患である心不全の予防または治療に効果的に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1a】
図1aはpTR-CMV-SERCA2aベクターの構造を図示する。
【
図1b】
図1bはpTR-CMV-CCN5ベクターの構造を図示する。
【
図1c】
図1cはpTR-CMV-SERCA2a-P2A-CCN5ベクターの構造を図示する。
【
図1d】
図1dはpTR-CMV-CCN5-P2A-SERCA2aベクターの構造を図示する。
【
図2a】
図2aは、pTR-CMV-SERCA2a、pTR-CMV-CCN5およびpTR-CMV-SERCA2a-P2A-CCN5の細胞内発現および細胞外発現についての結果を図示する。
【
図2b】
図2bは、pTR-CMV-SERCA2a-P2A-CCN5またはpTR-CMV-CCN5-P2A-SERCA2aで形質転換された細胞で発現させたSERCA2aタンパク質のCa
2+再取り込み活性を比較した結果を図示する(n=5、
**<0.01)。
【
図2c】
図2cは、pTR-CMV-SERCA2a-P2A-CCN5またはpTR-CMV-CCN5-P2A-SERCA2aで形質転換された細胞におけるSERCA2aタンパク質およびCCN5タンパク質の発現レベルについての結果を図示する。
【
図3】心不全が虚血再灌流障害によって誘導されているマウスを使用する動物実験の概念図を図示する。
【
図4a】
図4aは、AAV9-対照、AAV9-SERCA2a、AAV9-CCN5、AAV9-SERCA2a+AAV9-CCN5組換えウイルスを心不全が虚血再灌流障害によって誘導されているマウスに投与することによって得られた、心臓組織におけるSERCA2aタンパク質およびCCN5タンパク質の発現を確認した結果を図示する。
【
図4b】
図4bは、AAV9-対照、AAV9-SERCA2a、AAV9-CCN5、AAV9-SERCA2a+AAV9-CCN5組換えウイルスを心不全が虚血再灌流障害によって誘導されているマウスに投与することによって得られた、心臓組織(n=5、
*<0.05、
**<0.01)におけるSERCA2aタンパク質の発現レベルを比較した結果を図示する。
【
図4c】
図4cは、AAV9-対照、AAV9-SERCA2a、AAV9-CCN5、AAV9-SERCA2a+AAV9-CCN5組換えウイルスを心不全が虚血再灌流障害によって誘導されているマウスに投与することによって得られた、心臓組織(n=5、
**<0.01)におけるCCN5タンパク質の発現レベルを比較した結果を図示する。
【
図5】
図5は、AAV9-対照、AAV9-SERCA2a、AAV9-CCN5、AAV9-SERCA2a+AAV9-CCN5組換えウイルスを心不全が虚血再灌流障害によって誘導されているマウスに投与することによって得られた、マウスから摘出した心臓を示す写真を図示する。赤線で印を付けた領域は、心臓組織が梗塞している領域を示す。
【
図6】
図6は、AAV9-対照、AAV9-SERCA2a、AAV9-CCN5、AAV9-SERCA2a+AAV9-CCN5組換えウイルスを心不全が虚血再灌流障害によって誘導されているマウスに投与し、ピクロシリウスレッド方法を使用して心臓組織の横断面を染色することによって得られた、マウスから摘出した心臓を示す写真を図示する。赤線で印を付けた領域は、心臓組織が経壁的に梗塞している領域を示す。
【
図7】
図7は、AAV9-対照、AAV9-SERCA2a、AAV9-CCN5、AAV9-SERCA2a+AAV9-CCN5組換えウイルスを心不全が虚血再灌流障害によって誘導されているマウスに投与することによって得られた、摘出した心臓(n=5、
*<0.05、
**<0.01)における梗塞巣の比率を定量化した結果を図示する。
【
図8】
図8は、AAV9-対照、AAV9-SERCA2a、AAV9-CCN5、AAV9-SERCA2a+AAV9-CCN5組換えウイルスを心不全が虚血再灌流障害によって誘導されているマウスに投与し、次いで、心エコー検査を行うことによって得られた、短縮率(n=5、
*<0.05、
**<0.01、
***<0.001)を示す結果を図示する。
【
図9a】
図9aは、AAV9-対照、AAV9-SERCA2a、AAV9-CCN5、AAV9-SERCA2a+AAV9-CCN5組換えウイルスを心不全が虚血再灌流障害によって誘導されているマウスに投与し、次いで、血行動態を測定することによって得られた、収縮末期圧容量関係(ESPVR)(n=5、
*<0.05、
**<0.01、
***<0.001)を示す結果を図示する。
【
図9b】
図9bは、AAV9-対照、AAV9-SERCA2a、AAV9-CCN5、AAV9-SERCA2a+AAV9-CCN5組換えウイルスを心不全が虚血再灌流障害によって誘導されているマウスに投与し、次いで、血行動態を測定することによって得られた、拡張末期圧容量関係(EDPVR)(n=5、
*<0.05、
**<0.01)を示す結果を図示する。
【
図10】
図10は、心不全が大動脈縮窄術によって誘導されているマウスを使用する動物実験の概念図を図示する。
【
図11a】
図11aは、AAV9-対照、AAV9-SERCA2a、AAV9-CCN5、AAV9-SERCA2a-P2A-CCN5組換えウイルスを心不全が大動脈縮窄術によって誘導されているマウスに投与することによって得られた、心臓組織におけるSERCA2aタンパク質およびCCN5タンパク質の発現を確認した結果を図示する。
【
図11b】
図11bは、AAV9-対照、AAV9-SERCA2a、AAV9-CCN5、AAV9-SERCA2a-P2A-CCN5組換えウイルスを心不全が大動脈縮窄術によって誘導されているマウスに投与することによって得られた、心臓組織(n=5、
*<0.05、
**<0.01)におけるSERCA2aタンパク質の発現レベルを比較した結果を図示する。
【
図11c】
図11cは、AAV9-対照、AAV9-SERCA2a、AAV9-CCN5、AAV9-SERCA2a-P2A-CCN5組換えウイルスを心不全が大動脈縮窄術によって誘導されているマウスに投与することによって得られた、心臓組織(n=5、
**<0.01)におけるCCN5タンパク質の発現レベルを比較した結果を図示する。
【
図12】
図12は、AAV9-対照、AAV9-SERCA2a、AAV9-CCN5、AAV9-SERCA2a-P2A-CCN5組換えウイルスを心不全が大動脈縮窄術によって誘導されているマウスに投与し、マッソン-3色染色方法を使用して心臓組織の横断面を染色することによって得られた、マウスから摘出した心臓を示す写真を図示する。
【
図13】
図13は、AAV9-対照、AAV9-SERCA2a、AAV9-CCN5、AAV9-SERCA2a-P2A-CCN5組換えウイルスを心不全が大動脈縮窄術によって誘導されているマウスに投与し、次いで、心エコー検査を行うことによって得られた、短縮率(n=5、
*<0.05、
**<0.01)を示す結果を図示する。
【
図14a】
図14aは、AAV9-対照、AAV9-SERCA2a、AAV9-CCN5、AAV9-SERCA2a-P2A-CCN5組換えウイルスを心不全が大動脈縮窄術によって誘導されているマウスに投与し、次いで、血行動態を測定することによって得られた、収縮末期圧容量関係(ESPVR)(n=5、
*<0.05、
**<0.01)を示す結果を図示する。
【
図14b】
図14bは、AAV9-対照、AAV9-SERCA2a、AAV9-CCN5、AAV9-SERCA2a-P2A-CCN5組換えウイルスを心不全が大動脈縮窄術によって誘導されているマウスに投与し、次いで、血行動態を測定することによって得られた、拡張末期圧容量関係(EDPVR)(n=5、
*<0.05、
**<0.01)を示す結果を図示する。
【
図15】心不全がアンギオテンシンII(AngII)の注入によって誘導されているマウスを使用する動物実験の概念図を図示する。
【
図16a】
図16aは、AAV9-対照、AAV9-SERCA2a、AAV9-CCN5、AAV9-SERCA2a-P2A-CCN5組換えウイルスを心不全がアンギオテンシンIIの注入によって誘導されているマウスに投与することによって得られた、心臓組織におけるSERCA2aタンパク質およびCCN5タンパク質の発現を確認した結果を図示する。
【
図16b】
図16bは、AAV9-対照、AAV9-SERCA2a、AAV9-CCN5、AAV9-SERCA2a-P2A-CCN5組換えウイルスを心不全がアンギオテンシンIIの注入によって誘導されているマウスに投与することによって得られた、心臓組織(n=5、
**<0.01)におけるSERCA2aタンパク質の発現レベルを比較した結果を図示する。
【
図16c】
図16cは、AAV9-対照、AAV9-SERCA2a、AAV9-CCN5、AAV9-SERCA2a-P2A-CCN5組換えウイルスを心不全がアンギオテンシンIIの注入によって誘導されているマウスに投与することによって得られた、心臓組織(n=5、
*<0.05、
**<0.01)におけるCCN5タンパク質の発現レベルを比較した結果を図示する。
【
図17】
図17は、AAV9-対照、AAV9-SERCA2a、AAV9-CCN5、AAV9-SERCA2a-P2A-CCN5組換えウイルスを心不全がアンギオテンシンIIの注入によって誘導されているマウスに投与し、マッソン-3色染色方法を使用して心臓組織の横断面を染色することによって得られた、マウスから摘出した心臓を示す写真を図示する。
【
図18】
図18は、AAV9-対照、AAV9-SERCA2a、AAV9-CCN5、AAV9-SERCA2a-P2A-CCN5組換えウイルスを心不全がアンギオテンシンIIの注入によって誘導されているマウスに投与し、次いで、心エコー検査を行うことによって得られた、左室壁厚(n=5、
*<0.05、
***<0.01)を示す結果を図示する。
【
図19】
図19は、AAV9-対照、AAV9-SERCA2a、AAV9-CCN5、AAV9-SERCA2a-P2A-CCN5組換えウイルスを心不全がアンギオテンシンIIの注入によって誘導されているマウスに投与し、次いで、心エコー検査を行うことによって得られた、短縮率(n=5、
*<0.05、
**<0.01)を示す結果を図示する。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の一態様では、(i)SERCA2aタンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列、および(ii)CCN5タンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列、を含む遺伝子コンストラクトが提供される。ここで、ヌクレオチド配列はmRNAの形態でもよい。
【0028】
本明細書で使用する場合、筋小胞体カルシウムATPase 2aの省略形である、用語「SERCA2aタンパク質」は、ATPエネルギーを使用して筋小胞体中へのカルシウムの再取り込みを引き起こすように機能するタンパク質を指す。特に、SERCA2aタンパク質は、配列番号1によって表されるアミノ酸配列を有することができる。さらに、SERCA2aタンパク質をコードするヌクレオチド配列は、配列番号2または配列番号13によって表される配列でもよい。
【0029】
さらに、SERCA2aタンパク質の断片は、断片がSERCA2aタンパク質の活性を維持する限り、野生型SERCA2aのN末端および/またはC末端の一部のトランケーションによって得られるものでもよい。特に、SERCA2aタンパク質の断片は、N末端またはC末端から1~100個、1~50個、1~20個または1~10個のアミノ酸のトランケーションによって得られるものでもよい。
【0030】
本明細書で使用する場合、用語「CCN5タンパク質」は、血管疾患誘導、血管新生、腫瘍発生、線維化疾患誘導、細胞分化および生存などの細胞機能の調節において様々な役割を果たすCCNファミリーに属するマトリックス細胞タンパク質を指す。CCN5タンパク質は、他のCCNファミリータンパク質と異なって、C末端ドメインがなく、WISP-2、HICP、Cop1、CTGF-Lなどとも呼ばれる。さらに、CCN5タンパク質は、250アミノ酸を有する単一ポリペプチド鎖からなる。N末端にある22アミノ酸の分泌性リーダー配列のために、CCN5タンパク質は細胞外へ分泌され、シグナルタンパク質として機能する。
【0031】
特に、CCN5タンパク質は、配列番号3によって表されるアミノ酸配列を有し得る。さらに、CCN5タンパク質をコードするヌクレオチド配列は、配列番号4または配列番号14によって表される配列でもよい。
【0032】
さらに、CCN5タンパク質の断片は、断片がCCN5タンパク質の活性を維持する限り、野生型CCN5のN末端および/またはC末端の一部のトランケーションにより得ることができる。特に、CCN5タンパク質の断片は、N末端またはC末端から1~30個、1~20個、1~10個または1~5個のアミノ酸のトランケーションによって、得ることができる。
【0033】
遺伝子コンストラクトは、ヌクレオチド配列(i)とヌクレオチド配列(ii)の間に位置する自己切断配列をさらに含むことができる。自己切断配列は、ピコルナウイルス(Picornaviridae)、イフラウイルス(Iflaviruses)、テトラウイルス(Tetraviridae)およびジシストロウイルス(Discistroviridae)などのプラス鎖RNAウイルスに由来する2Aペプチド配列、またはロタウイルス(Rotaviruses)、サイポウイルス(Cypoviruses)およびトティウイルス(Totiviridae)などの二本鎖RNAウイルスに由来する2Aペプチド配列でもよい(Garry A Luke, et al Journal of General Virology, 2008; 89: 1036-1042)。
【0034】
研究で一般に広く使用されている、ブタテッショウウイルス(porcine teschovirus)-1、ゾセア・アシグナウイルス(Thosea asigna virus)、ウマ鼻炎Aウイルス(equine rhinitis A virus)または口蹄疫ウイルス(foot-and-mouth disease virus)に由来する2Aペプチドをコードするヌクレオチド配列は、SERCA2aタンパク質またはその断片をコードするヌクレオチドとCCN5タンパク質またはその断片をコードするヌクレオチドの間に存在してもよい。特に、自己切断配列は、限定されないが、ブタテッショウウイルス-1に由来する2Aペプチドをコードするヌクレオチド配列でもよい。さらに、自己切断配列は、配列番号6によって表されるヌクレオチド配列でもよい。
【0035】
ブタテッショウウイルス-1に由来する2Aペプチドをコードするヌクレオチド配列は、配列番号5によって表されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列でもよい。さらに、配列番号5によって表されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列は、配列番号6によって表されるヌクレオチド配列でもよい。
【0036】
ゾセア・アシグナウイルスに由来する2Aペプチドをコードするヌクレオチド配列は、配列番号7によって表されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列でもよい。さらに、配列番号7によって表されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列は、配列番号8によって表されるヌクレオチド配列でもよい。
【0037】
ウマ鼻炎Aウイルスに由来する2Aペプチドをコードするヌクレオチド配列は、配列番号9によって表されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列でもよい。さらに、配列番号9によって表されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列は、配列番号10によって表される配列でもよい。
【0038】
口蹄疫ウイルスに由来する2Aペプチドをコードするヌクレオチド配列は、配列番号11によって表されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列でもよい。さらに、配列番号11によって表されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列は、配列番号12によって表されるヌクレオチド配列でもよい。
【0039】
代表的な自己切断配列である2Aペプチド配列を除いては、様々な自己切断配列が存在し、これらには、プラス鎖RNAウイルスの中では、哺乳動物中に存在するピコルナウイルス2A配列[例えば、脳心筋炎ウイルス(Encephalomyocaditis virus)、タイラーマウス脳脊髄炎ウイルス(Theiler’s murine encephalomyelitis virus)、タイラー様ウイルス(Theiler’s-like virus)、サフォードウイルス(Saffold virus)、ウマ鼻炎Bウイルス(equine rhinitis B virus)、ウシライノウイルス(bovine rhinovirus)、ユンガンウイルス(Ljungan virus)、セネカバレーウイルス(Seneca Valley virus)、アヒル肝炎ウイルス(duck hepatitis virus)に由来する]、および昆虫中に存在する、イフラウイルス[例えば、伝染性軟化病ウイルス(infectious flacherie virus)、エクトロピスオブリカピコルナ様ウイルス(Ectropisobliqua picorna-like virus)、スキバドクガピコルナ様ウイルス(Perina nuda picorna-like virus)]、テトラウイルス[例えば、ユープロステルナエラエアサウイルス(Euprosterna elaeasa virus)、プロビデンスウイルス(Providence virus)]、またはジシストロウイルス(Dicistroviridae)[例えば、クリケット麻痺ウイルス(cricket paralysis virus)、ショウジョウバエCウイルス(Drosophila C virus)、急性蜂麻痺ウイルス(Acute bee paralysis virus)、カシミール蜂ウイルス(Kashmir bee virus)、イスラエル急性蜂麻痺ウイルス(Israeli acute bee paralysis virus)]に由来する2A配列が含まれる。さらに、二本鎖RNAウイルスの中では、その例としては、哺乳動物中に存在するロタウイルス2A配列(例えば、ブタロタウイルスA、ウシロタウイルスC、ヒトロタウイルスC、成人下痢症ウイルスに由来する)、昆虫中に存在するサイポウイルス2A配列[例えば、カイコ細胞質多角体病ウイルス(Bombyx mori cytoplasmic polyhedrosis virus)、マイマイガサイポウイルス(Lymantria dispar cypovirus)、デンドロリムスプンクタツスサイポウイルス(Dendrolimus punctatus cypovirus)、ナミスジフユナミシャクサイポウイルス(Operophtera brumata cypovirus)に由来する]、およびクルマエビ中に存在するトティウイルス2A配列[例えば、伝染性筋壊死症ウイルス(infectious myonecrosis virus)に由来する]を挙げることができる。したがって、様々な2A配列が存在する可能性があり、それらは上記に限定されない。
【0040】
さらに、遺伝子コンストラクトにおいて、ヌクレオチド配列(i)および(ii)は、5’から3’の方向で、(i)-(ii)の順に含まれ得る。遺伝子コンストラクトの一実施形態であるSERCA2a-P2A-CCN5が細胞中で発現する場合、SERCA2aタンパク質は筋小胞体膜中に挿入され得、CCN5タンパク質は細胞外へ分泌され得る。さらに、本発明の遺伝子コンストラクトの一実施形態であるCCN5-P2a-SERCA2aが細胞中で発現する場合、SERCA2aタンパク質は筋小胞体膜中に挿入され得、CCN5タンパク質は細胞外へ分泌され得る。
【0041】
さらに、(i)または(ii)の遺伝子コンストラクトは、それらに作動可能に連結したプロモーター配列を含むことができる。
【0042】
本明細書で使用する場合、用語「に作動可能に連結した」は、ヌクレオチド発現調節配列(例えば、プロモーター、シグナル配列または一連の転写因子結合部位)と他のヌクレオチド配列の間の機能的連結を指す。調節配列は、他のヌクレオチド配列の転写および/または翻訳を調節する。
【0043】
特に、SERCA2aタンパク質またはCCN5タンパク質をコードするヌクレオチド配列に連結したプロモーターは、動物細胞で、好ましくは哺乳類細胞で、SERCA2a遺伝子またはCCN5遺伝子の転写を調節するように作動し得る。プロモーターとしては、哺乳類ウイルスに由来するプロモーターおよび哺乳類細胞のゲノムに由来するプロモーターを挙げることができる。さらに、プロモーターとしては、筋肉および心臓特異的発現を増大することを目的とした、哺乳類細胞のゲノム配列の組み合わせによって得られた合成プロモーター(合成の筋肉および心臓制限プロモーター、SPC5-12)が挙げられる。プロモーターは、心臓細胞において特異的に作動することができ、任意の細胞で作動することもできる。
【0044】
一実施形態では、プロモーターは、i)プロモーター-SERCA2a-P2A-プロモーター-CCN5、ii)プロモーター-CCN5-P2A-SERCA2a、iii)プロモーター-SERCA2a-P2A-CCN5、またはiv)プロモーター-CCN5-P2A-SERCA2aの形態で連結され得る。
【0045】
プロモーターは、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、アデノウイルス後期プロモーター、ワクシニアウイルス7.5Kプロモーター、SV40プロモーター、HSV tkプロモーター、RSVプロモーター、EF1アルファプロモーター、メタロチオネインプロモーター、ベータ-アクチンプロモーター、ヒトIL-2遺伝子プロモーター、ヒトIFN遺伝子プロモーター、ヒトIL-4遺伝子プロモーター、ヒトリンホトキシン遺伝子プロモーターおよびヒトGM-CSF遺伝子プロモーター、ならびに合成の筋肉および心臓制限プロモーター(SPC5-12)からなる群から選択されるいずれか1つでもよい。しかし、プロモーターはこれらに限定されない。特に、プロモーターはCMVプロモーターでもよい。
【0046】
さらに、本発明の遺伝子コンストラクトは、リポソームを使用して細胞中にデリバリーされ得る。リポソームは、水性相中に分散したリン脂質によって自動的に形成され、SERCA2a遺伝子およびCCN5遺伝子を含むリポソームは、エンドサイトーシス、細胞表面への吸着または血漿細胞膜との融合などの機構を介して、細胞と相互作用することができ、それによって、SERCA2a遺伝子およびCCN5遺伝子を細胞中にデリバリーする。
【0047】
本発明では、本発明の医薬組成物が、遺伝子コンストラクトを含むウイルスベクターに基づいて調製される場合、医薬組成物を投与する方法は、当技術分野で既知のウイルス感染方法に従って行うことができる。さらに、本発明では、遺伝子コンストラクトが裸の組換えDNA分子またはプラスミド中に含まれる場合、遺伝子を細胞中に導入するために、マイクロインジェクション方法、リポソーム媒介トランスフェクション方法、DEAE-デキストラン処理方法および遺伝子銃方法を使用することができる。
【0048】
本発明の別の態様では、遺伝子コンストラクトを搭載している組換え発現ベクターが提供される。
【0049】
本明細書で使用する場合、用語「発現ベクター」は、標的宿主細胞中で標的タンパク質を発現することができる組換えベクターを指し、組換えベクターは、遺伝子挿入断片が発現するように遺伝子挿入断片に作動可能に連結した必須調節エレメントを含む遺伝子コンストラクトである。
【0050】
さらに、発現ベクターは、細胞がタンパク質分泌をしやすくするために、シグナル配列を含むことができる。特定の開始シグナルも、挿入された核酸配列の効率的な翻訳に必要とされ得る。こうしたシグナルは、ATG開始コドンおよび連続する配列を含む。適切な転写または翻訳増強エレメントの導入によって、発現効率を高めることができる。
【0051】
発現ベクターは、プラスミドベクターおよびコスミドベクターからなる群から選択されるいずれか1つでもよい。
【0052】
プラスミドベクターとしては、限定されないが、市販のプラスミド、例えば、pUC18、pBADおよびpIDTSAMRT-AMPを挙げることができる。
【0053】
本発明のさらに別の態様では、遺伝子コンストラクトを含む組換えウイルスが提供される。
【0054】
ウイルスは、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、レトロウイルス、レンチウイルス、単純ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルスなどからなる群から選択されるいずれか1つでもよい。特に、ウイルスは、限定されないが、アデノ随伴ウイルスでもよい。
【0055】
アデノウイルスは、その中型のゲノム、操作の容易さ、高力価、広い標的細胞範囲および優れた感染力が理由で、遺伝子導入ベクターとして広く使用されている。そのゲノムは、DNA複製およびパッケージングに必須のシスエレメントである100~200bpの逆位末端配列(ITR)に挟まれ得る。アデノウイルスは、ウイルスのDNA複製に関与するタンパク質をコードするゲノムのE1領域(E1AおよびE1B)をさらに含むことができる。
【0056】
アデノウイルスベクターの中で、E1領域を欠く複製能力がないアデノウイルスを使用することができる。その一方で、E3領域は、外来遺伝子の挿入のための部位を提供するために、従来のアデノウイルスベクターから除去される。
【0057】
したがって、SERCA2a遺伝子およびCCN5遺伝子を含む本発明の遺伝子コンストラクトは、除去されたE1領域(E1A領域および/もしくはE1B領域、好ましくはE1B領域)またはE3領域中に挿入することができる。一実施形態では、SERCA2a遺伝子およびCCN5遺伝子を含む遺伝子コンストラクトは、E3領域中に挿入することができる。
【0058】
さらに、およそ105%までの野生型ゲノムをアデノウイルス中にパッケージングすることができるので、約2kbをアデノウイルス中にさらにパッケージングすることができる。したがって、アデノウイルス中に挿入される外来配列をアデノウイルスゲノムにさらに連結させることができる。
【0059】
アデノウイルスは、42の異なる血清型および亜群A~Fを有する。一実施形態では、本発明のアデノウイルスベクターは、亜群Cに属するアデノウイルス5型から得ることができる。アデノウイルス5型に関する生化学情報および遺伝情報は周知である。
【0060】
アデノウイルスによってデリバリーされる外来遺伝子は、エピソームと同じ方法で複製するので、宿主細胞に対して非常に低い遺伝毒性しか有さない。
【0061】
レトロウイルスは遺伝子導入ベクターとして広く使用されており、なぜならば、レトロウイルスは、その遺伝子を宿主ゲノム中に挿入することができ、大量の外来遺伝物質をデリバリーすることができ、感染することができる広範囲の細胞を有するからである。レトロウイルスベクターを構築するために、レトロウイルスの配列の代わりに、SERCA2a遺伝子およびCCN5遺伝子を含む遺伝子コンストラクトをレトロウイルスゲノムに挿入して、複製能力がないウイルスを生成することができる。ビリオンを生成するために、gag、polおよびenv遺伝子を発現し、ロングターミナルリピート(LTR)およびΨ配列を発現しないパッケージング細胞株を構築し、使用することができる。
【0062】
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、本発明の遺伝子デリバリーシステムとして適切であり、なぜなら、このウイルスは非分裂細胞に感染することができ、様々なタイプの細胞に感染する能力を有するからである。AAVベクターの構築および使用の詳細は、米国特許第5,139,941号および第4,797,368号で開示されている。典型的には、SERCA2a遺伝子およびCCN5遺伝子を含む遺伝子コンストラクトを有するAAVは、2つのAAV末端反復に挟まれているSERCA2a遺伝子およびCCN5遺伝子を含む遺伝子コンストラクトを含むプラスミドと末端反復を欠く野生型AVVコード配列を含む発現プラスミドとの同時形質転換によって生成することができる。
【0063】
CCN5遺伝子およびデリバリーされる標的ヌクレオチド配列を細胞中にデリバリーするために、ワクシニアウイルス、レンチウイルスまたは単純ヘルペスウイルスに由来するベクターも使用することができる。
【0064】
本発明のさらになお別の態様では活性成分として、本発明の遺伝子コンストラクト、組換え発現ベクターまたは組換えウイルスを含む、心不全を予防または治療するための医薬組成物が提供される。
【0065】
本発明の医薬組成物を製造物にする場合、その中に含まれる医薬的に許容可能な担体の例としては、限定されないが、ラクトース、デキストロース、ショ糖、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アカシアゴム、リン酸カルシウム、アルギネート、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、メチルセルロース、メチルヒドロキシ安息香酸、プロピルヒドロキシ安息香酸、タルク、ステアリン酸マグネシウムおよびミネラルオイルを挙げることができる。
【0066】
医薬組成物の剤形は、使用方法によって変わる可能性があり、注射剤にしてもよい。
【0067】
本発明の医薬組成物の用量は、望ましくは、患者の年齢、性別、状態、体内への活性成分の吸収度、不活性化速度および組み合わせて使用される薬物を考慮して決定され、医薬組成物がウイルスである場合、医薬組成物は、成人基準で1日あたり1.0×103~1.0×1020ウイルスゲノムの量で投与することができる。特に、本発明の医薬組成物は、成人基準で1日あたり1.0×103~1.0×1020、1.0×108~1.0×1016、1.0×1012~1.0×1015または1.0×1013~1.0×1014ウイルスゲノムの量で投与することができる。
【0068】
さらに、医薬組成物がプラスミドベクターである場合、医薬組成物は、成人基準で1日あたり0.1μg/1μl~1mg/1μlの濃度で投与することができる。さらに、医薬組成物がプラスミドベクターである場合、用量は、0.1ml、1ml、2ml、3ml、4ml、5ml、6ml、7ml、8ml、9ml、10mlまたはそれ以上を含むことができ、それらの間のすべての値および範囲を含むことができる。
【0069】
本発明のさらになお別の態様では、活性成分として、SERCA2aタンパク質およびCCN5タンパク質を含む、心不全を予防または治療するための医薬組成物が提供される。
【0070】
本発明の医薬組成物は非経口的に投与され、非経口投与としては、静脈内注射、皮下注射、筋肉内注射、腹腔内注射、経皮投与、組織中への直接注射のための方法などが挙げられる。
【0071】
本明細書で使用する場合、用語「許容可能な担体」は、以下の物質のいくつかまたはすべてを指し、特定の投与に適したものを含む:溶媒、希釈剤、液体媒体、分散剤、懸濁補助剤、界面活性剤、等張剤、増ちょう剤、乳化剤、防腐剤、固体結合剤、潤滑剤など。Alfanso R. Gennaro, Remington's Pharmaceutical Sciences, 19th edition, 1995, Macna Publishing Co. Easton, PAは、既知の技法および組成物を用いて医薬組成物で使用するための様々な担体を提示する。医薬組成物の医薬的に許容可能な担体の例としては、限定されないが、以下のものが挙げられる。グルコース、ショ糖、デンプン、例えば、トウモロコシデンプンおよびジャガイモデンプン、セルロースならびにその誘導体、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロースおよび酢酸セルロース;粉末状のトラガント;麦芽;ゼラチン;タルク;賦形剤、例えば、ココアバター、座薬用ワックス、ピーナッツバター、綿実油、ベニバナ油、ゴマ油、オリーブ油およびダイズ油;グリコール、例えば、プロピレングリコール;エステル、例えば、オレイン酸エチルおよびラウリン酸エチル;寒天;緩衝剤、例えば、水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウム;アルギン酸;パイロジェンフリー蒸留水;等張生理食塩水;リンゲル溶液;エチルアルコールおよびリン酸緩衝水、ラウリル硫酸ナトリウムおよびステアリン酸マグネシウム、着色剤、着色剤、放出剤、コーティング剤、甘味剤、着香剤および芳香剤、抗酸化剤などは、化合物製造者の裁量で含めることができる。
【0072】
本発明のさらになお別の態様では、対象に医薬組成物を投与する工程を含む、心不全を予防または治療するための方法が提供される。
【0073】
ここで、対象は、哺乳動物、好ましくはヒトであり得る。特に、対象は、心不全を罹患しているか、または心不全の危険性があり得る、ヒトまたはヒト以外の哺乳動物である。
【0074】
本発明のさらになお別の態様では、SERCA2aタンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列を含む遺伝子コンストラクトを搭載している発現ベクター、およびCCN5タンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列を含む遺伝子コンストラクトを搭載している発現ベクターを含む、心不全を予防または治療するための医薬組成物が提供される。
【0075】
SERCA2aタンパク質またはその断片は、遺伝子コンストラクトについて上述した通りである。CCN5タンパク質またはその断片は、遺伝子コンストラクトについて上述した通りである。
【0076】
さらに、遺伝子コンストラクトは、それに作動可能に連結したプロモーター配列を含むことができる。
【0077】
特に、CCN5タンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列に連結したプロモーターは、好ましくは動物細胞で、より好ましくは哺乳類細胞で、CCN5遺伝子の転写を調節するように作動し得る。プロモーターとしては、哺乳類ウイルスに由来するプロモーターおよび哺乳類細胞のゲノムに由来するプロモーターが挙げられる。プロモーターは、心臓細胞において特異的に作動することができ、任意の細胞で作動することもできる。
【0078】
プロモーターは上記の通りであり、特にCMVプロモーターでもよい。
【0079】
本発明のさらになお別の態様では、SERCA2aタンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列を含む遺伝子コンストラクトを含む組換えウイルス、およびCCN5タンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列を含む遺伝子コンストラクトを含む組換えウイルスを含む、心不全を予防または治療するための医薬組成物が提供される。
【0080】
SERCA2aタンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列を含む遺伝子コンストラクトおよびCCN5タンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列を含む遺伝子コンストラクトは、「SERCA2aタンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列を含む遺伝子コンストラクトを搭載している発現ベクター、およびCCN5タンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列を含む遺伝子コンストラクトを搭載している発現ベクターを含む、心不全を予防または治療するための医薬組成物」について述べられる通りである。
【0081】
本発明のさらになお別の態様では、(i)SERCA2aタンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列を搭載している発現ベクターを対象に投与する工程、および(ii)CCN5タンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列を搭載している発現ベクターを対象に投与する工程を含む、心不全を予防または治療するための方法が提供される。
【0082】
ここで、対象は、哺乳動物、好ましくはヒトであり得る。特に、対象は、心不全を罹患しているか、または心不全の危険性があり得る、ヒトまたは別の哺乳動物であり得る。
【0083】
投与工程(i)および(ii)は同時に行うことができる。さらに、投与工程(i)または(ii)の後に、残りの投与工程を、所定の時間間隔で行うことができる。
【0084】
本発明のさらになお別の態様では、(i)SERCA2aタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む組換えウイルスを投与する工程、および(ii)CCN5タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む組換えウイルスを投与する工程を含む、心不全を予防または治療するための方法が提供される。
【0085】
ここで、対象は、哺乳動物、好ましくはヒトであり得る。特に、対象は、心不全を罹患しているか、または心不全の危険性があり得る、ヒトまたは別の哺乳動物であり得る。
【0086】
投与工程(i)および(ii)は同時に行うことができる。さらに、投与工程(i)または(ii)の後に、残りの投与工程を、所定の時間間隔で行うことができる。
【0087】
本発明のさらになお別の態様では、心不全を予防または治療するための、本発明の遺伝子コンストラクトの使用が提供される。
【0088】
本発明のさらになお別の態様では、心不全を予防または治療するための、本発明の組換え発現ベクターの使用が提供される。
【0089】
本発明のさらになお別の態様では、心不全を予防または治療するための、本発明の組換えウイルスの使用が提供される。
【0090】
本発明のさらになお別の態様では、心不全を予防または治療するための医薬組成物の調製のための、本発明の遺伝子コンストラクトの使用が提供される。
【0091】
本発明のさらになお別の態様では、心不全を予防または治療するための医薬組成物の調製のための、本発明の組換え発現ベクターの使用が提供される。
【0092】
本発明のさらになお別の態様では、心不全を予防または治療するための医薬組成物の調製のための、本発明の組換えウイルスの使用が提供される。
【0093】
本発明の形態
以下に、実験例および実施例として本発明を詳細に記載する。しかし、以下の実験例および実施例は本発明を例示するためだけであり、本発明は、以下の調製例および実施例に限定されない。
【0094】
調製例1.遺伝子コンストラクトおよびAAV9-SERCA2a-P2A-CCN5の構築
CCN5タンパク質およびSERCA2aタンパク質を個々にまたは同時に発現させるために、遺伝子コンストラクト、PTR-CMV-SERCA2a、pTR-CMV-CCN5、pTR-CMV-SERC2a-P2A-CCN5およびpTR-CMV-CCN5-P2A-SERC2aを構築した(
図1a~1d)。
【0095】
SERCA2a部分は、ヒトSERCA2aタンパク質の完全cDNA配列からなる。次に連結されたP2A部分はブタテッショウウイルス-1に由来する自己切断部位であり、22アミノ酸をコードするヌクレオチド配列からなる。最後に、CCN5部分はヒトCCN5タンパク質の完全cDNA配列からなる。
【0096】
pTR-CMV-ルシフェラーゼベクターからルシフェラーゼ部分を除去し、その代わりにSERCA2a-P2A-CCN5遺伝子コンストラクトを挿入することによって、pTR-CMV-SERCA2a-P2A-CCN5組換えプラスミドを完成させた。組換えプラスミドによって生成されるタンパク質は、P2A部位にある21番目のアミノ酸、グリシンと22番目のアミノ酸、プロリンの間の自己切断によって、SERCA2aタンパク質とCCN5タンパク質に分けられる。SERCA2aタンパク質は小胞体膜中に残存したままであり得、その固有の機能を果たし得る。さらに、CCN5タンパク質は小胞体中に移動することができ、次いで、シグナルペプチドが切断されている形態で細胞外へ分泌され得、それによって、固有の機能を果たす。その一方で、pTR-CMV-ルシフェラーゼベクターからルシフェラーゼ部分を除去し、その代わりにCCN5-P2A-SERCA2a遺伝子コンストラクトを挿入することによって、pTR-CMV-CCN5-P2A-SERCA2a組換えプラスミドも構築した。再び、これによって生成されるタンパク質は、P2A配列の同じ機能によって、SERCA2aタンパク質とCCN5タンパク質に分けられる。
【0097】
自己相補的なアデノ随伴ウイルス(AAV、血清型9)を生成するために、ヒトCCN5遺伝子およびSERCA2a遺伝子をpds-AAV2-EGFPベクターにクローニングした。ウイルスパッケージングおよびウイルスデリバリーの効率を向上させるために、AAVベクターの構築中にeGFP配列を除去した。293T細胞を使用して組換えAAVを構築した。細胞培養中のAAV粒子を収集し、硫酸アンモニウムで沈殿させた。イオジキサノール勾配を使用する超遠心分離法によって、生成物を精製した。遠心分離を使用してイオジキサノールを乳酸リンゲル溶液と交換するような方式で、いくつかの希釈および濃縮プロセスを通して、AAV粒子を濃縮した。定量的RT-PCRおよびSDS-PAGEを使用して、AAVの濃度を定量化した。
【0098】
実験方法1.カルシウム取り込みアッセイ
遺伝子を発現させた293T細胞株を40mMイミダゾール、10mM NaF、1mM EDTA、300mMショ糖および0.5mM DTTを含むpH7.0の溶液中でホモジナイズし、500μgの可溶化液を、100mM KCl、5mM MgCl2、5mM NaN3、0.5M EGTAおよび40mMイミダゾールからなるpH7.0の取り込み反応緩衝液に加えた。カルシウム含有放射性同位体のpCa6(0.0185μMol)を使用して、取り込み実験を行った。1μMルテニウムレッド(Sigma Aldrich)で処理し、生成物を37℃の温度で3分間静置させた。次いで、5mM K-シュウ酸およびMg-ATP(Sigma Aldrich)で処理しながら、反応を開始させた。1分間隔で最大で4分まで、0.45μMのフィルター(Millipore)を通して500μlの反応生成物を濾過し、シンチレーションカウンター(Beckman)を使用して、カウント毎分(cpm)を測定した。
【0099】
実験方法2.ウエスタンブロッティング
広域性プロテアーゼ阻害剤カクテル(Calbiochem)を加えた最少用量のpH7.4の50mM Tris-HCl溶液中で、細胞または心臓組織をホモジナイズした。SDS-PAGEによってタンパク質を分離し、これをフッ化ポリビニリデン膜(Schleicher & Schuell)にトランスファーした。5%(w/v)スキムミルクで1時間ブロッキングし、TBSTで洗浄した後、SERCA2a抗体(21st Century Biochemical)、CCN5抗体(Sigma Aldrich)およびGAPDH抗体(Sigma-Aldrich)と膜を反応させた。次いで、西洋ワサビペルオキシダーゼコンジュゲート化二次抗体(Jackson ImmunoResearch、WestGrove、PA、USA)と膜を反応させ、化学発光基質(Dogen)を使用して発光させた(developed)。LASソフトウェアを使用して生成物を撮影し、定量化した。
【0100】
実験方法3.組織染色
心臓組織を動物モデルから得て、次いで、室温で5日間、10%(w/v)ホルマリンで固定した。次いで、PBSで洗浄した。各試料をパラフィンに包埋し、組織ブロックを7μm厚の切片に切断した。心臓の線維化および梗塞の程度を調べるために、ピクロシリウスレッド(Sigma Aldrich)およびマッソン-3色(Sigma Aldrich)で生成物を染色した。次いで、光学顕微鏡下で観察した。
【0101】
実験方法4.心エコー検査による心筋機能の測定
ケタミン(95mg/kg)およびキシラジン(5mg/kg)の腹腔内注射によってマウスに麻酔をかけ、心エコー検査を行った。記録は、2次元イメージングおよびMモードトラッキング機能を介して行い、短縮率および心室サイズ比を決定した(GE Vivid Vision)。
【0102】
実験方法5.血行動態による心筋機能の測定
1.2Frの圧容量コンダクタンスカテーテル(Scisense Inc.、Ontario、Canada)を使用して、インビボ(in vivo)での血行動態の測定を行った。ケタミン(95mg/kg)およびキシラジン(5mg/kg)の腹腔内注射によってマウスに麻酔をかけ、気管開口術によってこのマウスに挿管し、機械的空気流を7μl/gの1回呼吸量および1分あたり120回の呼吸に調整することによって、人工呼吸を行った。圧容量(PV)カテーテルを左心室に設置し、IOX2ソフトウェア(emka TECHNOLOGIES)を使用して、圧容量データを解析した。
【実施例1】
【0103】
タンパク質発現の確認
本発明の組換えプラスミドによるSERCA2aタンパク質およびCCN5タンパク質の発現を観察するために、実験例1で調製した、pTR-CMV-SERA2a、pTR-CMV-CCN5またはpTR-CMV-SERCA2a-P2A-CCN5を、リポフェクタミンを使用して培養細胞中にデリバリーした。得られた細胞および培養物を実験方法2と同様の方式でウエスタンブロッティングにかけて、SERCA2a、CCN5およびGAPDHタンパク質の発現を調べた。
【0104】
結果として、単一プロモーターによって発現させる場合、SERCA2aタンパク質は細胞質中に保持され、CCN5タンパク質は細胞外へ分泌されることが確認された(
図2a)。
【0105】
さらに、タンパク質の発現レベルおよび活性を比較するために、リポフェクタミンを使用して、実験例1で調製したpTR-CMV-SERC2a-P2A-CCN5とpTR-CMV-CCN5-P2A-SERC2aを培養細胞中にデリバリーした。実験方法1と同様の方式で、得られた細胞および培養物をカルシウム取り込みアッセイにかけた。
【0106】
結果として、SERCA2aタンパク質とCCN5タンパク質の間で、発現レベルに関して有意な違いは観察されず、pTR-CMV-CCN5-P2A-SERC2a発現細胞は、低いカルシウム再取り込み活性を示した(
図2bおよび2c)。
【0107】
これは、CCN5タンパク質が分泌タンパク質であるという特性が理由であり、これは、SERCA2aタンパク質およびCCN5タンパク質がSERCA2a-CCN5の順で発現する場合、両方のタンパクは、それらの正常な構造で発現するが、SERCA2aタンパク質およびCCN5タンパク質がCCN5-SERCA2aの順で発現する場合、CCN5タンパク質の後で翻訳されるSERCA2aタンパク質は、その本来のトポロジーと逆のトポロジーを有する異常なタンパク質として生成され得ることを示唆する。
【0108】
I.心不全治療効果の確認
SERCA2aタンパク質をコードするヌクレオチド配列およびCCN5タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む遺伝子コンストラクトを含む組換えウイルスの、および本発明の心不全治療効果を確認するために、心不全が複数の病因によって誘導されているマウスを使用した。
【0109】
心不全誘導マウスについては、虚血再灌流障害誘導性心不全モデル、大動脈縮窄術誘導性心不全モデルおよびアンギオテンシンII誘導性心不全モデルを生成した。心不全誘導マウスをAAV9-対照、AAV9-SERCA2a投与群、AAV9-CCN5投与群およびAAV9-SERCA2a-P2A-CCN5投与群に分け、それらの心不全治療効果を比較した。
【0110】
実験例1.心不全が虚血再灌流障害によって誘導されているマウスにおける心不全治療効果の確認
実験例1.1.心不全が虚血再灌流障害によって誘導されているマウスの生成および組換えウイルスの注射
ケタミン(95mg/kg)およびキシラジン(5mg/kg)の腹腔内注射によって、8~10週齢のB6C3F1マウスに麻酔をかけ、手術を行った。虚血は、直径1mmのポリエチレン10(PE10)チューブを左前下行枝の上部に設置し、結束することによって、誘導した。30分後、PE10チューブをほどいて除去することによって再灌流を誘導した。再灌流を誘導すると同時に、1×10
11ウイルスゲノム(vgs)のAAV9-対照、AAV9-CCN5、AAV9-SERCA2aまたはAAV9-SERCA2a+AAV9-CCN5を、尾静脈を介して各マウスに注射した。4週間後に、心筋機能測定および組織学的解析を行った(
図3)。
【0111】
実験例1.2.CCN5タンパク質および/またはSERCA2aタンパク質の発現の確認
最初に、ウイルスゲノムの効果的なデリバリーが行われるかどうかを確認するために、SERCA2aタンパク質およびCCN5タンパク質の発現を実験方法2と同様の方式でウエスタンブロッティングによって調べた。
【0112】
結果として、AAV9-対照投与群と比較した場合、CCN5タンパク質の発現はAAV9-CCN5投与群において有意に増大し、SERCA2aタンパク質の発現はAAV9-SERCA2a投与群において有意に正常化することが確認された。さらに、AAV9-CCN5とAAV9-SERCA2aの組み合わせ投与群において、CCN5タンパク質およびSERCA2aタンパク質の発現は有意に増大することが確認された(
図4a~4c)。
【0113】
実験例1.3.心臓梗塞巣-低下効果の確認
さらに、心不全が虚血再灌流障害によって誘導されているマウスから心臓を摘出し、これを撮影した。実験方法3と同様の方式で組織染色を行った。
【0114】
結果として、AAV9-CCN5投与群、AAV9-SERCA2a投与群およびAAV9-CCN5とAAV9-SERCA2aの組み合わせ投与群は、AAV9-対照投与群の梗塞巣と比較した場合、梗塞巣サイズの有意な低下を示した。特に、AAV9-CCN5とAAV9-SERCA2aの組み合わせ投与群は、梗塞巣サイズの著しい低下を示した(
図5および6)。さらに、全心臓面積から梗塞巣の比率を定量化することによって得られたグラフからでさえ、AAV9-CCN5とAAV9-SERCA2aの組み合わせ投与群は、梗塞巣比率の著しい低下を示すことが確認された(
図7)。
【0115】
実験例1.4.心臓収縮性-増大効果の確認
心臓組織の形態変化が実際に心臓収縮性に影響を及ぼすかどうかを確認するために、心エコー検査および血行動態検査を行った。
【0116】
心臓収縮性のパラメーターである短縮率(FS)を測定するために、実験方法4と同様の方式で心エコー検査を行った。結果として、虚血再灌流障害によって低下した短縮率がAAV9-CCN5投与群、AAV9-SERCA2a投与群およびAAV9-CCN5とAAV9-SERCA2aの組み合わせ投与群において、有意に回復することが確認された。特に、AAV9-CCN5とAAV9-SERCA2aの組み合わせ群は短縮率の著しい増大を示した(
図8)。
【0117】
さらに、心臓収縮性を正確に解析するために、実験方法5と同様の方式で血行動態測定を行った。結果として、収縮期心筋強度のパラメーターである収縮末期圧容量関係(ESPVR)は、虚血再灌流障害によって低下した。AAV9-SERCA2a投与群はESPVRの有意な増大を示し、AAV9-CCN5投与群はESPVRの有意な増大を示さなかった。これは、CCN5の研究において既知であるものと同じ現象であり、CCN5は心不全に影響を及ぼさないという事実を支持する。さらに、AAV9-CCN5とAAV9-SERCA2aの組み合わせ群はESPVRの相乗的増大を示した(
図9a)。
【0118】
さらに、拡張期心筋強度のパラメーターである拡張末期圧容量関係(EDPVR)は、虚血再灌流障害の際に増大することが確認された。AAV9-CCN5投与群は、EDPVRの有意な低下を示し、AAV9-SERCA2a投与群はEDPVRの有意な低下を示さなかった。これは、以前の研究と同じ実験結果であり、SERCA2aタンパク質が拡張期心不全に影響を及ぼさないという事実を支持する。さらに、AAV9-CCN5とAAV9-SERCA2aの組み合わせ投与群は、EDPVRの著しい低下を示した(
図9b)。
【0119】
これらのデータに基づいて、AAV9-CCN5とAAV9-SERCA2aの組み合わせ投与によって、相乗的治療効果が得られることが確認された。
【0120】
実験例2.心不全が大動脈縮窄術によって誘導されているマウスにおける心不全治療効果の確認
実験例2.1.心不全が大動脈縮窄術によって誘導されているマウスの生成および組換えウイルスの注射
ケタミン(95mg/kg)およびキシラジン(5mg/kg)の腹腔内注射によって、8~10週齢のB6C3F1マウスに麻酔をかけ、手術を行った。2~3mmの近位胸骨を縦方向に切り裂いて、大動脈弓の視野を確保した。その後、27ゲージのニードルを使用して、無名動脈と頸動脈を接続した。次いで、結束し、ニードルを除去し、それによって、横大動脈の縮窄を引き起こした。縮窄による心不全の誘導から8週後に、1×10
11vgsのAAV9-対照、AAV9-CCN5、AAV9-SERCA2aまたはAAV9-SERCA2a-P2A-CCN5を、尾静脈を介して各マウスに注射した。8週間後に、心筋機能測定および組織学的解析を行った(
図10)。
【0121】
実験例2.2.CCN5タンパク質および/またはSERCA2aタンパク質の発現の確認
最初に、ウイルスゲノムの効果的なデリバリーが行えたかどうかを確認するために、SERCA2aタンパク質およびCCN5タンパク質の発現を実験方法2と同様の方式でウエスタンブロッティングによって調べた。結果として、AAV9-対照投与群と比較した場合、CCN5タンパク質の発現はAAV9-CCN5投与群において有意に増大し、SERCA2aタンパク質の発現はAAV9-SERCA2a投与群において有意に増大することが確認された。さらに、AAV9-SERCA2a-P2A-CCN5投与群においてでさえ、CCN5タンパク質およびSERCA2aタンパク質の発現が有意に増大することが確認された(
図11a~11c)。
【0122】
実験例2.3.心臓の内部寸法サイズ-低下効果の確認
心不全が虚血再灌流障害によって誘導されたマウスから心臓を摘出し、実験方法3と同様の方式で、マッソン-3色で心臓組織を染色した。結果として、AAV9-対照投与群は、心臓の内部寸法サイズの増大を示すことが確認され、AAV9-CCN5投与群、AAV9-SERCA2a投与群およびAAV9-SERCA2a-P2A-CCN5投与群は、心臓の内部寸法サイズの低下を示すことが確認された。特に、AAV9-SERCA2a-P2A-CCN5投与群は、内部寸法サイズの著しい低下を示すことが確認された。さらに、AAV9-CCN5投与群、AAV9-SERCA2a投与群およびAAV9-SERCA2a-P2A-CCN5投与群は、心不全によって引き起こされる心臓の線維化の程度の低下を示すことが確認された(
図12)。
【0123】
実験例2.4.心臓収縮性-増大効果の確認
心臓組織の形態変化が実際に心臓収縮性に影響を及ぼすかどうかを確認するために、心エコー検査および血行動態解析を行った。
【0124】
心臓収縮性のパラメーターである短縮率(FS)を測定するために、実験方法4と同様の方式で心エコー検査を行った。結果として、大動脈縮窄によって低下した短縮率が、AAV9-CCN5投与群、AAV9-SERCA2a投与群およびAAV9-CCN5とAAV9-SERCA2aの組み合わせ投与群において、有意に回復することが確認された。特に、AAV9-SERCA2a-P2A-CCN5投与群は、短縮率の著しい増大を示した(
図13)。
【0125】
さらに、心臓収縮性を正確に解析するために、実験方法5と同様の方式で血行動態解析を行った。結果として、収縮期心筋強度のパラメーターである収縮末期圧容量関係(ESPVR)は、大動脈縮窄によって低下した。AAV9-SERCA2a投与群はESPVRの有意な回復を示し、AAV9-CCN5投与群はESPVRの有意な回復を示さなかった。さらに、AAV9-SERCA2a-P2A-CCN5投与群は、ESPVRの著しい増大を示した(
図14a)。
【0126】
さらに、拡張期心筋強度のパラメーターである拡張末期圧容量関係(EDPVR)は、虚血再灌流障害の際に増大することが確認された。AAV9-CCN5投与群は、EDPVRの有意な低下を示し、AAV9-SERCA2a投与群はEDPVRの有意な低下を示さなかった。さらに、AAV9-SERCA2a-P2A-CCN5投与群は、EDPVRの著しい低下を示した(
図14b)。これに基づいて、AAV9-SERCA2a-P2A-CCN5によって相乗的治療効果が得られることが確認された。
【0127】
実験例3.心不全がアンギオテンシンII(Ang II)の注入によって誘導されているマウスにおける心不全治療効果の確認
実験例3.1.心不全がアンギオテンシンIIの注入によって誘導されているマウスの生成および組換えウイルスの注射
ケタミン(95mg/kg)およびキシラジン(5mg/kg)の腹腔内注射によって、8~10週齢のB6C3F1マウスに麻酔をかけ、アンギオテンシンII(Ang II) の皮下注入によって心不全を誘導した。アンギオテンシンIIは、小型浸透圧ポンプ(Alzet 1002、Alzet)を使用して、1日あたり3mg/kgの濃度で2週間皮下注入した。Ang IIで心不全を誘導してから2週間後に、1×10
11ウイルスゲノム(vgs)のAAV9-対照、AAV9-CCN5、AAV9-SERCA2aまたはAAV9-SERCA2a-P2A-CCN5を、尾静脈を介して各マウスに注射した。4週間後に、心筋機能測定および組織学的解析を行った(
図15)。
【0128】
実験例3.2.CCN5タンパク質および/またはSERCA2aタンパク質の発現の確認
最初に、ウイルスゲノムの効果的なデリバリーが行われるかどうかを確認するために、SERCA2aタンパク質およびCCN5タンパク質の発現を実験方法2と同様の方式でウエスタンブロッティングによって調べた。
【0129】
結果として、AAV9-対照投与群と比較した場合、CCN5タンパク質の発現が、AAV9-CCN5投与群において有意に回復し、SERCA2aタンパク質の発現が、AAV9-SERCA2a投与群において有意に回復することが確認された。さらに、AAV9-SERCA2a-P2A-CCN5投与群においてでさえ、CCN5タンパク質およびSERCA2aタンパク質の発現が有意に増大することが確認された(
図16a~16c)。
【0130】
実験例3.3.心臓の内部寸法サイズ-低下効果および心臓の内壁厚の変化の確認
心不全がアンギオテンシンIIの注入によって誘導されたマウスから心臓を摘出し、実験方法3と同様の方式で、マッソン-3色で心臓組織を染色した。
【0131】
結果として、AAV9-対照投与群は、心臓の内部寸法サイズの増大を示すことが確認され、AAV9-CCN5投与群、AAV9-SERCA2a投与群およびAAV9-SERCA2a-P2A-CCN5投与群は、心臓の内部寸法サイズの低下を示すことが確認された。特に、AAV9-SERCA2a-P2A-CCN5投与群は、内腔サイズの著しい低下を示すことが確認された(
図17)。
【0132】
さらに、心臓の内壁厚を測定するために、実施例6と同様の方式で心エコー検査を行った。心臓の内壁厚の変化を定量化し、図表で表した。
【0133】
結果として、心臓の内壁厚はアンギオテンシンIIの注入によって減少することが確認され、AAV9-CCN5投与群、AAV9-SERCA2a投与群およびAAV9-SERCA2a-P2A-CCN5投与群は、有意に回復した心臓の内壁厚の増加を示すことが確認された(
図18)。
【0134】
実験例3.4.心臓収縮性-増大効果の確認
心臓組織の形態変化が実際に心臓収縮性に影響を及ぼすかどうかを確認するために、心エコー検査および血行動態検査を行った。
【0135】
心臓収縮性のパラメーターである短縮率(FS)を測定するために、実験方法4と同様の方式で心エコー検査を行った。結果として、大動脈縮窄によって低下した短縮率が、AAV9-CCN5投与群、AAV9-SERCA2a投与群およびAAV9-CCN5とAAV9-SERCA2aの組み合わせ投与群において、有意に回復することが確認された。特に、AAV9-SERCA2a-P2A-CCN5投与群は、短縮率の著しい回復を示した(
図19)。これに基づいて、AAV9-SERCA2a-P2A-CCN5によって相乗的治療効果が得られることが確認された。
【配列表】