(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-08
(45)【発行日】2023-03-16
(54)【発明の名称】新規微生物バイオマスに基づく飼料製品
(51)【国際特許分類】
A23L 33/135 20160101AFI20230309BHJP
A23K 10/16 20160101ALI20230309BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20230309BHJP
【FI】
A23L33/135
A23K10/16
C12N1/20 A
(21)【出願番号】P 2020521490
(86)(22)【出願日】2018-07-02
(86)【国際出願番号】 US2018040557
(87)【国際公開番号】W WO2019010116
(87)【国際公開日】2019-01-10
【審査請求日】2021-06-08
(32)【優先日】2017-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520000364
【氏名又は名称】オークバイオ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】OAKBIO INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【氏名又は名称】布施 行夫
(72)【発明者】
【氏名】ブライアン セフトン
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアム コールマン
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103496791(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104512968(CN,A)
【文献】国際公開第2013/040012(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 33/00-33/29
A23K 10/00-50/90
C12N 1/00-1/38
FSTA/CAplus/AGRICOLA/BIOSIS/
MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学独立栄養細菌及び光独立栄養細菌と従属栄養微生物との共同体を含む食品及び/又は飼料添加物製品であって、該共同体が、
カプリアビダス(Cupriavidus)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属、又はメチロコッカス(Methylococcus)属からの化学独立栄養細菌、
ロドバクター(Rhodobacter)属、ロドスピリラム(Rhodospirillum)属、ロドシュードモナス(Rhodopseudomonas)属、又はアルスロスピラ(Arthrospira)属の光独立栄養細菌、及び
バチルス(Bacillus)属、バクテロイデス(Bacteroides)属、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ラクトコッカス(Lactococcus)属、ロイコノストック(Leuconostoc)属、パラコッカス(Paracoccus)属、ペディオコッカス(Pediococcus)属、アシディラクティシ(Acidilactici)属、プロピオニバクテリウム(Propionibacterium)属、又はストレプトコッカス(Streptococcus)属の従属栄養微生物を含む、
食品及び/又は飼料添加物製品。
【請求項2】
システム内に化学独立栄養細菌と光独立栄養細菌と従属栄養微生物との共同体を準備することと、
該システムが前記共同体を含む水性培地で満たされた発酵容器を備え、
該発酵容器が、ガス状基質を前記水性培地に導入する投入口を有し、
前記発酵容器が、ガスが前記発酵容器から出る排気口を更に有し、
ここで、前記水性培地が無機陰イオン及び無機陽イオンを含み、該水性培地が、それぞれ0.05%以下の濃度の添加された糖、酵母抽出物、トリプトン及び/又は有機炭素化合物を含み、
前記共同体が、
カプリアビダス属、ロドコッカス属、又はメチロコッカス属の化学独立栄養細菌と、
ロドバクター属、ロドスピリラム属、ロドシュードモナス属、又はアルスロスピラ属の光独立栄養細菌と、
バチルス属、バクテロイデス属、ビフィドバクテリウム属、ラクトバチルス属、ラクトコッカス属、ロイコノストック属、パラコッカス属、アシディラクティシ属、ペディオコッカス属、プロピオニバクテリウム属、又はストレプトコッカス属の従属栄養微生物と、
を含む;
前記投入口に第1のガス状基質を導入することと、
該第1のガス状基質が主に単一炭素原子分子の形態の炭素を含む;
第2のガス状基質を前記水性培地に導入することと、
該第2のガス状基質が、主に水素ガス(H
2)若しくはメタンガス(CH
4)、又はそれらの混合物を含み、
ここで、前記第1又は第2の基質のいずれかが酸素ガス(O
2)を追加的に含む;
前記システムから前記細菌の細胞を採取することと、
を含む方法。
【請求項3】
請求項2の方法によって作製された製品。
【請求項4】
前記無機陰イオンが、リン酸イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、炭酸イオン、及び/又はアンモニウムを含む、請求項2に記載の方
法。
【請求項5】
前記無機陽イオンが、鉄イオン、ニッケルイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、マンガンイオン及び/又はコバルトイオンを含む、請求項
2又は4に記載の方
法。
【請求項6】
前記化学独立栄養細菌が、カプリアビダス・ネカトール(Cupriavidus necator)、カプリアビダス・バシレンシス(Cupriavidus basilensis)、メチロコッカス・カプスラタス(Methylococcus capsulatus)、及びロドコッカス・オパカス(Rhodococcus opacus)の1つ以上を含み、
前記光独立栄養細菌が、ロドバクター・カプスラタス(Rhodobacter capsulatus)、ロドスピリラム・ラブラム(Rhodospirillum rubrum)、ロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)、ロドシュードモナス・パルストリス(Rhodopseudomonas palustris)、及びアルスロスピラ・プラテンシス(Arthirospira platensis)の1つ以上を含み、
前記従属栄養微生物が、アルスロスピラ・プラテンシス(Arthirospira platensis)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・オリザエ(Aspergillus oryzae)、バチルス・コアグランス(Bacillus coagulans)、バチルス・レンタス(Bacillus lentus)、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)、バチルス・プミルス(Bacillus pumilus)、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)、バクテロイデス・アミロフィルス(Bacteroides amylophilus)、バクテロイデス・カピロサス(Bacteroides capillosus)、バクテロイデス・ルミニコラ(Bacteroides ruminicola)、バクテロイデス・スイス(Bacteroides suis)、ビフィドバクテリウム・アドレセンティス(Bifidobacterium adolescentis)、ビフィドバクテリウム・アニマリス(Bifidobacterium animalis)、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、ビフィドバクテリウム・インファンティス(Bifidobacterium infantis)、ビフィドバクテリウム・ラクティス(Bifidobacterium lactis)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)、ビフィドバクテリウム・サーモフィラム(Bifidobacterium thermophilum)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterum breve)、ブレビバクテリウム・リネンス(Brevibacterium linens)、クロレラ・エメルソニイ(Chlorella emersonii)、クロレラ・プロトセコイデス(Chlorella protothecoides)、クロレラ・ピレノイドサ(Chlorella pyrenoidosa)、クロレラ・ブルガリス(Chlorella vulgaris)、デュナリエラ・サリナ(Dunaliella salina)、ヘマトコッカス・プルビアリス(Haematococcus pluvialis)、ラクト
バチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトバチルス・ブルガリカス(Lactobacillus bulgaricus)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・セルビオサス(Lactobacillus cellobiosus)、ラクトバチルス・カルバータス(Lactobacillus curvatus)、ラクトバチルス・デルブルエッキ(Lactobacillus delbruekii)、ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)、ラクトバチルス・ジョンソニイ(Lactobacillus johnsonii)、ラクトバチルス・ラクティス(Lactobacillus lactis)、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)、ラクトバチルス・パラファラギニス(Lactobacillus parafarraginis)、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuterii)、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバチルス・サリバリウス(Lactobacillus salivarius)、ラクトバチルス・スポロゲネス(Lactobacillus sporogenes)、ロイコノストック・ラクティス(Lactococcus lactis)、ロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)、ナンノクロロプシス・ガディタナ(Nannochloropsis gaditana)、ナンノクロロプシス・グラニュラータ(Nannochloropsis granulata)、ナンノクロロプシス・リムネチカ(Nannochloropsis limnetica)、ナンノクロロプシス・オセアニカ(Nannochloropsis oceanica)、ナンノクロロプシス・オキュラータ(Nannochloropsis oculata)、ナンノクロロプシス・サリナ(Nannochloropsis salina)、パラコッカス・ゼアキサンチニファシエンス(Paracoccus zeaxanthinifaciens)、パラコッカス・カロチニファシエンス(Paracoccus carotinifaciens)、パラコッカス・マークシイ(Paracoccus marcusii)、パラコッカス属の一種、ペディオコッカス・アシディラクチシ(Pediococcus acidilactici)、ペディオコッカス・セレビジエ(Pediococcus cerevisiae)、ペディオコッカス・ペントサス(Pediococcus pentosaceus)、プロピオニバクテリウム・シャーマニイ(Propionibacterium shermanii)、プロピオニバクテリウム・フロイデンライシイ(Propionibacterium freudenreichii)、ロドトルラ・グルチニス(Rhodotorula glutinis)、サッカロミセス・ブラウディ(Saccharomyces boulardii)、サッカロミセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)、ストレプトコッカス・クレモリス(Streptococcus cremoris)、ストレプトコッカス・ジアセチラクティス(Streptococcus diacetylactis)、ストレプトコッカス・ファエシウム(Streptococcus faecium)、ストレプトコッカス・インターメディウス(Streptococcus intermedius)、ストレプトコッカス・ラクティス(Streptococcus lactis)、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophiles)、キサントフィロミセス・デンドロロウス(Xanthophyllomyces dendrorhous)の1つ以上を含む、請求項
2、4、5のいずれか1項に記載の方
法。
【請求項7】
前記化学独立栄養細菌がカプリアビダス・ネカトールを含む、請求項2、
4~6のいずれか1項に記載の方
法。
【請求項8】
前記光独立栄養細菌がロドバクター・カプスラタスを含む、請求項
2、4~7のいずれか1項に記載の方
法。
【請求項9】
前記従属栄養微生物がビフィドバクテリウム・アニマリスを含む、請求項
2、4~8のいずれか1項に記載の方
法。
【請求項10】
前記化学独立栄養細菌がロドコッカス・オパカス(Rhodococcus opacus)を含む、請求項
2、4~9のいずれか1項に記載の方
法。
【請求項11】
前記従属栄養微生物がラクトバチルス・アシドフィルス及び/又はラクトバチルス・カゼイを含む、請求項
2、4~10のいずれか1項に記載の方
法。
【請求項12】
前記従属栄養微生物がバチルス・メガテリウムを含む、請求項
2、4~11のいずれか1項に記載の方
法。
【請求項13】
前記従属栄養微生物が酵母又は真菌を含む、請求項
2、4~12のいずれか1項に記載の方
法。
【請求項14】
化
学独立栄養
細菌、光独立栄養
細菌及び従属栄養微生物の前記共同体を準備することが、化
学独立栄養細菌を前記発酵容器に添加し、次いで光独立栄養
細菌及び従属栄養微生物を該発酵容器に添加することを含む、請求項
2、4~13のいずれか1項に記載の方
法。
【請求項15】
化学独立栄養
細菌、光独立栄養
細菌及び従属栄養微生物の前記共同体を準備することが、化学独立栄養
細菌、光独立栄養
細菌及び従属栄養微生物を前記発酵容器に同時に添加することを含む、請求項
2、4~13のいずれか1項に記載の方
法。
【請求項16】
前記第1のガス状基質中の単一炭素原子分子の濃度及び前記第2のガス状基質中の水素ガスの濃度がいずれも周囲大気中に見られる濃度よりも高い濃度である、請求項
2、4~15のいずれか1項に記載の方
法。
【請求項17】
前記単一炭素原子分子がCO
2を含み、前記第1のガス状基質がCO
2の濃度及びCH
4の濃度を含み、前記第2の基質が水素ガスの濃度を含み、3つの濃度がいずれも周囲大気で見られる濃度よりも高い濃度である、請求項
2、4~15のいずれか1項に記載の方
法。
【請求項18】
前記単一炭素原子分子がCO、CO
2及びCH
4を含み、前記第1のガス状基質がCO
2の濃度、CH
4の濃度及びCOの濃度を含み、前記第2の基質が水素ガスの濃度を含み、4つの濃度がいずれも周囲大気で見られる濃度よりも高い濃度である、請求項
2、4~15のいずれか1項に記載の方
法。
【請求項19】
前記単一炭素原子分子がCO及びCH
4を含み、前記第1のガス状基質がCOの濃度及びCH
4の濃度を含み、前記第2の基質が水素ガスの濃度を含み、3つの濃度がいずれも周囲大気で見られる濃度よりも高い濃度である、請求項
2、4~15のいずれか1項に記載の方
法。
【請求項20】
前記単一炭素原子分子がCH
4、CO及びCO
2を含む、請求項
2、4~15のいずれか1項に記載の方
法。
【請求項21】
前記単一炭素原子分子がCO及びCH
4を含み、前記第1のガス状基質がCOの濃度及びCH
4の濃度を含み、前記第2の基質が水素ガスの濃度を含み、3つの濃度がいずれも周囲大気で見られる濃度よりも高い濃度である、請求項
2、4~15のいずれか1項に記載の方
法。
【請求項22】
前記単一炭素原子分子がCO及びCH
4を含み、前記第1のガス状基質がCOの濃度及びCH
4の濃度を含み、いずれの濃度も周囲大気で見られる濃度よりも高い濃度である、請求項
2、4~15のいずれか1項に記載の方
法。
【請求項23】
前記細菌の1つが遺伝子改変されている、請求項
2、4~22のいずれか1項に記載の方
法。
【請求項24】
前記共同体の細菌の1つがカロテノイドを産生する、請求項
2、4~23のいずれか1項に記載の方
法。
【請求項25】
前記共同体の細菌の1つがルテインを産生する、請求項
2、4~24のいずれか1項に記載の方
法。
【請求項26】
前記共同体の細菌の1つがビタミンを産生する、請求項
2、4~25のいずれか1項に記載の方
法。
【請求項27】
前記共同体の細菌の1つがタンパク質を産生する、請求項
2、4~26のいずれか1項に記載の方
法。
【請求項28】
前記共同体の細菌の1つがアスタキサンチンを産生する、請求項
2、4~27のいずれか1項に記載の方
法。
【請求項29】
前記共同体の細菌の1つが多価不飽和脂肪酸を産生する、請求項
2、4~28のいずれか1項に記載の方
法。
【請求項30】
前記共同体の細菌の1つがエイコサペンタエン酸を産生する、請求項
2、4~29のいずれか1項に記載の方
法。
【請求項31】
前記共同体の細菌の1つがドコサヘキサエン酸を産生する、請求項
2、4~30のいずれか1項に記載の方
法。
【請求項32】
前記共同体の細菌の1つが必須アミノ酸を含むタンパク質を産生する、請求項
2、4~31のいずれか1項に記載の方
法。
【請求項33】
酵母又は真菌が、アスペルギルス属、サッカロミセス属、キサントフィロミセス属、又はロドトルラ属の種を含む、請求項13に記載の方
法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2017年7月3日に出願された米国特許出願第15/641,114号の利益を主張し、その内容は、引用することによって本明細書の一部をなす。
【0002】
本発明は、概して、炭素及びエネルギーを含むガス流から、ガス発酵を経て、副生成物、副産物、又は様々な工業プロセスの生成物であり得る、高タンパク質食品、食品添加物、及びその他の生成物を含む栄養製品を生産するための生物学的な方法、プロセス、及び微生物を含む、微生物発酵及び工業バイオテクノロジーの分野に関する。
【背景技術】
【0003】
ガス供給原料は、ヒト及び動物の栄養製品に使用する化学独立栄養微生物の増殖に使用され得る炭素及びエネルギーの膨大な資源となる。化学独立栄養細菌は、CO2、CO、CH4、また場合によっては水素(H2)又はメタン(CH4)等の無機源から、主要な又は追加のエネルギー源として炭素を捕捉及び代謝することができる。代謝炭素固定を経て無機炭素を有機炭素に変換することにより、これらの微生物は自然環境において一次生産者としての役割を果たすことができる。これらの化学独立栄養種の多くをバイオマスの商業生産のためバイオリアクターにおいてガス供給原料で培養することができ、動物飼料、コンパニオン動物飼料、又は更にはヒト用の食物、及び化学物質等の栄養製品へと加工することができる。
【0004】
微生物共同体(microbial consortium:複合微生物系)は、共生している2つ以上の微生物種として定義される。本発明の一部として記載される共同体の場合、炭素及びエネルギーの一次供給源の両方がガスとして供給されるシステムにおいて、化学独立栄養微生物が用いられることで、一次生産者が相利共生的な相互作用を介して細菌種の定義された共同体を支援する。本発明において様々な定義された種の共同体は、採取された場合、栄養製品として使用され得る。より理想的な栄養製品を作製するため、それぞれが異なる栄養特性を提供する複数の異なる種を共に増殖させることが望ましい。複数の微生物を使用することにより、最終製品の栄養組成の制御された変更及びカスタマイズが可能となる。また、水産養殖の重要な原料であるカロテノイドの一種であるアスタキサンチン等の重要な成分を産生する、1つ以上の遺伝子改変株を含めることもできる。
【0005】
したがって、最終バイオマス製品中の望ましい脂肪酸及びアミノ酸の量を増加し得る細菌の製剤が強く望まれている。
【0006】
本発明の利点は、サーモン、マス、ティラピア、及び小エビ等の養殖の魚及び魚介類の給餌用に通常採取され使用される魚粉に取って代わるものとして、乾燥バイオマスを水生飼料又はその他の栄養製品にブレンドすることができることである。これは、将来的に魚粉の需要に応じることができなくなるであろう世界の漁業への負荷の軽減に対して大きな影響を与える(非特許文献1)。
【0007】
本発明の別の利点は、バイオマス製品の栄養組成を微調整するために共同体の組成を調整することができることである。例えば、最近の研究から、動物自身の全体的なアミノ酸組成に基づいて実験用マウスに与えられる飼料のアミノ酸組成を適応させると、必要な飼料の量が減るだけでなく、動物の健康も改善することが分かっていることから、この調整能力は有利である。また、水産養殖及びその他の動物の飼料及び飼料添加物は、所望のアミノ酸プロファイルを達成するために添加される様々な原料の量を選択することにより変
更される。共同体を調整することにより、ヒトによる使用を含む用途に特化した多くの栄養製品を得ることができる。医学的状態、栄養欠乏の治療を支援するため、又は提案される消費生物の増殖段階に合わせるために、特殊な共同体を作ることもできる。
【0008】
それにも関わらず、栄養上の及び/又は医学的な及び/又はプロバイオティクスの利点があることが知られているバチルス(Bacillus)属、ラクトバチルス(Lactobacillu)属、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属等を含む細菌は、CO2、H2、CO及びCH4等のガス基質で増殖することができない。
【0009】
しかしながら、カプリアビダス(Cupriavidus)属、ロドバクター(Rhodobacter)属、メチロバクテリウム(Methylobacterium)属、メチロコッカス(Methylococcus)属、ロドスピリラム(Rhodospirillum)属、ロドシュードモナス(Rhodopseudomonas)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属、及びパラコッカス(Paracoccus)属からの化学独立栄養微生物の或る特定の株は、CO2、H2、CO、CH4等のガス状基質で増殖することが知られている。
【0010】
光独立栄養微生物は、光エネルギーを利用してCO2から炭素を固定することができる細菌、シアノバクテリア、及び藻類である。しかしながら、光独立栄養細菌の或る特定の種は、光なしでCO2の固定を誘導するエネルギー源として水素を利用することができるという点で、化学独立栄養代謝も示す。これらの例は、ロドバクター属、ロドスピリラム属、及びロドシュードモナス属である。他の多くのかかる種は文献で知られている。C.ネカトール(C.necator)は、幾つかの嫌気性ガス発酵で使用される一般的なアセトゲンよりも、CO2/H2でより速く効率的に増殖することが分かっている。
【0011】
化学独立栄養条件下で増殖した細菌は、従来の発酵で増殖したものとは異なる量(場合によっては異なる種類)のタンパク質、酵素、トランスポーター、脂肪、油、ビタミン、補因子、及びその他の生化学物質を発現する。この例は、シトクロム、キノン(例えば、コエンザイムQ)、RuBisCO(リブロース-1,5-ビスリン酸カルボキシラーゼオキシゲナーゼ)、多糖、タンパク質、また同様に全体的に異なるレベル及び比率のアミノ酸を有するもの、並びに異なる種、レベル及び比率の脂肪酸である。このため、化学独立栄養的に増殖した細菌は、従属栄養的に増殖させた同じ細菌とは異なる栄養プロファイルを持つ。これらの増殖の違いは、追加のビタミン、ミネラル、補因子等をバイオマス製品に提供する利点となり得る。
【0012】
また、化学独立栄養的に増殖した細菌は、異なる分泌活性を持ち、これは発酵ミックスの内容に影響する。化学独立栄養細菌(及び化学独立栄養的に増殖した光独立栄養細菌)は、グリコレート、多糖、タンパク質(1つ以上の必須アミノ酸を含む)、アミノ酸、脂肪、油、炭化水素、核酸、有機酸、ポリヒドロキシアルカノエート、ファジン、ベータカロテン及びルテイン等のカロテノイド、ビタミン、遺伝子導入剤(GTA:gene transfer agents)、多糖、糖、デンプン、並びに増殖基質及び増殖調節因子としてその後に非独立栄養細菌及びその他の従属栄養微生物によって利用され得るその他の生体分子等の化学物質を増殖培地に放出する。これらの非独立栄養種としては、細菌、シアノバクテリア、藻類、酵母及び真菌が挙げられる。藻類、シアノバクテリア、及び独立栄養的に増殖することができる可能性のある幾つかの細菌等の或る特定の微生物は、従属栄養的に増殖することもできることから、この方法で増殖させることもできる。
【0013】
代替的な実施形態では、共同体内の1つ以上の株は、天然であってもよく、又は多価不飽和脂肪酸(例えば、エイコサペンタエン酸及びドコサヘキサエン酸)等の特定の脂肪酸、ビタミン、アルコール、糖、ケトン、エステル、酸、二価酸、着色料、香料、フレーバー、カロテノイド、ポルフィリン、ホルモン、多糖、抗生物質、若しくはタンパク質製品
(例えば、酵素、治療用タンパク質、抗生物質、ホルモン、ビタミン、前駆体、抗体、又はワクチン)等の価値のある分子を産生するように遺伝子組み換えされてもよい。本発明は、宿主生物(複数の場合もある)がガスのみで増殖することができない場合でも、安価なガス供給原料を使用してかかる分子を生産する手段を提供する。
【0014】
本出願では、本発明者らは、栄養上の、医学的な及び/又は食事性の利点を提供し、化学独立栄養微生物、光独立栄養微生物及び非化学独立栄養微生物の共同体を含むという特性を持つ食品又は飼料製品が、これらの微生物をガス状基質で培養することにより生産されるという発明を記載する。該共同体は、化学独立栄養微生物が食物連鎖の基盤を形成し、非独立栄養微生物が増殖することができる生態系を作り出す。本明細書に記載されるガスベースの発酵プロセスの目標は、同じ化学独立栄養微生物が単独で増殖した場合に生産され得るバイオマスと比較して、栄養価が向上したバイオマス製品を生成することである。本発明の更なる経済的利益は、本発明によらなければ一次炭素源として安価なCO2若しくはその他のC1原料、及び/又は水素(又はその他の無機化合物若しくはC1化合物)をエネルギーに利用することができなかった所望の又は有益な微生物の増殖を促進することである。
【0015】
多くの微生物種は、栄養的に有益であること、又は有益な物質を生産すること、又はこの方法で生産され得る製品の重要な成分となり得るプロバイオティクス特性を有することが知られている。これらの例としては、アルスロスピラ・プラテンシス(Arthirospira platensis)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・オリザエ(Aspergillus oryzae)、バチルス・コアグランス(Bacillus coagulans)、バチルス・レンタス(Bacillus lentus)、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)、バチルス・プミルス(Bacillus
pumilus)、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)、バクテロイデス・アミロフィルス(Bacteroides amylophilus)、バクテロイデス・カピロサス(Bacteroides capillosus)、バクテロイデス・ルミニコラ(Bacteroides ruminicola)、バクテロイデス・スイス(Bacteroides suis)、ビフィドバクテリウム・アドレセンティス(Bifidobacterium adolescentis)、ビフィドバクテリウム・アニマリス(Bifidobacterium animalis)、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、ビフィドバクテリウム・インファンティス(Bifidobacterium infantis)、ビフィドバクテリウム・ラクティス(Bifidobacterium lactis)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)、ビフィドバクテリウム・サーモフィラム(Bifidobacterium thermophilum)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterum breve)、ブレビバクテリウム・リネンス(Brevibacterium linens)、クロレラ・エメルソニイ(Chlorella emersonii)、クロレラ・プロトセコイデス(Chlorella protothecoides)、クロレラ・ピレノイドサ(Chlorella pyrenoidosa)、クロレラ・ブルガリス(Chlorella vulgaris)、デュナリエラ・サリナ(Dunaliella salina)、ヘマトコッカス・プルビアリス(Haematococcus pluvialis)、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトバチルス・ブルガリカス(Lactobacillus bulgaricus)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・セルビオサス(Lactobacillus cellobiosus)、ラクトバチルス・カルバータス(Lactobacillus curvatus)、ラクトバチルス・デルブルエッキ(Lactobacillus delbruekii)、ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)、ラクトバチルス・ジョンソニイ(Lactobacillus johnsonii)、ラクトバチルス・ラクティス(Lactobacillus lactis)、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)、ラクトバチルス・パラファラギニス(Lactobacillus parafarraginis)、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuterii)、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバチルス・サリバリウス(Lactobacill
us salivarius)、ラクトバチルス・スポロゲネス(Lactobacillus sporogenes)、ロイコノストック・ラクティス(Lactococcus lactis)、ロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)、ナンノクロロプシス・ガディタナ(Nannochloropsis
gaditana)、ナンノクロロプシス・グラニュラータ(Nannochloropsis granulata)、ナンノクロロプシス・リムネチカ(Nannochloropsis limnetica)、ナンノクロロプシス・オセアニカ(Nannochloropsis oceanica)、ナンノクロロプシス・オキュラータ(Nannochloropsis oculata)、ナンノクロロプシス・サリナ(Nannochloropsis salina)、パラコッカス・ゼアキサンチニファシエンス(Paracoccus zeaxanthinifaciens)、パラコッカス・カロチニファシエンス(Paracoccus carotinifaciens)、パラコッカス・マークシイ(Paracoccus marcusii)、パラコッカス属の一種(Paracoccus sp.)、ペディオコッカス・アシディラクチシ(Pediococcus acidilactici)、ペディオコッカス・セレビジエ(Pediococcus cerevisiae)、ペディオコッカス・ペントサス(Pediococcus pentosaceus)、プロピオニバクテリウム・シャーマニイ(Propionibacterium shermanii)、プロピオニバクテリウム・フロイデンライシイ(Propionibacterium freudenreichii)、ロドトルラ・グルチニス(Rhodotorula glutinis)、サッカロミセス・ブラウディ(Saccharomyces boulardii)、サッカロミセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)、ストレプトコッカス・クレモリス(Streptococcus cremoris)、ストレプトコッカス・ジアセチラクティス(Streptococcus diacetylactis)、ストレプトコッカス・ファエシウム(Streptococcus faecium)、ストレプトコッカス・インターメディウス(Streptococcus intermedius)、ストレプトコッカス・ラクティス(Streptococcus lactis)、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophiles)、キサントフィロミセス・デンドロロウス(Xanthophyllomyces dendrorhous)が挙げられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0016】
【文献】Pitcher & Cheung, 2013
【発明の概要】
【0017】
本発明によれば、タンパク質バイオマス及び/又はその他の生物学的製品等の製品、材料、中間体等が、微生物共同体を培養することにより工業プロセスの廃ガスから生産される。かかるガスにはCO2、CO、CH4及びH2が含まれ、それによって環境汚染を削減すると同時に、エネルギー及び化学供給原料を節約することができる。H2S又はSO2等の工業排水中に存在する可能性のあるその他の微量ガスは、独立栄養一次生産菌に追加の栄養を提供することができ、かかるガスの除去は、ガス流からこれらの有毒なGHGを是正するという追加の利点を提供する。
【0018】
本発明の例示的なプロセスによれば、ガス混合物の所望の成分は、廃ガス成分を利用して所望の化合物を産生する微生物の1つ以上の培養株を含むバイオリアクターに導入される。所望の製品(バイオマス、栄養補助食品、タンパク質等)は、産生された化合物に適した回収プロセスを利用して、別々の容器(複数の場合もある)において水相から回収される。回収プロセスの例としては、抽出、蒸留若しくはそれらの組み合わせ、又はその他の効率的な回収プロセスが挙げられる。細菌を水相から取り出しリサイクルすることによって、毒性を回避して高い細胞濃度を維持し、反応速度を最大化する。必要に応じて、細胞分離は、遠心分離、膜限外濾過、又はその他の技術によって達成される。
【0019】
本発明の主な目的は、二酸化炭素、水素、及び酸素からのバイオマス、飼料原料、タンパク質、ビタミン、プロバイオティクス、天然抗生物質、有機酸等の製品、中間体、材料等を生産するプロセス及び/又は微生物の共同体の提供である。
【0020】
本発明の別の目的は、醸造、バイオエタノール生産、セメント製造、石油精製、及び廃
CO2及び/又はH2を生成する同様のプロセス等の工業プロセスの廃ガス流から、バイオマス、飼料原料、タンパク質、ビタミン、プロバイオティクス、天然抗生物質、及び有機酸等の品目を生産する方法、微生物及び装置の提供である。
【0021】
本発明の更に別の目的は、或る特定の工業プロセスの廃ガス流のバイオマス、飼料原料、タンパク質、ビタミン、プロバイオティクス、天然抗生物質、及び有機酸等の有用な製品への変換を達成するための好気性条件下での連続ガス状基質発酵を含む方法、微生物、及び装置の提供である。
【0022】
本発明のその他の目的及び適用可能性の更なる範囲は、添付の図面と併せて以下の詳細な説明から明らかになる。図面では、同様の部分が同様の参照符号で示される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】CO
2、H
2、及びO
2で増殖した共同体の明視野顕微鏡写真であり、様々な実施形態による、複数の種の微生物を示す図である。
【
図2】様々な実施形態による、本発明の例示的な実施形態によるバイオリアクターの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
微生物株
C.ネカトールには、H2、CO2、O2の混合物で非常に急速に高密度に増殖することができ、汚染することなく長期間連続的に培養することができるという利点がある。C.バシレンシス(C.basilensis)についても同様であり、メチロコッカス・カプスラタス(Methylococcus capsulatus)の場合には、CH4が添加されるか、又はH2に代えてCH4が使用される。共同体の細菌株はいずれも、一般に安全な生物として認識される(「GRAS」:generally recognized as safe)天然(すなわち、非GMO)の生物であるように選択されるか、又は必要に応じて、明らかな有益な性質があり、明らかに負の特性が欠如していれば、飼料及び食品加工に広く適するために特定の目的(例えば、工学的経路を介した代謝産物の生産)のため設計されたGMO生物を含めることもできる。本明細書に記載される本発明の全ての株は、微生物株保存機関から純粋な無菌の基準株として得られた。
【0025】
ガス供給
CO2、H2及びO2は、工業用エミッターから収集された煙道ガス(「煙道ガス」と呼ばれる)若しくはガス供給業者から入手した圧縮ガスの純粋なストック(「ラボガス(lab gas)」と呼ばれる)、工業プロセスによって生産されたプロセスガス、ガス化装置若しくは熱分解排出ガス、すなわち合成ガス、セメントの製造、燃焼プロセス、又は1つ以上の所望のガスを生産するいずれかの工業プロセス、天然プロセス若しくはその他のプロセスのいずれかから供給され得る。飼料、食品、栄養補助食品、生物製剤等の生産には、有毒な元素汚染物質(水銀等)のない廃CO2の工業供給源が好ましい。かかる供給源の例としては、醸造所及びバイオエタノールプラントからのCO2が挙げられる。水素は、熱分解ガスすなわち合成ガスのガス組成の一部として、プロピレン製造等の活動による工業副産物として、製油所からの混合ガス流の成分として、又は蒸気メタン改質(SMR:steam methane reformation)プロセスによって作製されたガス中に、圧縮ガスから又は水の電気分解から供給され得る。酸素は、大気ガスから、電気分解の生成物として、又はセメント煙道ガス等の工業副生成物ガスの成分として得られてもよい。本発明の実施形態は、分析及び微生物の発酵のため、かなりの量の煙道ガスを実験室に持ち帰ることができるように工業現場で煙道ガスを収集し、輸送可能な加圧シリンダーに圧縮する方法を含む。実験室では、CO2及びO2(ラボガス又は煙道ガスのいずれかに由来する)をおよそ5倍にH2で更に希釈し、増殖のため最適化された供給原料混合物を細菌に供給する。
商業規模の運用では、発酵プラントをガス生産現場の近くに配置してもよく、又はガスを車両若しくはパイプラインでバイオマス生産現場に輸送することができる。
【0026】
発酵槽に注入するため、ガス供給は0.2μmフィルターを通して濾過され、粒子及び微生物を除去した。小規模の実験では、圧縮されたH2、CO2、及びO2をそれぞれ20psiに調整した。ガスの相対的な割合を設定する流量配分器、並びに発酵槽への混合及び流量を制御する面積流量計にガスを送達した。発酵の各段階で適切な栄養素を供給するため、ガス流を0.2VVM~1.2VVMに調整した。撹拌速度を150rpm~300rpmに調整して、完全に混合した。
【0027】
栄養素モニタリング
投入及び排出ガスの組成を測定及びモニターして、ガスを溶液及びバイオマスに溶解させるためのガスの取り込み速度、物質収支、及び物質移動効率を決定することができる。主要な栄養素(NH4、PO4及びSO4等)もモニター及び補充して、細菌の増殖を制限する可能性のある栄養素制限を防ぐことができる。
【0028】
微生物接種
発酵槽運転用の接種物を多くの方法で調製することができ、各微生物株は別々に増殖させてもよく、又は2つ以上を単一の発酵において一つにまとめてもよい。従属栄養種は常に、増殖させられる特定の種(又は種のグループ)の繁殖に適した従属栄養培地上で純粋な培養物から増殖される。化学独立栄養種を、ガス又は場合によっては従属栄養培地で増殖させることができる。光独立栄養種は、光又は従属栄養培地を使用して増殖されてもよい。幾つかの光独立栄養種は化学独立栄養性でもあるため、ガス状基質で増殖される場合がある。バイオリアクターへの接種は、バイオリアクターへの1つ以上の種を含む培養物の無菌添加を含む。
【0029】
幾つかの実施形態では、共同体の全ての培養物は、発酵手順又は実行の開始時に、短期間にバイオリアクターに添加される。
【0030】
幾つか実施形態では、発酵の開始時に化学独立栄養微生物をバイオリアクターに添加し、その他の種を含む接種培養物を後の時点で添加する。
【0031】
幾つかの実施形態では、添加のタイミング、培養物添加の量及び密度、並びに接種物の調製方法を変更して、最終製品の品質、組成及び/又は価値に影響を与えることができる。
【0032】
幾つか実施形態では、共同体で使用される1つ以上の株の追加接種を後から追加することができる。
【0033】
本発明の実施形態では、ガスフィッティングを備えた培地の小さな瓶においてH2/CO2/O2でOD620約1となるようにC.ネカトール及びその他の化学独立栄養種を増殖させることにより培養物を調製した。非化学独立栄養種を、良く知られた商業的に入手可能な培地である液体酵母トリプトン培地(YT培地)で増殖させた。バイオリアクターにOD約0.1となるように接種した。約5%の接種物が理想的である。pHを2N NH4OHで調整する。発酵は最大数日間行われ、OD620は1~100以上になる。回収されたバイオマスを、タンパク質及び脂質の含有量、並びに各生成物の組成について分析した。本発明の幾つかの実施形態のC.ネカトール及び/又はR.カプスラタスの独自株、又は微生物のその他の独自株を基準株に加えて使用することもあった。本発明の実施形態は、煙道ガスに適合されることから、複雑な工業煙道ガスが供給原料として使用される場合に混合物に含まれ得る様々な有毒ガス成分に耐性の化学独立栄養種の幾つかの株
を含む。場合によっては、後の時点で1つ以上の共同体株を追加接種した。
【0034】
実施のため様々な実施形態で一般的に使用される微生物種として、表1に示すものが挙げられ、
図1の顕微鏡写真は、B-3226を除くこれら全ての発酵によるものである。
【0035】
【0036】
バイオリアクター発酵
化学独立栄養合成用のバイオリアクターが、本発明の実施に使用される。多くの種類及び設計のバイオリアクターが適している。本出願で検討される製品の培養のためのバイオリアクターの重要な部分は、微生物が分散される液体培地で少なくとも部分的に満たされた容器があることである。液体は、微生物の増殖に必要な化学物質を含み、その例を以下に記載する。バイオリアクター内の液体にガス状基質を導入するための口が少なくとも1つ存在する。容器は、容器内の流体を通過した後にガスが集まるヘッドスペースを備えてもよい。排気口は、ガスを容器から排出させる。一般的なバイオリアクターに見られることが予想される、センサー、液体又は化学物質の追加及び検査のための製品、液体又はサンプルの取り出しに必要な追加の口が存在し、これらは、発酵、細胞培養、及び微生物培養の分野でよく知られている。必要最小限の設計のバイオリアクターを
図2に示す。様々な実施形態において、本発明は、特注の250ml、1L及び4Lのガラスフラスコベースのバイオリアクター、並びに4ガス処理オプションを備える商業的に製造されたNew
Brunswick Scientific Bio Flo 4500で実施された。本発明と併せて使用することができる追加のバイオリアクターの設計は、2011年8月6日付で出願された「化学独立栄養バイオリアクターシステム及び使用方法」と題された米国特許出願第13/204,649号に見られ、引用することによって本明細書の一部をなす。本発明の実施形態のバイオリアクターは、1つ以上の容器及び/又はタワー又は配管の配置を備えてもよく、例えば、連続撹拌タンク反応器(CSTR:Continuous Stirred Tank Reactor)、固定細胞反応器(ICR:Immobilized Cell Reactor)、トリクルベッド反応器(TBR:Trickle Bed Reactor)、気泡塔(Bubble Column)、ガスリフト発酵槽、スタティックミキサー、流動床、上向流式若しくは下向流式、連続式、バッチ式若しくはループ式の反応器、又は適切な気液接触を維持するのに適したその他の容器若しくはデバイスを備えてもよい。幾つかの実施形態では、バイオリアクターは、第1の増殖容器及び第2の化学独立栄養合成容器を備えてもよいが、他の実施形態では、増殖段
階及び合成段階の両方を通して単一の容器が使用される。
【0037】
幾つかの実施形態では、総ガス所要量を低減するため、特に連続プロセス中、ガス再循環システムを使用して変換効率を改善することができる。細胞集団の連続採取は商業生産プロセスに有利であり、培養容量及び細胞密度を維持するため、細胞ブロスの連続除去及び培地の連続補充により実施することができる。発酵を15℃~70℃の一定温度又は様々な温度で行ったが、好ましい温度は30℃である。
【0038】
細胞の増殖及び種の多様性のモニタリング
細胞増殖の進行をモニターし、培養物の種の多様性を検証するため、サンプルを分析用に定期的に取り出すか、又はバイオリアクターシステムに分析機器を備えることができる。幾つかの実施形態では、この技術を実施する際に特性評価は細胞形態の顕微鏡検査を含み、その例は
図1(実行の完了から)に示され、種の多様性が維持されたことを示す。培養物の湿式マウントを、Amscope CCDカメラを装備したOlympus BX研究用顕微鏡を用いた明視野顕微鏡検査によって観察した。顕微鏡写真を、撮像及びデータ保存用のAmscopeソフトウェアを使用して生成した。また、種の多様性は、16Sr RNA遺伝子、23S rRNA遺伝子、又は他の遺伝的マーカー及び表現型指標の分析等の当該技術分野で良く知られている方法を使用してモニターし、定量することもできる(Jovel et al., 2016)。増殖の挙動を、ICN TiterTek 96ウェルプレートリーダーを使用して620nmでの光学密度(OD)の測定によって特性評価した。各発酵槽サンプルのアリコート(200μl)を2連で測定し、増殖曲線をプロットした。
【0039】
炭素捕捉
煙道ガスの新たな供給源からの炭素捕捉は、ヘッドスペースガス分析と並んで、細菌バイオマス生産の唯一の炭素源として煙道ガスを使用する増殖実験を行うことによって検証され得る。また、各培養物の乾燥重量は、培養物を遠心分離し、ペレットを洗浄し、凍結乾燥機で細胞を乾燥させ、凍結乾燥した細胞の重量を秤量することによっても決定され得る。
【0040】
ガスの混合
典型的には、水素発酵の場合、CO2供給原料又は未処理の煙道ガスは、約8:1~1:1(H2:CO2、体積/体積)の比率で純水素により希釈され、最終CO2濃度は約50%~1%以下となる。O2濃度は理想的には3%~12%である。メタン発酵の場合、典型的には、メタン濃度は80%~5%、CO2は40%~1%、及び酸素は50%~5%である。いずれのシステムでも、COは最大10%であり、硫黄酸化物、窒素酸化物、硫化水素、分子窒素、又はガス供給源に見られるその他のガスを含む様々なその他のガスが存在する可能性がある。
【0041】
培養培地
様々な異なるミネラル培地のレシピを使用することができ、培地を変えることは、最終製品の特性に影響を与える方法の1つである。様々な実施形態では、典型的には、有機炭素又は複合栄養素を含まないミネラル塩培地(Repaske & Mayer, 1976から変更):Na2HPO4・2H2O 4.5g/L、KH2PO4 1.5g/L、NH4Cl 1.8g/L、MgSO4・7H2O 0.11g/L、NaHCO3 0.2g/L、FeSO4・7H2O 12mg/L、CaCl2・2H2O 10mg/L、ZnSO4・7H2O 100μg/L、MnCl2・4H2O 30μg/L、H3BO3 300μg/L、CoCl2・6H2O 200μg/L、CuCl2・2H2O 10μg/L、NiCl2・6H2O 20μg/L、Na2MoO4・2H2O 30μg/Lを使用した。
【0042】
濃縮及び採取
バイオマス製品は、濾過、重力分離、又はその他の方法等の多くの方法により採取され得て、それらの多くが工業的に実施されている。乾燥は、噴霧乾燥、凍結乾燥、熱乾燥、デシケーション(desiccation)、又はその他の多くの方法によるものとすることができ、それらの多くが現在工業的に実施されている。
【0043】
短時間の熱処理は、更に処理する前に細胞を生存不能にする必要がある場合に有用である。凍結乾燥はよりエネルギー集約的であるという事実のため、穏やかな処理を必要とする非常に価値の高い製品の処理により適している。乾燥した材料をその他の原料と簡単にブレンドして、典型的にはタンパク質、脂肪酸、及びその他の栄養素を魚粉に頼っている水生飼料製品に取って代わることができる栄養価の高い魚用飼料を形成することができる。培養した共同体の30Lバッチに由来する乾燥材料のアミノ酸組成(表2)は、魚粉の組成と比較して有利である(IAFMM Report, 1970)。
【0044】
以下に参照される実証では、細胞懸濁液を無菌の出口を経て発酵槽から取り出した。次いで、標準遠心分離機又はプロセス遠心分離機で約4000×g以上で遠心分離することにより上清を除去し、細胞ペレットを形成することができる。次いで、細胞を低塩濃度の緩衝溶液で洗浄した後、再度ペレット化する。次に、市販のMTS凍結乾燥機を使用して、最終細胞ペーストを凍結乾燥して粉末にした。
【0045】
表2.共同体のアミノ酸組成の例
様々な実施形態で増殖させた、4ガス投入及び制御オプションを備えたNew Brunswick Scientific BioFlo 4500バイオリアクターにおいて30Lスケールで培養された、化学独立栄養生物、光独立栄養生物、及びプロバイオティクス従属栄養生物からなる共同体のサンプル。アミノ酸組成分析をNP Analytical Laboratories(ミズーリ州セントルイス)により行った。
【0046】
【0047】
【0048】
図1は、2017年5月15日に撮影されたCO
2、H
2、及びO
2で増殖させた共同体の明視野顕微鏡写真である。この写真は、一次炭素源としてCO
2、一次エネルギー源としてH
2で増殖した化学独立栄養微生物と従属栄養微生物との混合物を示す。短く細い桿菌100、中程度の長さの太い桿菌110(C.ネカトールの特性)、長い桿菌120(B.メガテリウムの特性)、及び球菌130を矢印で示す。
【0049】
図2は、ガスで共同体を培養するのに適したバイオリアクターの一例としてのバイオリアクター200の概略図を示す。バイオリアクター200は、別々の増殖容器と組み合わせて使用する合成容器を備えてもよく、又は増殖段階と合成段階の両方に適した容器を備えてもよい。
図2において、バイオリアクター200は、動作中に、培養中の化学独立栄養微生物及びその他の微生物を含む液体培地210の量を保持する容器205を備える。また、バイオリアクター200は、ガス状基質220を液体培地210に導入するために容器205に導入することができる基質口215と、液体培地210への導入のために新鮮な培地230を容器205に導入することができる培地投入口225と、例えばバイオマス及び/又は化学製品を採取するために培地210を取り出すことができる培地排出口235とを備える。バイオリアクター200はまた、ヘッドスペース240と、ヘッドスペース240からガスを排出するためのガス放出バルブ245とを備えてもよい。幾つかの実施形態では、培地排出口235及び培地投入口225は、バイオマス170を採取し、再循環のため培地210を再調整するシステムを介して接続される。幾つかの実施形態では、ガス放出バルブ245は、ガス状基質を基質口215に戻して再循環させるシステムに取り付けられ、ガス組成を最適化するため付加又は除去を行うことができる。