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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-08
(45)【発行日】2023-03-16
(54)【発明の名称】天かす、その製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/157 20160101AFI20230309BHJP
   A23L 5/10 20160101ALI20230309BHJP
   A47J 37/12 20060101ALI20230309BHJP
【FI】
A23L7/157
A23L5/10 D
A47J37/12 371
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2017111109
(22)【出願日】2017-06-05
(62)【分割の表示】P 2016206867の分割
【原出願日】2016-10-21
(65)【公開番号】P2017192390
(43)【公開日】2017-10-26
【審査請求日】2019-10-17
【審判番号】
【審判請求日】2021-11-04
(31)【優先権主張番号】P 2015207450
(32)【優先日】2015-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016074614
(32)【優先日】2016-04-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】595143609
【氏名又は名称】卜部産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】卜部 悟
(72)【発明者】
【氏名】卜部 陽子
(72)【発明者】
【氏名】小久保 公博
【合議体】
【審判長】▲吉▼澤 英一
【審判官】三上 晶子
【審判官】平塚 政宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-127584(JP,A)
【文献】特開2013-110997(JP,A)
【文献】特開2000-152755(JP,A)
【文献】特開平4-84864(JP,A)
【文献】特開昭61-128848(JP,A)
【文献】特開2001-299293(JP,A)
【文献】特開2014-168384(JP,A)
【文献】特開2013-135621(JP,A)
【文献】実開平3-5390(JP,U)
【文献】特開昭48-28648(JP,A)
【文献】特開2004-89075(JP,A)
【文献】特開昭49-117637(JP,A)
【文献】特開2002-196(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも滴下工程と油ちょう工程を含み、
前記滴下工程では、バッター液を滴下装置に備えられた滴下口からフライヤーの油に滴下し、
前記油ちょう工程では、前記フライヤーで滴下された前記バッター液を油ちょうする天かすの製造方法であって、
前記滴下口の開口面積は、28~113mmであり、
前記滴下口から前記フライヤーの油面までの距離は、20~200cmである、
天かすの製造方法。
【請求項2】
少なくとも小麦粉又は米粉を含む原料を水と撹拌し前記バッター液を調製する撹拌工程をさらに含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記油ちょう工程で得られる天かすの含有油脂量を減少させる減油工程をさらに含む、請求項1又は請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記バッター液を前記滴下装置に注入する注入工程をさらに含む、請求項1~請求項3の何れかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記注入工程では、前記バッター液の格納容器と前記滴下装置の高低差を利用し注入する、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記バッター液の粘度は、2~6Pa・sである、請求項1~請求項5の何れかに記載の製造方法。
【請求項7】
天ぷら用食材に打ち粉を付着させる工程と、
前記打ち粉を有する前記天ぷら用食材に天ぷら用バッター液を付着させる工程と、
前記天ぷら用バッター液と前記打ち粉とを有する前記天ぷら用食材に請求項1~請求項6に記載の製造方法により得られる天かすを付着させる天ぷら用食品を製造する工程と、
前記天ぷら用食品を冷凍する工程とを含む、天ぷら用冷凍食品の製造方法。
【請求項8】
バッター液を滴下する滴下装置と、
前記バッター液を油ちょうするフライヤーを備える天かすの製造装置であって、
前記滴下装置の滴下口の開口面積は、28~113mmであ
前記フライヤーは油ちょう用の油を有し、
前記滴下口から前記フライヤーの油面までの距離が、20~200cmであるように構成されている、
天かすの製造装置。
【請求項9】
小麦粉を含む原料を水と撹拌しバッター液を調製する撹拌機を備える、請求項8に記載の製造装置。
【請求項10】
前記油ちょう工程で得られる天かすの含有油脂量を減少させる減油装置をさらに備える、請求項8又は請求項9に記載の製造装置。
【請求項11】
前記バッター液の格納容器を備える、請求項8~請求項10の何れかに記載の製造装置。
【請求項12】
前記格納容器が前記滴下装置より高い位置にある、請求項11に記載の製造装置。
【請求項13】
前記格納容器は、前記撹拌機である、請求項12に記載の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明のいくつかの観点は、天かす、その製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
食文化として日本国内で広く浸透しているだけでなく、海外においても人気の日本食である天ぷらは、需要が高い一方で美味しく調理するためには熟練した技術を必要とする料理のひとつであり、調理工程として打ち粉工程、バッター液付着工程、油ちょう工程が必要であり手間がかかる。また、家庭においてはカラッと揚げるためには大量の高温油を要し、油の温度、バッター液の粘度によっては、花が咲かない等難しい調理であることから敬遠される傾向にある。
【0003】
そこで、食品工場において一定の規格の下で生産し、レストランやスーパーマーケットでは加熱のみで簡便に提供できるように技術開発が行われてきた。また、特許文献1に記載されているような、家庭において油ちょうによる加熱を必要としない技術の開発も進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3130518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、天ぷらは、専門店や蕎麦屋等で熟練の職人によって提供される場合と、種々の料理を提供するファミリーレストラン等又はスーパーマーケットの惣菜売り場等で購入する場合では大きく差が生じ、後者において見た目・食感・味が劣る場合が多い。大きな差が生じる主な要因は衣の形状である。
【0006】
特に、加熱前の天ぷら用食品において食材を覆う衣材の一部として天かす(揚げ玉)を用いた場合、一般に流通している天かすの形状がほぼ均一で丸に近い形をしていることが多いため、加熱調理後の天ぷらの見た目・食感は悪く、美味しい天ぷらを提供することは困難であった。
【0007】
本発明のいくつかの態様はこのような事情に鑑みてなされたものであり、加熱前の天ぷら用食品において食材を覆う衣材の一部として用いた場合に、加熱調理により見た目・食感・味に優れた天ぷらを得ることができる天かす、その製造方法及び製造装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のいくつかの態様によれば、少なくとも滴下工程と油ちょう工程を含み、前記滴下工程では、バッター液を滴下装置に備えられた滴下口からフライヤーに滴下し、前記油ちょう工程では、前記フライヤーで滴下された前記バッター液を油ちょうし、前記滴下口の開口面積は、28~314mmである、天かすの製造方法が提供される。
【0009】
本発明者が食品工場における天かすの大量生産において、加熱前の天ぷら用食品において食材を覆う衣材の一部として用いた場合に、加熱調理により見た目・食感・味に優れた天ぷらを得ることが可能な天かすを製造すべく検討を行ったところ、フライヤーに滴下するバッター液の量を、バッター液の滴下口を拡大することにより増大させると凹凸を有する細長い形状の天かすを高い割合で製造できることを見出し、本発明の完成に到った。本発明の方法によって得られた天かすは、凹凸を有する細長い形状であり、不規則な形状を有しているため、加熱前の天ぷら用食品において食材を覆う衣材の一部として用いた場合に、熟練の職人による天ぷらの衣に近い見た目・食感を与えるものであり、簡便に美味しい天ぷらを調理することを可能とするものである。
【0010】
以下、本発明の種々の実施形態を例示する。以下に示す実施形態は互いに組み合わせ可能である。
好ましくは、前記バッター液を前記滴下装置に注入する注入工程をさらに含む。
好ましくは、少なくとも小麦粉又は米粉を含む原料を水と撹拌し前記バッター液を調製する撹拌工程をさらに含む。
好ましくは、前記油ちょう工程で得られる天かすの含有油脂量を減少させる減油工程をさらに含む。
好ましくは、前記注入工程では、前記バッター液の格納容器と前記滴下装置の高低差を利用し注入する。
好ましくは、前記バッター液の粘度は、2~6Pa・sである。
【0011】
本発明の別の態様によれば、天ぷら用食材に打ち粉を付着させる工程と、前記打ち粉を有する前記天ぷら用食材に天ぷら用バッター液を付着させる工程と、前記天ぷら用バッター液と前記打ち粉とを有する前記天ぷら用食材に請求項1~6に記載の製造方法により得られる天かすを付着させる天ぷら用食品を製造する工程と、前記天ぷら用食品を冷凍する工程とを含む、天ぷら用冷凍食品の製造方法が提供される。
【0012】
本発明の別の態様によれば、バッター液を滴下する滴下装置と、前記バッター液を油ちょうするフライヤーを備え、前記滴下装置の滴下口の開口面積は、28~314mmである、天かすの製造装置が提供される。
好ましくは、前記バッター液の格納容器を備える。
好ましくは、小麦粉を含む原料を水と撹拌しバッター液を調製する撹拌機を備える。
好ましくは、前記油ちょう工程で得られる天かすの含有油脂量を減少させる減油装置をさらに備える。
好ましくは、前記格納容器が前記滴下装置より高い位置にある。
好ましくは、前記格納容器は、前記撹拌機である。
【0013】
本発明の別の態様によれば、加熱前の天ぷら用食品において食材を覆う衣材の一部として用いる天ぷら衣用天かすであって、無作為に抽出した前記天かす10個のアスペクト比の平均が1.5以上であり、真円度の平均が0.6以下であり、平滑度の平均が0.80以下である、天ぷら衣用天かすが提供される。
【0014】
本発明の別の態様によれば、天ぷら用食材の外側に衣材を備え、前記衣材は前記天かすを有する天ぷら用冷凍食品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】良い形の天かすの例である。
図2】不良な形の天かすの例である。
図3】天かすの製造装置の概略図である。
図4】減油装置を備えた天かすの製造装置の概略図である。
図5】実施例1及び比較例1の牡蠣の天ぷらの写真を示す。
図6】天かす(A)及び天かす(B)を用いた場合のエビの天ぷらの写真を示す。
図7】天かす(A)及び天かす(B)を用いた場合のイカの天ぷらの写真を示す。
図8】天かす(A)及び天かす(B)を用いた場合の南瓜の天ぷらの写真を示す。
図9】天かす(A)及び天かす(B)を用いた場合の鶏の天ぷらの写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。また、各特徴事項について独立して発明が成立する。
【0017】
本実施形態の天かすの製造方法は、少なくとも滴下工程と油ちょう工程を含み、前記滴下工程では、バッター液を滴下装置に備えられた滴下口からフライヤーに滴下し、前記油ちょう工程では、前記フライヤーで滴下された前記バッター液を油ちょうし、前記滴下口の開口面積は、28~314mmである。
このような製造方法によれば、ほぼ均一で丸に近い形状の天かすではなく、不規則で凹凸を有する細長い形状の天かすを製造できる。そのため、加熱前の天ぷら用食品において食材を覆う衣材の一部として用いた場合に、加熱調理により見た目・食感・味に優れた天ぷらを得ることが可能である。
以下、この製造方法及びその製造に用いる製造装置の各要素についてより詳細に説明する。
【0018】
1.天かすの製造方法及びその製造装置
<撹拌工程>
バッター液は、少なくとも小麦粉又は米粉を含む原料を水と撹拌する撹拌工程により調製される。
【0019】
原料は、少なくとも小麦粉又は/及び米粉を含み、さらに、片栗粉、とうもろこしでん粉、卵白粉、脱脂大豆粉、パンプキンパウダー、そば粉等、さらに、膨張剤(炭酸水素ナトリウム(重曹)等)、乳化剤(グリセリン脂肪酸エステル等)、増粘剤(加工でん粉等)等の添加物を含んでも良い。好ましくは、原料は少なくとも小麦粉と、増粘剤と、膨張剤を含む。増粘剤を加えることにより加水量を減らさずにバッター液の粘度を適切な範囲に調整することができるため食感を軽くすることができる。また、膨張剤を加えることにより食感を軽くすることができる。グルテンの発生を抑えられるため好ましい形状とし易い利点があるため米粉を主成分としてもよく、全く小麦粉を含まなくてもよい。
【0020】
バッター液の粘度は、凹凸を有する細長い形状の天かすを高い割合で製造できる範囲であれば特に制限はないが、例えば2~6Pa・sであり、好ましくは3~5Pa・sである。粘度が低過ぎると天かすが細かくなりすぎ、高過ぎると凹凸を有する細長い形状になり難い。
【0021】
原料の総質量を100質量%とした場合に、原料中の増粘剤の含有量が2~8質量%であり、より好ましくは、原料中の増粘剤の含有量が3~6質量%である。増粘剤の量が少な過ぎるとバッター液の粘度が低く天かすが細かくなりすぎ、多過ぎると粘度が高く凹凸を有する細長い形状になり難い。
【0022】
バッター液において、水100質量部に対する原料の総質量は50~300質量部である。好ましくは、100~200質量部である。水の量が多過ぎるとバッター液の粘度が低く天かすが細かくなりすぎ、少な過ぎると粘度が高く凹凸を有する細長い形状になり難い。
【0023】
原料と水を撹拌する工程は、温度、撹拌速度、撹拌時間等の撹拌条件に注意し主に小麦粉に由来するグルテンが生成し過ぎないように人力又は撹拌機等により行う。特に温度は低めに設定することが好ましく、例えば0~15℃で撹拌を行う。グルテンが生成し過ぎると凹凸を有する細長い形状になり難い。
【0024】
<滴下工程>
バッター液は、滴下装置に備えられた滴下口からフライヤーに滴下される。
【0025】
滴下装置は、1又は2以上の滴下口を備え、バッター液が滴下できる構造となっている。ここで、滴下とは連続的な滴下及び不連続な滴下の両方を含み、断続的な滴下を意味する。また、滴下口は滴下装置の底面及び側面のどちらに設けられていてもよく、管状に伸びていても、底面・側面を直接くり抜いただけの穴でもよい。加工性及びコストを考慮すると、底面を直接くり抜いた穴の備える構造が好ましい。
滴下装置に滴下口として設けられた穴の形状に特に制限はないが、例えば多角形、円形等が挙げられる。穴の加工の容易性を考慮すると、円形であることが好ましい。
【0026】
滴下口の開口面積は、フライヤーへ滴下後に広がり適切な大きさで、且つ、凹凸を有する細長い形状の天かすができるような大きさである必要がある。そのため、開口面積は、28~314mmであり、好ましくは38~177mmであり、より好ましくは44~113mmである。滴下口の開口面積が28mm未満である場合には、天かすは丸い形状となりやすく、また314mmを超える場合にはフライヤーの底でダマになりやすく大きさが適さない天かすができてしまうことがある。
滴下口の形状が円形の穴である場合には、穴の直径が約6~20mmであり、好ましくは約7~15mmであり、より好ましくは約7.5~12mmである。
【0027】
滴下方法は特に制限されるものではないが、グルテンを生成し過ぎるような圧力を掛けない方法であり、好ましい大きさの天かすとなるように行うことが好ましく、例えば自然落下により滴下する。
【0028】
滴下口から油面までの距離は、天かすが凹凸を有する細長い形状となれば特に限定されないが、バッター液の油への進入の勢いも天かすの形状に影響を与えるため、例えば20cm以上であり、好ましくは30cm以上である。距離の上限は特にないが、製造装置が大きくなるため例えば200cm以下であることが好ましい。
【0029】
<油ちょう工程>
滴下装置よりフライヤー滴下されたバッター液は、フライヤーで油ちょうされる。
【0030】
フライヤー中の油ちょう用の油は、流れていても流れていなくても良いが、作業性の観点から一定方向に流れていることが好ましく、連続的に滴下されたバッター液も分断され天かすは適切な大きさとなり、流れに従って移動する。流速については、天かすの大きさを適切に調整可能であり、安全に作業を行える速度であればよい。流速は、例えば1~20m/mであり、好ましくは3~15m/mであり、より好ましくは6~9m/mである。
油の温度は、特に限定しないが、140℃以上200℃以下が好ましい。
【0031】
油ちょうに使用される油としては、特に限定しないが、例えば、植物性油脂、動物性油脂が挙げられる。植物性油脂として、例えば大豆油、パーム油、ひまわり油、サフラワー油、なたね油(キャノーラ油を包含する)、綿実油、ごま油、トウモロコシ油、こめ油、落花生油、オリーブ油、2以上の植物油を調合した食用調合油等が挙げられる。また、動物性油脂として、牛脂、ラード、魚油、鯨油、乳脂等が挙げられる。
【0032】
<注入工程>
バッター液は、滴下装置に注入される。
【0033】
撹拌工程により調製されたバッター液は、撹拌機から直接滴下装置に注入されてもよく、また撹拌機から一度格納容器に移され格納容器から滴下装置に注入されてもよく、その他の装置を介してもよい。
重要なのは、撹拌工程によってバッター液を調製後、滴下装置に注入するまでの間に過度な圧力を掛けないことである。過度な圧力とは、グルテンを生成し過ぎるような圧力を意味する。例えば、ポンプ等によって送液し注入する際の圧力である。ただし、ポンプ等を用いた場合でも、低圧でありグルテンがあまり生成されない程度の圧力までも排除することは意味しない。
【0034】
上記のような条件を満たす滴下装置へのバッター液の注入は、例えば、格納容器(調製後も撹拌機内にバッター液を格納している場合には撹拌機)を滴下装置より高い位置に配置し、格納容器と滴下装置の高低差を利用し注入することができる。具体的には、例えば、自然落下により、または格納容器の下部に管を取り付け滴下装置に接続することでバッター液を注入することにより行うことができる。
【0035】
上記の撹拌工程と、注入工程と、滴下工程と、油ちょう工程を行うことが可能な一実施形態による製造装置の例は、図3の概念図により表される。
【0036】
<減油工程>
油ちょう工程で得られる天かすの含有油脂量を減少させる。
【0037】
バッター液をフライヤーで油ちょう後、天かすの含有する油脂量を減少させる。天かすを減油する方法は特に限定されないが、遠心分離器等の減油装置を用いて行うことができる。減油後の天かすの含有油脂量は、天かす全体の質量を100質量%とした場合、50質量%以下である。好ましくは、40質量%以下である。油脂含有量が多すぎる場合には、加熱前の天ぷら用食品において食材を覆う衣材の一部として用いた場合に、加熱調理後に油っぽくなりやすく重い味と感じてしまうからである。また、油脂含有量が多すぎると、バッター液との密着性が悪く食材の周りに留まりにくい傾向にある。
【0038】
上記の撹拌工程と、注入工程と、滴下工程と、油ちょう工程と、減油工程を行うことが可能な一実施形態による製造装置の例は、図4の概念図により表される。
【0039】
<天ぷら用冷凍食品>
上記実施形態によって得られる天かすを用いた天ぷら用食品を冷凍することで天ぷら用冷凍食品を得ることが出来る。
天ぷら用食品は、天ぷら用食材に打ち粉を付着させ、打ち粉を有する天ぷら用食材に天ぷら用バッター液を付着させ、天ぷら用バッター液と打ち粉とを有する天ぷら用食材に上記実施形態によって得られる天かすを付着させることにより作ることが可能である。
そして、上記天ぷら用食品を冷凍する方法は、特に限定しないが、公知の方法を用いることができる。例えば、-20℃以下の冷気に暴露して天ぷら用食品を冷凍することが挙げられる。また、冷気の温度は、特に限定しないが、例えば-30℃以下、-40℃以下であってもよい。なぜなら、天ぷら用食品に対して暴露される冷気の温度が低いほど上記天ぷら用食品を短時間で効率よく冷凍することができるからである。
【0040】
2.天かす
<形状>
市販されている天かすは、ほぼ均一な丸い形をしていることが多いが、この様な天かすを加熱前の天ぷら用食品において食材を覆う衣材の一部として用い付着させて衣を形成させた場合、見た目も食欲を誘うものではなく、食感も重く硬くなってしまう。一般的に、天ぷらの衣はハナが咲いたような形状が好まれる。見た目も美しく、食感もサクッと軽くなるからである。よって、適切な形状の衣を形成するため、ほぼ均一な丸い形ではなく、凹凸を有する細長い形状であることが求められる。図1に示される天かすが本発明の一実施形態により得られる良い形の天かすの例であり、図2に示される天かすが不良な形の天かすの例である。
【0041】
従来の製造法により大量生産された市販されている天かすに対し、上記の実施形態により製造された天かすは、加熱前の天ぷら用食品において食材を覆う衣材の一部として用いるのに適した、不規則で凹凸を有する細長い形状を有する。本実施例による天かすの具体的な形状の一例について以下に説明する。
【0042】
本明細書においては、揚げ玉の形状は、写真撮影した画像をAdobe Photoshopにより解析することにより特定される。具体的には、各揚げ玉を画像処理により切り出し、高さ、幅、面積、外周をもとに形状を解析する。
【0043】
凹凸を有する細長い形状であることの1つ指標として、アスペクト比がある。長辺と短辺の比であるアスペクト比は、1より大きくなるに従いより細長い形状となることを意味する。本発明の一実施形態においては、無作為に抽出した10個の天かすのアスペクト比の平均が1.5以上である。好ましくは、1.75以上である。より好ましくは、2.0以上である。また、細長過ぎる場合は、天ぷらの衣の見た目としては不適当であるため、上記アスペクト比の平均は、5.0以下である。ここで、短辺と長辺はAdobe Photoshopを使用した解析における高さと幅(いずれを長辺でも短辺としてもよい)を使用する。
【0044】
また、凹凸を有する細長い形状であることの1つ指標として、真円度がある。真円から引き延ばされた多角形へ変形するに従い、真円度は1から0に近づいていく。よって、引き延ばされた多角形となること、すなわち凹凸を有する細長い形状であることは真円度をもとに評価することができる。細長いだけでなく凹凸を有する天かすかどうかは、アスペクト比の基準だけなく、真円度の基準を満たしているかも重要な指標である。本発明の一実施形態においては、好ましくは無作為に抽出した10個の天かすの真円度の平均が0.6以下であり、より好ましくは0.5以下であり、さらに好ましくは0.45以下であり、最も好ましくは、0.4以下である。また、天ぷらの衣の見た目を考慮すると、上記真円度の平均は、0.1以上である。ここで、Adobe Photoshopにより算出される真円度は4πi(i=面積/(外周))によって定義される(Adobehttps://helpx.adobe.com/jp/photoshop/using/measurement-photoshop-extended.html)。
【0045】
さらに、凹凸について規定するならば、平滑度を指標として用いることができる。平滑度は、天かすの外周Lと、天かすと同じ短長辺比及び同じ面積を有する楕円の外周Lと、の比(L/L)によって定義される。本発明の一実施形態においては、好ましくは無作為に抽出した10個の天かす玉の平滑度の平均が0.80以下であり、より好ましくは0.75以下である。また、天ぷらの衣として舌触りを考慮すると、上記平滑度の平均は、0.1以上である。ここで、短辺と長辺はAdobe Photoshopを使用した解析における高さと幅(いずれを長辺でも短辺としてもよい)、及び外周Lを使用し、近似式(I)を用いて外周Lを算出した。(I)において、aは長辺、bは短辺を表す。
【0046】
【数1】
(I)
【0047】
<油脂量>
天かすの含有油脂量は、天かす全体の質量を100質量%とした場合、好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは45%以下であり、さらに好ましくは40質量%以下である。油脂含有量が多すぎる場合には、加熱前の天ぷら用食品において食材を覆う衣材の一部として用いた場合に、加熱調理後に油っぽくなりやすく重い味と感じてしまうことがある。また、油脂含有量が多すぎると、バッター液との密着性が悪く食材の周りに留まりにくい傾向にある。
【実施例
【0048】
以下、本発明を実験例によりさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、見た目、食感、美味しさについては十分なトレーニングを積んだ複数の官能パネラーが肉眼で外観を観察し、また実際に試食した結果である。
【0049】
[天かすの製造]
増粘剤として加工でん粉を約5質量%及び膨張剤として重曹を約1質量%含む原料と、水とを質量比2:3で撹拌機を用いて撹拌(撹拌速度:1200/Hr、撹拌時間:3分30秒、撹拌温度:11℃)し、粘度が約3.8Pa・sであるバッター液を調整した。続いて撹拌機をリフトを用いて滴下装置より高い位置に移動させ、撹拌機に取り付けた管を介して滴下装置に注入し、滴下装置の底面に設けられた油面からの距離が35cmの円形の穴から自然落下によりフライヤー(パーム油、約160℃、流速6~9m/m)へ連続滴下させた。そして、フライヤーから回収された天かすは遠心分離器によって減油し含有油脂量が約20質量%の天かすを得た。製造条件(滴下装置への注入方法、滴下口開口面積)を表1に示す。なお、実施例6においては、ポンプ(圧力:0.40MPa)を用いて撹拌機から吸上げ滴下装置へと注入した。
【0050】
[天ぷらの製造]
蒸牡蠣に対し、打ち粉として天ぷら粉を用い表面を覆うように施した。そして、食品素材として小麦粉、でん粉、米粉、大豆たんぱく、脱脂大豆、大豆油、添加物として膨張剤(炭酸水素ナトリウム・ミョウバン、リン酸カルシウム、アンモニウムミョウバン)及び乳化剤としてグリセリン脂肪酸エステル、増粘剤として加工でん粉を含み、水を用いて調製された、25℃において、粘度が約800mPa・sである天ぷら用バッター液付着させ、さらに、天かすを付着させた牡蠣の天ぷら用食品を用意した。この時、表1に示すそれぞれの製造条件にて製造された天かすを用いた。これを170℃の揚げ油(パーム油を主成分とする)で約3分加熱した牡蠣の天ぷらについて評価した結果を表1に示す。
衣がしっかりとハナが咲いているような見た目の場合に「◎」、ハナが咲いているような見た目の場合に「○」、一応ハナが咲いているような見た目の場合に「△」、見た目が悪い場合に「×」とした。食感は、サクッと軽い場合に「◎」、一応サクッとした食感の場合に「○」、食感が一応軽い場合に「△」、食感が重い場合に「×」とした。美味しさは、見た目・食感・味を総合的に評価し、非常に良い場合に「◎」、良い場合に「○」、良くない場合に「△」、悪い場合に「×」とした。
【0051】
【表1】
【0052】
[種々の食材を用いた天ぷら]
天かす(A)(実施例2と同じ)、及び天かす(B)(比較例1と同じ)を用いて、エビ、イカ、南瓜、鶏肉について上記[天ぷらの製造]と同様にして天ぷらを作成し(一例を図6~9に示す)、評価した結果を表2に示す。
【0053】
【表2】
【0054】
表2からわかるように、凹凸を有する細長い形状である天かす(A)を使用した場合に、丸い形状である天かす(B)を使用した場合より評価が良かった。
【0055】
天ぷら用冷凍食品は、上記天ぷらの製造において油で揚げる前の天ぷら用食品を冷凍することで得られる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9