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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-08
(45)【発行日】2023-03-16
(54)【発明の名称】臓器保存容器および灌流装置
(51)【国際特許分類】
   A01N 1/02 20060101AFI20230309BHJP
   B65D 81/38 20060101ALN20230309BHJP
【FI】
A01N1/02
B65D81/38 D
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018142710
(22)【出願日】2018-07-30
(65)【公開番号】P2019043939
(43)【公開日】2019-03-22
【審査請求日】2021-06-18
(31)【優先権主張番号】P 2017164158
(32)【優先日】2017-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】小林 英司
(72)【発明者】
【氏名】笠松 寛央
(72)【発明者】
【氏名】吉本 周平
(72)【発明者】
【氏名】虎井 真司
【審査官】小路 杏
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2003/0054540(US,A1)
【文献】特開2012-092113(JP,A)
【文献】特開平02-069401(JP,A)
【文献】特開昭60-197601(JP,A)
【文献】特開平02-091001(JP,A)
【文献】特開2004-075188(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 1/02
B65D 81/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に臓器を収容する臓器保存容器と、
前記臓器保存容器を載置するテーブルを有する筐体と、
灌流液リザーバーから前記臓器保存容器内に灌流液を供給する灌流液流入経路と、
を有し、
前記臓器保存容器は、
上部に開口を有する有底筒状の本体部と、前記本体部の前記開口を覆う蓋部とを含むケーシングと、
前記ケーシングに設けられ、前記ケーシングの内部と外部とを連通する接続配管を密閉状態を保ったまま保持する配管保持部と、
を有し、
前記テーブルは、前記筐体の外側に配置され、
前記灌流液流入経路の少なくとも一部が前記筐体の内部に配置され、
前記灌流液流入経路は、
上流側の端部が前記灌流液リザーバーと接続され、下流側の端部が前記筐体の外部に露出される第1主配管
を有し、
前記接続配管は、
前記ケーシングの外部から内部へと液体を流入する第1接続配管
を含み、
前記第1主配管の下流側の端部は、第1接続配管と接続可能である、灌流装置。
【請求項2】
請求項1に記載の灌流装置であって、
前記第1主配管に介挿された第1ポンプ
をさらに有し、
前記第1ポンプおよび前記第1主配管の一部は、前記筐体内に配置される、灌流装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の灌流装置であって
前記灌流液リザーバーは、前記筐体内に配置される、灌流装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の灌流装置であって、
前記臓器保存容器内から前記灌流液を回収する灌流液流出経路
をさらに有し、
前記灌流液流出経路の少なくとも一部が前記筐体の内部に配置され、
前記灌流液流出経路は、
下流側の端部が前記灌流液リザーバーまたは排液タンクに接続され、上流側の端部が前記筐体の外部に露出される第2主配管
を有し、
前記接続配管は、
前記ケーシングの内部から外部へと液体を流出する第2接続配管
を含み、
前記第2主配管の上流側の端部は、前記第2接続配管と接続可能である、灌流装置。
【請求項5】
請求項4に記載の灌流装置であって、
前記臓器は肝臓であって、
複数の前記接続配管は、
2つの前記第1接続配管と、
1つまたは2つの前記第2接続配管と、
を含む、灌流装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の灌流装置であって、
前記本体部は、少なくとも一部に断熱壁を有し、
前記断熱壁は、
間隔を空けて配置される二重壁と、
前記二重壁の内部に配置される、空気層または断熱部材と、
を有する、灌流装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の灌流装置であって、
前記臓器保存容器は、
前記本体部および前記蓋部の少なくとも一部に収容される蓄熱材
をさらに有する、灌流装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臓器保存容器および当該臓器保存容器を有する灌流装置に関する。
【背景技術】
【0002】
臓器移植などの各種の手術において、摘出した臓器を移植可能な状態で保存するため、種々の保存方法や灌流方法が開発されている。摘出した臓器を保存するためには、例えば、細胞の代謝を抑制するために臓器内血液を低温の臓器保存液に置き換えてから、低温の保存液に浸漬する単純冷却法が知られている。また、保存している臓器内の老廃物の除去を目的として、臓器内血管網に臓器保存液を灌流させる灌流保存法が知られている。
【0003】
従来の臓器を灌流保存するための灌流装置は、例えば、特許文献1および特許文献2に記載されている。特許文献1の灌流装置は、3段のシェルフを有するモービルカートに載置されている。そして、モービルカートの各段には、臓器を収容する保存チャンバー、リザーバー、遠心ポンプ、ウォーターヒータ等が載置されている。特許文献2の臓器保存装置は、臓器運搬ユニットと、院内ユニットにより構成される灌流装置である。臓器運搬ユニットは、院内ユニットから取り外して電源と接続することにより、灌流回路を形成できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2001-516768号公報
【文献】特開平4-59701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の灌流装置のように、従来の灌流装置は大型であった。このため、術野の近傍へ灌流装置を配置することが困難であった。特許文献2に記載の臓器保存方法において臓器運搬ユニットのみ取り外した場合であっても、術野の近傍へ配置するには困難な大きさであった。その結果、摘出手術においてドナーから摘出した臓器を灌流装置に設けられた保存容器内へ移送したり、移植手術において保存容器からレシピエントまで臓器を移送したりする間に、臓器にヒトの体温が触れたり温虚血状態となる場合があった。
【0006】
摘出した臓器をより良い状態で保存するためには、摘出後から移植に至るまでの間に、できるだけ、臓器にヒトの体温が触れる時間および温虚血時間を短くすることが重要である。そのためには、臓器の保存容器や灌流装置を、摘出時または移植時に術野の近傍へ配置することが必要となる。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、臓器の摘出手術または移植手術において、臓器の物理的な損傷、体温による温度損傷や温虚血状態を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本願の第1発明は、灌流装置であって、内部に臓器を収容する臓器保存容器と、前記臓器保存容器を載置するテーブルを有する筐体と、灌流液リザーバーから前記臓器保存容器内に灌流液を供給する灌流液流入経路と、を有し、前記臓器保存容器は、上部に開口を有する有底筒状の本体部と、前記本体部の前記開口を覆う蓋部とを含むケーシングと、前記ケーシングに設けられ、前記ケーシングの内部と外部とを連通する接続配管を密閉状態を保ったまま保持する配管保持部と、を有し、前記テーブルは、前記筐体の外側に配置され、前記灌流液流入経路の少なくとも一部が前記筐体の内部に配置され、前記灌流液流入経路は、上流側の端部が前記灌流液リザーバーと接続され、下流側の端部が前記筐体の外部に露出される第1主配管を有し、前記接続配管は、前記ケーシングの外部から内部へと液体を流入する第1接続配管を含み、前記第1主配管の下流側の端部は、第1接続配管と接続可能である。
【0009】
本願の第2発明は、第1発明の灌流装置であって、前記第1主配管に介挿された第1ポンプをさらに有し、前記第1ポンプおよび前記第1主配管の一部は、前記筐体内に配置される。
【0010】
本願の第3発明は、第1発明または第2発明の灌流装置であって、前記灌流液リザーバーは、前記筐体内に配置される。
【0011】
本願の第4発明は、第1発明ないし第3発明のいずれかの灌流装置であって、前記臓器保存容器内から前記灌流液を回収する灌流液流出経路をさらに有し、前記灌流液流出経路の少なくとも一部が前記筐体の内部に配置され、前記灌流液流出経路は、下流側の端部が前記灌流液リザーバーまたは排液タンクに接続され、上流側の端部が前記筐体の外部に露出される第2主配管を有し、前記接続配管は、前記ケーシングの内部から外部へと液体を流出する第2接続配管を含み、前記第2主配管の上流側の端部は、前記第2接続配管と接続可能である。
【0012】
本願の第5発明は、第4発明の灌流装置であって、前記臓器は肝臓であって、複数の前記接続配管は、2つの前記第1接続配管と、1つまたは2つの前記第2接続配管と、を含む。
【0013】
本願の第6発明は、第1発明ないし第5発明のいずれかの灌流装置であって、前記本体部は、少なくとも一部に断熱壁を有し、前記断熱壁は、間隔を空けて配置される二重壁と、前記二重壁の内部に配置される、空気層または断熱部材と、を有する。
【0014】
本願の第7発明は、第1発明ないし第発明のいずれかの灌流装置であって、前記臓器保存容器は、前記本体部および前記蓋部の少なくとも一部に収容される蓄熱材をさらに有する。
【発明の効果】
【0017】
本願の第1発明から第発明によれば、臓器保存容器から臓器を取り出すことなく、臓器保存容器内の臓器を灌流装置と接続して灌流したり、灌流装置から取り外したりすることができる。また、臓器保存容器内に臓器を収容したまま、輸送することもできる。したがって、臓器に直接触れることなく、灌流や輸送などの臓器移植に必要な工程を行うことができる。すなわち、臓器の摘出手術または移植手術において、臓器の損傷や温虚血状態を低減できる。
【0018】
特に、本願の第発明および第発明によれば、臓器保存容器内に収容される臓器および保存液を所望の温度に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】第1実施形態に係る灌流装置の斜視図である。
図2】第1実施形態に係る灌流装置の斜視図である。
図3】第1実施形態に係る灌流装置の構成を示した概略図である。
図4】第1実施形態に係る保存容器の分解斜視図である。
図5】第1実施形態に係る保存容器の横断面図である。
図6】第1実施形態に係る保存容器の縦断面図である。
図7】第1実施形態に係る灌流装置を用いた肝臓摘出手術の一例の流れを示したフローチャートである。
図8】第1実施形態に係る簡易灌流装置の構成を示した概略図である。
図9】第1実施形態に係る灌流装置を用いた肝臓移植手術の一例の流れを示したフローチャートである。
図10】変形例に係る保存容器の分解斜視図である。
図11】変形例に係る保存容器の分解斜視図である。
図12】変形例に係る保存容器の横断面図である。
図13】変形例に係る保存容器の横断面図である。
図14】変形例に係る保存容器の横断面図である。
図15】変形例に係る簡易灌流装置の構成を示した概略図である。
図16】変形例に係る灌流装置の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。本願において「ドナー」および「レシピエント」は、ヒトであってもよいし、非ヒト動物であってもよい。すなわち、本願において、「肝臓」を含む「臓器」は、ヒトの臓器であってもよいし、非ヒト動物の臓器であってもよい。また、非ヒト動物は、マウスおよびラットを含む齧歯類、ブタ、ヤギおよびヒツジを含む有蹄類、チンパンジーを含む非ヒト霊長類、その他の非ヒトほ乳動物であってもよいし、ほ乳動物以外の動物であってもよい。
【0021】
<1.第1実施形態>
<1-1.灌流装置の構成>
本発明の第1実施形態に係る灌流装置1について、図1図3を参照しつつ説明する。図1および図2は、灌流装置1の斜視図である。図3は、灌流装置1の構成を示した概略図である。なお、図1は、後述する保存容器10が後述する装置本体11にセットされている状態を示している。また、図2は、保存容器10が装置本体11にセットされていない状態を示している。
【0022】
図1に示すように、灌流装置1は、移植用の肝臓9を収容する保存容器10と、装置本体11と、支持部12とを有する。なお、本実施形態において収容および灌流される臓器は肝臓9である。
【0023】
保存容器10には、移植用の肝臓9が収容される。保存容器10の詳細な構成については、後述する。
【0024】
装置本体11の筐体110は、下方から順に、電装部21、接続部22、パネル部23、および、リザーバー収容部24を有する。図1および図2に示すように、装置本体11は、全体として、薄型かつ縦長の形状をしている。
【0025】
支持部12は、四方に延びる4本の脚121と、各脚121に設けられたキャスタ122とを有する。これにより、支持部12は、装置本体11を安定的に、かつ、移動可能に支持する。なお、図1および図2には、4本の脚121のうちの3本のみが示されている。
【0026】
装置本体11の内部には、図3に示す灌流装置の各部が収容されている。図3に示すように、灌流装置1は、保存容器10と、灌流液リザーバー30と、灌流液流入経路40と、灌流液流出経路50と、入力表示部60と、制御部100とを有する。
【0027】
灌流液リザーバー30は、灌流液が貯留される灌流液容器である。灌流液リザーバー30の周囲には、温度調節機構31およびガス交換機構32が備えられる。温度調節機構31は、灌流液リザーバー30内に貯留される灌流液の温度を調整する。ガス交換機構32は、灌流液リザーバー30内に貯留される灌流液に酸素等の気体を供給して、灌流液に気体を溶解させる。本実施形態においては、灌流液リザーバー30にガス交換機構32が備えられるが、本発明はこの限りではない。後述する第1主配管41にガス交換機構が備えられていてもよい。
【0028】
灌流液流入経路40は、第1主配管41と、第1接続配管42と、第1カニューレ43と、第1主配管41に介挿されたポンプ44、温度調整ユニット45、脱気ユニット46、圧力計47および流量計48とを含む。灌流液流入経路40は、少なくとも一部が筐体110の内部に配置される。灌流液流入経路40は、灌流液リザーバー30から第1主配管41および第1接続配管42を介して保存容器10内に灌流液を供給する。本実施形態においては、肝臓9に供給するための灌流液の温度を調整するための機構として、灌流液リザーバー30に備えられた温度調節機構31と、第1主配管41に介挿された温度調整ユニット45の2つの機構が設けられている。しかしながら、本発明はこの限りではない。灌流液の温度を調整するための機構は、設けられていなくてもよいし、灌流液リザーバー30および第1主配管41のいずれか一方のみに設けられていてもよい。
【0029】
第1主配管41は、灌流液リザーバー30と、保存容器10に備えられた第1接続配管42とを繋ぐ。第1接続配管42は、保存容器10の外部に配置された第1主配管41と、保存容器10の内部に配置された第1カニューレ43とを繋ぐ。第1カニューレ43は、移植用の肝臓9の血管に接続される。具体的には、第1カニューレ43は、肝臓9の門脈または肝動脈に接続される。ポンプ44は、第1主配管41内に灌流液リザーバー30から第1接続配管42および第1カニューレ43へと向かう灌流液の流れを発生させる。
【0030】
灌流液流出経路50は、第2主配管51と、第2接続配管52と、第2カニューレ53と、第2主配管51に介挿されたポンプ54、圧力計55および流量計56とを含む。灌流液流出経路50は、少なくとも一部が筐体110の内部に配置される。灌流液流出経路50は、保存容器10内から第2接続配管52および第2主配管51を介して筐体110内に灌流液を回収する。本実施形態においては、第1主配管41および第2主配管52の双方に圧力計47,55および流量計48,56が備えられているが、本発明はこれに限られない。圧力計および流量計はそれぞれ、第1主配管41および第2主配管52の一方のみに備えられていてもよいし、いずれにも備えられていなくてもよい。
【0031】
第2主配管51は、保存容器10に備えられた第2接続配管52と、灌流液リザーバー30とを繋ぐ。なお、本実施形態では、灌流液を循環させる機構を採用しているため、第2主配管51の下流側の端部が灌流液リザーバー30に繋がる。しかしながら、肝臓9を通過後の灌流液を循環させずに廃棄する場合、第2主配管51の下流側の端部は、廃液タンクに繋がる構成としてもよい。この場合、廃液タンクは筐体110内に配置されてもよいし、筐体110の外に配置されてもよい。
【0032】
第2接続配管52は、保存容器10の内部に配置された第2カニューレ53と、保存容器10の外部に配置された第2主配管51とを繋ぐ。第2カニューレ53は、移植用の肝臓9の血管に接続される。具体的には、第2カニューレ53は、肝臓9の肝上部下大静脈(SH-IVC)または肝下部下大静脈(IH-IVC)に接続される。ポンプ54は、第2主配管51内に第2カニューレ53および第2接続配管52から灌流液リザーバー30へと向かう灌流液の流れを発生させる。
【0033】
なお、灌流液リザーバー30、灌流液流入経路40または灌流液流出経路50は、pHや、特定の成分を検出するための計測ユニットを備えていてもよい。
【0034】
入力表示部60は、灌流装置1に外部から信号を入力するとともに、灌流装置1の駆動状態等の情報を表示する。本実施形態の入力表示部60は、入力と表示の双方を行うことができるタッチパネルである。しかしながら、入力表示部60は、キーボードやマウス等の入力部と、液晶ディスプレイ等の表示部とに分かれていてもよい。
【0035】
制御部100は、灌流装置1内の各部を動作制御するための部位である。図3中に概念的に示したように、本実施形態の制御部100は、CPU等の演算処理部101、RAM等のメモリ102、および、ハードディスクドライブ等の記憶部103を有するコンピュータにより構成されている。制御部100は、温度調節機構31、ガス交換機構32、ポンプ44、温度調整ユニット45、脱気ユニット46、圧力計47、流量計48、ポンプ54、圧力計55、流量計56、第1主配管41および第2主配管51の各部に介挿された電磁弁、および、入力表示部60と、それぞれ電気的に接続されている。
【0036】
制御部100は、記憶部103に記憶されたコンピュータプログラムPやデータDを、メモリ102に一時的に読み出し、当該コンピュータプログラムPおよびデータDに基づいて、演算処理部101が演算処理を行う。これにより、灌流装置1内の各部を動作制御する。なお、制御部100は、電子回路により構成されてもよい。
【0037】
装置本体11の電装部21には、図3中に図示しない電源装置などの重みのある電装部品が収容されている。なお、灌流装置1が循環式でなく、使用後の灌流液を循環させずに廃棄する場合、廃液タンクを電装部21内に配置してもよい。
【0038】
接続部22の前面には、保存容器10を載置するためのテーブル221が備えられている。テーブル221は、略水平な上面を有する。テーブル221の縁部は、保存容器10が移動するのを防ぐために、上方に突出する。また、保存容器10をテーブル221上に載置する際、テーブル221の上面を滅菌布で覆った上に保存容器10を載置してもよい。
【0039】
なお、テーブル221は折り畳み式であってもよい。そのようにすれば、手術処理中の臓器を装置本体11の主配管41,51と接続する場合に、テーブル221が邪魔にならず、装置本体11をより術野に近づけることが可能である。また、テーブル221は、上下方向の位置を調整可能であってもよい。そのようにすれば、手術の際に、術野とテーブル221との相対的な高さを調整できる。その結果、術野とテーブル221に載置された保存容器10との間で臓器を移動したり、術野とテーブル221との間で臓器が収容された保存容器10を移動したりすることが容易となる。
【0040】
また、図2に示すように、接続部22の前面側から、第1主配管41および第2主配管51の端部が露出している。これにより、第1主配管41の下流側の端部に設けられたコネクタを、保存容器10の第1接続配管42に、容易に接続できる。また、第2主配管51の上流側の端部に設けられたコネクタを、保存容器10の第2接続配管52に、容易に接続できる。
【0041】
パネル部23の前面には、タッチパネル式の入力表示部60が備えられる。接続部22およびパネル部23の内部には、灌流液流入経路40および灌流液流出経路50の大部分が収容される。すなわち、接続部22およびパネル部23の内部には、第1主配管41の一部、ポンプ44、温度調整ユニット45、脱気ユニット46、圧力計47および流量計48と、第2主配管51の一部、ポンプ54、圧力計55および流量計56とが収容される。
【0042】
リザーバー収容部24には、灌流液リザーバー30、温度調節機構31およびガス交換機構32が収容される。リザーバー収容部24に収容される灌流液リザーバー30は、1つに限られない。リザーバー収容部24に複数の灌流液リザーバー30が収容されてもよい。リザーバー収容部24に収容される灌流液リザーバー30を複数個とすることにより、灌流液リザーバー30の交換等を行うことが容易になる。
【0043】
本実施形態のリザーバー収容部24は、前面に、灌流液リザーバー30内の灌流液の交換時期の目安を示すランプ241を有する。なお、灌流装置1が循環式でなく、使用後の灌流液を循環させずに廃棄する場合、ランプ241は、灌流液リザーバー30内の灌流液の残量を示すものであってもよい。
【0044】
温度調節機構31は、リザーバー収容部24の後面側において、下部から上部に亘って配置される。リザーバー収容部24の上面には、温度調節機構31が吸気または排気することができる通気孔242が設けられる。なお、リザーバー収容部24は、ランプ241および通気孔242を有していなくてもよい。
【0045】
本実施形態では、装置本体11は、前後方向の厚みが20cm~40cm、左右方向の幅が50cm~70cm、そして支持部を含めた高さが120cm~150cm、となるように設計されている。このように、装置本体11を前後方向に薄くし、高さ方向に高く設計することにより、摘出手術または移植手術の際に、手術執刀者の近傍に配置しやすい。これにより、摘出手術においては、手術中または手術完了後まもなく、肝臓9を灌流することができる。また、移植手術においては、移植直前まで、あるいは、移植手術の途中まで肝臓9を灌流することができる。その結果、肝臓9が温阻血状態となる期間を低減できる。
【0046】
また、装置本体11を手術執刀者の近傍に配置できない場合であっても、装置本体11から切り離した保存容器10を手術執刀者および術野の近傍に配置することができる。摘出手術または移植手術の際には、術野と保存容器10との間を手などで触れた状態で肝臓9を運搬することとなる。このため、保存容器10を術野の近傍に配置することにより、運搬によって肝臓9が損傷することを抑制できる。
【0047】
<1-2.保存容器の構成>
以下では、保存容器10の詳細な構成について、図4図6を参照しつつ説明する。図4は、保存容器10の斜視図である。図5は、保存容器10の横断面図である。図6は、保存容器10の縦断面図である。
【0048】
図4に示すように、保存容器10は、本体部71および蓋部72を含むケーシング70と、第1接続配管42と、第2接続配管52と、配管保持部73と、蓄熱材収容部74とを有する。
【0049】
ケーシング70は、上部に開口710を有する有底筒状の本体部71と、本体部71の開口710を覆う蓋部72とを含む。本体部71に蓋部72を固定具(図示せず)により取り付けると、本体部71および蓋部72により囲まれる内部空間は、2つの接続配管42,52の内部空間を除いて気密かつ液密となる。ケーシング70の内部には、保存対象となる臓器(本実施形態では肝臓9)と、保存液とが収容される。なお、保存液には、例えば、灌流液と同じ液体が用いられる。また、本体部71と蓋部72とが固定可能であれば、ケーシング70は固定具を有していなくてもよい。
【0050】
また、本実施形態では、ケーシング70の内部にインナーケーシング75が配置されている。インナーケーシング75は、ケーシング70の内部に収容される臓器の可動範囲を小さくする役割を果たす。インナーケーシング75は、移植の対象となる臓器の種類毎に、異なるサイズおよび形状のものが用意される。これにより、臓器が、ケーシング70の内部で動いて傷つくのを抑制する。
【0051】
図6に示すように、本体部71は、底部711と、底部711から上方へ筒状に延びる側壁部712とを有する。図5および図6に示すように、本体部71の底部711および側壁部712は、断熱壁となっている。断熱壁は、間隔を空けて配置される二重壁791と、二重壁791の内部に配置される断熱部材792とを有する。なお、断熱壁は、断熱部材792に代えて、二重壁791の内部に配置される空気層を有していてもよい。このように本体部71の少なくとも一部が断熱壁となっていることにより、保存容器10の内部に収容される肝臓9および保存液の温度を一定に保ちやすい。
【0052】
第1接続配管42および第2接続配管52は、ケーシング70の内部と外部とを連通する。第1接続配管42は、ケーシング70の外部から内部へと灌流液を流入するための流路となる。第2接続配管52は、ケーシング70の内部から外部へと灌流液を流出するための流路となる。
【0053】
本実施形態では、保存容器10は、1つの第1接続配管42および1つの第2接続配管52を含む2つの接続配管42,52を有する。しかしながら、保存容器10は、複数の第1接続配管42を有してもよいし、複数の第2接続配管52を有してもよい。
【0054】
配管保持部73は、本体部71の側壁部712に備えられている。配管保持部73は、第1接続配管42および第2接続配管52を、ケーシング70の密閉状態を保ったまま保持する。すなわち、第1接続配管42および第2接続配管52と配管保持部73との間が密閉状態であり、かつ、配管保持部73とケーシング70の側壁部712との間が密閉状態である。このため、上述の通り、ケーシング70の本体部71に蓋部72を取り付けると、本体部71および蓋部72により囲まれる内部空間は、2つの接続配管42,52の内部空間を除いて気密かつ液密となる。
【0055】
蓄熱材収容部74には、蓄熱材740が収容される。本実施形態の蓄熱材収容部74は、本体部71の底部711の上、かつ、臓器が収容される領域の下に配置される。蓄熱材740を予め所望の温度としておくことにより、保存容器10内に収容される臓器および保存液を所望の温度に保つことができる。なお、蓄熱材収容部74は、本体部71および蓋部72のいずれの部分に配置されてもよい。蓄熱材収容部74は、例えば、本体部71の側壁部712の内側に配置されてもよいし、蓋部72の下面付近に配置されてもよい。また、蓄熱材収容部74は、蓄熱材740を取り出し可能に構成されることが好ましい。
【0056】
このように、接続配管42,52を備えた保存容器10の内部に、カニューレ43,53を介して接続配管42,52と接続した臓器を保存する。これにより、保存容器10の外側から接続配管42,52への接続を行えば、保存容器10から臓器を取り出すことなく、保存容器10内の臓器を灌流装置1と接続して灌流したり、灌流装置1から取り外したりすることができる。また、保存容器10内に臓器を収容したまま、輸送することもできる。したがって、臓器に直接触れることなく、灌流や輸送などの臓器移植に必要な工程を行うことができる。すなわち、臓器の摘出手術または移植手術において、臓器の物理的な損傷、体温による温度損傷や温虚血状態を低減できる。
【0057】
本実施形態では、図5に示すように、第1主配管41の下流側(第1接続配管42側)の端部と、第1接続配管42の下流側(第1カニューレ43側)の端部と、第2主配管51の上流側(第2接続配管52側)の端部と、第2接続配管52の上流側(第2カニューレ53側)の端部には、第1コネクタ81と称する同一形状のコネクタが設けられている。また、第1接続配管42の上流側(第1主配管41側)の端部と、第1カニューレ43の上流側(第1接続配管42側)の端部と、第2接続配管52の下流側(第2主配管51側)の端部と、第2カニューレ53の下流側(第2接続配管52側)の端部には、第2コネクタ82と称する同一形状のコネクタが設けられている。
【0058】
第1コネクタ81と第2コネクタ82とは、互いに、ワンタッチで取り付けおよび取り外しを行うことができる。このため、第1主配管41の下流側の第1コネクタ81および第1接続配管42の上流側の第2コネクタ82と、第1接続配管42の下流側の第1コネクタ81および第1カニューレ43の上流側の第2コネクタ82とをワンタッチで取り付けおよび取り外しできるだけでなく、第1主配管41の下流側の第1コネクタ81および第1カニューレ43の上流側の第2コネクタ82をワンタッチで取り付けおよび取り外しできる。
【0059】
同様に、第2主配管51の上流側の第1コネクタ81および第2接続配管52の下流側の第2コネクタ82と、第2接続配管52の上流側の第1コネクタ81および第2カニューレ53の下流側の第2コネクタ82とをワンタッチで取り付けおよび取り外しできるだけでなく、第2主配管51の上流側の第1コネクタ81および第2カニューレ53の下流側の第2コネクタ82をワンタッチで取り付けおよび取り外しできる。したがって、コネクタ同士の接続および取り外しのための接続時間を短縮できる。
【0060】
これにより、ドナーからの臓器の摘出手術において臓器を保存容器10に収容する前や、レシピエントへの臓器の移植手術において臓器を保存容器10から取り出した後においても、第1カニューレ43および第2カニューレ53を、第1主配管41および第2主配管51と簡単に接続できる。したがって、このような場合に、臓器を灌流状態として、臓器の状態が悪化するのを抑制できる。
【0061】
<1-3.摘出手術および移植手術の流れ>
続いて、本実施形態の灌流装置1を用いた肝臓9の摘出手術および移植手術の流れについて、図7図9を参照しつつ説明する。図7は、灌流装置1を用いた肝臓9の摘出手術の一例の流れを示したフローチャートである。図8は、簡易灌流装置90の構成を示した概略図である。図9は、灌流装置1を用いた肝臓9の移植手術の一例の流れを示したフローチャートである。
【0062】
肝臓9の摘出手術の流れについて、図7を参照しつつ説明する。図7に示すように、まず、ドナーの肝臓9の門脈または肝動脈を切断し、第1カニューレ43と接続する。また、ドナーの肝臓9の肝上部下大静脈または肝下部下大静脈を切断し、第2カニューレ53と接続する(ステップS101)。
【0063】
次に、第1カニューレ43と、第1主配管41とを直接接続する。また、第2カニューレ53と、第2主配管51とを直接接続する。そして、灌流装置1を駆動させて、肝臓9への灌流を開始する(ステップS102)。
【0064】
そして、ドナーと接続する他の血管を含め、各部を切断し、ドナーから肝臓9を摘出するための処理を完了する(ステップS103)。
【0065】
その後、灌流装置1を停止させて、肝臓9への灌流を停止する。そして、第1カニューレ43および第1主配管41、第2カニューレ53および第2主配管51をそれぞれ取り外し、肝臓9を保存容器10内へと収容する(ステップS104)。
【0066】
続いて、第1カニューレ43を保存容器10の第1接続配管42に接続するとともに、第1接続配管42を第1主配管41と接続する。また、第2カニューレ53を保存容器10の第2接続配管52に接続するとともに、第2接続配管52を第2主配管51と接続する。そして、灌流装置1を駆動させて、肝臓9への灌流を再開する(ステップS105)。以上により、ドナーからの肝臓9の摘出手術が完了する。
【0067】
なお、上記のステップS101~S105において、ドナーからの移植用の肝臓9の摘出手順において通常実施される処置(例えば、結合組織の除去、血管の剥離、血管切断のための血管の一時的な結紮またはクランプ、胆管の遮断および切断、移植用の肝臓9への血液凝固剤の適用、手術部位の止血処置、等)は、執刀者等が必要に応じて適宜行うことができる。
【0068】
本実施形態の灌流装置1は、上述の通り、術野および執刀者の近傍に配置しやすい形状をしている。このため、ステップS103における肝臓9の摘出処理の際に灌流装置1を術野の近傍に配置して、肝臓9を灌流しながら摘出処理を行うことができる。これにより、肝臓9が温阻血状態となる期間を短縮できる。
【0069】
また、本実施形態の灌流装置1は、肝臓9を収容する保存容器10が灌流装置1から着脱可能であるため、灌流装置1から独立して運搬可能である。したがって、保存容器10の持ち運びが容易である。このため、ステップS104において、保存容器10を術野のごく近傍に運ぶことが可能である。したがって、ステップS104における肝臓9の運搬の際に、肝臓9が運搬される距離および時間を短くできる。よって、運搬によって肝臓9が損傷することを抑制できる。
【0070】
ドナーからの肝臓9の摘出が完了した後、レシピエント側への輸送開始まで灌流装置1による灌流が行われる。その後、レシピエント側への輸送の際には、図8に示すような簡易灌流装置90を用いて簡易的に灌流を行いながら輸送をすることができる。このようにすれば、輸送中に肝臓9が阻血状態となり、肝臓9が損傷することを抑制できる。また、レシピエント側の病院あるいは手術室へ到着した後、レシピエントまでの移植手術まで時間がある場合や、灌流による肝臓9の機能の回復の必要がある場合は、再び灌流装置1による灌流を行う。
【0071】
図8に示すように、簡易灌流装置90は、バッグリザーバー91と、バッグリザーバー91と第1接続配管42とを繋ぐ流入用配管92と、流入用配管92に介挿されたエアトラップ93、圧力計94および流量計95と、廃液タンク96と、第2接続配管52と廃液タンク96とを繋ぐ排出用配管97とを有する。
【0072】
バッグリザーバー91は、点滴バッグ型の容器に灌流液が充填されたものである。バッグリザーバー91を保存容器10よりも上方に配置することにより、点滴と同様に、バッグリザーバー91から流入用配管92、第1接続配管42および第1カニューレ43を介して肝臓9へと灌流液が流入する。
【0073】
一方、第1カニューレ43から肝臓9へと流入された灌流液は、肝臓9内を通って第2カニューレ53から第2接続配管52および排出用配管97を介して廃液タンク96へと排出される。なお、廃液タンク96は、保存容器10よりも下方に配置することが好ましい。
【0074】
このような簡易灌流装置90を用いれば、ドナーからの摘出手術を行った場所から、レシピエントへの移植手術を行う場所まで輸送する際に、簡易的に肝臓9を灌流することが可能となる。これにより、輸送中に阻血状態となることにより、肝臓9が損傷することを抑制できる。
【0075】
続いて、灌流装置1において灌流がなされている肝臓9の移植手術の流れについて、図9を参照しつつ説明する。図9に示すように、まず、灌流装置1を停止させて、肝臓9への灌流を停止する。そして、第1カニューレ43および第1接続配管42、第2カニューレ53および第2接続配管52をそれぞれ取り外し、肝臓9を保存容器10から取り出し、レシピエントの移植位置へと配置する(ステップS201)。
【0076】
次に、第1カニューレ43と、第1主配管41とを直接接続する。また、第2カニューレ53と、第2主配管51とを直接接続する。そして、灌流装置1を駆動させて、肝臓9への灌流を再開する(ステップS202)。
【0077】
続いて、第1カニューレ43および第2カニューレ53が挿入されていない肝臓9の各血管を、レシピエントの対応する血管と吻合する(ステップS203)。
【0078】
その後、灌流装置1を停止させて、肝臓9から第1カニューレ43および第2カニューレ53を除去する(ステップS204)。そして、第1カニューレ43および第2カニューレ53が接続されていた血管をそれぞれ、レシピエントの対応する血管と吻合する(ステップS205)。以上により、レシピエントへの肝臓9の移植手術が完了する。
【0079】
なお、上記のステップS201~S205において、移植用の肝臓9のレシピエントへの移植手順において通常実施される処置(例えば、結合組織の除去、血管の剥離、血管切断のための血管の一時的な結紮またはクランプ、胆管の遮断および切断、移植用の肝臓9への血液凝固剤の適用、手術部位の止血処置、等)は、執刀者等が必要に応じて適宜行うことができる。
【0080】
本実施形態の灌流装置1は、上述の通り、術野および執刀者の近傍に配置しやすい形状をしている。このため、ステップS205における肝臓9の移植処理の際に灌流装置1を術野の近傍に配置して、肝臓9を灌流しながら移植処理を行うことができる。これにより、肝臓9が温阻血状態となる期間を短縮できる。
【0081】
また、本実施形態の灌流装置1は、肝臓9を収容する保存容器10が灌流装置1から着脱可能であるため、灌流装置1から独立して運搬可能である。したがって、保存容器10の持ち運びが容易である。このため、ステップS201において、保存容器10を術野のごく近傍に運ぶことが可能である。したがって、ステップS201における肝臓9の運搬の際に、臓器にヒトの体温が触れる状態で肝臓9が運搬される距離および時間を短くできる。よって、運搬によって肝臓9が損傷することを抑制できる。
【0082】
<2.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。
【0083】
図10は、一変形例に係る保存容器10Aの斜視図である。図10に示すように、保存容器10Aは、本体部71Aと、蓋部72Aと、配管保持部73Aと、配管保持部73Aに固定された第1接続配管42A、第1カニューレ43A、第2接続配管52Aおよび第2カニューレ53Aとを有する。
【0084】
図10の例では、配管保持部73Aは、本体部71Aから取り外し可能である。また、第1カニューレ43Aは、第1接続配管42Aと取り外し不可能に接続される。第2カニューレ53Aは、第2接続配管52Aと取り外し不可能に接続される。
【0085】
本体部71Aは、側壁部712Aの上端部に配置された切り欠き719Aを有する。配管保持部73Aは、切り欠き719Aに嵌まる。切り欠き719Aに配管保持部73Aを嵌めた状態で、本体部71Aに蓋部72Aを固定具(図示せず)により取り付けると、本体部71Aおよび蓋部72Aにより囲まれる内部空間は、接続配管42A,52Aおよびカニューレ43A,53Aの内部空間を除いて気密かつ液密となる。
【0086】
図10の例の保存容器10Aでは、臓器とカニューレ43A,53Aとを接続する際に、配管保持部73Aごとカニューレ43A,53Aを術野へと持って行くことができる。このようにすれば、配管保持部73Aの取り付けまたは取り外しを行えば、第1接続配管42Aおよび第1カニューレ43Aと、第2接続配管52Aおよび第2カニューレ53Aとを取り付けたり取り外したりする必要が無く、取り外しや付け替えの手間を省くことができる。このため、配管保持部73Aに保持される接続配管42A,52Aの数が多い場合、すなわち、臓器に接続するカニューレ43A,53Aの本数が多い場合、特に有用である。
【0087】
図11は、他の変形例に係る保存容器10Bの分解斜視図である。図11に示すように、保存容器10Bは、本体部71Bに、ガス交換機構713Bが備えられている。ガス交換機構713Bは、保存容器10B内に貯留される灌流液に酸素等の気体を供給して、灌流液に気体を溶解させる。図11の例のように、保存容器10Bにガス交換機構713Bが備えられてもよい。このようにすれば、保存容器10Bを装置本体から取り外した場合であっても、保存容器10B内の保存液に酸素等の気体を供給できる。
【0088】
図12は、他の変形例に係る保存容器10Cの横断面図である。図12に示すように、保存容器10Cは、本体部71Cおよび蓋部を含むケーシングと、2つの第1接続配管42Cと、2つの第2接続配管52Cとを有する。一方、この保存容器10Cが接続される装置本体は、2つの第1主配管41Cおよび2つの第2主配管51Cを有する。
【0089】
このように、保存容器10Cが2つの第1接続配管42Cおよび2つの第2接続配管52Cを有することにより、保存容器10C中に収容される肝臓9Cは、門脈および肝動脈の双方を第1カニューレ43Cおよび第1接続配管42Cを介して第1主配管41Cと接続できる。また、肝臓9Cの肝上部下大静脈および肝下部下大静脈の双方を第2カニューレ53Cおよび第2接続配管52Cを介して第2主配管51Cと接続できる。このように、肝臓9Cへの灌流液の供給経路および肝臓9Cからの灌流液の排出経路をそれぞれ複数とすることにより、肝臓9Cの状態をより良好なものとできる。
【0090】
図13は、他の変形例に係る保存容器10Dの横断面図である。図13に示すように、保存容器10Dは、本体部71Dおよび蓋部を含むケーシングと、2つの第1接続配管42Dと、1つの第2接続配管52Dとを有する。一方、この保存容器10Dが接続される装置本体は、2つの第1主配管41Dおよび1つの第2主配管51Dを有する。
【0091】
このように、保存容器10Dが2つの第1接続配管42Dを有することにより、保存容器10D中に収容される肝臓9Dは、門脈および肝動脈の双方を第1カニューレ43Dおよび第1接続配管42Dを介して第1主配管41Dと接続できる。また、肝臓9Dの肝下部下大静脈を第2カニューレ53Dおよび第2接続配管52Dを介して第2主配管51Dと接続できる。このように、肝臓9Dへの灌流液の供給経路を複数とすることにより、肝臓9Dの状態をより良好なものとできる。
【0092】
図14は、他の変形例に係る保存容器10Eの横断面図である。図14に示すように、保存容器10Eは、本体部71Eおよび蓋部を含むケーシングと、2つの第1接続配管42Eと、1つの第2接続配管52Eとを有する。一方、この保存容器10Eが接続される装置本体は、2つの第1主配管41Eおよび1つの第2主配管51Eを有する。
【0093】
このように、保存容器10Eが2つの第1接続配管42Eを有することにより、保存容器10E中に収容される肝臓9Eは、門脈および肝動脈の双方を第1カニューレ43Eおよび第1接続配管42Eを介して第1主配管41Eと接続できる。また、肝臓9Dの肝上部下大静脈を第2カニューレ53Eおよび第2接続配管52Eを介して第2主配管51Eと接続できる。このように、肝臓9Eへの灌流液の供給経路を複数とすることにより、肝臓9Eの状態をより良好なものとできる。
【0094】
なお、図14の例では、2つの第1カニューレ43Eと、第2カニューレ53Eとが、互いにインナーケーシング75Eの反対側に配置される。これにより、肝臓9Eをバランス良くインナーケーシング75Eに載置できる。また、灌流液の流入および流出によって肝臓9Eにかかる負荷が肝臓9Eの一方側に集中することを抑制できる。
【0095】
図12ないし図14の例では、肝臓9C,9D,9Eに対して門脈および肝動脈の双方から灌流液を供給できる。通常、肝臓への流入血流量は、肝臓の栄養血管である肝動脈が約3割、肝臓の機能血管である門脈が約7割となっている。灌流処理時に肝臓を状態良く保存するためには、栄養血管である肝動脈に酸素を付加した灌流液を供給することが好ましい。しかしながら、肝動脈のみに灌流液を供給すると、肝臓へ供給可能な灌流液の流量が少なくなる。そこで、灌流処理の際には、肝動脈と門脈との双方に灌流液を供給することが好ましい。したがって、図12ないし図14の例のように、2つの灌流液流入経路により肝臓へ灌流液を供給することにより、肝臓の状態をより良好なものとできる。
【0096】
上述の通り、少なくとも肝動脈に供給される灌流液に酸素が付加されることが好ましい。第1実施形態(図1参照)と同様に灌流液リザーバーにガス交換機構が備えられる場合には、灌流液リザーバー30内の灌流液に酸素を付加することができる。したがって、図12ないし図14の例のように2つの灌流液流入経路を用意することにより、肝動脈と門脈との双方に、酸素が付加された灌流液が供給される。しかしながら、本発明はこれに限られない。例えば、灌流液リザーバーがガス交換機構を備えておらず、肝動脈および門脈のそれぞれに接続される灌流液流入経路の途中に酸素を付加する機構を備えていてもよい。なお、灌流液に酸素を付加する機構は、肝動脈に接続される灌流液流入経路と、門脈に接続される灌流液流入経路とのいずれか一方のみに備えられてもよいし、両方に備えられてもよい。
【0097】
上記の第1実施形態のように灌流液リザーバー30にガス交換機構32が備えられている場合、肝動脈と門脈とに、酸素付加量が同じ灌流液が供給される。これに対し、灌流液流入経路の途中に酸素を付加する機構を設けると、肝動脈へ供給する灌流液の酸素付加量と、門脈へ供給する灌流液の酸素付加量とを別々に設定することが可能となる。
【0098】
図12ないし図14の例のように、灌流液流入経路および灌流液流出経路の数が増えると、一方で、灌流装置全体の大きさが大きくなる。そこで、図13および図14の例では、灌流液流出経路は1つとしている。肝臓において灌流液流出経路と接続する血管は肝上部下大静脈または肝下部下大静脈である。これらの静脈は同じ静脈の一部であるため、いずれか一方のみを灌流液流出経路と接続したとしても、両方を灌流液流出経路と接続した場合と比べても、灌流液の排出効率の低下は僅かである。このため、図13の例のように、肝動脈と門脈とにそれぞれ接続される2つの灌流液流入経路と、1つの灌流液流出経路とを有することにより、肝臓の状態をより良好なものとしつつ、灌流装置の体格が大きくなるのをなるべく抑制できる。
【0099】
第1実施形態、ならびに、図12ないし図14の例のように、灌流液流入経路および灌流液流出経路はそれぞれ1つであってもよいし、2つであってもよい。また、灌流液流入経路および灌流液流出経路はそれぞれ、3つ以上であってもよい。
【0100】
図15は、他の変形例に係る簡易灌流装置90Fの構成を示した概略図である。図15の例の簡易灌流装置90Fは、バッグリザーバー91Fと、バッグリザーバー91Fと第1接続配管42Fとを繋ぐ流入用配管92Fと、流入用配管92Fに介挿されたポンプ920Fと、圧力計94Fおよび流量計95Fと、第2接続配管52Fとバッグリザーバー91Fとを繋ぐ排出用配管97Fと、排出用配管97Fに介挿されたポンプ970Fとを有する。バッグリザーバー91Fは、ガス交換機構910Fを備える。ガス交換機構910Fは、バッグリザーバー91F内に貯留される灌流液に酸素等の気体を供給して、灌流液に気体を溶解させる。
【0101】
なお、バッグリザーバー91Fには、上記の実施形態の簡易灌流装置90と同様に、点滴バッグ型の容器に灌流液が充填されたものが用いられてもよい。その場合、流入用配管92Fに介挿されたポンプ920Fを省略し、図8に示す簡易灌流装置90と同様に、バッグリザーバー91Fを保存容器10Fよりも上方に配置する。これによって、重力を利用して、バッグリザーバー91Fから流入配管92F、第1接続配管42Fおよび第1カニューレ43Fを介して肝臓9Fへと灌流液を流入できる。
【0102】
図15の例のように、肝臓9Fの運搬時には、閉鎖系において灌流を行うことが好ましい。
【0103】
図16は、他の変形例に係る灌流装置1Gの斜視図である。図16に示すように、この灌流装置1Gの筐体110Gは、リザーバー収容部を有していない。すなわち、この灌流装置1Gの装置本体11Gの内部には、灌流液リザーバーが収容されない。この灌流装置1Gでは、筐体110Gの外部に配置された灌流液リザーバー30Gから灌流液が供給される。
【0104】
図16の使用例では、筐体110Gの外部に配置されたリザーバー収容容器20Gの内部に、灌流液リザーバー30Gが収容される。そして、灌流液リザーバー30Gには、接続部22から延びた第1主配管41Gが接続される。なお、第1主配管41Gは、筐体110Gの接続部22G以外の箇所から延びてもよい。リザーバー収容容器20Gの下部には、リザーバー収容容器20Gを安定的に、かつ、移動可能に支持するキャスタ201Gが備えられている。これにより、リザーバー収容容器20Gも、装置本体11Gと同様に、容易に移動を行うことができる。
【0105】
なお、第1主配管41Gに介挿され、第1主配管41G内に灌流液リザーバー30Gから保存容器10G側へと向かう灌流液の流れを発生させるポンプは、リザーバー収容容器20G内および筐体110G内のいずれか一方のみに配置されてもよいし、両方に配置されてもよい。
【0106】
図16の例の灌流装置1Gにおいて、筐体110Gの外部に配置された灌流液リザーバーとして、点滴バッグ型のバッグリザーバーを用いてもよい。その場合、バッグリザーバーを第1主配管41Gが延びる接続部22Gよりも上方に配置することによって、重力を利用して、第1主配管41G内にバッグリザーバーから保存容器10G内の臓器へ向かう灌流液の流れを発生できる。
【0107】
図16の例のように、灌流液リザーバーは、灌流装置1Gの筐体110G内に配置されず、筐体110Gの外部に配置されてもよい。
【0108】
また、上記の実施形態および変形例では、配管保持部に接続配管が固定されていたが、本発明はこれに限られない。接続配管とカニューレとが一体であって、接続配管が配管保持部から取り外し可能であってもよい。
【0109】
また、上記の実施形態および変形例では、それぞれの配管が1つの繋がった管で表されていたが、本発明はこれに限られない。各配管は、複数の管状部材を接続させたものであってもよい。
【0110】
また、上記の実施形態では、保存容器を載置するテーブルが板状の部材であったが、本発明はこれに限られない。保存容器を載置するテーブルは、灌流装置の装置本体の有する略水平な上面であってもよい。また、保存容器を載置するテーブルは、装置本体の上面から凹む凹部に保存容器を嵌め込む構成であってもよい。
【0111】
また、上記の実施形態および変形例では、保存対象の臓器が肝臓であったが、本発明はこれに限られない。保存対象の臓器は、腎臓等のその他の臓器であってもよい。
【0112】
また、上記の実施形態や変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0113】
1 灌流装置
9,9C 肝臓
10,10A,10B,10C,10D,10E,10G 保存容器
11 装置本体
30,30G 灌流液リザーバー
40 灌流液流入経路
41,41C,41G 第1主配管
42,42A,42C,42D,42E,42F 第1接続配管
43,43A,43F 第1カニューレ
50 灌流液流出経路
51,51C,51D,51E 第2主配管
52,52A,52C,52D,52E 第2接続配管
53,53A,53C,53D,53E 第2カニューレ
60 入力表示部
70 ケーシング
71,71A,71B,71C,71D,71E 本体部
72,72A 蓋部
73,73A 配管保持部
74 蓄熱材収容部
110 筐体
221 テーブル
740 蓄熱材
791 二重壁
792 断熱部材
図1
図2
図3
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図16