(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-08
(45)【発行日】2023-03-16
(54)【発明の名称】リニアモータ、電磁サスペンションおよび洗濯機
(51)【国際特許分類】
H02K 41/03 20060101AFI20230309BHJP
D06F 37/20 20060101ALI20230309BHJP
【FI】
H02K41/03 A
D06F37/20
(21)【出願番号】P 2018241732
(22)【出願日】2018-12-25
【審査請求日】2021-10-25
(73)【特許権者】
【識別番号】399048917
【氏名又は名称】日立グローバルライフソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】法月 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】岩路 善尚
(72)【発明者】
【氏名】馬飼野 祐貴
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-101019(JP,A)
【文献】特開平11-341778(JP,A)
【文献】特開2006-320150(JP,A)
【文献】特開2018-157721(JP,A)
【文献】特開2017-200336(JP,A)
【文献】国際公開第2015/177883(WO,A1)
【文献】特開2011-106571(JP,A)
【文献】特開昭55-068868(JP,A)
【文献】特開昭61-088760(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 41/03
H02K 33/00
D06F 37/20
F16F 15/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電機子鉄心と、電機子巻線と、を有する固定子と、
前記固定子に対向する第1の面と第2の面とを有し、所定の移動方向に沿って前記固定子に対して相対的に移動する可動子と、を備え、
前記電機子鉄心は、前記第1の面に対向する第1の磁気歯と、前記第1の面に対向し前記第1の磁気歯に対して前記移動方向に沿って隣接する第2の磁気歯と、前記第2の面に対向する第3の磁気歯と、前記第2の面に対向し前記第3の磁気歯に対して前記移動方向に沿って隣接する第4の磁気歯と、を備え、
前記可動子は、前記第1の磁気歯の中心と前記第2の磁気歯の中心との前記移動方向の距離を磁気歯ピッチとしたとき、前記移動方向に沿って前記磁気歯ピッチの0.8倍よりも長い区間に渡って、前記第1の面はS極またはN極のうち一方の極に磁化され、前記移動方向に沿って前記磁気歯ピッチの0.8倍よりも長い区間に渡って、前記第2の面はS極またはN極のうち他方の極に磁化されて
おり、
前記可動子は、
前記移動方向に沿って前記磁気歯ピッチの0.8倍よりも長い距離に渡ってS極に磁化したS極面と、前記磁気歯ピッチの0.8倍よりも長い距離に渡ってN極に磁化したN極面と、を有する板状の磁石と、
前記磁石よりも透磁率の低い材質で形成され前記磁石を把持するフレームと、を備え、
前記移動方向における前記磁石の一端が前記第1の磁気歯の外端に達する位置を第1の位置とし、前記移動方向における前記磁石の他端が前記第2の磁気歯の外端に達する位置を第2の位置としたとき、前記第1ないし第4の磁気歯の各々の幅は、前記第1の位置から前記第2の位置までの前記可動子の移動距離である範囲長よりも長い
ことを特徴とするリニアモータ。
【請求項2】
前記フレームは、前記第1の面と前記第2の面とを挿通する貫通孔を有し、
前記磁石は一体に形成され、前記貫通孔に装着されている
ことを特徴とする請求項
1に記載のリニアモータ。
【請求項3】
前記磁石は、サマリウム-鉄-窒素系の磁石である
ことを特徴とする請求項
2に記載のリニアモータ。
【請求項4】
前記磁石は、矩形板状または直方体状の形状を有する
ことを特徴とする請求項
3に記載のリニアモータ。
【請求項5】
請求項1ないし請求項
4の何れか1項に記載のリニアモータと、
前記固定子または前記可動子を前記移動方向に付勢する弾性体と、を有する
ことを特徴とする電磁サスペンション。
【請求項6】
前記弾性体は、金属製の巻バネを含む
ことを特徴とする請求項
5に記載の電磁サスペンション。
【請求項7】
前記電機子巻線に交流電流を供給するインバータと、
前記電機子巻線に流れる電流を検出する電流検出器と、
前記電流検出器によって検出される電流に基づいて前記インバータを制御することによって前記リニアモータの推力を調整する推力調整部と、をさらに備える
ことを特徴とする請求項
6に記載の電磁サスペンション。
【請求項8】
請求項
7に記載の電磁サスペンションと、
衣類を収容する洗濯槽と、
前記洗濯槽を内包する外槽と、
前記洗濯槽を回転させる駆動機構と、
を備え、前記電磁サスペンションは前記外槽の振動を抑制する
ことを特徴とする洗濯機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リニアモータ、電磁サスペンションおよび洗濯機に関する。
【背景技術】
【0002】
直線運動する電機としてリニアモータやリニアアクチュエータ(以下、総称してリニアモータと称する)が知られている。リニアモータは、回転機を直線状に切り開いた構造を有しており、固定子と可動子の各々に構成された磁極の間に働く磁力によって、可動子に推力を発生させる。また、リニアモータを電磁サスペンションとして活用する検討も進められている。例えば、特許文献1および特許文献2には、洗濯機用のサスペンションとして、リニアモータを有する電磁サスペンションを適用する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-200336号公報
【文献】特開2011-106571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1,2に示されているリニアモータの可動子には、磁化方向が交互に反転するように、移動方向に沿って複数の磁石が装着されている。このように磁石の数が多くなると、組立が煩雑となり、コスト高を招くという問題がある。
この発明は上述した事情に鑑みてなされたものであり、安価に実現できるリニアモータ、電磁サスペンションおよび洗濯機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため本発明のリニアモータは、電機子鉄心と、電機子巻線と、を有する固定子と、前記固定子に対向する第1の面と第2の面とを有し、所定の移動方向に沿って前記固定子に対して相対的に移動する可動子と、を備え、前記電機子鉄心は、前記第1の面に対向する第1の磁気歯と、前記第1の面に対向し前記第1の磁気歯に対して前記移動方向に沿って隣接する第2の磁気歯と、前記第2の面に対向する第3の磁気歯と、前記第2の面に対向し前記第3の磁気歯に対して前記移動方向に沿って隣接する第4の磁気歯と、を備え、前記可動子は、前記第1の磁気歯の中心と前記第2の磁気歯の中心との前記移動方向の距離を磁気歯ピッチとしたとき、前記移動方向に沿って前記磁気歯ピッチの0.8倍よりも長い区間に渡って、前記第1の面はS極またはN極のうち一方の極に磁化され、前記移動方向に沿って前記磁気歯ピッチの0.8倍よりも長い区間に渡って、前記第2の面はS極またはN極のうち他方の極に磁化されており、前記可動子は、前記移動方向に沿って前記磁気歯ピッチの0.8倍よりも長い距離に渡ってS極に磁化したS極面と、前記磁気歯ピッチの0.8倍よりも長い距離に渡ってN極に磁化したN極面と、を有する板状の磁石と、前記磁石よりも透磁率の低い材質で形成され前記磁石を把持するフレームと、を備え、前記移動方向における前記磁石の一端が前記第1の磁気歯の外端に達する位置を第1の位置とし、前記移動方向における前記磁石の他端が前記第2の磁気歯の外端に達する位置を第2の位置としたとき、前記第1ないし第4の磁気歯の各々の幅は、前記第1の位置から前記第2の位置までの前記可動子の移動距離である範囲長よりも長いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、リニアモータ、電磁サスペンションおよび洗濯機を安価に実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るリニアモータの断面斜視図である。
【
図2】
図1のII-II線の模式的な矢視断面図である。
【
図3】
図1のIII-III線の模式的な矢視断面図である。
【
図4】第1実施形態における可動子の分解斜視図である。
【
図5】第1実施形態によるリニアモータの動作説明図である。
【
図6】第1実施形態および変形例によるリニアモータの模式図である。
【
図7】第1実施形態および変形例によるリニアモータの推力特性図である。
【
図9】本発明の第2実施形態による電磁サスペンションの斜視図である。
【
図10】本発明の第3実施形態による洗濯機の斜視図である。
【
図11】第3実施形態による洗濯機の縦断面図である。
【
図12】第3実施形態に適用される制振装置の構成図である。
【
図13】第3実施形態に適用される制振装置の要部の構成図である。
【
図14】比較例における洗濯槽の回転速度と外槽37の変位を示す図である。
【
図15】第4実施形態における洗濯槽の回転速度と外槽37の変位を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[第1実施形態]
〈第1実施形態の構成〉
図1は、本発明の第1実施形態によるリニアモータ10の断面斜視図である。なお、リニアモータ10は、例えば後述する他の実施形態の電磁サスペンション100(
図9参照)に適用され、電磁サスペンション100は、例えば洗濯機W(
図10参照)の振動を抑制するために適用される。
図1の符号x,y,zに示すように、x軸,y軸,z軸を定める。
図1は、リニアモータ10の外観を俯瞰するとともに、その1/4をカットし内部構造を図示している。リニアモータ10は、電機子である固定子11と、z軸方向に延在する板状の可動子12と、可動子12をz軸方向に滑動可能に支持するローラ13と、を備えている。
【0009】
固定子11はz軸方向に沿った略筒状に形成され、その中空部分に矩形平板状の可動子12が遊挿されている。そして、リニアモータ10は、固定子11と可動子12との間に働く磁気的な吸引力・反発力、すなわち推力によって、固定子11と可動子12との相対位置をz軸方向に変化させる。リニアモータ10を電磁サスペンション100に適用する場合には、可動子12は、制振対象物に結合される。
図1に示す例においては、洗濯機Wの外槽37(
図10参照)が制振対象物であり、可動子12は外槽37に結合されている。
【0010】
固定子11は、コア11a(電機子鉄心)と、巻線11b(電機子巻線)と、を備えている。コア11aは、電磁鋼板をz軸方向に積層したものであり、z軸方向に沿って隣接し可動子12に向かって突出する磁気歯151(第1の磁気歯)と、磁気歯152(第2の磁気歯)と、を備えている。また、
図5に示すように、コア11aは、可動子12を挟んで磁気歯151,152に対向する位置に、z軸方向に沿って隣接し可動子12に向かって突出する磁気歯153(第3の磁気歯)と、磁気歯154(第4の磁気歯)と、を備えている。
【0011】
巻線11bは、これら磁気歯151~154に巻回されている。また、コア11aは、磁気歯151,152の間に、巻線が巻回されていない補極部160を備えている。この補極部160は、可動子12を挟んで相互に対向する位置に、補極歯162,164を備えている(
図3参照)。
また、可動子12は、非磁性材料のフレーム122と、フレーム122に嵌め込まれた磁石124と、を備えている。
【0012】
図2は、
図1のII-II線の模式的な矢視断面図である。但し、
図1においてカットされてた1/4の部分は
図2ではカットされていない。
図2に示すように、固定子11のコア11aは、環状部156と、磁気歯151,153と、を備えている。
環状部156は、縦断面視において環状すなわち略矩形枠状の形状を有しており、この環状部156によって磁気回路が構成されている。一対の磁気歯151,153は、環状部156からy軸方向に沿って内側に延びており、相互に対向している。なお、磁気歯151,153のギャップは、板状を呈する可動子12の厚さよりも若干広くなっている。
【0013】
実線矢印で示す磁束ΦAは、可動子12によって生じる磁束である。磁気歯151,153には、それぞれ、巻線11bが巻回されている。なお、磁気歯152,154(
図5参照)も、磁気歯151,153と同様に構成されている。巻線11bには、インバータ(例えば後述する
図13のインバータ40等)が接続される。そして、このインバータによって巻線11bに通電すると、固定子11が電磁石として機能する。
【0014】
図3は、
図1のIII-III線の模式的な矢視断面図である。但し、
図1においてカットされてた1/4の部分は
図3ではカットされていない。
図3に示すように、コア11aの補極部160は、環状部166と、補極歯162,164と、を備えている。
環状部166は、縦断面視において環状すなわち略矩形枠状の形状を有しており、この環状部166によって磁気回路が構成されている。補極歯162,164は、環状部166からy軸方向内側に延びており、相互に対向している。なお、補極歯162,164のギャップは、板状を呈する可動子12の厚さよりも若干広くなっている。但し、補極歯162,164には、巻線が巻回されていない。破線矢印で示す磁束ΦBは、可動子12によって生じる磁束である。
【0015】
図4は、可動子12の分解斜視図である。上述したように、可動子12は、フレーム122と、磁石124と、を備えている。フレーム122は、非磁性材料を矩形枠状に形成したものである。そして、フレーム122には、表面122f(第1の面)および裏面122r(第2の面)を貫通する、矩形の貫通孔122hが形成されている。磁石124は、貫通孔122hと略同寸法の矩形板状に一体に形成され、貫通孔122hに装着される。
【0016】
また、リニアモータ10の応答性を高めるためには、可動子12は軽量であることが望ましい。そこでフレーム122を構成する非磁性材料には、プラスチックやアルミニウム等の軽量材料を適用することが考えられる。また、炭素繊維強化プラスチック等、軽量で強度の高い複合材を適用してもよい。すなわち、フレーム122の材質は、リニアモータ10の要求強度や仕様に応じて、任意に選択するとよい。
【0017】
また、磁石124は、y軸方向に磁化されている。すなわち、磁石124は、その一面であるS極面124SがS極に磁化され、S極面124Sの裏面であるN極面124NがN極に磁化されている。そして、磁石124がフレーム122に嵌め込まれると、貫通孔122hの表面122f側から磁石124のS極面124Sが露出し、貫通孔122hの裏面122r側から磁石124のN極面124Nが露出する。
【0018】
磁石124としては、サマリウム‐鉄‐窒素系の磁石を用いることが望ましい。磁石124の原料の具体的な割合(重量%)は、例えば、鉄:約73%、サマリウム:約24%、窒素:約3%である。上述した原料のうち、希土類元素はサマリウムである。これに対して、従来のネオジム磁石では、鉄:約65%、ネオジム:約28%、ジスプロシウム:約5%、ボロン:約2%の割合のものが多く使用されていた。上述した原料のうち、希土類元素はネオジムおよびジスプロシウムである。従って、サマリウム‐鉄‐窒素系の磁石124は、希土類元素の割合が従来のネオジム磁石よりも小さいため、市場動向の影響を受けにくく、生産性の向上を図ることができる。
【0019】
さらに、サマリウム‐鉄‐窒素系の磁石124は、従来のネオジム磁石やフェライト磁石とは異なり、樹脂に練り込んで金型成形することが可能である。従って、従来よりも磁石124の加工精度を向上させ、その寸法ばらつきを小さくすることができる。また、磁石124を金型成形する際に、原料の無駄な部分が残ったとしても再利用できるため、原料のロスがなくなり、製造コストを低減できる。また、磁石124の形状は、上述した矩形板状には限られないが、直方体状や、矩形以外の平板形状等、成型し易い単純形状を採用することが望ましい。特に、磁石124の形状として、
図4に示したような平板形状を採用すると、磁石使用量を少なくしながら磁極面積を大きくできる点で高効率を実現できる。
【0020】
図5は、リニアモータ10の動作説明図である。
図5に示す状態P1,P2(第1の位置),P3(第2の位置)は、固定子11と可動子12との相対的な位置関係が、それぞれ異なっている。また、
図5において、実線の太矢印は、磁石124が発生する磁束の向きを示しており、破線の太矢印は、固定子11が発生する磁束の向きを示している。状態P1~P3の何れにおいても、磁気歯151,152はフレーム122の表面122fに対向し、磁気歯153,154はフレーム122の裏面122rに対向している。
【0021】
各磁気歯151~154のz軸方向の幅は同一であり、この幅を「磁気歯幅TL(幅)」と呼ぶ。また、磁気歯151,152のz軸方向の中心位置を中心位置151c,152cと呼ぶ。中心位置151c,152cは、磁気歯153,154のz軸方向の中心位置にも等しい。ここで、中心位置151c,152cの距離を「磁気歯ピッチTP」と呼ぶ。また、磁石124のz軸方向の長さを磁石長MLと呼ぶ。
【0022】
図5の状態P1において、巻線11bは通電されていないため、固定子11は磁束を発生していない。そして、z軸方向における固定子11中心の中心(符号なし)と、可動子12の中心(符号なし)とが一致している。また、巻線11bに電流を流すと、電流の方向に応じて、磁気歯151~154を磁化させることができる。状態P1において、状態P2に示している「N」,「S」の記号と同様に、磁気歯151,154をN極に磁化させ、磁気歯152,153をS極に磁化させると、磁石124は、磁気歯151,153に吸引され、磁気歯152,154に反発される。
【0023】
このように、固定子11と可動子12との間に働く吸引力・反発力によって、固定子11および可動子12には、z軸方向に沿って相対的に推力が働く。なお、「推力」とは、可動子12と固定子11との相対位置を変化させる力である。このため、例えば状態P2に示すように、可動子12は、固定子11に対してz軸プラス方向(図上では左方向)に相対的に付勢され移動する。
【0024】
逆に、状態P1において、状態P3に示している「N」,「S」の記号と同様に、磁気歯151,154をS極に磁化させ、磁気歯152,153をN極に磁化させると、磁石124は、磁気歯151,153に反発され、磁気歯152,154に吸引される。このため、例えば状態P3に示すように、可動子12は、固定子11に対してz軸マイナス方向(図上では右方向)に相対的に付勢され移動する。
【0025】
状態P2においては、磁石124の左端124a(一端)と、磁気歯151の左端151a(外端)とのz軸方向の位置が一致している。また、状態P3においては、磁石124の右端124b(他端)と、磁気歯152の右端152b(外端)とのz軸方向の位置が一致している。状態P2から状態P3までの可動子12の移動範囲を「常用範囲」と呼び、常用範囲の長さを「常用範囲長UL(範囲長)」と呼ぶ。なお、固定子11および可動子12は、常用範囲を超えて相対移動させることも可能であるが、常用範囲を超えるとリニアリティが悪化し、制御が煩雑になる。そこで、本実施形態では、主として常用範囲でリニアモータ10を駆動することを想定している。
【0026】
ここで、
図5に示すように、磁石124は一体成形された1個の磁石で構成することが望ましく、磁気歯幅TLは常用範囲長ULよりも長く、かつ、磁石長MLを磁気歯ピッチTPよりも長くすることが望ましい。このように構成すると、常用範囲において、磁気歯151~154、補極部160の全てを磁石124に対向させることができる。
【0027】
上述した特許文献1,2のように、一般的に知られているリニアモータにおいては、磁化方向が交互に反転するように、移動方向に沿って可動子に複数の磁石が装着されている。すると、磁気歯、補極部、磁石等の相互間における磁気の授受状態は刻々と変化するため、推力が脈動し制御し難くなる。これに対して、本実施形態のリニアモータ10の構造によれば、可動子12の常用範囲内において、磁気歯151~154と、補極部160と、磁石124との間における磁気の授受関係を安定化・一定化することができるため、高いロバスト性を実現することができる。
【0028】
図6は、本実施形態のリニアモータ10、および変形例のリニアモータ10A,10Bの模式図である。
図5において説明したように、本実施形態のリニアモータ10は、「磁気歯幅TLが常用範囲長ULよりも長く、磁石長MLが磁気歯ピッチTPよりも長く、かつ、磁石124は1個」という特徴を有している。
【0029】
一方、変形例のリニアモータ10Aにおいては、磁石長MLは、磁気歯ピッチTPと略同一である(正確には、磁石長MLが磁気歯ピッチTPよりも若干長い)。リニアモータ10Aの他の構成は、リニアモータ10のものと同様である。従って、リニアモータ10Aは、「磁気歯幅TLと常用範囲長ULとが略同一であり、磁石長MLと磁気歯ピッチTPとが略同一であり、かつ、磁石124は1個」という特徴を有している。
【0030】
また、他の変形例のリニアモータ10Bにおいては、磁石長MLは、磁気歯ピッチTPの約0.8倍である。リニアモータ10Bの他の構成は、リニアモータ10のものと同様である。従って、リニアモータ10Bは、「磁気歯幅TLが常用範囲長ULよりも短く、磁石長MLが磁気歯ピッチTPよりも短く、かつ、磁石124は1個」という特徴を有している。
【0031】
図7は、本実施形態のリニアモータ10、および変形例のリニアモータ10A,10Bの推力特性図である。
図7の横軸は可動子12の位置であり、各リニアモータ10,10A,10Bの常用範囲の一端(
図6に示した位置)を-100%とし、常用範囲の他端を+100%とし、両者の中間位置(例えば
図5の状態P1)を0%とする。
【0032】
また、
図7の縦軸は、リニアモータ10,10A,10Bの推力であり、図中の推力FC1は、目標推力である。常用範囲内において、推力特性がフラットであるほど、リニアモータ10の制御性が高くなる。また、推力FC1±ΔFCの範囲は、目標推力FC1に対して偏差が±20%の範囲である。リニアモータ10を後述する電磁サスペンション100(
図9参照)に適用する場合には、推力FCの偏差を±ΔFCの範囲内に抑制することが好ましい。
【0033】
図7において白丸と破線で示した推力特性Qは、本実施形態のリニアモータ10の推力特性である。推力特性Qによれば、常用範囲内において推力FCをFC1±ΔFCの範囲に納めることができ、かつ、推力FCがほぼ一定である。従って、本実施形態のリニアモータ10は、制御が容易であり、電磁サスペンションに適用して好適であることが解る。
【0034】
図7において黒丸と実線で示した推力特性QAは、
図6に示した変形例のリニアモータ10Aの推力特性である。推力特性QAによれば、本実施形態の推力特性Qと同様に、常用範囲内において推力FCをFC1±ΔFCの範囲に納めることができ、かつ、推力FCがほぼ一定である。従って、本変形例のリニアモータ10Aも、制御が容易であり、電磁サスペンションに適用して好適であることが解る。
【0035】
また、
図7において白三角と実線で示した推力特性QBは、他の変形例のリニアモータ10Bの推力特性である。推力特性QBによれば、可動子12の位置が±100%の付近で、推力FCがFC1-ΔFCよりも下がっている。そして、推力特性Q3の形状も、±80%~±100%の付近で歪んでいる。このため、リニアモータ10Bは、充分に実用になるが、電磁サスペンションに適用しようとすると、若干、制御が煩雑になる場合がある。
【0036】
ここで、リニアモータ10,10A,10Bを電磁サスペンションに適用する際の適合性について、さらに検討する。推力FCの特性は、理想的には、常用範囲において、目標推力FC1以上のフラットな特性を実現することが望ましい。しかし、無限軌道の回転モータとは異なり、端部を有する電磁サスペンションは、可動範囲の左端・中央・右端で異なる特性が現れやすい。
図7に示した各推力特性Q,QA,QBも、は中央部に比べ、左右端部が低くなっている。
【0037】
リニアモータ10,10A,10Bを電磁サスペンションに適用する場合、リニアモータ10,10A,10Bは、可動子12の振動を抑制する方向に可動子12を付勢する。可動子12は、振動範囲の両端では瞬時的に速度がゼロとなり移動方向が切り替わるため、リニアモータによる付勢方向もその瞬間に切り替えることになる。電磁サスペンションにおいては、この付勢方向を切り替える瞬間の制御が重視される。従って、付勢方向を切り替えるタイミングの前後で推力特性が急峻に変化すると、電磁サスペンションを適切に制御することが煩雑になる。
【0038】
一般的に、電磁サスペンション等は、汎用性を確保するために、推力等に±20%程度の誤差を許容できるように設計している。例えば、リニアモータの使用を開始した時点でその温度が20℃であったとしても、リニアモータを長時間使用すると、銅損等の発熱によって、温度が80℃程度になることがある。巻線の素材が銅であった場合には、20℃のときの抵抗値と比較して、80℃のときの抵抗値は、約1.23((234.5+80)/(234.5+20)=1.23)倍になる。従って、上述したように、リニアモータ10,10A,10Bは、想定される外乱因子に対し±20%程度の尤度を考慮して設計することが多い。また、リニアモータのコストや精度を重視する場合には、例えば尤度を±10%程度にする等、尤度を小さく設定することが好ましい場合がある。
【0039】
図7において、本実施形態のリニアモータ10による推力特性Qは、推力FCの急峻な変化は無く、常用範囲の全域に渡り、目標推力FC1以上の推力を達成している。また、変形例のリニアモータ10Aによる推力特性QAは、推力FCの急峻な変化は無いが、可動子12の位置が100%の付近で推力FCが目標推力FC1を若干下回っている。しかし、この誤差は±20%の範囲内であるため、リニアモータ10Aは、本実施形態のリニアモータ10と同様に制御できるものと考えられる。
【0040】
一方、他の変形例のリニアモータ10Bによる推力特性QBには急激な変化があり、かつ、常用範囲の両端付近の推力は目標推力より20%以上落ち込んでいる。そのため、変形例のリニアモータ10Bは、本実施形態のリニアモータ10と比較すると、若干、制御が煩雑になる場合がある。しかし、推力特性QBを有するリニアモータ10Bであっても、さほどリニアリティが求められない用途においては、充分に実用に耐える。また、磁気歯ピッチTP>磁石長ML、あるいは磁気歯幅TL<常用範囲長ULであっても、推力FCを目標推力FC1に対して、FC1±ΔFCの範囲に納めることが可能であれば、電磁サスペンション用のリニアモータとして、さらに実用性を高めることができる。
【0041】
図7によれば、
図6のリニアモータ10Bのように、磁石124の磁石長MLを、磁気歯ピッチTPの0.8倍以上にすると好ましいことが解る。また、磁石124の磁石長MLを、磁気歯ピッチTPの0.9倍以上にすると(図示略)、推力特性の形状がさらに平坦に近づくため、より好ましい。さらに、
図6のリニアモータ10Aのように、磁石124の磁石長MLを、磁気歯ピッチTPと略同一にすると、推力特性の形状がさらに平坦に近づくため、さらに好ましいことが解る。さらに、本実施形態のリニアモータ10のように、磁石124の磁石長MLを、磁気歯ピッチTPよりも大きくすると、推力特性の形状がさらに平坦に近づくため、より一層好ましいことが解る。
【0042】
図8は、上述した変形例のリニアモータ10A、および他の変形例のリニアモータ10Cの模式図である。他の変形例のリニアモータ10Cは、磁気歯151~154の磁気歯幅TLが、リニアモータ10Aよりも狭くなっている。リニアモータ10Cの他の構成は、リニアモータ10Aのものと同様である。そして、図示の状態では、リニアモータ10Aの可動子12は、
図6と同様に、常用範囲の左端に位置している。また、変形例のリニアモータ10Cの可動子12の位置は、リニアモータ10Aの可動子12と同一の位置である。
【0043】
リニアモータ10A,10Cは、何れも磁石長MLと磁気歯ピッチTPとが同一である。しかし、変形例のリニアモータ10Cは、磁気歯幅TLが常用範囲長ULよりも短くなっている。このため、図示の状態において、リニアモータ10Cの磁石124は、磁気歯152,154には対向しない。すると、磁気歯152,154によって磁石124に付与される推力が小さくなるため、可動子12に付与される推力も小さくなる。
【0044】
図8に示した例は、可動子12の位置が-100%(
図7参照)付近であるが、可動子12の位置が反対側の100%(
図7参照)付近であっても、同様に推力が低下する。従って、可動子12の移動に伴う推力の変動を抑制するためには、全ての磁気歯151~154と、磁石124とが、常用範囲内で、常に近接していることが望ましい。さらに、全ての磁気歯151~154と磁石124とが常用範囲内では常に対向していることが最も望ましい。
【0045】
〈第1実施形態の効果〉
以上のように本実施形態のリニアモータ(10)によれば、電機子鉄心(11a)は、第1の面(122f)に対向する第1の磁気歯(151)と、第1の面(122f)に対向し第1の磁気歯(151)に対して移動方向(z軸方向)に沿って隣接する第2の磁気歯(152)と、第2の面(122r)に対向する第3の磁気歯(153)と、第2の面(122r)に対向し第3の磁気歯(153)に対して移動方向(z軸方向)に沿って隣接する第4の磁気歯(154)と、を備え、可動子(12)は、第1の磁気歯(151)の中心と第2の磁気歯(152)の中心との移動方向(z軸方向)の距離を磁気歯ピッチ(TP)としたとき、移動方向に沿って磁気歯ピッチ(TP)の0.8倍よりも長い区間に渡って、第1の面(122f)はS極またはN極のうち一方の極に磁化され、移動方向に沿って磁気歯ピッチ(TP)の0.8倍よりも長い区間に渡って、第2の面(122r)はS極またはN極のうち他方の極に磁化されている。
【0046】
これにより、少ない部品点数でリニアモータ(10)を実現することができ、リニアモータ(10)を安価に構成することができる。
より詳細に述べると、本実施形態によれば、リニアモータ(10)における磁石(124)の使用量を低減でき、かつ可動子(12)の位置にかかわらず、リニアモータ(10)にほぼ一定の推力を発生させることができる。これにより可動子(12)の重量が軽くなり応答性が改善すると共に制御性が改善する。さらに、磁石個数の低減によりコスト削減が可能である。また、可動子(12)には1個の磁石(124)をセットすればよく、作業性も高めることができる。
【0047】
また、可動子(12)は、移動方向(z軸方向)に沿って磁気歯ピッチ(TP)の0.8倍よりも長い距離(ML)に渡ってS極に磁化したS極面(124S)と、磁気歯ピッチ(TP)の0.8倍よりも長い距離(ML)に渡ってN極に磁化したN極面(124N)と、を有する板状の磁石(124)と、磁石(124)よりも透磁率の低い材質で形成され磁石(124)を把持するフレーム(122)と、を備える。
これにより、フレーム(122)に磁石(124)を装着すると、可動子(12)を構成することができ、リニアモータ(10)を一層安価に構成することができる。
【0048】
また、本実施形態においては、移動方向(z軸方向)における磁石(124)の一端(124a)が第1の磁気歯(151)の外端(151a)に達する位置を第1の位置(状態P2)とし、移動方向(z軸方向)における磁石(124)の他端(124b)が第2の磁気歯(152)の外端(152b)に達する位置を第2の位置(状態P3)としたとき、第1ないし第4の磁気歯(151~154)の各々の幅(TL)は、第1の位置(状態P2)から第2の位置(状態P3)までの可動子(12)の移動距離である範囲長(UL)よりも長い。
これにより、可動子(12)の位置にかかわらず、リニアモータ(10)にほぼ一定の推力を発生させることができる。
【0049】
また、フレーム(122)は、第1の面(122f)と第2の面(122r)とを挿通する貫通孔(122h)を有し、磁石(124)は一体に形成され、貫通孔(122h)に装着されている。
これにより、貫通孔(122h)に磁石(124)を装着すると、可動子(12)を構成することができ、リニアモータ(10)を一層安価に構成することができる。
【0050】
また、磁石(124)は、サマリウム-鉄-窒素系の磁石である。これにより、磁石(124)を樹脂に練り込んで金型成形することが可能になり、リニアモータ(10)を一層安価に構成することができる。
【0051】
また、磁石(124)は、矩形板状または直方体状の形状を有する。
これにより、磁石(124)の形状を単純化でき、リニアモータ(10)を一層安価に構成することができる。さらに、磁石(124)を矩形板状に形成することにより、磁石使用量を少なくしながら磁極面積を大きくできる。
【0052】
また、本実施形態によれば、
図5に示す常用範囲において、磁石(124)が固定子(11)の外に露出することを防止できる。さらに、常用範囲において、磁石(124)を、第1ないし第4の磁気歯(151~154)、および補極歯162,164のうち何れかに必ず対向させることができる。これにより、磁石(124)が、対向する磁性体が無い状態に置かれる可能性を非常に小さくすることができる。従って、本実施形態によれば、パーミアンス係数の改善を図ることができ、減磁耐力のロバスト性を高めることができる。
【0053】
[第2実施形態]
〈第2実施形態の構成〉
図9は、本発明の第2実施形態による電磁サスペンション100の斜視図である。なお、以下の説明において、上述した第1実施形態の各部に対応する部分には同一の符号を付し、その説明を省略する場合がある。
電磁サスペンション100は、第1実施形態によるリニアモータ10と、弾性体20と、を備えている。そして、リニアモータ10の可動子12の一端は、制振対象物に結合される。ここで、制振対象物とは、電磁サスペンション100によって振動を抑制しようとする対象物であり、図示の例において制振対象物は、洗濯機W(
図10参照)の外槽37である。
【0054】
また、可動子12の他端は、固定治具Jに固定されている。また、リニアモータ10の固定子11は、他の固定治具(図示せず)によって、その移動が規制されている。従って、洗濯機の外槽37がz軸方向に振動すると、それに伴って可動子12がz軸方向に沿って往復し、可動子12と固定子11との相対的な位置関係が変化する。
【0055】
また、本実施形態においては、弾性体20として金属製の巻バネを適用した。ここで、弾性体20は、固定子11に弾性力を付与するものであり、固定子11と固定治具Jとの間に介在している。
図9に示すように、可動子12は、固定子11を貫通するとともに、弾性体20も貫通している。
【0056】
弾性体20は、リニアモータ10の非通電状態においても、外槽37を洗濯機内の所定の位置に保持できるバネ力を備えている。これにより、万が一、制御ミスにより可動子12がz軸上方に突き抜けかけた場合においても、外槽37の自重と、弾性体20のバネ力により、可動子12を押し戻す力が働く。同様に可動子12がz軸下方に突き抜けかけた場合は、弾性体20のバネ力により、押し戻される。すなわち、弾性体20が制御のフェールセーフ性を確保し、可動子12の両端にストッパーのような部材を配置することなく、ロバスト性を高めることができる。
【0057】
〈第2実施形態の効果〉
以上のように、本実施形態の電磁サスペンション(100)は、第1実施形態によるリニアモータ(10)と、固定子(11)または可動子(12)を移動方向(z軸方向)に付勢する弾性体(20)と、を有する。特に、弾性体(20)は、金属製の巻バネを含む。
これにより、リニアモータ(10)の非通電状態においても、リニアモータ(10)を所定の位置に保持でき、リニアモータ(10)の動作時においても、可動子(12)の突き抜けを防止することができる。
【0058】
[第3実施形態]
〈第3実施形態の構成〉
(全体構成)
図10は、本発明の第3実施形態による洗濯機Wの斜視図である。
図10に示す洗濯機Wは、ドラム式の洗濯機であり、また、衣類を乾燥する機能も有している。洗濯機Wは、ベース31と、筐体32と、ドア33と、操作・表示パネル34と、外槽37と、一対の電磁サスペンション100L,100Rと、排水ホースHと、を備えている。ここで、電磁サスペンション100L,100Rは、それぞれ第2実施形態における電磁サスペンション100と同様に構成されている。
【0059】
筐体32は、左右の側板32a,32aと、前面カバー32bと、背面カバー32c(
図11参照)と、上面カバー32dと、を備えている。ベース31は、筐体32を支持するものである。前面カバー32bの中央付近には、衣類の出し入れを行うための円形の投入口h1(
図11参照)が形成されている。
ドア33は、この投入口h1に設けられる開閉可能な蓋である。
【0060】
図11は、洗濯機Wの縦断面図である。
洗濯機Wは、上述した構成の他に、洗濯槽35と、リフタ36と、駆動機構38と、送風ユニット39と、を備えている。洗濯槽35は、衣類を収容するものであり、有底円筒状を呈している。洗濯槽35は、外槽37に内包され、この外槽37と同軸上で回転自在に軸支されている。洗濯槽35の周壁および底壁には、通水・通風のための貫通孔(図示せず)が多数設けられている。また、洗濯槽35の開口h2は、外槽37の開口h3とともに、閉状態のドア33に臨んでいる。
【0061】
なお、
図11に示す例において洗濯槽35の回転中心軸は、開口側が高くなるように傾斜しているが、本発明はこれに限定されるわけではない。すなわち、洗濯槽35の回転中心軸は、水平方向または鉛直方向であってもよい。リフタ36は、洗濯中・乾燥中に衣類を持ち上げて落下させるものであり、洗濯槽35の内周壁に設置されている。外槽37は、洗濯水の貯留等を行うものであり、有底円筒状を呈している。
図11に示すように、外槽37は、洗濯槽35を内包している。
【0062】
また、
図10に示したように、外槽37の左右には、電磁サスペンション100L,100Rが配置されているが、
図11においては、左側の電磁サスペンション100Lのみを示している。また、外槽37の底壁の最下部には排水孔(図示せず)が設けられ、この排水孔に排水ホースHが接続されている。そして、排水ホースHに設けられた排水弁(図示せず)が閉弁された状態で外槽37に洗濯水が貯留され、また、排水弁が開弁されることで洗濯水が排出されるようになっている。
【0063】
駆動機構38は、洗濯槽35を回転させる機構であり、外槽37の底壁の外側に設置されている。駆動機構38が備えるモータ38b(
図13参照)の回転軸は、外槽37の底壁を貫通して、洗濯槽35の底壁に連結されている。送風ユニット39は、洗濯槽35に温風を送り込むものであり、洗濯槽35の上側に配置されている。送風ユニット39は、ヒータ(図示せず)およびファン(図示せず)を備えている。そして、ヒータで熱せられた空気が、ファンによって洗濯槽35に送り込まれる。これによって、水を含んだ衣類が、洗濯槽35内で徐々に乾燥する。
【0064】
ここで、外槽37の振動、すなわち洗濯機Wの振動について簡単に説明する。洗い・すすぎ・乾燥時には、
図11に示す駆動機構38によって洗濯槽35が低速回転し、洗濯槽35の底に溜まった衣類をリフタ36によって持ち上げて落下させるタンブリング動作が繰り返される。また、脱水時には洗濯槽35が高速回転し、回転による遠心力で衣類の水分を外に押し出す遠心脱水が行われる。
【0065】
なお、従来の洗濯機では、洗い・すすぎ・乾燥時において、落下する衣類の反力で洗濯槽35の振動の振幅が大きくなることが多かった。また、従来の洗濯機では、脱水時において、衣類の位置の偏りに起因して、洗濯機Wで振動・騒音が発生することが多かった。このように、洗濯槽35における衣類の量や位置の偏り、含水率の他、洗い・すすぎ・乾燥・脱水等の諸条件によって、洗濯機Wの振動の仕方は時々刻々と変化する。その振動は外槽37に伝播する。
【0066】
(制振装置200の構成)
図12は、本実施形態に適用される制振装置200の構成図である。
図12において制振装置200は、インバータ40と、電流検出器50と、推力調整部60と、整流回路70と、左右の電磁サスペンション100L,100Rと、を備えている。制振装置200は、制振対象物Gの振動を抑制するものである。なお、本実施形態においては、制振対象物Gは、洗濯機Wの外槽37(
図11参照)である。
【0067】
図12においては、左右の電磁サスペンション100L,100Rを一つの枠で表している。また、電磁サスペンション100L,100Rに含まれるリニアモータ10を、それぞれリニアモータ10L,10Rと呼ぶ。同様に、電磁サスペンション100L,100Rに含まれる弾性体20を、弾性体20L,20Rと呼ぶ。
【0068】
整流回路70は、交流電源Eによって印加された交流電圧を整流し、インバータ40に直流電圧を印加する。なお、交流電源Eと整流回路70とを合わせて直流電源であると考えてもよい。インバータ40は、整流回路70から印加される直流電圧を、推力調整部60からの電圧指令V*に基づいて単相交流電圧に変換し、この単相交流電圧をリニアモータ10L,10Rの巻線11b(
図2参照)に印加する。換言すれば、インバータ40は、電圧指令V*に基づいて、リニアモータ10L,10Rを駆動する機能を有している。
【0069】
図13は、制振装置200の要部の構成図である。整流回路70は、交流電源Eから印加される交流電圧を直流電圧に変換する周知の倍電圧整流回路である。
図13に示すように、整流回路70は、ダイオードD1~D4をブリッジ接続してなるダイオードブリッジ回路72と、直列接続された2つの平滑コンデンサ74,76と、を備えている。また、
図11に示した駆動機構38は、
図13に示すように、インバータ38aと、モータ38bと、を備えている。
【0070】
そして、ダイオードブリッジ回路72によって生成される電圧(脈流を含む直流電圧)が、平滑コンデンサ74,76によって平滑化され、交流電源Eの電圧の略2倍に相当する直流電圧が生成される。整流回路70は、正側の配線k1と、負側の配線k2を介してインバータ40に接続されるとともに、洗濯槽35(
図11参照)を回転させる駆動機構38のインバータ38aにも接続されている。
【0071】
インバータ40は、整流回路70から印加される直流電圧を二系統の単相交流電圧に変換し、これら二系統の単相交流電圧を各々リニアモータ10L,10Rの巻線11b(
図2参照)に印加するインバータである。
図13に示すように、インバータ40は、スイッチング素子SW1,SW2を備える第1のレグと、スイッチング素子SW3,SW4を備える第2のレグと、スイッチング素子SW5,SW6を備える第3のレグと、が並列接続された構成になっている。これらのスイッチング素子SW1~SW6として、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)を用いることができる。スイッチング素子SW1~SW6には、それぞれ、還流ダイオードDが逆並列に接続されている。
【0072】
また、スイッチング素子SW1,SW2の接続点は、配線k3を介して、リニアモータ10Lの巻線11b(
図2参照)に接続されている。すなわち、三相のインバータ40の一相分に対応するレグが、左側のリニアモータ10Lに接続されている。また、スイッチング素子SW5,SW6の接続点は、配線k5を介して、リニアモータ10Rの巻線11b(
図2参照)に接続されている。すなわち、三相のインバータ40の一相分に対応する別のレグが、右側のリニアモータ10Lに接続されている。
【0073】
また、スイッチング素子SW3,SW4の接続点は、配線k4を介してリニアモータ10Lの巻線11b(
図2参照)に接続されるとともに、この配線k4を介してリニアモータ10Rの巻線11bにも接続されている。すなわち、3相のインバータ40の残りのレグが、左右のリニアモータ10L,10Rに接続されている。
【0074】
このように、左右のリニアモータ10L,10Rに対応して別々にインバータを設けるのではなく、左右を一つのインバータ40として共通化することで、インバータ40のコストを削減できる。そして、PWM(Pulse Width Modulation)制御に基づいてスイッチング素子SW1~SW6のオン・オフが制御されることで、リニアモータ10L,10Rの巻線11b(
図2参照)に単相交流電圧が印加されるようになっている。
電流検出器50は、リニアモータ10L,10Rに通電される電流を検出するものであり、配線k4に挿入されている。すなわち、電流検出器50によって、リニアモータ10L,10Rの巻線11b(
図2参照)に流れる電流が検出される。
【0075】
(推力調整部60)
図12に示す推力調整部60は、図示は省略するが、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、各種インタフェース等の電子回路を含んで構成されている。そして、ROMに記憶されたプログラムを読み出してRAMに展開し、CPUが各種処理を実行するようになっている。
【0076】
図12において、推力調整部60は、電流検出器50によって検出される電流iに基づき、インバータ40を駆動することによって、リニアモータ10L,10Rの推力を調整する機能を有している。すなわち、推力調整部60は、インバータ40のデッドタイム中に電流検出器50を流れる電流iの極性を検出する。電流iの極性は、リニアモータ10L,10Rの移動方向を示している。
【0077】
そこで、推力調整部60は、リニアモータ10L,10Rの移動を抑制する方向の電圧指令V*を生成し、この電圧指令V*に基づいてスイッチング素子SW1~SW6のオン・オフを切り替える。これにより、推力調整部60は、外槽37(
図11参照)の振動に伴って可動子12と固定子11との相対位置が変化すると、この変化を打ち消すようにリニアモータ10L,10Rの推力を調整する機能を有している。
【0078】
〈第3実施形態の効果〉
以上のように、本実施形態の洗濯機(W)は、第2実施形態による電磁サスペンション(100L,100R)と、電機子巻線(11b)に交流電流を供給するインバータ(40)と、電機子巻線(11b)に流れる電流を検出する電流検出器(50)と、電流検出器(50)によって検出される電流に基づいてインバータ(40)を制御することによってリニアモータ(10)の推力を調整する推力調整部(60)と、をさらに備える。
これにより、電流検出器(50)によって電機子巻線(11b)に流れる電流を検出することができ、固定子(11)および可動子(12)の相対運動を抑制するように、リニアモータ(10)の推力を調整することができる。
【0079】
さらに、本実施形態の洗濯機(W)は、衣類を収容する洗濯槽(35)と、洗濯槽(35)を内包する外槽(37)と、洗濯槽を回転させる駆動機構(38)と、を備え、電磁サスペンション(100L,100R)は外槽(37)の振動を抑制する。
これにより、本実施形態によれば、比較的簡素な構成で外槽(37)の振動を抑制することができる。また、本実施形態によれば、可動子(12)の位置を検出する位置センサを設ける必要がないため、洗濯機(W)の低コスト化を図ることができる。また、リニアモータ(10L,10R)の構成要素である固定子(11)および可動子(12)は、損傷や摩耗がほとんど発生しないため、電磁サスペンション(100L,100R)の耐久性を高めることができる。
【0080】
また、本実施形態によれば、左右のリニアモータ(10L,10R)に印加される単相交流電圧を、6個のスイッチング素子を有する1台のインバータ40によって生成することができる。仮に、左右のリニアモータ(10L,10R)に対応して個別にインバータを設けると、8個のスイッチング素子が必要になる。従って、本実施形態によれば、左右のリニアモータ(10L,10R)に対応して個別にインバータを設ける構成と比較して、洗濯機(W)の低コスト化を図ることができる。
【0081】
[第4実施形態]
次に、本発明の第4実施形態による洗濯機について説明する。第4実施形態の洗濯機の構成および動作は、第3実施形態のもの(
図10~
図13参照)と同様である。
但し、本実施形態において、推力調整部60(
図12参照)は、電流検出器50の出力信号に基づいて左右のリニアモータ10L,10Rの振動周波数を検出し、振動周波数に応じてインバータ40の出力電流を変化させる点が異なる。
【0082】
まず、上述した第3実施形態においては、リニアモータ10L,10Rの振動周波数に基づいて、インバータ40の出力電流を変化させるものではなかった。すなわち、リニアモータ10L,10Rを「ダンパ」と考えた場合、第3実施形態においてダンパの粘性減衰係数C[Ns/m]は、振動周波数に関わらず一定になる。一方、本実施形態においては、リニアモータ10L,10Rの振動周波数に応じて粘性減衰係数C[Ns/m]を変化させる。その詳細について、以下説明する。
【0083】
電磁サスペンションである電磁サスペンション100の運動方程式は、下式(1)で表される。なお、式(1)に示すF
D[N]は、電磁サスペンション100で発生する力(すなわち、リニアモータ10の推力)である。また、x[m]は、可動子12の位置である。
【数1】
【0084】
また、リニアモータ10の推力の運動方程式は、下式(2)で表される。なお、F
L[N]はリニアモータ10の推力であり、K
e[N/A]はリニアモータ10のモータ定数である。また、I[A]は巻線11b(
図2参照)に流れる電流であり、V[V]は巻線11bに印加される電圧である。また、R[Ω]は巻線11bの抵抗であり、φ[T]は巻線11bで発生する磁束である。
【数2】
【0085】
ここで、式(1)の力F
Dと、式(2)の推力F
Lと、は等価であるため、以下の式(3)が導かれる。なお、C[N・m/s]は、リニアモータ10の粘性減衰係数である。
【数3】
【0086】
図14は、粘性減衰係数Cが一定であるオイルダンパを用いた比較例において、洗濯槽35の回転速度と外槽37の変位(振動)の変化を示す実験結果である。x軸は洗濯機Wの回転速度ゼロから最高回転速度までの範囲をパーセント表示としている。y軸は外槽37の変位(振動)を回転速度ゼロの値を0とした場合の相対値で示している。
なお、
図14に係る実験では、洗濯槽35内の偏った所定位置に1kgの衣類を置いた状態で、洗濯槽35を回転させた(後述する
図15も同様)。
【0087】
図14に示すように、比較例の構成では、洗濯槽35の回転速度が大きくなるにつれて、外槽37の振幅が変化している。具体的には、洗濯槽35の回転速度をゼロから増加させると、約5[%]の回転速度において外槽37の振幅が一旦減少し、約10[%]の回転速度において外槽37の振幅が急激に大きくなって最大振幅になっている。また、10~17[%]の回転速度において外槽37の振幅が増加し、20[%]以上の領域では、洗濯槽35の回転速度が大きくなるにつれて、外槽37の振幅は小さくなっている。
【0088】
図15は、第4実施形態において、洗濯槽35の回転速度と外槽37の変位(振動)の変化を示す実験結果である。
図15における実験では、洗濯槽35の回転速度が高いほど(すなわち、外槽37の振動周波数fが高いほど)、リニアモータ10の粘性減衰係数Cが小さくなるように、インバータ40のデューティ比を制御した。
【0089】
図15に示すように、洗濯槽35の回転速度が約10[%]のときの外槽37の最大振幅は約5mmであり、
図14に示す比較例の最大振幅(約10[PU])の半分程度になっている。また、洗濯槽35の回転速度が50[%]以上の領域では、外槽37の振幅が1[PU]程度になっている。このように、第4実施形態によれば、粘性減衰係数Cを可変制御することによって、第3実施形態よりも外槽37の振動を効果的に抑制できる。
【0090】
[変形例]
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。上述した実施形態は本発明を理解しやすく説明するために例示したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について削除し、もしくは他の構成の追加・置換をすることが可能である。また、図中に示した制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上で必要な全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。上記実施形態に対して可能な変形は、例えば以下のようなものである。
【0091】
(1)上記各実施形態においては、
図4に示したように、1個の矩形板状のフレーム122に、1個の矩形板状の磁石124を嵌め込んで可動子12を構成した。しかし、1個のフレーム122に、複数の磁石を装着してもよい。また、複数のフレームの各々に複数の磁石を装着してもよい。また、フレーム122および磁石124の形状は矩形板状に限られるものではなく、様々な形状のものを採用することができる。
【0092】
(2)また、
図5において、磁石124のS極およびN極、磁気歯151~154の磁化方向を逆にしてもよい。
【0093】
(3)また、上記第3,第4実施形態においては、電磁サスペンション100を洗濯機Wの制振に適用した例を説明したが、電磁サスペンション100は、空気調和機、冷蔵庫等の家電製品や、鉄道車両、自動車等にも適用することができる。
【0094】
(4)また、上記各実施形態においては、単相交流電流でリニアモータ10を駆動する構成について説明したが、例えば、3相交流電流でリニアモータ10を駆動してもよい。
【符号の説明】
【0095】
10,10A,10B,10C,10L,10R リニアモータ
11 固定子
11a コア(電機子鉄心)
11b 巻線(電機子巻線)
12 可動子
20,20L,20R 弾性体
35 洗濯槽
37 外槽
38 駆動機構
40 インバータ
50 電流検出器
60 推力調整部
100,100L,100R 電磁サスペンション
122 フレーム
122f 表面(第1の面)
122h 貫通孔
122r 裏面(第2の面)
124 磁石
124a 左端(一端)
124b 右端(他端)
124N N極面
124S S極面
151a 左端(外端)
152b 右端(外端)
151 磁気歯(第1の磁気歯)
152 磁気歯(第2の磁気歯)
153 磁気歯(第3の磁気歯)
154 磁気歯(第4の磁気歯)
P2 状態(第1の位置)
P3 状態(第2の位置)
TL 磁気歯幅(幅)
TP 磁気歯ピッチ
UL 常用範囲長(範囲長)
W 洗濯機
z z軸方向(移動方向)