(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-08
(45)【発行日】2023-03-16
(54)【発明の名称】時差修正機構及び時差修正機構付時計
(51)【国際特許分類】
G04B 19/22 20060101AFI20230309BHJP
G04B 13/02 20060101ALI20230309BHJP
【FI】
G04B19/22 D
G04B13/02 C
(21)【出願番号】P 2019000527
(22)【出願日】2019-01-07
【審査請求日】2021-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 翔一郎
(72)【発明者】
【氏名】今村 和也
【審査官】榮永 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-58011(JP,A)
【文献】特開2008-58012(JP,A)
【文献】スイス国特許出願公開第615556(CH,A3)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 19/22
G04B 13/02
G04B 27/00 - 27/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
時針に連結され、外周に歯が形成された筒インデックス星車と、
前記筒インデックス星車と同軸で前記筒インデックス星車の外方で、前記筒インデックス星車の前記歯と同一面内に配置され、分針に連結され、外周に歯が形成された筒インデックス歯車と、
前記筒インデックス歯車と同一面内で、前記筒インデックス歯車に設けられた筒インデックスレバーと、
前記筒インデックス歯車と同一面内で、前記筒インデックス歯車に設けられた筒インデックスばねと、を備え、
前記筒インデックスレバーは、一端に形成された爪が、前記筒インデックス星車の前記歯に噛み合う係合位置と前記歯から退避した係合解除位置との間で回動可能に設けられ、
前記筒インデックスばねは、前記筒インデックスレバーを、前記係合位置に付勢し、
前記筒インデックスレバーは、前記筒インデックスレバーを軸方向に挟む配置の支持部により、軸方向の位置が規制されてい
る時差修正機構。
【請求項2】
時針に連結され、外周に歯が形成された筒インデックス星車と、
前記筒インデックス星車と同軸で前記筒インデックス星車の外方で、前記筒インデックス星車の前記歯と同一面内に配置され、分針に連結され、外周に歯が形成された筒インデックス歯車と、
前記筒インデックス歯車と同一面内で、前記筒インデックス歯車に設けられた筒インデックスレバーと、
前記筒インデックス歯車と同一面内で、前記筒インデックス歯車に設けられた筒インデックスばねと、を備え、
前記筒インデックスレバーは、一端に形成された爪が、前記筒インデックス星車の前記歯に噛み合う係合位置と前記歯から退避した係合解除位置との間で回動可能に設けられ、
前記筒インデックスばねは、前記筒インデックスレバーを、前記係合位置に付勢し、
前記爪の輪郭を形成する2本の直線が交差する手前で前記筒インデックス星車の前記歯に向かう方向に突出した輪郭を有す
る時差修正機構。
【請求項3】
時針に連結され、外周に歯が形成された筒インデックス星車と、
前記筒インデックス星車と同軸で前記筒インデックス星車の外方で、前記筒インデックス星車の前記歯と同一面内に配置され、分針に連結され、外周に歯が形成された筒インデックス歯車と、
前記筒インデックス歯車と同一面内で、前記筒インデックス歯車に設けられた筒インデックスレバーと、
前記筒インデックス歯車と同一面内で、前記筒インデックス歯車に設けられた筒インデックスばねと、を備え、
前記筒インデックスレバーは、一端に形成された爪が、前記筒インデックス星車の前記歯に噛み合う係合位置と前記歯から退避した係合解除位置との間で回動可能に設けられ、
前記筒インデックスばねは、前記筒インデックスレバーを、前記係合位置に付勢し、
前記筒インデックスばねが、前記筒インデックス歯車とは別体に形成されてい
る時差修正機構。
【請求項4】
前記筒インデックスばねの固定端が、前記筒インデックス歯車に嵌め合わされて固定されている請求
項3に記載の時差修正機構。
【請求項5】
前記筒インデックスばねと前記筒インデックスレバーとが一体に形成されている請求項1か
ら4のうちいずれか1項に記載の時差修正機構。
【請求項6】
時針に連結され、外周に歯が形成された筒インデックス星車と、
前記筒インデックス星車と同軸で前記筒インデックス星車の外方で、前記筒インデックス星車の前記歯と同一面内に配置され、分針に連結され、外周に歯が形成された筒インデックス歯車と、
前記筒インデックス歯車と同一面内で、前記筒インデックス歯車に設けられた筒インデックスレバーと、
前記筒インデックス歯車と同一面内で、前記筒インデックス歯車に設けられた筒インデックスばねと、を備え、
前記筒インデックスレバーは、一端に形成された爪が、前記筒インデックス星車の前記歯に噛み合う係合位置と前記歯から退避した係合解除位置との間で回動可能に設けられ、
前記筒インデックスばねは、前記筒インデックスレバーを、前記係合位置に付勢し、
前記筒インデックスばねと前記筒インデックスレバーとが一体に形成され、
前記筒インデックスばねの一端は、前記筒インデックス歯車に対して変位可能の摺動部であ
る時差修正機構。
【請求項7】
請求項1か
ら6のうちいずれか1項に記載の時差修正機構と、
前記時差修正機構の前記筒インデックス星車に連結される時針と、
前記時差修正機構の前記筒インデックス歯車に連結される分針と、を備えた時差修正機構付時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時差修正機構及び時差修正機構付時計に関する。
【背景技術】
【0002】
時計に搭載されている時差修正機構として、時針が取り付けられている筒車と分針が取り付けられている中心車との間に、筒車と中心車との連動を維持した状態と連動を解除した状態とを切り替える筒インデックス車が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に開示された時差修正機構の筒インデックス車は、中心車に連動する筒インデックス歯車と筒車に連動する筒インデックス星車とを同軸に配置し、筒インデックス歯車の板面上に、筒インデックス星車に噛み合う姿勢と噛み合いが解除される姿勢との間で回動する筒インデックスレバーと、筒インデックスレバーを、筒インデックス星車に噛み合う姿勢に押圧する(付勢する)筒インデックスばねとを設けている。
【0004】
また、特許文献2には、一番伝え車と同一面内にジャンパを形成したスリップ機構が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6180296号公報
【文献】特開2017-161255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された筒インデックス車は、筒インデックス歯車に筒インデックスレバー及び筒インデックスばねが積み重ねられた構造である。したがって、厚さを薄くすることが求められる。
一方、特許文献2に開示されたスリップ機構は、ジャンパが一番伝え車と同一面内に形成されているため、スリップ機構を薄くすることができるが、ジャンパの弾性を得るためには、ジャンパをかなり細く又は長く形成する必要がある。ジャンパを細く形成すると、ジャンパがジャンパかなと係合したときの節度感(りゅうずを操作する指に伝わる手ごたえ感)が低く、ジャンパを長く形成すると、スリップ機構が大きくなってしまう。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであって、厚さを薄くするとともに、サイズを大きくすることなく、節度感を低下させることのない時差修正機構及び時差修正機構付時計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1は、時針に連結され、外周に歯が形成された筒インデックス星車と、前記筒インデックス星車と同軸で前記筒インデックス星車の外方で、前記筒インデックス星車の前記歯と同一面内に配置され、分針に連結され、外周に歯が形成された筒インデックス歯車と、前記筒インデックス歯車と同一面内で、前記筒インデックス歯車に設けられた筒インデックスレバーと、前記筒インデックス歯車と同一面内で、前記筒インデックス歯車に設けられた筒インデックスばねと、を備え、前記筒インデックスレバーは、一端に形成された爪が、前記筒インデックス星車の前記歯に噛み合う係合位置と前記歯から退避した係合解除位置との間で回動可能に設けられ、前記筒インデックスばねは、前記筒インデックスレバーを、前記係合位置に付勢している時差修正機構である。
【0009】
本発明の第2は、本発明に係る時差修正機構と、前記時差修正機構の前記筒インデックス星車に連結される時針と、前記時差修正機構の前記筒インデックス歯車に連結される分針と、を備えた時差修正機構付時計である。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る時差修正機構及び時差修正機構付時計によれば、厚さを薄くするとともに、サイズを大きくすることなく、節度感を低下させることがない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る一実施形態である時差修正機構を含む時差修正機構付時計の要部を示す断面図である。
【
図2】
図1に示した時差修正機構の全体及び構成部品を示す(A)断面図及び(B)底面図であり、(a)は時差修正機構の全体、(b)は筒インデックス星車、(c)は歯車座、(d)は入力歯車、(e)は筒インデックスレバー及び筒インデックスばねが設けられた筒インデックス歯車、をそれぞれ示す。
【
図3】筒インデックスレバーが係合位置にあるときの時差修正機構を示す
図2の底面図に相当する底面図である。
【
図4】筒インデックスレバーが係合解除位置にあるときの時差修正機構を示す
図2の底面図に相当する底面図である。
【
図5】筒インデックス星車の歯に噛み合う筒インデックスレバーの爪の詳細形状を示す拡大図である。
【
図6】実施形態における筒インデックスばねに代えて、別の筒インデックスばねを適用した変形例1を示す、
図2の底面図に相当する底面図である。
【
図7】実施形態における筒インデックスレバー及び筒インデックスばねに代えて、別の筒インデックスレバー体を適用した変形例2を示す、
図2の底面図に相当する底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る時差修正機構及び時差修正機構付時計の実施形態について、図面を用いて説明する。
【0013】
[実施形態]
<構成>
図1は本発明に係る一実施形態である時差修正機構10(筒インデックス車)を含む時差修正機構付時計100の要部を示す断面図、
図2は
図1に示した時差修正機構10の全体及び構成部品を示す(A)断面図及び(B)底面図であり、(a)は時差修正機構10の全体、(b)は筒インデックス星車20、(c)は歯車座28、(d)は入力歯車29、(e)は筒インデックスレバー40及び筒インデックスばね50が設けられた筒インデックス歯車30、をそれぞれ示す。
【0014】
本実施形態の時差修正機構10は
図1,2に示すように、本実施形態の時差修正機構付時計100(以下、時計100という。)の時針71に連結される筒インデックス星車20と、時計100の分針72に連結される筒インデックス歯車30と、筒インデックス歯車30の板厚内に設けられた筒インデックスレバー40と、筒インデックス歯車30の板厚内に設けられた筒インデックスばね50と、を備える。
【0015】
筒インデックス星車20は、円筒状の筒部25の一部に、筒部25と同軸の歯車部21が形成されている。歯車部21には、その外周に歯21aが形成されている。歯21aは、例えば12個形成されている。筒部25は、
図2において歯車部21よりも上方の上筒部26と、歯車部21よりも下方の下筒部27とを有している。
【0016】
上筒部26には、
図2に示すように、円環状の歯車座28が圧入され、歯車座28の外周に、入力歯車29が固定されている。入力歯車29の外周には、時計100の時差修正車91と噛み合う歯29aが形成されている。
【0017】
なお、歯車座28と入力歯車29とは、一体に成形されていてもよい。同様に、歯車座28も上筒部26と一体に成形されていてもよい。
【0018】
下筒部27には、
図1に示すように、時計100の時針71が固定されている。つまり、筒インデックス星車20は、時針71に連結されている。歯車部21の歯21aは12個形成されているため、筒インデックス星車20が歯21aの1個分回転すると、時針71が角度30[度]だけ回転する。なお、時針71の角度30[度]の回転は、時針71が表示する時刻として1[時間]に対応している。
【0019】
筒部25の内側には、時計100の分針72が固定された、筒部25と同軸の中心車73が通されている。中心車73の内側には、時計100のムーブメントの中受74に固定された、筒部25と同軸の中心パイプ75が通され、中心パイプ75の内側に、時計100の秒針76が固定された四番車79の秒針軸79bが、筒部25と同軸に通されている。中心パイプ75は、中心車73と秒針軸79bの傾きを抑制するとともに、中心車73と秒針軸79bとが連れ回るのを防止する隔壁として機能する。
【0020】
筒インデックス星車20の半径方向の外方には、
図1,2に示すように、筒インデックス星車20と同軸で、筒インデックス星車20の歯21aと同一面内に、筒インデックス歯車30が配置されている。
【0021】
筒インデックス歯車30は、外周に、時計100の日の裏車78のかな78aと噛み合う歯31が形成されている。日の裏車78の歯車78bは、分針72が固定された中心車73のかな73bと噛み合っている。したがって、筒インデックス歯車30は、分針72に連結されている。
【0022】
筒インデックスレバー40は、略円弧状に形成されていて、その円弧の一端に、内側に突出した爪41を有し、他端に、外周縁が円弧状に形成された回動被支持部42を有している。
【0023】
筒インデックスレバー40は、筒インデックス歯車30に形成された支持孔32に回動被支持部42の外周縁が嵌め合わされて、支持孔32の中で回動被支持部42が回動することで、筒インデックス歯車30に対して回動可能で、筒インデックス歯車30と同一面内で支持されている。
【0024】
なお、筒インデックスレバー40は、上方の歯車座28(支持部の一例)と、下方の、時計100のムーブメントの地板92や受け(支持部の一例)とで挟まれて、軸方向の位置が規制されている。筒インデックスレバー40は、回動被支持部42の、軸方向(厚さ方向)の下部の外径を上部の外径よりも小さく形成し、支持孔32も、それに対応して、軸方向(厚さ方向)の下部の内径を上部の内径よりも小さく形成した段付き孔とすることで、下方はこの段付きの支持孔32(支持部の一例)で支持し、上方は、歯車座28に突き当てて、軸方向の位置を規制してもよい。
【0025】
図3は、筒インデックスレバー40が係合位置Mにあるときの時差修正機構10を示す
図2の底面図に相当する底面図、
図4は、筒インデックスレバー40が係合解除位置Nにあるときの時差修正機構10を示す
図2の底面図に相当する底面図である。
【0026】
筒インデックス歯車30には、筒インデックスレバー40が回動被支持部42を中心として、
図3に示す、爪41が筒インデックス星車20の歯21aと噛み合う係合位置Mと、
図4に示す、爪41が歯21aから退避した係合解除位置Nとの間で回動するときの、筒インデックスレバー40の動く範囲に切欠き33が形成されている。これにより、筒インデックスレバー40は、回動被支持部42を中心として、係合位置Mと係合解除位置Nとの間で回動可能となっている。
【0027】
筒インデックスばね50は、筒インデックス歯車30と同一面内で、筒インデックス歯車30に設けられている。筒インデックスばね50は、筒インデックス歯車30の周方向に略沿うように延び、その一端が筒インデックス歯車30に一体化された固定端51、他端が自由端52となる片持ち梁状となっている。そして、この片持ち梁の撓みによって、ばねとしての弾性を発揮する。
【0028】
筒インデックスばね50は、係合位置Mにあるときの筒インデックスレバー40の爪41の外周側に、自由端52が接している。筒インデックスばね50の固定端51は、爪41を挟んで、回動被支持部42とは周方向の反対側に形成されている。
【0029】
筒インデックスばね50は、筒インデックスレバー40が係合解除位置Nにあるとき、自由端52が無負荷のときよりも、半径方向の外方に変位して筒インデックスばね50が撓み、その撓みにより生じた弾性力により、筒インデックスレバー40を係合位置Mに押圧する。つまり、筒インデックスばね50は、筒インデックスレバー40を係合位置Mに付勢している。
【0030】
そして、筒インデックスレバー40が係合位置Mにあるとき、筒インデックス歯車30と筒インデックス星車20は一体的に係合されて、両者の間に大きなトルク差がなければ、いずれか一方に入力されたトルクにより、両者は一体的に回転する。
【0031】
一方、筒インデックス星車20に入力されるトルクが、筒インデックス歯車30に作用しているトルク、具体的には、時刻を表示するために、時計100のモータから中心車73に入力され、中心車73から日の裏車78を介して筒インデックス歯車30を入力されているトルクを上回ると、筒インデックス星車20に入力されたトルクにより、
図4に示すように、筒インデックス星車20の歯21aが、筒インデックスレバー40の爪41を押し上げて筒インデックスレバー40を回動被支持部42回りに回動させて、筒インデックスレバー40を係合解除位置Nに変位させる。
【0032】
これにより、筒インデックス星車20は、筒インデックス歯車30に対して相対的に回転する。筒インデックス星車20の回転により、歯21aに押された爪41が、その歯21aを1個分乗り越えると、筒インデックスレバー40は、筒インデックスばね50の付勢力により、
図3に示した係合位置Mに戻る。
【0033】
なお、筒インデックスレバー40は、筒インデックスばね50に比べて短い長さで、かつ太く、高い剛性を持つように形成されている。
【0034】
<作用>
以上のように構成された時差修正機構10及び時差修正機構付時計100の作用について、時刻表示のための通常運針時、時針71と分針72とを連動させての時刻修正時、及び、分針72を動かさずに時針71だけを1時間単位で回転させる時差修正時、の各動作を説明する。
【0035】
(通常運針時の動作)
本実施形態の時計100は、通常運針時、図示を略したモータから、四番車79の歯車79aと中心車73の歯車73aに、時刻表示に対応した周期で駆動トルクが入力され、四番車79と中心車73とがそれぞれ、対応した周期で回転する。
【0036】
四番車79が回転することにより、秒針軸79bに固定された秒針76が回転し、時刻の秒を表示する。中心車73が回転することにより、中心車73に固定された分針72が回転し、時刻の分を表示する。
【0037】
また、中心車73が回転することで、中心車73のかな73bと噛み合った日の裏車78が回転し、日の裏車78が回転することで、筒インデックス歯車30が回転する。筒インデックス歯車30が回転すると、筒インデックス歯車30とともに筒インデックスレバー40も回転し、筒インデックスレバー40が係合位置Mにあることで、筒インデックス星車20も筒インデックスレバー40とともに、すなわち筒インデックス歯車30とともに回転するトルクが入力される。
【0038】
ここで、筒インデックス星車20は、歯車座28及び入力歯車29を介して、時差修正車91に噛み合っているが、時差修正車91は、通常運針時においては他の構成部品と噛み合っていないため、トルクが作用していない。この結果、筒インデックス星車20には、筒インデックスレバー40からのトルクだけが入力され、筒インデックス星車20は、筒インデックス歯車30と一体に回転する。これにより、筒インデックス星車20に固定された時針71が回転し、時刻の時を表示する。
【0039】
時針71の回転と分針72の回転とは、両者の間に介在する日の裏車78等により、一定の対応関係(例えば、時針71の角度30[度]の回転と分針72の角度360[度]の回転という対応関係)があるため、この一定の対応関係を維持した状態で、時針71と分針72とが、時刻を示す所定の位置を指示(表示)する。
【0040】
(時刻修正時の動作)
本実施形態の時計100は、時刻修正時、図示を省略した巻真に入力された時刻修正のための操作のトルクが、巻真から、図示を省略した伝達機構を通じて日の裏車78に入力され、日の裏車78が回転する。これにより、日の裏車78の歯車73aに噛み合った中心車73のかな73bが回転し、中心車73の回転により分針72が回転する。
【0041】
ここで、時刻修正時には中心車73の歯車73aが回転しないように、モータから中心車73の歯車73aまで噛み合っているいずれかの車を固定することにより、巻真から入力される操作トルクによって中心車73のかな73bが回転しても、歯車73aがかな73bに対してスリップし、秒針軸79bに固定された秒針76やモータが回転することはない。
【0042】
また、日の裏車78が回転することで、筒インデックス歯車30が回転する。筒インデックス歯車30が回転すると、筒インデックスレバー40も回転し、筒インデックスレバー40が係合位置Mにあることで、筒インデックス星車20にも回転するトルクが入力される。
【0043】
ここで、通常運針時と同様に時刻修正時も、時差修正車91は他の構成部品と噛み合っていないため、トルクが作用していない。この結果、筒インデックス星車20には、筒インデックスレバー40からのトルクだけが入力され、筒インデックス星車20は、筒インデックス歯車30と一体に回転する。これにより、筒インデックス星車20に固定された時針71が回転する。
【0044】
時針71の回転と分針72の回転とは、両者の間に介在する日の裏車78等により、一定の対応関係(例えば、時針71の角度30[度]の回転と分針72の角度360[度]の回転という対応関係)があるため、この一定の対応関係を維持した状態で、時針71と分針72との指示位置(表示)を修正することができる。
【0045】
(時差修正時の動作)
本実施形態の時計100は、時差修正時、図示を省略した巻真に入力された時差修正のための操作のトルクが、巻真から時差修正車91に伝達され、時差修正車91が回転する。時差修正車91が回転すると、時差修正車91に噛み合った筒インデックス星車20(入力歯車29及び歯車座28を介して)を回転させるトルクが入力される。
【0046】
一方、筒インデックス歯車30には、日の裏車78を介して、通常運針時の駆動トルクが入力される。筒インデックス歯車30に作用しているトルクは、筒インデックス星車20に入力されるトルクを上回るため、通常運針しながら、
図4に示すように、筒インデックス星車20の歯21aが、筒インデックスレバー40の爪41を押し上げて筒インデックスレバー40を回動被支持部42回りに回動させて、筒インデックスレバー40を係合解除位置Nに変位させる。
【0047】
これにより、筒インデックス星車20は、筒インデックス歯車30に対して相対的に回転する。筒インデックス星車20の回転により、歯21aに押された爪41が、その歯21aを1個分乗り越えると、筒インデックスレバー40は、筒インデックスばね50の付勢力により、
図3に示した係合位置Mに戻る。
【0048】
筒インデックス星車20が、歯21aの1個分回転することにより、時針71は回転前の指示位置から1[時間]に対応した角度だけ回転する。一方、分針72は、筒インデックス歯車30が筒インデックス星車20に連れ回らないため、通常運針時の動きを維持する。
【0049】
したがって、分針72に影響を与えずに、時針71だけを1時間単位で回転させることができるため、時差修正を行うことができる。
【0050】
以上、詳細に説明した通り、本実施形態の時差修正機構10及び時差修正機構付時計100によれば、通常運針、時刻修正及び時差修正を行うことができる。そして、本実施形態の時差修正機構10及び時差修正機構付時計100は、筒インデックス歯車30、筒インデックス星車20、筒インデックスレバー40及び筒インデックスばね50を同一面内に配置しているため、時差修正機構10の軸方向の厚さを薄くすることができ、この時差修正機構10を備えた時差修正機構付時計100の厚さを薄くすることができる。
【0051】
また、本実施形態の時差修正機構10及び時差修正機構付時計100によれば、筒インデックス星車20の歯21aに噛み合う爪41が形成された筒インデックスレバー40は、筒インデックス歯車30に対して回動する動きで係合位置Mと係合解除位置Nとの間を変位するのであって、筒インデックスレバー40自体が弾性変形で変位するものではないため、筒インデックスレバー40自体を細く形成したり、長く形成したりする必要がない。
【0052】
したがって、本実施形態の時差修正機構10は、筒インデックスレバー40を筒インデックスばね50とは別体に形成しているため、爪41が回動する回動被支持部42の配置自由度を高くすることができる。これにより、本実施形態の時差修正機構10は、時差修正機構10自体を大きく形成する必要がなく、また、時差修正時に、爪41が歯21aを乗り越えたときに巻真に伝わる反力(節度感)の低下を防ぐことができる。
【0053】
また、本実施形態の時差修正機構10は、爪41が回動する回動被支持部42の配置自由度が高いため、筒インデックス星車20の回転方向の正逆の違いに拘わらず、係合位置Mから係合解除位置Nに変位するときの必要トルク、節度感を同等とするように、爪41の形状等を設計する自由度を高めることができる。
【0054】
図5は、筒インデックス星車20の歯21aに噛み合う筒インデックスレバー40の爪41の詳細形状を示す拡大図である。前述したように、爪41が歯21aを乗り越えたときに巻真に伝わる反力(節度感)を、ある程度大きく設定することが重要である。すなわち、時差修正のために巻真を操作している使用者に伝わる節度感が少ないと、使用者は、歯21aの先端に爪41が乗り上げた状態で、時差修正の操作を完了してしまうおそれがある。この場合、正常な時差修正は行われない。
【0055】
そこで、時針71が1[時間]に対応した角度だけ動いたことを使用者に知らせる必要があり、そのために節度感を大きくすることが好ましい。
【0056】
ここで、爪41が歯21aを乗り越える前の、筒インデックスレバー40と筒インデックス星車20が係合しているときの負荷抵抗と、歯21aを乗り越える際の負荷抵抗との差を大きくするにしたがって、節度感を大きくすることができる。爪41の輪郭形状を、
図5に示すように、仮に、2本の直線L',L'(二点鎖線)と、この2本の直線L,Lに接する1つの円弧R1とで形成したものでは、爪41の先端41aが歯21aに乗り上げるときの負荷抵抗が小さく、節度感が小さい。
【0057】
そこで、2本の直線L',L'の交差する角度を小さくすることで、歯21aの先端に対する直線L'の傾斜角度を大きく設定して節度感を強くすることも考えられるが、この場合、2本の直線L',L'を繋ぐ円弧R1の先端が、隣り合う2つの歯21a,21a間の歯底21bと干渉する虞がある。
【0058】
これに対して、本実施形態の爪41は、
図5に示すように、2本の直線L',L'の交差する角度よりも大きい交差角度となる2つの直線L,Lと、この2つの直線L,Lが交差する手前の部分から、各直線Lを歯底21bに向けて突出するように屈曲した形状としたうえで、突出した両線L,Lを円弧R1で繋いだ輪郭形状とするのが好ましい。
【0059】
このように構成された先端41aを有する爪41は、2本の直線L',L'の交差角度を大きくした場合のように、先端41aが歯底21bに干渉するのを防ぐとともに、歯21aの先端に対する、爪41の歯底21b方向に突出した線の傾斜角度が大きくなるため、節度感を強くすることができる。
【0060】
[変形例1]
図6は、実施形態における筒インデックスばね50に代えて、別の筒インデックスばね60を適用した変形例1を示す、
図2の底面図に相当する底面図である。前述した実施形態の時差修正機構10は、筒インデックスばね50の固定端51が筒インデックス歯車30と一体化されたものであるが、本発明における筒インデックスばねは、筒インデックス歯車と一体ではなく別体の構成であってもよい。
【0061】
すなわち、
図6に示すように、筒インデックスばね50に代えた筒インデックスばね60は、固定端51に相当する固定端61と、自由端52に相当する自由端62とを有し、円弧状に形成されている点は、筒インデックスばね60と同じである。
【0062】
一方、筒インデックスばね60は筒インデックス歯車30とは別部材で形成されていて、筒インデックス歯車30に形成された固定孔38に、固定端61が固定されることで、筒インデックスばね60は筒インデックス歯車30と一体化され、かつ、筒インデックス歯車30と同一面内に配置された構造となっている。
【0063】
なお、固定端61は、円弧ではない異形状であるため、固定孔38の中で固定端61が回動することはない。
【0064】
このように、筒インデックスばね60を筒インデックス歯車30とは別部材で形成したものは、筒インデックスばね60を筒インデックス歯車30とは異なる材料で形成することができる。したがって、筒インデックス歯車30は筒インデックス歯車として適した剛性の高い材料で形成しつつ、筒インデックスばね60は筒インデックスばねとして適した弾性材料で形成することができる。
【0065】
[変形例2]
図7は、実施形態における筒インデックスレバー40及び筒インデックスばね50に代えて、別の筒インデックスレバー体80を適用した変形例2を示す、
図2の底面図に相当する底面図である。前述した実施形態の時差修正機構10は、筒インデックスばね50の固定端51が筒インデックス歯車30と一体化されたものであるが、本発明における筒インデックスばねは、筒インデックス歯車と一体ではなく別体の構成で、例えば、筒インデックスレバー40と一体の構成であってもよい。
【0066】
すなわち、
図7に示すように、筒インデックスレバー40と筒インデックスばね50とが一体化された筒インデックスレバー体80は、筒インデックスレバー40に相当するレバー部85と、筒インデックスばね50に相当するばね部84とを有している。
【0067】
レバー部85は、回動被支持部42に対応した回動被支持部82と、爪41に対応した爪81とを有している。レバー部85の太さや長さは、筒インデックスレバー40の太さや長さと同じである。
【0068】
ばね部84は、一端がレバー部85の爪81と一体化され、他端が、筒インデックス歯車30に形成された切欠き39の内縁に引っ掛けられたばね摺動部83を有している。ばね部84の太さや長さは、筒インデックスばね50の太さや長さと同じである。
【0069】
そして、爪81が係合位置Mから係合解除位置Nに変位する間に、爪81と一体の一端の変位に引きずられて、ばね摺動部83が、切欠き39の内周縁に沿って図示反時計回りに変位する。このとき、ばね摺動部83は、切欠き39の内周縁の輪郭により、ばね部84に撓みが生じて、一端がレバー部85を係合位置Mに付勢する。
【0070】
このように構成された変形例2によっても、上述した実施形態及び変形例1と同様に作用、効果を発揮することができる。
【0071】
本実施形態、各変形例の時計100は、モータを駆動力源とした電子時計を例として説明したが、本発明に係る時差修正機構付時計は、電子時計に限定されるものではなく、ぜんまいを駆動力源とした機械式時計にも適用することができる。
【符号の説明】
【0072】
10 時差修正機構
20 筒インデックス星車
21a 歯
30 筒インデックス歯車
31 歯
40 筒インデックスレバー
41 爪
42 回動被支持部
50 筒インデックスばね
100 時差修正機構付時計
M 係合位置
N 係合解除位置