(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-08
(45)【発行日】2023-03-16
(54)【発明の名称】インジウム化合物および該インジウム化合物を用いたインジウム含有膜の成膜方法
(51)【国際特許分類】
C23C 16/18 20060101AFI20230309BHJP
C23C 16/40 20060101ALI20230309BHJP
C23C 16/455 20060101ALI20230309BHJP
C07F 17/00 20060101ALI20230309BHJP
C07F 5/00 20060101ALN20230309BHJP
【FI】
C23C16/18
C23C16/40
C23C16/455
C07F17/00
C07F5/00 J
(21)【出願番号】P 2019039086
(22)【出願日】2019-03-05
【審査請求日】2021-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】591036572
【氏名又は名称】レール・リキード-ソシエテ・アノニム・プール・レテュード・エ・レクスプロワタシオン・デ・プロセデ・ジョルジュ・クロード
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【氏名又は名称】布施 行夫
(72)【発明者】
【氏名】大野 剛嗣
(72)【発明者】
【氏名】クリスチャン デュサラ
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-511936(JP,A)
【文献】国際公開第2018/225668(WO,A1)
【文献】Journal of Organometallic chemistry,1991年,418,pp.165-171,特に要約参照
【文献】Journal of Molecular Structure,1997年,408/409,pp.507-512
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C
C07F
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面の少なくとも一部にインジウム含有膜を成膜するための方法であって、
(a)前記基板をチャンバー内に配置する工程と、
(b)下記一般式(1)で表されるインジウム化合物を含むガスを前記チャンバー内に導入する工程と、
(c)前記工程(b)を実施した後に、第一パージガスにより前記チャンバーをパージする第一パージ工程と、
(d)前記チャンバー内に酸素含有ガスを導入する工程と、
(e)前記工程(d)を実施した後に、第二パージガスにより前記チャンバーをパージする第二パージ工程と、
を含み、工程(b)~(e)が、225℃以上400℃以下の温度において、前記インジウム含有膜の所望の厚さが得られるまで繰り返される、インジウム含有膜の成膜方法。
In(C
5R
1
xH
(5-x))・・・・・(1)
(ここで、一般式(1)中、xは1以上5以下の整数であり、R
1は各々独立して炭素数が
5以上8以下の炭化水素基である。)
【請求項2】
前記インジウム含有膜はインジウム酸化物含有膜であり、前記酸素含有ガスは少なくともオゾンを含む、請求項1に記載のインジウム含有膜の成膜方法。
【請求項3】
前記インジウム含有膜は、7以上の比誘電率(k値)を有する絶縁体材料である、請求項1または請求項2に記載のインジウム含有膜の成膜方法。
【請求項4】
前記酸素含有ガスは、水、過酸化水素、酸素、一酸化窒素、一酸化二窒素、二酸化窒素、酸化硫黄、またはこれらの組み合わせからなるガスをさらに含む、請求項2に記載のインジウム含有膜の成膜方法。
【請求項5】
前記基板は、ガラス、シリコン、シリコン酸化物、またはポリマーである、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のインジウム含有膜の成膜方法。
【請求項6】
前記工程(b)~(e)の1サイクルにおける成膜速度は、0.7Å/サイクル以上であることを特徴とする、請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のインジウム含有膜の成膜方法。
【請求項7】
下記一般式(2)で表されるインジウム含有膜成膜用のインジウム化合物。
In(C
5R
1
xH
(5-x))・・・・・(2)
(ここで、一般式(2)中、xは1以上5以下の整数であり、R
1は各々独立して炭素数が
5以上8以下の2級炭素を含む炭化水素基である。)
【請求項8】
前記一般式(2)で表されるインジウム化合物が
、In(C
5
sPenH
4)、またはIn(C
5
iPenH
4)である、請求項7に記載のインジウム化合物。
【請求項9】
融点が80℃以下であることを特徴とする、請求項7
または請求項8に記載のインジウム化合物。
【請求項10】
半導体デバイス製造用インジウム含有膜を成膜させるための材料である、請求項7
または請求項8に記載のインジウム化合物。
【請求項11】
化学気相成長(CVD)、原子層堆積(ALD)、プラズマ強化化学気相成長(PECVD)、プラズマ強化原子層堆積(PEALD)、パルス化学気相成長(PCVD)、低圧化学気相成長(LPCVD)、減圧化学気相成長(SACVD)、常圧化学気相成長(APCVD)、空間的ALD、ラジカル支援成膜、超臨界流体成膜、スピンオン成膜(SOD)およびそれらの組合せからなる群より選択される成膜方法によってインジウム含有膜を成膜させるための材料である、請求項7
または請求項8に記載のインジウム化合物。
【請求項12】
基板の表面の少なくとも一部にインジウム含有膜を成膜するための方法であって、
(a)前記基板をチャンバー内に配置する工程と、
(b)請求項7
または請求項8に記載のインジウム化合物を含むガスを前記チャンバー内に導入する工程と、
(c)前記工程(b)を実施した後に、第一パージガスにより前記チャンバーをパージする第一パージ工程と、
(d)前記チャンバー内に酸素含有ガスを導入する工程と、
(e)前記工程(d)を実施した後に、第二パージガスにより前記チャンバーをパージする第二パージ工程と、
を含み、工程(b)~(e)が、225℃以上400℃以下の温度において、前記インジウム含有膜の所望の厚さが得られるまで繰り返される、インジウム含有膜の成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インジウム化合物、および該インジウム化合物を用いたインジウム含有膜の成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インジウム含有酸化物は透明で、かつ、電気を通すため、産業界で広く使用されている。例えば、ITO(Indium Tin Oxide)は、液晶ディスプレイ(LCD)の電極として多用されている。また、他の金属元素が添加された酸化インジウム膜も一般的に用いられている。他の金属元素が添加された酸化インジウム膜は、金属元素としてインジウムのみを含む酸化インジウム膜よりも導電性が高いためである。
最近では、インジウム、ガリウム、および亜鉛を透明薄膜トランジスタに含むIGZOと呼ばれるIn-Ga-Zn-Oなどの材料が、特定のタイプの薄膜トランジスタ(TFT)に実装されている。Ga、Znの他に、インジウムを含む膜にSn、希土類、Al、Mgなどの他の金属を用いた材料もある。
【0003】
現在、上記のITOおよびIGZO膜は、1Pa程度またはそれ以下の圧力の、高真空で行われるスパッタリングによって成膜されている。
しかし、スパッタリングでは、凹凸のある表面上に均一な膜厚を有する膜を形成することが難しい。また、近年登場したフレキシブル有機基板にITOやIGZO膜を成膜させようとすると、スパッタリングのプロセスで要求される低圧に適合しない可能性がある。
そこで、化学気相成長(CVD)または原子層堆積(ALD)によってインジウム含有膜を成膜させるためのインジウム材料が研究されている。
【0004】
このようなインジウム材料としては、その供給温度において固体状態である材料が多く知られている。しかし、成膜プロセスに使用される材料としては、供給が容易で、均一な濃度で蒸気を供給しやすいという観点から、固体材料よりも液体材料の方が好適である。そこで、たとえば、特許文献1及び非特許文献1~2には、インジウム材料として常温で液体であるシクロペンタジエニルインジウム化合物を使用して、CVD法またはALD法によりインジウム含有膜を成膜する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-90855号公報
【文献】Fumikazu Mizutani他、「AF1-TuM6 High Purity Indium Oxide Films Prepared by Modified ALD using Liquid Ethylcyclopentadienyl Indium」、ALD2017予稿集、2017年7月18日
【文献】Fumikazu Mizutani他、「AF2-TuM15 Reaction Mechanisms of the Atomic Layer Deposition of Indium Oxide Thin Films Using Ethylcyclopentadienyl Indium」、ALD2018予稿集、2018年7月30日、p.88
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、常温で液体状態のシクロペンタジエニルインジウム化合物は、熱、光、大気に敏感で不安定であるため、該シクロペンタジエニルインジウム化合物を酸素と接触させる前処理を実施することにより、安定化させる方法が開示されている。しかし、この方法はインジウム化合物の調製工程が煩雑であるという問題点がある。
【0007】
一方、CVD法またはALD法によりインジウム含有膜を成膜する場合、材料の物性のほか、成膜プロセスとしては高いGPC(Growth per cycle)を実現してスループットを向上させることが求められる。特にALD法で成膜を実施する場合、ALDウィンドウが広く、高温での成膜を可能とすることにより均一で不純物含有量の低い高品質な膜を成膜することができるプロセスが求められている。
【0008】
非特許文献1(ALD2017)には、エチルシクロペンタジエニルインジウム、In(EtCp)、水及び酸素プラズマをコリアクタントとして用いたIn2O3膜の成膜方法が記載されているが、GPCは0.3~0.4Å/サイクルに留まっている。
【0009】
非特許文献2(ALD2018)には、In(EtCp)、水および酸素プラズマを酸化剤として用いたIn2O3膜、および水及び酸素をコリアクタントとして用いたIn2O3膜の成膜方法が記載されており、GPCはそれぞれ0.9Å/サイクル、1.1Å/サイクルであるが、複数のコリアクタントを使用しなければならない点で、スループットが低いといえる。
【0010】
以上のことから、特殊な前処理を施さずにインジウム化合物を使用することができ、高スループットのインジウム含有膜成膜を可能にする、高温でのALD法によるインジウム含有膜の成膜方法の開発が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
表記法および命名法、幾つかの略語、記号および用語を以下の明細書および特許請求の範囲全体を通して使用する。
【0012】
本明細書で使用される場合、「炭化水素基」という用語は、炭素原子および水素原子のみを含有する飽和または不飽和官能基を指す。さらに、「炭化水素基」という用語は直鎖、分岐又は環状炭化水素基を指す。直鎖炭化水素基の例としては、メチル基、エチル基、ノルマル(n-)プロピル基、ノルマル(n-)ブチル基等が挙げられるが、これらに限定されない。分岐炭化水素基の例としては、イソプロピル基、イソブチル基、ターシャリー(tert-)ブチル基、セカンダリー(sec-)ブチル基等が挙げられるが、これらに限定されない。環状炭化水素基の例としては、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0013】
本明細書で使用される場合、略語「Me」はメチル基を指し、略語「Et」はエチル基を指し、略語「Pr」は任意のプロピル基(すなわち、ノルマルプロピル又はイソプロピル)を指し、略語「nPr」はノルマル(n-)プロピル基を指し、略語「iPr」はイソプロピル基を指し、略語「Bu」は任意のブチル基(ノルマル(n-)ブチル、イソブチル、ターシャリー(tert-)ブチル、セカンダリー(sec-)ブチル)を指し、略語「nBu」はノルマル(n-)ブチル基を指し、略語「tBu」はターシャリー(tert-)ブチル基を指し、略語「sBu」はセカンダリー(sec-)ブチル基を指し、略語「iBu」はイソブチル基を指し、略語「Pen」は任意のペンチル基(ノルマル(n-)ペンチル、ネオペンチル、イソペンチル、セカンダリー(sec-)ペンチル、3-ペンチル、ターシャリー(tert-)ペンチル)を指し、略語「tPen」はターシャリー(tert-)ペンチル基を指し、略語「sPen」はセカンダリー(sec-)ペンチル基を指し、略語「iPen」はイソペンチル基を指し、略語「Cp」はシクロペンタジエニル基を指し、略語「In」はインジウムを指す。
【0014】
本発明は上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様または適用例として実現することができる。
【0015】
[適用例1]
本発明に係るインジウム含有膜成膜方法の一態様は、基板の表面の少なくとも一部にインジウム含有膜を成膜するための方法であって、
(a)前記基板をチャンバー内に配置する工程と、
(b)下記一般式(1)で表されるインジウム化合物を含むガスを前記チャンバー内に導入する工程と、
(c)前記工程(b)を実施した後に、第一パージガスにより前記チャンバーをパージする第一パージ工程と、
(d)前記チャンバー内に酸素含有ガスを導入する工程と、
(e)前記工程(d)を実施した後に、第二パージガスにより前記チャンバーをパージする第二パージ工程と、
を含み、工程(b)~(e)が、225℃以上400℃以下の温度において、前記インジウム含有膜の所望の厚さが得られるまで繰り返されることを特徴とする。
In(C5R1
xH(5-x))・・・・・(1)
(ここで、一般式(1)中、xは1以上5以下の整数であり、R1は各々独立して炭素数が1以上8以下の炭化水素基である。)
【0016】
本発明者らは、シクロペンタジエニル基を有するインジウム化合物の中でも、シクロペンタジエニル基上に、置換基として炭化水素基を有する化合物が、インジウム含有膜成膜に特に好適であることを見出した。
本発明に係るシクロペンタジエニル骨格を有するインジウム化合物を使用してインジウム含有膜を成膜すると、炭素不純物の低い膜が得られる。また、本発明に係るシクロペンタジエニル骨格を有するインジウム化合物は、シクロペンタジエニル基上に炭化水素基を有することにより、その融点が低下し、大気・熱・光安定性が向上する。このため、本発明に係るシクロペンタジエニル骨格を有するインジウム化合物は、所望のインジウム化合物供給温度において液体状態であり、成膜プロセスへの供給が容易である。
本発明では、ALD法によりインジウム含有膜の成膜を実施することができるが、広いALDウィンドウを確保し、高品質の膜を得るためには、高温での成膜を可能にする必要がある。本発明に係るインジウム化合物は熱安定性が高いことから、高温での成膜プロセスを実施することができる。さらに、本発明に係るインジウム化合物を使用すると、高いGPCが得られる。このため、広いALDウィンドウを有する高品質な膜を高スループットで得るための材料として好適である。
【0017】
[適用例2]
上記の適用例に係るインジウム含有膜成膜方法において、前記インジウム含有膜はインジウム酸化物含有膜であり、前記酸素含有ガスは少なくともオゾンを含むことができる。
【0018】
酸化膜を成膜する場合における酸化剤としては、水、酸素等も考えられるが、より高い成膜速度を得るためには、プラズマ源を使用することが多い。しかし、プラズマ源を使用すると成膜された膜へのダメージが発生する場合がある。そこで、オゾンを使用すると、成膜速度が向上し、膜へのダメージも少ないことから、好適である。
【0019】
[適用例3]
上記の適用例に係るインジウム含有膜成膜方法において、前記インジウム含有膜は、7以上の比誘電率(k値)を有する絶縁体材料であってもよい。
【0020】
[適用例4]
さらに、上記の適用例において、酸素含有ガスは、水、過酸化水素、酸素、一酸化窒素、一酸化二窒素、二酸化窒素、酸化硫黄、またはこれらの組み合わせからなるガスをさらに含んでいてもよい。
【0021】
[適用例5]
上記の適用例において、基板は、ガラス、シリコン、シリコン酸化物、またはポリマーであってもよい。
【0022】
[適用例6]
上記の適用例において工程(b)~(e)の1サイクルにおける成膜速度は、0.7Å/サイクル以上であることができる。
【0023】
熱安定性が高い本発明に係るインジウム化合物を使用すると、広いALDウィンドウを確保し、高品質の膜を成膜するプロセスを実施することが可能となる。また、当該インジウム化合物を使用すると高いGPCでの成膜が可能となる。
【0024】
上記に述べた適用例は、ALD法による成膜プロセスであることが好ましい。したがって、成膜時のチャンバー内の圧力として、例えばスパッタリングのプロセスにおいて要求されるような高真空は要求されない。このため、高真空プロセスには適合しない基板であっても、本適用例に係る方法でインジウム含有膜を成膜することができる。
また、成膜温度を225℃以上400℃以下の高温とすることにより、不純物含有量の少ない、高品質のインジウム含有膜成膜が可能となる。
【0025】
[適用例7]
本発明に係るインジウム化合物の一態様は、下記一般式(2)で表されるインジウム含有膜成膜用のインジウム化合物である。
In(C5R1
xH(5-x))・・・・・(2)
(ここで、一般式(2)中、xは1以上5以下の整数であり、R1は各々独立して炭素数が3以上8以下の2級炭素を含む炭化水素基である。)
【0026】
[適用例8]
上記適用例に係るインジウム化合物は、In(C5
iPrH4)、In(C5
sBuH4)、In(C5
iBuH4)、In(C5
sPenH4)、またはIn(C5
iPenH4)であってもよい。
【0027】
上記適用例に係るインジウム化合物は、シクロペンタジエニル基上の置換基である炭化水素基に分岐構造を有し、反応性を低下させ、特に光および大気に対する安定性が高い。このため取り扱いが容易であり、特別な前処理を実施することなく、長期間にわたり純度が高い状態を維持することが可能となる。
また、これらの化合物は熱安定性も高いため、高温での成膜プロセスにも好適に用いることが可能となる。
【0028】
[適用例9]
本発明に係るインジウム化合物の一態様は、下記一般式(3)で表されるインジウム含有膜成膜用のインジウム化合物である。
In(C5AxR2
yH(5-x-y))・・・・・(3)
(ここで、一般式(3)中、xは1以上5以下の整数であり、yは0以上4以下の整数であり、Aは各々独立してSiR3R4R5またはGeR3R4R5であり、R3、R4およびR5は各々独立して炭素数が1以上6以下の炭化水素または水素であり、R2は炭素数が1以上6以下の炭化水素である。)
【0029】
[適用例10]
本発明に係るインジウム化合物の一態様は、下記一般式(4)ないし一般式(6)で表されるインジウム含有膜成膜用のインジウム化合物である。
【化1】
【化2】
【化3】
(ここで、一般式(4)ないし一般式(6)中、R
6は各々独立して炭素数が1以上6以下の炭化水素基または水素である。)
【0030】
[適用例11]
本発明に係るインジウム化合物の一態様は、下記一般式(7)で表されるインジウム含有膜成膜用のインジウム化合物である。
In(NC4R7
xH(4-x))・・・・・(7)
(ここで、一般式(7)中、xは1以上4以下の整数であり、R7は各々独立して、炭素数が2以上6以下の直鎖、分岐(ただしtBuを除く)または環状炭化水素基または水素である。)
【0031】
[適用例12]
本発明に係るインジウム化合物の一態様は、下記一般式(8)で表されるインジウム含有膜成膜用のインジウム化合物である。
In(NxC5-xR8
yH(5-x-y))・・・・・(8)
(ここで、一般式(8)中、xは2以上4以下の整数であり、yは0以上(5-x)以下の整数であり、R8は各々独立して炭素数が1以上6以下の直鎖、分岐または環状炭化水素基である。)
【0032】
上記適用例に係る非環式ペンタジエニル、シクロヘキサジエニル、シクロヘプタジエニル骨格、ピロリル、ピラゾリル、イミダゾリルといった含窒素複素環骨格を有するインジウム化合物は、シクロペンタジエニル基と同様にインジウムに対して6電子を供与することにより、シクロペンタジエニルインジウム化合物と同様に、高い安定性を有する。
【0033】
[適用例13]
上記適用例におけるインジウム化合物は、融点が80℃以下であってもよい。
【0034】
高温での成膜プロセスを可能にするため、インジウム化合物は高温での熱安定性が高く、かつ、高温において液体状態であることがさらに好ましい。インジウム含有膜の成膜プロセスは200℃以上の温度で実施すると、より高速で成膜を行うことが可能となることから、成膜温度である80℃以上において高い熱安定性を有することが求められる。また、インジウム化合物は20℃以上に加熱された容器から導出されることが通常であることから、当該容器温度において液体であることが好ましい。
本発明にかかるインジウム化合物は、安定性が高く、融点が使用温度である80℃よりも低いことから液体状態で使用することが可能である。さらに十分な蒸気圧と反応性を有するため、インジウム含有膜を成膜させるための材料として好適である。
【0035】
[適用例14]
上記適用例におけるインジウム化合物は半導体デバイス製造用インジウム含有膜を成膜させるための材料であってもよい。
【0036】
[適用例15]
上記適用例におけるインジウム化合物は、化学気相成長(CVD)、原子層堆積(ALD)、プラズマ強化化学気相成長(PECVD)、プラズマ強化原子層堆積(PEALD)、パルス化学気相成長(PCVD)、低圧化学気相成長(LPCVD)、減圧化学気相成長(SACVD)、常圧化学気相成長(APCVD)、空間的ALD、ラジカル支援成膜、超臨界流体成膜、スピンオン成膜(SOD)およびそれらの組合せからなる群より選択される成膜方法によってインジウム含有膜を成膜させるための材料であってもよい。
【0037】
本発明によれば、インジウム化合物の光および熱に対する安定性が高いことから、特殊な前処理を施さずにインジウム化合物を高温の成膜プロセスに使用することができる。そのため、高品質のインジウム含有膜の成膜が可能となる。
【0038】
[適用例16]
本発明に係るインジウム含有膜成膜方法の一態様は、基板の表面の少なくとも一部にインジウム含有膜を成膜するための方法であって、
(a)前記基板をチャンバー内に配置する工程と、
(b)適用例7ないし適用例12のいずれか一例のインジウム化合物を含むガスを前記チャンバー内に導入する工程と、
(c)前記工程(b)を実施した後に、第一パージガスにより前記チャンバーをパージする第一パージ工程と、
(d)前記チャンバー内に酸素含有ガスを導入する工程と、
(e)前記工程(d)を実施した後に、第二パージガスにより前記チャンバーをパージする第二パージ工程と、
を含み、工程(b)~(e)が、225℃以上400℃以下の温度において、前記インジウム含有膜の所望の厚さが得られるまで繰り返されることを特徴とする。
【0039】
上記適用例7ないし適用例13のインジウム化合物は、上記一般式(1)で表される化合物と同様に、比較的融点が低く、大気・熱・光安定性に優れている。このため、上記適用例7ないし適用例13のインジウム化合物は、所望のインジウム化合物供給温度において液体状態であり、成膜プロセスへの供給が容易である。
本発明では、ALD法によりインジウム含有膜の成膜を実施することができるが、広いALDウィンドウを確保し、高品質の膜を得るためには、高温での成膜を可能にする必要がある。上記適用例7ないし適用例13のインジウム化合物は熱安定性が高いことから、高温での成膜プロセスを実施することができる。さらに、上記適用例7ないし適用例13のインジウム化合物を使用すると、高いGPCが得られる。このため、広いALDウィンドウを有する高品質な膜を高スループットで得るための材料として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】実施例1で得られたIn(
sBuCp)の熱分析結果を示す図である。
【
図2】実施例2で得られたIn(
sPenCp)の熱分析結果を示す図である。
【
図3】実施例3で得られたIn(
iPenCp)の熱分析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明に係る好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に記載された実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含むものとして理解されるべきである。
【0042】
<インジウム化合物>
本発明の一実施形態に係るインジウム化合物は、下記一般式(1)ないし(8)で表される化合物である。
【0043】
・一般式(1)で表される化合物
In(C5R1
xH(5-x))・・・・・(1)
(ここで、一般式(1)中、xは1以上5以下の整数であり、R1は各々独立して炭素数が1以上8以下の炭化水素基である。)
【0044】
上記一般式(1)で表される化合物は、シクロペンタジエニル基上に炭化水素基を持つ構造を有している。このような構造を有することにより、該化合物の融点が低下し、大気・熱・光安定性が向上する。このため、上記一般式(1)で表される化合物は、所望のインジウム化合物供給温度において液体状態であり、成膜プロセスへの供給が容易となる。
【0045】
上記一般式(1)中、xは、1以上5以下の整数であるが、1以上4以下の整数であることが好ましく、1以上3以下の整数であることがより好ましく、1以上2以下の整数であることがさらにより好ましく、1であることが特に好ましい。xが上記範囲にあれば、上記一般式(1)で表される化合物を使用してインジウム含有膜を成膜したときに、炭素不純物の低い膜が得られやすい。
【0046】
上記一般式(1)中、R1は、炭素数1以上8以下の炭化水素基であるが、炭素数2以上6以下の炭化水素基であることが好ましく、炭素数3以上6以下の炭化水素基であることがより好ましく、炭素数3以上6以下の2級炭素を含む炭化水素基であることが特に好ましい。R1が上記のような炭化水素基であると、上記一般式(1)で表されるインジウム化合物の融点が低下し、大気・熱・光安定性が向上する。このように、上記一般式(1)で表される化合物は、安定性が高いため、高温で成膜させることができ、例えば成膜温度を225℃以上400℃以下の高温とすることにより、不純物含有量のより少ない、高品質のインジウム含有膜成膜が可能となる。
【0047】
このような炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、ネオペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、3-ペンチル基、tert-ペンチル基、n-ヘキシル基、sec-ヘキシル基、n-ヘプチル基、sec-ヘプチル基、n-オクチル基、sec-オクチル基等が挙げられる。これらの中でも、2級炭化水素を含むイソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、3-ペンチル基、sec-ヘキシル基、sec-ヘプチル基、sec-オクチル基等が好ましく、2級炭化水素基であるsec-ブチル基およびsec-ペンチル基がより好ましい。
【0048】
したがって、上記一般式(1)で表される化合物の中でも、大気・熱・光安定性および高温でのインジウム含有膜の成膜性の観点から、下記一般式(2)で表される化合物がより好ましい。
In(C5R1
xH(5-x))・・・・・(2)
(ここで、一般式(2)中、xは1以上5以下の整数であり、R1は各々独立して炭素数が3以上8以下の2級炭素を含む炭化水素基である。)
【0049】
・一般式(3)で表される化合物
In(C5AxR2
yH(5-x-y))・・・・・(3)
(ここで、一般式(3)中、xは1以上5以下の整数であり、yは0以上4以下の整数であり、Aは各々独立してSiR3R4R5またはGeR3R4R5であり、R3、R4およびR5は各々独立して炭素数が1以上6以下の炭化水素または水素であり、R2は炭素数が1以上6以下の炭化水素である。)
【0050】
上記一般式(3)中、R3とR4とR5の各置換基が有する炭素数の合計は1以上18以下であるが、炭素数の合計が1以上10以下であることが好ましく、1以上7以下であることがより好ましい。
【0051】
このようなSiR3R4R5またはGeR3R4R5の例としては、メチルシリル基、エチルシリル基、エチルメチルシリル基、ジエチルメチルシリル基、ジメチルエチルシリル基、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリ(イソプロピル)シリル基、トリ(n-プロピル)シリル基、トリ(n-ブチル)シリル基、トリ(イソブチル)シリル基、トリ(sec-ブチル)シリル基等が挙げられる。これらの中でもトリメチルシリル基、トリエチルシリル基が好ましい。
【0052】
上記一般式(3)中、R2は炭素数が1以上6以下の炭化水素基であるが、1以上4以下であることが好ましく、1以上3以下であることがより好ましい。このような炭化水素基としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、ネオペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、3-ペンチル基、tert-ペンチル基、n-ヘキシル基、sec-ヘキシル基等が挙げられる。これらの中でもメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基等が好ましい。
【0053】
上記一般式(3)で表されるインジウム化合物としては、例えば((トリメチルシリル)シクロペンタジエニル)インジウム、((メチル)(トリメチルシリル)シクロペンタジエニル)インジウム、((エチル)(トリメチルシリル)シクロペンタジエニル)インジウム、((イソプロピル)(トリメチルシリル)シクロペンタジエニル)インジウム、((ジメチルエチルシリル)シクロペンタジエニル)インジウム、((ジエチルメチルシリル)シクロペンタジエニル)インジウム、((トリエチルシリル)シクロペンタジエニル)インジウム、((トリエチルシリル)(エチル)シクロペンタジエニル)インジウム、((トリメチルゲルマニウム)シクロペンタジエニル)インジウム、((メチル)(トリメチルゲルマニウム)シクロペンタジエニル)インジウム、((エチル)(トリメチルゲルマニウム)シクロペンタジエニル)インジウム、((イソプロピル)(トリメチルゲルマニウム)シクロペンタジエニル)インジウム、((ジメチルエチルゲルマニウム)シクロペンタジエニル)インジウム、((ジエチルメチルゲルマニウム)シクロペンタジエニル)インジウム、((トリエチルゲルマニウム)シクロペンタジエニル)インジウム、および((トリエチルゲルマニウム)(エチル)シクロペンタジエニル)インジウムが挙げられる。
【0054】
上記一般式(3)で表されるインジウム化合物は、シクロペンタジエニル基上の置換基に、炭化水素基を有するシリコン基またはゲルマニウム基を有している。このようにSiまたはGeを含有する置換基を配置することにより、安定性の高いインジウム化合物を得ることが可能となる。
【0055】
・
一般式(4)ないし(6)で表される化合物
【化1】
【0056】
【0057】
【化3】
(ここで、一般式(4)ないし一般式(6)中、R
6は各々独立して炭素数が1以上6以下の炭化水素基または水素である。)
【0058】
上記一般式(4)ないし一般式(6)中、R6は炭素数が1以上6以下の炭化水素基であるが、炭素数が1以上4以下の炭化水素基であることが好ましく、炭素数が1以上3以下の炭化水素基であることがより好ましい。
【0059】
このような炭化水素基としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、ネオペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、3-ペンチル基、tert-ペンチル基、n-ヘキシル基、sec-ヘキシル基等が挙げられる。これらの中でもメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基が好ましい。
【0060】
・一般式(7)で表される化合物
In(NC4R7
xH(4-x))・・・・・(7)
(ここで、一般式(7)中、xは1以上4以下の整数であり、R7は各々独立して炭素数が2以上6以下の直鎖、分岐(ただしtBuを除く)または環状炭化水素基または水素である。)
【0061】
上記一般式(7)中、R7は、sBu,sPen、またはtPenが好ましい。
【0062】
・一般式(8)で表される化合物
In(NxC5-xR8
yH(5-x-y))・・・・・(8)
(ここで、一般式(8)中、xは2以上4以下の整数であり、yは0以上(5-x)以下の整数であり、R8は各々独立して炭素数が1以上6以下の直鎖、分岐または環状炭化水素基である。)
【0063】
上記一般式(8)中、R8は炭素数が1以上6以下の炭化水素基であるが、炭素数が3以上6以下の炭化水素基であることが好ましく、炭素数が4以上5以下の炭化水素基であることがより好ましい。
【0064】
上記一般式(7)ないし一般式(8)で表される化合物は、含窒素複素環上に水素または炭化水素基を持つ構造を有している。このような構造を有することにより、シクロペンタジエニル基を持つ構造を有する化合物と同様に、融点が低下し、大気・熱・光安定性が向上する。このため、上記一般式(7)ないし一般式(8)で表される化合物は、所望のインジウム化合物供給温度において液体状態であり、成膜プロセスへの供給が容易となる。
【0065】
<インジウム含有膜の成膜方法>
上記一般式(1)ないし(8)で表されるインジウム化合物から選ばれる1種以上の化合物を使用して成膜を実施することにより、基板上にインジウム含有膜を得ることができる。
【0066】
基板はインジウム含有膜を成長させることができる性質を有するものであれば特に限定されず、インジウム含有膜の用途等に応じて、例えばガラス、シリコン、シリコン酸化物、またはポリマーであってもよい。
【0067】
インジウム含有膜の成膜のために、基板が配置されたチャンバー内にインジウム化合物を導入する方法としては、例えばチャンバー内を減圧してインジウム化合物の容器に充填されたインジウム化合物の蒸気を吸引する方法、バブリング法、ダイレクトインジェクション法があるが、所望量のインジウム化合物の蒸気を基板に供給することができる方法であればよく、これらに限られない。
【0068】
上記一般式(1)ないし(8)で表されるインジウム化合物は熱安定性が高いことから、貯蔵および供給時の温度をたとえば50℃以上200℃以下の比較的高温の領域とすることができる。
【0069】
また、インジウム化合物の蒸気を同伴させるためにキャリアガスを使用してもよい。使用するキャリアガスは、インジウム化合物に対して不活性であれば特に限定されず、例えば窒素、ヘリウムまたはアルゴンであってもよい。
【0070】
インジウム含有膜成膜方法は特に限定されず、化学気相成長(CVD)、原子層堆積(ALD)、プラズマ強化化学気相成長(PECVD)、プラズマ強化原子層堆積(PEALD)、パルス化学気相成長(PCVD)、低圧化学気相成長(LPCVD)、減圧化学気相成長(SACVD)、常圧化学気相成長(APCVD)、空間的ALD、ラジカル支援成膜、超臨界流体成膜、スピンオン成膜(SOD)およびそれらの組合せからなる群より選択される成膜方法であってもよい。
【0071】
インジウム化合物として上記一般式(1)で表される化合物を使用する場合、インジウム含有膜の成膜方法は特に原子層堆積(ALD)法が好適である。
【0072】
ALD法においては、基板をチャンバーに配置させる工程を実施した後に、ガス状としたインジウム化合物をチャンバーに導入する工程と、基板とインジウム化合物とを反応させた後にパージガス(第一パージガスとする)によりチャンバーからインジウム化合物をパージする工程と、パージ後のチャンバー内に酸素含有ガスを導入する工程と、酸素含有ガスをパージガス(第二パージガスとする)によりチャンバーからパージする工程と、を含む。インジウム化合物のガスを導入する工程と、酸素含有ガスを導入する工程は、交互に所定回数実施してもよい。インジウム含有膜の膜厚が所望の厚さに到達するまで、両工程を交互に実施してもよい。
【0073】
酸素含有ガスとしては、酸素を含有するガスであれば特に限定されず、水、酸素、またはオゾンであってもよい。オゾンを使用する場合、プラズマを使用することなく、水または酸素よりも高い成膜速度を得られることから好適である。
【0074】
パージガスは、インジウム化合物に対して不活性であるガスであればよく、例えば窒素、アルゴンなどが挙げられるが、これらに限定されない。第一パージガスと第二パージガスとは同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0075】
成膜温度は、例えば225℃以上400℃以下、好ましくは230℃以上300℃以下、さらに好ましくは240℃以上260℃以下であってもよい。
【実施例】
【0076】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0077】
<実施例1:In(sBuCp)の合成>
容積1Lのフラスコに脱水処理を施したペンタン300mLおよびs-ブチルシクロペンタジエン27.8g(0.22mol、1.1当量)を入れた。そこへ、1.6M n-ブチルリチウム溶液131mL(0.21mol、1当量)を、室温(温度は20℃)で滴下した。得られた反応混合物を3時間、マグネチックスターラーにより攪拌した後、減圧下で溶媒を留去することにより、白色固体を得た。
この白色固体を脱水処理を施したジエチルエーテル500mLに懸濁させ、InCl 31.6g(0.21mol、1当量)を加え、室温で終夜撹拌したのち、黄色のろ液をろ過によりろ別した。
得られたろ液を、減圧下で溶媒留去することにより、黄色の液体が得られた。得られた液体を単蒸留装置に導入し、温度40℃から45℃、圧力5Paの留分である薄黄色の液体を、収量45.3g(0.19mol)、収率91%(InCl基準)で得た。得られた薄黄色液体は、貯蔵温度、室温23℃において液体であった。
【0078】
得られたIn(sBuCp)について、核磁気共鳴法(NMR)による分析を行った。重溶媒にC6D6を用いて、1H-NMRを測定した結果、In(sBuCp)の構造が確認された。1H-NMR(δ、C6D6、400MHz、25℃):δ 5.91 (t, 2H, Cp-H), 5.81 (t, 2H, Cp-H), 2.46 (m, 1H, Cp-CH-), 1.60-1.35 (m, 2H, -CH2CH3), 1.15 (d, 3H, -CH(CH3)CH2CH3), 0.91 (t, 3H, -CH2CH3)
NMR分析計には、JEOL社製400MHzNMR装置を使用した。
【0079】
図1に、上記で得られたIn(
sBuCp)の熱分析結果を示す。熱分析の測定条件は、試料重量25.57mg、圧力1気圧、窒素雰囲気下、昇温速度10.0℃/minとして、TG-DTA測定を行った。
図1の実線に示されるように、熱重量分析(TGA)において、200℃までに99.4%蒸発し、残渣は0.6%であったことから、200℃以下における短時間での熱分解は起こらないといえる。
また、等温熱重量分析測定の結果、In(
sBuCp)の蒸気圧は38.3℃において1Torrであった。
熱重量分析計には、メトラートレド社製TGA/SDTA851を使用した。
【0080】
<実施例2:In(sPenCp)の合成>
容積500mLのフラスコにLi(sPenCp)9.5g(0.067mol、1.0当量)および脱水処理を施したジエチルエーテル200mLを入れた。そこへ、InCl 10.1g(0.067mol、1当量)を加え、室温で終夜撹拌したのち、黄色のろ液をろ過によりろ別した。得られたろ液を、減圧下で溶媒留去することにより、黄色の液体が得られた。得られた液体を単蒸留装置に導入し、温度70℃から80℃、圧力5Paの留分である薄黄色の液体を、収量13.8g(0.055mol)、収率83%(InCl基準)で得た。得られた薄黄色液体は、貯蔵温度、室温23℃において液体であった。
【0081】
得られたIn(sPenCp)について、核磁気共鳴法(NMR)による分析を行った。重溶媒にC6D6を用いて、1H-NMRを測定した結果、In(sPenCp)の構造が確認された。1H-NMR(δ、C6D6、400MHz、25℃):5.92 (t, 2H, Cp-H), 5.81 (t, 2H, Cp-H), 2.57 (m, 1H, Cp-CH-), 1.60-1.25 (m, 4H, -CH2CH2CH3), 1.16 (d, 3H, -CH(CH3)CH2CH2CH3), 0.88 (t, 3H, -CH2CH2CH3)
NMR分析計には、JEOL社製400MHzNMR装置を使用した。
【0082】
図2に、上記で得られたIn(
sPenCp)の熱分析結果を示す。熱分析の測定条件は、試料重量24.39mg、圧力1気圧、窒素雰囲気下、昇温速度10.0℃/minとして、TG-DTA測定を行った。
図2の実線に示されるように、熱重量分析(TGA)において、210℃までに97.4%蒸発し、残渣は2.6%であったことから、210℃以下における短時間での熱分解は起こらないといえる。
また、等温熱重量分析測定の結果、In(
sPenCp)の蒸気圧は52.4℃において1Torrであった。
熱重量分析計には、メトラートレド社製TGA/SDTA851を使用した。
【0083】
<実施例3:In(iPenCp)の合成>
容積1Lのフラスコに脱水処理を施したペンタン400mLおよびイソペンチルシクロペンタジエン23.2g(0.18mol、1.1当量)を入れた。そこへ、1.6M n-ブチルリチウム溶液104mL(0.17mol、1当量)を、室温(温度は20℃)で滴下した。得られた反応混合物を3時間、マグネチックスターラーにより攪拌した後、減圧下で溶媒を留去することにより、白色固体を得た。
この白色固体を脱水処理を施したジエチルエーテル500mLに懸濁させ、InCl 25.1g(0.17mol、1当量)を加え、室温で終夜撹拌したのち、黄色のろ液をろ過によりろ別した。
得られたろ液を、減圧下で溶媒留去することにより、薄黄色の固体が得られた。得られた固体を単蒸留装置に導入し、温度60℃から65℃、圧力0.7kPaの留分である薄黄色の液体を集めた。この液体を室温で静置すると固化した。得られた固体の収量は34.0g(0.14mol)、収率80%(InCl基準)、融点は55-56℃であった。
【0084】
得られたIn(iPenCp)について、核磁気共鳴法(NMR)による分析を行った。重溶媒にC6D6を用いて、1H-NMRを測定した結果、In(iPenCp)の構造が確認された。1H-NMR(δ、C6D6、400MHz、25℃):δ 5.93 (t, 2H, Cp-H), 5.83 (t, 2H, Cp-H), 2.46 (m, 2H, Cp-CH-), 1.60-1.35 (m, 3H, -CH2CH(CH3)2), 0.89 (d, 6H, -CH(CH3)2)
NMR分析計には、JEOL社製400MHzNMR装置を使用した。
【0085】
図3に、上記で得られたIn(
iPenCp)の熱分析結果を示す。熱分析の測定条件は、試料重量24.63mg、圧力1気圧、窒素雰囲気下、昇温速度10.0℃/minとして、TG-DTA測定を行った。
図3の実線に示されるように、熱重量分析(TGA)において、215℃までに99.4%蒸発し、残渣は0.6%であったことから、215℃以下における短時間での熱分解は起こらないといえる。
また、等温熱重量分析測定の結果、In(
iPenCp)の蒸気圧は65℃において1Torrであった。
熱重量分析計には、メトラートレド社製TGA/SDTA851を使用した。
【0086】
<実施例4:In(sBuCp)を用いたALD法によるIn2O3膜の形成>
インジウム化合物として上記実施例1で合成したIn(sBuCp)を使用し、反応ガスとしてO3を使用して、下記の条件により基板上にALD法によりインジウム含有膜を成膜した。
【0087】
(成膜条件)
In(sBuCp)が充填されたシリンダーを39℃に加熱し、100sccmのN2ガス(パルスA)によりバブリングし、反応チャンバーに導入する工程と、オゾン発生器で発生させたO3を50sccmのN2ガス(パルスB)により反応チャンバーに導入する工程とを、200sccmのN2をパージガスとする4秒間のパージ工程を挟んで交互に実施した。約1torrの圧力のALDチャンバーにおいて、基板温度250℃のSi基板へ200サイクル行った。これにより、膜厚28nmのIn2O3膜が得られた。250℃でのGPCは1.4Å/サイクルに達した。
【0088】
このようにして得られたIn2O3膜のSIMS分析の結果、膜中の炭素および水素濃度は、各々2×1019atoms/cm3、5×1020atoms/cm3であった(検出下限:炭素 5×1018atoms/cm3、水素 5×1019atoms/cm3)。分析装置には、PHI社製ADEPT1010を使用した。
【0089】
同様の成膜条件で、基板温度のみを変えた場合の膜厚およびGPCを下表1に示す。下表1に示すように、成膜温度(すなわち、成膜時における基板の温度)が200℃以下の場合には、GPCが0.7Å/cycle未満となり、成膜速度が遅いことから、成膜プロセスのスループットが不十分である。一方、成膜温度が225℃以上の場合にはGPCが0.7Å/cycle以上であり、成膜速度が十分速いと言える。
【0090】
【0091】
<実施例5:In(iPenCp)を用いたALD法によるIn2O3膜の形成>
インジウム化合物として上記実施例3で合成したIn(iPenCp)を使用し、反応ガスとしてO3を使用して、下記の条件により基板上にALD法によりインジウム含有膜を成膜した。
【0092】
(成膜条件)
In(iPenCp)が充填されたシリンダーを39℃に加熱し、100sccmのN2ガス(パルスA)によりバブリングし、反応チャンバーに導入する工程と、オゾン発生器で発生させたO3を50sccmのN2ガス(パルスB)により反応チャンバーに導入する工程とを、200sccmのN2をパージガスとする4秒間のパージ工程を挟んで交互に実施した。約1torrの圧力のALDチャンバーにおいて、基板温度250℃のSi基板へ200サイクル行った。これにより、膜厚28nmのIn2O3膜が得られた。250℃でのGPCは1.4Å/サイクルに達した。
【0093】
同様の成膜条件で、基板温度のみを変えた場合の膜厚およびGPCを下表2に示す。下表2に示すように、成膜温度(すなわち、成膜時における基板の温度)が200℃以下の場合には、GPCが0.7Å/cycle未満となり、成膜速度が遅いことから、成膜プロセスのスループットが不十分である。一方、成膜温度が225℃以上の場合にはGPCが0.7Å/cycle以上であり、成膜速度が十分速いと言える。
【0094】
【0095】
以上のように、本発明に係るインジウム含有膜成膜方法によれば、225℃以上の温度において、高いGPCでインジウム含有膜の成膜を行うことができた。